(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170205
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】プレ空調システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20241129BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20241129BHJP
B60H 3/00 20060101ALI20241129BHJP
B60H 3/02 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B60H1/32 621Z
B60H1/00 101Z
B60H3/00 B
B60H3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087233
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中村 康平
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA01
3L211BA32
3L211DA72
3L211EA12
3L211EA13
3L211EA56
3L211FB08
3L211GA72
3L211GA99
(57)【要約】
【課題】ユーザが室内に入る前に、消費電力を抑えて、室内の温度および室内の対象部品などの温度を下げることができるプレ空調システムを提供する。
【解決手段】ECU(21)は、通信インタフェース(26)を介してプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信した場合は、環境情報取得装置(25A、25B、25C)と対象温度センサ(25D)とから入力された検出信号と対象部品の熱容量とに基づいて、プレ空調の開始から所定時間経過した際に室(10A)内の目標温度と目標相対湿度とに到達するように、プレ空調の開始時における噴射デバイス(23)の噴射量を設定する。ECU(21)は、設定した噴射量の液体を噴射デバイス(23)を介して対象部品に噴射する。また、ECU(21)は、車両エアコン(22)を介して所定空気量の外気を室内に導入して換気する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を室内の対象部品に噴射する噴射デバイスと、
前記室内に外気を導入可能な外気導入装置と、
前記室内の温度と前記室内の相対湿度と室外の温度と前記室外の相対湿度とのうちの少なくとも3つの情報を取得する環境情報取得装置と、
前記対象部品の温度を検出する対象温度センサと、
通信インタフェースと、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記通信インタフェースを介してプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信した場合は、前記環境情報取得装置と前記対象温度センサとから入力された検出信号と前記対象部品の熱容量とに基づいて、前記プレ空調の開始から所定時間が経過した際に前記室内の目標温度と目標相対湿度とに到達するように、前記プレ空調の開始時における前記噴射デバイスの噴射量を設定する噴射量設定処理と、
前記噴射量設定処理で設定した前記噴射量の前記液体を前記噴射デバイスを介して前記対象部品に噴射する噴射処理と、
前記外気導入装置を介して所定空気量の外気を前記室内に導入して換気する換気処理と、
を実行する、プレ空調システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記噴射量設定処理にて、
前記環境情報取得装置から入力された検出信号に基づいて、プレ空調の開始時における前記室内および前記室外の絶対湿度を取得する絶対湿度取得処理と、
前記プレ空調の開始から前記所定時間が経過した際に、前記室内の前記目標温度と前記目標相対湿度とに到達可能な前記プレ空調の開始時における前記室内の初期絶対湿度を取得する初期絶対湿度取得処理と、
前記初期絶対湿度取得処理で取得した前記初期絶対湿度と前記絶対湿度取得処理で取得した前記絶対湿度との差に前記室内の空気容積を乗算して前記液体の最大噴射量を算出する最大算出処理と、
前記対象部品の温度を前記プレ空調の開始時の温度から前記目標温度まで下げるために必要な冷却熱量を前記液体の気化熱で除算して前記液体の必要噴射量を算出する必要算出処理と、
を実行し、
前記最大噴射量と前記必要噴射量とに基づいて、前記プレ空調の開始時における前記噴射デバイスの噴射量を設定する、
請求項1に記載のプレ空調システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記噴射量設定処理にて、
前記必要噴射量が前記最大噴射量以下であるかを判定する噴射量判定処理を実行し、
前記必要噴射量が前記最大噴射量以下であると判定した場合は、前記必要噴射量を前記プレ空調の開始時における前記噴射デバイスの噴射量に設定し、
前記必要噴射量が前記最大噴射量よりも多いと判定した場合は、ユーザの不快が最小となるように前記最大噴射量と前記必要噴射量との間で、前記プレ空調の開始時における前記噴射デバイスの噴射量を設定する、
請求項2に記載のプレ空調システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記プレ空調の開始時における前記室内の複数の温度に対応して、前記プレ空調の開始から前記所定時間が経過するまでの前記室内の最大絶対湿度から目標絶対湿度まで変化する複数の絶対湿度変化曲線を記憶する記憶部を有し、
前記初期絶対湿度取得処理にて、
前記記憶部に記憶される複数の前記絶対湿度変化曲線と、前記プレ空調の開始時における前記室内の温度と、に基づいて前記プレ空調の開始時における前記室内の前記初期絶対湿度を取得する、
請求項2または3に記載のプレ空調システム。
【請求項5】
前記室内は、車両の車室内を含み、
前記外気導入装置は、車両エアコンを含む、
請求項1に記載のプレ空調システム。
【請求項6】
前記液体は、機能性薬剤を含む、
請求項1に記載のプレ空調システム。
【請求項7】
前記機能性薬剤は、除菌剤である、
請求項6に記載のプレ空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレ空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラグインハイブリッド車両が駐車している状態で、ユーザが車両に乗車する前に、車両外部から電子キーを操作して、プレ空調を行うプレ空調システムの構成が記載されている。プレ空調システムは、加熱用デバイスHDおよび冷却用デバイスCDと、ECUとを備えている旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のプレ空調システムでは、加熱用デバイスHDおよび冷却用デバイスCDは、消費電力が大きいため、省電力効果は限定的である。外部電力が利用できない場合は、十分なプレ空調を行えない虞がある。特に夏の冷房時には、冷却用デバイスCDの冷却能力が十分でないため、ユーザの不快感を低減するには、多くの電力が必要となる。また、シートやインパネ、ドアトリムなどの高温になる部品の温度を十分に下げることができない虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示のプレ空調システムは、液体を室内の対象部品に噴射する噴射デバイスと、前記室内に外気を導入可能な外気導入装置と、前記室内の温度と前記室内の相対湿度と室外の温度と前記室外の相対湿度とのうちの少なくとも3つの情報を取得する環境情報取得装置と、前記対象部品の温度を検出する対象温度センサと、通信インタフェースと、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記通信インタフェースを介してプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信した場合は、前記環境情報取得装置と前記対象温度センサとから入力された検出信号と前記対象部品の熱容量とに基づいて、前記プレ空調の開始から所定時間が経過した際に前記室内の目標温度と目標相対湿度とに到達するように、前記プレ空調の開始時における前記噴射デバイスの噴射量を設定する噴射量設定処理と、前記噴射量設定処理で設定した前記噴射量の前記液体を前記噴射デバイスを介して前記対象部品に噴射する噴射処理と、前記外気導入装置を介して所定空気量の外気を前記室内に導入して換気する換気処理と、を実行する。
【0006】
上記の構成によれば、制御装置は、プレ空調の開始から所定時間が経過した際に室内の目標温度と目標相対湿度とに到達するように、プレ空調の開始時における噴射デバイスの噴射量を設定する。そして、制御装置は、プレ空調の開始時に、この設定した噴射量の液体を噴射デバイスを介して対象部品に噴射する。また、制御装置は、外気導入装置を介して所定空気量の外気を室内に導入して換気する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、対象部品に噴射された液体の蒸発による気化熱によって、プレ空調の開始から所定時間経過後において、ユーザが室内に入る前に、室内の温度および室内の対象部品などの温度を下げることができる。従って、ユーザが室内に入る前に、消費電力を抑えて、室内の温度および室内の対象部品などの温度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るプレ空調システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】プレ空調システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】ECUが実行するプレ空調処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】プレ空調開始時の車室内の温度が50[℃]における、液体の噴射量毎の、車室内絶対湿度と経過時間との関係を表す絶対湿度変化曲線の一例を示す図である。
【
図5】プレ空調開始時から車両エアコンによる冷房をした場合と、液体の気化熱を利用してプレ空調をした場合とのそれぞれの積算消費電力の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
[プレ空調システムの概略構成]
本実施形態に係るプレ空調システム1について
図1~
図5に基づいて説明する。本実施形態は、バッテリに充電した電力で駆動される電気自動車に本発明を適用した場合について説明する。なお、本発明は、ハイブリッド車両およびプラグインハイブリッド車両にも好適に適用することができる。
【0011】
先ず、プレ空調システム1の概略構成について
図1および
図2に基づいて説明する。
図1は、プレ空調システム1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、プレ空調システム1の電気的構成の一例を示すブロック図である。プレ空調システム1は、車両10においてプレ空調を実行するためのシステムである。車両10は、電気自動車である。プレ空調は、車両10にユーザUが乗車する前に、車両10の車室10A内において行われる空調である。プレ空調は、例えば、夏などの外気温度が高い時に、ユーザUが、車両10に乗車する前に車室10A内の温度を低下させておくことを望む場合に実行される。
【0012】
図1に示すように、プレ空調システム1は、ECU(Electronic Control Unit)21と、車両エアコン22と、噴射デバイス23と、SVS(Seat Ventilation System)24と、センサ類25と、通信インタフェース(通信I/F)26と、を含んで構成される。ECU(Electronic Control Unit)21と、車両エアコン22と、噴射デバイス23と、SVS(Seat Ventilation System)24と、センサ類25と、通信インタフェース(通信I/F)26と、は車両10に搭載されている。
【0013】
ユーザUは、車両10が駐車している状態、つまり、ユーザUが乗車しておらず、車両10が停止している状態で、携帯している電子キーKを操作して、車両10を制御することが可能となっている。電子キーKは、車両10の通信インタフェース26を介してECU21と無線通信が可能に構成されている。電子キーKの操作には、車両10のプレ空調の開始を指示するプレ空調信号の送信を実行するための操作が含まれる。なお、電子キーKに替えて、スマートフォンなどの携帯通信端末が利用されるようになっていてもよい。
【0014】
車両エアコン22は、不図示のバッテリを駆動源として駆動される。車両エアコン22は、温風を車室内に送る暖房運転や、冷風を車室内に送る冷房運転を実行することができる。また、車両エアコン22は、車両10の外部の空気を車室10A内に送る換気運転を実行することもできる。車両エアコン22は、不図示の内外気切替装置を有している。内外気切替装置は、冷房運転時には、車内の湿度や二酸化炭素濃度などに応じて内気循環と外気導入を切り替え、換気運転時には、外気導入にする。
図2に示すように、車両エアコン22は、ECU21に電気的に接続され、ECU21により制御される。車両エアコン22は、外気導入装置の一例である。
【0015】
噴射デバイス23は、不図示のエアーコンプレッサから圧送された空気と、不図示の液体タンクから供給された液体とを混合し、ノズルから粒径が10μm程度のミストを噴射する。噴射デバイス23は、シートやインパネ、ドアトリムなどの対象部品に対してミストを噴射するように、車室10A内の天井部やインパネ、ドアトリムなどに配置されている。
図2に示すように、噴射デバイス23は、ECU21に電気的に接続され、ECU21により液体の噴射量が制御される。
【0016】
液体としては、水道水、純水、機能性薬剤として除菌剤を含む液体、例えば次亜塩素酸ナトリウムなどの除菌剤の水溶液、香料溶液などである。機能性薬剤は、除菌剤に限定されず、消臭剤でもよい。
【0017】
SVS(Seat Ventilation System)24は、運転席、助手席等のシートに内蔵された送風ファンを備えている。SVS24は、夏季等においてシートに蓄積されている熱を送風ファンの作動によって放出させると共に、車両エアコン22から吹き出される冷気や外気をシートに向けて流すための気流を発生させる。これにより、SVS24は、シートの温度を低下させる。この送風ファンはシートのシートクッション部およびシートバック部の両方に内蔵されていることが好ましいが、一方のみに内蔵されていてもよい。
図2に示すように、SVS24は、ECU21に電気的に接続され、ECU21により送風ファンの駆動が制御される。
【0018】
通信インタフェース26は、ECU21と電子キーKとの間で無線通信を行うためのインタフェースである。通信インタフェース26は、無線通信のための無線通信回路を含んで構成される。
図2に示すように、通信インタフェース26は、ECU21に電気的に接続され、電子キーKから送信された車両10のプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信して、ECU21に出力する。
【0019】
図2に示すように、センサ類25は、室内温度センサ25Aと、室内湿度センサ25Bと、外気温度センサ25Cと、対象温度センサ25Dなどを含み、それぞれがECU21に電気的に接続されている。室内温度センサ25Aは、車室10A内の温度を検出して、検出信号をECU21に出力する。室内湿度センサ25Bは、車室10A内の相対湿度を検出して、検出信号をECU21に出力する。外気温度センサ25Cは、車両10の外部の温度を検出して、検出信号をECU21に出力する。対象温度センサ25Dは、噴射デバイス23がミストを噴射するシートやインパネ、ドアトリムなどの対象部品の温度を検出して、検出信号をECU21に出力する。
【0020】
室内温度センサ25Aと、室内湿度センサ25Bと、外気温度センサ25Cと、は、環境情報取得装置の一例を構成する。なお、環境情報取得装置は、車両10の外部の湿度を検出して、検出信号をECU21に出力する外気湿度センサを含んでもよい。また、室内温度センサ25Aと、室内湿度センサ25Bと、外気温度センサ25Cと、は、1個ずつに限らず、複数個ずつ設けてもよい。ECU21は、環境情報取得装置を介して取得した各検出値の平均値や最大値などを算出するようにしてもよい。
【0021】
また、環境情報取得装置は、インターネットなどの通信ネットワークを介して、外部の装置から気象情報を取得して、車両10の外部の温度や湿度を算出して、ECU21に出力するように構成してもよい。また、室内温度センサ25Aと、室内湿度センサ25Bと、外気温度センサ25Cと、に替えて、温度と湿度を検出する温湿度センサを車室10A内用と車両10の外部用とにそれぞれ設けてもよい。
【0022】
ECU21は、CPU(Central Processing Unit)と、記憶部21Aと、内気外気切換え部21Bと、絶対湿度算出部21Cと、噴射量決定部21Dとを備えている。記憶部21Aは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成される。ECU21は、制御装置の一例である。
【0023】
記憶部21AのROMは、
図3に示すプレ空調の制御等を行う制御プログラムを記憶する。また、記憶部21AのROMは、
図4に示すプレ空調開始時に噴射デバイス23により液体を噴射した際における、車室内絶対湿度と経過時間との関係を表す絶対湿度変化曲線などを車室10Aの温度毎に記憶する。CPUは、ROMに記憶された制御プログラムに基づいて演算処理を実行する。記憶部21AのRAMは、CPUでの演算結果等を一時的に記憶するメモリである。
【0024】
内気外気切換え部21Bは、車両エアコン22の内外気切替装置を駆動して、冷房運転や換気運転を切り替える。絶対湿度算出部21Cは、車両エアコン22の換気量と、ユーザUが乗車するまでの時間とから、ユーザUが乗車したときの車室10A内の絶対湿度が目標絶対湿度以下となるプレ空調開始時における初期絶対湿度を算出して、噴射量決定部21Dに出力する。
【0025】
噴射量決定部21Dは、初期絶対湿度と現在の車室10A内の絶対湿度との差と、車室10A内の空気容積とから、噴射デバイス23がプレ空調開始時に噴射可能な液体の最大噴射量を算出する。また、噴射量決定部21Dは、ミストを噴射する対象部品の現在の温度を、ユーザUが乗車するときの車室10A内の目標温度まで下げるために必要な、噴射デバイス23がプレ空調開始時に噴射する液体の必要噴射量を算出する。そして、噴射量決定部21Dは、最大噴射量と必要噴射量とを比較して、噴射デバイス23のプレ空調開始時における液体の噴射量を決定する。
【0026】
[プレ空調処理]
次に、プレ空調システム1のECU21が実行するプレ空調処理の流れの一例について
図3および
図4に基づいて説明する。
図3は、ECU21が実行するプレ空調処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4は、プレ空調開始時の車室10A内の温度が50[℃]における、液体の噴射量毎の、車室内絶対湿度と経過時間との関係を表す絶対湿度変化曲線の一例を示す図である。なお、ECU21は、不図示のバッテリから電力を供給されて、所定時間毎(例えば、約1秒~1分の間隔)に、
図3のフローチャートで示される処理手順を繰り返し実行する。
【0027】
図3に示すように、ステップS11において、ECU21は、通信インタフェース26を介して、車両10のプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信したか否かを判定する。そして、ECU21は、通信インタフェース26を介して、車両10のプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信していないと判定した場合、つまり、プレ空調を実行しないと判定した場合は(S11:NO)、プレ空調処理を終了する。
【0028】
一方、ECU21は、通信インタフェース26を介して、車両10のプレ空調の開始を指示するプレ空調信号を受信したと判定した場合、つまり、プレ空調を実行すると判定した場合は(S11:YES)、ステップS12の処理に進む。ステップS12において、ECU21は、室内温度センサ25Aを介して、車室10A内の温度TI[℃]を検出して記憶部21Aに記憶する。また、ECU21は、室内湿度センサ25Bを介して、車室10A内の相対湿度R[%RH]を検出して記憶部21Aに記憶した後、ステップS13の処理に進む。
【0029】
ステップS13において、ECU21は、外気温度センサ25Cを介して、車室10A外(車両外部)の外気の温度TO[℃]を検出して記憶部21Aに記憶した後、ステップS14の処理に進む。ステップS14において、ECU21は、プレ空調を開始してから所定時間経過後、例えば5分経過後の車室10A内の目標温度と目標相対湿度とを記憶部21Aから読み出す。例えば、夏の目標温度と目標相対湿度として、「30[℃]、60[%RH]以下」が記憶部21Aに予め記憶されている。その後、ECU21は、ステップS15の処理に進む。
【0030】
ステップS15において、ECU21は、上記ステップS12で検出した車室10A内の温度TI[℃]と相対湿度R[%RH]を記憶部21Aから読み出す。そして、ECU21は、絶対湿度算出部21Cを介して、下記の式(1)より、車室10A内の絶対湿度B[g/m3]を算出して記憶部21Aに記憶する。
【0031】
B=217×(6.1078×10∧(7.5×TI÷(TI+237.3)))÷((TI+273.15)÷R×100) ・・・・(1)
例えば、TI=50[℃]、R=25.2[%RH]とすると、B=20.9[g/m3]となる。
【0032】
また、ECU21は、上記ステップS13で記憶した外気の温度TO[℃]を読み出す。そして、ECU21は、この絶対湿度B[g/m3]を車室10A外の外気の絶対湿度B[g/m3]として、外気の温度TO[℃]に対応付けて記憶部21Aに記憶する。
【0033】
また、ECU21は、絶対湿度算出部21Cを介して、上記ステップS14で記憶部21Aから読み出した目標温度T2[℃]と目標相対湿度R2[%RH]を上記式(1)のTIとRに置き換えて、目標絶対湿度B2[g/m3]を算出する。そして、ECU21は、この目標絶対湿度B2[g/m3]を目標温度T2[℃]に対応付けて記憶部21Aに記憶する。例えば、T2=30[℃]、R2=60[%RH]とすると、B2=23.8[g/m3]となる。
【0034】
次に、ECU21は、車両エアコン22の換気運転時における換気量A1[m3/min]と、ユーザUが乗車するまでの時間TM[分]、例えばTM=5[分]と、車室10A内の温度TI[℃]と、を記憶部21Aから読み出す。そして、ECU21は、絶対湿度算出部21Cを介して、換気量A1[m3/min]と、ユーザUが乗車するまでの時間TM[分]とから、プレ空調開始時における車室10A内の初期絶対湿度BS[g/m3]を算出する。初期絶対湿度BS[g/m3]は、ユーザUが乗車するときの車室10A内の絶対湿度B[g/m3]が目標絶対湿度B2[g/m3]以下となる絶対湿度である。その後、ECU21は、ステップS16の処理に進む。
【0035】
具体的には、ECU21は、車室10A内の温度TI[℃]における、絶対湿度変化曲線を記憶部21Aから読み出す。絶対湿度変化曲線は、車両エアコン22の換気運転時において、車室10A内のプレ空調開始時の初期絶対湿度BS[g/m3]から減少する車室10A内の絶対湿度B[g/m3]の時間変化を表す。そして、ECU21は、ユーザUが乗車するまでの時間TM[分]において、車室10A内の絶対湿度B[g/m3]が目標絶対湿度B2[g/m3]以下となる絶対湿度変化曲線から、最大の初期絶対湿度BS[g/m3]を算出して、記憶部21Aに記憶する。なお、各絶対湿度変化曲線は、車室10A内の温度TI[℃]毎に、例えば、50[℃]、60[℃]、70[℃]毎に、シミュレーションや実車による実験データから予め作成されて、記憶部21Aに記憶されている。
【0036】
例えば、
図4に示すように、車室10A内の温度50[℃]における、車室10A内のプレ空調開始時の初期絶対湿度BS[g/m
3]から減少する絶対湿度B[g/m
3]の時間変化を表す3つの絶対湿度変化曲線31、32、33が、記憶部21Aに予め記憶されている。シミュレーション条件として、各絶対湿度変化曲線31~33の初期絶対湿度BSは、50[g/m
3]、75[g/m
3]、120[g/m
3]である。車両エアコン22の換気運転時における換気量は、2[m
3/min]である。外気の絶対湿度は、20.9[g/m
3]である。車室10A内の空気容積Vは、V=3.5[m
3]である。
【0037】
そして、ECU21は、ユーザUが乗車するまでの時間TM[分]と、目標絶対湿度B2[g/m3]とを記憶部21Aから読み出し、TM=5[分]、B2=23.8[g/m3]とする。そして、ECU21は、ユーザUが乗車するまでの時間TM=5[分]において、車室10A内の絶対湿度B[g/m3]が目標絶対湿度B2=23.8[g/m3]以下となる各絶対湿度変化曲線31、32から、最大の初期絶対湿度BS=75[g/m3]を算出して、記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、ステップS16の処理に進む。
【0038】
ステップS16において、ECU21は、上記ステップS15で算出した初期絶対湿度BS[g/m3]と、車室10A内の空気容積V[m3]、上記ステップS15で算出した車室10A内の絶対湿度B[g/m3]を記憶部21Aから読み出す。そして、ECU21は、下記の式(2)より、噴射デバイス23がプレ空調開始時に噴射する液体の最大噴射量W1[g]を算出して記憶部21Aに記憶した後、ステップS17の処理に進む。
【0039】
W1=(BS-B)×V ・・・・(2)
例えば、BS=75[g/m3]、B=20.9[g/m3]、V=3.5[m3]とすると、W1=189.4[g]となる。
【0040】
ステップS17において、ECU21は、噴射デバイス23が水道水などの液体を噴射するシートやインパネ、ドアトリムなどの対象部品の温度TC[℃]を対象温度センサ25Dを介して検出して、記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、ステップS18の処理に進む。
【0041】
ステップS18において、ECU21は、噴射デバイス23が水道水などの液体を噴射する対象部品の熱容量H[J/K]を記憶部21Aから読み出した後、ステップS19の処理に進む。なお、対象部品の熱容量H[J/K]は、予め計測されて記憶部21Aに記憶されている。
【0042】
ステップS19において、ECU21は、プレ空調を開始してから所定時間経過後、例えば5[分]経過後の車室10A内の目標温度T2[℃]を記憶部21Aから読み出す。例えば、夏の目標温度として、「30[℃]」が記憶部21Aに予め記憶されている。その後、ECU21は、ステップS20の処理に進む。
【0043】
ステップS20において、ECU21は、対象部品の温度TC[℃]を目標温度T2[℃]まで下げるために必要な除去エネルギーQ[J]を算出する。具体的には、ECU21は、シートやインパネ、ドアトリムなどの対象部品の温度TC[℃]から目標温度T2[℃]を減算した温度差に、対象部品の熱容量H[J/K]を乗算して、必要な除去エネルギーQ[J]を算出して記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、ステップS21の処理に進む。
【0044】
ステップS21において、ECU21は、液体の単位量あたりの気化熱J1[J/g]と上記ステップS20で算出した除去エネルギーQ[J]とを記憶部21Aから読み出す。
【0045】
続いて、ECU21は、除去エネルギーQ[J]を、液体の気化熱J1[J/g]で除算して、対象部品の温度TC[℃]から目標温度T2[℃]まで下げるために必要な噴射デバイス23による液体の必要噴射量W2[g]を算出して、記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、ステップS22の処理に進む。なお、液体の各温度における気化熱J1[J/g]は、予め記憶部21Aに記憶されている。
【0046】
ステップS22において、ECU21は、上記ステップS16で算出した噴射デバイス23がプレ空調開始時に噴射する液体の最大噴射量W1[g]を記憶部21Aから読み出す。また、ECU21は、上記ステップS21で算出した対象部品の温度TC[℃]から目標温度T2[℃]まで下げるために必要な噴射デバイス23による液体の必要噴射量W2[g]を記憶部21Aから読み出す。続いて、ECU21は、液体の必要噴射量W2[g]が、液体の最大噴射量W1[g]以下であるか否かを判定する。
【0047】
そして、ECU21は、液体の必要噴射量W2[g]が、液体の最大噴射量W1[g]以下であると判定した場合は(S22:YES)、ステップS23の処理に進む。ステップS23において、ECU21は、噴射量決定部21Dを介して、液体の必要噴射量W2[g]をプレ空調開始時に、噴射デバイス23が対象部品に液体を噴射する噴射量として記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、後述のステップS25の処理に進む。
【0048】
一方、ECU21は、液体の必要噴射量W2[g]が、液体の最大噴射量W1[g]よりも多いと判定した場合は(S22:NO)、ステップS24の処理に進む。ステップS24において、ECU21は、噴射量決定部21Dを介して、乗車時の車室10A内の高相対湿度による不快およびガラスの曇りと、シートなどの対象部品の温度が目標温度T2[℃]まで下がりきらないことによる不快と、を考慮する。そして、ECU21は、液体の最大噴射量W1[g]から液体の必要噴射量W2[g]までの間で、プレ空調開始時に、噴射デバイス23がシートなどの対象部品に液体を噴射する噴射量を設定して、記憶部21Aに記憶する。その後、ECU21は、ステップS25の処理に進む。
【0049】
ステップS25において、ECU21は、上記ステップS23またはステップS24で、記憶部21Aに記憶した液体の噴射量を読み出す。そして、ECU21は、噴射デバイス23を介して、読み出した噴射量の液体を対象部品に噴射した後、ステップS26の処理に進む。
【0050】
ステップS26において、ECU21は、内気外気切換え部21Bを介して、車両エアコン22の換気運転モードでの駆動を開始する。また、ECU21は、SVS24を駆動して、車両エアコン22から吹き出される外気をシートに向けて流し、シートの温度を低下させる。その後、ECU21は、ステップS27の処理に進む。これにより、外気がほとんど温度を変えずに、所定換気量で車室10A内に吹き出される。また、車室10A内の空気は、外気の車室10A内への流入に伴って、車両外部へ排気され、車室10A内の温度が低下すると共に、車室10A内の絶対湿度が減少する。車両エアコン22の換気運転時における換気量は、例えば、2[m3/min]である。
【0051】
ステップS27において、ECU21は、ユーザUが乗車するまでの時間TM[分]を記憶部21Aから読み出す。例えば、TM=5[分]である。続いて、ECU21は、時間TM[分]がプレ空調開始時から経過したか否かを判定する。そして、ECU21は、時間TM[分]がプレ空調開始時から経過していないと判定した場合は(S27:NO)、再度、ステップS27の処理を実行する。
【0052】
一方、ECU21は、時間TM[分]がプレ空調開始時から経過したと判定した場合は(S27:YES)、ステップS28の処理に進む。ステップS28において、ECU21は、内気外気切換え部21Bを介して、車両エアコン22の換気運転モードでの駆動を停止する。そして、ECU21は、車両エアコン22の冷房運転モードでの駆動を開始した後、プレ空調処理を終了する。
【0053】
[積算消費電力]
ここで、プレ空調開始時から車両エアコン22の冷房運転モードでの駆動を開始した場合の積算消費電力と、
図3に示すプレ空調処理を実行した場合の積算消費電力とについて
図5に基づいて説明する。
図5は、プレ空調開始時から車両エアコン22による冷房をした場合と、液体の気化熱を利用してプレ空調をした場合とのそれぞれの積算消費電力の一例を説明する図である。
【0054】
図5の一点鎖線で示すように、プレ空調開始時から車両エアコン22を冷房運転モードで駆動した場合には、車両エアコン22は、車室10A内の温度TI[℃]が高いため、最大消費電力で駆動される。そのため、プレ空調を行った際の積算消費電力は、経過時間に比例して増加している。また、プレ空調開始から約10[分]経過しても、シートやインパネ、ドアトリムなどの対象部品の温度TC[℃]は、あまり下がっていないため、車両エアコン22は、最大消費電力で駆動される。その結果、プレ空調開始から約10[分]経過した後においても、積算消費電力は、経過時間に比例して増加している。
【0055】
一方、
図5の実線で示すように、
図3に示すプレ空調処理を実行した場合には、プレ空調開始時に、ECU21は、噴射デバイス23を介して液体を対象部品に液体を噴射する。その後、ユーザUが乗車するまでの約5分間は、車両エアコン22を換気運転モードで駆動するため、積算消費電力の増加は、車両エアコン22の冷房運転モードのときよりも小さい消費電力の増加になっている。
【0056】
そして、プレ空調開始から約5分経過した後は、車両エアコン22を冷房運転モードで駆動する。そのため、車両エアコン22は、車室10A内の温度TI[℃]が高いため、最大消費電力で駆動される。その結果、実線で示す積算消費電力は、プレ空調開始から約5分経過した後は、一点鎖線と同様に経過時間に比例して増加している。
【0057】
但し、プレ空調開始時から約10[分]経過した後は、対象部品の温度TC[℃]は、液体の気化熱によって冷却されて下がっている。そのため、
図5の実線で示すように、プレ空調開始時から約10[分]経過した後の車両エアコン22の冷房運転時の積算消費電力の増加量は、一点鎖線で示す場合の積算消費電力の増加量よりも少なくなっており、省電力化を図ることができる。
【0058】
[作用効果]
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係るプレ空調システム1では、プレ空調開始時に、シートなどの対象部品に噴射された液体が車両エアコン22による換気によって気化される。その結果、対象部品に噴射された液体の換気による気化熱によって、プレ空調の開始から所定時間経過後において、ユーザが車室10A内に入る前に、車室10A内の温度と相対湿度、および車室10A内の対象部品などの温度を下げることができる。従って、車室10A内の車両エアコン22による冷房に替えて、車両エアコン22による換気による液体の気化熱によって、車室10A内の温度および車室10A内の対象部品などの温度を下げることができ、消費電力を抑えることができる。
【0059】
また、ECU21は、液体の最大噴射量W1[g]と必要噴射量W2[g]とに基づいて、プレ空調の開始時における噴射デバイス23の噴射量を設定することができる。その結果、ECU21は、プレ空調の開始時に噴射デバイス23を介して、シートなどの対象部品に液体を噴射した後、車両エアコン22により換気するだけで、所定時間経過後に、車室10A内の目標温度と目標相対湿度とに到達させることが可能となる。
【0060】
また、ECU21は、必要噴射量W2[g]が最大噴射量W1[g]以下のときは、必要噴射量W2[g]を噴射するため、対象部品に噴射した液体を所定時間経過後に、確実に気化させることができると共に、対象部品の温度を目標温度T2[℃]まで下げることができる。
【0061】
また、ECU21は、記憶部21Aに記憶される複数の絶対湿度変化曲線と、プレ空調の開始時における室内の温度TI[℃]と、に基づいてプレ空調開始時における室内の初期絶対湿度BS[g/m3]を迅速に取得することができる。
【0062】
また、ユーザUが車両10に乗車する前に、車両エアコン22による換気によって消費電力を抑えて、車室10A内の温度と相対湿度、および車室10A内のシートなどの対象部品の温度を下げることができる。
【0063】
また、ECU21は、噴射デバイス23を介して、機能性薬剤を含む液体を車室10A内および車室10A内のシートなどの対象部品に噴射することができる。
【0064】
また、ECU21は、噴射デバイス23を介して、除菌剤を含む液体を車室10A内および車室10A内のシートなどの対象部品に噴射することができる。
【0065】
[変形例]
前記実施形態の変形例について説明する。なお、以下の説明において、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0066】
[変形例1]
例えば、上記ステップS26において、噴射デバイス23は、液体がシートなどの対象部品に到達する前に気化する粒径のミストを噴射するようにしてもよい。これにより、ECU21は、車室10A内の温度TI[℃]を液体の気化熱によって低下させ、SVS24を駆動して、空冷によりシートの温度を下げるようにしてもよい。
【0067】
[変形例2]
また、例えば、上記ステップS12において、ECU21は、室内温度センサ25Aを介して、車室10A内の温度TI[℃]だけを検出して記憶部21Aに記憶するようにしてもよい。また、車両10に、車外の相対湿度を検出する車外湿度センサをさらに設けて、上記ステップS13において、ECU21は、外気の温度と相対湿度とを測定するようにしてもよい。そして、ECU21は、上記式(1)により、外気の絶対湿度を算出して、車室10A内の絶対湿度Bとして、車室10A内の温度T1[℃]に対応付けて記憶部21Aに記憶するようにしてもよい。
【0068】
[変形例3]
また、例えば、上記ステップS15において、ECU21は、車室10A内に導入された外気の分だけ車室10A内の空気が車外に排出されると仮定してもよい。そして、ECU21は、車室10A内の温度と相対湿度と、ユーザUが乗車するときの目標温度と目標相対湿度と、外気の温度と相対湿度とから、それぞれの絶対湿度を算出するようにしてもよい。そして、ECU21は、車両エアコン22の換気量と、ユーザUが乗車するまでの時間とから、ユーザUが乗車するときの車室10A内の絶対湿度が目標絶対湿度以下となる初期絶対湿度BS[g/m3]を算出するようにしてもよい。
【0069】
[変形例4]
また、例えば、シートなどの対象部品の温度TC[℃]を日照量から推定するようにしてもよい。
【0070】
[変形例5]
また、例えば、本発明は、車室10A内に限らず、飛行機や汽車の室内や、住宅やオフィスなどの室内にも適用できる。
【0071】
〔付記事項〕
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 プレ空調システム、10 車両、10A 車室、21 ECU、21A 記憶部、22 車両エアコン、23 噴射デバイス、25A 室内温度センサ、25B 室内湿度センサ、25C 外気温度センサ、25D 対象温度センサ、26 通信インタフェース