(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170334
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】金属容器の製造装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20241129BHJP
B23K 26/18 20060101ALI20241129BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B23K26/18
B23K26/03
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160732
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2024537332の分割
【原出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】391018019
【氏名又は名称】JFEコンテイナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 峰誉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 威
(72)【発明者】
【氏名】藤村 克範
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 猛
(57)【要約】
【課題】明瞭で耐久性の高い識別表示を有する金属容器の製造装置を得ることが目的である。
【解決手段】金属容器の製造装置は、金属容器に印字する可視光またはUVの波長領域のレーザー光を射出するヘッドを備え、ヘッドは、塗装層に含まれる少なくとも1種類の顔料のバンドギャップよりも、光エネルギーhνが大きいレーザー光を照射する、金属容器の製造装置であって、金属容器は、金属により構成された、筒部及び筒部の両端を閉塞するように取り付けられた蓋部を有する本体を備え、本体は、当該本体の外面を構成する塗装層が形成され、可視光またはUVの波長のレーザー光により塗装層の表面を含む一部を変色させて設けられた変色部を備え、変色部は、塗装層の表面から0.3μm以上10μm以下の範囲に形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属容器に印字する可視光またはUVの波長領域のレーザー光を射出するヘッドを備え、
前記ヘッドは、
塗装層に含まれる少なくとも1種類の顔料のバンドギャップよりも、
光エネルギーhνが大きい前記レーザー光を照射する、金属容器の製造装置であって、
前記金属容器は、
金属により構成された、筒部及び前記筒部の両端を閉塞するように取り付けられた蓋部を有する本体を備え、
前記本体は、
当該本体の外面を構成する前記塗装層が形成され、
可視光またはUVの波長の前記レーザー光により前記塗装層の表面を含む一部を変色させて設けられた変色部を備え、
前記変色部は、
前記塗装層の表面から0.3μm以上10μm以下の範囲に形成される、金属容器の製造装置。
【請求項2】
前記ヘッドは、
並べて配置された複数のヘッドを含み、
複数のヘッドのうち隣り合う2つのヘッドは、
前記レーザー光の照射可能な範囲が互いに重なるように配置されている、請求項1に記載の金属容器の製造装置。
【請求項3】
前記ヘッドを制御する制御装置と、
前記塗装層の表面の色を識別する色識別センサーと、を更に備え、
前記制御装置は、
前記色識別センサーによって前記塗装層の種類を判別し、
前記塗装層の種類に応じた焦点の位置で前記レーザー光を照射する、請求項1又は2に記載の金属容器の製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記色識別センサーによって前記塗装層の種類を判別し、
前記塗装層の種類に応じた出力で前記レーザー光を照射する、請求項3に記載の金属容器の製造装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記色識別センサーによって前記塗装層の種類を判別し、
前記塗装層の種類に応じた走査速度で前記レーザー光を照射する、請求項3に記載の金属容器の製造装置。
【請求項6】
前記金属容器が当接し、前記ヘッドと前記本体との距離を確保する治具を更に備える、請求項3に記載の金属容器の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器の製造装置に関し、特にレーザー光により表面に識別表示を付したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラム缶及びペール缶などの金属容器は、多数の塗装色が存在し、さらに表面の識別表示が付され、種類が分別される。塗装色及び表面の識別表示の組み合わせは、多数存在するが、製造指図書等に従いドラム缶の種類を管理しながら製造している。表面の識別表示は、例えば、塗料の吹付け、シルクスクリーン印刷、スタンプ等の印字又は貼り付け片により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドラム缶などの金属容器の製造工程は、多種多色のドラム缶を1つの製造ラインに流す必要があるため、短いタクトタイムで複雑な識別表示を施す必要がある。金属容器の表面に塗料の吹付け、シルクスクリーン印刷、スタンプなどにより印字を施した場合、印字がかすれて不明瞭となる場合や、複雑な文字又は記号を表現するのに限界がある、という課題があった。また、金属容器を使用している際に印字が剥がれてしまうことがあり、識別表示としての耐久性に課題があった。
【0005】
本発明では、上記課題が解決されるものであり、明瞭で耐久性の高い識別表示を有する金属容器の製造装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金属容器の製造装置は、金属容器に印字する可視光またはUVの波長領域のレーザー光を射出するヘッドを備え、前記ヘッドは、塗装層に含まれる少なくとも1種類の顔料のバンドギャップよりも、光エネルギーhνが大きい前記レーザー光を照射する、金属容器の製造装置であって、前記金属容器は、金属により構成された、筒部及び前記筒部の両端を閉塞するように取り付けられた蓋部を有する本体を備え、前記本体は、当該本体の外面を構成する前記塗装層が形成され、可視光またはUVの波長の前記レーザー光により前記塗装層の表面を含む一部を変色させて設けられた変色部を備え、前記変色部は、前記塗装層の表面から0.3μm以上10μm以下の範囲に形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可視光又はUVの波長のレーザー光により塗装層の表面を含む一部を変色させて印字部が設けられるため、耐久性に優れた識別表示を有する金属容器の製造装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る金属容器100の一例を示す外観斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る金属容器100の印字部10の断面構造の拡大図である。
【
図3】実施の形態1に係る金属容器100に照射するレーザー光30の模式図である。
【
図4】実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90の一部の模式図である。
【
図5】実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90のレーザーマーキング工程の制御に関する機能構成の一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90のレーザーマーキング工程の制御のフローチャートの一例である。
【
図7】実施の形態1に係る金属容器100の各塗装色と塗料及び含有成分と、各塗装色による印字部10の発色の例である。
【
図8】金属容器100の印字部10の外観の実施例である。
【
図9】各塗装色に対しレーザーマーキングを施した実施例とその評価結果を示す図である。
【
図10】各塗装色に対しレーザーマーキングなどの印字を施した実施例及び比較例とその評価結果を示す図である。
【
図11】実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のうち変色した部分のX線回折法による組成分析の結果の一例である。
【
図12】実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のうち変色した部分のX線回折法による組成分析の結果の一例である。
【
図13】実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のレーザー光照射によるFe
2O
3の還元反応の模式図である。
【
図14】実施の形態1に係る金属容器100に照射されるレーザー光の例である。
【
図15】実施の形態1に係る金属容器100の塗装層21に含まれる物質のバンドギャップを示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下には、図面に基づいて実施の形態が説明されている。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。さらに、明細書全文に示す構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
<金属容器100の構成>
図1は、実施の形態1に係る金属容器100の一例を示す外観斜視図である。実施の形態1に係る金属容器100は、例えば金属製のドラム缶であって、例えばJIS Z 1601:2017に規定されるような内容量が約200Lのドラム缶を例に採る。ただし、金属容器100は、これに限定するものではなく、200Lを超えるドラム缶、ペール缶、一斗缶又はタンクなどの金属製の容器も含む概念である。また、ドラム缶は、胴体に地板及び天板を巻締めて接合した密閉型(タイトヘッドドラム)のみならず、胴体に対して天板を着脱自在としたオープン型も含む。
【0011】
図1に示されている金属容器100は、ドラム缶であり、胴体と呼ばれる筒状の部分である筒部101と、筒部101の中心軸方向両端には蓋部102と、を備える。蓋部102は、筒部101の中心軸方向の一方の端に設けられた天板と呼ばれる蓋部102Aと、他方の端に設けられた地板と呼ばれる蓋部102Bと、から構成される。筒部101と蓋部102とを合わせて本体と呼ぶ場合がある。
【0012】
蓋部102は、筒部101の両端に巻締めにより固定されている。ただし、蓋部102の固定は、巻締めだけに限定されず、溶接、かしめ又はロウ付けなどの手段を用いて行っても良い。また、金属容器100は、筒部101の中心軸方向の両端に蓋部102A及び102Bが固定され筒部101を閉塞した形態だけでなく、いずれか一方のみが固定された形態であってもよい。
【0013】
蓋部102Aは、2箇所の開口部103及び104が設けられている。開口部103及び104は、例えば口金にキャップを取り付けて構成されており、一方から液体を注入又は排出し、他方から空気を抜く孔として使用するものである。開口部103及び104を形成する口金及びキャップは、金属容器100の筒部101の端に形成され中心軸方向に突出したチャイム107よりも突出しないように形成されている。
【0014】
筒部101は、概ね円筒形状であり、中心軸方向の中程に突出した輪帯105(ビード)を備える。輪帯105は、円筒形状の筒部101の全周に亘って形成されている。また、輪帯105は、中心軸方向に複数箇所設けられている。なお、金属容器100は、輪帯105が設けられていない場合もある。
【0015】
輪帯105及びチャイム107の間には、円筒形状の部分106があり、概ね滑らかな円筒面となっている。
【0016】
図2は、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10の断面構造の拡大図である。金属容器100の筒部101は、金属製の母材20と、塗装層21とを備える。母材20は、鋼製であり表面に化成皮膜を有しても良い。
【0017】
塗装層21は、例えば
図7に示すように、ドラム缶の標準色であるDM-1~DM-14を出すための塗料又はその他のユーザー指定の色を出すための塗料により構成される。塗装層21を構成する塗料は、それぞれ色に応じて必要な顔料を含み、顔料には二酸化チタン、カーボンブラック、黄色酸化鉄、酸化第二鉄、塩素化フタロシアニングリーン、銅フタロシアニン(ピグメントブルー15)、オキシ水酸化鉄、ポリ臭素化塩素化銅フタロシアニンなどの化合物である。
【0018】
図1に示すように、金属容器100の筒部101には、印字部10が設けられている。実施の形態1において印字部10は、レーザーマーキングにより塗装層21を変色させることにより形成されたものである。
図1において、印字部10は、ドラム缶の部分106に設けられており、地板側のチャイム107の上方の一部分に設けられている。
【0019】
図2に示すように、印字部10は、レーザーマーキングにより塗装層21の表面23を含む一部分が変色した変色部22が形成されている。変色部22は、表面23から0.3μm以上10μm以下の範囲に形成されており、母材20までは達しないように形成されている。なお、
図2において、表面23は、金属容器100の外面を構成している。また、変色部22を変色層と呼び、塗装層21のうち変色部22の母材20側の変色していない部分を非変色層と呼ぶ場合がある。
【0020】
図3は、実施の形態1に係る金属容器100に照射するレーザー光30の模式図である。レーザー光30は、可視光又は紫外線の波長領域の光線から構成されるものである。レーザーには、クラス1からクラス4までの分類があり、実施の形態1に係るレーザー光30は、クラス4の高出力レーザーである。レーザー光30は、
図3(a)~(c)に示すように焦点を塗装層21の表面23に対し移動させることが可能である。
図3(a)は、塗装層21の表面23に焦点を合わせた状態となっており、
図3(b)は、焦点が表面23よりも奥側(すなわち、母材20側)に位置し、
図3(c)は、焦点が表面23よりも手前側にある状態を示している。
図3(b)及び(c)のように焦点が表面23よりも奥側又は手前側にある場合、レーザー光30が当たる範囲は、
図3(a)のように表面23に合焦した場合よりも広い。
図3に示されている寸法Dは、レーザー光30を表面23に合焦させた状態に対する焦点の位置の変動量を表している。つまり、寸法Dが大きくなると表面23のレーザー光30が当たる範囲は広くなる。
【0021】
レーザー光30を
図3(a)のように表面23で合焦させた場合、表面23の単位面積あたりに与えるエネルギーの量は大きくなるが、照射面積が狭くなる。よって、塗装層21の一部を変色させやすいが、変色部22の面積が小さく視認性が低い場合がある。従って、実施の形態1に係る金属容器100においては、塗装層21を構成する塗料の変色し易さに応じて、レーザー光30の焦点の位置、レーザー光30の出力、レーザー光30の走査速度を変更して、変色部22の集合体としての印字部10の視認性を調整している。
【0022】
図4は、実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90の一部の模式図である。金属容器100の製造装置90は、少なくとも金属容器100を移動させる搬送装置40と、金属容器100にレーザー光30を照射するヘッド31と、レーザーマーキングをする際に金属容器100の位置を決める位置決め治具32と、を備える。
【0023】
搬送装置40は、例えばベルトコンベアー等であり、複数の金属容器100が載置され各工程を行う所定の位置に移動させるものである。搬送装置40は、レーザーマーキング工程に送られる。搬送装置40は、レーザーマーキングを行うヘッド31の前に金属容器100を移動させる。移動された金属容器100は、位置決め治具32に当接し、ヘッド31からの距離を所定の値になるように位置決めされる。また、金属容器100の送り方向xの位置は、搬送装置40の制御、又は金属容器100に対し送り方向x側から当接する治具33にさせて位置を決めると良い。位置決め治具32及び33は、ヘッド31からのy方向の距離及びx方向の位置が精度良く決まるように構成されていれば良い。例えば、位置決め治具32に対しては、位置決め治具32が配置されている反対側から金属容器100を位置決め治具32に向かって押し付け当接するようにされていると良い。
【0024】
ヘッド31は、レーザー光30を照射するものであり、搬送装置40の側方に配置されている。ヘッド31は、搬送装置40の側方に少なくとも1つ配置されており、ヘッド31からレーザー光30が照射され、対象となる金属容器100にレーザーマーキングが施される。実施の形態1に係る製造装置90は、特にヘッド31を2台用いてレーザーマーキング工程を行う場合について示しているが、これに限定されるものではない。
【0025】
図4においては、ヘッド31は、z方向に2つ並べて配置されており、それぞれから搬送装置40に載置された1つの金属容器100に対しレーザー光30が照射される。1つのヘッドから照射されるレーザー光30は、例えば25cm四方の照射範囲35に照射可能になっている。隣り合う2つのヘッドのそれぞれの照射範囲35は、互いに一部が重なり合う。このように構成されていることにより、金属容器100の印字部10に対し所定の識別表示を付する時間を短縮できる。また、印字部10の領域が広い場合であっても、2つのヘッド31の照射範囲35で印字部10の全域をカバーでき、レーザーマーキング工程を2つに分ける必要が無い。また、複数のヘッド31を使用して同時に印字部10に印字を行うため、2つのヘッド31のそれぞれが印字した文字又は記号等が互いにずれるのを抑制できる。仮に、2つのヘッド31を2つのレーザーマーキング工程にそれぞれ分けて配置した場合、2つのレーザーマーキング工程は、それぞれに金属容器100をヘッド31に対し精度良く位置決めする必要がある。そのため、2つのレーザーマーキング工程ごとに形成された印字部10の変色部22は、互いに位置がずれるおそれがある。一方、上記の様に、複数のヘッド31を用いて複数のレーザー光30により同時に印字を行うため、それぞれのレーザー光30で印字された表示は、位置のずれを最小限に抑えられる。
【0026】
また、金属容器100がドラム缶の場合、印字部10は、JIS、UNなどのマーク、番号、コード等の多数の情報を表示する必要がある。そのため、従来においては、ドラム缶にスタンプなどで印字を行った上で、識別情報を織り込んだラベルを別途貼り付ける等の対応をしていた。一方、実施の形態1に係るヘッド31によれば、レーザー光30により識別表示を印字するため、詳細な文字又は記号などを精度良く印字できる。また、
図4に示す製造装置90は、レーザーマーキング工程を自動で行うため、金属容器100に誤ったラベルを貼り付ける等の不具合の発生を抑えられる。
【0027】
実施の形態1における製造装置90は、色識別センサー36が設置されていても良い。製造装置90は、例えばレーザーマーキング工程に入る前の金属容器100に対応する位置に、色識別センサー36が配置されている。つまり、
図4において、位置Aにある金属容器100は、色識別センサー36により筒部101の表面の色が検知される。なお、色識別センサー36は、
図4に示すヘッド31の内部に設置されていても良く、レーザー光30が照射される部分と同じ塗装がされた金属容器100の表面を色識別センサー36が検知できれば、どの位置に配置されていても良い。
【0028】
色識別センサー36は、例えば、レーザー光を照射する金属容器100の表面に光を照射し、表面からの反射光を受光素子で検知し、表面の色を判別するものである。金属容器100の塗装層21の種類の判別は、予め標本となる金属容器100の塗装層21の色を登録し、製造装置90を流れる金属容器100の色が登録された色の何れかに一致するかどうかを検知して行う。制御装置50は、登録された色とレーザー光30の照射条件とを対応させたデータベースを有しており、塗装層21の色に対応した照射条件をヘッド31に指示する。
【0029】
なお、塗装層21の色の判別は、ヘッド31内に設けられた撮像装置34により行っても良い。また、色識別センサー36がヘッド31内に設置されていても良い。
【0030】
製造装置90は、製造装置90の各部を制御するための制御装置50を備える。制御装置50は、例えばヘッド31のレーザー光30の照射条件、搬送装置40の動作及び撮像装置による画像の撮影の制御並びに塗装層21の種類の判定などを行う。制御装置50は、製造装置90の各部と通信可能に接続されており、各部の情報の取得及び各部への情報の送信を行う。制御部51は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、中央処理装置、中央演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ又はDSP(Digital Signal Processor)ともいう。制御部51において、CPUは、ROMに格納されたプログラム及びデータを読み出し、RAMをワークエリアとして用いて、制御装置50を統括制御するものである。
【0031】
記憶部52は、例えば、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の不揮発性の半導体メモリであって、いわゆる二次記憶装置としての役割を担うものである。実施の形態1において、記憶部52は、製造装置90の各部で取得された情報を記憶する。さらに、記憶部52は、制御装置50と製造装置90を構成する各部とが通信するためのプログラム及びデータ等を記憶する。
【0032】
図5は、実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90のレーザーマーキング工程の制御に関する機能構成の一例を示す図である。金属容器100の製造装置90のレーザーマーキング工程は、
図4に示すハードウェア構成により製造装置90を流れる金属容器100にレーザーマーキングを行う。制御装置50は、ヘッド31、色識別センサー36及び搬送装置40と無線又は有線により通信し、レーザーマーキングに関する制御を行う。なお、制御装置50は、
図5に示した以外の機能を備えていても良いし、また製造装置90が備える他の制御装置と通信し、他の制御装置が実現する機能と連動してレーザーマーキング工程を行っても良い。また、制御部51が備える機能ブロックの一部は、他のハードウェアに設けられた制御装置が備えていても良い。
【0033】
図5に示すように、制御部51は、色識別センサー制御部51a、色識別部51b、照射条件設定部51c、印字制御部51d及び搬送装置制御部51eを備える。色識別センサー制御部51aは、レーザーマーキングを行う対象となる金属容器100の搬送装置40上の位置に関する情報を搬送装置制御部51eから得た情報に基づき、色識別センサー36を作動させるものである。色識別センサー36は、例えば反射式の光電センサーであり、反射光により金属容器100の表面の色情報を取得し、色識別部51bに送信する。色識別部51bは、記憶部52に格納された標本の色情報データ52aの情報を読み出し、色識別センサー36が取得した色情報と照合し、照射条件設定部51cに送る。照射条件設定部51cにおいては、色情報の照合結果に応じて記憶部52の照射条件データ52bから照射条件を読み出し、印字制御部51dに送る。印字制御部51dは、印字のデザインに変更があれば印字デザインデータ52cから印字デザインを読み出し、照射条件と併せてヘッド31に送信する。
【0034】
印字制御部51dは、搬送装置制御部51eから得たレーザーマーキングの対象となる金属容器100の位置情報に基づき、ヘッド31にレーザーマーキングの実行を命令する。
図5においては、搬送装置制御部51eは、搬送装置40から搬送装置40の動作に関する情報を得ているが、例えばセンサーを用いて金属容器100の位置を検知して搬送装置40の動作に関する情報としても良い。搬送装置制御部51eは、少なくともレーザーマーキングの対象となる金属容器100の位置に関する情報を印字制御部51dに送る。また、搬送装置制御部51eは、色識別を行う金属容器100の位置に関する情報を色識別センサー制御部51aに送る。搬送装置制御部51eは、ヘッド31がレーザーマーキングを完了したことを印字制御部51dから受けて、搬送装置40を作動させる。
【0035】
図6は、実施の形態1に係る金属容器100の製造装置90のレーザーマーキング工程の制御のフローチャートの一例である。搬送装置40上のレーザーマーキングの対象となる金属容器100が所定の位置、すなわち
図4の位置Aに来たところで、色識別センサー36は、表面の色情報を取得する(ステップS1)。色識別部51bは、対象となる金属容器100の表面の色情報と標本の色情報データとを照合し、対象となる金属容器100の表面の色が標本の色情報データのどれに一致するかを判定する。判定した結果に基づき照射条件設定部51cは、照射条件データ52bから照射条件を読み出す(ステップS2)。照射条件設定部51cは、照射条件が対象となる金属容器100の前にレーザーマーキングされた金属容器100の照射条件と一致する場合(ステップS3でYesの場合)には照射条件を印字制御部51dに出力しない(ステップS4)。また、照射条件設定部51cは、照射条件が対象となる金属容器100の直前にレーザーマーキングされた金属容器100の照射条件と一致しない場合(ステップS3でNoの場合)には新たな照射条件を印字制御部51dに出力する(ステップS5)。
【0036】
次に印字制御部51dは、印字デザインの変更の指示がなければ(ステップS6でYesの場合)印字デザインを取得せず既に設定されている印字デザインを維持する(ステップS7)。または印字制御部51dは、印字デザインの変更の指示があれば(ステップS6でNoの場合)印字デザインデータ52cから新たな印字デザインを取得する(ステップS8)。
【0037】
次に印字制御部51dは、レーザーマーキングの対象となる金属容器100の位置が適正な位置にきたことを搬送装置制御部51eから受けて、ヘッド31に印字の実行を指示する。このとき、印字制御部51dは、ステップS3からステップS8の工程で設定された照射条件及び印字デザインに応じて指示内容を適宜書き換えてヘッド31に指示する(ステップS9)。なお、印字デザインの変更は、例えば人の手により入力装置(図示なし)から行っても良いし、製造計画に応じて予め制御装置50にプログラムされていても良い。
【0038】
実施の形態1においては、
図4に示すように、レーザーマーキングを行う位置(
図4の位置B)の手前の位置(
図4の位置A)にある金属容器100を対象として色識別センサー36が筒部101の表面の色を検知する。つまり、
図6に示したステップS1からステップS8の工程は、レーザーマーキングの対象となる金属容器100が
図4の位置Bに設置される前に完了している。このように構成されていることにより、製造装置90は、レーザーマーキングの対象となる金属容器100の色識別を予め行い、レーザー光30を照射する位置に金属容器100が到達したときに照射条件の設定を完了させておくことにより、レーザーマーキング工程全体のタクトタイムを短縮できる。ひいては、金属容器100の全体のタクトタイムを増加させることなく、レーザーマーキングによる印字が可能となる。
【0039】
なお、色識別センサー36は、
図4における位置Aにある金属容器100を対象とするものに限定されず、例えばレーザーマーキングを行う位置Bで行っても良い。ただし、位置Bで色の識別を行った場合、金属容器100が位置Bに留まる時間が、
図6に示すステップS3からステップS8の工程を行うための時間の分だけ増加する。
【0040】
図7は、実施の形態1に係る金属容器100の各塗装色と塗料及び含有成分と、各塗装色による印字部10の発色の例である。各塗装色は、ドラム缶の標準塗装色であるDM-1~DM-14、及びその他のユーザー指定の2色を例示している。各塗装色により、レーザー光30の照射による変色部22の色は異なる。
【0041】
変色部22における発色は、主に(1)発泡、(2)凝縮、(3)炭化、(4)化学変化によるものである。(1)発泡は、レーザー光30を塗装層21に照射すると、その熱効果により基材内でガス泡が発生し、白っぽく隆起する。特に濃色の塗料においては、塗装色を薄くした色に変色し、視認性が良い。(2)凝縮は、レーザー光30を塗装層21に照射すると、その熱効果により塗装層21の分子密度が上がり、凝縮されて濃色に変化する。(3)炭化は、レーザー光30を塗装層21に照射すると、塗装層21の照射された部分が炭化して黒く変色するものである。(4)化学変化は、以下の現象により変色するものである。塗装層21に金属イオンを含む顔料物質が含まれるため、レーザー光30の照射によって、この金属イオンの価数変化、あるいは結晶構造の変化、結晶中の水和量の変化などが起こる。その結果、塗装層21に含まれる成分の状態が変化し、発色する。また、化学変化のうちには、塗装層21に含まれる金属化合物をレーザー光30の光エネルギーにより光化学変化させるものも含まれるが、このメカニズムについては後述する。
【0042】
図7の「印字変色」の欄は、各塗装色が黒(各塗装色を濃くした色)又は白(各塗装色を薄くした色)の何れかに変化するかを示したものである。濃い色又は薄い色のいずれかの発色が視認し易いかは、各塗装色に応じて異なっている。例えば、DM-1は白色の塗料であり、レーザー光30によって塗装層21が濃い色(黒)に変色し、変色部22は視認し易い。一方、DM-2は黒色の塗料であり、レーザー光30によって塗装層21は薄い色(白)に変色する。
【0043】
また、
図7の表の右側の欄は、塗装層21が含む主な化合物とその量について表示しており、含有量の割合の範囲が記載されている。
【0044】
ドラム缶の標準塗装色であるDM-1~DM-14のうちDM-2及びDM-12以外の塗装色並びにユーザー指定Bの塗装色は、二酸化チタンを成分として含んでいる。二酸化チタンは、レーザー光30の照射により五酸化チタンに化学変化する。二酸化チタンは、主に白色であり、五酸化チタンに化学変化することにより黒灰色、赤茶色などの濃い色に変化するものである。従って、二酸化チタンを成分として含む塗装色は、変色部22が比較的黒色又は濃い色に変化する傾向がある。
【0045】
塗装色のDM-2、DM-3及びDM-9は、カーボンブラックを成分として含んでいる。カーボンブラックは、発泡により塗装層21を白色に変化させ易くするものである。
【0046】
塗装色のうちDM-8、DM-9、DM-12、DM-13、及びユーザー指定Bの塗装色は、成分として黄色酸化鉄を含む。また、DM-5、DM-13、及びユーザー指定Aの塗装色は、成分として酸化第二鉄を含む。黄色酸化鉄及び酸化第二鉄は、レーザー光30の照射により、酸化第一鉄又は四酸化三鉄に変化する。酸化第一鉄及び四酸化三鉄は、黒色であり塗装層21の変色部22を黒色又は濃い色に変化させる傾向がある。
【0047】
図7に示した各塗装色は、主に上記の成分の変化で変色部22が形成される。変色部22は、レーザー光30が照射された部分に形成されるが、レーザー光30の強度、レーザー光30の焦点の位置、及びレーザー光30の走査速度により発色の度合いが変化する。例えば、単位面積あたりに照射されるレーザー光30のエネルギー量が多ければ上記の変色が強く出る。レーザー光30の焦点の位置は、レーザー光30の強度が同様であっても、焦点があっていなければ単位面積あたりに照射されるエネルギー量が低下するため変色が抑えられる。また、走査速度を増加させると、単位面積あたりに照射されるエネルギー量が低下するため変色が抑えられる。実施の形態1に係る金属容器100においては、各塗装色における印字部10の視認性が確保でき、かつレーザーマーキング工程に掛かる時間が増加しないように調整している。
【0048】
図8は、金属容器100の印字部10の外観の実施例である。
図8(a)は、
図7に示されている塗装色DM-1にレーザーマーキングを施した場合の変色部22の例であり、
図8(b)は、
図7に示されている塗装色DM-2にレーザーマーキングを施した場合の変色部の例である。
図8(c)は、
図7に示されている塗装色DM-5にレーザーマーキングを施した場合の変色部の例である。
図8(a)、(b)及び(c)の変色サンプルの表は、レーザー光30の出力、走査速度及び焦点の位置を変動させて作成したものである。塗装色DM-1のサンプルは、白色であり比較的明るい色であり、レーザー光30の照射により濃い色に変色し、変色部22が形成される。また、塗装色DM-2のサンプルは、黒色であり、レーザー光30の照射により薄い色に変色し、変色部22が形成される。
【0049】
なお、実施の形態1の実施例は、株式会社キーエンス製MD-U1020Cを用いてサンプルを作成したものである。レーザーは、YVO
4レーザー、波長355nm、出力2.5W(40kHz時)である。印字可能な範囲は、縦横方向330mm×330mm、奥行方向は42mmである。つまり、金属容器100の筒部101は、表面がレーザー光30の照射方向に奥行のある円柱面となっているが、奥行方向に42mmの範囲内であればレーザー光30により印字が可能である。サンプルは、上記の印字可能な範囲に配置した鋼板に
図7に示した各塗装色の塗装層21を形成したものである。また、
図10のうちIRレーザーによるサンプルNo.27~No.30は、株式会社キーエンス製MD-X1020を用いてサンプルを作成したものである。レーザーは、YVO
4レーザー、波長1064nm、出力13Wである。印字可能な範囲は、縦横方向330mm×330mm、奥行方向は42mmである。
【0050】
図8の変色サンプルに印字された表において、左右方向に振られている符号「A」~「O」のそれぞれの列に示されている変色部22は、レーザー光30のスポット径を-21mm~+21mmまで変動させて照射したものである。中央の「H」列は、スポット径を最小、つまり表面23に焦点を合わせた状態で照射したものである。
【0051】
図8(a)及び(b)のうち、上段(a-1)及び(b-1)の変色サンプルに印字された表において、示されている符号「1」行目から「5」行目は、レーザー光30の走査速度を2000mm/分~6000mm/分まで変化させたものであり、「5」行目のサンプルのほうが走査速度が早い。
【0052】
図8(a)及び(b)のうち、下段(a-2)及び(b-2)の変色サンプルに印字された表において、示されている符号「1」行目から「5」行目は、レーザー光30の出力を60%~100%まで変化させたものであり、「5」行目のサンプルのほうが出力が大きい。
【0053】
まず、いずれの変色サンプルにおいても、左右方向に配置された「H」列のサンプルの変色部22は、変色が少なくなる。これは、レーザー光30のスポット径が小さく変色範囲が小さくなり、全体として変色している領域が小さくなるためである。ヘッド31は、レーザー光30をパルスとして照射しており、表面23に焦点が合った状態だと、パルスの1点あたりにレーザー光30が照射される表面23の面積が小さく、変色部22が視認しにくい。一方、変色サンプルの「A」列又は「O」列に向かうに従い、スポット径が大きくなるため、パルスの1点あたりにレーザー光30が照射される表面23の面積が大きく、変色部22が視認し易くなる。ただし、レーザー光30の出力とスポット径との関係で、表面23の単位面積当たりに受けるエネルギーが低くなると、変色が薄くなり、視認しにくくなる。例えば、下段(a-2)及び(b-2)の変色サンプルの表において「1A」、「1O」及びその近辺は、変色部22が視認しにくい。
【0054】
図8(a)及び(b)のうち、上段(a-1)及び(b-1)を見てわかるように、走査速度が速くなると、表面23の単位面積当たりが受けるエネルギーが低くなり色が薄くなる。
【0055】
図8(a)及び(b)のうち、下段(a-2)及び(b-2)を見てわかるように、レーザー光30の出力が低くなると、表面23の表面23の単位面積当たりが受けるエネルギーが低くなり色が薄くなる。
【0056】
また、
図8(c)に示す様に、塗装色DM-5にレーザーマーキングを施した場合の変色部22の例においては、左右方向に振られている符号「A」~「O」のそれぞれの列に示されている変色部22の傾向は、上記のDM-1及びDM-2と同様に、「H」列が最も発色が薄く、「A」列又は「O」列に向かうに従い発色が濃くなる。ただし、DM-5の場合、発泡による発色及び化学変化による発色が同時に起こるため、レーザー光30の走査速度及び強度の条件によって発泡による発色(白色)が優位となるか化学変化による発色(黒色)が優位となるかが変わる。発色の傾向としては、表面23の単位面積当たりが受けるレーザー光30のエネルギー量が多くなると、白色が優位となり、比較的エネルギー量が低い場合は、黒色が優位となる。レーザー光30の出力が100%となると、スポット径を変動させた「A」列~「O」列に亘りほぼ全域が白色優位となる。その他DM-15においても、発泡による発色(白色)及び化学変化による発色(黒色)が生じるが、こちらは全域において黒色が優位となっている。
【0057】
図9は、各塗装色に対しレーザーマーキングを施した実施例とその評価結果を示す図である。
図10は、各塗装色に対しレーザーマーキングなどの印字を施した実施例及び比較例とその評価結果を示す図である。上記のレーザーマーキング工程を有する金属容器100の製造方法により塗装色ごとに塗装層21にレーザー光30を照射し、変色部22の深さ及び塗装層21のうち変色していない部分の厚み(変色部22~母材20までの距離)を測定し、それらの視認性、耐錆性及び耐ラビング性について評価した。視認性、耐錆性及び耐ラビング性は、ランク「1」~「5」で評価されており、ランク「3」以上が合格基準となっている。
【0058】
視認性の評価基準は、1m離れた状態で目視により視認のし易さを評価したものである。1m離れた状態の目視において、ランク「1」は視認できないもの、ランク「2」は10mmの文字の識別が困難なもの、ランク「3」は10mm角の文字が識別可能なもの、ランク「4」は10mm角の文字が明確に識別可能なもの、ランク「5」は5mm角の文字が明確に識別可能なもの、である。
【0059】
耐錆性の評価基準は、サンプルに塩水噴霧試験を下記の所定の時間行った後、テープ剥離を行って印字部と非印字部との剥離具合の差を観察したものである。ランク「1」は120時間の塩水噴霧試験の後にテープ剥離で印字部の剥離が目立つもの、ランク「2」は168時間の塩水噴霧試験の後にテープ剥離で印字部の剥離が目立つもの、ランク「3」は168時間の塩水噴霧試験の後にテープ剥離で印字部と非印字部との差が無いもの、ランク「4」は240時間の塩水噴霧試験の後にテープ剥離で印字部と非印字部との差が無いもの、ランク「5」は336時間の塩水噴霧試験の後にテープ剥離で印字部と非印字部との差が無いもの、である。
【0060】
耐ラビング性は、ラビング試験で荷重1kgを掛けた摩擦子で印字された表面を擦り、所定の回数での印字の状態を評価したものである。摩擦子は、表面がフェルトで構成されている。ランク「1」は10往復までに印字の半分以上が欠けるもの、ランク「2」は50往復までに印字の半分以上が欠けるもの、ランク「3」は50往復で印字の一部が欠けるものの印字の認識が可能であるもの、ランク「4」は100往復で印字の一部が欠けるものの印字の認識が可能であるもの、ランク「5」は100往復で印字の一部が欠けが無いもの、である。
【0061】
また、
図9及び
図10に含まれるレーザー光30の照射条件については、レーザー光の出力[W]、走査速度[mm/sec]、ディスタンス可変量[mm]及び重ね印字回数[回]を示している。
図9及び
図10に示すNo.1~No.31のそれぞれの評価結果は、複数のサンプルを評価した結果の集合であり、照射条件及び評価結果が幅をもって示されている。
【0062】
図9に示す実施例において、視認性は、塗装層21の発泡又は光化学反応による発色の場合、変色部22が0.3μm以上2.5μm以下のごく表層の変色でも視認できる。また、発泡や又は光化学反応による発色の場合、変色部22が2.5μm以上10μm以下であれば、より視認性が高い傾向があった。しかし、発泡による発色の場合、サンプルNo.3、4、12、13をみて分かるように、ある程度の変色部22の深さが必要なため、変色部22の深さが浅いと視認性が化学変化による場合と比較して不利になる傾向があった。
【0063】
図9に示す実施例において、耐錆性は、変色していない部分の厚みが2.5~5μmの場合に基準を満足し、5μm以上は更に耐錆性が高い。ただし、光化学反応による変色の場合、2.5~5μmでも耐錆性が高い傾向があった(サンプルNo.1~9とNo.10~18との比較)。これは、実施例においては、塗装層21へのダメージが少ない分の加点があるためである。
【0064】
図9に示す実施例において、耐ラビング性は、光化学反応で変色の場合、変色深さによらず評価が高い傾向があった。しかし、変色が炭化により生じている場合、変色部22が摩擦によりにじみが生じるため、合格基準は満たすものの、高い評価にはならなかった。
【0065】
図10に示されているNo.19~No.22に示しているサンプルにおいては、UVの波長領域のレーザー光30を使用しているものの、塗装層21の変色部22以外の部分(非変色層)の厚さが薄く、耐錆性において合格基準に達していないものがあった(サンプルNo.19~No.22参照)。なお、No.19~No.22のサンプルは、
図9に示す実施例に対しては視認性、耐錆性及び耐ラビング性において劣っているものの、No.31に示すスタンプ印字に対しては耐ラビング性において有利である。また、No.19~No.22のサンプルは、レーザーマーキングでありインク等を使用することがないため、スタンプ印字などのインク等を使用する印字と比較して、印字工程においてインク等の供給が不十分であることによるかすれが生じることがなく、明瞭な印字であるという点ではNo.31に示すサンプルに対しては優位性がある。
【0066】
また、
図10に示されているNo.23~No.26に示しているサンプルにおいては、UVの波長領域のレーザー光30を使用しているものの、変色部22の厚さが薄い(0.1μmから0.3μm)場合であり、全体的に
図9に示す実施例に対しては視認性及び耐ラビング性が低い傾向があった。さらに、サンプルNo.23~No.26に示すように発泡による発色のものは化学変化による発色のものよりも耐ラビング性が低かった。なお、No.23~No.26のサンプルも、
図9に示す実施例に対しては視認性、耐錆性及び耐ラビング性において劣っているものの、No.31に示すスタンプ印字と比較すると、化学変化により変色が生じているものについては耐ラビング性において有利である。また、No.23~No.26のサンプルも、No.19~No.22のサンプルと同じく、レーザーマーキングであり、印字工程でのかすれが生じることがなく、明瞭な印字であるという点ではNo.31に示すサンプルに対しては優位性がある。
【0067】
図10のNo.27~No.30に示しているサンプルは、IR(赤外線)レーザーを用いているものであり、発熱に伴う塗料樹脂の炭化又は発泡による印字となる。そのため、これらのサンプルにおいては、表面23から5μm以内に変色部22の深さ方向寸法を制御するのが困難であり、変色部22の深さが5μm以上となり、変色部22以外の塗装層21の厚みが薄くなりやすく、耐錆性及び耐ラビングが低くなった。
【0068】
図10のNo.31に示しているサンプルは、スタンプ印字のものである。これについては、塗装層21の表面にインクを載せて形成されるため、視認性及び耐錆性については基準を満たすものである。しかし、耐ラビング性についてはインクの強度に依存するため、基準を満たすことができなかった。
【0069】
実施の形態1に係る金属容器100の印字部10は、変色部22の深さを表面から0.3μm以上10μm以下になるようにレーザーマーキングを行うことにより、視認性、耐錆性及び耐ラビング性を確保できる。さらには、変色部22の深さを表面から0.3μm以上2.5μm以下になるようにレーザーマーキングを行っても良く、視認性、耐錆性及び耐ラビング性を確保できる。
【0070】
また、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10は、塗装層21のうち変色部22以外の部分(非変色層)の厚さが少なくとも2.5μm以上確保されているのが望ましい。これにより、印字部10は、耐錆性及びラビング性が良好に保てる。
【0071】
実施の形態1に係る金属容器100の印字部10は、可視光又はUVの波長領域のレーザー光30を用い化学変化又は発泡による変色により形成されているため、変色部22の深さを表面からに制御することが可能であり変色部22の深さを適正に確保しつつ、視認性を確保できている。また、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10は、炭化による変色よりも化学変化による変色が優位であり、耐ラビング性も高い。
【0072】
実施の形態1に係る金属容器100の印字部10は、可視光又はUVの波長領域のレーザー光30を用い主に化学変化又は発泡による変色により形成されており、変色部22の深さが深くなりすぎることがなく、非変色層の厚みも耐錆性及び耐ラビング性を確保できるように十分確保できる。このため、金属容器100は、印字部10の耐久性を確保するために塗装層21を厚くする必要がない。IRレーザーを用いたレーザーマーキングの場合、必要な視認性を確保するためには発泡又は炭化により印字を形成する必要があるため、変色部22の深さを0.3μm以上10μm以下の範囲に制御するのが困難であり、比較例のサンプルNo.27~No.30を見てもわかるように変色部22が深くなり、非変色層が薄くなってしまう。そのため、IRレーザーを用いた印字部は、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10と比較して非変色層の厚みが薄くなりやすく、耐錆性及びラビング性の点で劣る。
【0073】
図11は、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のうち変色した部分のX線回折法による組成分析の結果の一例である。
図11(a)は変色前の塗装層21にX線を入射させたX線回折法による分析結果を示しており、
図11(b)は変色後の塗装層21の変色部22にX線を入射させたX線回折法分析結果を示している。
図11は、一例として塗装色DM-5のレーザー光30照射前後での変色部22の組成分析の結果を示している。DM-5は、
図7に示すように塗装層21の成分として酸化第二鉄を10~15%含んでいる。DM-5の塗装層21は、レーザー光30の照射により、主に黒色に変色するが、レーザー光30の強度が強いと塗装層21の発泡が優位となり白色に変色する。なお、
図11(a)と(b)の上に示されている線図は、試料から得られた測定結果のX線回折パターンであり、
図11(a)と(b)の下側に示している欄は測定結果から同定された結晶相を示している。P欄は、酸化第二鉄(Fe
2O
3)の回折線の位置と強度を示しており、Q欄は、酸化第一鉄(FeO)の回折線の位置と強度を示している。また、
図11(a)と(b)の横軸は、回折角2θ(°)を示しており、5°~70°の範囲を表示している。
図11(a)と(b)の縦軸は、回折したX線の強度(CPS)を示しており、0~2000CPSの範囲を表示している。
【0074】
図11の(a)と(b)とを比較すると、レーザー光30の照射前にはなかった酸化第一鉄(FeO)が照射後に出現している{
図11(b)の矢印で示したQ欄を参照。}。また、照射後には酸化第二鉄(Fe
2O
3)のピークが減衰している{
図11(a)及び(b)のP欄を参照}。つまり、レーザー光30の照射により、DM-5の塗装層21においては次のような還元反応が生じている。
Fe
2O
3 + e- → 2FeO + 1/2O
2-
・・・ (式1)
酸化第二鉄は、レーザー光30の照射により還元され酸化第一鉄となっている。このため、変色部22は黒色を呈する。
【0075】
図12は、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のうち変色した部分のX線回折法による組成分析の結果の一例である。
図12(a)は変色前の塗装層21にX線を入射させたX線回折法による分析結果を示しており、
図12(b)は変色後の塗装層21の変色部22にX線を入射させたX線回折法分析結果を示している。
図12は、塗装色DM-12のレーザー光30照射前後での変色部22の組成分析の結果を示している。DM-12は、
図7に示すように塗装層21の成分として黄色酸化鉄を5~10%含んでいる。DM-12の塗装層21は、レーザー光30の照射により、主に黒色に変色するが、レーザー光30の強度が強いと塗装層21の発泡が優位になり白色に変色する場合がある。なお、
図12(a)と(b)の上に示されている線図は、試料から得られた測定結果のX線回折パターンであり、
図12(a)と(b)の下側に示している欄は測定結果から同定された結晶相を示している。P欄は、酸化第二鉄(Fe
2O
3)の回折線の位置と強度を示しており、Q欄は、酸化第一鉄(FeO)の回折線の位置と強度を示しており、R欄は、黄色酸化鉄(Fe
2O
3・H
2O)の回折線の位置と強度を示している。また、
図12(a)と(b)の横軸は、回折角2θ(°)を示しており、5°~70°の範囲を表示している。
図12(a)と(b)の縦軸は、回折したX線の強度(CPS)を示しており、0~2000CPSの範囲を表示している。
【0076】
図12の(a)と(b)とを比較すると、レーザー光30の照射前にはなかった酸化第一鉄(FeO)が照射後に出現している{
図12(b)のQ欄を参照}。また、照射後にはFe
3+O(OH)のピークが減衰している{
図12(a)及び(b)のR欄を参照}。つまり、レーザー光30の照射により、DM-12の塗装層21においては次のような還元反応が生じている。
Fe
2O
3・H
2O+e
- → 2FeO+1/2O
2- +H
2O
・・・ (式2)
黄色酸化鉄(Fe
2O
3・H
2O)は、レーザー光30の照射により還元され酸化第一鉄となっている。このため、変色部22は黒色を呈する。
【0077】
図13は、実施の形態1に係る金属容器100の印字部10のレーザー照射によるFe
2O
3の還元反応を説明する模式図である。
図11及び
図12に示す分析結果を見ると、塗装層21に含まれる酸化第二鉄及び黄色酸化鉄のそれぞれがレーザー光30の照射により還元されている。これは、レーザー光30による光エネルギーhνが、物質(ここでは酸化第二鉄及び黄色酸化鉄のそれぞれ)のバンドギャップEgよりも大きいため、価電子帯の電子が伝導帯に励起されて自由電子となり還元反応が生じているものである。なお、hはプランク定数であり、νはレーザー光30の振動数である。
【0078】
図14は、実施の形態1に係る金属容器100に照射されるレーザー光の例である。
図9に示した実施例において照射されたレーザー光30は、UV波長領域(355nm)のYVO
4レーザーであり、光エネルギーhνは3.49eVである。
【0079】
図15は、実施の形態1に係る金属容器100の塗装層21に含まれる物質のバンドギャップを示している。通常、半導体及び絶縁体においては、価電子帯の最外殻から伝導帯の底までのエネルギー準位が大きく、電子が価電子帯から伝導帯まで遷移するにはバンドギャップEg以上のエネルギー(光又は熱)を吸収する必要がある。例えば
図11に分析結果を示した塗装色DM-5の塗装層21の場合、含まれる酸化第二鉄のバンドギャップは2.0~2.2eVとなっている。従って、実施の形態1に係る製造装置90のレーザー光30であれば、光エネルギーhνが酸化第二鉄のバンドギャップを超えており、塗装層21に還元反応を生じさせることができる。なお、実施の形態1に係る製造装置90のレーザー光30は、出力を抑えていても塗装層21に還元反応を生じさせることが可能で、発泡による白色化よりも光化学反応による黒色化を優位にするように調整できる。
【0080】
また、
図14に示す波長532nmのYAGレーザー又はYVO
4レーザー、波長488nm、514.4nm、315nmのアルゴンレーザーも上記と同様に酸化第二鉄に還元反応を生じさせることができる。つまり、レーザー光30の光エネルギーhνが塗装層21に含まれる変色させる物質のバンドギャップを超えていれば、可視光領域の波長のレーザー光30を使用することも可能である。言い換えると、上記
図9に示した実施例は、波長領域がUVのレーザー光30の代わりに波長領域が可視光のレーザー光30を使用しても、光化学反応による発色を実現することが可能である。
【0081】
一方、
図14に示す波長が1064nm、10600nmのレーザー光30の場合、例えば
図15に示す物質のバンドギャップを超えるだけの光エネルギーhνが無いため、上記(式1)及び(式2)に示す還元反応による変色は発生しない。この場合、レーザー光30の熱エネルギーによって塗装層21を構成する樹脂を炭化又は発泡させて変色が起こる。
【0082】
また、光エネルギーhνが高い355nmのYAGレーザー又はYVO
4レーザーであれば、例えば
図7に示す塗装色DM-1~DM-14のうちDM-2及びDM-12以外の塗装色並びにユーザー指定Bの塗装色に含まれている、二酸化チタン(TiO
2)の化学反応を促すこともできる。
【0083】
以上のように、実施の形態1に係る金属容器100、金属容器100の製造装置90及び金属容器100の印字方法によれば、レーザーマーキングにより塗装層21に変色部22を設けることができるため、例えばドラム缶などの輸送及び使用により印字が消えるのを抑制できる。例えば、スタンプ、シルクスクリーン印刷などの手段で印字部10を形成した場合においては、塗装層21の表面に識別表示のためのインクを載せているため、インクは擦れなどにより取れやすく、印字部10の耐久性が低い。一方、実施の形態1に係るレーザーマーキングによる印字部10は、
図9に示す様に視認性、耐錆性及び耐ラビング性に優れている。
【0084】
また、実施の形態1に係る金属容器100、金属容器100の製造装置90及び金属容器100の印字方法によれば、塗装層21の表面23から5μm以下の領域に変色部22を設けるため、金属容器100の母材20である金属にダメージを与えることがない。また、レーザーマーキング工程は、母材20を露出させることもなく、変色部22から母材20の表面までの変色していない塗装層21の厚さも十分確保できる。これにより、金属容器100が長期間使用されても印字部10から錆びる、腐食するなどの損傷を抑制できる。
【0085】
また、実施の形態1に係る金属容器100、金属容器100の製造装置90及び金属容器100の印字方法によれば、可視光又はUV波長領域のレーザー光30を用いるため、光エネルギーhνにより塗装層21に含まれる少なくとも1種類の物質を化学反応させて変色させるため、母材20だけでなく塗装層21自体の損傷も抑えられる。塗装層21には、塗料を構成する樹脂が含まれており、
図7に示す各塗装色の塗装層21は一例としてアミノアルキド樹脂を含んでいても良い。また、塗装層21は、望ましくは30μm以下であり、塗装層21の表面の強度、重量及びコストを考慮すると更に望ましくは20μm以下が望ましい。
【0086】
また、レーザーマーキング工程は、塗装層21の塗料を直接変色させるため、インク又は洗浄液などの消耗品を必要としないため、消耗品及び消耗品の管理のコストが掛からないという利点がある。また、レーザーマーキングを行うヘッド31を複数台並べて1つの工程で印字部10を加工することにより、印字部10の面積が広く、印字する情報量が多い場合であっても、金属容器100のタクトタイムに影響を与えずに精度の高い印字部10が得られる。さらに、レーザーマーキング工程は、
図14に示す波長領域を含むYAGレーザー、YVO
4レーザー又はアルゴンレーザーを用いており、金属容器100は、レーザー光30の光エネルギーhνを利用した光化学反応による変色部22を備える。このため、印字部10は、塗装層21の一部分のみを変色させて識別表示などとするため、金属容器100の性能を損なうことがない。なお、金属容器100の変色部22は、光化学反応のみによる変色に限定されず、その他の化学反応による変色も含んでいても良い。
【0087】
実施の形態1に係る金属容器100は、筒部101の側面に印字部10を設けたが、印字部10を蓋部102に設けても良い。
【0088】
以上に本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施の形態の構成のみに限定されるものではない。特に構成要素の組み合わせは、実施の形態における組み合わせのみに限定するものではなく、各実施の形態に記載した構成要素を適宜変更することができる。例えば、また、いわゆる当業者が必要に応じてなす種々なる変更、応用、利用の範囲をも本発明の要旨(技術的範囲)に含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0089】
10 印字部、20 母材、21 塗装層、22 変色部、23 表面、30 レーザー光、31 ヘッド、32 位置決め治具、33 治具、34 撮像装置、35 照射範囲、36 色識別センサー、40 搬送装置、50 制御装置、51 制御部、51a 色識別センサー制御部、51b 色識別部、51c 照射条件設定部、51d 印字制御部、51e 搬送装置制御部、52 記憶部、52a 標本の色情報データ、52b 照射条件データ、52c 印字デザインデータ、90 製造装置、100 金属容器、101 筒部、102 蓋部、102A 蓋部、102B 蓋部、103 開口部、104 開口部、105 輪帯、106 部分、107 チャイム。