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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170289
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】浸漬処理装置及び浸漬処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/00 20060101AFI20241129BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C23G3/00 Z
B08B3/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059579
(22)【出願日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2023086706
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 一誓
【テーマコード(参考)】
3B201
4K053
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201AB42
3B201BB02
3B201BB85
3B201BB92
4K053PA11
4K053SA18
4K053YA25
4K053ZA10
(57)【要約】
【課題】被処理物に形成された複数止まり穴のそれぞれの固有振動数が異なる場合でも、すべての止まり穴から気体を除去し、止まり穴内を処理できる浸漬処理装置及び浸漬処理方法を提供する。
【解決手段】浸漬処理装置101は、被処理物を処理液に浸漬させたときに第1の止まり穴の内部及び第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数を生成する周波数生成部8と、周波数生成部8で生成された複数の周波数に対応する周波数の振動を発生し、振動を被処理物に伝える振動発生部とを備えるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の止まり穴と第2の止まり穴を含む複数の止まり穴を有する1又は複数の被処理物の表面処理を処理液を用いて行う浸漬処理装置であって、
前記処理液を溜める処理槽と、
前記被処理物を前記処理液に浸漬させたときに前記第1の止まり穴の内部及び前記第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数を生成する周波数生成部と、
前記周波数生成部で生成された前記複数の周波数に対応する周波数の振動を発生し、前記振動を前記被処理物に伝える振動発生部とを備える浸漬処理装置。
【請求項2】
前記周波数生成部は、前記被処理物を前記処理液に浸漬させたときに前記第1の止まり穴の内部及び前記第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む周波数範囲の周波数を掃引して生成する請求項1に記載の浸漬処理装置。
【請求項3】
前記振動発生部は、前記周波数生成部で生成された前記複数の周波数に対応する周波数の振動を複数回発生する請求項1に記載の浸漬処理装置。
【請求項4】
前記振動発生部は、前記被処理物に対して複数方向から前記振動を伝えるように設けられる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の浸漬処理装置。
【請求項5】
前記振動発生部は、前記周波数生成部で生成された前記複数の周波数に対応する振動を発生する振動器を有し、
前記振動器は、前記処理液に浸漬しない位置に設けられる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の浸漬処理装置。
【請求項6】
前記振動発生部は、前記処理液に浸漬する部位と、前記振動器が取り付けられる部位とを有する振動伝播部材を含むことを特徴とする請求項5に記載の浸漬処理装置。
【請求項7】
前記振動伝播部材は、前記被処理物を前記処理液中に保持して前記被処理物に前記振動を伝える保持部を含む請求項6に記載の浸漬処理装置。
【請求項8】
前記振動器は、前記処理槽の側面又は底面に取り付けられる請求項5に記載の浸漬処理装置。
【請求項9】
第1の止まり穴と第2の止まり穴を含む複数の止まり穴を有する1又は複数の被処理物の表面処理を処理液を用いて行う浸漬処理方法であって、
前記被処理物を前記処理液に浸漬する手順と、
前記被処理物を前記処理液に浸漬させたときに前記第1の止まり穴の内部及び前記第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数に対応する周波数の振動を前記被処理物へ伝える手順とを有する浸漬処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき、塗装、酸洗浄、脱脂など、被処理物の表面の処理を行う浸漬処理装置及び浸漬処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物を処理液に浸漬して処理を行う浸漬処理装置及び浸漬処理方法においては、被処理物に止まり穴が形成されている場合、被処理物を処理液に浸漬させたときに止まり穴内に気体が気柱として残ることがある。気体が残ったままだと止まり穴内部に処理液が侵入しないため、止まり穴内部の処理ができない場合がある。
【0003】
そのため、水中にスピーカーを設け、スピーカーから1つの止まり穴に向け、その止まり穴内部に残っている気柱の固有振動数に一致する周波数の音波を発し、水を媒介として気柱に音波を伝えることにより、止まり穴内部の気体を除去する方法が開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Matsumoto,Y.;Mizushima,Y.;Sanada,T.Removing Gas from a Closed-End Small Hole by Irradiating Acoustic Waves with Two Frequencies,Micromachines 2022,13,109.https://doi.org/10.3390/mi13010109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、1つの止まり穴に残った気体を除去する方法が開示されているが、複数の止まり穴を有する被処理物や止まり穴を有する被処理物を複数同時に処理する場合では、複数の止まり穴内部の気体の固有振動数がそれぞれ異なることがある。この場合、気体を除去するために最適な周波数が止まり穴それぞれによって異なるため、これら複数の止まり穴から気体を除去することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するため、本開示における浸漬処理装置は、第1の止まり穴と第2の止まり穴を含む複数の止まり穴を有する1又は複数の被処理物の表面処理を処理液を用いて行う浸漬処理装置であって、処理液を溜める処理槽と、被処理物を処理液に浸漬させたときに第1の止まり穴の内部及び第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数を生成する周波数生成部と、周波数生成部で生成された複数の周波数に対応する周波数の振動を発生し、振動を被処理物に伝える振動発生部とを備える。
【0007】
また、本開示における浸漬処理方法は、第1の止まり穴と第2の止まり穴を含む複数の止まり穴を有する1又は複数の被処理物の表面処理を処理液を用いて行う浸漬処理方法であって、被処理物を処理液に浸漬する手順と、被処理物を処理液に浸漬させたときに第1の止まり穴の内部及び第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数に対応する周波数の振動を被処理物へ伝える手順とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数の止まり穴内部に残った気体の固有振動数がそれぞれ異なる場合でも、複数の止まり穴から気体を除去し、表面処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態1に係る浸漬処理装置の斜視図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る浸漬処理装置の断面図である。
図3】本開示の実施の形態2に係る浸漬処理装置の斜視図である。
図4】本開示の実施の形態2に係る浸漬処理装置の断面図である。
図5】本開示の実施の形態3に係る浸漬処理装置の斜視図である。
図6】本開示の実施の形態3に係る浸漬処理装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本開示の実施の形態1に係る浸漬処理装置101について、図1図2を用いて説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係る浸漬処理装置101の斜視図である。図2は、本開示の実施の形態1に係る浸漬処理装置101の断面図である。図2では、簡略化のため、スタンド4、棒状部材5、周波数生成部8、増幅器9は省略している。
【0011】
図1図2に示すように、浸漬処理装置101は、第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴を有する被処理物3を処理するものである。
【0012】
被処理物3は、1つの被処理物であっても複数の被処理物であってもよく、少なくとも第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を有している。図1では、1つの被処理物3を示しているが、被処理物3は、第1の止まり穴31及び第2の止まり穴32を有する1つの被処理物に限らず、第1の止まり穴31を有する被処理物と第2の止まり穴32を有する被処理物を同時に処理するような、第1の止まり穴31及び第2の止まり穴32を有する複数の被処理物であってもよい。なお、止まり穴は、例えばネジ穴などの、端が閉塞した非貫通の穴で、通常は円柱形状のものが多いが、特に限定するものではなく凹形状などを含め円柱形状に限るものではない。
【0013】
浸漬処理装置101は、処理槽1、処理液2、スタンド4、棒状部材5、ジグ6、振動発生部7、周波数生成部8、増幅器9を備える。
【0014】
処理槽1の内部には、処理液2が溜められる。処理液2は、例えば、酸や脱脂液、めっき液等である。
【0015】
スタンド4は、処理槽1の周辺に設置され、支柱と支柱を支持する土台とを有する。
【0016】
棒状部材5は、スタンド4の支柱にクランプや金具などで固定され、処理槽1の側へ伸長するように設けられる。
【0017】
ジグ6は棒状で両端がフック状に形成された部材である。ジグ6は、棒状部材5に対し、一端を掛けて吊るされる。また、他端には被処理物3に形成されたジグ6のフック状の他端が入る丸穴33が掛けられ、被処理物3が処理液2に浸漬された状態に吊るされる。
【0018】
ジグ6の材質は、例えば、ステンレス、アルミニウムなどを適用する。また、軟質ポリ塩化ビニルなどのコーディング剤で処理した部材も適用できる。ジグ6の材質は、処理液2の腐食に対して耐性のあるものが好適であるが、処理液2に対する耐薬品処理などを施せば任意の材質を使用できる。
【0019】
なお、スタンド4、棒状部材5は、ジグ6を支持できれば、他の任意の構成であってもよい。
【0020】
なお、ジグ6は、被処理物3を処理液2に浸漬するように保持できれば、他の任意の構成であってもよい。
【0021】
周波数生成部(関数生成器)8は、第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数(固有振動数及び高調波の周波数(固有振動数の2以上の整数倍の周波数))を含む周波数範囲の周波数を掃引して生成するもので、例えば0~数千Hz程度の周波数を掃引して発生させることが可能であればよい。
【0022】
この実施の形態では、周波数を掃引して生成する関数生成器について説明するが、周波数生成部8は、被処理物9を処理液2に浸漬させたときに第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴内部に残る各気体の固有振動数又はその高調波の周波数を含む複数の周波数を生成するものであればよい。
【0023】
周波数生成部8により生成された周波数は増幅器9により増幅される。増幅器9は、例えば0~数千Hz程度の周波数に対応していればよい。
【0024】
なお、増幅器9は必ずしも備えなくてもよい。
【0025】
振動発生部7は、周波数生成部8で生成された複数の周波数に対応する周波数の振動を発生し、振動を被処理物に伝えるものである。
【0026】
この実施の形態では、振動発生部7は振動器10と振動伝播部材11とを含む。振動器10は、周波数生成部8で生成され、増幅器9で増幅された複数の周波数に対応する振動を発生させる。振動器10は、振動伝播部材11を振動させるように振動伝播部材11に設けられる。振動器10は、振動器10を設けた部材に、例えば0~数千Hz程度の振動を与えられるものであればよく、例えば伝振動スピーカーなどである。振動器10の出力は大きいほど好適である。
【0027】
振動器10は、振動伝播部材11の処理液2に浸漬していない部位へ振動器10を設けるのが好ましい。これにより、処理液2が振動器10を腐食させるような劇物である場合でも、振動器10が処理液2に浸漬せずに処理液2へ振動を伝えることができる。したがって、振動器10は防水処理や耐薬品処理などが不要になるため、安価なものを使用できる。
【0028】
振動伝播部材11は処理液2に浸漬する部位(図1においては下部側)と振動器10が取り付けられる部位(図1においては上部側)とを有する。これにより、振動器10から振動伝播部材11を介して処理液2へ伝わった振動は、処理液2を通して被処理物3へ伝わる。
【0029】
振動伝播部材11は、例えばブスバーなど、振動器10の振動を効率よく伝搬できる部材にすればよい。振動伝播部材11の材質は、例えば、ステンレス、アルミニウムなどを適用する。また、軟質ポリ塩化ビニルなどのコーディング剤で処理した部材も適用できる。振動伝播部材11の材質は処理液2による腐食に耐性があるものが望ましいが、処理液2への耐薬品処理を施せば任意の材質を使用できる。また、振動伝播部材11の材質は、振動伝達率の高いものほど好適である。例えば、剛性が高い材質ほど好適である。振動伝播部材11はどのような形状であってもよく、例えば、被処理物3の形状に合わせて振動伝播部材11を成形して用いれば、任意の位置で振動発生源を配置できる。
【0030】
次に、止まり穴が形成された被処理物3を処理液2に浸漬し、被処理物3の表面処理を行う浸漬処理方法について、図1を用いて説明する。
【0031】
まず、処理液2を溜めた処理槽1内に第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を含む被処理物3を浸漬する。
【0032】
一方、周波数生成部8で、処理液に浸漬された第1の止まり穴31の内部及び第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴内部に残る各気体の固有振動数又はその高調波の周波数を含む複数の周波数を生成する。ここで、固有振動数は、計測により求められた計測値、理論により設けられた理論値などを用いることができる。
【0033】
理論により求める場合、止まり穴内部に気柱として残った気体の固有振動数fは、例えば一般によく用いられる次の数式1により求めることができる。
【0034】
【数1】
【0035】
γは液体の比熱比、Pは処理液中での止まり穴に対する圧力、ρは処理液の密度、Lは止まり穴内部の気柱の深さ、lは止まり穴内部の処理液の侵入深さ、dは気柱の直径である。
【0036】
数式1を用いて、例えば、液体の比熱比γを1.4、圧力Pを102.31kPa、処理液の密度ρを1000kg/m、気柱の深さLを20mm、止まり穴内部の処理液の侵入深さlを0mm、気柱の直径dを10mmとする第1の止まり穴31内に気柱として残った気体の固有振動数fは176.3Hzと計算できる。一方、液体の比熱比γを1.4、圧力Pを102.31kPa、処理液の密度ρを1000kg/m、気柱の深さLを10mm、止まり穴内部の処理液の侵入深さlを0mm、気柱の直径dを5mmとすると、第2の止まり穴32内に気柱として残った気体の固有振動数fは352.7Hzと計算できる。
【0037】
このように求められた第1の止まり穴31及び第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴内部に残る各気体の固有振動数(ここでは、176.3Hzと352.7Hz)又はその高調波の周波数に対応する振動を振動器10で発生させる。詳細には、各気体の固有振動数又はその高調波の周波数を含むよう、これらの周波数を含む周波数範囲の周波数を掃引して生成させる。そして、振動器10で発生した振動は振動伝播部材11を介して被処理物3に伝搬される。なお、周波数を掃引する回数は1回でもよいし、複数回繰り返してもよい。
【0038】
ここで、被処理物3に形成された止まり穴内部に気柱として残った気体の固有振動数と一致する周波数又はその高調波の周波数を含む振動が被処理物に与えられるので、第1の止まり穴内の固有振動数又はその高調波の周波数の振動が与えられたときには、第1の止まり穴内の気体が、そして、第2の止まり穴内の固有振動数又はその高調波の周波数の振動が与えられたときには、第2の止まり穴内の気体が共振により振動する。その結果、第1の止まり穴及び第2の止まり穴内に残っていた気体が被処理物3の外へ排出され、止まり穴内に処理液2が流入し止まり穴内の表面処理がなされる。
【0039】
なお、第1の止まり穴31と第2の止まり穴32を含む複数の止まり穴内部に残った気体の固有振動数を浸漬処理前に計算できない場合でも、止まり穴31、32の固有振動数を含むと想定される広い周波数範囲で掃引すれば、止まり穴内部の気体を排出できる。
【0040】
なお、止まり穴内部の気体の一部が排出され、処理液2が止まり穴内部に流入するに伴い、止まり穴内部に気柱として残った気体の固有振動数は高周波数側に変化する。そこで、周波数生成部8が出力する信号の周波数を掃引することにより、止まり穴内部に残った気柱の固有振動数と一致する周波数の振動を伝えることができるため、止まり穴内から気体を排出し続けることができる。
【0041】
信号の周波数は、低周波数側から高周波数側へ掃引してもよいし、高周波数側から低周波数側へ掃引してもよいが、気体の一部が排出されると止まり穴内部に残った気柱の固有振動数は高くなるため、低周波数側から高周波数側へ掃引する方が残った気体を効率良く排出できる。
【0042】
なお、振動器10は防水処理・耐薬品処理を適宜施してもよい。
【0043】
なお、ここでは、第1の止まり穴と第2の止まり穴を有する1個の被処理物の表面処理を行う場合について説明したが、第1の止まり穴と第2の止まり穴をそれぞれ別の被処理物が有する場合でも同様の効果を奏する。
【0044】
上述の通り、実施の形態1に係る浸漬処理装置は、第1の止まり穴と第2の止まり穴を含む複数の止まり穴を有する1又は複数の被処理物の表面処理を処理液を用いて行う浸漬処理装置であって、処理液を溜める処理槽と、被処理物を処理液に浸漬させたときに第1の止まり穴の内部及び第2の止まり穴の内部に残る各気体の固有振動数の整数倍の周波数を含む複数の周波数を生成する周波数生成部と、周波数生成部で生成された複数の周波数に対応する周波数の振動を発生し、振動を被処理物に伝える振動発生部とを備えることにより、複数の止まり穴内部に残った気体の固有振動数がそれぞれ異なる場合でも、複数の止まり穴から気体を除去し、表面処理できる。
【0045】
さらに、振動発生部は、周波数生成部で生成された複数の周波数に対応する振動を発生する振動器が取り付けられる部位と、処理液に浸漬する部位を有する振動伝播部材を含み、振動器が処理液に浸漬しない位置に設けられることにより、振動器は防水処理や耐薬品処理などを必要とせずに被処理物へ振動を伝えることができるので、振動器は安価なものを使用できる。
実施の形態2.
以下、実施の形態2に係る浸漬処理装置102について図3図4を用いて説明する。実施の形態1に係る浸漬処理装置101が有する振動伝播部材11は被処理物3とは接しておらず、処理液2を介して被処理物3に振動を伝播するものであった。一方、実施の形態2に係る浸漬処理装置102では、振動伝播部材11に保持部13が設けられ、被処理物3へ保持部13を介して振動を伝播するものである。以下、実施の形態1で説明した構成と同一、又は相当する構成については同一符号を付し、それらの構成の説明を繰り返し行わない。
【0046】
図3は、本開示の実施の形態2に係る浸漬処理装置102の斜視図である。図4は、本開示の実施の形態2に係る浸漬処理装置102の断面図である。図4では、簡略化のため、スタンド4、周波数生成部8、増幅器9は省略している。
【0047】
図3図4に示すように、浸漬処理装置102の振動伝播部材11は、被処理物3を処理液2に浸漬するように保持する保持部13と、保持部13を支持する支持部12を有する。支持部12と保持部13は、振動伝播部材11の一部である。なお、支持部12と保持部13とは一体として形成されていてもよい。
【0048】
スタンド4は2組あり、支持部12がクランプなどにより2個のスタンド4に固定される。スタンド4は、振動伝播部材11を支持できれば他の任意の構成であってもよい。
【0049】
支持部12、保持部13の材質は処理液2による腐食に耐性があるものが望ましいが、処理液2に耐性を持たせる処理を施せば任意の材質を使用できる。また、支持部12、保持部13の材質は、振動伝達率の高いものほど好適である。例えば、剛性が高いものほど好適である。
【0050】
支持部12と保持部13との繋目で振動が損失しないようにするため、支持部12と保持部13とはネジやボルトなどにより、緩みがないように締結されていることが望ましい。同様に、保持部13と被処理物3とはネジやボルトなどにより緩みがないように締結されていることが望ましい。
【0051】
振動器10は、支持部12を振動させるように支持部12に設けられ、振動器10から発生する振動は、保持部13を通して被処理物3に伝わる。なお、保持部13に振動器10を設けてもよい。
【0052】
振動伝播部材と被処理物との間は処理液を介して振動が伝わる実施の形態1に係る浸漬処理装置では、処理液の振動伝達率が低いため、振動が減衰する場合がある。一方、実施の形態2に係る浸漬処理装置は振動伝播部材が被処理物を保持する保持部を備えることにより、被処理物に保持部を通して振動を与えることができる。これにより、伝播される振動が減衰しづらく、さらに効率的に止まり穴から気体を排出することができる。
【0053】
また、保持部を介して効率よく被処理物へ振動を伝播できるため、処理液を介して振動を伝播するよりも振動発生部の出力を小さくすることができる。したがって、省エネルギーや騒音を抑制できる効果を奏する。
【0054】
実施の形態3.
以下、実施の形態3に係る浸漬処理装置103について説明する。実施の形態1の浸漬処理装置101の振動発生部7は振動器10と振動伝播部材11を有するものであった。一方、この実施の形態3の浸漬処理装置103の振動発生部7は振動伝播部材11を有しない。振動器10は処理槽1の外側の側面又は底面に設けられる。以下、実施の形態1で説明した構成と同一、又は相当する構成については同一符号を付し、それらの構成の説明を繰り返し行わない。
【0055】
図5は、本開示の実施の形態3に係る浸漬処理装置103の斜視図である。図6は、本開示の実施の形態3に係る浸漬処理装置103の断面図である。図6では、簡略化のため、スタンド4、棒状部材5、周波数生成部8、増幅器9は省略している。
【0056】
図5図6に示すように、この実施の形態において、振動発生部7は振動器10のみを有する。つまり、振動発生器7は振動器10である。処理槽1の外側の側面又は底面に振動器10が設けられ、振動器10が振動すると処理槽1が振動する。処理槽1が振動すると処理液2を介して被処理物3に振動が伝播される。
【0057】
上述の通り、処理槽に振動器を設けることにより、振動伝播部材が不要となり、実施の形態1、2と比べて浸漬処理装置を小型化することができる。
【0058】
なお、防水処理・耐薬品処理を施した振動器、又は密閉構造の容器の内側の面に設けた振動器を有する振動発生部を処理液に浸漬してもよい。
【0059】
なお、実施の形態1における振動伝播部材11、実施の形態3における振動器10、又は防水処理・耐薬品処理を施した振動器又は密閉構造の容器の内側の面に設けた振動器10を有する振動発生部7は、音波による止まり穴内部の気体の振動効率向上の観点から、図1図5に示すように、止まり穴31、32の開口方向と対向していることが望ましい。
【0060】
さらに、止まり穴31、32の開口に対して止まり穴の深さ方向(穴の底面側)から振動を伝播できる第1の位置に設けられていることが望ましい。図5をもとに説明すれば、現在の振動器10が配置されている処理槽1の面と対向する面に振動器10が配置されていることがより望ましい。
【0061】
しかし、振動器10等が、止まり穴31、32の開口方向と対向していなくても、気体を排出することはできる。止まり穴31,32に対して対向させる必要がある別の設置物がある場合、あるいは処理槽1が狭く、対向する位置に振動発生部7等を設ける空間的余裕がない場合でも、振動発生部7の振動伝搬部材11あるいは振動器10を対向しない第2の位置に置くことで、止まり穴31、32内部の気体を排出させることができる。
【0062】
ここで、第1の位置と異なる第2の位置とは、例えば、振動発生部7が止まり穴31、32の開口に対して止まり穴の深さ方向と交わる方向から振動を伝播できる位置にあればよい。例えば、図5をもとに説明すれば、第2の位置は処理槽1の底面である。
【0063】
止まり穴31,32に対して対向させる必要がある別の設置物がある場合としては、例えば、電気めっき処理を行う場合があげられる。電気めっきの電極はめっきの膜厚分布への影響が大きい。被めっき面に均一な膜厚のめっきを製膜するには、面に対して対向するように電極を配置する必要がある。被めっき面に止まり穴があり、止まり穴内部の気体を排出する場合を考える。この時、振動発生部7を、めっき面の止まり穴に対向させるため、めっき電極とめっき面の間に振動発生部7を配置すると、振動発生部7が電界を遮蔽してしまい、めっきの膜厚分布均一性が悪化する。めっき電極に対して、めっき面と反対側に振動器を設置すると、めっき電極によって、音波が遮断されてしまう。
【0064】
そこで、対向しない第2の位置に振動器10を配置することで、めっき電極とめっき面の間の電界、延いてはめっきの膜厚分布に影響を及ぼさずに止まり穴内部の気体を排出することができる。
【0065】
また、第1の位置のみ、又は第2の位置のみに振動発生部7等を設けるのではなく、第1の位置及び第2の位置に振動発生部7等を設け、被処理物に対して複数の方向から振動を発生させてもよい。
実施の形態4.
実施の形態4は、実施の形態1~3で示した浸漬処理装置及び防水処理・耐薬品処理を施した振動器、又は密閉構造の容器の内側の面に設けた振動器を有する振動発生部を処理液に浸漬する構成の浸漬処理装置を用いた音波の照射方法に関する。本実施の形態では、音波の照射を1回のみでなく複数回音波を照射するものである。なお、照射方法以外は実施の形態1~3で説明した浸漬処理装置と同様である。音波照射による止まり穴からの気体排出において、気体が一度にすべて排出されず部分的に排出される場合がある。この場合、複数回音波を照射することで、一度の音波照射では排出されなかった気体を排出し、排出率を向上させることができる。
【0066】
以下に実験結果を表1に示す。例えば、密閉構造の容器の内側の面に設けた振動器を有する振動発生部をイオン交換水中に浸漬し、アクリルブロックに空けた直径5mm、深さ20mmの止まり穴と、90mmの間隔をあけて対向させ、200Hzから800Hzまで、10Hz/秒の周波数掃引速度で同じ強度の音波を照射したとき、1分間で1回だけ周波数掃引した場合は気体の排出率が12%であったのに対し、3分間で合計3回周波数掃引すると気体の排出率が15%になり、5分間で合計5回周波数掃引すると気体の排出率が52%まで向上した。
【0067】
また、200Hzから800Hzまで3.3Hz/秒の周波数掃引速度で上記と同じ強度の音波を3分間かけて1回だけ掃引・照射した場合、気体の排出率は5%であり、2Hz/秒の周波数掃引速度で、5分間かけて1回だけ掃引・照射した場合、気体の排出率は5%であった。
【0068】
【表1】
【0069】
上記結果から、照射回数を複数回にすることで、気体の排出率を向上させることができる。また、周波数を掃引する場合、合計の照射時間が同じであっても、周波数掃引速度を上げて、掃引回数を複数回にすることで、気体の排出率を向上させることができ、効率化することができる。
【0070】
なお、以上の実施の形態1から4に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、複数の実施の形態を自由に組み合わせることも可能である。また、別の公知の技術と組み合わせることも可能である。また、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0071】
101、102、103 浸漬処理装置、1 処理槽、2 処理液、3 被処理物、31 第1の止まり穴、32 第2の止まり穴、33 丸穴、4 スタンド、5 棒状部材、6 ジグ、7 振動発生部、8 周波数生成部、9 増幅器、10 振動器、11 振動伝播部材、12 支持部、13 保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6