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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170298
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】金属粉末及び金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20241129BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241129BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241129BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20241129BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241129BHJP
   B22F 9/12 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
B22F1/16 100
B22F1/00 Y
C22C38/00 303S
B22F1/052
H01F1/147 166
H01F1/147 191
B22F9/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079839
(22)【出願日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2023086719
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖
(72)【発明者】
【氏名】福留 大貴
(72)【発明者】
【氏名】山根 浩志
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB15
4K017BB16
4K017CA07
4K017DA02
4K017EK03
4K017FB06
4K018BA15
4K018BA16
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC33
4K018CA11
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA02
5E041AA04
5E041BC01
5E041BD12
5E041CA02
5E041HB14
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】平均粒子径1μm以下の金属粉末で圧粉体を製造しても、渦電流損が低位でインダクタ用の磁心として使用可能な圧粉体となる金属粉末を提供する。
【解決手段】質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属粉末であって、金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)及び酸素含有量を質量濃度でZ(%)とすると、XとYの積(X×Y)が、1.50以下であり、ZとYの積(Z×Y)が、Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70であり、Yが、0.10μm~1.00μmであることを特徴とする金属粉末である。これにより、コアロスの低い圧粉体が容易に得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属粉末であって、
該金属粉末は、表面に金属酸化物被膜を有し、
前記金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)及びO(酸素)含有量を質量濃度でZ(%)とすると、
前記Xと前記Zの積(X×Y)が、1.50以下であり、
前記Zと前記Yの積(Z×Y)が、前記Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、前記Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70であり、
前記Yが、0.10μm~1.00μmである
ことを特徴とする金属粉末。
【請求項2】
前記金属粉末が、さらに、質量濃度で、
S(硫黄):5ppm~2000ppm、
Ni:10.0%以下及び
Al:5.0%以下
のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の金属粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属粉末のみをバインダーを添加しないでプレスし圧縮成形した圧粉体を解砕した粉体の電気抵抗率が、105Ω・cm以上であることを特徴とする金属粉末。
【請求項4】
質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属素材粉末を生成する工程(金属素材粉末生成工程)と、
前記金属素材粉末を液体中で酸化させ、前記金属素材粉末の表面を酸化物で被覆し、酸化物被覆金属粉末を形成する工程(酸化物被覆工程)と、
酸素分圧を制御した不活性ガスの雰囲気内で前記酸化物被覆金属粉末を温度制御しながら乾式攪拌する工程(乾式攪拌工程)と
を有することを特徴とする金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)及びO(酸素)含有量を質量濃度でZ(%)とすると、
前記Xと前記Yの積(X×Y)が、1.50以下であり、
前記Zと前記Yの積(Z×Y)が、前記Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、前記Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70であり、
前記Yが、0.10μm~1.00μmである
ことを特徴とする請求項4に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記金属素材粉末が、さらに、質量濃度で、
S(硫黄):5ppm~2000ppm、
Ni:10.0%以下及び
Al:5.0%以下
のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末及び金属粉末の製造方法に関し、特にインダクタ向けとして好適な鉄合金からなる金属粉末及び金属粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等に代表される小型携帯機器では、高機能化・多機能化が進んでいる。それに伴い、搭載する電源回路のインダクタにも搭載台数の増加や集積回路ICの高機能化に伴う大電流化への対応という要求が強くなっている。また、携帯機器の更なる小型化・薄型化の要求に対応して、インダクタの小型化・低背化という要求も強くなっている。
【0003】
インダクタの磁心には、従来から、フェライト材料が用いられてきた。しかし、フェライトの飽和磁束密度が低いため、小型化すると飽和磁気により直流重畳特性が悪化し、大電流を流せなかった。このため、最近では、小型インダクタ用の磁心材料として、飽和磁束密度が高い鉄ベースの金属磁性微粒子である金属粉末が注目されている。さらに、インダクタを含む受動素子の小型・軽量化の実現、インダクタの磁歪などによる騒音の低下などの目的から電気回路の作動の高周波化がなされる方向にある。それに伴って、金属粉末を圧縮成形して作られる圧粉体を磁心として使用するインダクタでの渦電流損増加によるエネルギーのコアロス(「磁心損失」ともいう。)を改善することが重要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、「軟磁性合金粉末」が開示されている。この軟磁性合金粉末は、粉末表面にアルキルシリケートの加水分解によって得られるシリカ膜又はシリカの微粒子を付着させて絶縁層を形成することで、軟磁性金合金末を圧縮成形して作られる圧粉体の比抵抗が増加し、渦電流損が低減することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、「Si酸化膜被覆軟磁性粉末」が開示されている。このSi酸化膜被覆軟磁性粉末は、鉄粉末の表面にSi、Fe及びOからなるSi-Fe-O三元系酸化物の拡散層を介してSiOx(x=1~2)堆積酸化膜が形成されている。Si-Fe-O三元系酸化物の拡散層は、鉄粉末との界面ではFeの濃度が高くかつSiの濃度が低く、SiOx(x=1~2)堆積酸化膜との界面ではFeの濃度が低くかつSiの濃度が高くなっている濃度勾配を有している。これにより、軟磁性粉末表面に酸化膜が強固に密着し、従来の軟磁性材を製造する工程で、プレス成形中にシリケート膜が剥離したり破れたりして十分な絶縁効果が発揮できず、十分な高比抵抗が得られないという欠点を解決することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、「軟磁性粉末材料」が開示されている。この軟磁性粉末材料は、Feを主成分とする鉄粉粒子の表面に被覆されたシリコン酸化物を主成分とする被覆層を具備することを特徴とするものである。これにより、軟磁性粉末材料を使用した軟磁性成形体の比抵抗を高め、交流磁場で使用される場合であっても軟磁性成形体に発生する渦電流を抑えることができ、渦電流によるエネルギー損失を抑えられることが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、「軟磁性材料粉末」が開示されている。この軟磁性材料粉末は、Fe系の軟磁性材料を含むコアとその表面を被覆する絶縁膜を有し、絶縁膜には無機酸化物と水溶性高分子とを含有する、軟磁性材料粒子を含むものである。この軟磁性材料粉末を使用して磁心に成形することで十分な密度が得られ磁心の透磁率を高くすることができると共に、軟磁性材料粉末に含まれる絶縁膜及び結合剤によって高い電気抵抗を有する磁心を得ることができることが記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、インダクタ向けとして好適な「金属粉末」が開示されている。この金属粉末は、Si:1.0~13.0質量%、Cr:0.10~8.00質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる金属粉末であり、金属粉末表面に金属酸化物の絶縁被膜を有している。さらに、金属粉末の個数基準一次粒子径D50(X)が0.10~1.50μmで、体積基準二次粒子径D50(Yμm)としたとき、YとXの比(Y/X)が1.50以下であることを特徴としている。これにより、低保磁力、高飽和磁化で、耐錆性に優れた金属粉末が得られ、さらに、コアロスの低い圧粉体が容易に得られることが記載されている。
【0009】
また、特許文献6には、「軟磁性粒子粉末」が開示されている。これは、軟磁性金属粒子粉末と酸化物微粒子とをプレミックスした後、圧縮・せん断力よりなる機械的エネルギーを作用させて軟磁性金属粒子粉末の粒子表面に絶縁層を形成することを特徴としている。これにより、軟磁性金属粒子表面への密着性に優れた均一な絶縁層を形成することのできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-282317号公報
【特許文献2】特開2007-123703号公報
【特許文献3】特開2007-254768号公報
【特許文献4】国際公開WO2016/056351号公報
【特許文献5】特開2022-119746号公報
【特許文献6】特許第5310988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属粉末を圧縮成形して作られる圧粉体を磁心として使用するインダクタの更なる小型化を実現するためには、使用する金属粉末の細粒化が重要である。従来は、平均粒子径が2μm~50μmの金属粉末を使用してインダクタの磁心用の圧粉体を製造し、例えば積層型インダクタでは、縦1.0mm×横0.5mm×高さ0.5mmのサイズの小型インダクタが製造されている。しかしながら、更なるサイズの小さい高周波数で動作するインダクタの製造では、平均粒子径が1μm以下の微細な金属粉末を必要とする。
【0012】
ここで、「平均粒子径」とは、金属粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により粒子の輪郭が明確となる5千倍以上の倍率で観察し撮像して測定粒子数1000個~2000個のSEM画像解析により求めた個数基準の累積50%の一次粒子径であるD50のことをいう。これを単に、「SEM測定の個数基準一次粒子径のD50」ともいう。また、「一次粒子径」とは、SEM画像において粒子の輪郭が識別できる粒子のサイズのことであり、一次粒子が凝集して一つの粒子のように振る舞う凝集体のサイズである「二次粒子径」とは異なる。さらに、「個数基準」とは、粒度分布を作成する際の基準であって、粒子の全個数中に占める範囲別の個数%の分布を示すものである。
【0013】
前述の特許文献1~4に記載された技術では、平均粒子径が1.0μm以下の金属粉末は比表面積が大きいため、厚みの厚い表面被膜を形成すると、粉末の金属部分の重量に対する非金属の表面被膜部分の重量割合が大きく成り過ぎてしまうことがある。それにより、金属粉末の圧粉体で形成されるインダクタの磁心の磁気特性が低下してしまうため、表面被膜の厚みを薄くする必要がある。薄い表面被膜では、磁心をプレス成形する時の圧力で粒子表面の被膜が剥がれ落ちて表面被覆されていない粒子の面同士が接触して電気の導通が発生するため、渦電流損が低減できないという問題が発生する場合がある。
【0014】
さらに、前述の特許文献5に記載された技術の場合には、かなりの改善効果はあるものの、より一層のコアロス低減を実現したいとの要望があった。
【0015】
また、前述の特許文献6に記載された技術では、軟磁性金属粒子粉末と酸化物微粒子とをプレミックスで均一に混合することは極めて困難であり、結果として全ての軟磁性金属粒子粉末の表面に酸化物微粒子が均一に付着しないという問題がある。このため、圧縮・せん断力よりなる機械的エネルギーを作用させても絶縁被膜で被覆されていない軟磁性金属粒子粉末や部分的に被覆されていな表面のある軟磁性金属粒子粉末が生成する場合があった。
【0016】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、平均粒子径1.0μm以下の金属粉末で圧粉体を製造しても、渦電流損が低位でインダクタ用の磁心として使用可能な圧粉体となる金属粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、鉄を主成分として金属粉末の組成、粒子同士の絶縁を目的とする酸化物被膜の表面形状、酸化物被膜の量と関係する金属粉末の酸素含有量及び金属粉末の粒度について鋭意検討した。その結果、Fe中に適正量のSi、Crを含有し、金属粉末の平均粒子径に応じた適正量の酸化物で金属粉末を被覆し、さらに、酸化物で被覆された金属粉末の表面の凹凸を金属粉末の平均粒子径に応じて一定以下の大きさとすることが肝要であることを見出した。特に、酸化物で被覆された金属粉末の表面の凹凸と関係する金属粉末の比表面積を金属粉末の平均粒子径に応じて一定以下の大きさとする。それにより、金属粉末を圧粉体に成形する時のプレス加工による金属粉末表面の酸化物被膜の剥離に起因した圧粉体の電気抵抗の低下を抑えることができる。そして、酸化物被膜による電気抵抗を確保して、渦電流によるコアロスの少ない圧粉体の製造を容易にすることを新規に知見した。
【0018】
また、Fe中に適正量のSi、Crを含有し、液体中で金属粉末の表面を酸化させて金属粉末の平均粒子径に応じた適正量の酸化物で被覆した金属粉末を、酸素分圧を制御した不活性ガスの雰囲気内で乾式攪拌し、その摩擦熱を容器冷却により金属粉末の温度を調整することで容易に製造できることを見出した。
【0019】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属粉末であって、
該金属粉末は、表面に金属酸化物被膜を有し、
前記金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)及びO(酸素)含有量を質量濃度でZ(%)とすると、
前記Xと前記Yの積(X×Y)が、1.50以下であり、
前記Zと前記Yの積(Z×Y)が、前記Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、前記Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70であり、
前記Yが、0.10μm~1.00μmである
ことを特徴とする金属粉末。
〔2〕前記〔1〕において、前記金属粉末が、さらに、質量濃度で、
S(硫黄):5ppm~2000ppm、
Ni:10.0%以下及び
Al:5.0%以下
のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする金属粉末。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の金属粉末のみをバインダーを添加しないでプレスし圧縮成形した圧粉体を解砕した粉体の電気抵抗率が、105Ω・cm以上であることを特徴とする金属粉末。
〔4〕質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属素材粉末を生成する工程(金属素材粉末生成工程)と、
前記金属素材粉末を液体中で酸化させ、前記金属素材粉末の表面を酸化物で被覆し、酸化物被覆金属粉末を形成する工程(酸化物被覆工程)と、
酸素分圧を制御した不活性ガスの雰囲気内で前記酸化物被覆金属粉末を温度制御しながら乾式攪拌する工程(乾式攪拌工程)と
を有することを特徴とする金属粉末の製造方法。
〔5〕前記〔4〕において、前記金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)及びO(酸素)含有量を質量濃度でZ(%)とすると、
前記Xと前記Yの積(X×Y)が、1.50以下であり、
前記Zと前記Yの積(Z×Y)が、前記Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、前記Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70であり、
前記Yが、0.10μm~1.00μmである
ことを特徴とする金属粉末の製造方法。
〔6〕前記〔4〕又は〔5〕において、前記金属素材粉末が、さらに、質量濃度で、
S(硫黄):5ppm~2000ppm、
Ni:10.0%以下及び
Al:5.0%以下
のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする金属粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、平均粒子径1.0μm以下の金属粉末が、表面の凹凸が少ない酸化物被膜で被覆しているため、圧粉体に成形すると小型で高い電気抵抗を有するインダクタ用の磁心が得られるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。
【0022】
[金属粉末]
本発明に係る金属粉末は、Feを主成分とする金属粉末(Fe合金粉末)である。金属粉末の化学組成は、質量濃度で、Si:1.0%~13.0%、Cr:0.10%~8.00%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属粉末(Fe-Si-Cr合金粉末)である。さらに、質量濃度で、S(硫黄):5ppm~2000ppm、Ni:10.0%以下及びAl:5.0%以下のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有してもよい。
【0023】
金属粉末の表面性状は、金属粉末の表面に金属酸化物被膜を有している。そして、金属粉末のBET法で測定した比表面積の値をX(m2/g)及びSEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)とすると、XとYの積(X×Y)が1.50以下である。また、金属粉末のO(酸素)含有量を質量濃度でZ(%)とすると、ZとYの積(Z×Y)が、Cr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70の範囲であり、Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70の範囲である。さらに、上記のY(μm)は、0.10μm~1.00μm以下である。
【0024】
[金属粉末の化学組成]
次に、化学組成の限定理由について説明する。以下、組成における%は、質量濃度であることを意味する。
【0025】
[Si:1.0%~13.0%]
金属粉末に含まれる合金元素のSi含有量は、湿式分析(二酸化ケイ素重量法)を用いて測定する。Feを主成分とする金属粉末では、Siは、ベースとなるFe中に固溶して、金属粉末の保磁力の低下に寄与する元素である。所望の低い保磁力を達成するためには、Siは、1.0%以上含有する必要がある。一方、13.0%を超えて含有すると、保磁力は増加し、飽和磁化が低下する。このため、Si含有量は、1.0%~13.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、3.0%~11.0%であり、より好ましくは、4.0%~9.0%である。
【0026】
[Cr:0.10%~8.00%]
金属粉末に含まれる合金元素のCr含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定する。Crは、金属粉末の磁気特性を低下させるが、耐食性を向上させる元素であり、本発明の金属粉末においては、0.10%以上含有させる必要がある。Cr含有量が0.10%未満と少ない場合には、粒子表面に錆が発生しやすくなる。一方、8.00%を超えて多量に含有すると、飽和磁化が低下する。このため、Cr含有量は、0.10%~8.00%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.50%~6.00%であり、より好ましくは、0.70%~4.00%である。ここで、耐食性とは、後述する耐錆性のことである。
【0027】
[任意的選択元素]
さらに、混合可能な任意的選択元素としては、S(硫黄)、Ni及びAlが挙げられる。
【0028】
[S(硫黄):5ppm~2000ppm]
金属粉末に含まれるS(硫黄)は、燃焼法を用いて測定される。本発明の金属粉末は、混合可能な任意的選択元素として、S(硫黄)を5ppm~2000ppm含有してもよい。本発明のFeを主成分としSiとCrを上述のように含有する金属粉末(Fe-Si-Cr合金粉末)は、SEM測定の個数基準一次粒子径のD50が、0.10μm~1.00μmの金属磁性微粒子であり、主に後述するCVD法又はPVD法で製造できる。CVD法又はPVD法は、高温で気相にて粒子を形成させる方法であるが、金属粉末がガス中を飛翔して結晶成長する際に、特定の結晶面が優先して成長した多面体の粒子が混在してしまう。S(硫黄)は、生成した粒子の表面に濃化するが、このSの表面濃化層は、特定結晶面の優先成長を抑制するため、全方位に均等な結晶成長が生じ、球形に成長した粒子の存在率が高くできる。S含有量が5ppm未満では、この多面体発生の抑制効果が不十分であり、2000ppm超では、粒子の表面のS濃化量が過多となり粒子の成長が極端に抑制されて、目的とする粒度範囲より細かい粒子しか得られなくなる。このため、S(硫黄)は、5ppm~2000ppm含有することが好ましい。なお、より好ましくは、10ppm~1500ppmであり、さらに好ましくは、20ppm~1000ppmである。
【0029】
[Ni:10.0%以下]
金属粉末に含まれる合金元素のNi含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定する。本発明の金属粉末は、混合可能な任意的選択元素として、Niを10.0%以下(0%を含まない)含有してもよい。Niは、金属粉末に固溶し、Fe含有量が減少すると、金属粉末の飽和磁化を低下させる元素であり、できるだけ低減することが好ましいが、Niは、他の元素に比べ、Fe合金粉末の酸化による発熱を抑制する効果がある。したがって、Fe合金粉末のハンドリングの安全性を確保することができ、飽和磁化を低下させる作用が緩慢であるため、10.0%以下含有することが好ましい。なお、コアとしての飽和磁束密度の向上のために、より好ましくは、5.0%以下であり、さらに好ましくは、3.0%以下である。
【0030】
[Al:5.0%以下]
金属粉末に含まれる合金元素のAl含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定する。本発明の金属粉末は、混合可能な任意的選択元素として、Alを5.0%以下(0%を含まない)含有してもよい。Alは、Niと同様に、金属粉末に混合して、Fe含有量が低下すると、金属粉末の飽和磁化を低下させることになり、できるだけ低減することが好ましい。しかしながら、Alは、他の元素に比べ、Fe合金粉末の酸化による発熱を抑制する効果があり、Fe合金粉末のハンドリングの安全性を確保するために、5.0%以下含有することが好ましい。より好ましくは、1.0%以下であり、さらに好ましくは、0.5%以下である。
【0031】
[残部組成]
上記した組成以外の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
不可避的不純物元素としては、C、N、P、Mn及びCuなどの元素が挙げられる。これらの元素は、金属粉末の飽和磁化を低下させる元素であり、合計で3%以下の含有であれば、実用上致命的とまで言える磁気特性の低下は生じないため、許容できる。なお、コアの飽和磁束密度の向上という観点からは、上記した元素の含有量は、合計で1%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.5%以下である。
【0032】
[金属粉末の平均粒子径]
(SEM測定の個数基準一次粒子径のD50(Y):0.10μm~1.00μm)
前述したように、金属粉末のSEM測定により求めた個数基準一次粒子径のD50をY(μm)とすると、Yは、0.10μm~1.00μmの範囲とする。この範囲とした理由は、Yが、0.10μm未満では、保磁力が大きくなりすぎるからである。また、平均粒子径が1μm超(~50μm以下)の金属粉末を磁心材として使用した従来のインダクタよりも更なる小型化のインダクタを製造するためには、インダクタの作動周波数を上げるため、磁心での金属粉末内に発生する渦電流損失を抑止する目的で金属粉末の粒子径を下げる必要がある。そのために、磁心に使用する金属粉末の一次粒子径のD50(Y)は、1.00μm以下とする。好ましくは、0.20μm~0.90μmであり、より好ましくは、0.30μm~0.80μmである。
【0033】
(比表面積(X)と一次粒子径(Y)の積)
金属粉末の比表面積は、気体吸着法を用いて求める。窒素ガスの吸着からBET(Brunauer-Emmett-Teller)式を用いて比表面積を算出する。この比表面積をX(m2/g)とすると、前述のSEM測定の個数基準一次粒子径のD50(Y)との積(X×Y)は、1.50以下の範囲とする。XとYの間には、
X=a×(1/Y) ・・・ (1) (ここで、aは定数)
の関係にあるが、平均粒子径が同一の場合には、金属粉末表面の凹凸が大きくなり比表面積が増大していくと、aは徐々に大きくなる。一方、前述のように、平均粒子径のD50(Y)の範囲が、0.10μm~1.00μmであることから、この範囲内において全ての平均粒子径で成立する関係式として、XとYの積(X×Y)を規定した。このXとYの積(X×Y)が、1.50を超えると、金属粉末の表面を被覆している酸化物被膜の表面の凹凸が大き過ぎるために、プレス成型の圧力で金属粉末同士の接触摩擦で酸化物被膜が破損し剥離する。そして、表面被覆されていない粒子の面同士が接触して電気の導通が発生する現象が圧粉体内で多数発生するため、圧粉体の電気抵抗が下がってインダクタの渦電流によるコアロスが低減できないからである。なお、好ましくは、1.40以下であり、より好ましくは、1.30以下である。
【0034】
(金属粉末の酸素含有量(Z)と一次粒子径(Y)の積)
O(酸素)は、金属粉末の表面に酸化物として存在し、金属粉末の酸素含有量は、燃焼法を用いて測定する。金属粉末の酸素含有量を質量濃度でZ(%)及び前述のSEM測定の個数基準一次粒子径のD50をY(μm)とすると、ZとYの積(Z×Y)は、金属粉末のCr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70であり、Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70である。
【0035】
ZとYの積(Z×Y)が下限値(0.90又は0.70)未満の場合、金属粉末の表面の酸化物の被膜量が不足して金属粉末表面の絶縁が不十分な所が散在する。それにより、表面被覆されていない粒子の面同士が接触して電気の導通が発生する現象が圧粉体内で多数発生するため、圧粉体の電気抵抗が下がってインダクタの渦電流によるコアロスが低減できないからである。なお、(Z×Y)の下限値は、Cr含有量が3.50%未満の場合には、1.00以上であることが好ましく、Cr含有量が3.50%以上の場合には、0.80以上であることが好ましい。一方、ZとYの積(Z×Y)が上限値(1.70)を超える場合は、金属粉末の金属部分の重量に対する非金属の表面被膜部分の重量割合が大きく成り過ぎて、金属粉末の圧粉体で形成されるインダクタの磁心の飽和磁束密度等の磁気特性が低下してしまう。なお、(Z×Y)の上限値は、1.50以下であることが好ましい。
【0036】
[金属粉末の圧粉体]
続いて、本発明に係る金属粉末の圧粉体について説明する。生成した金属粉末のみをバインダーを添加しないで金型に挿入して600MPaの荷重でプレス(加圧成形)すると圧粉体が得られる。プレス(加圧成形)方法については、特に限定されるものではなく、通常のプレス方法で行う。荷重については、600MPaとしているが、これはほぼインダクタの圧粉体の磁心を製造する時に使用されるプレス圧に相当する大きさである。
【0037】
得られた圧粉体を解砕して粉体状とし、その粉体について、電気抵抗測定を行う。本発明においては、圧粉体の解砕粉体を荷重59MPaで測定した電気抵抗率が、105Ω・cm以上であることが好ましい。圧粉体を解砕して粉体状にする時の解砕の度合いとしては、水中でのレーザー回折粒度を測定して、体積基準粒度のD10、D50、D90を圧粉体成形前の粉体と圧粉体成形後に解砕した粉体とで比較し、その値の差が、20%以下であることが好ましい。この電気抵抗率が105Ω・cm未満の場合は、金属粉末をプレス加工でインダクタの鉄芯に成形した際に表面の酸化物被膜がプレスの圧力で剥離して表面被覆されていない粒子の面同士が接触して電気の導通が発生する現象が圧粉体内で多数発生する。そのため、圧粉体の電気抵抗が下がってインダクタの渦電流によるコアロスが低減できない。したがって、圧粉体の電気抵抗率は、105Ω・cm以上とするのが好ましい。より好ましくは、106Ω・cm以上である。
【0038】
[金属粉末の製造方法]
次に、本発明に係る金属粉末の製造方法について説明する。
【0039】
本発明の金属粉末は、前述したように、高温で気相にて粒子を形成させる方法であるCVD法又はPVD法で製造できる。特に、CVD法は、化学的気相法(Chemical Vapor Deposition)のことであり、本発明は、このCVD法を用いて製造することが好ましい。CVD法による具体的な製造方法の工程を以下に説明する。その工程とは、金属素材粉末生成工程、酸化物被覆工程及び乾式攪拌工程を有するものである。
【0040】
(金属素材粉末生成工程)
まず、金属素材粉末生成工程では、Fe、Si及びCr等の合金元素を、高温の塩素ガスと反応させて生成した各元素の塩化物ガス、あるいは、Fe、Si及びCr等の各元素の塩化物を高温に加熱して気化させた塩化物ガスを所定の比率で混合させる。その混合ガスに、それぞれ適した温度で、水素を反応させて塩化物を還元し、Si、Cr等を含有する所望組成の金属素材粉末を得る。本発明の製造方法では、塩化物ガスの濃度、反応温度及び反応時間を所望の粒子径となるように、窒素ガスを混合することで調整することが好ましい。
【0041】
(酸化物被覆工程)
次の酸化物被覆工程は、脱塩素処理を行う工程であって、上述の金属素材粉末生成工程における反応(還元反応)後、得られた金属素材粉末は、液体中で酸化させて金属素材粉末の表面を酸化物で被覆する工程である。酸化の方法として液体中で酸化させる場合には、液体を用いて洗浄した後に真空中で乾燥することにより、塩素濃度を低減し金属素材粉末表面の酸化物被覆量を調整する工程である。ここで、液体は、水(H2O)が好ましい。水(H2O)を用いる場合には、その純度は、水中での金属粉末の凝集を抑止するために水の導電率が5mS/m以下であることが好ましい。この工程の洗浄に使用する水中の溶存酸素濃度を1mg/L~40mg/Lに調整することにより、金属素材粉末を被覆する酸化物の量を調整する。すなわち、前述した金属素材粉末の酸素含有量(Z%)と一次粒子径D50(Yμm)の積(Z×Y)を、金属素材粉末のCr含有量が3.50%未満の場合に、0.90~1.70とし、Cr含有量が3.50%以上の場合に、0.70~1.70となるように調整する。ここで、(Z×Y)が1.70超では、最終工程で過剰な酸化物が形成され磁心の磁気特性が劣化し、(Z×Y)が下限値(0.90又は0.70)未満では、最終工程で表面酸化物の量が不足して絶縁できず渦電流損失が増えることになる。液体中では金属粉末が分散しやすく各金属粒子を均等に酸化させることが可能である。このようにして、金属素材粉末の表面に適正な酸素含有量を有する酸化物の被膜を形成し、酸化物被覆金属粉末を得ることができる。
【0042】
上記の乾燥工程では、金属粉末に乾燥凝集が生じているので、乾式の分散機(例えば、ピンミル、乾式ジェットミルが適用できる。)に掛けて粗大な凝集体を解し、あるいは除去する。さらに分級機(例えば、乾式サイクロンが適用できる。)に掛けて粗大な粒子を除去する。
【0043】
(乾式攪拌工程)
次の乾式攪拌工程では、上記で得られた酸化物被覆金属粉末を、酸素分圧を調整した不活性ガス中に保持することが可能で、冷却装置を設けることで冷却手段を備えた容器内に導入し、乾式で攪拌する。酸化物被覆金属粉末は、攪拌により摩擦熱で温度が上昇するが、酸化物被覆金属粉末の温度が40℃~150℃となるように冷却装置で調整することで、表面酸化物被膜が摩擦で平滑化され、表面の凹凸が少ない最終的な金属粉末を製造することができる。40℃未満では、表面摩擦の効果が不十分で、表面酸化物被膜の凹凸が大きい金属粉末となる場合があり、150℃を超える場合では、過剰な摩擦力で表面酸化被膜の剥離が発生し、金属粉末同士が熱融着し粗大な粒子を形成してしまうことがある。
【0044】
不活性ガスとしては、窒素ガスあるいはArガスやHeガスなどが挙げられるが、設備コストの観点からは窒素ガスを用いるのが好ましい。その際の純度は、99.9体積%以上であることが好ましい。
【0045】
この不活性ガスとして、金属を酸化させるガス、例えば、酸素の分圧が高いガスを用いて乾式で攪拌すると過剰の酸化物が生成し、前述のZとYの積(Z×Y)が1.70を超えると、過剰な酸化物が形成され磁心の磁気特性が劣化する。また、過剰な酸化物が形成するので、表面酸化物被膜の凹凸が少ない金属粉末を製造することができなくなる。したがって、乾式で攪拌する時の酸化物被覆金属粉末の周囲にある不活性ガス中の酸素分圧を測定し、過剰な酸化物を形成しない酸素分圧に制御することが必要である。具体的な酸素分圧の範囲としては、5体積%以下であることが好ましい。より好ましくは、2体積%以下である。
【実施例0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
原料として、Feの塩化物、Siの塩化物、Crの塩化物及びS(硫黄)をそれぞれ準備した。そして、これら塩化物とS(硫黄)を、反応装置内で高温(1100℃)に加熱し、塩化物とS(硫黄)を気化させて、各元素の塩化物ガス及びS(硫黄)ガスを生成した。生成した各元素の塩化物ガス及びS(硫黄)ガスを、表1に記載した各金属粉末の化学組成となるように、混合比率を変化させて各種混合ガスとした。得られた混合ガスを、所定の反応温度(1100℃~1200℃)で、水素と反応させて、塩化物ガスを還元して金属素材粉末(Fe-Si-Cr合金粉末)を生成させた(金属素材粉末生成工程)。
【0048】
そして、得られた各種金属素材粉末に、溶存酸素濃度を1mg/L~40mg/Lに調整した温度25℃の純水を用いて洗浄する脱塩素処理を施し、残留する塩素物の除去及び金属素材粉末表面に所定量の酸化物を被覆した(酸化物被覆工程)。ついで、脱塩素処理が完了した酸化物被覆金属粉末の水スラリーを脱水して真空中で150℃に加熱しながら乾燥させた。
【0049】
乾燥が完了した各種酸化物被覆金属粉末を乾式のジェットミルで分散させてから乾式のサイクロンで分級して粗大な粒子を除去した。
【0050】
続けて、酸素分圧が0.1体積%の窒素ガス中に保持した電動乳鉢装置で鉢を冷却水で温度調整しながら上記で得られた酸化物被覆金属粉末を入れて乾式で攪拌した(乾式攪拌工程)。それにより、その酸化物被覆金属粉末は、摩擦熱で温度が上昇するが、酸化物被覆金属粉末の温度が40℃~150℃となるように冷却水で調整した。
【0051】
最終的に得られた各種金属粉末について、金属粉末の元素含有量、酸化物被膜中の含有量、一次粒子径D50、磁気特性、さらに圧粉体のコアロスを調査した。調査方法は、次のとおりとした。
(1)金属粉末の元素含有量
金属粉末に含まれる合金元素のSi含有量は、湿式分析(二酸化ケイ素重量法)を用いて測定した。合金元素のCr量は、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定した。さらに、金属粉末に含まれる酸素は、燃焼法を用いて測定した。
(2)個数基準一次粒子径D50
得られた金属粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて5千倍以上の粒子の輪郭が鮮明となる倍率で観察し撮像して測定粒子数1000個~2000個のSEM画像解析により、個数基準の一次粒子径D50を求めた。画像解析では三谷商事株式会社製の画像解析ソフトWinRoofを使用した。
(3)比表面積
得られた金属粉末について、比表面積は気体吸着法を用いて求めた。窒素ガスの吸着からBET(Brunauer-Emmett-Teller)式を用いて比表面積を算出した。測定にはMountech社製のMacsorb Automatic Surface Area Analyzerを使用し、測定前処理として、金属粉末にN2を30体積%混合したHeガスを25NmL/minで流しながら200℃に加熱して10分間の脱気を実施した。
(4)磁気特性
得られた各種金属粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、保磁力、飽和磁化を測定した。
(5)圧粉体のコアロス
得られた各種金属粉末を、樹脂(エポキシ樹脂)中に混合し分散させ、各種混合粉とした。これら混合粉を、リング状金型(外径:13mm、内径:8mm)に充填し、600MPaでプレス成型したのち、樹脂を硬化させて、厚さ:3mmのトロイダルコアを製造した。得られたコアに、1次側20ターン、2次側20ターンの巻線を与えて、B-Hアナライザ(岩通計測株式会社製SY-8218)を用いて、磁束密度10mT、周波数1MHzの条件で、コアロスを測定した。
【0052】
以上の得られた結果を表1に併記する。なお、化学組成の欄で「-」は、「検出限界以下」である「1ppm以下」を表す。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明例は、いずれも、1200A/m以下の低保磁力で、120emu/g以上の高い飽和磁化を保持し、さらに、圧粉体とした場合に、コアロスが110kW/m3以下である、コアロスの低い圧粉体を製造できた。
【0055】
一方、本発明の好適範囲を外れる場合には、保磁力が1200A/mを超えて高いか、飽和磁化が120emu/g未満と低いか、あるいは圧粉体とした場合に、コアロスが110kW/m3を超えてコアロスが高い圧粉体となった。
【0056】
なお、表1の製造条件として、用いた純水は、純度として電気伝導度0.5mS/m、金属粉末No.1~No.25、No.27、No.28、No.31、No.33,No.35、No.37~No.41では溶存酸素濃度を1.0mg/L~2.0mg/Lとし、金属粉末No.44、No.48では溶存酸素濃度を0.0mg/L~0.5mg/Lとし、金属粉末No.32、No.45、No.49では溶存酸素濃度を0.5mg/L~1.0mg/Lとし、金属粉末No.26、No.34、No.36では溶存酸素濃度を2.0mg/L~3.0mg/Lとし、金属粉末No.29、No.42、No.46、No.50では溶存酸素濃度を3.0mg/L~4.0mg/Lとし、金属粉末No.30、No.43、No.47、No.51では溶存酸素濃度を4.0mg/L~8.0mg/Lとした。
【0057】
表1の金属粉末No.1は、Si過少で保磁力が大で、ヒステリシス損と渦流損が大きく、Sが過少で非球形となり充填率が低く、飽和磁化が低くなっている。
【0058】
No.2、No.3は、Sが少なく非球形となり充填率が低く、飽和磁化が低くなっている。
【0059】
No.4は、Siが過多で飽和磁化が低下し、Sが過少で非球形となり充填率が低く、飽和磁化が低くなっている。
【0060】
No.5は、Crが過少で錆が多く、マグネタイトの生成により低抵抗となり、渦流損が大で、Sが過少で非球形となり充填率が低く、飽和磁化が低くなっている。
【0061】
No.6は、逆にCrが過多で飽和磁化が低く、磁歪が大で保磁力が大きくなり、S過少で非球形となり充填率が低く、飽和磁化が低くなっている。
【0062】
No.7は、NiとAlが含有せず、Feが多くて飽和磁化が大となっている。
【0063】
No.8は、Sが少なく非球形で充填率が低く、Fe以外に混入しているNiは磁性があることから、飽和磁化が微少に低くなっている。
【0064】
また、No.9は、同様にSが少なく非球形で充填率が低く、Fe以外に混入しているAlは、磁性がないことから、飽和磁化が低くなっている。
【0065】
No.10は、Fe以外に混入しているNiは磁性があり、飽和磁化が微少に低くなっている。
【0066】
また、No.11は、Fe以外に混入しているAlは、磁性がないことから、飽和磁化が低くなっている。No.12は、Sが少なく非球形で充填率が低く、Fe以外に混入しているAlは磁性がなく、飽和磁化が低くなっている。
【0067】
金属粉末No.13は、Si含有量が過少であるために、保磁力が大きくなりコアロスが大きくなっている。
【0068】
No.17は、Si含有量が過多であるために、Fe組成が低くなり飽和磁化が小となっている。
【0069】
No.18は、Cr含有量が過少であり、錆が多くなって、マグネタイト生成により低抵抗で渦電流損増加によるコアロス増となっている。
【0070】
No.21は、Cr含有量が過多で磁歪が大で、保磁力が大となり、また、Fe含有量が少ないことにより飽和磁化が低く、コアロスが大となっている。
【0071】
No.22は、S(硫黄)含有量が過少ではあるが、金属粉末のBET法で測定した比表面積の値のX(m2/g)と、SEM測定の個数基準一次粒子径D50のY(μm)との積(X×Y)が1.50以下であり、金属粉末の酸素含有量のZ(質量%)とY(μm)との積(Z×Y)が0.90以上であり、磁気特性は良好であった。
【0072】
No.25は、逆にS(硫黄)含有量が過多であり、一次粒子径(Y)が小さくなったために、保磁力が大でありコアロスが大となり、また、凝集体が多く、充填密度が低く飽和磁化も低くなっている。
【0073】
No.26、No.35、No.36は、前述した脱塩素処理が完了した金属素材粉末の水スラリーを超音波分散機で分散させた後、酸化物による表面被覆をするための薬剤として、Siを含む酸化物であるエチルシリケートを上記金属素材粉末の水スラリーに添加した。それを、超音波分散機で金属素材粉末を分散させながら、そのスラリーを所定時間攪拌した後、脱水して真空中で50℃に加熱しながら乾燥させ、Siの酸化物の被膜を金属素材粉末の表面に形成させた。表面の絶縁被膜の表面凹凸が大きく、金属粉末のBET法で測定した比表面積の値のX(m2/g)と、SEM測定の個数基準一次粒子径D50のY(μm)との積(X×Y)が1.50超となった。そして、プレス加工時に粉体同士の擦れで表面被膜が剥離したため、プレス加工後の圧粉体の電気抵抗が小さく、コアロスが大となった。
【0074】
No.27、No.40は、Cr含有量が3.50%未満であって、金属粉末の酸素含有量のZ(質量%)とY(μm)との積(Z×Y)が0.90未満であるため、金属粉末表面の酸化物被膜量が不足して金属粉末表面の絶縁が不十分な所が散在した。そして、表面被覆されていない粒子の表面同士が接触して電気の導通が発生する現象が圧粉体内で多数発生するため、プレス加工後の圧粉体の電気抵抗が低く、コアロスが大きくなった。
【0075】
No.30、No.43、No.47、No.51は、前述の(Z×Y)が1.70を超えているため、金属粉末の金属(素材)部分の重量に対する非金属の表面被膜部分の重量割合が大きく成り過ぎて、飽和磁化が低くなった。
【0076】
No.31は、前記のY(μm)が細かいため、保磁力が大でありコアロスが大となっており、また、凝集体が多く、充填密度が低く飽和磁化が低くなった。
【0077】
No.34は、前記のY(μm)が大きく、渦電流の発生により、コアロスが大となった。
【0078】
No.38は、Ni含有量が過多であり磁歪が大きくなるが、前述の(X×Y)が1.50以下であり、前述の(Z×Y)も0.90以上であり、磁気特性は良好であった。
【0079】
No.39は、Al含有量が過多であり磁歪が大きくなるが、前述の(X×Y)が1.50以下であり、前述の(Z×Y)も0.90以上であり、磁気特性は良好であった。
【0080】
No.44、No.48は、Cr含有量が3.50%以上であり、前述の(Z×Y)が0.70未満であるため、金属粉末表面の酸化物被膜量が不足して金属粉末表面の絶縁が不十分な所が散在した。そして、表面被覆されていない粒子の面同士が接触して電気の導通が発生する現象が圧粉体内で多数発生するため、プレス加工後の圧粉体の電気抵抗が低く、コアロスが大きくなった。