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特開2024-170052脂肪族不飽和炭素-炭素結合を有する海洋生分解性ポリマー化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170052
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】脂肪族不飽和炭素-炭素結合を有する海洋生分解性ポリマー化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 85/00 20060101AFI20241129BHJP
   C08G 63/00 20060101ALI20241129BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241129BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
C08G85/00
C08G63/00
C08G63/91
C08L101/00
C08L101/02
C08L67/00
C08J3/24 Z CFD
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087000
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 直弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健太
(72)【発明者】
【氏名】早川 和寿
(72)【発明者】
【氏名】橋場 俊文
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J029
4J031
4J200
【Fターム(参考)】
4F070AA49
4F070AB03
4F070AC18
4F070AE08
4F070GA06
4F070GB06
4J002AA001
4J002AA032
4J002AA062
4J002AA072
4J002AB021
4J002AB031
4J002AB041
4J002AB051
4J002AC031
4J002AC071
4J002BB121
4J002BB241
4J002BC031
4J002BC041
4J002BD031
4J002BD101
4J002BE021
4J002BF021
4J002BF031
4J002BG101
4J002BG131
4J002BP031
4J002CC031
4J002CD001
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4J002CF041
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4J002CF071
4J002CF181
4J002CF212
4J002CF262
4J002CF272
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4J002CK021
4J002CK052
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4J002CL072
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4J029BA04
4J029BA05
4J029CA02
4J029CA04
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4J029GA15
4J029GA16
4J029HA01
4J029HB01
4J029HB03A
4J029JB163
4J029JC073
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4J029JC593
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4J031CD00
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4J031CD27
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4J200AA05
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4J200BA29
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4J200DA09
4J200DA11
4J200DA17
4J200DA19
4J200DA20
4J200DA24
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】海洋中で生分解性を引き起こすポリマー化合物及びこれを用いる海洋生分解性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項2】
側鎖に2以上の酸性基を有する請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項3】
前記繰り返し単位が、エステル結合を含むものである請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項4】
数平均分子量が、300~100000である請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項5】
さらに、主鎖の末端に-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を有する請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項6】
1分子中の脂肪族不飽和炭素-炭素結合の数が、平均して0.1~50個である請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項7】
前記置換基が、原子数1~50個の連結基を介して主鎖に結合している請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項8】
前記置換基が、-COO-+である請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項9】
主鎖にマレイン酸残基を有する請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項10】
+が、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項11】
請求項1記載の海洋生分解性ポリマー化合物に由来するポリマー型多価アニオンが2価以上の金属カチオンを介して結合した海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項12】
前記金属カチオンの含有量が1~100eq/105gである請求項11記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項13】
前記2価以上の金属カチオンが、カルシウムイオン、マグネシウムイオン又はアルミニウムである請求項11記載の海洋生分解性ポリマー化合物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項記載の海洋生分解性ポリマー化合物からなる海洋生分解促進剤。
【請求項15】
請求項14記載の海洋生分解促進剤及び樹脂を含む海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項16】
前記樹脂が、生分解性樹脂である請求項15記載の海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項17】
前記海洋生分解促進剤の含有量が1~50質量%であり、前記生分解性樹脂の含有量が50~99質量%である請求項16記載の海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項18】
請求項15記載の海洋生分解性樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項19】
エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有するポリマー化合物と、脂肪族不飽和炭素-炭素結合に対して反応性を有する反応基並びに-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれる置換基を有する化合物とを反応させる工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【請求項20】
エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物の該置換基を、1価の塩基を用いて中和する工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【請求項21】
前記塩基が、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである請求項20記載の海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【請求項22】
エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物を、多価金属塩を用いて架橋処理する工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【請求項23】
前記多価金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩又はアルミニウム塩である請求項22記載の海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を有する海洋生分解性ポリマー化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプラスチックによる環境汚染(海洋汚染)及び生態系への悪影響が問題となっており、環境負荷を低減するための様々な取り組みが始まっている。その中で、生分解性樹脂の開発及び普及に注目が集まっている。
【0003】
一方で、一般的な生分解性樹脂は、土壌や汚泥等、分解を担う微生物が多く存在する環境下では高い生分解性を示すものの、海洋中のように、微生物濃度が極端に低い環境では分解し難いという欠点がある(非特許文献1)。また、ポリカプロラクトン(PCL)やポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等のように、海洋中での生分解性が報告されている樹脂についても、その分解速度は、海水の種類により大きく異なることが分かってきており、これには、海水中の分解菌の有無や菌数、塩濃度、pH、水温、溶存酸素濃度、溶存有機炭素量等の様々な要因が影響していると報告されている(非特許文献2)。
【0004】
また、生分解性樹脂としてデンプン系の樹脂も実用化され、上市されているものの単一デンプン素材では物性面において大きく劣るため、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)やポリ乳酸(PLA)などの海洋では生分解し難いポリエステル系樹脂との混合組成物になっているのが殆どである。そのため、デンプン系樹脂であっても海洋での生分解性が大きく低下してしまう傾向にある。
【0005】
このような状況下、物性を維持しつつ、どのような種類の海水でも確実に分解が進む材料や、海水中で生分解が進み難い樹脂の分解促進剤となり、かつ、環境負荷を低減するような材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高田秀重、「マイクロプラスチック汚染の現状、国際動向および対策」、廃棄物資源循環学会誌、Vol. 29, No. 4, pp. 261-269, 2018
【非特許文献2】戎井章 他4名、「海水中における生分解性プラスチックの分解」、水産工学、Vol. 40, No. 2, pp. 143-149, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、海洋中で生分解性を引き起こすポリマー化合物及びこれを用いる海洋生分解性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物が高い海洋生分解性を示すことを見出した。特に、海洋生分解性ポリマー化合物に含まれるアニオン性基を有するプレポリマー化合物が2価以上の金属カチオンを介して結合したポリマー化合物は、側鎖同士が金属カチオンを介して結合しているため強度が高く、かつ海水中ではナトリウム、カリウム等の1価カチオンとイオン交換されることで該ポリマー化合物の分子が切断され、海洋分解が促進されることを見出した。
【0009】
さらに、本材料を樹脂、特に生分解性樹脂と組み合わせて使用することで、本材料が先行して海水中で一次分解し、(1)樹脂材料中に空孔が形成され、樹脂の比表面積が増加し、分解を担う微生物の増殖を促す効果や、(2)一次分解することで、二次分解、すなわち微生物による生分解を促進する効果が得られ、結果的に樹脂材料の海洋中での生分解を促進できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記海洋生分解性ポリマー化合物及びその製造方法を提供する。
1.エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物。
2.側鎖に2以上の酸性基を有する1の海洋生分解性ポリマー化合物。
3.前記繰り返し単位が、エステル結合を含むものである1又は2の海洋生分解性ポリマー化合物。
4.数平均分子量が、300~100000である1~3のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
5.さらに、主鎖の末端に-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を有する1~3のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
6.1分子中の脂肪族不飽和炭素-炭素結合の数が、平均して0.1~50個である1~5のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
7.前記置換基が、原子数1~50個の連結基を介して主鎖に結合している1~6のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
8.前記置換基が、-COO-+である1~7のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
9.主鎖にマレイン酸残基を有する1~8のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
10.R+が、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである1~9のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物。
11.1~10のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物に由来するポリマー型多価アニオンが2価以上の金属カチオンを介して結合した海洋生分解性ポリマー化合物。
12.前記金属カチオンの含有量が1~100eq/105gである11の海洋生分解性ポリマー化合物。
13.前記2価以上の金属カチオンが、カルシウムイオン、マグネシウムイオン又はアルミニウムである11又は12の海洋生分解性ポリマー化合物。
14.1~13のいずれかの海洋生分解性ポリマー化合物からなる海洋生分解促進剤。
15.14の海洋生分解促進剤及び樹脂を含む海洋生分解性樹脂組成物。
16.前記樹脂が、生分解性樹脂である15の海洋生分解性樹脂組成物。
17.前記海洋生分解促進剤の含有量が1~50質量%であり、前記生分解性樹脂の含有量が50~99質量%である16の海洋生分解性樹脂組成物。
18.15~17のいずれかの海洋生分解性樹脂組成物から得られる成形体。
19.エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有するポリマー化合物と、脂肪族不飽和炭素-炭素結合に対して反応性を有する反応基並びに-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれる置換基を有する化合物とを反応させる工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
20.エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物の該置換基を、1価の塩基を用いて中和する工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
21.前記塩基が、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである20の海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
22.エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有する海洋生分解性ポリマー化合物を、多価金属塩を用いて架橋処理する工程を含む海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
23.前記多価金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩又はアルミニウム塩である22の海洋生分解性ポリマー化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の海洋生分解性ポリマー化合物は、海洋生分解性を有し、側鎖の置換基や不飽和結合に由来する特徴的な物性を示す。また、前記海洋生分解性ポリマー化合物は、海水に接触すると徐々に海水に溶解し、又は親水性を示すため、これを含む樹脂組成物や成形体は、海洋中での生分解が促進され、海洋汚染対策に有用である。前記海洋生分解性ポリマー化合物は、海洋生分解性を有するため、これを含む組成物や成形体は、海洋中での生分解が促進され、海洋汚染対策に有用である。本発明の海洋生分解性ポリマー化合物からなる海洋生分解促進剤を用いることで、環境にやさしい組成物や成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[海洋生分解性ポリマー化合物A]
本発明の海洋生分解性ポリマー化合物の第1の態様は、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合(以下、単に脂肪族不飽和結合ともいう。)を主鎖に有し、1以上の-COO-+、-SO3 -+、-O-SO3 -+及び-P(=O)(OH)-O-+(式中、R+は、水素イオン、1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンである。)から選ばれる置換基を側鎖に有するもの(以下、海洋生分解性ポリマー化合物Aともいう。)である。前記脂肪族不飽和結合は、二重結合や三重結合でも構わないが、構造物の安定性や反応性を考慮すると二重結合が好ましい。
【0013】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、前記置換基を2以上側鎖に有していてもよい。前記置換基を2以上有する場合、それぞれの前記置換基は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0014】
海洋生分解性ポリマー化合物Aを構成する繰り返し単位は、機械物性及び生分解性の観点から、エステル結合又はアミド結合を含むことが好ましく、エステル結合を含むことがより好ましく、ジカルボン酸とジオールとが重縮合して生じるエステル結合を繰り返し単位に含むことが最も好ましい。
【0015】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、その分子量が300~100000であるものが好ましく、海水での生分解性及び機械物性を考慮すると、300~10000であるものがより好ましく、500~5000であるものがより一層好ましく、700~4000であるものが更に好ましく、900~3000であるものが最も好ましい。分子量が前記範囲であれば、生分解性や機械的物性が良好であるため好ましい。なお、本発明において分子量とは、末端基定量法より求めた数平均分子量を意味する。
【0016】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、側鎖に前記置換基を有することが必須であるが、さらに主鎖の末端にも前記置換基を有してもよい。その場合、両末端に前記置換基を有してもよく、片末端のみに前記置換基を有してもよいが、目的の物性、生分解性及び水溶性に応じて調整可能である。また、主鎖末端の前記置換基は、側鎖の前記置換基と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0017】
海洋生分解性ポリマー化合物Aにおいて、前記置換基の数は、物性、生分解性及び水溶性を考慮すると数平均分子量に対して適切な数の酸性基を有していることが好ましい。具体的には、数平均分子量を1分子当たりの平均の酸性基の数で除した値が100~10000であることが好ましく、200~5000であることがより好ましく、300~5000であることが更に好ましく、500~1000であることが最も好ましい。
【0018】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、主鎖に脂肪族不飽和炭素-炭素結合を有しているが、強度及び生分解性を両立できる範囲として、脂肪族不飽和炭素-炭素結合の数が、平均して1分子当たり0.1~50個であることが好ましく、0.5~25個であることがより好ましく、1~10個であることがより好ましい。
【0019】
側鎖の前記置換基は、主鎖に直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよいが、機械的物性を考慮すると、前記置換基は、原子数1~50の連結基を介して結合していることが好ましく、原子数2~30の連結基を介して結合していることがより好ましく、原子数5~25の連結基を介して結合していることが更に好ましい。前記連結基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。また、前記連結基を構成する原子は特に限定されないが、前記連結基は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、リン原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0020】
前記置換基としては、環境負荷やハンドリング性を考慮すると、-COO-+、-SO3 -+であることが好ましく、-COO-+であることが特に好ましい。
【0021】
前記海洋生分解性ポリマー化合物A中の脂肪族不飽和結合は、どのようなモノマーに由来していてもよいが、導入の容易さ、コスト、副反応のリスクを考慮すると、脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物又は脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物に由来する脂肪族不飽和結合であることが好ましく、脂肪族不飽和結合を有するジカルボン酸化合物に由来する脂肪族不飽和結合であることがより好ましい。
【0022】
前記脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物の具体例としては、2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオール、4-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-シクロペンテン-1-オン等の脂肪族不飽和結合を有するジオール化合物等が好ましい。前記脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物は、市販品を使用してもよく、合成したものを使用してもよい。
【0023】
前記脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸等の脂肪族不飽和結合を有するジカルボン酸等が挙げられるが、反応性、溶解性、生成物の物性を考慮すると、フマル酸及びマレイン酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。前記脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物は、市販品を使用してもよく、合成したものを使用してもよい。
【0024】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、そのセルロース相対生分解度が40%以上であることが好ましい。なお、本発明においてセルロース相対生分解度とは、海水に浸漬後60日経過後におけるセルロースに対する分解度である。海洋生分解性ポリマー化合物Aは、セルロース相対生分解度が50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。なお、セルロース相対生分解度は、ASTM D6691や公知の海洋生分解試験方法等及びそれらを参考に改変されたBODにより測定することができる。
【0025】
海洋生分解性ポリマー化合物Aは、樹脂の溶融温度に適した軟化点又は融点を有することが好ましい。前記ポリマー化合物は、室温では固体又は液体であり、より具体的には軟化点又は融点の下限値としては、0℃以上、25℃以上、40℃以上、80℃以上、100℃以上の順に好ましく、上限値としては、180℃以下、150℃以下、120℃以下の順に好ましい。ハンドリング性を考慮すると、好ましくは0~180℃、より好ましくは25~120℃の範囲内に軟化点又は融点を有することが好ましい。
【0026】
[海洋生分解性ポリマー化合物Aの製造方法]
海洋生分解性ポリマー化合物Aのうち、前記置換基のR+が水素イオンであるもの(すなわち、前記置換基として-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれるものを有するもの(以下、海洋生分解性ポリマー化合物A1ともいう。)は、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有するポリマー化合物(以下、ポリマー化合物Pともいう。)と、脂肪族不飽和炭素-炭素結合に対して反応性を有する反応基並びに-COOH、-SO3H、-O-SO3H及び-P(=O)(OH)-OHから選ばれる置換基(以下、これらを総称して酸性基Aともいう)を有する化合物(以下、化合物Qともいう。)とを反応させる工程を含む方法によって製造することができる。
【0027】
ポリマー化合物Pとしては、不飽和ポリエステル化合物、不飽和ポリアミド化合物、不飽和ポリカーボネート化合物、不飽和ポリウレタン化合物、不飽和ポリウレア化合物等が挙げられるが、不飽和ポリエステル化合物又は不飽和ポリアミド化合物であることが好ましく、不飽和ポリエステル化合物であることよりが好ましい。
【0028】
前記不飽和ポリエステル化合物は、例えば、脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有しないポリオール化合物を含むポリオール化合物との重縮合、脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物を含むポリオール化合物との重縮合、又は脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物を含むポリオール化合物との重縮合によって製造することができる。不飽和ポリエステルを製造する場合は、公知のポリエステルの重合方法を参考にすることができ、例えば、繊維と工業、Vol. 40, No. 4.5, pp. 259-261, 1984に記載された方法を参考にすることができる。また、前記不飽和ポリエステル化合物としては、市販品を使用してもよい。
【0029】
前記脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物及び脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物の具体例としては、前述したものが挙げられる。
【0030】
前記脂肪族不飽和結合を有しないポリオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等の飽和ジオール化合物等が挙げられるが、反応性、溶解性及び生成物の物性を考慮すると1,4-ブタンジオールが好ましい。前記脂肪族不飽和結合を有しないポリオール化合物は、市販品を使用してもよく、合成したものを使用してもよい。
【0031】
前記脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメット酸、ピロメリット酸等の飽和多価カルボン酸や芳香族多価カルボン酸が挙げられる。前記脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物は、市販品を使用してもよく、合成したものを使用してもよい。
【0032】
前記不飽和ポリエステル化合物は、脂肪族不飽和結合を有するジカルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有しないジオール化合物を含むポリオール化合物との重縮合によって製造することが好ましい。
【0033】
このとき、原料である多価カルボン酸化合物は、前記脂肪族不飽和結合を有するジカルボン酸化合物のほかに、脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物を含んでもよい。前記脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメット酸、ピロメリット酸等が挙げられるが、反応性、溶解性、生成物の物性を考慮するとコハク酸又はアジピン酸が好ましく、コハク酸がより好ましい。原料であるカルボン酸化合物中、脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物の含有量は、0~80mol%が好ましく、10~40mol%がより好ましく、30~60mol%が最も好ましい。
【0034】
また、原料であるポリオール化合物は、前記ジオール化合物のほかに、トリオール以上のポリオール化合物を含んでもよい。前記ポリオール化合物の具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グルコース等の単糖類等が挙げられるが、反応性、溶解性、生成物の物性を考慮するとグリセリン又はトリメチロールプロパンが好ましく、グリセリンがより好ましい。原料であるポリオール化合物中、トリオール以上のポリオール化合物の含有量は、0.01~5mol%が好ましく、0.05~3mol%がより好ましく、0.1~1mol%が最も好ましい。
【0035】
前記不飽和ポリエステル化合物の重合反応において、必要に応じて反応を促進する目的で、三酸化アンチモン、ゲルマニウム触媒、チタン触媒等の重縮合触媒;酢酸マグネシウム、酢酸マンガン等の一般にエステル交換に用いられる触媒を用いてもよい。環境への負荷を考慮すると金属を含まない触媒が好ましい。前記触媒の使用量は、原料化合物100質量部に対し、0.01~5質量部程度が好ましい。
【0036】
前記不飽和ポリアミド化合物は、例えば、脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有しないポリアミン化合物を含むポリアミン化合物との重縮合、脂肪族不飽和結合を有しない多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有するポリアミン化合物を含むポリアミン化合物との重縮合、又は脂肪族不飽和結合を有する多価カルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と脂肪族不飽和結合を有するポリアミン化合物を含むポリアミン化合物との重縮合によって製造することができる。多価カルボン酸は前述の化合物等を用いることができ、脂肪族不飽和結合を有するポリアミンとしては、例えば2-ブテン-1,4-ジアミン、3-ヘキセン-1,6-ジアミン等の脂肪族不飽和結合を有するジアミン化合物を用いることができる。脂肪族不飽和結合を有するポリアミドを製造する場合は、公知のポリアミドの重合方法を参考にすることができ、例えば、特公昭52-12233号公報や特公平5-71056号公報に記載された方法を参考にすることができる。また、前記脂肪族不飽和結合を有するポリアミド化合物としては、市販品を使用してもよい。
【0037】
前記不飽和ポリアミドの重合反応において、必要に応じて反応を促進する目的で、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸の金属塩やアンモニウム塩、エステル等の重縮合触媒を用いてもよい。前記触媒の使用量は、原料化合物100質量部に対し、0.01~5.0質量部程度が好ましい。
【0038】
前記不飽和ポリカーボネート化合物は、例えば、ジフェニルカーボネートやホスゲン等の炭酸エステルや炭酸クロリドと脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物とを重縮合することによって製造することができる。脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物としては、例えば2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオール等の脂肪族不飽和結合を有するジオール化合物を用いることができる。前記不飽和ポリカーボネート化合物を製造する場合は、公知のポリカーボネートの重合方法を参考にすることができ、例えば、特開2013-010948号公報や特開2016-94589号公報に記載された方法を参考にすることができる。また、前記不飽和ポリカーボネート化合物としては、市販品を使用してもよい。
【0039】
前記不飽和ポリカーボネートの重合反応において、必要に応じて反応を促進する目的で、三酸化アンチモン、ゲルマニウム触媒、チタン触媒等の重縮合触媒;酢酸マグネシウム、酢酸マンガン等の一般にエステル交換に用いられる触媒を用いてもよい。前記触媒の使用量は、原料化合物100質量部に対し、0.01~1.0質量部程度が好ましい。
【0040】
前記不飽和ポリウレタン化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネートと、脂肪族不飽和結合を有するジオール化合物や前述の方法を用いて作製されたヒドロキシ基を有する不飽和ポリエステル化合物やヒドロキシ基を有する不飽和ポリカーボネート化合物を含むポリオール化合物との重付加、2-ブテン-1,4-ジイソシアネート、3-ヘキセン-1,6-ジイソシアネート等の脂肪族不飽和結合を有するポリイソシアネートを含むポリイソシアネートとポリオール化合物との重付加、又は脂肪族不飽和結合を有するポリイソシアネートを含むポリイソシアネートと脂肪族不飽和結合を有するジオール化合物や前述した肪族不飽和結合を有するポリオール化合物を含むポリオールとの重付加によって製造することができる。前記不飽和ポリウレタン化合物を製造する場合は、公知のポリウレタンの重合方法を参考にすることができ、例えば、特公昭52-12233号公報や特公平5-71056号公報に記載された方法を参考にすることができる。
【0041】
脂肪族不飽和結合を有するポリオール化合物とポリイソシアネートとの反応は、反応性の向上による反応時間の短縮や反応温度の低下を目的として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデカ-7-エン(DBU)等のアミン系触媒やジブチルスズジラウレート等のスズ触媒を用いてもよい。また前記スズ錯体に類似する亜鉛錯体、鉄錯体、ビスマス錯体及びジルコニウム錯体も、触媒として有用である。前記触媒の使用量は、原料化合物100質量部に対し、0.01~5質量部程度が好ましい。
【0042】
前記不飽和ポリウレア化合物は、例えば、前述したポリイソシアネートと前記脂肪族不飽和結合を有するポリアミン化合物を含むポリアミン化合物や前述の方法で作製されたアミノ基を有する不飽和ポリアミド化合物を含むポリアミンとの重縮合、前述した脂肪族不飽和結合を有するポリイソシアネートを含むポリイソシアネートとポリアミン化合物との重縮合、前述した脂肪族不飽和結合を有するポリイソシアネートを含むポリイソシアネートと前記脂肪族不飽和結合を有するポリアミン化合物や前述の方法で作製されたアミノ基を有する不飽和ポリアミド化合物を含むポリアミン化合物との重縮合によって製造することができる。前記不飽和ポリウレア化合物を製造する場合は、公知のポリウレアの重合方法を参考にすることができ、例えば、特開2004-27148号公報に記載された方法を参考にすることができる。
【0043】
前記不飽和ポリウレア化合物の重合反応において、必要に応じて反応を促進する目的で、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、亜鉛、ルビジウム、ストロンチウム、スズ、アンチモン、セシウム、バリウム、鉛等の金属からなる塩や、アルコキシド、有機金属化合物等の触媒を用いてもよい。前記触媒の使用量は、原料化合物100質量部に対し、0.0001~1質量部程度が好ましい。
【0044】
ポリマー化合物Pと化合物Qとの反応において、化合物Qの使用量は、不飽和ポリエステル化合物中の脂肪族不飽和結合に対し、5~200mol%となる量が好ましい。5~20mol%では二重結合に由来する物性が、20mol%を超え200mol%以下では側鎖酸性基Aに由来する物性がそれぞれ強く発現するため、目的に応じて調整してよい。
【0045】
ポリマー化合物Pと化合物Qとの反応は、特に限定されず、例えば、共役付加反応、ラジカル反応、Diels-Alder反応、光環化付加反応を使用することができるが、反応性、選択性及び生成物の物性を考慮すると、共役付加反応が好ましい。特に好ましい反応例としては、マレイン酸残基を有するポリエステル化合物の脂肪族不飽和結合へのメルカプトカルボン酸、アミノ酸、マロン酸誘導体等の付加反応が挙げられる。
【0046】
ポリマー化合物Pと化合物Qとの反応においては、必要に応じて一般に用いられる触媒を用いてよく、例えば共役付加反応においてはDBU、TEA等の塩基触媒、ラジカル反応においては、有機ルテニウム錯体、有機チタン錯体等の遷移金属触媒、Diels-Alder反応においてはイッテルビウムトリフラート、スカンジウムトリフラート等のルイス酸触媒、光環化付加反応においてはチオフェン、ベンゾフェノン等の光増感剤等が挙げられる。
【0047】
化合物Qは、目的の反応に合わせて適宜選択することができる。例えば、化合物Qとしては、共役付加反応の場合は3-メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸、5-アミノ吉草酸、6-アミノヘキサン酸等のアミノ酸、2-アミノエタンスルホン酸等のアミノスルホン酸、エタノールアミンリン酸等のアミノリン酸、マロン酸、有機銅アート錯体等求核性を有する有機酸及びこれらの誘導体が挙げられ、ラジカル反応の場合はアクリル酸、3-ペンテン酸、カルボキシスチレン、スチレンスルホン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸及びスルホン酸が挙げられ、Diels-Alder反応の場合は1-メチル-2-ピロールカルボン酸等のピロールカルボン酸等が挙げられ、光環化付加反応の場合はアクリル酸、3-ペンテン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸が挙げられる。反応性、選択性、生成物の物性及び安全性を考慮すると共役付加反応において3-メルカプトプロピオン酸、5-アミノ吉草酸、6-アミノヘキサン酸、マロン酸誘導体を使用することが好ましく、共役付加反応において3-メルカプトプロピオン酸を使用することが最も好ましい。化合物Qは、市販品を使用してもよく、合成したものを使用してもよい。
【0048】
化合物Qは、酸性基Aを有したまま用いてもよく、必要に応じて酸性基Aをエステル化等で保護し、ポリマー化合物Pと化合物Qとの反応後に脱保護し、酸性基Aとしてもよい。
【0049】
海洋生分解性ポリマー化合物Aのうち、前記置換基のR+の一部又は全部が1価の金属カチオン又は1価の有機カチオンであるもの(以下、海洋生分解性ポリマー化合物A2ともいう。)は、海洋生分解性ポリマー化合物A1の酸性基Aの一部又はすべてを中和することで合成することができる。
【0050】
前記海洋生分解性ポリマー化合物A2において、前記置換基のR+としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、フランシウムイオン、アンモニウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、アニリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン等が好ましく、安全性、環境負荷、操作性の観点からナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオン及びカリウムイオンが更に好ましい。
【0051】
前記中和反応は、特に限定されず、例えば酸性基と反応し得る無機塩基及び/又は有機塩基を用いて行うことができる。前記塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、TEA、DBU等が挙げられる。これらのうち、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムが好ましく、安全性、環境負荷を考慮すると水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムが特に好ましい。
【0052】
[海洋生分解性ポリマー化合物B]
本発明の海洋生分解性ポリマー化合物の第2の態様は、海洋生分解性ポリマー化合物Aを2価以上の金属カチオンで架橋処理して得られる海洋生分解性ポリマー化合物(以下、海洋生分解性ポリマー化合物Bともいう。)である。すなわち、海洋生分解性ポリマー化合物Bは、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位を含み、脂肪族不飽和炭素-炭素結合を主鎖に有し、1以上の-COO-、-SO3 -、-O-SO3 -及び-P(=O)(OH)-O-から選ばれる1価アニオン性置換基を側鎖に有するアニオン性ポリマー化合物が、2価以上の金属カチオンによるイオン結合で結合した構造を有するものである。
【0053】
前記2価以上の金属カチオンは、特に限定されないが、カルシウムイオン、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、白金イオン、金イオン、チタンイオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、マンガンイオン、ジルコニウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、パラジウムイオン、スカンジウムイオン、ガリウムイオン、インジウムイオン、ラジウムイオン等が挙げられる。これらのうち、カルシウムイオン、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が好ましく、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン等がより好ましい。前記2価以上の金属カチオンは一種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせてもよい。
【0054】
前記海洋生分解性ポリマー化合物中の金属イオン当量は、1~100eq/105gが好ましいが、海水での生分解性及び機械物性を考慮すると、2~80eq/105gがより好ましく、10~50eq/105gが更に好ましい。金属イオン当量が前記範囲であれば、良好な生分解性を有し、機械的物性も損なわれないため好ましい。なお、金属イオン当量は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により測定した値である。
【0055】
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、少なくとも2つの海洋生分解性ポリマー化合物A2が金属カチオンを介して結合しているものであるが、海洋生分解性ポリマー化合物A2は、1種のみが含まれていてもよく、異なる複数種が含まれていてもよく、更にそれ以外のアニオン性化合物を同時に含んでもよい。このようなアニオン性化合物としては、例えばカルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、末端にアニオン性基を有する数平均分子量500~10000のポリマー化合物等が挙げられる。
【0056】
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、直鎖状、分岐鎖状、架橋網目状等の構造を取り得るが直鎖状又は分岐鎖状である場合、分子量は、600~1000000であることが好ましく、1000~500000であることがより好ましく、5000~300000であることが更に好ましく、10000~100000であることが最も好ましい。後述する一般的な生分解性樹脂は、土壌や汚泥等、分解を担う微生物が多く存在する環境下では高い生分解性を示すものの、海洋中のように、微生物濃度が極端に低い環境では分解し難いという欠点がある。本発明者らは、海水中に豊富に存在する金属イオン及び海洋中での安定した塩分濃度に注目した。海洋生分解性ポリマー化合物Bは、海水中においてイオン交換によって分解し(切断による低分子化)、化学的に低分子化することで、生分解を担う微生物が少ない環境下においても効率的に分解が進行するものと推測している。海洋生分解性ポリマー化合物Bの分子量を前記範囲とすることで、より効率的に海洋での生分解性を促進させつつ、通常の使用時は、使用される樹脂組成において物性的にも有用である。
【0057】
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、樹脂の溶融温度に適した軟化点又は融点を有することが好ましい。前記ポリマー化合物は、室温では固体であるが、より具体的には軟化点又は融点の下限値としては、40℃以上、50℃以上、60℃以上の順に好ましく、上限値としては、250℃以下、180℃以下、160℃以下、140℃以下の順に好ましい。樹脂が生分解性樹脂の場合は、好ましくは40~200℃、より好ましくは50~160℃、更に好ましくは60~140℃の範囲内に軟化点又は融点を有することが好ましい。
【0058】
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、そのセルロース相対生分解度が40%以上であることが好ましい。なお、本発明においてセルロース相対生分解度とは、海水に浸漬後60日経過後におけるセルロースに対する分解度である。海洋生分解性ポリマー化合物Bは、セルロース相対生分解度が50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。なお、セルロース相対生分解度は、ASTM D6691や公知の海洋生分解試験方法等及びそれらを参考に改変されたBODにより測定することができる。
【0059】
[海洋生分解性ポリマー化合物Bの製造方法]
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、海洋生分解性ポリマー化合物Aを、多価金属塩を用いて架橋処理する工程を含む方法によって製造することができる。
【0060】
前記架橋処理方法としては、海洋生分解性ポリマー化合物Aが溶解する媒体に、多価金属塩の粉末又は溶液を滴下し、結合処理を行いながら析出又は沈殿させる方法、海洋生分解性ポリマー化合物Aの溶融液に多価金属塩の粉末又は溶液を滴下し、結合処理を行う方法、多価金属塩の粉末又は多価金属塩が溶解する溶液に、海洋生分解性ポリマー化合物Aが溶解する溶液を滴下し、結合処理を行いながら析出又は沈殿させる方法が挙げられる。
【0061】
好ましい例として、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒に海洋生分解性ポリマー化合物A2を溶解させた溶液又は海洋生分解性ポリマー化合物A2を加熱して溶解させた溶融液を調製する。このとき、溶解度を向上させるためや溶融液の粘度を低下させるため、必要に応じて加熱してもよい。次いで、得られた溶液又は溶融液に2価以上の金属塩を含む溶液を添加して攪拌する。または、2価以上の金属塩を含む溶液に海洋生分解性ポリマー化合物A2を溶解させた溶液又は溶融液を添加して攪拌してもよい。
【0062】
前記多価金属塩としては、カルシウム塩、ストロンチウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ラジウム塩、鉛塩、亜鉛塩、ニッケル塩、鉄塩、銅塩、カドミウム塩、コバルト塩、マンガン塩、アルミニウム塩、ガリウム塩、インジウム塩、タリウム塩等が挙げられるが、海水中に含まれる金属であることや、環境面、安全性、汎用性の点から、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩が好ましく、海水での環境下を考慮すると、カルシウム塩、マグネシウム塩がより好ましい。前記多価金属塩の具体例としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム(ナトリウムミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)等が挙げられるが、水への溶解性、取扱性、コスト等から塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウムが好ましい。
【0063】
また、海洋生分解性ポリマー化合物A1の酸性基Aを2価以上の金属を含む塩基を用いて中和することにより、中和と2価以上の金属カチオンを介した結合とを同時に行うことができる。
【0064】
好ましい例として、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒に海洋生分解性ポリマー化合物A1を溶解させた溶液又は海洋生分解性ポリマー化合物A1を加熱して溶解させた溶融液を調製する。このとき、溶解度を向上させるためや溶融液の粘度を低下させるため、必要に応じて加熱してもよい。次いで、得られた溶液又は溶融液に2価以上の金属を含む塩基の溶液を添加して攪拌する。または、2価以上の金属を含む塩基の溶液に海洋生分解性ポリマー化合物A1を溶解させた溶液又は溶融液を添加して攪拌してもよい。
【0065】
前記2価以上の金属を含む塩基としては、水素化マグネシウム、水素化ストロンチウム、水素化カルシウム、水素化バリウム、マグネシウムメトキシド、カルシウムメトキシド、ストロンチウムメトキシド、バリウムメトキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム等が挙げられるが、水への溶解性、反応性、コスト等から水素化カルシウム、カルシウムメトキシド、水酸化カルシウム、水酸化バリウムが好ましく、水酸化カルシウムがより好ましい。
【0066】
前記多価金属塩を含む溶液中の多価金属塩の濃度又は2価以上の金属を含む塩基を含む溶液中の該塩基の濃度は、1~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。前記溶液の溶媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール系溶媒、アセトン、アセトニトリル、THF、DMF、DMSO、NMP等の両親媒性溶媒、及びこれらの混合溶媒が好ましいが、粒子を溶解させない範囲で目的の濃度になるよう塩を溶解できれば、他の有機溶剤との混合溶媒でも構わない。
【0067】
また、前記多価金属塩又は2価以上の金属を含む塩基の反応性が良好であり、固体状態であっても反応するのであれば、媒体を用いずに粉末状で使用してもよく、少量の媒体に分散させて使用してもよい。
【0068】
こうすることで、海洋生分解性ポリマー化合物Aを、金属カチオンを介して結合することができ、徐々に溶解できなくなった目的とする海洋生分解性ポリマー化合物Bが、析出又は沈殿又はバルクとして得られる。処理時間は、0.5~24時間が好ましく、1~12時間が好ましい。
【0069】
このとき、析出又は沈殿物の粒径及び球状等の形状を制御する目的で、界面活性剤や高分子安定剤を、海洋生分解性ポリマー化合物A1又はA2を溶解させた溶液及び2価以上の金属を含む塩基又は多価金属塩を含む溶液の少なくとも一方に溶解させてもよい。
【0070】
目的とする海洋生分解性ポリマー化合物Bを析出又は沈殿させる際に、加熱を行ってもよい。加熱は、海洋生分解性ポリマー化合物A1又はA2を溶解させた溶液又は海洋生分解性ポリマー化合物A1又はA2の溶融液と、多価金属塩又は2価以上の金属を含む塩基を含む溶液とを混合する際に行ってもよく、混合後攪拌する際に行ってもよく、これらの両方において行ってもよい。加熱温度は、15~150℃が好ましく、20~100℃がより好ましく、40~80℃が好ましい。
【0071】
処理後、必要に応じて粒子の洗浄及び乾燥を行うことで、海洋生分解性ポリマー化合物Bを得ることができる。洗浄は、通常の方法で行うことができ、例えば、結合処理後溶媒を除去し、水を加えて遠心分離する等の方法が挙げられる。乾燥は、通常の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の方法で行うことができる。なお、得られた海洋生分解性ポリマー化合物Bは、必要に応じて公知の設備によって、表面処理を行ったり、粉砕処理を行って粒径を調整したりしてもよい。
【0072】
海洋生分解性ポリマー化合物Bは、2価の金属カチオンを介して前記アニオン性ポリマー化合物同士で結合していない末端の少なくとも1つを封止セグメント基で封止したものであってもよい。
【0073】
封止セグメント基の選定により、単一素材及び本素材を用いた複合化素材(海洋生分解性樹脂組成物)において、溶融温度及び溶融粘度の調整、結晶化度の調整、微生物の付着性と生分解性の調整、樹脂引張強度、曲げ強度、弾性等の物性調整、樹脂との相溶性改善、疎水化度の調整、撥水性の調整、密着性の調整、可塑性の調整等の複数の効果を取り込むことができ、海洋生分解性樹脂組成物の生分解性及び物性の両面から改善を図ることができる。封止セグメントとなる有機アニオンは、海洋での生分解性を有する構造であることが望まれるため、分子量5000以下の海洋生分解性を有する封止セグメント基を選定することが望ましい。例えば、海洋での生分解性速度と平均的な物性維持を重視する場合は、分子量が2500以下のものが好ましく、1000以下のものがより好ましい。
【0074】
具体的には、前記封止セグメント基は、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するものが好ましく、炭素数6以上の1価炭化水素基を有するものがより好ましく、炭素数10以上の1価炭化水素基を有するものが更に好ましく、炭素数12以上の1価炭化水素基を有するものが最も好ましい。前記1価炭化水素基の炭素数の上限は、特に限定されないが、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。
【0075】
前記封止セグメント基は、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するカルボン酸アニオン、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するスルホン酸アニオン、炭素数3以上の1価炭化水素基を有する硫酸エステルアニオン及び炭素数3以上の1価炭化水素基を有するリン酸エステルアニオンから選ばれる1価有機アニオンであることが好ましい。これらのうち、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するカルボン酸に由来する1価有機アニオンであることが好ましく、炭素数3以上の1価炭化水素基を有する脂肪酸又は炭素数3以上の1価炭化水素基を有するアミノ酸誘導体に由来する1価有機アニオンであることがより好ましい。
【0076】
末端封止は、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するスルホン酸、該スルホン酸の塩、炭素数3以上の1価炭化水素基を有する硫酸エステル、該硫酸エステルの塩、炭素数3以上の1価炭化水素基を有するリン酸エステル及び該リン酸エステルの塩から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤を用いて行うことができる。末端封止は、ポリマー化合物A又はBを含む溶液に前記末端封止剤を加え、その後多価金属イオンで結合処理することで行うことができる。
【0077】
末端封止剤としては、特開2021-191810号公報の段落[0029]~[0044]に記載された酸化合物又は塩化合物が好ましい。
【0078】
[海洋生分解性樹脂組成物]
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、前記海洋生分解性ポリマー化合物を含むものである。
【0079】
前記海洋生分解性ポリマー化合物は、主原料として使用してもよいが、添加剤として他の樹脂と組み合わせて使用してもよい。前記他の樹脂としては、特に限定されないが、生分解性樹脂であることが好ましい。添加剤として他の樹脂と組み合わせて使用する場合、前記海洋生分解性ポリマー化合物は、海洋生分解促進剤として機能する。このとき、複合化樹脂は海洋中での生分解が促進される樹脂組成物となる。また、樹脂組成物の物性やハンドリング性を調整する目的で、前記他の樹脂としては、複数種の樹脂を組み合わせて使用することもできる。
【0080】
前記他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、バイオPET、バイオポリアミド、バイオポリカーボネート、バイオポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、バイオポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸ブレンド、スターチブレンドポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸等が挙げられるが、環境への負荷低減や海洋生分解性の促進効果を考慮すると、特に生分解性の高い樹脂が好ましい。
【0081】
また、前記生分解性樹脂としては、ポリカプロラクトン、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBSA)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンテレフタレートコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、グリコール酸/カプロラクトンコポリマー、グリコール酸/炭酸トリメチレンコポリマー等の原料が石油由来の樹脂;(ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート系)ブロックコポリマー、(ポリ乳酸/ポリカプロラクトン)コポリマー、(ポリ乳酸/ポリエーテル)コポリマー、ポリ乳酸ブレンドPBAT、乳酸/グリコール酸コポリマー、バイオポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、スターチブレンド ポリエステル樹脂、ポリ(ブチレンテレフタレートサクシネート)等の原料が一部バイオマス由来の樹脂;ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシカプリル酸、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシ吉草酸)(PHBV)等のポリヒドロキシアルカン酸、ポリ乳酸(PLA)等の原料が100%バイオマス由来の樹脂;セルロース、酢酸セルロース、セルロースエステル樹脂、デンプン、エステル化デンプン、キトサン等の天然高分子由来の樹脂が挙げられる。
【0082】
これらのうち、生分解性樹脂として土壌又はコンポストにおいて生分解性を有するが、海洋での生分解性が劣る樹脂、例えば、ポリカプロラクトン、(バイオ)PBS、PBSA、PBAT、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、PHBH、PHBV等のポリヒドロキシアルカン酸、PLA、セルロース、デンプン、キトサン等天然高分子由来の樹脂から選択される生分解性樹脂と前記海洋生分解性ポリマー化合物とを組み合わせることが好ましい。前記生分解性樹脂としては、特にPBSA、PBS、PBAT、PLA、デンプン由来の樹脂が好ましい。
【0083】
また、環境負荷の低減を考慮すると、組み合わせる樹脂の原料としては、バイオマス由来であることが好ましく、100%バイオマス由来原料であることが、最も好ましい。
【0084】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、溶媒を含んでもよい。前記溶媒は、前記海洋生分解性ポリマー化合物を溶解せず粒子として残しつつ、マトリクスとなる前記樹脂を溶解するものでもよく、前記樹脂及び海洋生分解性ポリマー化合物の両方を溶解するものでもよい。これらを適宜調整することで、キャスティング等によるフィルム化による成型体や、塗料、インク、表面処理剤等としても活用可能となる。好ましい溶媒としては、例えば、水、ギ酸、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、へキサフルオロイソプロパノール、メチルグリコール、メチルトリグリコール、ヘキシルグリコール、フェニルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
溶媒を使用する場合、前記樹脂組成物中の樹脂及び海洋生分解性ポリマー化合物の合計の濃度は、0.5~90質量%が好ましく、1~80質量%がより好ましく、5~60質量%が更に好ましく、10~50質量%が最も好ましい。また、前記樹脂に対する海洋生分解性ポリマー化合物の割合は、質量比で、99:1~10:90が好ましく、97:3~40:60がより好ましく、95:5~50:50が更に好ましく、90:10~60:40が最も好ましい。
【0086】
また、本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、溶媒を含まなくてもよい。この場合は、前記樹脂を熱溶融し、そこへ溶融しない海洋生分解性ポリマー化合物を加えて混合してもよく、前記樹脂及び海洋生分解性ポリマー化合物をともに溶融させて混合してもよい。
【0087】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物中、海洋生分解性ポリマー化合物の含有量は、1~50質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましく、5~45質量%がより一層好ましく、7~40質量%が更に好ましく、10~35質量%が最も好ましい。一方、樹脂の含有量は、50~99質量%が好ましく、50~97質量%がより好ましく、55~95質量%がより一層好ましく、60~93質量%が更に好ましく、65~90質量%が最も好ましい。前記範囲で海洋生分解性ポリマー化合物を含むことで生分解性樹脂の物性を維持しつつ、海水中では生分解性の進行を促進させる海洋生分解性促進剤として活用することができる。前記海洋生分解性ポリマー化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、必要に応じて酸化防止剤、離型剤、剥離剤、表面改質剤、疎水化剤、撥水化剤、親水化剤、染顔料、着色剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、硬質化剤、軟質化剤、相溶化剤、難燃剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、フィラー、金属不活性化剤等の添加剤を含んでもよい。これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、0.1~50質量部程度が好ましい。
【0089】
前記海洋生分解性樹脂組成物が溶媒を含むものである場合は、例えば、樹脂、当該海洋生分解性ポリマー化合物及び必要に応じて前記添加剤を、同時に又は任意の順で溶媒に添加し、混合することによって調製することができる。また、前記海洋生分解性樹脂組成物が溶媒を含まないものである場合は、例えば、前記樹脂を溶融させ、そこへ前記海洋生分解性ポリマー化合物及び必要に応じて前記添加剤を同時に又は任意の順で添加し、混合してもよく、前記樹脂及び海洋生分解性ポリマー化合物を加熱してともに溶融させて混合し、必要に応じて前記添加剤を添加して混合してもよい。
【0090】
[成形体]
前記樹脂組成物を用いて成形することで、前記樹脂に海洋生分解性ポリマー化合物が分散又は溶解した成形体を得ることができる。前記樹脂組成物が溶媒を含む場合は、該樹脂組成物をそのまま用いて成形を行えばよく、前記樹脂組成物が溶媒を含まない場合は、該樹脂組成物中の樹脂又は樹脂及び海洋生分解性ポリマー化合物を熱で溶融した後、成形を行えばよい。
【0091】
前記成形体の形状としては、例えば、フィルム状、繊維状、板状、発泡成形体状、その他の用途に応じた形状等が挙げられる。成形方法としては、特に限定されず、従来公知の各種成形方法を用いることができる。その具体例としては、ブロー成形、射出成形、押出成形、圧縮成形、溶融押出成形法、溶液キャスティング成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。
【0092】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、プラスチック成型品の原料として、また、液体、塗膜、フィルム、板材、紙等の成型品への各種添加剤として利用することができる。プラスチック成型品の原料として使用する場合は、フィルム、包装、容器、トレー、ラミネート材、接着剤、被覆材、医療、衣類等の繊維、靴、ベルト、タイヤ、チューブ、衝撃吸収材、釣り糸、漁網等の汎用用途及び海洋用途材料等の原料として用いることができ、特に海洋用途材料等の原料として好適に用いることができる。また、添加剤として使用する場合は、例えば、光散乱剤や光学フィルタ材料、着色剤、化粧品、吸収剤、吸着剤、インク、接着剤、電磁波シールド材、蛍光センサー、生体マーカー、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬、焼成空孔化成形物、アンチブロッキング剤、スクリーン印刷、オフセット印刷、プロセス印刷、グラビア印刷、タンポ印刷、コーター、インクジェット等に用いられる印刷インク用添加剤、マーキングペン用、ボールペン用、万年筆用、筆ペン用、マジック等の筆記具インク用添加剤、クレヨン、絵の具、消しゴム等の文房具類の添加剤、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等に用いられる塗料用添加剤、特に船体塗料等の海洋用途に使用される塗料等の添加剤として広く利用することができる。
【実施例0093】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0094】
なお、下記実施例及び比較例において、金属イオン当量は、対象の物質を硝酸又は王水で加熱、分解し、ICP-MS((株)島津製作所製ICPE-9820)を使用して発光分析法により測定した。また、溶融温度は、示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製DSC6200)を用いて測定した。具体的には、測定試料5mgを精秤し、精秤した測定試料をアルミ製パン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用い、常温常湿下、測定温度範囲20~300℃で温速度10℃/分で昇温を行った。溶融温度は、得られた曲線の吸熱(融解)ピーク点から算出した。
【0095】
[1]海洋生分解ポリマー化合物Aの合成
[実施例1-1]海洋生分解性ポリマー化合物A-1の合成
300mLナスフラスコに1,4-ブタンジオール43.2g及びマレイン酸53.7gを加え、窒素雰囲気下160℃で6時間攪拌した後、3-メルカプトプロピオン酸2.26g、トリエチルアミン1.33g及びアセトニトリル100gを加え、70℃で3時間攪拌することで海洋生分解性ポリマー化合物A-1を得た。
海洋生分解性ポリマー化合物A-1は、1H-NMR測定によって、数平均分子量が2100であり、脂肪族不飽和結合を平均8個有し、酸性基を平均2個有していることを確かめた。
【0096】
[実施例1-2]海洋生分解性ポリマー化合物A-2の合成
300mLナスフラスコに1,4-ブタンジオール41.6g及びマレイン酸ジメチル50.8g、テレフタル酸ジメチル16.8g、チタンテトライソプロポキシド0.96gを加え、窒素雰囲気下160℃で5時間攪拌した後、3-メルカプトプロピオン酸37.1g、アセトニトリル18.2gを加え、130℃で4時間攪拌することで海洋生分解性ポリマー化合物A-2を得た。
海洋生分解性ポリマー化合物A-2は、1H-NMR測定によって、数平均分子量が2000であり、脂肪族不飽和結合を平均3個有し、酸性基を平均4個有していることを確かめた。
【0097】
[実施例1-3]海洋生分解性ポリマー化合物A-3の合成
300mLナスフラスコに1,4-ブタンジオール39.7g、コハク酸25.2g及びマレイン酸25.0gを加え、窒素雰囲気下160℃で6時間攪拌した後、3-メルカプトプロピオン酸25.7g及びアセトニトリル11.4gを加え、130℃で3時間攪拌することで海洋生分解ポリマー化合物A-3を得た。
海洋生分解性ポリマー化合物A-3は、1H-NMR測定によって、数平均分子量が1800であり、脂肪族不飽和結合を平均2個有し、酸性基を平均2個有していることを確かめた。
【0098】
[実施例1-4]海洋生分解性ポリマー化合物A-4の合成
300mLナスフラスコに1,4-ブタンジオール43.5g、マレイン酸52.9g及びフマル酸0.53gを加え、窒素雰囲気下160℃で6時間攪拌した後、5-アミノ吉草酸1.25gを加え、窒素雰囲気下160℃で3時間攪拌することで海洋生分解性ポリマー化合物A-4を得た。
海洋生分解性ポリマー化合物A-4は、1H-NMR測定によって、数平均分子量が1900であり、脂肪族不飽和結合を平均7個有し、酸性基を平均2個有していることを確かめた。
【0099】
[実施例1-5]海洋生分解性ポリマー化合物A-5の合成
500mLナスフラスコに1,4―ブタンジオール46.9g、アジピン酸39.5g及びマレイン酸31.3gを加え、窒素雰囲気下160℃で6時間攪拌した後、マロン酸ジtert-ブチル8.45g、炭酸カリウム4.00g及びアセトニトリル100gを加え、70℃で3時間攪拌した。その後、3N塩酸を174mL加えて1時間攪拌した。続いて、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7にし、酢酸エチルを用いて抽出し減圧乾燥することで海洋生分解性ポリマー化合物A-5を得た。
海洋生分解性ポリマー化合物A-5は、1H-NMR測定によって、数平均分子量が3600であり、脂肪族不飽和結合を平均8個有し、酸性基を平均3個有していることを確かめた。
【0100】
[比較例1-1]
比較用ポリマー化合物AX-1としてポリアクリル酸ナトリウム(重合度2700~7500)(富士フイルム和光純薬(株))を用いた。
【0101】
下記表1に、海洋生分解性ポリマー化合物A-1~A-5及びポリマー化合物AX-1をまとめて示す。
【表1】
【0102】
[2]海洋生分解ポリマー化合物Bの合成
[実施例2-1]海洋生分解性ポリマー化合物B-1の合成
300mLナスフラスコに海洋生分解性ポリマー化合物A-1 60.0g及び10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液21.1gを加えて攪拌したのち、30質量%塩化カルシウム水溶液20.1gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、海洋生分解性ポリマー化合物B-1を得た。海洋生分解性ポリマー化合物B-1の融点は、51℃であった。
【0103】
[実施例2-2]海洋生分解性ポリマー化合物B-2の合成
300mLナスフラスコに海洋生分解性ポリマー化合物A-2 59.8g及び10質量%炭酸水素カリウム水溶液40.8gを加えて攪拌した後、30質量%塩化マグネシウム水溶液39.9gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、海洋生分解性ポリマー化合物B-2を得た。海洋生分解性ポリマー化合物B-2の融点は、107℃であった。
【0104】
[実施例2-3]海洋生分解性ポリマー化合物B-3の合成
300mLナスフラスコに海洋生分解性ポリマー化合物A-3 30.4g及び10質量%炭酸水素カリウム水溶液78.2gを加えて攪拌した後、30質量%塩化カルシウム水溶液25.1gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、海洋生分解性ポリマー化合物B-3を得た。海洋生分解性ポリマー化合物B-3の融点は、95℃であった。
【0105】
[実施例2-4]海洋生分解性ポリマー化合物B-4の合成
300mLナスフラスコに海洋生分解性ポリマー化合物A-4 61.1g及び2.5質量%水酸化ナトリウム水溶液50.0gを加えて攪拌した後、30質量%硫酸アルミニウム水溶液15.2gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、海洋生分解性ポリマー化合物B-4を得た。海洋生分解性ポリマー化合物B-4の融点は、58℃であった。
【0106】
[実施例2-5]海洋生分解性ポリマー化合物B-5の合成
300mLナスフラスコに海洋生分解性ポリマー化合物A-5 60g及び2質量%水酸化ナトリウム水溶液35.1gを加えて攪拌した後、30質量%塩化カルシウム水溶液12.0g、30%塩化マグネシウム水溶液2.6gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、海洋生分解性ポリマー化合物B-5を得た。海洋生分解性ポリマー化合物B-5の融点は、61℃であった。
【0107】
[比較例2-1]イオン架橋ポリマー化合物BX-1の合成
300mLナスフラスコにポリアクリル酸ナトリウム(重合度2500~7500)(富士フイルム和光純薬(株))30.0及びイオン交換水100gを加えて攪拌した後、30質量%塩化カルシウム水溶液35.1gを加え、攪拌した。沈殿物を水洗した後、減圧下で乾燥させることで、イオン架橋ポリマー化合物BX-1を得た。ポリマー化合物BX-1は熱溶融しなかった。
【0108】
下記表2に海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びイオン架橋ポリマー化合物BX-1をまとめて示す。
【表2】
【0109】
[3]化合物及び粉体の生分解性試験
[実施例3-1~3-10、比較例3-1~3-2]
海洋生分解性ポリマー化合物A-1~A-5、海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5、化合物AX-1及びポリマー化合物BX-1について、以下の方法で海水生分解試験を実施した。なお対照材料として、微結晶セルロース(Sigma-Aldrich社製Avicel PH-101)を用い、セルロース相対生分解度で評価した。結果を表3に示す。
【0110】
<試験方法、条件>
生分解度測定方法:閉鎖呼吸計による酸素消費量の測定(ASTM D6691参考)
試験装置 OxiTop IDS(WTW社製)
培養温度 30±1℃、暗所
生分解度(%)=(BODO-BODB)/ThOD×100
BODO:試験又は植種源活性確認の生物化学的酸素要求量(測定値:mg)
BODB:空試験の平均生物化学的酸素要求量(測定値:mg)
ThOD:試験材料又は対照材料が完全に酸化された場合に必要とされる
理論的酸素要求量(計算値:mg)
セルロース相対生分解度(%)=(試験粒子の最大生分解度/最大セルロース生分解度)×100
海水(東京湾[千葉県:千葉港]より採取)]
採取した海水は、10μmのフィルターで異物を除去した後、室温25度でばっ気した。また、無機栄養素として塩化アンモニウムを0.05g/L、リン酸二水素カリウムを0.1g/Lとなるように添加した。
【0111】
【表3】
【0112】
表3に示した結果より、実施例粒子は培養期間60日まででセルロースとほぼ同等の生分解性解性の結果が得られた。
【0113】
[4]海洋生分解性樹脂組成物の作製と海水での確認試験-1
(1)表面変化
[実施例4-1~4-5、比較例4-1~4-2]
生分解性樹脂であるPBSA(三菱ケミカル(株)製FD-92)に、粉砕機(大阪ケミカル(株)製ワンダーブレンダーWB-1)を用いて粉砕し、ステンレス篩(目開き26μm)で分級した海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ濃度が20質量%になるように140℃で混練し、150℃でプレス成型を行い、膜厚200μmのフィルムを作製した(実施例4-1~4-5、比較例4-1)。また、PBSAそのもの(海洋生分解性ポリマー化合物を含まない)を150℃でプレス成型し、膜厚200μmのフィルムを作製した(比較例4-2)。
また、得られたフィルムを10mm角に加工したものを、それぞれイオン交換水200mL及び海水(東京湾[千葉県:千葉港]より採取)200mLに入れ、25℃で7日、30日静置した後、フィルムを取り出し、走査型電子顕微鏡でフィルムの表面及び外観を観察した。結果を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
表4に示した結果より、海水による崩壊と同時に海水中の微生物の存在により、生分解性が促進されているものと考えられる。
【0116】
(2)複合樹脂の重量減少
[実施例5-1~5~5、比較例5-1~5-2]
(1)と同様の方法で、PBSAに海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ添加したフィルム、及びPBSA単体のフィルムを作製した。得られたフィルムを20mm角に加工したものをステンレスネットに挟み込み、15Lの水槽に入れた海水(東京湾[千葉県:千葉港]より採取)に浸して30日後、60日後、90日後の浸漬後の重量減少の経過を観察した。
結果を表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
(3)引張強度測定
[実施例6-1~6~5、比較例6-1]
(1)と同様の方法で、PBSAに海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ濃度が10質量%、20質量%又は30質量%となるように添加したフィルム、及びPBSA単体のフィルムを作製した。JIS K 7139-A22に従って、各種フィルムよりダンベルを作製し、万能試験機((株)エー・アンド・ディ製MCT-2150)を用いて引張応力(降伏点)を測定した。各サンプルにつき5回測定し、その平均値を引張応力とした。結果を表6に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
[5]海洋生分解性樹脂組成物の作製と海水での確認試験-2
(1)表面変化
[実施例7-1~7-5、比較例7-1~7-2]
生分解性樹脂であるデンプン系樹脂(Mater-Bi EF05B、Novamont社製)に、粉砕機(大阪ケミカル(株)製ワンダーブレンダーWB-1)を用いて粉砕し、ステンレス篩(目開き26μm)で分級した海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ濃度が20質量%になるように140℃で混練し、150℃でプレス成型を行い、膜厚200μmのフィルムを作製した(実施例7-1~7-5、比較例7-1)。また、デンプン系樹脂そのもの(粒子群を含まない)を150℃でプレス成型し、膜厚200μmのフィルムを作製した(比較例7-2)。
また、得られたフィルムを10mm角に加工したものを、それぞれイオン交換水200mL及び海水(東京湾[千葉県:千葉港]より採取)200mLに入れ、25℃で7日、30日静置した後、フィルムを取り出し、走査型電子顕微鏡でフィルムの表面及び外観を観察した。結果を表7に示す。
【0121】
【表7】
【0122】
表5に示した結果より、海水による崩壊と同時に海水中の微生物の存在により、生分解性が促進されているものと考えられる。
【0123】
(2)複合樹脂の重量減少
[実施例8-1~8~5、比較例8-1~8-2]
(1)と同様の方法で、デンプン系樹脂に海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ添加したフィルム、及びデンプン系樹脂単体のフィルムを作製した。
得られたフィルムを20mm角に加工したものをステンレスネットに挟み込み、15Lの水槽に入れた海水(東京湾[千葉県:千葉港]より採取)に浸して30日後、60日後、90日後の浸漬後の重量減少の経過を観察した。
結果を表8に示す。
【0124】
【表8】
【0125】
(3)引張強度測定
[実施例9-1~9~5、比較例9-1]
(1)と同様の方法で、デンプン系樹脂に海洋生分解性ポリマー化合物B-1~B-5及びポリマー化合物BX-1をそれぞれ濃度が10質量%、20質量%又は30質量%となるように添加したフィルム、及びデンプン系樹脂単体のフィルムを作製した。
JIS K 7139-A22に従って、各種フィルムよりダンベルを作製し、万能試験機((株)エー・アンド・ディ製MCT-2150)を用いて引張応力(降伏点)を測定した。各サンプルにつき5回測定し、その平均値を引張応力とした。結果を表9に示す。
【0126】
【表9】
【0127】
以上の結果より、本発明の海洋生分解性ポリマー化合物は、海水中では、生分解性樹脂に先行して生分解によって低分子化されたり、塩置換されたりすることで溶解し、又は親水性を示しやすくなる。そのため、土壌やコンポストで生分解性を有する樹脂組成物や海洋での生分解性が弱い樹脂組成物に本発明の海洋生分解性ポリマー化合物からなる海洋生分解促進剤を添加することで、海水中で凹凸化し、微生物の付着を助け、生分解の促進させることが可能となり、結果的に全体の海洋生分解性を向上させるとともに環境負荷を低減させることが可能となる。本発明の海洋生分解性ポリマー化合物からなる海洋生分解促進剤を土壌やコンポストで生分解性を有する樹脂と組み合わせることで、海水生分解性を向上させることができ、また、有機アニオンの構造を適宜変更させることで、溶融温度及び粘度の調製、結晶化度の調整、微生物の付着及び生分解性の調整、樹脂引張強度、曲げ強度、弾性等の物性調整、樹脂と相溶性改善、疎水化度の調整、疎水化の調整、密着性、可塑性の調整等の複数の効果を取り込むことができ、海洋生分解性樹脂組成物の生分解性と物性の両面から改善を図ることができる。