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特開2024-170079炉内熱量計測素子および炉内熱量計測方法
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  • 特開-炉内熱量計測素子および炉内熱量計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170079
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】炉内熱量計測素子および炉内熱量計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 17/00 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
G01K17/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087040
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】中山 達峰
(72)【発明者】
【氏名】杉山 幸登
(72)【発明者】
【氏名】木下 祐輔
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加熱炉内の温度分布を計測する。
【解決手段】炉内熱量計測素子10は、石英で構成されており、直方体の形状をなしている。幅4mm×長さ3mm×高さ2mmの素子である。幅方向、厚さ方向の中央付近には、5本の円形断面の貫通孔11~15が側面および上面、底面に平行に形成されている。貫通孔の断面の直径Dは、0.2mmである。この炉内熱量計測素子を加熱炉内に載置し、加熱すると軟化し、表面張力の作用で貫通孔が変形して、直径Dが小さくなる。直径Dの変形量は、炉内熱量計測素子10が受ける熱量と強い相関を持つ。従って、かかる炉内熱量計測素子10を用いることにより、加熱炉内の任意の場所で、加熱により炉内熱量計測素子10が受けた熱量を計測することができる。温度プロファイルが既知の場合には、さらに温度に換算することも可能となり、加熱炉内の温度分布を計測することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉内の熱量を計測するための炉内熱量計測素子であって、
加熱により軟化する素材で形成された本体と、
前記本体に形成された孔とを備える炉内熱量計測素子。
【請求項2】
前記孔は、断面円形である請求項1記載の炉内熱量計測素子。
【請求項3】
前記孔の直径は2mm以下である請求項2記載の炉内熱量計測素子。
【請求項4】
前記孔の前記加熱後の直径は100μm以上である請求項2記載の炉内熱量計測素子。
【請求項5】
前記孔は、前記本体を貫通する貫通孔である請求項1記載の炉内熱量計測素子。
【請求項6】
前記孔が、複数形成されている請求項1記載の炉内熱量計測素子。
【請求項7】
1300℃以上の温度範囲における前記熱量を計測するための炉内熱量計測素子であり、
前記素材は、石英である請求項1記載の炉内熱量計測素子。
【請求項8】
前記石英は不純物濃度が1重量%以下である請求項7記載の炉内熱量計測素子。
【請求項9】
加熱炉内の熱量を計測する炉内熱量計測方法であって、
加熱により軟化する素材で形成された炉内熱量計測素子を用意する工程と、
前記炉内熱量計測素子を、前記加熱炉内に配置する工程と、
前記加熱炉の過熱による前記炉内熱量計測素子の所定の変形量を計測する工程と、
前記変形量に基づいて、前記炉内熱量を算定する工程とを備える炉内熱量計測方法。
【請求項10】
請求項9記載の炉内熱量計測方法であって、
前記炉内熱量計測素子は、
加熱により軟化する素材で形成された本体と、
前記本体に形成された孔とを備える炉内熱量計測素子であり、
前記変形量は、前記孔の断面の変形を表す指標である炉内熱量計測方法。
【請求項11】
請求項10記載の炉内熱量計測方法であって、
前記炉内熱量計測素子の素材は、石英であり、
1300℃以上の温度範囲における前記熱量を計測する炉内熱量計測方法。
【請求項12】
請求項11記載の炉内熱量計測方法であって、
前記炉内熱量計測素子を用意する工程は、
(a)石英粉体を含むスラリーを調合する工程と、
(b)前記炉内熱量計測素子の形状に応じた成形型を用意する工程と、
(c)前記成形型に、前記スラリーと硬化剤とを混合して注入し、混合物を硬化させ前記炉内熱量計測素子の形状を有する成形体を形成する工程とを備える炉内熱量計測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉内の加熱による熱量を計測する素子および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを形成するために用いられるガラス、樹脂などでプリフォームなどの成形体を形成する過程では加熱炉内での加熱が行われる。加熱過程においては、加熱温度の変化を逐次把握することも重要であるが、加熱対象が加熱過程を通じて受ける熱量を把握することも非常に重要である。一般に加熱炉内には温度分布が生じるため、加熱対象が加熱過程を通じて受ける熱量も温度分布によって異なることとなり、これが製品の特性に大きな影響を与えるからである。
かかる観点から、例えば、特許文献1は、ガラス母材を製造する際に、炉内の温度分布を測定し、炉内ピーク温度の調節を行うことにより、焼成後のガラス母材の特性のばらつきを最小化する技術を開示している。
従来、加熱炉内の温度分布を計測するためには、熱電対、赤外放射温度計などが用いられていた。また、メジャーリングと呼ばれるセラミックス製の装置を加熱炉内に配置し、加熱によって収縮した後のメジャーリングの直径を計測することにより、加熱温度を算定する方法が用いられることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-88429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱電対や赤外放射温度計は、温度分布を得るために、加熱炉内の複数の任意の場所を計測することが容易ではないという課題があった。
メジャーリングには、加熱時に塩素ガスその他の反応性ガスを用いる場合には、反応ガスと反応してしまい、温度計測ができないという課題があった。また、メジャーリングは、製造バッチごとに組成比が若干変動するという不安定さがあり、この結果、加熱時の収縮率も変動してしまうため、その補正を行う必要もあった。
【0005】
上述した課題は、プリフォームなどの成形体を形成する場合のみならず、加熱炉での加熱を伴う種々の工程に共通の課題であった。本発明は、かかる課題を解決し、加熱炉による加熱過程における熱量を比較的簡易に安定して計測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
加熱炉内の熱量を計測するための炉内熱量計測素子であって、
加熱により軟化する素材で形成された本体と、
前記本体に形成された孔とを備える炉内熱量計測素子と構成できる。
【0007】
本発明の炉内熱量計測素子は、加熱により軟化するため、孔の形状が変化する。従って、熱量と孔の形状の変化との相関を予め実験等によって把握しておけば、炉内熱量計測素子を加熱炉内での加熱に伴う孔の形状の変化に応じて、炉内熱量計測素子が受けた熱量を計測することができる。また、炉内熱量計測素子は、加熱炉内の任意の場所に配置可能であるため、任意の場所の熱量を簡易に計測できる利点もある。
なお、熱量とは、温度を加熱時間で積分した値、即ち、炉内熱量計測素子に与えられた熱エネルギーの総量を意味する。
孔の形状の変化は、外接円、内接円、もしくは最小包含円の半径、または断面積、最大幅、最小幅など種々のパラメータで計測することができる。
従来技術におけるメジャーリングは、加熱に伴って水分やバインダーなどが除去され、全体が収縮するものであり、この過程で好ましくない反応が生じることがあるが、本発明では、加熱に伴う軟化を利用するため、かかる反応が生じにくいという利点もある。
【0008】
本発明において本体は、種々の形状をとり得るが、加熱炉内に安定して載置できるという観点から、少なくとも平らな底面を有する形状が好ましい。また、軟化に伴う形状変化を均等に生じさせるという観点から、高さ方向に同一の形状、即ち柱状の形状とすることが好ましい。特に、直方体が好ましい。
孔は、炉内熱量計測素子を載置した状態で、上下方向の縦孔、水平方向の横孔など種々の態様で形成することができる。貫通孔であってもよいし、本体の途中で止まる非貫通孔であってもよい。形状も任意に選択できる。また、孔の断面形状は、孔の軸に沿って変化させてもよいが、計測精度を向上させるためには、均一な形状とすることが好ましい。
【0009】
本発明において、
前記孔は、断面円形とすることが好ましい。
【0010】
本発明における変形は、本体の表面が過熱により軟化し、表面張力が働くことによる。孔の断面形状を円形とすれば、表面張力が均一に作用することにより変形がほぼ均一に生じるため、計測の精度を向上させることができる利点がある。断面円形の孔は、比較的容易に精度良く形成することができる利点もある。
断面円形の場合、形状の変化は、直径または半径をパラメータとして計測することができる。
【0011】
孔を断面円形とする場合、
前記孔の直径は2mm以下とすることが好ましい。
【0012】
例えば、加熱により孔の周囲が所定の長さだけ短くなるという場合、直径が大きいほど、直径に現れる変化量は小さくなる。即ち、それだけ変化量を精度良く検出することが困難となる。孔の直径は任意に決めることができるが、精度確保という観点からは、孔の直径は2mm以下に抑えることが好ましい。
【0013】
孔を断面円形とする場合、
前記孔の前記加熱後の直径は100μm以上とすることが好ましい。
【0014】
加熱後の直径が小さくなると、その分、精度良く孔の直径を計測することが困難となるからである。
【0015】
断面形状に関わらず、本発明において、
前記孔は、前記本体を貫通する貫通孔とすることが好ましい。
【0016】
非貫通孔とする場合、孔の深さおよび孔の形状を精度良く加工することが困難である。これに対し、貫通孔の場合は、精度良く加工しやすい利点がある。
また、貫通孔の場合は、炉内熱量計測素子の軟化が、孔全体にわたって生じるため、表面張力の影響が主として孔の周方向に作用することになり、熱量と変形が良好な相関を保つことができる利点がある。
【0017】
本発明において、
前記孔が、複数形成されていてもよい。
【0018】
こうすることにより、複数の孔の変化に基づいて熱量を計測できるため、精度向上を図ることができる。
複数の孔は、同一形状であってもよいし、異なる形状としてもよい。また、貫通孔と非貫通孔を混在させてもよい。
また、複数の孔は軸方向が平行となるよう配置することが好ましい。こうすることにより、容易に孔を加工することができる利点がある。
【0019】
本発明は、種々の温度範囲の計測に適用可能であるが、
1300℃以上の温度範囲における前記熱量を計測するための炉内熱量計測素子であり、
前記素材は、石英であるものとしてもよい。
【0020】
石英が軟化する温度範囲として、1300℃以上が計測対象となる。
石英は、かかる温度範囲で軟化するとともに、その変形が安定して生じるため、本発明の素材として最適である。
【0021】
前記石英は不純物濃度が1重量%以下であることが好ましい。
【0022】
不純物濃度が高い場合には、軟化しすぎて孔の形状が崩れてしまうおそれがあるからである。
【0023】
本発明は、上述の炉内熱量計測素子を用いた炉内熱量計測方法として構成することもできる。
即ち、加熱炉内の熱量を計測する炉内熱量計測方法であって、
加熱により軟化する素材で形成された炉内熱量計測素子を用意する工程と、
前記炉内熱量計測素子を、前記加熱炉内に配置する工程と、
前記加熱炉の過熱による前記炉内熱量計測素子の所定の変形量を計測する工程と、
前記変形量に基づいて、前記炉内熱量を算定する工程とを備える炉内熱量計測方法である。
【0024】
炉内熱量計測素子は、加熱時の熱量に応じて変形するため、その変形量に基づいて炉内熱量を計測することができる。
変形量から炉内熱量を算定する方法は、両者の相関に基づいて予め設定された計算式またはデータベースなどを用いる方法とすることができる。
炉内熱量は、温度の時間積分であるから、加熱の温度プロファイルが特定されているときは、変形量から温度を求めてもよい。
【0025】
本発明の炉内熱量計測方法においては、
前記炉内熱量計測素子は、
加熱により軟化する素材で形成された本体と、
前記本体に形成された孔とを備える炉内熱量計測素子であり、
前記変形量は、前記孔の断面の変形を表す指標としてもよい。
【0026】
孔を用いる場合、軟化による影響は、孔の収縮という形で現れるため、断面の変形によって熱量を計測することができる。
断面の変形は、先に説明した通り、断面積、直径など種々のパラメータで計測することができる。
【0027】
本発明の炉内熱量計測方法においては、炉内熱量計測素子で説明したように、
前記炉内熱量計測素子の素材は、石英であり、
1300℃以上の温度範囲における前記熱量を計測するものとしてもよい。
【0028】
また、石英を用いる場合、
前記炉内熱量計測素子を用意する工程は、
(a)石英粉体を含むスラリーを調合する工程と、
(b)前記炉内熱量計測素子の形状に応じた成形型を用意する工程と、
(c)前記成形型に、前記スラリーと硬化剤とを混合して注入し、混合物を硬化させ前記炉内熱量計測素子の形状を有する成形体を形成する工程とを備えてもよい。
【0029】
いわゆるスラリーキャスト法と呼ばれる方法によって、炉内熱量計測素子を製造する態様に相当する。かかる方法によれば、微細な形状も精度良く形成することができる。特に、炉内熱量計測素子に孔を形成する場合、孔に相当する形状のワイヤを成形型内に設置することにより、均一な孔を精度良く形成することが可能となる利点がある。炉内熱量計測の精度は、孔の形成精度に依存する点が大きいため、孔を精度良く形成できることは、計測精度の向上にも大いに資するものである。
【0030】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、炉内熱量計測素子、炉内熱量計測方法としての態様に限らず例えば、炉内熱量の計測結果を反映して加熱を制御する加熱制御方法として構成するなど種々の態様で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】炉内熱量計測素子の構成を示す説明図である。
図2】炉内熱量計測素子の内部構造を示す説明図である。
図3】炉内熱量計測素子の製造工程を示す工程図である。
図4】焼結温度と孔径の変化を示すグラフである。
図5】炉内熱量計測素子による炉内の温度分布の計測結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、炉内熱量計測素子の構成を示す説明図である。炉内熱量計測素子は、加熱炉内の任意の場所に載置され、加熱されると孔に変形が生じるため、この変形に基づいて炉内熱量計測素子が受けた熱量を算定するために用いられる素子である。
【0033】
実施例の炉内熱量計測素子10は、石英で構成されており、直方体の形状をなしている。幅W×長さL×高さHは任意に決めることができるが、本実施例では、約4mm×3mm×2mmとした。
炉内には、図示する状態で載置される。以下、幅W×長さLの平面をそれぞれ上面、底面と称し、幅W×高さHの平面を前面、背面と称し、長さL×高さHの面を側面と称する。
幅方向、厚さ方向の中央付近には、5本の円形断面の貫通孔11~15が側面および上面、底面に平行に形成されている。
貫通孔の断面の直径Dは、本実施例では、0.2mmとした。直径Dは、任意に決めることができるが、直径2mmよりも小さい範囲とすることが好ましい。後述する通り、炉内熱量計測素子は加熱により軟化し、表面張力の作用で貫通孔が変形して、直径Dが小さくなる。表面張力は基本的に表面積を減らそうという力であり、孔の場合、その半径に反比例する。即ち、孔径が小さいほど表面張力が強く働き、粘性の高い低温でも変化が観測可能となる。逆に高温では孔径が変化しすぎないよう孔径を大きくする必要がある。このように計測すべき温度に応じて直径Dを決めることが好ましく、計測精度を確保する観点から、直径Dは2mm以下とすることが好ましいのである。
【0034】
貫通孔11~15は、本実施例では、5本形成している。こうすることにより、5本の直径Dの変化の平均、ばらつきなどを踏まえて解析することにより、計測精度を向上させることができる。貫通孔の本数は、5本よりも少なくてもよいし、多くてもよい。
また、本実施例では、5本の貫通孔11~15は、同一の直径Dとしているが、異なっていても良い。さらには、円形以外の形状を混在させてもよい。
【0035】
図2は、炉内熱量計測素子の内部構造を示す説明図である。左側には、貫通孔12を含む側断面図を示し、右側には、貫通孔12の正面図を示した。
左側に示すように、炉内熱量計測素子10において、加熱前は貫通孔12は、境界線hのように本体内に直線的に形成されている。孔径はDである。
炉内熱量計測素子10を加熱すると、軟化に伴う表面張力の作用によって、貫通孔12は収縮し、右側に示すように孔径D1となる。このとき、本体内では、貫通孔12は、境界線h1のように、中央付近の領域cでは円筒形状を保った状態で収縮するとともに、入口付近の領域a、bでは、若干、屈曲した形に変形する。
本実施例では、炉内熱量計測素子10が受けた熱量を計測するため、円筒形状が保たれている中央付近の領域cにおいて加熱後の孔径D1を計測する。
【0036】
図3は、炉内熱量計測素子の製造工程を示す工程図である。炉内熱量計測素子を、スラリーキャスト法で製造する工程を示した。
スラリーキャスト法では、まず、スラリーの調合を行う(ステップS1)。この工程では、石英粉体、溶媒、分散剤および硬化性樹脂を含むガラス原料溶液をボールミルで所定時間かけて混合する。溶媒としては、蒸留水などを用いることができる。このガラス原料溶液には、種々の添加物、不純物が含まれていてもよい。
【0037】
次に、調合したスラリーに硬化剤を添加し、成形型に流し込んで硬化させる(ステップS2)。炉内熱量計測素子10の貫通孔11~15を形成するためのワイヤ等を成形型にセットした上でスラリーを流し込み、硬化させればよい。硬化のためには、室温下で放置すればよいが、加熱しても差し支えない。
【0038】
成形体が硬化すると、これを成形型から脱離させ(ステップS3)、乾燥させることで成形体中の溶媒を除去する(ステップS4)。また、その後、脱脂により、成形体中の硬化性樹脂を除去する。脱脂は、種々の条件で行うことができるが、例えば、850℃程度の温度条件下で行うものとしてもよい。
【0039】
こうして脱脂まで完了した成形体に対して、緻密化処理を施す(ステップS6)。緻密化処理とは、1000℃以上で熱処理を施し、脱脂で成形体の内部に生じた微細な隙間を無くす処理である。この処理により、成形体の一部がガラス化することもある。なお、緻密化の処理は、必要なければ省略しても差し支えない。
以上の工程により、炉内熱量計測素子10を製造することができる。スラリーキャスト法を用いることにより、微細な炉内熱量計測素子10であっても精度良く形成することができる利点がある。
【0040】
本実施例では、炉内熱量計測素子10の不純物濃度が1重量%以下となる条件で上記製造を行った。
【0041】
図4は、焼結温度と孔径の変化を示すグラフである。炉内熱量計測素子10を加熱炉内に載置し、所定の温度プロファイルで加熱をした後、貫通孔11~15の孔径D1を計測したものである。実施例の温度プロファイルでは、加熱後、1550℃で30分加熱し、その後、一定の時間で冷却をするというプロファイルを採用した。
この実験では、加熱炉内で炉内熱量計測素子10を載置した部位の温度を、熱電対で計測した。図4の横軸の焼成温度は、熱電対による計測結果である。
図示する通り、焼結温度と孔径D1との間には、強い負の相関関係が確認される。この計測結果を近似する数式を求めれば、以後、加熱後の孔径を計測することにより、それを焼結温度に換算することが可能となる。実施例の炉内熱量計測素子10は、加熱によって受けた熱量を計測するものであるが、温度プロファイルが既知で一定の場合には、温度を計測することも可能となる。
【0042】
図5は、炉内熱量計測素子による炉内の温度分布の計測結果を示す説明図である。図5(a)には、炉内の平面図であり、炉内熱量計測素子10の配置を示している。図示するように、炉の最も奥の位置P1、前後方向のほぼ中央左側の位置P2、中央の位置P3、右側の位置P4および炉の扉付近の位置P5の5点を計測対象とした。
図5(b)は、上述した5点における炉内熱量計測素子10の加熱後の孔径D1を示している。各測定値は、複数の貫通孔の平均値を示した。炉内には、複数の段が設けられており、孔径DM1は上方の段の結果、孔径DM2は下方の段の結果を表している。
図5(c)は、図5(b)に示した結果を、図4で得られた相関に基づいて、温度に換算した結果である。温度T1は上方の段の結果、温度T2は下方の段の結果を表している。
この結果によれば、炉内の左右方向の中央付近の位置(P1、P3、P5)は、左右の位置(P2、P4)よりも相対的に温度が低くなる温度分布となっていることが確認できる。実施例の加熱炉は、左右にヒーターを備えるものであるため、自然な結果であると考えられる。
また、炉内の上方の温度T1は、下方の温度T2よりも相対的に低くなるということも確認された。ヒーターの配置および炉内の対流などが影響しているものと思われる。
このように、本実施例の炉内熱量計測素子10を用いれば、加熱炉内の温度分布を比較的容易に精度良く計測することができる。
【0043】
以上、本発明の実施例について説明した。本実施例を用いれば、精度良く簡易に加熱炉内の温度分布を計測できる利点がある。
本発明は、上述した特徴の全てを必ずしも備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、上記実施例に限らず、種々の変形例を構成可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、加熱炉内の加熱による熱量を計測する素子および方法に関する。
【符号の説明】
【0045】
10 炉内熱量計測素子
11、12、13、14、15 貫通孔


図1
図2
図3
図4
図5