(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170353
(43)【公開日】2024-12-09
(54)【発明の名称】脱イオン水製造システムの運転方法及び脱イオン水製造システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20241202BHJP
B01D 61/42 20060101ALI20241202BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241202BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/42
C02F1/44 A
B01D61/58
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081609
(22)【出願日】2023-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 眞弓
(72)【発明者】
【氏名】永山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 祥吾
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA17
4D006HA47
4D006HA48
4D006JA30A
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4D061GA20
4D061GA21
4D061GC02
4D061GC20
(57)【要約】
【課題】処理水の水質の悪化を抑制しつつ、電気式脱イオン水製造装置の消費電力及び排水量を低減できる脱イオン水製造システムの運転方法及び脱イオン水製造システムを提供する。
【解決手段】電気式脱イオン水製造装置に通電しない無通電時に、被処理水を電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して処理水を得る採水モードと、電気式脱イオン水製造装置に通電しつつ、被処理水を前記脱塩室に通水して処理水を得るとともに、電気式脱イオン水製造装置の濃縮室及び電極室の少なくとも一方に水を通水する、採水モードと交互に運転される採水兼再生モードとを設け、処理水の水質を測定し、処理水の水質の測定値に予め設定された、処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、該測定値に基づいて第1のしきい値を基点に採水兼再生モードと採水モードとを切り換える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気式脱イオン水製造装置を用いて被処理水から脱イオン水を製造する脱イオン水製造システムの運転方法であって、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しない無通電時に、前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して処理水を得る採水モードと、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しつつ、前記被処理水を前記脱塩室に通水して前記処理水を得るとともに、前記電気式脱イオン水製造装置の濃縮室及び電極室の少なくとも一方に水を通水する、前記採水モードと交互に運転される採水兼再生モードとを設け、
前記処理水の水質を測定し、
前記処理水の水質の測定値に予め設定された、前記処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、前記測定値に基づいて前記第1のしきい値を基点に前記採水兼再生モードと前記採水モードとを切り換える脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項2】
前記採水兼再生モードから前記採水モードに切り換えるための第2のしきい値をさらに備える、請求項1に記載の脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項3】
前記測定値は、前記処理水の導電率、比抵抗及び濃度の少なくともいずれか1つである、請求項1に記載の脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項4】
前記測定値が導電率であり、前記第2のしきい値は前記第1のしきい値よりも小さい値であり、
前記導電率が前記第1のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水兼再生モードで運転し、前記導電率が前記第2のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水モードで運転する請求項2に記載の脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項5】
前記測定値が比抵抗であり、前記第2のしきい値は前記第1のしきい値よりも大きい値であり、
前記比抵抗が前記第1のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水兼再生モードで運転し、前記比抵抗が前記第2のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水モードで運転する請求項2に記載の脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項6】
前記測定値が濃度であり、前記第2のしきい値は前記第1のしきい値よりも小さい値であり、
前記濃度が前記第1のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水兼再生モードで運転し、前記濃度が前記第2のしきい値に到達すると、前記電気式脱イオン水製造装置を前記採水モードで運転する請求項2に記載の脱イオン水製造システムの運転方法。
【請求項7】
被処理水から脱イオン水を製造する電気式脱イオン水製造装置と、
電気式脱イオン水製造装置に所要の直流電圧を印加する電源装置と、
前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して得られる処理水の水質を測定する水質測定器と、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しない無通電時に、前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して処理水を得る採水モードと、前記電気式脱イオン水製造装置に通電しつつ、前記被処理水を前記脱塩室に通水して前記処理水を得るとともに、前記電気式脱イオン水製造装置の濃縮室及び電極室の少なくとも一方に水を通水する、前記採水モードと交互に運転される採水兼再生モードとを設け、前記水質測定器で測定される前記処理水の水質の測定値に予め設定された、前記処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、前記測定値に基づいて前記第1のしきい値を基点に前記採水兼再生モードと前記採水モードとを切り換える制御装置と、
を有する脱イオン水製造システム。
【請求項8】
逆浸透膜を透過した透過水を前記被処理水として前記脱塩室に通水する逆浸透膜装置をさらに有する請求項7に記載の脱イオン水製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置を備える脱イオン水製造システムの運転方法及び脱イオン水製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂などのイオン交換体に被処理水を通水させてイオン交換反応により脱イオンを行う脱イオン水製造システムが知られている。このようなシステムは、一般に、イオン交換体を有する装置を備え、イオン交換体によるイオン交換反応を利用して脱イオン水(例えば、純水)を製造する。しかしながら、イオン交換体を備える装置では、被処理水の通水に伴ってイオン交換体のイオン交換基が飽和して脱イオン性能が低下する。そのため、イオン交換体の脱イオン性能を回復させる(以下、「再生する」と称す)処理を行う必要がある。
【0003】
イオン交換体を再生する処理としては、イオン交換体を定期的に新しいものに交換する方法、酸やアルカリなどの薬剤を用いて定期的にイオン交換体を再生する方法、電気式脱イオン水製造装置(EDI(ElectroDeIonization)装置とも呼ばれる)を用いて連続的にイオン交換体を再生する方法が知られている。
【0004】
イオン交換体を定期的に交換する方法は、交換作業中に脱イオン水を製造できない。そのため、連続して脱イオン水を製造できない課題がある。また、大流量の被処理水を通水させて脱イオン水を製造する場合、脱イオン性能の低下の速度が速くなり、イオン交換体を比較的頻繁に交換しなければならない。そのため、大流量の被処理水から脱イオン水を製造する用途には不向きである。さらに、使用していたイオン交換体を、交換後に廃棄するため、廃棄物が増えてしまう。
【0005】
薬剤を用いてイオン交換体を再生する方法は、酸やアルカリなどの薬剤を調達するための手間がかかってしまう。また、イオン交換体の再生中は脱イオン水を製造できないため、連続して脱イオン水を製造できない課題がある。
【0006】
イオン交換体を定期的に交換する方法または薬剤を用いてイオン交換体を再生するシステムにおいて、当該システムが連続して脱イオン水を製造するには、例えば現用と予備用のイオン交換体を用意し、それらを交互に切り替えて使用する方法が考えられる。しかしながら、そのような方法は、イオン交換体を充填するための設備や再生に必要な薬剤を注入するための設備を準備しなければならない。
【0007】
EDI装置は、電極(陽極及び陰極)の間に複数のアニオン交換膜及びカチオン交換膜を配列して電極室、濃縮室及び脱塩室が形成され、脱塩室等にイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が充填された構成である。脱塩室には被処理水が供給され、電極室及び濃縮室には水(例えば、被処理水、脱イオン水等)が供給される。EDI装置は、電極間に電圧を印加して電流を流すことで水の解離反応を起こし、水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)とを生成させて脱塩室内のイオン交換体に付着したイオンと交換させることで、脱イオン性能を維持する。そのため、EDI装置を用いると、脱イオン水の製造とイオン交換体の再生とを連続的に行うことができる。EDI装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
EDI装置は、イオン交換体の脱イオン性能の低下による脱イオン水(処理水)の水質悪化を抑制するために、通常、運転中は常に通電されている。そのため、EDI装置を備える脱イオン水製造システムでは、消費電力が大きくなる課題がある。また、運転中は、脱塩室に被処理水が供給され、濃縮室及び電極室にも水が供給されることで、脱塩室で脱イオン水が製造されると共に、脱塩室から移動したイオンを含む濃縮水が濃縮室から排出され、電極室から電極水が排出される。そのため、EDI装置では排水量が多くなるという課題もある。
【0010】
本発明は上述したような背景技術が有する課題を解決するためになされたものであり、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、電気式脱イオン水製造装置の消費電力及び排水量を低減できる脱イオン水製造システムの運転方法及び脱イオン水製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明の脱イオン水製造システムの運転方法は、電気式脱イオン水製造装置を用いて被処理水から脱イオン水を製造する脱イオン水製造システムの運転方法であって、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しない無通電時に、前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して処理水を得る採水モードと、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しつつ、前記被処理水を前記脱塩室に通水して前記処理水を得るとともに、前記電気式脱イオン水製造装置の濃縮室及び電極室の少なくとも一方に水を通水する、前記採水モードと交互に運転される採水兼再生モードとを設け、
前記処理水の水質を測定し、
前記処理水の水質の測定値に予め設定された、前記処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、前記測定値に基づいて前記第1のしきい値を基点に前記採水兼再生モードと前記採水モードとを切り換える方法である。
【0012】
一方、本発明の脱イオン水製造システムは、被処理水から脱イオン水を製造する電気式脱イオン水製造装置と、
電気式脱イオン水製造装置に所要の直流電圧を印加する電源装置と、
前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して得られる処理水の水質を測定する水質測定器と、
前記電気式脱イオン水製造装置に通電しない無通電時に、前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に通水して処理水を得る採水モードと、前記電気式脱イオン水製造装置に通電しつつ、前記被処理水を前記脱塩室に通水して前記処理水を得るとともに、前記電気式脱イオン水製造装置の濃縮室及び電極室の少なくとも一方に水を通水する、前記採水モードと交互に運転される採水兼再生モードとを設け、前記水質測定器で測定される前記処理水の水質の測定値に予め設定された、前記処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、前記測定値に基づいて前記第1のしきい値を基点に前記採水兼再生モードと前記採水モードとを切り換える制御装置と、
を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、電気式脱イオン水製造装置の消費電力及び排水量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の脱イオン水製造システムの一構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1で示した電気式脱イオン水製造装置の概略構成例を示す模式図である。
【
図3】
図1で示した電気式脱イオン水製造装置の他の概略構成例を示す模式図である。
【
図4】
図1で示した電気式脱イオン水製造装置の他の概略構成例を示す模式図である。
【
図5】イオン交換体の再生時間に対する電流効率及び処理水の導電率の推移を示すグラフである。
【
図6】第1実施例の脱イオン水製造システムの運転モードを示す模式図である。
【
図7】第1実施例の被処理水の導電率及び処理水の導電率の変化の様子を示すグラフである。
【
図8】第1実施例の処理水の脱塩率及びEDI装置の消費電力の変化の様子を示すグラフである。
【
図9】第2実施例の脱イオン水製造システムの運転モードを示す模式図である。
【
図10】第2実施例の被処理水の導電率及び処理水の比抵抗の変化の様子を示すグラフである。
【
図11】第2実施例の処理水の脱塩率及びEDI装置の消費電力の変化の様子を示すグラフである。
【
図12】第1比較例の被処理水の導電率及び処理水の導電率の変化の様子を示すグラフである。
【
図13】第1比較例の処理水の脱塩率及びEDI装置の消費電力の変化の様子を示すグラフである。
【
図14】第2比較例の被処理水の導電率及び処理水の導電率の変化の様子を示すグラフである。
【
図15】第2比較例の処理水の脱塩率及びEDI装置の消費電力の変化の様子を示すグラフである。
【
図16】第3比較例の被処理水の導電率及び処理水の導電率の変化の様子を示すグラフである。
【
図17】第3比較例の処理水の脱塩率及びEDI装置の消費電力の変化の様子を示すグラフである。
【
図18】脱イオン水製造システムの一変形運転例を示すブロック図である。
【
図19】脱イオン水製造システムの他の変形運転例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明の脱イオン水製造システムの一構成例を示すブロック図である。
図2は、
図1で示した電気式脱イオン水製造装置の概略構成例を示す模式図である。
図3及び4は、
図1で示した電気式脱イオン水製造装置の他の概略構成例を示す模式図である。
図2~
図4は、上記特許文献1で開示された構成である。
【0017】
図1で示すように、本発明の脱イオン水製造システムは、被処理水から脱イオン水を製造する電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)1と、EDI装置1に脱イオン性能の維持に必要な所要の直流電圧を印加する電源装置2と、脱イオン水製造システム全体の動作を制御する制御装置3とを有する。被処理水は、例えば不図示のポンプを用いてEDI装置1の脱塩室(D)に送水され、該脱塩室(D)によって処理水(脱イオン水)が製造される。
【0018】
被処理水及び処理水は、周知の水質測定器4(41及び42)を用いてそれぞれの水質が測定される。被処理水の水質は測定しなくてもよい。水質測定器4には、例えば、被処理水及び処理水の導電率を測定する導電率計、被処理水及び処理水の比抵抗を測定する比抵抗計、または被処理水及び処理水におけるイオン濃度などを測定する濃度計等を用いればよい。脱イオン水製造システムは、EDI装置1の脱塩室(D)からの処理水の排出量(製造量)を測定する周知の流量計(積算流量計)5を備えていてもよい。
【0019】
制御装置3は、水質測定器4及び流量計5と周知の通信手段を介して接続され、被処理水及び処理水の水質の測定データ、並びに処理水の製造量のデータが送信される。また、被処理水は、ポンプ(不図示)及びバルブ6を用いてEDI装置1の濃縮室(C)及び電極室(E)に対する送水及び停止が制御される。濃縮室(C)から排出された濃縮水及び電極室から排出された電極水はそれぞれ排水槽7に排水される。
【0020】
図1は、EDI装置1の濃縮室(C)及び電極室(E)にそれぞれ被処理水を供給する例を示している。濃縮室(C)及び電極室(E)には、処理水を供給してもよく、
図1で示す脱イオン水製造システムとは別のシステムから水を供給してもよい。濃縮室(C)及び電極室(E)に対して
図1で示す脱イオン水製造システムとは別のシステムから水を供給する構成では、脱塩室(D)に供給する被処理水の流量を変動させることなくEDI装置1を運転できる。
【0021】
制御装置3は、電源装置2、ポンプ及びバルブ6と周知の通信手段を介して接続され、電源装置2、並びにポンプ及びバルブ6の動作の制御が可能である。制御装置3は、電源装置2のオン/オフを制御すると共に、ポンプ及びバルブ6を用いてEDI装置1の脱塩室(D)に対する被処理水の送水及び停止、EDI装置1の濃縮室(C)及び電極室(E)に対する被処理水の送水及び停止を制御する。また、制御装置3は、EDI装置1を後述する2つの運転モード(採水モード及び採水兼再生モード)で運転する。制御装置3と電源装置2、ポンプ及びバルブ6、水質測定器4及び流量計5との通信手段は、周知の有線通信手段または無線通信手段のどちらを用いてもよく、その通信規格も周知のどのような規格を用いてもよい。
【0022】
制御装置3は、例えば、周知のPLC(Programmable Logic Controller)で実現できる。制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置、I/Oインタフェース、通信装置等を備えた周知の情報処理装置(コンピュータ)で実現してもよい。制御装置3は、予め記憶装置に保存されたプログラムにしたがって、PLCまたは情報処理装置が備えるプロセッサが処理を実行することで、本発明の脱イオン水製造システムの運転方法を実現する。
【0023】
図1では示していないが、不純物濃度を十分に低減した脱イオン水を得るために、本発明の脱イオン水製造システムは、EDI装置1の前段に周知の逆浸透膜(RO膜)を備えた逆浸透膜装置を有する構成であってもよい。脱イオン水製造システムは、直列に接続された複数段(例えば2段)の逆浸透膜装置を有する構成であってもよい。2段の逆浸透膜装置を有する場合、第1段の逆浸透膜装置に貯留槽等に貯留された原水を通水し、その透過水を第2段の逆浸透膜装置に通水し、第2段の逆浸透膜装置の透過水を被処理水としてEDI装置1の脱塩室に供給すればよい。逆浸透膜装置は、例えば純水の製造に用いられる一般的な逆浸透膜を備える構成であればよい。
【0024】
図2で示すように、EDI装置1は、2つの電極(陽極11と陰極12)との間に複数組のカチオン交換膜及びアニオン交換膜(
図2では2組)が配列されて電極室21及び25、濃縮室22及び24、並びに脱塩室23が形成された構成である。電極室(陽極室)21は陽極11とカチオン交換膜31とによって形成され、電極室(陰極室)25は陰極12とアニオン交換膜34とによって形成される。脱塩室23はアニオン交換膜32とカチオン交換膜33とによって形成され、脱塩室23を間に挟んで2つの濃縮室22及び24が形成される。陽極11側の濃縮室22はカチオン交換膜31とアニオン交換膜32とによって形成され、陰極12側の濃縮室24はカチオン交換膜33とアニオン交換膜34とによって形成される。脱塩室23には、カチオン交換体とアニオン交換体とが混合されたイオン交換体が充填される。なお、電極室21及び25、並びに濃縮室22及び24には、適宜イオン交換体を充填してもよい。
【0025】
EDI装置1には、
図3で示すように、
図2で示した濃縮室22、脱塩室23及び濃縮室24から成る基本構成(セルセット)が陽極11と陰極12との間に複数個並置された構成もある。このとき、隣接するセルセット間で隣り合う濃縮室を共有できる。
図3は、陽極11と陰極12との間にN(Nは1以上の整数)個のセルセットが配列された構成例を示している。
図3で示すEDI装置1では、陽極室21にカチオン交換体(CER)が充填され、濃縮室22及び24、並びに陰極室25にアニオン交換体(AER)が充填され、脱塩室23にカチオン交換体とアニオン交換体とが混合されたイオン交換体(MB)が充填されている。また、
図3で示すEDI装置1は、陽極室21に外部から水を供給するのではなく、陰極室25の出口水が陽極室21に供給される構成である。
【0026】
EDI装置1には、
図4で示すように2つの濃縮室22及び24の間に中間イオン交換膜36を配置することで2つの脱塩室26及び27を形成した構成もある。
図4で示すEDI装置1では、脱塩室26にアニオン交換体(AER)が充填され、脱塩室27にカチオン交換体(CER)が充填され、被処理水は脱塩室27に通水された後、脱塩室26に通水される。2つの脱塩室26及び27に充填するイオン交換体の量は、同じである必要はなく、例えば、一方の脱塩室にカチオン交換体とアニオン交換体とを充填し、他方の充填室にカチオン交換体のみを充填する構成としてもよい。あるいは、一方の脱塩室にカチオン交換体とアニオン交換体とを充填し、他方の充填室にアニオン交換体のみを充填する構成としてもよい。
【0027】
また、EDI装置1には、電極室と濃縮室を区画するイオン交換体(アニオン交換膜34またはカチオン交換膜31)を無くして、濃縮室及び電極室の兼用室が形成された構成もある。
【0028】
このような構成において、本発明者らは、EDI装置1のイオン交換体の再生時に、該イオン交換体の塩形割合が多い状態の方が再生のための電力の利用効率が良くなることを見出した。また、本発明者らは、無通電時はEDI装置1の濃縮室及び電極室に通水せず、脱塩室のみに被処理水を通水させて脱イオン水を製造することで、EDI装置1を通電しつつ連続して運転した時と同程度の水質の脱イオン水が得られ、かつ消費電力及び排水量が低減できることを見出した。
【0029】
そこで、本実施形態では、EDI装置1の運転モードとして、EDI装置1に通電せずに、被処理水を脱塩室(D)に通水して処理水を得る採水モードと、EDI装置1に通電しつつ被処理水を脱塩室(D)に通水して処理水を得ると共に、濃縮室(C)及び電極室(E)の少なくとも一方に水を通水してイオン交換体を再生する採水兼再生モードとを設ける。なお、無通電時にEDI装置の濃縮室及び電極室に通水してはならない理由は無く、採水モード時に該濃縮室及び電極室に通水することも可能である。また、ここで言う「無通電」とは、EDI装置内で水の解離反応が進行しない状態を意味し、濃縮室から脱塩室に対するイオン拡散を防止するなどの目的で電極間に微弱な電圧を印加しておくことも含まれる。例えば、水の解離に必要な理論上の電圧は0.83Vであるため、脱塩室1室あたり0.83V以下の電圧を印加することを含む。
【0030】
上述した採水モードでは、EDI装置1の濃縮室及び電極室からの排水が無い利点を有するが、時間の経過と共にEDI装置1の脱イオン性能が低下するため、処理水の水質が徐々に悪化する。一方、採水兼再生モードでは、時間の経過と共にEDI装置1の脱イオン性能が再生されるため、処理水の水質が徐々に改善する利点を有するが、EDI装置1の濃縮室及び電極室からの排水量が多い。
【0031】
そこで、本実施形態では、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、EDI装置1からの排水量を低減するために、処理水の水質を測定し、その測定値に基づいて上記採水モードと採水兼再生モードとを交互に切り換えて運転する。具体的には、処理水の水質を示す導電率、比抵抗または濃度などを測定すると共に、採水モードから採水兼再生モードへ切り換えるためのしきい値(第1のしきい値)と、採水兼再生モードから採水モードへ切り換えるためのしきい値(第2のしきい値)とを設ける。第1のしきい値は、処理水の水質を所定の値よりも悪化させないために設けるしきい値である。第2のしきい値は、EDI装置1の消費電力及びEDI装置1からの排水量を低減するために設けるしきい値である。制御装置3は、水質測定器4で測定された処理水の水質の測定値の変化を監視し、該測定値がこれらのしきい値に到達したときに採水モードと採水兼再生モードとを切り換える。
【0032】
しきい値は、所望の、または脱イオン水製造システムに要求される処理水の水質、並びにEDI装置1からの排水量に基づいて、
図1で示した脱イオン水製造システムを実際に運転することで得られる処理水の水質及び排水量の変化を考慮して設定すればよい。
【0033】
なお、しきい値は、処理水の水質を所定の値よりも悪化させないために、上記第1のしきい値のみを設けてもよい。その場合、制御装置3は、採水モードにおいて、処理水の水質の測定値が第1のしきい値に到達したときに採水兼再生モードへ切り換えればよい。採水兼再生モードは、例えば予め設定された時間だけ運転し、その後、採水モードに再び切り換えればよい。採水兼再生モードの運転時間は、所望の、または脱イオン水製造システムに要求される処理水の水質に基づいて、
図1で示した脱イオン水製造システムを実際に運転することで得られる処理水の水質の変化を考慮して設定すればよい。
【0034】
第1のしきい値のみを用いる運転方法では、例えば被処理水の水質の変動に対応するために、採水兼再生モードの運転時間を所要の運転時間よりも長く設定することが考えられる。そのため、第1のしきい値のみを用いる運転方法では、第1のしきい値及び第2のしきい値を用いて採水モードと採水兼再生モードとを切り換える運転方法よりもEDI装置1の消費電力及びEDI装置1からの排水量が増える可能性がある。しかしながら、第1のしきい値を基点に採水モードから採水兼再生モードへ切り換えることで、処理水の水質は第1のしきい値に対応する所定の水質よりも悪化することは無い。また、脱イオン水製造システムの運転に上記採水モードを含むことで、従来の脱イオン水製造システムよりもEDI装置1の消費電力及びEDI装置1からの排水量を低減できる。
【0035】
ここで、処理水の水質の測定値がしきい値に到達した時点で運転モードを切り換えると、その後のある程度の期間(数分から数十分程度)では、水質の測定値がそれまでの状態(上昇または下降)で継続すると考えられる。そのため、しきい値は、所望の、または脱イオン水製造システムに要求される処理水の水質に対応する所定の値よりも悪化しないように、あるいは所望の、または脱イオン水製造システムに要求される排水量に対応する所定の値を越えないように、該所定の値よりも小さいまたは大きい値に適切に設定することが好ましい。しきい値は、脱イオン水製造システムの運転時において、固定の値を用いてもよく、処理水の水質の測定値、脱イオン水製造システムの消費電力及び排水量等に応じて変更してもよい。
【0036】
このように、処理水の水質の測定値に予め設定された、該処理水の水質を所定の値よりも悪化させないための第1のしきい値を備え、処理水の水質を測定し、制御装置3により、測定値に基づいて第1のしきい値を基点に採水モードと採水兼再生モードとを切り換えることで、被処理水の水質が変動しても、処理水の水質の悪化を抑制できる。また、脱イオン水製造システムの運転に上記採水モードを含むことで、従来の脱イオン水製造システムよりもEDI装置1の消費電力及びEDI装置1からの排水量を低減できる。したがって、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、EDI装置1の消費電力及び排水量を低減できる。また、第1のしきい値に加えて第2のしきい値を備え、第2のしきい値を基点に採水モードから採水兼再生モードへ切り換えることで、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、第1のしきい値のみを用いた運転方法よりもEDI装置1の消費電力及び排水量を低減できる。
【実施例0037】
次に本発明の実施例について説明する。
【0038】
本実施例では、
図1で示した脱イオン水製造システムにおいて、処理水の水質を測定し、予め設定されたしきい値(第1のしきい値及び第2のしきい値)を基点に採水兼再生モードと採水モードとを切り換えることで、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、EDI装置1の消費電力及び排水量が低減できることを示す。
(基本原理)
本基本原理では、EDI装置1のイオン交換体の再生時において、該イオン交換体の塩形割合が多い状態の方が再生のための電力の利用効率が良くなることを示す。ここでは、アニオン交換体として、塩形(塩化物イオン形)のイオン交換樹脂を用意し、再生型のカチオン交換樹脂とともにEDI装置1の脱塩室に充填した。そして、脱塩室、濃縮室及び電極室にそれぞれ純水を通水してイオン交換体を再生する際に、EDI装置1に通電した電気量に対して濃縮水として排出される塩化物イオンの濃度から塩化物イオンの排出(イオン交換樹脂の再生)に利用された電流の割合、すなわち電流効率を算出してグラフ化した。また、該グラフには、導電率の測定結果に基づいて処理水の水質の推移も示している。
【0039】
図5は、イオン交換体の再生時間に対する電流効率及び処理水の導電率の推移を示すグラフである。導電率は、含まれるイオンの量が少ないほど低い値となるため、低い値であるほど良好な水質と言える。
【0040】
図5で示すように、電流効率は、EDI装置1に対する通電開始後2時間程度は90%以上の高い効率で運転できるが、それ以降は徐々に低下して10時間後には50%以下になることが分かる。また、EDI装置1に対して通電を開始すると、処理水の水質を示す、上記1μS/cm以下の導電率が通電開始後約1時間程度で達成できることも確認できる。
【0041】
したがって、イオン交換体の塩形割合が多い状態で運転した方がEDI装置1の電流効率が高いことが分かる。そのため、EDI装置1に通電する採水兼再生モードによる運転を、脱イオン水製造システムに要求される水質の値を下回る前に開始し、ある程度水質が回復したところで通電を停止して採水モードで運転すれば、処理水の水質の悪化を抑制しつつ、EDI装置1を常に電流効率の高い状態で運転できる。
(第1実施例)
第1実施例では、処理水の水質として導電率を測定し、導電率の2つのしきい値を基点に採水兼再生モードと採水モードとを切り換える例を示す。EDI装置1には、オルガノ株式会社製のEDI装置(EDI-HF2-0500スタック)を用い、脱塩室(D)には、採水兼再生モード及び採水モードを通じて常時750L/hで被処理水を通水した。また、採水兼再生モードの運転時において、EDI装置1は、直流電流2.5Aの定電流運転に設定した。EDI装置1の脱塩室(D)には、直列に接続された2段の逆浸透膜装置を透過した4±0.2μS/cmの透過水を供給した。これらの条件は、後述する第2実施例も同様である。
【0042】
第1実施例では、導電率の第1のしきい値を0.95μS/cmに設定し、第2のしきい値を0.40μS/cmに設定した。上述したように、処理水の導電率は数値が小さいほど水質がきれいであることを意味するため、
図6で示すように、導電率が第1のしきい値まで上昇した時点で採水兼再生モードに移行し、導電率が第2のしきい値まで低下した時点で採水モードに移行し、それらを繰り返す運転を行った。
【0043】
このときの被処理水の導電率及び処理水の導電率の変化の様子の一例を
図7に示し、処理水の脱塩率及びEDI装置1の消費電力の変化の様子の一例を
図8に示す。脱塩率は下記式にて算出した。
脱塩率[%]={1-(処理水導電率÷被処理水導電率)}×100
また、消費電力[W]は、EDI装置1の通電運転時における電源装置の出力電流[A]×電圧[V]にて算出した。
(第2実施例)
第2実施例では、処理水の水質として比抵抗を測定し、比抵抗の2つのしきい値を基点に採水兼再生モードと採水モードとを切り換える例を示す。
【0044】
第2実施例では、比抵抗の第1のしきい値を3MΩ・cmに設定し、第2のしきい値を5MΩ・cmに設定した。比抵抗は、導電率の逆数であり、数値が大きいほど水質がきれいであることを意味するため、
図9で示すように、比抵抗が第1のしきい値まで低下した時点で採水兼再生モードに移行し、比抵抗が第2のしきい値まで上昇した時点で採水モードに移行し、それらを繰り返す運転を行った。
【0045】
また、このときの被処理水の導電率及び処理水の比抵抗の変化の様子の一例を
図10に示し、処理水の脱塩率及びEDI装置1の消費電力の変化の様子の一例を
図11に示す。脱塩率は第1実施例で示した式を用いて算出した。
(第3実施例)
第3実施例では、処理水の水質として濃度を測定し、濃度の2つのしきい値を基点に採水兼再生モードと採水モードとを切り換える例を示す。測定対象としては、カルシウム、ナトリウム、シリカ、ホウ素、炭酸、TOC(Total Organic Carbon)などの濃度(単位の例:μg/l)が考えられる。濃度に対して設定するしきい値は測定対象によって異なるが、第1実施例と同様に、数値が小さいほど水質がきれいであることを意味するため、第1のしきい値>第2のしきい値の関係を有する2つしきい値を設定する。第3実施例では、
図6で示した第1実施例のように、濃度が第1のしきい値まで上昇した時点で採水兼再生モードに移行し、濃度が第2のしきい値まで低下した時点で採水モードに移行し、それらを繰り返す運転を行えばよい。
【0046】
上述した第1実施例~第3実施例では、同じ種類の測定値に対して第1のしきい値と第2しきい値とをそれぞれ設定する例で示したが、異なる種類の測定値に対して第1のしきい値と第2しきい値とを設定してもよい。例えば、水質測定器4として導電率計及び濃度計を用意し、第1のしきい値を導電率の値に設定し、第2のしきい値を濃度の値に設定してもよい。あるいは、第1のしきい値を濃度の値に設定し、第2のしきい値を導電率の値に設定してもよい。
表1から分かるように、第2比較例のEDI装置1の消費電力に対して、第1実施例におけるEDI装置1の消費電力は52%削減され、第2実施例におけるEDI装置1の消費電力は33%削減される。同様に、第2比較例のEDI装置1の排水量に対して、第1実施例におけるEDI装置1の排水量は62%削減され、第2実施例におけるEDI装置1の排水量は36%削減される。
上述したように、EDI装置1は、通常、第2比較例で示した、常時、通電された状態で使用されるため、第1実施例及び第2実施例で示す本発明の脱イオン水製造システムでは、EDI装置1の消費電力及び排水量を従来よりも削減できることが分かる。
また、第2比較例の脱塩率の変動幅(0.4)に対して、第1実施例の変動幅は13.73であり、第2実施例の変動幅は3.3である。そのため、常時通電する第2比較例よりは脱塩率の変動幅が大きくなるが、単純にタイマを用いて採水兼再生モードと採水モードとを切り換える第1比較例よりも脱塩率の変動幅を抑制できる。
循環運転は、EDI装置1の後段で処理水の採水要求が無い場合に実施される。処理水の採水要求が無い場合、脱イオン水製造システム全体の運転を停止することも考えられる。しかしながら、脱イオン水製造システム全体の運転を停止すると、システム内に水が滞留する部位が発生するため、該部位において水質が悪化する可能性がある。そのため、一般的な脱イオン水製造システムでは、処理水の採水要求が無い場合は、循環運転を実施することが多い。