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特開2024-170382固体電池のための正極及び正極を備える固体電池
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  • 特開-固体電池のための正極及び正極を備える固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170382
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】固体電池のための正極及び正極を備える固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20241203BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M10/0565
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079685
(22)【出願日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】23382458.0
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】524185146
【氏名又は名称】ファンダクション サイドテック
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クヴァシャ,アンドリー
(72)【発明者】
【氏名】チュー,トー
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア カルボ,オイハネ
(72)【発明者】
【氏名】コンバッロ パラシオス,イザスクン
(72)【発明者】
【氏名】コボス,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ウルダンピレタ ゴンザレス,イドイア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】固体電池のエネルギー密度及びサイクル特性を向上させるための正極を提供する。
【解決手段】(i)高電圧正極活物質、(ii)導電助剤、及び(iii)リチウム塩と、PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、室温イオン液体と、柔粘性結晶と、随意的に高沸点溶媒とを含む高電圧安定カソライト、を含む正極が提供され、この正極は、密度が2.3g/cm~3.6g/cmである。正極を調製するためのプロセス、並びに、正極を備える電池及び電池を備える製造品も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極であって、
i)コバルト酸リチウムLiCoO(LCO)、高電圧スピネルLiNi0.5Mn1.5(LNMO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物LiNiMnCo(ここでx+y+z=1)(NMC)、リン酸マンガン鉄リチウムLiFeMnPO(ここでx+y=1)(LMFP)、及びリチウムリッチ層状酸化物Li1+xTM1-x(ここでTMは少なくとも2つの遷移金属の混合物)(LRLO)(特に、遷移金属は、Mn、Ni、及びCoからなる群から選択される)、及びそれらの組み合わせ、から選択された高電圧正極活物質と、
ii)導電助剤と、
iii)高電圧安定カソライトと、
を含み、前記高電圧安定カソライトは、
- LiTFSI、LiBOB、LiDFOB、LiBF、LiFSI、LiClO、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択されたリチウム塩と、
- PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、
- 室温イオン液体と、
- スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びそれらの混合物、からなる群から選択された柔粘性結晶と、
- 随意的に、少なくとも160℃の沸点を有する高沸点溶媒と、
を含み、密度が2.3g/cm~3.6g/cmであることを特徴とする、正極。
【請求項2】
前記正極は、0.5mAh/cm~10mAh/cmの活物質面積容量を有する、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記PVdFコポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-クロロトリフルオロエチレン)(PVdF-CTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-トリフルオロエチレン)(PVdF-TrFE)、及びそれらの混合物、からなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の正極。
【請求項4】
前記ポリマーバインダは、正極の総重量の1wt%~7wt%の量であり、
随意的に、前記バインダはPVdF-HFPである、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の正極。
【請求項5】
前記室温イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PMI TFSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DMPI TFSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(BMI TFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR14TFSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PMI FSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(DMPI FSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(BMI FSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PP13FSI)、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の正極。
【請求項6】
前記室温イオン液体はPYR14TFSIである、請求項5に記載の正極。
【請求項7】
前記RTILと、前記柔粘性結晶と、前記随意的な高沸点溶媒との合計量は、正極の総重量の1wt%~20wt%である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の正極。
【請求項8】
前記リチウム塩はLiBOBを含む、特に、前記リチウム塩はLiBOBとLiTFSIの混合物である、より具体的には、前記リチウム塩はLiBOBである、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の正極。
【請求項9】
前記電解質塩は、正極の総重量の1wt%~15wt%の量である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の正極。
【請求項10】
前記高電圧正極活物質は、NMC、特に単結晶NMCである、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の正極。
【請求項11】
前記カソライトは、正極の総重量に対して5wt%~50wt%の量であり、前記高電圧正極活物質は、正極の総重量の50wt%~90wt%の量であり、前記導電助剤は、正極の総重量の0.1wt%~5wt%の量である、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の正極。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の正極を調製するためのプロセスであって、
i)適切な溶媒中にリチウム塩と、ポリマーバインダと、柔粘性結晶と、イオン液体と、随意的に高沸点溶媒とを含むカソライト調製物を用意するステップと、
ii)前記ステップ(i)のカソライト調製液に、高電圧正極活物質と、導電助剤と、随意的に追加量の適切な溶媒を攪拌しながら添加して、正極スラリーを得るステップと、
iii)前記正極スラリーを正極集電体上にキャストし、乾燥させて、正極を得るステップと、
iv)前記正極をカレンダー加工して、カレンダー加工された正極を得るステップと、
v)前記カレンダー加工された正極をホットプレスして、最終的な正極を得るステップと、
を含む、プロセス。
【請求項13】
- 請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の正極と、
- 負極と、
- 前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質と、
を含む電池。
【請求項14】
前記固体電解質と前記カソライトは同じ組成を有する、請求項13に記載の電池。
【請求項15】
請求項14に記載の電池を備える製造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体リチウム二次電池の分野に関する。特に、本開示は、正極活物質と、導電助剤と、カソライトとを含む正極、並びに、その調製プロセス、及び、前記正極を備える固体リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属負極と高電圧正極とを使用する固体電解質をベースにした固体電池(SSB)は、引火性の高い有機溶媒をベースにした液体電解質を有するリチウムイオンバッテリよりも高いエネルギー密度と安全性を提供できる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
SSBの複合正極は通常、正極活物質(CAM)と、カーボンブラックなどの導電助剤と、固体電解質(カソライト)を備える。高性能の二次電池の要件を満たすには、カソライトは、高いイオン伝導性、高い化学的安定性、及び広い電気化学的安定性範囲を有していなければならない。十分なイオン拡散をもたらすためには、複合正極に大きなカソライト分率(30~50vol%)が必要であり、結果的に現在のSSBのCAMの体積分率は比較的低く、エネルギー密度が低くなる。さらに、複合正極は、理想的には、空隙が最小限で、正極構造内でのLiイオンの十分な移動を保証するの必要な最小限の量のカソライトを含む状態で、CAM/カソライトの接触が良好でなければならない。
【0004】
SSBでの電極成分間の電気的接触を優れたものにするために、高面積容量(約≧2~3mAh/cmなど)の理想的には非多孔性の固体正極を開発する必要がある。電子伝導性をもたらす電極成分(導電助剤)とイオン伝導性をもたらす電極成分(カソライト)は、それらの間に及びCAMとの密接な接触がある状態で2つのパラレル3Dネットワークを形成する。加えて、CAMと導電助剤とを取り囲み接触するカソライトは、化学的及び電気化学的に安定でなければならず、したがって、化学的に適合する成分を含有していなければならず、同時に、SSB環境での厳しいテスト条件(Li/Li参照電極に対して≧4.2V、>40℃、長時間暴露、高表面積、高圧など)の下で、十分なレベルのイオン伝導性をもたらし、電解酸化に対して安定でなければならない。
【0005】
入手可能な文献ではいくつかのSSB構成が開示されているが、高電圧複合正極(例えば、CAMとしてリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)を含有する)中の公知のカソライト(ポリエチレンオキシド(PEO)を含有するものなど)の安定性は、特に40℃を超えるような高温ではかなり制限されている。
【0006】
したがって、高電圧での安定性の向上と電気化学的性能の強化をもたらしながら高面積容量の複合正極を実現することによって固体電池のエネルギー密度及びサイクル性を向上させる必要性が依然として強く残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、固体リチウムベースの電池に適した高面積容量(約3mAh/cm以上)を達成できる高電圧正極を開発した。この正極は、高電圧正極活物質と、導電助剤と、カソライトとを含む複合材であり、カソライトは、リチウム塩、特定のポリマーバインダ、及びいくつかのタイプの可塑剤を含み、可塑剤は、(i)室温イオン液体(RTIL)、(ii)特定の柔粘性結晶、及び(iii)随意的に高沸点溶媒である。有利なことに、本開示の正極は、向上した電気化学的性能を有し、したがって、リチウムベースの電池、特にリチウム金属固体電池のエネルギー密度及びサイクル性を向上させることができる。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、正極であって、
i)コバルト酸リチウムLiCoO(LCO)、高電圧スピネルLiNi0.5Mn1.5(LNMO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物LiNiMnCo1-x-y(ここでx+y+z=1)(NMC)、リン酸マンガン鉄リチウムLiFeMnPO(ここでx+y=1)(LMFP)、及びリチウムリッチ層状酸化物Li1+xTM1-x(ここでTMは少なくとも2つの遷移金属の混合物)(LRLO)(特に、遷移金属は、Mn、Ni、及びCoからなる群から選択される)、及びそれらの組み合わせ、から選択された高電圧正極活物質と、
ii)導電助剤と、
iii)高電圧安定カソライトと、
を含み、高電圧安定カソライトは、
- LiTFSI、LiBOB、LiDFOB、LiBF、LiFSI、LiClO、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択されたリチウム塩と、
- PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、
- 室温イオン液体と、
- スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びそれらの混合物、からなる群から選択された柔粘性結晶と、
- 随意的に、少なくとも160℃の沸点を有する高沸点溶媒と、
を含み、
密度が2.3~3.6g/cm、特に2.8~3.2g/cmであることを特徴とする、正極に関する。
【0009】
有利なことに、カソライト中の上記成分の組み合わせは、堅牢な安定した「CAM/カソライト」界面の形成に有利であり得る。
【0010】
本発明の別の態様は、本明細書の上記及び下記に記載の正極を調製するためのプロセスであって、
i)適切な溶媒中にリチウム塩と、ポリマーバインダと、柔粘性結晶と、イオン液体と、随意的に高沸点溶媒とを含むカソライト調製物を用意するステップと、
ii)ステップ(i)のカソライト調製液に、高電圧正極活物質と、導電助剤と、随意的に追加量の適切な溶媒を攪拌しながら添加して、正極スラリーを得るステップと、
iii)正極スラリーを正極集電体上にキャストし、乾燥させて、正極を得るステップと、
iv)正極をカレンダー加工して、カレンダー加工された正極を得るステップと、
v)カレンダー加工された正極をホットプレスして、最終的な正極を得るステップと、
を含むプロセスに関する。
【0011】
本発明の別の態様は、
- 本明細書の上記及び下記に記載の正極と、
- 負極と、
- 正極と負極との間に配置された固体電解質と、
を備える電池に関する。
【0012】
驚いたことに、実施例及び比較例から分かるように、本開示で定義される正極を備える高電圧固体二次電池は、60℃で驚くほど良好な電気化学的性能を示す。
【0013】
最後に、本発明の別の態様は、本明細書に記載の電池を備える製造品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の正極の調製スキームを示す図である。
図2】実施例1(Ex.1、面積容量レベル(LL)は3.0mAh/cm、密度(D)は2.8g/cm)、実施例2(Ex.2、LLは3.0mAh/cm、Dは3.0g/cm)、及び比較例(Comp.Ex.、LLは3.0mAh/cm、Dは2.8g/cm)のLi/NMC622固体コインセルのサイクル数に対する放電容量を示す図である。サイクル条件は以下の通りであった:60℃、サイクル間隔3.0~4.2V、充放電電流0.05C/0.1C。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願の明細書で用いられるすべての用語は、特に明記しない限り、当該技術分野では公知の通常の意味で理解されるものとする。本出願で用いられる他のより具体的な定義用語は、以下に示すとおりであり、明記された定義がより広い定義をもたらさない限り、本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって一様に適用されることを意図している。
【0016】
本明細書及び付属の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」、及び「the」は、本明細書で他に記載のない限り又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方をカバーすると解釈されるべきであることに留意されたい。
【0017】
本明細書で用いられるすべてのパーセンテージは、他に指定のない限り、すべての組成物の重量によるものである。
【0018】
本明細書で用いられる場合のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(Li-NMC、LNMC、又はNMCとも略記される)という用語は、リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの混合金属酸化物である。それらは一般式LiNiMnCoを有し、ここでx+y+z=1である。NMCの例は、LiNi0.333Mn0.333Co0.333(NMC111又はNMC333と略記される)、LiNi0.5Mn0.3Co0.2(NMC532又はNCM523と略記される)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)、及びLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)である。
【0019】
本明細書で用いられる場合の「導電助剤」という用語は、正極活性層の電子伝導性を向上させ、正極活性層の抵抗及び集電体との界面の抵抗を減らすべく、正極活物質と混合される材料を指す。
【0020】
本明細書で用いられる場合の「正極活性層」という用語は、正極集電体の表面上に位置し、正極活物質を含む層を指す。
【0021】
本明細書で用いられる場合の「固体電解質」という用語は、Liイオン伝導性をもつ、正極と負極との間に配置される電子絶縁物質を含む固体を指す。
【0022】
本明細書で用いられる場合の「カソライト」という用語は、具体的には、正極に含まれるある種の固体電解質を意味し、正極活物質と密接に混合される又は正極活物を取り囲んで接触するLiイオン伝導体(随意的にイオンと電子の混合伝導体とすることもできる)を指す。同じセル内の「カソライト」及び「固体電解質」は同じ又は異なる組成物であり得る。
【0023】
本明細書で用いられる場合の「柔粘性結晶」という用語は、ある程度の配向又は立体配座の自由度をもつ弱く相互作用する分子から構成される結晶を指す。柔粘性結晶は、真の固体と真の液体との間の遷移段階と考えることができ、ソフトマターとして考えることができる。
【0024】
本明細書で用いられる場合の「高沸点溶媒」という用語は、少なくとも160℃、特に200℃~300℃などの200℃を超える沸点を有する溶媒を指す。
【0025】
本明細書で用いられる場合の「高電圧安定カソライト」という用語は、高電圧に保たれたときにカソライトの電気化学的性能を顕著に低下させるような様態で高電圧(Li/Li参照電極に対して4.2V以上)で反応(カソライトの分解、例えば電解酸化)しないカソライトを指す。カソライトの電気化学的安定性は、普通は、電位窓の幅、すなわち、カソライトの酸化電位と還元電位の差で表される。
【0026】
本明細書で用いられる場合の「高電圧正極活物質」という用語は、60℃で高電圧に保たれたときに正極の電気化学的性能を顕著に低下させるような様態で高電圧(Li/Li参照電極に対して4.2V以上)で反応しない正極活物質を指す。
【0027】
本明細書で用いられる場合の「高電圧」という用語は、Li/Li参照電極に対して、少なくとも4.2V、例えば4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0V以上を意味する。
【0028】
本明細書で用いられる場合の正極の2つ以上の成分に関係した「化学的に適合する」という用語は、正極を備える電池の電気化学的性能を顕著に低下させるような様態で反応することなく、成分を物理的に互いに曝すことができることを意味する。
【0029】
本明細書で用いられる場合の「セル」と「電池」という用語は、交換可能に用いられ得る。「固体リチウム二次セル(又は電池)」という用語は、「セル」、「電池」、又は「SSB」と略記される場合もある。
【0030】
「室温」という用語は、約20℃~約30℃の温度を指す。
【0031】
特に明記しない限り、本開示で用いられるすべての材料及び薬剤は市販のものである。
【0032】
前述のように、第1の態様は、固体リチウムベースの電池に適した高面積容量を実現し、比較的高い密度を有することを可能にする正極に関するものであり、この正極は、高電圧正極活物質と、導電助剤と、高電圧安定カソライトとを含み、カソライトは、リチウム塩、特定のポリマーバインダ、及び上記に記載のいくつかのタイプの可塑剤を含む。
【0033】
一実施形態では、高電圧安定カソライトは、少なくとも160℃、特に200℃~300℃などの200℃を超える沸点を有する高沸点溶媒をさらに含む。特定の実施形態では、高沸点溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、スルホラン(SL)、及びそれらの混合物、からなる群から選択される。
【0034】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、正極の面積容量は、0.5mAh/cm~10mAh/cmである。別の実施形態では、正極の面積容量は、2.0mAh/cm~5.0mAh/cmである。別の実施形態では、正極の面積容量は、2.5mAh/cm~3.5mAh/cm、例えば3.0mAh/cmである。
【0035】
カソライト
前述のように、高電圧安定カソライトは、LiTFSI、LiBOB、LiDFOB、LiBF、LiFSI、LiClO、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択されたリチウム塩と、PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、RTILと、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びそれらの混合物、からなる群から選択された柔粘性結晶と、随意的に、上記に記載の高沸点溶媒とを含む。
【0036】
一実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、柔粘性結晶は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、及びそれらの任意の混合物、からなる群から選択される。より具体的には、柔粘性結晶は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、又はそれらの混合物であり、さらにより具体的には、スクシノニトリルである。
【0037】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、柔粘性結晶は、正極の総重量の5wt%~20wt%の量である。
【0038】
一実施形態では、カソライトは、
- LiTFSI、LiBOB、LiDFOB、LiBF、LiFSI、LiClO、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択されたリチウム塩と、
- PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、
- RTILと、
- スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びそれらの混合物、からなる群から選択された柔粘性結晶と、
- 随意的に、上記に記載の高沸点溶媒と、
からなる。
【0039】
バインダは、正極の成分を互いにしっかりと結合させ、正極全体を固体電解質に付着させる。
【0040】
ポリマーバインダは、高電圧正極材料と適合性があるポリマーでなければならず、60℃を超えるような高温で熱安定性を有していなければならない。
【0041】
一実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、PVdFコポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-クロロトリフルオロエチレン)(PVdF-CTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-トリフルオロエチレン)(PVdF-TrFE)、及びそれらの混合物、からなる群から選択される。特に、バインダはPVdF-HFPである。
【0042】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、ポリマーバインダは、正極の総重量の1wt%~7wt%の量である。
【0043】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、RTILは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PMI TFSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DMPI TFSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(BMI TFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR14TFSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PMI FSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(DMPI FSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(BMI FSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PP13FSI)、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。別の実施形態では、室温イオン液体はPYR14TFSIである。
【0044】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、RTILは、正極の総重量の1wt%~20wt%の量である。
【0045】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、RTILと、柔粘性結晶と、随意的な高沸点溶媒との合計量は、正極の総重量の1wt%~20wt%である。
【0046】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、リチウム塩はLiBOBを含む、特に、リチウム塩はLiBOBとLiTFSIの混合物である、より具体的には、リチウム塩はLiBOBからなる。
【0047】
前述のように、本発明者らは、「CAM/カソライト」界面の安定化は、カソライト成分の複合作用によって実現されると考えている。この効果は、リチウム塩としてLiBOBを使用したときに特に良好なようである。
【0048】
特にPVdF-HFPなどのPVdFコポリマーと組み合わせて、固体電解質にLiBOBを使用すると、固体リチウムベースの電池の性能に悪影響を及ぼすことが文献で報告されている(例えば、T.Lestariningsih, Q.Sabrina, C.R.Ratri, A.Subhan, and S.Priyono, “The Effect of LiBOB Addition on Solid Polymer Electrolyte (SPE) Production based PVdF-HFP/TiO2/LiTFSI on Ionic Conductivity for Lithium-Ion Battery Applications,” Jurnal Kimia Sains dan Aplikasi, vol.25, no.1, pp.13-19 (2022)、及びLestariningsih, Titik et al. “The Effects of LiBOB and LiTFSI Compositions on the Conductivity of PVdF-HFP based Electrolyte Polymer Membrane for Lithium Ion Battery Applications.”International Journal of Scientific & Technology Research 9 (2020) 165-169参照)。
【0049】
驚いたことに、実施例に示すように、LiTFSIをLiBOBで部分的又は全体的に置き換えると固体電解質の特性に悪影響があるにもかかわらず、本開示の正極のカソライトにLiBOBを使用すると、固体電池における正極の電気化学的性能に予想外に有益な効果がある。
【0050】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、電解質塩は、正極の総重量の1wt%~15wt%の量である。
【0051】
正極
一実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、高電圧正極活物質は、NMC、特に単結晶NMCである。
【0052】
本明細書で用いられる場合の「単結晶」という用語は、理想的には結晶粒界及び二次粒子のない、サイズが2~5μmの理想的にはモノリシック粒子を指す。単結晶正極活物質は、セルサイクル中に粒子の完全性を維持すると考えられる。粉末の形態の単結晶NMC材料は市販されている。
【0053】
導電助剤に特に制限はなく、リチウム二次電池に使用されることが知られているものを使用することができる。
【0054】
導電助剤の例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、気相成長炭素繊維(VGCF)、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0055】
一実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、正極におけるカソライトの量は、正極活性層の総重量に対して0.5wt%~30wt%である。
【0056】
別の実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、本開示の正極において、カソライトは、正極の総重量に対して5wt%~50wt%の量であり、高電圧正極活物質は、正極の総重量の50wt%~90wt%の量であり、導電助剤は、正極の総重量の0.1wt%~5wt%の量である。
【0057】
正極を調製するためのプロセス
前述のように、本開示の別の態様は、本明細書の上記に記載の正極を調製するためのプロセスであって、
i)適切な溶媒中にリチウム塩と、ポリマーバインダと、柔粘性結晶と、イオン液体と、随意的に高沸点溶媒とを含むカソライト調製物を用意するステップと、
ii)ステップ(i)のカソライト調製液に、高電圧正極活物質と、導電助剤と、随意的に追加量の適切な溶媒を攪拌しながら添加して、正極スラリーを得るステップと、
iii)正極スラリーを正極集電体上にキャストし、乾燥させて、正極を得るステップと、
iv)正極をカレンダー加工して、カレンダー加工された正極を得るステップと、
v)カレンダー加工された正極をホットプレスして、最終的な正極を得るステップと、
を含むプロセスに関する。
【0058】
本開示のプロセスでは、リチウム塩、ポリマーバインダ、柔粘性結晶、イオン液体、随意的な高沸点溶媒、正極活物質、及び導電助剤は、上記に記載のものである。
【0059】
カレンダー加工ステップは、少なくとも2つの回転シリンダ(ロール)を有する標準的なカレンダーで、正極中間体をロール間に通して圧縮することによって実施することができる。カレンダー加工ステップは、15℃~80℃、例えば40℃~60℃の温度、20バール~70バールの圧力で実施することができる。
【0060】
ホットプレスステップは、50℃~160℃の温度、10バール~200バールの圧力で実施することができる。
【0061】
本開示のプロセスの一実施形態では、ステップ(i)は、
- リチウム塩を適切な溶媒に溶解して第1の溶液を得ること、
- ポリマーバインダを適切な溶媒に溶解して第2の溶液を得ること、
- 第1の溶液と第2の溶液を混合し、次いで、柔粘性結晶、イオン液体、及び随意的に高沸点溶媒を攪拌しながら添加して、カソライト調製物を得ること、
によって実施される。
【0062】
適切な溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(ACN)、及びそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0063】
本開示のプロセスは、成分の粒径が小さく、粒子分散が良好であることを保証し、空隙が最小限の、すなわち、電極成分間の電気的接触が優れた実質的に非多孔性の構造の正極を得ることを可能にする。同時に、CAMと固体電解質との間の十分なLiイオン拡散を保証するのに必要な量のカソライトを正極に含めることも可能にする。
【0064】
本開示のプロセスは容易にスケール変更可能であり、有利なことに、ワンポットスラリー調製と、ロールツーロール(R2R)プロセスを使用したキャスティングによって実施することができ、これにより、製造コストの削減を可能にする。加えて、カレンダー加工とホットプレスとの2つの後処理ステップの組み合わせにより、正極成分間の内部接触が大いに改善される。さらに、上記で開示したカソライトを含む正極とその調製プロセスとの相乗効果により、厳しいサイクル条件(60℃、セル充電カットオフ電圧≧4.2V)下でのサイクル性が顕著に向上した固体セルを提供することが可能になる。
【0065】
上述のプロセスによって得られる正極も本発明の一部をなす。
【0066】
固体二次電池
前述のように、本発明の別の態様は、上記に記載の正極と、負極と、正極と負極との間に配置された固体電解質とを含む電池、特に固体二次電池に関する。
【0067】
本開示の電池は、電池の電気化学的特性に悪影響を及ぼさない限り、随意的にさらなる助剤を含むことができる。さらなる助剤は、正極、負極、及び固体電解質のいずれかの中に又は間に含めることができる。
【0068】
一実施形態では、本開示の固体二次電池は、負極、負極と直接接触する固体電解質、正極集電体、正極集電体と直接接触する固体正極、固体正極と直接接触する固体電解質を含み、固体正極は正極集電体と固体電解質との間に配置され、固体電解質は負極と正極との間に配置される。
【0069】
負極
本開示に適した負極材料に特に制限はない。したがって、負極は、グラファイト、シリコン、シリコンオキサイド、チタン酸リチウム(LTO)で作製することができ、又はリチウムベースの負極とすることができる。特に、リチウム二次電池に使用されることが知られているリチウムベースの電極材料を使用することができる。したがって、一実施形態では、負極材料はリチウムベースの負極である。有用なリチウムベースの負極の例としては、リチウム金属、リチウム金属合金(例えばMg、Al、Sn、又はそれらの混合物との)、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態では、負極材料はLi金属である。
【0070】
固体電解質
固体電解質は、正極と負極の間でのリチウムイオンの移動を可能にし、正極と負極の間の物理的なセパレータとしても作用する。
【0071】
リチウムイオン伝導性材料であり、高電圧に必要な高い安定性などの要件を満たす限り、リチウムベースの二次電池に使用されることが知られている任意の固体電解質を使用することができる。
【0072】
本明細書で開示される固体電解質及びカソライトは、同じ又は異なる組成を有し得る。したがって、カソライトについて上記に記載のすべての実施形態は、独立して固体電解質に適用される。
【0073】
一実施形態では、上記に記載の実施形態の1つ又は複数の特徴と随意的に組み合わせて、固体電解質はカソライトと同じ組成を有する。
【0074】
本開示のリチウムベースの二次電池は、上記に記載の正極と、上記に記載の負極と、正極と負極との間に配置される固体電解質とを組み立てることによって得ることができる。本開示の電池は、正極、固体電解質、及び負極の複数の層を積層することによっても得ることができる。
【0075】
上述のプロセスによって得られるリチウム二次電池も本発明の一部をなす。
【0076】
本開示では、カソライトを含む正極、正極を含む電池、及び正極又は電池を調製するためのプロセスを説明するとき、言及される態様のいずれかについて定義される実施形態又は特徴のそれぞれは、他の態様との関連で明示的に説明されるかどうかに関係なく、他の態様のいずれかに適用可能とみなすことができることに留意されたい。
【0077】
本開示に係るSSBは、家庭用電子機器(例えば、移動電話、タブレット、及びラップトップコンピュータ)、ドローン、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機、及びハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、二次電池式電気自動車(BEV)、マイルドハイブリッド電気自動車(MHEV)、及び航続距離延長型電気自動車(E-REV)などの電動車両などの複数のエネルギー貯蔵システムで使用され得る。
【0078】
説明及び請求項の全体にわたって、「含む、備える」という言葉及びその変化形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、又はステップを排除することを意図するものではない。さらに、「含む、備える」という用語は、「~からなる」及び「本質的に~からなる」という用語を包含する。本開示に係る製品及びプロセスは、本明細書で説明される本開示の本質的な技術的特徴及び/又は制限、並びに本明細書で説明される任意のさらなる及び/又は随意的な成分、コンポーネント、ステップ、又は制限を含む、からなる、及び本質的にそれらからなり得る。
【0079】
以下の実施例及び図面は、説明のために提供されるものであって、本発明を制限することを意図したものではない。さらに、本発明は、本明細書で説明される特定の好ましい実施形態のすべての可能な組み合わせをカバーする。
【0080】
実施例
材料
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びアセトニトリル(ACN)溶媒はScharlabから入手した。単結晶(モノリシック)正極活物質NMC622(TSC)はTargrayから購入した。リチウムビス(オキサラート)ボレート(LiBOB)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP、ペレット)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO、Mn・10g・mol-1)、及びスクシノニトリル(SN、純度99%)はSigma Aldrichから購入した。イオン液体1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR14TFSI、純度99.9%)、及びビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(LiTFSI、純度99.9%)はSolvionicから購入した。導電助剤C-ENERGY Super C45カーボンブラックはIMERYS Carbon & Graphiteから購入した。すべての化学物質は、さらに精製することなくそのまま使用した。厚さ50μmの高純度リチウム金属ホイル(Albemarle社製)をそのまま負極として使用した。
【0081】
実験セクション
露点が-50℃未満の乾燥室内で、74wt%のTSC、3wt%のC45カーボンブラック、及び23wt%のカソライトで構成されたNMPベースのスラリーを調製した。実施例1及び実施例2で使用した正極調製物及び正極の各成分の機能を表1に示す。
【表1】
【0082】
この目的のために、最初にバインダとリチウム塩の予備溶解を行った。必要量のLIBOB又はLITFSI(最終的な正極の3.5wt%)を、磁気攪拌(VELP Scientifica攪拌プレート、F203A0178)しながら、塩が完全に溶解するまでNMP溶媒に溶解した(図1のステップA)。
【0083】
同時に、PVdF-HFPポリマーの溶解物をNMP中10wt%で調製した。この場合、ポリマーの溶解物(最終的な正極の3.5wt%)を得るために機械的攪拌(IKA Eurostar 60デジタル)を使用した(図1のステップB)。
【0084】
このプロセスでは機械的攪拌を使用してカソライトの調製を続けて行った。ビーカーの中で、必要量のPVdF-HFP溶液とLiBOB又はLITFSI溶液を混合した(図1の第1の混合ステップ)。次いで、SNとPYR14TFSIを直接添加し、混合物を機械的攪拌下においた(図1の第2の混合ステップ)。カソライトの混合が完了すると、3wt%のC45導電助剤と、所望の固/液(S/L)比を設定するべく少量のNMPを添加した(図1の第3の混合ステップ)。次いで、活物質TSCを添加し、混合物を再び攪拌下においた(図1の最終的な混合)。
【0085】
最後に、十分に均質化された正極スラリーを、自動フィルムアプリケータ(BEVS1881/2)を使用して、カーボンコーティングされたアルミニウム集電体(Gelon)上に厚さ20μmにキャストした(図1のキャスト)。電極をコンベクションオーブン(Selecta, Digitronic TFT)内で、100℃で30分間乾燥させた(図1の乾燥)。
【0086】
得られた目標面積容量3.0mAh・cm-2(21mgTSC・cm-2)の正極を、実験室用油圧ロールカレンダ(DPM Solutions)によって45℃で圧縮した(図1のカレンダー加工)。次いで、カレンダー加工された正極を、3.0±0.2g・cm-3の目標密度に達するように、140℃、圧力100バールで最終的にホットプレスした(Laborpresse, Polystat 200T)(図1のホットプレス)。
【0087】
露点が-50℃未満の乾燥室内で、溶媒としてアセトニトリル(ACN)を使用して、75wt%のTSC、5wt%のC45カーボンブラック、15wt%のポリマーバインダPEO、及び5wt%のLiTFSI塩で構成された比較例(Comp.Ex.)の調製を行った。最初にACN中10wt%のPEO溶液を機械的攪拌(IKA Eurostar 60デジタル)によって調製し、LiTFSI塩(最終的な正極の5.0wt%)の別の溶液を磁気攪拌しながら別途調製した。ポリマーバインダが完全に溶解したら、リチウム塩溶液を添加し、混合物を攪拌下においた。次いで、混合物に5wt%のC45導電助剤と少量のACNを添加した。混合物に活物質TSC(最終的な正極の75wt%)を添加し、再び攪拌下においた。最後に、実施例のような後処理ステップに続いて、十分に均質化された正極スラリーを、自動フィルムアプリケータ(BEVS1881/2)を使用して、カーボンコーティングされたアルミニウム集電体(Gelon)上にキャストした。次いで、電極をコンベクションオーブン(Selecta, Digitronic TFT)内で、60℃で乾燥させた。
【0088】
得られた目標面積容量3.0mAh・cm-2(21mgTSC・cm-2)の正極を、実験室用油圧ロールカレンダ(DPM Solutions)を使用して45℃で圧縮した。最後に、カレンダー加工された正極を、50℃、圧力100バールでホットプレスした(Laborpresse, Polystat 200T)。
【0089】
表2に示す正極調製物を調製した。
【表2】
【0090】
固体コインセルの調製
調製した固体正極をリチウム金属固体コインセル(2025、Hohsen)でテストした。コインセルを組み立てる前に、正極を乾燥室内で動的真空(Binder、VD056-230V)下で乾燥させた(図1の乾燥)。次いで、最終的な正極である、23.4wt%のPVdF-HFP、23.4wt%のSN、15.6wt%のLiTFSI、及び37.5wt%のPYR14TFSIで構成された厚さ200ミクロンの固体電解質フィルムと、厚さ50ミクロンのLi金属ホイルとを使用してコインセルを組み立てた。セル組み立てプロセス中のすべての動作は、露点が-50℃未満の乾燥室条件下で行った。組み立て後に、すべてのセル成分間の良好な電気的接触を保証するべく、セルを60℃に3時間保った。その後、BaSyTecセルテストシステム(ドイツ)を使用して、同じ温度で0.05C/0.1Cの充放電レートの下で3.0~4.2Vのサイクル範囲内で、定電流充放電テストを行った。
【0091】
結果
異なる電極を備えた固体コインセルの電気化学的性能を図2に示す。
【0092】
実施例1の正極に基づくコインセル(カソライトは、PVdF-HFP、PYR14TFSI、SN、及びLiBOBに基づいている)は、放電容量と容量保持率の点で最良の性能を示した。実施例2の正極に基づくコインセル(カソライトは、PVdF-HFP、PYR14TFSI、SN、及びLiTFSIに基づいている)は、実施例1の正極に基づくセルと比較して、放電容量がより低く、容量保持率は同様であった。比較例の正極を備えたセル(カソライトは、PEO及びLiTFSIに基づいている)は、最初のサイクルで適切な放電容量を示したが、PEO-LiTFSIカソライトの電気化学的安定性が低いため、サイクル性が最も不良であった。
【0093】
引用リスト
1. T. Lestariningsih, Q. Sabrina, C. R. Ratri, A. Subhan, and S. Priyono, ”The Effect of LiBOB Addition on Solid Polymer Electrolyte (SPE) Production based PVdF-HFP/TiO2/LiTFSI on Ionic Conductivity for Lithium-Ion Battery Applications,” Jurnal Kimia Sains dan Aplikasi, vol. 25, no. 1, pp. 13-19 (2022).
2. Lestariningsih, Titik et al. “The Effects of LiBOB and LiTFSI Compositions on the Conductivity of PVDF-HFP based Electrolyte Polymer Membrane for Lithium Ion Battery Applications.” International Journal of Scientific & Technology Research 9 (2020) 165-169.
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-09-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極であって、
i)コバルト酸リチウムLiCoO(LCO)、高電圧スピネルLiNi0.5Mn1.5(LNMO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物LiNiMnCo(ここでx+y+z=1)(NMC)、リン酸マンガン鉄リチウムLiFeMnPO(ここでx+y=1)(LMFP)、及びリチウムリッチ層状酸化物Li1+xTM1-x(ここでTMは少なくとも2つの遷移金属の混合物)(LRLO)(特に、遷移金属は、Mn、Ni、及びCoからなる群から選択される)、及びそれらの組み合わせ、から選択された高電圧正極活物質と、
ii)導電助剤と、
iii)高電圧安定カソライトと、
を含み、前記高電圧安定カソライトは、
- LiTFSI、LiBOB、LiDFOB、LiBF、LiFSI、LiClO、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択されたリチウム塩と、
- PVdFコポリマーであるポリマーバインダと、
- 室温イオン液体と、
- スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びそれらの混合物、からなる群から選択された柔粘性結晶と

を含み、
度が2.3g/cm~3.6g/cmであることを特徴とする、正極。
【請求項2】
前記正極は、0.5mAh/cm~10mAh/cmの活物質面積容量を有する、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記PVdFコポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-クロロトリフルオロエチレン)(PVdF-CTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-トリフルオロエチレン)(PVdF-TrFE)、及びそれらの混合物、からなる群から選択される、請求項に記載の正極。
【請求項4】
前記ポリマーバインダは、前記正極の総重量の1wt%~7wt%の量である、
請求項に記載の正極。
【請求項5】
前記室温イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PMI TFSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DMPI TFSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(BMI TFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PYR14TFSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PMI FSI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(DMPI FSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(BMI FSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PP13FSI)、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項に記載の正極。
【請求項6】
前記室温イオン液体はPYR14TFSIである、請求項5に記載の正極。
【請求項7】
前記室温イオン液体および前記柔粘性結晶の合計量は、前記正極の総重量の1wt%~20wt%である、請求項に記載の正極。
【請求項8】
前記リチウム塩はLiBOBを含む、請求項に記載の正極。
【請求項9】
解質塩は、前記正極の総重量の1wt%~15wt%の量である、請求項に記載の正極。
【請求項10】
前記高電圧正極活物質は、NMC、特に単結晶NMCである、請求項に記載の正極。
【請求項11】
前記高電圧安定カソライトは、正極の総重量に対して5wt%~50wt%の量であり、前記高電圧正極活物質は、正極の総重量の50wt%~90wt%の量であり、前記導電助剤は、正極の総重量の0.1wt%~5wt%の量である、請求項に記載の正極。
【請求項12】
前記高電圧安定カソライトは、少なくとも160℃の沸点を有する高沸点溶媒を更に含む、請求項1に記載の正極。
【請求項13】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の正極を調製するためのプロセスであって、
i)適切な溶媒中にリチウム塩と、ポリマーバインダと、柔粘性結晶と、イオン液体と、含むカソライト調製を用意するステップと、
ii)前記ステップ(i)のカソライト調製液に、高電圧正極活物質と、導電助剤とを攪拌しながら添加して、正極スラリーを得るステップと、
iii)前記正極スラリーを正極集電体上にキャストし、乾燥させて、正極を得るステップと、
iv)前記正極をカレンダー加工して、カレンダー加工された正極を得るステップと、
v)前記カレンダー加工された正極をホットプレスして、前記正極を得るステップと、
を含む、プロセス。
【請求項14】
- 請求項に記載の正極と、
- 負極と、
- 前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質と、
を含む電池。
【請求項15】
前記固体電解質と前記高電圧安定カソライトは同じ組成を有する、請求項14に記載の電池。
【請求項16】
請求項15に記載の電池を備える製造品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
SSBでの電極成分間の電気的接触を優れたものにするために、高面積容量(約≧2~3mAh/cmなど)の理想的には非多孔性の固体正極を開発する必要がある。電子伝導性をもたらす電極成分(導電助剤)とイオン伝導性をもたらす電極成分(カソライト)は、それらの間に及びCAMとの密接な接触がある状態で2つのパラレル3Dネットワークを形成する。加えて、CAMと導電助剤とを取り囲み接触するカソライトは、化学的及び電気化学的に安定でなければならず、したがって、化学的に適合する成分を含有していなければならず、同時に、SSB環境での厳しいテスト条件(Li/Li参照電極に対して≧4.2 V、>40℃、長時間暴露、高表面積、高圧など)の下で、十分なレベルのイオン伝導性をもたらし、電解酸化に対して安定でなければならない。
【外国語明細書】