(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170054
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】減圧弁装置、及び、減圧弁装置の通電制御装置
(51)【国際特許分類】
F16K 17/30 20060101AFI20241129BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241129BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20241129BHJP
G05D 16/20 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F16K17/30 A
F02M21/02 301A
F16K31/06 385A
G05D16/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087004
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 守康
(72)【発明者】
【氏名】向 喜央
(72)【発明者】
【氏名】石黒 健次
(72)【発明者】
【氏名】原 由樹
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【テーマコード(参考)】
3H060
3H106
5H316
【Fターム(参考)】
3H060AA02
3H060BB10
3H060CC23
3H060CC27
3H060DC05
3H060DC13
3H060DD17
3H060HH02
3H060HH16
3H106DA04
3H106DA13
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE30
3H106KK13
3H106KK17
5H316AA09
5H316BB05
5H316DD17
5H316EE02
5H316EE08
5H316FF01
5H316HH04
(57)【要約】
【課題】ソレノイドコイルの通電OFF時における弁座部の摩耗を抑制する減圧弁装置を提供する。
【解決手段】弁体付勢部材26は、弁体付勢端部226を弁体20の閉弁方向に付勢する。ピストン付勢部材36は、ピストン付勢端部326を弁体20の開弁方向に付勢する。ロッド付勢部材46は、可動子45に固定されたプッシュロッド41を付勢する。弁体付勢部材26の付勢力、ピストン付勢部材36の付勢力及びロッド付勢部材46の付勢力の合力である付勢部材合力は、弁体20を開弁させる方向に作用する。出口圧室13の気体燃料の圧力がピストン32の大径部322に作用してピストン32を弁体20の閉弁方向に付勢する力を気体作用力と定義する。ソレノイドコイル42に通電される駆動電流に応じて、弁体20の弁座部15からのバルブリフト量を、0より大きく、且つ、全開時に対応するフルリフト量より小さい「中間リフト量」に設定可能である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料を供給元装置(81)から燃料供給通路(83、84)を介して供給先装置(88)に供給する気体燃料供給システム(900)において、前記燃料供給通路の途中に設けられ、気体燃料の圧力を減圧する減圧弁装置であって、
弁座部(15)に着座又は前記弁座部から離間する弁部(21)、及び、前記弁部に対し前記弁座部とは反対側で、外周が気密にシールされつつ前記弁部と一体に軸方向に摺動する摺動部(22)を有する弁体(20)と、
前記弁体の前記弁部とは反対側の端部である弁体付勢端部(226)が収容された背圧室(27)に設けられ、前記弁体付勢端部を前記弁体の閉弁方向に付勢する弁体付勢部材(26)と、
前記弁部及び前記摺動部の周りの空間である流入圧室(12)、前記流入圧室に流入する気体燃料が通る流入通路(11)、前記弁座部に対し前記弁部とは反対側に形成され、前記弁体の開弁時に室間接続孔(14)を経由して前記流入圧室と連通する出口圧室(13)、及び、前記供給先装置に吐出される気体燃料が通る吐出通路(18)、が形成された減圧弁ハウジング(191-193)と、
前記弁体の前記弁部に当接する当接端部(323)、及び、前記出口圧室の気体燃料の圧力を受圧する大径部(322)を有し、外周が気密にシールされつつ軸方向に摺動可能なピストン(32)と、
前記ピストンの前記当接端部とは反対側の端部であるピストン付勢端部(326)を前記弁体の開弁方向に付勢するピストン付勢部材(36)と、
ソレノイド室(47、57)に収容された可動子(45、55)、一端側の外周が前記可動子に固定され、他端が前記ピストン付勢端部又は前記弁体付勢端部に当接するプッシュロッド(41、51)、前記プッシュロッドの一端側から他端側に向けて前記プッシュロッド又は前記可動子を付勢するロッド付勢部材(46、56)、及び、駆動電流の通電により発生する磁気吸引力(Fm1、Fm2)によって前記可動子を移動させるソレノイドコイル(42、52)、を含むソレノイド部(40、50)と、
を備え、
前記背圧室と前記出口圧室とは、前記弁体に形成された弁体連通路(23)、及び、前記ピストンに形成されたピストン連通路(33)を経由して連通し、
前記弁体付勢部材の付勢力(Fv)、前記ピストン付勢部材の付勢力(Fp)及び前記ロッド付勢部材の付勢力(Fr1、Fr2)の合力である付勢部材合力(Fs1、Fs2)は、前記弁体を開弁させる方向に作用し、
前記出口圧室の気体燃料の圧力が前記ピストンの前記大径部に作用して前記ピストンを前記弁体の閉弁方向に付勢する力を気体作用力(Fg)と定義すると、
前記ソレノイドコイルに通電される駆動電流に応じて、前記弁体の前記弁座部からのバルブリフト量を、0より大きく、且つ、全開時に対応するフルリフト量より小さい中間リフト量に設定可能である減圧弁装置。
【請求項2】
前記ソレノイド部(40)は、前記出口圧室に対して前記弁体とは反対側に設けられており、
前記プッシュロッド(41)は前記ピストン付勢端部に当接し、前記ソレノイドコイル(42)の磁気吸引力(Fm1)は、前記可動子、前記プッシュロッド及び前記ピストンを介して前記弁体を開弁させる方向に作用する請求項1に記載の減圧弁装置。
【請求項3】
前記ソレノイド部(50)は、前記背圧室に対して前記弁体とは反対側に設けられており、前記ソレノイド室(57)と前記背圧室とは連通路(29)を経由して連通し、
前記プッシュロッド(51)は前記弁体付勢端部に当接し、前記ソレノイドコイル(52)の磁気吸引力(Fm2)は、前記可動子及び前記プッシュロッドを介して前記弁体を閉弁させる方向に作用する請求項1に記載の減圧弁装置。
【請求項4】
前記ロッド付勢部材のセット高さを当該減圧弁装置の外部から調整して前記ロッド付勢部材の付勢力を調整可能な調整機構(49、59)が設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載の減圧弁装置。
【請求項5】
前記減圧弁ハウジング(193)は、前記ソレノイドコイルの軸方向範囲の少なくとも一部において前記ソレノイドコイルの径方向外側に位置し、前記出口圧室及び前記吐出通路に連通するチャネル(17)が形成されており、
前記出口圧室から流出した気体燃料は、前記チャネルを通って前記吐出通路から吐出される請求項1~3のいずれか一項に記載の減圧弁装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の減圧弁装置に対し、前記ソレノイドコイルに通電する駆動電流を制御する通電制御装置であって、
前記弁体の前記弁座部からのバルブリフト量(Lv)が、前記供給先装置の要求流量と目標圧力とに基づいて決定される、0以上、且つ、全開時に対応するフルリフト量以下の目標値となるように前記駆動電流を制御する減圧弁装置の通電制御装置。
【請求項7】
前記減圧弁装置が吐出する気体燃料の吐出圧を検出する圧力センサ(85)を備えた前記気体燃料供給システムに適用され、
前記圧力センサの検出圧力と目標圧力との差を小さくするように前記駆動電流を制御する請求項6に記載の減圧弁装置の通電制御装置。
【請求項8】
前記供給先装置の要求流量が減少し、目標圧力が単位時間に低下する降圧速度の絶対値が降圧速度閾値以上であるとき、前記減圧弁装置のバルブリフト量の目標値よりも全閉側の値までバルブリフト量を一旦低下させ、
前記圧力センサの検出圧力が、前記目標圧力に対し所定の許容偏差を含むように設定された目標到達判定範囲に入った後、バルブリフト量を目標値まで増加させるように前記駆動電流を制御する請求項7に記載の減圧弁装置の通電制御装置。
【請求項9】
前記供給先装置は、エンジン(90)に連通する吸気管(89)内または筒内に気体燃料を噴射する気体燃料用のインジェクタであり、
前記減圧弁装置のバルブリフト量の目標値は、前記インジェクタの前記要求流量に相当する要求噴射量と、前記減圧弁装置が吐出する気体燃料の吐出圧とに基づいて決定される請求項6に記載の減圧弁装置の通電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧弁装置、及び、減圧弁装置の通電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体燃料を燃料消費器に供給するシステムにおいて、気体燃料を目標圧力に減圧する装置が知られている。例えば特許文献1に開示されたガス用調圧弁は、ソレノイドコイルに電流を流すと、弁体が押圧部材によって押されて開弁し、気体燃料が一次ポート(流入側)から二次ポート(吐出側)に流れる。弁体が弁座部に着座する部分の面積は、弁体の摺動部の断面積と同等に設定されており、圧力制御性が高くなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電子式調圧弁はノーマリークローズ式の弁であり、ソレノイドコイルはPWM制御で通電される。弁体は、ソレノイドコイルの通電ON時に全開(フルリフト)状態となり、通電OFF時にスプリング力によって全閉状態となる。全開と全閉との中間であるハーフリフト状態に弁体をコントロールすることはできない。通電OFFの度に弁体が弁座部に衝突するため、弁座部が摩耗するおそれがある。特に弁座が樹脂製の場合には摩耗が顕著になる。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、ソレノイドコイルの通電OFF時における弁座部の摩耗を抑制する減圧弁装置を提供することにある。また別の目的は、弁座部の摩耗が抑制された減圧弁装置において、ソレノイドコイルの駆動電流を制御して吐出圧を制御可能な減圧弁装置の通電制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による減圧弁装置は、気体燃料を供給元装置(81)から燃料供給通路(83、84)を介して供給先装置(88)に供給する気体燃料供給システム(900)において、燃料供給通路の途中に設けられ、気体燃料の圧力を減圧する。この減圧弁装置は、弁体(20)と、弁体付勢部材(26)と、減圧弁ハウジング(191-193)と、ピストン(32)と、ピストン付勢部材(36)と、ソレノイド部(40、50)とを備える。
【0007】
弁体は、弁座部(15)に着座又は弁座部から離間する弁部(21)、及び、弁部に対し弁座部とは反対側で、外周が気密にシールされつつ弁部と一体に軸方向に摺動する摺動部(22)を有する。弁体付勢部材は、弁体の弁部とは反対側の端部である弁体付勢端部(226)が収容された背圧室(27)に設けられ、弁体付勢端部を弁体の閉弁方向に付勢する。
【0008】
減圧弁ハウジングは、流入圧室(12)、流入通路(11)、出口圧室(13)及び吐出通路(18)が形成されている。流入圧室は、弁部及び摺動部の周りの空間である。流入通路は、流入圧室に流入する気体燃料が通る。出口圧室は、弁座部に対し弁部とは反対側に形成され、弁体の開弁時に室間接続孔(14)を経由して流入圧室と連通する。吐出通路は、供給先装置に吐出される気体燃料が通る。
【0009】
ピストンは、弁体の弁部に当接する当接端部(323)、及び、出口圧室の気体燃料の圧力を受圧する大径部(322)を有し、外周が気密にシールされつつ軸方向に摺動可能である。ピストン付勢部材は、ピストンの弁体当接端とは反対側の端部であるピストン付勢端部(326)を弁体の開弁方向に付勢する。
【0010】
ソレノイド部は、可動子(45、55)、プッシュロッド(41、51)、ロッド付勢部材(46、56)及びソレノイドコイル(42、52)を含む。可動子は、ソレノイド室(47、57)に収容されている。プッシュロッドは、一端側の外周が可動子に固定され、他端がピストン付勢端部又は弁体付勢端部に当接する。ロッド付勢部材は、プッシュロッドの一端側から他端側に向けてプッシュロッド又は可動子を付勢する。ソレノイドコイルは、駆動電流の通電により発生する磁気吸引力(Fm1、Fm2)によって可動子を移動させる。
【0011】
背圧室と出口圧室とは、弁体に形成された弁体連通路(23)、及び、ピストンに形成されたピストン連通路(33)を経由して連通する。
【0012】
弁体付勢部材の付勢力(Fv)、ピストン付勢部材の付勢力(Fp)及びロッド付勢部材の付勢力(Fr1、Fr2)の合力である付勢部材合力(Fs1、Fs2)は、弁体を開弁させる方向に作用する。
【0013】
出口圧室の気体燃料の圧力がピストンの大径部に作用してピストンを弁体の閉弁方向に付勢する力を気体作用力(Fg)と定義する。ソレノイドコイルに通電される駆動電流に応じて、弁体の弁座部からのバルブリフト量を、0より大きく、且つ、全開時に対応するフルリフト量より小さい「中間リフト量」に設定可能である。
【0014】
本発明の減圧弁装置はノーマリーオープン式の構成であり、ソレノイドコイルの通電OFF時に弁体が弁座部に着座しないため、弁座部の摩耗を抑制することができる。また、給先装置の要求に応じて、ソレノイドコイルに通電される駆動電流を制御し中間リフト量を変化させることで、吐出圧を制御することができる。
【0015】
第一の形態の減圧弁装置では、ソレノイド部(40)は、出口圧室に対して弁体とは反対側に設けられている。プッシュロッド(41)はピストン付勢端部に当接する。ソレノイドコイル(42)の磁気吸引力(Fm1)は、可動子及びプッシュロッドを介して弁体を開弁させる方向に作用する。
【0016】
第二の形態の減圧弁装置では、ソレノイド部(50)は、背圧室に対して弁体とは反対側に設けられており、ソレノイド室(57)と背圧室とは連通路(29)を経由して連通する。プッシュロッド(51)は弁体付勢端部に当接する。ソレノイドコイル(52)の磁気吸引力(Fm2)は、可動子及びプッシュロッドを介して弁体を閉弁させる方向に作用する。
【0017】
本発明による減圧弁装置の通電制御装置は、上記の減圧弁装置に対し、ソレノイドコイルに通電する駆動電流を制御する。この通電制御装置は、弁体の開弁時における弁座部からのバルブリフト量が供給先装置の要求流量及び目標圧力に応じて決まる、「0以上、且つ、全開時に対応するフルリフト量以下の目標値」となるように駆動電流を制御する。
【0018】
また、減圧弁装置が吐出する気体燃料の吐出圧を検出する圧力センサ(85)をさらに備えた気体燃料供給システムに適用される場合、減圧弁装置の通電制御装置は、圧力センサの検出圧力と目標圧力との差を小さくするように駆動電流を制御してもよい。
【0019】
例えば供給先装置は、エンジン(90)に連通する吸気管(89)内または筒内に気体燃料を噴射する気体燃料用のインジェクタである。減圧弁装置のバルブリフト量の目標値は、インジェクタの要求流量に相当する要求噴射量と、減圧弁装置が吐出する気体燃料の吐出圧とに基づいて決定される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】各実施形態の減圧弁装置が適用される気体燃料供給システムの構成図。
【
図3】気体燃料用インジェクタの(a)全閉、(b)中間リフト、(c)フルリフト状態を示す先端部拡大模式図。
【
図4】(a)インジェクタ噴射量及び吐出圧と、中間リフト域-フルリフト域との関係を示す図、(b)ニードルリフト量の変化を示す図。
【
図5】インジェクタ噴射量及び吐出圧と、減圧弁装置に要求されるバルブリフト量との関係を示す図。
【
図6】(a)本実施形態による減圧弁装置のバルブリフト量、吐出圧の変化を比較例(中間リフト制御不可)と比較した図、(b)L部及びP部の拡大図。
【
図10】
図9の(a)Xa-Xa線、(b)Xb-Xb線断面図。
【
図11】第1実施形態において弁体に作用する力の関係を示す図。
【
図12】第1実施形態での駆動電流と開弁/閉弁動作との関係を示す図。
【
図14】第2実施形態において弁体に作用する力の関係を示す図。
【
図15】第2実施形態での駆動電流と開弁/閉弁動作との関係を示す図。
【
図16】吐出圧のフィードバック制御を示す概略ブロック図。
【
図17】目標圧力の降圧時における吐出圧の変化を示すタイムチャート。
【
図18】バルブリフト量の制御フローを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
減圧弁装置、及び、減圧弁装置の通電制御装置の実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態による減圧弁装置は、気体燃料を供給元装置から燃料供給通路を介して供給先装置に供給する気体燃料供給システムにおいて、燃料供給通路の途中に設けられ、気体燃料の圧力を減圧する。また、本実施形態による減圧弁装置の通電制御装置は、減圧弁装置に対し、ソレノイドコイルに通電する駆動電流を制御する。
【0022】
減圧弁装置の機械的構成として、本実施形態は第1~第4実施形態を含む。これら複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1実施形態及び第2実施形態が2通りの主要形態であり、第3実施形態及び第4実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態に副次的な構成が追加されたものである。通電制御装置については、第1実施形態及び第2実施形態に対する共通の制御構成を説明する。
【0023】
[気体燃料供給システム]
図1を参照し、気体燃料供給システム900の構成例について説明する。この種の気体燃料供給システムは特開2022-178431号公報等に開示されており、例えば水素や圧縮天然ガスを燃料とする車両に搭載される。気体燃料供給システム900は、「供給元装置」である燃料タンク81に貯留された気体燃料を、燃料供給通路83、84を介して「供給先装置」である気体燃料用インジェクタ88に供給するシステムである。以下、気体燃料用インジェクタ88を省略して「インジェクタ88」と記す。また、
図4、
図5等においてインジェクタを「INJ」と記す。
【0024】
減圧弁装置100は、燃料供給通路83、84の途中に設けられ、気体燃料の圧力を、例えば水素の場合、70MPa程度から1~10MPa程度まで減圧する。燃料供給通路のうち、燃料タンク81から減圧弁装置100までの通路を上流供給通路83とし、減圧弁装置100からインジェクタ88までの通路を下流供給通路84とする。燃料タンク81は、逆流防止機能を有する供給管(図示しない)を通って外部から供給された気体燃料を貯留する。上流供給通路83には、燃料タンク81からの気体燃料の供給又は遮断を切り替える主止弁82が設けられている。主止弁82は、逆流防止機能、過流防止機能、加圧防止安全機能等の機能を有する。
【0025】
減圧弁装置100は、ECU70からの指令に従って弁体を開閉作動することで、上流供給通路83から流入した気体燃料を目標圧力に減圧して吐出する。詳しくは後述するように、本実施形態の減圧弁装置100は、供給先装置であるインジェクタ88の噴射量及び目標圧力に応じて「中間リフト制御可能」である点が特徴である。すなわち本実施形態では、バルブリフト量を、0より大きく、且つ、全開時に対応するフルリフト量より小さい「中間リフト量」に設定可能である。
【0026】
下流供給通路84には、減圧弁装置100が吐出しインジェクタ88に供給される気体燃料の圧力を検出する圧力センサ85が設けられている。ECU70は、圧力センサ85の検出圧力が目標圧力に追従するようにフィードバック制御する。ECU70は、気体燃料の吐出圧の他、気体燃料の温度や車両の走行に関する情報に基づき目標圧力を設定し、目標圧力に応じて減圧弁装置100を作動させる。具体的にECU70は、減圧弁装置100のソレノイドコイルへの通電を制御する「通電制御装置」として機能する。
【0027】
インジェクタ88は、ECU70の指示に応じて、例えばエンジン90に連通する吸気管89内に気体燃料を噴射する。噴射された気体燃料は、大気から導入される空気と混合され、エンジン90の吸気ポートからシリンダ内に導入される。なお、気体燃料は吸気管89内に限らず、筒内に直接噴射されてもよい。
【0028】
図2にインジェクタ88の概略構成を示す。
図2の上側を「上」、下側を「下」として説明する。円筒状のハウジング881の下端に噴孔882が形成されている。ハウジング881の中心軸に沿ってニードル室883が形成されており、ニードル室883の底部には噴孔882に向かってテーパ状に縮径する弁座部884が形成されている。ニードル885は、ニードル室883内を昇降可能に収容され、下降時に先端が弁座部884に当接して噴孔882を閉弁する。
図3(a)に全閉状態の拡大図を示す。
【0029】
ニードル885の上部外周は可動コア886に固定されている。ニードル885は、上端面に当接して設けられた閉弁スプリング887により常時閉弁方向に付勢されている。ECU70からの指令によりソレノイドコイル888に通電されると、磁気吸引力により可動コア886と共にニードル883が上昇し、噴孔882が開弁する。このように、ソレノイドコイル888の通電によってニードル885が直接駆動される。
【0030】
このとき、閉弁スプリング887の付勢力と磁気吸引力及び燃料圧力による力とのバランスにより、ニードルリフト量が変化する。
図3(b)に示す中間リフト状態では、ニードルリフト量Lnは0より大きくフルリフト量FLn未満となる。
図3(c)に示すフルリフト状態では、ニードルリフト量Lnはフルリフト量FLnとなる。
【0031】
図4(a)において、実線は吐出圧が高圧の場合、破線は吐出圧が低圧の場合におけるインジェクタ88の駆動パルス幅と噴射量との関係を示す。屈曲点CPよりも噴射量が大きいフルリフト(FL)域では、駆動パルス幅の変化に対し噴射量が直線状に変化する。一方、屈曲点CPよりも噴射量が小さい中間リフト(HL)域では、駆動パルス幅の変化に対し噴射量が曲線状に変化する。
【0032】
また、
図4(b)にソレノイドコイル888への通電時におけるニードルリフト量Lnの変化を示す。ニードルリフト量Lnの積算値、すなわち曲線より下の面積が噴射量に相当する。フルリフト(FL)域では、通電開始後にニードルリフト量Lnがフルリフト量FLnに到達してから所定期間、フルリフト状態が継続する。一方、中間リフト(HL)域では通電開始後にニードルリフト量Lnが0から増加して開弁するが、フルリフト量FLnまで到達せずに閉弁状態に戻る。中間リフト域では噴射量精度が悪いため、噴射量精度が確保しやすいフルリフト域でインジェクタ88を動作させることが求められる。
【0033】
図4(a)において、インジェクタ使用範囲での噴射量は最小値Qminから最大値Qmaxまでの範囲である。内燃機関に適用される場合、例えば燃料電池に用いられる場合よりも運転条件に応じたダイナミックレンジが大きい。吐出圧が低圧の場合、屈曲点CP(B)が高圧の場合の屈曲点CP(A)に比べて小噴射量側にあり、使用範囲の噴射量を全てフルリフト域でカバーできる。そこで、エンジン90の運転状態(要求噴射量)に応じて減圧弁装置100の吐出圧を制御することで、具体的には小噴射量での運転時には減圧弁装置100の吐出圧を低圧に制御することで、中間リフト域でのインジェクタ88の運転を回避し、幅広い運転領域に対応することができる。
【0034】
つまり
図5に示すように、減圧弁装置100のバルブリフト量Lvは、供給先のインジェクタ噴射量及び吐出圧(目標圧力)に応じて決定される。インジェクタ噴射量が大きいほど、また吐出圧が高いほど、減圧弁装置100のバルブリフト量Lvはフルリフト量FLvに近い値に設定される。逆にインジェクタ噴射量が小さいほど、また吐出圧が低いほど、減圧弁装置100のバルブリフト量Lvは0に近い値に設定される。
【0035】
次に
図6を参照し、本実施形態の減圧弁装置100が中間リフト制御可能であることの意義について、特許文献1(国際公開第2012/017667号)の調圧弁のように、中間リフト制御が不可である比較例と対比しつつ説明する。
図6(a)において、実線は本実施形態、破線は比較例のバルブリフト量Lv及び吐出圧の変化を示す。
図6(b)には、
図6(a)のL部及びP部の縦軸スケールを拡大した図を示す。インジェクタ噴射量が小さく、目標圧力が低圧であり、平均バルブリフト量が全閉に近い条件を想定する。
【0036】
比較例の減圧弁装置は、ソレノイドコイルに通電すると弁体が全開し、ソレノイドコイルへの通電を停止すると弁体が全閉する。弁体が全開したとき吐出圧は目標圧力まで上昇し、インジェクタ噴射の度に低下する。通電OFFの度に弁体が弁座部に衝突するため、弁座部が摩耗するおそれがある。
【0037】
それに対し本実施形態の減圧弁装置100は、平均バルブリフト量に近い中間リフト量で開弁し続ける。厳密には、インジェクタ噴射の度に吐出圧が目標圧力から瞬時減圧することに伴ってバルブリフト量Lvは僅かに増加するが、次のインジェクタ噴射までに回復する。したがって本実施形態では、弁座部を摩耗から保護するとともに吐出圧が安定し、吐出圧精度が向上する。なお、吐出圧を制御できないソレノイド無しの減圧弁装置と比較した場合、吐出圧を制御可能な本実施形態の減圧弁装置100は明らかに優位である。
【0038】
このように本実施形態では、ソレノイドコイルの通電OFFによる弁座部の摩耗を抑制する減圧弁装置100を提供する。続いて減圧弁装置100の詳細な構成について実施形態毎に説明する。第1、第2実施形態の減圧弁装置、減圧弁ハウジング等の符号は、それぞれ「10」、「19」等の2桁数字に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
【0039】
(第1実施形態)
図7~
図12を参照し、第1実施形態の減圧弁装置101について説明する。以下の実施形態の説明において、便宜上、断面図の上側を「上」と表し、断面図の下側を「下」と表す。
図7に減圧弁装置101の全体の断面を示し、
図8及び
図9に弁部21の付近を拡大して示す。弁部21の端面にはピストン32の当接端部323が常時当接する。
【0040】
図8及び
図9に示すように、弁体20は、付勢部材合力Fs1と気体作用力(気体燃料の圧力による力)Fgと磁気吸引力Fm1(
図11参照)とのバランスに応じて、図の上下方向に移動する。それぞれの力について詳しくは後述する。
図8に示す開弁時には、ピストン32に押し下げられて弁体20が下降し、弁部21が弁座部15から離間する。
図9に示す閉弁時には、気体作用力Fgにより弁体20が上昇し、弁部21が弁座部15に着座する。
【0041】
図7には、非動作状態、すなわち、燃料タンク81から減圧弁装置101に気体燃料が供給されておらず、且つ、ソレノイドコイル42に通電されていない状態を示す。このとき、気体作用力Fg及び磁気吸引力Fm1は0であり、三つの付勢部材26、36、46の付勢力の合力である付勢部材合力Fs1により弁体20は開弁する。つまり減圧弁装置101は、ノーマリーオープン式の構成である。
【0042】
減圧弁装置101は、減圧弁ハウジング191に気体燃料が通る通路や室(空間)が形成され、弁機構部201及びソレノイド部40が構築されている。減圧弁ハウジング191は、流入通路11、流入圧室12、出口圧室13、室間接続孔14、弁座部15、吐出通路18等が形成されている。流入通路11及び吐出通路18は、減圧弁ハウジング191に直接形成された部分と、減圧弁ハウジング191に取り付けられたカプラの内部通路とを含む。
【0043】
流入通路11は、上流供給通路83から流入圧室12に流入する気体燃料が通る通路である。流入圧室12は、弁部21及び摺動部22の周りの空間である。出口圧室13は、弁座部15に対し弁部21とは反対側において、ピストンガイド部材31との間に形成される。出口圧室13は、弁体21の開弁時に室間接続孔14を経由して流入圧室12と連通する。
【0044】
室間接続孔14は、弁体20の軸方向に沿って流入圧室12と出口圧室13とを接続する。室間接続孔14の流入圧室12側の角部に弁座部15が形成されている。吐出通路18は、下流供給通路84を経由してインジェクタ88に吐出される気体燃料が通る通路である。
【0045】
弁体20は、棒状の摺動部22、及び、摺動部22の上端に設けられた弁部21を有する。弁部21は、弁座部15に着座して閉弁し、又は弁座部15から離間して開弁する。摺動部22は、弁部21に対し弁座部15とは反対側で、外周が気密にシールされつつ弁部21と一体に軸方向に摺動する。弁体20の摺動部22には弁体連通路23が形成されている。弁体連通路23は軸方向に延びる縦通路237と、縦通路237と交差し背圧室27に連通する横通路238とを含む。
【0046】
弁機構部201は、弁体摺動部ガイド部材24、摺動シール25、弁体付勢部材26、背圧室形成部材281を含む。弁体摺動部ガイド部材24は、摺動部22が摺動する摺動孔を形成する。摺動シール25は、弁体摺動部ガイド部材24に装着され、摺動部22の外周を気密にシールする。
【0047】
背圧室形成部材281は、内側に背圧室27を形成する。背圧室27には、弁体20の弁部21とは反対側の端部である弁体付勢端部226が収容されている。コイルスプリング等で構成された弁体付勢部材26は、背圧室27に設けられ、弁体付勢端部226を弁体20の閉弁方向に付勢する。
図11では、弁体付勢部材26の付勢力をFvと表す。
【0048】
背圧室27と流入圧室12とは、摺動シール25により摺動部22の外周において気密にシールされる。また、背圧室27と出口圧室13とは、弁体20に形成された弁体連通路23及びピストン32に形成されたピストン連通路33を経由して連通する。
図10に示すように、弁体20の軸方向に投影した弁部21と弁座部15とのシート径より内周側の面積A1と、摺動部22の断面積A2とは同等に設定されている。これにより、流入圧室12に流入する気体燃料によって弁体20に作用する軸方向の力をキャンセルすることができる。
【0049】
図8及び
図9に示すように、ピストン32は、小径部321と大径部322とを含む段付き円筒状に形成されている。小径部321は室間接続孔14に挿通されている。小径部321の先端は、弁体20の弁部21に当接する当接端部323をなす。小径部321に接続する大径部322の端面は段部324をなす。出口圧室13の気体燃料の圧力がピストン32の大径部322に作用してピストン32を弁体20の閉弁方向に付勢する力を気体作用力Fgと定義する。つまり、出口圧室13の圧力から大気圧を差し引いた差圧と大径部322の受圧面積との積が気体作用力Fgである。
【0050】
小径部321にはピストン連通路33が形成されている。ピストン連通路33は軸方向に貫通する縦通路337と、縦通路337と交差し出口圧室13に連通する横通路338とを含む。ピストン32の当接端部323が弁部21に当接した状態で、ピストン連通路33の縦通路337と弁体20の縦通路237とが一直線上に連なる。
【0051】
ピストンガイド部材31は、減圧弁ハウジング191との間に出口圧室13を形成し、大径部322の摺動をガイドする。摺動シール35はピストンガイド部材31に装着され、大径部322の外周を気密にシールする。このようにピストン32は、当接端部323及び大径部322を有し、外周が気密にシールされつつ軸方向に摺動可能である。
【0052】
ピストンハウジング34は、ピストンガイド部材31のソレノイドコイル42側に設けられ、内側にピストン付勢室37を形成する。ピストン付勢室37には、ピストン32の当接端部323とは反対側の端部であるピストン付勢端部326が収容されている。コイルスプリング等で構成されたピストン付勢部材36は、ピストン付勢室37に設けられ、ピストン付勢端部326を弁体20の開弁方向に付勢する。
図11では、ピストン付勢部材36の付勢力をFpと表す。
【0053】
第1実施形態のソレノイド部40は、出口圧室13に対して弁体20とは反対側に設けられている。ソレノイド部40は、ソレノイドコイル42、可動子ケース44、可動子45、ロッド付勢部材46、プッシュロッド41等を含む。ソレノイドコイル42は、駆動電流の通電により発生する磁気吸引力Fm1(
図11参照)によって、可動子45をピストンハウジング34に対して移動させる。第1実施形態では、ピストンハウジング34が可動子吸引部の機能を有し、磁気吸引力Fm1は弁体20の開弁方向に作用する。
【0054】
ピストンハウジング34、可動子ケース44、可動子45、及びソレノイドコイル42の外側の部材は、鉄等の軟磁性材料で形成されており、ソレノイドコイル42の通電時に磁気回路を形成する。ピストンハウジング34と可動子ケース44との間には、磁気回路を遮断する非磁性部43が設けられている。可動子ケース44は内側にソレノイド室47を有し、可動子45はソレノイド室47に収容されている。
【0055】
プッシュロッド41は、一端側の外周が可動子45に固定され、他端がピストン付勢端部326に当接する。コイルスプリング等で構成されたロッド付勢部材46は、ソレノイド室47に設けられ、プッシュロッド41の一端側から他端側(すなわち図の上側から下側)に向けてプッシュロッド41を付勢する。或いはロッド付勢部材46は、プッシュロッド41が固定された可動子45を付勢してもよい。
図11では、ロッド付勢部材46の付勢力をFr1と表す。
【0056】
図11、
図12を参照し、第1実施形態の減圧弁装置101において弁体20に作用する力の関係を説明する。第1実施形態の減圧弁装置101では、弁体付勢部材26の付勢力Fv、ピストン付勢部材36の付勢力Fp、及び、ロッド付勢部材36の付勢力Fr1の合力が付勢部材合力Fs1と定義される。各付勢力Fv、Fp、Fr1の向きは
図11中の矢印で示される。各付勢力Fv、Fp、Fr1の値は正の値であり、「Fp+Fr1>Fv」となるように設定される。開弁方向の付勢部材合力Fs1は下式で表される。
Fs1=(Fp+Fr1)-Fv>0
【0057】
減圧弁装置101の非動作状態では気体作用力Fg及び磁気吸引力Fm1は0であるため、開弁方向の付勢部材合力Fs1により弁体20はフルリフト(FL)まで開弁する。燃料タンク81から供給された気体燃料が開弁時に流入圧室12から出口圧室13に導入されると、大径部322に作用する気体作用力Fgがピストン32を押し上げ、弁体20は閉弁方向に付勢される。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs1より小さい範囲では、気体作用力Fgが大きくなるにつれて、中間リフト(HL)のバルブリフト量が漸減する。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs1を上回ると、弁体20は閉弁する。
【0058】
ソレノイドコイル42の通電時、ソレノイドコイル42の磁気吸引力Fm1は、可動子45、プッシュロッド41及びピストン32を介して弁体を開弁させる方向に作用する。弁体20は、開弁方向の力(Fs1+Fm1)と閉弁方向の力(Fg)とが釣り合った位置で止まる。磁気吸引力Fm1が大きくなるほど、開閉の閾値となる気体作用力Fgが大きくなる。ソレノイドコイル42に通電する駆動電流により磁気吸引力Fm1を調整することで、弁体20の弁座部15からのバルブリフト量Lvは、0以上フルリフト量FLv以下の目標値に設定可能となり、吐出圧を制御可能となる。したがって、燃料タンク81の残量によって変化する供給圧によらず、吐出圧を一定圧に制御可能となる。また、機関の運転状態に応じた吐出圧の制御も可能となる。
【0059】
図12に示すように、磁気吸引力Fm1は駆動電流に略比例して増加する。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs1より大きいことを前提として、弁体20は、駆動電流が全開臨界値Io1以上のとき全開し、駆動電流が全閉臨界値Ic1(<Io1)以下のとき全閉する。駆動電流が全閉臨界値Ic1から全開臨界値Io1までの間では、駆動電流に応じてバルブリフト量Lvが徐変する。
【0060】
ECU70は、供給先のインジェクタ噴射量及び吐出圧(目標圧力)に応じて減圧弁装置101のバルブリフト量Lvの目標値を決定する(
図5参照)。そしてECU70は、バルブリフト量Lvの目標値に基づき駆動電流指令値I
*を演算し、ソレノイドコイル42に通電する。また、後述するアンダーシュート制御において弁体20を一時閉弁させる場合、ECU70は、駆動電流指令値I
*を全閉臨界値Ic1以下の値に設定する。
【0061】
(第2実施形態)
図13~
図15を参照し、第2実施形態の減圧弁装置102について、主に第1実施形態の減圧弁装置101と異なる点を説明する。第2実施形態の減圧弁装置102は、ソレノイド部50が設けられる位置や、プッシュロッド51が当接する部材が第1実施形態の減圧弁装置101と異なる。
図13、
図14、
図15は、それぞれ第1実施形態の
図7、
図11、
図12に対応する。第1実施形態との構成の違いが影響するロッド付勢力Fr2、付勢部材合力Fs2、磁気吸引力Fm2について、記号末尾を「2」と記す。
【0062】
ピストン32の周辺構成について、ピストンハウジング38の内側にピストン付勢室37が形成されることや、ピストン付勢室37に収容されたピストン付勢部材36がピストン付勢端部326を弁体20の開弁方向に付勢することは、第1実施形態と同じである。しかし、ピストンハウジング38に対しピストンガイド部材31とは反対側にソレノイド部は設けられず、ピストン付勢室37にプッシュロッド41も設けられていない。また、ピストンハウジング38に設けられた調整ネジ39を回すことにより、ピストン付勢部材36のセット高さを調整して付勢力Fpを調整可能である。
【0063】
第2実施形態の弁機構部202において、背圧室形成部材282は内側に背圧室27を形成する。第2実施形態のソレノイド部50は、背圧室27に対して弁体20とは反対側に設けられている。ソレノイド部50は、ソレノイドコイル52、可動子ケース54、可動子55、ロッド付勢部材56、プッシュロッド51等を含む。ソレノイドコイル52は、駆動電流の通電により発生する磁気吸引力Fm2(
図14参照)によって、可動子55を背圧室形成部材282に対して移動させる。第2実施形態では、背圧室形成部材282が可動子吸引部の機能を有し、磁気吸引力Fm2は弁体20の閉弁方向に作用する。
【0064】
背圧室形成部材282、可動子ケース54、可動子55、及びソレノイドコイル52の外側の部材は、鉄等の軟磁性材料で形成されており、ソレノイドコイル52の通電時に磁気回路を形成する。背圧室形成部材282と可動子ケース54との間には、磁気回路を遮断する非磁性部53が設けられている。可動子ケース54は内側にソレノイド室57を有し、可動子55はソレノイド室57に収容されている。ソレノイド室57と背圧室27とは連通路29を経由して連通する。
【0065】
プッシュロッド51は、一端側の外周が可動子55に固定され、他端が弁体付勢端部226に当接する。コイルスプリング等で構成されたロッド付勢部材56は、ソレノイド室57に設けられ、プッシュロッド51の一端側から他端側(すなわち図の下側から上側)に向けて可動子55を付勢する。或いはロッド付勢部材56は、可動子55に固定されたプッシュロッド51を付勢してもよい。
図14では、ロッド付勢部材56の付勢力をFr2と表す。
【0066】
図14、
図15を参照し、第2実施形態の減圧弁装置102において弁体20に作用する力の関係を説明する。第2実施形態の減圧弁装置102では、弁体付勢部材26の付勢力Fv、ピストン付勢部材36の付勢力Fp、及び、ロッド付勢部材56の付勢力Fr2の合力が付勢部材合力Fs2と定義される。各付勢力Fv、Fp、Fr2の向きは
図14中の矢印で示される。各付勢力Fv、Fp、Fr2の値は正の値であり、「Fp>Fv+Fr2」となるように設定される。開弁方向の付勢部材合力Fs1は下式で表される。
Fs2=Fp-(Fv+Fr2)>0
【0067】
減圧弁装置102の非動作状態では気体作用力Fg及び磁気吸引力Fm2は0であるため、開弁方向の付勢部材合力Fs2により弁体20はフルリフト(FL)まで開弁する。燃料タンク81から供給された気体燃料が開弁時に流入圧室12から出口圧室13に導入されると、大径部322に作用する気体作用力Fgがピストン32を押し上げ、弁体20は閉弁方向に付勢される。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs2より小さい範囲では、気体作用力Fgが大きくなるにつれて、中間リフト(HL)のバルブリフト量が漸減する。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs2を上回ると、弁体20は閉弁する。
【0068】
ソレノイドコイル52の通電時、ソレノイドコイル52の磁気吸引力Fm2は、可動子55及びプッシュロッド51を介して弁体を閉弁させる方向に作用する。弁体20は、開弁方向の力(Fs2)と閉弁方向の力(Fg+Fm2)とが釣り合った位置で止まる。磁気吸引力Fm2が大きくなるほど、開閉の閾値となる気体作用力Fgが小さくなる。ソレノイドコイル52に通電する駆動電流により磁気吸引力Fm2を調整することで、弁体20の弁座部15からのバルブリフト量Lvは、0以上フルリフト量FLv以下の目標値に設定可能となり、吐出圧を制御可能となる。したがって、燃料タンク81の残量によって変化する供給圧によらず、吐出圧を一定圧に制御可能となる。また、機関の運転状態に応じた吐出圧の制御も可能となる。
【0069】
図15に示すように、磁気吸引力Fm2は駆動電流に略比例して増加する。気体作用力Fgが付勢部材合力Fs2より小さいことを前提として、弁体20は、駆動電流が全開臨界値Io2以下のとき全開し、駆動電流が全閉臨界値Ic2(>Io2)以上のとき全閉する。駆動電流が全開臨界値Io2から全閉臨界値Ic2までの間では、駆動電流に応じてバルブリフト量Lvが徐変する。
【0070】
ECU70は、供給先のインジェクタ噴射量及び吐出圧(目標圧力)に応じて減圧弁装置102のバルブリフト量Lvの目標値を決定する(
図5参照)。そしてECU70は、バルブリフト量Lvの目標値に基づき駆動電流指令値I
*を演算し、ソレノイドコイル52に通電する。また、後述するアンダーシュート制御において弁体20を一時閉弁させる場合、ECU70は、駆動電流指令値I
*を全閉臨界値Ic2以上の値に設定する。
【0071】
[通電制御装置]
次に
図16~
図18を参照し、減圧弁装置に対し、ソレノイドコイルに通電する駆動電流を制御するECU(通電制御装置)70の制御構成について説明する。この部分の説明では、減圧弁装置の符号として、各実施形態の減圧弁装置101-104を包括する符号「100」を用いる。
【0072】
図1を参照して上述した通り、本実施形態のECU70は、減圧弁装置100が吐出する気体燃料の吐出圧を検出する圧力センサ85を備えた気体燃料供給システム900に適用される。
図16に示すようにECU70は、吐出圧のフィードバック制御により、圧力センサ85の検出圧力と目標圧力との差を小さくするように駆動電流を制御する。
【0073】
具体的には、ECU70は、検出圧力と目標圧力との差に応じて駆動電流指令値I
*を演算し、減圧弁装置100のソレノイドコイル42、52に通電する。ソレノイドコイル42、52に発生した磁気吸引力Fm1、Fm2及び気体作用力Fg(
図16では省略)に応じて弁体20のバルブリフト量Lvが決定される。減圧弁装置100が吐出する気体燃料の吐出圧は圧力センサ85により検出され、検出圧力がECU70にフィードバックされる。
【0074】
図2~
図6を参照して上述した通り、減圧弁装置100のバルブリフト量Lvの目標値は、供給先装置であるインジェクタ88の要求噴射量と、減圧弁装置100が吐出する気体燃料の吐出圧とに基づいて決定される。バルブリフト量Lvの目標値は0以上、且つ、全開時に対応するフルリフト量以下の値である。ECU70は、バルブリフト量Lvが目標値となるように駆動電流を制御する。
【0075】
図17のタイムチャートを参照する。例えば気体燃料供給システム900が設けられた機関の過渡運転時に、供給先装置であるインジェクタ88の要求噴射量が急激に減少し、目標圧力が相対的に高い値から低い値に急低下するように変更された状況を想定する。具体的には、目標圧力が単位時間に低下する降圧速度の絶対値が降圧速度閾値以上であるとき、「目標圧力が急低下するように変更された」と判断される。この状況において、比較例の通常制御と、提案技術である「アンダーシュート制御」とが対比される。比較例の通常制御では、変更後の目標圧力に対応するバルブリフト量Lvの目標値に対し、バルブリフト量Lvが直線的に近づくように制御される。
【0076】
インジェクタ88の要求噴射量が急激に減少すると、ニードルリフト量Ln(
図3、
図4参照)が低下する。減圧弁装置100から下流供給通路84に吐出された気体燃料は、インジェクタ88からの噴射以外に消費される手段が無い。インジェクタ88の噴射量が急減したとき、通常制御の目標値によっては減圧弁装置100から供給される気体燃料が消費量を上回ることとなる。その場合、下流供給通路84の吐出圧が[*]印で示すように一時的に上昇し、その後、変更後目標圧力に徐々に近づいていく。したがって、時刻t1に目標圧力が変更された後、時刻t3に吐出圧が変更後目標圧力に到達する。
【0077】
これに対し、一時的な吐出圧上昇を抑制するための提案技術がアンダーシュート制御である。アンダーシュート制御では、目標圧力が変更された時刻t1に、一旦バルブリフト量Lvを0、すなわち全閉状態にする。減圧弁装置100から下流供給通路84への気体燃料の吐出が停止されるため、一時的な吐出圧上昇が抑制される。通常制御に比べて一時上昇しない分、吐出圧は変更後目標圧力に早く近づく。
【0078】
時刻t2に、圧力センサ85による検出圧力が、変更後目標圧力に対し所定の許容偏差を含むように設定された目標到達判定範囲に入る。その後、ECU70は、バルブリフト量Lvを目標値まで増加させるように駆動電流を制御する。このように、バルブリフト量Lvを目標値に対し一旦0まで過剰に低下させた後に目標値に戻すように制御するため、「アンダーシュート制御」と呼ぶ。
【0079】
ECU70は、目標圧力が急低下するように変更されたと判断したとき、アンダーシュート制御を実施することで、一時的な吐出圧上昇を抑制し、通常制御に比べ、吐出圧が変更後目標圧力に到達するまでの時間を短縮することができる。一方、目標圧力の低下が比較的緩やかであり、減圧弁装置100から供給される気体燃料が消費量以下である場合、一時的な吐出圧上昇は発生しないため、アンダーシュート制御は実施されなくてもよい。むしろ、弁体20を全閉させることによる弁座部15の摩耗を回避する観点から、一時的な吐出圧上昇が発生しない状況では通常制御が実施されることが好ましい。
【0080】
また、アンダーシュート制御において、弁体20を一旦全閉状態にするのでなく、バルブリフト量Lvの目標値よりも全閉側の値までバルブリフト量Lvを一旦低下させるようにしてもよい。弁体20を一旦全閉させる場合に比べると効果は低減するが、減圧弁装置100からの気体燃料の供給量を減らすことで、一時的な吐出圧上昇を可及的に抑制することができる。また、弁体20を全閉させないため、弁座部15の摩耗を回避する観点から有効である。
【0081】
図18のフローチャートにECU70によるバルブリフト量Lvの制御フローを示す。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。ECU70は、S1で目標圧力を算出し、S2で圧力センサ85から検出圧力を取得し、S3で検出圧力を目標圧力に近づけるように、減圧弁装置100の駆動電流を制御する。
【0082】
S4では、インジェクタ88の要求噴射量が減少し、目標圧力の降圧速度の絶対値が降圧速度閾値以上であるか判断される。S4でYESの場合、S5でECU70は、バルブリフト量Lvを0とするように、すなわち弁体20を全閉させるように駆動電流を制御する。このとき、第1実施形態では
図12における「I
*≦Ic1」、第2実施形態では
図15における「Ic2≦I
*」となるように、駆動電流指令値I
*が演算される。
【0083】
続いてS6では、検出圧力が目標到達判定範囲に入ったか判断される。S6は、YESと判定されるまで繰り返され、YESと判定されるとS7に移行する。S6でYES、又は、S2でNOの場合、S7でECU70は、バルブリフト量Lvを目標値とするように、駆動電流を制御する。このとき、第1実施形態では
図12における「Ic1<I
*<Io1」、第2実施形態では
図15における「Io2<I
*<Ic2」となるように、駆動電流指令値I
*が演算される。
【0084】
以上のように本実施形態では、中間リフト制御可能な構成の減圧弁装置100に対し、ECU70が吐出圧のフィードバック制御を行う。目標圧力が一定であってもインジェクタ88からの噴射量が変わると燃料供給通路各部の圧力損失が流量によって変化するため、吐出圧を目標圧力に制御するためにはバルブリフト量Lvの微妙な調整が必要となる。圧力センサ85の検出圧力をフィードバック制御することで、インジェクタ噴射量に関わらず吐出圧の制御精度を向上することができる。
【0085】
また、供給先装置であるインジェクタ88の圧力を下げるには、インジェクタ88から燃料を噴射する必要があるが、機関の過渡運転時に吐出圧の目標圧力が現在の圧力よりも低下する場合、一時的な吐出圧上昇が発生し、圧力の追従性が悪化する。特にソレノイド等のアクチュエータを使わず、ピストンやバルブの受圧力と弾性部材の付勢力とで吐出圧を制御する減圧弁装置では、弁体のバルブリフト量が徐々に低下して目標圧力に追従していく。
【0086】
それに対し本実施形態では、ECU70は、目標圧力が急低下するように変更されたと判断したとき、一旦弁体20を全閉させる、或いは、バルブリフト量Lvの目標値よりも全閉側の値までバルブリフト量Lvを一旦低下させるように駆動電流を制御する。ソレノイドコイル42、52を用いてバルブリフト量Lvを調整することにより、特に目標圧力が急に低下する過渡的な運転条件時に目標圧力への追従性を向上させることができる。
【0087】
(第3実施形態)
図19を参照し、第1実施形態の減圧弁装置101に副次的な構成が二点追加された第3実施形態の減圧弁装置103について説明する。一点目に減圧弁装置103は、可動子ケース48の天井部に、「ロッド付勢部材46のセット高さを当該減圧弁装置103の外部から調整してロッド付勢部材46の付勢力Fr1を調整可能な調整機構」としての調整ネジ49が設けられている。調整ネジ49によりロッド付勢部材46の付勢力Fr1を調整することにより、付勢部材合力Fs1を調整し、吐出圧制御範囲の上下限の調整を容易に行うことができる。
【0088】
二点目に減圧弁装置103は、ソレノイドコイル34の軸方向範囲の少なくとも一部においてソレノイドコイル34の径方向外側に位置し、出口圧室13及び吐出通路18に連通するチャネル17が形成されている。
図19に示す例では、チャネル17は、ピストンガイド部材31、ピストンハウジング34及びソレノイドコイル42の下部にわたって、外周部を環状に囲むように形成されている。ピストンガイド部材31と減圧弁ハウジング193とが当接する座面には、出口圧室13とチャネル17とを径方向に接続する連通溝16が周方向の複数箇所に形成されている。吐出通路18はチャネル17の上部に接続するように配置されている。
【0089】
出口圧室13から流出した気体燃料は、チャネル17を通って吐出通路18から吐出される。これにより、吐出される気体燃料を用いて、ソレノイドコイル42への通電による発熱を冷却することができる、よって、ソレノイドコイル42の発熱を抑制し、発熱による焼損を防止することができる。
【0090】
(第4実施形態)
図20に示す第4実施形態の減圧弁装置104は、第2実施形態の減圧弁装置102に対し、第3実施形態の一点目の副次的構成と同様に「調整機構」としての調整ネジ59が可動子ケース58の天井部に設けられている。調整ネジ59を回すことで、ロッド付勢部材56のセット高さを当該減圧弁装置104の外部から調整してロッド付勢部材56の付勢力Fr2を調整可能である。第4実施形態では、ピストン付勢部材36の付勢力Fpを調整可能な調整ネジ39と、ロッド付勢部材56の付勢力Fr2を調整可能な調整ネジ59との両方を用いて付勢部材合力Fs2を調整し、吐出圧制御範囲の上下限の調整を容易に行うことができる。或いは、第4実施形態において調整ネジ39を無くしてもよい。
【0091】
(その他の実施形態)
(a)気体燃料供給システムにおける「供給元装置」は外部から供給された気体燃料を貯留する燃料タンク81に限らず、それ自体が気体燃料を生成して送出可能な装置であってもよい。「供給先装置」は気体燃料用インジェクタ88に限らず、気体燃料を消費する消費器であればよい。減圧弁装置100のバルブリフト量Lvの目標値を決めるパラメータである「インジェクタの要求噴射量」は、一般に「供給先装置の要求流量」と言い換えられる。
【0092】
(b)弁体付勢部材26、ピストン付勢部材36及びロッド付勢部材46、56は、コイルスプリングに限らず、弾性により生成した付勢力を当接した対象要素に付与する部材であればよい。各付勢部材26、36、46、56を保持する機械的な構成は各実施形態で図示された構成に限らず、所望の機能が実現される構成であればよい。また、弁体20、ピストン32、プッシュロッド41、51の分割面の位置は、上記実施形態に例示した位置に限らず、所望の機能が実現されるように構成されればよい。
【0093】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0094】
100(101-104)・・・減圧弁装置、
11:流入通路、 12:流入圧室、 13:出口圧室、
14:室間接続孔、 15:弁座部、 18:吐出通路、
191-193:減圧弁ハウジング、
20:弁体、 21:弁部、 22:摺動部、 226:弁体付勢端部、
23:弁体連通路、 26:弁体付勢部材、 27:背圧室、
32:ピストン、 322:大径部、 323:当接端部、
326:ピストン付勢端部、 33:ピストン連通路、 36:ピストン付勢部材、
40、50:ソレノイド部、
41、51:プッシュロッド、 42、52:ソレノイドコイル、
45、55:可動子、 46、56:ロッド付勢部材、 47、57:ソレノイド室、
70:ECU(通電制御装置)、 81:燃料タンク(供給元装置)、
83:上流供給通路(燃料供給通路)、 84:下流供給通路(燃料供給通路)、
88:気体燃料用インジェクタ(供給先装置)、 900:気体燃料供給システム。