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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170281
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】鋳片加熱装置及び連続鋳造設備
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/12 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
B22D11/12 D
B22D11/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002366
(22)【出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2023086805
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 康司
(72)【発明者】
【氏名】福田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】古米 孝平
(57)【要約】
【課題】ロールへの磁束の侵入を防止すると共に、鋳片の上側コーナー部の効率的な加熱が可能となる鋳片加熱装置及び連続鋳造設備を提供する。
【解決手段】鋳片を拘束しつつ連続して搬送する複数のロールを前記鋳片の搬送方向に沿って設けた連続鋳造設備における鋳片加熱装置であって、前記鋳片の側面部に対して対向させるように設けられる加熱コイルと、前記鋳片の厚み方向において前記ロールと前記加熱コイルとの間に設けられる磁気遮蔽部材と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片を拘束しつつ連続して搬送する複数のロールを前記鋳片の搬送方向に沿って設けた連続鋳造設備における鋳片加熱装置であって、
前記鋳片の側面部に対して対向させるように設けられる加熱コイルと、
前記鋳片の厚み方向において前記ロールと前記加熱コイルとの間に設けられる磁気遮蔽部材と、
を有する、鋳片加熱装置。
【請求項2】
前記加熱コイルは、同一の平面において前記搬送方向に延びる2つのコイル長辺部及び前記鋳片の厚み方向に延びる2つのコイル短辺部を連結して周回させる回路である、請求項1に記載の鋳片加熱装置。
【請求項3】
前記磁気遮蔽部材は、電源部から前記加熱コイルに供給される交流電流の周波数における比透磁率が1000以上である、請求項2に記載の鋳片加熱装置。
【請求項4】
前記磁気遮蔽部材は、板状部材であると共に、前記板状部材が前記ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる、請求項3に記載の鋳片加熱装置。
【請求項5】
前記磁気遮蔽部材は、前記ロールにおける上側ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部における上側コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる上側磁気遮蔽部材と、前記ロールにおける下側ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部における下側コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる下側磁気遮蔽部材とを有する、請求項4に記載の鋳片加熱装置。
【請求項6】
前記磁気遮蔽部材は、前記搬送方向に垂直な前記鋳片の幅方向に沿った長さが前記コイル長辺部における前記加熱コイルのコイル直径以上の長さである、請求項5に記載の鋳片加熱装置。
【請求項7】
前記磁気遮蔽部材は、前記ロールの周面に沿った円弧形状又は円筒形状である、請求項3に記載の鋳片加熱装置。
【請求項8】
前記磁気遮蔽部材は、前記搬送方向に沿った長さが前記ロールの直径Rに対して0.7R以上の長さである、請求項5に記載の鋳片加熱装置。
【請求項9】
前記鋳片の幅方向において前記加熱コイル及び前記磁気遮蔽部材の前記鋳片の側面部に対する位置を調整する台車を有する、請求項1~8の何れか1項に記載の鋳片加熱装置。
【請求項10】
請求項1~8の何れか1項に記載の鋳片加熱装置を下部矯正帯に設ける、連続鋳造設備。
【請求項11】
鋳片を拘束しつつ連続して搬送する複数のロールを前記鋳片の搬送方向に沿って設けた連続鋳造設備であって、
同一の平面において前記搬送方向に延びる2つのコイル長辺部及び前記鋳片の厚み方向に延びる2つのコイル短辺部を連結して周回させる回路であると共に、前記鋳片の側面部に対して前記回路を対向させるように設けられる加熱コイルを有する鋳片加熱装置を有し、
前記ロールの素材は非磁性材を含む、連続鋳造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のロールにより連続して搬送される鋳片を加熱する鋳片加熱装置及び連続鋳造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属(溶鋼)を鋳型で冷却すると共に鋳造工程により鋳片を製造する連続鋳造設備においては、先ず、鋳片の搬送方向に沿って配置された複数のロール対により、鋳片を冷却しつつ垂直方向に引き抜く工程が行われる。その後、上部矯正帯にて鋳片を徐々に湾曲させながら引き抜く方向を変化させた後、下部矯正帯にて直線形状に鋳片を矯正し、水平方向に引き抜く工程が行われる。
【0003】
下部矯正帯における鋳片の矯正の際には、鋳片の上側コーナー部には引張応力が生じるため、鋳片の延性が低い場合には、鋳片の上側コーナー部にて割れが発生する。一般的に、鋼の延性は、鋼の温度に依存する。特に、鋼の温度が750~900℃である場合に、鋼の延性が低下して脆化が進行することが知られている。
【0004】
連続鋳造設備にて鋳片を鋳造する際、上側コーナー部は、鋳片の他の部分よりも冷却が速く進行する。そして、上側コーナー部の温度は、鋳片が下部矯正帯を通過するタイミングで、鋳片の延性が低下する温度である750~900℃(以下、「延性低下温度」という。)となるため、当該温度に基づく鋳片の延性の低下と、水平方向に向けた鋳片の直線形状への矯正に伴い発生する引張応力とに基づいて、鋳片の上側コーナー部にて割れが発生する。
【0005】
ここで、鋳片の上側コーナー部における割れの発生を抑制するため、下部矯正帯の上流側に鋳片の上側コーナー部を加熱するコイルを配置して、上側コーナー部を加熱する技術が提案されている。即ち、当該技術は、鋳片が下部矯正帯に到達する前に、コイルによる誘導加熱によって鋳片の上側コーナー部を加熱することで、上側コーナー部における温度を、鋳片の延性が低下する延性低下温度を超える温度に保持する技術である。
【0006】
当該技術として、例えば特許文献1には、鋳片の上面側において導体からなるコイルを所定の直線群を形成するように配置すると共に、鋳片に対して誘導加熱を行うことで上側コーナー部を加熱して、上側コーナー部の割れを抑制する技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、鋳片の上側コーナー部を覆う鉄心を設けると共に、当該鉄心に巻き付けられたコイルにより鋳片に対する誘導加熱を行って上側コーナー部を加熱して、上側コーナー部の割れを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-218062号公報
【特許文献2】特開2021-87963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された技術においては、鋳片の搬送方向に沿って配置された複数のロール同士の間に、鋳片を加熱する誘導加熱コイルのみを配置する構成を採っている。そして、鋳片の搬送方向に沿って配置された複数のロール同士の間隔(ピッチ)は短いため、複数のロール同士の間に配置された誘導加熱コイルは、鋳片を十分に加熱するための長さを備えることが難しい。そのため、複数のロール同士の間に誘導加熱コイルを配置する構成においては、鋳片を十分に加熱することが難しく、鋳片の上側コーナー部における割れの防止の効果を十分に得ることができない。
【0010】
また、鋳片の搬送方向に沿った各位置において、ロールが配置された位置と同じ位置に誘導加熱コイルを配置する場合には、誘導加熱コイルにて発生される磁束が鋳片に侵入すると共にロールにも侵入する。このため、鋳片及びロールの温度が共に上昇し、ロールの熱変形及び熱サイクルによる疲労損傷が進行して、当該ロールの耐用期間が短くなる。更に、磁束が侵入したロールと鋳片との間にて火花(スパーク)が発生し、鋳片及びロールに欠陥が生じる。特許文献1及び2においては、これらの問題に対する解決策の開示や示唆は一切なされていないため、鋳片における上側コーナー部の割れの防止には、鋳片の上側コーナー部に対する加熱に伴うロールへの磁束の侵入が問題となる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ロールへの磁束の侵入を防止すると共に、鋳片の上側コーナー部の効率的な加熱が可能となる鋳片加熱装置及び連続鋳造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]鋳片を拘束しつつ連続して搬送する複数のロールを前記鋳片の搬送方向に沿って設けた連続鋳造設備における鋳片加熱装置であって、前記鋳片の側面部に対して対向させるように設けられる加熱コイルと、前記鋳片の厚み方向において前記ロールと前記加熱コイルとの間に設けられる磁気遮蔽部材と、を有する、鋳片加熱装置。
[2]前記加熱コイルは、同一の平面において前記搬送方向に延びる2つのコイル長辺部及び前記鋳片の厚み方向に延びる2つのコイル短辺部を連結して周回させる回路である、[1]に記載の鋳片加熱装置。
[3]前記磁気遮蔽部材は、電源部から前記加熱コイルに供給される交流電流の周波数における比透磁率が1000以上である、[2]に記載の鋳片加熱装置。
[4]前記磁気遮蔽部材は、板状部材であると共に、前記板状部材が前記ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる、[3]に記載の鋳片加熱装置。
[5]前記磁気遮蔽部材は、前記ロールにおける上側ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部における上側コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる上側磁気遮蔽部材と、前記ロールにおける下側ロールの中心軸と前記加熱コイルの前記コイル長辺部における下側コイル長辺部とを結ぶ最短の線分に対して直交するように設けられる下側磁気遮蔽部材とを有する、[4]に記載の鋳片加熱装置。
[6]前記磁気遮蔽部材は、前記搬送方向に垂直な前記鋳片の幅方向に沿った長さが前記コイル長辺部における前記加熱コイルのコイル直径以上の長さである、[5]に記載の鋳片加熱装置。
[7]前記磁気遮蔽部材は、前記ロールの周面に沿った円弧形状又は円筒形状である、[3]に記載の鋳片加熱装置。
[8]前記磁気遮蔽部材は、前記搬送方向に沿った長さが前記ロールの直径Rに対して0.7R以上の長さである、[5]に記載の鋳片加熱装置。
[9]前記鋳片の幅方向において前記加熱コイル及び前記磁気遮蔽部材の前記鋳片の側面部に対する位置を調整する台車を有する、[1]~[8]の何れか1つに記載の鋳片加熱装置。
[10][1]~[8]の何れか1つに記載の鋳片加熱装置を下部矯正帯に設ける、連続鋳造設備。
[11]鋳片を拘束しつつ連続して搬送する複数のロールを前記鋳片の搬送方向に沿って設けた連続鋳造設備であって、同一の平面において前記搬送方向に延びる2つのコイル長辺部及び前記鋳片の厚み方向に延びる2つのコイル短辺部を連結して周回させる回路であると共に、前記鋳片の側面部に対して前記回路を対向させるように設けられる加熱コイルを有する鋳片加熱装置を有し、前記ロールの素材は非磁性材を含む、連続鋳造設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロールへの磁束の侵入を防止すると共に、鋳片の上側コーナー部の効率的な加熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】連続鋳造設備の一例としての概略側面図を示す図である。
図2】ロールと鋳片と鋳片加熱装置との構成を模式的に示す斜視模式図である。
図3】鋳片加熱装置の構成を模式的に示す側面模式図である。
図4】磁気遮蔽部材の構成を模式的に示す正面模式図である。
図5】磁気遮蔽部材を有しない鋳片加熱装置を用いた場合における磁束の分布状況を示す図である。
図6】磁気遮蔽部材を有する鋳片加熱装置を用いた場合における磁束の分布状況を示す図である。
図7】第2実施形態の鋳片加熱装置における磁気遮蔽部材の構成を模式的に示す側面模式図である。
図8】第3実施形態の鋳片加熱装置における磁気遮蔽部材の構成を模式的に示す側面模式図である。
図9】第4実施形態の鋳片加熱装置における磁気遮蔽部材の構成を模式的に示す側面模式図である。
図10】第5実施形態の鋳片加熱装置の構成を模式的に示す正面模式図である。
図11】磁気遮蔽部材を用いなかった場合における鋳片及びロールの温度履歴の結果を示す図である。
図12】磁気遮蔽部材を用いた場合における鋳片及びロールの温度履歴の結果を示す図である。
図13】素材に非磁性材を含むロールを用いた場合における鋳片及びロールの温度履歴の結果を示す図である。
図14】搬送方向にて分割させた磁気遮蔽部材を用いた場合における鋳片及びロールの温度履歴の結果を示す図である。
図15】円弧形状の磁気遮蔽部材を用いた場合における鋳片及びロールの温度履歴の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を具体的に説明する。図1に、連続鋳造設備10の一例としての概略側面図を示す。連続鋳造設備10は、タンディッシュ1と、鋳型2と、ロール3と、鋳片加熱装置7とを有する。タンディッシュ1は、浸漬ノズル1aを有する。ロール3は、鋳片Sの搬送方向Dにおける上流側から下流側に亘って配置される。ロール3は、鋳片Sの搬送方向Dの各位置において、複数対のロール3により鋳片Sを挟み込むと共に、搬送方向Dに沿って鋳片Sを搬送させる。即ち、連続鋳造設備10には、鋳片Sを拘束しつつ連続して搬送する複数のロール3を鋳片Sの搬送方向Dに沿って設けられている。
【0016】
図1に示す通り、タンディッシュ1は、鋳造される前の溶鋼Tを貯留する。浸漬ノズル1aは、タンディッシュ1の底部から鋳型2に溶鋼Tを注入する。溶鋼Tは、鋳型2にて冷却された後、複数のロール3により垂直搬送方向Eに沿って搬送されると共に冷却帯4にて冷却され、板厚が200~300mm、幅が1~2mの鋳片Sとなる。その後、鋳片Sは、ロール3により湾曲搬送方向Fに沿って搬送されて、上部矯正帯5にて湾曲させられる。そして、鋳片Sは、ロール3により水平搬送方向Gに沿って搬送されて、下部矯正帯6にて直線形状に矯正される。
【0017】
上部矯正帯5において、鋳片Sの温度は、幅方向の中央部にて1000℃程度であり、上部コーナー部にて900℃程度となる。一方、下部矯正帯6において、鋳片Sの温度は、上部コーナー部にて750℃程度まで低下する。つまり、鋳片Sの温度は、下部矯正帯6において、延性低下温度となる。このため、下部矯正帯6において延性低下温度となった鋳片Sを直線形状に矯正した場合には、鋳片Sの上側コーナー部にて生じる引張応力に基づいて割れが発生する。
【0018】
そこで、本発明においては、図1に示す通り、下部矯正帯6に鋳片加熱装置7を設ける。具体的に、下部矯正帯6の上流側の位置から下部矯正帯6における下流側の位置に亘って、鋳片加熱装置7を設けている。そして、下部矯正帯6にて直線形状に矯正される鋳片Sについて、上側コーナー部の温度を延性低下温度とならないように補償することとしている。
【0019】
次に、鋳片加熱装置7の構成について、図2を用いて説明する。図2は、ロール3と、鋳片Sと、鋳片加熱装置7との構成を模式的に示す斜視模式図である。図2に示す通り、鋳片加熱装置7は、鋳片Sの側面部Bの近傍において、一対のロール3(上側ロール3a及び下側ロール3b)の間に設けられる。鋳片加熱装置7は、加熱コイル7aと、磁気遮蔽部材7hとを有する。加熱コイル7aは、電源部から供給される交流電流に基づいて周囲に磁気を発生させ、周囲の構成(鋳片Sの上側コーナー部C)を誘導加熱方式により加熱する。
【0020】
ここで、鋳片加熱装置7の詳細な構成について、図3を用いて説明する。図3は、鋳片加熱装置7の構成を模式的に示す側面模式図である。図3に示す通り、鋳片加熱装置7の加熱コイル7aは、コイル長辺部7bと、コイル短辺部7eとを有する。コイル長辺部7bは、上側コイル長辺部7cと、下側コイル長辺部7dとを有する。つまり、コイル長辺部7bは、鋳片Sの搬送方向Dに延びる2つのコイル長辺部を有する。また、コイル短辺部7eは、上流側コイル短辺部7fと、下流側コイル短辺部7gとを有する。つまり、コイル短辺部7eは、鋳片Sの厚み方向Hに延びる2つのコイル短辺部を有する。
【0021】
即ち、加熱コイル7aは、同一の平面において鋳片の搬送方向Dに延びる2つのコイル長辺部及び鋳片の厚み方向Hに延びる2つのコイル短辺部を連結して周回させる回路であると共に、鋳片Sの側面部Bに対して当該回路を対向させるように設けられている。
【0022】
コイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)の長さは、1500mm以上であることが好ましい。下部矯正帯6(図1参照)の全域において、鋳片Sの上側コーナー部Cにおける温度を延性低下温度まで低下させないため、下部矯正帯6の上流側にて500mm以上の長さの余熱域を設けると共に、下部矯正帯6の全域にて1000mm以上の長さの保温域が必要になるためである。
【0023】
加熱コイル7aについて、単一のコイルにより構成される単一の回路による上側コーナー部Cの十分な加熱が困難である場合には、複数のコイルに基づく複数の回路を作成すると共に、当該複数の回路を鋳片Sの搬送方向Dに沿って順に配置することで、上側コーナー部Cを加熱する範囲を複数に分割して加熱してもよい。この場合、複数に分割された加熱コイル7aのコイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)の長さは、500mm以上とすることが好ましい。コイル長辺部7bがコイル短辺部7eより短くなると、隣接する複数のコイル同士のコイル短辺部7eの間で誘導電流の打ち消し作用が働き、上側コーナー部Cの加熱の効果が低下するためである。
【0024】
コイル短辺部7e(上流側コイル短辺部7f及び下流側コイル短辺部7g)の長さは、125mm以上鋳片Sの厚さL未満であることが好ましい。コイル短辺部7eの長さが125mm未満である場合、隣接する複数のコイル同士のコイル長辺部7bの間で誘導電流の打ち消し作用が働き、鋳片Sの加熱の効果が低下するためである。また、コイル短辺部7eの長さが鋳片Sの厚さL以上である場合、コイル長辺部7bがロール3に干渉してしまうためである。
【0025】
上側コイル長辺部7cと鋳片Sの側面部Bとの距離、及び、下側コイル長辺部7dと鋳片Sの側面部Bとの距離について、10mm程度の差を有していても、本発明による効果への影響は小さい。また、コイル短辺部7e(上流側コイル短辺部7f及び下流側コイル短辺部7g)は、コイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)を回路として連結する限り、その構成を限定するものではない。
【0026】
加熱コイル7aは、電源部に接続された導線により、コイル長辺部7b及びコイル短辺部7eを連結して周回させる回路として構成する限り、周回させる回数は1回以上でよい。加熱コイル7aの素材は、銅等の導体であってよい。加熱コイル7aを構成する導体は、中空の部材として、当該中空の領域に導体を冷却するための冷却水を流通させてもよい。加熱コイル7aを構成する導体の直径は、3mm以上であることが好ましい。導体の直径を大きくすることで、加熱コイル7aの抵抗値を低下させ、加熱コイル7aの発熱に伴う溶損を防止するためである。
【0027】
加熱コイル7aは、交流電流を供給する電源部に接続されてよい。加熱コイル7aに交流電流を供給する電源部の出力は、300~1000kWであることが好ましい。加熱コイル7aに供給される交流電流は、電流(実効値)が10~30kAであることが好ましい。電源部の出力及び電流(実効値)が低い場合には、鋳片Sの上側コーナー部Cの十分な加熱が行えず、電源部の出力及び電流(実効値)が大きい場合には、上側コーナー部Cが溶損する恐れがあるためである。
【0028】
加熱コイル7aに供給される交流電流は、周波数が1~10kHzであることが好ましい。周波数が1kHz未満である場合には、鋳片Sの側面部Bの全体が加熱される一方、上側コーナー部Cについて延性低下温度を超えた温度に加熱し難くなる。また、周波数が10kHzを超える場合には、上側コーナー部Cの極表層のみが局所的に加熱され、上側コーナー部Cの全体が均一に加熱され難くなる。
【0029】
磁気遮蔽部材7hは、鋳片Sの厚み方向Hにおいてロール3と加熱コイル7aとの間に設けられる。磁気遮蔽部材7hは、上側磁気遮蔽部材7iと、下側磁気遮蔽部材7jとを有する。磁気遮蔽部材7hは、電源部から加熱コイル7aに供給される交流電流の周波数における比透磁率が1000以上であると共に、厚みは1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0030】
比透磁率は、物質が磁場中に置かれた際における磁気の透過度を示すパラメータであり、値が高いほど磁気を透過させ難い。このため、磁気遮蔽部材7hの比透磁率が低い場合には、加熱コイル7aにて発生する磁気をロール3に透過させないために、磁気遮蔽部材7hの厚みを増加させる必要がある。しかし、この場合、磁気遮蔽部材7hの厚みの増加に伴い、加熱コイル7aのコイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)と鋳片Sの上側コーナー部Cとの距離が離れてしまい、上側コーナー部Cの効率的な加熱が困難となる。
【0031】
一方、磁気遮蔽部材7hの比透磁率を大きくすることで、磁気遮蔽部材7hの厚みを薄くさせた場合には、加熱コイル7aにて発生する磁気のロール3への透過を防止できるものの、部材としての強度を確保し難い。
【0032】
このため、磁気遮蔽部材7hは、加熱の影響に伴う変形の防止が可能な1mm以上10mm以下の厚みを有すると共に、この厚みを踏まえた1000以上の比透磁率を備えることで、加熱コイル7aにて発生する磁気のロール3への透過(磁束漏洩)を防止できる。また、磁気遮蔽部材7hの素材としては、例えば、鉄系素材、フェライト、アモルファス、パーマロイ、センダスト等が挙げられるものの、磁気の透過を防止できる限り素材は限定されない。磁気遮蔽部材7hは、中空の部材として構成し、当該中空の領域にて磁気遮蔽部材7hを冷却し得る冷却水を流通させてもよい。
【0033】
磁気遮蔽部材7hは、板状部材であると共に、板状部材がロール3の中心軸Pとコイル長辺部7bとを結ぶ最短の線分Nに対して直交するように設けられる。具体的に、本実施形態において、磁気遮蔽部材7hは、ロール3における上側ロール3aの中心軸Pとコイル長辺部7bにおける上側コイル長辺部7cとを結ぶ最短の線分Nに対して直交するように設けられる上側磁気遮蔽部材7iと、ロール3における下側ロール3bの中心軸Pとコイル長辺部7bにおける下側コイル長辺部7dとを結ぶ最短の線分Nに対して直交するように設けられる下側磁気遮蔽部材7jとを有する。
【0034】
板状部材である磁気遮蔽部材7hについて、ロール3の中心軸Pとコイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)との最短の線分Nに対して直交するように設けることで、加熱コイル7aにおける上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7dから発せられる磁気のロール3(上側ロール3a及び下側ロール3b)への透過をより効率的に防止することができる。
【0035】
次に、鋳片加熱装置7における磁気遮蔽部材7hの構成について、図4を用いて説明する。図4は、鋳片加熱装置7における磁気遮蔽部材7hの構成を模式的に示す正面模式図である。即ち、図4は、鋳片Sの搬送方向Dに向けて鋳片加熱装置7を視認した場合における正面模式図を示す。
【0036】
図4に示す通り、磁気遮蔽部材7hは、搬送方向Dに垂直な鋳片Sの幅方向Wにおいて、幅方向Wに沿った長さがコイル長辺部7b(上側コイル長辺部7c及び下側コイル長辺部7d)における加熱コイル7aのコイル直径U以上の長さを有することが好ましい。磁気遮蔽部材7hは、ロール3の加熱を抑止する観点から、鋳片Sの幅方向Wにおいて、50mm以上の長さとすることがより好ましい。
【0037】
なお、磁気遮蔽部材7hは、鋳片Sの側面部Bの近傍において、鋳片Sの搬送中の蛇行に起因する接触の回避及び鋳片Sへの加熱の促進のため、幅方向Wにおいて鋳片Sと離間する距離を、コイル長辺部7bと鋳片Sの側面部Bとが離間する距離(以下、「距離CS」と言う。)と同等にしてよい。また、距離CSは、鋳片Sの蛇行によるコイル長辺部7bへの接触を回避するため、25mm以上とすることが好ましい。なお、距離CSが大きすぎると、鋳片Sの加熱の効果が低下する。加えて、加熱の効率の向上を目的とする交流電流の電流(実効値)の上昇に伴うコイルの溶損も誘発するため、距離CSは、50mm未満であることが好ましい。
【0038】
加熱コイル7aのコイル長辺部7bとロール3との距離(以下、「距離CR」と言う。)は、磁気遮蔽部材7hを設ける観点から、1mm以上であることが好ましい。また、コイル長辺部7bとロール3との距離が大きすぎると、コイル長辺部7bと上側コーナー部Cとの距離も大きくなるため上側コーナー部Cの加熱の効率が低下する。加えて、加熱の効率の向上を目的とする交流電流の電流(実効値)の上昇に伴うコイルの溶損も誘発する。このため、距離CRは、30mm未満とすることが好ましい。
【0039】
次に、以上に述べた構成に基づく効果について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、磁気遮蔽部材7hを有しない鋳片加熱装置7を用いた場合における磁束の分布状況を示す図である。図6は、磁気遮蔽部材7hを有する鋳片加熱装置7を用いた場合における磁束の分布状況を示す図である。
【0040】
図5に示す通り、磁気遮蔽部材7hを有しない鋳片加熱装置7において加熱コイル7aに交流電流を供給した場合には、磁気の発生に伴う磁束Mが形成され、磁束Mがロール3に侵入することとなる。一方、磁気遮蔽部材7hを有する鋳片加熱装置7において加熱コイル7aに交流電流を供給した場合には、図6に示す通り、磁気の発生に伴う磁束Mが磁気遮蔽部材7hの内部に引き付けられる。そして、磁気遮蔽部材7hの内部に引き付けられた磁束Mの方向は、鋳片Sの幅方向Wに向けて延びる磁気遮蔽部材7hの面に対して平行な方向へ向けられ、ロール3への侵入が回避される。更に、磁気遮蔽部材7hの面に対して平行な方向へ向けられた磁束Mは、その方向を維持しつつ鋳片Sの側面部Bであって、上側コーナー部Cに効率良く侵入する。このため、磁気遮蔽部材7hを有することで、鋳片Sの上側コーナー部Cの効率的な加熱が可能になると共に、ロール3への磁気の侵入を防止できる。
【0041】
本実施形態においては、図3に示す通り、磁気遮蔽部材7hについて、上側磁気遮蔽部材7i及び下側磁気遮蔽部材7jを有する構成として述べたものの、下側磁気遮蔽部材7jを設けることなく、上側磁気遮蔽部材7iのみにより構成してもよい。この場合、少なくとも上側磁気遮蔽部材7iを設けることで、鋳片Sの上側コーナー部Cの効率的な加熱が可能になると共に、上側ロール3aへの磁気の侵入を防止できる。
【0042】
また、磁気遮蔽部材7hを用いると共に、ロール3の素材として非磁性材を含めてもよい。ロール3の素材に非磁性材を含めることで、磁気遮蔽部材7hのみを使用した場合に比べ、ロール3への磁気の侵入をより効果的に防止できる。これにより、ロール3への加熱及びロール3の損傷の防止に関して優れた効果を得られる。ロール3を非磁性材とする素材は、セラミック素材、オーステナイト系ステンレスが挙げられる。
【0043】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図7に、第2実施形態の鋳片加熱装置72における磁気遮蔽部材72bの構成を模式的に示す。図7は、鋳片Sの搬送方向Dにおいて磁気遮蔽部材72bを分割させた構成の一例を示す。第2実施形態においては、磁気遮蔽部材72bを分割させた構成を除き、その他は第1実施形態と同じ構成である。
【0044】
図7に示す通り、鋳片Sの搬送方向Dにおいて磁気遮蔽部材72bを分割させ、ロール3と加熱コイル72a(コイル長辺部72c及びコイル長辺部72dを含む)との間のみに磁気遮蔽部材72bを配置することで、ロール3への磁気の侵入を防止すると共に、磁気遮蔽部材72bの構成の簡易化も図ることができる。更に、搬送方向Dにおいてロール3が配置されない位置と同じ位置に磁気遮蔽部材72bを設けないようにすることで、加熱コイル72aから発生した磁束を鋳片Sの上側コーナー部Cに作用させることができる。このため、上側コーナー部Cを効率的に加熱することができる。そして、ロール3への磁気の侵入を防止する観点から、搬送方向Dにおける磁気遮蔽部材72bの長さは、ロール3のロール直径Rに対して、0.7R以上の長さを有することが好ましい。
【0045】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態を説明する。図8に、第3実施形態の鋳片加熱装置73における磁気遮蔽部材73bの構成を模式的に示す。図8は、鋳片Sの幅方向Wにおける磁気遮蔽部材73bの長さを、加熱コイル73aのコイル直径と同程度の長さにした構成の一例を示す。第3実施形態においては、鋳片Sの幅方向Wにおいて、磁気遮蔽部材73bの長さを加熱コイル73aのコイル直径と同程度の長さにした構成を除き、その他は第1実施形態と同じ構成である。
【0046】
図8に示す通り、鋳片Sの幅方向Wにおいて、磁気遮蔽部材73bの長さを加熱コイル73aのコイル直径と同程度の長さにすることで、ロール3への磁気の侵入を防止すると共に、磁気遮蔽部材73bの構成の簡易化も図ることができる。
【0047】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態を説明する。図9に、第4実施形態の鋳片加熱装置74における磁気遮蔽部材74c及び磁気遮蔽部材74dの構成を模式的に示す。図9(a)は、磁気遮蔽部材74cについて、ロール3の周面Kに沿った円弧形状とさせた構成の一例を示す。図9(b)は、磁気遮蔽部材74dについて、ロール3の周面Kに沿った円筒形状とさせた構成の一例を示す。第4実施形態においては、磁気遮蔽部材74c及び磁気遮蔽部材74dを円弧形状又は円筒形状とさせた構成を除き、その他は第1実施形態と同じ構成である。なお、図9(a)における加熱コイル74aは、コイル長辺部74e及びコイル長辺部74fを含む。図9(b)における加熱コイル74bは、コイル長辺部74g及びコイル長辺部74hを含む。
【0048】
図9に示す通り、鋳片Sの搬送方向Dにおいて、磁気遮蔽部材74c及び磁気遮蔽部材74dを、ロール3の周面Kに沿った円弧形状又は円筒形状とすることで、ロール3への磁気の侵入をより確実に防止しつつ、磁気遮蔽部材74c及び磁気遮蔽部材74dを鋳片Sの上側コーナー部Cに近接させた位置に設けることができる。この構成により、磁気遮蔽部材74c及び磁気遮蔽部材74dに密集した磁束を上側コーナー部Cに集中させることができ、上側コーナー部Cを効率的に加熱することができる。そして、ロール3への磁気の侵入を防止する観点から、磁気遮蔽部材74cとして示す円弧形状として構成する場合には、円弧の弦の長さをロール3のロール直径Rに対して、0.7R以上の長さとすることが好ましい。
【0049】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態を説明する。図10に、第5実施形態の鋳片加熱装置75の構成を模式的に示す。図10は、鋳片加熱装置75について、台車75e及び距離測定装置75fを備える構成の一例を示す。第5実施形態においては、鋳片加熱装置75に台車75e及び距離測定装置75fを備える構成を除き、その他は第1実施形態と同じ構成である。
【0050】
図10に示す通り、鋳片加熱装置75は、加熱コイル75aと、磁気遮蔽部材75bと、導電棒75cと、電源部75dと、台車75eと、距離測定装置75fと、駆動部75gとを有する。電源部75dは、導電棒75cに交流電流を供給する。導電棒75cは、電源部75dから供給された交流電流を加熱コイル75aに供給する。加熱コイル75aは、導電棒75cを介して供給された交流電流により、鋳片Sの上側コーナー部Cを加熱する。
【0051】
距離測定装置75fは、レーザー距離計であってよい。距離測定装置75fは、加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bと、鋳片Sの側面部Bとの距離を測定してよい。台車75eは、距離測定装置75fにより測定された距離測定値に基づいて、鋳片Sの側面部Bと、加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bとの距離を調整するよう制御されてよい。
【0052】
更に、距離測定装置75fは、上側ロール3aと下側ロール3bとの間隔を測定してよい。駆動部75gは、距離測定装置75fにより測定された間隔測定値に基づいて、上側の加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bと、下側の加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bとの間隔を調整するよう制御されてよい。
【0053】
即ち、本実施形態においては、鋳片Sの幅方向Wにおいて、台車75eにより加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bの鋳片Sの側面部Bに対する位置を調整してよい。また、上側の加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bと下側の加熱コイル75a及び磁気遮蔽部材75bとの間隔を調整できるため、鋳片Sのサイズを問わず、上側コーナー部Cの加熱を確実に実施できる。
【0054】
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態としては、磁気遮蔽部材を用いる代わりに、ロール3の素材を非磁性材としてよい。第6実施形態においては、磁気遮蔽部材を用いることなく、ロール3の素材を非磁性材とする構成を除き、その他は第1実施形態と同じ構成である。
【0055】
ロール3の素材を非磁性材とすることで、磁気遮蔽部材のみを使用した場合に比べ、磁気の侵入をより効果的に防止できる。これにより、ロール3の加熱が抑止され、ロール3の損傷の抑制に関して優れた効果を得られる。ロール3を非磁性材とする素材は、セラミック素材、オーステナイト系ステンレスが挙げられる。
【0056】
以上、第1実施形態~第6実施形態における各構成を述べたものの、本発明においては、ロール3への磁束Mの侵入を防止すると共に、鋳片Sの上側コーナー部Cの効率的な加熱が可能との効果を奏する限り、各実施形態における構成の組み合わせも可能である。例えば、搬送方向Dにおいて磁気遮蔽部材74cをロール3の周面Kに沿った円弧形状とさせた構成(図9(a)参照)にすると共に、幅方向Wにおいて磁気遮蔽部材7hの長さを加熱コイル7aのコイル直径U以上の長さとさせた構成(図4参照)とし、更に、ロール3の素材に非磁性体を含む構成としてもよい。
【実施例0057】
次に、本発明に係る鋳片加熱装置及び連続鋳造設備について、鋳片Sを鋳造する工程に適用して実施した実施結果を説明する。以下に説明する比較例及び発明例1は、第1実施形態における構成に着目して行った実施結果である。また、発明例2は、第6実施形態における構成に着目して行った実施結果である。発明例3は、第2実施形態における構成に着目して行った実施結果である。発明例4は、第4実施形態における構成に着目して行った実施結果である。
【0058】
実施例における条件は、鋳片Sの断面サイズの幅を1200mm、厚みを300mmとし、鋳片Sの素材として普通炭素鋼を適用した。鋳造工程において、鋳片Sのコーナー部の初期の温度を750℃とし、搬送方向Dに向けた鋳片Sの搬送速度を0.9m/minとした。加熱コイルにおけるコイル長辺部の長さを1500mmとすると共に、コイル短辺部の長さを250mmとした。磁気遮蔽部材は、比透磁率を1000とし、厚みを1mmとした。加熱コイルに供給される交流電流について、周波数を10kHzとし、電流(実効値)を10kAとした。
【0059】
比較例として、磁気遮蔽部材7hを用いなかった場合における鋳片S及びロール3の加熱開始地点からの温度履歴の結果を図11に示す。図11(a)は、鋳片Sと、ロール3と、加熱コイル7aとの構成を模式的に示す斜視模式図である。図11(b)は、幅方向Wにおける鋳片Sと、ロール3と、コイル長辺部7bとの構成を模式的に示す正面模式図である。図11(c)は、鋳片Sの上側コーナー部(X)及びロール3におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)の温度履歴の結果を示す図である。比較例におけるロール3は、非磁性材を含むことなく、通常のロールを用いた。
【0060】
図11(c)に示す通り、鋳片Sの上側コーナー部(X)においては、加熱された温度が900℃程度に留まり、延性低下温度である状態にて下部矯正帯を通過したため、上側コーナー部(X)に割れが発生した。また、ロール3におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)も加熱された温度が850℃程度に達し、熱変形による損傷が生じた。更に、コイル長辺部7bとロール3との間にて火花(スパーク)が発生し、鋳片Sも損傷した。
【0061】
発明例1として、磁気遮蔽部材7hを用いた場合における鋳片S及びロール3の加熱開始地点からの温度履歴の結果を図12に示す。図12(a)は、鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材7hと、加熱コイル7aとの構成を模式的に示す斜視模式図である。図12(b)は、幅方向Wにおける鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材7hと、コイル長辺部7bとの構成を模式的に示す正面模式図である。図12(c)は、鋳片Sの上側コーナー部(X)及びロール3におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)の温度履歴の結果を示す図である。発明例1におけるロール3は、非磁性材を含むことなく、通常のロールを用いた。
【0062】
図12(c)に示す通り、鋳片Sの上側コーナー部(X)においては、加熱された温度が1000℃程度に達し、延性低下温度を超えた温度である状態にて下部矯正帯を通過したため、上側コーナー部(X)に割れが発生しなかった。また、ロール3におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)も加熱された温度が200℃程度に留まり、熱変形による損傷を防止できた。
【0063】
発明例2として、磁気遮蔽部材7hを用いる代わりに、素材として非磁性材であるオーステナイト系ステンレス材(SUS304)を適用したロール8を用い、その場合における鋳片S及びロール8の加熱開始地点からの温度履歴の結果を図13に示す。図13(a)は、鋳片Sと、ロール8と、加熱コイル7aとの構成を模式的に示す斜視模式図である。図13(b)は、幅方向Wにおける鋳片Sと、ロール8と、コイル長辺部7bとの構成を模式的に示す正面模式図である。図13(c)は、鋳片Sの上側コーナー部(X)及びロール8におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)の温度履歴の結果を示す図である。
【0064】
図13(c)に示す通り、鋳片Sの上側コーナー部(X)においては、加熱された温度が1000℃程度に達し、延性低下温度を超えた温度である状態にて下部矯正帯を通過したため、上側コーナー部(X)に割れが発生しなかった。また、ロール8におけるコイル長辺部7bの近傍位置(Y)も加熱された温度が140℃程度に留まり、熱変形による損傷を防止できた。
【0065】
発明例3として、鋳片Sの搬送方向Dにおいて分割させた磁気遮蔽部材72bを用い、その場合における鋳片S及びロール3の加熱開始地点からの温度履歴の結果を図14に示す。図14(a)は、鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材72bと、加熱コイル72aとの構成を模式的に示す斜視模式図である。図14(b)は、幅方向Wにおける鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材72bと、コイル長辺部72c及びコイル長辺部72dとの構成を模式的に示す正面模式図である。図14(c)は、鋳片Sの上側コーナー部(X)及びロール3におけるコイル長辺部72cの近傍位置(Y)の温度履歴の結果を示す図である。発明例3におけるロール3は、非磁性材を含むことなく、通常のロールを用いた。
【0066】
図14(c)に示す通り、鋳片Sの上側コーナー部(X)においては、磁気遮蔽部材を搬送方向Dに亘って分割させることなく設けた構成(発明例1参照)に比べて、早い段階で鋳片Sの加熱温度を高めることができた。このため、延性低下温度を超えた温度である状態にて下部矯正帯を通過したため、上側コーナー部(X)に割れが発生しなかった。また、ロール3におけるコイル長辺部72cの近傍位置(Y)については、磁気遮蔽部材を搬送方向Dに亘って分割させることなく設けた構成(発明例1参照)と同程度の温度に維持できたため、熱変形による損傷を防止できた。
【0067】
発明例4として、鋳片Sの搬送方向Dにおいて、ロール3の周面に沿った円弧形状の磁気遮蔽部材74cを用い、その場合における鋳片S及びロール3の加熱開始地点からの温度履歴の結果を図15に示す。図15(a)は、鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材74cと、加熱コイル74aとの構成を模式的に示す斜視模式図である。図15(b)は、幅方向Wにおける鋳片Sと、ロール3と、磁気遮蔽部材74cと、コイル長辺部74e及びコイル長辺部74fとの構成を模式的に示す正面模式図である。図15(c)は、鋳片Sの上側コーナー部(X)及びロール3におけるコイル長辺部74eの近傍位置(Y)の温度履歴の結果を示す図である。発明例4におけるロール3は、非磁性材を含むことなく、通常のロールを用いた。
【0068】
図15(c)に示す通り、鋳片Sの上側コーナー部(X)においては、磁気遮蔽部材を搬送方向Dに亘って分割させることなく設けた構成(発明例1参照)に比べて、早い段階で鋳片Sの加熱温度を高めることができた。このため、延性低下温度を超えた温度である状態にて下部矯正帯を通過したため、上側コーナー部(X)に割れが発生しなかった。また、ロール3におけるコイル長辺部74eの近傍位置(Y)については、磁気遮蔽部材を搬送方向Dに亘って分割させることなく設けた構成(発明例1参照)と同程度の温度に維持できたため、熱変形による損傷を防止できた。
【符号の説明】
【0069】
1 タンディッシュ
2 鋳型
3、8 ロール
3a 上側ロール
3b 下側ロール
4 冷却帯
5 上部矯正帯
6 下部矯正帯
7 鋳片加熱装置
7a 加熱コイル
7b コイル長辺部
7c 上側コイル長辺部
7d 下側コイル長辺部
7e コイル短辺部
7f 上流側コイル短辺部
7g 下流側コイル短辺部
7h 磁気遮蔽部材
7i 上側磁気遮蔽部材
7j 下側磁気遮蔽部材
B 側面部
C 上側コーナー部
D 搬送方向
E 垂直搬送方向
F 湾曲搬送方向
G 水平搬送方向
H 厚み方向
M 磁束
S 鋳片
T 溶鋼
W 幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15