(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170262
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】アンモニア分解装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20241129BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241129BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C01B3/04 B ZAB
B01J35/04 301F
B01J35/04 301Z
B01J27/24 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087329
(22)【出願日】2023-05-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】清木 晋
(72)【発明者】
【氏名】平野 萩祐
(72)【発明者】
【氏名】寺田 智明
(72)【発明者】
【氏名】堀内 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA07A
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BB06A
4G169BC01A
4G169BC08A
4G169BC38A
4G169BC57A
4G169BC61A
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA18
4G169EB12Y
4G169EB14Y
4G169EE03
4G169FB33
4G169FB67
(57)【要約】
【課題】アンモニアの転化率の向上と触媒の寿命の向上を両立させることができるアンモニア分解装置を提供する。
【解決手段】アンモニア分解装置11は、アンモニアのガス導入口13と、アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体1と、ガス導出口14と、を備える。触媒担持ハニカム構造体1は、セラミックス製のハニカム構造体と、ハニカム構造体の流路2aに形成され、アンモニアを分解する触媒層3と、ハニカム構造体の側面に形成される電極4a,4bと、を備える。ハニカム構造体に通電する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアのガス導入口と、
アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体と、
ガス導出口と、を備え、
前記触媒担持ハニカム構造体は、
セラミックス製のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の流路に形成され、アンモニアを分解する触媒層と、
前記ハニカム構造体の側面に形成される電極と、を備え、
前記ハニカム構造体に通電するアンモニア分解装置。
【請求項2】
前記ハニカム構造体は、炭化珪素を主成分とすると共に、窒素を含有することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解装置。
【請求項3】
複数の前記触媒担持ハニカム構造体をガスの流れ方向及び/又はガスの流れと垂直方向に配置し、前記触媒担持ハニカム構造体の間に絶縁層を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア分解装置。
【請求項4】
前記アンモニアを分解する触媒は、酸化物からなる触媒担体に、触媒活性種として第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、及び第11族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を担持させた触媒であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解装置。
【請求項5】
前記酸化物は、Al、Si、Ti、Zr、第1族、第2族、及び第3族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項4に記載のアンモニア分解装置。
【請求項6】
前記酸化物は、2種以上の酸化物を含む複合酸化物であることを特徴とする請求項4又は5に記載のアンモニア分解装置。
【請求項7】
前記酸化物は、ゼオライトであることを特徴とする請求項4又は5に記載のアンモニア分解装置。
【請求項8】
アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体を備えるアンモニア分解装置の製造方法であって、
炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンを含むハニカム成形体を焼結してハニカム構造体を作製する工程と、
前記ハニカム構造体の側面に電極を形成する工程と、
前記ハニカム構造体の流路にアンモニアを分解する触媒層を形成する工程と、を備え、
前記ハニカム構造体に通電するアンモニア分解装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解して水素を生成するアンモンニア分解装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化に鑑み、水素を燃焼源に利用することに着目した水素社会へ向けた取り組みが本格化している。水素の製造にあたり、アンモニアに注目が集まっている。アンモニアは水素原子と窒素原子から構成されていて、アンモニアの分解反応においてCO2が発生しないからである。また、水素を供給するための水素ステーションや水素を充填した水素圧力容器が不要だからである。このため、アンモニアを分解して水素と酸素を生成する技術が自動車用燃料電池や工業炉に利用され始めている。
【0003】
特許文献1には、アンモニアを分解する触媒を金属製のハニカム構造体に担持させ、アンモニアをハニカム構造体の流路に通すことにより、アンモニアを分解して水素と酸素を生成するアンモニア分解装置が開示されている。アンモニアの分解反応は吸熱反応である。アンモニアの分解に必要な熱を供給するため、特許文献1に記載の発明においては、ヒータをハニカム構造体の上流側に接触させ、ヒータによりハニカム構造体に熱を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のアンモニア分解装置においては、触媒を担持する金属製のハニカム構造体をヒータに接触させて加熱するので、ハニカム構造体の温度分布を均一にすることができず、アンモニアの転化率の向上と触媒の寿命の向上を両立することができないという課題がある。
【0006】
これを説明すると、アンモニアの分解反応において、反応温度を上昇させるとアンモニアの転化率を向上させることができる。他方、反応温度を上昇させると触媒の微粒子が成長等して触媒の寿命が短くなる。特許文献1に記載のアンモニア分解装置においては、アンモニアの転化率を向上させようとすると触媒の温度が高い部分の寿命が低下し、触媒の寿命を長くしようとすると触媒の温度が低い部分でのアンモニアの転化率が低下する。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、アンモニアの転化率の向上と触媒の寿命の向上を両立させることができるアンモニア分解装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、アンモニアのガス導入口と、アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体と、ガス導出口と、を備え、前記触媒担持ハニカム構造体は、セラミックス製のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の流路に形成され、アンモニアを分解する触媒層と、前記ハニカム構造体の側面に形成される電極と、を備え、前記ハニカム構造体に通電するアンモニア分解装置である。
【0009】
本発明の他の態様は、アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体を備えるアンモニア分解装置の製造方法であって、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンを含むハニカム成形体を焼結してハニカム構造体を作製する工程と、前記ハニカム構造体の側面に電極を形成する工程と、前記ハニカム構造体の流路にアンモニアを分解する触媒層を形成する工程と、を備え、前記ハニカム構造体に通電するアンモニア分解装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハニカム構造体を均一に加熱することができるので、アンモニアの転化率の向上と触媒の寿命の向上を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態のアンモニア分解装置の斜視図である。
【
図2】本実施形態の触媒担持ハニカム構造体の外観斜視図である。
【
図4】炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンを含むハニカム成形体の焼結前後の模式図である。
【
図5】ガスの流れ方向に長尺化した触媒担持ハニカム構造体の斜視図である。
【
図6】ガスの流れと垂直方向に長尺化した触媒担持ハニカム構造体の斜視図である。
【
図7】実施例で作成したハニカム構造体の正面図である。
【
図8】
図8(a)はハニカム構造体に5Aの電流を流した場合のT1、T2、T3の温度変化を示すグラフであり、
図8(b)はT2=165℃のときのハニカム構造体のサーモグラフィーを示す。
【
図9】
図9(a)はハニカム構造体に10Aの電流を流した場合のT1、T2、T3の温度変化を示すグラフであり、
図9(b)はT2=300℃のときのハニカム構造体のサーモグラフィーを示す。
【
図10】
図10(a)はハニカム構造体に20Aの電流を流した場合のT1、T2、T3の温度変化を示すグラフであり、
図10(b)はT2=400℃のときのハニカム構造体のサーモグラフィーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のアンモニア分解装置及びその製造方法を説明する。ただし、本発明のアンモニア分解装置及びその製造方法は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(アンモニア分解装置)
【0013】
図1は、本発明の一実施形態のアンモニア分解装置11の斜視図である。本実施形態のアンモニア分解装置11は、ガス導入口13とガス導出口14を備えるケース12と、ケース12に収容される触媒担持ハニカム構造体1と、を備える。ガス導入口13には、アンモニアガス、又はアンモニアガスと空気が供給される。ガス導入口13から供給されたアンモニアは、触媒担持ハニカム構造体1の流路2aを流れる。アンモニアが触媒担持ハニカム構造体1の流路2aを流れる際、アンモニアが式1のように分解されて水素と窒素が生成する。生成した水素と窒素はガス導出口14から導出される。
(式1)
2NH
3→N
2+3H
2
【0014】
式1は吸熱反応である。吸熱量を低減させるために、ガス導入口13にアンモニアガスと空気を供給してもよい。アンモニアガスと空気を供給すると、式2のようにアンモニアと酸素の触媒反応により熱が発生する。この熱によって吸熱量を低減させることができる。
(式2)
NH3+3/4O2→1/2N2+3/2H2O
【0015】
ガス導入口13には、下流に向けて内径が拡大する第1テーパ部13aが形成される。ガス導出口14には、下流に向けて内径が縮小する第2テーパ部14aが形成される。触媒担持ハニカム構造体1は、第1テーパ部13aと第2テーパ部14aとの間の大径部15に収容される。符号4a,4bは、触媒担持ハニカム構造体1の一対の電極である。符号16a,16bは、電極4a,4bに電力を供給する電線である。
【0016】
触媒担持ハニカム構造体1の形状、流路2aの数等は限定されるものではなく、必要に応じて適宜設計される。例えば、
図1に示すように、触媒担持ハニカム構造体1の形状を円柱状にしてもよいし、オーバル形状等にしてもよい。また、
図2に示すように直方体状にしてもよい。ケース12の形状はアンモニア分解装置11の構成によって、適宜設計される。
(触媒担持ハニカム構造体)
【0017】
図2は、本実施形態の触媒担持ハニカム構造体1の外観斜視図である。本実施形態の触媒担持ハニカム構造体1は、セラミックス製のハニカム構造体2と、ハニカム構造体2の流路2aに形成される触媒層3と、ハニカム構造体2の側面に形成される一対の電極4a,4bと、を備える。
(ハニカム構造体)
【0018】
図3に示すように、ハニカム構造体2は、アンモニアが流れる流路2aとなり、流入側の端面から流出側の端面まで延びる複数のセル2aと、複数のセル2aを区画形成する多孔質の隔壁2bと、最外周に位置する外周壁2cと、を有する。
【0019】
ハニカム構造体2は、セラミックス製である。ハニカム構造体2は、導電性を有する。ハニカム構造体2は、炭化珪素を主成分とし、不純物として窒素を含有する。炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造体2が炭化珪素をハニカム構造体全体の90質量%以上含有していることをいう。
【0020】
ハニカム構造体2は、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンを含むハニカム成形体を焼結して作製される。炭化珪素粉末は、ハニカム構造体2の骨材として使用される。窒化珪素粉末とカーボンは、炭化珪素粉末を結合する結合材として使用される。
【0021】
図4(a)は、焼結前のハニカム成形体の粒子の模式図を示す。符号5は炭化珪素粉末、符号6は窒化珪素末、符号7はカーボンである。ハニカム成形体を焼結すると、以下の式3のように、窒化珪素とカーボンが反応して炭化珪素が合成される。
(式3)
Si
3N
4+3C→3SiC+2N
2
【0022】
図4(b)に示すように、合成された炭化珪素8が骨材として使用される炭化珪素粉末5を結合する。式3の反応温度は、炭化珪素粒子の軟化点よりも低い。炭化珪素粉末5を結合する結合材として窒化珪素粉末6とカーボン7を使用することで、炭化珪素粉末5の粒成長を抑制でき、ハニカム構造体2の微細かつ均一な気孔径分布を実現できる。
【0023】
ハニカム構造体2は、不純物として窒化珪素粉末に由来する窒素を含有する。窒素が電気伝導に寄与するドーパントとして機能するので、ハニカム構造体2が導電性を持つ。ハニカム構造体2に通電するとハニカム構造体2が発熱する。ハニカム構造体2は微細かつ均一な気孔径分布を持つので、ハニカム構造体2が均一に加熱される。
【0024】
以下にハニカム構造体2の作製方法の一例を説明する。まず炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンに、水、バインダ等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の平均粒径は1~50μmである。炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンに対する炭化珪素粉末の含有量は、20~70質量%である。カーボンは、グラファイト、カーボンブラック等である。カーボンに対する窒化珪素を構成する珪素のモル比は、1.0~2.0の範囲である。
【0025】
バインダはメチルセルロース等である。バインダの含有量は、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンの合計質量を100質量部としたときに2~15質量部である。水の含有量は、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンの合計質量を100質量部としたときに20~30質量部である。上記の原料の他にエチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等の界面活性剤を添加してもよい。
【0026】
次に、得られた成形原料を混錬して坏土を作製した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。ハニカム成形体を乾燥後、ハニカム成形体を真空、不活性ガス等の窒素を含まない非酸化性雰囲気下で例えば1800℃~2300℃の温度で焼結し、ハニカム構造体2を作製する。
【0027】
なお、ハニカム構造体2は、珪素-炭化珪素複合材を主成分としてもよい。珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子と、炭化珪素粒子を結合する結合材としての金属珪素を含有する。
(電極)
【0028】
図2に示すように、ハニカム構造体2の側面には、一対の電極4a,4bが形成される。電極4a,4bは、帯状であり、ハニカム構造体2のセル2aと同方向に延びる。電極4a,4bは、ハニカム構造体2の中心を挟んで対向するように配置される。
【0029】
電極4a,4bは、導電性を有する材料により形成される。電極4a,4bの材質は、金属、導電性セラミックス、金属と酸化物セラミックスを組み合わせた複合材等である。金属は、銀、銅、鉄、アルミニウム、タングステン、合金鋼等である。導電性セラミックスは、炭化珪素、ケイ化クロム、炭化ホウ素、ホウ化クロム、ケイ化タンタル等である。酸化物セラミックスは、ガラス、コージェライト、ムライト等である。
【0030】
電極4a,4bのハニカム構造体2側に、電極4a,4bよりも熱膨張率が低い中間層(図示せず)を設けてもよい。電極4a,4bはハニカム構造体2に比べて熱膨張率が高い。中間層を設けることで、電極4a,4bとハニカム構造体2との間の熱膨張率の差を低減することができる。中間層は、電極4a,4bと同様に、金属、酸化物セラミックス等である。
【0031】
中間層と電極4a,4bは、例えば以下のように形成される。金属粉体とガラス粉体を混合し、セラミック原料を作製する。セラミック原料にバインダ、界面活性剤、水を添加して、中間層用のペーストを作製する。中間層用のペーストをハニカム構造体2上に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する。塗膜が形成されたハニカム構造体2を焼結して中間層を形成する。
【0032】
中間層の上に形成される電極4a,4bも同様である。すなわち、金属粉体とガラス粉体を混合し、セラミック原料を作製する。セラミック原料にバインダ、界面活性剤、水を添加して、電極用のペーストを作製する。電極用のペーストをハニカム構造体2の中間層の上に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する。塗膜が形成されたハニカム構造体2を焼結して電極4a,4bを形成する。ここで、ハニカム成形体と中間層の焼結を同時に行ってもよいし、ハニカム成形体、中間層、及び電極4a,4bの焼結を同時に行ってもよい。
【0033】
なお、溶射材料をハニカム構造体2に溶射することにより、中間層、及び電極4a,4bを形成してもよい。この場合の溶射原料は、炭化タングステンを主成分とし、ニッケルを含有するのが望ましい。溶射材料のニッケル含有量は3~40質量%、溶射材料の炭化タングステン含有量は60~90質量%が望ましい。
(触媒層)
【0034】
図2に示すように、ハニカム構造体2のセル2aには、触媒層3が形成される。触媒層3に用いる触媒活性種は、アンモニアを水素に分解するものであれば、特に限定されない。触媒活性種として第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、及び第11族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が選ばれる。触媒活性種は、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金等である。
【0035】
触媒活性種は、Al、Si、Ti、Zr、第1族、第2族、及び第3族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物からなる触媒担体に担持して用いることができる。酸化物は、2種以上の酸化物を含む複合酸化物でもよい。また、酸化物は、ゼオライトでもよい。このような酸化物からなる触媒担体に触媒活性種を担持させることで、触媒活性種の分散性向上や触媒の機械的強度の向上に寄与する。
【0036】
触媒層3の形成方法には、通常の手段を用いることができる。例えば、ハニカム構造体2に触媒活性種の溶液を浸漬させ、これを焼成することにより触媒層3を形成する方法、触媒活性種を酸化物からなる触媒担体に担持させた粉体を湿式粉砕してスラリーを生成し、これをハニカム構造体2に塗布して焼成することにより触媒層3を形成する方法、酸化物からなる触媒担体を湿式粉砕してスラリーを生成し、これをハニカム構造体2に塗布して焼成し、その後、触媒活性種の溶液を浸漬させ、これを焼成することにより触媒層3を形成する方法等を用いることができる。
(長尺化への対応)
【0037】
触媒担持ハニカム構造体1を長手方向(ガスの流れ方向)に長尺化する場合、
図5に示すように、複数の触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3をガスの流れ方向に配置し、触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3の間に絶縁層9を設ける。各触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3には、個別に通電可能なように電極4a,4bを設ける。電極4a,4bには、電力を供給するための電線16a,16bが接続される。
【0038】
触媒担持ハニカム構造体1を径方向(ガスの流れと垂直方向)に長尺化する場合、
図6に示すように、複数の触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6をガスの流れと垂直方向に配置し、触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6の間に絶縁層9を設ける。各触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6には、個別に通電可能なように電極4a,4bを設ける。電極4a,4bには、電力を供給するための電線16a,16bが接続される。なお、ガスの流れと垂直方向に複数の触媒担持ハニカム構造体を配置し、かつガスの流れ方向に複数の触媒担持ハニカム構造体を配置してもよい。
【0039】
図5に示す触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3の触媒の種類及び担持量は、両者が同一でも、少なくとも一方が異なっていてもよい。同様に
図6に示す触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6の触媒の種類及び担持量は、両者が同一でも、少なくとも一方が異なっていてもよい。触媒の種類及び担持量の少なくとも一方が異なっている場合、触媒の種類及び担持量に応じて、加熱温度(熱量)を変えてもよい。例えば、
図5の上流側の触媒担持ハニカム構造体1-1にアンモニアを酸化可能かつ分解可能な触媒を用い、下流側の触媒担持ハニカム構造体1-2,1-3にアンモニアを分解可能な触媒を用い、下流側の触媒担持ハニカム構造体1-2,1-3の加熱温度を上流側の触媒担持ハニカム構造体1-1の加熱温度より高くしてもよい。
【0040】
絶縁層9は、シリカやアルミナ等の板状の絶縁体、もしくは触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3間に設けた空気層(隙間)である。板状の絶縁体を用いる場合、複数のハニカム成形体と板状の絶縁体を脱脂及び焼成して一体化し、各ハニカム構造体に電極4a,4bを形成する。
(効果)
【0041】
以下に本実施形態のアンモニア分解装置11の効果を説明する。
【0042】
本実施形態のアンモニア分解装置11によれば、ハニカム構造体2を均一に加熱することができるので、アンモニアの転化率の向上と触媒の寿命の向上を両立させることができる。
【0043】
ハニカム構造体2が炭化珪素を主成分すると共に、窒素を含有するので、ハニカム構造体2をより均一に加熱することができる。
【0044】
複数の触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3をガスの流れ方向に配置し、触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3の間に絶縁層9を設けるので、ガスの流れ方向に長尺化した複数の触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3を均一に加熱することができる。同様に、複数の触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6をガスの流れと垂直方向に配置し、触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6の間に絶縁層9を設けるので、ガスの流れと垂直方向に長尺化した複数の触媒担持ハニカム構造体1-4,1-5,1-6を均一に加熱することができる。また、複数の触媒担持ハニカム構造体1-1,1-2,1-3又は1-4,1-5,1-6それぞれを別個に通電することができる。
(実施例)
【0045】
図7に示すハニカム構造体2を作製した。炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンに、水、バインダ等を添加して成形原料を作製した。炭化珪素粉末の平均粒径は10μmである。炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンに対する炭化珪素粉末の含有量は、50質量%である。カーボンとしては、カーボンブラックを用いた。カーボンに対する窒化珪素を構成する珪素のモル比は、1.5である。
【0046】
バインダはメチルセルロースを用いた。バインダの含有量は、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンの合計質量を100質量部としたときに10質量部である。水の含有量は、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、及びカーボンの合計質量を100質量部としたときに25質量部である。
【0047】
得られた成形原料を混錬して坏土を作製した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製した。ハニカム成形体を乾燥後、ハニカム成形体を窒素を含まない非酸化性雰囲気下で2100℃の温度で焼結し、ハニカム構造体2を作製した。
【0048】
ハニカム構造体2の大きさは、□50mm×L50mmであり、セル2aの構造は、50cpsi/25milであり、ハニカム構造体2の抵抗は、0.5Ωcmであった。抵抗は、JIS R 1650-2:2002に準拠した四端子法にて測定した。また、JIS R 1616:2007に準拠してハニカム構造体2の窒素濃度を測定することにより、窒素が存在することが確認された。
【0049】
ハニカム構造体2と電極4a,4bとの間にカーボンフェルト11a,11bを挟んで電極4a,4bを上下から圧接し、ハニカム構造体2に5A、10A、20Aの一定電流を供給し、ハニカム構造体2の下部、中部、上部の温度T1、T2、T3を測定した。
【0050】
図8(a)に示すように、ハニカム構造体2に5Aの電流を供給した場合、時間の経過と共に温度T1、T2、T3が上昇したが、温度T1、T2、T3は略同一の値であった。また、
図8(b)のT2=165℃のときのサーモグラフィーに示すように、ハニカム構造体2の全体が均一に加熱された。
【0051】
図9(a)(b)に示すように、ハニカム構造体2に10Aの電流を流した場合も、ハニカム構造体2に5Aの電流を流した場合と略同様であった。なお、
図9(b)はT2=300℃のときのサーモグラフィーである。
【0052】
図10(a)に示すように、ハニカム構造体2に20Aの一定電流を流した場合、電極4a,4b、カーボンフェルト11a,11b、ハニカム構造体2の接触抵抗の影響が大きくなり、温度T1、T2、T3に僅かなばらつきが生じた。しかし、この場合でも、
図10(b)のT2=400℃のときのサーモグラフィーに示すように、ハニカム構造体2の全体を略均一に加熱できた。均一加熱ができるので、触媒担持させた時、アンモニア転化率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…触媒担持ハニカム構造体
2…ハニカム構造体
3…触媒層
4a,4b…電極
9…絶縁層
11…アンモニア分解装置
12…ケース
13…ガス導入口
14…ガス導出口
【手続補正書】
【提出日】2023-08-18
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解して水素を生成するアンモニア分解装置及びその製造方法に関する。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアのガス導入口と、
アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体と、
ガス導出口と、を備え、
前記触媒担持ハニカム構造体は、
セラミックス製のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の流路に形成され、アンモニアを分解する触媒層と、
前記ハニカム構造体の側面に形成される電極と、を備え、
前記ハニカム構造体に通電し、
前記ハニカム構造体は、炭化珪素を主成分とすると共に、窒素を含有するアンモニア分解装置。
【請求項2】
複数の前記触媒担持ハニカム構造体をガスの流れ方向及び/又はガスの流れと垂直方向に配置し、前記触媒担持ハニカム構造体の間に絶縁層を設けることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解装置。
【請求項3】
前記アンモニアを分解する触媒は、酸化物からなる触媒担体に、触媒活性種として第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、及び第11族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を担持させた触媒であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解装置。
【請求項4】
前記酸化物は、Al、Si、Ti、Zr、第1族、第2族、及び第3族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項3に記載のアンモニア分解装置。
【請求項5】
前記酸化物は、2種以上の酸化物を含む複合酸化物であることを特徴とする請求項3又は4に記載のアンモニア分解装置。
【請求項6】
前記酸化物は、ゼオライトであることを特徴とする請求項3又は4に記載のアンモニア分解装置。
【請求項7】
アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体を備えるアンモニア分解装置の製造方法であって、
炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、カーボンを含むハニカム成形体を焼結してハニカム構造体を作製する工程と、
前記ハニカム構造体の側面に電極を形成する工程と、
前記ハニカム構造体の流路にアンモニアを分解する触媒層を形成する工程と、を備え、
前記ハニカム構造体に通電するアンモニア分解装置の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、アンモニアのガス導入口と、アンモニアを分解して水素と窒素を生成する触媒担持ハニカム構造体と、ガス導出口と、を備え、前記触媒担持ハニカム構造体は、セラミックス製のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の流路に形成され、アンモニアを分解する触媒層と、前記ハニカム構造体の側面に形成される電極と、を備え、前記ハニカム構造体に通電し、前記ハニカム構造体は、炭化珪素を主成分とすると共に、窒素を含有するアンモニア分解装置である。