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特開2024-170242加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170242
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/29 20060101AFI20241129BHJP
   H05H 9/00 20060101ALI20241129BHJP
   H05H 5/02 20060101ALI20241129BHJP
   H05H 5/03 20060101ALI20241129BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20241129BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20241129BHJP
   G21K 5/00 20060101ALI20241129BHJP
   G21H 5/02 20060101ALI20241129BHJP
   H01J 40/00 20060101ALI20241129BHJP
   H01J 47/08 20060101ALI20241129BHJP
   H01J 47/02 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
G01T1/29 A
H05H9/00 Z
H05H5/02 C
H05H5/03
G01T1/20 A
G21K5/08 R
G21K5/00 A
G21H5/02 C
H01J40/00
H01J47/08
H01J47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087289
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 拓真
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】西田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】畠山 修一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 耕一
【テーマコード(参考)】
2G085
2G188
5C038
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085AA06
2G085AA11
2G085AA13
2G085BA01
2G085BA02
2G085BA09
2G085BA14
2G085BA15
2G085BA17
2G085EA07
2G188BB12
2G188BB13
2G188BB17
2G188CC01
2G188CC11
2G188CC12
2G188CC13
2G188CC14
2G188CC20
2G188CC21
2G188CC22
2G188CC23
2G188CC28
2G188EE06
2G188EE12
2G188GG09
5C038CC01
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームの輸送路の長さを抑制してビームプロファイルを測定することが可能であり、荷電粒子ビームの周囲への漏洩を低減しつつ、ビームプロファイルが調整された高エネルギの荷電粒子ビームを生成できる加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システムを提供する。
【解決手段】加速器システムおよび放射性核種製造システムは、荷電粒子を発生させる荷電粒子源10と、荷電粒子を加速する加速器とを備え、荷電粒子の輸送路における荷電粒子源10よりも後段側、且つ、荷電粒子の輸送路における加速器の荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管31よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタ1を備える。加速器システムの運転方法は、放射線モニタ1による測定結果に基づいて、加速器で加速される前の荷電粒子ビームのエミッタンスを調整するものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、を備えた加速器システムであって、
前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子源よりも後段側、且つ、前記荷電粒子の輸送路における前記加速器の前記荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタを備える加速器システム。
【請求項2】
請求項1に記載の加速器システムであって、
前記放射線モニタは、前記放射線によって励起されて発光する発光体を備えたシンチレーション検出器である加速器システム。
【請求項3】
請求項1に記載の加速器システムであって、
前記荷電粒子の進行方向における互いに異なる位置に複数の前記放射線モニタを備える加速器システム。
【請求項4】
請求項1に記載の加速器システムであって、
前記荷電粒子の進行方向における互いに同じ位置に複数の前記放射線モニタを備える加速器システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の加速器システムであって、
複数の前記放射線モニタによる検出結果に基づいて前記放射線の量を求める単一の測定部を備える加速器システム。
【請求項6】
請求項1に記載の加速器システムであって、
前記放射線モニタによる検出結果に基づいて前記荷電粒子源または前記加速器を制御する制御部を備える加速器システム。
【請求項7】
請求項6に記載の加速器システムであって、
前記放射線モニタによる検出結果に基づいて前記荷電粒子源または前記加速器をインタロック方式で停止するインタロック装置を備える加速器システム。
【請求項8】
請求項6に記載の加速器システムであって、
前記放射線モニタによる検出結果に基づいて警報を発する警報装置を備える加速器システム。
【請求項9】
請求項6に記載の加速器システムであって、
前記荷電粒子を検出するビームモニタを備え、
前記制御部は、前記放射線モニタによる検出結果および前記ビームモニタによる検出結果に基づいて前記荷電粒子源または前記加速器を制御する加速器システム。
【請求項10】
荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、を備えた加速器システムを運転する加速器システムの運転方法であって、
前記加速器システムは、前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子源よりも後段側、且つ、前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管よりも前段側に、放射線の量を測定する放射線モニタを備え、
前記放射線モニタによる測定結果に基づいて、前記加速器で加速される前の荷電粒子ビームのエミッタンスを調整する加速器システムの運転方法。
【請求項11】
荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、前記加速器により加速された荷電粒子ビーム、または、前記荷電粒子ビームにより発生させた放射線の照射によって核反応で放射性核種を生成する標的と、を備えた放射性核種製造システムであって、
前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子源よりも後段側、且つ、前記荷電粒子の輸送路における前記加速器の前記荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタを備える放射性核種製造システム。
【請求項12】
請求項10に記載の放射性核種製造システムであって、
前記放射性核種としてアクチニウム225(Ac-225)を含む核種を生成する放射性核種製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームのエミッタンス等を調整する加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療法の一種として、ラジオアイソトープ(radioisotope:RI)を用いたRI内用療法が知られている。RI内用療法は、放射性核種が組み込まれた薬剤を投与して患部組織に集積させて、放射性核種が放出する放射線を患部組織に直接照射する治療法である。RI内用療法に用いる放射性核種としては、α線放出核種が注目されている。
【0003】
α線は、飛程が短く、線エネルギ付与が大きいため、周囲の正常細胞を大きく損傷することなく、がん細胞のみを選択的且つ効果的に破壊できる。そのため、α線放出核種を用いるα線内用療法は、β線内用療法等と比較して、高い治療効果が期待されており、臨床への応用が進められている。
【0004】
α線放出核種としては、ラジウム223(Ra-223)、アスタチン211(At-211)、アクチニウム225(Ac-225)等がある。アクチニウム225は、自然界には殆ど存在しない核種であり、ウラン233(U-233)の子孫核種であるトリウム229(Th-229)からの崩壊によって生産されている。
【0005】
アクチニウム225は、子孫核種への崩壊の過程で、フランシウム221(Fr-221)、アスタチン217(At-217)等の複数種のα線放出核種を生じる。また、アクチニウム225は、半減期が約10日であり、適度に寿命が短く安全性が高い一方で、製造後に需要地に輸送する際に大きく減衰しない。そのため、アクチニウム225は、α線内用療法に用いる治療用の薬剤の原料として期待されている。
【0006】
現在、臨床に利用可能なアクチニウム225を製造する施設は、ドイツのカールスルーエにある共同研究センタ(JRC:Joint Research Centre of the European Commission in Karlsruhe)、米国のオークリッジ国立研究所(ORNL:Oak Ridge National Laboratory)、ロシアのオブニンスクにあるロシア国立科学センタ物理エネルギ研究所(IPPE:Institute of Physics and Power Engineering)の3ヵ所のみである。
【0007】
これらの施設では、現在のところ、臨床研究に充分な量のアクチニウム225が製造されている。しかし、がんの潜在的な患者数は膨大である。推定されるがんの患者数から予測される需要量に対しては、治療用のアクチニウム225が大幅に不足すると予想されている。そのため、アクチニウム225のような有用な放射性核種について、加速器を用いて大量生産する技術が望まれている。
【0008】
アクチニウム225のように半減期が短い放射性核種は、長期間にわたる備蓄には適していない。半減期が短い放射性核種は、放射性核種を用いる治療計画に応じて、必要時に遅滞なく供給される必要がある。そのため、アクチニウム225のような放射性核種を製造する製造システムには、安定的な生産能力や高い信頼性が要求される。
【0009】
放射性核種の製造に加速器を用いる場合、要求される需要量の放射性核種を必要時に安定的に製造するためには、加速器の稼働率を高く維持することが重要である。加速器の稼働率を低下させる要因としては、放射性障害による半導体部品のソフトエラーやハードエラーがある。半導体部品が用いられる要素機器は、多くの場合、放射化によって誤作動や故障を生じる。要素機器の放射化は、加速された荷電粒子がビームパイプの内壁等に衝突し、散乱した荷電粒子が入射することによって起こるのが一般的である。
【0010】
したがって、加速器の稼働率を向上させるために、荷電粒子ビームのビームプロファイルの適切な管理が望まれる。ビームの損失が生じる位置や、ビームの損失量や、ビームの損失の要因を分析し、分析結果に基づいて加速器の運転パラメータを適切に調整する必要がある。従来、ビームプロファイルを監視するために、各種の技術が提案されている。
【0011】
特許文献1には、「電子銃及び前記電子銃電源は、電子を放出するカソードと、カソードに対して高電位で電子を加速するアノードと、アノードに電圧を印加する電源と、カソードから熱電子を放出させるカソード加熱手段とを含む二極管であり、電子銃から出射される電子ビーム電流又は、電子ビームにより発生したX線の強度を測定し測定値を得るモニターと、モニターで測定した測定値に基づいて電子銃電源を制御するコントローラとを備え、コントローラにより、発生する電子ビームの単位時間あたりの平均電流を制御して、X線強度を一定にするようにした。」(要約)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-026653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
加速器の稼働率の向上や加速器の適切な運用のためには、荷電粒子ビームのビームプロファイルの適切な調整が必要であり、ビームプロファイルを正確に測定する技術が重要となる。従来、荷電粒子ビームを測定するビームモニタとしては、ビーム位置モニタや、ビーム電流モニタ等が用いられている。
【0014】
しかし、一般的なビームモニタを加速器に設置する場合、電磁場や電流等を検出する検出器や、検出器と荷電粒子ビームの輸送路とを絶縁する絶縁材等を、ビームパイプに組み込む必要がある。一般的なビームモニタは、冷却機構と共にビームパイプの中間部に連結されている。そのため、ビームモニタを設置すると、荷電粒子ビームの輸送路の全長が長くなるという問題がある。
【0015】
荷電粒子ビームの輸送路が長くなると、ビームの漏洩が起こり易くなる。ビームのエミッタンスが大きい場合、多くの荷電粒子がビームの全体的な進行方向とは異なる方向に飛んでいる状態である。このような状態では、荷電粒子ビームの輸送路が長くなるほど、ビームの進行方向と直交する方向への漏洩が多くなる。そのため、加速器の周囲に設置された機器が放射線障害による誤作動や故障を起こし易くなる。
【0016】
特に、加速器の低エネルギビーム輸送系(Low Energy Beam Transport:LEBT)では、輸送される荷電粒子のエネルギが低いため、荷電粒子同士の電気的な斥力が強くなり、クーロン散乱による影響が大きくなる。また、荷電粒子の存在密度が高くなり易いため、ビーム自体を発散させる空間電荷効果も大きくなる。荷電粒子ビームが適切に抑制されていないと、LEBTにおける漏洩や、加速後や偏向後の漏洩に繋がり易くなる。
【0017】
このように、加速器の稼働率の向上や加速器の適切な運用のためには、荷電粒子ビームのエミッタンス等を適切に調整する必要があり、ビームプロファイルの正確な測定が望まれる。但し、荷電粒子ビームの輸送路の延長は避けるべきである。荷電粒子ビームの輸送路の長さを抑制しつつ、荷電粒子ビームのビームプロファイルを監視できる技術が求められている。
【0018】
そこで、本発明は、荷電粒子ビームの輸送路の長さを抑制してビームプロファイルを測定することが可能であり、荷電粒子ビームの周囲への漏洩を低減しつつ、ビームプロファイルが調整された高エネルギの荷電粒子ビームを生成できる加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために本発明に係る加速器システムは、荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、を備えた加速器システムであって、前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子源よりも後段側、且つ、前記荷電粒子の輸送路における前記加速器の前記荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタを備える。
【0020】
また、本発明に係る加速器システムの運転方法は、荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、を備えた加速器システムを運転する加速器システムの運転方法であって、前記加速器システムは、前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子源よりも後段側、且つ、前記荷電粒子の輸送路における前記荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管よりも前段側に、放射線の量を測定する放射線モニタを備え、前記放射線モニタによる測定結果に基づいて、前記加速器で加速される前の荷電粒子ビームのエミッタンスを調整する。
【0021】
また、本発明に係る放射性核種製造システムは、荷電粒子を発生させる荷電粒子源と、前記荷電粒子を加速する加速器と、前記加速器により加速された荷電粒子ビーム、または、前記荷電粒子ビームにより発生させた放射線の照射によって核反応で放射性核種を生成する標的と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、荷電粒子ビームの輸送路の長さを抑制してビームプロファイルを測定することが可能であり、荷電粒子ビームの周囲への漏洩を低減しつつ、ビームプロファイルが調整された高エネルギの荷電粒子ビームを生成できる加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る加速器システムの一例を示す図である。
図2】加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。
図3】加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。
図4】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図5】加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。
図6】加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。
図7】加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。
図8】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図9】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図10】加速器システムの制御例を示すフローチャートである。
図11】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図12】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図13】加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。
図14】本発明の実施形態に係る放射性核種製造システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る加速器システム、加速器システムの運転方法および放射性核種製造システムについて、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る加速器システムの一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る加速器システム100は、荷電粒子を発生させる荷電粒子源10や、低エネルギの荷電粒子を輸送する低エネルギ輸送部20や、荷電粒子を加速する加速器30や、加速された高エネルギの荷電粒子を輸送する高エネルギ輸送部40や、加速された荷電粒子を標的に照射する照射部50等を備える。
【0026】
加速器システム100では、荷電粒子源10が発生させた荷電粒子が、荷電粒子源10から低エネルギ輸送部20を介して加速器30に輸送される。荷電粒子源10が発生させた荷電粒子は、集束されて荷電粒子ビームを形成する。荷電粒子ビームは、加速器30において、加速管の内部に形成される磁場によって所定のエネルギ帯域まで加速される。
【0027】
加速器30によって加速された荷電粒子ビームは、高エネルギ輸送部40を通じて加速器30から高エネルギ輸送部40を介して照射部50に輸送される。照射部50では、加速器30によって加速された荷電粒子ビームがビーム窓60から出射される。ビーム窓60から取り出された荷電粒子ビームは、加速器システム100の用途に応じた所定の標的に照射される。標的を透過した荷電粒子ビームは、ビームダンプによって減衰される。
【0028】
加速された荷電粒子ビームは、放射性核種製造プロセスや、放射線治療、放射線診断や、放射線試験、放射線分析等、適宜の用途に用いることができる。放射性核種製造プロセスでは、原料核種を含む標的に対して、荷電粒子ビームや、荷電粒子ビームによって発生させた放射線を照射できる。これらの放射線の照射によって原料核種を核反応させて所定の生成核種に核変換させると、目的の放射性核種を製造できる。
【0029】
加速器システム100において、荷電粒子源10が発生させた荷電粒子は、荷電粒子源10から照射部50のビーム窓60まで、荷電粒子ビームとして収束されながら、真空引きされた空間を輸送されて取り出される。荷電粒子の輸送路は、低エネルギ輸送部20や高エネルギ輸送部40を構成するビームパイプや、加速器30を構成する加速管等によって形成される。
【0030】
本実施形態に係る加速器システム100では、荷電粒子の輸送路における加速器30を構成する加速管よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタを設置する。放射線モニタは、荷電粒子ビームや、荷電粒子ビームによって生成された二次的な放射線の検出に用いられる。これらの放射線の検出によって、荷電粒子ビームのビームプロファイルを監視して、ビームプロファイルの評価や調整を行う。
【0031】
従来、加速器におけるビームプロファイルは、加速管や加速管よりも後段側で監視されるのが一般的である。従来の一般的なプロファイルモニタは、ビーム電流や、ビームの入射による二次的な放射線や放射光等を検出するものであり、加速管の内部の空洞や、加速管よりも後段側のビームパイプ等に設置されている。
【0032】
これに対し、本実施形態に係る加速器システム100では、放射線を検出する放射線モニタを加速管よりも前段側に設置するため、加速される前のエネルギが低い荷電粒子のビームプロファイルを直接的に監視できる。クーロン散乱や空間電荷効果の影響が大きい状態を監視できるため、エミッタンスの増大を早期に検知して、エミッタンスを小さくする調整や、加速器30の停止等の対策を適時に行うことができる。
【0033】
図2は、加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。図2には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの配置の一例を模式的に示す。図2において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号11はソレノイドコイルを示す。
【0034】
図2に示すように、放射線を検出する放射線モニタ1は、荷電粒子の輸送路における荷電粒子源10よりも後段側、且つ、加速器30の荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管31よりも前段側に設置できる。図2において、放射線モニタ1は、低エネルギ輸送部20を形成するビームパイプの内部に設置されている。
【0035】
放射線モニタ1は、荷電粒子源10よりも後段側、且つ、加速管31よりも前段側に存在する荷電粒子ビームや、荷電粒子ビームによって生成された放射線を検出する。放射線モニタ1による検出結果に基づくと、放射線モニタ1の位置における放射線の量を求めることができる。放射線モニタ1によって、荷電粒子ビームや、荷電粒子ビームによって生成された放射線について、フルエンスないし線量の測定や計数が可能になる。
【0036】
放射線の量の測定結果は、荷電粒子ビームのビームプロファイルの評価や調整に用いられる。ビームプロファイルとは、ビームの位置、形状、強度等に関する幾何学的な性状を意味する。ビームプロファイルとしては、ビーム中心の位置、ビームの強度の空間的分布、ビームのエミッタンス等が挙げられる。ビームプロファイルとしては、少なくともエミッタンスが評価や調整の対象とされることが好ましい。
【0037】
エミッタンスは、ビームを構成する粒子の要素構造を示す位相空間分布において、粒子が占める分布の面積をπで除算した量として定義される。ビームを構成する粒子の要素構造としては、粒子の位置や、粒子の進行方向等がある。エミッタンスは、ビームの拡がりの度合を示し、ビームを構成する粒子の位置や進行方向の指標となる。
【0038】
エミッタンスが大きいほど、粒子の位置や進行方向のバラつきが多く、品質が低いビームとなる。このようなビームは、ビームパイプや加速管の内壁に衝突して吸収されたり散乱されたりするため、損失が多いビームとなる。一方、エミッタンスが小さいほど、粒子の進行方向のバラつきが少なく、品質が高いビームとなる。このようなビームは、ビームパイプや加速管の内壁に衝突し難いため、損失が少ないビームとなる。
【0039】
一般に、荷電粒子ビームを所定のエネルギ帯域まで加速させる際には、荷電粒子の加速が段階的ないし漸次的に行われる。荷電粒子は、目標のエネルギ帯域に加速されるまでに、エネルギが小さい中間的な状態を経る。このような状態では、クーロン散乱が強く影響するため、荷電粒子同士の電気的な斥力が強くなる。また、荷電粒子の存在密度が高い場合、空間電荷効果が大きくなり、斥力によるビームの発散が起こり易くなる。
【0040】
そのため、荷電粒子のエネルギが小さい領域ほど、エミッタンスの増大が問題となる。エミッタンスの増大は、特に加速器の低エネルギビーム輸送系(LEBT)において顕著である。LEBTでは、荷電粒子のエネルギが小さく、また、狭い空間によって空間電荷効果が大きくなるためである。一方、荷電粒子が或る程度まで加速されると、クーロン散乱や空間電荷効果の影響を受け難くなるため、エミッタンスは小さくなっていく。
【0041】
したがって、放射線を検出する放射線モニタ1を、加速器30を構成する加速管31よりも前段側に設置して、エネルギが低い荷電粒子のエミッタンス等のビームプロファイルを監視すると、ビームプロファイルの調整の応答性を向上できる。また、後段側におけるビームプロファイルを限定できる。エミッタンス等のビームプロファイルの調整を早期に応答性よく実行できるようになるため、エミッタンスの増大による損失や後段側への影響を最小限に抑制できる。
【0042】
荷電粒子源10としては、適宜の種類の荷電粒子を発生させる装置を用いることができる。荷電粒子としては、電子、陽子、アルファ粒子、重イオン粒子等が挙げられる。荷電粒子源10としては、ビームプロファイルの調整を行う観点からは、出力電流を可変的に制御できる種類が好ましい。
【0043】
荷電粒子源10としては、荷電粒子を適宜の方式で発生させる装置を用いることができる。例えば、電子を発生させる場合には、タングステン等で形成されたフィラメントを加熱して電子を発生させる熱電子放出型電子銃や、フォトカソードにレーザを照射して光電効果によって電子を発生させる光電型電子銃等を使用できる。陽子、アルファ粒子、重イオン粒子等を発生させる場合には、プラズマ型、放電型等のイオン源を使用できる。
【0044】
低エネルギ輸送部20としては、加速器30で加速される前の荷電粒子を輸送する限り、適宜のエネルギの荷電粒子を輸送する輸送系を設けることができる。低エネルギ輸送部20は、荷電粒子の輸送路を形成するビームパイプ等によって形成される。ビームパイプの内部は、ターボ分子ポンプ等の排気装置によって真空引きされる。
【0045】
低エネルギ輸送部20には、荷電粒子2の入射を誘導するソレノイドコイル11や、ビームのエネルギを限定するデバンチャや、荷電粒子ビームを収束させる四重極電磁石や、静電レンズ等が備えられる。低エネルギ輸送部20には、荷電粒子ビームを偏向させる偏向部が偏向電磁石等によって形成されてもよい。
【0046】
加速器30としては、適宜の型式の装置を用いることができる。加速器30によって付与される加速エネルギは、特に限定されるものではない。加速器30は、荷電粒子2の輸送路を形成する加速管31等によって形成される。加速管31の内部は、ターボ分子ポンプ等の排気装置によって真空引きされる。
【0047】
加速器30には、荷電粒子ビームを収束させる収束コイルや、加速管31の内部に電場を形成する複数の電極や、電極に電圧を印加する電源等が備えられる。加速管31の内部には、荷電粒子ビームの進行方向に沿って、高周波四重極等の複数の電極対が備えられる。電極同士の間には、高周波電源によって高周波電圧が印加されてもよいし、直流電源によって直流電圧が印加されてもよい。
【0048】
電極対を形成する電極同士の間には、電源からの給電によって電圧が印加されて、加速電場が形成される。荷電粒子は、加速電場によって互いに同じ方向に進むように運動エネルギが付与される。また、電極対を形成する電極同士の間には、荷電粒子ビームの進行が妨げられないように、所定の口径の空間が確保される。各電極への電力の供給は、断面形状が円形状、矩形状等である電源ケーブルや同軸ケーブル等で行うことができる。
【0049】
なお、図1および図2において、加速器30としては、1段の線形加速器が図示されている。線形加速器によると、サイクロトロン等の円形加速器と比較して、高エネルギを付与する加速を小規模の装置で実現できる。但し、加速器30としては、任意の型式の装置を任意の段数で備えることができる。
【0050】
例えば、加速器30としては、サイクロトロン、シンクロトロン、バンデグラーフ型加速器、コッククロフトウォルトン型加速器等を用いることもできる。また、加速器30としては、四重極電磁石系とドリフトチューブとの組み合わせ等を用いることもできる。加速器30が複数段で構成される場合、放射線モニタ1は、最前段の加速管31よりも前段側に少なくとも設置される。
【0051】
放射線モニタ1は、荷電粒子の輸送路における荷電粒子源10よりも後段側、且つ、加速器30の荷電粒子を加速する電場を発生させる加速管31よりも前段側である限り、適宜の場所に設置できる。放射線モニタ1は、荷電粒子源10の出口側に設けられる引き出し電極よりも後段側、且つ、加速管31の電場が形成される空洞よりも前段側に設置されることが好ましい。
【0052】
また、放射線モニタ1は、低エネルギ輸送部20を構成するビームパイプの内部または外部に設置されることがより好ましく、低エネルギ輸送部20を構成するビームパイプの前部側の内部または外部に設置されることが更に好ましい。このような配置であると、エネルギが低い状態である荷電粒子や、このような荷電粒子による放射線を直接的に監視できる。
【0053】
放射線モニタ1は、荷電粒子の輸送路の内部の空間に設置されてもよいし、荷電粒子の輸送路の外部の空間に設置されてもよい。放射線モニタ1を輸送路の内部に設置すると、放射線モニタ1の位置におけるフルエンスや、その空間的密度であるフラックスや、放射線の線量や線量率等を測定できる。一方、放射線モニタ1を輸送路の外部に設置すると、外部に漏洩した放射線の線量や線量率等を測定できる。
【0054】
但し、荷電粒子の輸送路における前段側であるほど、荷電粒子の透過力が低いため、輸送路の外部に設置された放射線モニタ1では、荷電粒子ビーム等の放射線を検出し難くなる。そのため、荷電粒子の輸送路における前段側であるほど、放射線モニタ1を輸送路の内部に設置することが好ましい。
【0055】
放射線モニタ1としては、各種の検出原理で放射線を検出する装置を用いることができる。放射線モニタ1は、荷電粒子ビーム等の放射線を直接的に検出してもよいし、放射線との相互作用を検出してもよい。放射線モニタ1としては、例えば、シンチレーション検出器や、半導体検出器や、GM計数管、電離箱等のガス検出器等を用いることができる。
【0056】
シンチレーション検出器は、放射線によって励起されて発光する発光体を備えており、放射線によって励起された励起電子が基底準位に戻る過程で放出される発光を光検出器によって計測する検出器である。半導体検出器は、放射線によって電子が伝導帯に励起された半導体に電圧を印加する構成であり、放射線励起による通電電流を電気信号として計測する検出器である。ガス検出器は、放射線によって電離したガスに電圧を印加する構成であり、放射線励起による通電電流を電気信号として計測する検出器である。
【0057】
放射線モニタ1としては、耐電気ノイズ性や耐放射線性が高い種類を用いることが好ましい。放射線モニタ1を設置する場所には、荷電粒子の輸送路を真空引きするための排気ポンプや電源等の電気機器が設置されている場合がある。このような場合、放射線モニタ1による検出結果が、電気ノイズの影響を受け易くなるため、高い耐電気ノイズ性が要求される。また、高線量下での測定を行うため、高い耐放射線性が要求される。
【0058】
放射線モニタ1としては、シンチレーション検出器を用いることが特に好ましい。シンチレーション検出器によると、放射線との相互作用が発光光として検出されるため、検出結果が電気ノイズの影響を受け難くなる。また、検出結果が光信号として伝送されるため、検出信号を伝送する伝送路の自由度が高くなる。例えば、光信号を伝送する経路を、光透過性材料を透過させる方法で形成することが可能である。そのため、電気信号を伝送する場合と比較して、荷電粒子の輸送路の真空度の確保や、不要な放射線に対する遮蔽性の確保が容易になる。
【0059】
シンチレーション検出器としては、検出素子として適宜の種類の発光体を備えた検出器を用いることができる。発光体としては、無機結晶である無機シンチレータを用いてもよいし、有機物である有機シンチレータを用いてもよい。また、気体状である気体シンチレータを用いてもよいし、液体状である液体シンチレータを用いてもよい。但し、耐放射線性や取り扱い性の観点からは、無機シンチレータを用いることが好ましい。
【0060】
発光体としては、NaI、CsI、LiI、SrI、CdWO、PbWO、ZnS、CaF、BaF、CeF、CeBr、CsF、LiF、GdS、LaBr、CeBrや、BiGe12(BGO)、BiSi12(BSO)、LuAl12(LuAG)、LuAlO(LuAP)、Lu、YAl12(YAG)、YAlO(YAP)、LuSiO(LSO)、YSiO(YSO)、LuSiO・YSiO(LYSO)、GdSiO(GSO)、GdAlGa12(GAGG)、CsLiYCl(CLYC)、CsHfI(CHI)や、ScTaO、LaTaO、LuTaO、GdTaO、YTaO、InBO、YS、ZnSiOや、Si・Alで表されるサイアロン蛍光体等の光透過性材料が挙げられる。
【0061】
また、発光体としては、これらの光透過性材料に、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y等の希土類元素や、Tl、Na、Ag、W、Cu、Al、Au、Mn、CO等の元素やイオンや、活性化物質等の蛍光材料を含有させた材料を用いることができる。例えば、InBO:Tb、InBO:Eu、ZnS:Cu、ZnS:Al、ZnS:Au、YS:Eu、YS:Tb、ZnSiO:Mn等を用いることができる。発光体にドープされるイオンの価数は、発光に利用可能である限り、特に限定されるものではない。例えば、1価、2価、3価、4価等、適宜の価数のイオンをドープできる。
【0062】
図3は、加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。図3には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの配置の一例を模式的に示す。図3において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号3は荷電粒子ビームの中心軸、符号4は荷電粒子の輸送路の壁部を示す。
【0063】
図3に示すように、放射線を検出する放射線モニタ1は、荷電粒子の輸送路の内部に設置する場合、荷電粒子ビームの中心軸3から離隔した側方に設置することが好ましい。放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの中心軸3と交差しない位置であって、荷電粒子の輸送路の壁部4の近傍や、荷電粒子の輸送路の壁部4よりも外側に設置することが好ましい。
【0064】
荷電粒子2は、荷電粒子の輸送路の内部において、磁場で収束されながら輸送される。荷電粒子ビームの中心軸3は、ビームの全体的な進行方向を示し、荷電粒子ビームの強度の重心の位置に対応している。荷電粒子2の存在密度分布は、荷電粒子ビームの中心軸3の側で高くなる。荷電粒子ビームのエミッタンスを増大させるのは、ビームの全体的な進行方向とは異なる方向に向けて飛ぶ荷電粒子2である。
【0065】
放射線モニタ1を荷電粒子の輸送路の内部に設置する場合、このような異なる方向に向けて飛ぶ荷電粒子2を、放射線モニタ1によって検出できる。放射線モニタ1は、輸送路の内部に設置する場合、例えば、ビームパイプの内壁に固定することができる。一方、輸送路の外部に設置する場合、ビームパイプの外壁に固定したり、ビームパイプの近傍に治具によって固定したりできる。
【0066】
図4は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図4には、放射線モニタの一種であるシンチレーション検出器を用いる場合の構成を模式的に示す。図4において、符号1はシンチレーション検出器である放射線モニタ、符号4は荷電粒子の輸送路の壁部、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号7はポートを示す。
【0067】
図4に示すように、放射線を検出する放射線モニタ1は、放射線の検出結果を測定部5に伝送して放射線の量を求める構成とすることができる。測定部5は、放射線モニタ1による検出結果に基づいて、放射線モニタ1の位置における放射線の量を測定する装置によって構成される。測定部5としては、放射線モニタ1としてシンチレーション検出器を用いる場合、発光体が放出した発光光を定量的に検出する光検出器を用いることができる。
【0068】
測定部5は、荷電粒子の輸送路の外部に設置できる。放射線モニタ1と測定部5とは、放射線モニタ1による検出信号を伝送する伝送部6を介して互いに接続される。伝送部6は、荷電粒子の輸送路の壁部4に設けられたポート7を介することによって、荷電粒子の輸送路の内外にわたって敷設することができる。
【0069】
光検出器である測定部5は、放射線モニタ1の発光体が放出した発光光の光信号を、放射線モニタ1から伝送部6を介して受信する。測定部5は、受信した発光光の光信号を光電変換し、変換された電気信号をカウントする。このような測定部5によると、放射線モニタ1の発光体が放射線を検出して放出した発光光を定量できるため、放射線モニタ1によって検出された放射線の量を定量的に求めることができる。
【0070】
放射線モニタ1としては、単一の検出素子を備えたシンチレーション検出器を設置してもよいし、複数の検出素子がアレイ状に配列したマルチチャンネルのシンチレーション検出器を設置してもよい。測定部5としては、放射線モニタ1の検出素子である発光体の数に応じて、複数のチャンネル数の光検出器を設置できる。
【0071】
光検出器は、検出された発光光を光電変換して発光強度に応じた電気信号を生成する機能や、電気信号を増幅する機能や、電気信号をA/D変換する機能等を備えることができる。放射線モニタ1が放射線の量に応じて放出した光子を光検出器によって検出し、検出された光信号をパルス状の電気信号に変換し、必要に応じて増幅してからカウントすることによって、放射線モニタ1の位置における放射線の量を測定できる。
【0072】
光検出器としては、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管等を用いることができる。電気信号をカウントする手段としては、デジタルシグナルプロセッサ、マルチチャネルアナライザ、パルスカウンタ等を用いることができる。光検出器は、光信号を波長変換する光学フィルタや、電気信号を増幅する増幅器や、光信号を増幅する光増幅器等を備えてもよい。
【0073】
伝送部6は、放射線モニタ1のチャンネル数に応じて、光ファイバ、光ファイババンドル、波長変換光ファイバ、ライトガイド等で形成できる。伝送部6を形成する材料としては、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン等のプラスチックや、石英ガラス等が挙げられる。伝送部6を形成する材料としては、耐放射線性の観点からは、石英ガラスが好ましい。
【0074】
伝送部6は、光信号を伝送可能である限り、放射線モニタ1や測定部5に対して、直接的に接続してもよいし、光学系を介して接続してもよい。伝送部6を直接的に接続する場合、光学的コネクタを介して連結する方法や、光学面同士を直接的に接合する方法を用いることができる。光学面同士を直接的に接合する場合、オプティカルグリース、オプティカルセメント等を用いることができる。光学系としては、集光やコリメート等の光学的機能を利用可能であり、集光レンズ、発散レンズ等を用いることができる。
【0075】
ポート7は、光信号を伝送可能な構造、且つ、荷電粒子の輸送路の真空度を維持可能な気密性の構造に設けられる。ポート7としては、光ファイバ等が挿通される構造や、ライドガイド等を埋設した構造等、適宜の構造を設けることができる。また、ポート7としては、既存のビューポートを用いることもできる。既存のビューポートを用いる場合、オプティカルグリース、オプティカルセメント等を用いて、伝送部6の末端の光学面をビューポートの表面に接着できる。
【0076】
このようなシンチレーション検出器や光検出器を用いると、放射線モニタ1の位置における放射線が発光体によって検出された後、発光光による光信号として伝送される。そのため、放射線の検出中の放射線モニタ1や、伝送中の検出結果が、電気ノイズによる擾乱を受け難くなる。よって、放射線モニタ1や測定部5が、電気機器や荷電粒子ビームによる電気ノイズが発生し易い場所に設置される場合であっても、放射線モニタ1の位置における放射線の量を正確に求めることができる。
【0077】
また、シンチレーション検出器を用いると、放射線を検出する検出素子として耐放射線性が高い発光体の利用が可能である。そのため、加速管31よりも前段側の高線量下において、長時間にわたって安定的な監視を行うことができる。また、伝送部6としては、例えば、直径が1mm以下である光ファイバ等を使用できるため、荷電粒子ビームの進行方向に沿ったポート7の長さを抑制できる。ポート7の長さが電磁石の配置に影響するような場合であっても、荷電粒子ビームの輸送路の長さを抑制できるため、荷電粒子ビームの周囲への漏洩を低減できる。
【0078】
図5は、加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。図5には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの配置の一例を模式的に示す。図5において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号3は荷電粒子ビームの中心軸、符号4は荷電粒子の輸送路の壁部を示す。
【0079】
図5に示すように、加速器システム100においては、荷電粒子ビームの進行方向における互いに異なる位置に、複数の放射線モニタ1を設置することもできる。複数の放射線モニタ1によって、荷電粒子ビームの進行方向における互いに異なる位置毎に放射線を検出して、放射線の量の位置的な変化を求めることができる。
【0080】
複数の放射線モニタ1を設置する場合、荷電粒子の輸送路における荷電粒子源10よりも後段側、且つ、荷電粒子を加速する電場を発生させる加速器30の加速管31よりも前段側に、少なくとも1つの放射線モニタ1を設置する。他の放射線モニタ1については、荷電粒子の輸送路における任意の位置に設置できる。他の放射線モニタ1は、加速管31よりも前段側に設置されてもよいし、加速管31に設置されてもよいし、加速管31よりも後段側に設置されてもよい。
【0081】
複数の放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの進行方向における互いに異なる位置において、荷電粒子の輸送路の内部に設置されてもよいし、荷電粒子の輸送路の外部に設置されてもよい。但し、複数の放射線モニタ1のうちの少なくとも一部は、互いに同じ空間に設置されることが好ましい。また、荷電粒子ビームの中心軸3と平行な方向から視た軸方向視において、互いに同じ位置に設置されることが好ましい。
【0082】
このように荷電粒子ビームの進行方向における互いに異なる位置に複数の放射線モニタ1を設置すると、放射線の量の位置的な変化を測定できるため、エミッタンス等のビームプロファイルの位置的な変化や、位置毎の荷電粒子の漏洩量を正確に評価できる。例えば、加速管31よりも前段側では、エミッタンス等のビームプロファイルを評価し、加速管31よりも後段側では、加速によって低下したエミッタンス等の結果を確認することができる。
【0083】
なお、図5において、放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの進行方向において計2箇所に設置されているが、荷電粒子ビームの進行方向における任意の個数の位置に設置できる。例えば、加速管31よりも前段側に複数の放射線モニタ1を設置したり、加速管31や加速管31よりも後段側に複数の放射線モニタ1を設置したりすることができる。
【0084】
図6は、加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。図6には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの配置の一例を模式的に示す。図6は、荷電粒子の輸送路を荷電粒子ビームの中心軸と平行な方向から視た断面図に相当する。図6において、符号1は放射線モニタ、符号3は荷電粒子ビームの中心軸、符号4は荷電粒子の輸送路の壁部を示す。
【0085】
図6に示すように、加速器システム100においては、荷電粒子ビームの進行方向における互いに同じ位置に、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向において互い異なる位置となるように、複数の放射線モニタ1を設置することもできる。複数の放射線モニタ1によって、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向における互いに異なる位置毎に放射線を検出して、放射線の量の位置的な変化や、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向における放射線の空間的分布を求めることができる。
【0086】
複数の放射線モニタ1を設置する場合、荷電粒子ビームの中心軸3と平行な方向から視た軸方向視において、互いに異なる位置に放射線モニタ1を設置する。複数の放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの中心軸3の周囲に、互いに適宜の間隔をあけて設置できる。複数の放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの中心軸3に対して対称状に設置されることが好ましい。
【0087】
複数の放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの進行方向における互いに同じ位置において、荷電粒子の輸送路の内部に設置されてもよいし、荷電粒子の輸送路の外部に設置されてもよい。但し、複数の放射線モニタ1のうちの少なくとも一部は、互いに同じ空間に設置されることが好ましい。
【0088】
このように荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向における互いに異なる位置に複数の放射線モニタ1を設置すると、放射線の量の位置的な変化や、荷電粒子ビームの中心軸3に対する放射線の空間的分布を測定できるため、荷電粒子の進行方向と直交する方向における放射線の量の偏りや、方向毎の荷電粒子の漏洩量を正確に評価できる。例えば、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向の座標系について、エミッタンス等のビームプロファイルを確認することができる。
【0089】
なお、図6において、放射線モニタ1は、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向において計4箇所に設置されているが、荷電粒子ビームの進行方向と直交する方向における任意の個数の位置に設置できる。例えば、荷電粒子ビームの中心軸3に対して上部側と下部側との計2箇所や、荷電粒子ビームの中心軸3に対して左右の側部側の計2箇所や、荷電粒子の輸送路の断面を8等分する計8箇所等、適宜の対称的な位置に設置できる。
【0090】
図7は、加速器システムにおける放射線モニタの配置例を示す図である。図7には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの配置の一例を模式的に示す。図7において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号11はソレノイドコイル、符号70は偏向部を示す。
【0091】
図7に示すように、加速器システム100においては、荷電粒子ビームを偏向させる偏向部70に放射線モニタ1を設置することもできる。偏向部70は、荷電粒子ビームの軌道を磁場によって偏向させる部位であり、偏向電磁石によって形成される。放射線モニタ1は、例えば、偏向電磁石のダクトの内部であって、偏向軌道の内側や外側等に設置できる。
【0092】
偏向部70は、加速器30の加速管31よりも前段側に設けられてもよいし、加速器30の加速管31よりも後段側に設けられてもよい。偏向部70が加速管31よりも前段側に設けられる場合、偏向部70のみに放射線モニタ1を設置してもよいし、偏向部70と偏向部70以外のビームパイプ等との両方に放射線モニタ1を設置してもよい。一方、偏向部70が加速管31よりも後段側に設けられる場合、加速管31よりも前段側および偏向部70の両方に放射線モニタ1を設置できる。
【0093】
このように偏向部70に放射線モニタ1を設置すると、軌道が偏向される荷電粒子のビームプロファイルや、偏向によってビームの全体的な進行方向とは異なる方向に向けて飛ぶ荷電粒子の漏洩量を直接的に監視できる。例えば、加速管31よりも前段側に設置された放射線モニタ1による検出結果と、偏向部70に設置された放射線モニタ1による検出結果とに基づいて、放射線の量の偏向による変化や、偏向による荷電粒子のバラつきや損失を評価できる。よって、偏向後のビームプロファイルが適切になるようなビームプロファイルの調整が可能になる。
【0094】
加速管31よりも前段側において荷電粒子ビームのエミッタンスが大きい場合、偏向部70では、荷電粒子が設計軌道に対して過大に偏向されたり、過少に偏向されたりすることがある。このような偏向軌道のバラつきは、荷電粒子の進行方向のバラつきや、エネルギ分散によるエネルギ的なバラつきを要因として生じる。偏向軌道が設計軌道から逸脱すると、荷電粒子が輸送路の内壁に衝突して吸収または散乱されるため、荷電粒子ビームの損失や、ビームプロファイルの悪化の要因となる。
【0095】
これに対し、偏向部70に放射線モニタ1を設置すると、放射線の量の偏向による変化や、偏向による荷電粒子のバラつきや損失を評価することが可能になり、偏向後のビームプロファイルが適切になるようなビームプロファイルの調整が可能になる。そのため、設計軌道に対する偏向軌道の逸脱による荷電粒子ビームの損失や、ビームプロファイルの悪化や、荷電粒子に輸送路の周辺に設置された要素機器の放射線障害を低減できる。
【0096】
図8は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図8には、放射線モニタの一種であるシンチレーション検出器を用いる場合の構成を模式的に示す。図8において、符号1はシンチレーション検出器である放射線モニタ、符号4は荷電粒子の輸送路の壁部、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号7はポートを示す。
【0097】
図8に示すように、放射線を検出する放射線モニタ1は、複数の放射線モニタ1を設置する場合、放射線の検出結果を共通の測定部5に伝送する構成に設けることもできる。複数の放射線モニタ1に対しては、複数の測定部5を個別に接続することもできるが、単一の測定部5を接続することが好ましい。
【0098】
測定部5は、複数の放射線モニタ1から伝送された検出信号を、測定場所や測定対象の種類によって区別される荷電粒子ビームの一つの状態を表す放射線の量の測定に用いてもよいし、荷電粒子ビームの互いに異なる複数の状態を表す放射線の量の測定に用いてもよい。複数の放射線モニタ1から伝送される光子は、互いに区別されてもよいし、互いに区別されなくてもよい。
【0099】
例えば、放射線モニタ1が設置された位置を、同じ位置におけるビームプロファイルを示す座標系に対応付けてもよいし、放射線モニタ1が設置された角度を、同じ位置におけるビームプロファイルを示す座標系の角度に対応付けてもよいし、互いに異なる位置におけるビームプロファイルの評価や、互いに異なる種類のビームプロファイルの評価に用いてもよい。
【0100】
複数の放射線モニタ1と単一機の測定部5との接続は、例えば、光信号の経路を切り替える光スイッチによって変更できる。光スイッチとしては、マイクロミラーを用いた微小機械電気システム(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)式や、プリズム等の光学系を駆動させて切り替える機械式や、光学材料の反射率や屈折率を変化させる導波路切替式等を用いることができる。
【0101】
このような共通の測定部5に伝送する構成によると、放射線の量を測定する測定部5の設置数を削減できる。そのため、光検出器等のような放射線の量の測定に関わる機器の設置コストを低減できる。また、光検出器等の測定部5は、測定前に感度の校正を行う必要がある。測定部5の設置数を削減すると、このような校正に関わる作業についても削減できる。
【0102】
なお、図8において、単一の測定部5には、計2基の放射線モニタ1が接続されているが、任意の個数の放射線モニタ1を接続できる。例えば、放射線モニタ1の相互の距離等に応じて、単一の測定部5に接続する放射線モニタ1を選定することが可能であり、荷電粒子ビームの進行方向における互いに同じ位置に設置された複数の放射線モニタ1等を共通の測定部5に接続できる。
【0103】
図9は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図9には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの構成の一例を模式的に示す。図9において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号11はソレノイドコイル、符号12は制御部、符号13は測定信号を伝送する測定信号線、符号14は制御信号を伝送する制御信号線を示す。
【0104】
図9に示すように、加速器システム100においては、放射線モニタ1と制御部12とを、信号線を介して互いに接続できる。制御部12は、放射線モニタ1によって測定された放射線の量の測定結果に基づいて、荷電粒子源10や加速器30の運転の制御を行う。放射線モニタ1によって検出された検出結果に基づいて、荷電粒子源10や加速器30の運転を制御することによって、荷電粒子ビームのエミッタンス等のビームプロファイルを調整することが可能である。
【0105】
放射線モニタ1と測定部5とは、放射線モニタ1による検出信号を伝送する伝送部6を介して互いに接続される。測定部5と制御部12とは、放射線モニタ1による測定信号を伝送する測定信号線13を介して互いに接続される。制御部12と荷電粒子源10や加速器30とは、荷電粒子源10や加速器30の制御信号を伝送する制御信号線14を介して互いに接続される。
【0106】
制御部12は、パーソナルコンピュータや、制御計算機等によって形成できる。制御部12によって、荷電粒子源10を制御する制御計算機や、加速器30を制御する制御計算機に対して、各種の運転パラメータを調整するための制御信号が出力される。なお、図9において、制御部12は、荷電粒子源10や加速器30に対して制御信号線14を介して接続されているが、低エネルギ輸送部20等に設置される電磁石の制御器を制御する構成とされてもよい。
【0107】
運転パラメータとしては、荷電粒子源10の引き出し電極の電圧や、熱電子放出型電子銃の電極温度や、荷電粒子に同期させる加速器30の加速位相や、荷電粒子ビームの中心軸を偏向させる偏向電磁石やステアリング電磁石の励磁電流等が挙げられる。運転パラメータは、例えば、加速器システム100の運転立ち上げ時や、加速器30が安定的に稼働している間に調整できる。
【0108】
図10は、加速器システムの制御例を示すフローチャートである。図10には、加速器システム100における、放射線モニタ1によって測定された放射線の量の測定結果に基づいて運転パラメータを制御する処理の一例を示す。
図10に示すように、放射線モニタ1によって測定された放射線の量の測定結果は、運転パラメータの制御にフィードバックさせることができる。
【0109】
はじめに、加速器システム100の運転中に、放射線モニタ1によって放射線の量を測定する(ステップS10)。放射線モニタ1に接続された測定部5によって、放射線モニタ1による放射線の検出結果に基づいて、放射線モニタ1の位置における放射線の線量や線量率等が測定される。
【0110】
続いて、放射線モニタ1による測定結果が制御部12に送信される(ステップS11)。放射線の量の測定結果を示す測定信号は、放射線モニタ1に接続された測定部5から制御部12に伝送される。
【0111】
続いて、制御部12は、放射線モニタ1による測定結果が放射線の量の基準値以上であるか否かを判定する(ステップS12)。放射線の量の基準値は、許容できるエミッタンスの範囲を示す限界値等として、放射線モニタ1の位置毎に予め設定される。
【0112】
判定の結果、放射線モニタ1による測定結果が放射線の量の基準値以上でないとき(ステップS12;NO)、エミッタンスが許容範囲内であると推定できるため、処理を終了する。一方、放射線モニタ1による測定結果が放射線の量の基準値以上であるとき(ステップS12;YES)、エミッタンスが許容範囲内でないと推定できるため、処理をステップS13に進める。
【0113】
続いて、制御部12は、加速器30における荷電粒子ビームのビーム電流量が許容値未満であるか否かを判定する(ステップS13)。加速器30におけるビーム電流量の許容値は、加速器30の仕様等に応じて、加速器30毎に予め設定される。
【0114】
加速器30におけるビーム電流量は、加速器30に関する運転パラメータを調整する際には、許容値未満に抑制する必要がある。ビーム電流量が過大であると、調整中の荷電粒子ビームが漏洩した場合に、周囲の要素機器等を損傷する虞があるためである。例えば、荷電粒子ビームを偏向させる場合、偏向電磁石の調整時には、励磁電流のオーバーシュートやヒステリシスによる変動等が生じ得る。これらが原因で、荷電粒子ビームの偏向軌道が大きく逸脱する場合があるため、ビーム電流量を予め抑制しておく必要がある。
【0115】
判定の結果、荷電粒子ビームのビーム電流量が許容値未満でないとき(ステップS13;NO)、処理をステップS14に進める。一方、荷電粒子ビームのビーム電流量が許容値未満であるとき(ステップS13;YES)、処理をステップS15に進める。
【0116】
続いて、ビーム電流量が許容値未満でないとき、加速器30における荷電粒子ビームのビーム電流量の調整を行う(ステップS14)。ビーム電流量は、加速器30の電源の調節等によって、許容値未満である所定値に調整される。
【0117】
続いて、ビーム電流量が許容値未満に調整されているとき、加速器30に関する運転パラメータの調整を行う(ステップS15)。加速器30に関する運転パラメータとしては、荷電粒子源10の引き出し電極の電圧や、熱電子放出型電子銃の電極温度や、加速器30の加速位相や、偏向電磁石やステアリング電磁石の励磁電流等が挙げられる。
【0118】
放射線モニタ1による測定結果が放射線の量の基準値以上でないとき(ステップS12;NO)や、加速器30に関する運転パラメータの調整が行われたとき(ステップS15)、一連の処理を終了することができる。その後、放射線モニタ1による放射線の量の測定(ステップS10)や、以降のステップ(ステップS11~15)を、加速器システム100の運転中、適宜の時期に繰り返すことができる。
【0119】
このような処理によると、放射線モニタ1による測定結果と基準値との比較に基づいて運転パラメータの調整を行うため、加速器30の加速管31よりも前段側における監視結果に応じて、必要とされる場合に限りビームプロファイルの調整を実行できる。また、ビームプロファイルの調整前には、ビーム電流量の調整を行うため、周囲に設置された電気機器に対する放射性障害を抑制できる。運転パラメータを制御は、荷電粒子が加速器30によって加速されている間に、加速管31よりも前段側に設置された放射線モニタ1を利用して実行できる。そのため、速器システム100の運転中にリアルタイムの調整が可能になる。
【0120】
図11は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図11には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの構成の一例を模式的に示す。図11において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号11はソレノイドコイル、符号12は制御部、符号13は測定信号を伝送する測定信号線、符号14は制御信号を伝送する制御信号線、符号15はインタロック装置を示す。
【0121】
図11に示すように、加速器システム100においては、インタロック装置15を設置することもできる。放射線モニタ1と制御部12とインタロック装置15とを、信号線を介して互いに接続できる。インタロック装置15は、加速器システム100の正常な運転条件が揃っていない場合に、荷電粒子源10や加速器30等の要素機器の運転をインタロック方式で停止する。制御部12によって制御される荷電粒子源10や加速器30等の運転を、インタロック装置15から出力される制御信号によって制限することが可能である。
【0122】
インタロック装置15は、荷電粒子源10を停止させて荷電粒子の発生を中止する制限や、加速器30を停止させて荷電粒子の加速を中止する制限等をかけることができる。インタロック装置15による運転の制限は、加速器システム100の異常が排除されて、正常な運転条件が揃っている場合に限り解除できる。制御部12とインタロック装置15とは、荷電粒子源10や加速器30等の要素機器を制御する制御信号を伝送する制御信号線14を介して互いに接続される。
【0123】
加速器システム100の異常としては、荷電粒子源10や加速器30等の要素機器の異常な温度上昇や、加速器システム100の周辺における異常な線量率の増加等が挙げられる。これらの異常は、ビームプロファイルの異常に伴う荷電粒子ビームの漏洩に起因する場合があるため、適切な温度の範囲や、適切な線量の範囲等が確保されるまで、荷電粒子源10や加速器30等の運転を制限することが好ましい。
【0124】
このようなインタロック装置15を備えると、加速器システム100の異常が排除されるまで、荷電粒子源10や加速器30等の要素機器の運転が制限されるため、ビームプロファイルが異常な荷電粒子ビームが照射されることによる周囲の放射線障害等を低減できる。放射線モニタ1による加速管31よりも前段側における監視結果に応じて、フェイルセーフが実現されるため、エミッタンスの異常に起因する放射線障害等の問題を確実に回避できる。
【0125】
図12は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図12には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの構成の一例を模式的に示す。図12において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号11はソレノイドコイル、符号12は制御部、符号13は測定信号を伝送する測定信号線、符号14は制御信号を伝送する制御信号線、符号16は警報装置、符号17は警報信号を伝送する警報信号線を示す。
【0126】
図12に示すように、加速器システム100においては、警報装置16を設置することもできる。放射線モニタ1と制御部12と警報装置16とを、信号線を介して互いに接続できる。警報装置16は、加速器システム100の運転の異常を、音声によるアラームや、有色灯の点灯や、モニタ上における表示等によって、オペレータや周囲に対する警報を発する。制御部12と警報装置16とは、警報装置16を制御する制御信号を伝送する制御信号線14を介して互いに接続される。
【0127】
警報装置16を制御する制御信号は、制御部12によって出力できる。制御部12は、放射線モニタ1による測定結果や、荷電粒子源10の電極温度やチャンバ温度や、加速器30の電極温度や空洞温度の測定結果を収集し、収集された測定結果と、予め設定された閾値との比較によって、加速器システム100の運転の異常を判定できる。制御部12は、放射線モニタ1によって測定された放射線の量や、各種の温度の測定結果が閾値を超えている場合に、運転に異常があると判定できる。
【0128】
このような警報装置16を備えると、加速器システム100の運転の異常がオペレータや周囲に警告されるため、加速器システム100の運転の停止や、加速器システム100の周辺からの退避等の対策を容易にとることができる。ビームプロファイルが異常な荷電粒子ビームが照射される場合に、即時に対応できるため、ビームプロファイルが異常な荷電粒子ビームが照射されることによる周囲の放射線障害等を低減できる。
【0129】
図13は、加速器システムにおける放射線モニタの構成例を示す図である。図13には、図1に示す加速器システム100における放射線モニタの構成の一例を模式的に示す。図13において、符号1は放射線モニタ、符号2は荷電粒子、符号5は測定部、符号6は伝送部、符号11はソレノイドコイル、符号12は制御部、符号13は測定信号を伝送する測定信号線、符号14は制御信号を伝送する制御信号線、符号18はビームモニタを示す。
【0130】
図13に示すように、加速器システム100においては、放射線を検出する放射線モニタ1と共に、荷電粒子ビームを検出するビームモニタ18を設置することもできる。放射線モニタ1と制御部12とビームモニタ18とを、信号線を介して互いに接続できる。ビームモニタ18は、荷電粒子ビームを検出してビームプロファイルを測定するための装置である。ビームプロファイルとしては、ビーム中心の位置、ビーム中心からのビームの拡がり、ビームの強度の空間的分布等が測定される。
【0131】
ビームモニタ18は、荷電粒子の輸送路の内部に、荷電粒子ビームの中心軸と交差する位置に設置できる。ビームモニタ18は、加速管31よりも前段側に設置されてもよいし、加速管31の区間に設置されてもよいし、加速管31よりも後段側に設置されてもよい。但し、ビームモニタ18は、荷電粒子と相互作用を生じるため、試験的な照射時に設置される。ビームモニタ18は、試験的な照射時に検出を行った後、加速器システム100の実際の運転時には取り除かれる。
【0132】
ビームモニタ18としては、荷電粒子ビームが電離させた電荷を電流として測定する電流モニタや、輸送路の内壁に設置された複数の電極対によって放射線誘起電荷による壁電流を測定して、壁電流の密度分布の非対称性からビーム中心の位置を特定するビーム位置モニタや、ビームの座標上の特性を測定するビームプロファイルモニタ等を用いることができる。
【0133】
放射線モニタ1による放射線の検出結果は、ビームモニタ18による荷電粒子ビームの検出結果と比較することができる。これらを互いに比較することによって、放射線モニタ1の位置における放射線の空間的分布や強度と、ビームモニタ18の位置における荷電粒子ビームの空間的分布や強度との相関関係を求めることができる。
【0134】
相関関係に対して放射線モニタ1による測定結果を当てはめると、ビームモニタ18を取り除いた場合であっても、ビームモニタ18の位置における荷電粒子ビームの空間的分布や強度を求めることができる。そのため、これらの検出結果に基づくと、所定の位置におけるビームプロファイルが適切になるように、運転パラメータを適切に調整することが可能になる。
【0135】
例えば、ビームモニタ18によって、次のような分析を行うことができる。加速器30の加速管31よりも前段側において、荷電粒子の輸送路の内壁の近傍に放射線モニタ1を設置して、荷電粒子の輸送路の内壁に衝突して失われるロス粒子を検出する。また、荷電粒子の輸送路の内部の任意の位置にビームモニタ18を設置して、その位置における荷電粒子ビームのビーム中心の位置、ビーム電流量等を求める。
【0136】
続いて、放射線モニタ1による放射線の検出結果と、ビームモニタ18による荷電粒子ビームの検出結果とを比較して、放射線モニタ1の位置における放射線の空間的分布や強度と、ビームモニタ18の位置における荷電粒子ビームの空間的分布や強度との相関関係を求める。このような測定と比較を種々の運転パラメータに対して繰り返すと、測定結果および相関関係のデータを運転パラメータ毎に収集できる。
【0137】
このようなデータを収集すると、複数のデータの中から、ロス粒子の量が少なくなるような測定結果と、その測定結果に対応した荷電粒子ビームのビーム中心の位置、ビーム電流量等を求めることができる。このような荷電粒子ビームのビーム中心の位置や、ビーム電流量等が得られる運転パラメータに調整すると、ロス粒子が低減された運転が可能になる。
【0138】
図14は、本発明の実施形態に係る放射性核種製造システムの一例を示す図である。
図14に示すように、本実施形態に係る放射性核種製造システム200は、荷電粒子を発生させる荷電粒子源10や、低エネルギの荷電粒子を輸送する低エネルギ輸送部20や、荷電粒子を加速する加速器30や、加速された高エネルギの荷電粒子を輸送する高エネルギ輸送部40や、加速された荷電粒子を標的に照射する照射部50や、放射性核種の製造のために放射線を照射される標的80等を備える。
【0139】
放射性核種製造システム200は、放射性核種製造プロセスに用いられる。放射性核種製造プロセスでは、原料核種に放射線を照射して、原料核種を核反応によって生成核種に核変換させて、所定の放射性核種を製造する。放射性核種の製造のための標的80には、加速器30によって、原料核種を核変換させるのに必要な閾値以上のエネルギを持つ放射線が照射される。
【0140】
放射性核種製造システム200では、原料核種を核変換させる核反応として、製造しようとする目的の放射性核種、原料核種の種類、必要なエネルギ等に応じて、制動放射線による光核反応や、荷電粒子線、重粒子線等の粒子線による核破砕反応等、適宜の核反応を用いることができる。照射部50には、加速器30により加速された荷電粒子ビーム、または、加速された荷電粒子ビームにより発生させた制動放射線等の放射線の照射によって核反応で放射性核種を生成する標的80を設置できる。
【0141】
原料核種の核変換によって製造する放射性核種は、特に限定されるものではない。製造する放射性核種は、原料核種の核反応によって生成する娘核種であってもよいし、娘核種の放射性壊変によって生成する子孫核種であってもよい。製造する放射性核種としては、治療用薬剤の原料や、放射性標識試薬の原料等として有用な点で、α線放出核種、β線放出核種またはγ線放出核種が好ましく、α線放出核種が特に好ましい。
【0142】
原料核種の核変換によって製造する放射性核種としては、アクチニウム225(Ac-225)を含む核種を生成することが好ましい。アクチニウム225は、適度に寿命が短く安全性が高いため、α線内用療法の治療薬の原料として有用である。アクチニウム225は、例えば、Ra-226(γ,n)Ra-225反応とRa-225のβ崩壊を利用して製造できる。
【0143】
図14において、標的80としては、制動放射線発生用標的81と、原料核種を含む原料標的82とが、ビーム窓60の後方に設置されている。制動放射線発生用標的81は、加速器30で加速された荷電粒子ビームの照射によって制動放射を起こして制動放射線を発生させる標的である。原料標的82は、制動放射線の照射によって原料核種の核反応を起こして所定の生成核種を生成する標的である。
【0144】
制動放射線発生用標的81としては、原子番号および密度が大きく、耐熱性が高い重金属を用いることができる。制動放射線発生用標的81の材料としては、金(Au)、水銀(Hg)、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)等が挙げられる。
【0145】
原料標的82としては、原料核種を含む原料物質を保持した標的を用いることができる。原料物質としては、適宜の物理状態や化学形態である物質を用いることができる。原料物質は、粉体、粉体の凝集体、粉体の成形体、バルク塊等の固体状であってもよいし、純物質液体、溶液、懸濁液等の液体状や半流動体状等であってもよい。化学形態としては、酸化物、塩化物、炭酸塩等の化合物や、単体等が挙げられる。
【0146】
例えば、制動放射線の照射によってアクチニウム225を生成する場合、原料標的82としては、ラジウム226(Ra-226)を含む原料物質を保持した標的を用いることができる。原料標的82は、原料物質を保持した基板等で形成してもよいし、気体状の放射性物質等を生成する場合は、原料物質を収容した容器等で形成してもよい。制動放射線発生用標的81は、原料標的82と別体として設けられてもよいし、原料標的82と一体的に設けられてもよい。
【0147】
放射性核種製造システム200は、前記の加速器システム100と同様に、荷電粒子の輸送路における加速器30を構成する加速管よりも前段側に、放射線を検出する放射線モニタ1が設置される。放射線モニタ1の種類や設置の条件は、前記の加速器システム100と同様である。
【0148】
放射性核種製造システム200では、目的の放射性核種を製造する間に、放射線モニタ1によって、加速管31で加速される前のエネルギが低い荷電粒子のビームプロファイルを直接的に監視できる。監視の結果、エミッタンスの増大が検知された場合に、エミッタンスを小さくする調整や、加速器30の停止等の対策を行うことができる。標的80に対する品質が悪い放射線の照射を防止できるため、原料核種の核変換率や生成核種の生成量を向上させることができる。
【0149】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0150】
1 放射線モニタ
2 荷電粒子
3 荷電粒子ビームの中心軸
4 荷電粒子の輸送路の壁部
5 測定部
6 伝送部
7 ポート
10 荷電粒子源
11 ソレノイドコイル
12 制御部
13 測定信号線
14 制御信号線
15 インタロック装置
16 警報装置
17 警報信号線
18 ビームモニタ
20 低エネルギ輸送部
30 加速器
31 加速管
40 高エネルギ輸送部
50 照射部
60 ビーム窓
70 偏向部
80 標的
81 制動放射線発生用標的
82 原料標的
100 加速器システム
200 放射性核種製造システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14