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特開2024-170091反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170091
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A61B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087058
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三幣 俊輔
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP00
4C038PS00
4C038PS09
(57)【要約】
【課題】評定値データに生じる反応プロファイルを定量評価することが可能な反応プロファイル評価装置を提供する。
【解決手段】本発明による反応プロファイル評価装置は、利用者の回答傾向を反応プロファイルとし、利用者の反応プロファイルを表現する統計分布を反応プロファイル分布とし、利用者の評定値データ81を入力する受付部51と、評定値データ81に基づいて、反応プロファイル分布の候補である反応プロファイル分布候補を、統計分布の種別を含む候補反応プロファイル分布テンプレートを用いて、複数推定する反応プロファイル分布推定部53と、評定値データ81を用いて、推定された複数の反応プロファイル分布候補の中から、利用者の反応プロファイルの表現に適した反応プロファイル分布を選択する反応プロファイル分布評価部54を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の回答傾向を反応プロファイルとし、
前記利用者の前記反応プロファイルを表現する統計分布を反応プロファイル分布とし、
前記利用者の評定値データを入力する受付部と、
前記評定値データに基づいて、前記反応プロファイル分布の候補である反応プロファイル分布候補を、前記統計分布の種別を含む候補反応プロファイル分布テンプレートを用いて、複数推定する反応プロファイル分布推定部と、
前記評定値データを用いて、推定された複数の前記反応プロファイル分布候補の中から、前記利用者の前記反応プロファイルの表現に適した前記反応プロファイル分布を選択する反応プロファイル分布評価部と、
を備えることを特徴とする反応プロファイル評価装置。
【請求項2】
前記反応プロファイル分布推定部は、前記評定値データの定義域の中央近傍に表出する前記反応プロファイルを表現する主反応プロファイル分布候補と、前記評定値データの前記定義域の上限近傍と下限近傍の少なくとも一方に表出する前記反応プロファイルを表現する副次反応プロファイル分布候補とのうち、少なくとも一方を含む複数の反応プロファイル分布候補を推定し、
前記反応プロファイル分布評価部は、推定された複数の前記反応プロファイル分布候補の中から、前記利用者の前記反応プロファイルの表現に適した、1つの前記反応プロファイル分布、複数の前記反応プロファイル分布、または複数の前記反応プロファイル分布の組み合わせを選択する、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項3】
前記評定値データを再標本化し、前記評定値データの種別または前記評定値データの件数が疑似的に均一化された均一化評定値データを生成するデータ抽出部と、
尤もらしい範囲が合わせて示された前記反応プロファイル分布である信頼区間付反応プロファイル分布を算出する信頼区間付反応プロファイル分布評価部と、
を備え、
前記反応プロファイル分布推定部は、複数の前記均一化評定値データに基づいて、前記反応プロファイル分布候補を推定し、
前記反応プロファイル分布評価部は、複数の前記均一化評定値データを用いて、前記反応プロファイル分布を選択し、
前記信頼区間付反応プロファイル分布評価部は、選択された前記反応プロファイル分布から、前記信頼区間付反応プロファイル分布を算出する、
請求項2に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項4】
前記反応プロファイル分布と前記反応プロファイル分布を特徴づけるパラメータ群とのうち、少なくとも一方を表示させる結果表示部を備える、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項5】
前記評定値データを前記定義域のデータ範囲により分割し、前記主反応プロファイル分布候補と前記副次反応プロファイル分布候補を推定するための部分評定値データを生成する前処理部を備える、
請求項2に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項6】
前記反応プロファイル分布は、1つの前記統計分布または複数の前記統計分布の混合分布からなる分布で表され、前記分布を特徴づけるパラメータ群で表現される、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項7】
前記反応プロファイル分布評価部は、尤度関連統計量、情報量基準、分布類似度、及び混合分布のピークの分離度のうち少なくとも1つを評価指標として用いて、前記反応プロファイル分布を選択する、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項8】
前記評定値データと前記利用者の生体状態を計測した生体計測データのうち少なくとも一方のデータと前記反応プロファイル分布を用いて、前記利用者の状態を評価する状態評価部を備える、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項9】
前記評定値データは、連続反応型の測定尺度を用いて測定されたデータである、
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置。
【請求項10】
受付部と、反応プロファイル分布推定部と、反応プロファイル分布評価部を備えるコンピュータに実行され、
利用者の回答傾向を反応プロファイルとし、
前記利用者の前記反応プロファイルを表現する統計分布を反応プロファイル分布とし、
前記受付部が、前記利用者の評定値データを入力するステップと、
前記反応プロファイル分布推定部が、前記評定値データに基づいて、前記反応プロファイル分布の候補である反応プロファイル分布候補を、前記統計分布の種別を含む候補反応プロファイル分布テンプレートを用いて、複数推定するステップと、
前記反応プロファイル分布評価部が、前記評定値データを用いて、推定された複数の前記反応プロファイル分布候補の中から、前記利用者の前記反応プロファイルの表現に適した前記反応プロファイル分布を選択するステップと、
を備えることを特徴とする反応プロファイル評価方法。
【請求項11】
請求項1に記載の反応プロファイル評価装置の、前記受付部と、前記反応プロファイル分布推定部と、前記反応プロファイル分布評価部の機能を、コンピュータに実現させるための反応プロファイル評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の心身の主観状態を計測して評価する際に利用される反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心身の主観状態を日常生活下で経時的かつ簡便に取得する手段として、測定尺度を用いた心理計測が利用されている。測定尺度には、例えば、多値離散反応型の順序尺度であるリッカート尺度などが一般に用いられている。近年では、連続反応型の間隔尺度であるVisual Analogue Scale(VAS)を測定尺度として用いたVAS計測が、心理計測に利用されてきている。VASを測定尺度として用いると、より簡便かつ高粒度に、被験者から回答を得ることができる。教示文に対する被験者(利用者)の回答のデータを、評定値データと呼ぶ。
【0003】
測定尺度を用いた心理計測では、教示文とは無関係に生じる被験者毎に一貫した回答傾向のバイアスが生じうる。この回答傾向バイアスは、評定値データに含まれ、特に心理測定値を用いた被験者間分析に悪影響を及ぼしうる。
【0004】
このような被験者に生じる回答傾向バイアスを除去する技術の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1には、リッカート尺度を用いた心身の主観状態の評価に際して表出する回答傾向バイアスを対象に、アンケートの内容に非依存の回答傾向バイアスである回答スタイル(Response Style、RS)を除去することができる回答スタイル成分除去装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-026647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、近年では、連続反応型の間隔尺度であるVASを測定尺度として用いたVAS計測が利用されている。このため、測定尺度が連続値であるVAS計測においても、回答傾向バイアスを定量的に評価し、回答傾向バイアスを除去することができる技術が望まれている。以下では、回答傾向バイアスを、反応プロファイル(Response Profile、RP)とも呼ぶ。
【0007】
特許文献1には、特許文献1に記載の装置が、測定尺度が連続値の場合にも利用できることが記載されている。しかし、間隔尺度(例えばVAS)での主観評価の回答は、順序尺度(例えばリッカート尺度)での主観評価の回答と性質が異なるため、特許文献1に記載の技術などの、順序尺度を用いた場合の反応プロファイルを除去する技術を、VASなどの間隔尺度を用いた場合に適用するのは、一般に困難である。特に、VASでは、単極VASと双極VASのように異なるタイプの設問が含まれることが多く、従来技術のように単一の数理モデルを前提とした方法では評価が難しい、という課題がある。
【0008】
本発明の目的は、評定値データに生じる反応プロファイルを定量評価することが可能な反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による反応プロファイル評価装置は、利用者の回答傾向を反応プロファイルとし、前記利用者の前記反応プロファイルを表現する統計分布を反応プロファイル分布とし、前記利用者の評定値データを入力する受付部と、前記評定値データに基づいて、前記反応プロファイル分布の候補である反応プロファイル分布候補を、前記統計分布の種別を含む候補反応プロファイル分布テンプレートを用いて、複数推定する反応プロファイル分布推定部と、前記評定値データを用いて、推定された複数の前記反応プロファイル分布候補の中から、前記利用者の前記反応プロファイルの表現に適した前記反応プロファイル分布を選択する反応プロファイル分布評価部とを備える。
【0010】
本発明による反応プロファイル評価方法は、受付部と、反応プロファイル分布推定部と、反応プロファイル分布評価部を備えるコンピュータに実行され、利用者の回答傾向を反応プロファイルとし、前記利用者の前記反応プロファイルを表現する統計分布を反応プロファイル分布とし、前記受付部が、前記利用者の評定値データを入力するステップと、前記反応プロファイル分布推定部が、前記評定値データに基づいて、前記反応プロファイル分布の候補である反応プロファイル分布候補を、前記統計分布の種別を含む候補反応プロファイル分布テンプレートを用いて、複数推定するステップと、前記反応プロファイル分布評価部が、前記評定値データを用いて、推定された複数の前記反応プロファイル分布候補の中から、前記利用者の前記反応プロファイルの表現に適した前記反応プロファイル分布を選択するステップとを備える。
【0011】
本発明による反応プロファイル評価プログラムは、本発明による反応プロファイル評価装置の、前記受付部と、前記反応プロファイル分布推定部と、前記反応プロファイル分布評価部の機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、評定値データに生じる反応プロファイルを定量評価することが可能な反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1による反応プロファイル評価装置の主要な構成の例を示すブロック図である。
図2】反応プロファイル評価装置が利用者端末からデータを受信する処理の例を示すフローチャートである。
図3】反応プロファイル評価装置が行う、反応プロファイル分布(RP分布)の推定処理の例を示すフローチャートである。
図4】反応プロファイル評価装置が行う、RP分布の評価処理の例を示すフローチャートである。
図5】本実施例による反応プロファイル評価装置を用いて行った、RP分布推定とRP分布評価の実験結果である。
図6】利用者端末または管理者端末に表示される、利用者のRP分布データの例を示す図である。
図7】RP分布データのデータ構造の例を示す図である。
図8】本発明の実施例2において、反応プロファイル評価装置が行う、一連の信頼区間付RP分布評価の処理の例を示すフローチャートである。
図9】利用者端末または管理者端末に表示される、利用者の信頼区間付RP分布データの例を示す図である。
図10】本発明の実施例3による反応プロファイル評価装置の主要な構成の例を示すブロック図である。
図11A】反応プロファイル評価装置が行う、主観状態評価モデルの学習処理の例を示すフローチャートである。
図11B】反応プロファイル評価装置が行う、主観状態評価の処理の例を示す図である。
図12】本発明の実施例4による反応プロファイル評価装置の主要な構成の例を示すブロック図である。
図13A】反応プロファイル評価装置が利用者端末からデータを受信する処理の例を示すフローチャートである。
図13B】反応プロファイル評価装置が行う、生体状態評価モデルの学習処理の例を示すフローチャートである。
図13C】反応プロファイル評価装置が行う、生体状態評価の処理の例を示す図である。
図14A】結果表示部が利用者端末に表示する評価結果の例を示す図であり、評価結果データに基づき、利用者へ評定値データの入力を求める際の表示画面の例である。
図14B】結果表示部が利用者端末に表示する評価結果の例を示す図であり、RPの複数のタイプA~Dの例と利用者のRPのタイプを、利用者に示す表示画面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によると、評定値データ、特にVASなどの連続反応型の測定尺度を用いて測定された評定値データに生じる反応プロファイル(利用者の回答傾向)を、定量評価することが可能である。反応プロファイルを求めることで、反応プロファイルが被験者間分析に与える悪影響を除去することができる。本発明では、特に単極尺度と双極尺度のように測定尺度が異なるタイプの設問が含まれることの多い、VASなどの連続反応型の測定尺度を用いて測定された評定値データに対しても、他の利用者と比較可能な形で反応プロファイル(RP)の定量評価ができる。これにより、RPの影響を考慮した心理測定値の被験者間分析の実現につながる。
【0015】
本発明による反応プロファイル評価方法は、本発明による反応プロファイル評価装置が実行することができる。本発明による反応プロファイル評価プログラムは、本発明による反応プロファイル評価装置が備える各機能部の機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムである。
【0016】
以下、本発明の実施例による反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムについて、図面を参照して説明する。以下の説明では、利用者の回答傾向である反応プロファイルを「RP」と記載することもある。
【実施例0017】
本発明の実施例1による反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを説明する。
【0018】
図1は、本実施例による反応プロファイル評価装置1の主要な構成の例を示すブロック図である。本実施例による反応プロファイル評価装置1は、1つ以上の利用者端末7と、1つ以上の管理者端末8とで、反応プロファイル評価装置システムを構成する。
【0019】
反応プロファイル評価装置1は、ネットワーク9を介して利用者端末7と管理者端末8とに接続されている。反応プロファイル評価装置1は、利用者端末7と管理者端末8から受信したデータを処理し、処理したデータを利用者端末7と管理者端末8に送信する。
【0020】
利用者端末7は、被験者である利用者の生体状態を計測する生体計測センサ11と、生体計測センサ11を制御する生体計測装置12と、入出力装置13と、通信装置14と、通知報知装置15を備え、利用者に使用される。
【0021】
生体計測センサ11は、利用者の心拍間隔(R-R Interval、RRI)を検出する心拍センサ21と、利用者の発汗量を検出する皮膚電気活動センサ22と、利用者の動きを検出する加速度センサ23を備える。心拍センサ21には、例えば、心電、脈波、圧力変化、または心音などに基づき心拍を検出するセンサを用いることができる。
【0022】
生体計測センサ11は、上記のセンサに限定されず、体温、まばたき、眼球運動、筋電、または脳波などを検出するセンサを備えることができる。生体計測センサ11には、利用者が装着可能なウェアラブルデバイスの他に、利用者が持ち歩き可能なスマートフォンに内蔵の装置などを用いることができる。
【0023】
生体計測装置12は、生体計測センサ11を制御し、生体計測センサ11が計測した生体状態から生体計測データを生成する。生体計測データは、生体計測センサ11で計測した利用者の生体状態のデータであり、利用者の生体情報である。生体計測装置12は、必要に応じて生体状態に対して演算処理や圧縮処理を行って、生体計測データを生成する。
【0024】
入出力装置13は、マウス、キーボード、タッチパネル、及びマイクなどの入力装置と、ディスプレイ、及びスピーカなどの出力装置を備え、利用者端末7に対する入出力を行う装置である。入力装置は、利用者からの入力の受付、例えば、利用者の心身の主観状態を評価するために測定尺度を用いて測定した評定値データ81の入力を行う。出力装置は、ディスプレイへの画面表示、例えば、利用者端末7が取得したデータの表示や、利用者への通知の表示を行う。利用者端末7は、ディスプレイにより、画面表示を行う。
【0025】
以下では、評定値データ81の測定に利用する測定尺度として、Visual Analogue Scale(VAS)などの、主に連続反応型の測定尺度を想定する。連続反応型の測定尺度では、評定値データ81が、例えば0から100までの任意の数字として計測される。本実施例では、利用者端末7のディスプレイに表示されたスライダーなどを用いて電子的にVASを計測する例を示す。但し、従前より臨床現場において利用されている紙媒体を用いたVAS計測のように、例えば、利用者が、白紙上に引かれた線分にマークし、マークした位置の線分の一端からの距離の値を入出力装置13により入力することで、本実施例でのVAS計測を行ってもよい。
【0026】
また、本実施例は、多値離散反応型の順序尺度であるリッカート尺度などを用いて測定された評定値データ81に対しても、適用することができる。特に、順序尺度の選択肢の数が増大した場合には、その順序尺度の特性が連続反応型の測定尺度の特性に近くなることが知られており、本実施例を容易に適用することができる。
【0027】
利用者の心身の主観状態とは、利用者が感じている自分の身体と精神の状態のことであり、例えば血圧や脈拍の数値などのセンサで計測して得られる客観状態以外の状態のことである。例えば、ある時点やある期間における疲労感、ストレス、及び痛みの大きさを測定した心身状態を、心身の主観状態の例として挙げることができる。例えば、痛みの場合には、左端(または下端で、評定値が0)を全く痛くない状態と教示し、右端(または上端で、評定値が100)をこれまでで想像できる最高の痛みと教示したVASである単極VASを用いて、心身の主観状態を測定することができる。また、心身の主観状態には、自然感情を覚醒度Arousalと感情価Valenceから構成される感情次元を測定するためのスライダー(Affective Slider)で測定した心身状態を一例として挙げることができる。例えば、感情価ValenceをAffective Sliderで測定する場合には、左端(または下端で、評定値が0)をネガティブ感情Negativeが反映された顔文字で教示し、中央(評定値が50)をニュートラル感情Neutralが反映された顔文字で教示し、右端(または上端で、評定値が100)をポジティブ感情Positiveが反映された顔文字で教示したVASである双極VASを用いることができる。
【0028】
通信装置14は、利用者端末7がネットワーク9を介して反応プロファイル評価装置1と管理者端末8と通信するための処理を実行する。
【0029】
通知報知装置15は、反応プロファイル評価装置1からの通知の出力処理に応じて、利用者に対して通知を行う。例えば、通知報知装置15は、入出力装置13のディスプレイに通知を表示する。通知報知装置15は、例えば振動や音を用いて、利用者に対する通知を出力してもよい。また、通知報知装置15は、生体計測装置12で利用者の生体状態に何らかの変化が検知された場合にも、利用者に対して通知を行ってもよい。
【0030】
なお、本実施例では利用者端末7が1つの装置で構成されているが、利用者端末7は、必ずしも1つの装置で構成されていなくてもよい。例えば、入出力装置13と通信装置14がスマートフォンに備えられ、生体計測装置12と生体計測センサ11と通知報知装置15がスマートウォッチに備えられており、スマートフォンとスマートウォッチとが1つの利用者端末7を構成しているとみなしてもよい。
【0031】
管理者端末8は、入出力装置31と、通信装置32と、通知報知装置33を備え、管理者に使用される。
【0032】
入出力装置31は、マウス、キーボード、タッチパネル、及びマイクなどの入力装置と、ディスプレイ、及びスピーカなどの出力装置を備え、管理者端末8に対する入出力を行う装置である。入力装置は、管理者からの入力の受付を行う。出力装置は、ディスプレイへの画面表示、例えば、管理者端末8が取得したデータの表示や、管理者への通知の表示を行う。管理者端末8は、ディスプレイにより、画面表示を行う。
【0033】
通信装置32は、管理者端末8がネットワーク9を介して反応プロファイル評価装置1と利用者端末7と通信するための処理を実行する。
【0034】
通知報知装置33は、反応プロファイル評価装置1からの通知の出力処理に応じて、管理者に対して通知を行う。例えば、通知報知装置33は、入出力装置31のディスプレイに通知を表示する。通知報知装置33は、例えば振動や音を用いて、管理者に対する通知を出力してもよい。また、通知報知装置33は、生体計測装置12が利用者の生体状態に何らかの変化を検知した場合にも、管理者に対して通知を行ってもよい。
【0035】
反応プロファイル評価装置1は、コンピュータ(計算機)で構成され、プロセッサ2と、メモリ3と、ストレージ装置4と、入出力装置5と、通信装置6を備える。反応プロファイル評価装置1は、機能部として、受付部51と、前処理部52と、RP分布推定部53と、RP分布評価部54と、結果表示部55と、データ抽出部56と、信頼区間付RP分布評価部57を備える。これらの機能部の詳細については、後述する。データ抽出部56と信頼区間付RP分布評価部57については、実施例2で説明する。
【0036】
メモリ3は、反応プロファイル評価装置1の各機能部を実現させるためのプログラムをロードする。これらの機能部を実現させるためのプログラムは、プロセッサ2によって実行される。
【0037】
プロセッサ2は、各機能部を実現させるためのプログラムに従って処理を実行することによって、所定の機能を提供する機能部として稼働する。例えば、プロセッサ2は、RP分布推定プログラムを実行することでRP分布推定部53として機能する。反応プロファイル評価装置1の他の機能部についても同様である。さらに、プロセッサ2は、各プログラムが実行する複数の処理のそれぞれの機能を提供する機能部としても稼働する。
【0038】
ストレージ装置4は、上記の機能部が使用するデータを格納する。例えば、ストレージ装置4は、評定値データ81と、部分評定値データ82と、候補RP分布データ83と、RP分布データ84と、均一化評定値データ85と、信頼区間付RP分布データ86と、利用者特性データ87と、RP分布情報90と、分布選択基準情報91を格納する。これらのデータについては、後述する。均一化評定値データ85と信頼区間付RP分布データ86については、実施例2で説明する。
【0039】
入出力装置5は、入力装置と出力装置を備える。入力装置の例には、マウス、キーボード、タッチパネル、及びマイクが含まれる。出力装置の例には、ディスプレイ、及びスピーカが含まれる。
【0040】
通信装置6は、反応プロファイル評価装置1がネットワーク9を介して利用者端末7と管理者端末8と通信するための処理を実行する。
【0041】
なお、本実施例では、利用者が日常生活中において常時、利用者端末7を装着または持ち歩き、生体計測センサ11が常に稼働している例を説明する。但し、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、この例の態様に限らずに使用することができる。例えば、利用者は、起床時や就寝時など一日に数度、利用者端末7を利用して生体計測センサ11を稼働させてもよい。
【0042】
図2は、反応プロファイル評価装置1が利用者端末7からデータを受信する処理の例を示すフローチャートである。この処理は、反応プロファイル評価装置1の受付部51が実行する。
【0043】
データ受信処理S21で、受付部51は、ネットワーク9を介して利用者端末7との接続が確立されると、利用者端末7からデータを受信する。受付部51は、データ受信処理S21を開始すると、利用者端末7の入出力装置13から評定値データ81を受信して保存する。データ受信処理S21は、受付部51と利用者端末7との接続が切断されるまで継続される。
【0044】
また、利用者端末7に入出力装置13を介して利用者特性データ87が入力された場合には、データ受信処理S21で、受付部51は、利用者特性データ87を合わせて受信する。利用者特性データ87には、利用者の年齢と性別、及び利用者IDなどが含まれる。
【0045】
なお、以下では、一例として、日々の所定の時間に双極VASで計測される覚醒度Arousalと感情価Valenceと、単極VASで計測される疲労感、ストレス、不安感、抑うつ感、及び熟眠感を、評定値データ81として計測する例を考える。
【0046】
なお、本実施例では、反応プロファイル評価装置1が、受付部51と利用者端末7との接続が切断されるまで継続的にデータ受信処理S21を行う例を示す。反応プロファイル評価装置1は、必ずしも継続的にデータ受信処理S21を行わなくてもよい。例えば、利用者端末7が反応プロファイル評価装置1へデータの送信処理を実施した場合にだけ、受付部51が、利用者端末7との接続を確立してデータ受信処理S21を行ってもよい。この場合には、利用者端末7は、利用者の活動状態を生体計測装置12で監視し、所定のイベントが発生した場合に通知報知装置15を用いて利用者に通知を行い、利用者へ評定値データ81の入力(教示文に対する回答)を促してもよい。
【0047】
図3は、反応プロファイル評価装置1が行う、反応プロファイル分布(RP分布)の推定処理の例を示すフローチャートである。
【0048】
反応プロファイル分布とは、反応プロファイル(RP)を示す統計分布である。反応プロファイル分布は、1つの統計分布または複数の統計分布の混合分布からなる分布で表され、この分布を特徴づけるパラメータ群(分布の形状を決める特徴量の群)で表現される。
【0049】
データ読込処理S31で、反応プロファイル評価装置1の受付部51は、利用者の評定値データ81を入力する。
【0050】
前処理S32で、反応プロファイル評価装置1の前処理部52は、入力された評定値データ81の前処理を行う。後続の処理を利用者毎に行う場合には、初めに前処理部52は、受付部51が受信した利用者特性データ87(図2)から処理対象の利用者のみについての利用者特性データ87を抽出する。
【0051】
前処理部52は、入力された評定値データ81に応じた前処理を行う。例えば、定義域が0から100までの範囲でVASが記録されている場合には、VASの定義域が0から1の範囲になるように、評定値データ81に正規化処理を行う。また、例えば、複数の種別のVASが記録されており、これらのVASの間で定義域が異なる場合には、定義域が互いに同じ範囲になるように、評定値データ81に正規化処理を行う。また、VASなどでは、回答行為への努力を避け、質問教示をあまり読まずに適当に回答してしまう努力の最小化バイアスが発生しうる。この努力の最小化バイアスが顕在化した回答を、評定値データ81に含まれる回答所要時間などから検出して処理対象から取り除くノイズ除去処理を、前処理部52が行ってもよい。
【0052】
また、後続するRP分布候補推定処理S34では、場合によっては、評定値データ81の定義域が0より大きく1未満である必要がある。この場合には、前処理部52は、例えば、定義域を0以上1以下の範囲[0,1]から、0より大きく1未満の範囲(0,1)へと変換する処理として、抽出した利用者の評定値データ81(d)を評定値データ81(d’)へスケーリングしてもよい。このスケーリングは、評定値データ81(d)の総データサンプル数をnとすると、d’={d(n-1)+0.5}/nという数式で表される。なお、定義域について言及する際、括弧[]は、括弧内の値を含む範囲(閉区間)を、括弧()は、括弧内の値を含まない範囲(開区間)を示す。
【0053】
部分データ生成処理S33で、前処理部52は、前処理された評定値データ81をデータ範囲により分割して、主RP分布候補と副次RP分布候補を推定するための部分評定値データ82を生成する。主RP分布候補と副次RP分布候補については、後述する。
【0054】
初めに、評定値データ81を分割することについて説明する。
【0055】
多値離散反応型の測定尺度であるリッカート尺度における反応スタイル(回答傾向)の研究から、様々な典型的な反応スタイルが知られている。よく知られた反応スタイルとして、項目や教示によらず最も高い評定に偏る黙従反応傾向(Acquiescence Response Style、ARS)、最も低い評定に偏る非黙従反応傾向(Dis-acquiescence Response Style、DRS)、及び両極端な評定傾向である極端反応傾向(Extreme Response Style、ERS)が知られている。また、日本人では、中央近傍の回答に偏る傾向の中心反応傾向(Mid-point Response Style、MRS)などがよく認められる。
【0056】
これらの反応傾向は、VASなどの連続反応型の測定尺度を利用した場合にも、類する形で認められる。さらに、MRSにおいて中央付近に2つの分布の峰(ピーク)を持つ双峰の反応スタイル(Bimodal MRS、BiMRS)が観察されることがある。BiMRSは、測定尺度の中央を中立とし、この中央の両極に相反する概念を取った双極VASを利用する場合や、リッカート尺度であっても教示として両極に対極の概念を示す形容詞教示を与え測定するSemantic Difference法を用いた場合に、しばしば観察されることがある。以下では、評定値データ81に生じる反応プロファイル(RP)の例として、ARS、DRS、ERS、MRS、及びBiMRSを想定する例について示す。
【0057】
RPのうち、ARS、DRS、及びERSと、MRS、及びBiMRSとでは、評定値データ81が局在して観察されやすい範囲が異なる。従って、評定値データ81が複数の位置で局在するRPが想定される場合には、部分データ生成処理S33において、前処理部52は、評定値データ81を定義域のデータ範囲により分割し、部分評定値データ82を生成してもよい。
【0058】
例えば、定義域が0より大きく1未満の範囲(0,1)に正規化された評定値データ81の場合には、MRS、及びBiMRSでは、定義域の中央近傍(すなわち0.5の近傍)に評定値データ81が表出し、ARS、DRS、及びERSでは、定義域の上限と下限の近傍(すなわち0と1の近傍)に評定値データ81が表出すると考えられる。そこで、前処理部52は、この近傍を予め定めた閾値thで決まる範囲とし、評定値データ81を、定義域の中央近傍のデータである主部分評定値データと、定義域の上限と下限の近傍のデータである副次部分評定値データに分割することができる。すなわち、前処理部52は、予め定めた閾値thを用い、評定値データ81を、定義域が範囲[th,1-th]の主部分評定値データと、定義域が範囲(0,th)及び範囲(1-th,1)の副次部分評定値データとから成る部分評定値データ82に分割することができる。そして、それぞれの部分評定値データ82について、後続するRP分布候補推定処理S34が実施されてもよい。
【0059】
なお、以下では予め定めた一つの閾値thで近傍を定めたが、閾値の定め方は、本例に限定されない。例えば、下限に関する閾値th1及び上限に関する閾値th2を用いて定義域の下限と上限の近傍となる範囲を定めてもよい。すなわち、この場合には、前処理部52は、予め定めた閾値th1及びth2を用い、評定値データ81を、定義域が範囲[th1,th2]の主部分評定値データと、定義域が範囲(0,th1)及び範囲(th2,1)の副次部分評定値データとから成る部分評定値データ82に分割してもよい。
【0060】
以下では、一例として、評定値データ81が部分評定値データ82に分割され、部分評定値データ82が、予め定めた閾値thを用いた上記の定義域で定められた主部分評定値データと副次部分評定値データから成る例について説明する。
【0061】
閾値thは、任意の値に定めることができる。例えば、定義域が範囲[0,1]または範囲(0,1)へ正規化された評定値データ81では、閾値thは、後述する実験結果を参考にして、0.05から0.30の範囲などから選んだ値に設定することができる。
【0062】
RP分布候補推定処理S34で、RP分布推定部53は、部分評定値データ82のそれぞれに基づいて、複数の反応プロファイル分布候補(RP分布候補)を推定する。RP分布候補は、利用者のRPを表現する統計分布の候補であり、候補RP分布テンプレートに表された統計分布へのフィッティングにより、推定することができる。
【0063】
RP分布推定部53は、RP分布候補推定処理S34で、部分評定値データ82の分布形状を、RP分布情報90に格納された候補RP分布テンプレートに基づき、統計分布で近似する。候補RP分布テンプレートは、RPを表現し得る分布(例えば、ERSとBiMRS)を表す統計分布の種別(例えば、正規分布とベータ分布)と、この分布の形状を決めるパラメータθの値の範囲を含む。パラメータθは、分布の形状を決める特徴量であり、例えば、統計分布の種別が正規分布である場合には平均や標準偏差などである。
【0064】
以下では、RP分布推定部53が、パラメータθで分布の形状が特徴づけられるパラメトリックな統計分布へのフィッティングを通じて、利用者のRPを特徴づける統計分布の候補であるRP分布候補を推定する例を示す。このフィッティングでは、部分評定値データ82の出現頻度分布を、統計分布の確率密度関数へフィッティングする。なお、部分評定値データ82の累積出現頻度分布を、統計分布の累積確率密度関数へフィッティングすることで、RP分布候補を推定してもよい。また、評定値データ81としてリッカート尺度などの多値離散反応型の順序尺度を用いている場合には、統計分布の確率密度関数へのフィッティングに代えて、適当な離散型統計分布の確率質量関数や累積確率質量関数へのフィッティングにより、RP分布候補を推定すればよい。
【0065】
以下では、RP分布候補推定処理S34を、主RP分布候補推定処理S34Aと、副次RP分布候補推定処理S34Bとに分けて説明する。RP分布推定部53は、評定値データ81の中央近傍に表出するRPを表現する主RP分布候補と、評定値データ81の上限近傍と下限近傍の少なくとも一方に表出するRPを表現する副次RP分布候補とのうち、少なくとも一方のRP分布候補を含む複数のRP分布候補を推定する。
【0066】
まず、主RP分布候補推定処理S34Aについて説明する。主RP分布候補推定処理S34Aでは、RP分布推定部53は、主部分評定値データに対する反応プロファイル分布候補(主RP分布候補Main)を推定する。主RP分布候補Mainの分布の形状を決めるパラメータθを主RP特徴量θMainとする。
【0067】
RP分布推定部53は、主RP分布候補Mainの主RP特徴量θMainを推定する。RP分布情報90には、候補RP分布テンプレートとして、MRSの候補RP分布テンプレートと、BiMRSの候補RP分布テンプレートが格納されているとする。さらに、RP分布情報90には、候補RP分布テンプレートとして、峰を持たない一様分布の候補RP分布テンプレートが格納されているとする。MRSは、単峰の連続分布で表現できる。BiMRSは、2つの連続分布からなる混合分布(双峰を持つ分布)で表現できる。
【0068】
RP分布推定部53は、例えば、主RP特徴量θMainが平均μと標準偏差σである正規分布Normal(μ,σ)、主RP特徴量θMainがパラメータα、βであるベータ分布Beta(α,β)、またはこれらの混合数が2である混合分布を候補RP分布テンプレートとし、候補RP分布テンプレートへのフィッティングにより、主RP分布候補Mainを推定する。例えば、2つのベータ分布L、Rの混合分布へのフィッティングの場合には、主RP分布候補Mainは、BetaMixture(w,α,β,w=1-w,α,β)と表現される。なお、wは、2つのベータ分布の混合割合であり、添え字L、Rは、それぞれのベータ分布についてのパラメータであることを表す。パラメータフィッティングには、既知の手法を用いることができる。例えば、MRSの場合には、最尤法やベイズ推定を用いることができ、BiMRSの場合には、Expectation-Maximizationアルゴリズムやこれに類するアルゴリズムを用いることができる。
【0069】
以上のようにして、RP分布推定部53は、主部分評定値データについて、それぞれの主RP分布候補Mainを特徴づける主RP特徴量θMainを推定し、これにより主RP分布候補Mainを推定する。
【0070】
次に、副次RP分布候補推定処理S34Bについて説明する。副次RP分布候補推定処理S34Bでは、RP分布推定部53は、副次部分評定値データに対する反応プロファイル分布候補(副次RP分布候補DistSub)を推定する。副次RP分布候補DistSubの分布の形状を決めるパラメータθを副次RP特徴量θDistSubとする。
【0071】
RP分布推定部53は、副次RP分布候補DistSubの副次RP特徴量θDistSubを推定する。例えば、RP分布推定部53は、ARS、DRS、及びERSが峰を持たないことから、分布を柔軟に表現可能な連続分布であり、パラメータαADE、βADEを用いて表されるベータ分布Beta(αADE,βADE)を候補RP分布テンプレートとし、候補RP分布テンプレートへのフィッティングにより、副次RP分布候補DistSubを推定する。RP分布推定部53は、副次部分評定値データについて、ARS、DRS、及びERSの分布形状が担保されるような制約をαADEとβADEに課したパラメータフィッティングにより、それぞれの副次RP分布候補DistSubを特徴づける副次RP特徴量θDistSubを推定し、これにより副次RP分布候補DistSubを推定する。
【0072】
候補分布保存処理S35で、RP分布推定部53は、候補RP分布データ83を保存する。候補RP分布データ83には、RP分布候補推定処理S34(主RP分布候補推定処理S34Aと副次RP分布候補推定処理S34B)で得られた主RP分布候補Mainと副次RP分布候補DistSubと、これらを特徴づける主RP特徴量θMainと副次RP特徴量θDistSubが含まれる。また、主RP分布候補Mainとして峰を持たない一様分布が得られた場合には、この一様分布を特徴づける特徴量を候補RP分布データ83として保存する。
【0073】
主RP分布候補Mainと副次RP分布候補DistSubとは、データの局在範囲が互いに重複しにくい。このため、評定値データ81を、主部分評定値データと副次部分評定値データとから成る部分評定値データ82に分割し、部分評定値データ82を用いて候補RP分布データ83を得ることで、RP分布推定部53がRP分布候補を推定する精度を向上させることができる。
【0074】
なお、上記の説明では、一例として、特定の利用者特性データ87のみを抽出し、特定の利用者のみの評定値データの出現頻度分布を対象にRP分布候補を推定する例を述べた。RP分布候補を推定する処理は、特定の利用者についての処理に限定されない。例えば、複数の利用者が複数種類の質問項目に回答しており、回答回数が複数の利用者の間で概ね等しい場合には、潜在変数としてRPを有する項目反応モデル(Item Response Theory Model)を候補RP分布テンプレートとして複数設けて、RP分布候補を推定してもよい。この場合、VASなどの連続反応型の測定尺度が評定値データであるならば、ベータ反応モデル(Beta Response Model)にRPを示すパラメータを導入して拡張したモデルを用いて、RP分布候補とそのRP特徴量θを推定すればよい。
【0075】
図4は、反応プロファイル評価装置1が行う、RP分布の評価処理の例を示すフローチャートである。RP分布の評価処理では、評定値データ81または部分評定値データ82と複数のRP分布候補に基づいて、利用者のRPを特徴づけるのに適したRP分布(すなわち、利用者のRPの表現に適したRP分布)を、評価指標を用いて求める。以下では、一例として、部分評定値データ82を用いて利用者のRPの表現に適したRP分布を求める例を説明する。
【0076】
データ読込処理S41で、反応プロファイル評価装置1の受付部51は、部分評定値データ82と候補RP分布データ83を入力する。
【0077】
RP分布評価処理S42で、RP分布評価部54は、部分評定値データ82を用いて、複数のRP分布候補の中から利用者のRPの表現に適したRP分布を選択する。RP分布評価部54は、利用者のRPの表現に適したRP分布として、例えば、1つのRP分布、複数のRP分布、または複数のRP分布の組み合わせを選択することができる。
【0078】
具体的には、RP分布評価部54は、候補RP分布データ83の組み合わせを基に、利用者のRPを特徴づけるのに適したRP分布を決定するための評価指標を選択する。評価指標は、RP分布候補に対する評定値データ81(部分評定値データ82)の分布の当てはまり度合を評価するための指標であり、評価指標が所定の閾値で決まる条件を満たすように選択される。RP分布評価部54は、選択された評価指標に対応するRP分布候補(主RP分布候補と副次RP分布候補)で表される分布を、利用者のRPを特徴づけるのに適したRP分布とする。本実施例では、利用者のRP分布は、利用者のRPを特徴づけるのに適した統計分布を混合した混合分布によって表されるものとする。
【0079】
本実施例では、主RP分布候補と副次RP分布候補を推定した場合を想定し、RP分布評価処理S42を、主RP分布候補についての処理である主RP分布評価処理S42Aと、副次RP分布候補についての処理である副次RP分布評価処理S42Bとに分けて処理を行う例を示す。本実施例では、特に、主RP分布候補と副次RP分布候補の組み合わせを網羅探索するのではなく、主RP分布候補Mainのうち適したRP分布を主RP分布Mainとして選択した後に、選択された主RP分布Mainについてのみ副次RP分布候補との組み合わせを評価する階層的処理の例について示す。なお、主RP分布候補と副次RP分布候補のそれぞれについて適したRP分布を並列的に選択し、得られた主RP分布と副次RP分布の組み合わせのみを評価してもよい。網羅探索の処理に代えて階層的処理または並列的処理を実施することで、候補RP分布評価の評価空間を絞り込め、計算量と処理時間を削減するという効果が得られる。
【0080】
RP分布評価部54は、RP分布評価処理S42として、まず主RP分布評価処理S42Aを行う。主RPとしてMRSとBiMRS、または峰を持たない一様分布を仮定した場合には、主RP分布評価処理S42Aでは、統計分布の種別のうちどの種別が適するのか、分布選択基準情報91に与えられた評価指標を基に決定する。分布選択基準情報91には、評価指標の項目が予め与えられている。
【0081】
評価指標は、主RP特徴量θMainで特徴づけられる主RP分布候補と、主部分評定値データの出現頻度分布を必要な観点で比較して選択すればよい。例えば、評価指標として、主RP分布候補に対する主部分評定値データの出現頻度分布の当てはまりを評価するために、尤度関連統計量や情報量基準を採用してもよい。尤度関連統計量としては、例えば、尤度、対数尤度、尤度比、及び逸脱度などを利用することができる。情報量基準としては、例えば、Akaike’s Information Criterion(AIC)、Bayesian information criterion(BIC)、Widely applicable information criterion(WAIC)、及びWidely applicable BIC(WBIC)などを利用することができる。また、評価指標として、得られた分布形状を評価するために、分布類似度を測るKullback-Leibler divergenceを採用してもよい。
【0082】
また、主RPとしてMRSとBiMRSを仮定し、BiMRSを混合分布により表現した場合には、単に情報量基準で主RP分布を評価すると、混合分布のピークの分離度(双峰の分離度)がさほど大きくなくても複雑なRP分布であるBiMRSが選択されやすい傾向にある。パラメータ数の多いBiMRSは、双峰の分離度が高い場合にのみ選択されることが望ましい。このため、主RP分布として推定されたBiMRSの双峰の分離度が著しく高い場合のみにBiMRSが選択されるよう、双峰の分離度を評価指標とし、この評価指標が予め定めた最小許容閾値accept_bidistを上回っているかどうかで、主RP分布を評価してもよい。例えば、BiMRSを混合数が2の混合ベータ分布で近似した場合には、双峰の分離度は、BiMRSの混合分布を構成する2つの部分分布の最頻値の差で算出することができる。
【0083】
以上から、例えば、評価指標である混合分布のピークの分離度(双峰の分離度)が最小許容閾値accept_bidistより大きく、かつAICが小さい場合にのみ、主RP分布としてBiMRSを選択し、そうでない場合には、MRSまたは峰を持たない一様分布(すなわち、主RP分布が存在しない)として、主RP分布Mainと、主RP分布を特徴づける主RP特徴量θMainを選択する。
【0084】
RP分布評価部54は、主RP分布評価処理S42Aを実施した後、副次RP分布評価処理S42Bを行う。副次RP分布評価処理S42Bでは、主RP特徴量θMainで特徴づけられる主RP分布Mainと、各々の副次RP特徴量θDistSubで特徴づけられる副次RP分布DistSubとについて、両分布の最適な混合割合wADEを推定し、両分布の混合割合がwADEであるときの評価指標を算出する。両分布の最適な混合割合wADEは、RP分布候補推定処理S34で述べた統計分布へのフィッティングの方法と同じ方法を用いて、推定することができる。そして、得られた各評価指標と、主RP分布をRP分布として選択した場合の各評価指標とを比較し、評価指標が良好な条件を採択する。
【0085】
例えば、評価指標として情報量基準を用いた場合には、主RP分布と副次RP分布の混合分布を採択した時に情報量基準が改善していれば、この混合分布を利用者のRPを表現するRP分布として選択し、改善していなければ主RP分布を利用者のRPを表現するRP分布として選択する。主RP分布MainにBiMRSを選択しており、副次RP分布DistSubとしてARSを混合分布の部分分布に選択した場合に最も情報量基準が改善していれば、RP分布ResponseProfile(θ)は、ResponseProfile(θ)=wADE×DistSub(θDistSub)+(1-wADE)×Main(θMain)として表され、RP分布特徴量θuserは、θuser={θDistSub,θMain}={wADE,αARS,βARS,w,α,β,w,α,β}として表される。RP分布評価部54は、この得られたRP分布特徴量θuserと統計分布種別の情報を、RP分布データ84として保存する。
【0086】
図5は、本実施例による反応プロファイル評価装置1を用いて行った、RP分布推定(図3)とRP分布評価(図4)の実験結果である。この実験は、評定値データ81の疑似データを用いて行った。
【0087】
この実験では、RP分布を、ResponseProfile(θ)=wADE×DistSub(θDistSub)+(1-wADE)×Main(θMain)として表し、RP分布特徴量を、θuser={θDistSub,θMain}={wADE,αARS,βARS,w,α,β,w,α,β}として表した場合に、真のパラメータが既知の統計分布から生成された評定値データ81の疑似データを用いて、特に部分評定値データ82の生成に用いる閾値thの影響を評価した。
【0088】
図5の表501は、実験に用いた疑似データの例を示す表であり、番号が#11から#36までの条件について、RP分布とそのRP分布特徴量を示している。表501に示すRP分布特徴量で定義される各ベータ混合分布から1000サンプルだけデータを抽出し、評価指標としてAICと混合分布のピークの分離度(双峰の分離度)を採用した。双峰の分離度の最小許容閾値accept_bidistを0.0とし、主RP分布を近似する連続分布を正規分布またはベータ分布とした場合におけるRP分布特徴量θuserを評価することで、閾値thと連続分布の種別に対する推定値の頑健性を評価した。
【0089】
グラフ502A、502Bは、実験結果として、RP分布特徴量θuserのうち、主RP分布Mainと副次RP分布DistSubの混合割合wADEについての結果を示す。この実験では、主RP分布Mainを近似する連続分布(候補RP分布テンプレートとして選択した統計分布の種別)は、正規分布とベータ分布である。グラフ502Aは、分布の種別が正規分布の場合であり、グラフ502Bは、分布の種別がベータ分布の場合である。実験では、閾値thの値を0.05、0.15、0.25、0.1、0.2、及び0.3と変化させた。
【0090】
グラフ502A、502Bより、本実施例による方法でRP分布特徴量θuserを評価すると、一部の条件では真値との乖離が生じるものの、連続分布の種別が正規分布であるかベータ分布であるかによらず、閾値thが少なくとも0.05から0.3までの範囲であれば、wADEの推定結果に大きな変化がなく、推定結果が頑健であることが確認できる。また、真値との乖離が生じた一部の条件も含め、選択されたRP分布の概形は、疑似データの分布を再現していた。すなわち、本実施例では、RP分布特徴量θuserの変化に影響を受けにくく、利用者の反応プロファイル(RP)としてほぼ同一のRPを得ることができ、安定した結果を得ることができる。
【0091】
このように、本実施例によると、VASなど主に連続反応型の測定尺度を用いて測定した評定値データ81であっても、評定値データ81に生じる反応プロファイル(RP)を定量評価することができる。
【0092】
図6は、利用者端末7または管理者端末8に表示される、利用者のRP分布データ84の例を示す図である。図6に示すグラフ601A、601Bは、本実施例による方法の適用により得られたRP分布の表示の一例である。
【0093】
グラフ601A、601Bは、評定値データ81の出現頻度分布(実分布)とRP分布の確率密度関数を、ビン幅0.05のヒストグラムとして表示した例である。グラフ601Aは、主RP分布を近似する連続分布を正規分布として得られたRP分布を示す。グラフ601Bは、主RP分布を近似する連続分布をベータ分布として得られたRP分布を示す。グラフ601A、601Bにおいて、縦網掛けのヒストグラムは、ある利用者について複数種別の双極VASと単極VASから成る実際の評定値データを表したヒストグラムである。斜め網掛けのヒストグラムは、本方法で推定されたRP分布(wADEが0.3であると推定して得られたRP分布)について、その確率密度関数を表示したヒストグラムである。
【0094】
図6に示す例では、定義域の両端に評定値の集中が見られるとともに、中心部を挟んだ位置に双峰の評定値の集中が見られることから、主RP分布がBiMRSであり、副次RP分布がERSである例として解釈できる。
【0095】
本方法の適用の結果、連続分布を正規分布とした場合でもベータ分布とした場合でも、RPは、wADEが0.3である、ERSとBiMRSとから成る混合分布で表現できるものと推定され、評定値データ81をよく近似したRP分布が得られたことが確認できる。本方法により、RPを少数のRP分布特徴量θuserを用いて定量評価でき、VASなど主に連続反応型の測定尺度を用いて測定した評定値データ81に生じるRPを、定量評価して比較することができるという効果が得られる。
【0096】
図7は、RP分布データ84のデータ構造の例を示す図である。RP分布データ84は、典型的には、利用者ID7101、処理日7102、処理結果を一意に特定するための処理ID7103、処理した評定値データの取得開始日時7104と取得終了日時7105、処理に用いたRP分布情報90を特定するためのRP分布情報ID7106、分布選択基準情報91を特定するための分布選択基準情報ID7107、及びwADEなどのRP分布を特徴づけるRP分布特徴量7108を有する。また、RP分布データ84は、RP分布を特徴づける指標として、例えば、副次RP分布の種別を示すDistSub7109などを有してもよい。
【0097】
なお、図7に示したRP分布データ84では、副次RP分布を明示しており、主RP分布は明示していない。主RP分布の種別(例えば、分布形状)は、処理に用いたRP分布情報90を特定するRP分布情報ID7106から把握することができる。
【0098】
結果表示部55は、利用者端末7や管理者端末8のディスプレイに、反応プロファイル評価装置1が算出した結果を表示させることができる。例えば、結果表示部55は、RP分布(例えば、図6)とRP分布を特徴づけるパラメータ群(例えば、図7のRP分布特徴量7108)とのうち、少なくとも一方をディスプレイに表示させることができる。
【0099】
以上のように、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、利用者の評定値データ81を受け付ける受付部51と、評定値データ81に基づいて、利用者の回答傾向である反応プロファイル(RP)を表現する複数のRP分布候補を推定するRP分布推定部53と、評定値データ81と複数のRP分布候補に基づいて、複数のRP分布候補の中から利用者のRPの表現に適したRP分布を選択するRP分布評価部54を備える。本実施例による反応プロファイル評価装置1は、RP分布とRP分布を特徴づけるパラメータ群とのうち少なくとも一方を表示させる結果表示部55を備えてもよい。
【0100】
この構成により、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、特に単極尺度と双極尺度のように測定尺度が異なるタイプの設問が含まれることの多い、VASなど主に連続反応型の測定尺度を用いて測定した評定値データ81に対しても、他の利用者と比較可能な形でRPの定量評価ができるという効果を持つ。さらに、この効果から、RPの影響を考慮した心理測定値の被験者間分析の実現に資する効果が、副次的に得られる。
【実施例0101】
本発明の実施例2による反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを説明する。以下では、本実施例について、実施例1と異なる点を主に説明する。
【0102】
日常で経時的に複数種別のVAS計測を反復して行う場合には、計測するVASの種別に応じ、回答回数や回答種別に偏りが生じる場合がある。反応プロファイル(RP)または反応スタイルとは、教示文とは無関係に生じる(すなわち、内容独立性または課題非依存性のある)被験者毎に一貫した回答傾向のバイアスである。このため、実施例1の構成では、回答回数や回答種別に偏りがある場合に内容独立性を仮定することが難しく、例えば回答回数の多い種別のVASにひきずられたRPを推定してしまう恐れがある。この課題を鑑み、実施例2では、内容独立性を擬似的に担保する処理をさらに備えることを特徴とする。
【0103】
本実施例による反応プロファイル評価装置1の構成は、図1に示している。
【0104】
図8は、本実施例において、反応プロファイル評価装置1が行う、一連の信頼区間付RP分布評価の処理の例を示すフローチャートである。
【0105】
データ読込処理S81で、反応プロファイル評価装置1の受付部51は、評定値データ81を入力する。
【0106】
この後、各処理部は、後述する一連の処理を予め定めた反復回数Bだけ実施する。
【0107】
データ抽出処理S82で、データ抽出部56は、内容独立性を擬似的に担保した評定値データ81である均一化評定値データ85を生成する。データ抽出部56は、利用者から得た、複数の異なる回答項目から成る評定値データ81について、回答項目毎に復元抽出することで評定値データ81を再標本化して、擬似的に回答項目間の回答回数差を解消する。複数の異なる回答項目から成る評定値データ81には、例えば、単極VASと双極VASといった種別が異なる場合の評定値データ81や、VASの種別が同一であっても教示が異なる場合の評定値データ81が含まれる。
【0108】
データ抽出部56は、評定値データ81を再標本化し、評定値データ81の種別または評定値データ81の件数が疑似的に均一化された均一化評定値データ85を生成する。例えば、測定尺度が双極尺度または単極尺度のみから成る場合には、所定サンプル数の復元抽出を行う。また、双極尺度と単極尺度の両者が混在する場合には、各VASの種別内でのサンプル数を1層目の復元抽出で均一化し、双極尺度と単極尺度間のサンプル数の差異を、2層目の復元抽出で均一化すればよい。これにより、回答項目毎に同量の回答回数が含まれた均一化評定値データ85を生成することができる。この処理により、同一回数かつ複数の回答項目を含んだデータセットが得られ、回答項目や回答回数の偏りの影響を軽減した評定値データ、すなわち内容独立性が擬似的に担保された評定値データを、擬似的に複数生成することができる。
【0109】
続いて、均一化評定値データ85を入力として、図3に示したRP分布の推定処理S83と、図4に示したRP分布の評価処理S84を行い、各均一化評定値データ85に対してRP分布データ84を算出する。これらの処理は、ブートストラップ法により所定の反復回数Bだけブートストラップ標本を生成し、RP分布特徴量θuser,iのブートストラップ分布を構成していることに相当する。
【0110】
その後、信頼区間付RP分布評価処理S85が行われる。信頼区間付RP分布評価部57は、得られたRP分布特徴量θuser,iのブートストラップ分布の表現されたRP分布データ84に対し、信頼区間付RP分布評価処理S85を行う。信頼区間付RP分布評価処理S85では、信頼区間付RP分布評価部57は、反復回数の数の(すなわち、B個の)RP分布特徴量θuser,iが構成するブートストラップ分布について、そのブートストラップ統計量を算出することで信頼区間付RP分布を算出する。信頼区間付RP分布は、尤もらしい範囲(信頼区間)が合わせて示されたRP分布であり、信頼区間付RP分布データ86によって表される。
【0111】
例えば、正規分布近似法でブートストラップ分布の平均値と95%信頼区間を算出することで、RP分布特徴量θuser,iを信頼区間付で算出することができる。正規分布近似法に限らず、パーセンタイル法などの既知の手法で信頼区間付RP分布データ86を算出すればよい。これにより、回答回数の多い種別の評定値にひきずられる恐れを低減し、かつ推定結果がどの程度変動しうるかも考慮可能な形で、利用者のRPを推定することができる。
【0112】
図9は、利用者端末7または管理者端末8に表示される、利用者の信頼区間付RP分布データ86の例を示す図である。図9に示す例は、反復回数Bが1000であり、連続分布種別を正規分布として、実施例2で説明した方法を適用した場合の、各均一化評定値データ85の出現頻度分布901A(実分布)と、これに対応するRP分布の確率密度関数901Bを、ビン幅0.05のヒストグラムとして表示した例である。
【0113】
図9のヒストグラムにおいて、反復回数の数の(すなわち、B個の)RP分布特徴量θuser,iについて、その中央値のRP分布特徴量θuser,iで描かれた包絡線が、25~50%を示す領域の上端の太線(50%を示す太線)で表されており、ハッチングで塗りつぶされた複数の領域の合計が、RP分布特徴量θuser,iの95%範囲(RP分布の尤もらしい範囲)であるRP分布の範囲を示している。
【0114】
復元抽出を繰り返すことで、出現頻度分布901Aのように、均一化評定値データ85の出現頻度がゆらぎ、このゆらぎを反映して、信頼区間付RP分布として推定されたRP分布形状も、確率密度関数901Bのようにゆらぐ。本実施例の方法によると、回答回数などに偏りを含む評定値データ81からであっても、利用者のRPを信頼区間付で推定して表示することができる。
【0115】
以上のように、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、評定値データ81を再標本化して、評定値データの種別または評定値データの件数が疑似的に均一化された均一化評定値データ85を生成するデータ抽出部56と、生成された複数の均一化評定値データ85に基づいてRP分布を推定し、各均一化評定値データ85から得られたRP分布データ群について信頼区間付RP分布データ86を算出する信頼区間付RP分布評価部57を備える。
【0116】
これにより、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、回答回数や回答種別に偏りが生じている場合でも、内容独立性を擬似的に担保し、利用者のRPをより尤もらしく推定することができる。さらに、複数の均一化評定値データ85についてRP分布を推定することで、利用者のRP分布にどの程度のゆらぎが生じうるのか、その信頼区間を推定することができ、推定されたRP分布の信頼性を考慮することができるという効果が得られる。
【実施例0117】
本発明の実施例3による反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを説明する。以下では、本実施例について、実施例1と実施例2と異なる点を主に説明する。
【0118】
実施例3は、推定されたRPを用いることで、心理測定値を用いた被験者間分析におけるRPを考慮可能とする例である。本実施例では、利用者の心身の主観状態を心理測定値として計測した評定値データ81を入力として、利用者の心身の主観状態の変化を検出する例を説明する。
【0119】
図10は、本実施例による反応プロファイル評価装置1の主要な構成の例を示すブロック図である。本実施例による反応プロファイル評価装置1は、実施例1と実施例2による反応プロファイル評価装置(図1)において、主観状態評価部58と、主観状態評価モデル92を備え、評価結果データ93を格納する。
【0120】
以下では、利用者の心身の主観状態の変化を検出する例として、過去に計測された評定値データ81と比較し、直近の所定期間の評定値データ81の傾向に異常が生じているか否かを判別する異常検知を行う例を示す。
【0121】
図11Aは、反応プロファイル評価装置1が行う、主観状態評価モデル92の学習処理の例を示すフローチャートである。主観状態評価モデル92は、図11Aに示すフローチャートに従い学習する。
【0122】
データ読込処理S111で、受付部51は、評定値データ81、利用者特性データ87、及び信頼区間付RP分布データ86を入力する。本実施例では、一例として、信頼区間付RP分布データ86を入力するが、信頼区間付RP分布データ86の代わりにRP分布データ84を入力してもよい。
【0123】
前処理S112で、前処理部52は、データ読込処理S111で入力されたデータに対して前処理を行う。
【0124】
まず、前処理部52は、評定値データ81に対して、図3に示した前処理に相当する処理を行う。
【0125】
続いて、前処理部52は、データ読込処理S111で入力されたデータから学習用データセットを作成する。例えば、直近の所定期間を1週間とし、利用者の心身の主観状態として日々の不安感を評定値データ81として計測していた場合には、不安感に異常が生じていない期間について、1週間の不安感の評定値データ81と利用者特性データ87と信頼区間付RP分布データ86から成るデータ組を、1日単位の移動窓で切り出して学習用データセットを作成する。このとき、利用者のRPは、教示によらず経時的にも比較的安定した回答傾向であることから、静的な特性であると考えて、以前に評価した信頼区間付RP分布データ86を用いてもよい。一方、RP自体の時間変化の特性も考慮すべき状況であれば、例えば毎日の信頼区間付RP分布データ86を計算しておき、不安感の評定値データ81と同様に、1週間の信頼区間付RP分布データ86を1日単位の移動窓で切り出してデータ組に加えてもよい。
【0126】
主観状態評価モデル学習処理S113で、主観状態評価部58は、作成された学習用データセットを用いて主観状態評価モデル92を作成する。主観状態評価モデル92は、入力された1週間の不安感の評定値データ81と、利用者特性データ87と、信頼区間付RP分布データ86から成るデータ組を入力し、これらのデータ組が平時と比較してどの程度逸脱したデータとなっているかを異常度として評価するためのモデルである。
【0127】
主観状態評価モデル92は、典型的には、公知の異常検出アルゴリズムによる教師なしモデルであり、公知の統計的モデルや機械学習モデルとして構成することができる。統計的モデルとして、例えば、データ組のデータ分布に対する平均値や標準偏差を用いてz-scoreを出力する統計的モデル、偏差値を出力する統計的モデル、及びデータ分布上における分位点を出力する統計的モデルなどを利用することができる。また、機械学習モデルとしては、例えば、データ組からノンパラメトリックに推定されたデータ分布のクラスター中心を基準とした距離を出力する機械学習モデルを利用することができる。
【0128】
利用者の主観状態評価モデル92として、異常検出アルゴリズムに基づく教師なしモデルを利用する場合には、単純には、利用者毎にモデルを作成すればよい。この場合、被験者内分析に本方法のRPを利用する例として、評定値データ81に加えて信頼区間付RP分布データ86を入力に用いることで、RPの時間変化特性も考慮した主観状態を評価することができ、RPの変化と対象とする評定値データ81の変化とを切り分けて高い検出精度で心身の主観状態の変化を検出できるようになるという効果が得られる。
【0129】
一方で、利用者毎にモデルを作成する場合には、特定の利用者の評定値データ81が大量に必要となるが、評定値データ81には利用者の回答が欠かせないので計測コストが高い。また、単に複数の利用者をまとめて主観状態評価モデル92を作成した場合には、多数の評定値データ81を学習用データセットとして利用できるが、利用者毎にRPが異なるため、他の利用者とRPが異なる利用者に対しては過剰に異常が検出されやすくなってしまう。本方法において、信頼区間付RP分布データ86を入力に利用すれば、被験者間分析に本方法のRPを利用する例として、入力データ組としてRP特性をも考慮できる。このため、複数の利用者をまとめて主観状態評価モデル92を作成することで、多量の学習用データを利用でき、かつ利用者間で異なるRPをも考慮し、高い検出精度で心身の主観状態の変化を検出できるようになるという効果が得られる。
【0130】
図11Aに示す一連の学習処理は、後述する主観状態評価の処理(図11B)を行う前に少なくとも一度実行する。また、この学習処理を、評定値データ81の増加に伴い一定期間毎に実施することで、主観状態評価モデル92を再学習させることができる。以上により、さらに評価精度の高い主観状態評価モデル92を生成することができる。
【0131】
図11Bは、反応プロファイル評価装置1が行う、主観状態評価の処理の例を示す図である。反応プロファイル評価装置1は、主観状態評価モデル92を用いて利用者の心身の主観状態を評価する。
【0132】
データ読込処理S111で、受付部51は、評定値データ81、利用者特性データ87、及び信頼区間付RP分布データ86を入力する。
【0133】
前処理S112で、前処理部52は、主観状態を評価するための入力データ組を生成する。例えば、前処理部52は、利用者の直近1週間の不安感の評定値データ81と、利用者特性データ87と、信頼区間付RP分布データ86から成るデータ組を、入力データ組として生成する。
【0134】
主観状態評価S114で、主観状態評価部58は、前処理S112で生成した入力データ組と主観状態評価モデル92を用いて、利用者の心身の主観状態を評価し、心身の主観状態の平時からの変化が著しいか否かを示す異常度を求める。主観状態評価部58は、求めた異常度を、例えば0から1までの連続値として出力し、評価結果データ93に保存する。
【0135】
これにより、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、利用者毎に異なるRPを考慮して、利用者の心身の主観状態の変化を高精度で検出できるという効果を持つ。
【実施例0136】
本発明の実施例4による反応プロファイル評価装置、反応プロファイル評価方法、及び反応プロファイル評価プログラムを説明する。以下では、本実施例について、実施例1と実施例2と異なる点を主に説明する。
【0137】
実施例3では、評定値データ81自体を分析対象として入力し、利用者のRPを考慮して、利用者の心身の主観状態の変化を検出する。
【0138】
実施例4では、生体計測センサ11が生体(利用者)を計測して得られたデータである生体計測データを入力とし、評定値データ81を推定する場合において、利用者のRPを考慮して、利用者の心身の主観状態を推定する。本実施例では、一例として、推定対象とする心身の主観状態を、日常生活下の自然感情とし、覚醒度Arousalと感情価Valenceから構成される感情次元にて測定された自然感情を生体計測データから推定し、日常であまり生じない感情であった場合には評定値データ81として回答を求める例を説明する。
【0139】
図12は、本実施例による反応プロファイル評価装置1の主要な構成の例を示すブロック図である。本実施例による反応プロファイル評価装置1は、実施例1と実施例2による反応プロファイル評価装置(図1)において、生体状態評価部59と、生体計測データ88と、生体状態評価モデル94を備え、評価結果データ93を格納する。生体状態評価モデル94は、利用者の生体状態から利用者の心身の主観状態を推定するためのモデルである。
【0140】
図13Aは、反応プロファイル評価装置1が利用者端末7からデータを受信する処理の例を示すフローチャートである。データ受信処理S131で、反応プロファイル評価装置1の受付部51は、図2(実施例1)に示したデータ受信処理S21と同様に、利用者端末7から評定値データ81と利用者特性データ87を受信し、さらに利用者端末7から生体計測データ88を受信する。
【0141】
図13Bは、反応プロファイル評価装置1が行う、生体状態評価モデル94の学習処理の例を示すフローチャートである。生体状態評価モデル94は、図13Bに示すフローチャートに従い学習する。
【0142】
データ読込処理S132で、受付部51は、評定値データ81、利用者特性データ87、生体計測データ88、及び信頼区間付RP分布データ86を入力する。本実施例では、一例として、信頼区間付RP分布データ86を入力するが、信頼区間付RP分布データ86の代わりにRP分布データ84を入力してもよい。
【0143】
なお、以下では、特別に述べない場合には、一組の生体計測データ88が、30分間の心拍間隔データと皮膚電気活動データと加速度データからなり、一組の評定値データ81が、この30分間に対する感情価Valenceと覚醒度Arousalの強度であり、これらの組を複数用いることで生体状態評価モデル94を学習させる例を説明する。従って、評定値データ81が、心身の主観状態を推定するための正解データに相当する。
【0144】
前処理S133で、前処理部52は、入力されたデータに対して前処理を行う。まず、前処理部52は、図3(実施例1)の前処理S32に相当する処理を、心身の主観状態を推定するための正解データである評定値データ81に対して行う。
【0145】
前処理部52は、この処理の他に、例えば信頼区間付RP分布データ86に基づき、評定値データ81を利用者毎に分位点に変換してもよい。この分位点変換とは、あるデータを、その出現頻度の累積密度関数に基づき、出現確率などへ変換する処理である。例えば、信頼区間付RP分布データ86として正規分布近似法を用いていた場合には、ブートストラップ分布の平均値を用いてRP分布の累積密度関数を得て、利用者毎における評定値データ81の相対出現確率(0から1の値)を正解データとして利用してもよい。
【0146】
また、心身の主観状態として、自然感情の連続値の推定に代えて、自然感情の分類を行う場合には、例えばマージンεを用いて、0から1の中央の値である0.5±εの範囲のデータを除き、0から0.5-εまでを負例0とし、0.5+εから1までを正例1として、二値化してもよい。
【0147】
また、前処理部52は、生体計測データ88に対する前処理S133として、生体計測データ88に含まれる個人差の補正処理、生体計測データ88からの特徴抽出処理、及び生体計測データ88から抽出した特徴の圧縮処理(次元削減)などのうち、少なくとも1つを行う。前処理部52は、これらの処理について、パイプラインとして複数の処理(サブタスク)を明示的に順次実行してもよく、End-to-endに(サブタスクに分割することなく一気に)実行してもよい。
【0148】
例えば、一連の前処理S133を、個人差の補正処理として、利用者自身から過去に計測された一連の生体計測データ88に基づくデータの正規化処理を行い、特徴の抽出処理を行わずに、利用者毎に正規化された生体計測データ88を入力とした主成分分析による特徴の圧縮処理として構成してもよい。
【0149】
また、End-to-endに処理する場合には、前処理S133として、生体計測データ88の計測ノイズの除去処理を設定し、特徴の抽出処理と特徴の圧縮処理として、ノイズ除去が行われた生体計測データ88を入力とした深層生成モデルであるVariational Auto Encoder(VAE)の潜在ベクトルを用いる形で構成してもよい。この場合には、VAEのモデルを、生体計測データ88から教師なし学習により学習する。
【0150】
個人差の補正やノイズ除去の目的で、利用する信号スケールの正規化処理やノイズ除去処理を行ってもよい。例えば正規化処理では、利用者毎、計測日毎、利用者のある計測日毎、または全利用者間にて、最大値と最小値で正規化するmin-max正規化、信号の平均と標準偏差で正規化するz-score化、または信号強度分布の分位点を用いて正規化する分位点正規化などを利用してもよい。また、加齢などにより信号強度が変動することが知られている場合には、利用者特性データ87に含まれている利用者の年齢の情報を鑑みて、年齢集団毎に信号強度を正規化する偏差値化処理などを行ってもよい。さらに、ノイズ除去処理では、信号の異常値を取り除いて一定範囲内に収めるclipping処理やwinsorize処理、または一時刻の突発的な変動を抑えて平滑化する移動平均処理やSavitzky-Golayフィルタによる0次微分処理などを実施してもよい。
【0151】
生体計測データ88からの特徴の抽出処理では、用いる生体計測データ88の生体信号に応じて特徴を抽出してもよい。例えば、心拍センサ21で取得された心拍間隔データに対しては、平均心拍数、周波数領域解析により得られ交感神経活動や副交感神経活動を主として反映することがそれぞれ知られるLow Frequency component(LF)やHigh Frequency component(HF)、時間領域解析にて利用されるSDNN、RMSSD、NN50、非線形領域解析にて利用されるローレンツプロットを用いた特徴量、Detrended Fluctuation Analysisにて得られる特徴量、及びcomplex demodulation法によって得られる特徴量などを利用することができる。また、皮膚電気活動センサ22で取得された皮膚電気活動データについては、皮膚コンダクタンスレベル(Skin Conductance Level、SCL)や皮膚コンダクタンス反応(Skin Conductance Response、SCR)を用いてよい。また、加速度センサ23から得られた三軸加速度データについては、加速度ノルムや、加速度ノルムに対してバンドパスフィルタで処理した信号が重力加速度を1Gとした場合に±0.01Gの閾値を通過する回数であるゼロクロス回数などを利用してもよい。
【0152】
特徴の圧縮処理には、公知のアルゴリズムを用いることができる。例えば、上述した主成分分析、自己符号化器であるAuto Encoder(AE)、及びUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)などを用いてよい。
【0153】
その後、前処理部52は、各種変換処理がなされたデータを用いて学習用データセットを作成する。例えば、変換処理がなされた生体計測データ88、信頼区間付RP分布データ86、及び利用者特性データ87を生体状態評価モデル94の入力Xにし、評定値データ81を生体状態評価モデル94の出力yにする形で、学習用データセットを作成してもよい。また、変換処理がなされた生体計測データ88と利用者特性データ87を入力Xにし、信頼区間付RP分布データ86により分位点変換された評定値データ81を出力yにする形で、学習用データセットを作成してもよい。さらに、これらの処理を組み合わせて学習用データセットを作成してもよい。
【0154】
一連の前処理S133が完了した後、生体状態評価モデル学習処理S134が行われる。
【0155】
生体状態評価モデル学習処理S134で、生体状態評価部59は、作成された学習用データセットを用いて生体状態評価モデル94を作成する。
【0156】
例えば、生体状態評価モデル94が、利用者の日常生活下の自然感情を推定対象とするモデルである場合には、生体状態評価モデル94は、教師あり学習により、自然感情として、「ある30分間に対する感情価Valenceと覚醒度Arousalの強度」を推定する感情次元推定モデルを学習してよい。生体状態評価モデル94は、公知のアルゴリズムを用いて作成することができる。例えば、機械学習アルゴリズムについて、ロジスティック回帰モデル、決定木、Random Forest、Support Vector Machine、ニューラルネットワーク、ベイジアンニューラルネットワーク、及び深層学習モデルなどを利用することができる。アルゴリズムについては、推定する心身の主観状態に応じて分類アルゴリズムも回帰アルゴリズムも用いることができる。例えば、感情価Valenceと覚醒度Arousalの強度を0から1までの値で推定する場合には、回帰アルゴリズムを用いてよく、感情価Valenceと覚醒度Arousalの強度の高低を推定する場合には、回帰アルゴリズムに代えて分類アルゴリズムを用いてよい。
【0157】
さらに、生体状態評価モデル94は、個人差を考慮した複数のモデルで構成されるとしてもよい。この場合には、それぞれの利用者に適合した心身の主観状態を推定できることになり、利用者への適合性や利用者からの主観値推定結果に対する受容性が向上するという効果が得られる。
【0158】
生体状態評価モデル94を、個人差を考慮した複数のモデルで構成する場合には、生体状態評価モデル94に対して専用の処理を追加してもよく、生体状態評価モデル94自体をEnd-to-endに構成してもよい。例えば、信頼区間付RP分布データ86により分位点変換された評定値データ81を出力yとする場合が、専用の処理を追加する例に相当する。また、End-to-endに構成する場合には、生体状態評価モデル94をニューラルネットワークで構成し、その最終層に近い層を利用者毎にまたはRP分布が近い利用者群に分割するマルチタスク学習により構成することで、利用者のRPに応じた推定を実現できるように構成してもよく、利用者に共通の生体状態評価モデル94を作成しておいて、この生体状態評価モデル94を利用者毎にファインチューニングすることで生体状態評価モデル94が特定のRPを有する利用者に適合するように構成してもよい。
【0159】
図13Bに示す一連の学習処理は、後述する生体状態評価の処理(図13C)を行う前に少なくとも一度実行する。また、この学習処理を、評定値データ81や生体計測データ88の増加に伴い一定期間毎に実施することで、生体状態評価モデル94を再学習させることができる。以上により、さらに評価精度の高い生体状態評価モデル94を生成することができる。
【0160】
図13Cは、反応プロファイル評価装置1が行う、生体状態評価の処理の例を示す図である。反応プロファイル評価装置1は、生体状態評価モデル94を用いて、利用者の生体状態から利用者の心身の主観状態を評価する。
【0161】
データ読込処理S132で、受付部51は、利用者特性データ87、生体計測データ88、及び信頼区間付RP分布データ86を入力する。
【0162】
前処理S133で、前処理部52は、利用者の生体状態から利用者の心身の主観状態を評価するための入力データ組を生成する。例えば、前処理部52は、利用者特性データ87と、生体計測データ88と、信頼区間付RP分布データ86から成るデータ組を、入力データ組として生成する。
【0163】
生体状態評価処理S135で、生体状態評価部59は、前処理S133で生成した入力データ組と生体状態評価モデル94を用いて、利用者の心身の主観状態を推定する。例えば、「ある30分間に対する感情価Valenceと覚醒度Arousalの強度」を推定する場合には、覚醒度Arousalと感情価Valenceの推定強度を0から1までの連続値として推定する。生体状態評価部59は、推定した得られた心身の主観状態を出力し、評価結果データ93に保存する。
【0164】
図14A図14Bは、結果表示部55が、利用者端末7の入出力装置13のディスプレイに出力して表示する評価結果の例を示す図である。図14A図14Bには、一例として、入出力装置13にスマートフォンを用いた場合を示している。本実施例では、評価結果が、通知用アプリケーションへのメッセージの形で利用者に通知される場合の例を示す。
【0165】
図14Aの画面1301は、評価結果データ93に基づき、利用者へ評定値データ81(教示文に対する回答)の入力を求める際の表示画面の例である。
【0166】
従来の技術では、通知用アプリケーションは、例えば、図14Aの画面1301に示したSignal#1のように、利用者に対して不定期に通知1301Aを表示し、ある瞬間に対応する感情の正解データとして評定値データ81の収集を試みる。しかし、日常生活中において、強い喜びや悲しみといった感情は頻繁には発生しないため、単純な不定期の通知では、正解データを収集するのに長い期間がかかってしまうか、十分な数の正解データを取得できないまま所定の期間が終わってしまうことがある。
【0167】
本実施例では、利用者のRPを考慮して評価結果データ93を得るので、利用者が普段と異なる状況であるか否かを、RPを考慮して評価することができる。このため、例えば、覚醒度Arousalと感情価Valenceの推定強度が0または1に近い状況が強い感情であるとして、利用者が普段とは異なる主観状態(感情状態)にあるタイミングを画面1301に示したEvent #1のような形式の通知1301Bで、利用者端末7に表示することができる。これにより、利用者に発生した感情が日常であまり生じない感情と推定される場合に、利用者に回答を促すことができ、結果的に評定値データ81の収集に資することができる。
【0168】
本実施例では、このようにして、通知1301Bに基づく利用者の応答を、図13Aのデータ受信処理S131において評定値データ81として取得することができる。このため、本実施例では、利用者にSignal#1のような通知1301Aを不定期に表示して評定値データを取得し、この評定値データを感情の正解データとする従来の技術と比較し、稀な感情状態に対応する評定値データ81を高効率で取得することができるという効果が得られる。
【0169】
図14Bの画面1302は、RPの複数のタイプA~Dの例と利用者のRPのタイプを、利用者に示す表示画面の例である。画面1302には、信頼区間付RP分布データ86を用いて、RPのタイプA~D(類似利用者群A~D)毎に個人差を考慮した複数のモデルを作成した場合における、利用者のRPのタイプを示している。画面1302のような表示画面により、利用者は、他の利用者や、自分と異なる類似利用者群と比較し、自身の回答特性(すなわちRP)がどのような特性であるのかについて判断可能である。
【0170】
これにより、本実施例による反応プロファイル評価装置1は、利用者毎に異なるRPを考慮して、生体計測データ88から利用者の心身の主観状態を高精度に推定できるという効果を持つ。
【0171】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【0172】
また、本発明による装置の各構成は、これらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよい。また、これらの一部又は全部は、プロセッサ2がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行するようにして、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル、測定情報、及び算出情報等の情報は、メモリ3、ハードディスクドライブ、及びSSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、及びDVD等の、計算機が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。よって、本発明による装置の各構成は、処理部、処理ユニット、及びプログラムモジュールなどとして、各機能の実現が可能である。
【0173】
また、各図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを記載しており、必ずしも製品として必要な全ての制御線や情報線を記載しているとは限らない。実際の製品では、殆ど全ての構成要素が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0174】
1…反応プロファイル評価装置、2…プロセッサ、3…メモリ、4…ストレージ装置、5…入出力装置、6…通信装置、7…利用者端末、8…管理者端末、9…ネットワーク、11…生体計測センサ、12…生体計測装置、13…入出力装置、14…通信装置、15…通知報知装置、21…心拍センサ、22…皮膚電気活動センサ、23…加速度センサ、31…入出力装置、32…通信装置、33…通知報知装置、51…受付部、52…前処理部、53…RP分布推定部、54…RP分布評価部、55…結果表示部、56…データ抽出部、57…信頼区間付RP分布評価部、58…主観状態評価部、59…生体状態評価部、81…評定値データ、82…部分評定値データ、83…候補RP分布データ、84…RP分布データ、85…均一化評定値データ、86…信頼区間付RP分布データ、87…利用者特性データ、88…生体計測データ、90…RP分布情報、91…分布選択基準情報、92…主観状態評価モデル、93…評価結果データ、94…生体状態評価モデル、501…表、502A、502B…グラフ、601A、601B…グラフ、901A…出現頻度分布、901B…確率密度関数、1301…画面、1301A…通知、1301B…通知、1302…画面、ID7101…利用者、7102…処理日、7103…処理ID、7104データ開始日時、7105…データ終了日時、7106…RP分布情報ID、7107…分布選択基準情報ID、7108…RP分布特徴量、7109…DistSub。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B