(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170071
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】検査装置、およびパラメータ設定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20241129BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20241129BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01L21/66 B
H01L21/68 K
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087031
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】河西 繁
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 優輝
【テーマコード(参考)】
4M106
5F131
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106BA01
4M106DD03
4M106DD10
4M106DD12
4M106DD18
4M106DD23
4M106DH46
4M106DJ05
4M106DJ20
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA04
5F131BA39
5F131CA31
5F131CA45
5F131DA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA02
5F131EA22
5F131EA23
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5F131EB01
5F131EB31
5F131EB81
5F131EB82
5F131GA14
5F131KA22
5F131KA23
5F131KA27
5F131KA28
5F131KA40
(57)【要約】
【課題】基台を上昇させる際のパラメータを精度よく設定できる技術を提供する。
【解決手段】検査装置は、基板を載置するための基台と、前記基台を昇降させる昇降機構と、昇降した前記基板に接触して当該基板の検査を行う検査部と、前記昇降機構を制御する制御部と、を有する。前記制御部は、前記昇降機構の上昇時のパラメータを設定する機能を有する。前記パラメータの設定では、前記検査部が前記基板に接触するコンタクト位置において前記昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う前記昇降機構の動特性を取得し、取得した前記昇降機構の動特性に基づいて前記パラメータを設定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置するための基台と、
前記基台を昇降させる昇降機構と、
昇降した前記基板に接触して当該基板の検査を行う検査部と、
前記昇降機構を制御する制御部と、を有する検査装置であって、
前記制御部は、
前記昇降機構の上昇時のパラメータを設定する機能を有し、
前記パラメータの設定では、前記検査部が前記基板に接触するコンタクト位置において前記昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う前記昇降機構の動特性を取得し、取得した前記昇降機構の動特性に基づいて前記パラメータを設定する、
検査装置。
【請求項2】
前記検査部は、前記基板に接触する複数のプローブを有し、
前記パラメータは、前記コンタクト位置から前記基板をさらに上昇させるオーバドライブにおける前記複数のプローブのばね定数を含む、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、算出した前記ばね定数に基づき、前記オーバドライブにおいて前記複数のプローブが前記昇降機構にかけるトルクを算出する、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記パラメータは、前記複数のプローブと前記昇降機構を1つのシステムとした場合において前記ばね定数をk、動摩擦係数をD、質量をmとした以下の式(A)の運動方程式のパラメータである、
請求項2に記載の検査装置。
x=mg/(ms2+Ds+k+mg)・・・(A)
ただし、sは運動方程式をラプラス変換した場合の複素数
【請求項5】
前記制御部は、前記昇降機構の動特性と、最小二乗法、逐次型最小二乗法、およびカルマンフィルタのうちいずれかと、を用いて前記パラメータを同定する、
請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記外乱による前記基台の変位量は、前記基板の検査時における前記オーバドライブの上昇量より小さい、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項7】
前記制御部は、算出された前記パラメータから前記複数のプローブの損耗状態を判断する、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記昇降機構に前記外乱を出力することにより、前記基台を昇降させる、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記外乱は、ランダム信号、M系列、ステップ、正規分布ホワイトノイズのうちいずれかである、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記昇降機構は、
駆動モータの回転駆動により前記基台の昇降位置を調整する第1調整部と、
圧力媒体の供給および排出により前記基台の昇降位置を調整する第2調整部と、を有する、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
前記第1調整部および前記第2調整部は、 前記基台の下部に3つ以上設置され、設置位置において前記基台を個別に昇降させる、
請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記外乱における前記昇降機構の動特性として、前記駆動モータの位置または前記基台の位置を検出する位置センサを有する、
請求項10に記載の検査装置。
【請求項13】
前記外乱における前記昇降機構の動特性として、前記駆動モータに供給される電流を検出する電流センサを有する、
請求項10の検査装置。
【請求項14】
前記外乱における前記昇降機構の動特性として、前記第2調整部における前記圧力媒体の圧力を検出する圧力センサを有する、
前請求項10に記載の検査装置。
【請求項15】
前記駆動モータは、ダイレクトドライブモータである、
請求項10に記載の検査装置。
【請求項16】
基板を載置するための基台と、
前記基台を昇降させる昇降機構と、
昇降した前記基板に接触して当該基板の検査を行う検査部と、
前記昇降機構を制御する制御部と、を有する検査装置において、前記昇降機構の上昇を制御するためのパラメータを設定するパラメータ設定方法であって、
前記検査部が前記基板に接触するコンタクト位置において前記昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う前記昇降機構の動特性を取得する工程と、
取得した前記昇降機構の動特性に基づいて前記パラメータを設定する工程と、を有する、
パラメータ設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査装置、およびパラメータ設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウエハの検査を行う検査装置において、ウエハを所定位置に搬送するためのステージ(検査ステージ)が開示されている。このステージは、ウエハを載置する1つの基台(載置台)を3つの昇降駆動機構により支持して、当該3つの昇降駆動機構の昇降位置を監視しながら基台を昇降させる。
【0003】
検査装置は、ウエハの検査において、ウエハを上昇させて多数(例えば、数万)のプローブをウエハに接触させる。このため、基台には、各プローブからウエハを介して多大な荷重(トルク)がかかる。基台の上昇時にかかる荷重は、プローブカードの傾き、プローブ同士のばらつき、または使用に伴うプローブの摩耗等の原因によって変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、基台を上昇させる際のパラメータを精度よく設定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、基板を載置するための基台と、前記基台を昇降させる昇降機構と、昇降した前記基板に接触して当該基板の検査を行う検査部と、前記昇降機構を制御する制御部と、を有する検査装置であって、前記制御部は、前記昇降機構の上昇時のパラメータを設定する機能を有し、前記パラメータの設定では、前記検査部が前記基板に接触するコンタクト位置において前記昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う前記昇降機構の動特性を取得し、取得した前記昇降機構の動特性に基づいて前記パラメータを設定する、検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一態様によれば、基台を上昇させる際のパラメータを精度よく設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る検査装置を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2(A)は、検査部に設置されるステージを示す概略側面図である。
図2(B)は、ステージの載置面を示す平面図である。
【
図3】ステージのZ軸移動機構を概略的に示す側面断面図である。
【
図4】
図4(A)は、ウエハの上昇時におけるステージの動作方法を示すフロー図である。
図4(B)は、ウエハの上昇時に基台にかけるトルクを示すグラフである。
【
図5】位置制御ステップにおけるZ軸移動機構の制御の流れを示すブロック図である。
【
図6】トルク制御ステップにおけるZ軸移動機構の制御の流れを示すブロック図である。
【
図7】各モータ機構の制御アルゴリズムを示すブロック図である。
【
図8】各プローブとZ軸移動機構のシステム同定の概念を示す等価回路図である。
【
図9】システム同定におけるステージ制御部の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図10】パラメータ設定方法の処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
図1は、実施形態に係る検査装置1を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、検査装置1は、基板の一例であるウエハWの電気特性を検査する。例えば、ウエハWの表面には、被検査デバイス(DUT:Device Under Test)である半導体デバイスが複数形成されている。なお、基板は、ウエハWに限定されず、被検査デバイスが配置されたキャリア、ガラス基板、チップ単体、電子回路基板等でもよい。被検査デバイスも、半導体デバイスに限らず、他の電子デバイスであってよい。
【0011】
検査装置1は、検査を実際に行う検査部10と、検査部10の隣接位置に設置されるローダ13と、検査部10の上方に設置されるテスタ20と、を備える。さらに、検査装置1は、検査部10、ローダ13およびテスタ20の動作を制御するコントローラ90を有する。
【0012】
検査部10は、直方体状の筐体11を備え、この筐体11の内部に検査室12を有する。検査室12には、ウエハWを載置して、所望の3次元座標位置にウエハWを搬送するステージ30が収容されている。
【0013】
ローダ13には、複数のウエハWを待機させる図示しないFOUP(Front-Opening Unified Pod)がセットされる。ローダ13は、図示しない搬送装置を備え、搬送装置によりFOUPからウエハWを取り出して、検査室12のステージ30へウエハWを受け渡す。また、ローダ13は、搬送装置により検査済のウエハWをステージ30から取り出してFOUPへ収容する。
【0014】
検査部10は、インタフェース23を介してテスタ20に接続されるプローブカード21を検査室12の上方に備える。プローブカード21は、ウエハWに対向する位置に複数のプローブ22を有する。各プローブ22は、ステージ30によりウエハWを移動させた際に、ウエハWの各被検査デバイスの電極パッドや半田バンプ等に接触する。これにより、テスタ20は、プローブカード21およびインタフェース23を介して被検査デバイスへ電力および各種の信号を出力し、またプローブカード21およびインタフェース23を介して被検査デバイスから送信される信号を受信する。
【0015】
テスタ20は、インタフェース23に接続されるマザーボード(不図示)を内部に備える。マザーボードは、図示しない複数のテストボードが装着される複数のスロットを有すると共に、コントローラ90に接続されている。マザーボードは、ウエハWの被検査デバイスから送信される信号に基づき各被検査デバイスの良否を判断する。テストボードを適宜取り替えることにより、テスタ20は、複数種類の検査を実施することができる。
【0016】
さらに、検査装置1は、検査室12の適宜の位置に、ステージ30上のウエハWを撮像する検査側カメラ29を備えてもよい。検査側カメラ29は、例えば、ステージ30の傾斜やステージ30に載置されたウエハWの位置などを撮像する。またさらに、検査装置1は、プローブカード21、または各プローブ22とウエハWの接触状態等を撮像するステージ側カメラ19を備えてもよい。
【0017】
図2(A)は、検査部10に設置されるステージ30を示す概略側面図である。
図2(B)は、ステージ30の載置面30sを示す平面図である。
図2(A)に示すように、ステージ30は、筐体11のフレーム構造14に設置される。ステージ30の上面には、ウエハWを支持する平坦状の載置面30sが形成されている。
【0018】
ステージ30は、検査室12の適宜の3次元位置(X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向)に、載置面30sに載置されたウエハWを搬送する。例えば、ステージ30は、ローダ13の近傍位置(または内部)と、プローブカード21の対向位置との間で水平方向(X軸-Y軸方向)に移動することで、ウエハWの水平位置を調整する。また、ステージ30は、プローブカード21とウエハWとの対向位置において、鉛直方向(Z軸方向)に昇降することで、ウエハWの昇降位置を調整する。
【0019】
ステージ30は、移動部32(X軸移動機構33、Y軸移動機構34、Z軸移動機構40)、基台35、針研機構60、ステージ制御部70およびモータドライバ部80を有する。このステージ30の構成に応じて、フレーム構造14は、移動部32を支持する上ベース141と、ステージ制御部70やモータドライバ部80を支持する下ベース142と、各ベースを支持する複数の支柱143と、を含む2段構造を呈している。
【0020】
移動部32のX軸移動機構33は、上ベース141の上面に固定されX軸方向に沿って延在する複数のガイドレール330と、各ガイドレール330に配置される複数のX軸可動体331と、各X軸可動体331に支持されるX軸台332と、を含む。X軸台332は、モータドライバ部80に接続される図示しないX軸駆動部(モータ、ギア機構等)を有する。X軸駆動部は、モータドライバ部80からの電力供給に基づき、各X軸可動体331およびX軸台332をX軸方向に往復動させて、ウエハWのX座標を調整する。
【0021】
Y軸移動機構34は、X軸台332の上面に固定されY軸方向に沿って延在する複数のガイドレール340と、各ガイドレール340に配置される複数のY軸可動体341と、各Y軸可動体341に支持されるY軸台342と、を含む。Y軸台342は、モータドライバ部80に接続される図示しないY軸駆動部(モータ、ギア機構等)を有する。Y軸駆動部は、モータドライバ部80からの電力供給に基づき、各Y軸可動体341およびY軸台342を軸方向に往復動させて、ウエハWのY座標を調整する。
【0022】
Z軸移動機構40は、Y軸台342に設置されると共に、その上部において基台35を保持している。Z軸移動機構40は、基台35をZ軸方向(鉛直方向)に変位させることで、基台35の載置面30sに載置されたウエハWを昇降させる実施形態の昇降機構を構成している。このZ軸移動機構40の構成については、後に詳述する。
【0023】
以上の移動部32により搬送される基台35は、Z軸移動機構40に支持されるボトムプレート351と、ボトムプレート351の上側に積層されて載置面30sを有するチャックトップ352と、を含む。ボトムプレート351は、後述するZ軸移動機構40の3つの駆動部41に支持されている。チャックトップ352は、平面視でウエハWよりも大径の円形状を呈しており(
図2(B)参照)、またボトムプレート351よりも厚みを持つように形成される。なお図示は省略するが、チャックトップ352は、ウエハWを保持する適宜の保持手段(真空吸着機構、メカニカルチャック等)、載置面30sの温度を調整する温調機構、載置面30sの温度を検出する温度センサ等を備えてもよい。
【0024】
ステージ30の針研機構60は、Y軸台342において、Z軸移動機構40の隣接位置に設置される。針研機構60の上部には、プローブカード21から下方に突出しているプローブ22を研磨する研磨体61が設けられる。針研機構60は、研磨体61をZ軸方向に変位させる研磨側Z軸移動機構62を有する。研磨側Z軸移動機構62は、Z軸移動機構40と略同様に構成される。
【0025】
ステージ制御部70は、検査装置1のコントローラ90(
図1参照)に接続され、コントローラ90の指令に基づき、ステージ30の動作を制御する。ステージ制御部70は、例えば、ステージ30全体の動作を制御するメイン制御部、移動部32の動作を制御するPLC、温調機構を制御する温度コントローラ、照明制御部、電源ユニット等を有する(共に不図示)。ステージ制御部70のメイン制御部は、図示しない1以上のプロセッサ、メモリ、入出力インタフェースおよび電子回路等を有するコンピュータ内臓ボードを適用し得る。1以上のプロセッサは、CPU、GPU、ASIC、FPGA、複数のディスクリート半導体からなる回路等のうち1つまたは複数を組み合わせたものであり、メモリに記憶されたプログラムを実行処理する。メモリは、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含む。
【0026】
ステージ制御部70は、コントローラ90の指令に基づきモータドライバ部80を制御して、ローダ13から基台35にウエハWを受け取った後に、移動部32を動作させてウエハWを水平方向に移動させる。そして、プローブカード21にウエハWが対向する位置において、ステージ制御部70は、移動部32のZ軸移動機構40により基台35を上昇させ、プローブカード21のプローブ22にウエハWを接触させる。この状態で、コントローラ90は、テスタ20による電気的検査を開始する。また、ステージ制御部70は、テスタ20の検査終了後に、上記と逆の動作により、検査後のウエハWを下降および水平移動させ、ローダ13にウエハWを戻す。
【0027】
図2(B)に示すように、Z軸移動機構40は、相互に独立して基台35を昇降させる3つの駆動部41を有し、各駆動部41において基台35を支持している。各駆動部41の軸部は、基台35の中心から一定の半径だけ離れた仮想円ic上に位置し、この仮想円icの周方向に沿って等間隔(基台35の中心回りに120°毎)に配置されている。Z軸移動機構40は、このように配置された各駆動部41を個別に昇降させることで、基台35のチルトを調整することが可能となる。
【0028】
図3は、ステージ30のZ軸移動機構40を概略的に示す側面断面図である。
図3に示すように、3つの駆動部41の各々は、基台35のボトムプレート351を直接支持し、鉛直方向に変位可能なZ軸可動体42を有する。そして、実施形態に係る各駆動部41は、Z軸可動体42を昇降させる機構として、モータ機構45およびシリンダ機構50の2種類を備える。
【0029】
モータ機構45は、モータドライバ部80の電力供給に基づき回転駆動する駆動モータ46を有する。この駆動モータ46の種類は、特に限定されるものではないが、Z軸移動機構40の小型化を図るために、ダイレクトドライブモータを適用することが好ましい。ダイレクトドライブモータは、減速機を備えずに駆動部41の軸部に沿って短く構成され、また低速かつ高トルクで回転することができる。
【0030】
また、モータ機構45は、駆動モータ46とZ軸可動体42との間で、駆動モータ46の回転駆動を直線駆動に変換する動力変換部47を有する。例えば、動力変換部47は、駆動モータ46の図示しないロータに連結されるボールネジ471と、ボールネジ471の外周面に螺合されるナット472と、を有するボールネジ構造をとり得る。この場合、ボールネジ471は各駆動部41の軸部を構成する。このような動力変換部47によって、モータ機構45は、駆動モータ46の回転に連れてボールネジ471を回転させ、Z軸可動体42をZ軸方向に沿って昇降させる。
【0031】
さらに、モータ機構45は、モータの回転角を検出するエンコーダ48、および基台35から駆動モータ46にかかる荷重を電流値として検出する電流センサ49等を備えてもよい。ここで、駆動モータ46に減速機を接続している場合、駆動モータ46のトルクは減速機のトルクを勘案する必要が生じるが、本実施形態では駆動モータ46にダイレクトドライブモータを適用していることで、減速機のトルク伝達ロスを勘案する必要がなくなる。このため、ステージ30は、電流センサ49により駆動モータ46にかかるトルクを精度よく検出することができる。
【0032】
一方、シリンダ機構50は、モータ機構45を収容するZ軸移動機構40の円盤状筐体51に、円筒状の凹部52を形成しており、凹部52に収容されたZ軸可動体42自体をピストンとして機能させる。シリンダ機構50は、凹部52に対して圧力媒体であるエアを供給および排出することで、Z軸可動体42の下面に適切な圧力(浮上力)をかける。これにより、Z軸移動機構40は、各Z軸可動体42の昇降を補助して、各モータ機構45のトルクを低減することが可能となる。
【0033】
具体的には、凹部52は、円盤状筐体51において、鉛直方向と平行に延在する内周面52a、および水平方向と平行な底面52bにより囲われており、また円盤状筐体51の上部において開放されている。底面52bには、上記した駆動モータ46が設置されている。一方、Z軸可動体42は、凹部52の内周面52aに接触する1以上のシール部材53を外周面(側周面)に有する。各シール部材53は、エラストマー等の弾性体により構成され、Z軸可動体42の外周面と内周面52aとの間で凹部52を気密に閉塞しつつ、Z軸可動体42を鉛直方向に摺動可能とする。なお、各シール部材53は、凹部52の内周面52aに設けられてもよい。
【0034】
そして、シリンダ機構50は、Z軸可動体42に閉塞された凹部52にエアを供給または排出する給排機構54を、円盤状筐体51の外部に備える。給排機構54は、円盤状筐体51の各凹部52に連通するポート52pに、給排経路541を接続している。さらに、給排機構54は、給排経路541の一端に電空レギュレータ542を接続していると共に、凹部52と電空レギュレータ542との間の給排経路541に開閉バルブ543およびリリーフバルブ544を備える。
【0035】
給排経路541は、エアの流路を内部に有する複数の配管を接続して構成される。給排経路541は、各駆動部41の凹部52の数に応じて途中位置で分岐している。そして、給排経路541の各分岐経路の一端が、円盤状筐体51のそれぞれのポート52pに接続されている。
【0036】
電空レギュレータ542は、1次側に図示しないエア供給源(コンプレッサ等)が接続される一方で、2次側に上記の給排経路541が接続される。電空レギュレータ542は、ステージ制御部70に接続され、ステージ制御部70の制御下に、適宜のエア圧に調整したエアを給排経路541に供給する。
【0037】
開閉バルブ543は、給排経路541の分岐位置よりもエアの供給方向の上流側に設置される。開閉バルブ543は、ステージ制御部70に接続され、ステージ制御部70の制御下に、給排経路541の流路を開閉する。
【0038】
リリーフバルブ544は、開閉バルブ543よりも下流側(例えば、給排経路541の分岐位置)に設置される。リリーフバルブ544は、ステージ制御部70に接続され、ステージ制御部70の制御下に、給排経路541の流路の大気開放または開放遮断を切り換える。
【0039】
ステージ制御部70(
図2参照)は、プローブカード21の対向位置にステージ30を移動させた後、上記の各駆動部41のモータ機構45およびシリンダ機構50を協働させることで、各駆動部41により基台35上のウエハWを昇降させる。例えば、ウエハWの上昇において、ステージ制御部70は、シリンダ機構50のエア圧により基台35の自重を相殺または補償しつつ、モータ機構45により基台35のZ軸方向の位置を調整する制御を行う。以下、このステージ制御部70によるZ軸移動機構40の制御について詳述していく。
【0040】
図4(A)は、ウエハWの上昇時におけるステージ30の動作方法を示すフロー図である。
図4(B)は、ウエハWの上昇時に基台35にかけるトルクを示すグラフである。ステージ制御部70は、
図4(A)に示すように、基台35に載置したウエハWの上昇時に、位置制御ステップ(S1)と、トルク制御ステップ(S2)と、を順に行う。位置制御ステップ(S1)は、プローブカード21の各プローブ22がウエハWに接触するまでの期間に行う制御である。トルク制御ステップ(S2)は、各プローブ22とウエハWの接触後に、基台35を微量に上昇させるオーバドライブ時およびウエハWの検査時に行う制御である。
【0041】
すなわち、ステージ制御部70は、位置制御ステップ(S1)においてウエハWの昇降位置(または、X軸-Y軸方向を含む3次元位置)を調整して、各プローブ22に対してウエハWの各被検査デバイスを接触させる。この位置制御ステップ(S1)の実施時に、ステージ制御部70は、電空レギュレータ542を駆動して各凹部52にエアを供給し、各凹部52のエア圧を目標圧力に調整する。各凹部52の目標圧力は、基台35の自重を相殺できる圧力であり、基台35の重量値を予め保有し、重量値に基づき必要なエア圧を算出することで得られる。これにより、モータ機構45は、基台35自体を上昇させるトルクが大幅に軽減される(またはゼロとなる)。なお、基台35の自重は、各Z軸可動体42の重量および/またはウエハWの重量を含んでもよい。
【0042】
図5は、位置制御ステップにおけるZ軸移動機構40の制御の流れを示すブロック図である。なお、
図5および後記の
図6では、理解の容易化のために、3つの駆動モータ46にA~Cの符号を付している。位置制御ステップ(S1)において、Z軸移動機構40は、
図5に示すように各駆動モータ46の位置(回転角)、速度および電流(加速度)を検出し、状態情報として位置、速度、電流の情報をステージ制御部70またはモータドライバ部80に送信する。各駆動モータ46の位置、速度、加速度は、各駆動部41に設けられたエンコーダ48から取得することができる。あるいは、各駆動モータ46の電流は、電流センサ49により直接検出してもよい。以下では、各駆動モータ46において検出する状態情報を実位置、実速度および実電流(実加速度)という。
【0043】
ステージ制御部70(またはモータドライバ部80)は、各駆動部41の駆動モータ46A~46Cを駆動させるための機能部として、第1計算部71A~71C、第2計算部72A~72C、第3計算部73A~73Cを備える。さらに、ステージ制御部70は、第1計算部71A~71Cの1次側に第1偏差部74A~74Cを有し、第2計算部72A~72Cの1次側に第2偏差部75A~75Cを有し、第3計算部73A~73Cの1次側に第3偏差部76A~76Cを有する。第1計算部71A~71C、第2計算部72A~72C、第3計算部73A~73C、第1偏差部74A~74C、第2偏差部75A~75Cおよび第3偏差部76A~76Cは、実施形態ではソフトウェア機能部であるが、これに限らず複数種類のディスクリート半導体を使用したハードウェハ機能部であってもよい。
【0044】
第1偏差部74A~74Cには、各駆動モータ46A~46Cの目標位置A~Cと、各駆動モータ46A~46Cの実位置とが入力される。これにより、第1偏差部74A~74Cは、目標位置A~Cと実位置との偏差を算出する。同様に、第2偏差部75A~75Cには、各駆動モータ46A~46Cの目標速度と、各駆動モータ46A~46Cの実速度とが入力される。これにより、第2偏差部75A~75Cは、目標速度と実速度との偏差を算出する。第3偏差部76A~76Cには、各駆動モータ46A~46Cの目標電流と、各駆動モータ46A~46Cの実電流とが入力される。これにより、第3偏差部76A~76Cは、目標電流と実電流との偏差を算出する。なお、各駆動モータ46A~46Cの実電流は、各駆動モータ46A~46Cにかかるトルク(=加速度)に比例する。このため、第3偏差部76A~76Cは、目標電流を目標加速度に換算して、目標加速度と実加速度との偏差を算出する構成でもよい。
【0045】
第1計算部71A~71Cは、第1偏差部74A~74Cから入力された位置の偏差に基づき位置を調整するための補正位置を算出し、さらに補正位置に応じた目標速度を算出する。第2計算部72A~72Cは、第2偏差部75A~75Cから入力された速度の偏差に基づき速度を調整するための補正速度を算出し、さらに補正速度に応じた目標電流を算出する。第3計算部73A~73Cは、第3偏差部76A~76Cから入力された電流の偏差に基づき各駆動モータ46に供給するための電力供給量を算出する。各駆動モータ46A~46Cは、ステージ制御部70から出力された電力供給量に応じて、回転駆動が制御される。
【0046】
また、シリンダ機構50の電空レギュレータ542を制御するために、ステージ制御部70は、電空制御部77を内部に有する。電空制御部77は、メモリに記憶された基台35の自重(重量値)を読み出して、基台35の自重に応じて基台35にかける目標トルク(すなわち、目標エア圧)を算出し、目標エア圧に応じて電空レギュレータ542を制御する。電空制御部77の指令に基づき、電空レギュレータ542は、3つの駆動部41の凹部52にエア圧を均等的に供給することで、基台35の自重を相殺するエア圧をZ軸可動体42に付与する。
【0047】
これにより、位置制御ステップ(S1)において、各駆動部41の駆動モータ46A~46Cは、基台35の自重を含まない電流制御によって、各プローブ22に対するウエハWおよび基台35の相対的な昇降位置を調整することができる。
【0048】
図6は、トルク制御ステップにおけるZ軸移動機構40の制御の流れを示すブロック図である。
図6に示すように、トルク制御ステップ(S2)において、Z軸移動機構40は、各駆動モータ46の電流(トルク)を検出し、状態情報として実電流の検出信号をステージ制御部70またはモータドライバ部80に送信する。
【0049】
ステージ制御部70(またはモータドライバ部80)は、各駆動部41の駆動モータ46A~46Cを駆動させるための機能部として、第3計算部73A~73C、および第3偏差部76A~76Cを備える。換言すれば、トルク制御ステップ(S2)では、第1計算部71A~71C、第2計算部72A~72C、第1偏差部74A~74C、第2偏差部75A~75Cを省いた構成としている。
【0050】
第3偏差部76A~76Cには、ステージ制御部70から各駆動モータ46A~46Cの目標の駆動トルクA~Cが入力される。例えば、目標の駆動トルクA~Cは、各プローブ22にウエハWの各被検査デバイスが確実に接触するように上昇させるオーバドライブの動作において、各プローブ22から受ける荷重に基づいて算出される。第3偏差部76A~76Cは、この目標の駆動トルクA~Cに基づく目標電流(目標トルク)と、各駆動モータ46A~46Cの実電流(実トルク)との偏差を算出する。
【0051】
第3計算部73A~73Cには、第3偏差部76A~76Cにおいて算出された電流の偏差が入力される。第3計算部73A~73Cは、入力された電流の偏差に基づき(偏差がゼロとなるように)各駆動モータ46A~46Cに供給する電力供給量を算出する。各駆動モータ46A~46Cは、ステージ制御部70から出力された電力供給量に応じて、回転駆動が制御される。
【0052】
そして、ステージ制御部70は、トルク制御ステップ(S2)でも、位置制御ステップ(S1)と同様の電空制御部77を内部に形成する。電空制御部77は、メモリに記憶された基台35の自重に応じて基台35にかけるエア圧を算出し、エア圧に応じて電空レギュレータ542を制御する。
【0053】
これにより、トルク制御ステップ(S2)において、各駆動部41の駆動モータ46A~46Cは、位置や速度を含まない電流制御のみで、ウエハWと接触している各プローブ22に対して、ウエハWおよび基台35の位置を調整できる。すなわち、シリンダ機構50のエア圧により基台35の自重が相殺されることで、各駆動モータ46A~46Cは、ウエハWに接触している各プローブ22から受けるほぼ荷重のみに対応して、トルクをかける。この結果、ステージ30は、オーバドライブの動作を少ないトルクで行うことが可能となる。
【0054】
図4(A)および
図4(B)に戻り、ステージ制御部70は、ウエハWの上昇時に、位置制御ステップ(S1)からトルク制御ステップ(S2)に切り替えることで、ステージ30のZ軸方向の位置を適切に制御する。シリンダ機構50のエア圧に基づくトルクは、
図4(B)の下図に示すように、各モータ機構45のモータトルクに加算されることで、基台35にかかるトルク全体を上昇させる(
図4(B)の点線参照)。
【0055】
ただし、
図4(B)の上図に示すように、各シリンダ機構50のエア圧によるトルクは、位置制御ステップ(S1)の開始時から徐々に上昇する変化を示す。これに対して、電力供給に基づく各モータ機構45のモータトルクは、電力供給量に追従して迅速に変化する。例えば、位置制御ステップ(S1)において、各モータ機構45のモータトルクは、開始後に急激に上昇した後、一旦下降して再び上昇する変化を示す。そしてトルク制御ステップ(S2)において、各モータ機構45のモータトルクは、各プローブ22からウエハWおよび基台35に荷重がかかることで、各プローブ22の荷重に対応したトルクを略一定にかけることになる。
【0056】
換言すれば、位置制御ステップ(S1)において、各シリンダ機構50のエア圧によるトルクには、基台35の自重をキャンセル可能な目標電流(目標トルク)に対して遅延時間が生じる。このため、本実施形態に係るステージ制御部70は、位置制御ステップ(S1)の各モータ機構45の電動ラインについて、
図7に示すようなモデルフォローイング制御を行う。
図7は、各モータ機構45の制御アルゴリズムを示すブロック図である。
【0057】
モデルフォローイング制御では、各シリンダ機構50のエア圧によるトルクの遅延時間をなくすように各駆動モータ46を制御する。ステージ制御部70は、各駆動部41の目標位置と、基台35の自重と、をモデルフォローイング制御の入力に用いて、各モータ機構45の駆動状態を計算する。なお、各駆動部41の「目標位置」とは、ウエハWの上昇時の軌道を示す位置プロファイルである。各駆動部41の目標位置は、ステージ30の水平移動の終了時の位置、プローブカード21の各プローブ22とウエハWの接触予定位置、各プローブ22とウエハWの導通完了位置等に基づき算出される。また、ステージ制御部70は、ステージ側カメラ19や検査側カメラ29の撮像情報等に基づき、各プローブ22に対するウエハWの傾きを検出して、ウエハWの傾きを補正する目標位置を算出してもよい。
【0058】
ステージ制御部70の内部には、モデルフォローイング制御を行う制御本体部78が形成される。制御本体部78の内部には、軌道生成部781、機構プラント部782、第1計算部783、第2計算部784、第3計算部785、電空補償部786、第1加算器787および第2加算器788が設けられる。
【0059】
軌道生成部781は、目標位置が入力されることで、ウエハWおよび基台35の上昇時の軌道、言い換えれば各駆動モータ46の単位時間毎の位置、速度、加速度(電流)を算出するように構成される。例えば、軌道生成部781は、軌道を生成可能な適宜の関数を予め保有しており、目標位置に基づき軌道を算出する。この関数の一例としては、下記の式を適用することがあげられる。
Km/(s2+2ξωns+ωn
2)
(ただし、Kmは移動軌道量、ξはオーバシュートの量のパラメータ、ωnは応答の速度のパラメータである。)
【0060】
軌道生成部781は、以上の各駆動モータ46の軌道(位置、速度、加速度)を算出すると、第3計算部785に対して軌道の各値を出力すると共に、第1加算器787に対して軌道の各値を出力する。
【0061】
機構プラント部782は、モデルフォローイング制御で算出された電力供給量を各モータ機構45に出力すると共に、各モータ機構45において検出された各駆動モータ46の実位置、実速度、実加速度をフィードバックするように構成される。例えば、機構プラント部782は、第1計算部783に対して各モータ機構45の実位置、実速度、実加速度を出力すると共に、第1加算器787に各駆動モータ46の実位置を出力する。
【0062】
第1計算部783は、機構プラント部782から受信した各駆動モータ46の実際の状態量(実位置、実速度、実加速度)と、モデルフォローイング制御の設計において算出された係数K1とを積算して、各駆動モータ46の補正用の状態量を算出する。
【0063】
第1加算器787は、軌道生成部781から受信した各駆動モータ46の位置と、機構プラント部782から受信した各駆動モータ46の実位置との偏差を算出し、第2計算部784に出力する。
【0064】
第2計算部784は、モデルフォローイング制御の設計において算出された係数K2を積算し、第1加算器787で算出された偏差を積分する積分器である。これにより、第2計算部784は、各モータ機構45の位置の定常偏差(エラー分)を得ることができる。定常偏差は、第2加算器788に送られることで、補正用の状態量として使用される。
【0065】
第3計算部785は、軌道生成部781から受信した各駆動モータ46の軌道(位置、速度、加速度)と、モデルフォローイング制御の設計において算出された係数K3とを積算して、各駆動モータ46の軌道に追従するための状態量を算出する。
【0066】
また、電空補償部786は、基台35の自重が入力されることで、電空レギュレータ542のエア圧を導出し、算出したエア圧に基づきシリンダ機構50がZ軸可動体42に加える加速度(または電流値)を算出する。電空補償部786は、エア圧の導出において、時間経過に対するエア圧の増加量の遅延時間を合わせて算出することで、Z軸可動体42に加える加速度も遅延時間を加味した変動を示すようになる。
【0067】
第2加算器788は、第1計算部783、第2計算部784、第3計算部785、電空補償部786から受信した各状態量(位置、速度、加速度)に基づき各駆動モータ46の制御量を算出する。第2加算器788で算出された制御量は、機構プラント部782を介して、位置制御ステップ(S1)時の各モータ機構45の電力供給に適用される。
【0068】
図4(A)に戻り、トルク制御ステップ(S2)において、ステージ30は、各プローブ22とのコンタクト位置に移動したウエハWをさらに上昇(オーバドライブ)させる。これにより、ステージ30は、各プローブ22に対して適当な予圧を与え、各プローブ22と、被検査デバイスの電極パッドまたは半田バンプとの電気的接触を確保できる。具体的には、ステージ制御部70(またはモータドライバ部80)は、目標の駆動トルクA~Cを出力することで、各駆動モータ46A~46Cに供給する電力供給量を算出する(
図6参照)。
【0069】
ところで、各プローブ22は、オーバドライブ時の予圧によって弾性変形しながら、ウエハWに荷重をかけることになる。したがって、プローブカード21の各プローブ22とステージ30のZ軸移動機構40とを一体的なシステムと見立てた場合に、このシステムは、ばね定数、動摩擦係数を含んだ二次系の方程式の応答に近似することができる。
【0070】
具体的には、各プローブ22とZ軸移動機構40のシステムにおいて、ばねおよび摩擦を含めた慣性系の運動方程式は、以下の数1となる。
【数1】
(ただし、kはばね定数であり、Dは動摩擦係数であり、mgは重力である。)
【0071】
さらに、上記の数1についてラプラス変換を行うと、以下の数2のように表すことができる。
【数2】
(ただし、sは運動方程式をラプラス変換した場合の複素数である)
【0072】
したがって、数2の運動方程式の各パラメータを同定すれば、各プローブ22とZ軸移動機構40のシステムにおけるばね定数kを求めることができる。そして、このばね定数kを得ることで、トルク制御ステップ(S2)においてウエハWに対して各プローブ22がかけるトルクを、F=-kxから算出することが可能となる。ただし、各プローブ22とZ軸移動機構40のシステムがかける荷重(ばね定数k)は、既述したように、プローブカード21の傾き、プローブ22同士のばらつき、または使用に伴うプローブの摩耗等の原因によって変化する。このため、検査装置1は、メンテナンス時やプローブカード21の交換時等においてシステム同定を行い、パラメータを設定する。
【0073】
図8は、各プローブ22とZ軸移動機構40のシステム同定の概念を示す等価回路図である。システム同定では、
図8の上図のように、単一フィードバックシステムを考慮し、各プローブ22がウエハWに接触した状態で外乱を加え、その外乱に対する応答からシステムのパラメータ(k、D、m)を同定できる。システムに付与する外乱の種類は、特に限定されず、例えば、ランダム信号、M系列、ステップ、正規分布ホワイトノイズ等があげられる。
【0074】
図8の上図に示す単一フィードバックシステムでは、目標位置Xに外乱Δxを加えた入力値に対して、実位置をフィードバックしている。この入力値と実位置の偏差を同定用の演算部に入力する。演算部は、上記の数2の式(2)を用いることで、外乱が入力された場合のシステムの時間的変化をy(t)として算出する。換言すれば、y(t)は、外乱を加えた場合における各プローブ22とZ軸移動機構40のシステムの動特性の関数である。また、単一フィードバックシステムは、下記の数3に示す伝達関数で表すことが可能であり、
図8の下図に示すようなフィードフォワードのシステムとして捉えることができる。
【数3】
【0075】
図9は、システム同定におけるステージ制御部70の機能ブロックを示すブロック図である。ステージ制御部70は、システム同定を行う同定制御部790が内部に形成される。同定制御部790の内部には、例えば、外乱生成部791、外乱時動特性取得部792、システム最適化部793および評価部794が設けられる。また、ステージ制御部70は、システム同定においてステージ30の移動を制御する動作制御部795を形成する。
【0076】
具体的には、動作制御部795は、システム同定において移動部32を制御して、各プローブ22に対して基台35が対向する位置に水平移動させる。さらに各プローブ22との対向位置において、動作制御部795は、Z軸移動機構40を動作させて基台35を上昇させることで、基台35に載置されているウエハW(設定時用のダミーウエハを含む)を各プローブ22に接触させる。換言すれば、動作制御部795は、各プローブ22が接触するコンタクト位置にウエハWを搬送する。
【0077】
そして、ウエハWをコンタクト位置に配置すると、同定制御部790の外乱生成部791は、システム同定におけるオーバドライブ時にモータドライバ部80を制御して、上記したランダム信号やM系列等の外乱を生成し、この外乱を各駆動モータ46に出力する。各駆動モータ46は、受信した外乱に応じて駆動することにより、基台35を上下方向(Z軸方向)に振動させる。この際、各プローブ22およびZ軸移動機構40のシステムは、各構成の誤差、駆動モータ46の機差、各プローブ22の状態等により、異なる振動で動作する。
【0078】
同定制御部790の外乱時動特性取得部792は、外乱を受けた際のZ軸移動機構40を含むシステムの動特性の変化として、基台35が振動した距離の時間的変化を取得する。例えば、外乱時動特性取得部792は、各駆動モータ46のエンコーダ48の値を一定の時間間隔毎に受信することで、距離の変化のプロットを取得する。
【0079】
同定制御部790のシステム最適化部793は、取得した振動時の距離の変化、および最少二乗法、逐次型最小二乗法あるいはカルマンフィルタを用いて、Z軸移動機構40を含むシステムのパラメータ(k、D、m)を同定する。そして、システム最適化部793は、トルク制御時に必要な各駆動モータ46の駆動トルクを得るために、同定したパラメータからばね定数kを最終的に取得する。
【0080】
システム同定の一例としては、標準的なプローブカードのパラメータ(k、D、m)を上記の数3に代入すると共に、逐次型最小二乗法を使用することがあげられる。例えば、逐次型最小二乗法では、下記の数4で示す評価関数に忘却係数ρを導入して、この評価関数の最小化によりパラメータの最適解を求める。
【数4】
(ただし、0<ρ<1:0.95~0.999であり、P
Nは共分散行列である。)
【0081】
また、システム最適化部793は、逐次型最小二乗法を用いることで、前回の設定値(例えば、)から次回の設定値y
n+1を決定できる。例えば、次回の設定値y
n+1を以下の数5で表すと、数6のように表すことができる。
【数5】
【数6】
【0082】
システム同定において、数3のパラメータ(k、D、m)を同定すると、同定制御部790の評価部794は、同定したパラメータが予め設定した許容範囲以内に含まれるか否かを判定する。そして、評価部794は、パラメータが許容範囲以内に含まれる場合に、システム同定の終了し、各パラメータの中のばね定数kを抽出する。このばね定数kは、上記したように、各プローブ22とZ軸移動機構40とのシステムにおいて各プローブ22がかけるトルクとなる。したがって、ステージ制御部70は、トルク制御ステップ(S2)の各駆動モータ46の駆動トルクを、ばね定数kに基づき簡単に設定することができる。
【0083】
一方、評価部794は、同定したパラメータが許容範囲外となる場合に、システム同定の再試行を判定する。ステージ制御部70は、このシステム同定の再試行において、上記した重み付けを変更する数5および数6による次回の設定値yn+1を適用する。そして、ステージ制御部70は、ノイズを再び生成して、この際の動特性を取得することで、上記したシステム同定を再び行う。
【0084】
以上のシステム同定によってばね定数kを得ることで、ステージ制御部70は、システムの現在の状態(各構成の誤差、駆動モータ46の機差、各プローブ22の状態)に応じたトルク制御ステップ(S2)の目標の駆動トルクを精度よく得ることができる。
【0085】
本実施形態に係る検査装置1およびステージ30は、基本的には以上のように構成され、以下その動作(パラメータ設定方法)について
図10を参照しながら説明する。
図10は、パラメータ設定方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0086】
メンテナンス時やプローブカード21の交換時等において、検査装置1のステージ制御部70は、コントローラ90(作業者)の指令に基づいてシステム同定を開始する。なお、システム同定の開始前には、基台35の載置面30sにウエハW(またはダミーウエハ)を載置しておく。
【0087】
ステージ制御部70は、システム同定の事前動作として、まず動作制御部795によりステージ30の移動部32を制御して、各プローブ22の鉛直方向下側に向けてステージ30をスライドさせる(ステップS11)。さらに、動作制御部795は、各プローブ22の対向位置において、ウエハWを有する基台35を上昇させる(ステップS12)。
【0088】
そして、ステージ制御部70は、各プローブ22の導通状態を監視し、各プローブ22とダミーウエハが接触するコンタクト位置を検知する(ステップS13)。このコンタクト位置の検知に基づき、ステージ制御部70は、システム同定を開始する。
【0089】
具体的には、ステージ制御部70は、外乱生成部791によりノイズを出力して基台35を変位させ、この際の基台35の動特性を外乱時動特性取得部792にて取得する(ステップS14)。
【0090】
そして、システム最適化部793は、取得した動特性と逐次型最小二乗法とを用いて、上記した数3のシステムのパラメータ(k、D、m)を同定する(ステップS15)。
【0091】
その後、評価部794は、同定したパラメータについて許容範囲以内か否かを判定する(ステップS16)。同定したパラメータが許容範囲外の場合(ステップS16:NO)、ステップS17に進む一方で、同定したパラメータが許容範囲以内の場合(ステップS16:YES)、ステップS18に進む。
【0092】
ステップS17において、システム最適化部793は、システム同定における重み付けあるいはサンプリング周期等の同定パラメータを変更する。その後、ステージ制御部70は、ステップS14に戻り、以下ステップS14~S16を繰り返す。
【0093】
一方、ステップS18において、ステージ制御部70は、同定したパラメータのばね定数kに基づき、トルク制御ステップ(S2)におけるオーバドライブに必要なトルクを算出する。
【0094】
以上のパラメータ設定方法が終了すると、ステージ制御部70は、検査装置1における実際のウエハWの検査を実行可能とする。ウエハWの検査において、ステージ制御部70は、
図4(A)の位置制御ステップ(S1)およびトルク制御ステップ(S2)を行う。トルク制御ステップ(S2)では、ステージ制御部70は、ばね定数kに基づくトルクを目標の駆動トルクとして、
図6に示す第3計算部73A~73Cの1次側に第3偏差部76A~76Cに出力する。これにより、検査装置1は、トルク制御ステップ(S2)において、基台35の高さを適切に制御することができる。
【0095】
なお、本開示の検査装置1およびパラメータ設定方法は、上記の実施形態に限定されず、種々の変形例をとり得る。例えば、Z軸移動機構40は、上記の実施形態では基台35を面で支持するために3つの駆動部41を備えていたが、これに限定されず、Z軸移動機構40は4つ以上の駆動部41を備えてもよい。また例えば、検査装置1のステージ30は、実施形態ではモータ機構45およびシリンダ機構50の2種類を備えていたが、これに限らず1種類のみの機構を適用してよい。例えば、ステージ30は、モータ機構45のみの場合でも上記したシステム同定を行うことで、基台35の上昇時のパラメータを良好に得ることができる。
【0096】
また、上記の実施形態では、Z軸移動機構40に対する外乱の出力時の動特性として、各駆動モータ46の位置(回転位置)を取得したが、検査装置1は、これに限らず種々の方法で動特性を取得してよい。一例として、検査装置1は、基台35の高さ位置を検出するセンサを備え、このセンサにより動特性を取得してもよい。あるいは、検査装置1は、外乱において駆動モータ46に供給される電流を電流センサ49により検出し、この電流センサ49の検出結果を、動特性に用いてもよくまたは別に取得した動特性の補正に用いてもよい。さらに、検査装置1は、凹部52内に生じる圧力を検出する圧力センサ59(
図3の点線参照)を備え、外乱において検出した圧力センサ59の検出結果を、動特性に用いてもよくまたは別に取得した動特性の補正に用いてもよい。
【0097】
以上の実施形態で説明した本開示の技術的思想および効果について以下に記載する。
【0098】
本発明の第1の態様は、基板(ウエハW)を載置するための基台35と、基台35を昇降させる昇降機構(Z軸移動機構40)と、昇降した基板に接触して当該基板の検査を行う検査部10と、昇降機構を制御する制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)と、を有する検査装置1であって、制御部は、昇降機構の上昇時のパラメータを設定する機能を有し、パラメータの設定では、検査部10が基板に接触するコンタクト位置において昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う昇降機構の動特性を取得し、取得した昇降機構の動特性に基づいてパラメータを設定する、検査装置。
【0099】
上記によれば、検査装置1は、基台35を上昇させる際のパラメータを精度よく設定できる。すなわち、検査装置1は、外乱に伴う昇降機構(Z軸移動機構40)の動特性に基づいてパラメータを設定することにより、現在の昇降機構や検査部10の状態に応じたパラメータを得ることができる。したがって、このパラメータを利用することで、検査装置1は、検査部10から基台35にかかるトルクを精度よく推定でき、このトルクを用いて昇降機構を適切に制御することが可能となる。
【0100】
また、検査部10は、基板(ウエハW)に接触する複数のプローブ22を有し、パラメータは、コンタクト位置から基板をさらに上昇させるオーバドライブにおける複数のプローブ22のばね定数kを含む。ばね定数kを用いることで、実際のオーバドライブにおいて、各プローブ22がウエハWおよび基台35にかけるトルクに充分に近似させることができる。
【0101】
また、制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)は、算出したばね定数kに基づき、オーバドライブにおいて複数のプローブ22が昇降機構(Z軸移動機構40)にかけるトルクを算出する。これにより、検査装置1は、オーバドライブにおける目標の駆動トルクを簡単かつ精度よく得ることができる。
【0102】
また、パラメータは、複数のプローブ22と昇降機構(Z軸移動機構40)を1つのシステムとした場合においてばね定数をk、動摩擦係数をD、質量をmとした以下の式(A)の運動方程式のパラメータである。これにより、検査装置1は、精度が高いばね定数kを得ることができる。
x=mg/(ms2+Ds+k+mg)・・・(A)
ただし、sは運動方程式をラプラス変換した場合の複素数
【0103】
また、制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)は、昇降機構(Z軸移動機構40)の動特性と、最小二乗法、逐次型最小二乗法、およびカルマンフィルタのうちいずれかと、を用いてパラメータを同定する。これにより、検査装置1は、昇降機構の上昇時のパラメータを良好に算出できる。
【0104】
また、外乱による基台の変位量は、基板の検査時におけるオーバドライブの上昇量より小さい。これにより、検査装置1は、各プローブ22に大きな負荷をかけることなく、パラメータを効率的に設定できる。
【0105】
また、制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)は、算出されたパラメータから複数のプローブ22の損耗状態を判断する。これにより、検査装置1は、プローブカード21の交換タイミングを適切に判断することができる。
【0106】
また、制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)は、昇降機構(Z軸移動機構40)に外乱を出力することにより、基台35を昇降させる。これにより、検査装置1は、基台35の昇降時の動特性を得ることができ、パラメータを安定して同定することが可能となる。
【0107】
また、外乱は、ランダム信号、M系列、ステップ、正規分布ホワイトノイズのうちいずれかである。これにより、検査装置1は、昇降機構(Z軸移動機構40)に外乱を発生させることができる。
【0108】
また、昇降機構(Z軸移動機構40)は、駆動モータ46の回転駆動により基台35の昇降位置を調整する第1調整部(モータ機構45)と、圧力媒体の供給および排出により基台35の昇降位置を調整する第2調整部(シリンダ機構50)と、を有する。これにより、検査装置1は、基台35の昇降時のコストを低減しつつ、基台35を容易かつ精度よく昇降させることができる。
【0109】
また、第1調整部(モータ機構45)および第2調整部(シリンダ機構50)は、 基台35の下部に3つ以上設置され、設置位置において基台35を個別に昇降させる。3つ以上の第1調整部および第2調整部によって、検査装置1は、基台35のチルト等を簡単かつ精度よく調整できる。
【0110】
また、外乱における昇降機構(Z軸移動機構40)の動特性として、駆動モータ46の位置または基台35の位置を検出する位置センサ(エンコーダ48)を有する。これにより、検査装置1は、基台35が変位した際の動特性を良好に得ることができる。
【0111】
また、外乱における昇降機構(Z軸移動機構40)の動特性として、駆動モータ46に供給される電流を検出する電流センサ49を有する。これにより、検査装置1は、外乱により基台35が変位した際の電流の変化を適切に利用することができる。
【0112】
また、外乱における昇降機構(Z軸移動機構40)の動特性として、第2調整部(シリンダ機構50)における圧力媒体の圧力を検出する圧力センサ59を有する。これにより、検査装置1は、外乱により基台35が変位した際の圧力の変化を適切に利用できる。
【0113】
また、駆動モータ46は、ダイレクトドライブモータである。これにより、検査装置1は、可及的に小型化を図ることができると共に、減速機を介さない直接的なトルク制御を容易に実現することが可能となる。
【0114】
また、本開示の第2の態様は、基板(ウエハW)を載置するための基台35と、基台35を昇降させる昇降機構(Z軸移動機構40)と、昇降した基板に接触して当該基板の検査を行う検査部10と、昇降機構を制御する制御部(コントローラ90、ステージ制御部70)と、を有する検査装置1において、昇降機構の上昇を制御するためのパラメータを設定するパラメータ設定方法であって、検査部10が基板に接触するコンタクト位置において昇降機構に外乱を発生させ、当該外乱に伴う昇降機構の動特性を取得する工程と、取得した昇降機構の動特性に基づいてパラメータを設定する工程と、を有する。この場合でも、パラメータ設定方法は、基台35を上昇させる際のパラメータを精度よく設定できる。
【0115】
今回開示された実施形態に係る検査装置1およびパラメータ設定方法は、すべての点において例示であって制限的なものではない。実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0116】
1 検査装置
10 検査部
35 基台
40 Z軸移動機構
70 ステージ制御部
90 コントローラ
W ウエハ