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  • 特開-ガラス材及び磁気光学素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170045
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ガラス材及び磁気光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20241129BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20241129BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20241129BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20241129BHJP
   C03C 3/16 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/095
C03C3/097
C03C3/15
C03C3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086982
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA18
4G062BB01
4G062BB07
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DA05
4G062DA06
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4G062DF01
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4G062FE01
4G062FF01
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4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL03
4G062FL04
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
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4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK04
4G062KK05
4G062KK07
4G062MM29
4G062NN22
(57)【要約】
【課題】熱レンズ効果を低減したガラス材及び磁気光学素子を提供する。
【解決手段】モル%で、Tb 10%~58%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割のモル%でCeO 1%超~20%を含有する、ガラス材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、Tb 10%~58%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割のモル%でCeO 1%超~20%を含有する、ガラス材。
【請求項2】
モル%で、B 0%~70%、Al 0%~70%、SiO 0%~70%、P 0%~20%を含有する、請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
モル%で、B 12%超~40%、Al 1%~20%、SiO 0%~40%、P 0%~5%を含有する、請求項1に記載のガラス材。
【請求項4】
モル%で、Pr 5%未満、Dy 5%未満を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材。
【請求項5】
全Tbに対するTb3+の割合が55%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材。
【請求項6】
波長1064nmにおける光透過率が80%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材を用いた、磁気光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材及び磁気光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
常磁性ガラス材は、磁気光学効果の一つであるファラデー効果を示すことが知られている。ファラデー効果は、磁場中に置かれた材料を通過する直線偏光を回転させる効果である。この効果を利用した磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)は、光アイソレータなどの磁気光学デバイスに利用される。
【0003】
常磁性ガラス材として、例えば、SiO-B-Al-Tb系(特許文献1)、P-B-Tb系(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭51-46524号公報
【特許文献2】特公昭52-32881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、磁気光学デバイスに照射するレーザー光の出力が増加している。レーザー光の出力が増加すると磁気光学素子の温度が上昇し、熱レンズ効果によるレーザービーム径変化(ビーム径変化)が生じやすい。このようなビーム径変化が生じると、パワー密度が変化してしまうため、例えば加工に用いた場合に、加工品質が劣化してしまう。
【0006】
以上に鑑み、本発明は熱レンズ効果を低減したガラス材及び磁気光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス材及び磁気光学素子の各態様について説明する。
【0008】
態様1のガラス材は、モル%で、Tb 10%~58%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割でCeO 1%超~20%を含有することを特徴とする。
【0009】
態様2のガラス材は、態様1において、モル%で、B 0%~70%、Al 0%~70%、SiO 0%~70%、P 0%~20%を含有することが好ましい。
【0010】
態様3のガラス材は、態様1又は態様2において、モル%で、B 12%超~40%、Al 1%~20%、SiO 0%~40%、P 0%~5%を含有することが好ましい。
【0011】
態様4のガラス材は、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、モル%で、Pr 5%未満、Dy 5%未満を含有することが好ましい。
【0012】
態様5のガラス材は、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、全Tbに対するTb3+の割合が55%以上であることが好ましい。
【0013】
態様6のガラス材は、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、波長1064nmにおける光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0014】
態様7の磁気光学素子は、態様1から態様6のいずれか一つの態様のガラス材を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱レンズ効果を低減したガラス材及び磁気光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のガラス材を製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガラス材は、モル%で、Tb 10%~58%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割のモル%でCeO 1%超~20%を含有することを特徴とする。ここで「さらに外割のモル%でCeO 1%超~20%を含有する」とは、モル%で、CeO以外の成分の含有量の合量100%に対して、CeOの含有量が1%超~20%である(つまり、総量はモル%で101%超~120%となる)ことを意味する。
【0018】
上記のようにガラス組成を規定した理由、及び各成分の含有量について以下で説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。また、以下の説明における「可視~近赤外波長域」は、可視~近赤外レーザーに使用される波長域であり、特に断りのない限り300nm~2000nm、特に300nm~1100nmの波長域を意味する。
【0019】
Tbはベルデ定数の絶対値を大きくしてファラデー効果を高める成分である。Tbの含有量は10%~58%であることが好ましい。より詳細には、Tbの含有量は10%以上、12%以上、15%以上、16%以上、18%以上、20%以上、21%以上、22%以上、25%以上、特に26%以上であることが好ましく、58%以下、55%以下、52%以下、50%以下、49%以下、46%以下、45%以下、44%以下、43%以下、41%以下、特に40%以下であることが好ましい。Tbの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。Tbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、ガラス材の光透過率が低下しやすくなり、熱レンズ効果によるビーム径変化が生じやすくなる。なお、Tbは3価や4価の状態でガラス中に存在するが、本発明ではこれら全てをTbとして表す。
【0020】
全Tbに対するTb3+の割合は55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。これにより、全Tbに対するTb4+の割合を低下させることができる。Tb4+は波長300nm~1100nmに吸収を有し、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。そのため、全Tbに対するTb3+の割合を上記値とすることにより、可視~近赤外波長域におけるレーザー光の吸収を抑制し、ガラス材の発熱を抑制しやすくなる。よって、熱レンズ効果を抑制しやすくなる。全Tbに対するTb3+の割合の上限は、例えば100%以下としてもよい。
【0021】
FeO及びFeは可視~近赤外波長域における光透過率を低下させ、熱レンズ効果を生じさせやすい成分である。具体的に述べると、FeO(Fe2+)は波長1200nm付近にピークを有するブロードな吸収を有する。そのため、ガラス材が可視~近赤外波長域のレーザー光を吸収して発熱し、熱レンズ効果が発生しやすい。一方、Fe(Fe3+)は上記吸収が生じないため、光透過率を向上させることができる。ただし、Fe(Fe3+)は溶融の過程において還元されてFeOとなる恐れがある。そのため、本発明のガラス材は、FeO+Feの含有量(FeOとFeの合量)が、0.01ppm~100ppmであることが好ましい。より詳細には、FeO+Feの含有量は0.01ppm以上、0.05ppm以上、0.1ppm以上、0.2ppm以上、0.3ppm以上、0.4ppm以上、0.5ppm以上、特に1ppm以上であることが好ましく、100ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、15ppm以下、14ppm以下、13ppm以下、11ppm以下、10ppm以下、9ppm以下、8ppm以下、特に5ppm以下であることが好ましい。なお、FeO+Feの含有量が少なすぎると、製造コストが増大しやすい。
【0022】
CeOは熱レンズ効果によるビーム径変化を抑制する成分でもある。CeOの含有量(添加量)は外割のモル%で1%超~20%であることが好ましい。より詳細には、CeOの含有量(添加量)は1%超、1.1%以上、1.2%以上、1.5%以上、特に2%以上であることが好ましく、20%以下、19%以下、15%以下、特に10%以下であることが好ましい。CeOの添加量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。CeOの添加量が多すぎると、かえってガラス材の光透過率が低下しやすくなる。
【0023】
このように、本発明のガラス材は、光透過率を低下させて熱レンズ効果を生じさせやすいFeO及びFeが入っていたとしても、CeOを必須成分として含有していることにより、ガラス材の可視~近赤外波長域における光透過率低下を抑制し、レーザー光吸収を低減することができる。よって、本発明のガラス材は、熱レンズ効果を低減することができる。
【0024】
、Al、SiO、Pはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げてガラス化を安定にする成分である。B+Al+SiO+Pの含有量(B、Al、SiO、Pの合量)は1%~89%であることが好ましい。より詳細には、B+Al+SiO+Pの含有量は、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、特に48%以上であることが好ましく、89%以下、85%以下、80%以下、75%以下、特に70%以下であることが好ましい。B+Al+SiO+Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しづらくなる。B+Al+SiO+Pの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得づらくなる。なお、各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0025】
の含有量は0%~70%であることが好ましい。より詳細には、Bの含有量は、0%以上、1%以上、5%以上、10%以上、特に12%超であることが好ましく、70%以下、67%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、特に40%以下であることが好ましい。
【0026】
Alの含有量は0%~70%であることが好ましい。より詳細には、Alの含有量は0%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、70%以下、67%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。
【0027】
SiOの含有量は0%~70%であることが好ましい。より詳細には、SiOの含有量は0%以上、1%以上、5%以上、特に10%以上であることが好ましく、70%以下、67%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、特に40%以下であることが好ましい。
【0028】
の含有量は0%~20%であることが好ましい。より詳細には、Pの含有量は0%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、20%以下、15%以下、10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明のガラス材には、上記成分に加えて、下記成分を含有させることができる。
【0030】
GeOはガラス骨格となりガラス化範囲を広げてガラス化を安定にする成分である。GeOの含有量は0%~60%であることが好ましい。より詳細には、GeOの含有量は60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、特に35%以下であることが好ましい。GeOの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。ガラス化範囲を広げる観点からは、GeOの含有量の下限は、例えば0%以上、特に1%以上としてもよい。
【0031】
ZnOはガラス化を安定にする成分である。ZnOの含有量は0%~20%であることが好ましい。より詳細には、ZnOの含有量は20%以下、15%以下、13%以下、10%以下、8%以下、特に5%以下であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、十分なファラデー効果が得られにくくなる。ガラス化を安定化させる観点からは、ZnOの含有量は0%以上、特に1%以上としてもよい。
【0032】
La、Gd、Y、Ybはガラス化を安定にする成分である。La、Gd、Y、Ybの含有量は、それぞれ10%以下、7%以下、5%以下、4%以下、2%以下、特に1%以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。La、Gd、Y、Ybの含有量の下限は、例えば、それぞれ0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0033】
Pr及びDyは、可視~近赤外波長域に光吸収を有する。そのため、Pr及びDyの含有量は、それぞれ5%未満、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、500ppm以下、特に100ppm以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、可視~近赤外波長域における光透過率が低下しやすくなる。なお、ガラス中に存在するPr及びDyは3価又は4価の状態で存在するが、本発明ではこれらをPr又はDyとして表す。Pr及びDyの含有量の下限は、例えば、それぞれ0%以上、特に0.001ppm以上としてもよい。
【0034】
Eu及びSmは、可視~近赤外波長域に光吸収を有する。そのため、Eu及びSmの含有量は、それぞれ5%未満、3%以下、2%以下、1%以下、500ppm以下、特に100ppm以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、可視~近赤外波長域における光透過率が低下しやすくなる。なお、ガラス中に存在するEu又はSmは2価又は3価の状態で存在するが、本発明ではこれらをそれぞれEu又はSmとして表す。Eu及びSmの含有量の下限は、例えば、それぞれ0.001ppm以上としてもよい。
【0035】
MgO、CaO、SrO及びBaOはガラス化を安定にするとともに、化学的耐久性を高めやすい成分である。MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は、それぞれ10%以下、特に5%以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の下限は、例えば、それぞれ0%以上、特に1%以上としてもよい。
【0036】
Gaはガラス化を安定にするとともに、ガラス化範囲を広げやすい成分である。Gaの含有量は0%~6%であることが好ましい。より詳細には、Gaの含有量は6%以下、5%以下、4%以下、特に2%以下であることが好ましい。Gaの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、十分なファラデー効果が得られにくくなる。Gaの含有量の下限は、例えば0%以上、特に1%以上としてもよい。
【0037】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げやすい成分である。フッ素の含有量(F換算)は0%~10%であることが好ましい。より詳細には、フッ素の含有量は10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、2%以下、特に1%以下であることが好ましい。フッ素の含有量が多すぎると、溶融中に成分が揮発してガラス化に悪影響を及ぼすおそれがある。また、脈理が生じやすくなる。フッ素の含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0038】
ガラス材は、波長1064nmにおける光透過率が80%以上、82%以上、特に83%以上であることが好ましい。また、波長633nmにおいて、光透過率が60%以上、65%以上、70%以上、特に75%以上であることが好ましい。さらに、波長532nmにおいて、光透過率が30%以上、50%以上、60%以上、特に70%以上であることが好ましい。上記波長域において光透過率が高いことにより、光吸収による磁気光学素子の発熱を抑制し、熱レンズ効果によるビーム径変化を抑制しやすくなる。なお、上記の光透過率は、ガラス材の厚みが1mmであるときの値である。また、上述した各波長における光透過率の上限は、例えば100%以下、特に99%以下としてもよい。
【0039】
本発明のガラス材は、上記構成を有することにより光透過率を高め、ビーム径変化を抑制することができる。例えば、ビーム径変化率を30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下に抑制することができる。なお、ビーム径変化率は、例えば以下のように測定することができる。はじめに、厚さ3mmに加工したガラスサンプルに対して、波長1064nm、出力50Wのレーザー光をφ1mmのビーム径でそれぞれ入射し、サンプルから300mmの位置でのビーム径のサイズを測定する。ビーム径は、例えば1/eの値とすることができる。次に、出力10mWでのビーム径を基準として、出力を50Wにしたときのビーム径変化率を計算できる。なお、サンプルが無い状態でも、コリメートレンズの熱レンズ効果によってビーム径変化が見られる場合は、測定したビーム径変化率から、サンプルが無い状態のビーム径変化率を差し引いた値をビーム径変化率とすることができる。
【0040】
本発明のガラス材の波長1064nmにおけるベルデ定数は、0.01min/Oe・cm以上、特に0.02min/Oe・cm以上であることが好ましい。上記ベルデ定数を有するガラス材は、磁気光学素子に好適に用いることができる。波長1064nmにおけるベルデ定数の上限は、例えば0.5min/Oe・cm未満、0.4min/Oe・cm以下、特に0.3min/Oe・cm以下としてもよい。なお、上記ベルデ定数は回転検光子法を用いて測定される値を意味する。
【0041】
本発明のガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)に好適に用いることができる。
【0042】
本発明のガラス材は、例えば、無容器浮遊法により作製することができる。図1は、本発明のガラス材を製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。以下、図1を参照しながら、本発明のガラス材を製造する方法について説明する。
【0043】
ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素を含有した還元性ガスであってもよい。なかでも、ガラス材の酸化抑制及び安全性の観点から、不活性ガスを使用することが好ましい。
【0044】
ガラス材の製造装置1を用いて、以下のようにガラス材を製造することができる。はじめに、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12は、例えば、原料粉末をプレス成型等により一体化したものや、原料粉末をプレス成型等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0045】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これにより、ガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得る。このとき、溶融ガラス及びガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス及びガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程においては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、磁場を印加することにより発生する磁力を利用して、ガラス原料塊12を成形面10a上に浮遊させてもよい。また、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱等によりガラス原料塊12を加熱溶融してもよい。
【0046】
本発明のガラス材の製造方法は、上述した無容器浮遊法に限定されない。例えば、本発明のガラス材は、るつぼ溶融により製造してもよい。るつぼ溶融の場合は、大量の原料粉末を一度に溶融することができるため、大型のガラス材を得やすくなる。大型のガラス材は、ハイパワーレーザー用途等に好適に用いることができる。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
表1~3は本発明の実施例1~17及び比較例1、2を示している。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
各試料は以下のように作製した。はじめに、表1~3に示すガラス組成となるよう原料を調合し、プレス成型した。プレス成型した原料を800℃で5時間焼結することにより、ガラス原料塊を作製した。
【0053】
次に、乳鉢中でガラス原料塊を粗粉砕し、1gの小片とした。次に、ガラス原料塊の小片と、図1に準じた装置を用いて、無容器浮遊法によりガラス材(直径約9mm)を作製した。熱源には100WのCOレーザー発振器を用いた。また、ガラス原料塊を空中に浮遊させるためのガスに窒素ガスを用い、供給流量は1~30L/分とした。得られたガラス材は4%-H/N雰囲気、770℃にて6時間アニールを行った後、以下の測定を行った。結果を表1~3に示す。なお、実施例1~17においてCeOを含む全成分の合量が100モル%となるよう換算すると、モル%で、Tb 12.6%~51%、B+Al+SiO+P 47.1%~71.4%、CeO 1.1%~16.7%、FeO+Fe 0.1ppm~4.9ppmを含有するガラス材が得られた。このとき、B、Al、SiO及びPの含有量は、それぞれB 0%~58.3%、Al 0%~60.2%、SiO 0%~61.8%、P 0%~9.2%となった。
【0054】
ベルデ定数は、回転検光子法を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、10kOeの磁場中で波長500nm~1100nmの範囲におけるファラデー回転角を測定し、波長1064nmでのベルデ定数を算出した。
【0055】
光透過率は、分光光度計(日本分光社製V-670)を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、光透過率曲線から波長1064nmにおける光透過率を読み取った。なお、光透過率は反射も含んだ外部透過率である。
【0056】
全Tbに対するTb3+の割合は、X線吸収微細構造解析(XAFS)を用いて測定した。具体的には、X線吸収端構造領域(XANES)のスペクトルを得て、各Tbイオンのピーク位置のシフト量から全Tbに対するTb3+の割合(モル%)を算出した。
【0057】
ビーム径変化率は次のように測定した。はじめに、厚さ3mmに加工したガラスサンプルに対して、波長1064nm、出力50Wのレーザー光をφ1mmのビーム径でそれぞれ入射し、サンプルから300mmの位置でのビーム径のサイズを測定した。ビーム径は1/eの値とした。次に、出力10mWでのビーム径を基準として、出力を50Wにしたときのビーム径変化率を計算した。なお、サンプルが無い状態でも、コリメートレンズの熱レンズ効果によってビーム径変化が見られたため、測定したビーム径変化率から、サンプルが無い状態のときのビーム径変化量を差し引いた値をビーム径変化率とした。
【0058】
表1~3に示すように、実施例1~17のガラス材は、波長1064nmにおいて、ベルデ定数の絶対値が0.027~0.215であった。また、光透過率は波長1064nmにおいて82.2%以上となり、ビーム径変化率は15%以下と低くなった。
【0059】
一方、比較例1、2のガラス材は、光透過率が79.5%以下であり、ビーム径変化率は33%以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ガラス材の製造装置
10 成形型
10a 成形面
10b ガス噴出孔
11 ガス供給機構
12 ガラス原料塊
13 レーザー光照射装置
図1