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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170313
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】結晶化ガラス及び磁性素子コア材
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/00 20060101AFI20241129BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C03C10/00
H01F1/34 120
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084470
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023086983
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【テーマコード(参考)】
4G062
5E041
【Fターム(参考)】
4G062AA11
4G062BB01
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5E041CA02
5E041HB11
5E041NN02
5E041NN13
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】磁気特性の向上と鉄損の低減が可能な結晶化ガラス及び磁性素子コア材を提供する。
【解決手段】モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上である、結晶化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上である、結晶化ガラス。
【請求項2】
前記結晶化ガラスがフェライトを含む、請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
モル%で、NiO 0.5~40%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
モル%で、MnO 0.5~40%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
モル%で、B 0~80%、P 0~80%、Al 0~80%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
モル%で、ZnO 1~40%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
モル%で、LiO 0~40%、NaO 0~40%、KO 0~40%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
モル%で、Bi 0~20%を含有する、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項9】
飽和磁化が10emu/g以上である、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項10】
磁性素子のコア材として用いられる、請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項11】
前記磁性素子が、コイル、トランス、インダクタ、リアクトル、ノイズフィルタから選択される少なくとも一種である、請求項10に記載の結晶化ガラス。
【請求項12】
モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上である結晶化ガラスからなる、磁性素子コア材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス及び磁性素子コア材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器、情報機器等の電子機器は急速に小型化、高機能化が求められており、これらに使われる磁性素子(コイル等)に対しても同様に小型化、高機能化が要求されている。しかしながら、特に高周波域(例えば、1MHz以上)では、磁気特性の低下や損失(鉄損)の増加が課題となる。
【0003】
高周波域で用いられる磁性素子に好適なコア材料として、磁性金属合金とその表面に酸化物被膜が形成された材料が開示されている(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-166156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性素子の更なる小型化のため、磁気特性の向上と鉄損の一層の低減が求められている。特に、鉄損の一種である渦電流損は周波数の二乗に比例して増加するため、高周波域用途においては渦電流損の低減が求められている。
【0006】
以上に鑑み、本発明は磁気特性の向上と鉄損の低減が可能な結晶化ガラス及び磁性素子コア材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する結晶化ガラス及び磁性素子コア材の各態様について説明する。
【0008】
態様1の結晶化ガラスは、モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上であることを特徴とする。ここで、「FeO+Fe」はFeO及びFeの合量を意味する。「NiO+MnO」はNiO及びMnOの合量を意味する。また、比透磁率はインピーダンスアナライザ(Keysight製E4990A)を用いて測定し、周波数100MHzにおける値を意味する。また、体積抵抗率logρ(Ω・cm)はデジタルマルチメータ(株式会社エーディーシー製 R6581)を用いて4端子法(JIS K7194)により測定される値を意味する。
【0009】
態様2の結晶化ガラスは、態様1において、結晶化ガラスがフェライトを含むことが好ましい。
【0010】
態様3の結晶化ガラスは、態様1又は態様2において、モル%で、NiO 0.5~40%を含有することが好ましい。
【0011】
態様4の結晶化ガラスは、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、モル%で、MnO 0.5~40%を含有することが好ましい。
【0012】
態様5の結晶化ガラスは、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、モル%で、B 0~80%、P 0~80%、Al 0~80%を含有することが好ましい。
【0013】
態様6の結晶化ガラスは、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、モル%で、ZnO 1~40%を含有することが好ましい。
【0014】
態様7の結晶化ガラスは、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、モル%で、LiO 0~40%、NaO 0~40%、KO 0~40%を含有することが好ましい。
【0015】
態様8の結晶化ガラスは、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、モル%で、Bi 0~20%を含有することが好ましい。
【0016】
態様9の結晶化ガラスは、態様1から態様8のいずれか一つの態様において、飽和磁化が10emu/g以上であることが好ましい。
【0017】
態様10の結晶化ガラスは、態様1から態様9のいずれか一つの態様において、磁性素子のコア材として用いられることが好ましい。
【0018】
態様11の結晶化ガラスは、態様10において、磁性素子が、コイル、トランス、インダクタ、リアクトル、ノイズフィルタから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0019】
態様12の磁性コア材は、モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上である結晶化ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁気特性の向上と鉄損の低減が可能な結晶化ガラス及び磁性素子コア材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施態様について説明する。ただし、以下の実施態様は単なる例示であり、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0022】
<結晶化ガラス>
本発明の結晶化ガラスは、モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上であることを特徴とする。上記構成を有する結晶化ガラスは、析出結晶周辺のガラスが絶縁体として機能することにより、高い体積抵抗を示す。渦電流損は体積抵抗が高いほど小さくなるため、本発明の結晶化ガラスは渦電流損を低減することができ、鉄損を低減することができる。また、比透磁率が大きいため、磁気特性を向上させることができる。
【0023】
磁気特性を高める観点から、本発明の結晶化ガラスはフェライトを含有することが好ましく、主結晶としてフェライトを含有することがより好ましい。フェライトは、スピネルフェライト、ガーネットフェライト又は六方晶フェライトから選択される少なくとも一種であることが好ましい。例えば、スピネルフェライトは、AFe(AはNi、Zn、Cu、Mn、Co及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種)で表されることが好ましい。ガーネットフェライトは、RFe12(Rは希土類元素)で表されることが好ましい。六方晶フェライトは、XFe1219(XはSr、Ba及びPbからなる群より選ばれる少なくとも一種)で表されることが好ましい。比透磁率を高める観点からは、フェライトはスピネルフェライトであることが好ましい。具体的には、Ni-Zn系スピネルフェライト又はMn-Zn系スピネルフェライトであることが好ましく、MnZnFe又はNiZnFeであることがより好ましい。
【0024】
本発明の結晶化ガラスは、所望の磁気特性を得るためフェライト以外の磁性結晶を含有してもよい。磁性結晶とは、超強磁性、強磁性、常磁性、フェリ磁性などの性質を有する結晶を意味する。例えば、マグヘマイト(γ-Fe)を含有してもよい。
【0025】
以下、本発明の結晶化ガラスにおいて好ましいガラス組成を規定した理由、及び各成分の含有量について説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。また、本発明において、「x+y+z+・・・」は各成分の含有量の合量を意味する。ここで、必ずしも各成分を必須成分として含有しなくてもよく、含有しない(含有量0%)成分が存在しても構わない。また「x+y+z+・・・ A%~B%」は、例えば「x=0%、y+z+・・・ A%~B%」や「x=0%、y=0%、z+・・・ A%~B%」の場合を含む。
【0026】
FeO及びFeはフェライトを析出させるための成分である。FeO+Feの含有量は5~80%である。より詳細には、FeO+Fe(FeOとFeの含有量の合量)は5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、特に15%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、特に50%以下であることが好ましい。FeO+Feの含有量が少なすぎると、フェライトが析出しづらくなる。また、析出したとしても析出量が少なくなるため、磁気特性が低下する。FeO+Feの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なお、各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0027】
FeOの含有量は0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、特に15%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、特に50%以下であることが好ましい。
【0028】
Feの含有量は0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、特に15%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、特に50%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の結晶化ガラスは、FeO又はFeのうち少なくとも一方を含有していればよく、特にFeを含有することが好ましい。Feを含有することにより、より一層フェライトが析出しやすくなる。
【0030】
なお、Fe成分として、さらにFeを含有してもよい。Feを含有することにより、飽和磁化を高めやすくなる。ただし、その含有量が多すぎると体積抵抗率が低下しやすくなるため、Feの含有量は0~20%であることが好ましい。より詳細には、Feの含有量は0%以上、0%超、0.5%以上、特に1%以上であることが好ましく、20%以下、15%以下、特に10%以下であることが好ましい。体積抵抗率を特に高める観点からは、Feの含有量は5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、意図的に含有させないという意味であり、不純物レベルの混入を排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が0.1%未満を指す。
【0031】
SiOはガラスを形成するための成分である。SiOの含有量は1~80%である。より詳細には、SiOの含有量は1%以上、2%以上、4%以上、5%以上、7%以上、9%以上、特に10%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、59%以下、特に57%以下であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になる。SiOの含有量が多すぎると、フェライトが析出しづらくなる。
【0032】
NiO及びMnOはフェライトの体積抵抗率を向上させやすい成分である。NiO+MnO(NiOとMnOの含有量の合量)は0.5~40%である。より詳細には、NiO+MnOの含有量は0.5%以上、0.8%以上、特に1%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下であることが好ましい。NiO+MnOの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。NiO+MnOの含有量が多すぎると、ガラス化しづらくなる。また、磁気特性が低下しやすくなる。なお、各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0033】
NiOの含有量は0%以上、0.5%以上、0.8%以上、特に1%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下であることが好ましい。特にNiOを必須成分として含有することにより、体積抵抗率を高めることができる。
【0034】
MnOの含有量は0%以上、0.5%以上、0.8%以上、特に1%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、特に15%以下であることが好ましい。特にMnOを必須成分として含有することにより、飽和磁化を高めることができる。
【0035】
本発明の結晶化ガラスは、さらに以下の成分を含有してもよい。
【0036】
はガラス骨格を形成しガラス化範囲を広げる成分である。Bの含有量は0~80%であることが好ましい。より詳細には、Bの含有量は0%以上、0.5%以上、特に1%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、特に10%以下であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、フェライトが析出しづらくなる。
【0037】
はガラス骨格を形成しガラス化範囲を広げる成分である。Pの含有量は0~80%であることが好ましい。より詳細には、Pの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、特に35%以下であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、フェライトが析出しづらくなる。
【0038】
Alはガラス骨格を形成しガラス化範囲を広げる成分である。Alの含有量は0~80%であることが好ましい。より詳細には、Alの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に実質的に含有しない構成であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、フェライトが析出しづらくなる。
【0039】
ZnOはフェライトの体積抵抗率を向上させやすい成分である。ZnOの含有量は0~40%であることが好ましく、1~40%であることが特に好ましい。より詳細には、ZnOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、13%以下、特に11%以下であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、フェライトが析出しづらくなる。
【0040】
本発明の結晶化ガラスは、特に体積抵抗率を高める観点からは、NiOとZnOの両方を含有することが好ましい。より詳細には、NiO+ZnO(NiOとZnOの含有量の合量)が1.5%以上、2%以上、特に3%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に22%以下であることが好ましい。これらの成分を含有する原ガラスを結晶化させることで、フェライト中にNiとZnが取り込まれ、体積抵抗率を増加させやすくなる。
【0041】
本発明の結晶化ガラスは、特に飽和磁化を高める観点からは、MnOとZnOの両方を含有することが好ましい。より詳細には、MnO+ZnO(MnOとZnOの含有量の合量)が1.5%以上、2%以上、特に3%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に22%以下であることが好ましい。これらの成分を含有する原ガラスを結晶化させることで、フェライト中にMnとZnが取り込まれ、飽和磁化を増加させやすくなる。
【0042】
LiOはガラスの粘度を低下させてガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。LiOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、LiOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に10%以下であることが好ましい。LiOの含有量が多すぎると、溶融時のLiOの蒸発量が多くなり環境負荷が高くなるほか、結晶化ガラスの化学的耐久性が低下しやすくなる。なお、ガラスのコストを低減する観点からは、LiOの含有量は5%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0043】
NaOはガラスの粘度を低下させてガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。NaOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、NaOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。NaOの含有量が多すぎると、溶融時のNaOの蒸発量が多くなり環境負荷が高くなるほか、結晶化ガラスの化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0044】
Oはガラスの粘度を低下させてガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。KOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、KOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、特に5%以下であることが好ましい。KOの含有量が多すぎると、溶融時のKOの蒸発量が多くなり環境負荷が高くなるほか、結晶化ガラスの化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0045】
CaOはガラスの粘度を低下させて、ガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。CaOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、CaOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。CaOの含有量が多すぎると、溶融時および成形時に意図しない結晶(失透ブツ)が析出しやすくなり、結晶化ガラスや結晶化前の原ガラスが破損しやすくなる。
【0046】
SrOはガラスの粘度を低下させて、ガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。SrOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、CaOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。SrOの含有量が多すぎると、溶融時および成形時に意図しない結晶(失透ブツ)が析出しやすくなり、結晶化ガラスや結晶化前の原ガラスが破損しやすくなる。
【0047】
BaOはガラスの粘度を低下させて、ガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。BaOの含有量は0~40%であることが好ましい。より詳細には、BaOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。BaOの含有量が多すぎると、溶融時および成形時に意図しない結晶(失透ブツ)が析出しやすくなり、結晶化ガラスや結晶化前の原ガラスが破損しやすくなる。
【0048】
TiO及びZrOは、結晶核の形成剤として働く成分である。ただし、その含有量が多すぎると異種結晶が増加してフェライトが析出しづらくなる。また、ガラス化しにくくなる。TiO及びZrOの含有量はそれぞれ0%以上、特に0.1%以上であることが好ましく、10%以下、8%以下、7%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、1%未満、特に0.5%以下であることが好ましい。
【0049】
Biはガラス化しやすくする成分である。一方、反磁性の効果が強い成分でもあるため、含有量が多くなると磁気特性が低下する。そのため、Biの含有量は20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0050】
PbOはガラス化しやすくする成分である。一方、PbOは反磁性の効果が強いため、含有量が多くなると磁気特性が低下する。そのため、PbOの含有量は1%以下、0.8%以下、0.1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0051】
CoO、CuO、MgO及びCdOは磁気特性に寄与する成分である。CoO+CuO+MgO+CdO(CoO、CuO、MgO及びCdOの含有量の合量)は0~30%であることが好ましい。より詳細には、CoO+CuO+MgO+CdOの含有量は0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。CoO+CuO+MgO+CdOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なお、CoO、CuO、MgO及びCdOの各成分の含有量は、0%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。
【0052】
Ptは結晶化を促進する成分である一方、その含有量が多くなると体積抵抗率が低下しやすくなる。そのため、Ptの含有量は重量%で2000ppm以下であることが好ましい。より詳細には、Ptの含有量は0ppm以上、0.1ppm以上、0.5ppm以上、0.8ppm以上、特に1ppm以上であることが好ましく、2000ppm以下、1000ppm以下、500ppm以下、300pp以下、特に100ppm以下であることが好ましい。
【0053】
本発明の結晶化ガラスは、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上であり、1.5以上、2以上、2.5以上、2.8以上、特に3以上であることが好ましい。比透磁率が上記値を満たすことにより、特に高い磁気特性を有することができる。上限は特に限定されないが、例えば50以下、特に30以下としてもよい。
【0054】
本発明の結晶化ガラスは、25℃における体積抵抗率logρ(Ω・cm)が2以上であり、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、特に4.3以上であることが好ましい。25℃における体積抵抗率が上記値を満たすことにより、特に渦電流損を低減することができ、鉄損を低減することができる。上限は特に限定されないが、例えば14以下、特に12以下としてもよい。
【0055】
本発明の結晶化ガラスは、飽和磁化が10~100emu/gであることが好ましい。より詳細には、飽和磁化が10emu/g以上、11emu/g以上、12emu/g以上、特に14emu/g以上であることが好ましい。飽和磁化が小さすぎると、磁気飽和が起こりやすくなり、透磁率の低下を招く。上限は特に限定されないが、例えば100emu/g以下、90emu/g以下、80emu/g以下、70emu/g以下、60emu/g以下、52emu/g以下、特に50emu/gとしても良い。
【0056】
本発明の結晶化ガラスは上述した構成を有することにより、磁気特性の向上と鉄損の低減が可能となる。したがって、本発明の結晶化ガラスは、磁性素子のコア材として好適に用いることができる。すなわち、本発明の磁性素子コア材は、モル%で、FeO+Fe 5~80%、SiO 1~80%、NiO+MnO 0.5~40%を含有し、周波数100MHzにおける比透磁率が1.3以上、25℃における体積抵抗率Logρ(Ω・cm)が2以上である結晶化ガラスからなる。磁性素子としては、コイル、トランス、インダクタ、リアクトル、ノイズフィルタから選択される少なくとも一種であることが好ましい。もっとも、本発明の結晶化ガラスは、上述した磁性素子に限定されない。例えば、本発明の結晶化ガラスは、モータ、アクチュエータ、誘導加熱器(IH)、スピーカ等の電磁機器に使用されてもよい。特に、鉄損が大きくなりやすい高周波域において好適に用いることができる。例えば、1MHz以上、10MHz以上、50MHz以上、特に100MHz以上の高周波域において好適に用いることができる。
【0057】
<結晶化ガラスの製造方法>
本発明の結晶化ガラスは、例えば以下のように製造することができる。
【0058】
はじめに、所望の組成のガラスとなるよう原料粉末を調合し原料バッチを得る。次に、原料バッチをガラス溶融炉に投入し、1200~1750℃で溶融する。次に、溶融ガラスを成形することにより、結晶性ガラス(結晶化可能な原ガラス)を得る。又は、ガラス融液を冷却して固化させる間に結晶を析出させ、結晶性ガラスを経ることなく結晶化ガラスを得てもよい。なお、原料バッチは坩堝を用いて溶融してもよく、原料バッチを浮遊させた状態でレーザー照射により溶融してもよい。
【0059】
溶融ガラスに対して、フロート法、オーバーフロー法、ダウンドロー法、ロールアウト法、モールドプレス法等の周知の成形法を採用できる。また、ツインローラを用いて急冷してもよい。必要に応じて曲げ加工等の処理を施してもよい。得られた結晶性ガラスをボールミルで粉砕し、結晶性ガラス粉末としてもよい。
【0060】
次に、得られた結晶性ガラスを熱処理することで結晶化させる。まず、核形成を500~800℃で1~10時間行い、続いて結晶成長を650~1100℃で1~10時間行う。このようにすれば、フェライトが主結晶として析出した結晶化ガラスを得ることができる。なお、熱処理はある特定の温度のみで行ってもよく、二水準以上の温度に保持し段階的に熱処理してもよく、温度勾配を与えながら加熱してもよい。
【0061】
結晶化は結晶性ガラスに対して音波や電磁波を印加、照射することで促進させてもよい。また、高温の結晶化ガラスを冷却する際には、特定の温度勾配で冷却してもよく、二水準以上の温度勾配で冷却してもよい。耐熱衝撃性を十分に得たい場合は、冷却速度を制御して残存ガラス相の構造緩和を十分に行うことが好ましい。なお、表面の冷却速度は接触式測温や放射温度計で見積もることができ、内部の温度は高温状態の結晶化ガラスを冷却媒体中に置き、冷却媒体の熱量および熱量変化率を計測し、その数値データと結晶化ガラスと冷却媒体の比熱、熱伝導度等から見積もることができる。
【実施例0062】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
表1、2は本発明の実施例1~18を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
(実施例)
試料は以下のように作製した。はじめに、表1、2に示すガラス組成となるよう原料粉末を調合し、混合した後、1200~1750℃で1時間溶融した。その後、ツインローラを用いて急冷することにより結晶性ガラスを得た。得られたガラスはボールミルにて粉砕し、結晶性ガラス粉末とした。
【0067】
得られた結晶性ガラス粉末を窒素雰囲気、500~1000℃で熱処理を行うことにより結晶化させ結晶化ガラスを得た。得られた結晶化ガラスに対して、飽和磁化、25℃における体積抵抗率及び周波数100MHzにおける比透磁率を測定した。また、XRDを用いて析出結晶を測定した。
【0068】
飽和磁化は振動試料型磁力計VSM(東英工業株式会社製 VSM-P7)を用いて測定した。
【0069】
25℃における体積抵抗率はデジタルマルチメータ(株式会社エーディーシー製 R6581)を用いて4端子法(JIS K7194)により測定した。
【0070】
比透磁率については、インピーダンスアナライザ(Keysight製E4990A)を用いて測定し、周波数100MHzにおける値を求めた。
【0071】
表1に示すように、実施例1~9は主結晶としてNiZnFeが析出し、25℃における体積抵抗率は4.9~8.2Ω・cmとなった。また、飽和磁化は12~50emu/gとなった。また、周波数100MHzにおける比透磁率は3.3~5.2となった。
【0072】
表2に示すように、実施例10~18は主結晶としてMnZnFeが析出し、25℃における体積抵抗率は4.3~7.9Ω・cmとなった。また、飽和磁化は14~52emu/gとなった。また、周波数100MHzにおける比透磁率は1.9~4.8となった。
【0073】
(比較例1)
実施例と同様に、酸化鉄(Fe)の25℃における体積抵抗率及び飽和磁化の測定を行った。Feの飽和磁化は90emu/gと高くなった。一方、25℃における体積抵抗率logρ(Ω・cm)は1.4と低くなった。
【0074】
(比較例2)
実施例と同様に、ソーダライムガラスの25℃における体積抵抗率、飽和磁化の測定を行った。ソーダライムガラスの25℃における体積抵抗率logρ(Ω・cm)は7.5と高くなった。一方、非磁性材料であるため磁気特性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の結晶化ガラスは、磁性コアとして、例えば、コイル、トランス、インダクタ、リアクトル、ノイズフィルタ、モータ、アクチュエータ、誘導加熱器(IH)、スピーカ等の電磁機器に好適である。特に、鉄損が大きくなりやすい高周波域用途におけるコア材として好適である。