(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170290
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20241129BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241129BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20241129BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16C33/58
F16C33/78 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064936
(22)【出願日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2023086816
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春彦
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB29
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC45
3J216EA07
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA73
3J701CA14
3J701EA63
3J701FA38
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、互いに同軸に配置された内輪10および外輪20と、内輪10と外輪20との間に配置された転動体30と、外輪20に装着され、内輪10と外輪20との間を軸方向の外側から覆うシール部材50と、転動体30とシール部材50との間に配置されたグリース60と、を備える。外輪20は、内輪10に対向する内周面22bを有する。内周面22bには、転動体30を転動可能に支持する外輪軌道面23と、外輪軌道面23の軸方向の端縁から軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部24と、が形成されている。グリース60は、凹部24に接触している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記内輪または前記外輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、
前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、
を備え、
前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪は、他方の軌道輪に対向する周面を有し、
前記周面には、
前記転動体を転動可能に支持する軌道面と、
前記軌道面の前記軸方向の端縁から前記軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部と、
が形成され、
前記グリースは、前記凹部に接触している、
転がり軸受。
【請求項2】
前記グリースは、前記凹部のうち径方向に対して前記軸方向の外側に傾斜した方向を向く箇所に接触している、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記凹部は、径方向に対して前記軸方向の内側に傾斜した方向を向く箇所を有する、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記グリースは、前記シール部材に接触している、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記凹部は、前記軌道面に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられている、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記周面が形成された突出部を有し、
前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続する端面を有し、
前記凹部は、前記端面に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられている、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記凹部は、周方向の全体にわたって連続して延びている、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項8】
前記グリースは、前記凹部の前記軌道面側の端縁に形成された稜部に接触している、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項9】
前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記周面が形成された突出部を有し、
前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続する端面を有し、
前記周面は、前記凹部と前記端面との間に形成された接続面を有し、
前記接続面は、前記径方向において前記軌道面の前記軸方向の端縁よりも前記他方の軌道輪から離れている、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項10】
前記周面は、前記凹部の前記軌道面側の端縁から前記径方向および前記軸方向に対して傾斜して前記軌道面側に延びる傾斜部を有する、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項11】
前記グリースは、前記凹部の内側から前記径方向において前記傾斜部側に突出しないように配置されている、
請求項10に記載の転がり軸受。
【請求項12】
前記シール部材は、
前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、
前記台座部における前記他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、
前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、
を有し、
前記グリースは、
前記一方の軌道輪の前記周面に接触した軌道輪接触部と、
前記軌道輪接触部よりも前記軸方向の外側、かつ前記他方の軌道輪側で前記平面部に接触したシール部材接触部と、
を有し、
前記シール部材接触部の面積は、前記グリースと前記シール部材のうち前記延出部および前記台座部との接触面積よりも大きい、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項13】
前記シール部材接触部は、前記軸方向から見て前記グリースにおける径方向の中心位置を含む、
請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項14】
前記グリースは、前記延出部に対して非接触である、
請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項15】
前記軌道輪接触部は、前記一方の軌道輪と前記台座部との接触部に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられている、
請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項16】
前記グリースは、前記台座部に対して非接触である、
請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項17】
前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記軌道面が形成された突出部を有し、
前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続し、前記台座部に接触する端面を有し、
前記台座部は、前記軸方向から見て前記端面よりも前記他方の軌道輪側に突出しないように配置されている、
請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項18】
回転可能に配置された回転体と、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記回転体と前記支持体との間に介在する、請求項1に記載の転がり軸受と、
を備える回転機器。
【請求項19】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記内輪または前記外輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、
前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、
を備え、
前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪は、他方の軌道輪に対向する周面を有し、
前記周面には、
前記転動体を転動可能に支持する軌道面と、
前記軌道面の軸方向の端縁から前記軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部と、
が形成された転がり軸受の製造方法であって、
前記グリースを前記凹部に接触させて塗布する塗布工程を備える転がり軸受の製造方法。
【請求項20】
前記シール部材は、
前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、
前記台座部における前記内輪および前記外輪のうち他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、
前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、
を有し、
前記塗布工程では、前記グリースを前記一方の軌道輪との接触部から前記軸方向の外側かつ前記他方の軌道輪側に突出するように塗布し、
前記シール部材を前記軸方向の外側から前記一方の軌道輪に接近させて、前記平面部を前記グリースにおける前記軸方向の外側の端縁に接触させる接触工程と、
前記接触工程の後、前記シール部材を前記一方の軌道輪に接近させて前記台座部を前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触させるとともに、前記平面部で前記グリースを前記軸方向の内側に押す装着工程と、
をさらに備える請求項19に記載の転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受として一対の軌道輪(内輪および外輪)の間にグリースを保持するものがある。この種の転がり軸受においては、グリースの抵抗が回転抵抗を増大させる要因となる場合がある。ところで、転がり軸受においては、搭載される回転機器の省電力化を目的として回転抵抗の低減が望まれる。特にファンモータ等の各種モータで使用される小型の転がり軸受においては、回転抵抗の低減の要望が強い。
【0003】
転がり軸受の回転抵抗を低減するために、相対回転し合う部材の両方に接触するグリースの量を低減することが有効である。そこで転がり軸受の固定輪(多くの場合で外輪)における軸方向の端部や、この端部側に配置されるシール部材にグリースを塗布し、転動体(玉)および転動体を保持する保持器に接触するグリースの量の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の転がり軸受では、グリースは、外輪の転動体に接触する軌道面を避けた内周面に付着し、かつ、内輪の外周面に接触しないように、外輪の内周面側に偏って円環状に封入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転抵抗を低減するためにグリースの量を低減すると、グリース切れによって転がり軸受の寿命が低下する可能性がある。したがって、従来の転がり軸受にあっては、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立するという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る転がり軸受は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪または前記外輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪は、他方の軌道輪に対向する周面を有し、前記周面には、前記転動体を転動可能に支持する軌道面と、前記軌道面の前記軸方向の端縁から前記軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部と、が形成され、前記グリースは、前記凹部に接触している。
【0008】
第1の態様によれば、グリースが軸方向に変位することを凹部によって規制できる。これにより、グリースが変位して転動体などに所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受の回転抵抗の低減を図ることができる。さらに、凹部の内側にグリースを配置できるので、凹部が形成されていない構成と比較して、グリースの総量を増加させることができる。以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受を提供できる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記凹部のうち径方向に対して前記軸方向の外側に傾斜した方向を向く箇所に接触していてもよい。
【0010】
第2の態様によれば、凹部のうち径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向を向く箇所が、グリースが軸方向の内側へ変位することを初期状態から規制する。これにより、転がり軸受の使用を重ねる過程でグリースが初期位置から軸方向内側へ変位しにくいので、グリースの封入量の増大を図ることができ、上記の作用効果をより確実に得ることができる。また、輸送中の振動や、長期間の保管(特に高温環境下での保管)などによりグリースの形状および位置が変化しにくい。したがって、製造初期からの回転抵抗の変動が抑制される転がり軸受を提供できる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様または第2の態様に係る転がり軸受において、前記凹部は、径方向に対して前記軸方向の内側に傾斜した方向を向く箇所を有していてもよい。
【0012】
第3の態様によれば、凹部のうち径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向を向く箇所が、グリースが軸方向の外側に変位することを規制する。これにより、グリースまたはその基油がシール部材側に流れ出てシール部材と一方の軌道輪との隙間から漏出することを抑制できる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記シール部材に接触していてもよい。
【0014】
第4の態様によれば、一方の軌道輪にグリースが塗布された状態でシール部材を装着する際に、シール部材に接触したグリースがシール部材によって軸方向の内側に押されても、グリースが軸方向の内側に変位することを凹部によって規制されるので、グリースが転動体などに所望の量以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受の回転抵抗の低減を図ることができる。
特に、グリースが凹部のうち径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向を向く箇所に接触している場合には、グリースが凹部に加えてシール部材によっても支持されるので、輸送中の振動や、長期間の保管(特に高温環境下での保管)などによりグリースの形状および位置が変化しにくい。したがって、製造初期からの回転抵抗の変動が抑制される転がり軸受を提供できる。
【0015】
本発明の第5の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記凹部は、前記軌道面に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。
【0016】
第5の態様によれば、凹部内のグリースが軌道面上を転動する転動体に接触することを抑制できる。これにより、転がり軸受の回転抵抗が増大することを抑制できる。
【0017】
本発明の第6の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記周面が形成された突出部を有し、前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続する端面を有し、前記凹部は、前記端面に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。
【0018】
第6の態様によれば、グリースまたはその基油が凹部から端面側に流れ出て端面とシール部材との隙間から漏出することを抑制できる。
【0019】
本発明の第7の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記凹部は、周方向の全体にわたって連続して延びていてもよい。
【0020】
第7の態様によれば、周方向に沿って配置されるグリースを、その全長にわたって凹部によって軸方向に変位しにくくすることができる。よって、転がり軸受の回転抵抗の低減を図ることができる。さらに、凹部が周方向に不連続に形成された構成と比較して、凹部の内側に配置されるグリースの量を増加させることができる。
【0021】
本発明の第8の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第7の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記凹部の前記軌道面側の端縁に形成された稜部に接触していてもよい。
【0022】
第8の態様によれば、グリースから染み出た基油が軌道面に到達する過程で稜部を乗り越える必要がないので、転動体へのグリースの基油の供給が不足することを抑制できる。
【0023】
本発明の第9の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第8の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記周面が形成された突出部を有し、前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続する端面を有し、前記周面は、前記凹部と前記端面との間に形成された接続面を有し、前記接続面は、前記径方向において前記軌道面の前記軸方向の端縁よりも前記他方の軌道輪から離れていてもよい。
【0024】
第9の態様によれば、グリースをノズルから吐出して所定の箇所に塗布するために、ノズルの先端を転がり軸受の外側から外輪および内輪の内側に挿入する際に、接続面をノズルに接触しにくくすることができる。このため、グリースを塗布する際にノズルを凹部に近付けやすくなるので、小径な転がり軸受においてその生産性の向上を図ることができる。また、ノズルを凹部に近付けやすくなるので、グリースを精度よく塗布することができ、グリースが転動体などに所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受の回転抵抗の低減を図ることができる。
【0025】
本発明の第10の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第9の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記周面は、前記凹部の前記軌道面側の端縁から前記径方向および前記軸方向に対して傾斜して前記軌道面側に延びる傾斜部を有していてもよい。
【0026】
第10の態様によれば、凹部の軌道面側の端部が径方向に沿って延びていても、周面が凹部から軌道面に向けて徐々に傾斜するので、グリースから染み出た基油が凹部から傾斜部を伝って軌道面に向けて流れることを促すことができる。したがって、グリースを軌道面に近付けて配置しなくても、転動体へのグリースの基油の供給が不足することを抑制できる。
【0027】
本発明の第11の態様に係る転がり軸受は、上記第10の態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記凹部の内側から前記径方向において前記傾斜部側に突出しないように配置されていてもよい。
【0028】
第11の態様によれば、グリースが転動体に接触することを抑制できる。一方で、グリースの塗布量を減少させることになるので、上記のように転動体へのグリースの基油の供給が不足することを抑制できる効果を好適に得ることが可能となる。
【0029】
本発明の第12の態様に係る転がり軸受は、上記第1の態様から第11の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記シール部材は、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有し、前記グリースは、前記一方の軌道輪の前記周面に接触した軌道輪接触部と、前記軌道輪接触部よりも前記軸方向の外側、かつ前記他方の軌道輪側で前記平面部に接触したシール部材接触部と、を有し、前記シール部材接触部の面積は、前記グリースと前記シール部材のうち前記延出部および前記台座部との接触面積よりも大きくてもよい。
【0030】
第12の態様によれば、グリースを所定の箇所に塗布した後、シール部材を装着する際に、シール部材の平面部によって軸方向の内側に押されたグリースが延出部および台座部に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリースが一方の軌道輪側および転動体側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体および一方の軌道輪に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材には平面部と台座部との間に延出部が設けられているので、平面部が台座部から径方向に沿って延びる構成と比較して、グリースを転動体からより離れた位置に配置できる。よって、グリースの増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受を提供できる。
【0031】
本発明の第13の態様に係る転がり軸受は、上記第12の態様に係る転がり軸受において、前記シール部材接触部は、前記軸方向から見て前記グリースにおける径方向の中心位置を含んでいてもよい。
【0032】
第13の態様によれば、シール部材を装着する際に、グリースが平面部に押されることで径方向に広がった結果、シール部材接触部が平面視でグリースにおける径方向の中心位置を含むので、グリースが転動体に向けて軸方向の内側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0033】
本発明の第14の態様に係る転がり軸受は、上記第12の態様または第13の態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記延出部に対して非接触であってもよい。
【0034】
第14の態様によれば、シール部材を装着する際に、シール部材の平面部によって軸方向の内側に押されたグリースが延出部に向けて径方向に広がる余地をより大きく設けることができる。このため、グリースが一方の軌道輪側、および転動体側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体、保持器および一方の軌道輪に必要以上に接触することを容易に抑制できる。
【0035】
本発明の第15の態様に係る転がり軸受は、上記第12の態様から第14の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記軌道輪接触部は、前記一方の軌道輪と前記台座部との接触部に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。
【0036】
第15の態様によれば、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0037】
本発明の第16の態様に係る転がり軸受は、上記第12の態様から第15の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記グリースは、前記台座部に対して非接触であってもよい。
【0038】
第16の態様によれば、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0039】
本発明の第17の態様に係る転がり軸受は、上記第12の態様から第16の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受において、前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに前記軌道面が形成された突出部を有し、前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続し、前記台座部に接触する端面を有し、前記台座部は、前記軸方向から見て前記端面よりも前記他方の軌道輪側に突出しないように配置されていてもよい。
【0040】
第17の態様によれば、グリースの軌道輪接触部が軸方向に広がって端面の周縁を乗り越えた場合でも、グリースが台座部に付着することを抑制できる。このため、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0041】
本発明の第18の態様に係る回転機器は、回転可能に配置された回転体と、前記回転体を回転可能に支持する支持体と、前記回転体と前記支持体との間に介在する、上記第1の態様から第17の態様のいずれかの態様に係る転がり軸受と、を備える。
【0042】
第18の態様によれば、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立された転がり軸受を備えるので、回転機器の長寿命化、および支持体に対する回転体の回転抵抗の低減による回転機器の省電力化を達成することができる。
【0043】
本発明の第19の態様に係る転がり軸受の製造方法は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪または前記外輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪は、他方の軌道輪に対向する周面を有し、前記周面には、前記転動体を転動可能に支持する軌道面と、前記軌道面の軸方向の端縁から前記軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部と、が形成された転がり軸受の製造方法であって、前記グリースを前記凹部に接触させて塗布する塗布工程を備える。
【0044】
第19の態様によれば、凹部によって軸方向の変位を規制されるようにグリースを一方の軌道輪に塗布できる。これにより、グリースが変位して転動体などに所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受の回転抵抗の低減を図ることができる。さらに、凹部の内側にグリースを配置できるので、グリースを凹部に塗布しない場合と比較して、グリースの総量を増加させることができる。以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受を製造できる。
【0045】
本発明の第20の態様に係る転がり軸受の製造方法は、上記第19の態様に係る転がり軸受の製造方法において、前記シール部材は、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記内輪および前記外輪のうち他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有し、前記塗布工程では、前記グリースを前記一方の軌道輪との接触部から前記軸方向の外側かつ前記他方の軌道輪側に突出するように塗布し、前記シール部材を前記軸方向の外側から前記一方の軌道輪に接近させて、前記平面部を前記グリースにおける前記軸方向の外側の端縁に接触させる接触工程と、前記接触工程の後、前記シール部材を前記一方の軌道輪に接近させて前記台座部を前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触させるとともに、前記平面部で前記グリースを前記軸方向の内側に押す装着工程と、をさらに備える。
【0046】
第20の態様によれば、接触工程においてシール部材の平面部がグリースにおける軸方向外側の端縁に接触するので、装着工程において平面部により軸方向の内側に押す過程で、グリースがシール部材の延出部および台座部に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリースが他方の軌道輪側、および転動体側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体および他方の軌道輪に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、平面部と台座部との間に延出部が設けられているので、平面部が台座部から他方の軌道輪側に延びる構成と比較して、グリースが転動体側に押されにくい。よって、予めより転動体に近い位置までグリースを配置することが可能となるので、グリースの増量を図ることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線における縦断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
【
図5】第1実施形態の第1変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図6】第1実施形態の第2変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図8】第3実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図9】第4実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図10】第4実施形態の変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図11】第5実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図12】第5実施形態の第1変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図13】第5実施形態の第2変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図14】第6実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図15】第6実施形態の第1変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図16】第6実施形態の第2変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図17】第7実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図18】第8実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図19】第8実施形態の第1変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図20】第8実施形態の第2変形例に係る転がり軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0050】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態について
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における縦断面図である。なお
図2では、転がり軸受1が装着される回転機器2を仮想線で示している。
【0051】
図1および
図2に示すように、転がり軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、を備えたラジアル玉軸受である。転がり軸受1は、ファンモータ等の回転機器2に設けられている。回転機器2は、共通軸線Oを中心に回転可能に形成されたシャフト3(回転体)と、固定的に設置されてシャフト3を回転可能に支持する筐体4(支持体)と、を備える。転がり軸受1は、シャフト3と筐体4との間に介在している。
【0052】
内輪10および外輪20は、それぞれの中心軸線が共通軸線Oに一致するように、互いに同軸に配置されている。本実施形態では、共通軸線Oの延びる方向を軸方向といい、共通軸線Oに直交して共通軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、共通軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、軸方向に平行、かつ互いに反対方向を指向する方向のうち一方を上方と定義し、他方を下方と定義する。
【0053】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、シャフト3に外挿されるとともに、シャフト3に固定される。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、筐体4の凹部(または貫通孔)に嵌入されるとともに、筐体4に固定される。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、外輪20に装着され、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。
【0054】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、外輪20は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。外輪20は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされた外輪本体21と、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出するとともに周方向の全体にわたって延びる突出部22と、を有する。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0055】
突出部22は、軸方向の外側を向く一対の端面22aと、一対の端面22aの内周縁同士を接続する内周面22b(周面)と、を備える。各端面22aは、径方向および周方向の双方向に平行に延びている。内周面22bには、径方向の外側に向かって窪む外輪軌道面23が形成されている。外輪軌道面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、内周面22bの全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪軌道面23は、内周面22bのうち、軸方向の中央に位置する部分に形成されている。
【0056】
さらに、内周面22bには、径方向の外側に窪む凹部24が形成されている。凹部24は、内周面22bのうち外輪軌道面23の軸方向の端縁から軸方向に延びる箇所に設けられている。凹部24は、外輪軌道面23の上方に設けられている。凹部24は、外輪軌道面23に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。凹部24は、上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけて設けられている。凹部24は、周方向の全体にわたって連続して延びている。凹部24は、転がり軸受1の縦断面上で円弧状に延びている。例えば、転がり軸受1の縦断面上で、凹部24の曲率半径は、外輪軌道面23の曲率半径と一致していてもよいし、外輪軌道面23の曲率半径と相違していてもよい。なお、凹部24は、転がり軸受1の縦断面上で一定の曲率で延びていなくてもよい。凹部24は、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24aと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向(径方向内側かつ下方、または下方)を向く内向き面24bと、を備える。内周面22bのうち外輪軌道面23および凹部24を除く部分は、一定の内径で軸方向に延びている。
【0057】
内周面22bは、凹部24のうち外輪軌道面23側(軸方向内側)の端縁に形成された稜部25を備える。稜部25は、転がり軸受1の縦断面上で丸みを帯びていてもよいし、尖っていてもよい。
【0058】
外輪本体21は、突出部22の各端面22aの外周縁から外輪20の開口縁まで延びる一対の内周面21aを有する。各内周面21aにおける軸方向の内側に位置する部分は、軸方向の外側に位置する部分よりも径方向の外側に位置している。
【0059】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、内輪10は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪軌道面11が形成されている。内輪軌道面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪軌道面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成され、外輪軌道面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の外周面のうち内輪軌道面11を除く部分は、一定の外径で軸方向に延びている。
【0060】
図2に示すように、複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。複数の転動体30は、外輪軌道面23と内輪軌道面11との間に配置され、外輪軌道面23および内輪軌道面11によって転動可能に支持される。複数の転動体30は、保持器40によって周方向の間隔を保たれている。
【0061】
保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、共通軸線Oを中心として配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して下方に配置された環状部41と、環状部41から上方に突設されているとともに周方向に間隔をあけて設けられた複数の柱部42と、を備える。柱部42は、周方向に均等に配列されている。周方向に隣り合う一対の柱部42は、互いの間にボールポケットを形成している。ボールポケットは、保持器40を径方向に貫通するとともに、保持器40の上端面において上方に開口している。ボールポケットは、転動体30の数に対応して設けられ、転動体30を各別に転動可能に保持する。これにより保持器40は、転動体30を周方向に間隔をあけて均等配列させる。保持器40は、内輪10および外輪20に干渉しないように、内輪10および外輪20に対して隙間をあけて配置されている。本実施形態では、保持器40の全体は、外輪20の突出部22の一対の端面22aよりも軸方向の内側に位置している。
【0062】
図1および
図2に示すように、シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、共通軸線Oを中心として配置されている。シール部材50は、全周にわたって一様に形成されている。シール部材50は、外輪20に軸方向の外側から嵌入されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、外輪20に軸方向の外側から接触する環状の台座部51と、台座部51の内周縁から軸方向の外側に延びる延出部52と、延出部52における軸方向の外側の端縁から内輪10に向かって径方向に沿って延びる平面部53と、台座部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びた係止部54と、を有する。
【0063】
図2に示すように、台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から重なっている。台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aと略平行に延びている。台座部51は、軸方向から見た平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出している。台座部51が突出部22の端面22aから径方向内側に突出した距離は、内輪10と外輪20との径方向の間隔の10%以下であり、5%以下であることが望ましい。延出部52は、台座部51の内周縁から軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。平面部53は、平面視で転動体30の中心に重なっている。平面部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。平面部53のうち軸方向の内側を向く面は、周方向および径方向に延びる平坦面である。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定され、内輪10に対して外輪20と一体回転する。
【0064】
転がり軸受1には、グリース60が封入されている。グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。グリース60は、内輪10と外輪20との間の環状の空間のうち、軸方向において転動体30に対する凹部24と同じ側に配置されている。本実施形態では、グリース60は、軸方向で転動体30を挟んで保持器40の環状部41とは反対側に配置されている。グリース60は、転動体30に対する上方に配置されている。グリース60は、周方向に沿って配置されている。グリース60は、円環状または円弧状に延び、共通軸線Oと同軸に配置されている。
【0065】
グリース60は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部61(軌道輪接触部)と、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部62と、を備える。これら外輪接触部61およびシール部材接触部62は、グリース60の全長にわたって周方向に延びている。外輪接触部61は、周方向の全体にわたって軸方向に幅を持つ。外輪接触部61は、突出部22の内周面22bの凹部24に接触している。外輪接触部61は、凹部24に対して全周にわたって接触している。外輪接触部61は、凹部24の外向き面24aに接触している。この場合、外輪接触部61は、内周面22bの稜部25の少なくとも一部にも接触していることが望ましい。さらに、外輪接触部61は、凹部24の内向き面24b、および凹部24の径方向の内側に向く箇所に接触している。本実施形態では、外輪接触部61は、凹部24の全体に接触している。グリース60は、外輪20に対して凹部24以外の箇所に接触していないことが望ましい。すなわち、外輪接触部61は、外輪20とシール部材50の台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。シール部材接触部62は、周方向の全体にわたって径方向に幅を持つ。シール部材接触部62は、シール部材50における延出部52と平面部53との接続部から径方向に間隔をあけた箇所において平面部53と接触している。
【0066】
グリース60は、外輪接触部61からシール部材接触部62に向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。グリース60は、内面63および外面64を備える。
内面63は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁と、シール部材接触部62における径方向内側の端縁と、を接続している。内面63は、内輪10の外周面、および転動体30に対向している。内面63の上半部は、シール部材接触部62における径方向内側の端縁から軸方向の内側かつ径方向内側に延びている。内面63の下半部は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁から軸方向の外側かつ径方向内側に延び、上半部における下端縁に接続している。内面63の上半部および下半部の境界部は、グリース60における最も径方向の内側に位置する内周縁を形成している。内面63は、内輪10、転動体30および保持器40から離間している。これにより、グリース60は、内輪10、転動体30および保持器40に対して非接触とされている。
【0067】
外面64は、外輪接触部61における軸方向外側の端縁と、シール部材接触部62における径方向外側の端縁と、を接続している。外面64は、外輪20の突出部22の内周面22b、およびシール部材50に対向している。外面64は、シール部材接触部62における径方向外側の端縁から軸方向の内側かつ径方向外側に延びて、外輪接触部61における軸方向外側の端縁に接続している。外面64は、シール部材50の台座部51および延出部52から離間している。これにより、グリース60は、シール部材50のうち平面部53よりも外輪20側に位置する台座部51および延出部52に対して非接触とされている。
【0068】
グリース60は、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されている。本実施形態では、グリース60は、内面63の上半部に対応する部分で、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されている。
【0069】
なおグリース60は、転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触してもよい。例えば、グリース60は、転動体30および保持器40に対して非接触の初期状態から、経時変化により転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触してもよい。
【0070】
次に、本実施形態の転がり軸受1の製造方法について説明する。
本実施形態の転がり軸受1の製造方法は、塗布工程と、シール工程と、を備える。
【0071】
図3および
図4は、第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
図3に示すように、塗布工程は、シール部材50が外輪20に取り付けられていない状態で行う。すなわち、内輪10と外輪20との間の環状の空間が軸方向に開放され、転動体30および保持器40が露出した状態でグリース60が塗布される。塗布工程では、ノズルAを外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルAからグリース60を吐出する。このとき、ノズルAからグリース60が径方向の外側かつ軸方向の内側に吐出されるようにノズルAの向きを調整する。さらに、吐出したグリース60を外輪20の突出部22の内周面22bの凹部24に接触させ、かつグリース60が転動体30および保持器40に接触しないようにノズルAの位置を調整する。ノズルAを外輪20に相対回転させながらグリース60を吐出するので、外輪20に塗布されたグリース60は円周状または円弧状に延在する。また、グリース60は、ノズルAからの吐出方向に倣い、外輪20との接触部から軸方向の外側かつ径方向の内側に突出するように塗布される。塗布されたグリース60の軸方向外側の端面は、軸方向の外側に膨らんだ凸状に形成される。
【0072】
続いて、シール工程を行う。
図4に示すように、シール工程では、シール部材50を軸方向の外側から外輪20に接近させて、シール部材50を外輪20に装着する。シール部材50を軸方向の内側に変位させる過程で、台座部51が外輪20の突出部22の端面22aに接触する前に、最初にグリース60全体のうち軸方向外側の端縁にシール部材50の平面部53を接触させる(接触工程)。この際、平面部53のうち径方向中間部にグリース60を接触させる。なお、径方向中間部は、平面部53の外周縁よりも径方向内側、かつ内周縁よりも径方向外側に位置していればよい。その後、シール部材50をさらに外輪20に接近させて台座部51を外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から接触させる(装着工程)。この際、シール部材50の平面部53でグリース60を軸方向の内側に押す。これにより、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がり、グリース60のシール部材接触部62が形成される。
【0073】
以上により、転がり軸受1が形成される。なお、本実施形態の塗布工程では、ノズルAを外輪20に対して回転させながらグリース60を塗布しているが、周方向に延びる吐出孔を有するノズルからグリースを吐出して、グリースを円周状または円弧状に一括して塗布してもよい。
【0074】
以上に説明したように本実施形態では、転がり軸受1が以下の構成を有する。外輪20の突出部22の内周面22bには、転動体30を転動可能に支持する外輪軌道面23と、外輪軌道面23の軸方向の端縁から軸方向に延びる箇所に設けられ、径方向に窪む凹部24と、が形成されている。グリース60は、凹部24に接触している。この構成によれば、グリース60が軸方向に変位することを凹部24によって規制できる。これにより、グリース60が変位して転動体30または保持器40に所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受1の回転抵抗の低減を図ることができる。さらに、凹部24の内側にグリース60を配置できるので、凹部が形成されていない構成と比較して、グリース60の総量を増加させることができる。以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受1を提供できる。
【0075】
グリース60は、凹部24のうち径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向を向く外向き面24aに接触している。この構成によれば、凹部24の外向き面24aが、グリース60が軸方向の内側へ変位することを初期状態から規制する。これにより、転がり軸受1の使用を重ねる過程でグリース60が初期位置から軸方向内側へ変位しにくいので、グリース60の封入量の増大を図ることができ、上記の作用効果をより確実に得ることができる。
【0076】
さらに、グリース60は凹部24の外向き面24aに接触しているので、輸送中の振動や、長期間の保管(特に高温環境下での保管)などによりグリース60の形状および位置が変化しにくい。したがって、製造初期からの回転抵抗の変動が抑制される転がり軸受1を提供できる。
【0077】
凹部24は、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向を向く内向き面24bを有する。この構成によれば、凹部24の内向き面24bが、グリース60が軸方向の外側に変位することを規制する。これにより、グリース60またはその基油がシール部材50側に流れ出てシール部材50と外輪20との隙間から漏出することを抑制できる。
【0078】
グリース60は、シール部材50に接触している。この構成によれば、外輪20にグリース60が塗布された状態でシール部材50を外輪20に装着する際に、シール部材50に接触したグリース60がシール部材50に軸方向の内側に押されても、上記の通りグリース60が軸方向の内側に変位することを凹部24によって規制されるので、グリース60が転動体30または保持器40に所望の量以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受1の回転抵抗の低減を図ることができる。
【0079】
特に本実施形態では、グリース60が凹部24の外向き面24aに接触しているので、グリース60が凹部24に加えてシール部材50によっても支持される。このため、輸送中の振動や、長期間の保管(特に高温環境下での保管)などによりグリース60の形状および位置が変化しにくい。したがって、製造初期からの回転抵抗の変動が抑制される転がり軸受1を提供できる。
【0080】
しかも、グリース60は、シール部材50のうち延出部52および平面部53に接触しているので、グリース60の形状および位置の変化を抑制する効果を発揮しやすい。また、グリース60の量を多くすることが可能となるため、より高い耐久性を転がり軸受1に付与することができる。なおグリース60がシール部材50のうち延出部52および平面部53のうち少なくともいずれか一方に接触していることで上記効果が発揮される。ただし、グリース60は平面部53に接触していることがより望ましい。
【0081】
凹部24は、外輪軌道面23に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。この構成によれば、凹部24内のグリース60が外輪軌道面23上を転動する転動体30に接触することを抑制できる。これにより、転がり軸受1の回転抵抗が増大することを抑制できる。
【0082】
凹部24は、突出部22の端面22aに対して軸方向に間隔をあけて設けられている。この構成によれば、グリース60またはその基油が凹部24から端面22a側に流れ出て端面22aとシール部材50の台座部51との隙間から漏出することを抑制できる。
【0083】
凹部24は、周方向の全体にわたって連続して延びている。この構成によれば、周方向に沿って配置されるグリース60を、その全長にわたって凹部24によって軸方向に変位しにくくすることができる。よって、転がり軸受1の回転抵抗の低減を図ることができる。さらに、凹部24が周方向に不連続に形成された構成と比較して、凹部24の内側に配置されるグリース60の量を増加させることができる。
【0084】
グリース60は、凹部24の外輪軌道面23側の端縁に形成された稜部25に接触している。この構成によれば、グリース60から染み出た基油が外輪軌道面23に到達する過程で稜部25を乗り越える必要がないので、転動体30へのグリース60の基油の供給が不足することを抑制できる。
【0085】
グリース60は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部61と、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部62と、を有する。シール部材接触部62の面積は、グリース60とシール部材50のうち延出部52および台座部51との接触面積よりも大きい。この構成によれば、グリース60を所定の箇所に塗布した後、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52および台座部51に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリース60が内輪10側および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30および保持器40に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材50には平面部53と台座部51との間に延出部52が設けられているので、平面部が台座部から径方向内側に延びる構成と比較して、グリース60を転動体30からより離れた位置に配置できる。よって、グリース60の増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受1を提供できる。
【0086】
また、シール部材接触部62は、平面視でグリース60における径方向の中心位置を含む。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がった結果、シール部材接触部62が平面視でグリース60における径方向の中心位置を含むので、グリース60が転動体30に向けて軸方向の内側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0087】
グリース60は、延出部52に対して非接触である。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52に向けて径方向に広がる余地をより大きく設けることができる。このため、グリース60が内輪10側、および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30、保持器40および内輪10に必要以上に接触することを容易に抑制できる。
【0088】
外輪接触部61は、外輪20と台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0089】
グリース60は、台座部51に対して非接触である。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0090】
そして、本実施形態の回転機器2によれば、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立された転がり軸受1を備えるので、回転機器2の長寿命化、および筐体4に対するシャフト3の回転抵抗の低減による回転機器2の省電力化を達成することができる。
【0091】
なお、第1実施形態では、凹部24が転がり軸受1の縦断面上で曲線状に延びているが、この構成に限定されない。
図5に示すように、凹部24Aは、転がり軸受1の縦断面上で矩形状の空間を画成するように形成されていてもよい。この場合、凹部24Aには、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24Aaと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向(径方向内側かつ下方、または下方)を向く内向き面24Abと、が設けられている。そして、グリース60は、凹部24Aの外向き面24Aa、および内周面22bの稜部25に接触していることが望ましい。
【0092】
また、第1実施形態では、凹部24が内周面22bのみに開口しているが、この構成に限定されない。
図6に示すように、凹部24Bは、上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけずに設けられ、内周面22bおよび上方を向く端面22aに開口していてもよい。この場合、凹部24Bには、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24Baが設けられている。そして、グリース60は、凹部24Bの外向き面24Ba、および内周面22bの稜部25に接触していることが望ましい。
【0093】
また、第1実施形態では、凹部24は、周方向の全体にわたって連続して延びているが、この構成に限定されない。凹部は、周方向の少なくとも一部に間欠部が形成されるように、周方向に不連続に形成されていてもよい。
【0094】
また、第1実施形態では、シール部材50の台座部51が平面視で外輪20の突出部22の端面22aから径方向内側に突出しているが、台座部は平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出しないように配置されていることが望ましい。この構成によれば、グリース60の外輪接触部61が軸方向の外側に広がって端面22aの内周縁を乗り越えた場合でも、グリース60が台座部に付着することを抑制できる。このため、グリース60が外輪20と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0095】
なお、シール部材50の固定方法としては、本実施形態のように軌道輪(外輪20)に圧入固定する方法の他に、Cリング等の止め輪で軸方向の外側から軌道輪を固定する方法もあるが、この場合シール部材50の位置が軸方向の内側に寄るため好ましくない。シール部材50を圧入固定することでシール部材50をより軸方向の外側に配置することができ、グリース60の量を多くできる。また凹部24をより軸方向の外側に設けることができるため凹部24にグリース60を塗布してもグリース60を転動体30や軌道面に巻き込まれにくくし、転がり軸受の回転抵抗を低減することができる。
【0096】
[第2実施形態]
次に、
図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、転がり軸受1Aが第1実施形態のグリース60に代えてグリース160を備える点で第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0097】
図7は、第2実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図7に示すように、グリース160は、周方向に沿って配置されている。グリース160は、円環状に延び、共通軸線Oと同軸に配置されている。グリース160は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部161を備えるとともに、内輪10、シール部材50、転動体30および保持器40に対して非接触である。外輪接触部161は、グリース160の全長にわたって周方向に延びている。外輪接触部161は、周方向の全体にわたって軸方向に幅を持つ。外輪接触部161は、突出部22の内周面22bの凹部24に接触している。グリース160は、外輪20に対して凹部24以外の箇所に接触していないことが望ましい。すなわち、外輪接触部161は、外輪20とシール部材50の台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。
【0098】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、グリース160がシール部材50に非接触であるので、シール部材50を外輪20に装着する際にグリース160がシール部材50に押されない。これにより、グリース160の軸方向内側への移動を抑えて、グリース160が転動体30または保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受1Aの回転抵抗の増大を抑制できる。
【0099】
なお第2実施形態では、グリース160が円環状に延びているが、この構成に限定されない。グリースは、間欠部が形成されるように円弧状に延びていてもよいし、全周にわたって点状に配置された複数の粒体を備えていてもよい。グリースが複数の粒体を有する場合、周方向に整列した複数の粒体は一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【0100】
[第3実施形態]
次に、
図8を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態の転がり軸受1Bは、グリース160Aがシール部材50および転動体30に接触している点で第2実施形態の転がり軸受1Aとは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第2実施形態と同様である。
【0101】
図8は、第3実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図8に示すように、グリース160Aは、外輪接触部161よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部162をさらに備えるとともに、内輪10に対して非接触である。シール部材接触部162は、シール部材50のうち平面部53のみに接触している。これにより、グリース160Aは、シール部材50のうち平面部53よりも外輪20側に位置する台座部51および延出部52に対して非接触とされている。グリース160Aは、転動体30に接触している。グリース160Aのうち転動体30に接触する部分の体積は、グリース160A全体の体積に対して半分以下である。なおグリース160Aは、保持器40に接触していてもよい。
【0102】
本実施形態では、第2実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、グリース160Aが転動体30に接触しているので、転動体30にグリース160Aの基油を直接供給できる。したがって、転がり軸受1Bの回転抵抗の増大を抑制できる。
【0103】
なお第3実施形態では、第1実施形態と同様に、シール部材50を装着する際にグリース160Aが内輪10側および転動体30側に大きく広がることを抑制される。このため、グリース160Aが転動体30に接触していても、従来構造と比較して接触部を十分に小さくできるので、回転抵抗の低減効果が得られる。
【0104】
なお第3実施形態では、グリース160Aが円環状に延びているが、この構成に限定されない。グリースは、間欠部が形成されるように円弧状に延びていてもよいし、全周にわたって点状に配置された複数の粒体を備えていてもよい。グリースが複数の粒体を有する場合、周方向に整列した複数の粒体は、一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【0105】
[第4実施形態]
次に、
図9を参照して、第4実施形態について説明する。第4実施形態の転がり軸受1Cは、グリース260が凹部24Cの外向き面24Caのみに接触している点で第1実施形態の転がり軸受1とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0106】
図9は、第4実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図9に示すように、外輪20の突出部22の内周面22bには、径方向の外側に窪む凹部24Cが形成されている。凹部24Cは、上方を向く突出部22の端面22aに対して軸方向に間隔をあけずに設けられ、内周面22bおよび上方を向く端面22aに開口している。凹部24Cは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24Caと、径方向の内側を向く円筒面24Ccと、を備える。外向き面24Caは、凹曲面である。円筒面24Ccは、軸方向に延びており、軸方向内側の端縁において外向き面24Caに対して接線が連続するように滑らかに接続している。
【0107】
グリース260は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部261(軌道輪接触部)と、外輪接触部261よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50に接触したシール部材接触部262と、を備える。外輪接触部261は、突出部22の内周面22bの凹部24Cに接触している。外輪接触部261は、凹部24Cに対して全周にわたって接触している。外輪接触部261は、凹部24Cの外向き面24Caのみに接触している。この場合、外輪接触部261は、内周面22bの稜部25の少なくとも一部にも接触していることが望ましい。ただし、外輪接触部261は、内周面22bの稜部25に接触していなくてもよい。本実施形態において、シール部材接触部262は、グリース260のうちシール部材50の平面部53に接触した箇所である。本実施形態では、グリース260は、シール部材50の台座部51および延出部52にも接触している。ただし、グリース260がシール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触している場合には、シール部材接触部262の面積がグリース260と延出部52および台座部51との接触面積よりも大きいことが望ましい。なお、グリース260は、台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に非接触であってもよい。グリース260は、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されている。
【0108】
グリース260は、外輪20に接触した第1環状部260aと、第1環状部260aに連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部260bと、を備える。第1環状部260aおよび第2環状部260bは、グリースが2回に分けて塗布されることで形成される。第1環状部260aおよび第2環状部260bは、それぞれ共通軸線Oを中心に円周状に延びている。ただし、第1環状部260aおよび第2環状部260bのうち少なくともいずれか一方は、共通軸線Oを中心として360°未満延びていてもよい。第1環状部260aは、外輪接触部261を備える。第2環状部260bは、第1環状部260aに対し、径方向で外輪20とは反対側(すなわち径方向の内側)に配置されている。第2環状部260bは、第1環状部260aに軸方向の外側で連なって一体化している。第2環状部260bは、シール部材接触部262を備える。
【0109】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、凹部24Cが上方を向く突出部22の端面22aに開口し、グリース260が凹部24Cの外向き面24Caのみに接触している。この構成により、グリース260またはその基油が凹部24Cから端面22a側に流れ出て端面22aとシール部材50の台座部51との隙間から漏出することを抑制できる。
【0110】
なお第4実施形態では、第1環状部260aおよび第2環状部260bが円周状に延びているが、この構成に限定されない。第1環状部および第2環状部のうち少なくともいずれか一方が全周にわたって点状に配置された粒体を備えていてもよい。この場合、周方向に整列した複数の粒体は、一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【0111】
また、第4実施形態では、グリース260が第1環状部260aおよび第2環状部260bを有しているが、この構成に限定されない。
図10に示すように、グリース260Aは、外輪接触部261およびシール部材接触部262を有する単一の環状部により形成されていてもよい。
【0112】
[第5実施形態]
次に、
図11を参照して、第5実施形態について説明する。第5実施形態の転がり軸受1Dは、グリース360が凹部24Dに沿って軸方向に配置されている点で第1実施形態の転がり軸受1とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0113】
図11は、第5実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図11に示すように、外輪20の突出部22の内周面22bには、径方向の外側に窪む凹部24Dが形成されている。凹部24Dは、上方を向く突出部22の端面22aに対して軸方向に間隔をあけずに設けられ、内周面22bおよび上方を向く端面22aに開口している。凹部24Dは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24Daと、径方向の内側を向く円筒面24Dcと、を備える。外向き面24Daは、凹曲面である。円筒面24Dcは、軸方向に延びており、軸方向内側の端縁において外向き面24Daに対して接線が連続するように滑らかに接続している。凹部24Dは、転がり軸受1Dの縦断面上で径方向の深さよりも軸方向の幅が大きくなるように軸方向に延びている。なお外向き面は、軸方向の外側を向く平坦面、または軸方向の外側かつ径方向の内側を向く円錐面であってもよい。
【0114】
グリース360は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部361を備える。外輪接触部361は、突出部22の内周面22bの凹部24Dに接触している。外輪接触部361は、凹部24Dに対して全周にわたって接触している。外輪接触部361は、凹部24Dの外向き面24Daおよび円筒面24Dcに接触している。外輪接触部361は、内周面22bの稜部25の少なくとも一部にも接触している。グリース360は、シール部材50に接触している。本実施形態では、グリース360は、シール部材50の台座部51および延出部52に接触している。
【0115】
グリース360は、転がり軸受1Dの縦断面上で凹部24Dに沿って軸方向に配置されている。グリース360は、軸方向に並ぶ第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cを備える。第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cは、グリースが3回に分けて塗布されることで形成される。第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cは、それぞれ共通軸線Oを中心に円周状に延びている。ただし、第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cのうち少なくともいずれか1つは、共通軸線Oを中心として360°未満延びていてもよい。第1環状部360aは、凹部24Dの外向き面24Daおよび円筒面24Dcに接触している。第2環状部360bは、第1環状部360aに軸方向の外側で連なっている。第2環状部360bは、凹部24Dの円筒面24Dcに接触している。第3環状部360cは、第2環状部360bに軸方向の外側で連なっている。第3環状部360cは、凹部24Dの円筒面24Dc、およびシール部材50に接触している。
【0116】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、グリース360が凹部24Dに沿って軸方向に配置されているので、グリース360が軸方向に変位することを凹部24Dによって効果的に規制でき、グリース360が変位して転動体30または保持器40に所望の量以上に接触することを抑制できる。さらに、輸送中の振動や、長期間の保管(特に高温環境下での保管)などによりグリース360の形状および位置が変化しにくい。したがって、製造初期からの回転抵抗の変動が抑制される転がり軸受1Dを提供できる。
【0117】
なお第5実施形態では、第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cが円周状に延びているが、この構成に限定されない。第1環状部、第2環状部および第3環状部のうち少なくともいずれか1つが全周にわたって点状に配置された粒体を備えていてもよい。この場合、周方向に整列した複数の粒体は、一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【0118】
また、第5実施形態では、グリース360が第1環状部360a、第2環状部360bおよび第3環状部360cを有しているが、この構成に限定されない。
図12に示すように、グリース360Aは、転がり軸受1Dの縦断面上で凹部24Dに沿って軸方向に延びていてもよい。
【0119】
また、第5実施形態では、グリース360が外輪20の突出部22の内周面22bの稜部25に接触しているが、この構成に限定されない。
図13に示すように、グリース360Bが稜部25に対して非接触であってもよい。この場合、第1環状部360aが稜部25に接触しないように、第2環状部360bおよび第3環状部360cよりも転がり軸受1Dの縦断面上で小さく形成されていてもよい。この構成によれば、転動体30へのグリース360Bの基油の供給が不足し得ることと引き換えに、グリース360Bの全体の量を多くして、より高い耐久性を転がり軸受1Dに付与することができる。
【0120】
[第6実施形態]
次に、
図14を参照して、第6実施形態について説明する。第6実施形態の転がり軸受1Eは、凹部24Eのうち径方向において最も深い箇所が凹部24Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側に形成されている点で第1実施形態の転がり軸受1とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0121】
図14は、第6実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図14に示すように、凹部24Eは、外輪軌道面23に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。凹部24Eは、上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけて設けられている。凹部24Eは、転がり軸受1Eの縦断面上で径方向の深さよりも軸方向の幅が大きくなるように形成されている。凹部24Eは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面24Eaと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向(径方向内側かつ下方、または下方)を向く内向き面24Ebと、径方向の内側を向く円筒面24Ecと、を備える。本実施形態では、外向き面24Eaおよび内向き面24Ebは、軸方向を向いている。これにより、凹部24Eは、転がり軸受1Eの縦断面上で矩形状に形成されている。円筒面24Ecは、凹部24Eのうち径方向において最も深い位置にあり、凹部24Eにおける軸方向の中間位置を軸方向に跨いでいる。これにより、凹部24Eのうち径方向において最も深い箇所は、凹部24Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側に形成されている。
【0122】
グリース460は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部461(軌道輪接触部)と、外輪接触部461よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部462と、を備える。外輪接触部461は、突出部22の内周面22bの凹部24Eに接触している。外輪接触部461は、凹部24Eに対して全周にわたって接触している。外輪接触部461は、凹部24Eの外向き面24Eaおよび円筒面24Ecに接触している。外輪接触部461は、内周面22bの稜部25の少なくとも一部にも接触している。グリース460は、凹部24Eの内向き面24Ebには非接触である。ただし、グリース460は、凹部24Eの内向き面24Ebに接触していてもよい。本実施形態において、シール部材接触部462は、グリース460のうちシール部材50の平面部53に接触した箇所である。本実施形態では、グリース460は、シール部材50の台座部51および延出部52に非接触である。ただし、グリース460がシール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよく、この場合には、シール部材接触部462の面積がグリース260と延出部52および台座部51との接触面積よりも大きいことが望ましい。グリース460は、外輪接触部461からシール部材接触部462に向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。
【0123】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、凹部24Eのうち径方向において最も深い箇所が凹部24Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側に形成されている。この構成によれば、グリース460をノズルから吐出して所定の箇所に塗布する際に、ノズルの先端を転がり軸受1Eの外側から外輪20および内輪10の内側に挿入して凹部24Eに近付けやすくなる。よって、小径な転がり軸受1Eにおいてその生産性の向上を図ることができる。また、ノズルを凹部24Eに近付けやすくなるので、グリース460を精度よく塗布することができ、グリース460が転動体30などに所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受1Eの回転抵抗の低減を図ることができる。
【0124】
なお第6実施形態では、転がり軸受1Eの縦断面上で凹部24Eが上下対称に形成されているが、この構成に限定されない。
図15および
図16に示すように、凹部124E,224Eは転がり軸受1Eの縦断面上で上下非対称に形成されていてもよい。以下、
図15および
図16に示された変形例について説明する。
【0125】
図15に示す第1変形例では、凹部124Eは、転がり軸受1Eの縦断面上で径方向の深さよりも軸方向の幅が大きくなるように形成されている。凹部124Eは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面124Eaと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向(径方向内側かつ下方、または下方)を向く内向き面124Ebと、を備える。外向き面124Eaは、軸方向内側かつ径方向外側に窪む曲面である。内向き面124Ebは、外向き面124Eaにおける軸方向外側の端縁から軸方向外側かつ径方向内側に延びる円錐面である。外向き面124Eaおよび内向き面124Ebの接続部は、凹部124Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側にある。これにより、凹部124Eのうち径方向において最も深い箇所は、凹部124Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側に形成されている。
【0126】
グリース460Aは、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部461A(軌道輪接触部)と、外輪接触部461Aよりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部462Aと、を備える。外輪接触部461Aは、突出部22の内周面22bの凹部124Eに接触している。外輪接触部461Aは、凹部124Eに対して全周にわたって接触している。外輪接触部461Aは、凹部124Eの外向き面124Eaに接触している。外輪接触部461Aは、凹部124Eの内向き面124Ebに接触している。外輪接触部461Aは、凹部124Eの外向き面124Eaおよび内向き面124Ebの接続部に接触している。グリース460Aは、内周面22bの稜部25に非接触である。ただし、グリース460Aは、内周面22bの稜部25に接触していてもよい。
【0127】
本変形例において、シール部材接触部462Aは、グリース460Aのうちシール部材50の平面部53に接触した箇所である。本変形例では、グリース460Aは、シール部材50の台座部51および延出部52に非接触である。ただし、グリース460Aがシール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよく、この場合には、シール部材接触部462Aの面積がグリース460Aと延出部52および台座部51との接触面積よりも大きいことが望ましい。グリース460Aは、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されていてもよい。グリース460Aは、外輪接触部461Aからシール部材接触部462Aに向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。グリース460Aは、外輪接触部461Aから凹部124Eの内向き面124Ebに沿って延びている。
【0128】
図16に示す第2変形例では、凹部224Eは、転がり軸受1Eの縦断面上で径方向の深さよりも軸方向の幅が大きくなるように形成されている。凹部224Eは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面224Eaと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向(径方向内側かつ下方、または下方)を向く内向き面224Ebと、を備える。外向き面224Eaは、軸方向外側を向く平面である。内向き面224Ebは、外向き面224Eaにおける径方向外側の端縁から軸方向外側かつ径方向内側に延びる円錐面である。外向き面224Eaおよび内向き面224Ebの接続部は、凹部224Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側にある。これにより、凹部224Eのうち径方向において最も深い箇所は、凹部224Eにおける軸方向の中間位置よりも軸方向の内側に形成されている。
【0129】
グリース460Bは、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部461B(軌道輪接触部)と、外輪接触部461Bよりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部462Bと、を備える。外輪接触部461Bは、突出部22の内周面22bの凹部224Eに接触している。外輪接触部461Bは、凹部224Eに対して全周にわたって接触している。外輪接触部461Bは、凹部224Eの外向き面224Eaに接触している。外輪接触部461Bは、凹部224Eの内向き面224Ebに接触している。外輪接触部461Bは、凹部224Eの外向き面224Eaおよび内向き面224Ebの接続部に非接触である。グリース460Bは、内周面22bの稜部25に非接触である。ただし、グリース460Bは、内周面22bの稜部25に接触していてもよい。
【0130】
本変形例において、シール部材接触部462Bは、グリース460Bのうちシール部材50の平面部53に接触した箇所である。本変形例では、グリース460Bは、シール部材50の台座部51および延出部52に非接触である。ただし、グリース460Bがシール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよく、この場合には、シール部材接触部462Bの面積がグリース460Bと延出部52および台座部51との接触面積よりも大きいことが望ましい。グリース460Bは、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されていてもよい。グリース460Bは、外輪接触部461Bからシール部材接触部462Bに向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。グリース460Bは、外輪接触部461Bから凹部224Eの内向き面224Ebに沿って延びている。
【0131】
これら変形例の転がり軸受1Eであっても、第6実施形態と同様の効果を奏する。
【0132】
[第7実施形態]
次に、
図17を参照して、第7実施形態について説明する。第7実施形態の転がり軸受1Fは、外輪20の突出部22の内周面22bの形状が第1実施形態の転がり軸受1とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0133】
図17は、第7実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図17に示すように、外輪20の突出部22の内周面22bは、凹部24と、接続面26と、を有する。凹部24は、突出部22の上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけて設けられている。接続面26は、凹部24と、突出部22の上方を向く端面22aと、の間に形成されている。接続面26は、軸方向に延びており、径方向の内側を向いている。接続面26は、径方向において外輪軌道面23における軸方向の端縁よりも、内輪10から離れるように径方向の外側に位置している。
【0134】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、外輪20の突出部22の内周面22bは、凹部24と端面22aとの間に形成された接続面26を有する。接続面26は、径方向において外輪軌道面23の軸方向の端縁よりも径方向の外側に位置している。この構成によれば、グリース60をノズルから吐出して所定の箇所に塗布するために、ノズルの先端を転がり軸受1Fの外側から外輪20および内輪10の内側に挿入する際に、接続面26をノズルに接触しにくくすることができる。このため、グリース60を塗布する際にノズルを凹部24に近付けやすくなるので、小径な転がり軸受1Fにおいてその生産性の向上を図ることができる。また、ノズルを凹部24に近付けやすくなるので、グリース60を精度よく塗布することができ、グリース60が転動体30などに所望の量以上に接触することを抑制できる。よって、転がり軸受1Fの回転抵抗の低減を図ることができる。
【0135】
[第8実施形態]
次に、
図18を参照して、第8実施形態について説明する。第8実施形態の転がり軸受1Gは、外輪20の突出部22の内周面22bの形状が第1実施形態の転がり軸受1とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0136】
図18は、第8実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
図18に示すように、外輪20の突出部22の内周面22bは、凹部224と、傾斜部227と、を有する。凹部224は、突出部22の上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけずに設けられ、内周面22bおよび上方を向く端面22aに開口している。凹部224は、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向(径方向内側かつ上方、または上方)を向く外向き面224aと、径方向の内側を向く円筒面224cと、を備える。外向き面224aは、凹曲面である。外向き面224aの径方向内側の端縁は、径方向において外輪軌道面23における軸方向の端縁よりも径方向の外側に位置している。円筒面224cは、軸方向に延びており、外向き面224aの軸方向外側の端縁に接続している。傾斜部227は、凹部224の外輪軌道面23側の端縁(外向き面224aの径方向内側の端縁)から径方向および軸方向に対して傾斜して外輪軌道面23側に延びている。すなわち、傾斜部227は、内周面22bの稜部25から径方向の内側かつ軸方向の内側に延びている。本実施形態では、傾斜部227は、転がり軸受1Gの縦断面上で凹部224の端縁から直線状に延びている。ただし、傾斜部は、転がり軸受1Gの縦断面上で傾斜部と凹部224との接続部を境に凹部224よりも径方向に対して急傾斜で延びていればよい。傾斜部227は、外輪軌道面23に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。
【0137】
グリース560は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部561を備える。外輪接触部561は、突出部22の内周面22bの凹部224に接触している。外輪接触部561は、凹部224に対して全周にわたって接触している。外輪接触部561は、凹部224の外向き面224aおよび円筒面224cに接触している。外輪接触部561は、内周面22bの稜部25の少なくとも一部にも接触している。なお、外輪接触部561は、傾斜部227に対して非接触であることが望ましい。また、グリース560は、シール部材50に接触していてもよい。
【0138】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、外輪20の突出部22の内周面22bは、凹部224の外輪軌道面23側の端縁から径方向および軸方向に対して傾斜して外輪軌道面23側に延びる傾斜部227を有する。この構成によれば、凹部224の外輪軌道面23側の端部が径方向に沿って延びていても、内周面22bが凹部224から外輪軌道面23に向けて徐々に傾斜するので、グリース560から染み出た基油が凹部224から傾斜部227を伝って外輪軌道面23に向けて流れることを促すことができる。したがって、グリース560を外輪軌道面23に近付けて配置しなくても、転動体30へのグリース560の基油の供給が不足することを抑制できる。
【0139】
なお、
図19に示すように、グリース560Aは、凹部224の内側から径方向において傾斜部227側(内側)に突出しないように配置されていてもよい。すなわち、グリース560Aが径方向において傾斜部227の形成範囲内に位置しないように配置されていてもよい。この構成により、グリース560Aが転動体30に接触することを抑制できる。一方で、グリース560Aの塗布量を減少させることになるので、上記のように転動体30へのグリース560Aの基油の供給が不足することを抑制できる効果を好適に得ることが可能となる。
【0140】
なお第8実施形態では、凹部224が突出部22の上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけずに設けられているが、この構成に限定されない。すなわち、
図20に示すように、凹部224Aは上方を向く端面22aに対して軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。なお図示の例では、凹部224Aは、径方向に対して軸方向の外側に傾斜した方向を向く外向き面224Aaと、径方向に対して軸方向の内側に傾斜した方向を向く内向き面224Abと、を備えているが、凹部の形状は特に限定されない。
【0141】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。そして、グリース60,160,160A,260,260A,360,360A,360B,460,460A,460B,560,560Aが固定輪である外輪20に接触している。しかし、グリースが接触する軌道輪は、固定輪でなくてもよい。すなわち、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが固定輪である内輪に接触していてもよい。また、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが回転輪である外輪に接触していてもよい。
【0142】
また、上記各実施形態では、グリース60,160,160A,260,260A,360,360A,360B,460,460A,460B,560,560Aが凹部に対して全周にわたって接触しているが、この構成に限定されない。グリースは、凹部のうち周方向の一部のみに接触していてもよい。
【0143】
また、上記実施形態では、グリース60,160,160Aは、シール部材50の台座部51および延出部52に対して非接触とされているが、この構成に限定されない。グリースは、シール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよく、シール部材接触部の面積がグリースと延出部52および台座部51との接触面積よりも大きければよい。
【0144】
また、上記実施形態では、グリース60,160,160A,260,260A,360,360A,360B,460,460A,460B,560,560Aが内輪10および保持器40に対して非接触とされているが、この構成に限定されない。上述したように、上記実施形態ではシール部材50を装着する際にグリースが内輪10側および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。このため、仮にグリースが内輪10および保持器40のうち少なくともいずれか1つに接触しても、従来構造と比較して接触部を十分に小さくできるので、回転抵抗の低減効果が得られる。
【0145】
また、転がり軸受には、グリース60,160,160A,260,260A,360,360A,360B,460,460A,460B,560,560A以外のグリースが配置されていてもよい。上記実施形態では、グリースが軸方向で転動体30を挟んで保持器40の環状部41とは反対側に配置されているが、グリースは軸方向で転動体30に対して保持器40の環状部41側にも配置されていてもよい。例えば、転がり軸受は、保持器のグリースポケットや下端面等に塗布されたグリースをさらに備えていてもよい。
【0146】
また、上記実施形態では、回転機器としてファンモータを例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器として、歯科用ハンドピースや、ハードディスクドライブのスピンドルモータ等に本発明を適用してもよい。
【0147】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0148】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G…軸受 2…回転機器 10…内輪(他方の軌道輪) 20…外輪(一方の軌道輪) 22…突出部 22a…端面 22b…内周面(周面) 23…外輪軌道面(軌道面) 24,24A,24B,24C,24D,24E,124E,224,224A,224E…凹部 25…稜部 26…接続面 30…転動体 50…シール部材 51…台座部 52…延出部 53…平面部 60,160,160A,260,260A,360,360A,360B,460,460A,460B,560,560A…グリース 61,161,261,361,461,461A,461B,561…外輪接触部(軌道輪接触部) 62,162,262,462,462A,462B…シール部材接触部 227…傾斜部