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特開2024-170386量子ドットカラーフィルタインク組成物、および量子ドットカラーフィルタインク組成物を利用したデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170386
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】量子ドットカラーフィルタインク組成物、および量子ドットカラーフィルタインク組成物を利用したデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20241203BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20241203BHJP
   H10K 59/38 20230101ALI20241203BHJP
   H10K 50/115 20230101ALI20241203BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20241203BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20241203BHJP
   H10K 50/854 20230101ALI20241203BHJP
   H10K 59/35 20230101ALI20241203BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20241203BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241203BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20241203BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20241203BHJP
   H01L 33/58 20100101ALI20241203BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20241203BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20241203BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALN20241203BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20241203BHJP
   F21Y 115/15 20160101ALN20241203BHJP
【FI】
G02B5/20 101
H10K59/10
H10K59/38
H10K50/115
H05B33/14 Z
H05B33/12 E
H10K50/854
H10K59/35
G09F9/30 349B
G09F9/30 349Z
G09F9/00 336G
G09F9/00 336H
H01L33/50
H01L33/00 L
H01L33/58
F21S2/00 482
C09K11/70
G02F1/1335 505
F21Y115:10
F21Y115:15
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024108524
(22)【出願日】2024-07-05
(62)【分割の表示】P 2022144208の分割
【原出願日】2019-09-03
(31)【優先権主張番号】62/737,790
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513317345
【氏名又は名称】カティーバ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140833
【弁理士】
【氏名又は名称】岡東 保
(72)【発明者】
【氏名】コナー エフ. マディガン
(72)【発明者】
【氏名】シッダールタ ハリクリシュナーモハン
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン プシェニツカ
(72)【発明者】
【氏名】テレサ エイ. ラモス
(72)【発明者】
【氏名】イナ グレビッチ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光電子ディスプレイ用途のための量子ドット含有液体インク組成物が提供される。また、インク組成物を乾燥させることによって形成された固体フィルム、固体フィルムを組み込んだ光学素子、光学素子を組み込んだ表示デバイス、ならびに固体フィルム、光学素子、およびデバイスの形成方法が提供される。
【解決手段】液体インク組成物および同液体インク組成物を乾燥して形成される固体フィルムは、赤色発光QDまたは緑色発光QDと組み合わせて、1種以上の青色光吸収材料を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電子表示デバイスであって、前記光電子表示デバイスは、
少なくとも1つの赤色サブ画素と、少なくとも1つの緑色サブ画素とを含む画素アレイを備え、前記赤色サブ画素は、赤色発光量子ドットと青色光吸収材料を含み、前記緑色サブ画素は、緑色発光量子ドットと青色光吸収材料を含み、
各サブ画素の青色光吸収材料は、赤色光または緑色光に対して青色光を優先的に吸収し、赤色発光量子ドットおよび緑色発光量子ドットにそれぞれエネルギーを伝達し、前記赤色サブ画素および前記緑色サブ画素の少なくとも一方は、散乱粒子を、さらに含む、光電子表示デバイス。
【請求項2】
前記青色光吸収材料の一方または両方は、有機分子を含む、請求項1に記載の光電子表示デバイス。
【請求項3】
前記有機分子は、クマリン分子を含む、請求項2に記載の光電子表示デバイス。
【請求項4】
前記青色光吸収材料の一方または両方は、無機材料を含む、請求項1に記載の光電子表示デバイス。
【請求項5】
前記青色光吸収材料の一方または両方は、発光団を含む、請求項1に記載の光電子表示デバイス。
【請求項6】
前記青色光吸収材料の一方または両方は、燐光ドーパント分子、蛍光ドーパント分子、燐光ポリマー分子、蛍光ポリマー分子、半導体量子ドット、ランタノイド含有化合物、多環芳香族炭化水素、およびこれらの2種以上の組み合わせから選択される、請求項5に記載の光電子表示デバイス。
【請求項7】
前記青色光吸収材料は、前記赤色サブ画素、および前記緑色サブ画素の各々にまたはその両方に、前記サブ画素の光出力側の方が前記サブ画素の光入射側よりも高濃度の濃度勾配で存在する、請求項1に記載の光電子表示デバイス。
【請求項8】
光電子表示デバイスであって、前記光電子表示デバイスは、
少なくとも1つの赤色サブ画素と、少なくとも1つの緑色サブ画素とを含む画素アレイを備え、前記赤色サブ画素は、赤色発光量子ドットと、青色光吸収材料とを含み、前記緑色サブ画素は、緑色発光量子ドットと、青色光吸収材料とを含み、
各サブ画素の青色光吸収材料は、赤色光または緑色光に対して青色光を優先的に吸収し、前記赤色発光量子ドットおよび前記緑色発光量子ドットにエネルギーを伝達し、前記青色光吸収材料は、燐光ドーパント分子、蛍光ドーパント分子、燐光ポリマー分子、蛍光ポリマー分子、半導体量子ドット、ランタノイド含有化合物、多環芳香族炭化水素、およびこれらの組み合わせから選択され、
前記赤色サブ画素および前記緑色サブ画素の少なくとも一方は、散乱粒子をさらに含む、光電子表示デバイス。
【請求項9】
各青色光吸収材料は、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、アクリジン、ルブレン、ポリフルオレン、ZnS:Eu、ZnS:Tb、テトラセン、ペリレン、トリス[2―フェニルピリジナート―C2,N]イリジウム(III)、ビス[2―(4,6―ジフルオロフェニル)ピリジナート―C2,N](ピコリナート)イリジウム(III)、白金オクタエチルポルフィリン、トリス―(8―ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)、4―(ジシアノメチレン)―2―t―ブチル―6―(1,1,7,7―テトラメチルジュロリジル―9―エニル)―4H―ピラン、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項8に記載の光電子表示デバイス。
【請求項10】
各青色光吸収材料は、有機分子を含む、請求項8に記載の光電子表示デバイス。
【請求項11】
各青色光吸収材料は、ジ(メタ)アクリレートポリマーを含む、請求項8に記載の光電子表示デバイス。
【請求項12】
各青色光吸収材料は、クマリンを含む、請求項8に記載の光電子表示デバイス。
【請求項13】
前記赤色サブ画素及び前記緑色サブ画素の材料は、波長450nmにおける、光学濃度が少なくとも0.3である、請求項8に記載の光電子表示デバイス。
【請求項14】
光電子表示デバイスであって、前記光電子表示デバイスは、
少なくとも1つの赤色サブ画素と、少なくとも1つの緑色サブ画素とを含む画素アレイを備え、前記赤色サブ画素は、赤色発光量子ドット、散乱粒子、および青色光吸収材料を含み、前記緑色サブ画素は、緑色発光量子ドット、散乱粒子、および青色光吸収材料を含み、
各サブ画素の前記青色光吸収材料は、赤色光または緑色光に対して青色光を優先的に吸収し、前記赤色発光量子ドットおよび前記緑色発光量子ドットにエネルギーを伝達し、前記青色光吸収材料は、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、アクリジン、ルブレン、ポリフルオレン、テトラセン、ペリレン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、光電子表示デバイス。
【請求項15】
さらに、前記青色発光バックライトユニットを備え、前記青色発光バックライトユニットは、青色LED、青色OLED、またはGaNベースのLEDユニットを含む、請求項1、8、または14に記載の光電子表示デバイス。
【請求項16】
さらに、前記青色発光バックライトユニットを備え、前記青色発光バックライトユニットは、前記サブ画素の各々に隣接して配置された複数のマイクロLEDを含む、請求項1、8、または14に記載の光電子表示デバイス。
【請求項17】
前記赤色サブ画素の青色光吸収材料は、前記緑色サブ画素の青色光吸収材料とは異なる、請求項1、8、または14に記載の光電子表示デバイス。
【請求項18】
前記散乱粒子の少なくとも一部は、ナノ粒子である、請求項1、8、または14に記載の光電子表示デバイス。
【請求項19】
前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子である、請求項18に記載の光電子表示デバイス。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年9月27日出願の米国仮特許出願第62/737,790号の優先権を主張し、その内容の全体を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術は、エンドユーザ体験の向上という観点において絶えず進化している。エンドユーザ体験の向上の一側面は、液晶ディスプレイ(LCD)デバイスの色域拡大、およびこれらのデバイスの効率化を目指すことである。このため、上記デバイスの色域の拡大や効率化の観点から、量子ドット(QD:Quantum Dot)技術が検討されてきた。
【0003】
LCDパネルの効率、色域、および視野角を向上させる方法の1つとして、従来のカラーフィルタの代わりに量子ドットカラーフィルタ(QDCF:Quantum Dot Color Filter)を使用する方法がある。この構成では、QDにより、第1の波長または第1の波長範囲を有する入射光(例えば、青色光)の少なくとも一部を異なる波長または異なる波長範囲の光(例えば、赤色光および/または緑色光)に変換することによって「フィルタリング」する。
【0004】
バックライトユニット(BLU)を有する一般的な赤緑青(RGB)画素配置型の表示デバイスでは、BLUと閲覧者との間の光路にQDCF層が配置される。標準的な青色発光ダイオード(LED)BLUの場合、QDCF層では、BLUからの入射青色光子の全部または一部を吸収し、吸収した光子の少なくとも一部を緑色サブ画素領域の緑色光子および赤色サブ画素領域の赤色光子に変換する。
【0005】
しかし、BLUからの青色光の少なくとも一部が表示デバイスの赤色および緑色のサブ画素を透過し、色汚染および不十分な色域が生じることが多くある。このことが特に問題となるのは、可視スペクトルのうち青色領域の吸収断面積が小さいために光学密度(OD:optical density)が低い特定の種類のQDを使用するQDCFを実装する場合である。また、順方向の光取り出しが不十分なQDCFの場合には、表示デバイスの外部量子効率(EQE:external quantum efficiency)に制約が生じることがある。
【0006】
QDCFを通る青色光漏れを低減させる方法の1つとして、QDの濃度を増大させて青色光の吸収およびODを高めることが挙げられる。青色光の吸収を高めるためには、QDを含有する層を厚くするか、その層内に分散させるQDを増加させるか、またはその両方を行うことが考えられる。しかし、層を厚くすると、視差の問題が生じてディスプレイの視野角が悪化する可能性がある。また、QD濃度が非常に高い場合には、放出された光子が再吸収され、それによってQDの吸収とQDの放出との間に大きな重なりが生じてEQEが低下する可能性がある。さらに、再吸収が何度も起こった場合には赤方偏移が生じ、色歪みにつながる可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
青色光吸収材料をQDと組み合わせて利用することによって光学性能を向上させた光電子表示デバイスが提供される。また、光電子ディスプレイ用途のためのQD含有液体インク組成物、インク組成物から形成された固体フィルム、および固体フィルムを組み込んだ光学素子が提供される。
【0008】
光電子表示デバイスの一実施形態は、青色発光バックライトユニットBLUと、BLUの光路内に配置された画素アレイであって、少なくとも1つの赤色サブ画素と、少なくとも1つの緑色サブ画素と、少なくとも1つの青色サブ画素とを含む画素アレイと、赤色サブ画素内に赤色発光QDと青色光吸収材料とを含む固体フィルム、または緑色サブ画素内に緑色発光QDと青色光吸収材料とを含む固体フィルム、またはその両方とを備える。青色光吸収材料は、赤色光または緑色光に対して青色光を優先的に吸収することを特徴とする。
【0009】
液体インク組成物の一実施形態は、10重量%から94.99重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー、またはジ(メタ)アクリレートモノマーとモノ(メタ)アクリレートモノマーとの組み合わせと、4重量%から10重量%の多官能(メタ)アクリレート架橋剤と、1重量%から50重量%の赤色発光量子ドットまたは緑色発光量子ドットと、0.01重量%から85重量%の青色光吸収材料とを含有し、青色光吸収材料は、赤色光または緑色光に対して青色光を優先的に吸収することを特徴とする。
【0010】
硬化フィルムの一実施形態は、上述の液体インク組成物の重合生成物から構成される。光電子デバイスの一実施形態は、青色光源と、青色光源の光路内に配置された上述の硬化フィルムとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の例示的実施形態について、添付の図面を参照しながら以下で説明する。図中、同じ参照符号は同じ要素を示す。
【0012】
図1】有機発光ダイオード(OLED)BLUを備えたRGB画素の基本的な実施形態の概略図である。
【0013】
図2】LCDデバイスのRGB画素を示す概略図である。
【0014】
図3】実施例で使用する光学特性評価機構を示す図である。
【0015】
図4】実施例におけるベアガラス基板を通る青色LEDの基準スペクトル(「青色LED」)とQDCFフィルムAを通る実際のスペクトルとを示す図である。
【0016】
図5】実施例におけるベアガラス基板を通る青色LEDの基準スペクトル(「青色LED」)とQDCFフィルムBを通る実際のスペクトルとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
光電子ディスプレイ用途のためのQD含有液体インク組成物が提供される。また、インク組成物を乾燥および/または硬化させることによって形成された固体フィルム、固体フィルムを組み込んだ光学素子、光学素子を組み込んだ表示デバイス、ならびに固体フィルム、光学素子、およびデバイスの形成方法が提供される。
【0018】
液体インク組成物および同液体インク組成物を乾燥して形成される固体フィルムは、赤色発光QDまたは緑色発光QDと組み合わせて、1種以上の青色光吸収材料を含む。本明細書では、用語「青色光吸収材料」とは、電磁スペクトルの赤色領域および/または緑色領域よりも、電磁スペクトルの青色領域において高い吸収を有する材料を指す。したがって、インク組成物およびフィルムは、青色光をフィルタリング(すなわち、吸収)することが望ましい種々の光電子デバイスに使用することができる。
【0019】
インク組成物およびフィルムの用途の1つは、光電子表示デバイスの赤色および/または緑色のサブ画素からの青色光漏れを低減または除去し、その外部量子効率を向上させるためのQDカラーフィルタとしての用途である。
【0020】
カラーフィルタは、赤色(R)サブ画素、緑色(G)サブ画素、および青色(B)サブ画素を含むRGB画素の赤色および/または緑色サブ画素に組み込むことができる。RGB画素の基本的な実施形態を図1に示す。この図では単一の画素のみが示されているが、この画素は複数の画素の大型アレイの一部となり得る。本実施形態では、画素100は、光学的に透明な基板102と、赤色(R)サブ画素103と、緑色(G)サブ画素104と、青色(B)サブ画素105とを含む。各サブ画素は、サブ画素ウェル(106、107、108)によって画定される。サブ画素ウェルは、フォトリソグラフィを用いてブラックマトリクス材料に設けることができる。ブラックマトリクス材料は、各サブ画素を分離画定し、サブ画素間の光漏れを防止する。ブラックマトリクス材料をその上に堆積させ、サブ画素を作製するのに適した基板として、ガラス、ポリマー、窒化ガリウム(GaN)が挙げられる。しかし、他の基板を使用することもできる。任意選択で、基板を窒化ケイ素またはポリマーコーティング等で表面コーティングしてもよい。
【0021】
光学的に透明な基板は、青色光を発するBLU109を用いて背面から照射される。BLUは、例えば、散光器を備えた青色LEDであっても、青色OLEDであってもよい。これに代えて、BLUは、GaN基板上に成長させたGaN系LEDでもよい。この場合、サブ画素ウェルは、GaN基板上に直接形成することができる。図1に示すように、単一の拡散バックライトを用いて全てのサブ画素を照射することができる。ただし、複数の分離したマイクロLEDを、各サブ画素の下方に位置する基板と一体化することも可能である。この場合、各サブ画素が独自の青色光源を有することになる。赤色サブ画素103は、赤色発光QD(黒丸で表示)と、青色光吸収材料(白丸で表示)とを含む赤色発光QDCF層110を含む。同様に、緑色サブ画素104は、緑色発光QD(黒丸で表示)と、青色光吸収材料(白丸で表示)とを含む緑色発光QDCF層111を含む。図1に示すデバイスでは、BLU109と基板102とが直接接触しているが、QDCF層110、111がBLU109から放出される青色光の光路内にあるならば、何らかの層が介在してもよい。介在層の例としては、キャッピング層、薄膜封止層、緩衝層、および/または隣接層間の単なる空隙が挙げられる。
【0022】
QDCF層を組み込んだLCDの一実施形態を図2に示す。このデバイスでは、赤色サブ画素103、緑色サブ画素104、および青色サブ画素105は、液晶層112を介して、1つ以上の青色光源109(例えば、青色OLED)によって照射される。図示されていないが、LCDディスプレイは、BLU109と液晶層112との間、または液晶層112と画素100との間に介在層を含んでもよい。このような介在層は、例えば、偏光子、薄膜トランジスタ、および/または空隙を含み得る。
【0023】
図1および図2に示すように、QDと発光材料とを含有するインク組成物をサブ画素ウェルにインクジェット印刷し、このサブ画素ウェル内にインク組成物を封止することによって、QDCF層をパターン形成することができる。ただし、サブ画素ウェルの使用は必須ではない。QDCF層のパターン形成は、QD含有フォトレジストを従来のフォトリソグラフィで処理することによっても実現することができる。また、図1および図2では、青色光吸収材料がQDCF層全体に均一に分散しているものとして示しているが、サブ画素のBLU光入射側よりもサブ画素の光出力側の方が青色光吸収材料の濃度が高くなるように、青色光吸収材料に濃度勾配を設けてもよい。
【0024】
QDは、BLUからの青色光を吸収し、その放射線のエネルギーを異なる波長または異なる波長範囲を有する光に変換する結晶性の無機小粒子である。変換された光は、非常に狭い光学スペクトル範囲でQDから放出される。QDが吸収し放出する放射線の波長は、QDのサイズに依存する。したがって、適切なサイズと材料のQDを適切な濃度と比率でQDCF層に組み込むことにより、青色光を吸収し、その少なくとも一部を別の波長の放射線に変換するようにQDCF層を設計することができる。本開示では、青色光を吸収して赤色光に変換するQDを赤色発光QDと称し、青色光を吸収して緑色光に変換するQDを緑色発光QDと称する。量子ドットは、II(例:Zn、Cd)-VI(例:Se、S)族半導体、III-V族半導体、IV-VI族半導体等の種々の半導体から構成されてもよい。
【0025】
光吸収材料は、単一の材料であってもよいし、QDCFからの青色光漏れを低減する機能、および/またはQDCFのEQEを向上させる機能を果たす複数の材料であってもよい。青色光吸収材料は、可視スペクトルの青色領域の波長を有する光(すなわち、約380nmから約500nmの光)を吸収(「遮断」)するが、青色領域の外側の波長を有する光は透過させることを特徴とする。例えば、光吸収材料は、400nmから500nmの波長(420nmから480nmの波長、さらには430nmから460nmの波長等)に吸収ピークを有してもよい。青色光吸収材料は、赤色サブ画素または緑色サブ画素において青色光を100%吸収する必要はなく、赤色サブ画素または緑色サブ画素において赤色光または緑色光を100%透過する必要はない。しかし、青色光吸収材料において、青色光の透過率は赤色光または緑色光の透過率に対して大幅に低いものであるべきである。
【0026】
青色光の吸収を助ける光吸収材料の例としては、青色光吸収有機染料分子が挙げられる。これらの有機染料分子は、可視スペクトルの青色領域において狭い吸収帯を有する場合も、広い吸収帯を有する場合もある。有機染料分子は、赤色サブ画素および緑色サブ画素において赤色発光QDおよび緑色発光QDからの赤色光または緑色光を消光しないように、可視光スペクトルの青色領域で強い吸収を有し、かつ狭い吸収スペクトルを有することが望ましい。このような染料の一例としては、エキシトン(Exciton)社から市販されている吸収染料であるABS454(可視狭帯域吸収体)が挙げられる。この染料は、453±1nmにピーク吸収を有し、400nmから480nmに狭い吸収ピークを有する(塩化メチレン中)。青色光吸収有機染料分子の例としてアゾ染料が挙げられるが、インク組成物のある実施形態では、アゾ染料は含まれない。
【0027】
QDCFのある実施形態では、光吸収材料は発光団を含む発光材料である。これらの材料は、QDCFのEQEを高めるとともに、青色光の吸収を助ける。発光材料は、可視スペクトルの青色領域において効率よく吸収し、ストークスシフトの分だけずれた別の波長の放射線を再放出することを特徴とする。発光団とは、発光材料においてその発光特性に関与する原子または官能基のことである。発光材料が光を吸収すると、励起子が形成される。励起子のエネルギーをQDCF内のQDに移動させると、青色光漏れを低減しつつ、表示デバイス全体の効率を向上させることができる。発光材料は、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせとすることができる。QDにエネルギーを移動させることができる発光性青色光吸収材料の例としては、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、アクリジン、ペリレン等の有機分子;トリス[2-フェニルピリジナート-C,N]イリジウム(III)(Ir(ppy))、ビス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナート-C,N](ピコリナート)イリジウム(III)(Firpic)、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、トリス-(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)、4-(ジシアノメチレン)-2-t-ブチル-6-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジル-9-エニル)-4H-ピラン(DCJTB)、クマリンC545、ルブレン等、OLED材料に一般的に使用されるものを含む、燐光ドーパントおよび蛍光ドーパント;ポリフルオレン等の発光性青色光吸収ポリマー;ZnS:Eu、ZnS:Tb等のランタノイド含有発光団が組み込まれた材料;テトラセン、ペリレン、それらの分子の誘導体(1つ以上の側鎖が付加または化学修飾されたもの)等の、発光性青色光吸収多環芳香族炭化水素(PAH);発光材料として作用した場合に赤色サブ画素および緑色サブ画素の赤色発光QDおよび緑色発光QDとは異なるように作用するQDが挙げられる。インク組成物に使用することができる市販のクマリンの例としては、クマリン334、クマリン314、およびクマリン6が挙げられる。これらは、430nmから460nmの波長範囲に吸収ピークを有する。クマリン等の有機分子として、有機レーザ分子もある。有機レーザ分子は、レーザ作用を呈することができるため、レーザ染料として一般的に使用される。
【0028】
ドナー(発光材料)からアクセプタ(QD)への励起子エネルギー移動過程は、長距離放射移動(一般的に、10nmよりも長い)であっても、短距離非放射移動(一般的に、10nmよりも短い)であってもよい。
【0029】
長距離放射エネルギー移動は、光子の再吸収過程である。このようなエネルギー移動は、ドナーの発光スペクトルとアクセプタの吸収スペクトルが重なり合う限り、原理的には無制限の範囲で起こる。エネルギー移動は、光子を放出する発光材料の励起子再結合によって開始される。この光子はスペクトルの重なりによりQDに吸収される場合がある。エネルギー移動速度は、発光材料からの発光の量子収量とQDの吸収係数によって決まる。
【0030】
近距離非放射性エネルギー移動には、a)フェルスター型、b)デクスター型のエネルギー移動がある。フェルスター型エネルギー移動は、分子間の双極子-双極子結合を介して起こる。初期において、発光材料は励起状態にあり、QDは基底状態にある。発光材料およびQDの2つの波動関数の相互作用によって、発光材料からQDへの光子の遷移が起こり、それによって、QDの波動関数が発光材料の波動関数と等しい周波数で振動するようになる。遷移後には、QDは励起状態に移行し、発光材料は基底状態に戻る。
【0031】
フェルスター型移動では、ドナーの発光とアクセプタの吸収との間にスペクトルの重なりが必要である。エネルギー移動効率は移動距離に大きく依存し、分子間距離の逆6乗で変化する。フェルスター型エネルギー移動を可能にする主な条件には次のa)、b)、c)がある。a)発光材料とQDとは近接していなければならない(通常は、約1nmから約10nm)。b)QDの吸収スペクトルは発光材料の発光スペクトルと重なる。c)発光材料とQDの遷移双極子の向きは略平行でなければならない。
【0032】
例として、一般的なQDカラーフィルタフィルムにおいて、公称QD荷重条件(例:約30重量%)でのQD間の分子間距離は、約10nmである。青色光吸収材料の発光団がQDに近接しており(約1nmから10nm)、かつフェルスター型移動の他の主要な条件が満たされている場合、エネルギー移動が発光材料の励起子の自然減衰時間よりも速く進行する限り、フェルスター型エネルギー移動が発生する。例えば、蛍光染料クマリンの減衰時間はナノ秒オーダーであるため、エネルギー移動はその時間スケールよりも速く進行することになる。
【0033】
QDCFの効率向上は、BLUからの青色光の波長(例:波長450nm)における発光材料の量子収量、発光材料による発光とQDによる吸収とのスペクトルの重なりの面積、および発光材料の分子間距離と寿命減衰に依存することになる。これらの基準を指針として用いることにより、赤色発光QDおよび緑色発光のQDのために適切な発光材料を選択することができるとともに、QDCFにおける発光材料の適切な濃度を特定することができる。
【0034】
赤色サブ画素および緑色サブ画素に使用するQDCFの性能効率は、これらの画素の青色光透過率およびEQEによって特徴付けられ得る。青色光透過率は、光源の青色光のうちQDCFを透過する光量の指標であり、あるいはスペクトルの青色領域におけるQDCFのODの指標である。QDCF層が高性能であれば、光源の青色光の大部分は、赤色サブ画素および緑色サブ画素を透過することはない。青色光がこれらのサブ画素を通って漏れると、色汚染が生じてデバイスの色域が狭まる。例えば、広色域を実現するためには、BLUからの青色光のうち、赤色サブ画素および緑色サブ画素を透過する光が1%未満であることが望ましい。これは、ODの観点において、青色ピーク波長450nmにおいてODが2であることに相当する。これは、実用的な基準である。というのは、450nmは光電子ディスプレイ内でBLUとして使用される標準的な青色LEDのピーク波長に対応しているためである。赤色サブ画素および/または緑色サブ画素の種々の実施形態では、450nmにおけるODが0.3以上である。上記には、450nmにおける赤色サブ画素および/または緑色サブ画素のODが1.0以上、1.1以上、1.2以上、および1.3以上であることが含まれる。青色光の透過率およびODを測定する方法については、実施例で説明する。
【0035】
EQEは、サブ画素内のQDが放出した光子のうち、表示デバイスから順方向/閲覧方向に出ていく光子数を示す指標である。EQEは以下のように定義される。
正方向に放出されたQD光子数/正方向に入射した線源光子数青色光吸収材料を含有するフィルムの種々の実施形態では、サブ画素のEQEを4%から40%とすることが可能である。しかし、これらの範囲以外のEQEを実現することもできる。
【0036】
QDCFは、QDと青色光吸収材料とを含む液体インク組成物を基板上に塗布し、その塗布物を乾燥させて固体フィルムとすることによって形成することができる。乾燥工程は、水および/または有機溶媒等の揮発性成分を蒸発させることによって、組成物から揮発性成分を単に除去することを含み得る。しかし、インク組成物が架橋性モノマーおよび任意選択で架橋剤を含む実施形態の場合、乾燥工程は、硬化フィルムがインク組成物の重合生成物となるようにインク組成物を硬化させることを含み得る。最終的なフィルムの膜厚は、非常に薄くなり得る(例えば5μmから20μm)。しかし、これらの範囲以外の膜厚も使用することができる。
【0037】
種々の実施形態において、液体インク組成物は、1つ以上の硬化性ジ(メタ)アクリレートモノマー、または1つ以上の硬化性ジ(メタ)アクリレートモノマーと1つ以上のモノ(メタ)アクリレートモノマーとの混合物;1種以上の多官能(メタ)アクリレート架橋剤;赤色発光QDまたは緑色発光QD;および1種以上の青色光吸収材料を含む。本明細書では、「(メタ)アクリレートモノマー」とは、記載のモノマーがアクリレートであっても、メタクリレートであってもよいことを示す。
【0038】
例として、ある実施形態では、インク組成物は、(a)10重量%から94.99重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー、またはジ(メタ)アクリレートモノマーとモノ(メタ)アクリレートモノマーとの組み合わせ、(b)4重量%から10重量%の多官能性(メタ)アクリレート架橋剤、(c)1重量%から50重量%のQD、(d)0.01重量%から85重量%の青色光吸収材料、および、任意選択で(e)0.1重量%から30重量%の散乱粒子を含む。しかし、これらの範囲以外の濃度も使用することができる。例えば、青色光吸収材料の含有量が0.05重量%から5.0重量%であるインク組成物を使用することができる。上記には、インク組成物における青色光吸収材料の含有量が0.1重量%から1.0重量%、さらには0.1重量%から0.5重量%であることが含まれる。このようなインク組成物では、インク組成物中の他の成分(すなわち、成分(a)、(b)、(c)、および/または(e))のうち1つ以上の量を変化させることにより、インク組成物のバランスを調整することができる。インク組成物のある実施形態では、光重合開始剤や熱重合開始剤等の硬化開始剤が含まれる。例として、硬化開始剤は、約0.1重量%から約20重量%の量で含めることができる。
【0039】
散乱粒子(略称SP:scattering particle)は、幾何学的散乱粒子(略称GSP:geometric scattering particle)、プラズモン散乱ナノ粒子(略称PSNP:plasmonic scattering nanoparticle)、またはそれらの組み合わせでもよい。なお、PSNPは、少なくとも1つのナノスケール寸法を有する(すなわち、約1000nm以下の寸法を少なくとも1つ有する)ことが一般的であるが、ナノ粒子は、球形である必要はない。例えば、ナノ粒子は、ナノワイヤのような細長い粒子であっても、不規則形状の粒子であってもよい。また、GSPは、ナノ粒子でよいが、ナノ粒子である必要はない。GSPによる散乱は、粒子表面での反射、屈折、回折によって実現される。GSPの例としては、酸化ジルコニウム(すなわちジルコニア)、酸化チタン(すなわちチタニア)、および酸化アルミニウム(すなわちアルミナ)の粒子等の金属酸化物粒子が挙げられる。PSNPは、入射光がナノ粒子内で電子密度波を励起し、ナノ粒子表面から外方に延びる局所的な振動電界を形成することを特徴とする。PSNPの例としては、銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子が挙げられる。
【0040】
インク組成物は、2種以上のSPを含むことができる。例えば、インク組成物の種々の実施形態には、QDおよびPSNPの混合物、QDおよびGSPの混合物、またはQD、GSP、およびPSNPの混合物が含まれる。特定の色(例:赤色または緑色)のサブ画素にQDCFを形成するために使用するQD含有インク組成物は、BLUからの光をその色に変換するQDを含むことになる。
【0041】
GSP含有インク組成物は、2種以上のGSPを含むことができ、異種のGSPは、公称粒子径および/または形状、粒子材料、またはその両方が異なる。同様に、PSNP含有インク組成物は、2種以上のPSNPを含むことができ、異種のPSNPは、公称粒子径および/または形状、粒子材料、またはその両方が異なる。
【0042】
モノ(メタ)アクリレートモノマーおよびジ(メタ)アクリレートモノマーは、薄膜形成性を有するエーテルおよび/またはエステル化合物であり、硬化時に結合材料として機能する。これらのモノマーは、液体インク組成物の成分として、室温を含むインクジェット印刷温度の範囲内で噴出可能な組成物を形成することができる。ただし、液体インク組成物は、スロットダイコーティングやスピンコーティング等の他の方法で塗布することもできる。一般的に、インクジェット印刷用途に有用なインク組成物では、印刷時の温度(例:室温、約22℃、またはそれよりも高い例えば約70℃までの温度)で、組成物がノズル上で乾燥したり、組成物によりノズルが詰まったりすることなく、インクジェット印刷ノズルを介してインク組成物が吐出されるように、インク組成物の表面張力、粘度、および湿潤特性を調整しなければならない。種々の実施形態において、インク組成物は、調合により、22℃から70℃の温度で、例えば約2cpsから約30cpsの粘度(例えば、約10cpsから約27cpsの粘度、約14cpsから約25cpsの粘度)、および22℃から70℃の温度で、約25dynes/cmから約45dynes/cmの表面張力(例えば、約30dynes/cmから約42dynes/cmの表面張力、約28dynes/cmから約38dynes/cmの表面張力)を有することができる。粘度および表面張力を測定する方法は周知であり、市販の流量計(例:DV-IPrimeブルックフィールド流量計)および張力計(例:SITA気泡圧張力計)の使用が挙げられる。
【0043】
モノ(メタ)アクリレートモノマーおよびジ(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、直鎖脂肪族モノ(メタ)アクリレートおよびジ(メタ)アクリレートでよく、または環状基および/または芳香族基を含んでもよい。インクジェット印刷可能なインク組成物の種々の実施形態において、モノ(メタ)アクリレートモノマーおよび/またはジ(メタ)アクリレートモノマーは、ポリエーテルである。モノマーは、好ましくは極性のある、沸点が比較的高い低蒸気圧モノマーである。
【0044】
適切な(メタ)アクリレートモノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアルキルまたはアリール(メタ)アクリレート;環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート;アルコキシル化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレートが挙げられるが、これに限定されるものではない。他の適切なジ(メタ)アクリレートモノマーとして、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート;1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート;1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられ、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば約230g/モルから約440g/モルの数平均分子量を有するエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーやポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーがある。インク組成物の種々の実施形態において、他のモノおよびジ(メタ)アクリレートモノマーとして、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(DCPOEA)、アクリル酸イソボルニル(ISOBA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)、メタクリル酸イソボルニル(ISOBMA)、N-オクタデシルメタクリレート(OctaM)が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて用いることができる。また、環上のメチル基の1つ以上が水素で置換されたISOBA、ISOBMAのホモログ(「ISOB(M)A」ホモログと総称)も使用することができる。
【0045】
インクジェット印刷可能なインク組成物の種々の実施形態において、ジ(メタ)アクリレートモノマーは、アルコキシル化脂肪族ジ(メタ)アクリレートモノマーである。これらには、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジ(メタ)アクリレートやネオペンチルグリコールエトキシレートジ(メタ)アクリレート等のアルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート等のネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートが含まれる。種々の実施形態において、ネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートは、約200g/モルから約400g/モルの分子量を有する。上記には、約280g/モルから約350g/モルの分子量を有するネオペンチルグリコール含有ジ(メタ)アクリレート、さらには約300g/モルから約330g/モルの分子量を有するネオペンチルグリコール含有ジ(メタ)アクリレートが含まれる。各種のネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートモノマーが市販されている。例えば、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジアクリレートは、サートマー(Sartomer Corporation)社から商品SR9003Bとして販売され、またシグマアルドリッチ(Sigma Aldrich Corporation)社から商品Aldrich-412147(約330g/モル;24℃で粘度約18cps;24℃で表面張力約34dynes/cm)として販売されている。ネオペンチルグリコールジアクリレートもやはり、シグマアルドリッチ社から商品Aldrich-408255(約212g/モル;粘度約7cps;表面張力約33dynes/cm)として販売されている。
【0046】
多官能性(メタ)アクリレート架橋剤は、少なくとも3つの反応性(メタ)アクリレート基を有することが望ましい。したがって、多官能性(メタ)アクリレート架橋剤は、例えば、トリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、および/またはさらに高次の多官能性(メタ)アクリレートでよい。ペンタエリスリトールテトラアクリレートまたはペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラメタクリレートは、一次架橋剤として用いることができる多官能性(メタ)アクリレートの例である。本明細書では、用語「一次」とは、インク組成物の他の成分も架橋に寄与し得るが、架橋はそれら成分の主な機能目的ではないことを示す。
【0047】
インク組成物が光重合開始剤を含む場合、所与のインク組成物に使用する特定の光重合開始剤は、デバイスの作製に使用する材料を損傷しない波長で活性化するように選択されることが望ましい。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を使用することができるが、多種多様な光重合開始剤を使用することができることが理解されるであろう。例えば、α-ヒドロキシケトン、フェニルグリオキシレート、α-アミノケトン類の光重合開始剤も検討することができるが、これに限定されるものではない。フリーラジカルを用いた重合を開始するには、各種光重合開始剤は、約200nmから約400nmの吸収プロファイルを有し得る。本明細書に開示のインク組成物および印刷方法の種々の実施形態では、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)および2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィン酸塩が好ましい特性を有する。アシルホスフィン系光重合開始剤の例としては、380nmで吸収するI型溶血開始剤(a type I hemolytic initiator)である、UV硬化型開始剤Irgacure(登録商標)TPO(以前は商品Lucirin(登録商標)TPOとして販売);380nmで吸収するI型光重合開始剤Irgacure(登録商標)TPO-L;370nmで吸収するIrgacure(登録商標)819;およびIrgacure(登録商標)907等がある。例として、350nmから395nmの公称波長で、最大1.5J/cmの放射エネルギー密度で発光する光源を用いて、TPO光重合開始剤を含むインク組成物を硬化させることができる。光重合開始剤の含有量は、約0.1重量%から約20重量%(約0.1重量%から約8重量%等)となるのが一般的である。
【0048】
本明細書に記載のインク組成物の種々の実施形態は光重合開始剤を含むが、光重合開始剤の代わりに、または光重合開始剤に加えて、他の種類の開始剤を使用することもできる。例えば、適切な他の硬化開始剤として、熱開始剤や、電子線開始剤等の他の種類のエネルギーを用いて重合を誘起する開始剤が挙げられる。
【0049】
インク組成物は、赤色発光QDまたは緑色発光QD、および任意選択で、有機結合材料中に分散したSPをさらに含むことになる。QDは、任意選択で被覆配位子の表面膜を含む。これらの被覆配位子は、QDを不動態化し、QDが凝集しないように安定化させるのを助けるものであるが、QDの液相成長の結果として生じることが多くある。また、QD含有インク組成物には、別の種類の配位子(本明細書では架橋性配位子と称する)が含まれてもよい。架橋性配位子は、通常は水素結合の形成によってQDに付着し、さらに硬化の際にインク組成物中のポリマー成分に共有結合的に架橋する。架橋性配位子は、重合性二重結合を有する1つ以上の官能基(例えば、アクリレート基またはメタクリレート基)と、インク組成物中のQDの表面に特定的に付着する官能基とを有することを特徴とするモノマーである。モノマーは、これらの官能基を分離するスペーサ鎖をさらに含んでもよい。このような架橋性配位子の二重官能性により、QDが硬化性インク組成物中で分散した状態で維持されるとともに、硬化過程におけるQDの再凝集が防止される。例えば、カルボキシル基(-COOH)、アミン基(-NR、ここでRはH原子またはアルキル基)、チオール基(-SH)を含むモノマーは、II-VI族元素で構成されるQDに対して強い結合親和性を有する。2-カルボキシエチルアクリレート(2CEA)は、オクタデシルアミンで被覆されたコアシェル型CdSe/ZnSQDに使用される架橋性配位子の一例である。
【0050】
インク組成物のある実施形態では、インク組成物の粘度および/または表面張力の調整、および/またはQDの高濃度化を可能にするように、有機溶媒を添加することができる。適切な有機溶媒としては、エステル類やエーテル類が挙げられる。インク組成物に含めることができる有機溶媒の例としては、高沸点有機溶媒(沸点が200℃以上である有機溶媒等)が挙げられる。上記には、沸点が230℃以上、250℃以上、さらには280℃以上である有機溶媒が含まれる。使用可能な高沸点有機溶媒の例としては、プロパンジオール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール類やグリコール類が挙げられる。高沸点非プロトン性溶媒(沸点が240℃以上である非プロトン性溶媒等)も使用可能である。スルホラン、2,3,4,5-テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド(テトラメチレンスルホンとしても知られる)は、比較的高沸点の非プロトン性溶媒の一例である。他の有機溶媒の非限定的な例としては、キシレン、メシチレン、プロピレングリコールメチルエーテル、メチルナフタレン、安息香酸メチル、テトラヒドロナフタレン、ジメチルホルムアミド、テルピネオール、フェノキシエタノール、およびブチロフェノンを挙げることができる。インク組成物中に有機溶媒が含まれる場合、前述のQD濃度およびモノマー濃度は、インク組成物の固形分含有量に基づく。
【0051】
QDおよび発光材料を添加して1つ以上のポリマー層を印刷するために使用され得る噴出可能なインク組成物の種類については、2015年7月22日出願の米国特許出願公開第2016/0024322号、2016年7月19日出願の米国特許出願公開第2017/0062762号、米国特許出願公開第2018/0102449号、および2017年7月18日出願のPCT国際特許出願公開第2018/017541号に記載されている。各出願内容の全体を参照により本明細書に組み込む。
【0052】
インク組成物は、米国特許第8,714,719号に記載の印刷システム等を用いて、大気中または不活性環境下で印刷することができ、上記特許の内容の全体を本明細書に組み込む。フィルムは、UV照射、熱エネルギー、または他の形態のエネルギー(例:電子ビーム)を用いて、大気中または不活性環境下で硬化させることができる。硬化中に、インク組成物中の揮発性成分(例えば、溶媒)が除去され、硬化性モノマーがポリマー鎖に重合して硬化フィルムが形成される。
【実施例0053】
実施例1:ペリレン染料を含有するインク組成物、および同インク組成物から形成されるフィルム
【0054】
赤色サブ画素に光吸収材料を含めることによって実現される改良を説明するために、2つのQDCFインク組成物(インクAおよびインクB)を調合した。インクAは、対照として使用したものであり、赤色発光QDを含有する紫外線(UV)硬化型インクである。インクBは、インクAと同様の組成を有するものであるが、青色光吸収材として、1重量%のペリレン誘導体染料(ルモゲンFイエロー083)を含有するものとした。
【0055】
QD:赤色発光QDは、ナノシス(Nanosys)社から販売された、親水性配位子で機能化したInP/ZnSQDである。
【0056】
発光材料:ルモゲンFイエロー083は、ビーエーエスエフ(BASF)社から販売されたものである。ルモゲンFイエロー083は、可視スペクトルの青色波長領域に吸収を有し、ジクロロメタン中で476nm付近に吸収極大を有するものであった。この染料は複数の発光ピークを有し、ジクロロメタン中で496nmにピーク最大値を有する。
【0057】
UV硬化型インク組成物:90重量%のベンジルメタクリレートモノマー、7重量%のペンタエリスリトールテトラアクリレート(PET)架橋剤、3重量%の光重合開始剤TPOを混合してUV硬化型インク組成物を調合した。この組成物の貯蔵液を調合し、保存した。
【0058】
ベース赤色インク組成物:乾燥させた赤色QD濃縮物170mgをUV硬化型インク組成物1mlに添加し、一晩ローラ上に放置した。次いで、0.45μmのナイロン膜を用いて、この組成物を濾過した。ベース赤色インク組成物中の赤色QDの最終濃度は15重量%であった。
【0059】
ベース発光団インク組成物:10mlのUV硬化型インク組成物に、200mgのルモゲンFイエロー083黄色染料粉末を添加した。得られた溶液を、染料が完全に溶解するまで電磁撹拌機で4時間撹拌した。染料の最終濃度は、約2重量%であった。
【0060】
インクA(比較例):別の薬瓶内で、0.2mlのベース赤色インク組成物を、0.2mlのUV硬化型インク組成物で希釈した。インクAの最終組成物は、約7.8重量%の配位子被覆InP/ZnSQD、約83重量%のベンジルメタクリレートモノマー、6.5重量%のPET、および2.7重量%のTPOであった。
【0061】
インクB(実施例):別の薬瓶内で、0.2mlのベース発光団インク組成物と0.2mlのベース赤色インク組成物とを混合した。得られた溶液を、十分に混合されるように電磁撹拌機で4時間撹拌した。インクBの最終組成物は、約7.8重量%の配位子被覆InP/ZnSQD、1重量%のルモゲンFイエロー083、約82重量%のベンジルメタクリレート、6.5重量%のPET、および2.7重量%のL-TPOであった。
【0062】
QDCFフィルム:50mm×50mmの寸法のスライドガラス上に、QDCFフィルムを形成した。基板を15分間UVオゾン処理し、その後、この基板上にインクAまたはインクBをドクターブレード法で塗布した。インクAを用いてQDCFフィルムAを作製し、インクBを用いてQDCFフィルムBを作製した。湿潤状態での目標膜厚は、約12μmであった。次いで、395nmのLEDを窒素環境下で励起させて湿潤フィルムを2分間硬化させた。フィルムは十分硬化したようであった。
【0063】
光学特性評価:自社製の光学特性評価機構の概略図を図3に示す。散光器を備えた一連の青色LEDをBLUとして使用した。QDCFフィルムでコーティングした基板をLED BLU上に配置し、この試料の上にオーシャンオプティクス(Ocean Optics)社の積分球(FOIS-l)を配置して順方向の光を全て捉えた。捉えた光には、ガラス基板およびQDCFフィルムを透過した青色光とQDからの発光との両方が含まれている。積分球は、SpectraSuiteソフトウェアを搭載したPCに接続したオーシャンオプティクス社のJAZシリーズ分光計(光ファイバーケーブル付き)に結合した。順方向に測定した青色LED基準スペクトルのスペクトル積分に対するQD発光領域のスペクトル積分をEQEとした。450nmにおけるODを、青色光のフィルム透過率値から以下のように算出した。OD=2-log(100x(%TQDCF)/(%T基板))、ここで、%TQDCFはQDCFフィルムを透過する光の百分率であり、%T基板は、基板を透過する光の百分率である。
【0064】
実験結果
【0065】
QDCFフィルムA(比較例):ベアガラス基板を通る青色LEDの基準スペクトル(「青色LED」)と、QDCFフィルムAを通る実際のスペクトル(「青色LED+QDCF」)とを図4に示す。
【0066】
インクB(実施例):ベアガラス基板を通る青色LEDの基準スペクトル(「青色LED」)と、QDCFフィルムBを通る実際のスペクトル(「青色LED+QDCF」)とを図5に示す。
【0067】
図4および図5から分かるように、QDCFフィルムBを透過した青色光は、QDCFフィルムAを透過した青色光の約50%である。結果を下記の表1に示す。
【表1】
【0068】
比較例のフィルム(7μm)は本発明のフィルム(10μm)よりも薄いものであったため、表1に示した比較例のフィルムのODは、膜厚10μmの厚さとして正規化して表に示した。表1に示すように、QDCFフィルムAの正規化ODが0.18であったのに対して、QDCFフィルムBの正規化ODは0.36であった。
【0069】
実施例2:クマリン染料を含有するインク組成物および同インク組成物から形成されるフィルム
【0070】
緑色サブ画素に光吸収材料を含めることによって実現される改良を説明するために、4種のQDCFインク組成物(インクA2、インクB2、インクC2、およびインクD2)を調合した。インクA2は、対照として使用したものであり、緑色発光QDを含有するUV硬化型インクである。インクB2、C2、D2は、インクAと同様の組成を有するものであるが、青色光吸収材料として、0.15重量%から0.24重量%のクマリンを含有するものとした。
【0071】
QD:緑色発光QDはナノシス社から販売されたものである。
【0072】
青色光吸収材料:インク組成物B2用のクマリン334、インク組成物C2用のクマリン314、およびインク組成物D2用のクマリン6は、それぞれシグマアルドリッチ社から販売されたものである。クマリンは、可視スペクトルの青色波長領域に吸収を有し、430nmから460nmの波長範囲に吸収極大を有するものであった。
【0073】
インク組成物A2(比較例)、インク組成物B2、インク組成物C2、およびインク組成物D2の調合を表2に示す。
【表2】
【0074】
QDCFフィルム:実施例1に記載の手順に従ってQDCFフィルムを形成した。
【0075】
光学特性評価:実施例1で説明したようにQDCFフィルムの光学特性を評価した。結果を表3に示す。
【表3】
【0076】
本明細書では、用語「例示的」とは、例、例証、または例示として機能することを意味する。本明細書に「例示的」として記載されている態様または設計はいずれも、必ずしも他の態様または設計よりも好ましい、または有利であると解釈されるものではない。さらに、本開示では、特段の明記がない限り、「1つの」は「1つ以上の」を意味する。
【0077】
本発明の例示的実施形態の前述の説明は、例示および説明の目的で提示したものである。前述の説明は、網羅的なものでも、本発明を本開示の形態に厳密に限定するものでもない。上記の教示に照らせば、または本発明の実施により、上記例示的実施形態の改変および変更が可能である。本発明の原理を説明するために、また、本発明の実用的な応用例として、上記実施形態を選択し説明した。したがって、当業者であれば、種々の実施形態において本発明を利用し、また、企図された特定の使用に適した種々の改変を加えることができるであろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義されるものである。

図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】