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特開2024-17021ナトリウムイオン二次電池用負極活物質
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  • 特開-ナトリウムイオン二次電池用負極活物質 図1
  • 特開-ナトリウムイオン二次電池用負極活物質 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017021
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池用負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240201BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240201BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240201BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240201BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20240201BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
H01G11/30
H01G11/46
H01G11/62
H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119376
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史隆
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 啓
(72)【発明者】
【氏名】永金 知浩
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA02
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB07
5E078BA04
5E078BA27
5E078BA43
5E078BA47
5E078BA52
5E078BA53
5E078BA58
5E078BA71
5E078BA73
5E078BB07
5E078BB21
5E078BB22
5E078BB24
5E078BB28
5E078BB33
5E078DA04
5E078DA08
5E078FA02
5E078FA12
5H050AA07
5H050BA15
5H050CB02
5H050CB11
5H050EA12
5H050FA20
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】繰り返し充放電を行ったときに安定した電池特性を示すナトリウムイオン二次電池用負極活物質を提供する。
【解決手段】SiOを含有する非晶質相及びFe-Sn系合金を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを含有する非晶質相及びFe-Sn系合金を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
酸化物換算のモル%で、SnO 30%~90%、SiO 2%~69%、Fe 1%~20%を含有することを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記Fe-Sn系合金がFeSnであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記非晶質相からなるマトリックス中に前記Fe-Sn系合金が析出してなる結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項5】
結晶化度が、30質量%以上、99質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項6】
前記Fe-Sn系合金の結晶量が、0.5質量%以上、70質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項7】
β-Snをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器や電気自動車に用いられるナトリウムイオン二次電池用の負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、リチウムイオン二次電池の開発が活発となっている。しかしながら、リチウムイオン二次電池に使用されるLi資源の枯渇が懸念されており、この解決策としてLiイオンをNaイオンに代替したナトリウムイオン二次電池が検討されている。
【0003】
なかでも、金属Snはナトリウムとの合金化によって847mAhgの高い理論容量を持つことから、ナトリウムイオン二次電池における有望な負極材料の候補として知られている。金属Snは充放電に伴い4Sn+15Na+15e←→Na15Snという反応を繰り返す。ここで、金属Snは充放電時の合金化に伴う体積変化が4.2倍と大きいため、電極の破壊に伴う容量の低下が課題となっている。充放電時の体積変化を緩和する方法として、ガラスマトリックス中に金属Snを析出させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-229539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属Snを析出してなる結晶化ガラスにおいて、ガラスマトリックス中に含まれるSiO、P、B等の非晶質成分は、Sn成分の膨張収縮を緩和する緩衝材としての役割を果たす。しかしながら、充放電時の体積変化を緩和しきれないため、繰り返し充放電を行ったときに電池特性が不安定になりやすいという問題がある。
【0006】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、繰り返し充放電を行ったときに安定した電池特性を示すナトリウムイオン二次電池用負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、SiOを含有する非晶質相及びFe-Sn系合金を含むことを特徴とする。
【0008】
このように、本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、Fe-Sn系合金を含有する。Fe-Sn系合金の一種であるFeSnは充放電に伴い2FeSn+15Na+15e←→2Fe+Na15Snという反応を繰り返す。ここで、FeSnは金属Snに比べて充放電時の合金化に伴う体積変化が小さい。また、本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、SiOを含有する非晶質相を含有する。この非晶質相は、FeSn等のFe-Sn系合金の膨張収縮を緩和する緩衝材としての役割を果たす。充放電時の合金化に伴う体積変化が小さいことと、その体積変化を緩和する緩衝材として非晶質相が存在することにより、特に繰り返し充放電を行ったときに安定した電池特性を示すことができる。
【0009】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、酸化物換算のモル%で、SnO 30%~90%、SiO 2%~69%、Fe 1%~20%を含有することが好ましい。
【0010】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、前記Fe-Sn系合金がFeSnであることが好ましい。
【0011】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、前記非晶質相からなるマトリックス中に前記Fe-Sn系合金が析出してなる結晶化ガラスからなることが好ましい。
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、結晶化度が、30質量%以上、99質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、前記Fe-Sn系合金の結晶量が、0.5質量%以上、70質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、β-Snをさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繰り返し充放電を行ったときに安定した電池特性を示すナトリウムイオン二次電池用負極活物質を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例3で作製した試験電池の各サイクルにおける電池特性を示す図である。
図2図2は、比較例1で作製した試験電池の各サイクルにおける電池特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0018】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質(以下、単に負極活物質ともいう)は、SiOを含有する非晶質相及びFe-Sn系合金を含むことを特徴とする。具体的には、本発明の負極活物質は、酸化物換算のモル%で、SnO 30%~90%、SiO 2%~69%、Fe 1%~20%を含有するものであることが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の組成の説明において、「%」は特に断りのない限り「モル%」を意味する。
【0019】
SnOはナトリウムイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる活物質成分である。SnOの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、特に50%以上であることが好ましく、90%以下、80%以下、75%以下、70%以下、特に68%以下であることが好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、負極活物質の単位質量当たりの充放電容量が低下しやすくなる。一方、SnOの含有量が多すぎると、負極活物質中の非晶質成分が相対的に少なくなるため、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに、サイクル特性が低下する等、電池特性が不安定になりやすくなる。
【0020】
SiOは網目形成酸化物として機能し非晶質化を促す成分である。これにより、Sn成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出するサイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。SiOの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、特に20%以上であることが好ましく、69%以下、65%以下、55%以下、45%以下、特に35%以下であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくくなる。一方、SiOの含有量が多すぎると、イオン伝導度が低下し、放電容量が低下する傾向にある。また、Sn成分が相対的に少なくなるため充放電容量が低下する傾向にある。
【0021】
Feは、その後の熱処理によりFeSn等のFe-Sn系合金を形成し、ナトリウムイオン及び電子を吸蔵及び放出する活物質として機能する成分である。また、Feは網目形成酸化物として機能し非晶質化を促す成分である。これにより、Sn成分の膨張収縮を緩和する成分として機能し、サイクル特性を向上させる効果がある。さらに負極活物質における酸化物マトリックス成分の導電性を向上させる機能があり、急速充放電特性を向上させる効果も有する。Feの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、特に3%以上であることが好ましく、20%以下、17%以下、15%以下、12%以下、特に10%以下であることが好ましい。Feの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくくなる。一方、Feの含有量が多すぎると、イオン伝導度が低下し、放電容量が低下する傾向にある。
【0022】
本発明の負極活物質は、上記成分以外に以下の成分を含有していてもよい。
【0023】
NaOは、Sn成分以外の酸化物マトリックス成分のイオン伝導性を向上させる成分である。NaOの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、特に10%以上であることが好ましく、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。NaOの含有量が多すぎると、異種結晶(例えばNaOとSiOを含む結晶)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0024】
は、SiOと同様に網目形成酸化物として機能し非晶質化を促す成分である。これにより、Sn成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出するサイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。Pの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、1%以上、3%以上、5%以上、特に7%以上であることが好ましく、30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、負極活物質の耐水性が低下しやすくなる。また、Sn成分が相対的に少なくなるため充放電容量が低下する傾向にある。
【0025】
も、SiOと同様に網目形成酸化物として機能し非晶質化を促す成分である。これにより、Sn成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出するサイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。Bの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、1%以上、3%以上、5%以上、特に7%以上であることが好ましく、30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、Sn成分への配位結合が強くなって初回充電容量が大きくなり、結果として初回不可逆容量が大きくなる傾向にある。また、Sn成分が相対的に少なくなるため充放電容量が低下する傾向にある。
【0026】
+SiO+Bの含有量は、酸化物換算のモル%で、例えば、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、特に20%以上であることが好ましく、69%以下、65%以下、55%以下、45%以下、特に35%以下であることが好ましい。P+SiO+Bの含有量が少なすぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴うSn成分の体積変化を緩和できず構造劣化を起こすため、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、P+SiO+Bの含有量が多すぎると、Sn成分が相対的に少なくなるため充放電容量が低下する傾向にある。なお、本明細書において、「x+y+・・・」は各成分の含有量の合量を意味する。ここで各成分を必ずしも必須成分として含有している必要はなく、含有しない(即ち含有量が0%の)成分が含まれていても構わない。
【0027】
本発明の負極活物質は、TiO、MnO、CuO、ZnO、MgO、CaO、Alを、酸化物換算のモル%の合量で、例えば、0%~25%、0%~23%、0%~21%、さらには0.1%~20%の範囲で含有していてもよい。これらの成分を含有することにより、非晶質材料が得られやすくなる。ただし、その含有量が多すぎると、SiOからなるネットワークが切断されやすくなり、結果的に、充放電に伴う負極活物質の体積変化を緩和できずサイクル特性が低下するおそれがある。
【0028】
本発明の負極活物質は、内部にFeSn等のFe-Sn系合金が析出していることが好ましい。FeSnは、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって同定することができる。具体的には、粉末X線回折測定(XRD)により得られた回折線プロファイルにおいて、2θ値が35.1°、43.9°、61.2°、33.7°、67.3°にピーク位置を有する回折線は、FeSnの結晶相(正方晶系、空間群I4/mcm(140))に帰属することができる。
【0029】
FeSnの結晶量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。FeSnの結晶量が多すぎると、負極活物質中の非晶質成分が相対的に少なくなるため、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに電池特性が不安定になる傾向にある。一方、FeSnの結晶量が少なすぎると、放電容量が低下したり、繰り返し充放電を行ったときの電池特性が不安定になる傾向にある。
【0030】
本発明の負極活物質は、内部にβ-Snが析出していてもよい。β-Snはナトリウムイオンを吸蔵及び放出するサイトとなり電池容量をより向上させる効果を有する。β-Snは、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって同定することができる。具体的には、粉末X線回折測定(XRD)により得られた回折線プロファイルにおいて、2θ値が30.63°、32.02°にピーク位置を有する回折線は、β-Snの結晶相(正方晶系、空間群I4/amd(141))に帰属することができる。
【0031】
β-Snの結晶量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。β-Snの結晶量が多すぎると、負極活物質中の非晶質成分が相対的に少なくなるため、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに電池特性が不安定になる傾向にある。一方、β-Snの結晶量が少なすぎると、放電容量が低下する傾向にある。
【0032】
本発明の負極活物質は、内部にFeNaSnOが析出していてもよい。これらは電池特性の安定性をより向上させることができる。
【0033】
負極活物質の結晶化度は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましい。結晶化度が大きいほど、初回不可逆容量を低減しやすくなる。ただし、結晶化度が大きすぎると、サイクル特性が低下する傾向がある。よって、サイクル特性を高める観点からは、結晶化度は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、特に90質量%以下であることが好ましい。
【0034】
結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって得られる、2θ値で10°~60°の回折線プロファイルから求められる。具体的には、粉末X線回折測定(XRD)により得られた回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10°~45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10°~60°において検出される各結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIcとした場合、結晶化度Xcは次式から求められる。
【0035】
Xc=[Ic/(Ic+Ia)]×100(%)
【0036】
負極活物質の形状は特に限定されないが、粉末状であることが好ましい。負極活物質の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に0.5μm以上であることが好ましく、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。また負極活物質の最大粒子径は、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。負極活物質の平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、充放電した際にナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、サイクル特性が著しく低下する傾向がある。一方、負極活物質の平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態に劣り、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。また、析出したFeSn等のFe-Sn系合金が大気中の酸素により酸化されやすくなる。
【0037】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD90(90%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0038】
所定サイズの粉末を得るためには、一般的な粉砕機や分級機が用いられる。所定サイズの粉末を得るためには、例えば、乳鉢、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、篩、遠心分離、空気分級等が用いられる。
【0039】
本発明の負極活物質は、原料である酸化物材料に対し、還元性ガスを供給しながら加熱処理を行うことにより作製することができる。これにより、酸化物材料中に含まれるSnO及びFeがFeSn等のFe-Sn系合金に還元される。
【0040】
酸化物材料は、上述した組成となるように調製した原料粉末を例えば600℃~1500℃で加熱溶融して、均質な溶融物にした後、冷却固化することにより製造される。得られた溶融固化物は、必要に応じて粉砕や分級等の後加工が施される。
【0041】
加熱溶融には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等の炉やレーザー照射等を用いることができる。
【0042】
酸化物材料は、一部の組成を加熱溶融して、均質な溶融物にした後、冷却固化することにより製造される。また、酸化物材料は、粉砕や分級等の後加工が施された溶融固化物粉末と残りの組成の粉末とを混合してメカノミリング処理を行うことにより製造されてもよい。
【0043】
酸化物材料は非晶質であることが好ましく、それにより、SiOを含有するマトリックス中にFeSn等のFe-Sn系合金が析出してなる結晶化ガラスからなる本発明の負極活物質が得やすくなる。なお酸化物材料の内部にSnO等の結晶が析出していてもよい。また、マトリックスは、Feを含有していてもよい。
【0044】
酸化物材料の形状は、特に限定されないが、負極活物質と同様に粉末状であることが好ましい。酸化物材料の平均粒子径は、好ましくは0.1μm~20μm、より好ましくは0.2μm~15μm、さらに好ましくは0.3μm~10μm、特に0.5μm~5μmであることが好ましい。また酸化物材料の最大粒子径は、例えば、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。酸化物材料の平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、得られる負極活物質の粒径も大きくなるため、上述のような不具合が発生する傾向がある。また、還元性ガスによりSnO及びFeをFeSn等のFe-Sn系合金に十分に還元できないおそれがある。一方、酸化物材料の平均粒子径が小さすぎると、得られる負極活物質の粒径も小さくなるため、上述のような不具合が発生する傾向がある。
【0045】
加熱処理する際の加熱温度は、例えば、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、特に400℃以上であることが好ましい。加熱温度が低すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、酸化物材料中のSnO及びFeがFeSn等のFe-Sn系合金に還元されにくくなる。なお、加熱温度の上限は特に限定されないが、高すぎると、還元されたFeSn等のFe-Sn系合金粒子が粗大化しやすくなり、負極活物質のサイクル特性が著しく低下するおそれがある。よって、加熱温度は、好ましくは700℃以下、特に600℃以下であることが好ましい。
【0046】
加熱処理する際の加熱時間は20分~1000分、特に60分~500分であることが好ましい。加熱時間が短すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、酸化物材料中のSnO及びFeがFeSn等のFe-Sn系合金に還元されにくくなる。一方、加熱時間が長すぎると、還元されたFeSn等のFe-Sn系合金粒子が粗大化しやすくなり、負極活物質のサイクル特性が著しく低下するおそれがある。
【0047】
加熱処理には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等の炉やレーザー照射等を用いることができる。
【0048】
加熱処理する際の還元性ガスとしては、H、NH、CO、HS及びSiHから選ばれる少なくとも一種のガスが挙げられる。還元性ガスとしては、取扱い性の観点から、H、NH及びCOから選ばれる少なくとも一種のガスが好ましく、特にHが好ましい。
【0049】
還元性ガスとしてHを使用する場合、爆発等の危険性を抑制するため、NやAr等の不活性ガスと混合して使用することが好ましい。不活性ガスとHの混合割合は、体積%で、不活性ガス 85%~99.5%、H 0.5%~15%であることが好ましく、不活性ガス 87%~99%、H 1%~13%であることがより好ましく、不活性ガス 89%~99%、H 1%~11%であることがさらに好ましい。
【0050】
なお、加熱処理工程において酸化物材料(酸化物材料粉末)は軟化流動して凝集体を形成する傾向がある。酸化物材料が凝集体を形成すると、還元性ガスが酸化物材料全体にゆき渡りにくくなるため、酸化物材料の還元に長時間要する傾向がある。あるいは、生成した負極活物質粒子が粗大化して、電池特性が低下するおそれがある。そこで、酸化物材料を加熱処理する際に凝集防止剤を添加することが好ましい。このようにすれば、加熱処理時の酸化物材料の凝集を抑制でき、短時間で酸化物材料中のSnO及びFeをFeSn等のFe-Sn系合金に還元することが可能となる。
【0051】
凝集防止剤としては、導電性カーボンやアセチレンブラック等の炭素材料が挙げられる。炭素材料は電子伝導性も有するため、負極活物質に導電性を付与することもできる。なかでも、炭素材料としては、電子伝導性に優れるアセチレンブラックが好ましい。
【0052】
酸化物材料と凝集防止剤は、質量%で、酸化物材料 80%~99.5%、凝集防止剤 0.5%~20%の割合で混合することが好ましい。このようにすれば、良好な初回充電特性と安定したサイクル特性を有する負極活物質が得やすくなる。
【0053】
本発明の負極活物質に対し、結着剤や導電助剤を添加することにより蓄電デバイス用負極材料として使用される。
【0054】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0055】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維やカーボンナノチューブ等の繊維状炭素等が挙げられる。
【0056】
蓄電デバイス用負極材料を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0057】
なお、本発明においては、上記加熱処理をしていない酸化物材料を含む蓄電デバイス用負極材料を金属箔等の表面に塗布した後、加熱処理を施してもよい。
【0058】
例えば、上記加熱処理をしていない酸化物材料と、必要に応じて結着剤や導電助剤を含む蓄電デバイス用負極材料を金属箔等の表面に塗布した後、レーザー光の照射により加熱処理を施してもよい。
【0059】
この際、レーザー光の照射は、上述したレーザー光を用いない加熱処理と同様に還元性ガスを供給しながら行うことが好ましい。この場合、レーザー光の照射により酸化物材料を結晶化させ、負極活物質を得ることができる。
【0060】
もっとも、本発明においては、非還元性雰囲気下でレーザー光の照射を行った後、さらに還元性ガスを供給しながら加熱処理を行うことにより酸化物材料を結晶化させ、負極活物質を得てもよい。
【0061】
なお、レーザー光の波長は、近赤外領域~赤外領域であることが好ましい。具体的には、レーザー光の波長は、好ましくは750nm~1600nm、より好ましくは900nm~1400nm、さらに好ましくは950nm~1200nm、特に好ましくは1000nm~1100nmであり、この場合レーザー光吸収成分に吸収させやすいため好ましい。
【0062】
従って、レーザー光としては、上記のような領域の波長の光を照射できるものであることが好ましく、例えば、半導体レーザー、YAGレーザー、Ybファイバレーザー、YVO4レーザーが挙げられる。
【0063】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、ナトリウムイオン二次電池に用いられる負極活物質と非水系電気二重層キャパシタ用の正極材料とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0064】
ハイブリットキャパシタであるナトリウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの一種である。ナトリウムイオンキャパシタは、ナトリウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極はナトリウムイオン二次電池と同様にナトリウムイオンの化学反応(吸蔵及び放出)により充放電する。
【0065】
ナトリウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボン等の高比表面積の炭素質粉末等からなる正極活物質が用いられる。一方、負極には、本発明の負極活物質を用いることができる。
【実施例0066】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
表1に実施例1~4及び比較例1を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
(1)酸化物材料の作製
表1に記載の組成のうちNaO、Fe、SiOの三成分が表1の組成となるよう、各種の酸化物原料、炭酸塩原料等を用いて原料粉末を調整した。得られた原料粉末を溶融容器に投入し、電気加熱炉内にて大気中1400℃で溶融した後、一対の冷却ローラー間に流し込みフィルム状に成形した。得られたフィルム状成形物をボールミル粉砕することにより、平均粒子径2μmのマトリックス材料粉末を作製した。
【0070】
得られたマトリックス材料粉末とSnO原料粉末とを表1の組成となるように混合し、その混合物とステンレスビーズとを入れた45mLの遊星型ボールミル装置(装置名:Fritch社製PULVERISETTE7 Classic Line)を用いて、大気雰囲気下、700rpmの公転回転数で1時間メカノミリング処理することにより、酸化物材料粉末を作製した。得られた酸化物材料粉末について粉末X線回折測定(XRD)することにより構造を同定したところ、非晶質であり、結晶は検出されなかった。
【0071】
(2)負極活物質の作製
得られた酸化物材料粉末に対し、N90体積%、H10体積%の混合ガス雰囲気下、雰囲気温度450℃、10時間の条件で熱処理を行った。熱処理後の酸化物材料を、乳鉢及び乳棒を用いて解砕することで、平均粒子径2μmの負極活物質粉末を得た。XRDにより負極活物質粉末の構造を調べた結果、表1に示す結晶種及び結晶量の結晶が析出していた。
【0072】
(3)負極の作製
負極活物質粉末、導電助剤としてのカーボンブラック及び結着剤としての熱硬化性ポリイミド樹脂を質量比で80:5:15になるように秤量し、脱水したN-メチルピロリドンを添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを銅箔に塗工し、80℃で1時間、その後200℃で6時間の真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径16mmに打ち抜き負極を作製した。
【0073】
(4)試験電池の作製
得られた負極と、70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ、及び対極である金属ナトリウムを積層し、電解液を染み込ませることにより試験電池を作製した。電解液には、1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下のアルゴン環境で行った。
【0074】
(5)充放電試験
作製した試験電池に対し、25℃で開回路電圧から0VまでCC(定電流)充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)を行い、単位質量の負極活物質へ充電された電気量(充電容量)を求めた。次に、0Vから2VまでCC放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出)させ、単位質量の負極活物質から放電された電気量(放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。これらの充放電を1サイクルとして、50サイクルの充放電を行った。これらの結果から、各サイクルのクーロン効率(放電容量/充電容量)を求めた。
【0075】
図1は、実施例3で作製した試験電池の各サイクルにおける電池特性を示す図である。また、図2は、比較例1で作製した試験電池の各サイクルにおける電池特性を示す図である。図1に示すように、実施例3で作製した試験電池では、2サイクル~50サイクル時における充電容量、放電容量、クーロン効率等の電池特性が安定していることがわかる。一方、比較例1で作製した試験電池では、特に15サイクル~30サイクル時における充電容量、放電容量、クーロン効率等の電池特性が安定していなかった。
【0076】
また、各実施例及び比較例において、2サイクル~50サイクル時のクーロン効率の最大値と最小値を表1に示す。表1に示す通り、実施例1~4は組成にFeを含み、FeSnが2質量%~53質量%と析出しているため、2サイクル~50サイクル時のクーロン効率のばらつきが小さくなった。一方、比較例1は組成にFeを含まず、FeSn等のFe-Sn系合金の析出がなかったため、2サイクル~50サイクル時のクーロン効率のばらつきが大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の負極活物質は、例えば、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池用途に好適に用いることができる。
図1
図2