(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170346
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】水素製造システム及び水素製造システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20241129BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20241129BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241129BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20241129BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20241129BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20241129BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B9/19
C25B9/00 A
C25B15/08 302
C25B15/029
C25B13/04 301
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166863
(22)【出願日】2024-09-26
(62)【分割の表示】P 2023031470の分割
【原出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
(72)【発明者】
【氏名】荒木 研太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅之
(57)【要約】
【課題】SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に制御可能な水素製造システム及び水素製造システムの運転方法を提供する。
【解決手段】水素製造システムは、水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、SOECの水素極に水蒸気を供給するための水蒸気供給ラインと、水素極から排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ラインと、水蒸気供給ラインと水蒸気排出ラインとを連通する第1ラインと、前記水蒸気排出ラインから前記水蒸気供給ラインに向かって前記第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節するための第1調節装置と、前記水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を取得する水素濃度取得装置とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、
前記SOECの水素極に水蒸気を供給するための水蒸気供給ラインと、
前記水素極から排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ラインと、
前記水蒸気供給ラインと前記水蒸気排出ラインとを連通する第1ラインと、
前記水蒸気排出ラインから前記水蒸気供給ラインに向かって前記第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節するための第1調節装置と、
前記水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を取得する水素濃度取得装置と
を備える水素製造システム。
【請求項2】
前記水素濃度取得装置は制御装置を備え、
前記制御装置は、設定された前記水素製造システムの運転条件に基づいて前記水素濃度を算出するように構成されている、請求項1に記載の水素製造システム。
【請求項3】
前記水素濃度取得装置は、前記水素製造システムに供給される水蒸気量を検出する流量検出装置をさらに備え、
前記制御装置は、設定された前記水素製造システムの運転条件と、前記流量検出装置による検出値とに基づいて前記水素濃度を算出するように構成されている、請求項2に記載の水素製造システム。
【請求項4】
前記水素濃度取得装置が前記水素濃度を取得するステップと、
前記水素濃度取得装置によって取得された前記水素濃度に基づいて、前記第1調節装置が、前記第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節するステップと
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素製造システムの運転方法。
【請求項5】
前記水素濃度の基準範囲を決定するステップと、
前記水素製造システムに供給される水蒸気の流量に対する前記SOECにおいて電気分解される水蒸気の流量の比であるシステム水蒸気利用率の基準範囲を決定するステップと
を含み、
前記システム水蒸気利用率と前記水素濃度取得装置が取得する前記水素濃度とがそれぞれの前記基準範囲内となるように、前記第1調節装置が、前記第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節する、請求項4に記載の水素製造システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造システム及び水素製造システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形電解セル(SOEC)において水蒸気を電気分解することにより水素を製造する水素製造システムでは、SOECの水素極の劣化を防止するために、水蒸気と共に水素を水素極に供給する場合がある。特許文献1及び2に記載されるSOECは、水素極から排出された水蒸気を、水素極に供給する水蒸気に循環させる構成を有している。SOECの水素極から排出された水蒸気には、水蒸気の電気分解により生成した水素が含まれているため、特許文献1及び2の上述の構成により、水素極に供給される水蒸気に水素が含まれることになり、SOECの水素極の劣化を防止することができる。また、SOECでは、電気分解時のセル抵抗による内部発熱と水素の生成に伴う吸熱とをバランスさせて、作動温度を一定に維持することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6374965号公報
【特許文献2】特許第6573984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1及び2では水素極の劣化については触れておらず、特許文献3には、SOECの水素極の劣化を防止するために活性金属の酸化を抑制する必要があることは言及されているものの、必要な水素濃度を確保するために、水素極から流出した水蒸気の一部を水素極に再循環させる再循環量の制御方法や、水蒸気の再循環を行う際にSOECの温度を適切に維持する方法については開示されていないので、水素製造システムを安定して運転することは必ずしもできない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持可能な水素製造システム及び水素製造システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る水素製造システムは、水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、前記SOECの水素極に水蒸気を供給するための水蒸気供給ラインと、前記水素極から排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ラインと、前記水蒸気供給ラインと前記水蒸気排出ラインとを連通する第1ラインと、前記水蒸気排出ラインから前記水蒸気供給ラインに向かって前記第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節するための第1調節装置と、前記水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を取得する水素濃度取得装置とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の水素製造システムによれば、水素濃度取得装置によって取得された水素濃度に基づいて、第1調節装置が、第1ラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態1に係る水素製造システムの例示的な構成模式図である。
【
図2】本開示の実施形態1に係る水素製造システムのいくつかの変形例を含む例示的な構成模式図である。
【
図3】本開示の実施形態1に係る水素製造システムの運転条件から水素濃度を算出する動作のフローチャートである。
【
図4】本開示の実施形態2に係る水素製造システムの例示的な構成模式図である。
【
図5】本開示の実施形態2に係る水素製造システムのいくつかの変形例を含む例示的な構成模式図である。
【
図6】本開示の実施形態3に係る水素製造システムの例示的な構成模式図である。
【
図7】本開示の実施形態1~3に係る水素製造システムにおける水蒸気の循環率Rとモジュール水蒸気利用率U
smとの関係を例示的に示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による水素製造システムについて、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
(実施形態1)
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの構成>
図1に示されるように、本開示の実施形態1に係る水素製造システム1は、水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)2と、SOEC2に電圧を印加する電源装置3とを備えている。SOEC2は、水素極2aと、酸素極2bと、水素極2a及び酸素極2bとの間に設けられた固体電解質2cとを備えている。
図1には、1つのSOEC2のみが描かれているが、複数のSOEC2が筐体6内に収容された構成でもよい。電源装置3は、水素極2a及び酸素極2b間に直流電圧を印加するように構成されている。
【0011】
水素極2aには、水素極2aに供給される水蒸気が流通する水蒸気供給ライン10と、水素極2aから排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ライン11とが接続されている。尚、水素極2aから排出された水蒸気には、後述するように、水蒸気が電気分解されることにより生成した水素が含まれているが、以下の説明では、水素極2aから排出された水蒸気に水素が含まれていることを特に言及する必要がある場合を除き、水素極2aから排出されたガスを単に「水蒸気」と言うこととする。水蒸気供給ライン10は水源12に接続され、水蒸気供給ライン10には、ポンプ13と、ポンプ13よりも下流側に位置するとともにSOEC2に供給される水蒸気を生成する水蒸気生成装置5とが設けられている。水蒸気生成装置5の構成は特に限定するものではなく、例えばボイラ5aであってもよい。また、ボイラ5a及び水素極2a間の水蒸気供給ライン10と水蒸気排出ライン11とを連通する第1バイパスライン17が設けられている。
【0012】
第1バイパスライン17には、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量を調節するための第1調節装置18が設けられている。第1調節装置18の構成は特に限定しないが、例えば、ブロア18aと、ブロア18aの吐出量を調節可能なモータ18bとを備えた構成とすることができる。また、必須の構成ではないが、水蒸気供給ライン10には、第1バイパスライン17が水蒸気供給ライン10に接続される位置よりも下流側に、水蒸気中の水素濃度を取得する水素濃度取得装置19を設けてもよい。水素濃度取得装置19の構成は特に限定しないが、例えば水素濃度センサ19aを用いることができる。また、水素濃度取得装置19は、水蒸気の流量や電解電流値等から計算により算出乃至推定するでもよく、この形態については後述する。水素濃度センサ19aが設けられる構成では、水素濃度センサ19aによる検出値に基づいて、例えば、水蒸気中の水素濃度について予め適正な範囲(以下、「基準範囲」という)を設定しておき、水素濃度センサ19aによる検出値がこの基準範囲内になるようにモータ18bを制御して、ブロア18aの吐出量を調節するように構成されている。
【0013】
水素濃度センサ19aとモータ18bとは直接電気的に又は無線通信を介して接続されてもよいし、水素濃度センサ19aとモータ18bとがそれぞれ、例えばコンピュータのような制御装置4に電気的に又は無線通信を介して接続されていてもよい。後者の場合、水蒸気中の水素濃度についての基準範囲は制御装置4のメモリ又はハードディスク若しくはクラウド上に記憶しておき、水素濃度センサ19aによる検出値がこの基準範囲内になるように制御装置がモータ18bを制御して、ブロア18aの吐出量を調節するように構成されている。
【0014】
酸素極2bには、酸素極2bに供給される酸素を含むガス、例えば空気が流通するガス供給ライン20と、酸素極2bから排出された排ガスが流通するガス排出ライン21とが接続されている。ガス供給ライン20には、空気を圧縮するコンプレッサ22が設けられ、ガス排出ライン21には、酸素極2bから排出された排ガスによって駆動されるパワータービン23が設けられてもよい。
【0015】
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの動作(運転方法)>
次に、本開示の実施形態1に係る水素製造システム1の動作(運転方法)について説明する。水源12からの水が、ポンプ13により水蒸気供給ライン10を流通し、ボイラ5aにおいて加熱されて水蒸気となる。ボイラ5aにおいて生成した水蒸気は、水蒸気供給ライン10を流通して水素極2aに流入する。一方、コンプレッサ22によって圧縮された空気は、ガス供給ライン20を流通して酸素極2bに流入する。
【0016】
電源装置3が水素極2a及び酸素極2b間に直流電圧を印加することにより、水素極2a内の水蒸気が電気分解されて、水素と酸素イオン(O2-)とが生成する(下記反応式(1)参照)。酸素イオンは固体電解質2cを通過し、酸素極2bにおいて酸素となる(下記反応式(2)参照)。水素極2aから流出する水蒸気には水素が含まれ、水素を含んだ水蒸気は水蒸気排出ライン11を流通する。酸素極2bから流出した排ガスは、ガス排出ライン21を流通し、パワータービン23に流入してパワータービン23を駆動する。
H2O+2e-→H2+O2- ・・・(1)
2O2-→O2+4e- ・・・(2)
【0017】
ブロア18aが駆動すると、水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気の一部が第1バイパスライン17を流通し、水蒸気供給ライン10を流通する水蒸気と合流した後に水素極2aに流入する。水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気は水素を含んでいるので、水素極2aから流出する水蒸気の一部をこのような動作で循環させることで、水素極2aに水蒸気だけではなく水素も流入する。これにより、水素極2aの劣化を防止することができる。しかしながら、水素極2aから流出する水蒸気の水素極2aへの循環量が小さければ、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度が低くなり、水素による水素極2aの劣化防止効果が適切に得られないおそれがある。
【0018】
これに対し、水素濃度センサ19aが設けられていれば、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度を水素濃度センサ19aが検出し、この検出値に基づいて、例えば制御装置4がモータ18bを制御して、ブロア18aの吐出量が調節される。例えば、水素濃度センサ19aによる検出値が予め設定した基準範囲の下限値よりも下回れば、ブロア18aの吐出量を増加させるようにモータ18bを制御する。逆に、水素濃度センサ19aによる検出値が基準範囲の上限値を上回れば、ブロア18aの吐出量を減少させるようにモータ18bを制御する。これにより、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度が基準範囲内に維持されるので、水素による水素極2aの劣化防止効果が適切に得られるようになる。
【0019】
このように、水素濃度センサ19aが設けることにより、水素濃度センサ19aによって検出された水素濃度に基づいて、第1調節装置18が、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量を調節することにより、水素極2aに供給される水蒸気中の水素濃度を水素極2aの劣化を防止するために適した条件に制御することができる。
【0020】
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの変形例>
実施形態1では、水素濃度センサ19aは、第1バイパスライン17が水蒸気供給ライン10に接続される位置よりも下流側において水蒸気供給ライン10に設けられていたが、この形態に限定するものではない。ボイラ5aから供給される水蒸気量と、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量とが既知であれば、水素極2aから流出する水蒸気中の水素濃度を用いて、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度は算出可能である。このため、水素濃度センサ19aは、第1バイパスライン17が水蒸気排出ライン11から分岐する位置よりも上流側で水蒸気排出ライン11に設けられていてもよいし、第1バイパスライン17に設けられてもよい。
【0021】
水素濃度取得装置19は、水素濃度センサ19aのように水素濃度を直接測定する装置に限定するものではなく、水素製造システム1の運転条件から水素濃度を算出乃至推定する装置であってもよい。このような水素濃度取得装置19の一例を説明する。
図2に示されるように、この例の水素濃度取得装置19は、コンピュータのような制御装置7を備え、後述する動作によって水素製造システム1の運転条件から水素濃度を算出乃至推定する装置である。制御装置7は、電気的に又は無線通信を介してモータ18bに接続されている。このような水素濃度取得装置19によって、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度を算出乃至推定する動作を、
図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0022】
制御装置7において、水素製造システム1の運転条件を設定する(ステップS1)。ステップS1において設定する運転条件とは、システム水蒸気利用率USS、及び、電源装置3から給電される電流値である。尚、システム水蒸気利用率USSとは、水素製造システム1に供給される水蒸気量(水源12から供給される水の量に相当する)に対するSOEC2において電気分解された水蒸気の量(理論水蒸気消費量)の比であり、後者の電流値は、SOEC2における水蒸気の電解量に相当する運転条件である。
【0023】
ステップS1において設定した運転条件から、制御装置7は、SOEC2における理論水素発生量QH2を算出する(ステップS2)。続くステップS3において、制御装置7は、下記式(3)を用いて、システム投入水蒸気量FH2Oを算出する。システム投入水蒸気量FH2Oとは、水素製造システム1に供給される水蒸気量であり、具体的には、ボイラ5aから供給される水蒸気量である。
FH2O=QH2/USS ・・・(3)
【0024】
ステップS4において、制御装置7は、水蒸気排出ライン11を介して水素製造システム1から流出するガス(水蒸気及び水素を含むガス)の流量Fexitを算出する。システム投入水蒸気はその一部が水素及び酸素に電気分解され、水素極2aから流出するガスは、水素と水蒸気との混合ガスとなる。電気分解反応では、例えば1Nm3/hrの水蒸気の消費によって1Nm3/hrの水素が発生するため、水素極2aを流通する全体積流量は、理論水素発生量に対する実際の水素発生量の割合である電流効率ηによらず、一定に維持される。つまり、水素極2aから流出する混合ガスの体積流量は、水素極2aに供給される水蒸気の体積流量と等しいので、流量Fexitは、下記式(4)のように算出される。
Fexit=FH2O ・・・(4)
【0025】
ステップS5において、下記式(5)で表される水蒸気の循環率Rを制御装置7において設定し、制御装置7は、水蒸気の循環流量(第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量)FCを算出する。尚、循環率Rとは、水素極2aから流出する混合ガスの流量に対する第1バイパスライン17を流通する混合ガスの流量FCの比である。
R=FC/(FC+Fexit) ・・・(5)
【0026】
ステップS6において、制御装置7は、モジュール水蒸気利用率Usmを下記式(6)から算出する。尚、モジュール水蒸気利用率Usmとは、水素極2aに流入する水蒸気量に対する電気分解された水蒸気の量(理論水蒸気消費量)の比であり、電流効率ηを考慮すると、下記のようになる。
Usm=(1-R)×USS/(1-η×USS×R) ・・・(6)
【0027】
ステップS7において、制御装置7は、下記式(7)から水素濃度PH2を算出する。尚、水素濃度PH2はモル分率である。
PH2=Usm×R×η/(1-R+η×Usm×R) ・・・(7)
【0028】
上記説明では、制御装置7は、システム投入水蒸気量F
H2Oを算出していたが、ポンプ13とボイラ5aとの間、又は、第1バイパスライン17が水蒸気供給ライン10に接続される位置とボイラ5aとの間において(
図2には前者の構成が図示されている)水蒸気供給ライン10に水又は水蒸気の流量を検出する流量検出装置14(例えば流量計)を設けて、ステップS3においてF
H2Oを算出する代わりに、流量検出装置14による検出値をシステム投入水蒸気量F
H2Oとしてもよい。この場合、水素濃度取得装置19は、コンピュータのような制御装置7と、制御装置7に電気的に又は無線通信を介して接続された流量検出装置14とから構成される。このようにして算出された水素濃度に基づいて、制御装置7がモータ18bを制御して、ブロア18aの吐出量が調節される。
【0029】
(実施形態2)
次に、本開示の実施形態2に係る水素製造システムについて説明する。実施形態2に係る水素製造システムは、実施形態1に対して、循環する水蒸気の温度を調節可能にしたものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、構成上の矛盾がない限り、実施形態1で説明した変形例の構成を実施形態2にも適用可能である。
【0030】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの構成>
図4に示されるように、本開示の実施形態2に係る水素製造システム1には、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の温度を調節するための第2調節装置31が設けられている。第2調節装置31の構成は特に限定しないが、第2調節装置31は例えば、第1バイパスライン17を流通する水蒸気と任意の冷却媒体とが熱交換することにより前者を冷却するための冷却器30であってもよい。その他の構成は、水素濃度取得装置19が設けられていないことを除き、実施形態1と同じである。
【0031】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの動作(運転方法)>
次に、本開示の実施形態2に係る水素製造システム1の動作(運転方法)について説明する。ブロア18aが駆動することにより、水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気の一部が第1バイパスライン17を流通する際に、冷却器30において水蒸気が冷却媒体と熱交換することにより冷却される。冷却器30において冷却された水蒸気が水蒸気供給ライン10に流入し、水蒸気供給ライン10を流通する水蒸気と合流する。その他の動作については、実施形態1と同じである。
【0032】
このような動作により、水素極2aに流入する水蒸気の温度を所望の値に調節することができる。すなわち、ブロア18aの吐出量及び冷却器30における冷却量を調節することにより、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度及び水蒸気の温度を調節することができる。したがって、水素極2aに供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極2aの劣化を防止するために適した条件に維持できるとともにSOEC2の運転温度を許容温度(例えば、SOEC2の耐熱温度)以下に制御することができる。
【0033】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの変形例>
図5に示されるように、第2調節装置31は例えば、流量調節バルブ31aと、冷却器30をバイパスするように両端が第1バイパスライン17に連通する第2バイパスライン31bとをさらに備えてもよい。
図5では、流量調節バルブ31aは、第2バイパスライン31bの両端間において冷却器30よりも下流側で第1バイパスライン17に設けられているが、第2バイパスライン31bの両端間において冷却器30よりも上流側で第1バイパスライン17に設けられていてもよいし、第2バイパスライン31bに設けられてもよく、第2バイパスライン31bを流通する水蒸気の流量を調節できればどこに設けられてもよい。
【0034】
水蒸気供給ライン10には、第1バイパスライン17が水蒸気供給ライン10に接続する位置よりも下流側に、水蒸気供給ライン10を流通する水蒸気、すなわち水素極2aに流入する水蒸気の温度を取得する水蒸気温度取得装置33が設けてもよい。水蒸気温度取得装置33の構成は特に限定するものではなく、例えば温度センサ33aを用いることができる。温度センサ33aと流量調節バルブ31aとは電気的に又は無線通信を介して接続され、温度センサ33aによる検出値に基づいて、例えば、水蒸気の温度について予め適正な範囲(以下、「基準範囲」という)を設定しておき、温度センサ33aによる検出値がこの基準範囲内になるように流量調節バルブ31aの開度を制御して、冷却器30を流通する水蒸気の流量を調節するように構成してもよい。
【0035】
また、温度センサ33aと流量調節バルブ31aとがそれぞれ、例えばコンピュータのような制御装置4に電気的に又は無線通信を介して接続されていてもよい。この場合、水蒸気の温度についての基準範囲は制御装置4のメモリ又はハードディスク若しくはクラウド上に記憶しておき、温度センサ33aによる検出値がこの基準範囲内になるように制御装置が流量調節バルブ31aの開度を制御して、冷却器30を流通する水蒸気の流量を調節する。
【0036】
さらに、実施形態1と同様に、水素濃度取得装置19を設けてもよい。また、筐体6内、すなわちSOECモジュール内の温度を検出するためのモジュール内温度取得装置である温度センサ34を設けてもよい。温度センサ34と制御装置4とを電気的に又は無線通信を介して接続させて、温度センサ34による検出値を制御装置4で確認できるようにしてもよい。
【0037】
次に、本開示の実施形態2に係る水素製造システム1の変形例の動作(運転方法)について説明する。この変形例では、水素極2aに流入する水蒸気の温度を温度センサ33aが検出し、この検出値に基づいて流量調節バルブ31aの開度を制御して、冷却器30を流通する水蒸気の流量が調節される。例えば、温度センサ33aによる検出値が基準範囲の上限値よりも上回れば、流量調節バルブ31aの開度を大きくして、第2バイパスライン31bを流通する流量を減少させることで、冷却器30を流通する水蒸気の流量を増加させる。これにより、水素極2aに流入する水蒸気の温度が低下し、SOEC2の作動温度を許容温度以下に抑制することができる。逆に、温度センサ33aによる検出値が低下する場合、すなわち、SOEC2の作動温度を維持することができない場合は、流量調節バルブ31aの開度を小さくして、第2バイパスライン31bを流通する流量を増加させることで、冷却器30を流通する水蒸気の流量を減少させる。これにより、水素極2aに流入する水蒸気の温度を所定の値に維持することができる。
【0038】
SOEC2では、水の電気分解に要する吸熱量と、SOEC2の作動電圧に対応するSOEC2のオーム損等の内部抵抗による発熱量とがバランスする状態である熱中立点を実現するような作動電圧をSOEC2に印加し、SOEC2の温度を一定に維持するのが一般的である。このため、熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOEC2に給電すれば、発熱量が増加してSOEC2の温度が上昇する。これに対し、この変形例では、水素極2aから流出した水蒸気の一部が冷却器30で冷却された後に、水素極2aに供給される水蒸気と共に水素極2aに流入するので、熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOEC2に給電した場合でも、SOEC2の温度の上昇を抑制できる。また、この変形例では、温度センサ33aによる検出値に基づいて、第2調節装置31が、冷却器30を流通する水蒸気の流量を調節することにより、水素極2aに流入する水蒸気の温度を調節できるので、水素発生量によらずに、SOEC2の温度の上昇や低下を適切に抑制できる。
【0039】
また、水素極2aに流入する水蒸気の温度を調節したときのSOEC2の温度を温度センサ34によって検出し、その結果を制御装置4で確認することができる。これにより、熱中立点でない運転条件において水素極2aに流入する水蒸気の温度を所定の温度に調節した場合に、SOEC2の温度が適正範囲内になければ、水素極2aに流入する水蒸気の温度の設定値を調整することによって、SOEC2の温度を適正な温度に維持することができる。
【0040】
(実施形態3)
次に、本開示の実施形態2に係る水素製造システムについて説明する。実施形態2に係る水素製造システムは、実施形態2に対して、SOEC2に給電される電流値を調節可能にしたものである。尚、実施形態3において、実施形態2の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、構成上の矛盾がない限り、実施形態2で説明した変形例の構成を実施形態3にも適用可能である。
【0041】
<本開示の実施形態3に係る水素製造システムの構成>
図6に示されるように、本開示の実施形態3に係る水素製造システム1には、実施形態2と同様に、第2調節装置31が設けられている。また、水素製造システム1には、SOEC2の作動電圧を検出する作動電圧取得装置40が設けられている。作動電圧取得装置40の構成は特に限定するものではなく、例えば電圧計40aを用いることができる。実施形態3では、電圧計40aによる検出値に基づいて、例えば、SOEC2の作動電圧について予め適正な範囲(以下、「基準範囲」という)を設定しておき、電圧計40aによる検出値がこの基準範囲内になるように流量調節バルブ31aの開度を制御して、冷却器30を流通する水蒸気の流量を調節するように構成されている。その他の構成は実施形態2と同じである。
【0042】
尚、電圧計40aと流量調節バルブ31aとが直接電気的に又は無線通信を介して接続されてもよいし、電圧計40aと流量調節バルブ31aとがそれぞれ、例えばコンピュータのような制御装置4に電気的に又は無線通信を介して接続されていてもよい。制御装置4には、実施形態2と同様に、水素濃度センサ19aとモータ18bと温度センサ33a及び34とのそれぞれが電気的に又は無線通信を介して接続されていてもよい。制御装置4が設けられる場合、SOEC2の作動電圧についての基準範囲は制御装置4のメモリ又はハードディスク若しくはクラウド上に記憶しておき、電圧計40aによる検出値がこの基準範囲内になるように制御装置4が電源装置3からSOEC2に給電される電流値を制御可能なように、電源装置3が電気的に又は無線通信を介して制御装置4に接続されている。
【0043】
<本開示の実施形態3に係る水素製造システムの動作(運転方法)>
次に、本開示の実施形態3に係る水素製造システム1の動作(運転方法)について説明する。水素極2aに供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極2aの劣化を防止するために適した条件に維持するための動作は実施形態1と同じである。また、SOEC2の運転温度を許容温度以下に制御する動作は実施形態2と同じである。しかしながら、SOEC2の運転温度を許容温度以下に制御しようとしても、例えばSOEC2の経時的な劣化により、実施形態2の動作ではSOEC2の運転温度を許容温度以下に制御できない場合が考えられる。このような場合には、実施形態3では、電源装置3からSOEC2に給電される電流値を下げることによって、SOEC2の内部発熱量を減少するように制御する。尚、実施形態2の動作ではSOEC2の運転温度を許容温度以下に制御できない場合、電源装置3からSOEC2に給電される電流値を下げること以外にも、水素極2aに供給される水蒸気の流量又は酸素極2bに供給される空気の流量を増加することで対処することも可能であるが、実施形態3では、電流値の調節だけで簡便に対処する動作について説明する。
【0044】
実施形態2の動作によってもSOEC2の運転温度が許容温度を上回る場合、すなわち、温度センサ34による検出値が許容温度を上回ると制御装置4が判定した場合、制御装置4は、電源装置3がSOEC2に給電する電流値を下げることにより、SOEC2の作動電圧が基準範囲内となり、同時に運転温度が許容温度以下となるよう制御する。制御装置4はその判定を、電圧計40a及び温度センサ34による検出値に基づいて行う。尚、SOEC2の作動電圧の基準範囲は、例えば次のような考え方で設定する。作動電圧は低い方が電気分解効率は良くなるが、作動電圧が熱中立点より低いと、SOEC2の内部での発熱量が過少となるので、SOEC2で発生する余剰の発熱量によって水蒸気を生成しようとする場合には、水蒸気の生成に必要な熱量を確保できないことが考えられる。このため、熱中立点を実現するような作動電圧(熱中立電圧、約1.3V)よりも、例えば0.1~0.3V程度高めの1.4~1.6Vと定めてもよい。
【0045】
尚、電流値を下げることでSOEC2の温度を許容温度以下に制御する際に、SOEC2の作動電圧が基準範囲を逸脱する場合が考えられる。例えば、SOEC2の作動電圧が基準範囲(例えば1.4~1.6V)を超過してしまうことが起こり得る。その結果、水素製造システム1の水素変換効率が低下したり、余剰の発熱量を確保できず、水蒸気を生成するために必要な熱量が不足したりする可能性もある。このため、水素製造システム1を熱的に自立させ、かつ、SOEC2の作動電圧が基準範囲内であることを検知しながら電流値を下げる動作を行うために、電圧計40aによってSOEC2の作動電圧を検出する。これにより、SOEC2の作動電圧が基準範囲内である状態で、SOEC2の温度を許容温度以下に制御するような電流値の調節が可能となる。
【0046】
(本開示の実施形態1~3に係る水素製造システムに共通した変形例)
実施形態1~3では、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度の基準範囲の決定方法については具体的に説明しなかった。また、実施形態1~3では、水蒸気の循環率Rについては、水素濃度センサ19aによる検出値に基づいて第1調節装置18が、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量を調節することによって決定されるように説明した。しかしながら、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度及び水蒸気の循環率Rは、システム水蒸気利用率USS及びモジュール水蒸気利用率Usmとともに、水素製造システム1における水素変換効率に影響を与える。ここで、水素変換効率とは、水素製造システム1を運転するために投入される電力及び熱量の合計(総エネルギー量)に対して、水蒸気の電気分解で生成した水素が有する熱量の割合を意味する。以下では、水素変換効率を向上できるような運転条件の決定方法について説明する。ただし、そのような運転条件の決定方法は、以下で説明する方法に限定するものではなく、単なる例示的な方法であることに留意すべきである。
【0047】
図7に示されるように、横軸に水蒸気の循環率Rをとり、縦軸にモジュール水蒸気利用率U
smをとると、システム水蒸気利用率U
SSごとに、RとU
smとの関係が描かれる。
図7には例示的に、異なる4つのシステム水蒸気利用率U
SS(U
SS_1<U
SS_2<U
SS_3<U
SS_4)に対応する関係が描かれている。また、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度ごとにも、RとU
smとの関係が描かれる。
図7には例示的に、異なる7つの水蒸気濃度(P
H2_1<P
H2_2<P
H2_3<P
H2_4<P
H2_5<P
H2_6<P
H2_7)に対応する関係が描かれている。
【0048】
水素濃度の基準範囲をP
H2_1~P
H2_5と決定し、システム水蒸気利用率U
SSの基準範囲をU
SS_2~U
SS_4と決定すると、
図7において斜線を付した領域を運転条件の範囲と決定することができ、第1調節装置18が、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量を調節することにより、運転条件がこのような領域内になるようにすることができる。例えば、U
sm_1のモジュール水蒸気利用率での運転が要求される場合、システム水蒸気利用率をU
SS_3程度で運用しようとすると、水蒸気の循環率がR
_1となるように、第1バイパスライン17を流通する水蒸気の流量を調節する。このとき、水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度はP
H2_5となる。仮に、水素濃度が基準範囲の下限値を下回るようであれば、水蒸気の循環率を上昇させることにより、システム水蒸気利用率を上昇させた条件で水素製造システム1を運転する。
【0049】
水素製造システム1における水素変換効率を向上させることができるためには、このような領域を適切に決定する必要がある。次に、このような領域を適切に決定するための指針を説明する。システム水蒸気利用率USSについては、USSが高くなるほど水素極2aから流出した水蒸気の分圧が下がり、SOEC2における電気分解が困難になったり、SOEC2の作動電圧が上昇したりするので、このような観点から上限値を決定する。一方でUSSが低くなるほどシステム投入水蒸気量FH2Oが増加するため、その水蒸気の生成に必要な熱量の確保が必要となり、ボイラ5aの伝熱面を増加させる必要があるといったデメリットがある。このような観点から下限値を決定する。水素極2aに流入する水蒸気中の水素濃度については、水蒸気の循環率を増加させれば水素濃度は上昇するが、許容できる循環率の上限から水素濃度の上限値は決定される。水素濃度の下限値は、水素極2aの劣化を防止するために必要な最低限度の水素濃度として決定される。
【0050】
上記指針に基づいて、例えばモジュール水蒸気利用率50%での運転が必要な場合に、システム水蒸気利用率は70~90%、水蒸気中の水素濃度は10~50%のような範囲を決定することができる。
【0051】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0052】
[1]一の態様に係る水素製造システムは、
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)(2)と、
前記SOEC(2)の水素極(2a)に水蒸気を供給するための水蒸気供給ライン(10)と、
前記水素極(2a)から排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ライン(11)と、
前記水蒸気供給ライン(10)と前記水蒸気排出ライン(11)とを連通する第1バイパスライン(17)と、
前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の流量を調節するための第1調節装置(18)と
を備える。
【0053】
本開示の水素製造システムによれば、第1調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【0054】
[2]別の態様に係る水素製造システムは、[1]の水素製造システムであって、
前記水素極(2a)に供給される水蒸気中の水素濃度を取得する水素濃度取得装置(19)を備える。
【0055】
このような構成によれば、水素濃度取得装置によって取得された水素濃度に基づいて、第1調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【0056】
[3]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[2]の水素製造システムであって、
前記水素濃度取得装置(19)は制御装置(7)を備え、
前記制御装置(7)は、設定された前記水素製造システム(1)の運転条件に基づいて前記水素濃度を算出するように構成されている。
【0057】
このような構成によれば、水素濃度取得装置によって取得された水素濃度に基づいて、第1調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【0058】
[4]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[3]の水素製造システムであって、
前記水素濃度取得装置(19)は、前記水素製造システム(1)に供給される水蒸気量を検出する流量検出装置(14)をさらに備え、
前記制御装置(7)は、設定された前記水素製造システム(1)の運転条件と、前記流量検出装置(14)による検出値とに基づいて前記水素濃度を算出するように構成されている。
【0059】
このような構成によれば、水素濃度取得装置によって取得された水素濃度に基づいて、第1調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【0060】
[5]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[1]の水素製造システムであって、
前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の温度を調節するための第2調節装置(31)を備える。
【0061】
このような構成によれば、第1調節装置及び第2調節装置により、水素極に流入する水蒸気中の水素濃度及び水蒸気の温度を調節することができる。したがって、水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持できるとともにSOECの運転温度を許容温度以下に制御することができる。
【0062】
[6]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[5]の水素製造システムであって、
前記第2調節装置(31)は、前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気を冷却するための冷却器(30)を備える。
【0063】
水の電気分解に要する吸熱量と、SOECの作動電圧に対応するSOECのオーム損等の内部抵抗による発熱量とがバランスする状態である熱中立点を実現するような作動電圧をSOECに印加し、SOECの温度を一定に維持するのが一般的である。熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOECに給電すれば、発熱量が増加してSOECの温度が上昇する。これに対し、[6]の構成によれば、水素極から流出した水蒸気の一部が冷却器で冷却された後に、水素極に供給される水蒸気と共に水素極に流入するので、熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOECに給電した場合でも、SOECの温度の上昇を抑制できるので、SOECの運転温度を許容温度以下に適切に制御することができる。
【0064】
[7]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[6]の水素製造システムであって、
前記第2調節装置(31)は、
前記冷却器(30)をバイパスするように両端が前記第1バイパスライン(17)に連通する第2バイパスライン(31b)と、
前記第2バイパスライン(31b)を流通する水蒸気の流量を調節するための流量調節バルブ(31a)と
を備える。
【0065】
このような構成によれば、第2調節装置が、冷却器を流通する水蒸気の流量を調節することにより、水素極に流入する水蒸気の温度を調節できるので、SOECの運転温度を許容温度以下に適切に制御することができる。
【0066】
[8]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[5]~[7]のいずれかの水素製造システムであって、
前記SOEC(2)の温度を取得する水蒸気温度取得装置(33)又はモジュール内温度取得装置(温度センサ34)を備える
【0067】
このような構成によれば、水蒸気温度取得装置又はモジュール内温度取得装置によって取得された温度に基づいて、第2調節装置が、冷却器を流通する水蒸気の流量を調節することにより、水素極に流入する水蒸気の温度を調節できるので、SOECの運転温度を許容温度以下に適切に制御することができる。
【0068】
[9]一の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[2]~[4]のいずれかの水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記水素濃度取得装置(19)が前記水素濃度を取得するステップと、
前記水素濃度取得装置(19)によって取得された前記水素濃度に基づいて、前記第1調節装置(18)が、前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の流量を調節するステップと
を含む。
【0069】
このような運転方法によれば、水素濃度取得装置によって取得された水素濃度に基づいて、第1調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の流量を調節することにより、SOECの水素極に供給される水蒸気中の水素濃度を、水素極の劣化を防止するために適した条件に維持することができる。
【0070】
[10]一の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[8]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記水蒸気温度取得装置(33)又はモジュール内温度取得装置(34)が前記温度を取得するステップと、
前記水蒸気温度取得装置(33)又はモジュール内温度取得装置(34)によって取得された前記温度に基づいて、前記第2調節装置(31)が、前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の温度を調節するステップと
を含む。
【0071】
水の電気分解に要する吸熱量と、SOECの作動電圧に対応するSOECのオーム損等の内部抵抗による発熱量とがバランスする状態である熱中立点を実現するような作動電圧をSOECに印加し、SOECの温度を一定に維持するのが一般的である。熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOECに給電すれば、発熱量が増加してSOECの温度が上昇する。これに対し、[9]の運転方法によれば、水素極から流出した水蒸気の一部が冷却器で冷却された後に、水素極に供給される水蒸気と共に水素極に流入するので、熱中立点を上回る作動電圧となる電解電流をSOECに給電した場合でも、SOECの温度の上昇を抑制できるので、SOECの運転温度を許容温度以下に適切に制御することができる。また、[9]の運転方法によれば、水蒸気温度取得装置又はモジュール内温度取得装置によって取得された温度に基づいて、第2調節装置が、第1バイパスラインを流通する水蒸気の温度を調節できるので、SOECの運転温度を許容温度以下に適切に制御することができる。
【0072】
[11]別の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の温度を調節するステップの後に、前記SOEC(2)に給電される電流値を下げるステップをさらに含む。
【0073】
このような運転方法によれば、[9]の運転方法によってSOECの運転温度を許容温度以下に制御しようとしても、例えばSOECの経時的な劣化により、SOECの運転温度を許容温度以下に制御できない場合、電源装置からSOECに給電される電流値を下げることによって、SOECの運転温度を許容温度以下になるように制御することができる。
【0074】
[12]別の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[9]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記水素濃度の基準範囲を決定するステップと、
前記水素製造システム(1)に供給される水蒸気の流量に対する前記SOEC(2)において電気分解される水蒸気の流量の比であるシステム水蒸気利用率の基準範囲を決定するステップと
を含み、
前記システム水蒸気利用率と前記水素濃度取得装置が取得する前記水素濃度とがそれぞれの前記基準範囲内となるように、前記第1調節装置(18)が、前記第1バイパスライン(17)を流通する水蒸気の流量を調節する。
【0075】
このような運転方法によれば、水蒸気から水素への変換効率の向上と、水素極の劣化を防止することとが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 水素製造システム
2 固体酸化物形電解セル(SOEC)
2a 水素極
7 制御装置
10 水蒸気供給ライン
11 水蒸気排出ライン
17 第1バイパスライン(第1ライン)
18 第1調節装置
19 水素濃度取得装置
30 冷却器
31 第2調節装置
31a 流量調節バルブ
31b 第2バイパスライン(バイパスライン)
33 水蒸気温度取得装置
34 温度センサ(モジュール内温度取得装置)