(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017008
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】濡れ性評価方法および濡れ性評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 13/00 20060101AFI20240201BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N13/00
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119362
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 颯登
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA01
2F065AA58
2F065BB01
2F065BB22
2F065DD03
2F065FF04
2F065HH12
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ24
2F065QQ25
2F065QQ29
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】画像解析による、試験液の残存量の定量化を可能とする濡れ性評価方法を提供する。
【解決手段】濡れ性評価方法は、試験片の表面に試験液を帯状に付与し、表面上の帯状領域に複数の微細な液滴を形成する工程と、試験片の表面をカメラで撮影し、それぞれが帯状領域を含む時系列画像を取得する工程と、時系列画像に基づいて、帯状領域に形成された複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する工程と、投影面積の時間変化率と、試験液の表面張力とに基づいて表面の濡れ性を評価する工程とを包含する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の表面に試験液を帯状に付与し、前記表面上の帯状領域に複数の微細な液滴を形成する工程と、
前記試験片の前記表面をカメラで撮影し、それぞれが前記帯状領域を含む時系列画像を取得する工程と、
前記時系列画像に基づいて、前記帯状領域に形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する工程と、
前記投影面積の時間変化率と、前記試験液の表面張力とに基づいて前記表面の濡れ性を評価する工程と、
を包含する濡れ性評価方法。
【請求項2】
前記表面を照明光で照射する工程をさらに包含し、
前記表面は、拡散反射特性を有し、前記照明光の前記表面への入射角は71°以上90°未満の範囲内にあり、
前記カメラは、前記表面の法線方向に配置される、請求項1に記載の濡れ性評価方法。
【請求項3】
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記帯状領域の両端領域および中央領域のそれぞれについて、前記表面の濡れ性を評価することを包含する、請求項1に記載の濡れ性評価方法。
【請求項4】
前記試験液は着色されており、
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記試験液の色に対応した、前記時系列画像の色情報に基づいて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、請求項1に記載の濡れ性評価方法。
【請求項5】
前記時系列画像に含まれる各画像のR値、G値およびB値のそれぞれの平均値が256階調で25となるように、露光時間およびホワイトバランスを含む前記カメラの設定を調整する工程をさらに包含する、請求項1に記載の濡れ性評価方法。
【請求項6】
前記時系列画像に動体検出を適用することによって、前記時系列画像の中から、前記試験液を前記表面に付与している間に取得した第1画像群、前記試験液の付与が終了した直後に取得した第2画像、および前記試験液の付与が終了した後、所定時間後において取得した第3画像を抽出する前処理を行い、前記第1画像群、前記第2画像および前記第3画像を含む前処理後の時系列画像を生成する工程をさらに包含する、請求項1に記載の濡れ性評価方法。
【請求項7】
前記試験液の付与の開始前に取得した第4画像と、前記第2画像との差分画像を生成し、
前記差分画像を構成する行方向に沿った複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値を求め、
前記複数ラインのそれぞれの前記最大値に基づいて、前記差分画像中の前記帯状領域の位置を決定し、
前記帯状領域の位置に基づいて、前記前処理後の時系列画像に含まれる各画像から前記帯状領域の部分を抽出してトリミング画像群を生成する工程をさらに包含する、請求項6に記載の濡れ性評価方法。
【請求項8】
前記トリミング画像群を生成する工程は、
前記トリミング画像群に含まれる各トリミング画像の領域を、前記帯状領域が延びる方向に複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記トリミング画像群のうちの、前記試験液の付与が終了した直後の前記帯状領域を含む第1トリミング画像、および前記試験液の付与が終了した後、前記所定時間後における前記帯状領域を含む第2トリミング画像を特定することを包含する、請求項7に記載の濡れ性評価方法。
【請求項9】
前記第1トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から、前記第1色と異なる第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第1強調画像を生成し、
前記第2トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの前記第1色の画素値から前記第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第2強調画像を生成する工程をさらに包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、前記第1強調画像および前記第2強調画像を用いて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、請求項8に記載の濡れ性評価方法。
【請求項10】
前記第1トリミング画像と、前記第4画像に対応するトリミング画像との更なる差分画像を生成し、
前記更なる差分画像を構成する行方向に沿った複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値を求め、
前記複数ラインのそれぞれの前記最大値に基づいて、前記更なる差分画像中の前記帯状領域の位置を決定し、
前記帯状領域の位置に基づいて、前記第1トリミング画像から前記帯状領域の部分を抽出して第3トリミング画像を生成し、かつ、前記第2トリミング画像から前記帯状領域の部分を抽出して第4トリミング画像を生成し、
前記第3トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から、前記第1色と異なる第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第1強調画像を生成し、
前記第4トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの前記第1色の画素値から前記第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第2強調画像を生成する工程をさらに包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、前記第1強調画像および前記第2強調画像を用いて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、請求項8に記載の濡れ性評価方法。
【請求項11】
前記第1色は青色であり、前記第2色は赤色である、請求項9に記載の濡れ性評価方法。
【請求項12】
前記第1強調画像および前記第2強調画像を生成する工程は、
前記第1強調画像および前記第2強調画像のそれぞれに2値化処理を適用して、前記第1強調画像および前記第2強調画像のそれぞれを前記帯状領域と前記帯状領域以外の領域とに分割することを包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、
前記第1強調画像における前記帯状領域の第1面積、および前記第2強調画像における前記帯状領域の第2面積を求め、
前記第1面積および前記第2面積に基づいて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、請求項9に記載の濡れ性評価方法。
【請求項13】
前記第1面積および前記第2面積を求める工程は、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記第1強調画像における前記帯状領域が含む画素の数を算出し、前記ブロックごとに算出した画素の数の第1積算値を求め、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記第2強調画像における前記帯状領域が含む画素の数を算出し、前記ブロックごとに算出した画素の数の第2積算値を求めることを包含し、
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記第1積算値に対する前記第2積算値の比率と、前記試験液の表面張力に関連付けされた判定基準とを比較することによって、前記表面の濡れ性を評価することを含む、請求項12に記載の濡れ性評価方法。
【請求項14】
前記所定時間は2秒であり、
前記投影面積の時間変化率は、2秒間に20%以下である、請求項6から8のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【請求項15】
前記試験片はアルミニウム圧延板である、請求項1から13のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【請求項16】
試験片の表面に、表面張力が異なる複数種類の試験液を帯状に付与し、前記表面上の複数の帯状領域のそれぞれに複数の微細な液滴を形成する工程と、
前記試験片の前記表面をカメラで撮影し、それぞれが前記複数の帯状領域を含む時系列画像のデータを取得する工程と、
前記時系列画像に基づいて、前記複数の帯状領域のそれぞれに形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する工程と、
前記複数の帯状領域のそれぞれに前記複数の微細な液滴を形成した直後の前記液滴の投影面積に対する、前記複数の微細な液滴を形成した後、所定時間後における前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化率が判定基準を下回る帯状領域に付与された試験液の表面張力に基づいて前記表面の濡れ性を評価する工程と、
を包含する濡れ性評価方法。
【請求項17】
試験片の表面を照明光で照射する照明装置と、
前記試験片の前記表面を撮影するカメラと、
前記カメラから出力される時系列画像のデータを処理し、前記表面の濡れ性を測定する測定装置と、
を備え、
前記測定装置は、前記表面に試験液を帯状に付与することによって複数の微細な液滴が形成された前記表面上の帯状領域を撮影したときに前記カメラから出力される前記時系列画像に基づいて、前記帯状領域に形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定し、
前記投影面積の時間変化率と、前記試験液の表面張力とに基づいて前記表面の濡れ性を評価するように構成されている、濡れ性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濡れ性評価方法および濡れ性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な工業材料が様々な技術分野で用いられている。工業材料は、種々の規格(例えば、JISや、ISO、ASTM)に従って分類・試験される。試験項目には、濡れ性評価試験が含まれ得る。濡れ性評価試験では、表面張力が異なる種々の試験液が試験片の表面に付与され、所定時間の経過後の試験液の状態が肉眼で判定される。例えば、JIS K 6768-1999の規格に準拠した濡れ性評価試験の中では、試験液を試験片の表面に付与してから2秒後の液膜の状態で表面張力の判定を行うことが規定されている。2秒後の試験片の表面に例えば80%の試験液の残存が肉眼で確認できれば、試験は合格と判定される。
【0003】
特許文献1は、基板の表面上を濡れ広がる液滴をカメラで撮影し、撮影画像から液滴の平面上の面積を計測し、計測した面積に基づいて液滴の体積を求める液滴量計測方法を開示している。この方法では、基板表面上に濡れ広がった液滴の面積と、液滴の体積との相関関係を予め求めておき、この相関関係を参照することによって、計測した液滴の面積に基づき液滴の体積が求まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状行われている濡れ性評価試験は官能試験である。官能試験では、例えば、試験液を試験片の表面に付与してから2秒後の液膜の状態を作業者が記憶しておく必要があるが、これは困難を伴う。また、作業者が感覚で時間を計るために、時間の計測は不正確になりがちである。これらの結果として、作業者または試験ごとに、試験結果にばらつきが生じ易くなる。このため、意図せずに試験結果の改ざんを招くおそれもある。したがって、試験結果のばらつきの低減、または改ざんの余地をなくすことが求められる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、試験液を付与した試験片の表面の時系列画像のデータを解析することより、試験液の残存量の定量化を可能とする濡れ性評価方法および濡れ性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段が提供される。
【0008】
[項目1]
試験片の表面に試験液を帯状に付与し、前記表面上の帯状領域に複数の微細な液滴を形成する工程と、
前記試験片の前記表面をカメラで撮影し、それぞれが前記帯状領域を含む時系列画像を取得する工程と、
前記時系列画像に基づいて、前記帯状領域に形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する工程と、
前記投影面積の時間変化率と、前記試験液の表面張力とに基づいて前記表面の濡れ性を評価する工程と、
を包含する濡れ性評価方法。
【0009】
[項目2]
前記表面を照明光で照射する工程をさらに包含し、
前記表面は、拡散反射特性を有し、前記照明光の前記表面への入射角は71°以上90°未満の範囲内にあり、
前記カメラは、前記表面の法線方向に配置される、項目1に記載の濡れ性評価方法。
【0010】
[項目3]
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記帯状領域の両端領域および中央領域のそれぞれについて、前記表面の濡れ性を評価することを包含する、項目1または2に記載の濡れ性評価方法。
【0011】
[項目4]
前記試験液は着色されており、
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記試験液の色に対応した、前記時系列画像の色情報に基づいて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、項目1から3のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0012】
[項目5]
前記時系列画像に含まれる各画像のR値、G値およびB値のそれぞれの平均値が256階調で25となるように、露光時間およびホワイトバランスを含む前記カメラの設定を調整する工程をさらに包含する、項目1から4のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0013】
[項目6]
前記時系列画像に動体検出を適用することによって、前記時系列画像の中から、前記試験液を前記表面に付与している間に取得した第1画像群、前記試験液の付与が終了した直後に取得した第2画像、および前記試験液の付与が終了した後、所定時間後において取得した第3画像を抽出する前処理を行い、前記第1画像群、前記第2画像および前記第3画像を含む前処理後の時系列画像を生成する工程をさらに包含する、項目1から5のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0014】
[項目7]
前記試験液の付与の開始前に取得した第4画像と、前記第2画像との差分画像を生成し、
前記差分画像を構成する行方向に沿った複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値を求め、
前記複数ラインのそれぞれの前記最大値に基づいて、前記差分画像中の前記帯状領域の位置を決定し、
前記帯状領域の位置に基づいて、前記前処理後の時系列画像に含まれる各画像から前記帯状領域の部分を抽出してトリミング画像群を生成する工程をさらに包含する、項目6に記載の濡れ性評価方法。
【0015】
[項目8]
前記トリミング画像群を生成する工程は、
前記トリミング画像群に含まれる各トリミング画像の領域を、前記帯状領域が延びる方向に複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記トリミング画像群のうちの、前記試験液の付与が終了した直後の前記帯状領域を含む第1トリミング画像、および前記試験液の付与が終了した後、前記所定時間後における前記帯状領域を含む第2トリミング画像を特定することを包含する、項目7に記載の濡れ性評価方法。
【0016】
[項目9]
前記第1トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から、前記第1色と異なる第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第1強調画像を生成し、
前記第2トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの前記第1色の画素値から前記第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第2強調画像を生成する工程をさらに包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、前記第1強調画像および前記第2強調画像を用いて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、項目8に記載の濡れ性評価方法。
【0017】
[項目10]
前記第1トリミング画像と、前記第4画像に対応するトリミング画像との更なる差分画像を生成し、
前記更なる差分画像を構成する行方向に沿った複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値を求め、
前記複数ラインのそれぞれの前記最大値に基づいて、前記更なる差分画像中の前記帯状領域の位置を決定し、
前記帯状領域の位置に基づいて、前記第1トリミング画像から前記帯状領域の部分を抽出して第3トリミング画像を生成し、かつ、前記第2トリミング画像から前記帯状領域の部分を抽出して第4トリミング画像を生成し、
前記第3トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から、前記第1色と異なる第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第1強調画像を生成し、
前記第4トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの前記第1色の画素値から前記第2色の画素値を差し引き、前記1色を強調した第2強調画像を生成する工程をさらに包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、前記第1強調画像および前記第2強調画像を用いて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、項目8に記載の濡れ性評価方法。
【0018】
[項目11]
前記第1色は青色であり、前記第2色は赤色である、項目9または10に記載の濡れ性評価方法。
【0019】
[項目12]
前記第1強調画像および前記第2強調画像を生成する工程は、
前記第1強調画像および前記第2強調画像のそれぞれに2値化処理を適用して、前記第1強調画像および前記第2強調画像のそれぞれを前記帯状領域と前記帯状領域以外の領域とに分割することを包含し、
前記投影面積の時間変化を測定する工程は、
前記第1強調画像における前記帯状領域の第1面積、および前記第2強調画像における前記帯状領域の第2面積を求め、
前記第1面積および前記第2面積に基づいて前記投影面積の時間変化率を求めることを包含する、項目9から11のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0020】
[項目13]
前記第1面積および前記第2面積を求める工程は、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記第1強調画像における前記帯状領域が含む画素の数を算出し、前記ブロックごとに算出した画素の数の第1積算値を求め、
前記複数のブロックに含まれるブロックごとに、前記第2強調画像における前記帯状領域が含む画素の数を算出し、前記ブロックごとに算出した画素の数の第2積算値を求めることを包含し、
前記表面の濡れ性を評価する工程は、前記第1積算値に対する前記第2積算値の比率と、前記試験液の表面張力に関連付けされた判定基準とを比較することによって、前記表面の濡れ性を評価することを含む、項目12に記載の濡れ性評価方法。
【0021】
[項目14]
前記所定時間は2秒であり、
前記投影面積の時間変化率は、2秒間に20%以下である、項目6から8のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0022】
[項目15]
前記試験片はアルミニウム圧延板である、項目1から14のいずれかに記載の濡れ性評価方法。
【0023】
[項目16]
試験片の表面に、表面張力が異なる複数種類の試験液を帯状に付与し、前記表面上の複数の帯状領域のそれぞれに複数の微細な液滴を形成する工程と、
前記試験片の前記表面をカメラで撮影し、それぞれが前記複数の帯状領域を含む時系列画像のデータを取得する工程と、
前記時系列画像に基づいて、前記複数の帯状領域のそれぞれに形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する工程と、
前記複数の帯状領域のそれぞれに前記複数の微細な液滴を形成した直後の前記液滴の投影面積に対する、前記複数の微細な液滴を形成した後、所定時間後における前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化率が判定基準を下回る帯状領域に付与された試験液の表面張力に基づいて前記表面の濡れ性を評価する工程と、
を包含する濡れ性評価方法。
【0024】
[項目17]
試験片の表面を照明光で照射する照明装置と、
前記試験片の前記表面を撮影するカメラと、
前記カメラから出力される時系列画像のデータを処理し、前記表面の濡れ性を測定する測定装置と、
を備え、
前記測定装置は、前記表面に試験液を帯状に付与することによって複数の微細な液滴が形成された前記表面上の帯状領域を撮影したときに前記カメラから出力される前記時系列画像に基づいて、前記帯状領域に形成された前記複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定し、
前記投影面積の時間変化率と、前記試験液の表面張力とに基づいて前記表面の濡れ性を評価するように構成されている、濡れ性評価装置。
【0025】
本開示の包括的または具体的な態様は、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、もしくはコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体、またはこれらの任意の組み合わせによって実現され得る。コンピュータが読み取り可能な記憶媒体は、揮発性の記憶媒体を含んでいてもよいし、不揮発性の記憶媒体を含んでいてもよい。装置は、複数の装置で構成されていてもよい。装置が2つ以上の装置で構成される場合、当該2つ以上の装置は、1つの機器内に配置されてもよいし、分離した2つ以上の機器内に分かれて配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示の例示的な実施形態は、試験液を付与した試験片の表面の時系列画像のデータを解析することより、試験液の残存量の定量化を可能とする濡れ性評価方法および濡れ性評価装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る評価装置の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、測定装置の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、試験片に対するカメラおよび照明装置の配置関係を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に係る濡れ性評価方法の例の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、帯状領域を含む試験片の表面の画像の例を示す図である。
【
図6】
図6は、カメラが撮影する画像の例を示す図である。
【
図7】
図7は、カメラによって試験片の表面を撮影して得られた時系列画像に含まれる画像群の例をフレームごとに示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の第1実装例による濡れ性評価の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、フレーム間差分法による動体検出を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第1画像群、第2画像、第3画像および第4画像を含む13フレーム分の画像の例を示す図である。
【
図11】
図11は、前処理後の時系列画像に含まれる各画像から帯状領域の部分を抽出する方法を説明するための図である。
【
図12A】
図12Aは、画像中における帯状領域の位置の決定に用いるアルゴリズムを説明するための図である。
【
図12B】
図12Bは、画像中における帯状領域の位置の決定に用いるアルゴリズムを説明するための図である。
【
図13】
図13は、画像中における帯状領域の位置の決定に用いるアルゴリズムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、第1画像群、第2画像、第3画像および第4画像に対応するトリミング画像群を示す図である。
【
図15】
図15は、各トリミング画像の領域を分割する複数のブロックを示す図である。
【
図16】
図16は、トリミング画像を構成する画素群のRGB値のカラー画像(上側)、B値からR値を差し引き、青色を強調した強調画像(中央)、および強調画像の2値画像(下側)の例を示す図である。
【
図17】
図17は、分割した16ブロックのそれぞれに対し、第1強調画像、第1強調画像に対応する2値画像、第2強調画像、および第2強調画像に対応する2値画像の例を示す図である。
【
図18】
図18は、本開示の第2実装例による濡れ性評価の処理手順を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、画像の下側領域に形成された4つの帯状領域の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の実施形態に係る濡れ性評価方法および濡れ性評価装置を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成または処理に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。また、実質的に同一の構成または処理に同一の参照符号を付す場合がある。
【0029】
以下の実施形態は例示であり、本開示の実施形態に係る濡れ性評価方法および濡れ性評価装置は、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序などは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0030】
[1.濡れ性評価装置の構成例]
先ず、
図1を参照して、本開示の実施形態に係る濡れ性評価装置(以下、「評価装置」と記載する。)の構成例を説明する。
図1に、本開示の実施形態に係る評価装置の構成例を示す。
図1には、参考のために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を示している。
【0031】
図示する例における評価装置100は、本体110、カメラ120、照明装置130および測定装置140を備える。本体110は、台111と、支柱112と、支持部113a、113bとを有する。台111は、試験片Sを載せるための、XZ平面に沿って広がる設置面111aを有する。支柱112は、設置面111aに固定され、Y軸方向に延びる角柱の部材である。支持部113a、113bのそれぞれは、支柱112に固定され、X軸方向に延びる角柱の部材である。支持部113a、113bは、高さ方向(Y軸方向)において支柱112の異なる位置に固定される。設置面111aを基準として、支持部113aは支持部113bよりも高くに位置する。支持部113aはカメラ120を支持し、支持部113bは照明装置130を支持する。
【0032】
支持部113a、113bのそれぞれを、例えば支柱112に沿って高さ方向に摺動させることが可能であり、それぞれの支持部の高さを調整することができる。カメラ120は、支持部113aに沿ってX軸方向に摺動可能に支持部113aによって支持され得る。同様に、照明装置130は、支持部113bに沿ってX軸方向に摺動可能に支持部113bによって支持され得る。試験片Sの表面に対する照明装置130の傾斜角度(
図3を参照)が調整され得る。
【0033】
カメラ120は、試験片Sの表面を撮影する撮像装置である。カメラ120は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのイメージセンサを備える。カメラ120は、さらに、一つ以上のレンズを含む光学系、および信号処理回路を備え得る。カメラ120は、試験片Sの表面を撮影して、時系列画像のデータを生成する。カメラ120は、例えば、3フレーム/秒(fps: frames per second)以上のフレームレートで動画を撮影することができる。
【0034】
照明装置130は、例えばLED(light emitting diode)光源を有し、白色光を出射する。照明装置130は、試験片Sの表面を照明光で照射する。
【0035】
測定装置140は、カメラ120から出力される時系列画像のデータを処理し、表面の濡れ性を測定する。測定装置140は、(i)表面に試験液を帯状に付与することによって複数の微細な液滴が形成された表面上の帯状領域を撮影したときにカメラ120から出力される時系列画像に基づいて、帯状領域に形成された複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定し、(ii)投影面積の時間変化率と、試験液の表面張力とに基づいて表面の濡れ性を評価するように構成されている。
【0036】
図2に、測定装置140の概略的なハードウェア構成のブロック図を例示する。測定装置140の例は、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータまたはタブレットコンピュータである。測定装置140は、入力装置141、表示装置142、通信装置143、記憶装置144、プロセッサ145、ROM(Read Only Memory)146、およびRAM(Random Access Memory)147を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続される。プロセッサ145が少なくとも1つの処理を実行するためのソフトウェア(またはファームウェア)が、ROM146に実装され得る。そのようなソフトウェアは、例えば光ディスクなど、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、パッケージソフトウェアとして販売され、または、電気通信回線(例えばインターネット)を介してユーザに提供され得る。
【0037】
入力装置141は、ユーザからの指示をデータに変換してコンピュータに入力するための装置である。入力装置141の例は、キーボード、マウスまたはタッチパネルである。表示装置142の例は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。
【0038】
通信装置143は、カメラ120および照明装置130と通信したり、ネットワークを介して端末装置と通信したりするための通信モジュールである。例えば、通信装置143は、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などの通信規格に準拠した有線通信を行うことができる。通信装置143は、例えば、Bluetooth(登録商標)規格もしくはWi-Fi規格に準拠した無線通信、または、3G、4Gもしくは5Gなどのセルラー移動体通信を行うことができる。
図1には、測定装置140と、カメラ120または照明装置130とが通信ケーブルで接続された例を示している。ただし、照明装置130は、例えば照明用の電源ユニットに接続されてもよい。
【0039】
記憶装置144は、例えば、磁気記憶装置または半導体記憶装置である。磁気記憶装置の例は、ハードディスクドライブ(HDD)である。半導体記憶装置の例は、ソリッドステートドライブ(SSD)である。
【0040】
プロセッサ145は、半導体集積回路であり、中央演算処理装置(CPU)を含む。プロセッサ145は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラによって実現され得る。プロセッサ145は、少なくとも1つの処理を実行するための命令群を記述した、ROM146に格納されるコンピュータプログラムを逐次実行し、所望の処理を実現する。
【0041】
測定装置140は、プロセッサ145に加えてまたは代えて、CPUを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ASSP(Application Specific Standard Product)、または、これら回路の中から選択される2つ以上の回路の組み合わせを備え得る。
【0042】
ROM146は、例えば、書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)、または読み出し専用のメモリである。ROM146は、プロセッサ145の動作を制御するプログラムを記憶している。ROM146は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。複数の集合体の一部は取り外し可能なメモリであってもよい。
【0043】
RAM147は、ROM146に格納された制御プログラムをブート時に一旦展開するための作業領域を提供する。RAM147は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
【0044】
本開示の実施形態における試験片Sの材料はアルミニウム合金である。言い換えると、試験片はアルミニウム圧延板である。ただし、試験片の材料はこれに限定されず、他の合金材料、または高分子材料など、さまざまな材料であり得る。
【0045】
図3に、試験片Sに対するカメラ120および照明装置130の配置関係を説明するための模式図を示す。図示する例における試験片Sの幅方向(Z軸方向)における長さd1は240mm程度である。試験片SのX軸方向(
図1を参照)における長さは1m~2m程度である。試験片Sの幅方向においてカメラ120の画角に収まるように試験片Sは台111上に置かれる。
【0046】
カメラ120は、評価試験を行う作業者が映り込まない位置に配置され、かつ、評価試験の作業を妨げない位置に配置されることが好ましい。図示する例では、カメラ120は、試験片Sの表面の法線方向に配置される。法線方向はY軸方向に概ね一致する。カメラ120は、カメラ120の光軸Lが試験片Sのほぼ真ん中を貫く位置に配置される。カメラ120から試験片Sの表面までの高さh1は、例えば500mm以上700m以下である。
【0047】
照明装置130は、試験片Sの表面で鏡面反射した反射光がカメラ120に直接入射しない位置に配置され、かつ、その反射光が作業者の目に入らない位置に配置されることが好ましい。図示する例では、照明装置130からカメラ120の光軸Lまでの距離d2は、例えば300mm以上400mm以下である。照明装置130から台111の設置面111aまでの高さh2は、例えば100mm以上150mm以下である。設置面111aに対する照明装置130の角度αは、例えば40°~50°の範囲に設定され得る。
【0048】
試験片Sが光を反射しない場合、照明装置130から出射される光(照明光)の、試験片Sの表面への入射角θiは、0°~90°の任意の角度であり得る。本開示の実施形態における試験片Sはアルミニウム圧延板であり、試験片Sの表面は拡散反射特性を有する。この場合には光の反射があるために、入射角θiは、例えば5.7°以上90°未満であり、好ましくは例えば71°以上90°未満である。入射角θiをこのような範囲とすることによって、反射光による撮影への影響を低減できる。
【0049】
[2.濡れ性評価方法の例]
次に、
図1および
図4を参照して、本開示の実施形態に係る濡れ性評価方法(以下、「評価方法」と記載する。)の例の概要を説明する。
【0050】
図4に、評価方法の例の手順の概要を説明するためのフローチャートを示す。本開示の実施形態に係る評価方法は、ステップS110~S170の処理を含む。当該評価方法は、前述したJIS K 6768-1999の規格に準拠する。
【0051】
先ず、試験片Sを評価装置100の台111上に設置し、照明装置130をオンにすることによって、試験片Sの表面を照明光で照射する(ステップS110)。
【0052】
次に、試験液の情報を、例えば測定装置140に接続されたバーコードリーダで読み取る(ステップS120)。試験液の情報は、表面張力またはぬれ張力(mN/m)の値を含む。例えば、試験液の情報を符号化したバーコードや、2次元バーコードを記載したラベルが試験液の瓶に付される。この情報をバーコードリーダで読み取ることで、試験液の表面張力の情報を測定装置140に与えることができる。一般の試験液は着色されている。試験液は、例えば青色に着色される。
【0053】
図1に示すように、本開示の実施形態では、試験片Sの表面の領域を3つの領域に分割し、それぞれ、第1領域S1、第2領域S2および第3領域S3と呼ぶこととする。第2領域S2は、試験片Sの中央に位置する中央領域である。第1領域S1と第3領域S3とは、第2領域S2の両側に位置する両端領域である。第1領域S1、第2領域S2および第3領域S3のそれぞれにおいて濡れ性が個別に評価され、試験結果の合否が判定される。すべての領域における試験結果に基づいて試験片Sの濡れ性が総合的に評価される。
【0054】
次に、測定装置140の実行キーを押して、時系列画像の取得を開始する(ステップS130)。測定装置140とカメラ120とは通信可能に接続されており、カメラ120は、作業者による実行キーの押下に応答して、試験片Sの表面の撮影を開始する。これにより、カメラ120は、それぞれが試験片Sの表面を含む時系列画像を取得する。
【0055】
次に、試験液を試験片Sの表面に帯状に付与する(ステップS140)。最初に、例えば試験片Sの第1領域S1(
図1を参照)の表面に試験液を帯状に付与する。試験液の付与は、例えば脱脂綿を用いて行われる。試験液の付与は、作業者によって手作業で行われてもよいし、例えば専用の装置またはロボットを用いて自動で行われてもよい。試験液は、複数の微細な液滴を含む。このため、試験液の付与後、帯状領域が脱脂綿の軌跡に沿って表面上に形成される。試験片Sの表面上の帯状領域に複数の微細な液滴が形成される。測定装置140の実行キーを押してから所定時間が経過した後、カメラ120に撮影を終了させるように測定装置140はプログラムされている。あるいは、カメラ120は、作業者による実行キーの押下に応答して、試験片Sの表面の撮影を終了するようにしてもよい。本開示の実施形態における所定時間は2秒である。ただし、所定時間はこれに限定されず任意であり得る。カメラ120は、撮影の終了まで、それぞれが帯状領域を含む時系列画像を取得する。
【0056】
図5に、帯状領域を含む試験片Sの表面の画像の例を示す。図示する例における画像は、試験片Sの表面に形成された4つの帯状領域10a~10dを含む。4つの帯状領域10a~10dには、それぞれ、表面張力が異なる4種類の試験液の複数の微細な液滴が形成されている。図示する例における撮影画像の縦・横のサイズは、それぞれ1536画素および2048画素である。ただし、画像のサイズはこれに限定されず任意である。
【0057】
図6に、カメラ120が撮影する画像の例を示す。図示するように、画像または画角を上下に2分割し、それぞれ、上側領域Saおよび下側領域sbと呼ぶ。上側領域Saは、試験片Sの表面での反射光の影響を受け、その結果、後述する画像解析の対象とすることが困難となる部分である。そのため、本開示の実施形態では、カメラ120によって取得された画像のうちの、下側領域sbの部分だけが画像解析の対象とされる。画像に含まれる試験片Sの左右方向の長さは300mm~350mm程度であり、上下方向の長さは、
図3に示す長さd1に相当する。画像の下側領域sbに含まれる試験片Sの上下方向の長さは、
図3に示す長さd3に相当する。長さd3は長さd1の例えば半分程度であり、例えば120mm程度である。図示する例における画像の下側領域sbは、320mm×120mm程度のサイズの試験片Sの表面を含んでいる。
【0058】
下側領域sbの画像は、帯状領域10、脱脂綿20、および、脱脂綿20を把持する作業者の手の一部30を含む。脱脂綿20および作業者の手の一部30のそれぞれの領域の輝度は他の領域の輝度よりも相対的に高い。
【0059】
次に、時系列画像のデータに基づいて、試験片Sの表面の濡れ性を評価する(ステップS150)。時系列画像に基づいて、帯状領域に形成された複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定し、かつ、投影面積の時間変化率と、試験液の表面張力とに基づいて表面の濡れ性を評価する。濡れ性を評価するステップは、試験液の色に対応した、時系列画像の色情報に基づいて投影面積の時間変化率を求めることを含み得る。画像解析による評価方法のアルゴリズムについては、後で詳しく説明する。
【0060】
濡れ性の評価結果が合格であれば(ステップS160のyes)、手順を終了し、濡れ性の評価結果が不合格であれば(ステップS160のno)、試験液を変更し(ステップS170)、ステップS120の処理に戻る。表面張力が高い試験液から順番に付与され、評価される。投影面積の時間変化率が所与の割合に等しくなるか、あるいは下回ると、評価結果は合格となり、その試験液の表面張力が濡れ性評価の試験結果となる。本開示の実施形態における所与の割合は、例えば2秒間に20%である。つまり、投影面積の時間変化率が20%を下回ると、評価試験は終了する。一方、投影面積の時間変化率が20%を上回ると、試験結果は不合格となり、その試験液を、表面張力がより低い試験液に変更する。表面張力が小さいと濡れ易く、その結果、投影面積の時間変化率は小さくなる。このように、所与の割合を判定基準として、更なる試験液の付与の要否が決定される。評価結果が合格になるまで、ステップS120~S170の処理が繰り返し実行される。
【0061】
カメラ120の設定例(撮影条件)として、本開示の実施形態に係る評価方法は、時系列画像に含まれる各画像のR値、G値およびB値のそれぞれの平均値が256階調で所定値となるように、カメラ120の設定を調整する工程をさらに包含し得る。後述するように、カメラ120から出力される時系列画像は、カラー画像である。カメラ120の設定は、例えば露光時間およびホワイトバランスを含む。所定値の例は、256階調で25である。このような撮影条件下で撮影することで、撮影画像における白とびが低減され、撮影画像の画像解析の精度が向上し得る。
【0062】
上記のステップS110~S170に従って、試験片Sの第1領域S1の濡れ性の評価が終了すると、今度は、本体110におけるカメラ120および照明装置130のそれぞれの位置を第2領域S2の撮影のために調整した後(具体的には、カメラ120および照明装置130のそれぞれを支持部113に沿って摺動させた後)、試験片Sの第2領域S2の濡れ性の評価に移る。試験片Sの第2領域S2の濡れ性の評価が終了すると、今度は、本体110におけるカメラ120および照明装置130のそれぞれの位置を第3領域S3の撮影のために調整した後、試験片Sの第3領域S3の濡れ性の評価に移る。このように、第1領域S1、第2領域S2および第3領域S3の濡れ性評価が順番に実行され得る。
あるいは、
図1に示す支持部113aに、試験片Sの第1から第3領域S1~S3にそれぞれ対応した3台のカメラをX軸方向に沿って設置し、第1から第3領域S1~S3を3台のカメラで同時に撮影してもよい。この場合、第1から第3領域S1~S3を横切るように試験片Sの端から端まで試験液を表面に付与する。測定装置140は、3台のカメラが取得した時系列画像を画像解析することが可能である。このような評価方法によれば、試験液の1回の付与で、第1から第3領域S1~S3のそれぞれの濡れ性を一度に評価できる。
【0063】
以降、
図4に示すフローチャートのステップS150の処理(時系列画像のデータに基づく表面の濡れ性評価)の実装例を詳しく説明する。当該濡れ性評価を行うための命令群を含むコンピュータプログラム、ソフトウェアまたはファームウェアが測定装置140に実装される。
【0064】
[第1実装例]
図7から
図17を参照して、時系列画像のデータに基づく表面の濡れ性評価の第1実装例を説明する。
【0065】
図7に、カメラ120によって試験片Sの表面を撮影して得られた時系列画像F(n)に含まれる画像群の例をフレームごとに示す。ここで、nは0以上の整数である。第1実装例では、カメラ120のフレームレートは3フレーム/秒であり、所定時間は2秒(6フレームに相当)である。カメラ120が取得した時系列画像F(n)のうちの、試験液の付与の開始前に取得した画像、試験液を表面に付与している間に取得した画像群、試験液の付与が終了した直後に取得した画像、および試験液の付与が終了した後、所定時間後において取得した画像を、それぞれ、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(N)、第2画像F(N+1)、および第3画像F(N+7)と呼ぶ。第1実装例における第4画像F(0)は、試験液の付与の開始直前に取得した画像である。
図7に示す例における画像群は、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(N)、第2画像F(N+1)、および第3画像F(N+7)を含む。
【0066】
図8に、第1実装例による濡れ性評価の処理手順を示す。第1実装例による濡れ性評価の処理手順は、ステップS151~S156の処理を含む。ステップS151~S156の処理を測定装置140(より詳細にはプロセッサ145)が実行する。
【0067】
(ステップS151)
測定装置140は、時系列画像に動体検出を適用することによって前処理を行い、前処理後の時系列画像を生成する。例えば、測定装置140は、時系列画像にフレーム間差分法を適用することによって、時系列画像の中から、第1画像群F(1)~F(N)、第2画像F(N+1)、および第3画像F(N+7)を抽出する前処理を実行し、第1画像群F(1)~F(N)、第2画像F(N+1)および第3画像F(N+7)を含む前処理後の時系列画像を生成する。
【0068】
動体検出に用いるアルゴリズムの例は、フレーム間差分法または背景差分である。
図9に、フレーム間差分法による動体検出を説明するための図を示す。測定装置140は、連続するフレーム間の画素値の差の絶対値を求め、差分画像を生成する。測定装置140は差分画像に2値化処理を適用することで、差分画像を白画素(画素値:255)と黒画素(画素値:0)とに分けた2値画像を生成し得る。2値化処理の閾値は、例えば128である。
【0069】
測定装置140は、差分画像のヒストグラム(または2値画像)に基づいて、フレーム間におけるヒストグラムの変化(以下、単に「変化」と記載する。)の有無を検出する。例えば、ヒストグラムが上記閾値以上の画素値を有する画素を1つでも含んでいる場合、測定装置140はフレーム間の変化を検出する。言い換えると、2値画像が少なくとも1つの白画素を含んでいる場合、測定装置140はフレーム間の変化を検出する。測定装置140は、(i)フレーム間の変化を検出すると、試験液の付与の開始を確認し、(ii)フレーム間に変化が生じている間は、試験液の付与の継続を確認し、(iii)フレーム間の変化がなくなると、試験液の付与の終了を確認し得る。
【0070】
図10に、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(5)、第2画像F(6)、および第3画像F(12)を含む13フレーム分の画像の例を示す。図示する例において、測定装置140は、時系列画像に動体検出を適用することによって、第4画像F(0)と第1画像F(1)との間で最初の変化を検出するし、変化の前後の画像をそれぞれ第4画像F(0)および第1画像F(1)として特定する。測定装置140は、塗布している作業者の手(または脱脂綿)の移動によって、第1画像群F(1)~F(5)の間において隣接するフレーム間で変化を継続的に検出する。測定装置140は、第1画像F(5)と第2画像F(6)との間で最後の変化を検出し、変化の前後の画像をそれぞれ第1画像F(5)および第2画像F(6)として特定する。測定装置140は、第2画像F(6)から2秒に相当する6フレーム後の画像を第3画像F(12)として特定する。
【0071】
このように、測定装置140は、時系列画像の中から、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(5)、第2画像F(6)、および第3画像F(12)を抽出する。これにより、測定装置140は、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(5)、第2画像F(6)、および第3画像F(12)を含む前処理後の時系列画像を生成する。
【0072】
カメラ120が取得する画像群には、濡れ性評価のための画像解析に必要のない画像が含まれ得る。不要な画像は、画像を処理する測定装置140に負荷をかけ、処理速度の低下に繋がる可能性がある。そのため、第1実装例では、カメラ120が取得する画像にフレーム間差分法を適用する。これにより、カメラ120が取得する画像群の中から、画像解析に必要な画像だけを抽出でき、その結果、処理速度の低下が低減され得る。
【0073】
測定装置140は、差分画像にメディアンフィルタ処理を適用してもよい。メディアンフィルタのカーネルサイズの例は9×9である。試験液の付与後も試験液の残存量が変動したり、前述した画像における試験片S上の、カメラの視野(下側領域Sb)外の領域全般に試験液が付与されると、試験片Sの表面が微動したりすることが起こり得る。例えば、塗布終了後に塗布部分がカメラの視野から右側に外れると、試験片Sは厳密には湾曲していることがあるために、試験片Sの表面が動く、例えば凹んだりする可能性がある。このような場合であっても、メディアンフィルタ処理の適用により、画像解析で塗布の終了を検出することが可能となる。言い換えると、第1画像F(5)および第2画像F(6)を特定することが可能となる。
【0074】
(ステップS152)
測定装置140は、前処理後の時系列画像に含まれる各画像から帯状領域の部分を抽出してトリミング画像群を生成する。
【0075】
図11に、前処理後の時系列画像に含まれる各画像から帯状領域の部分を抽出する方法を説明するための図を示す。前述したように、評価試験の合格まで、1枚の試験片の表面には複数種類の試験液が付与され得る。直近に付与された試験液が形成した帯状領域だけを画像解析の対象とすることが望ましい。しかしながら、時系列画像の各画像は、直近よりもさらに前に付与した試験液が形成した過去の帯状領域を含み得る。このため、直近に付与された試験液の残存量だけを画像解析によって定量化することは困難となる。そこで、第1実装例における測定装置140は、第4画像F(0)と第2画像F(6)との差分をとることによって、直近に付与された試験液の増加分(すなわち変化量)を強調する画像処理を行う。
【0076】
測定装置140は、第4画像F(0)と第2画像F(6)との差分画像Fsを生成する。差分をとることで、差分画像Fsから、直近よりもさらに前に付与した試験液が形成した過去の帯状領域が削除され、一方、直近に付与された試験液が形成した帯状領域だけが差分画像Fsに残る。測定装置140は、差分画像Fsの周囲を黒画素(例えば30画素分)で埋めてもよい。これにより、差分画像Fsは、試験片Sの表面は黒色、帯状領域10は白色に近いグレースケール画像のような画像Ftに変わる。このような処理により、画像の端部に相当する試験片Sの表面の部分に試験液が付与される場合や、画像の端部にノイズが存在する場合であっっても、後述するように、画像Ftの全体にフィルタ処理を適用することが可能となる。
【0077】
測定装置140は、画像Ftにメディアンフィルタ処理を適用し、画像Fuを生成し得る。メディアンフィルタのカーネルサイズの例は55×55である。メディアンフィルタ処理によって、ノイズの影響や、直近よりも前の過去に付与した試験液の残存量が変化し続けることにより生じ得る誤検出が低減され得る。このように、測定装置140は、差分画像Fsから、試験液の帯状領域10を強調した画像Fuを生成する。
【0078】
図12Aおよび
図12Bのそれぞれに、画像Fu中における帯状領域の位置の決定に用いるアルゴリズムを説明するための図を示す。
図13に、当該アルゴリズムの例を示す。
【0079】
測定装置140は、画像を構成する複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値に基づいて、差分画像Fs中の、直近に付与された試験液が形成した帯状領域の位置を決定する。言い換えると、測定装置140は、帯状領域が強調された画像Fu中における帯状領域の位置を決定する。
【0080】
測定装置140は、差分画像Fsまたは画像Fuを構成する行方向に沿った複数ラインのそれぞれに含まれる画素の画素値の最大値を求める(ステップS210)。
図12Aには、簡単のために、5行8列の画素から構成される画像のモデルを示している。図示する画像のモデルは、行番号0~4で示される5ラインから構成されている。各ラインは8画素を含む。この例では、行番号0のラインに含まれる画素の画素値の最大値は0である。行番号1のラインに含まれる画素の画素値の最大値は4である。行番号2のラインに含まれる画素の画素値の最大値は4である。行番号3のラインに含まれる画素の画素値の最大値は5である。行番号4のラインに含まれる画素の画素値の最大値は0である。
図12Bには、行番号に対する画素値の最大値をプロットしたグラフを示す。横軸が行番号であり、縦軸が各行の画素値の最大値である。
【0081】
測定装置140は、閾値に初期値を設定する(ステップS220)。例えば、この初期値は、前述したカメラ120の撮影条件に応じて決定され得る。第1実装例における初期値は例えば10である。次に、測定装置140は、閾値以上の最大値の画素を有する、上限の行、下限の行、およびこれらの行に挟まれた行に位置する画素群から構成される、画像Fu中の領域を帯状領域として仮決定する(ステップS230)。
図12Aや
図12Bに示す例では、閾値は3であり、行番号1の行が下限の行であり、行番号3の行が上限の行である。行番号1、2および3の3行に亘って位置する画素群から構成される領域が帯状領域である。
図12Aにおいて、帯状領域を矩形の破線で示している。
【0082】
測定装置140は、帯状領域の幅、すなわち、帯状領域を構成する行の数が所定値以下であるかどうかを判定する(ステップS240)。この所定値は、例えば、脱脂綿のサイズ、およびカメラ120の画角またはセンササイズに応じて決定され得る。第1実装例における所定値は、例えば320画素である。測定装置140は、ステップS230で仮決定した帯状領域の幅が所定値以下である場合(ステップS240のyes)、仮決定した帯状領域を正式な帯状領域として決定する(ステップS260)。これに対し、測定装置140は、ステップS230で仮決定した帯状領域の幅が所定値を超える場合(ステップS240のno)、例えば+5インクリメントして閾値を更新し(ステップS250)、再び、ステップS230の処理を実行する。以降、測定装置140は、帯状領域を決定するまで、ステップS230~S250の処理を繰り返し実行する。
【0083】
測定装置140は、帯状領域の位置を決定すると、決定した帯状領域の位置に基づいて、前処理後の時系列画像に含まれる各画像から帯状領域の部分(
図10において破線で囲まれた矩形領域)を抽出してトリミング画像群を生成する。
【0084】
図14に、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(5)、第2画像F(6)、および第3画像F(12)にそれぞれ対応するトリミング画像Tr0~Tr12を示す。トリミング画像Tr0~Tr12のそれぞれは帯状領域10を含む。第1実装例における測定装置140は、第4画像F(0)、第1画像群F(1)~F(5)、第2画像F(6)、および第3画像F(12)のそれぞれから帯状領域10の部分を抽出してトリミング画像を生成する。ただし、帯状領域10の部分の抽出は、決定した帯状領域10の位置に厳密に従う必要はなく、画像の上下方向に例えば数十画素分のマージンを設定してもよい。
【0085】
(ステップS153)
試験片Sの表面への試験液の付与は、
図1に示す例えばX軸の矢印方向に行われるために、画像中の帯状領域が形成されるタイミング、または、試験液の付与が完了するタイミングの遅延が、画像の右側領域と左側領域との間で生じる。例えば、
図1に示すX軸の矢印方向に試験液の付与を行う場合、試験液の付与の完了のタイミングは、右側領域よりも左側領域の方が早い。このため、例えば試験液の付与が終了した直後に取得した第2画像F(6)と、試験液の付与が終了した後、2秒後において取得した第3画像F(12)との画像同士の比較を考える場合、複数のブロック間で付与のタイミングに遅延があるので、この比較は厳密ではない。そのため、ブロックごとに、試験液の付与が終了した直後の画像、および、試験液の付与が終了した後、2秒後において取得した画像を特定することが望ましい。これにより、ブロック間の遅延を考慮した比較を厳密に行うことが可能になる。
【0086】
測定装置140は、トリミング画像群を用いて、各ブロックについての第1強調画像および第2強調画像を生成する。先ず、測定装置140は、トリミング画像群に含まれる各トリミング画像の領域を、帯状領域が延びる方向に複数のブロックに分割する。
【0087】
図15に、各トリミング画像の領域を分割する複数のブロックを示す。
図15には、トリミング画像群のうちの、第1画像F(2)、F(3)およびF(4)にそれぞれ対応するトリミング画像Tr2、Tr3およびTr4を例示している。第1実装例における複数のブロックは16ブロックB1~B16を含む。ただし、ブロックの数はこれに限定されない。測定装置140は、各トリミング画像の領域を、帯状領域が延びる方向に16のブロックに均等に分割する。
【0088】
第1実装例における測定装置140は、複数のブロックに含まれるブロックごとに、トリミング画像群のうちの、試験液の付与が終了した直後の帯状領域を含む第1トリミング画像、および試験液の付与が終了した後、所定時間後における帯状領域を含む第2トリミング画像を特定する。
【0089】
図15に示す例では、ブロックB1~B3のそれぞれに対する第1トリミング画像はトリミング画像Tr2である。ブロックB1~B3のそれぞれに対する第2トリミング画像は、トリミング画像Tr2に対応する第1画像F(2)から6フレーム後の第1画像F(8)に対応するトリミング画像である。言い換えると、試験液の付与が終了した直後の帯状領域を含むブロックB1~B3は、トリミング画像Tr2に含まれる。試験液の付与が終了した後、2秒後における帯状領域を含むブロックB1~B3は、第1画像F(8)に対応するトリミング画像に含まれる。
【0090】
同様に、ブロックB4~B6のそれぞれに対する第1トリミング画像はトリミング画像Tr3である。ブロックB4~B6のそれぞれに対する第2トリミング画像は、トリミング画像Tr3に対応する第1画像F(3)から6フレーム後の第1画像F(9)に対応するトリミング画像である。ブロックB7~B9のそれぞれに対する第1トリミング画像はトリミング画像Tr4である。ブロックB7~B9のそれぞれに対する第2トリミング画像は、トリミング画像Tr4に対応する第1画像F(4)から6フレーム後の第1画像F(10)に対応するトリミング画像である。このように、16のブロックに含まれるブロックごとに、第1トリミング画像および第2トリミング画像を特定することで、後述するように、試験液の付与直後の状態をより正確に捉えることが可能となる。このことは、試験液の定量化の精度の向上に繋がり得る。また、作業者の利き手が右手または左手であるかに関係なく、画像解析によって脱脂綿が画像の左右方向のどちらの向きに移動しているかを判断できるという利点が得られる。
【0091】
第1実装例における測定装置140は、さらに、ブロックごとに、第1トリミング画像と、第4画像F(0)に対応するトリミング画像Tr0との差分をとることによって強調画像を生成する。測定装置140は、
図13に例示する処理手順に従って、強調画像中における帯状領域の位置を決定する。この場合における初期値の例は5であり、幅の所定値の例は200画素である。
【0092】
測定装置140は、帯状領域の位置を決定すると、決定した帯状領域の位置に基づいて、第3トリミング画像および第4トリミング画像を生成する。具体的には、測定装置140は、決定した帯状領域の位置に基づいて、第1および第2トリミング画像から、それぞれ、帯状領域の部分を抽出して第3および第4トリミング画像を生成する。ただし、第3および第4トリミング画像の生成は必須ではない。
【0093】
ブロック分割前の最初の帯状領域の抽出の処理だけでは、直近よりもさらに前に付与した試験液が形成した過去の帯状領域を完全に分離できない場合がある。このような場合であっても、強調画像から帯状領域の部分を抽出することによって、帯状領域の抽出の精度を高めることが可能となる。
【0094】
(ステップS154)
測定装置140は、第3トリミング画像および第4トリミング画像を用いて、第1強調画像および第2強調画像を生成する。具体的には、測定装置140は、第3トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から、第1色と異なる第2色の画素値を差し引き、第1色を強調した第1強調画像を生成する。測定装置140は、さらに、第4トリミング画像を構成する画素群のRGB値のうちの第1色の画素値から第2色の画素値を差し引き、第1色を強調した第2強調画像を生成する。第1実装例では、第1色は青色であり、第2色は赤色である。
【0095】
図16に、トリミング画像を構成する画素群のRGB値のカラー画像Trc(上側)、および、B値からR値を差し引き、青色を強調した強調画像(中央)の例を示す。測定装置140は、各ブロックに対し、第3トリミング画像のB値の画像と、第3トリミング画像のR値の画像との差分画像Trb-rを生成する。この差分画像Trb-rは、第3トリミング画像に対応する、青色を強調した第1強調画像である。同様に、測定装置140は、各ブロックに対し、第4トリミング画像のB値の画像と、第4トリミング画像のR値の画像との差分画像Trb-rを生成する。この差分画像Trb-rは、第4トリミング画像に対応する、青色を強調した第2強調画像である。前述したように、試験液は青色に着色されているので、差分画像Trb-rにおいて試験片Sの表面、および結露した部分は黒色となる。その結果、試験液の色に対応した青色を強調でき、さらに、露と試験液との分離が可能になる。第1実装例における測定装置140は、16ブロックのそれぞれのブロックについて、第3トリミング画像に対応する、青色を強調した第1強調画像を生成し、さらに、第4トリミング画像に対応する、青色を強調した第2強調画像を生成する。
【0096】
測定装置140は、第1強調画像および第2強調画像のそれぞれに2値化処理を適用して、第1強調画像および第2強調画像のそれぞれを帯状領域と帯状領域以外の領域とに分割してもよい。2値化処理として、例えば大津の2値化を好適に用いることができる。
図16には、強調画像の2値画像Tr-2(下側)の例を示している。2値画像において白画素から構成される部分が帯状領域10であり、黒画素から構成される部分が帯状領域10以外の領域である。
【0097】
ただし、測定装置140は、第1および第2トリミング画像からそれぞれ第3および第4トリミング画像を生成しない場合には、第1トリミング画像および第2トリミング画像を用いて、第1強調画像および第2強調画像を生成し得る。
【0098】
(ステップS155)
測定装置140は、第1強調画像および第2強調画像を用いて、投影面積の時間変化を測定する。測定装置140は、2値画像における帯状領域の面積から、複数の微細な液滴の投影面積を求める。測定装置140は、第1強調画像における帯状領域の第1面積、および第2強調画像における帯状領域の第2面積を求める。測定装置140は、第1面積および第2面積に基づいて投影面積の時間変化率を求める。
【0099】
図17に、分割した16ブロックのそれぞれに対し、第1強調画像、第1強調画像に対応する2値画像、第2強調画像、および第2強調画像に対応する2値画像の例を示す。
【0100】
測定装置140は、複数のブロックに含まれるブロックごとに、第1強調画像における帯状領域が含む画素の数Mを算出し、ブロックごとに算出した画素の数の第1積算値を求める。さらに、測定装置140は、複数のブロックに含まれるブロックごとに、第2強調画像における帯状領域が含む画素の数Nを算出し、ブロックごとに算出した画素の数の第2積算値を求める。このように、測定装置140は、第1強調画像および第2強調画像から、それぞれ、試験液の付与が終了した直後、および試験液の付与が終了した後、2秒後における試験液の残存量を定量化する。
【0101】
測定装置140は、第1積算値に対する第2積算値の比率(=試験液残存率)を求める。試験液残存率は下記の式1で表される。例えば百分率で表す場合、試験液残存率と投影面積の時間変化率との関係は式2で表される。このように、第1積算値に対する第2積算値の比率から、投影面積の時間変化率を定量的に求めることが可能となる。
[式1]
【数1】
[式2]
投影面積の時間変化率(%)=100-試験液残存率(%)
【0102】
(ステップS156)
測定装置140は、第1積算値に対する第2積算値の比率と、試験液の表面張力に関連付けされた判定基準とを比較することによって、表面の濡れ性を評価する。判定基準は、試験規定に従って個別に設定され得る。本開示の実施形態における判定基準は、時間変化率に対する判定基準であり、例えば2秒間で20%である。定量的に求めた投影面積の時間変化率が判定基準を下回る場合に、測定装置140は試験結果を合格と判定する。例えば、測定装置140は、試験の合格を表すOKの文字またはマークを表示装置142に表示させて、作業者に合格を通知してもよい。投影面積の時間変化率が判定基準を上回る場合には、測定装置140は試験結果を不合格と判定する。例えば、測定装置140は、試験の不合格を表すNGの文字またはマークを表示装置142に表示させて、作業者に不合格を通知し、これにより、試験液の変更を促してもよい。
【0103】
本開示の第1実装例によれば、時系列画像に基づく画像解析によって試験液の残存量や残存率を定量化できるので、濡れ性評価試験の判定の自動化が実現される。また、官能試験とは異なり、2秒の時間の計測は正確であり、試験液を試験片の表面に付与してから2秒後の液膜の状態を正確に把握できるので、濡れ性評価の正確な判定が可能となる。これらの結果として、作業者または試験ごとの試験結果のばらつきを低減でき、かつ、試験結果の改ざんのおそれも低減され得る。
【0104】
[第2実装例]
図18を参照して、本開示の第2実装例による評価方法を説明する。第2実装例による評価方法は、試験片の表面に、表面張力が異なる複数種類の試験液を帯状に付与する点で、第1実装例による評価方法とは相違する。以下、相違点を主に説明する。
【0105】
図18に、第2実装例による濡れ性評価の処理手順を示す。第2実装例による濡れ性評価の処理手順は、ステップS310~S340の処理を含む。ステップS310~S340の処理を測定装置140が実行する。
【0106】
(ステップS310)
試験片Sの表面に、表面張力が異なる複数種類の試験液を帯状に付与し、表面上の複数の帯状領域のそれぞれに複数の微細な液滴を形成する。例えば、
図5に示すように、表面張力が異なる4種類の試験液が帯状に付与され得る。
【0107】
(ステップS320)
試験片Sの表面をカメラ120で撮影し、それぞれが複数の帯状領域を含む時系列画像のデータを取得する。
【0108】
(ステップS330)
測定装置140は、時系列画像に基づいて、複数の帯状領域のそれぞれに形成された複数の微細な液滴の投影面積の時間変化を測定する。
【0109】
図19に、画像の下側領域sbに形成された4つの帯状領域10a~10dの模式図を示す。4つの帯状領域10a~10dには、それぞれ、表面張力が異なる4種類の試験液の複数の微細な液滴が形成されている。測定装置140は、例えば、4つの帯状領域10a~10dを含む画像を、それぞれが4つの帯状領域10a~10dのうちの1つを含む4つのブロックsb1~sb4に画像の上下方向に分割する。このような画像分割は、例えばセマンティックセグメンテーションやインスタンスセグメンテーションなどの深層学習、または大津の2値化を用いて行い得る。第2実装例における測定装置140は、時系列画像の各画像にインスタンスセグメンテーションを適用して、各画像を、4つの帯状領域10a~10dをそれぞれ含む4つのブロックsb1~sb4に分割する。測定装置140は、4つのブロックsb1~sb4のそれぞれの画像に対し、例えば
図8に示す第1実装例による処理手順に従って画像解析を行うことで、投影面積の時間変化を測定する。
【0110】
(ステップS340)
測定装置140は、複数の帯状領域のそれぞれに複数の微細な液滴を形成した直後の液滴の投影面積に対する、複数の微細な液滴を形成した後、2秒後における複数の微細な液滴の投影面積の時間変化率が判定基準を下回る帯状領域に付与された試験液の表面張力に基づいて表面の濡れ性を評価する。
【0111】
測定装置140は、前述した式1および式2に基づいて、4つのブロックsb1~sb4がそれぞれ含む4つの帯状領域10a~10dのそれぞれに付与された試験液の投影面積の時間変化率を求める。例えば、4つの帯状領域10a~10dに付与された4種類の試験液の投影面積の時間変化率が、それぞれ、30%、25%、22%および18%であり、また、4つの帯状領域10a~10dに付与された4種類の試験液の表面張力が、それぞれ、60mN/m、50mN/m、40mN/m、および30mN/mであるとする。時間変化率に対する判定基準は2秒間で20%である。この例において、帯状領域10a~10cに付与した3種類の試験液のそれぞれに対する投影面積の時間変化率は判定基準を上回る。したがって、測定装置140は、この3種類の試験液に対して不合格を表すNGの文字またはマークを表示装置142に表示させてもよい。一方、帯状領域10dに付与した試験液(30mN/m)に対する投影面積の時間変化率は判定基準を下回る。したがって、測定装置140は、試験液(30mN/m)に対する合格を表すOKの文字またはマークを表示装置142に表示させてもよい。
【0112】
本開示の第2実装例によれば、試験片Sの表面に、表面張力が異なる複数種類の試験液を帯状に付与することで、時系列画像に基づく画像解析によって複数種類の試験液に対する濡れ性評価を同時に行うことが可能となる。これにより試験時間の短縮などが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本開示の技術は、工業材料の濡れ性評価試験において広く利用され得る。
【符号の説明】
【0114】
100:評価装置、110:本体、111:台、111a:設置、112:支柱、113:支持部、113a,113b:支持部、120:カメラ、130:照明装置、140:測定装置、141:入力装置、142:表示装置、143:通信装置、144:記憶装置、145:プロセッサ、146:ROM、147:RAM、試験片:S