(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170199
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】樹脂成型用離型剤及びそれを用いた成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/64 20060101AFI20241129BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B29C33/64
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087227
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛啓
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA36
4F202AR15
4F202AR20
4F202CA30
4F202CB01
4F202CM46
4F202CM64
4F202CM68
4F206AA36
4F206AR15
4F206JA07
4F206JF06
4F206JM06
4F206JN41
4F206JQ81
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】付着性を向上し、離型性に優れる樹脂成型用離型剤等を提供する。
【解決手段】樹脂成型用離型剤は、シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、前記非イオン性界面活性剤の含有量が、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値との差が2mN/m以下となる含有量である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、
前記非イオン性界面活性剤の含有量が、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値との差が2mN/m以下となる含有量である
樹脂成型用離型剤。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.45重量%以上10重量%以下である
請求項1に記載の樹脂成型用離型剤。
【請求項3】
表面張力値が26.6mN/m以下である
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成型用離型剤。
【請求項4】
前記シリコーンの含有量が0.70重量%以上15重量%以下である
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成型用離型剤。
【請求項5】
前記シリコーンがアミノ変性シリコーン又はジメチルシリコーンである
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成型用離型剤。
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテルである
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成型用離型剤。
【請求項7】
シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、
前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.48重量%以上10重量%以下であり、
表面張力値が25.2mN/m以下である
樹脂成型用離型剤。
【請求項8】
請求項1又は請求項7に記載の樹脂成型用離型剤を金型に塗布する工程と、
前記金型に成形体原料を設置する工程と、
前記成形体原料が硬化した硬化体を前記金型から脱型する工程とを含む
成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成型用離型剤及びそれを用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムや樹脂などの成形時に、成型用金型からの成形体の離型を容易にするために離型剤を金型に塗布することが一般的に行われている。このような離型剤として、シリコーン系の離型剤が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば200℃以上のような高温に加温された金型に離型剤を塗布した場合、金型と離型剤との間に水蒸気の層が形成され、離型剤の有効成分が金型に付着しにくくなり、離型剤の性能を十分に発揮することができないという問題がある。
【0005】
本開示の主な目的は、付着性を向上し、離型性に優れる樹脂成型用離型剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本開示の態様は次の通りである。
[1] シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、
前記非イオン性界面活性剤の含有量が、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値との差が2mN/m以下となる含有量である
樹脂成型用離型剤。
[2] 前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.45重量%以上10重量%以下である、上記[1]に記載の樹脂成型用離型剤。
[3] 表面張力値が26.6mN/m以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂成型用離型剤。
[4] 前記シリコーンの含有量が0.70重量%以上15重量%以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂成型用離型剤。
[5] 前記シリコーンがアミノ変性シリコーン又はジメチルシリコーンである、[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂成型用離型剤。
[6] 前記非イオン性界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテルである、上記[1]から[5]のいずれかに記載の樹脂成型用離型剤。
[7] シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、
前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.48重量%以上10重量%以下であり、
表面張力値が25.2mN/m以下である
樹脂成型用離型剤。
[8] [1]から[7]のいずれかに記載の樹脂成型用離型剤を金型に塗布する工程と、
前記金型に成形体原料を設置する工程と、
前記成形体原料が硬化した硬化体を前記金型から脱型する工程とを含む
成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、金型への付着性を向上し、離型性に優れる樹脂成型用離型剤等を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下に挙げる要素は、任意に組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
また、本明細書において、数値範囲に関して例示される上限値及び下限値は任意に組み合わせて新しい数値範囲にすることができる。
【0009】
本開示の樹脂成型用離型剤は、シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであって、前記非イオン性界面活性剤の含有量が、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値との差が2.0mN/m以下となる含有量であることを特徴とする。
【0010】
本明細書における表面張力は、25℃環境下で表面張力計を用いて、Wilhelmy法(プレート法)により測定することができる。
【0011】
本開示の樹脂成型用離型剤が付着性及び離型性に優れるメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。
シリコーン系離型剤には、オイル型、エマルション型、溶剤型などの形態があるが、特にエマルション型は、水で希釈して使用可能であり、作業性や経済性に優れることから、多用されている。一般に、エマルション型のシリコーン系離型剤としては、非水溶性の離型成分であるシリコーンを、乳化剤を用いて水中に分散させたシリコーンエマルションが使用されている。200℃程度に加温した金型に離型剤を塗布した場合、金型上で離型剤のエマルション液滴(エマルションである離型剤溶液の液滴)中の水が爆発的に蒸発することにより離型剤と金型との間に水蒸気の層が形成され、エマルション液滴が金型表面に接触せずに横滑りする、いわゆるライデンフロスト現象が生じやすい。その結果、特に金型の立ち面や斜面に対し離型成分が十分に付着せず、離型剤の性能が十分に発現しなくなる。
【0012】
エマルション型のシリコーン系離型剤である樹脂成型用離型剤溶液において、上述のライデンフロスト現象を抑制するには、エマルション液滴表面(気液界面)に界面活性剤分子を吸着させ、液滴表面に存在する水分を減少させることが有効であると考えられる。液滴表面に存在する界面活性剤を飽和させ、液滴表面に界面活性剤の層を形成することで、液滴表面における水分の蒸発を抑制することができると推察される。これにより、ライデンフロスト現象が抑制され、樹脂成型用離型剤の金型表面への接触を可能とし、付着性及び離型性の向上を図ることができる。
【0013】
エマルション系の場合、界面活性剤分子は、系全体のエネルギーを減少させるように吸着する。界面活性剤分子は、エマルション液滴表面のエネルギーよりも被乳化物と分散媒との界面(液液界面)のエネルギーを減少させるよう、先に液液界面に吸着した後、液滴表面に吸着する。界面活性剤分子は、液滴表面に吸着し、樹脂成型用離型剤溶液の表面張力を低下させる。液滴表面への界面活性剤の吸着が不足している場合、樹脂成型用離型剤溶液に界面活性剤を添加することで、表面張力値は低下する。液滴表面に界面活性剤が飽和している場合、樹脂成型用離型剤溶液に界面活性剤を添加しても、表面張力値は殆ど変化しない。すなわち、液滴表面に非イオン性界面活性剤を飽和させ得る非イオン性界面活性剤の濃度(以下、飽和濃度とも称する)を超えると、樹脂成型用離型剤溶液の表面張力値は、非イオン性界面活性剤濃度に依存せず実質的に一定であると推察される。
【0014】
本開示の樹脂成型用離型剤においては、非イオン性界面活性剤を、樹脂成型用離型剤溶液の表面張力値の変化量が所定値以下となる含有量で含有する。具体的には、非イオン性界面活性剤の含有量は、同一配合系で最小の表面張力値となる非イオン性界面活性剤の含有量での樹脂成型用離型剤の表面張力値を基準とし、前記基準となる表面張力値との差が2.0mN/m以下となる表面張力値となる含有量である。上記非イオン性界面活性剤の含有量の要件は、飽和濃度以上であることに相当する。非イオン性界面活性剤の含有量が上記要件を満たすことで、エマルション液滴表面に十分に非イオン性界面活性剤を存在させることができ、付着性及び離型性を向上することができる。
【0015】
[樹脂成型用離型剤]
実施形態の樹脂成型用離型剤は、シリコーンを含有する。シリコーンは、離型成分として機能することができる。シリコーンとは、ポリシロキサン骨格を有する化合物である。シリコーンは、シリコーンオイル又はシリコーンレジンであってもよい。
【0016】
シリコーンとしては、例えばジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。変性シリコーンとしては、例えばアミノ変性、エポキシ変性、アルキル変性、カルボキシル変性、ポリエーテル変性等が挙げられる。シリコーンは、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合せて用いてもよい。シリコーンとしては、離型性の観点から、アミノ変性シリコーン、ジメチルシリコーン、又はその組み合わせが好ましく、アミノ変性シリコーン及びジメチルシリコーンの組み合わせがより好ましい。
【0017】
シリコーンの含有量は、樹脂成型用離型剤中、離型性の観点から、好ましくは0.70重量%以上15重量%以下、より好ましくは0.80重量%以上12重量%以下、さらに好ましくは1.4重量%以上10重量%以下、よりさらに好ましくは1.6重量%以上10重量%以下、よりさらに好ましくは5.0重量%以上9.5重量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0018】
シリコーンは公知の合成方法によって得ることができ、また、市販のものを用いることもできる。シリコーンの市販品としては、シリコーンに乳化剤を添加して水中に分散してなるシリコーンエマルションを用いてもよい。シリコーンエマルションの市販品としては、「PolonMF-14」、「PolonMF-14E」、「PolonMF-32」、「PolonMF-33」、「PolonMF-55」、「KM-752T」、「KM-2002-L-1」、「KM-780」、「KM-785」、「KM-787」、「KM-860A」、「KM-9717」、「KM-9729」、「KM-9737A」、「KM-9738」(以上、信越化学工業株式会社製)、「R 2701」、「R 2703」(以上、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)、「DOWSILTM BY 22-840 SR Emulsion」、「DOWSILTM DK Q2-103-22 Emulsion」、「DOWSILTM IE-7170 Emulsion」、「DOWSILTM SM 7001 EX Emulsion」、「DOWSILTM SM 7060 EX Emulsion」、「DOWSILTM SM 8701 EX Emulsion」、「DOWSILTM SM 8709 SR Emulsion」(以上、ダウ・東レ株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、非イオン性界面活性剤を含有する。非イオン性界面活性剤としては、例えばエーテル類、エステル類、アミド類等が挙げられる。中でも、エーテル類が好ましい。エーテル類としては、例えばアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられ、中でも、付着性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。エステル類としては、例えば脂肪酸グリセリンエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。アミド類としては、例えば脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0020】
非イオン性界面活性剤の市販品としては、「ノイゲンSD-80」、「ノイゲンSD-60」、「ノイゲンSD-70」、「ノイゲンSD-110」、「ノイゲンXL-40」、「ノイゲンXL-41」、「ノイゲンXL-61」、「ノイゲンXL-70」、「ノイゲンXL-100」、「ノイゲンXL-140」、「ノイゲンET-89」、「ノイゲンEA-109」、「ノイゲンEA-150」、「ノイゲンTD-120D」(以上、第一工業製薬株式会社製)、「ファインサーフTD-75」、「ファインサーフTDE-1033」、「ファインサーフ270」、「ファインサーフNDB-800」、「ファインサーフ250」、「ファインサーフ270」、「ファインサーフ290」(以上、青木油脂工業株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
非イオン性界面活性剤の含有量は、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値を基準として、前記基準となる表面張力値との差が2.0mN/m以下となる表面張力値となる含有量である。非イオン性界面活性剤の含有量が上記範囲内において、樹脂成型用離型剤溶液の液滴表面に非イオン性界面活性剤を飽和させ、ライデンフロスト現象を良好に抑制することができる。「同一配合系」とは、同一の配合成分を同一又は異なる配合量で配合してなる樹脂成型用離型剤系を意味する。「同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値」とは、同一配合系における複数の樹脂成型用離型剤のうち、最も低い表面張力値を示す組成の樹脂成型用離型剤の表面張力値を意味する。
【0022】
非イオン性界面活性剤の含有量は、樹脂成型用離型剤中、好ましくは0.45重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.48重量%以上9.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上9.0重量%以下、よりさらに好ましくは2.1重量%以上8.5重量%以下、よりさらに好ましくは3.5重量%以上8.0重量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。非イオン性界面活性剤の含有量が上記範囲内において、ライデンフロスト現象を良好に抑制し付着性を良化させ、使用に見合う効果を得られる。
【0023】
なお、同一配合系で最小の表面張力値及び当該最小の表面張力値となる含有量は、同一配合系における様々な非イオン性界面活性剤濃度での樹脂成型用離型剤溶液の表面張力を測定し、測定結果を比較することによって見出すことができる。一例として、特定濃度の非イオン性界面活性剤を含む樹脂成型用離型剤と、当該特定濃度の非イオン性界面活性剤を複数の希釈倍率で希釈した2以上の離型剤希釈液とを用意し、各濃度での表面張力を測定する。測定した各表面張力値と非イオン性界面活性剤濃度との関係性に基づいて、表面張力値がほぼ一定である領域と、表面張力値が変化する領域とを求める。求めた表面張力値がほぼ一定である領域において最小の表面張力値を同一配合系で最小の表面張力値とする。また、当該最小の表面張力値示す非イオン性界面活性剤の含有量の値を、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量とする。
【0024】
最小の表面張力値を求める場合において、希釈前の樹脂成型用離型剤における非イオン性界面活性剤の含有量は、上記非イオン性界面活性剤の含有量の範囲の上限値付近とすることが好ましい。また、希釈倍率としては、最低希釈倍率と最大希釈倍率との比が好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上である。希釈倍率としては、少なくとも上記非イオン性界面活性剤の含有量の範囲内となる希釈倍率と、上記非イオン性界面活性剤の含有量の範囲外となる希釈倍率とを含むことが好ましい。上記非イオン性界面活性剤の含有量の範囲内となる希釈倍率としては、好ましくは1.5倍以上10倍以下、より好ましくは2倍以上6倍以下、さらに好ましくは2倍以上3倍以下である。
【0025】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、水を含有する。水としては、例えば水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水、滅菌精製水等が挙げられ、また、硬水でも軟水でもよい。水は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0026】
水の含有量は、樹脂成型用離型剤中、離型性の観点から、好ましくは40重量%以上95重量%以下、より好ましくは42重量%以上93重量%以下、さらに好ましくは45重量%以上90重量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0027】
実施形態の樹脂成型用離型剤において、非イオン性界面活性剤の含有量に対するシリコーンの含有量の重量比(シリコーン/非イオン性界面活性剤)が、付着性及び離型性の観点から、好ましくは1.0以上4.0以下、より好ましくは1.3以上3.0以下である。
【0028】
実施形態の樹脂成型用離型剤において、水の含有量に対する非イオン性界面活性剤の含有量の重量比(非イオン性界面活性剤/水)が、付着性及び経済性の観点から、好ましくは0.01以上0.3以下、より好ましくは0.03以上0.1以下である。
【0029】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、上記非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤を含有してもよい。非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0030】
非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤の含有量は、樹脂成型用離型剤中、乳化安定性及び経済性の観点から、好ましくは0.01重量%以上1重量%以下、より好ましくは0.02重量%以上0.5重量%以下、さらに好ましくは0.08重量%以上0.5重量%以下、よりさらに好ましくは0.1重量%以上0.4重量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0031】
実施形態の樹脂成型用離型剤はまた、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、上記シリコーン以外の離型成分をさらに含有してもよい。他の離型成分としては、例えば油脂類、鉱物油、ワックス類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類等が挙げられる。油脂類としては、例えば牛脂、ラノリン、ラード等の動物油、ヒマシ油、大豆油、菜種油、パーム油等の植物油等が挙げられる。鉱物油としては、例えばタービン油、マシン油、シリンダー油、パラフィン油、ギヤ油等が挙げられる。ワックス類としては、例えばパラフィンワックス、オレフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリスチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の石油系ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレン等の酸化ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス等の天然ワックス等が挙げられる。脂肪酸としては、例えばカルボン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リシノール酸、リノール酸、パルミチン酸及びラウリン酸等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば上記の脂肪酸の一価又は多価アルコール(又はグリセリン)エステルが挙げられる。他の離型成分は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0032】
他の離型成分を含有する場合、上記シリコーンの含有量と他の離型成分の含有量との合計は、樹脂成型用離型剤中、離型性の観点から、好ましくは0.70重量%以上15重量%以下、より好ましくは0.80重量%以上12重量%以下、さらに好ましくは1.4重量%以上10重量%以下、よりさらに好ましくは1.6重量%以上10重量%以下、よりさらに好ましくは5.0重量%以上9.5重量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0033】
実施形態の樹脂成型用離型剤はまた、上記各成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば消泡剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。各添加剤の配合量は従来技術に従い適宜選択されればよい。
【0034】
実施形態の樹脂成型用離型剤の表面張力は、付着性の観点から、好ましくは26.6mN/m以下、より好ましくは25.2mN/m以下である。表面張力の下限は特に限定されないが、15.0mN/mが実質的な下限である。
【0035】
実施形態の樹脂成型用離型剤の表面張力は、同一配合系で最小の表面張力値を基準として、前記基準となる最小表面張力値との差が2.0mN/m以下である。樹脂成型用離型剤の表面張力と最小表面張力値との差が2.0mN/m以下において、樹脂成型用離型剤の表面に非イオン性界面活性剤を飽和させ、ライデンフロスト現象を良好に抑制することができる。従って、樹脂成型用離型剤の金型への付着性が向上される。
【0036】
実施形態の樹脂成型用離型剤の他の態様は、シリコーン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する、エマルションであり、前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.48重量%以上10重量%以下であり、表面張力値が25.2mN/m以下であることを特徴とする。上記態様において、前記シリコーンの含有量が0.70重量%以上15重量%以下であってもよい。
【0037】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、シリコーンを含む離型成分を、非イオン性界面活性剤及び/又は任意成分としての他の界面活性剤を用いて乳化し、水中に均一分散してなるエマルションである。樹脂成型用離型剤は、界面活性剤を用いて水中に分散させたシリコーンを、重合開始剤により乳化重合させて得てもよい。なお、樹脂成型用離型剤は、シリコーンを含むシリコーンエマルション組成物に対し、さらに非イオン性界面活性剤、水、及び他の離型成分等を混合することにより得てもよい。シリコーンの乳化及び乳化重合は公知の方法によって行うことができる。乳化重合に使用する重合開始剤としては、例えば通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0038】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、上記各成分を混合、攪拌することによって得られる。各成分の添加順序は特に限定されない。
【0039】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、優れた付着性及び離型性を有するため、金型表面を被覆するための樹脂成形用として好適に使用可能である。実施形態の樹脂成型用離型剤は、水性であり、そのまま成形体の製造に使用できる。
【0040】
成形体原料となる樹脂としては、例えばゴム、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等が挙げられる。ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレン、ブタジエン、スチレンブタジエン等の合成ゴム等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。成形体原料は、上記の熱可塑性樹脂と繊維との混合材であってもよく、上記の熱硬化性樹脂と繊維との混合材であってもよい。繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。樹脂原料は、液状であってもよく固体状であってもよい。
【0041】
実施形態の樹脂成型用離型剤は、スプレー塗布又ははけ塗り等によって金型に塗布してもよい。樹脂成型用離型剤の金型への塗布量は、離型性及び表面美観の観点から、固形分換算で好ましくは0.1g/m2以上50g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以上40g/m2以下である。
【0042】
実施形態の樹脂成型用離型剤を塗布する際の金型温度は、特に限定的ではないが、例えば130℃以上280℃以下、好ましくは150℃以上270℃以下である。実施形態の樹脂成型用離型剤は、ライデンフロスト現象の抑制効果に優れるため、上述のような高温の金型に塗布された場合であっても、金型表面に良好に付着する。金型の立ち面や斜面に塗布した場合にも優れた付着性を発揮することができる。
【0043】
[成形体の製造方法]
実施形態に係る成形体の製造方法は、
上記樹脂成型用離型剤を金型に塗布する工程と、
前記金型に成形体原料を設置する工程と、
前記成形体原料が硬化した硬化体を前記金型から脱型する工程とを含む。
【0044】
樹脂成型用離型剤を金型に塗布する方法は、上述したスプレー塗布又ははけ塗り等の態様を適宜適用することができる。これにより、金型表面に、樹脂成型用離型剤を含む離型剤膜が形成される。
【0045】
成形体原料を設置する方法は、限定されるものではないが、例えば固体状樹脂原料の金型内への設置や、液状原料の注入による金型内への充填などのように、成形体原料の性状や種類等に応じて公知の方法により行うことができる。
【0046】
金型から脱型する工程では、金型内に設置された成形体原料を硬化させ、得られた硬化体を脱型する。成形体原料を硬化させる方法としては、熱硬化を用いる。具体的には、互いに対向する金型内で成形体原料を加熱することより硬化させる。成形体原料を硬化させる際の金型温度は、硬化させる成形体原料等に応じて適宜設定することができるが、例えば130℃以上280℃以下、好ましくは150℃以上270℃以下とすることができる。成形体原料を硬化させる際の硬化時間は、得られる硬化成形体の硬化率が十分となる時間とすればよい。硬化体の脱型は、公知の方法により行うことができる。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。また、以下の説明や表中の「部」および「%」は特に断りがない限り重量基準である。
【0048】
[樹脂成型用離型剤の調製]
下記の表1~9に示す各成分を、同表に示す組成(重量%で示す)となるようにそれぞれ秤取し、撹拌機中で均一になるまで混合して、実施例1~33及び比較例1~28の樹脂成型用離型剤を得た。
実施例1~4及び比較例1~3は配合1に属し、実施例5~8及び比較例4~5は配合2に属し、実施例9~11及び比較例6~9は配合3に属し、実施例12~14及び比較例10~13は配合4に属し、実施例15~17及び比較例14~17は配合5に属し、実施例18~21及び比較例18~19は配合6に属し、実施例22~26及び比較例20~21は配合7に属し、実施例27~31及び比較例22~23は配合8に属し、実施例32~33及び比較例24~28は配合9に属する。配合番号が同じであるものは同一配合系である。同一配合系において、実施例の番号が最小の樹脂成型用離型剤を原液とし、原液を異なる希釈濃度で希釈することで、同一配合系における他の実施例及び比較例の樹脂成型用離型剤を調製した。
表1~9の中段に、樹脂成型用離型剤中のシリコーン、非イオン性界面活性剤、その他界面活性剤及びその他離型成分それぞれの総含有量を示す。なお、その他界面活性剤とは非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤を意味し、その他離型成分とはシリコーン以外の離型成分を意味する。また、非イオン性界面活性剤の総含有量は、(A)成分中の非イオン性界面活性剤の含有量と、(B)成分の含有量との合計である。
【0049】
表1~9に示される各成分の詳細については、以下の通りである。
<(A)成分:シリコーンエマルション>
・A-1:アミノ変性シリコーンエマルション(シリコーン分30重量%、非イオン性界面活性剤分2.25重量%)
・A-2:ストレートシリコーンエマルション(「KM-752T」信越化学工業株式会社製、シリコーン分29.5重量%、非イオン性界面活性剤分0重量%、アニオン性界面活性剤分2.5重量%)
・A-3:シリコーンレジンエマルション(「R-2701」旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、シリコーン分35重量%、非イオン性界面活性剤分2.5重量%、アニオン性界面活性剤分2.5重量%)
・A-4:アミノ変性シリコーンエマルション(「PolonMF-14E」信越化学工業株式会社製、シリコーン分15重量%、非イオン性界面活性剤分3重量%)
・A-5:アミノ変性シリコーンエマルション(シリコーン分30重量%、非イオン性界面活性剤分6重量%)
・A-6:アミノ変性シリコーンエマルション(シリコーン分30重量%、非イオン性界面活性剤分4.5重量%)
<(B)成分:非イオン性界面活性剤>
・B-1:ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(「ノイゲンSD-80」第一工業製薬株式会社製)
・B-2:ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(「ノイゲンSD-60」第一工業製薬株式会社製)
<(C)成分:その他離型成分>
・ひまし油縮合物(「KF-4500」ケイエフ・トレーディング株式会社製、ポリリシノレート、固形分100%)
【0050】
[試験方法]
実施例及び比較例で得られた各樹脂成型用離型剤について、表面張力、付着性(濡れ性)、及び離型性をそれぞれ以下に示す方法により測定・評価した。
【0051】
<表面張力>
自動表面張力計(「DY―300」協和界面科学株式会社製)を用い、25℃の雰囲気下、プレート法(Wilhelmy法)にて静的表面張力を測定した。得られた表面張力を比較することにより各配合系における最小の表面張力値を求め、各実施例及び比較例について最小の表面張力値に対する表面張力値の差分を算出した。結果を表1~9に示す。表1~9中、最小値との差が0であるものは、同一配合系で最小の表面張力値であることを意味する。
【0052】
<付着性の評価>
各樹脂成型用離型剤を、表面温度240℃のホットプレート上に設置したテストピース(SUS304、0.8mm×70mm×150mm)に対し、重力式ハンドスプレーガン(「W-101」アネスト岩田製)を用いて、テストピース表面に対して45度及び距離15cmの位置から0.15g/secで噴霧し、樹脂成型用離型剤がテストピースに付着するまでの時間を測定した。また、付着するまでの時間を以下の基準にて評価した。結果を表1~9に示す。付着時間が短い方が付着性は良好である。
◎:付着時間1.75秒未満
〇:付着時間1.75秒以上3.20秒未満
×:付着時間3.20秒以上
【0053】
<離型性の評価>
各樹脂成型用離型剤を、表面温度240℃のホットプレート上に設置したテストピース(SUS304、0.8mm×70mm×150mm)に対し、重力式ハンドスプレーガン(「W-101」アネスト岩田製)を用いて0.4g/secで2.0秒間噴霧し、その後30秒間静置することにより、均一な被膜を形成させた。そして、テストピースにフェルト(目付量1200g/m2)を載置し、押圧0.12MPaの条件で1分間荷重をかけた。その後、フェルトを上方へ持ち上げることによりテストピースから脱型し、脱型状態を目視確認することにより、以下の基準にて離型性を評価した。結果を表1~9に示す。
〇:テストピースに貼りつかずにフェルトが取れた
×:テストピースごと持ち上がった
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
表1~9から明らかなように、実施例の樹脂成型用離型剤はいずれも、付着性に優れ、かつ離型性も良好であった。比較例では、同一配合系で最小の表面張力値となる含有量での表面張力値との差が2.0mN/m以下となる含有量の非イオン性界面活性剤が配合されておらず、付着性や離型性が低下した。各配合系の実施例及び比較例より、シリコーン及び非イオン性界面活性剤の含有量が多い程、付着性及び離型性が向上したことが分かった。
【0064】
以上より、本開示の樹脂成型用離型剤は、金型への付着性を向上し、離型性に優れることが確認された。