(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170139
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】エレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 7/12 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
B66B7/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087143
(22)【出願日】2023-05-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】横竹 孝浩
【テーマコード(参考)】
3F305
【Fターム(参考)】
3F305BA15
3F305BD01
3F305EA03
(57)【要約】
【課題】オイルパン内に油吸収体を常置しておいても火災が発生する危険性がないエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータを提供する。
【解決手段】ガイドレール油回収装置5は、ガイドレール20からの油を回収するものであって、油貯留部51を備えるオイルパン50と、油貯留部51内に収容配置される油吸収体55と、油貯留部51内への油の移動経路を確保しつつ油貯留部51の上部開放部51fを閉塞して異物が油貯留部51内に入り込むのを規制する蓋57とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールからの油を回収する油回収装置であって、
油貯留部を備えるオイルパンと、
油貯留部内に収容配置される油吸収体と、
油貯留部内への油の移動経路を確保しつつ油貯留部の上部開放部を閉塞して異物が油貯留部内に入り込むのを規制する蓋とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項2】
オイルパンは、底面部と側面部とを備える箱形状であり、
側面部は、第1方向と交差する第2方向において対向する2箇所に、内向きに突出する係止部を備え、
蓋は、係止部の下部に係止されつつ第1方向にスライド可能である
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項3】
油貯留部は、底面部と側面部とを備える箱形状であり、
オイルパンは、この油貯留部と、第1方向における油貯留部の側面部から第1方向に張り出し、ガイドレールからの油を受けて油貯留部へと誘導する張り出し部とを備え、
蓋は、この先端縁と張り出し部との間に隙間を形成しつつ油貯留部の上部開放部を閉塞する
請求項1又は請求項2に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項4】
蓋は、難燃性の材料で構成される
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項5】
蓋は、少なくとも一部に光透過部を有する
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項6】
請求項1、請求項2、請求項4又は請求項5に記載のガイドレール油回収装置を備える
エレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのガイドレールに供給された油(潤滑油等)を回収するためのエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかごやカウンターウェイトは、昇降路内に上下方向に配置されるガイドレールに沿って摺動し、昇降路内を昇降する。このため、ガイドレールには、かごやカウンターウェイトのガイドシュー又はローラとの間の摺動を円滑化するため、ガイドレール給油装置により潤滑油が常時又は定期的に供給されるようになっている。
【0003】
余分な潤滑油は、重力を受けてガイドレールのガイド面を伝って垂下し、ガイドレールの下端からピットの底面に滴下し、底面を汚損することになる。この汚損を防ぐため、ガイドレールの下端とピットの底面との間にオイルパン(油受け)を設置し、滴下した潤滑油をオイルパン内に集めて貯留するとともに、エレベータの定期保守点検時等のタイミングでオイルパン内の潤滑油を回収するようにしている。潤滑油の回収は、オイルパン内に貯留された潤滑油をすくい、集油缶に移し替える方法や、油吸収体をオイルパン内に貯留された潤滑油に浸し、潤滑油を油吸収体に吸収させる方法(特許文献1)がある。
【0004】
しかし、これらの方法は、時間が掛かるため、定期保守点検時等にエレベータを停止させる時間を長く取る必要があるという問題がある。そこで、時間短縮を目的として、オイルパン内に油吸収体を常置しておき、時間が経って潤滑油を十分に吸収した油吸収体をエレベータの定期保守点検時等のタイミングで新しい油吸収体に交換する方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-224457号公報
【特許文献2】特開平9-227054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載された方法において、油吸収体は、単にオイルパン内に敷設されただけであり、露出している。このため、たとえば、エレベータのかごが最下階に停止してかごのドアが開いた状態から、吸いかけのタバコやまだ火種が残っているタバコの吸殻が誤ってかごのドアの敷居(シル)と乗場のドアの敷居との間の隙間から昇降路のピッチ内に落下し、油吸収体に接触するようなことがあれば、(特に油吸収体がまだ十分に潤滑油を吸収しておらず、乾燥した部分がある場合に)油吸収体に引火して火災が発生する危険性があるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、オイルパン内に油吸収体を常置しておいても火災が発生する危険性がないエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置は、
ガイドレールからの油を回収する油回収装置であって、
油貯留部を備えるオイルパンと、
油貯留部内に収容配置される油吸収体と、
油貯留部内への油の移動経路を確保しつつ油貯留部の上部開放部を閉塞して異物が油貯留部内に入り込むのを規制する蓋とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置である。
【0009】
ここで、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の一態様として、
オイルパンは、底面部と側面部とを備える箱形状であり、
側面部は、第1方向と交差する第2方向において対向する2箇所に、内向きに突出する係止部を備え、
蓋は、係止部の下部に係止されつつ第1方向にスライド可能である
との構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の他態様として、
油貯留部は、底面部と側面部とを備える箱形状であり、
オイルパンは、この油貯留部と、第1方向における油貯留部の側面部から第1方向に張り出し、ガイドレールからの油を受けて油貯留部へと誘導する張り出し部とを備え、
蓋は、この先端縁と張り出し部との間に隙間を形成しつつ油貯留部の上部開放部を閉塞する
との構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の別の態様として、
蓋は、難燃性の材料で構成される
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置のさらに別の態様として、
蓋は、少なくとも一部に光透過部を有する
との構成を採用することができる。
【0013】
また、本発明に係るエレベータは、
上記のいずれかのガイドレール油回収装置を備える
エレベータである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油貯留部内への油の移動経路を確保しつつ油貯留部の上部開放部を閉塞して異物が油貯留部内に入り込むのを規制する蓋が設けられる。これにより、吸いかけのタバコやまだ火種が残っているタバコの吸殻といった火種を有する異物が油貯留部内に入り込み、油吸収体に接触するようなことはない。このため、本発明によれば、油貯留部内に油吸収体を常置しておいても火災が発生する危険性がない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図2は、実施形態1に係るガイドレール油回収装置の周辺の斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2のA-A線における縦断面図である。
図3(b)は、
図2のB-B線における縦断面図である。
【
図4】
図4(a)は、実施形態1に係るガイドレール油回収装置における油吸収体の交換方法に関する説明図である。
図4(b)は、別の交換方法に関する説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係るガイドレール油回収装置の周辺の斜視図である。
【
図6】
図6(a)は、
図5のC-C線における縦断面図である。
図6(b)は、
図5のD-D線における縦断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態3に係るガイドレール油回収装置の周辺の斜視図である。
【
図8】
図8(a)は、
図7のE-E線における縦断面図である。
図8(b)は、
図7のF-F線における縦断面図である。
【
図9】
図9は、他実施形態に係るガイドレール油回収装置の周辺の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<エレベータの全体構成>
以下、各実施形態に係るガイドレール油回収装置について説明するが、まずはこれに先立ち、ガイドレール油回収装置を備えるエレベータの全体構成について説明する。
【0017】
図1に示すように、エレベータ1は、昇降路2と、かご3と、かご3の駆動機構4とを備える。昇降路2は、階層を有する建物内において上下方向に延びる。かご3は、駆動機構4の駆動により、昇降路2内を昇降し、駆動機構4の駆動停止により、指定された階床に停止する。
【0018】
昇降路2内には、一対のガイドレール20,20及び一対のガイドレール21,21が設けられる。一対のガイドレール20,20は、かご3の両側方において上下方向に延びるように配置される。一対のガイドレール21,21は、後述するカウンターウェイト41の両側方において上下方向に延びるように配置される。昇降路2は、底部付近にピット2Aを備える。ピット2Aの底面は、最下階の乗場25の床面よりも下に位置する。一対のガイドレール20,20及び一対のガイドレール21,21のそれぞれの下端部は、上下方向においてピット2Aの底面と所定の間隔を有するようにしてピット2Aの底面の近傍に配置される。
【0019】
かご3の上下左右の4箇所には、ガイドシュー30,…が取り付けられる。ガイドシュー30,…が一対のガイドレール20,20を摺動することにより、かご3は、一対のガイドレール20,20に案内されて昇降路2内を昇降可能となる。
【0020】
なお、かご3は、上方にガイドレール給油装置(図示しない、以下、略して「給油装置」という)を備える。給油装置には、潤滑油が貯留され、油供給路の先端(フェルト等の塗油部材)がガイドレール20の両面(後述する2つのガイド面204,204)に常時接触することにより、ガイドレール20の両面に潤滑油が常時供給されるようになっている。
【0021】
駆動機構4は、巻上機40と、カウンターウェイト41と、主ロープ42とを備える。巻上機40は、ピット2A内に配置される。カウンターウェイト41は、昇降路2の壁面とかご3との間に形成される空間に配置され、一対のガイドレール21,21に案内されて昇降路2内を昇降可能となる。主ロープ42は、一端が昇降路2内の上部に固定され、巻上機40の駆動シーブ(綱車)を含む適宜のシーブに巻き掛けられ、他端が昇降路2内の上部に固定される。巻上機40の駆動シーブが回転駆動することにより、主ロープ42が走行し、これに伴い、かご3及びカウンターウェイト41が互いに逆方向に昇降路2内を昇降する。
【0022】
図2に示すように、ガイドレール20は、平面視でT字状を有し、基部200と、突出部201とを備える。基部200は、上下方向に延びる帯板状であり、上下方向に所定の間隔を有して配置される複数のブラケット又はクリップ(図示しない)により昇降路2の壁面又は昇降路2の壁面に取り付けられるフレーム等の支持部に取り付けられる。突出部201は、上下方向に延びる帯板状であり、一側部にて基部200の中央部に接続され、基部200から直交方向に突出する。
【0023】
突出部201は、接続部202と、ガイド部203とを備える。接続部202は、基部200とガイド部203とを接続する。接続部202は、ガイド部203よりも幅狭であり、突出部201において括れ部となる。ガイド部203は、2つのガイド面204,204と、先端面205とを備える。2つのガイド面204,204は、ガイド部203の厚み方向に位置する面であり、平行又は先端側が幅狭となるテーパ状に対向する。ガイド面204は、かご3のガイドシュー30が摺接し、ガイドシュー30をガイドする面である。なお、かご3がガイドシュー30でなく、ローラを備える場合は、ガイド面204は、ローラが摺接し、ローラをガイドする面となる。先端面205は、2つのガイド面204,204の先端縁間に位置する面であり、平面又は円弧面等の曲面である。
【0024】
<実施形態1>
以下、実施形態1に係るガイドレール油回収装置(以下、略して「油回収装置」という)について説明する。
【0025】
図2及び
図3に示すように、エレベータ1は、油回収装置5を備える。油回収装置5は、ガイドレール20における余分な油、すなわち、給油装置によりガイドレール20に供給され、ガイド面204を伝って垂下してガイドレール20の下端に到達し、ガイド面204の下端から滴下する油を回収する装置である。なお、カウンターウェイト41用のガイドレール21にも油回収装置が設けられるが、ガイドレール21もガイドレール20と同じ構成であるため、装置構成及び油回収方法は同じである。そこで、ガイドレール21の油回収装置については、以下に説明するガイドレール20の油回収装置5についての記載と同様であるとして、記載を省略する。
【0026】
油回収装置5は、オイルパン50と、油吸収体55と、蓋57とを備える。
【0027】
オイルパン50は、矩形状ないし長方形状を有し、底面部と、側面部と、上部開放部とを備える箱形状である。底面部は、平面視にて矩形状ないし長方形状を有する。側面部は、底面部の4辺の周縁から立ち上がり、周壁部を構成する。側面部の上縁は、同一高さに形成され、周縁をなす。上部開放部は、オイルパン50の内部空間のうち、上部の開放された空間部のことをいう。
【0028】
オイルパン50は、油貯留部51と、油受け部52とを備える。
【0029】
油貯留部51は、矩形状ないし長方形状を有し、底面部51aと、側面部51b~51eと、上部開放部51fとを備える箱形状である。底面部51aは、平面視にて矩形状ないし長方形状を有する。側面部51b~51eは、底面部51aの4辺の周縁から立ち上がり、周壁部を構成する。第1方向xにおける1つの側面部51b(油受け部52と反対側の側面部51b)、第1方向xと直交する第2方向yにおける2つの側面部51c,51dの各上縁は、同一高さに形成され、周縁をなす。第1方向xにおけるもう1つの側面部51e(油受け部52側の側面部51e)の上縁は、他の側面部51b~51dの上縁よりも低い位置にある。上部開放部51fは、油貯留部51の内部空間のうち、上部の開放された空間部のことをいう。
【0030】
油受け部52は、矩形状ないし長方形状を有し、底面部52aと、側面部52b~52dと、上部開放部52fとを備える箱形状である。底面部52aは、平面視にて矩形状ないし長方形状を有する。底面部52aは、油貯留部51の第1方向xにおけるもう1つの側面部51e(油受け部52側の側面部51e)の上縁から第1方向xに張り出し、ガイドレール20のガイド面204の下端から滴下する油を受けて油貯留部51へと誘導する張り出し部として機能する。底面部52aは、油貯留部51に向かって緩やかに下り傾斜し、上面(張り出し面)が緩やかな傾斜面となるように設けられる。
【0031】
側面部52b~52dは、底面部52aの油貯留部51側を除く3辺の周縁から立ち上がり、周壁部を構成する。第1方向xにおける1つの側面部52b(油貯留部51と反対側の側面部52b)、第2方向yにおける2つの側面部52c,52dの各上縁は、同一高さに形成され、周縁をなす。第2方向yにおける1つの側面部52cは、油貯留部51の第2方向yにおける1つの側面部51cと一体的に設けられ、オイルパン50の第2方向yにおける1つの側面部を構成する。第2方向yにおけるもう1つの側面部52dは、油貯留部51の第2方向yにおけるもう1つの側面部51dと一体的に設けられ、オイルパン50の第2方向yにおけるもう1つの側面部を構成する。上部開放部52fは、油受け部52の内部空間のうち、上部の開放された空間部のことをいう。
【0032】
このように、オイルパン50は、1辺を含む一部の領域において底面部が上方に変位しかつ中心に向かって緩やかに下り傾斜する形態である。
【0033】
オイルパン50の第2方向yにおける2つの側面部(たとえば、油受け部52の第2方向yにおける2つの側面部52c,52dのうち、油貯留部51寄りの箇所)の各上縁部には、クリップ等の挟着具53が着脱自在に取り付けられる。これにより、オイルパン50の第2方向yにおける2つの側面部は、第2方向yにおいて対向する2箇所に、内向きに突出する係止部を備える。
【0034】
油吸収体55は、油貯留部51内に収容配置され、敷設される。油吸収体55は、紙、布、不織布、メッシュシート、穴あきシート等のシート材で構成される袋内に、スポンジ、油吸収シート、布、不織布、糸のかたまり等、毛細管現象を生じさせて油を吸収する油吸収材や、合成ポリマ等、分子内部に油を吸収する自己膨潤型油吸収剤を収納した形態である。ただし、油吸収体55は、十分な油吸収容量を有し、かつ、油貯留部51内に簡単に配置することができ、油貯留部51から簡単に取り出すことができるものであれば、どのような形態のものであってもよい。
【0035】
蓋57は、油貯留部51内への油の移動経路を確保しつつ油貯留部51の上部開放部51fを閉塞して異物が油貯留部51内に入り込むのを規制するためのものである。異物とは、主として、吸いかけのタバコやまだ火種が残っているタバコの吸殻など、油吸収体55に引火して火災が発生する原因となり得る火種を有するものをいう。
【0036】
蓋57は、ある程度の柔軟性を有する硬質なシート材58であり、矩形状ないし長方形状を有する。蓋57は、透明で難燃性の材質で構成されるのが好ましい。蓋57は、たとえば、アクリル、スチロール、PET等の合成樹脂製で、厚みが0.2mm以上又は0.5mm以上のシート材である。
【0037】
蓋57は、第1方向xにおいて、先端縁58aが油受け部52の底面部52a上に位置し、反対側の端部が油貯留部51の第1方向xにおける1つの側面部51b(油受け部52と反対側の側面部51b)の上縁に乗って支持されるような長さを有する。
【0038】
蓋57は、第2方向yにおいて、オイルパン50の第2方向yにおける2つの側面部の間隔よりも大きい(+5mm~+10mm程度)長さを有する。蓋57の先端縁58a側の端部の両側部は、挟着具53の下部に係止される。これにより、
図3(b)に示すように、蓋57の先端縁58a側の端部は、中央部に向かうほど油受け部52の底面部52aに接近するように湾曲する。しかし、蓋57の先端縁58a側の端部(のたとえば中央部)には、クリップ等の挟着具59が着脱自在に取り付けられる。これにより、蓋57の先端縁58a側の端部(のたとえば中央部)は、下面側にスペーサ部を備える。このため、蓋57の先端縁58aと油受け部52の底面部52a(の上面(張り出し面))との間には、中央部に向かうほど狭くなる隙間が形成される。
【0039】
なお、市販されているタバコの直径は7~8mmである。また、スリムサイズであれば、直径は5~6mmである。そこで、蓋57の先端縁58aと油受け部52の底面部52aとの間に形成される隙間は、7mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく7mmよりも小さい値に設定される。また、スリムサイズを考慮すれば、隙間は、5mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく5mmよりも小さい値に設定される。
【0040】
実施形態1に係る油回収装置5の構成は、以上のとおりである。油回収装置5において、油吸収体55は、油貯留部51内に常置され、時間が経って油を十分に吸収した油吸収体55は、エレベータの定期保守点検時等のタイミングで新しい油吸収体55に交換される。このときは、
図4(a)に示すように、蓋57を挟着具53の下部に係止させつつ第1方向xの油受け部52側にスライドさせ、それまで閉塞されていた油貯留部51の上部開放部51fを一部又は全部開放し、油吸収体55を交換する。あるいは、
図4(b)に示すように、蓋57をオイルパン50から取り外し、油貯留部51の上部開放部51fを全部開放し、油吸収体55を交換する。
【0041】
以上のとおり、実施形態1に係る油回収装置5によれば、油回収作業は、油吸収体55を交換するだけであり、作業時間は、従来の、オイルパン内に貯留された潤滑油をすくい、集油缶に移し替える方法や、油吸収体をオイルパン内に貯留された潤滑油に浸し、潤滑油を油吸収体に吸収させる方法に比べ、短くて済む。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、定期保守点検時等にエレベータを停止させる時間を短くすることができる。
【0042】
また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57が設けられ、蓋57は、先端縁58aと油受け部52の底面部52aとの間に隙間を形成することにより、油貯留部51内への油の移動経路を確保しつつ、油貯留部51の上部開放部51fを閉塞して、異物が油貯留部51内に入り込むのを規制する。これにより、吸いかけのタバコやまだ火種が残っているタバコの吸殻といった火種を有する異物が油貯留部51内に入り込み、油吸収体55に接触するようなことはない。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、油貯留部51内に油吸収体55を常置しておいても火災が発生する危険性がない。また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57という簡易かつ安価な構成で、安全を担保することができる。
【0043】
また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57は、挟着具53で構成される係止部の下部に係止されつつ第1方向xにスライド可能である。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、簡単かつ迅速に油貯留部51の上部開放部51fを開閉することができる。
【0044】
また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57は、第2方向yにおいて、オイルパン50の第2方向yにおける2つの側面部の間隔よりも大きい長さを有することにより、蓋57の両側部が挟着具53の下部に係止された状態で、中央部に向かうほど油受け部52の底面部52aに接近するように湾曲するとともに、油受け部52の底面部52aとの間の箇所に、挟着具59で構成されるスペーサ部を備える。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57の先端縁58aと油受け部52の底面部52aとの間に形成される隙間が予期せずに拡がるようなことはなく、隙間の大きさを好適な状態に維持することができる。
【0045】
また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57は、難燃性の材料で構成される。これにより、吸いかけのタバコやまだ火種が残っているタバコの吸殻といった火種を有する異物が蓋57に接触したとしても、蓋57が燃え、ひいては、この火種が油吸収体55に引火するようなことはない。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、この点においても、火災が発生する危険性がない。
【0046】
また、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57は透明である。このため、実施形態1に係る油回収装置5によれば、蓋57をずらしたり、外して油貯留部51の上部開放部51fを開放せずとも、油吸収体55の交換の要否を確認することができる。
【0047】
<実施形態2>
次に、実施形態2に係る油回収装置について説明する。なお、以下においては、主として実施形態1と異なる点について記載し、同じ点については、実施形態1についての記載と同様であるとして、記載を省略する。
【0048】
図5及び
図6に示すように、蓋57は、ある程度の柔軟性を有する硬質なシート材58であり、天面部58bと、垂下部58cとを備える。天面部58bは、矩形状ないし長方形状を有する。天面部58bは、第1方向xにおいて、先端縁58aが油受け部52の底面部52a上に位置し、反対側の端部が油貯留部51の第1方向xにおける1つの側面部51b(油受け部52と反対側の側面部51b)の上縁に乗って支持されるような長さを有する。天面部58bは、第2方向yにおいて、両側部が油貯留部51(及び油受け部52)の第2方向yにおける2つの側面部51c,51d(及び2つの側面部52c,52d)の上縁に乗って支持されるような長さを有する。すなわち、天面部58bは、油受け部52側を除く3辺の周縁部がオイルパン50の側面部の上縁に乗って載置される。
【0049】
垂下部58cは、天面部58bの油受け部52側の1辺の周縁から垂下する。垂下部58cの下縁が蓋57の先端縁58aとなる。先端縁58aは、油受け部52の底面部52aと平行である。蓋57の先端縁58aと油受け部52の底面部52aとの間に形成される隙間は、7mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく7mmよりも小さい値に設定される。また、スリムサイズを考慮すれば、隙間は、5mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく5mmよりも小さい値に設定される。
【0050】
なお、蓋57は、天面部58bの油受け部52側を除く3辺の周縁にも適宜の垂下部を備える。蓋57がオイルパン50の上部開放部からずれないようにするためである。
【0051】
このように、実施形態2に係る油回収装置5も、実施形態1に係る油回収装置5が奏する作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0052】
<実施形態3>
次に、実施形態3に係る油回収装置について説明する。なお、以下においては、主として実施形態1,2と異なる点について記載し、同じ点については、実施形態1,2についての記載と同様であるとして、記載を省略する。
【0053】
図7及び
図8に示すように、蓋57は、ある程度の柔軟性を有する硬質なシート材58であり、天面部58bと、開口58dとを備える。天面部58bは、矩形状ないし長方形状を有する。天面部58bは、第1方向xにおいて、両端部がオイルパン50の第1方向xにおける2つの側面部の上縁に乗って支持されるような長さを有する。天面部58bは、第2方向yにおいて、両側部がオイルパン50の第2方向yにおける2つの側面部の上縁に乗って支持されるような長さを有する。すなわち、天面部58bは、4辺の周縁部がオイルパン50の側面部の上縁に乗って載置される。
【0054】
なお、蓋57は、天面部58bの4辺の周縁に適宜の垂下部を備える。蓋57がオイルパン50の上部開放部からずれないようにするためである。
【0055】
開口58dは、ガイドレール20の断面形状に対応する形状を有し、ガイドレール20の下端から滴下する油の通過口となる。油は、主としてガイドレール20のガイド面204の下端から滴下するので、開口58dは、ガイドレール20のガイド部203の断面形状に対応する形状を有するようにしてもよい。いずれにしても、ガイドレール20に対してオイルパン50の設置位置がずれることで、ガイドレール20に対して開口58dの位置が若干ずれても問題ないよう、開口58dは、ある程度大きめに形成される。
【0056】
しかし、開口58dが大きすぎると、ガイドレール20の下端との隙間が大きくなり、異物が開口58dを介して油受け部52内に落ち、そこから油貯留部51内に入り込み、油吸収体55に接触するおそれがある。そこで、隙間は、7mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく7mmよりも小さい値に設定される。また、スリムサイズを考慮すれば、隙間は、5mm以上の大きさの異物を通さないよう、0mmよりも大きく5mmよりも小さい値に設定される。
【0057】
このように、実施形態3に係る油回収装置5も、実施形態1,2に係る油回収装置5が奏する作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
上記実施形態1~3においては、オイルパン50は、油貯留部51に加え、油受け部52を備える。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。
図9に示すように、オイルパン50は、全体が油貯留部51となるものであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態1~3においては、ガイドレール20の直下に油受け部52の所定領域が位置するように、オイルパン50がピット2Aの床面に載置され、
図9の例においては、ガイドレール20の直下に油貯留部51の所定領域が位置するように、オイルパン50がピット2Aの床面に載置される。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、ガイドレール20(のガイド面204)の下端から延伸するガイド部材を設け、油をガイドレール20(のガイド面204)の下端からガイド部材を伝わせ、ガイド部材の先端から滴下させる形態の場合、ガイド部材の先端の直下に油受け部52の所定領域又は油貯留部51の所定領域が位置するように、オイルパン50がピット2Aの床面に載置される。
【0061】
また、上記実施形態1においては、係止部は、オイルパン50の側面部の上縁部に着脱自在に取り付けられる挟着具53により構成される。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。係止部は、側面部と一体に形成され、側面部の内面から突出する形態であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態1においては、係止部は、油受け部52の第2方向yにおける2つの側面部52c,52dのうち、油貯留部51寄りの箇所に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。係止部は、蓋57がオイルパン50の上部開放部から外れないという機能を奏する限り、たとえば、油受け部52の第2方向yにおける2つの側面部52c,52dのうち、油貯留部51寄りでない箇所に設けられる、又は、油貯留部51の第2方向yにおける2つの側面部51c,51dのうち、油受け部52寄りの箇所に設けられる等、オイルパン50の側面部に設ける箇所は特に限定されない。
【0063】
また、上記実施形態1においては、スペーサ部は、蓋57の先端縁58a側の端部に着脱自在に取り付けられる挟着具59により構成される。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。スペーサ部は、蓋57のシート材58と一体に形成され、シート材58の下面から突出する形態であってもよい。あるいは、スペーサ部は、油受け部52の底面部52aと一体に形成され、底面部52aの上面から突出する形態であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態1~3においては、蓋57は全体が透明である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。蓋57の少なくとも油貯留部51に対応する箇所が光透過性を有するものであればよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、油は潤滑油である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。油は潤滑油以外の油であってもよい。
【0066】
また、物理的に干渉するものでない限り、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に適用すること、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に係る技術要素と置換すること、以上に記載した技術要素同士を組み合わせること等は、当然に可能であり、これは、本発明が当然に意図するところである。
【符号の説明】
【0067】
1…エレベータ、2…昇降路、2A…ピット、20…ガイドレール、200…基部、201…突出部、202…接続部、203…ガイド部、204…ガイド面、205…先端面、21…ガイドレール、25…乗場、3…かご、30…ガイドシュー、4…駆動機構、40…巻上機、41…カウンターウェイト、42…主ロープ、5…ガイドレール油回収装置、50…オイルパン、51…油貯留部、51a…底面部、51b~51e…側面部、51f…上部開放部、52…油受け部、52a…底面部(張り出し部)、52b~52d…側面部、52f…上部開放部、53…挟着具、55…油吸収体、57…蓋、58…シート材、58a…先端縁、58b…天面部、58c…垂下部、58d…開口、59…挟着具
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールからの油を回収する油回収装置であって、
底面部と側面部とを備える箱形状の油貯留部と、第1方向における油貯留部の側面部であって油貯留部の底面部よりも上方の位置から第1方向に張り出し、ガイドレールからの油を受けて油貯留部へと誘導する張り出し部とを備えるオイルパンと、
油貯留部内に収容配置される油吸収体と、
油貯留部の上部開放部を閉塞するとともに、第1方向における先端縁が張り出し部の上面との間に隙間を形成して張り出し部の上面上に位置することにより、張り出し部から油貯留部内への油の移動経路を確保しつつ火種を有する異物が油貯留部内に入り込むのを規制する蓋とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項2】
オイルパンは、底面部と側面部とを備える箱形状であり、
側面部は、第1方向と交差する第2方向において対向する2箇所に、内向きに突出する係止部を備え、
蓋は、係止部の下部に係止されつつ第1方向にスライド可能である
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項3】
蓋は、柔軟性を有する硬質なシート材であり、第2方向においてオイルパンの2つの側面部の間隔よりも大きい長さを有し、
蓋又は張り出し部は、蓋及び張り出し部間の箇所にスペーサ部を備え、
前記隙間は、蓋の中央部に向かうほど狭くなる隙間となる
請求項2に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項4】
蓋は、天面部と、第1方向における天面部の辺から垂下する垂下部とを備え、
前記隙間は、垂下部の下縁と張り出し部の上面との間に形成される
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項5】
蓋は、少なくとも一部に光透過部を有する
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のガイドレール油回収装置を備える
エレベータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置は、
ガイドレールからの油を回収する油回収装置であって、
底面部と側面部とを備える箱形状の油貯留部と、第1方向における油貯留部の側面部であって油貯留部の底面部よりも上方の位置から第1方向に張り出し、ガイドレールからの油を受けて油貯留部へと誘導する張り出し部とを備えるオイルパンと、
油貯留部内に収容配置される油吸収体と、
油貯留部の上部開放部を閉塞するとともに、第1方向における先端縁が張り出し部の上面との間に隙間を形成して張り出し部の上面上に位置することにより、張り出し部から油貯留部内への油の移動経路を確保しつつ火種を有する異物が油貯留部内に入り込むのを規制する蓋とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の他態様として、
蓋は、柔軟性を有する硬質なシート材であり、第2方向においてオイルパンの2つの側面部の間隔よりも大きい長さを有し、
蓋又は張り出し部は、蓋及び張り出し部間の箇所にスペーサ部を備え、
前記隙間は、蓋の中央部に向かうほど狭くなる隙間となる
との構成を採用することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の別の態様として、
蓋は、天面部と、第1方向における天面部の辺から垂下する垂下部とを備え、
前記隙間は、垂下部の下縁と張り出し部の上面との間に形成される
との構成を採用することができる。