(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170095
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】揺動加工装置
(51)【国際特許分類】
F16H 19/02 20060101AFI20241129BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F16H19/02 Z
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087062
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂田 智
(72)【発明者】
【氏名】中根 啓介
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚範
【テーマコード(参考)】
3J027
3J062
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027FB31
3J027GB03
3J027GC06
3J027GC24
3J062AA21
3J062AB01
3J062AB40
3J062AC07
3J062BA12
3J062BA14
3J062CA34
(57)【要約】
【課題】加工精度を高めることができる揺動加工装置を提供する。
【解決手段】揺動加工装置10は、駆動源と、第1の伝動機構12と、第2の伝動機構13と、揺動体14とを有している。駆動源は、たとえばモータであって、回転を出力する。第1の伝動機構12は、駆動源の回転を互いに反対方向の2つの回転に変換する。第2の伝動機構13は、2つの回転に基づき特定方向の往復直線運動を出力する。特定方向は、たとえば左右方向である。揺動体14は、往復直線運動の方向と直交する方向に延びる。揺動体14は、第2の伝動機構13に直接的に連結される第1の端部と、製品の素材を加工するための工具が取り付けられる第2の端部とを有する。第1の端部は揺動体14の上端である。第2の端部は揺動体14の下端である。揺動体14は、第1の端部に往復直線運動が直接的に伝達されることにより、第2の端部が第1の端部を中心として揺動するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転を出力する駆動源と、
前記駆動源の回転を互いに反対方向の2つの回転に変換する第1の伝動機構と、
2つの前記回転に基づき特定方向の往復直線運動を出力する第2の伝動機構と、
前記往復直線運動の方向と直交する方向に延びる揺動体であって、前記第2の伝動機構に直接的に連結される第1の端部と、製品の素材を加工するための工具が取り付けられる第2の端部とを有する揺動体と、を有し、
前記揺動体は、前記第1の端部に前記往復直線運動が直接的に伝達されることにより、前記第2の端部が前記第1の端部を中心として揺動するように構成される揺動加工装置。
【請求項2】
前記第1の伝動機構は、
前記駆動源の回転を減速して前記駆動源の回転方向と同じ方向の第1の回転を出力する第1の波動歯車機構と、
前記駆動源の回転を減速して前記駆動源の回転方向と反対方向の第2の回転を出力する第2の波動歯車機構と、を有している請求項1に記載の揺動加工装置。
【請求項3】
前記第2の伝動機構は、
前記第1の回転が伝達されることにより回転する第1の動力伝達部材であって、内歯車部を有する第1の動力伝達部材と、
前記第2の回転が伝達されることにより回転する第2の動力伝達部材であって、前記内歯車部の内側に位置して前記内歯車部と噛み合う外歯車部を有する第2の動力伝達部材と、
前記外歯車部と一体的に回転する複数のピンであって、前記外歯車部を軸方向に貫通する複数のピンを有する第3の動力伝達部材と、
前記ピンの回転に基づき前記往復直線運動を出力する第4の動力伝達部材と、を有している請求項2に記載の揺動加工装置。
【請求項4】
前記揺動体の第1の端部は、球面滑り軸受を介して、第4の動力伝達部材のうち前記往復直線運動を出力する部分に直接的に連結されている請求項3に記載の揺動加工装置。
【請求項5】
前記駆動源は、単一のモータである請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の揺動加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揺動加工装置の一つとして、揺動鍛造プレス機が存在する。たとえば、特許文献1の揺動鍛造プレス機は、下型と、上型とを有している。下型は、昇降可能であって、ラック軸用の軸素材を受け止める受溝を有している。上型は、ラック歯成形歯部を有している。ラック歯成形歯部は、上型の底面に設けられている。上型は、ラック歯成形歯部の幅方向の中央を揺動中心として、受溝の幅方向に揺動可能である。
【0003】
ラック軸を製造する際、下型を上昇させることにより軸素材を上型のラック歯成形歯部に押し付ける。この状態で、上型を揺動させる。上型の揺動に伴い、軸素材の周面の一部が変形することにより、ラック歯が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揺動加工装置は、製品の仕様などにより、より高い加工精度が要求されることがある。加工精度は、加工後の製品の品質レベルを示す尺度である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る揺動加工装置は、回転を出力する駆動源と、前記駆動源の回転を互いに反対方向の2つの回転に変換する第1の伝動機構と、2つの前記回転に基づき特定方向の往復直線運動を出力する第2の伝動機構と、前記往復直線運動の方向と直交する方向に延びる揺動体であって、前記第2の伝動機構に直接的に連結される第1の端部と、製品の素材を加工するための工具が取り付けられる第2の端部とを有する揺動体と、を有する。前記揺動体は、前記第1の端部に前記往復直線運動が直接的に伝達されることにより、前記第2の端部が前記第1の端部を中心として揺動するように構成される。
【0007】
この構成によれば、第2の伝動機構から出力される往復直線運動が、揺動体の第1の端部に直接的に伝達される。このため、第2の伝動機構と揺動体との間の運動の伝達誤差を低減することができる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0008】
上記の揺動加工装置において、前記第1の伝動機構は、前記駆動源の回転を減速して前記駆動源の回転方向と同じ方向の第1の回転を出力する第1の波動歯車機構と、前記駆動源の回転を減速して前記駆動源の回転方向と反対方向の第2の回転を出力する第2の波動歯車機構と、を有していてもよい。
【0009】
この構成によるように、第1の波動歯車機構は、バックラッシをほぼゼロにすることができ、あるいは、歯車の噛み合いにバックラッシを必要としない。第2の波動歯車機構22も、第1の波動歯車機構21と同様の特徴を有する。このため、製品素材の加工に及ぼすバックラッシの影響が抑えられる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0010】
上記の揺動加工装置において、前記第2の伝動機構は、前記第1の回転が伝達されることにより回転する第1の動力伝達部材であって、内歯車部を有する第1の動力伝達部材と、前記第2の回転が伝達されることにより回転する第2の動力伝達部材であって、前記内歯車部の内側に位置して前記内歯車部と噛み合う外歯車部を有する第2の動力伝達部材と、前記外歯車部と一体的に回転する複数のピンであって、前記外歯車部を軸方向に貫通する複数のピンを有する第3の動力伝達部材と、前記ピンの回転に基づき前記往復直線運動を出力する第4の動力伝達部材と、を有していてもよい。
【0011】
この構成によれば、第3の動力伝達部材の複数のピンは、第1の動力伝達部材の回転と、第2の動力伝達部材の回転とに応じて、一体的に回転する。第4の動力伝達部材は、複数のピンの回転に基づく往復直線運動を出力することができる。
【0012】
上記の揺動加工装置において、前記揺動体の第1の端部は、球面滑り軸受を介して、第4の動力伝達部材のうち前記往復直線運動を出力する部分に直接的に連結されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、第4の動力伝達部材が出力する往復直線運動が、揺動体の第1の端部に球面滑り軸受を介して直接的に伝達される。このため、第4の動力伝達部材と揺動体との間の運動の伝達誤差を低減することができる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0014】
上記の揺動加工装置において、前記駆動源は、単一のモータであってもよい。
この構成によれば、駆動源として複数のモータを有する場合に比べて、揺動加工装置の体格を小型化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の揺動加工装置によれば、製品の加工精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】揺動加工装置の一実施の形態の全体像を示す斜視図である。
【
図2】一実施の形態にかかる第1の伝動装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】一実施の形態にかかる第2の伝動装置の構成を示す断面図である。
【
図4】一実施の形態にかかる外歯車部と内歯車部との噛み合い状態を示す模式図である。
【
図5】(a)~(e)は、一実施の形態にかかる第4の動力伝達部材の動作を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、揺動加工装置の一実施の形態を説明する。
<全体の構成>
図1に示すように、揺動加工装置10は、モータ11、第1の伝動機構12、第2の伝動機構13、揺動体14、および金型15を有している。モータ11、第1の伝動機構12、第2の伝動機構13、揺動体14、および金型15は、上から下に向かって、この順に配置されている。モータ11、第1の伝動機構12、第2の伝動機構13、揺動体14、および金型15は、筐体に収容されている。モータ11は、揺動加工装置10の駆動源である。
図1では、説明の便宜上、筐体を割愛している。
【0018】
モータ11は、揺動加工装置10の駆動源である。モータ11の出力軸は、下を向いている。第1の伝動機構12は、モータ11の回転を減速して出力する。出力は、正転と逆転との二種類である。第2の伝動機構13は、第1の伝動機構12の出力を左右方向の往復直線運動に変換する。揺動体14は、上下方向に延びている。揺動体14の上端は、第2の伝動機構13に対して、左右方向に揺動可能に支持されている。金型15は、揺動体14の下端に取り付けられている。金型15は、揺動体14に対して、着脱可能であってもよい。
【0019】
第2の伝動機構13により変換される往復直線運動は、揺動体14の上端に伝達される。これにより、揺動体14の下端は、揺動体14の上端を支点として左右方向に揺動する。金型15は、揺動体14と共に左右方向に揺動する。この金型15の揺動を利用して、製品の素材を加工する。
【0020】
製品は、たとえばラック軸である。ラック軸は、軸方向に並ぶ複数のラック歯を有している。この場合、ラック歯形成用の歯部を有する金型15が使用される。ラック軸を製造する際、ラック軸の素材を金型15の歯部に押し付けた状態で金型15を揺動させる。金型15の揺動に伴い、素材の周面の一部が変形することにより、ラック歯が形成される。素材は、中空の金属管、あるいは中実の棒材が想定される。
【0021】
<第1の伝動機構12>
つぎに、第1の伝動機構12の構成について、詳細に説明する。
図2に示すように、第1の伝動機構12は、第1の波動歯車機構21と、第2の波動歯車機構22とを有している。
【0022】
第1の波動歯車機構21は、ウェーブジェネレータ21A、フレクスプライン21B、およびサーキュラスプライン21Cを有している。ウェーブジェネレータ21A、フレクスプライン21B、およびサーキュラスプライン21Cは、モータ11の出力軸11Aと同軸上に配置されている。
【0023】
ウェーブジェネレータ21Aは、全体として、楕円形の断面形状を有するカム部材である。ウェーブジェネレータ21Aは、モータ11の出力軸11Aと一体的に回転可能である。ウェーブジェネレータ21Aは、楕円形の断面形状を有するカムと、カムの外周面に嵌められた薄肉のボール軸受を有している。ボール軸受の内輪は、カムの外周面に固定されている。ボール軸受の外輪は、ボールを介して弾性的に変形可能である。カムは、モータ11の出力軸11Aに連結されている。出力軸11Aは、カムを軸方向に貫通している。
【0024】
フレクスプライン21Bは、円形の断面形状を有する薄肉の筒状体であって、軸方向の一端が開口している。フレクスプライン21Bは、開口部が下を向くように配置されている。フレクスプライン21Bは、たとえば金属製であって、弾性的に変形可能である。フレクスプライン21Bの外周面には、多数の歯が設けられている。外周面は、フレクスプライン21Bの外周面のうち、軸方向において開口部に近い部分である。フレクスプライン21Bは、ウェーブジェネレータ21Aの外周面に装着されている。このため、フレクスプライン21Bは、ウェーブジェネレータ21A、正確にはカムの回転に伴い、楕円状にたわめられる。
【0025】
サーキュラスプライン21Cは、円形の断面形状を有する金属製の筒状体であって、軸方向の両端が開口している。サーキュラスプライン21Cは、理想的には剛体である。サーキュラスプライン21Cの外周面は、第1の伝動機構12の筐体に固定される。サーキュラスプライン21Cの内周面には、多数の歯が設けられている。歯は、フレクスプライン21Bの外周面の歯と噛み合う。サーキュラスプライン21Cの歯数は、フレクスプライン21Bの歯数よりも多い。
【0026】
サーキュラスプライン21Cの歯には、ウェーブジェネレータ21Aの外周面の形状に倣って変形する楕円形のフレクスプライン21Bの歯のうち、長軸部分の二ヶ所のみが噛合する。フレクスプライン21Bの短軸部分の歯と、サーキュラスプライン21Cの歯との間には隙間が形成される。すなわち、フレクスプライン21Bの短軸部分の歯と、サーキュラスプライン21Cの歯とは、完全に離れた状態となる。
【0027】
モータ11の駆動に伴い、ウェーブジェネレータ21Aのカムが一体的に回転する。カムは楕円状であるため、カムが回転すると、ボール軸受を介してフレクスプライン21Bが楕円状に弾性変形する。カムの回転に伴い、フレクスプライン21Bの歯と、サーキュラスプライン21Cの歯との噛み合う位置、すなわち楕円の長軸位置が周方向に順次移動する。また、フレクスプライン21Bの歯数と、サーキュラスプライン21Cの歯数とが異なる。このため、カムがたとえば反時計回りに一回転すると、フレクスプライン21Bと、サーキュラスプライン21Cとの歯数差の分だけ、フレクスプライン21Bが時計回りに回転する。モータ11の角速度ω1は、第1の角速度ωAに減速される。
【0028】
第2の波動歯車機構22は、第1の波動歯車機構21の下方に位置している。第2の波動歯車機構22は、第1の波動歯車機構21と同様の構成を有している。すなわち、第2の波動歯車機構22は、ウェーブジェネレータ22A、フレクスプライン22B、およびサーキュラスプライン22Cを有している。ウェーブジェネレータ22A、フレクスプライン22B、およびサーキュラスプライン22Cは、モータ11の出力軸11Aと同軸上に配置されている。ウェーブジェネレータ22Aのカムは、モータ11の出力軸11Aに連結されている。
【0029】
第2の波動歯車機構22は、第1の波動歯車機構21とは上下が逆向きに配置されている。すなわち、フレクスプライン22Bは、開口部が下を向くように配置されている。このため、フレクスプライン22Bの回転方向は、第1の波動歯車機構21のフレクスプライン21Bの回転方向と反対方向である。たとえば、ウェーブジェネレータ22Aのカムが反時計回りに一回転すると、フレクスプライン22Bと、サーキュラスプライン22Cとの歯数差の分だけ、フレクスプライン22Bが反時計回りに回転する。モータ11の角速度ω1は、第2の角速度ωBに減速される。第2の波動歯車機構22の減速比が第1の波動歯車機構21の減速比と同じである場合、第2の角速度ωBは第1の角速度ωAと同じになる。
【0030】
第1の伝動機構12は、第1のアダプタ部材23と、第2のアダプタ部材24とを有している。
第1のアダプタ部材23は、円形の断面形状を有する筒状体であって、軸方向の一端が開口している。第1のアダプタ部材23は、開口部が下を向くように配置されている。第1のアダプタ部材23は、第1の波動歯車機構21と、第2の波動歯車機構22とを収容している。第1のアダプタ部材23の周壁は、第1の波動歯車機構21と、第2の波動歯車機構22とに対して、非接触状態に維持される。第1のアダプタ部材23の軸方向の端壁は、フレクスプライン21Bの軸方向の端壁に連結されている。このため、第1のアダプタ部材23は、フレクスプライン21Bと一体的に回転可能である。モータ11の駆動に伴い、第1のアダプタ部材23は、回転中心軸O1を中心として、第1の角速度ωAで回転する。
【0031】
なお、モータ11の出力軸11Aは、フレクスプライン21Bの軸方向の端壁を非接触状態で軸方向に貫通している。
第2のアダプタ部材24は、円形の断面形状を有する筒状体である。第2のアダプタ部材24は、フレクスプライン22Bの軸方向の端壁に連結されている。このため、第2のアダプタ部材24は、フレクスプライン22Bと一体的に回転可能である。モータ11の駆動に伴い、第2のアダプタ部材24は、回転中心軸O1を中心として、第2の角速度ωBで回転する。
【0032】
<第2の伝動機構13>
つぎに、第2の伝動機構13の構成について、詳細に説明する。
図3に示すように、第2の伝動機構13は、第1の動力伝達部材31と、第2の動力伝達部材32と、第3の動力伝達部材33と、第4の動力伝達部材34と、受け部材35とを有している。
【0033】
第1の動力伝達部材31は、全体として、円形の断面形状を有する段付きの筒状体であって、中空である。第1の動力伝達部材31は、軸方向の一端が開口している。第1の動力伝達部材31は、開口部が下を向くように配置されている。第1の動力伝達部材31の上端は、第1のアダプタ部材23に連結されている(
図2参照)。第1の動力伝達部材31は、第1のアダプタ部材23と一体的に回転可能である。モータ11の駆動に伴い、第1の動力伝達部材31は、回転中心軸O
1を中心として、第1の角速度ω
Aで回転する。
【0034】
第1の動力伝達部材31は、内歯車部31Aを有している。内歯車部31Aは、第1の動力伝達部材31の下端に設けられている。内歯車部31Aは、第1の動力伝達部材31のうち、外径が最も大きい部分である。内歯車部31Aの内周面には、周方向に並ぶ複数の歯が設けられている。内歯車部31Aの外周面は、軸受16を介して、揺動加工装置10の筐体10Aに対して回転可能に支持されている。
【0035】
第2の動力伝達部材32は、全体として、円形の断面形状を有する段付きの筒状体である。第2の動力伝達部材32は、第1の動力伝達部材31の内部に非接触状態で収容されている。ただし、第2の動力伝達部材32の上端は、第1の動力伝達部材31の上端壁を軸方向に非接触状態で貫通している。第2の動力伝達部材32の上端は、第2のアダプタ部材24に連結されている(
図2参照)。第2の動力伝達部材32は、第2のアダプタ部材24と一体的に回転可能である。モータ11の駆動に伴い、第2の動力伝達部材32は、回転中心軸O
1を中心として、第2の角速度ω
Bで回転する。
【0036】
第2の動力伝達部材32は、外歯車部32Aを有している。外歯車部32Aは、第2の動力伝達部材32の下端に設けられている。外歯車部32Aは、第2の動力伝達部材32のうち、外径が最も大きい部分である。外歯車部32Aは、内歯車部31Aの内側に位置している。外歯車部32Aは、回転中心軸O1に対して、偏心している。すなわち、外歯車部32Aの中心は、回転中心軸O1からずれている。このため、外歯車部32Aは、回転中心軸O1を中心として、偏心して回転する。
【0037】
外歯車部32Aの外周面は波形に形成され、これにより、周方向に並ぶ複数の歯が設けられている。外歯車部32Aの歯の一部は、内歯車部31Aの歯と噛み合っている。内歯車部31Aの歯は、内歯車部31Aに支持される、円柱状のピン部材または回転自在である円筒状のピン部材である。また、外歯車部32Aは、複数の貫通孔32Bを有している。貫通孔32Bは、外歯車部32Aを軸方向に貫通している。貫通孔32Bは、周方向に等間隔に配置されている。本実施の形態では、貫通孔32Bは4つ設けられている。
図3では、説明の便宜上、2つの貫通孔32Bが示されている。
【0038】
図3に示すように、第3の動力伝達部材33は、第2の動力伝達部材32に装着されている。第3の動力伝達部材33は、金属製であって、連結部材33Aと、複数のピン33Bとを有している。
【0039】
図2に示すように、連結部材33Aは、環状の平板である。ピン33Bの数は、外歯車部32Aの貫通孔32Bと同数である。ピン33Bの一端は、連結部材33Aの下面に固定されている。ピン33Bは、連結部材33Aから下方に延び、周方向に等間隔に配置されている。ピン33Bの外径は、外歯車部32Aの貫通孔32Bの内径と、ほぼ同じである。ピン33Bの先端は、貫通孔32Bに上方から挿入される。ピン33Bの先端は、外歯車部32Aの下面から軸方向に突出している。ピン33Bの下方への移動は、連結部材33Aが外歯車部32Aの上面に当接することによって、規制される。第3の動力伝達部材33は、モータ11の駆動に伴い、外歯車部32Aと一体的に移動する。
【0040】
図3に示すように、第4の動力伝達部材34は、金属製の円板であって、嵌合孔34Aと、複数の挿入孔34Bとを有している。嵌合孔34Aと、挿入孔34Bとは、各々、第4の動力伝達部材34を軸方向に貫通している。嵌合孔34Aは、第4の動力伝達部材34の中央付近に設けられている。嵌合孔34Aの中心は、第4の動力伝達部材34の中心から径方向外側に若干ずれていてもよい。
【0041】
図2に示すように、挿入孔34Bは、周方向に等間隔に配置されている。挿入孔34Bの数は、ピン33Bと同数である。挿入孔34Bの内径は、ピン33Bの外径よりも大きい。軸方向からみて、4つのピン33Bの中心を通る仮想円の中心は、回転中心軸O
1と一致する。各挿入孔34Bには、各ピン33Bの先端が挿入されている。軸方向からみて、ピン33Bの外周面上の一点は、挿入孔34Bの内周面に接触している。ピン33Bの外周面上の他の一点と、挿入孔34Bの内周面との間には隙間2εが形成されている。他の一点は、挿入孔34Bの内周面に接触するピン33Bの外周面上の一点に対して、径方向に反対側に位置するピン33Bの外周面上の一点である。
【0042】
図3に示すように、受け部材35は、第4の動力伝達部材34を支持している。受け部材35は、円形の断面形状を有する筒状体である。受け部材35の外周面は、筐体10Aに固定されている。受け部材35は、収容凹部35Aと、挿通孔35Bとを有している。挿通孔35Bは、受け部材35の端壁を軸方向に貫通している。第4の動力伝達部材34の嵌合孔34Aは、挿通孔35Bを介して外部に露出する。収容凹部35Aは、受け部材35の上面に設けられている。収容凹部35Aは、第4の動力伝達部材34を収容している。第4の動力伝達部材34の下面は、収容凹部35Aの内端面に対して摺動可能である。
【0043】
<揺動体14の支持構造>
つぎに、第2の伝動機構13に対する揺動体14の支持構造について説明する。
図3に示すように、第4の動力伝達部材34の嵌合孔34Aには、受け部材35の挿通孔35Bを介して、支持部材18が連結されている。支持部材18は、円形の断面を有する筒状体であって、嵌合部18Aを有している。嵌合部18Aは、支持部材18の上部に設けられた小径の部分である。嵌合部18Aは、円形の断面形状を有する筒状体である。嵌合部18Aの外径は、嵌合孔34Aの内径と、ほぼ同じである。嵌合部18Aは、嵌合孔34Aに下からはめ込まれている。支持部材18は、たとえばボルトによって、第4の動力伝達部材34に固定される。
【0044】
支持部材18は、球面滑り軸受19を介して、揺動体14を吊り下げ状態で支持している。球面滑り軸受19は、揺動体14の上端に取り付けられている。球面滑り軸受19は、内輪19Aと、外輪19Bとを有している。内輪19Aと外輪19Bとは、互いに球面接触する。内輪19Aの外面は、球面状の凸面である。外輪19Bの外周面は、円筒状であって、支持部材18の内周面に嵌め込まれている。外輪19Bの内面は、球面状の凹面である。内輪19Aの外面と、外輪19Bの内面とは、互いに摺動可能に接触している。球面滑り軸受19は、揺動体14を、左右方向に揺動可能に支持する。
【0045】
<揺動加工装置10の動作>
つぎに、揺動加工装置10の動作について説明する。
図2に示すように、モータ11の駆動に伴い、第1のアダプタ部材23は、回転中心軸O
1を中心として、たとえば時計回りに第1の角速度ω
Aで回転する。また、モータ11の駆動に伴い、第2のアダプタ部材24は、回転中心軸O
1を中心として、たとえば反時計回りに第2の角速度ω
Bで回転する。第2の角速度ω
Bと、第1の角速度ω
Aとは互いに反対方向の角速度である。第1の角速度ω
Aの絶対値と、第2の角速度ω
Bの絶対値とは、互いに等しい。
【0046】
図4に示すように、第1のアダプタ部材23の回転に連動して、第1の動力伝達部材31は、回転中心軸O
1を中心として第1の角速度ω
Aで時計回りに回転する。内歯車部31Aも、回転中心軸O
1を中心として、第1の角速度ω
Aで時計回りに回転する。
【0047】
第2のアダプタ部材24の回転に連動して、第2の動力伝達部材32は、回転中心軸O1を中心として第2の角速度ωBで反時計回りに回転する。ただし、外歯車部32Aは、回転中心軸O1を中心として、反時計回りに第2の角速度ωBで自転しながら、時計方向に第1の角速度ωAで公転する。
【0048】
第3の動力伝達部材33は、外歯車部32Aと一体的に移動する。すなわち、4つのピン33Bは、一体であって、回転中心軸O1を中心として、反時計回りに第2の角速度ωBで自転する。各ピン33Bの移動に連動して、第4の動力伝達部材34が動作する。各ピン33Bは、移動しながら、第4の動力伝達部材34の各挿入孔34Bの内周面を押圧する。
【0049】
図2に示すように、各挿入孔34Bの内周面が各ピン33Bに押されることによって、第4の動力伝達部材34は、つぎのように動作する。すなわち、第4の動力伝達部材34は、回転中心軸O
1を中心として、反時計回りに第2の角速度ω
Bで自転しながら、偏心点O
2を中心として、時計回りに第1の角速度ω
Aで公転する。偏心点O
2は、回転中心軸O
1からずれている。回転中心軸O
1と偏心点O
2との距離εは、ピン33Bと挿入孔34Bの内周面との間の隙間2εの半分である。第4の動力伝達部材34が公転しながら自転すると、第4の動力伝達部材34の中央付近の領域が径方向に往復直線運動を行う。
【0050】
図5(a)に示すように、4つのピン33Bが、軸方向からみて、それぞれ12時、3時、6時、9時の位置にある状態を初期状態とする。第4の動力伝達部材34は、初期状態において、受け部材35を基準として3時方向に寄っている。初期状態におけるピン33Bの回転角を0°とする。回転角は、第4の動力伝達部材34の中心と、3時位置のピン33Bの中心とを結ぶ直線に対する角度である。
【0051】
本実施の形態では、軸方向からみて、第4の動力伝達部材34上に設定される特定点P0に着目する。特定点P0は、軸方向からみて、3時位置のピン33Bの中心と、9時位置のピン33Bの中心を通る直線L0上に位置する点である。直線L0は、揺動加工装置10の左右方向に延びる直線である。特定点P0は、初期状態において、第4の動力伝達部材34の中心と、3時位置のピン33Bとの中間に位置している。
【0052】
図5(b)に示すように、ピン33Bが、時計回りに45°だけ回転すると、第4の動力伝達部材34は、受け部材35を基準として1時半方向に寄る。特定点P0は、直線L0上を3時方向から9時方向へ移動して、初期状態よりも第4の動力伝達部材34の中心に近い位置に至る。
【0053】
図5(c)に示すように、ピン33Bが、時計回りに90°だけ回転すると、第4の動力伝達部材34は、受け部材35を基準として12時方向に寄る。特定点P0は、直線L0上を3時方向から9時方向へ移動して、第4の動力伝達部材34の中心に至る。
【0054】
図5(d)に示すように、ピン33Bが、時計回りに135°だけ回転すると、第4の動力伝達部材34は、受け部材35を基準として10時半方向に寄る。特定点P0は、直線L0上を3時方向から9時方向へ移動して、第4の動力伝達部材34の中心に対して9時方向に寄った位置に至る。
【0055】
図5(e)に示すように、ピン33Bが、時計回りに180°だけ回転すると、第4の動力伝達部材34は、受け部材35を基準として9時方向に寄る。特定点P0は、直線L0上を3時方向から9時方向へ移動して、第4の動力伝達部材34の中心に対して、さらに9時方向に寄った位置に至る。特定点P0は、第4の動力伝達部材34の中心と、9時位置のピン33Bとの中間に位置している。
【0056】
この後、ピン33Bが時計回りに45°だけ回転する毎に、第4の動力伝達部材34は、
図5(d)に示す位置、
図5(c)に示す位置、
図5(b)に示す位置、
図5(a)に示す位置の順に移動する。すなわち、第4の動力伝達部材34は、反時計回りに偏心して回転する。
【0057】
特定点P0も、ピン33Bが時計回りに45°だけ回転する毎に、
図5(d)に示す位置、
図5(c)に示す位置、
図5(b)に示す位置、
図5(a)に示す位置の順に移動する。すなわち、特定点P0は、直線L0を往復直線運動する。
【0058】
揺動体14の上端部は、第4の動力伝達部材34の中央付近に連結されている。第4の動力伝達部材34の中央付近は、第4の動力伝達部材34のうち、揺動加工装置10の左右方向に往復直線運動する部分である。このため、揺動体14の上端部は、第4の動力伝達部材34の中央付近と共に、左右方向に往復直線運動する。これに伴い、揺動体14の下端部は、球面滑り軸受19を中心として、左右方向に揺動する。
【0059】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)揺動加工装置10は、モータ11と、第1の伝動機構12と、第2の伝動機構13と、揺動体14とを有している。モータ11は、回転を出力する。第1の伝動機構12は、モータ11の回転を互いに反対方向の2つの回転に変換する。第2の伝動機構13は、2つの回転に基づき特定方向の往復直線運動を出力する。特定方向は、たとえば、揺動加工装置10を正面からみた左右方向である。揺動体14は、往復直線運動の方向と直交する方向に延びる。往復直線運動の方向と直交する方向は、たとえば、揺動加工装置10を正面からみた上下方向である。揺動体14は、第2の伝動機構13に直接的に連結される第1の端部と、製品の素材を加工するための工具が取り付けられる第2の端部とを有する。第1の端部は、揺動体14の上端であり、第2の端部は揺動体14の下端である。工具には、金型15が含まれる。揺動体14は、第1の端部に往復直線運動が直接的に伝達されることにより、第2の端部が第1の端部を中心として揺動するように構成される。
【0060】
この構成によれば、第2の伝動機構13から出力される往復直線運動が、揺動体14の第1の端部に直接的に伝達される。このため、第2の伝動機構13と揺動体14との間の運動の伝達誤差を低減することができる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0061】
(2)第1の伝動機構12は、第1の波動歯車機構21と、第2の波動歯車機構22と、を有する。第1の波動歯車機構21は、モータ11の回転を減速してモータ11の回転方向と同じ方向の第1の回転を出力する。第1の回転の角速度は、第1の角速度ωAである。第2の波動歯車機構22は、モータ11の回転を減速してモータ11の回転方向と反対方向の第2の回転を出力する。第2の回転の角速度は、第2の角速度ωBである。
【0062】
この構成によるように、第1の波動歯車機構21は、バックラッシをほぼゼロにすることができ、あるいは、歯車の噛み合いにバックラッシを必要としない。また、第1の波動歯車機構21は、同時に噛み合う歯数が多く、歯車誤差が平均化されるため、回転精度が高い。歯車の噛み合いは、フレクスプライン21Bの外周面の歯と、サーキュラスプライン21Cの内周面の歯との噛み合いである。第2の波動歯車機構22も、第1の波動歯車機構21と同様の特徴を有する。このため、製品素材の加工に及ぼすバックラッシの影響が抑えられる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0063】
(3)第2の伝動機構13は、第1の動力伝達部材31と、第2の動力伝達部材32と、第3の動力伝達部材33と、第4の動力伝達部材34とを有する。第1の動力伝達部材31は、第1の回転、すなわち第1のアダプタ部材23の回転が伝達されることにより回転する。第1の動力伝達部材31は、内歯車部31Aを有する。第2の動力伝達部材32は、第2の回転、すなわち第2のアダプタ部材24の回転が伝達されることにより回転する。第2の動力伝達部材32は、内歯車部31Aの内側に位置して内歯車部31Aと噛み合う外歯車部32Aを有する。第3の動力伝達部材33は、外歯車部32Aと一体的に回転する複数のピン33Bを有する。ピン33Bは、外歯車部32Aを軸方向に貫通している。第4の動力伝達部材34は、ピン33Bの回転に基づき特定方向の往復直線運動を出力する。特定方向は、たとえば、揺動加工装置10を正面からみた左右方向である。
【0064】
この構成によれば、第3の動力伝達部材33の複数のピン33Bは、第1の動力伝達部材31の回転と、第2の動力伝達部材32の回転とに応じて、一体的に回転する。第4の動力伝達部材34は、複数のピン33Bの回転に基づく往復直線運動を出力することができる。
【0065】
(4)揺動体14の第1の端部は、球面滑り軸受19を介して、第4の動力伝達部材34のうち往復直線運動を出力する部分に直接的に連結されている。第1の端部は、揺動体14の上端である。第4の動力伝達部材34のうち往復直線運動を出力する部分は、第4の動力伝達部材34の中央付近の部分である。
【0066】
この構成によれば、第4の動力伝達部材34が出力する往復直線運動、すなわち第4の動力伝達部材34の中央付近の往復直線運動が、揺動体14の第1の端部に球面滑り軸受19を介して直接的に伝達される。このため、第4の動力伝達部材34と揺動体14との間の運動の伝達誤差を低減することができる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0067】
(5)揺動体14の上端に左右方向の往復直線運動を与えるだけで、揺動体14の下端は、球面滑り軸受19を中心として、左右方向に揺動する。このため、第4の動力伝達部材34の中央付近の往復直線運動を、揺動体14の揺動運動に変換するための構成が不要である。したがって、揺動加工装置10の部品点数を低減することができる。また、第4の動力伝達部材34と、揺動体14との間で運動変換が行われないことにより、運動変換に起因する揺動誤差を低減することができる。したがって、製品の加工精度を高めることができる。
【0068】
(6)揺動加工装置10の駆動源は、単一のモータ11である。この構成によれば、駆動源として複数のモータを有する場合に比べて、揺動加工装置10の体格を小型化することができる。
【0069】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の波動歯車機構21と、第2の波動歯車機構22とを、各々、遊星歯車装置に置換してもよい。モータ11の回転を互いに反対方向の2つの回転に変換できればよい。
【0070】
・第2の伝動機構13は、1枚歯数差遊星歯車機構、あるいは等速度内歯車機構であってもよい。互いに反対方向の2つの回転に基づき、特定方向の往復直線運動を出力できればよい。特定方向は、たとえば、左右方向である。
【0071】
・揺動加工装置10は、様々な製品素材の加工に使用することができる。加工は、たとえば、鍛造、および切削を含む。金型15は、加工内容に応じて適切なものが使用される。金型は、製品素材の加工に使用する工具の一例である。
【符号の説明】
【0072】
10…揺動加工装置
11…モータ(駆動源)
12…第1の伝動機構
13…第2の伝動機構
14…揺動体
15…金型(工具)
19…球面滑り軸受
21…第1の波動歯車機構
22…第2の波動歯車機構
31…第1の動力伝達部材
31A…内歯車部
32…第2の動力伝達部材
32A…外歯車部
33…第3の動力伝達部材
33B…ピン
34…第4の動力伝達部材