(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170211
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ナイロン4繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20241129BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
D01F6/60 341B
D01F6/60 301M
D01D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087243
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤江 将大
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康夫
(72)【発明者】
【氏名】梅村 光平
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB02
4L035BB11
4L035BB52
4L035BB79
4L035BB80
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE09
4L035EE20
4L035FF01
4L035GG02
4L035HH02
4L045AA01
4L045DA10
4L045DA15
4L045DA41
(57)【要約】
【課題】高強度のナイロン4繊維を製造することが可能な、ナイロン4繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ナイロン4を溶媒に溶解させ、紡糸用溶液を得る溶解工程と、前記紡糸用溶液を用いて乾式紡糸し、未延伸繊維を得る紡糸工程と、前記未延伸繊維を延伸し、ナイロン4繊維を得る延伸工程と、を含むナイロン4繊維の製造方法であって、前記延伸工程が、過熱水蒸気加熱下又は遠赤外線加熱下で行われることを特徴とする、ナイロン4繊維の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン4を溶媒に溶解させ、紡糸用溶液を得る溶解工程と、
前記紡糸用溶液を用いて乾式紡糸し、未延伸繊維を得る紡糸工程と、
前記未延伸繊維を延伸し、ナイロン4繊維を得る延伸工程と、を含むナイロン4繊維の製造方法であって、
前記延伸工程が、過熱水蒸気加熱下又は遠赤外線加熱下で行われることを特徴とする、ナイロン4繊維の製造方法。
【請求項2】
前記延伸工程の雰囲気温度が260℃以上270℃以下である、請求項1に記載のナイロン4繊維の製造方法。
【請求項3】
前記延伸工程の延伸倍率が5.5倍以上である、請求項1に記載のナイロン4繊維の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒がギ酸を含む、請求項1に記載のナイロン4繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン4繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維の高強度化を図る場合には、紡糸工程及び延伸工程を通じて分子鎖を一方向に引き揃えて、配向性を高めることを行う。かかる紡糸工程及び延伸工程は、連続的に行うこともできるし、紡糸工程で得られた繊維を一旦巻き取り、その後に延伸工程を行うこともできる。
【0003】
ここで、ポリアミド樹脂の1つであるナイロン4は、アミド結合の密度が高く、熱的及び機械的に優れた特性が期待される樹脂である。しかし、このナイロン4は、水素結合による分子間相互作用が強いため、そのままでは延伸して引き揃えることが困難な傾向にある。
【0004】
この点に関し、本発明者らはこれまで、乾式紡糸法により高強度のナイロン4繊維を製造する方法を検討してきた(特許文献1)。かかる方法は、通常のオーブン中で加熱して、分子間相互作用を弱めた状態で延伸、引き揃えを行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、その後の検討で、特許文献1に記載されたナイロン4繊維の製造では、延伸工程時の加熱効率が十分ではないことが確認された。具体的に、特許文献1の技術では、延伸の際、繊維の表面付近は温められ易い一方、繊維中央部の温度が上がり難い、即ち、繊維の径方向に温度勾配が生じ易いことが分かった。この場合、延伸時に繊維中央部の延伸応力が高まって、ボイド発生等の構造不均一性が生じ易くなる虞がある。そして、このような構造不均一性は、ナイロン4繊維の更なる高強度化を図る上での障害となり得る。
【0007】
このような問題に対し、例えば、繊維中央部まで十分に加熱するために、延伸時のオーブンでの加熱時間を長くする手法が考えられる。しかし、この手法では、延伸時に繊維が融解してしまう(溶断という。)可能性が高くなる上、熱劣化による影響が顕著になるため、好ましくない。かかる状況下、繊維の溶断や熱劣化を十分に回避し、ナイロン4繊維の更なる高強度化を図る点で、従来技術には未だ改良の余地があるといえる。
【0008】
そこで、本発明は、高強度のナイロン4繊維を製造することが可能な、ナイロン4繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決に当たり、一層高強度化されたナイロン4繊維を得るには、繊維を表面から中央部まで均一に且つ短時間で加熱することが肝要であると考えた。そして、本発明者らが更に検討を重ねた結果、延伸時の加熱を所定条件の加熱とすることが、均一且つ短時間での加熱を可能にし、ナイロン4繊維の一層の高強度化に寄与し得ることを見出し、本発明をするに至った。
【0010】
即ち、上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
[1] ナイロン4を溶媒に溶解させ、紡糸用溶液を得る溶解工程と、
前記紡糸用溶液を用いて乾式紡糸し、未延伸繊維を得る紡糸工程と、
前記未延伸繊維を延伸し、ナイロン4繊維を得る延伸工程と、を含むナイロン4繊維の製造方法であって、
前記延伸工程が、過熱水蒸気加熱下又は遠赤外線加熱下で行われることを特徴とする、ナイロン4繊維の製造方法。
かかるナイロン4繊維の製造方法によれば、高強度のナイロン4繊維を製造することが可能である。
【0012】
[2] 前記延伸工程の雰囲気温度が260℃以上270℃以下である、[1]に記載のナイロン4繊維の製造方法。
この場合、ナイロン4の水素結合を弱め、分子配向を促すことができるとともに、繊維が断線する等の不具合を十分に回避することができる
【0013】
[3] 前記延伸工程の延伸倍率が5.5倍以上である、[1]又は[2]に記載のナイロン4繊維の製造方法。
この場合、繊維強度の向上効果が一層顕著に奏され得る。
【0014】
[4] 前記溶媒がギ酸を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のナイロン4繊維の製造方法。
この場合、入手容易性及びナイロン4に対する高い溶解度の観点で有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度のナイロン4繊維を製造することが可能な、ナイロン4繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のナイロン4繊維の製造方法で使用可能な、一例の乾式紡糸装置の概略図である。
【
図2】本発明のナイロン4繊維の製造方法で使用可能な、一例の延伸装置の概略図である。
【
図3】一比較例のナイロン4繊維の内部のSEM画像である。
【
図4】一実施例のナイロン4繊維の内部のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
なお、本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0018】
(ナイロン4繊維の製造方法)
本発明の一実施形態のナイロン4繊維の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、樹脂であるナイロン4を溶媒に溶解させ、紡糸用溶液を得る工程(溶解工程)と、上記紡糸用溶液を用いて乾式紡糸し、未延伸繊維を得る工程(紡糸工程)と、上記未延伸繊維を延伸し、ナイロン4繊維を得る工程(延伸工程)と、を少なくとも含み、更に必要に応じて、延伸工程の前の未延伸繊維を乾燥する工程(乾燥工程)等の、その他の工程を含むことができる。そして、本実施形態の製造方法においては、上記延伸工程が過熱水蒸気加熱下又は遠赤外線加熱下で行われること、を一特徴とする。
【0019】
過熱水蒸気は、低温の物質に触れると凝縮し、このとき物質に熱を与えることができる媒体である。つまり、過熱水蒸気は、品温を上げるという水蒸気本来の性質と、加熱空気のように物質を加熱する性質とを有している。そして、かかる性質を有する過熱水蒸気が、乾式紡糸でナイロン4から得られた繊維の加熱において、有意な効果をもたらすことが見出された。そのため、本実施形態の製造方法によれば、延伸工程時に過熱水蒸気加熱を用いることで、ナイロン4の未延伸繊維を短時間で均一に加熱できる結果、一層高強度化されたナイロン4繊維を得ることが可能となる。
【0020】
また、遠赤外線は、物質に当たると、当該物質の分子に共振した光エネルギーが吸収されることで、分子レベルの運動を誘発させる。この分子レベルの運動が、物質の内部まで効果的にもたらされ、物質全体で、摩擦による熱が発生する。そして、かかる作用を有する遠赤外線が、乾式紡糸でナイロン4から得られた繊維の加熱において、有意な効果をもたらすことが見出された。そのため、本実施形態の製造方法によれば、延伸工程時に遠赤外線加熱を用いることで、ナイロン4の未延伸繊維を短時間で均一に加熱できる結果、一層高強度化されたナイロン4繊維を得ることが可能となる。
【0021】
また、本実施形態の製造方法は、上述の通りナイロン4の未延伸繊維を短時間で均一に加熱できるので、従来技術では断線してしまう程の延伸倍率であっても、断線することなく延伸可能であるという点でも、利点を有する。
【0022】
なお、本明細書において「ナイロン4繊維」とは、ナイロン4を含む線状高分子の繊維を意味する。
また、本明細書において「乾式紡糸」とは、原料を溶媒に溶解させた状態で口金(ノズル)から吐出させ、熱雰囲気中で溶媒を蒸発させて繊維状にすることを意味する。
また、本明細書において「過熱水蒸気」とは、沸点を超える温度に加熱された水蒸気を意味する。即ち、大気圧下においては、100℃超の温度に加熱された水蒸気を指す。
また、本明細書において「遠赤外線」とは、波長3μm~1000μmの光(電磁波)を意味する。
【0023】
以下、本実施形態の製造方法で用いる原料について、具体的に説明する。
【0024】
<ナイロン4>
上述の通り、本実施形態の製造方法では、原料としてナイロン4を用いる。本実施形態で用いるナイロン4の調製方法としては、特に制限されない。例えば、ナイロン4は、Polymer,46,p9987-9993(2005)に記載の2-ピロリジノンの開環重合法により調製することができる。また、高分子量のナイロン4は、特開平5-0201号公報に記載の製法を参考にして、モノマーとしての2-ピロリジノンから調製することができる。
【0025】
原料の2-ピロリジノンとしては、例えば、石油から生産されるもの、微生物由来の酵素を用いてγ-アミノ酪酸等のバイオ由来資源から生産されるもの、などを用いることもできる。
【0026】
<その他のポリアミド樹脂>
なお、本実施形態の製造方法では、ナイロン4とともに、その他のポリアミド樹脂を原料として用いてもよい。その他のポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン4以外の脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、全芳香族ポリアミド(アラミド等)、半芳香族ポリアミド(ナイロン6T/66、ナイロン6T/6I等)等が挙げられる。但し、所望の効果を確実に得る点、及び環境への配慮の観点から、本実施形態の製造方法では、上記その他のポリアミド樹脂を用いないことが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態の製造方法に含まれる各工程について、具体的に説明する。
【0028】
<溶解工程>
溶解工程は、上記ナイロン4を溶媒に溶解させ、紡糸用溶液を得る工程である。この溶解工程で得られる紡糸用溶液中のナイロン4の濃度は、特に限定されないが、15質量%以上であることが好ましい。得られる紡糸用溶液におけるナイロン4の濃度が15質量%以上であれば、蒸発させる溶媒の量が適量となるとともに、得られる繊維におけるボイドの発生を抑制しつつ効率的に乾式紡糸することができる。同様の観点から、紡糸用溶液中のナイロン4の濃度は、18質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
一方、ナイロン4の溶解度は、当該ナイロン4の分子量や使用する溶媒にもよるものの、一般的には25℃において上限が30質量%程度である。そして、紡糸用溶液におけるナイロン4の濃度は、最適化の観点では、22質量%以下であることが好ましい。
【0030】
溶媒としては、特に制限されないが、入手容易性及びナイロン4に対する高い溶解度の観点から、ギ酸を用いることが好ましい。換言すれば、溶解工程で用いる溶媒は、ギ酸を含むことが好ましい。また、溶媒としては、ギ酸以外に、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)及びトリフルオロ酢酸(TFA)等が挙げられ、これらをギ酸とともに併用することができる。換言すれば、溶解工程で用いる溶媒は、ギ酸に加えて、ヘキサフルオロイソプロパノール及びトリフルオロ酢酸から選択される1種以上を更に含むことができる。
【0031】
<紡糸工程>
紡糸工程は、溶解工程で得られた紡糸用溶液を用いて乾式紡糸し、未延伸繊維を得る工程である。乾式紡糸の操作としては、特に制限されず、従来用いられている乾式紡糸装置により、乾式紡糸することができる。
【0032】
一例として、
図1に、本実施形態の製造方法で使用可能な乾式紡糸装置の概略図を示す。
図1に示される乾式紡糸装置100においては、まず、シリンジ11に紡糸用溶液が充填される。シリンジ11にはヒーター117が設けられ、紡糸用溶液を適宜加熱することができる。シリンジ11に充填された紡糸用溶液は、プランジャー115により上部から圧力が加えられることで、シリンジ11の下端に取り付けられたノズル116から気中に糸状に吐出される。また、ノズル116の直下には、ヒーター12が設けられており、所定の温度に調整可能な熱雰囲気が形成される。そして、吐出後の溶液からは繊維が形成され、また、上記熱雰囲気により、当該繊維からの溶媒の蒸発が促進される。その後、繊維は、ノズルの鉛直下方に設けられた送りローラー13を含む1つ以上の送りローラーを介して順次送られ、巻き取りローラー15によって繊維(未延伸繊維)が巻き取られる。
【0033】
なお、ヒーター12から鉛直下方の送りローラー13までは、
図1に示すように、溶媒トラップ17が設けられた筒16(例えば、ポリカーボネート製の筒)により、繊維を囲ってもよい。また、
図1に示すように、ローラー間(例えば、送りローラー13と送りローラー14との間、又は、送りローラー14と巻き取りローラー15との間)に外径測定器18を設け、乾式紡糸で得られた繊維の径を定期的に測れるようにしてもよい。更に、
図1に示すように、一連の紡糸工程を、保護カバー19で覆われた乾式紡糸装置100で行ってもよい。
【0034】
<乾燥工程>
本実施形態の製造方法では、前述の紡糸工程の後、後述する延伸工程の前に、乾燥工程として、紡糸工程で得られた未延伸繊維を乾燥してもよい。乾燥の方法としては、特に制限されず、例えば所定の温度及び湿度に調整されたチャンバー内に繊維を放置する方法等が挙げられる。
【0035】
<延伸工程>
延伸工程は、紡糸工程又は乾燥工程の後の未延伸繊維を延伸し、ナイロン4繊維を得る工程である。本実施形態の製造方法では、この延伸工程を、過熱水蒸気加熱下又は遠赤外線加熱下で行う。これにより、高強度のナイロン4繊維を最終的に得ることができる。
【0036】
一例として、延伸工程を過熱水蒸気加熱下で行うことを挙げ、
図2に、本実施形態の製造方法で使用可能な延伸装置の概略図を示す。
図2に示される延伸装置200において、繊維は、送り出しローラー21、糸ガイド23,26、巻き取りローラー25によって順次送られる間に、所定の雰囲気温度に調整可能な筒状の過熱水蒸気加熱チャンバー(以下、単に「加熱チャンバー」と称することがある。)22を通過し、このとき、巻き取りローラー25の巻き取り速度を、送り出しローラー21の送り出し速度よりも大きくすることで、延伸される。また、加熱チャンバー22は、過熱水蒸気発生装置27と、導入管28を介して接続されている。そして、延伸工程では、過熱水蒸気発生装置27で発生した所定温度に調整された過熱水蒸気を、導入管28を介して加熱チャンバー22内に充填し、その中を繊維が通過するようにして延伸を行う。
【0037】
図2に示すように、加熱チャンバー22における導入管28の接続箇所近傍には、繊維を包囲するように保護管29を設けることが好ましい。これにより、導入管28から供給される過熱水蒸気が繊維に直接あたるのを防ぐことができる。
【0038】
加熱チャンバー22における導入管28の接続箇所は、筒状の加熱チャンバー22における繊維の延伸方向(進行方向)の上流~下流のいずれの箇所にあってもよい。但し、過熱水蒸気を均一かつ効率的に加熱チャンバー内に充満させる観点から、上記接続箇所は、
図2に示すように、加熱チャンバー22の長手方向における中央部付近にあることが好ましい。
【0039】
加熱チャンバー22における導入管28の接続箇所の数は、
図2では1箇所であるが、これに限定されず、2箇所以上であってもよい。
【0040】
また、巻き取りローラー25の前段に張力計(図示せず)を設け、延伸繊維の張力を連続的に測れるようにしてもよい。また、必要に応じて、加熱チャンバー22の前段に、予備乾燥炉(図示せず、例えば、125℃×1m)を設けてもよい。
【0041】
一方、延伸工程を遠赤外線加熱下で行う場合、使用可能な延伸装置としては、延伸機能と遠赤外線加熱機能とが兼備されているものであれば、特に限定されない。また、かかる延伸装置は、上述した送り出しローラー21、加熱チャンバー22、糸ガイド23、巻き取りローラー25及び糸ガイド26の構成と同等の構成を備えることができる。
【0042】
延伸工程の雰囲気温度(加熱チャンバー22内の温度ともいう。)は、260℃以上270℃以下であることが好ましい。雰囲気温度が260℃以上であれば、ナイロン4の水素結合を弱め、分子配向を促すことができる。また、雰囲気温度が270℃以下であれば、繊維が断線する等の不具合を十分に回避することができる。なお、雰囲気温度は、加熱チャンバー22に充填する過熱水蒸気の温度、又は、遠赤外線の温度により、調節することができる。
なお、上記雰囲気温度は、延伸時の繊維そのものの実際の温度と必ずしも一致するものではない。
【0043】
延伸工程の延伸倍率は、特に限定されず、例えば4.5倍以上とすることができる。但し、本実施形態の製造方法では、延伸倍率が5.5倍以上であるときに、同じ延伸倍率を採用した場合の従来技術との対比で、繊維強度の向上効果が一層顕著に奏され得る。また、延伸倍率は、得られるナイロン4繊維の強度をより十分に高める観点から、5.8倍以上であることがより好ましく、6.0倍以上であることが更に好ましい。
なお、
図2に示す延伸装置200では、巻き取りローラー25の巻き取り速度及び送り出しローラー21の送り出し速度をそれぞれ変化させることにより、延伸倍率を調整することができる。
【0044】
延伸工程の滞留時間(加熱チャンバー22内における繊維の滞留時間)は、特に限定されないが、滞留時間が長いと繊維が劣化する虞があるために短い方がよく、例えば、45秒以下とすることができる。なお、滞留時間は、送り出しローラー21の送り出し速度、巻き取りローラー25の巻き取り速度、加熱チャンバー22の長手方向の長さをそれぞれ変化させることにより、調整することができる。
【0045】
このようにして得られるナイロン4繊維は、高強度であるため、タイヤコードをはじめとして、衣料、ロープ、エアバッグ、シートベルト、パラシュート等の幅広い用途に適用可能である。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0047】
(ナイロン4の調製)
以下に示す手順に従い、ナイロン4を調製した。
【0048】
<ナイロン4の精製>
2-ピロリジノン(関東化学株式会社製、純度:98.0%)600gに硫酸4.0gを添加し、アルゴン気流中、100℃の油浴中で撹拌した。次いで、外浴温度150℃、1mmHgにて減圧蒸留し、初留約10mLを採った後、本留約570gを得た。このようにして、あらかじめモノマーとしての2-ピロリジノンの精製を行った。
【0049】
次いで、1Lのセパラブル4つ口フラスコに、撹拌羽根、セプタムキャップ、バルーン及びアルゴンバブラーを取り付けた三方コック並びに留去装置を取り付けて、上述した精製2-ピロリジノン500gを投入した。減圧-アルゴン置換を3回行い、アルゴン雰囲気とした後、アルゴン気流とし、フラスコを40℃の油浴中に浸漬し、100rpmにて撹拌させた。次に、触媒としての水酸化カリウム70.4gを投入し、1mmHgまで減圧させ、30分間、減圧及び撹拌を行った後、湯浴温度を10分で10℃のペースで135℃まで昇温させ、反応に伴って共沸されるピロリドンと共に取り除いた。なお、昇温の際には、フラスコ全体をアルミ箔で覆い、保温を行った。続いて、アルゴン置換を行い、アルゴン気流とした後、油浴温度を40℃とし、留去装置を取り除いた。セプタムキャップからPFAキャニュラを刺し込み、開始剤として炭酸ガスを60mL/min(窒素ガス換算:75mL/min)にて93分撹拌させながらバブリングさせた。なお、60mL/minの流量で炭酸ガスを93分吹き込んだ場合、理想気体の状態方程式(pV=nRT)より、物質量nは0.228モルに相当する(p=1(atm);V=60×93/1000(L);R=0.082;T=298(K))。そして、この場合の炭酸ガスの質量は、モル質量が44.01g/molであるから、0.228×44.01≒10.0gと算出される。そして、炭酸ガスをバブリングさせた後、撹拌羽根を液面から上げて、アルゴン気流中、油浴温度40℃のまま、40時間前後放置させて開環重合した。このようにして、固体を得た。
【0050】
上記によって得られた固体約500gを液体窒素中で細かく粉砕し、室温にて3Lの純水中で30分撹拌させた後、濾過した。濾液のpHが中性になるまで、撹拌-濾過を繰り返した。次いで、1Lの純水中に浸漬させながら10時間撹拌し、濾液のpHが中性であることを再確認した後、得られた固体をアセトンにて洗浄し、80℃、1mmHgにて48時間減圧乾燥させた。更に、卓上粉砕機(ラボネクスト株式会社製、「ミニスピードミルMS-05」)を用いて粉砕し、100メッシュの篩を通して分級した。得られた分級固体100g程度をイオン交換水1L中に入れ、約5分間煮沸し、放置冷却後に吸引ろ過を行った。上記工程をもう一度繰り返し、都度2回洗浄を行った。吸引ろ過後の塊を大まかにほぐし、適度に広げて、真空オーブン中で120℃、20分乾燥した。このようにして、ナイロン4を得た。得られたナイロン4は、容器に入れ、デシケーター(エクラールシー株式会社製、「マックドライMCU-201」)中で約1%RH以下にして保管した。
【0051】
得られたナイロン4について、下記の条件にて、重量平均分子量(Mw)の測定を行った。
測定装置:HLC-8320GPC(RI検出器使用)(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel Super AWM-H ×2本 (東ソー株式会社製)
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製)
濃度:2mg/5mL
溶離液:トリフルオロエタノール(東京化成工業株式会社製)
添加剤:トリフルオロ酢酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)(溶離液中に 10mmol/L)
前処理:メンブレンフィルター(マイショリディスクH-25-5、東ソー株式会社製)にてろ過
注入量:20μL
流速:0.3mL/min
カラム温度:40℃
標準サンプル1:SIGMA-ALDRICH製、ポリ(メチルメタクリレート)セット 81506-1EA
標準サンプル2:PSS Polymer Standards Service製、 ポリ(メチルメタクリレート) PSS-mm3m
【0052】
上記の条件で測定されたナイロン4の重量平均分子量(Mw)は、695,297g/molであった。
【0053】
得られたナイロン4を計量し、溶媒としてのギ酸(99%ギ酸(特級)、富士フイルム和光純薬株式会社製)と撹拌混合して、紡糸用溶液を得た。上記計量は、紡糸用溶液中のナイロン4の濃度が20質量%となるように行った。また、上記撹拌は、吸湿したり、ギ酸が飛散して重量が減少したりしないようにするため、シーリングミキサーUZU(中村科学器械工業株式会社製)を用いて、外浴温度50℃、2rpmで18時間かけ、ナイロン4が完全に溶媒に溶解するまで行った。
【0054】
得られた紡糸用溶液を、密閉容器に入れた状態で40℃のオーブン内に約1時間放置し、溶液内の泡を除去した。次いで、溶液に泡が入らないように注意しながら、紡糸装置のシリンジに移し替えた。なお、紡糸装置としては、株式会社AIKIリオテック製の小型紡糸装置を用い、この紡糸装置で、乾式紡糸を行った。この紡糸装置の概略は、
図1に示される乾式紡糸装置100の通りである。具体的に、紡糸用溶液を40℃に保温し、シリンジ11に充填された紡糸用溶液に上部からプランジャー115にて圧力を加え、シリンジ11の下端に取り付けたノズル116(単孔ノズル、長さ:13mm、内径:0.26mm)から溶液を約0.05mL/分で吐出させた。紡糸線上の流動体表面を、紡糸に耐えうるだけの強度を発現する程度に乾燥固化するため、ノズル116の直下にヒーター12(加熱長10cmの透明ガラスヒーター)を設置し、70℃に設定して雰囲気加熱した。ノズル116から1つ目の送りローラー13までの距離を75cmとり、なるべく分子鎖を配向させないように、ほぼ自由落下の速度で糸を送り、後段の巻き取りローラー15により糸(未延伸繊維)を巻き取った。
【0055】
次いで、延伸装置を用い、未延伸繊維を延伸した。
実施例1~3(過熱水蒸気加熱)において用いた延伸装置の概略は、
図2に示される延伸装置200の通りである。具体的に、過熱水蒸気発生装置27として日本電熱株式会社製の「SH-ROBO」を用い、その吐出口に筒状の加熱チャンバー22(長さ:70cm、材質:ステンレス)を、導入管28を介して取り付けて用いた。また、この加熱チャンバー22には、内部の温度を確認するための熱電対を設けた。更に、加熱チャンバー22における導入管28の接続箇所近傍には、繊維を包囲するように保護管29を設けた。そして、過熱水蒸気発生装置27で発生した過熱水蒸気を加熱チャンバー22内に充填し、加熱チャンバー22内が所定温度(雰囲気温度)で一定となってから、加熱チャンバー22の中を繊維が通過するようにして延伸を行い、延伸繊維(ナイロン4繊維)を得た。このときの延伸倍率は、送り出しローラー21の回転速度(送り出し速度)を一定とし、送り出しローラー21と巻き取りローラー25の回転速度の比から決定した。各例における雰囲気温度及び延伸倍率の条件を、表1に示す。
【0056】
一方、比較例1~3(通常加熱)において用いた延伸装置は、概ね、
図2に示される延伸装置200において、加熱チャンバーへの過熱水蒸気の供給機構がないものに相当する。具体的に、加熱チャンバー22として、長さ30cmのセラミック電気管状炉「AFR3-500-30KC」及び温度コントローラ「AMF-10P-III」(いずれもアサヒ理化製作所製)を用いた。そして、加熱チャンバー22内を所定温度(雰囲気温度)に調整してから、加熱チャンバー22の中を繊維が通過するようにして延伸を行い、延伸繊維(ナイロン4繊維)を得た。このときの延伸倍率は、送り出しローラー21の回転速度(送り出し速度)を一定とし、送り出しローラー21と巻き取りローラー25の回転速度比から決定した。各例における雰囲気温度及び延伸倍率の条件を、表1に示す。
【0057】
各例で得られた延伸繊維(ナイロン4繊維)について、以下の評価を行った。
【0058】
<繊度の測定>
延伸繊維を、温度20℃、相対湿度65%に調整した恒温恒湿室に一晩放置した後、サーチ株式会社製の繊度測定器「DENICON DC-21」を用い、繊度(dtex)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
<引張強度及び切断伸度の測定>
まず、延伸繊維の密度を測定した。具体的には、密度勾配管法により、株式会社柴山科学器械製作所製の比重測定装置TypeA(直読式)を用いて、JIS K 7112 D法に準拠して、延伸繊維の密度を測定した。このとき、密度液体としては四塩化炭素/トルエンを用い、標準密度球としては1.230、1.249、1.270、及び1.290(いずれも単位はg/cm3)を用いた。水槽温度を20±0.1℃で3回測定し、平均値を求めた。
一方で、延伸繊維を恒温恒湿室に放置した後、島津製作所株式会社製の小型卓上試験機「EZTest EZ-SX」を用いて、試料チャック間長20mm、引張速度20mm/分の条件で引張試験を行い、この引張試験における破断強力(cN)を求めた。
次いで、この破断強力と上記で測定した繊度とを用いて算出される強度(単位:cN/dtex)を、上記で測定した延伸繊維の密度を用いてPaの単位に変換し、引張強度(MPa)を求めた。また、同様の引張試験により、切断伸度(%)を求めた。引張強度及び切断伸度の測定結果を、密度とともに、表1に示す。引張強度及び切断伸度の値が大きいほど、繊維としての強度が高いことを示す。
【0060】
<結節強度の測定>
株式会社島津製作所製の引張試験機「小型卓上試験機 EZTest EZ-SX」を用い、延伸繊維を温度20℃、湿度65%の恒温恒湿環境下で18時間以上静置させた後、ロードセル:50N、初期試料長:20mm、引張速度:20mm/minの条件で、結節強度を測定した。また、繊度で規格化した。測定結果を表1に示す。結節強度の値が大きいほど、繊維としての強度が高いことを示す。特に、繊維の結節強度が高いと、タイヤコード等の複雑な動きをする繊維として適用した場合に、疲労性に良い影響を与える可能性がある。
【0061】
<繊維内部のSEM観察(比較例2及び実施例2)>
延伸繊維の表面にPtコーティング処理を施した後、樹脂包埋をし、クライオウルトラミクロトームにて熱による変形及び変質をさせることなく断面を作製した。次いで、作製した断面に、Fischione製1020形プラズマクリーナーを用いて、繊維のプラズマエッチング処理を行った。このときのエッチング条件としては、25%の酸素と75%のアルゴンガスを用い、処理時間を10分間とした。続いて、断面に数nmのPtスパッタリング処理を施した後、Zeiss製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)Merlinを用いて、加速電圧0.8kVで観察を行った。比較例2の延伸繊維の内部のSEM画像を
図3に示し、実施例2の延伸繊維の内部のSEM画像を
図4に示す。
【0062】
なお、下記の表1では、同じ延伸倍率の延伸繊維同士で特性を比較することが肝要である。延伸倍率が変われば、得られる延伸繊維の特性も大きく変わり得るからである。
【0063】
【0064】
表1より、比較例1及び実施例1(いずれも延伸倍率5.0倍)の比較においては、引張強度、切断伸度及び結節強度のいずれも、実施例1の方が高いことが分かる。
【0065】
また、表1より、比較例2及び実施例2(いずれも延伸倍率5.5倍)の比較においては、引張強度、切断伸度及び結節強度のいずれも、実施例2の方が高いことが分かる。特に、同じ延伸倍率の比較例に対する実施例の向上率の点では、実施例1よりも実施例2の方が大きかった。即ち、延伸倍率が高いほど、同じ延伸倍率を採用した場合の従来技術との対比で、繊維強度の向上効果が一層顕著に奏されることが示唆される。
【0066】
更に、通常加熱及び延伸倍率6.0倍を採用した比較例3では、延伸時に繊維が断線したため、延伸できなかった。一方、同じ延伸倍率で過熱水蒸気加熱を採用した実施例3では、十分に高強度のナイロン4繊維が得られた。このことからも、延伸倍率が高いほど、同じ延伸倍率を採用した場合の従来技術との対比で、繊維強度の向上効果が一層顕著に奏されることが示唆される。
【0067】
また、
図3から分かる通り、比較例2のナイロン4繊維は、繊維内部にボイドが観察された。かかるボイドが、ナイロン4繊維の高強度化を図る上での障害となっているものと考えられる。これに対して、実施例2のナイロン4繊維は、
図4からも分かる通り、SEM画像からは繊維内部にボイドが視認されなかった。即ち、実施例では、延伸時に繊維を表面から中央部まで均一に且つ短時間で加熱でき、これがナイロン4繊維の一層の高強度化に寄与したものと考えられる。
100:乾式紡糸装置、 11:シリンジ、 115:プランジャー、 116:ノズル、 117:ヒーター、 12:ヒーター、 13,14:送りローラー、 15:巻き取りローラー、 16:筒、 17:溶媒トラップ、 18:外径測定器、 19:保護カバー、
200:延伸装置、 21:送り出しローラー、 22:過熱水蒸気加熱チャンバー、 23:糸ガイド、 25:巻き取りローラー、 26:糸ガイド、27:過熱水蒸気発生装置、 28:導入管、 29:保護管