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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170049
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241129BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086992
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740KK01
5H740MM08
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA01
5H770HA02X
5H770HA03X
5H770HA06X
5H770HA06Z
5H770HA12X
5H770LA04X
5H770PA11
5H770PA29
(57)【要約】
【課題】加熱用の電源を用いることなく、且つ半導体素子の特性を劣化させることなく熱抵抗を推定できる電力変換器を提供する。
【解決手段】電力変換器1bは、NチャネルMOSFET2及び3が直列に接続されたアームを複数備える。オン電圧・熱抵抗推定部13は、温度検出部6、電圧検出部7及び電流検出部8を介して、FET3が発熱する前の温度,ドレイン電圧及び通電電流を検出し、駆動部9は、発熱量を一定以下に制限する条件でFET2及び3のゲートにPWM信号を出力してFET3を発熱させる。そして、発熱させた後の温度,ドレイン電圧及び通電電流を検出し、発熱する前後の温度,ドレイン電圧及び通電電流に基づいて熱抵抗を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型である半導体素子(2,3)が2個直列に接続されたアームを備え、誘導性負荷(15)をパルス信号により駆動する電力変換器であって、
前記半導体素子の温度を検出する温度検出部(6,10,14)と、
前記半導体素子の導通端子間電圧を検出する電圧検出部(7)と、
前記半導体素子の通電電流を検出する電流検出部(8)と、
前記2つの半導体素子の一方を熱抵抗の推定対象である対象素子(3)とし、他方を対象外素子(2)とすると、
前記対象素子が発熱していない状態の温度,導通端子間電圧及び通電電流を検出し、
前記対象素子と前記対象外素子とを排他的にオンさせるように、且つ前記対象素子の発熱量を一定以下に制限する条件で、前記対象素子の導通制御端子にパルス信号を印加することで当該対象素子を発熱させる発熱制御部(9,9a,9b,9c,9d)を有し、発熱した状態の温度,導通端子間電圧及び通電電流を検出し、発熱によって生じる温度差,導通端子間電圧及び通電電流に基づいて、前記熱抵抗を推定する熱抵抗推定部(13)とを備える電力変換器。
【請求項2】
前記発熱制御部(9a~9d)は、前記対象素子への初期通電期間において、前記対象素子の発熱を促進するように前記パルス信号を印加する請求項1記載の電力変換器。
【請求項3】
前記発熱制御部(9a)は、前記初期通電期間において前記パルス信号のデューティ比を一時的に大きくし、前記初期通電期間が終了すると前記デューティ比を通常時の値に低下させる請求項2記載の電力変換器。
【請求項4】
前記発熱制御部(9b)は、前記初期通電期間において前記パルス信号のパルス幅を一時的に大きくし、前記初期通電期間が終了すると前記パルス幅を通常時の値に低下させる請求項2記載の電力変換器。
【請求項5】
前記発熱制御部(9c)は、前記対象素子への初期通電期間において、
前記対象外素子をフルオンさせた状態で、
前記対象素子の閾値電圧を超えて、且つ前記パルス信号の振幅値未満となる電圧を印加し、前記初期通電期間が終了すると、通常のパルス信号を印加する請求項1記載の電力変換器。
【請求項6】
前記誘導性負荷が、回転機(MG)の固定子巻線である際に、
前記発熱制御部(9d)は、前記回転機の出力トルクがゼロとなるように、前記固定子巻線に通電する電流をベクトル制御するパルス信号を印加する請求項1から5の何れか一項に記載の電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子が2個直列に接続されたアームを備える電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインバータ等の電力変換器に使用されるパワーMOSFET等の半導体素子は、熱応力による疲労破壊が生じたり、熱サイクルにより変形が生じて放熱性が劣化することで、過昇温状態となったり熱破壊に至るおそれがある。その対策として、半導体素子の信頼性試験を実施して信頼性マージンを確保するように設計保障したり、半導体素子の放熱経路の熱抵抗を計測することで放熱経路の劣化度を評価し、素子の破壊を未然に防止すること等が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-195714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放熱経路の熱抵抗を計測する手法の1つとして、半導体素子を予め加熱した後、冷却する過程の熱応答から熱抵抗を推定するものがある。特許文献1では、加熱用に別電源を用いることや、駆動用電源を使用することが開示されているが、発熱により劣化が生じた場合の対策については具体的な記載がない。また、特許文献1では、過渡熱測定を実施するので、導出が複雑でns~μsオーダーの高応答な電圧測定系が必要になる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱用の電源を用いることなく、且つ半導体素子の特性を劣化させることなく熱抵抗を推定できる電力変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の電力変換器によれば、半導体素子が2個直列に接続されたアームを備え、誘導性負荷(15)をパルス信号により駆動する。2つの半導体素子の一方を熱抵抗の推定対象である対象素子(3)とし、他方を対象外素子(2)とすると、熱抵抗推定部(13)は、対象素子が発熱していない状態の温度,導通端子間電圧及び通電電流を検出し、対象素子と対象外素子とを排他的にオンさせるように、且つ発熱制御部(9,9a,9b,9c,9d)によって、対象素子の発熱量を一定以下に制限する条件で対象素子の導通制御端子にパルス信号を印加して当該素子を発熱させる。そして、発熱した状態の温度,導通端子間電圧及び通電電流を検出し、発熱によって生じる温度差,導通端子間電圧及び通電電流に基づいて熱抵抗を推定する。
【0007】
このよう構成すれば、加熱用の電源を用いることなく熱抵抗を推定できる。また、対象素子を発熱させる際においても、発熱量を一定以下に制限する条件で対象素子を駆動するので、半導体素子の特性の劣化を、仕様上無視できる程度に留めながら熱抵抗を推定できる。
【0008】
請求項2記載の電力変換器によれば、発熱制御部(9a~9d)は対象素子への初期通電期間において、その発熱を促進するようにパルス信号を印加する。具体的には、初期通電期間においてパルス信号のデューティ比を一時的に大きくし、初期通電期間が終了するとデューティ比を通常時の値に低下させる(請求項3)。また、初期通電期間においてパルス信号のパルス幅を一時的に大きくし、初期通電期間が終了するとパルス幅を通常時の値に低下させる(請求項4)。
【0009】
このように構成すれば、初期通電期間と当該機関の終了後において、パルス信号のデューティ比やパルス幅を変化させることで、初期通電期間における対象素子の発熱を促進することができる。
【0010】
請求項6記載の電力変換器によれば、誘導性負荷が、回転機(MG)の固定子巻線である際に、発熱制御部(9d)は、回転機の出力トルクがゼロとなるように、固定子巻線に通電する電流をベクトル制御するパルス信号を印加する。このように構成すれば、例えば回転機が電気自動車の走行駆動用電動機である場合等に、例えば車両が停車中の場合には、回転子を回転させることなく熱抵抗を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態であり、電力変換器を構成する半導体素子を駆動する回路の構成を示す機能ブロック図
図2】駆動部の回路構成を示す図
図3】電力変換器の構成例を示す図(その1)
図4】電力変換器の構成例を示す図(その2)
図5】熱抵抗を推定する動作に応じた、電圧、電流及び温度の変化を示すタイミングチャート
図6】アイリングモデルから導出した、温度上昇幅と部品の寿命に対応する加熱サイクル数との関係を示す図
図7】第2実施形態を示す図5相当図
図8】第3実施形態を示す図5相当図
図9】第4実施形態を示す図5相当図
図10】第5実施形態であり、FETを加熱する際に電動機を回転させないように制御する3相電流の波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図3は、本実施形態の電力変換器1aを例えばコンバータとした場合であり、電圧駆動型の半導体素子である例えばNチャネルMOSFET2及び3の直列回路を有している。FET2及び3の共通接続点は、誘導性負荷であるインダクタ15を介して高圧電源4との正側端子に接続されている。高圧電源4の電圧は、例えば200V~650V程度である。FET2、3のゲートは、それぞれ駆動回路5(U,D)の駆動部9(U,D)によって駆動される。
【0013】
また、図4は、電力変換器1bを例えばインバータとした場合であり、FET2及び3の直列回路は、高圧電源4とグランドとの間に接続されている。FET2及び3の共通接続点は、電動機MGを構成する1相の固定子巻線の一端に接続されている。FET2及び3の直列回路は、電動機MGの相数に応じて例えば3組が並列に接続されている。
【0014】
図1に示すように、電力変換器1aのFET3を駆動する駆動回路5は、例えばICとして構成されており、温度検出部6、電圧検出部7、電流検出部8及び駆動部9等を備えている。尚、図1では、FET2の図示を省略している。本実施形態ではFET3を、熱抵抗を推定する対象である対象素子とし、FET2を非対象素子とする。
【0015】
温度センサ10は、FET3の温度を検出するように配置された例えばダイオードであり、温度検出部6は、そのダイオードの端子電圧を検出する。温度センサ10により検出される温度をTとする。電圧検出部7の入力端子は、電圧センサ11としてのダイオードを介して、FET3のドレインに接続されている。すなわち、電圧検出部7は、電圧センサ11を介して、導通端子間電圧であるFET3のドレイン-ソース間電圧を検出する。以下、ドレイン-ソース間電圧を単にドレイン電圧と称する。
【0016】
電流センサ12は、FET3のソースに流れる電流を検出する。電流センサ12のセンサ信号は、電流検出部8に入力されている。温度検出部6、電圧検出部7、電流検出部8の出力信号は、オン電圧・熱抵抗推定部13に入力されている。また、オン電圧・熱抵抗推定部13には、水温センサ14のセンサ信号も入力されている。水温センサ14は、FET2及び3を冷却するためにヒートパイプ中を循環する冷却水の温度を検出する。水温センサ14により検出される温度をTとする。
【0017】
図2に示すように、駆動回路5において、発熱制御部に相当する駆動部9をフィードバック制御するブロックは、電流実効値算出部16、制御電流算出部17及び駆動信号生成部18を備えている。電流実効値算出部16は、電流検出部8より入力される電流検出値から、電流実効値を算出する。制御電流算出部17は、入力される電流実効値から目標とする制御電流を算出する。駆動信号生成部18は、パルス信号のデューティ比を算出して駆動信号を生成すると、駆動部9を介してFET3のスイッチングを制御する。
【0018】
次に、本実施形態の作用を電力変換器1bについて説明する。図5に示すように、太線で示すVGSはFET3のゲート電圧、細線で示すVGS対向はFET2のゲート電圧である。時点(a)において、ゲート電圧VGS対向だけを、例えば通常の動作時においてFET2がフルオン状態となる通常駆動電圧を印加すると、FET3のドレイン-ソース間には、高圧電源4の電圧に相当する電圧VDSが印加される。オン電圧・熱抵抗推定部13は、その後の時点(b)において、水温センサ14により検出される温度Tを取得する。尚、水温センサ14を用いない場合には、その時点の温度センサ10により検出される温度Tを取得し、初期温度Tjintとする。
【0019】
時点(c)において、FET2及び3を排他的にオンするようにPWM制御する。ゲート電圧VGS対向及びゲート電圧VGSを、一定のデューティ比で交互にハイレベルにすることで、FET3にはドレイン電流Iが流れ始める。これにより、FET3が加熱される。そして、オン電圧・熱抵抗推定部13は、時点(d)のように、FET3の温度上昇が飽和したと推定される時点で、温度T、電圧VDS及び電流Iを取得する。
【0020】
それから、オン電圧・熱抵抗推定部13は、下記の(1)式によりFET3の熱抵抗Rthを推定する。
th=(T-T)/(VDS×I) …(1)
尚、温度Tに替えて初期温度Tjintを用いる際には(2)式となる。
th=(T-Tjint)/(VDS×I) …(2)
【0021】
尚、時点(d)において、FET3の温度上昇を飽和させた際の温度Tを何度位に設定するか、つまりFET3の発熱量をどの程度まで許容するかは、熱抵抗を推定する頻度や、電力変換器1の製品寿命等の設計パラメータによって異なる。例えば、熱抵抗の推定頻度を1回/日とし、製品寿命を15年とすると、熱抵抗の推定を製品寿命に達するまで5479回実行することになる。
【0022】
半導体の寿命を推定するために使用される温度の加速モデルには、例えばアレニウスモデルやアイリングモデル等がある。アイリングモデルでは、寿命をL、定数をA、温度差をΔT、温度加速係数をnとすると、寿命Lは(3)式で表される。
L=A(ΔT)-n …(3)
【0023】
(3)式を用いて、ディレーティング温度差ΔT1での寿命サイクル数をL1、信頼性試験温度差ΔT2での実施サイクル数をL2とすると、温度差加速係数αΔTは(4)式となる。
αΔT=L1/L2=(ΔT2/ΔT1) …(4)
これより、実施サイクル数L2は、
L2=L1(ΔT2/ΔT1)-n …(5)
となる。
【0024】
温度加速係数nは、半導体素子を含むモジュールの材質によって異なるが、例えば「3」とし、温度差ΔT=120℃での寿命サイクル数L1=120万サイクルを基準として、温度差ΔTを変化させた場合の、寿命サイクル数及び熱抵抗の推定が寿命に及ぼす影響のパーセンテージは、例えば図6に示すようになる。どの程度の余裕を設定するかにもよるが、上記の条件では、ΔT=60℃程度が望ましいと推測する。
【0025】
以上のように本実施形態によれば、電力変換器1bは、NチャネルMOSFET2及び3が直列に接続されたアームを複数備える。オン電圧・熱抵抗推定部13は、温度検出部6、電圧検出部7及び電流検出部8を介して、FET3が発熱する前の温度,ドレイン電圧及び通電電流を検出し、駆動部9は、発熱量を一定以下に制限する条件でFET2及び3のゲートにPWM信号を出力してFET3を発熱させる。そして、発熱させた後の温度,ドレイン電圧及び通電電流を検出し、発熱する前後の温度,ドレイン電圧及び通電電流に基づいて熱抵抗を推定する。具体的には、(1)又は(2)式を用いて推定する。
【0026】
このよう構成すれば、加熱用の電源を用いることなく熱抵抗を推定できる。また、FET3を発熱させる際においても、発熱量を一定以下に制限する条件でFET2及び3をパルス信号により駆動するので、FET3の特性の劣化を、仕様上無視できる程度に留めながら熱抵抗を推定できる。そして、駆動部9は、FET3の通電電流値を一定に維持するように、FET2及び3を一定のデューティ比でPWM制御する。これにより、FET3の発熱量を一定以下に制限できる。さらに、(1)又は(2)式を用いることで、定常的な熱抵抗を簡単に推定でき、電圧の測定系がmsオーダー以上の低応答でも推定が可能となる。
【0027】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。図7に示すように、第2実施形態の発熱制御部9aは、時点(c)が経過した直後から一定の期間は、PWM制御のデューティ比をより大きくする。これにより、FET3に通電されるドレイン電流を一時的に増やしてFET3の発熱を促進する。その後は、第1実施形態と同様のデューティ比にする。第2実施形態によれば、熱抵抗の測定に要する時間を短縮できる。
【0028】
(第3実施形態)
図8に示すように、第3実施形態の発熱制御部9bは、時点(c)が経過した直後から一定の期間は、FET3のゲートに、デューティ比100%のパルス信号を複数周期に亘って出力する。またこの期間に、PWM制御外となる一定のパルス幅の駆動信号を印加しても良い。これにより、第2実施形態と同様に、FET3に通電されるドレイン電流を一時的に増やしてFET3の発熱を促進する。その後は、第1実施形態と同様のデューティ比のPWM制御に切り替える。
【0029】
(第4実施形態)
図9に示すように、第4実施形態の発熱制御部9cは、時点(c)が経過した直後から一定の期間は、FET3のゲートに対し時点(c)において、ゲート電圧VGSを、閾値電圧Vthを超えるレベルで、且つ上記の通常駆動電圧を下回る電圧を印加する。これにより、FET3に通電されるドレイン電流を一時的に増やしてFET3の発熱を促進する。その後は、第1実施形態と同様のデューティ比のPWM制御に切り替える。
【0030】
(第5実施形態)
第5実施形態の発熱制御部9dは、電力変換器1bのように誘導性負荷が電動機MGの固定子巻線である場合において、FET3を発熱させる際に出力トルクがゼロとなるようにベクトル制御する。すなわち、電動機MGが、例えば電気自動車の走行駆動用モータであって、車両が停車中の場合には、ロータを回転させないようにしてFET3を発熱させる。
【0031】
永久磁石モータのトルクTは、(6)式で表される。
T=pΦiq+p(Lq-Ld)idiq …(6)
p:極対数、Φ:永久磁石の鎖交磁束、id,iq:d、q軸電流、
Ld,Lq:d、q軸インダクタンス
永久磁石モータの定常状態の電圧方程式は、(7)式で表される。
Vd=r×Id-ω×Lq
Vq=r×Iq+ω×(Ld×Id+Φ) …(7)
r:巻線抵抗、ω:電気角速度
【0032】
(7)式について出力トルクをゼロとする条件なのでq軸電流iq=0とし、回転停止中であるからω=0とすると、
Vd=r×Id
Vq=0 …(8)
(8)式について逆パーク変換を行なうと、
Vα=Vd×cosθ-Vq×sinθ=r×Id×cosθ
Vβ=Vd×sinθ+Vq×cosθ=r×Id×sinθ …(9)
【0033】
(9)式について2相3相変換を行い、式を変形すると、
Iu=√(2/3)×Id×cosθ
Iv=√(2/3)×(-1/2×Id×cosθ+√3/2×Id×sinθ)
=√(2/3)×Id×cos(θ-2π/3)
Iw=√(2/3)×(-1/2×Id×cosθ-√3/2×Id×sinθ)
=√(2/3)×Id×cos(θ-4π/3) …(10)
【0034】
図10は、(10)式の3相電流Iu,Iv,Iwを示している。3相電流を、実際には何れか2相の電流をこのように制御すれば、電動機MGにトルクを発生させることなく、FET3を発熱させるための通電を行うことができる。
【0035】
(その他の実施形態)
電力変換器1aについても、第1~第4実施形態を適用すれば良い。
半導体素子は、FETに限ることなく、電圧駆動型の素子であれば良い。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0036】
図面中、1a,1bは電力変換器、2及び3はNチャネルMOSFET、5は駆動回路、6は温度検出部、7は電圧検出部、8は電流検出部、9は駆動部、10は温度センサ、12は電流センサ、13はオン電圧・熱抵抗推定部、14は水温センサ、15はインダクタを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10