(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170130
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】回転電機用絶縁材及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/30 20060101AFI20241129BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02K3/30
H01B17/56 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087126
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】森岡 勇三
【テーマコード(参考)】
5G333
5H604
【Fターム(参考)】
5G333AA03
5G333AB07
5G333AB16
5G333CA01
5G333CA03
5G333CB02
5G333CB12
5G333CC02
5G333CC03
5G333DA03
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC14
5H604DA21
5H604DB03
5H604DB26
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】 折り曲げ加工に使用することができ、しかも、絶縁性を安定させることのできる回転電機用絶縁材及び回転電機を提供する。
【解決手段】 回転電機1のモータ2の絶縁に樹脂フィルムを使用する回転電機用絶縁材であり、樹脂フィルムを熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10とし、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における最大強度をJIS K7127に準拠して測定した場合に50MPa以上とするとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における破断時伸びをJIS K7127に準拠して測定した場合に50%以上とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における弾性率をJIS K7127に準拠して測定した場合に2000MPa以上5000MPa以下とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の吸水率をJIS K7209 A法に準拠して測定した場合に23℃で1.0%以下とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の絶縁に樹脂フィルムを使用する回転電機用絶縁材であって、樹脂フィルムを熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムとし、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における最大強度をJIS K7127に準拠して測定した場合に50MPa以上とするとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における破断時伸びをJIS K7127に準拠して測定した場合に50%以上とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における弾性率をJIS K7127に準拠して測定した場合に2000MPa以上5000MPa以下とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における吸水率をJIS K7209 A法に準拠して測定した場合に1.0%以下としたことを特徴とする回転電機用絶縁材。
【請求項2】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上80kV以下とした請求項1記載の回転電機用絶縁材。
【請求項3】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上70kV以下とした請求項1記載の回転電機用絶縁材。
【請求項4】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における比誘電率を周波数1GHzで測定した場合に3.5以下とし、23℃における誘電正接を周波数1GHzで測定した場合に0.003以上0.008以下とした請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材。
【請求項5】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃における貯蔵弾性率を測定した場合に1.0×107Pa以上2.1×109Pa以下とした請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材。
【請求項6】
ロータを包囲するステータを、ロータに嵌め合わされるコアと、このコアのロータに対向する対向面に凹み形成されるスロットと、このスロットに収納される導電巻線とから構成し、スロットと導電巻線との間に、絶縁性の壁部材を介在させ、この壁部材を請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材としたことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
ロータを包囲するステータを、ロータに嵌め合わされるコアと、このコアのロータに対向する対向面に凹み形成されるスロットと、このスロットに収納される導電巻線とから構成し、スロットと導電巻線との間に、絶縁性の壁部材を介在させて導電巻線を挟む断面略U字形に屈曲形成し、この壁部材の導電巻線を挟んで相対向する複数の対向片の間に、絶縁性の架設部材を架設し、壁部材と架設部材とを、それぞれ請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材としたことを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや発電機の絶縁性を維持して短絡等を防止することができる回転電機用絶縁材及び回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題意識の高まりから電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HVあるいはHEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)等の電動車、電気車、又は電気機関車等のモータ(発動機)を動力として走行する交通機関の開発が脚光をあびている。これらの交通機関で使用されるモータは、小型化、高出力化、高効率化が図られているが、小型化、高出力化、高効率化に伴い、高電圧・高電流化の動きが急速に高まって来ている。したがって、今後のモータに使用される絶縁材には、これまで以上に優れた電気絶縁性質や機械的性質、耐熱性が要求される。これらの要求を満たすため、近年、絶縁材としてポリイミド樹脂が検討されている。
【0003】
ポリイミド樹脂は、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性等に優れた性質を有しているので、この優れた性質に鑑み、自動車分野、エネルギー分野、電気・電子分野、航空・宇宙等の広範囲な分野で使用が検討され、利用されている。このポリイミド樹脂は熱可塑性(熱溶融性ともいう)ポリイミド樹脂と、熱硬化性(熱不溶性ともいう)ポリイミド樹脂とが存在するが、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムは、電気絶縁性質、機械的性質、耐薬品性、耐加水分解性に優れるので、モータ用の絶縁材に検討されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
具体的には、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムの一種であるカプトン(登録商標)が絶縁シート、あるいは相関絶縁体として検討され、提案されている。この場合の絶縁シートは、例えば、(1)ステータのコアと導電巻線との間の絶縁性を確保するため、ステータのスロットの内壁面と、このスロット内に収容される導電巻線との間に、手作業で挿入して介在されるスロット材(特許文献3参照)、(2)ステータのコアの入口を塞ぐよう取り付けられて導電巻線の脱落を防止するウェッジ(特許文献4参照)、(3)三相交流モータ等において、相の異なる導電巻線間に介装される相間絶縁シート(特許文献5参照)として使用されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6599550号公報
【特許文献2】特許第6893274号公報
【特許文献3】特開2018‐74672号公報
【特許文献4】特開平7‐222387号公報
【特許文献5】特開2012‐170248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来におけるモータの絶縁シートは、以上のように熱硬化性ポリイミド樹脂であるカプトンが使用されるので、優れた電気絶縁性質、機械的性質、耐薬品性、耐加水分解性を得ることができる。しかしながら、カプトンは、熱硬化性ポリイミド樹脂であるため、折り曲げ加工を必要としない相関絶縁シートに使用することができるものの、折り曲げ加工を必要とするスロット材やウェッジに使用することは容易ではない。この点について説明すると、折り曲げ加工には熱加工を要するが、カプトンは、熱不溶性で、しかも、高弾性率を有する。したがって、カプトンを使用すると、加工後の折り曲げ加工部分がスプリングバックで元の状態に戻ってしまったり、加工時に割れが生じてしまうという問題が生じる。
【0007】
また、熱硬化性ポリイミド樹脂は、吸水率が高いので、一部の電気絶縁性質に優れていても、全ての電気絶縁性質に優れている訳ではない。例えば、絶縁性の安定化には問題がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、折り曲げ加工に使用することができ、しかも、絶縁性を安定させることのできる回転電機用絶縁材及び回転電機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意研究した結果、熱硬化性ポリイミド樹脂ではなく、熱可塑性ポリイミド樹脂に着目して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明においては上記課題を解決するため、回転電機の絶縁に樹脂フィルムを使用するものであって、
樹脂フィルムを熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムとし、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における最大強度をJIS K7127に準拠して測定した場合に50MPa以上とするとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における破断時伸びをJIS K7127に準拠して測定した場合に50%以上とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における弾性率をJIS K7127に準拠して測定した場合に2000MPa以上5000MPa以下とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における吸水率をJIS K7209 A法に準拠して測定した場合に1.0%以下としたことを特徴としている。
【0011】
なお、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、厚さが25μm以上500μm以下、23℃における熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムとステンレス板との滑り性が静摩擦係数で0.1以上0.5以下、動摩擦係数で0.1以上0.5以下が好ましい。
また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上80kV以下とすることが好ましい。
また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上70kV以下とすることが好ましい。
【0012】
また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における比誘電率を周波数1GHzで測定した場合に3.5以下とし、23℃における誘電正接を周波数1GHzで測定した場合に0.003以上0.008以下とすることが好ましい。
また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃における貯蔵弾性率を測定した場合に1.0×107Pa以上2.1×109Pa以下が良い。
【0013】
また、本発明においては上記課題を解決するため、ロータを包囲するステータを、ロータに嵌め合わされるコアと、このコアのロータに対向する対向面に凹み形成されるスロットと、このスロットに収納される導電巻線とから構成し、スロットと導電巻線との間に、絶縁性の壁部材を介在させ、この壁部材を請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材としたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明においては上記課題を解決するため、ロータを包囲するステータを、ロータに嵌め合わされるコアと、このコアのロータに対向する対向面に凹み形成されるスロットと、このスロットに収納される導電巻線とから構成し、スロットと導電巻線との間に、絶縁性の壁部材を介在させて導電巻線を挟む断面略U字形に屈曲形成し、この壁部材の導電巻線を挟んで相対向する複数の対向片の間に、絶縁性の架設部材を架設し、壁部材と架設部材とを、それぞれ請求項1又は2記載の回転電機用絶縁材としたことを特徴としている。
【0015】
ここで、特許請求の範囲における熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、ガラス転移点が200℃以上の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムと、融点が300℃以上の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのいずれでも良い。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、溶融押出成形機を使用して熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する成形材料を溶融混練し、溶融押出成形機のダイスから帯形に溶融した熱可塑性ポリイミド樹脂を連続的に押し出し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を圧着ロールと冷却ロールの間に挟んで冷却する溶融押出成形法により、製造することができる。
【0016】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、単独で使用されても良いが、樹脂繊維シート等に積層された状態で使用されても良い。また、本発明に係る回転電機には、少なくとも各種のモータや発電機が含まれる。
【0017】
本発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における最大強度を50MPa以上とし、かつ熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における破断時伸びを50%以上とするので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムに充分な靭性を付与することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における弾性率が2000MPa以上5000MPa以下なので、剛性を向上させることができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの吸水率を1.0%以下と低くするので、高温湿度環境下でも高い電気絶縁性を維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回転電機の絶縁に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを用い、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における最大強度をJIS K7127に準拠して測定した場合に50MPa以上とするとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における破断時伸びをJIS K7127に準拠して測定した場合に50%以上とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における弾性率をJIS K7127に準拠して測定した場合に2000MPa以上5000MPa以下とし、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における吸水率をJIS K7209 A法に準拠して測定した場合に1.0%以下とするので、折り曲げ加工に使用することができ、しかも、絶縁性を安定させることができるという効果がある。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上80kV以下とするので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを回転電機の絶縁材として使用しても、サージ電圧による絶縁破壊が発生するおそれを払拭することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが肉厚となり、回転電機の小型化に支障を来すのを阻止することができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧をIEC 60243‐1に準拠して測定した場合に4kV以上70kV以下とするので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを回転電機の絶縁材として使用しても、サージ電圧による絶縁破壊発生のおそれを払拭することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが肉厚となり、回転電機の小型化に支障を来すのを阻止することができる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における比誘電率を周波数1GHzで測定した場合に3.5以下とし、23℃における誘電正接を周波数1GHzで測定した場合に0.003以上0.008以下とするので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが自己発熱して溶融したり、熱分解したりするのを防止することが可能になる。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの200℃における貯蔵弾性率を測定した場合に1.0×107Pa以上2.1×109Pa以下とするので、高温域でも充分な耐熱性を得ることができ、例えば熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを200℃の高温域で使用しても、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが軟化して変形するのを防止することが可能になる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが耐熱性や耐薬品性等に優れるので、電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車等のモータの絶縁用に好適に使用することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを加工して回転電機のスロットの壁部材に使用しても、加工後の折り曲げ加工部分が元の状態に戻ってしまったり、加工時に割れ等が生じることが少ない。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの23℃における弾性率が2000MPa以上5000MPa以下なので、剛性を向上させることができ、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムをスロットの壁部材に折り曲げ加工してスロット内に挿入しても、座屈するおそれを排除することができる。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、例えば回転電機が多相交流モータ等の場合、架設部材により、多相コイルの各相間の絶縁を確保したり、電気絶縁性を維持しながら壁部材内から導電巻線が飛び出すのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る回転電機用絶縁材及び回転電機の実施例形態を模式的に示す平面断面図である。
【
図2】本発明に係る回転電機用絶縁材及び回転電機の実施形態におけるステータのコアとスロット、並びに熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの関係を模式的示す斜視説明図である。
【
図3】本発明に係る回転電機の実施形態におけるステータのコアとスロットとを模式的に示す斜視説明図である。
【
図4】本発明に係る回転電機用絶縁材の実施形態における熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを模式的に示す説明図である。
【
図5】本発明に係る回転電機用絶縁材の実施形態における熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す全体説明図である。
【
図6】本発明に係る回転電機用絶縁材並びに回転電機の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における回転電機用絶縁材は、
図1ないし
図5に示すように、回転電機1の絶縁に使用される樹脂フィルムを熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10とし、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における最大強度を50MPa以上、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における破断時伸びを50%以上、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における弾性率を2000MPa以上5000MPa以下、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における吸水率を1.0%以下とすることにより、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0027】
回転電機1は、
図1ないし
図3に部分的に示すように、例えば電気自動車やハイブリッド車用のモータ2からなり、ハウジングの内部外周に、ロータを外側から包囲して回転させるステータ3が設置される。このステータ3は、回転可能なロータに嵌合される円筒形のコア4と、このコア4に収納される複数本の導電巻線6とを備え、コア4のロータに対向する内周面の周方向に、複数のスロット5が一列に並べて凹み形成されており、この複数のスロット5内に、磁界を発生させる複数本の導電巻線6がそれぞれ巻かれて間接的に収納される。コア4は、
図1ないし
図3に示すように、渦電流の影響を低減する観点から、複数枚のケイ素鋼板等からなる鉄芯が積層されることにより構成されたり、あるいは一体成形される。
【0028】
各スロット5は、略U字を描くよう凹み形成されてその開口部がコア4の中心部方向に指向し、底部が平坦面あるいは湾曲面に形成される。このスロット5の開口部は、必要に応じ、底部よりも幅狭に形成され、絶縁用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の飛び出しや脱落を防止するよう機能する。また、各導電巻線6は、分布巻きされる丸い銅線が主に使用されるが、巻線密度を向上させたい場合には、断面矩形(方形)の平角銅線が使用される。
【0029】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10は、
図1、
図2、
図4に示すように、例えば溶融押出成形機20を用いる溶融押出成形法等の成形法により成形されて可撓性を有する平面略U字形に屈曲形成され、スロット5に着脱自在に位置決め嵌挿されて開口部がコア4の中心部方向に指向し、スロット5と複数本の導電巻線6との間に絶縁用の壁部材11として介在するとともに、複数本の導電巻線6を挟持する状態で直接収納する。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10は、
図2における上下両端部12がそれぞれ外側に折り返され、この上下両端部12がコア4の表裏面のスロット周縁部にそれぞれ係合して位置ずれや脱落を防止するよう機能する。
【0030】
このように熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10は、複数本の導電巻線6を直接的に収納するが、この収納により、スロット5の内面と複数本の導電巻線6との間に絶縁壁として介在し、スロット5と複数本の導電巻線6とを離隔してこれらの間に絶縁性を確保する。熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が絶縁壁として使用されるのは、絶縁性を含む電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、耐加水分解性、低吸水性、熱加工性、リサイクル性等の向上を図ることができるからである。
【0031】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、熱可塑性(熱溶融性ともいう)を有するポリイミド樹脂であれば、非晶性でも良いし、結晶性でも良い。非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、優れた耐熱性を得る観点から、ガラス転移点(以下、Tgと呼称する)が200℃以上の熱可塑性ポリイミド樹脂が好ましい。この非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ポリエーテルイミド樹脂があげられる。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、優れた耐熱性を得る観点から、融点(以下、Tmと呼称する)が300℃以上を有する熱可塑性ポリイミド樹脂が好ましい。この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ジアミン成分とテレフタル酸成分からなる熱可塑性ポリイミド樹脂が好適である。
【0032】
本実施形態で用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂が非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合、Tgが200℃以上のポリエーテルイミド樹脂が最適である。このポリエーテルイミド樹脂は、主鎖中にエーテル結合とイミド結合を繰り返し有する非晶性であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、下記構造式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂と、下記構造式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂があげられる。
【0033】
【0034】
【0035】
上記構造式(1)のポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、4,4´‐[イソプロピリデン(p‐フェニルレンオキシ)]ジフタル酸とm‐フェニレンジアミンとの重縮合物より製造されるULTEM 1000-1000‐NB〔サビック イノベーティブプラスチックス社製:製品名〕、ULTEM 1010-1000‐NB〔サビック イノベーティブプラスチックス社製:製品名〕、ULTEM 9011-1000‐NB〔サビック イノベーティブプラスチックス社製:製品名〕等があげられる。
【0036】
上記構造式(2)のポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、4,4´‐[イソプロピリデン(p‐フェニルレンオキシ)]ジフタル酸とp‐フェニレンジアミンとの重縮合物より製造されるULTEM CRS5001-1000‐NB〔サビック イノベーティブプラスチックス社製:製品名〕等があげられる。このポリエーテルイミド樹脂の製造方法としては、例えば特公昭57-9372号公報や特公昭58-46244号公報等に記載された方法等が該当する。
【0037】
非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂であるポリエーテルイミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲でアミド基、エステル基、スルホン基等の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、変性体も使用可能である。例えば、ポリエーテルイミドスルホン樹脂であるULTEM XH6050-1000〔SABIC イノベーティブプラスチックス社製:製品名〕を使用することができる。このポリエーテルイミド樹脂は、1種類を単独又は2種類以上をアロイ化あるいはブレンドして使用しても良い。
【0038】
ポリエーテルイミド樹脂は、Tgが通常200℃以上300℃以下、好ましくは210℃以上280℃以下、より好ましくは210℃以上260℃以下、さらに好ましくは210℃以上250℃以下の範囲が良い。これは、ポリエーテルイミド樹脂のTgが200℃未満の場合には、ポリエーテルイミド樹脂から得られる壁部材11の耐熱性が不充分になるからである。ポリエーテルイミド樹脂のTg(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0039】
ポリエーテルイミド樹脂の見掛けの溶融粘度は、温度370℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、定荷重押出し形細管式レオメータで測定した場合、5.0×101Pa・s以上5.0×104Pa・s以下の範囲内、好ましくは1.0×102Pa・s以上1.0×104Pa・s以下の範囲内、より好ましくは2.5×102Pa・s以上7.5×103Pa・s以下、さらに好ましくは2.5×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下の範囲内が良い。
【0040】
これは、見掛けの溶融粘度が5.0×101Pa・s未満の場合には、ポリエーテルイミド樹脂の溶融張力が小さく、溶融押出成形するとき、溶融押出成形による樹脂フィルムの成形性に問題が生じるからである。これに対し、5.0×104Pa・sを越える場合には、溶融押出成形機20に過剰な負荷が作用し、溶融押出成形による良好な樹脂フィルムの成形が困難になるからである。
【0041】
本実施形態で用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂が結晶性の場合、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ジアミン成分と、テトラカルボン酸成分からなる熱可塑性ポリイミド樹脂をあげられる。この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を脱水環化して得られる熱可塑性ポリイミド樹脂と、脂肪族ジアミン成分を主成分とするジアミン成分とテトラカルボン酸成分とからなる熱可塑性ポリイミド樹脂とがあげられる。
【0042】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を脱水環化して得られる熱可塑性ポリイミド樹脂で使用されるジアミン成分としては、1つのベンゼン環を有する単環式芳香族基、ナフタレン基等を有する縮合多環芳香族基、あるいは複数の芳香族基が直接結合、カルボニル基、スルホン基、スルフィド基、スルホキシド基、エーテル基又はスルフィド基の架橋員により相互に連結された非縮合多環芳香族基を有するジアミンを用いることができる。このジアミン成分としては、例えば特開2004-27137号公報や特許4629894号公報に記載されたジアミンをあげることができる。
【0043】
ジアミンの具体例としては、以下のジアミンをあげることができる。すなわち、4,4’ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3、3’-ジアミノジフェニルエーテル、4、4’-ジアミノジフェニルエーテル、3、4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(3-アミノフェニル)スルフィド、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルフィド、ビス(3-アミノフェニル)スルホキシド、ビス(4-アミノフェニル)スルホキシド、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルホキシド、ビス(3-アミノフェニル)スルホン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α、α―ジメチルベンジル)フェノキシ]ジベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α、α―ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンゼン]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α、α―ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、6,6’-ビス(2-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロイダイン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロイダイン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロイダイン等があげられる。
【0044】
これらジアミンは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルが最適である。
【0045】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を脱水環化して得られる熱可塑性ポリイミド樹脂で使用されるテトラカルボン酸二無水物成分としては、1つのベンゼン環を有する単環式芳香族基、ナフタレン環等を有する縮合多環芳香族基、あるいは複数の芳香族基が直接結合、カルボニル基、スルホン基、スルホキシド基、エーテル基又はスルフィド基の架橋員を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。このテトラカルボン酸二無水物成分としては、例えば特開2004-27137号公報や特許4629894号公報に記載されたテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0046】
テトラカルボン酸二無水物成分の具体例としては、以下のテトラカルボン酸二無水物をあげることができる。すなわち、エチレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2、2’-ビス(3,4-ジカルボンキシフェニル)-1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,4-ジフルオロピロメリット酸、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェニキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物、2、2’-ビス[4-(3,4-カルボキシフェノキシ)ベンゼン]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0047】
これらテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。そして、上記テトラカルボン酸二無水物の全て又は一部を加水分解した化合物も使用することができる。これらの中では、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0048】
ジアミン成分が4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルのとき、テトラカルボン酸二無水物成分はピロメリット酸二無水物との組み合わせが好ましく、ジアミン成分が1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのとき、テトラカルボン酸二無水物成分は3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0049】
4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物の繰り返し構造単位を有する熱可塑性ポリイミド樹脂〔構造式(3)〕は、樹脂フィルムの成形加工性、耐熱性、機械的性質、電気絶縁性質、耐クリープ特性、耐薬品性、低吸水特性等に優れており、好適である。この4、4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物の繰り返し構造単位を有する熱可塑性ポリイミドの具体例には、米国特許第5,043,419号のオーラムシリーズ〔三井化学社製:製品名〕が該当する。
【0050】
【0051】
4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物の繰り返し構造単位を有する熱可塑性ポリイミド樹脂のTmは、350℃以上450℃以下、好ましくは370℃以上420℃以下、より好ましくは380℃以上400℃以下、さらに好ましくは385℃以上395℃以下が良い。これは、Tmが450℃を越える場合は、溶融押出成形機20に対する負荷が大きくなり、樹脂フィルムの成形が困難になるからである。4、4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物からなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0052】
温度390℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、定荷重押出し形細管式レオメータで測定した4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物の繰り返し構造単位を有する熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの溶融粘度は5.0×101Pa・s以上5.0×104Pa・s以下、好ましくは1.0×102Pa・s以上1.0×104Pa・s以下、より好ましくは2.5×102Pa・s以上7.5×103Pa・s以下、さらに好ましくは2.5×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下の範囲内とされる。
【0053】
これは、見掛けの溶融粘度が1.0×102Pa・s未満の場合には、溶融した4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物の繰り返し構造単位を有する結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融張力が小さく、溶融押出成形するとき、樹脂フィルムの成形性に問題が生じるという理由に基づく。これに対し、5.0×104Pa・sを越える場合には、溶融押出成形機20に負荷がかかり過ぎ、溶融押出成形により良好な樹脂フィルムを成形するのが困難になるという理由に基づく。
【0054】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、上記結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の他、脂肪族ジアミン成分を主成分とするジアミン成分と、テトラカルボン酸成分からなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂をあげることができる。
【0055】
係る結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のジアミン成分は、脂肪族ジアミン成分(脂環式ジアミンをも含む)を主成分とすることが重要である。すなわち、ジアミン成分のうち、50モル%を越える成分が脂肪族ジアミンであることが重要であり、60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。とりわけ、ジアミン成分の全て(100モル%)が脂肪族ジアミンであるのが最適である。この主成分が脂肪族ジアミンであることにより、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に優れた耐熱性、低吸水性、成形性、及び二次加工性を付与することができる。
【0056】
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとしては、炭化水素の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば、特に限定されるものではないが、耐熱性を重視する場合には、環状炭化水素の両末端にアミン基を有する脂環族ジアミンを含むことが好ましい。この脂環族ジアミンの炭素数は6以上22以下が好ましく具体例としては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4‘-ジアミノジシクロへキシルメタン、4、4‘-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン[5.2.1.02.6]デカン、3,3,’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロへキシルプロパン等があげられる。これらの中では、耐熱性と成形性、二次加工性を両立できるという観点から、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが最適である。
【0057】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形性や二次加工性を重視する場合には、ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとして、直鎖状炭化水素の両末端にアミン基を有する直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。この直鎖状脂肪族ジアミンとしては、アルキル基を両末端にアミノ基を有するジアミン成分であれば特には制限はないが、具体例として、エチレンジアミン(炭素数2)、プロピレンジアミン(炭素数3)、ブタンジアミン(炭素数4)、ペンタジアミン(炭素数5)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ヘプタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数8)、ノナンジアミン(炭素数9)、デカンジアミン(炭素数10)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、ドデカンジアミン(炭素数12)、トリデカンジアミン(炭素数13)、テトラデカンジアミン(炭素数14)、ペンタデカンジアミン(炭素数15)、ヘキサデカンジアミン(炭素数16)、ヘプタデカンジアミン(炭素数17)、オクタデカンジアミン(炭素数18)、ノナデカンジアミン(炭素数19)、エイコサン(炭素数20)、トリアコンタン(炭素数30)、テトラコンタン(炭素数40)、ペンタコンタン(炭素数50)等があげられる。
【0058】
これらの中では、成形性や二次加工性、低吸水性に優れるという観点から、炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンが最適である。これら直鎖状脂肪ジアミンは、炭素数1~10の枝分かれ構造を有するものでも良い。
【0059】
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミン以外の成分としては、他のジアミン成分を含んでいても良い。具体的には、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、2,4-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4’-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等のエーテルジアミン成分、シロキサンジアミン類等が該当する。
【0060】
ジアミン成分は、脂環族ジアミンと直鎖脂肪族ジアミンの少なくともいずれか一方を含めば良いが、耐熱性と成形性のバランスに優れていることから、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの両方を含むことが好ましい。脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの両方を含む場合、それぞれの含有量は、脂環族ジアミン:直鎖状脂肪族ジアミン=99:1~1:99モル%の範囲であることが好ましく、80:20~20:80モル%であることがより好ましく、60:40~40:60モル%が最適である。これは、ジアミン成分に含まれる脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの割合が係る範囲であれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の耐熱性と成形性のバランスを向上させることができるからである。
【0061】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のテトラカルボン酸成分としては、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,3,5-テトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,4-テトラカルボン酸、ピロメリット酸等が該当する。また、これらのアルキルエステル体も使用することが可能である。
【0062】
これらの中でも、テトラカルボン酸成分のうち、50モル%を越える成分がピロメリット酸であることが好ましい。これは、テトラカルボン酸成分がピロメリット酸を主成分とすれば、耐熱性、二次加工性、及び低吸水性が向上するからである。係る観点から、テトラカルボン酸成分のうち、ピロメリット酸は、60モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が良い。とりわけ、テトラカルボン酸成分の全て(100モル%)がピロメリット酸であるのが最適である。
【0063】
熱可塑性ポリイミド樹脂のTmは、300℃以上370℃以下、好ましくは310℃以上350℃以下、より好ましくは320℃以上350℃以下、さらに好ましくは310℃以上330℃以下が良い。これは、Tmが300℃未満の場合には、耐熱性を有する熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を得ることができないからである。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が370℃を越える場合には、溶融押出成形機20に負荷がかかり過ぎ、溶融押出成形による良好な結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の製造が困難となり、しかも、使用可能な溶融押出成形機20が制限されてしまう等の問題が生じるからである。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTmは、上記同様、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0064】
脂肪族ジアミン成分を主成分とするジアミン成分と、テトラカルボン酸成分からなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの溶融粘度は、温度350℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、定荷重押出し形細管式レオメータで測定した場合、温度350℃における見掛けの溶融粘度が5.0×101Pa・s以上5.0×104Pa・s以下、好ましくは1.0×102Pa・s以上1.0×104Pa・s以下、より好ましくは2.5×102Pa・s以上7.5×103Pa・s以下、さらに好ましくは2.5×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下の範囲内とされる。
【0065】
これは、見掛けの溶融粘度が1×102Pa・s未満の場合には、溶融した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融張力が小さく、溶融押出成形による樹脂フィルムの成形性に問題が生じるからである。これに対し、5.0×104Pa・sを越える場合には、溶融押出成形機20に負荷がかかり過ぎ、溶融押出成形による良好な樹脂フィルムの成形が困難になるためである。
【0066】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのランダム共重合、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、あるいは変性体も使用することが可能である。また、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の形状は、粉状、フレーク状、ペレット状、塊状等、いかなる形状でも良い。
【0067】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は特に限定されるものではないが、好ましくは特許第5365762号公報、特許第6024859号公報、特許第6037088号公報、あるいは特許第6394662号公報に記載の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂、より好ましくは特許第6024859号公報、特許第6037088公報、あるいは特許第6394662号公報に記載された結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が好適である。このような結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、高強度、高耐熱性、高耐溶剤性、結晶性、フィルム成形性に優れるサープリムシリーズ〔三菱瓦斯化学社製:製品名〕があげられる。
【0068】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形材料Mには、熱可塑性ポリイミド樹脂の他、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルペンテン(PMP)樹脂やポリスチレン(PS)樹脂等のポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂や無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂等の酸変性オレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂やポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(変性PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂、ポリアミド11T(PA11T)樹脂、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂やポリアミド46(PA46)樹脂等のポリアミド樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂やポリフェニレンサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂やポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)樹脂、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂や酸変性フッ素樹脂等のフッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、脂肪族ポリケトン樹脂等の熱可塑性樹脂を選択的に添加することができる。
【0069】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形材料Mには、熱可塑性ポリイミド樹脂の他、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤等を添加することもできる。また、成形材料Mの熱可塑性ポリイミド樹脂には粒子を含有させることができるが、この場合、無機粒子や有機粒子が好ましく用いられる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等の金属酸化物や硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、ゼオライト等があげられる。これらの中では、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等の金属酸化物や炭酸カルシウムが好ましい。
【0070】
これに対し、有機粒子としては、ジメチルポリシロキサンの架橋粒子、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリオルガノシリセスキオキサン硬化物微粉体、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ素系化合物の架橋粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンの1種を単独で使用したり、あるいは2種以上を併用したりすることができる。
【0071】
無機粒子と有機粒子の平均粒径は、0.01μm以上5.0μm以下の範囲内が良い。この平均粒径は、好ましくは0.05μm以上3.0μm以下、より好ましくは0.07μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下の範囲が良い。これは、平均粒径が0.01μm未満の場合には,凝集してしまい、熱可塑性ポリイミド樹脂中での分散性が低下し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の機械的性質が低下し、折り曲げ加工時に割れやすくなったり破れやすくなったり、又、ハンドリング性の低下を招くという理由に基づく。
【0072】
これに対し、5.0μmを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の機械的性質が低下して折り曲げ加工時に割れやすくなったり、破れ易くなったり、あるいは電気絶縁性質、吸水性の悪化を招くという理由に基づく。無機粒子や有機粒子の平均粒子径の測定方法としては、粒子の透過型電子顕微鏡写真から画像処理により得られる円相当径を用い、重量平均径を算出して測定する方法があげられる。
【0073】
上記無機粒子や有機粒子を添加すれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の表面を粗面化することができ、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の滑り性を改良することが可能となる。
【0074】
無機粒子と有機粒子の添加量としては、熱可塑性ポリイミド樹脂を100質量部とした場合、0.01質量部以上10質量部以下、好ましくは0.1質量部以上8.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上5.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以上3.0質量部以下の範囲が良い。これは、添加量が0.01質量部未満の場合には、ハンドリング性が不足するからである。これに対し、10質量部を越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の機械的性質が低下するため、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の折り曲げ加工時に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が破れたり、割れたりするおそれがあるためである。
【0075】
また、無機粒子や有機粒子の添加量が0.01質量部以上10質量部以下の範囲内であれば、目ヤニの発生に伴う熱可塑性樹脂ポリイミド樹脂フィルムの品質低下を防止することができる。この点について詳しく説明すると、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を
図5に示すダイス23を用いてフィルム成形する場合、ダイス23の出口(ダイリップとも言う)に目ヤニと呼ばれる多量の付着物が付着して堆積することがある。係る目ヤニが堆積すると、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10にダイラインが生じたり、目ヤニがダイス23の出口から離れて熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に混入し、その結果、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の品質低下を招くこととなる。
【0076】
本実施形態によれば、無機粒子や有機粒子の添加量が0.01質量部以上10質量部以下の範囲内なので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10にダイラインが生じたり、目ヤニが熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に混入して品質の低下を招くのを有効に防止することができる。
【0077】
無機粒子や有機粒子の凝集を防いだり、熱可塑性ポリイミド樹脂との親和性を向上させたい場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の特性を損なわない範囲において、無機粒子や有機粒子に、例えばシランカップリング剤〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、イミダゾールシラン等〕、チタネート系カップリング剤〔イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピル(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ-トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ‐トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピル(ジオクチルホスファイト)チタネート等〕、アルミネート系カップリング剤〔アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等〕等からなる各種カップリング剤で処理を施すことが可能である。
【0078】
カップリング剤の処理量は、無機粒子や有機粒子を100質量部としたとき、0.01質量部以上5.0質量部以下、好ましくは0.1質量部以上3.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下の範囲が良い。これは、添加量が0.01質量部未満の場合には、粒子同士の凝集を防止できないとき、熱可塑性ポリイミド樹脂への親和性を向上させることができない可能性があり、熱可塑性ポリイミド樹脂中での分散性が低下し、機械的性質が低下することがあるという理由に基づく。
【0079】
これに対し、5.0質量部を越える場合には、カップリング剤の過剰添加により無機粒子や有機粒子がべた付き、粒子同士が凝集してしまい、熱可塑性ポリイミド樹脂に添加したとき、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の機械的性質が低下してしまうという理由に基づく。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10からカップリング剤が染み出し、スロット5と導電巻線6を汚染してしまうという理由に基づく。
【0080】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形法としては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング法等があげられる。これらの成形法の中では、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さ精度、肉厚フィルムの生産性、ハンドリング性の向上、設備の簡略化の観点から、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を連続して帯形に押出成形可能な溶融押出成形法が最適である。
【0081】
溶融押出成形法は、
図5に示すように、溶融押出成形機20を使用して熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する成形材料Mを溶融混練し、溶融押出成形機20の先端部に連結されたTダイスや丸ダイス等のダイス23から帯状に溶融した熱可塑性ポリイミド樹脂を連続的に押し出し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を一対の圧着ロール27と複数の冷却ロール28との間に挟持して冷却することにより、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を製造する方法である。
【0082】
溶融押出成形機20は、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、後部上方に成形材料M用の原料投入口21が設置され、この原料投入口21には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管22が接続されており、この不活性ガス供給管22による不活性ガスの供給により、成形材料Mの酸化劣化、酸素架橋、熱架橋が有効に防止される。
【0083】
溶融押出成形機20の溶融混練時における溶融温度は、溶融混練分散が可能で熱可塑性ポリイミド樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されるものではないが、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、Tg以上非晶性のポリイミド樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。
【0084】
これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm以上結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。これは、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg未満あるいは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂に溶融流動性が得られないため、溶融押出成形法により熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を成形することができないからである。非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂あるいは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の熱分解温度以上の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂の分解を招くからである。
【0085】
非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融温度は、好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+80〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+200〕℃以下、より好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+100〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+185〕℃以下、さらに好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+130〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+170〕℃以下の範囲が良い。非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg(単位:℃)は、上記同様、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることが可能である。
【0086】
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融温度は、好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+10〕℃以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+100〕℃以下、より好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+20〕℃以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+70〕℃以下、さらに好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+30〕℃以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+60〕℃以下が良い。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm(単位:℃)も、上記同様、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることが可能である。
【0087】
ダイス23は、溶融押出成形機20の先端部に連結管24を介して連結され、帯形に成形した溶融状態の熱可塑性ポリイミド樹脂を連続的に下方に押し出すよう機能する。このダイス23には、様々なタイプがあるが、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を優れた厚さ精度で得ることが可能なTダイスが最適である。ダイス23の上流の連結管24には、ギアポンプ25とポリマーフィルター26とがそれぞれ装着されることが好ましい。
【0088】
ギアポンプ25は、溶融押出成形機20により溶融混練された成形材料Mを一定の流量で、かつ高精度に下流のダイス23にポリマーフィルター26を介して移送するよう機能する。また、ポリマーフィルター26は、溶融状態の熱可塑性ポリイミド樹脂から未溶融の熱可塑性ポリイミド樹脂や異物等を分離し、溶融状態の熱可塑性ポリイミド樹脂をダイス23に移送するよう機能する。
【0089】
ダイス23の押し出し時における温度は、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg以上非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm以上結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。
【0090】
これは、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg未満あるいは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂に溶融流動性が得られないため、溶融押出成形法により熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を成形することができないからである。また、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂あるいは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の熱分解温度以上の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂の分解を招き、好ましくないからである。
【0091】
非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のダイス23の押し出し時における温度は、好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+80〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+200〕℃以下、より好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+100〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+185〕℃以下、さらに好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+130〕℃以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+170〕℃以下の範囲が良い。
【0092】
これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のダイス23の押し出し温度は、好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+10℃〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+100℃〕以下、より好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+20℃〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+70℃〕以下、さらに好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+30℃〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm+60℃〕以下が良い。
【0093】
ダイス23の下方には、間隔をおいて相対向する一対の圧着ロール27が回転可能に軸支され、この一対の圧着ロール27の間には、一列に配列されて相互に摺接する複数の冷却ロール28が回転可能に軸支されており、この複数の冷却ロール28のうち、上流の冷却ロール28と下流の冷却ロール28が圧着ロール27の周面にそれぞれ摺接する。各圧着ロール27は縮径に構成され、各冷却ロール28は圧着ロール27よりも拡径に構成される。
【0094】
一対の圧着ロール27のうち、下流の圧着ロール27のさらに下流には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を回転可能な巻取管29に巻き取る巻取機30が設置され、この巻取機30と下流の圧着ロール27との間には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の側部長手方向にスリットを形成するスリット刃31が昇降可能に配置されており、このスリット刃31と巻取機30との間には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10にテンションを作用させて円滑に巻き取るためのテンションロール32が回転可能に必要数軸支される。
【0095】
各圧着ロール27は、成形材料Mの熱可塑性ポリイミド樹脂が非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-200℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+100℃〕以下、好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-150℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+50℃〕以下、より好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-100℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以下、さらに好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-70℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以下の温度に調整され、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂に摺接してこれを冷却ロール28に圧接する。
【0096】
圧着ロール27の温度が係る範囲なのは、〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-200℃〕未満の場合には、押出成形された帯形の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を冷却ロール28に密着させることができないため、平滑な熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を得ることができないからである。これに対し、〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+100℃〕を越える場合には、圧着ロール27に貼り付いて破断しまうおそれがあるからである。
【0097】
各圧着ロール27は、成形材料Mの熱可塑性ポリイミド樹脂が結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の場合には、〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-100℃〕以上結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm未満、好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-50℃〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-50℃〕以下、より好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-100℃〕℃以下、さらに好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以上〔熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-120℃〕の温度範囲に調整され、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に摺接してこれを冷却ロール28に圧接する。
【0098】
圧着ロール27の温度が係る範囲なのは、〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-100〕℃未満の場合には、溶融押出成形された帯形の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を冷却ロール28に密着させることができないため、平滑な熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を得ることができないという理由に基づく。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTmを越える場合には、圧着ロール27に貼り付いて破断しまうおそれがあるという理由に基づく。圧着ロール27の温度調整法としては、例えば空気、水、オイル等の熱媒体を用いる方法、電気ヒーターを用いる方法、誘導加熱を利用する方法等があげられる。
【0099】
各圧着ロール27の周面には、熱可塑性ポリイミド樹脂と冷却ロール28の密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等からなるゴム層が必要に応じて被覆形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらのゴムの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの選択が最適である。
【0100】
複数の冷却ロール28は、例えば圧着ロール27よりも拡径の金属ロール等からなり、ダイス23の下方に回転可能に軸支されて押し出された熱可塑性ポリイミド樹脂を圧着ロール27の周面との間に挟持し、圧着ロール27と共に熱可塑性ポリイミ樹脂を冷却しながら熱可塑性ポリイミ樹脂フィルム10を形成し、この熱可塑性ポリイミ樹脂フィルム10の厚さを所定の範囲内に制御するよう機能する。
【0101】
各冷却ロール28は、圧着ロール27と同様の理由から、成形材料Mに非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する場合には、〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-200℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+100℃〕以下、好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-150℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg+50℃〕以下、より好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-100℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以下、さらに好ましくは〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-70℃〕以上〔非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以下の温度に調整され、非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂に摺接してこれを隣接する他の冷却ロール28に圧接する。
【0102】
各冷却ロール28は、圧着ロール27と同様の理由から、成形材料Mに結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する場合には、〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-100℃〕以上結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm未満、好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg-50℃〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-50〕℃以下、より好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-100℃〕以下、さらに好ましくは〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTg〕以上〔結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のTm-120℃〕以下の温度範囲に調整され、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に摺接してこれを隣接する他の冷却ロール28に圧接する。
【0103】
冷却ロール28の温度調整法としては、圧着ロール27と同様、例えば空気、水、オイル等の熱媒体を用いる方法、電気ヒーターを用いる方法、誘導加熱を利用する方法等があげられる。
【0104】
成形材料Mを帯形の熱可塑性ポリイミド樹脂に押出成形したら、この熱可塑性ポリイミド樹脂を一対の圧着ロール27、複数の冷却ロール28、テンションロール32、及び巻取機30の巻取管29に巻架して熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を形成し、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の両側部をスリット刃31でそれぞれ長手方向にカットした後、巻取機30の巻取管29に順次巻き取れば、長尺の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を製造することができる。
【0105】
係る熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10製造の際、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10は、平滑なフィルムでも良いが、表裏両面の少なくとも一方の面に、滑り性に資する複数の微細な凹凸部が形成され、各凹部が断面略すり鉢形、各凸部が略中空の円錐台形であることが好ましい。この凹凸部は、必要に応じ、千鳥形等に規則的に配列されたり、不規則に配列されると良い。
【0106】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に複数の微細な凹凸部を形成する方法としては、(1)一対の圧着ロール27と複数の冷却ロール28の両周面に微細な凹凸部をそれぞれ形成し、これら一対の圧着ロール27と複数の冷却ロール28の間に熱可塑性ポリイミド樹脂を挟持させて凹凸部を転写形成する方法、(2)熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に微小なアルミナ、炭化ケイ素、ジルコニア、あるいはガラス等のセラミックスやガラス、ステンレス等の無機化合物、微小なポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、あるいはメラミン樹脂等の熱可塑性樹脂や熱硬化系樹脂、微細な小麦やコーン等の植物、鉄、ステンレスや亜鉛等の金属、微細な二硫化モリブデンやドライアイス等を吹き付けて微細な凹凸部を転写形成する方法、(3)微細な凹凸部を備えた金型により熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10をプレス成形し、微細な凹凸部を転写形成する方法があげられる。
【0107】
これらの形成方法の中では、設備の簡略化、凹凸サイズの精度、凹凸形成の均一化や容易化、凹凸を連続形成する観点から、(1)の方法が最適である。(1)の形成方法をさらに詳細に説明すると、(1-1)溶融押出成形機20のTダイスから溶融した熱可塑性ポリイミド樹脂を微細な凹凸を周面に備えた冷却ロール28上に吐き出させ、この吐出物を冷却ロール28と微細な凹凸を周面に備えた圧着ロール27とで挟み、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形と同時に成形する方法、(1-2)成形した熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を微細な凹凸を周面に備えた冷却ロール28と圧着ロール27とで挟み、凹凸部を形成する方法があげられる。これらの中では、設備の簡略化の観点から、(1-1)の形成方法が最適である。
【0108】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さは、コア4の大きさやスロット5の形状等により変更されるが、25μm以上500μm以下、好ましくは50μm以上400μm以下、より好ましくは75μm以上300μm以下、さらに好ましくは100μm以上250μm以下が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さが25μm未満の場合には、充分な電気絶縁性を得ることができず、逆に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さが500μmを越える場合には、スロット5内の導電巻線6の占有率が低下し、モータ2の小型化や高出力化に問題が生じるからである。
【0109】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10表面の表面粗さ(微細な凹凸部)は、23℃における算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下0.010μm以上、好ましくは1.8μm以下0.012μm以上、より好ましくは1.6μm0.013以上、さらに好ましく1.4μm以下0.014μm以上が良い。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.010μm未満の場合は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の静摩擦係数と動摩擦係数が高くなり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の滑り性が低下し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の巻取時にシワが発生しやすくなるからである。
【0110】
一方、算術平均粗さ(Ra)が2.0μmを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の絶縁破壊電圧が低下し、絶縁材としての使用に問題が生じるからである。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の強度が低下し、成形中に破断を招くおそれがあるからである。
【0111】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における滑り性は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10とステンレス板との滑り性で評価することができる。熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の滑り性は、機械的性質や電気絶縁性質等を満足させる観点から、静摩擦係数で0.1以上0.5以下、好ましくは0.11以上0.45以下、より好ましくは0.12以上0.4以下、さらに好ましくは0.14以上0.35以下である。また、動摩擦係数で0.1以上0.5以下、好ましくは0.11以上0.45以下、より好ましくは0.12以上0.4以下、さらに好ましくは0.14以上0.35以下である。
【0112】
これは、静摩擦係数と動摩擦係数が0.10未満の場合は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10のステンレス板との滑り性が低下するため、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を絶縁材として使用した場合、スロット5内に挿入時にシワが発生した入り、折れたり、ヒビが入ったり、割れたりし、絶縁材としての使用に問題が生じるからである。また、静摩擦係数と動摩擦係数が0.5を越える場合は、機械的性質や絶縁破壊電圧が低下するため、絶縁材としての使用に問題が生じるからである。
【0113】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における電気絶縁性質は、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、比誘電率、誘電正接で評価することができる。熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の体積抵抗率は、モータ2の絶縁材として熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が使用される場合、1.0×1014Ω・cm以上であれば、優れた絶縁性を担保することができる。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の体積抵抗率は、JIS C 2139-3-1に準拠して測定することができる。
【0114】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における体積抵抗率は、優れた絶縁性を確保する観点から、1.0×1014Ω・cm以上、好ましくは1.0×1014Ω・cm以上1×1018Ω・cm以下、より好ましくは1.0×1015Ω・cm以上1×1018Ω・cm以下、さらに好ましくは1.0×1016Ω・cm以上1×1018Ω・cm以下、さらにまた好ましくは1.60×1017Ω・cm以上4.20×1017Ω・cm以下が良い。体積抵抗率の上限値は、特に制限されるものではないが、高い程好ましく、通常1×1018Ω・cm以下である。
【0115】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧は、IEC 60243‐1に準拠して測定した場合、4kV以上80kV以下であるが、好ましくは4kV以上80kV以下、より好ましくは7kV以上78kV以下、さらに好ましくは20kV以上70kV以下が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10のシリコーン油の絶縁破壊電圧が4kV未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を絶縁材として使用するとき、サージ電圧による絶縁破壊が発生するおそれがあるからである。
【0116】
シリコーン油中の絶縁破壊電圧の上限値は、高い程好ましく、特に制限されるものではないが、通常は100kV以下である。これは、絶縁破壊電圧が80kVを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さが500μmを超えてしまい、スロット5内の導電巻線6の占有率が低下し、モータ2の小型化や高出力化に問題が生じるからである。
【0117】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の200℃におけるシリコーン油中の絶縁破壊電圧は、IEC 60243‐1に準拠して測定した場合、4kV以上70kV以下、好ましくは4.5kV以上65kV以下、より好ましくは5kV以上60kV以下が良い。
【0118】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃の比誘電率は、周波数1GHzで測定した場合に3.5以下、好ましくは3.3以下、より好ましくは3.2以下、さらに好ましくは3.1以下が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の比誘電率が3.5を越える場合には、絶縁破壊の初期現象である部分放電開始電圧を充分に上げることができないので、サージ電圧による絶縁破壊を防止するのが困難になるからである。周波数1GHzにおける比誘電率の下限値は、特に制限されるものではないが、低い程好ましく、実用上は1.1以上である。
【0119】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10のより具体的な23℃における比誘電率は、周波数1GHzで測定した場合、1.1以上3.5以下、好ましくは2.0以上3.4以下、より好ましくは2.6以上3.3以下、さらに好ましくは2.7以上3.2以下が良い。
【0120】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃の周波数1GHzにおける誘電正接は、周波数1GHzで測定した場合、0.01以下であるが、好ましくは0.009以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下が良い。これは、1GHzにおける誘電正接が0.01以下であれば、自己発熱して熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が溶融したり、熱分解したりするのを防止することが可能になるという理由に基づく。この誘電正接の下限は、限定されるものではないが、実用上は0.0001以上である。
【0121】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における具体的な誘電正接は、周波数1GHzで測定した場合、0.0001以上0.01以下、好ましくは0.002以上0.009以下、より好ましくは0.003以上0.008以下が良い。
【0122】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における機械的性質は、最大強度(引張最大強度)、破断時伸び(引張破断時伸び)、弾性率(引張弾性率)で評価することができる。熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の最大強度は、JIS K7127に準拠して測定した場合に50MPa以上、好ましくは50MPa以上200MPa以下、より好ましくは60MPa以上150MPa以下、さらに好ましくは60MPa以上130MPa以下が良い。
【0123】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における破断時伸びは、JIS K7127に準拠して測定した場合に50%以上、好ましくは50%以上350%以下、より好ましくは55%以上340%以下、さらに好ましくは60%以上320%以下、さらにまた好ましくは80%以上310%以下が良い。これは、最大強度が50MPa未満で破断時伸びが50%未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が充分な靭性を有していないので、ステータ3のスロット5に壁部材11として挿入するとき、破断、割れ、裂け等のトラブルが生じてしまうおそれがあるからである。
【0124】
一方、最大強度が200MPaを越えて破断時伸びが350%を超える場合は、成形材料Mの溶融粘度が高く、溶融押出成形機20に負荷がかかり過ぎ、溶融押出成形による良好な樹脂フィルムの成形が困難になるためである。
【0125】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における弾性率は、JIS K7127に準拠して測定した場合に2000MPa以上5000MPa以下、好ましくは2100MPa以下4500MPa以下、より好ましくは2200MPa以上4000MPa以下、さらに好ましくは2500MPa以上3800MPa以下の範囲が良い。
【0126】
これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の弾性率が2000MPa未満の場合には、剛性が不充分となり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を壁部材11に折り曲げ加工してステータ3のスロット5内に挿入するとき、座屈するおそれがあるからである。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の弾性率が5000MPaを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の成形に長時間を要し、コストの削減が期待できなくなるからである。また、貯蔵弾性率が2.5×109Paを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の剛性が高く、折り曲げ加工性が低下してしまうからである。
【0127】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の耐熱性は、200℃における貯蔵弾性率で表すことができる。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の耐熱性は、優れた耐熱性を得る観点から、200℃における貯蔵弾性率が1.0×107Pa以上2.1×109Pa以下、好ましくは1.0×108Pa以上2.1×109Pa以下、より好ましくは5.0×108Pa以上2.1×109Pa以下、さらに好ましくは1.0×109Pa以上2.09×109Pa以下であるのが良い。
【0128】
これは、200℃における貯蔵弾性率が1.0×107Pa未満の場合には、高温域で充分な耐熱性が得られないため、200℃の高温域で使用したとき、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10が軟化して変形してしまうという理由に基づく。また、貯蔵弾性率が2.5×109Paを越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の剛性が高く、折り曲げ加工性の低下を招くという理由に基づく。
【0129】
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における吸水率は、JIS K7209 A法に準拠して測定した場合に、1.0%以下、好ましくは0.95%以下、より好ましくは0.9%以下が良い。これは、23℃における吸水率が1.0%以下の場合には、高温湿度環境下でも高い電気絶縁性を維持することができるからである。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における吸水率は、低い程好ましいが、実用上は0%以上である。
【0130】
上記によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の最大強度を50MPa以上とし、かつ熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の破断時伸びを50%以上とするので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10に充分な靭性を付与することができる。したがって、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を加工して絶縁用の壁部材11に使用しても、加工後の折り曲げ加工部分がスプリングバックで元の状態に戻ってしまったり、加工時に割れが生じることがない。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の弾性率が2000MPa以上5000MPa以下なので、剛性の向上を図ることができ、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を壁部材11に折り曲げ加工してステータ3のスロット5内に挿入しても、座屈するおそれを排除することができる。
【0131】
また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の23℃における吸水率を1.0%以下と低くするので、高温湿度環境下でも高い電気絶縁性を維持することができる。したがって、絶縁性の安定化が大いに期待できる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の厚さを25μm以上500μm以下として薄肉化を図るので、導電巻線6の占有率の増大に資することが可能になる。さらに、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10は、耐熱性や耐薬品性に優れるので、電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車等のモータ2の絶縁用に好適に使用することができる。
【0132】
次に、
図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、モータ2の各スロット5と複数本の導電巻線6との間に、絶縁性の壁部材11を介在させて複数本の導電巻線6を挟持する断面略U字形に湾曲形成し、この壁部材11の複数本の導電巻線6を挟持して相対向する一対の対向片の間に、壁部材11の内部を複数に区画する絶縁性の区画板13、及び壁部材11の開口部を嵌合被覆する絶縁性の蓋板14をそれぞれ架設し、壁部材11、区画板13、及び蓋板14を、それぞれ25μm以上500μm以下の厚さを有する熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10とするようにしている。
【0133】
区画板13は、例えばモータ2が多相交流モータ等の場合、断面皿形等に形成されて壁部材11の内部に必要数取り付けられ、相間絶縁紙として導電巻線6の各相間の絶縁を確保するよう機能する。また、蓋板14は、例えば断面皿形等に形成され、壁部材11の内部から導電巻線6が外部に飛び出すのを防止する。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0134】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、多相コイルの各相間の絶縁を確保したり、電気絶縁性を維持しながら壁部材11内から導電巻線6が飛び出すのを防止することができるのは明らかである。
【0135】
なお、上記実施形態では回転電機1のステータ3に複数のスロット5を凹み形成したが、回転電機1のロータに複数のスロット5を凹み形成し、各スロット5に、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を絶縁材として挿入しても良い。また、上記実施形態では熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10を単に示したが、何ら限定されるものではなく、例えば複数枚の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10積層接着して使用したり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の片面あるいは両面に、樹脂繊維シートを積層接着しても良い。また、優れたオイル含浸性と滑り性を獲得したい場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10の表裏両面に上下一対の樹脂繊維シートを多層構造に備えても良い。この場合の樹脂繊維シートとしては、融点が250℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂、ガラス転移点が200℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムがあげられる。
【0136】
融点が250℃の結晶性の熱可塑性樹脂の具体例としては、好ましくは熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(変性PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂等の半芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、あるいはポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(FEP)樹脂等のフッ素樹脂、液晶ポリマー(LCP)等があげられる。ガラス転移点が200℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂等のポリイミド樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリフェニレンサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂等があげられる。
【0137】
これに対し、熱硬化性樹脂の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド(PI)樹脂等のポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂等があげられる。これらの樹脂の中では、耐薬品性の観点から、結晶性の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が好ましい。より好ましくは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム10との接着性を向上させるため、熱可塑性ポリイミド樹脂が好適であり、さらに好ましくは、易入手性及びコストの点でポリエーテルエーテルケトン樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂〔製品名:ノーメックス、デュポン帝人アドバンストペーパー社〕が最適である。
【実施例0138】
以下、本発明に係る回転電機用絶縁材及び回転電機の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、成形材料の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、市販のポリエーテルイミド樹脂〔サビック社製 製品名:ULTEM9011-1000-NB(以下、「9011」と略称する)〕を用意し、このポリエーテルイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥機に投入して12時間以上乾燥させた。ポリエーテルイミド樹脂については、以下、PEI樹脂と略称する。また、9011は、4、4’-[イソプロピリデンビス(p-フェニルオキシ)]ジフタル酸二無水物と、m-フェニレンジアミンとの縮重合物である。この9011の370℃における見掛けの溶融粘度を測定したところ、455Pa・sであった。
【0139】
非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂である9011の見掛けの溶融粘度は、定荷重押出し形細管式レオメータ〔島津製作所:製品名 島津フローテスタCFT-500D〕により測定した。具体的には、160℃で12時間以上乾燥させたPEI樹脂1.5cm3をダイ(直径:1mm、長さ10mm)装着したシリンダー内に充填し、このシリンダーの上部に、面積が1cm2のプランジャーを取り付け、シリンダーの温度が370℃に達したら、5分間予備加熱するとともに、予備加熱後、直ちに50kgfの荷重を加え、9011を溶融流出させてその見掛けの溶融粘度を測定した。PEI樹脂の見掛けの溶融粘度の測定方法については、以下の実施例についても同様とした。
【0140】
9011のTgは、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:高感度型示差走査熱量計 X-DSC7000〕を用い、JIS K7121に準拠し、昇温速度10℃/分の条件で測定した。このPEI樹脂のガラス転移点は、210℃であった。このPEI樹脂のTgの測定方法については、以下の実施例についても同様とした。
【0141】
こうしてPEI樹脂を乾燥させたら、乾燥させたPEI樹脂の含水率が300ppm以下であることを確認し、このPEI樹脂をTダイスを備えた単軸溶融押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練したPEI樹脂を単軸溶融押出機のTダイスから連続的に押し出して冷却することにより、絶縁材であるPEI樹脂フィルムを帯形に成形した。PEI樹脂の含水率は、微量水分測定装置〔日東精工アナリテック社製 製品名:CA-310型〕を用い、カールフィッシャー滴定法により確認した。熱可塑性ポリイミド樹脂の含水率については、以下の実施例についても同様の方法により測定した。
【0142】
単軸溶融押出成形機のシリンダー温度は310~370℃、Tダイスの温度は370℃、単軸溶融押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は375℃、ギアポンプとポリマーフィルターは375℃に調整した。また、単軸溶融押出成形機にPEI樹脂を投入する際、不活性ガス供給管により窒素ガスを13L/分供給した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、375℃であった。
【0143】
次いで、PEI樹脂フィルムを溶融押出成形したら、連続したPEI樹脂からなる厚さ75μmの熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取り、回転電機用の絶縁材を製造した。この際、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、周面に凹凸を備え、160℃に加熱された金属製の複数の冷却ロール、及びこれら下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、一対の圧着ロールと複数の冷却ロールとに挟持させた。
【0144】
回転電機用の絶縁材が得られたら、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性をそれぞれ測定してその結果を表1にまとめた。表面粗さ(微細な凹凸部)は、算術平均粗さ(Ra)で評価した。滑り性はステンレス板との滑り性で評価した。電気絶縁性質は、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、誘電特性で評価した。絶縁破壊電圧は、シリコーン油中、温度23℃±2℃と200℃の場合についてそれぞれ評価した。また、誘電特性は、周波数1GHzの比誘電率と誘電正接で評価した。また、機械的性質は、最大強度(引張最大強度)、破断時伸び(引張破断時伸び)、弾性率(引張弾性率)で評価した。
【0145】
・絶縁材のフィルム厚
絶縁材のフィルム厚については、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号:MDC-25PJ〕を使用して温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下で測定した。測定に際しては、絶縁材の幅方向〔押出方向の直角方向(以下、「TD」と略称する)〕の任意の10箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
【0146】
・絶縁材の表面粗さ(微細な凹凸部)
絶縁材の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で評価した。具体的には、JIS B0601‐2001に準拠し、温度23℃で測定した。先ず、絶縁材を温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下に24時間静置し、静置後に絶縁材の押出方向(以下、「MD」と略称する)とTDについて、それぞれ測定した。
【0147】
・絶縁材の滑り性(絶縁材とステンレス板との滑り性)
絶縁材の23℃における滑り性は、絶縁材とステンレス板との滑り性で評価した。絶縁材の滑り性は、静的摩擦係数と動的摩擦係数とにより評価した。これら静的摩擦係数と動的摩擦係数とは、JIS K7125に準拠して測定した。具体的には、表面性測定機〔新東科学社製 製品名:HEDON-14〕を使用し、温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下で24時間静置し、静置後に試験速度:100mm/min、荷重:200g、接触面積:63.5mm×63.5mmの条件下で測定した。そして、この条件で移動テーブル側に市販のステンレス板、平面圧子側に絶縁材をそれぞれ固定し、200gの荷重を作用させ、100mm/minの速度で静的摩擦係数と動的摩擦係数とをそれぞれ測定した。
【0148】
・絶縁材の電気絶縁性質
絶縁材の電気絶縁性質は、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、1GHzにおける比誘電率及び誘電正接により評価した。
【0149】
・絶縁材の体積抵抗率
絶縁材の体積抵抗率は、JIS C2139-3-1に準拠し、温度23℃で測定した。具体的には、先ず、絶縁材をMD:100mm×TD:100mmの大きさに切り出して試験片とし、この試験片を温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下に24時間静置し、静置後に試験片を測定機〔日置電機社製 製品名:平板試料用電極 SME-8310〕の電極部に取り付けた。こうして試験片を取り付けたら、印加電圧500Vを加えて1分後の抵抗値を測定機〔日置電機社製 製品名:超絶縁計 SM-8220〕により測定し、以下の式より体積抵抗率を算出した。体積抵抗率は、5回測定してその平均値を用いた。
【0150】
体積抵抗率(Ω・cm)=(19.6/t)×Rv
ここで、t :試験片の厚さ(cm)
Rv:測定した体積抵抗(Ω)
【0151】
・絶縁材の絶縁破壊電圧
絶縁材の絶縁破壊電圧は、温度23℃と温度200℃におけるシリコーン油中で測定した。測定は、IEC 60243-1に準拠して実施した。具体的には、シリコーン油中で昇温方式(短時間法)により、交流(50Hz)、温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下と温度200℃の環境下、電極形状は上電極φ25mm、高さ25mmの円柱形、台座となる下電極φ25mm、高さ25mmの円柱形で実施した。この絶縁破壊電圧は、5回測定してその平均値を用いた。
【0152】
・絶縁材の誘電特性〔周波数:1GHz〕
絶縁材の周波数:1GHzにおける比誘電率と誘電正接は、ネットワーク・アナライザー〔Anritsu社製 ネットワークアナライザ MS46122B〕を用い、空洞共振器摂動法により測定した。また、1GHzにおける誘電特性の測定は、空洞共振器を空洞共振器1GHz〔キーコム社製 型式;TMR‐1A〕とし、ASTM D2520に準拠して実施した。この誘電特性の測定は、温度:23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下に24時間静置し、静置後に温度:23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下で実施した。比誘電率と誘電正接については、それぞれ5回測定してその平均値を用いた。
【0153】
・絶縁材の機械的性質
絶縁材の機械的性質については、温度23℃における最大強度、破断時伸び、及び弾性率で評価した。この機械的性質は、MDとTDについてそれぞれ測定した。測定は、JIS K7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの環境下に24時間静置し、静置後に温度:23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの条件下で実施した。最大強度、破断時伸び、及び弾性率は、それぞれ5回測定してその平均値とした。
【0154】
・絶縁材の耐熱性
絶縁材の耐熱性については、200℃における絶縁材の貯蔵弾性率(E′)により評価した。この絶縁材の貯蔵弾性率は、絶縁材のMDとTDについてそれぞれ測定した。具体的には、絶縁材のMDの貯蔵弾性率を測定する場合には、MD60mm×TD6mm、TDの貯蔵弾性率を測定する場合には、MD6mm×TD60mmの大きさに切り出して測定した。貯蔵弾性率の測定に際しては、粘弾性スペクトロメータ〔ティー・エス・インスツルメント・ジャパン社製 製品名:RSA-G2〕を用いた引張モードにより、周波数1Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、測定温度範囲-60℃~360℃、チャック間21mmの条件で実施し、200℃の貯蔵弾性率を求めた。
【0155】
・絶縁材の吸水性
絶縁材の吸水性については吸水率で評価し、この吸水率は、JIS K 7209 A法に準拠し、23℃の環境下で測定した。具体的には、先ず、絶縁材をMD100mm×TD100mmの大きさに切り出して試験片とし、この試験片を50℃に調節したオーブン中で24時間乾燥させた。
【0156】
こうして試験片を24時間乾燥させたら、デシケータに投入して23℃まで冷却した後、試験片の質量を測定した。引き続き、23℃±2℃の蒸留水中において、14日間浸漬した後、試験片を蒸留水中より取り出し、取り出した試験片の表面水分を紙で拭き取って直ちに試験片の質量を測定し、以下の式により、吸水率を算出してその結果を表1に記載した。吸水率は、5回測定してその平均値とした。
吸水率(%)={(m2-m1)/m1}×100
ここで、m1:浸漬前の試験片の質量(mg)
m2:浸漬後の試験片の質量(mg)
【0157】
〔実施例2〕
市販の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例1で使用したPEI樹脂を用い、実施例1と同様の方法により、実施例1とは厚さの異なる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造した。こうして得られた熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って回転電機用の絶縁材を製造した。得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表1にまとめた。
【0158】
〔実施例3〕
市販の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例1のPEI樹脂〔製品名:9011〕をULTEM1010-1000-NB〔サビック社:製品名(以下「1010」と略称する)〕に変更し、実施例1と同様の方法により、実施例1とは厚さの異なる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造することとした。1010は、4、4’-[イソプロピリデンビス(p-フェニルオキシ)]ジフタル酸二無水物とm-フェニレンジアミンとの縮重合物である。
【0159】
製造の際、1010を160℃に加熱した除湿熱風乾燥機に投入して12時間乾燥させた。この1010の370℃における見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定したところ、1010の見掛けの溶融粘度は471Pa・sであった。また、1010のTgを実施例1と同様の方法により測定したところ、1010のTgは211℃であった。実施例1と同様の方法により乾燥させた成形材料の含水率を測定し、乾燥した1010の含水量が300ppm以下であることを確認した。
【0160】
確認後、実施例1と同様の方法で熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造し、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って回転電機用の絶縁材を製造した。得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表1にまとめた。
【0161】
〔実施例4〕
先ず、市販の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例1のPEI樹脂〔製品名:9011〕をULTEMCRS5001-1000-NB〔サビック社製;製品名 以下、「CRS5001」と略称する〕に変更し、実施例1と同様の方法により、実施例1とは厚さの異なる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造することとした。CRS5001は、4,4’-[イソプロピリデンビス(p-フェニレンオキシ)ジフタル酸二無水物]とp-フェニレンジアミンとの重縮合物である。
【0162】
この際、CRS5001を160℃に加熱した除湿熱風乾燥機に投入して12時間乾燥させた。このCRS5001の370℃における見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定したところ、CRS5001の見掛けの溶融粘度は977Pa・sであった。また、CRS5001のTgを実施例1と同様の方法により測定した結果、CRS5001のTgは222℃であった。実施例1と同様の方法により乾燥させた成形材料の含水率を測定し、乾燥したCRS5001の含水量が300ppm以下であることを確認した。
【0163】
確認後、実施例1と同様の方法で熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って回転電機用の絶縁材を製造した。得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表1にまとめた。
【0164】
〔実施例5〕
市販の非晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例4で使用したPEI樹脂を用い、実施例1と同様の方法により、実施例4とは厚さの異なる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造し、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って回転電機用の絶縁材を製造した。
得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表1に記載した。
【0165】
〔実施例6〕
先ず、市販の熱可塑性ポリイミド樹脂を結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂に変更し、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物よりなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂〔三井化学社製、製品名:オーラム PL450C、(以下、「PL450C」と呼称する)〕を用意し、このPL450Cを200℃に加熱した除湿熱風乾燥機に投入して12時間以上乾燥させた。この4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとピロメリット酸二無水物よりなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は、以後、TPI樹脂(A)と略称する。
【0166】
PL450Cの390℃における見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定したところ、PL450Cの見掛けの溶融粘度は1110Pa・sであった。実施例1では、定荷重押出し形細管式レオメータのシリンダーの温度を370℃で測定したが、この実施例6では、シリンダーの温度を390℃に変更し、見掛けの溶融粘度を測定したところ、PL450Cの見掛けの溶融粘度は1110Pa・sであった。シリンダーの温度以外は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0167】
PL450Cの見掛けの溶融粘度は、定荷重押出し形細管式レオメータ〔島津製作所:製品名 島津フローテスタCFT-500D〕により測定した。具体的には、200℃で12時間以上乾燥させたPL450C1.5cm3をダイ(直径:1mm、長さ10mm)装着したシリンダー内に充填し、このシリンダーの上部に、面積が1cm2のプランジャーを取り付け、シリンダーの温度が390℃に達したら、5分間予備加熱するとともに、予備加熱後、直ちに50kgfの荷重を加え、PL450Cを溶融流出させてその見掛けの溶融粘度を測定した。
【0168】
PL450CのTmは、示差走査熱量計[エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 製品名:高感度型示差走査熱量計 X-DSC7000]を用い、JIS K7121に準拠し、昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定したところ、PL450C樹脂のTmは385℃であった。
【0169】
PL450Cを乾燥させたら、乾燥させたPL450Cの含水率が300ppm以下であることを確認し、このPL450CをTダイスを備えた単軸溶融押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練したPL450Cを単軸溶融押出成形機のTダイスから連続的に押し出して冷却することにより、絶縁材であるTPI樹脂(A)フィルムを帯形に成形した。
【0170】
PL450Cの含水率は、実施例1と同様の方法により測定した。また、単軸溶融押出成形機にPL450Cを投入する際、不活性ガス供給管により窒素ガスを8L/分供給した。単軸溶融押出成形機のシリンダー温度は350~420℃、Tダイスの温度は420℃、単軸溶融押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は420℃、ギアポンプは420℃に調整した。また、Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、423℃であった。
【0171】
次いで、PL450Cの樹脂フィルムを溶融押出成形したら、連続したPL450Cの樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取り、回転電機用の絶縁材を製造した。この際、PL450Cの樹脂フィルムは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、周面に凹凸を備え、240℃に加熱された複数の金属製の冷却ロール、及びこれら下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、一対の圧着ロールと複数の冷却ロールとに挟持させた。絶縁材が得られたら、得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表1に記載した。
【0172】
【0173】
〔実施例7〕
市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例6で使用したTPI樹脂(A)を用い、実施例6と同様の方法により、実施例6とは厚さの異なるTPI樹脂(A)フィルムを製造した。こうして得られたTPI樹脂(A)フィルムの両側部をスリットで裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って絶縁材を製造した。
【0174】
得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表2に記載した。
【0175】
〔実施例8〕
市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例6で使用したTPI樹脂(A)を用い、実施例6と同様の方法により、実施例6、7とは厚さの異なるTPI樹脂(A)フィルムを製造した。こうして得られたTPI樹脂(A)フィルムの両側部をスリットで裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って絶縁材を製造した。
【0176】
得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表2に記載した。
【0177】
〔実施例9〕
市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、脂肪族ジアミンとピロメリット酸よりなる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂〔三菱瓦斯化学社製、製品名:サープリムTO-65、(以下、「TO-65」と呼称する)〕を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機に投入し12時間以上乾燥させた。この脂肪族ジアミンとピロメリット酸よりなる結晶性の熱化可塑性ポリイミド樹脂は、以後、TPI樹脂(S)と呼称する。このTO-65の350℃における見掛けの溶融粘度を実施例1では370℃で測定したが、実施例6では350℃に変更して測定した。TO-65の見掛けの溶融粘度は、1530Pa・sであった。
【0178】
TO-65のTmは、示差走査熱量計[エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 製品名:高感度型示差走査熱量計 X-DSC7000]を用い、JIS K7121に準拠し、昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定したところ、TPI樹脂の融点は324℃であった。
【0179】
TO-65を乾燥させたら、乾燥させたTO-65の含水率が300ppm以下であることを確認し、このTO-65をTダイスを備えた単軸溶融押出成形機にセットして溶融混錬し、この溶融混練したTO-65を単軸溶融押出成形機のTダイスから連続的に押し出して冷却することにより、絶縁材となるTO-65を帯形に成形した。
【0180】
TO-65の含水率は、実施例1と同様の方法で測定した。また、単軸溶融押出成形機にTO-65を投入する際、不活性ガス供給管により窒素ガスを20L/分供給した。単軸溶融押出成形機のシリンダー温度は210~360℃、Tダイスの温度は360℃、単軸溶融押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は365℃、ギアポンプは365℃に調整した。また、Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、363℃であった。
【0181】
次いで、TO-65を溶融押出成形したら、連続したTO-65の樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取り、回転電機用の絶縁材を製造した。この際、TO-65の樹脂フィルムは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、周面に凹凸を備え、140℃に加熱された複数の金属製の冷却ロール、及びこれら下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、一対の圧着ロールと複数の冷却ロールとに挟持させた。
【0182】
絶縁材が得られたら、得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表2に記載した。
【0183】
〔実施例10〕
市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例9で使用したTPI樹脂(S)を用い、実施例9と同様の方法により、実施例9とは厚さの異なるTO―65の樹脂フィルムを製造し、得られたTO-65の樹脂フィルムの両側部をスリットで裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って回転電機用の絶縁材を製造した。得られた絶縁材のフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表2にまとめた。
【0184】
〔比較例1〕
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムではなく、従来例の熱不溶性ポリイミド樹脂フィルムを用いた。具体的には、市販されている熱不溶性ポリイミド樹脂フィルム〔東レ・デュポン社製、製品名:カプトン500H(以下、「500H」と呼称する)〕を用いた。以下、熱不溶性ポリイミド樹脂は、PI樹脂と略称する。カプトン500Hのフィルム厚、表面粗さ(微細な凹凸部)、滑り性、電気絶縁性質、機械的性質、耐熱性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価して表2にまとめた。
【0185】
【0186】
〔評 価〕
各実施例の絶縁材の場合、比較例とは異なり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの最大強度を50MPa以上、かつ熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの破断時伸びが50%以上、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの弾性率が2000MPa以上5000MPa以下なので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムに充分な靭性を付与することができた。したがって、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを加工して絶縁用の壁部材に使用しても、加工後の折り曲げ加工部分が元の状態に復帰したり、加工時に割れが生じるのを有効に防止できると推測される。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの剛性を向上させることができるので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを壁部材に折り曲げ加工してステータのスロット内に挿入しても、座屈するおそれを排除できると推測される。
【0187】
さらに、各実施例の絶縁材の場合、比較例とはなり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの吸水率が1.0%以下なので、例え高温湿度環境下でも高い電気絶縁性を維持することができ、絶縁性の安定化が期待できると推測される。