(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170094
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】車両制動方法及び車両制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20241129BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T8/172 Z
B60T8/172 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087061
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】関 健一
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246DA01
3D246GA22
3D246GB12
3D246GB13
3D246GB18
3D246GC14
3D246HA02A
3D246HA64A
3D246HA81A
3D246HA93A
3D246HA98B
3D246HB02B
3D246HC02
3D246KA15
(57)【要約】
【課題】自車両が実現できる最大制動力を向上する。
【解決手段】車両制動方法では、自車両に要求される要求制動力を設定し(S1)、路面の摩擦係数を検出し(S2)、摩擦係数に基づいて、自車両が発生可能な最大減速度で減速する場合に前輪及び後輪にかかる輪荷重の比である輪荷重比に応じた、前輪と後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出し(S3)、第1配分比に基づく制動力配分比で、要求制動力を配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる(S4、S5)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に要求される要求制動力を設定し、
路面の摩擦係数を検出し、
前記摩擦係数に基づいて、前記自車両が発生可能な最大減速度で減速する場合に前輪及び後輪にかかる輪荷重の比である輪荷重比に応じた、前記前輪と前記後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出し、
前記第1配分比に基づく制動力配分比で、前記要求制動力を配分した制動力を前記前輪及び前記後輪に発生させる、
ことを特徴とする車両制動方法。
【請求項2】
前記摩擦係数に基づいて前記輪荷重比を算出し、
算出した前記輪荷重比に基づいて前記第1配分比を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制動方法。
【請求項3】
前記要求制動力が大きい場合よりも前記要求制動力が小さい場合に、前記前輪及び前記後輪のうち静的輪荷重が小さい車輪の配分比が増加するように前記第1配分比を補正することにより第2配分比を算出し、
前記第2配分比で前記要求制動力を配分した制動力を前記前輪及び前記後輪に発生させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制動方法。
【請求項4】
前記前輪及び前記後輪のタイヤの摩擦限界に対するそれぞれ前記前輪と前記後輪における摩擦力の使用率に基づいて前記制動力配分比を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両制動方法。
【請求項5】
前記使用率が最小になるように前記制動力配分比を算出することを特徴とする請求項4に記載の車両制動方法。
【請求項6】
前記前輪における前記使用率と前記後輪における前記使用率とが等しくなるように前記制動力配分比を算出することを特徴とする請求項4に記載の車両制動方法。
【請求項7】
前記使用率を含んだ評価関数を最大化する最適化演算によって前記制動力配分比を算出することを特徴とする請求項5に記載の車両制動方法。
【請求項8】
自車両に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、前記摩擦係数に基づいて、前記自車両が発生可能な最大減速度で減速する場合に前輪及び後輪にかかる輪荷重の比である輪荷重比に応じた、前記前輪と前記後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出し、前記第1配分比に基づく制動力配分比で、前記要求制動力を配分した制動力を前記前輪及び前記後輪に発生させるコントローラと、を備えることを特徴とする車両制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制動方法及び車両制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車重推定値に基づいて理想制動力配分を補正する制動力制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制動力制御装置は、路面の摩擦係数を考慮せずに制動力配分を設定する。このため路面状態によっては制動力が低下する虞があった。
本発明は、自車両が実現できる最大制動力を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による車両制動方法では、自車両に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、摩擦係数に基づいて、自車両が発生可能な最大減速度で減速する場合に前輪及び後輪にかかる輪荷重の比である輪荷重比に応じた、前輪と後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出し、第1配分比に基づく制動力配分比で、要求制動力を配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両が実現できる最大制動力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の車両制動装置の一例の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の車両制動方法の一例を説明する模式図である。
【
図3】第1実施形態の車両制動方法の一例のフローチャートである。
【
図4】第2実施形態のコントローラの機能構成の一例のブロック図である。
【
図5】第3実施形態の制動力配分比算出部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図6】(a)及び(b)は、後輪の制動力配分の補正値の特性例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、実施形態の車両制動装置10の一例の概略構成図である。自車両1は、自車両1の制動力を制御する車両制動装置10を備える。車両制動装置10は、車輪速センサ11と、加速度センサ12と、ヨーレイトセンサ13と、ブレーキセンサ14と、コントローラ15と、ブレーキコントローラ16と、制動装置17を備える。
車輪速センサ11は、自車両1の右前輪、左前輪、右後輪及び左後輪の各々の車輪速をそれぞれ検出する。このような車輪速センサ11は、ABS(アンチロックブレーキシステム)、TCS(トラクションコントロールシステム)、ESC(横滑り防止機構)等の制御システムのため、多くの車種に搭載される。車輪速センサ11は、これらの車輪速の情報信号をコントローラ15へ出力する。
【0010】
加速度センサ12は、自車両1の3軸方向(すなわち前後方向、車幅方向、上下方向)の加速度及び減速度を検出し、加速度及び減速度の情報信号をコントローラ15へ出力する。
ヨーレイトセンサ13は、自車両1のヨーレイト(ヨー角の時間変化)を検出し、ヨーレイトの情報信号をコントローラ15へ出力する。
ブレーキセンサ14は、運転者によるブレーキペダル2の操作量であるブレーキ操作量を検出し、ブレーキ操作量の情報信号をコントローラ15へ出力する。
【0011】
コントローラ15は、自車両1に発生させる制動力を制御する電子制御ユニットである。例えばコントローラ15は、プロセッサ15aと、記憶装置15b等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサ15aは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置15bは、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置15bは、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリや、レジスタ、キャッシュメモリ、を含んでよい。
【0012】
以下に説明するコントローラ15の機能は、例えばプロセッサ15aが、記憶装置15bに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
コントローラ15を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ15は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばコントローラ15はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0013】
制動装置17は、右前輪、左前輪、右後輪及び左後輪で発生する制動力を個々に制御できる制動機構である。例えば制動装置17は、摩擦ブレーキであってよい。
ブレーキコントローラ16は、制動装置17に発生させる制動トルクを制御する電子制御ユニットであり、コントローラ15から出力される制動トルク指令値に基づいて、制動装置17に制動トルクを発生させる。
【0014】
ブレーキコントローラ16は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む。ブレーキコントローラ16は、専用のハードウエアにより形成してもよい。
なお、コントローラ15とブレーキコントローラ16は、それぞれ別個のコントローラであってもよく、同じコントローラに統合してもよい。
【0015】
次に、第1実施形態の車両制動方法について説明する。
図2は、第1実施形態の車両制動方法の一例を説明する模式図である。
図2では、右輪及び左輪を車軸の中心に位置する1輪として近似する二輪モデルを用いて、前輪の制動力Fb
F及び後輪の制動力Fb
Rを示している。
コントローラ15は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。なお、自車両1が自動運転車両である場合には、コントローラ15は、自車両1の目標経路と周囲環境とに基づいて設定された目標走行軌道と車速プロファイルに基づいて要求制動力Fbを設定してよい。コントローラ15は、前輪及び後輪の制動力の和(Fb
F+Fb
R)が要求制動力Fbとなるように、要求制動力Fbを前輪及び後輪にそれぞれ配分する。
【0016】
ここで、自車両1の各車輪が発生させることができる最大制動力は「摩擦円」と呼ばれる各タイヤの摩擦限界によって制限される。
図2の破線は、前輪及び後輪のタイヤの摩擦限界の大きさを模式的に表している。前輪の摩擦限界は、前輪における路面の摩擦係数μ
Fと前輪にかかる輪荷重W
F(x)との積(μ
F×W
F(x))によって定まる。以下の説明において摩擦係数μ
Fを「前輪摩擦係数μ
F」と表記し、輪荷重W
F(x)を「前輪荷重W
F(x)」と表記することがある。
【0017】
同様に、後輪の摩擦限界は、後輪における路面の摩擦係数μRと後輪にかかる輪荷重WR(x)との積(μR×WR(x))によって定まる。以下の説明において摩擦係数μRを「後輪摩擦係数μR」と表記し、輪荷重WR(x)を「後輪荷重WR(x)」と表記することがある。
自車両1の減速時には、前輪荷重WF(x)及び後輪荷重WR(x)が変化する。具体的には、後輪にかかっていた荷重が前輪に移動するため、前輪荷重WF(x)が増加する一方で後輪荷重WR(x)が減少する。
【0018】
したがって、前輪及び後輪が発生させることができる各々の最大制動力は、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRと、前輪荷重WF(x)と後輪荷重WR(x)の比である輪荷重比によって定まる。前輪と後輪との間の輪荷重比は、自車両1の減速度に応じて変化する。
そこでコントローラ15は、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRを検出する。そして、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRに基づいて、自車両1が発生可能な最大減速度で減速する場合の前輪と後輪の輪荷重比に応じて、前輪と後輪との間の制動力配分比を設定する。
【0019】
これにより、コントローラ15は、自車両1が最大減速度で減速する場合における前輪と後輪の各々のタイヤの摩擦限界の大きさに応じて、前輪と後輪の制動力配分比を決定できる。
このため、自車両1が最大減速度で減速する場合(すなわち、タイヤがスリップする直前のタイヤグリップ限界で減速する場合)に、車輪に発生させる制動力を向上できる。すなわち、最大減速度を向上することができる。
【0020】
(動作)
図3は、第1実施形態の車両制動方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてコントローラ15は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。
ステップS2においてコントローラ15は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rを検出する。例えばコントローラ15は、右前輪及び左前輪の車輪速に基づいて前輪のタイヤスリップ率を算出し、前輪のタイヤスリップ率に基づいて前輪摩擦係数μ
Fを検出してよい。また右後輪及び左後輪の車輪速に基づいて後輪のタイヤスリップ率を算出し、後輪のタイヤスリップ率に基づいて後輪摩擦係数μ
Rを検出してよい。
【0021】
ステップS3においてコントローラ15は、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRに基づいて、自車両1が発生可能な最大減速度で減速する場合の前輪と後輪の輪荷重比に応じて、前輪と後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出する。
ステップS4においてコントローラ15は、第1配分比に基づく制動力配分比で要求制動力Fbを前輪及び後輪に配分することにより、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定する。
ステップS5においてブレーキコントローラ16は、制動力FbF及び制動力FbRを前輪及び後輪にそれぞれ発生させる。その後に処理は終了する。
【0022】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態について説明する。自車両1が発生可能な最大減速度を発生させるタイヤグリップ限界付近では、制動力配分比によっては前輪又は後輪で発生させようとする制動力が摩擦限界を超える。このため、要求制動力Fbを実現できずに減速度が低下する。すなわち、制動力配分比によって自車両1に発生する減速度が変化する。
【0023】
したがって、自車両1が発生可能な最大減速度を先に決定してから制動力配分比を算出することができなくなる。
そこで第2実施形態では、制動力配分比を変数とする評価関数を用いて最適化演算を行うことにより、最大減速度で減速する場合の輪荷重比に応じて、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出する。
【0024】
図4は、第2実施形態のコントローラ15の機能構成の一例のブロック図である。
第2実施形態のコントローラ15は、要求制動力設定部20と、路面摩擦係数検出部21と、制動力配分比算出部23と、制動力設定部24とを備える。
要求制動力設定部20は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。なお、自車両1が自動運転車両である場合には、要求制動力設定部20は、自車両1の目標経路と周囲環境とに基づいて設定された目標走行軌道と車速プロファイルに基づいて要求制動力Fbを設定してよい。
【0025】
路面摩擦係数検出部21は、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRを検出する。例えば路面摩擦係数検出部21は、上述したように前輪及び後輪のタイヤスリップ率にそれぞれ基づいて、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRを検出してよい。
制動力配分比算出部23は、要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRとに基づいて、前輪と後輪との間の制動力配分比を定める制御パラメータΔκを算出する。制動力配分比算出部23の詳細については後述する。
【0026】
制動力設定部24は、制御パラメータΔκに基づいて、要求制動力Fbを前輪及び後輪に配分することにより、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定する。
例えば制動力設定部24は、次式(1)及び(2)に基づいて制動力FbF及びFbRを設定してよい。
FbF=(κF-Δκ)×Fb …(1)
FbR=(κR+Δκ)×Fb …(2)
【0027】
上式(1)及び(2)において定数κFとκRは、それぞれ前輪制動力配分比基準値及び後輪制動力配分比基準値である。また、制御パラメータΔκは、前輪制動力配分比(κF-Δκ)と後輪制動力配分比(κR+Δκ)とが「0」~「1」の範囲の値となるように、-κR≦Δκ≦κFの範囲の値に制限される。
制動力設定部24は、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを指示する制動トルク指令値を、ブレーキコントローラ16に出力する。
【0028】
続いて、制動力配分比算出部23による処理について説明する。制動力配分比算出部23は、前輪のタイヤの摩擦限界に対する前輪の制動力FbFの比率である前輪タイヤ力使用率RuFと、後輪のタイヤの摩擦限界に対する後輪の制動力FbRの比率である後輪タイヤ力使用率RuRとが互いに等価になり、且つ最小化するように、制動力配分比の制御パラメータΔκを算出する。
【0029】
ここで、求めるべき制御パラメータΔκを変数xとすると、前輪及び後輪の制動力はそれぞれ変数xの関数FbF(x)及びFbR(x)となる。
また、前輪荷重及び後輪荷重は、自車両1の減速度に応じた前後輪の荷重移動量に応じて変化し、荷重移動量は制動力配分比に応じて変化するため、前輪荷重及び後輪荷重並びに荷重移動量も、変数xの関数WF(x)及びWR(x)並びにΔW(x)となる。
【0030】
例えば、前輪荷重WF(x)及び後輪荷重WR(x)並びに荷重移動量ΔW(x)は次式(3)、(4)及び(5)のように定義してよい。
WF(x)=WsF+ΔW(x) …(3)
WR(x)=WsR-ΔW(x) …(4)
ΔW(x)=(C-B×x)×Fb …(5)
【0031】
ここで、WsF及びWsRは、それぞれ前輪及び後輪の静的輪荷重(以下の説明において「静的前輪荷重」及び「静的後輪荷重」と表記することがある)であり、C及びBは車両特性に応じて定まる定数である。
後述するように制御パラメータΔκ(すなわち変数x)は、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRに応じた変数である。
【0032】
このため、前輪荷重WF(x)と後輪荷重WR(x)の比である輪荷重比は、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRに基づいて算出される。前輪荷重WF(x)と後輪荷重WR(x)との輪荷重比は、特許請求の範囲に記載の「輪荷重比」の一例である。
例えば本実施形態では、タイヤ力使用率RuF及びRuRを次式(6)及び(7)のように定義する。
【0033】
【0034】
前輪タイヤ力使用率RuFと後輪タイヤ力使用率RuRとが等価となり且つ最小化するように制御パラメータΔκを算出することにより、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。この結果、タイヤグリップ限界における自車両1の最大制動力を向上させることができる。
【0035】
前輪タイヤ力使用率RuFと後輪タイヤ力使用率RuRとを等価とし、且つ最小化するために、望大特性のスラック変数ΔFF=μF
2×WF(x)2-FbF(x)2及びΔFR=μR
2×WR(x)2-FbR(x)2を定義する。
さらに、これらのスラック変数を無次元化してから、次式(8)の評価関数J(x)を生成する。
【0036】
【0037】
上式(8)の評価関数J(x)を変数xで偏微分し、次式(9)の方程式を解くことにより評価関数J(x)を最大化する最適化演算を行うと、次式(10)の算出式が得られる。
【0038】
【0039】
評価関数J(x)は、前後輪のタイヤの摩擦使用率を表す評価関数であり、上記の方程式(9)を解くことによって、前後輪のタイヤの摩擦使用率が最小且つ同値となる場合の制動力配分比を求めることができる。
制動力配分比算出部23は、算出式(10)に、要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRとを代入して、制御パラメータΔκを算出する。ここで、要求制動力Fbが大きい場合、変数x(制御パラメータΔκ)は上式(10)の右辺第1項
【0040】
【0041】
に収束する。このため、要求制動力Fbが大きく自車両1が発生可能な最大減速度で減速する場合には、上式(10)の右辺第1項に収束した変数xに応じた輪荷重比WF(x):WR(x)に応じて、制御パラメータΔκが設定される。すなわち前輪と後輪との間の制動力配分比(κF-Δκ):(κR+Δκ)が設定される。
したがって、上式(10)の右辺第1項で算出される制御パラメータ
【0042】
【0043】
によって定まる制動力配分比(κF-Δκ):(κR+Δκ)は、特許請求の範囲に記載の「第1配分比」の一例である。
一方で、要求制動力Fbが比較的小さい場合には、上式(10)の右辺第1項を右辺第2項
【0044】
【0045】
で補正して得られる制御パラメータΔκが算出される。したがって、上式(10)の右辺第1項及び第2項によって定まる制動力配分比(κF-Δκ):(κR+Δκ)は、特許請求の範囲に記載の「第2配分比」の一例である。
ここで上式(10)の右辺第2項に着目すると、摩擦係数μF及びμRと定数Bは1よりも小さいため右辺第2項の分母は負値となる。
【0046】
このため、静的前輪荷重WsFが静的後輪荷重WsRよりも大きい場合には、右辺第2項は正値となり且つ要求制動力Fbが小さくなるほど大きくなる。したがって、要求制動力Fbが小さくなるほど後輪の配分比が増加するように制動力配分比が補正される。
一方で、静的前輪荷重WsFが静的後輪荷重WsRよりも小さい場合には、右辺第2項は負値となり且つ要求制動力Fbが小さくなるほど小さくなる。したがって、要求制動力Fbが小さくなるほど前輪の配分比が増加するように制動力配分比が補正される。
【0047】
以上により、次式(10)の右辺第1項を右辺第2項で補正して得られる制御パラメータΔκは、要求制動力Fbが大きい場合よりも要求制動力Fbが小さい場合に、前輪及び後輪のうち静的輪荷重が小さい車輪の配分比が増加するように補正される。
【0048】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態の制動力配分比算出部23の機能構成の一例のブロック図である。第3実施形態の制動力配分比算出部23では、
図2の制動力配分比算出部23への入力と最適化演算を簡素化する。
制動力配分比算出部23は、基本配分比算出部23aと、補正値設定部23bと、補正部23cを備える。
【0049】
基本配分比算出部23aは、路面の摩擦係数の情報として単一の摩擦係数μを取得する。例えば摩擦係数μとして、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRの平均値を使用してもよく、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRいずれか一方を使用してもよい。
基本配分比算出部23aは、摩擦係数μに基づいて次式(11)で得られる基本配分比K0を算出する。
【0050】
【0051】
上式(11)において、Lは自車両1のホイールベース長であり、hは自車両1のピッチセンターと重心との間の高低差である。
基本配分比K0は、摩擦係数μに応じた最大減速度で減速する場合における後輪の制動力配分比であり、特許請求の範囲に記載の「第1配分比」の近似値である。
補正値設定部23bは、要求制動力Fbに応じて基本配分比K0を補正する補正値Cを算出する。
【0052】
補正部23cは、基本配分比K0を補正値Cで補正して最終的な後輪の制動力配分比K
Rを算出するとともに、最終的な前輪の制動力配分比K
F=(1-K
R)を算出する。例えば補正部23cは、基本配分比K0に補正値Cを加算して制動力配分比K
Rを算出してよい。
図6(a)は、静的前輪荷重Ws
Fが静的後輪荷重Ws
Rよりも大きい場合における補正値Cの特性の一例の模式図である。補正値Cは正値を有し、要求制動力Fbが小さくなるほど大きくなる。このため、要求制動力Fbが小さくなるほど後輪の配分比が増加するように制動力配分比が補正される。
【0053】
図6(b)は、静的前輪荷重Ws
Fが静的後輪荷重Ws
Rよりも小さい場合における補正値Cの特性の一例の模式図である。補正値Cは負値を有し、要求制動力Fbが小さくなるほど小さくなる。このため、要求制動力Fbが小さくなるほど前輪の配分比が増加するように制動力配分比が補正される。
したがって、補正値Cは、要求制動力Fbが大きい場合よりも要求制動力Fbが小さい場合に、前輪及び後輪のうち静的輪荷重が小さい車輪の配分比が増加するように制動力配分比を補正する。
【0054】
制動力設定部24は、次式(12)及び(13)に基づいて制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定して、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを指示する制動トルク指令値を、ブレーキコントローラ16に出力する。
FbF=KF×Fb …(12)
FbR=KR×Fb …(13)
【0055】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ15は、自車両1に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、摩擦係数に基づいて、自車両1が発生可能な最大減速度で減速する場合に前輪及び後輪にかかる輪荷重の比である輪荷重比に応じた、前輪と後輪との間の制動力配分比である第1配分比を算出する。ブレーキコントローラ16は、第1配分比に基づく制動力配分比で、要求制動力を配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる。
例えばコントローラ15は、摩擦係数に基づいて輪荷重比を算出し、算出した輪荷重比に基づいて第1配分比を算出してよい。
これにより、自車両1が最大減速度で減速する場合に、車輪に発生させる制動力を向上できる。この結果、最大減速度を向上することができる。
【0056】
(2)コントローラ15は、要求制動力が大きい場合よりも要求制動力が小さい場合に、前輪及び後輪のうち静的輪荷重が小さい車輪の配分比が増加するように第1配分比を補正することにより第2配分比を算出し、第2配分比で要求制動力を配分した制動力を前輪及び後輪に発生させてよい。
これにより、要求制動力が比較的小さい場合においても、タイヤの摩擦限界に対する前輪と後輪における摩擦力の使用率が等しくなるように要求制動力を配分できる。この結果、外乱などにより輪荷重比が変動しても、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。
【0057】
(3)コントローラ15は、前輪及び後輪のタイヤの摩擦限界に対するそれぞれ前輪と後輪における摩擦力の使用率に基づいて制動力配分比を算出してよい。例えば使用率が最小になるように制動力配分比を算出してよい。
これにより、タイヤの摩擦限界を超えるのを抑制するように要求制動力を配分できる。
(4)コントローラ15は、前輪における使用率と後輪における使用率とが等しくなるように制動力配分比を算出してよい。
これにより、外乱などにより輪荷重比が変動しても、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。
(5)コントローラ15は、使用率を含んだ評価関数を最大化する最適化演算によって制動力配分比を算出してよい。
これにより使用率が最小になるように制動力配分比を算出できる。
【符号の説明】
【0058】
1…自車両、2…ブレーキペダル、10…車両制動装置、11…車輪速センサ、12…加速度センサ、13…ヨーレイトセンサ、14…ブレーキセンサ、15…コントローラ、15a…プロセッサ、15b…記憶装置、16…ブレーキコントローラ、17…制動装置、20…要求制動力設定部、21…路面摩擦係数検出部、23…制動力配分比算出部、23a…基本配分比算出部、23b…補正値設定部、23c…補正部、24…制動力設定部