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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170371
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電気化学セルの構造
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20241203BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20241203BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20241203BHJP
   B01J 35/56 20240101ALI20241203BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B1/04
C25B11/052
C25B11/031
C25B11/061
C25B11/081
C25B11/075
B01J35/56 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024074211
(22)【出願日】2024-05-01
(31)【優先権主張番号】23173271.0
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルトジョム マルジュスキ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ボロウスキ
(72)【発明者】
【氏名】イネス エルケマン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ロータース
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造コストが低く、省スペースで構築でき、大量の水素および酸素をエネルギー効率よく生成できる、工業規模でAEM水電解を行うことができる電気化学セルを提供する。
【解決手段】陽極(1)と、陰極(2)と、前記陽極(1)と前記陰極(2)との間に配置される陰イオン伝導膜(3)と、を有し、前記陽極(1)は、粒界で互いに融合した粒子を含む第1多孔質焼結体(1)として、部分的または全体的に構成され、前記第1多孔質焼結体(1)は、前記膜(3)と直接接触している、アルカリ膜水電解用の電気化学セル(0)とする。また、水の電気化学的分解によって水素および酸素を生成する方法における電気化学セル(0)の使用も提供する。さらに、多数のセル(0)を有する電解槽と、電解槽の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極(1)と、陰極(2)と、前記陽極(1)と前記陰極(2)との間に配置される陰イオン伝導膜(3)と、を有し、
前記陽極(1)は、粒界で互いに融合した粒子を含む第1多孔質焼結体(1)として、部分的または全体的に構成され、
前記第1多孔質焼結体(1)は、前記膜(3)と直接接触している、アルカリ膜水電解用の電気化学セル(0)。
【請求項2】
前記第1多孔質焼結体(1)の粒子は、触媒活性材料を含むか、または触媒活性材料のみを含み、
前記触媒活性材料は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ac、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Mt、Ds、Rgの遷移金属を含むリストから選択される少なくとも1つの遷移金属を含む、請求項1記載の電気化学セル(0)。
【請求項3】
前記第1多孔質焼結体(1)の粒子は、ニッケルを含む、請求項1または請求項2記載の電気化学セル(0)。
【請求項4】
前記第1多孔質焼結体(1)の粒子は、ニッケル、ニッケル含有合金、ハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール、ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、ならびにAISI301、AISI301L、AISI304、AISI304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI317、AISI317LおよびAISI321タイプの鋼を含む群から選択される材料を含む、請求項3記載の電気化学セル(0)。
【請求項5】
前記第1多孔質焼結体(1)と前記膜(3)との間には、触媒層が配置されていない、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の電気化学セル(0)。
【請求項6】
前記第1多孔質焼結体(1)の多孔性Pは、5%~60%、または15%~45%であり、前記多孔性Pは、式:
P=1-ρ/ρ
(式中、ρは、前記第1多孔質焼結体(1)の体積密度であり、ρは、前記第1多孔質焼結体(1)の粒子の固体密度である。)
に従って測定される、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の電気化学セル(0)。
【請求項7】
前記多孔性Pは、勾配に沿って変化し、前記勾配は、前記第1多孔質焼結体(1)と前記膜(3)との界面に対して垂直に配置され、前記多孔性Pは、前記膜(3)の方向に減少する、請求項6記載の電気化学セル(0)。
【請求項8】
前記第1多孔質焼結体(1)の細孔は、光学顕微鏡による断面観察で判定される場合、前記第1多孔質焼結体(1)の粒子よりも小さい、請求項1~請求項7記載の電気化学セル(0)。
【請求項9】
前記陰極(2)は、粒界で互いに融合した粒子を含む第2多孔質焼結体(2)として、部分的にまたは全体的に構成されている、請求項1~請求項8記載の電気化学セル(0)。
【請求項10】
前記第2多孔質焼結体(2)の粒子は、触媒活性材料を含むか、または触媒活性材料のみを含み、
前記触媒活性材料は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ac、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Mt、Ds、Rgの遷移金属を含むリストから選択される少なくとも1つの遷移金属を含む、請求項9記載の電気化学セル(0)。
【請求項11】
前記第2多孔質焼結体(2)の粒子は、ニッケルを含む、請求項9または請求項10記載の電気化学セル(0)。
【請求項12】
前記第2多孔質焼結体(2)の粒子は、ニッケル、ニッケル含有合金、ハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール、ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、ならびにAISI301、AISI301L、AISI304、AISI304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI317、AISI317LおよびAISI321タイプの鋼を含む群から選択される材料を含む、請求項11記載の電気化学セル(0)。
【請求項13】
前記触媒層(5)は、前記陰極(2)と前記膜(3)の間に配置されている、請求項1~請求項12のいずれか一項記載の電気化学セル(0)。
【請求項14】
前記触媒層(5)は、Pt、Ru、Pd、C、Ni、Mo、Co、Cu、Fe、Crを含む群から選択される少なくとも1つの元素または元素の化合物を含む、請求項13記載の電気化学セル(0)。
【請求項15】
前記触媒層(5)は、アニオン伝導性ポリマーを含む、請求項13または請求項14記載の電気化学セル(0)。
【請求項16】
前記アニオン伝導性ポリマーは、前記膜(3)にも含まれる反復ユニットを含む、請求項15記載の電気化学セル(0)。
【請求項17】
前記第1多孔質焼結体(1)および/または前記第2多孔質焼結体(2)は、前記膜(3)から遠い側でバイポーラプレート(7)と接触している、請求項1~請求項16のいずれか一項記載の電気化学セル(0)。
【請求項18】
前記バイポーラプレート(7)は、ニッケル、ニッケル含有合金、ハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、AISI301、AISI301L、AISI304、AISI304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI317、AISI317LおよびAISI321タイプの鋼、ニッケルメッキ鋼、ニッケルメッキステンレス鋼、ニッケルメッキチタン、ニッケルメッキ真鍮、ニッケルメッキアルミニウム、ニッケルメッキアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ならびに炭素を含む群から選択される材料を含む、請求項17記載の電気化学セル(0)。
【請求項19】
水(HO)の電気化学的分解により、水素(H)および酸素(O)を生成する方法であり、
a)請求項1~請求項18のいずれか一項記載の電気化学セル(0)を少なくとも1つ準備する工程と、
b)pHが7~15の水性電解質を準備する工程と、
c)電圧源を準備する工程と、
d)前記第1焼結体(1)および/または陰極(2)を前記電解質と接触させる工程と、
e)前記電圧源から引き出した電圧を前記陽極(1)および前記陰極(2)に印加する工程と、
f)前記第1多孔質焼結体(1)から、酸素ガス(O)および/または酸素(O)が溶解した電解質を排出する工程と、
g)前記電気化学セル(0)から、水素ガス(H)および/または水素(H)が溶解した電解質を排出する工程と、
h)必要に応じて、前記第1多孔質焼結体(1)から排出された前記電解質から酸素(O)を分離する工程と、
i)必要に応じて、前記セル(0)から排出された前記電解質から水素(H)を分離する工程と、を含む方法。
【請求項20】
共通のバイポーラプレート(7)を共有する請求項17記載の少なくとも2つの電気化学セル(0)を含む、請求項19記載の方法を実施するための電解槽(6、8)。
【請求項21】
以下のコンポーネント:
a)第1多孔質焼結体(1)、
b)陰イオン伝導膜(3)、
c)必要に応じて触媒層(5)、
d)陰極(2)、
e)バイポーラプレート(7)、
f)第1多孔質焼結体(1)、
g)陰イオン伝導膜(3)、
h)必要に応じて触媒層(5)、
i)陰極(2)
が、製造の過程で、この順序で直接積み重ねられる、請求項20記載の電解槽(6、8)の製造方法。
【請求項22】
以下のコンポーネント:
a)陰極(2)、
b)必要に応じて触媒層(5)、
c)陰イオン伝導膜(3)、
d)第1多孔質焼結体(1)、
e)バイポーラプレート(7)、
f)陰極(2)、
g)必要に応じて触媒層(5)、
h)陰イオン伝導膜(3)、
j)第1多孔質焼結体(1)
が、製造の過程で、この順序で直接積み重ねられる、請求項20記載の電解槽(6、8)の製造方法。
【請求項23】
請求項1~請求項16のいずれか一項記載の電気化学セル(0)のアルカリ膜水電解における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置される陰イオン伝導膜と、を有する電気化学セルに関する。本発明はまた、水の電気化学的分解によって水素および酸素を生成する方法における電気化学セルの使用にも関する。本発明はさらに、多数のセルを有する電解槽と、電解槽の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、電気化学プロセスの実施に使用される。目的の異なる電気化学プロセスが多数存在する。重要な電気化学プロセスは、化合物の分解である。このプロセスは、電気分解と呼ばれる。
【0003】
電気分解を行うための電気化学セルを工業的に実現したものを電解槽と呼ぶ。電解槽は、通常、相互接続された多数の電気化学セルで構成されている。
【0004】
電気化学セルには、少なくとも2つの電極、つまり陽極と陰極がある。セルは、通常、電気絶縁セパレーターによって、2つのコンパートメントに分割されている。陽極は、最初の「陽極」コンパートメントにあり、陰極は、2番目の「陰極」コンパートメントにある。2つの電極またはコンパートメントは、セパレーターによって互いに電気的に分離されている。電気化学セルには、電解質が充填されている。
【0005】
重要な電気化学プロセスは、水の電気化学的分解による水素と酸素の生成である。水電解の一変形例は、セパレーターとして陰イオン伝導膜(陰イオン交換膜、AEM)を使用することを特徴としている。これは一般に、AEM水電解(AEMWE)と呼ばれる。反応がアルカリ性媒体中で起こるため、AEM水電解は、アルカリ膜水電解とも呼ばれる。
【0006】
AEM水電解では、電気化学セルに、水または塩基性水ベース電解質を充填し、陽極と陰極の間に電圧を印加する。陰極側では、水(HO)が水素(H)と水酸化物イオン(OH)に分解される(式C)。陰イオン交換膜は、水酸化物イオンを陽極側に輸送し、それらはそこで酸素(O)に酸化される(式A)。その結果、陽極側では酸素が発生し、陰極側では水素が発生する。そのため、陽極側は酸素側とも呼ばれ、陰極側は水素側とも呼ばれる。
2HO+2e→H+2OH (C) 還元/陰極反応
2OH→1/2O+HO+2e (A) 酸化/陽極反応
【0007】
説明した効果を実現するには、膜が、陽極と陰極の間で水酸化物イオンを伝導する必要がある。同時に、陽極と陰極の間で電気的短絡が生じないように、膜は電気的に絶縁されていなければならない。最後に、発生したガスが逆混合しないように、陰イオン伝導膜は、可能な限り気密でなければならない。さらに、陰イオン伝導膜は、AEM水電解に存在するアルカリ条件に耐える必要がある。これらの特性は、特殊な陰イオン伝導ポリマー(陰イオン伝導アイオノマーとも呼ばれる)によって実現される。
【0008】
反応を加速させるために、触媒活性物質(電気触媒とも呼ばれる)が陰極側と陽極側の両方に組み込まれる。これは、触媒活性層を導入することによって実現される。これらは、この目的のためにセルに特別に導入された基質材料上、もしくは多孔質輸送層上(触媒被覆基質、CCS)に存在してもよく、あるいは膜が触媒活性材料で直接被覆されていてもよい(触媒被覆膜、CCM)。
【0009】
AEM水電解では、電解用の新鮮な水を供給し、次に水素と酸素、またはそれらで濃縮された水もしくは電解質を排出するために、セルを通る水または電解質の流れと、セルからのガスの流れとを実現する必要がある。これは通常、良好な電気的接触を可能にするために、触媒活性層に密接に隣接する多孔質輸送層(PTL)によって可能となる。次に、多孔質輸送層は、導電性であり、ガスの外向き輸送と、水および電解質の供給とに十分な多孔性を有している。セルを通る水または電解質の輸送を改善するために、特定のチャネル構造(流動場と呼ばれる)がセルに組み込まれている。この構造は、多孔質輸送層と電気的に接触し、導電性であり、バイポーラプレート(BPP)との電気的接触を確立するものである。バイポーラプレートは、隣接する2つのセルを電気的に接続する。特定のチャネル構造は、多くの場合、例えば機械的変形により、バイポーラプレートに直接組み込まれている。効率的な水電解を行うには、(i)触媒活性層と多孔質輸送層、(ii)多孔質輸送層と流動場、および(iii)流動場とバイポーラプレートの接触面における接触抵抗を可能な限り低く抑え、電解槽の動作中に接触面の酸化によって接触抵抗が上昇しないようにすることが特に重要である。さもなければ、接触抵抗が上昇してセル電圧が上昇し、効率が低下し、エネルギー消費が増大する。
【0010】
AEM水電解で現在使用されている電気化学セルの構造と材料に関する優れた概要は、次の文献で説明されている:
Miller、Hamish Andrewら:陰イオン交換膜水電解からのグリーン水素:重要な材料と動作条件に関する最近の開発のレビュー、Sustainable Energy Fuels、2020年、4、2114DOI:10.1039/c9se01240k
【0011】
水電解用の電解槽の一般的な開発目的は、プロセスの効率を改善し、電解槽の製造コストを削減することである。
【0012】
Millerらによって引用されたレビューでは、ニッケルフォームが電極材料として言及されている。フォームは、多孔質構造である。
【0013】
欧州特許出願公開第3453785号明細書では、基本的な水電解用の電気化学セルについて説明している。段落[0022]において、部分的に金属不織布または金属フォームで作られたフィーダー層(17)を有する陽極が開示されている。段落[0023]で規定されている材料は、ニッケルまたはステンレス鋼である。不織布と膜(13)との間には、別の触媒層(15)が配置されている(図1と、段落[0015]および[0027]を参照)。電気化学セルの電極-触媒層-膜-触媒層-電極のサンドイッチ構造(段落[0053]を参照)は、非常にスペースを消費する。これは、多数のこのようなセルを電解槽に接続する場合に特に不利である。この場合、電解槽が占めるスペースだけでなく、セルスタックの内部抵抗も増加する。これにより、プロセスのエネルギー効率が低下する。欧州特許出願公開第3453785号明細書に示されている電気化学セルの優れた特徴は、流体管理である。コンパートメントへの水の流入と、コンパートメントからのガスの流出を改善するために、膜にはチャネルが設けられている(段落[0054])。したがって、この電気化学セルは、原理的には工業用水電解に適していると思われる。欠点は、スペースを消費する層構造と、触媒層の組み込みから生じる高い製造コストである。触媒層には、電気触媒として機能する貴重な金属が含まれている(段落[0029]を参照)。
【0014】
国際公開第2020/260370号パンフレットは、1つのコンパートメントが乾燥状態で動作され得る電気化学セルについて説明している。第5頁には、ニッケル不織布またはフォーム上のCCSについて言及されている。ただし、CCSは常に触媒層を有している。上記第6頁では、陽極用の電気触媒として、例えば銅コバルト酸化物などの金属酸化物が推奨されている。ただし、国際公開第2020/260370号パンフレットの第6頁では、コスト上の理由からPt触媒は推奨されていない。
【0015】
国際公開第2016/142382号パンフレットは、図2において、陰極 (光電極2の腐食防止層15)と、陰イオン伝導膜(2)と、陽極(対電極3)とを有する(光)電気化学セルの実施形態Iを開示している。陽極(3)と膜(2)の間には、多孔質ニッケル含有構造体(5A)が配置されている。多孔質ニッケル含有構造体(5A)は、ニッケル繊維またはステンレス鋼繊維で構成され得る。ニッケルフォームも考えられる(第12頁)。図2に示され、第17頁に記載されているように、陽極(対電極3)は、膜から離間している。多孔質ニッケル含有構造体(5A)は、その間に配置されている。このセルの欠点は、その体積の大きい層構造である。
【0016】
よりスリムな解決策は、国際公開第2016/142382号パンフレットの実施形態IIであり、それは多孔質ニッケル含有構造体を必要としない。流体伝導に必要な多孔性は、膜で実現されている。光電気化学セルには統合電圧源(つまり光電極)があるため、水電解に利用できる電気エネルギーは限られている。純粋に光駆動の場合、電気分解能力は低い。外部電気エネルギーによる工業用水電解では、大量のガス状水素および酸素が発生し、これをセルから導出する必要がある。実施形態IIの膜に統合された多孔質構造体は、この量のガス用に設計されていない。それでも、実施形態IIの構造は、工業規模のコンパクトな電解槽の設計には大きすぎる。
【0017】
本願出願時には未公開であった欧州特許出願公開第4181240号明細書も、ニッケルを含む織物電極を備えた水電解用の電気化学セルに関するものである。織物電極は、膜に直接隣接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3453785号明細書
【特許文献2】国際公開第2020/260370号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2016/142382号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第4181240号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
この従来技術に関して、本発明の目的は、工業規模でAEM水電解を行うことができる電気化学セルを特定することである。このセルは、製造コストが低く、省スペースで構築でき、大量の水素および酸素をエネルギー効率よく生成できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、請求項1記載の電気化学セルによって達成される。
【0021】
したがって、本発明は、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に配置される陰イオン伝導膜と、を含むアルカリ膜水電解用の電気化学セルを提供するものである。陽極は、粒界で互いに融合した粒子を含む第1多孔質焼結体として部分的にまたは完全に構成され、第1多孔質焼結体は膜と直接接触している。
【0022】
本発明の重要な発見は、焼結体の形をした多孔質構造が電極として適している点だけでなく、同時に、電解質および/または発生したガス用の多孔質輸送層の機能も担うことができるという点である。焼結体は、個々の粒子の間に空洞があるため、基本的に多孔質である。これは、粒子が不規則な形状をしており、時には部分的にしか融合していないためである。水または電解質は、これらの空洞に浸透することができ、それによって電極材料と接触することができる。これにより、反応物が、焼結体内の多孔質空洞を介して、触媒活性中心に直接到達することが可能になる。発生したガスも同様に、空洞から逃げることができる。したがって、焼結体は、電気化学的機能だけでなく、流体機能も果たす。
【0023】
多孔質電極の流体伝導特性により、多孔質電極は、膜と直接接触することができる。これは、焼結体が膜に平面的に直接接することを意味する。したがって、陽極と膜の間には触媒層が配置されていない。よって、膜と焼結体は、好ましくは膜と電極の界面全体にわたって、直接、機械的に接触している。しかし、膜は導電性ではないため、電気的な意味での接触の問題はあり得ない。焼結体の流体伝導特性により、本発明の電気化学セルは、追加の多孔質輸送層なしで動作することができる。これにより、通常使用される個々のコンポーネント間に接触抵抗がないため、セルの電気的内部抵抗が低減する。それでもなお、電解質とガスをセル内外に導く流動場を電気化学セルに組み込む必要があり得る。ただし、流動場は、膜から離れた位置に配置され、好ましくは、流動場は、バイポーラプレートまたはエンドプレートに組み込まれる。流動場は、焼結体の細孔と比較して、流れの断面積がはるかに大きい。
【0024】
焼結体は、繊維、糸、より糸、またはワイヤなどの線状織物構造から構成されていないという点で、既知の織物構造と異なる。焼結体は、代わりに粒子から形成されている。
【0025】
焼結体は、少なくとも部分的に粒界で結合した粒子から形成されているという点で、既知の金属フォームと異なる。したがって、焼結体は、モノリシックではない。一方、金属フォームは、ガス相が分散されたモノリシックな金属分散相を有する。焼結体の細孔は、通常、個々の粒子よりもはるかに小さい。対照的に、金属フォームは、その金属相に比べて比較的大きな細孔を有する。
【0026】
特に好ましい実施形態では、焼結体の粒子は、触媒活性材料のみを含むか、または少なくともそれを含む。本明細書の文脈における「触媒活性」とは、当該材料が電気化学セル内で行われている電気化学反応を加速化できることを意味する。よって、触媒活性材料は電気触媒である。
【0027】
触媒活性焼結材料を使用すると、反応物を、焼結材料の粒子内に存在する触媒活性中心と特に密接に接触させることができる。よって、電気化学反応が膜の非常に近くで行われ得るため、生成されるイオンは、膜を直接通過して反対側のコンパートメントに入ることができる。
【0028】
電気触媒活性材料には、通常、遷移金属が含まれる。遷移元素は、本発明の目的では、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ac、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Mt、Ds、Rgである。遷移元素を含む焼結材料は、遷移元素を含まない焼結材料よりも高い電気触媒活性を有する。さらに、遷移金属の比較的良好な電気伝導性により、電気化学セルの内部電気抵抗が低減する。
【0029】
特に好ましくは、ニッケルが電気触媒活性材料として使用される。したがって、本発明の好ましい実施形態では、焼結体の粒子は、ニッケルを含むか、またはニッケルのみを含む。粒子自体が電気触媒活性である。
【0030】
ニッケルは、特に水電解において優れた触媒特性を有する比較的安価な遷移金属である。さらに、容易に陽極に焼結できるニッケル含有材料がいくつか存在する。これらの材料には、純ニッケル、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバールなどのニッケル含有合金、ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、ならびにAISI301、AISI301L、AISI304、AISI304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI317、AISI317LおよびAISI321タイプの鋼が含まれる。
【0031】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態では、陽極は、少なくとも部分的に第1焼結体として構成され、その粒子はニッケル含有材料を含む。
【0032】
本発明の電気化学セルのさらなる利点は、基質もしくは電極(CCS)上に、または膜(CCM)上に直接、電気触媒を固定するためのアイオノマー(しばしば結合剤とも呼ばれる)が絶対に必要ない点である。電気分解中に生成される酸素は、非常に活性であり、アイオノマーを化学的に攻撃(酸化)する可能性があり、これにより、アイオノマーの機械的特性が損なわれ、電気触媒の剥離も引き起こされる可能性がある。その結果、必要なセル電圧が増し、エネルギー消費が増加する。しかし、焼結体自体が電気触媒活性である場合、触媒剥離のリスクは少なくなる。その結果、提案されている電気化学セルの構造により、製造コストが削減され、その電気抵抗の低さにより、エネルギー効率の高いプロセスが可能となる。
【0033】
焼結構造の利点を考慮すると、陽極は、全体が多孔質焼結体の形態で構成されることが好ましい。ただし、部分的にのみ多孔質焼結体の形態で構成され、それ以外は非焼結材料から構成される陽極を使用することも考えられる。非焼結とは、認識可能な粒界がないことを意味する。よって、焼結体は、固体プレート上、または平坦もしくは成形金属シート上、または金属フォーム、拡張金属もしくは拡張金属メッシュなどの異なる多孔質構造体上にも取り付けられ得る。
【0034】
好ましくは、第1焼結体は、焼結体の材料とは異なる触媒活性コーティングを含まない。その場合、陽極反応の触媒作用は、もっぱら、焼結体中に存在するまたは焼結体の粒子を構成する電気触媒活性材料によって行われる。
【0035】
陽極として使用される第1多孔質焼結体の多孔性Pは、5%~60%または15%~45%の範囲でなければならない。多孔性Pは、下記の式に従って測定される:
P=1-ρ/ρ
(式中、ρは多孔質焼結体の体積密度であり、ρは粒子の固体密度である。ρは焼結体全体のマクロ密度を表し、ρは粒子を構成する焼結材料のミクロ密度を表す。)
【0036】
フォームと比較すると、焼結体の多孔性はかなり低く、ニッケルフォームの多孔性は、通常、80%~90%の間で変化する;
Rocha Fernandoら:アルカリ水電解中の3D純Niフォーム電極の気泡除去効率に対する細孔径と電解質流量の影響。Journal of Environmental Chemical Engineering、第10巻、第3号、2022年4月1日(2022-04-01)、第107648頁、ISSN:2213-3437、DOI:10.1016/3.jece.2022.107648の表1を参照。
【0037】
最も単純な場合、第1焼結体内の多孔性はどこでも同じである。好ましくは、第1焼結体内の多孔性は、具体的には、第1多孔質焼結体と膜との界面に対して垂直に配置された(仮想の)勾配に沿って変化することができる。第1焼結体の多孔性が、膜から離れた陽極側よりも、膜との界面の方が低くなるように、多孔性Pは、膜の方向に減少するべきである。これは、触媒活性中心が膜に集中し、その結果、電気化学反応が特にそこで強くなることを意味する。これにより、陽極で生成されるイオンのパスが短くなる。
【0038】
好ましくは、第1多孔質焼結体の細孔は、第1多孔質焼結体の粒子よりも小さい。これは、細孔が固体材料よりも大きいフォームとの大きな違いである。サイズの違いは、光学顕微鏡、すなわち第1多孔質焼結体の断面を調べることによって容易に判断できる。焼結体の細孔径は、ランダムな分布を示す。孔径は通常1μm~200μmである。焼結体の細孔径も、1mmの範囲の流動場の一般的な流れの断面積よりもはるかに小さい。
【0039】
焼結体の粒径も同様にランダムな分布を示す。細孔径と粒径の違いを評価するには、極値ではなく、中央値を比較する。個々の極端に大きな細孔が極端に小さな粒子より大きくても、中央細孔径が中央粒径よりも小さい限り、問題はない。細孔径が粒子径よりも小さいという焼結体の特性は、統計的には、中央細孔径が中央粒径よりも小さいことを意味する。
【0040】
第1多孔質焼結体は、少なくとも2つの層から形成されてよく、2つの層は異なる多孔性を有するか、または異なる粒径の粒子で構成されている。より多孔性が低い、またはより微細な粒子から構成される層は、より多孔性が高い、またはより粗い粒子から構成される層よりも、膜の近くに配置される必要がある。これにより、電極の多孔性が膜に向かって低下する。言い換えれば、電極はより高密度になり、より細かい粒子で構成される。膜の近くでは触媒活性部位の密度が高くなる必要がある一方、膜から離れると水または電解質および生成ガスの透過性が高くなる必要があるため、これが推奨される。焼結体を2層以上、例えば3層、4層、5層または6層から形成することもできる。個々の層の多孔性または焼結粒子の粒径は、膜方向で層から層へと段階的に減少する。これにより、すでに述べた勾配が実現される。焼結層は、粒界を介して互いに結合していてよく、その結果、層構造にかかわらず、焼結体を単一のコンポーネントとして扱うことができる。これにより、セルの組み立てが容易になる。
【0041】
本明細書記載のニッケル含有焼結体は、陰極としても適しているため、陽極だけでなく陰極も焼結触媒活性材料から製造することが考えられる。したがって、電気化学セルの好ましい発展形態では、その陰極は、粒界で互いに融合した粒子を含む第2多孔質焼結体として、部分的にまたは全体的に構成される。
【0042】
陰極として使用される焼結体と陽極として使用される焼結体とを区別するために、本明細書では、陽極に対して「第1多孔質焼結体」という用語を使用し、陰極に対して「第2多孔質焼結体」という用語を使用する。
【0043】
陰極側では、焼結材料への触媒活性の統合は、必ずしも必要ではない。しかしながら、触媒活性材料が第2焼結体にも使用されることが好ましい。陽極側と同じ材料が適している。最も単純な場合、陽極側と陰極側の両方で同じ材料が使用される。しかし、必ずしもそうである必要はない。したがって、第1焼結体と第2焼結体とを区別することが適切である。陰極は、全体的に多孔質焼結体として構成されるのが好ましい。
【0044】
第2多孔質焼結体は、陰極としての電気化学的機能だけでなく、多孔質輸送層の機能も果たす。
【0045】
電気化学セルは、陰極側で2つのバリエーションで構成され得る:
第1のバリエーションでは、陰極(水素側、特に第2多孔質焼結体として構成される)が膜と直接接触している。この場合の膜自体が触媒活性材料(電気触媒)で被覆されていない場合、触媒活性物質が陰極に適用されているか、または陰極材料自体が触媒活性である必要がある。
【0046】
第2のバリエーションでは、触媒活性層(電気触媒)が、陰極(水素側、特に第2多孔質焼結体として構成される)と膜の間に配置されている。第2焼結体を形成する粒子は、必ずしも触媒活性である必要はなく、または触媒活性物質で被覆されている必要もない。この場合、第2焼結体の粒子は、触媒活性層(電気触媒)と流動場またはバイポーラプレートとの間の電気的接触を可能にするために、単に導電性でなければならない。この構造は、粒子に統合することができないもしくは粒子を生成することができない電気触媒、または第2多孔質焼結体に永続的な安定性を有するように適用できない電気触媒、または焼結材料自体よりももしくは電解槽の動作時に粒子表面に形成される触媒活性物質よりも高い触媒活性を有する電気触媒を使用する場合に有利である。
【0047】
すでに述べたように、陰極と膜の間に触媒層を有する本発明の変形例は、第2焼結体に容易に適用できない電気触媒を含むことができるという利点を有する。よって、触媒層は、Pt、Ru、Pd、C、Ni、Mn、Mo、Co、Cu、Fe、Crなどの元素を含む触媒活性粒子(電気触媒)を含み得る。
【0048】
電気触媒の触媒活性粒子が陰イオン伝導性ポリマーに埋め込まれている場合、特に有利である。この場合、触媒層は、少なくとも、触媒活性粒子と陰イオン伝導性ポリマーとから構成される。イオン伝導性ポリマーは、アイオノマーと呼ばれる。触媒活性粒子を陰イオン伝導性アイオノマーに埋め込むことにより、陰極での水の還元時に生成された水酸化物イオンを、反応直後に膜に導くことができる。陰イオン伝導性ポリマーが膜表面に対して非常に良好な接着性を有し、水酸化物イオンを非常に良好に伝導する場合が特に好ましい。その場合、触媒粒子と膜との特に効果的な統合、および触媒粒子と膜との特に良好なイオン結合が得られる。
【0049】
しかしながら、既知のCCM設計(両面を電気触媒で被覆された膜)とは対照的に、本発明の構造の膜には、せいぜい陰極側の水素生成側にのみ、触媒層が設けられる。陽極側の酸素生成側には触媒層は一切なく、電気触媒は、酸素側で焼結陽極材料に統合されている。したがって、陰極側にのみ触媒層を備えた変形例は、「半CCMセル」とみなされ得る。
【0050】
陰イオン伝導膜を形成する分離活性材料も、陰イオン伝導性アイオノマーである。原則として、すべての陰イオン伝導性アイオノマーは、本発明の電気化学セルに組み込まれることができ、そこで分離活性膜材料の機能を果たし、および/または触媒活性粒子の固定化に使用することができる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、膜は、水素側に触媒を固定する触媒活性コーティングと同じ陰イオン伝導性ポリマーを含む。触媒層内のアイオノマーと膜内のアイオノマーは、少なくとも、陰イオン伝導性ポリマー内に同じ反復単位を有するべきであり、鎖長は異なっていてもよい。
【0052】
特に好ましいのは、構造式(I)または構造式(II)または構造式(III)に従う陰イオン伝導性ポリマーを使用することである。
【0053】
構造式(I)、構造式(II)または構造式(III)のアイオノマーの共通の利点は、イオン伝導性が良好であること、アルカリ媒体中での膨潤抵抗が高いこと、および合成コストが低いことである。
【0054】
構造式(I)または構造式(II)または構造式(III)のアイオノマーは、膜の製造に、または触媒活性層中または不活性焼結材料上に電気触媒を固定するための結合剤として、使用され得る。
【0055】
構造式(I)の陰イオン伝導性ポリマーは、下記のように定義される。
【0056】
【化1】
【0057】
(式中、Xは、CおよびCに結合し、2つの結合を介して、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1個または5個の炭素原子を有する1個または2個の炭化水素基に結合している正電荷窒素原子を含む構成要素であり、
Zは、CおよびCに結合し、酸素原子の1つに直接結合している少なくとも1個の芳香族6員環を有する炭素原子を含む構成要素であり、その芳香族6員環は、1つまたは複数のハロゲン基および/または1つまたは複数のC~Cアルキル基によって置換されていてもよい。)
【0058】
構造式(I)のアイオノマーの調製は、国際公開第2021/013694号パンフレットに記載されている。
【0059】
構造式(II)の陰イオン伝導性ポリマーは、下記のように定義される。
【0060】
【化2】
【0061】
(式中、Xは、CおよびCに結合し、2つの結合を介して、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1個または5個の炭素原子を有する1個または2個の炭化水素基に結合している正電荷窒素原子を含む構成要素であり、
Zは、CおよびCに結合し、酸素原子の1つに直接結合している少なくとも1つの芳香族6員環を有する炭素原子を含む構成要素であり、その芳香族6員環は、3位および5位で、同一のまたは異なるC~Cアルキル基、特にメチル基、イソプロピル基またはtert-ブチル基、好ましくはメチル基で置換されていてもよい。)
【0062】
構造式(II)のアイオノマーの調製は、欧州特許出願公開第4032934号明細書に記載されている。
【0063】
構造式(III)の陰イオン伝導性ポリマーは、下記のように定義される。
【0064】
【化3】
【0065】
(式中、Xはケトン基またはスルホン基である。
Zは、少なくとも1つの第三級炭素原子と、少なくとも1つの芳香族6員環とを有する構成要素であり、その芳香族6員環は、2つの酸素原子のうちの1つに直接結合している。
Yは、少なくとも1つの正電荷窒素原子を含む構成要素であり、この窒素原子は、構成要素Zに結合している。)
【0066】
構造式(III)のアイオノマーの調製は、欧州特許出願公開第4059988号明細書に記載されている。
【0067】
電気化学セルに1個または2個の多孔質焼結体(電極)が装備されているかどうかに関係なく、第1焼結体および/または第2焼結体が膜から遠い側でバイポーラプレートと接触している場合が有利である。「接触」とは、単に機械的な意味だけでなく、バイポーラプレートが導電性であるため、電気的な意味も含んでいる。接触は、好ましくは全領域で行われる。より好ましくは、直接接触することが想定され、その場合、セル内の電極とバイポーラプレートの間に追加の材料は組み込まれない。これにより、セルは、特にコンパクトでコスト効率が高くなる。次に、多孔質焼結体の流体伝導機能が最適に使用される。バイポーラプレートを使用して、隣接する電気化学セルと電気的に接触させることができる。これにより、複数の電気化学セルを直列に接続してスタックすることで、スペースを節約できる(以下を参照)。
【0068】
バイポーラプレートは、好ましくは、以下の材料のうちの1つを含む:ニッケル;ハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバールなどのニッケル含有合金;ニッケル含有鋼;ニッケル含有ステンレス鋼;AISI301、AISI301L、AISI304、AISI304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI317、AISI317LおよびAISI321タイプの鋼、ニッケルメッキ鋼、ニッケルメッキステンレス鋼、ニッケルメッキチタン、ニッケルメッキ真鍮、ニッケルメッキアルミニウム、ニッケルメッキアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ならびに炭素。
【0069】
本明細書で提示する電気化学セルは、アルカリ水電解(AEM水電解)で使用するために最適化されている。したがって、本発明は、以下の工程を有する、水の電気化学的分解による水素および酸素の生成方法を提供する。
a)陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に配置される陰イオン伝導膜と、を有し、陽極が粒界で融合した粒子を含む第1多孔質焼結体として少なくとも部分的に構成され、第1多孔質焼結体が膜と直接接触している少なくとも1つの電気化学セルを準備する工程、
b)pHが7~15の水性電解質を準備する工程、
c)電圧源を準備する工程、
d)第1焼結体および/または陰極を電解質と接触させる工程、
e)電圧源から引き出した電圧を陽極および陰極に印加する工程、
f)第1多孔質焼結体から、酸素ガスおよび/または酸素が溶解した電解質を排出する工程、
g)電気化学セルから、水素ガスおよび/または水素が溶解した電解質を排出する工程、
h)必要に応じて、第1多孔質焼結体から排出された電解質から酸素を分離する工程、
i)必要に応じて、セルから排出された電解質から水素を分離する工程。
【0070】
使用される電解質には、電気分解されるべき水が含まれている。電解質のpHは、NaOHまたはKOHなどのアルカリ性物質を水に加えることで、塩基性領域(pH7~pH15)に調整されている。電解質中の水は、このようにして水電解で分解され、電解質に継続的に供給される。
【0071】
この方法は、湿式と半乾式の2つのバリエーションで動作できる。湿式では、両方のコンパートメントに電解質が充填される。半乾式動作モードでは、2つのコンパートメントのうち、陽極側(状況1)または陰極側(状況2)のいずれかにのみ電解質が充填される。
【0072】
湿式バージョンでは、膜の両側の両コンパートメントが水性塩基性電解質に浸される。水素は、陰極側の水性電解質に蓄積され、酸素は陽極側に蓄積される。ガスが自発的に電解質から泡立たない場合は、電解質が両方のコンパートメントから排出され、目的のガスが除去される。
【0073】
実際には、生成されたガスの一部が自発的に多孔質焼結体から逃げ、別の部分が水中に溶解したまま残り、別の操作で分離する必要があるという混合形態も考えられる。
【0074】
湿式法とは異なり、半乾式法では、塩基性電解質に浸されるのは、陽極側(陽極、状況1)のみ、または陰極側(陰極、状況2)のみのいずれかである。陰極または陽極のコンパートメントは、乾燥したままである。そこから、水素ガスもしくは水素濃縮塩基性電解質、または酸素ガスもしくは酸素濃縮塩基性電解質が、第2多孔質焼結体(陰極)または第1多孔質焼結体(陽極)から取り出される。状況1では、酸素は、湿式法の場合と同様に、塩基性電解質で満たされた陽極コンパートメントに蓄積される。状況2では、水素は、湿式法の場合と同様に、塩基性電解質で満たされた陰極コンパートメントに蓄積される。
【0075】
2つの半乾式変形例の利点は、対応する電極が塩基性電解質に浸されていないため、生成されるガスに水分がほとんど含まれず、塩基性電解質と水素(状況1)または酸素(状況2)とを分離する必要がない点である。陽極側だけに水がある半乾式AEM法(状況1)の基本的な考え方は、国際公開第2011/004343号パンフレットに記載されている。
【0076】
したがって、半乾式法(状況1)では、第2多孔質焼結体を浸漬し、水素を分離する必要がない。生成された水素は、直接、ガス状で陰極コンパートメント内に存在する。
【0077】
実際には、状況1では、酸素の一部が第1多孔質焼結体から自発的に逃げ、別の部分が水に溶解したまま残り、別の操作でそこから分離する必要があるという混合形態も考えられる。ただし、水素の回収が唯一の目的である場合は、第1多孔質焼結体から取り出された電解質からの酸素の分離は、省略することができる。酸素は電解質内に残る。この手順は、水素および酸素を電解質から分離する必要がないため、特にエネルギー効率に優れている。
【0078】
陰極側(陰極、状況2)のみを塩基性電解質に浸漬するように電気分解が行われる場合、酸素の個別の分離は、省略できる。実際には、状況2でも、水素の一部が第1多孔質焼結体から自発的に逃げ、別の部分が電解質に溶解したまま残り、別の操作でそこから分離する必要があるという混合形態が考えられる。
【0079】
本明細書で提示するすべての方法の変形例に共通するのは、焼結体の多孔質構造を利用して、反応物を電気触媒の触媒活性中心に導くことである。本発明によれば、多孔質焼結体はすべての場合において、流体導体の機能を果たす。実施形態(湿潤、半乾式状況1、半乾式状況2)に応じて、多孔質焼結体中で導かれる流体は、液体電解質、水素が溶解した液体電解質、酸素が溶解した液体電解質、酸素ガス、または水素ガスである。さらに、流体には、前述のガスおよび液体で構成される複数の相が含まれ得る。
【0080】
本明細書で提示する電気化学セルの構造の特別な利点は、構造を変更することなく、さまざまな方法の変形例に使用することができる点である。その結果、電気化学セルの製造者は、セルの設計を1つ作製するだけで済み、セルの使用者は、どの方法の変形例(湿式、半乾式など)が自己の用途にとって最もコスト効率が良いかを判断できる。複雑さが軽減されるため、セルの製造コストを大幅に削減できる。
【0081】
本明細書で提示するすべての方法の変形例は、連続的に実行されることが好ましい。つまり、水性塩基性電解質が連続的に供給され、ガス、または酸素濃縮電解質および/もしくは水素濃縮電解質が連続的に取り出される。電解質の連続供給により、電気分解による水分の損失が補われる。さもなければ、時間の経過とともに水が完全に電気分解され、電解質が失われる。そうすると、電気化学反応が停止する。電気化学セルが完全に、または少なくともその陽極コンパートメントが電解質で満たされ、セルまたは陽極コンパートメントが空になるまでその電解質が電気分解されるバッチ法が考えられるが、工業規模では好ましくない。
【0082】
本発明の方法は、共通のバイポーラプレートを共有する本発明の少なくとも2つの電気化学セルを含む電解槽で実施されることが好ましい。つまり、バイポーラプレートは、電解槽の第1電気化学セルの陽極と、電解槽の第2電気化学セルの陰極と、に同時に接触している。この場合、隣接する2つのセルは、直列に接続されている。本発明は、このような電解槽も提供する。
【0083】
隣接するセルがそれぞれバイポーラプレートを共有する電解槽の利点は、そのコンパクトなスタック構造、したがってその構造サイズが小さい点である。好ましくは、電解槽は、共通のバイポーラプレートを共有する2個より多い隣接するセルを含む。個々の電気化学セルのサイズおよび必要な出力に応じて、バイポーラプレートを介して、最大250個のセルを1つの電解槽にスタックすることが可能である。
【0084】
本発明の電解槽のさらなる利点は、高度な自動化で製造できる点である。これは、電気化学セルの個々のコンポーネントをロボットで非常に効率的にスタックできるためである。これにより、電解槽の製造コストをさらに削減することができる。
【0085】
本発明は同様に、共通のバイポーラプレートを共有する本発明の少なくとも 2つの電気化学セルを含む電解槽の製造方法を提供し、製造の過程で、下記のコンポーネントがこの順序で直接スタックされる。
【0086】
この方法の一連のイベントでは、スタックは、陽極から陰極へ行われる。
a)第1多孔質焼結体、
b)陰イオン伝導膜。
c)必要に応じて触媒層、
d)陰極、
e)バイポーラプレート、
f)第1多孔質焼結体、
g)陰イオン伝導膜、
h)必要に応じて触媒層、
i)陰極。
【0087】
陰極から陽極へスタックすることも同様に可能である。その場合、スタック順序は次のようになる:
a)陰極
b)必要に応じて触媒層、
c)陰イオン伝導膜、
d)第1多孔質焼結体、
e)バイポーラプレート、
j)陰極、
k)必要に応じて触媒層、
l)陰イオン伝導膜、
m)第1多孔質焼結体。
【0088】
両方のスタック順序により、同一の電解槽となる。本発明に従って、共通のバイポーラプレートを介して、本発明の隣接するセルを2個より多く互いに接触させるために、スタック順序を繰り返し実行することができる。ランごとに、バイポーラプレートを挿入する必要がある。
【0089】
例えば、3個のセルが陽極から陰極に向かってスタックされる場合のスタック順序は、下記のとおりである:
a)第1多孔質焼結体、
b)陰イオン伝導膜、
c)必要に応じて触媒層、
d)陰極、
e)バイポーラプレート、
f)第1多孔質焼結体、
g)陰イオン伝導膜、
h)必要に応じて触媒層、
i)陰極、
j)バイポーラプレート、
k)第1多孔質焼結体、
l)陰イオン伝導膜、
m)必要に応じて触媒層、
n)陰極。
【0090】
すべてのスタックは、スタックの両端に、バイポーラプレートのような構造だが、モノポーラ方式で接続されたエンドプレートを備えていてもよい。
【0091】
スタックは、特にロボットを使用して自動的に行われることが好ましい。
【0092】
電解槽の製造は、第1焼結体と第2焼結体が同一の材料から構成される場合に特に効果的である。同一の焼結体が陽極と陰極の両方に使用される場合が特に好ましい。この場合、異なるコンポーネントの数が少なくなり、組み立て速度が上がり、電解槽のコストが削減される。この場合も、ロボットは、陽極と陰極を区別する必要がなく、代わりにたった1種類の焼結体を電極として設置するだけでよいため、スタックプロセスは、ロボットを使用してより適切に実行可能である。この場合、陰極から陽極へスタッキングされるか、その逆の順序で行われるかは問題ではない。
【0093】
本発明はさらに、アルカリ膜水電解における電気化学セルの用途を提供する。
【0094】
以下、本発明を実施例により説明する。この点に関して、図は、下記のものを示す。
図1a:電気化学セルの第1実施形態の設計の概略図
図1b:湿式法の変形例における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図
図1c:半乾式法の変形例(状況1-「乾式陰極」)における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図
図1d:半乾式法の変形例(状況2-「乾式陽極」)における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図
図2a:電気化学セルの第2実施形態の設計の概略図
図2b:湿式法の変形例における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図
図2c:半乾式法の変形例(状況1-「乾式陰極」)における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図
図2d:半乾式法の変形例(状況2-「乾式陽極」)における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図
図3:第1実施形態(図1a)による2個の電気化学セルを含む電解槽の一動作変形例の概略図
図4:第2実施形態(図2a)による2個の電気化学セルを含む電解槽の設計の概略図
【0095】
図1aは、断面で電気化学セル0の第1実施形態を概略的に示している。これは、陽極1と、陰極2と、陽極1と陰極2の間に配置される陰イオン伝導膜3と、を含む。陽極1と陰極2は、それぞれ多孔質焼結体として構成される。多孔性は、例として38%である。焼結体内に均一に分散させることも、膜3 からの距離が離れるにつれて多孔性が上昇するような勾配に従うこともできる。
【0096】
膜3は、陰イオン伝導性ポリマーで作られた平坦な膜である。膜3は、電気化学セル0を2つのコンパートメントに分割する。陽極1側の陽極コンパートメントと、陰極2側の陰極コンパートメントである。陽極1と陰極2は、それぞれ膜3に直接隣接している。膜3から離れた側では、陽極1と陰極2は、それぞれエンドプレート4と接触している。
【0097】
陽極1と陰極2の有効領域は、図面の平面に対して垂直に伸びている。
【0098】
図1aに示す電気化学セル0の実施形態は、別個の流れ分配装置、または別個の多孔質輸送層(PTL)、または別個の触媒活性触媒層を有していない。PLTの機能は、陽極1と陰極2自体が担っている。これは、それらが流体伝導性である多孔質焼結体で構成されているためである。ただし、流れ分配装置は、エンドプレート4(図示せず)に組み込まれてもよい。よって、セルのコンパートメントは、それぞれの焼結体1、2のみで構成される。焼結材料には、ニッケルと鉄が含まれる。最も単純な場合、粒子を構成する材料は、ステンレス鋼であり、これは通常、ニッケルと鉄を含む。セルの動作中、ニッケルと鉄の酸化により、触媒活性のある混合Ni-Fe酸化物または混合Ni-Fe水酸化物が生成される。その結果、焼結材料が触媒活性を有するため、追加の触媒層は必要ない。
【0099】
電気化学セル0は、湿式、半乾式状況1、半乾式状況2の3つの動作モードを可能にする。
【0100】
図1bは、湿式法変形例における図1aの電気化学セルの動作を概略的に示している。電解動作中に、陽極1と陰極2は、水または塩基性電解質に浸され、浸透される。
【0101】
図1cは、電解動作中に、図1aの電気化学セル0の陽極1のみが水または塩基性電解質に浸され、浸透される半乾式法変形例を示している(半乾式状況1)。陰極2は乾燥したままである。
【0102】
図1dは、電解動作中に、図1aの電気化学セル0の陰極2のみが水または塩基性電解質に浸され、浸透される半乾式法変形例を示している(半乾式状況2)。陽極1は乾燥したままである。
【0103】
図2aは、断面で電気化学セル0の第2実施形態の設計を概略的に示している。これは、陽極1と、陰極2と、陽極1と陰極2の間に配置される陰イオン伝導膜3と、を含む。陽極1と陰極2は、それぞれニッケル含有粒子から構成される多孔質焼結体として構成される。膜3は、陰イオン伝導性アイオノマーで作られた平坦な膜であり、セル0を2つのコンパートメントに分割する。2 つの電極(陽極1および陰極2)は、膜3に直接隣接している。膜3から遠い側で、陽極1と陰極2は、それぞれエンドプレート4と接触している。
【0104】
第2実施形態は、陰極2と膜3の間に配置される触媒層5を特徴とする。触媒層5は、陰極2および/または膜3の陰極側に適用されていてもよい。したがって、触媒層5は、陰極コンパートメントに存在する。これは、陰極2または膜3上にアイオノマーにより固定された触媒活性粒子(電気触媒)を含む。触媒活性粒子は、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Moを含む金属粒子または合金またはコーティングまたは化合物であり、例えば、粒径またはコーティング厚が1nm~10μmの硫化物、セレン化物、酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルまたはペロブスカイトである。触媒層5内に存在する触媒活性粒子は、担持されていなくてもよく、または炭素質材料(カーボンブラックまたは木炭など)もしくは酸化物(CeO、TiOまたはWO3など)に担持されていてもよい。電気触媒の濃度は、膜または電極面積(陰極2)に対し、0.01mg/cm~25mg/cm、好ましくは0.05mg/cm~5mg/cmである。粒子を含む触媒層の厚さは、1μm~500μm、好ましくは5μm~100μmである。アイオノマーは、膜3が作製されたのと同じ材料である。触媒層5が膜3に適用されると、結果として得られる構造は「触媒被覆膜」(CCM)になる。触媒層5が陰極2に適用されると、結果として得られる構造は「触媒被覆基質」(CCS)になる。図2aの概略図のみに基づいて、CCMまたはCCS のどちらのバリエーションが描かれているかを判断することはできない。
【0105】
図2aの電気化学セル0も同様に、湿式、半乾式状況1、半乾式状況2の3つの動作モードを可能にする。
【0106】
図2bは、電解動作中に、陽極1と陰極2が水または塩基性電解質に浸され、浸透される湿式法変形例を示している。
【0107】
図2cは、電解動作中に、陽極1のみが水または塩基性電解質に浸され、浸透される半乾式法変形例を示している(半乾式状況1)。陰極2は乾燥したままである
【0108】
図2dは、電解動作中に、陰極2のみが水または塩基性電解質に浸され、浸透される半乾式法変形例を示している(半乾式状況2)。陽極1は乾燥したままである。
【0109】
図3は、湿式動作における電解槽6の第1実施形態を概略的に示している。電解槽6は、同一の構造を有し、共通のバイポーラプレート7を介して接触している、第1実施形態による2個の隣接する電気化学セル0を含む。
【0110】
第1電解槽6を用いて水電解を行うために、すべての電極は、電解動作中に水または基本電解質に浸され、連続的に浸透される。この動作モードは、すべての焼結体が水または基本電解質に浸され、浸透されるため、上記で「湿式」として説明した方法の変形例に対応する。次に、陽極1と陰極2の間に作用する電圧が各セルに印加される。この効果は、上述の原理によれば、水電解と、それに伴う陰極2を形成する多孔質焼結体における水素(H)の放出および陽極1を形成する多孔質焼結体における酸素(O)の放出と、である。酸素(O)、水素(H)、および未分解の水(HO)または塩基性電解質は、相応して陽極1および陰極2から取り出され、水または塩基性電解質は、陽極1および陰極2を通って連続的にポンプで送られる。
【0111】
図4は、動作中の電解槽8の第2の実施形態を概略的に示している。第2電解槽8は、同一の構造を有し、共通のバイポーラプレート7を介して接触している、第2実施形態による2個の隣接する電気化学セル0を含む。
【0112】
第2電解槽8を用いて水電解を行うために、電解動作中に、すべての電極は、水または基本電解質に浸され、浸透される。この動作モードは、両方の焼結体が水または塩基性電解質に浸されてるため、上記で「湿式」として説明した方法の変形例に対応する。次に、陽極1と陰極2の間に作用する電圧が各セルに印加される。この効果は、上述の原理によれば、水電解と、それに伴う陰極2を形成する多孔質焼結体での水素(H)の放出、および陽極1を形成する多孔質焼結体での酸素(O)の放出と、である。酸素(O)、水素(H)、および未分解の水(HO)または塩基性電解質は、相応して陽極1および陰極2から取り出され、水または塩基性電解質は、陽極1および陰極2を通って連続的にポンプで送られる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1a】電気化学セルの第1実施形態の設計の概略図である。
図1b】湿式法の変形例における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図1c】半乾式法の変形例(状況1-「乾式陰極」)における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図1d】半乾式法の変形例(状況2-「乾式陽極」)における電気化学セルの第1実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図2a】電気化学セルの第2実施形態の設計の概略図である。
図2b】湿式法の変形例における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図2c】半乾式法の変形例(状況1-「乾式陰極」)における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図2d】半乾式法の変形例(状況2-「乾式陽極」)における電気化学セルの第2実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図3】第1実施形態(図1a)による2個の電気化学セルを含む電解槽の一動作変形例の概略図である。
図4】第2実施形態(図2a)による2個の電気化学セルを含む電解槽の設計の概略図である。
図5】実験例1の電流-電圧曲線である。
図6】実験例2と実験例1の電流-電圧曲線である。
【実施例0114】
本発明で達成される効果を、実験データを参照して以下に説明する。この目的のために、多孔質焼結体を、AEM水電解用の電解試験セル中の陽極材料として使用する。比較として、ニッケルフォームを陽極材料として使用した。
【0115】
1.アイオノマーの作製(本発明の一部ではない)
欧州特許出願公開第3770201号明細書の実施例3に従って、陰イオン伝導性ポリマーを合成した。
【0116】
2.陰イオン伝導膜の作製(本発明の一部ではない)
次に、欧州特許出願公開第3770201号明細書の実施例4に記載されているように、1で合成した陰イオン伝導性ポリマーから膜を作製した。各実験では、1M KOH中60℃で24時間イオン交換を行った新鮮な膜片を使用した。
【0117】
3.活性試験陰極の作製(本発明の一部ではない)
炭素担持白金(60重量%の炭素担持白金、品番AB204745、abcr GmbH社、ドイツ)からインクを作製した。これは、白金ベース触媒の重量部あたり、最初に水44部、次にエタノール44部、最後にアイオノマー溶液5部(1.で作製したアイオノマー5%をDMSOに溶解したもの)を加え、そのインクを振とうし、超音波処理で30分間分散させることにより作製した。
【0118】
陰極の作製には、炭素繊維不織布(TGP-H120、厚さ=370μm、多孔性=78%、試料名称「炭素繊維不織布」、東レ株式会社、日本)を基質として選択した。その基質を、Prism400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems,Inc社製、米国マサチューセッツ州ヘーバリル)を使用して、上記で説明した製造方法のPt/C含有インクで被覆した。白金Ptの投入量は0.6mg/cmであった。
【0119】
4.試験セルの電解質測定
電解質試験セルの図を図2aに示す。すべての実験例を、陽極1と、陰極2と、膜3と、活性領域が16cmの2つのエンドプレート4と、を有する電気化学セル0内で実行した。陰極2のコンポーネントは、上記の触媒コーティング5である。したがって、陰極3は、触媒被覆基質(CCS)である。
【0120】
エンドプレート4は、チャネルごとに1個の入口と1個の出口を備える1.5mm幅の細長いチャネルの形態の流動場を有する(これは図2aには示されていない)。
【0121】
使用した電解質は、1M KOHであり、これを50mL/分で陽極1と陰極2を通してポンプで送った。すべての実験を60℃で実施し、電解質のみを熱平衡化した。各実験例の個々の特徴については、別途記載する。
【0122】
実験例1(発明性あり)
多孔質焼結体(SAE316L鋼、厚さ=1.57mm、多孔性=38%、試料名称「焼結体」)を陽極として使用し、触媒コーティングは施していない。この焼結体は、多孔質輸送層としてだけでなく、活性(陽極)触媒材料としても機能する。図5は、前述の電解試験セルを用いて記録された電流-電圧曲線を示している。
図5:実験例1の電流-電圧曲線
【0123】
追加の陽極側触媒コーティングなしで焼結体を使用すると、1.9V未満で最大1.5A/cmの電流密度を達成できることがわかる。これは、工業的に使用した場合の効率が高いことを意味している。
【0124】
実験例2(発明性なし)
この目的のために、ニッケルで作られたフォーム(製品コード:NI00-FA-000152、厚さ=1.6mm、多孔性=95%、Goodfellow社、英国、試料名称「フォーム」)を、追加の触媒コーティングなしで陽極として使用した。この焼結体は、多孔質輸送層として、また活性(陽極)触媒材料として同時に機能する。図6では、ニッケルフォーム陽極を用いて記録された電流-電圧曲線が点線で示されている。実線は、図5の焼結鋼陽極を用いて記録された電流-電圧曲線である。
図6:実験例2と実験例1の電流-電圧曲線
【0125】
ニッケルフォーム(点線)を使用すると、焼結体(実線)を使用した場合よりも、極めて高い電圧に達することがわかる。例えば、2.15Vになるまで1.5A/cmの電流密度に達しない。この比較的高い電圧は、使用時の効率が非常に低いことを意味している。工業的には、同量の水素を生成するために、より多くのエネルギー(10%超)を消費する必要があることを意味する。
【0126】
結論
2つの実験例を比較すると、AEM水電解用の陽極材料として焼結体を使用すると、発泡電極に比べて効率が大幅に向上することは明らかである。
【0127】
参照符号リスト
0 電気化学セル
1 第1多孔質焼結体(陽極)
2 第2多孔質焼結体(陰極)
3 陰イオン伝導膜
4 エンドプレート
5 触媒層
6 第1実施形態による、共通のバイポーラプレート7を介して接触する2個の隣接する電気化学セル0を含む電解槽
7 バイポーラプレート
8 第2実施形態による、共通のバイポーラプレート7を介して接触する2個の隣接する電気化学セル0を含む電解槽
O 水または塩基性電解質
水素
酸素
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】