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特開2024-170398膵がん治療のための組み合わせ治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170398
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】膵がん治療のための組み合わせ治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4523 20060101AFI20241203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K31/4523
A61P43/00 121
A61P35/00 ZNA
A61P1/16
A61P35/04
A61K31/5025
A61P35/00
A61K31/4523 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024125935
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2019510651の分割
【原出願日】2017-08-22
(31)【優先権主張番号】62/378,322
(32)【優先日】2016-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】セトルマン,ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】サフ,ニセビータ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】肝臓転移の治療を必要とする対象において肝臓転移を治療するための組み合わせ医薬品を提供する。
【解決手段】組み合わせ医薬品であって、治療有効量の活性剤の組み合わせを含み、前記組み合わせが、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩とを含み、前記コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩が45mg~75mgの量で存在し、前記ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩が30mg~60mgの量で存在する、組み合わせ医薬品が提供される。
【選択図】図20A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵がんの治療を必要とする対象において膵がんを治療する方法であって、治療有効量の
活性剤の組み合わせを前記対象に投与するステップを含み、前記組み合わせが、MEK阻
害剤と、PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ剤とを含む
、方法。
【請求項2】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチニブ、ビニメチニブ
、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325901およびBI-
847325、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブ、およびトラメチニブ、またはそれらの薬学的に許
容される塩からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩である、請求項3
に記載の方法。
【請求項5】
前記マルチキナーゼ剤が、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記膵がんが内分泌がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記膵がんが外分泌がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記膵がんが、腺がん、腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、粘液がん、破骨細胞様巨細胞
を伴う未分化がん、肝様腺がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、膵芽腫、漿液
性嚢胞腺腫、印環細胞がん、充実性偽乳頭状腫瘍、膵管がん、および未分化がんである、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記膵がんが膵管腺がんである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組み合わせが相乗的である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記活性剤が逐次に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記活性剤が同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記MEK阻害剤および前記マルチキナーゼ阻害剤が組み合わせ製剤として投与される
、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記MEK阻害剤が約45mg~約75mgの量で投与され、前記マルチキナーゼ阻害
剤が約30mg~約60mgの量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記量が1日1回投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記MEK阻害剤がコビメチニブまたはその薬学的に許容される塩であり、前記マルチ
キナーゼ阻害剤がポナチニブまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の
方法。
【請求項17】
膵がんの治療のための、a)MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、b)P
DGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学
的に許容される塩との組み合わせ。
【請求項18】
有効量の、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、お
よびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩との組み
合わせと、薬学的に許容される賦形剤とを含む薬学的組成物であって、前記組成物が膵が
んの治療用である組成物。
【請求項19】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチニブ、ビニメチニブ
、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325901およびBI-
847325、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項
18に記載の組成物。
【請求項20】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブ、およびトラメチニブ、またはそれらの薬学的に許
容される塩からなる群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記MEK阻害剤が、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩である、請求項2
0に記載の組成物。
【請求項22】
前記マルチキナーゼ剤が、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩である、請求項
18に記載の組成物。
【請求項23】
コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナチニブまたはその薬学的に許容
される塩とを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
前記MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩が約45mg~約75mgの量で存
在し、前記マルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩が約30mg~約60
mgの量で存在する、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTA
T3を標的とするマルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩と、容器と、添付文
書またはラベルとを含む、キット。
【請求項26】
前記MEK阻害剤が約1mg/kg~約50mg/kgの用量で投与され、前記マルチ
キナーゼ阻害剤が約1mg/kg~約50mg/kgの用量で投与される、請求項1に記
載の方法。
【請求項27】
前記MEK阻害剤が約1mg/kg~約10mg/kgの用量で投与され、前記マルチ
キナーゼ阻害剤が約10mg/kg~約40mg/kgの用量で投与される、請求項26
に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において記載される課題は、MEK阻害剤とRTK、S6、およびJAK/S
TATを標的とする多標的剤との組み合わせによる膵がんの治療に関する。
【0002】
[EFS-Webを介したテキストファイルとして提出され配列表への参照]
配列表の公式コピーは、2017年8月10日に作成され、471バイトのサイズを有
する501159SEQLIST.TXTという名称のファイルによってASCII形式
の配列表としてEFS-Web経由で電子的に送信され、本明細書と同時に提出される。
このASCII形式の文書に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照
により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
膵管腺がん(PDAC)は最も悪性のがんの1つであり、培養モデルで試験された膵が
ん細胞からの薬物応答の結果に基づいて数多くの治療法が研究されてきた。PDAC腫瘍
の大部分は、MAPKシグナル伝達のKRAS変異に駆動される活性化によって引き起こ
され(Jones S,Zhang X,Parsons DW,Lin JC,Lea
ry RJ,Angenendt P,Core signaling pathway
s in human pancreatic cancers revealed b
y global genomic analyses,Science,2008;3
21(5897):1801-6,Epub 2008/09/06、Biankin
AV,Waddell N,Kassahn KS,Gingras MC,Muthu
swamy LB,Johns AL,Pancreatic cancer geno
mes reveal aberrations in axon guidance
pathway genes,Nature,2012;491(7424):399-
405,Epub 2012/10/30、Cid-Arregui A,Juarez
V,Perspectives in the treatment of panc
reatic adenocarcinoma,World Journal of G
astroenterology,2015;21(31):9297-316,Epu
b 2015/08/27)、それによって、MEKがPDAC患者における治療的介入
のための重要な候補標的として強調されている。しかしながら、前臨床および臨床研究は
、様々な補償メカニズムを介したMAPK阻害剤に対する抵抗性が急速に発達し、それに
より阻害剤の有効性を限定し、薬物抵抗性の腫瘍の発生をもたらす可能性があるために、
MAPK経路阻害のみでは効力が欠如することを明らかにした。(Baines AT,
Xu D,Der CJ,Inhibition of Ras for cancer
treatment:the search continues,Future M
edicinal Chemistry,2011;3(14):1787-808,E
pub 2011/10/19、McCubrey JA,Steelman LS,C
happell WH,Abrams SL,Franklin RA,Montalt
o G,Ras/Raf/MEK/ERK and PI3K/PTEN/Akt/mT
OR cascade inhibitors:how mutations can
result in therapy resistance and how to
overcome resistance,Oncotarget,2012;3(10
):1068-111,Epub 2012/10/23、Junttila MR,D
evasthali V,Cheng JH,Castillo J,Metcalfe
C,Clermont AC,Modeling targeted inhibit
ion of MEK and PI3 kinase in human pancr
eatic cancer,Molecular Cancer Therapeuti
cs,2015;14(1):40-7,Epub 2014/11/08).
【0004】
MEK阻害剤に対する感受性および抵抗性の根底にあるメカニズムの理解を深めること
で、膵がん細胞を標的とするのに有効なMEK阻害剤と組み合わせて使用する阻害剤を特
定することができる。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本明細書において記載される課題は、膵がんの治療を必要とする対象
において膵がんを治療する方法であって、治療有効量の活性剤の組み合わせを上記対象に
投与するステップを含み、上記組み合わせが、MEK阻害剤と、PDGFRα、S6、お
よびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ剤とを含む、方法に関する。
【0006】
別の態様において、本明細書において記載される課題は、膵がんの治療のための、a)
MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、b)PDGFRα、S6、およびST
AT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わ
せに関する。
【0007】
別の態様において、本明細書において記載される課題は、有効量の、MEK阻害剤また
はその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマ
ルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わせと、薬学的に許容される
賦形剤とを含む薬学的組成物であって、上記組成物が膵がんの治療用である組成物に関す
る。
【0008】
別の態様において、本明細書において記載される課題は、膵がんの治療のための、a)
MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩、ならびにPDGFRα、S6、およびS
TAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、b)膵
がんの治療を示す添付文書またはラベルとを含む、膵がんの治療のためのキットに関する
【0009】
これらおよび他の態様は以下に十分に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】2D単層培養および3Dスフェロイド培養におけるKP4 PDAC細胞によるMEK阻害に対する異なる応答を示す。2Dおよび3D培養におけるKP4がん細胞の小分子阻害剤スクリーニング。
図2】2D単層培養および3Dスフェロイド培養におけるKP4 PDAC細胞によるMEK阻害に対する異なる応答を示す。パネルCにおいて異なる活性化をしたタンパク質の位置を暗くしたホスホキナーゼアレイの配置。
図3】2D単層培養および3Dスフェロイド培養におけるKP4 PDAC細胞によるMEK阻害に対する異なる応答を示す。2Dおよび3DにおけるKP4細胞のホスホキナーゼアレイ。
図4】2D単層培養および3Dスフェロイド培養におけるKP4 PDAC細胞によるMEK阻害に対する異なる応答を示す。2Dまたは3Dで培養し、24時間コビメチニブで処理したKP4細胞のRT-PCRによるタンパク質キナーゼアレイ。試料をDMSO処理KP4 2D対照に対して標準化した。
図5】2D単層培養および3Dスフェロイド培養におけるKP4 PDAC細胞によるMEK阻害に対する異なる応答を示す。2Dまたは3Dで培養し、24時間コビメチニブで処理したKP4細胞のルシフェラーゼレポーターアッセイ。ルシフェラーゼ活性の倍率変化に顕著な差がある転写因子は赤色で示されている。
図6A-B】MEK阻害がPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を誘導することを示す。(図6A)KP4細胞におけるコビメチニブ処理時のPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を検証する免疫ブロット。(図6B)ウエスタンブロットによるPDAC細胞株およびKPP-GEMM由来細胞株におけるコビメチニブ処理時のp-STAT3の増加の検証。
図7】MEK阻害がPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を誘導することを示す。IL-6分泌レベルを、24時間コビメチニブで処理したPDAC細胞株の2D培養上清中で測定した。
図8】MEK阻害がPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を誘導することを示す。KP4およびMIA-PACA2細胞の生存率に対する、コビメチニブと組み合わせたDox誘導性STAT3ノックダウンの効果を測定するCTGアッセイ。
図9】MEK阻害がPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を誘導することを示す。Dox(1μg/ml)で72時間処理した後のSTAT3の効率的なノックダウンを裏付けるウエスタンブロット。
図10】MEK阻害がPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を誘導することを示す。マトリゲル浸潤アッセイにおいて、10%FBSに応答した2Dおよび3Dで培養した膵がん細胞の浸潤能の定量化。
図11】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。シグナル伝達受容体および下流の標的の活性化に対するコビメチニブと組み合わせたマルチRTK阻害剤ポナチニブの効果をウエスタンブロットによって検証した。
図12】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。コビメチニブ+/-ポナチニブまたはJAK阻害剤によるSTAT3活性化および切断されたPARPの誘導に対する効果をウエスタンブロットによって検証した。
図13】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。2Dおよび3D培養においてコビメチニブ+/-ポナチニブで前処理したKP4細胞のPathScan Multiplexウエスタンブロット分析。
図14】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。コビメチニブ+/-ポナチニブ/S6/PDGFRα阻害剤によるS6活性化および切断されたPARPの誘導に対する効果をウエスタンブロットによって検証した。
図15】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。KP4細胞の生存率に対するコビメチニブおよびルキソリチニブと組み合わせたPDGFR阻害剤クレノラニブの効果をCTGアッセイを用いて測定した。
図16】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。コビメチニブとポナチニブとの間の相乗作用を、ブリス分析を用いて膵がん細胞株において分析した。
図17】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。コビメチニブとポナチニブとの間の相乗作用を、ブリス分析を用いて膵がん細胞株において分析した。
図18】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。KP4細胞におけるコビメチニブとS6阻害剤ラパマイシンとの間の相乗効果のブリス分析。
図19】コビメチニブと組み合わせたS6およびSTAT3の阻害が膵がん細胞の死滅を増大させることを示す。KP4細胞におけるコビメチニブとGDC-0980との間の相乗効果のブリス分析。
図20A-B】PDGFRα/S6/STAT3およびMEKの阻害が腫瘍増殖を阻害し、血清PDGFαを減少させることを示す(図20A)。KP4異種移植モデルの腫瘍成長曲線(平均±SEM)コビメチニブ(5mg/kg、PO、QD)および/またはポナチニブ(30mg/kg、PO、QD)で24時間ごとに処理した(各コホートについてn=10)、(図20B)(図20A)におけるように処理されたKPP異種移植モデルの腫瘍増殖曲線(平均±SEM)。
図21】PDGFRα/S6/STAT3およびMEKの阻害が腫瘍増殖を阻害し、血清PDGFαを減少させることを示す。KP4異種移植からの代表的な腫瘍切片を、p-STAT3、p-Erk、および切断カスパーゼ3をIHCによって検出するために染色、または、IFによって検出するためにp-STAT3およびF4/80またはp-PDGFRαに対する抗体で共染色した。スケールバー:IHCスライドについては20μm、IFスライドについては50μm。
図22】PDGFRα/S6/STAT3およびMEKの阻害が腫瘍増殖を阻害し、血清PDGFαを減少させることを示す。KP4異種移植腫瘍のコビメチニブ/ポナチニブ治療時のPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を検証する免疫ブロット。
図23】PDGFRα/S6/STAT3およびMEKの阻害が腫瘍増殖を阻害し、血清PDGFαを減少させることを示す。KP4異種移植マウスの血漿試料の増殖因子およびサイトカインに対するLuminexアッセイ。
図24】PDAC患者試料由来の膵腫瘍および転移におけるp-Erkおよびp-STAT3の分析を示す。82のPDAC患者由来の原発性腫瘍および転移における悪性腫瘍の種々のステージのp-Erkおよびp-STAT3陽性試料の分布。
図25】PDAC患者試料由来の膵腫瘍および転移におけるp-Erkおよびp-STAT3の分析を示す。PDAC患者試料におけるp-Erkおよびp-STAT3を染色した代表的な原発性腫瘍および肝臓の切片。スケールバー:20μm。
図26】PDAC患者試料由来の膵腫瘍および転移におけるp-Erkおよびp-STAT3の分析を示す。PDAC患者腫瘍試料におけるPDGFRおよびIL-6Rの発現のマイクロアレイ分析。
図27A-B】微小転移巣の組織病理学的特徴を有するKP4由来の3Dスフェロイドは、小分子阻害剤に対して異なる感受性を示すことを示す。KP4細胞を、10%正常FBS(2D培養用)または10%予め熱湯加熱されているFBS(3D培養用)を含むRPMI培地で3日間培養し、Ki67、p-STAT3、および切断カスパーゼ-3について、2D細胞ペレットまたは3Dスフェロイドに対してIHCを実施した。
図28】微小転移巣の病理組織学的特徴を有するKP4由来の3Dスフェロイドが小分子阻害剤に対して異なる感受性を示すことを示す。10%予め熱湯加熱されているFBSを用いて形成されたスフェロイドは他の従来の3D培養法で見られるのと同様の薬物感受性プロファイルを示す。
図29】微小転移巣の病理組織学的特徴を有するKP4由来の3Dスフェロイドが小分子阻害剤に対して異なる感受性を示すことを示す。異なる3D培養法から形成されたスフェロイドの細胞生存率アッセイおよびコロニー数アッセイ。
図30】コビメチニブ/ポナチニブの共処理が腫瘍増殖を阻害し、腫瘍関連マクロファージの浸潤を減少させることを示す。IHCによってp-Erkとp-STAT3抗体で調べられるか、または免疫蛍光によって抗p-STAT3と抗F4/80の共染色されたKPP異種移植由来の代表的な腫瘍切片。スケールバー:IHCスライドについては20μm、IFスライドについては50μm。
図31A-B】コビメチニブ/ポナチニブの共処理が腫瘍増殖を阻害し、腫瘍関連マクロファージ浸潤を減少させることを示す。KP4およびKPP異種移植モデルにおけるコビメチニブ+/-ポナチニブ投与マウスの体重変化。
図32】コビメチニブ/ポナチニブの共処理が腫瘍増殖を阻害し、腫瘍関連マクロファージ浸潤を減少させることを示す。KP4異種移植マウスの血漿試料の増殖因子のLuminexアッセイ。
図33】コビメチニブ/ポナチニブ共処理が腫瘍増殖を阻害し、腫瘍関連マクロファージ浸潤を減少させることを示す。KPP異種移植腫瘍のコビメチニブ/ポナチニブ治療時のPDGFRα、S6、およびSTAT3の活性化を検証する免疫ブロット。
【0011】
図6~23のデータは平均値±SEMとして表される。*P<0.05、スチューデン
トのt検定。
【発明を実施するための形態】
【0012】
膵管腺がん(PDAC)は最も致命的な人間の病気の一つであり、利用可能な薬物治療
にはほとんど難治性のままである。ほとんどの膵がんにおいて、KRASに駆動されるM
EK経路が変異により活性化されており、治療法の重要な標的である。しかしながら、既
知の発がん性推進因子の不十分な標的化および補償性フィードバックループの活性化、な
らびに転移の拡大を防げないことが、この疾患の予後不良の一因となる。
【0013】
膜貫通受容体チロシンキナーゼ(RTK)の活性化は、結果的に細胞運命の調節をもた
らす多数の生化学的カスケードを誘発する。この活性化は、細胞外環境中の分子、主に増
殖因子、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、および隣接細胞の表面に存在する接
着分子によって調節される。これらのシグナルに対する細胞の応答は、分子が細胞の表面
に存在する特定の受容体に結合するときに起きる。多くの成長因子(GF)は、受容体型
チロシンキナーゼ(RTK)ファミリーの膜貫通糖タンパク質に結合し、それらを活性化
する。
【0014】
RTKは、細胞外リガンド結合ドメイン、単一の膜貫通ドメイン、およびチロシンキナ
ーゼドメイン、ならびにいくつかの調節性チロシンを含む細胞内の構成要素を含む。RT
Kは細胞質STATファミリー転写因子をリン酸化し活性化することができる。これらの
活性化されたSTATは核に移行する。核内に入ると、STATは細胞増殖に関与する遺
伝子の転写を高める。
【0015】
血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)は、血小板由来増殖因子(PDGF)ファミ
リーのメンバーのための細胞表面チロシンキナーゼ受容体である。PDGFRαおよびP
DGFRβのアイソフォームは、細胞増殖、細胞分化、細胞増殖および発生を調節する因
子である。結合すると、2つのアイソフォームが二量体化してキナーゼ活性およびPDG
FRのリン酸化を活性化する。増殖因子受容体のチロシンリン酸化部位はキナーゼの活性
レベルを制御し、そして多くの場合、同様にキナーゼの基質でもある下流のシグナル伝達
のための結合部位である。S6リボソームタンパク質などの下流のシグナル伝達分子を含
むこのシグナル伝達カスケードは、がんを含む多くの疾患に関与している。
【0016】
本明細書において記載されるように、二次元単層培養システムおよび三次元スフェロイ
ド培養システムを使用することで、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩とPD
GFRα、S6、およびSTAT3を標的とする多標的剤またはその薬学的に許容される
塩とによる併用治療が、単層およびスフェロイドの両方において膵がん細胞を標的化する
のに有効であったことが見出された。理論に拘束されるものではないが、この組み合わせ
は、がん細胞におけるSTAT3およびS6の媒介する補償性フィードバックループの活
性化も防止しながら、PDGFRαおよびMEKキナーゼを介したシグナル伝達を効果的
に遮断することができる。さらに、本明細書中に記述されるように、異種移植モデルを用
いて、MEK阻害剤とポナチニブとの共処理は、腫瘍退縮を引き起こし、同時に膵腫瘍微
小環境において腫瘍関連マクロファージを標的とすることによって、PDAC腫瘍進行を
促進する骨髄集団を阻害し、それによって、二重のメカニズムを介して腫瘍退縮を促進す
る。PDAC患者試料は、腫瘍におけるSTAT3活性化および肝臓転移におけるErk
活性化の増大を明らかにし、STAT3およびErkがそれぞれPDAC腫瘍および肝臓
転移における重要な推進因子であることを示唆している。本明細書において記載されてい
るように、これらの結果は膵がんの効果的な治療のための併用薬物治療戦略を示している
。さらに、単独で投与したときの活性剤は、膵がんに対して有効性を示さない可能性があ
る。
【0017】
PDGFRβ、MEK、S6、およびSTAT3として同定された生存経路は、様々な
がんモデルにおいて腫瘍形成および転移に関与すると報告されており(Lesina M
,Kurkowski MU,Ludes K,Rose-John S,Treibe
r M,Kloppel G,Stat3/Socs3 activation by
IL-6 transsignaling promotes progression
of pancreatic intraepithelial neoplasia
and development of pancreatic cancer,Ca
ncer Cell,2011;19(4):456-69,Epub 2011/04
/13、Yen TW,Aardal NP,Bronner MP,Thorning
DR,Savard CE,Lee SP,Myofibroblasts are
responsible for the desmoplastic reactio
n surrounding human pancreatic carcinoma
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382-94,Epub 2014/04/15、Corcoran RB,Rothe
nberg SM,Hata AN,Faber AC,Piris A,Nazari
an RM,TORC1 suppression predicts respons
iveness to RAF and MEK inhibition in BRA
F-mutant melanoma,Science Translational
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8/02、Corcoran RB,Cheng KA,Hata AN,Faber
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raction of combined BCL-XL and MEK inhib
ition promotes tumor regressions in KRAS
mutant cancer models,Cancer Cell,2013;2
3(1):121-8,Epub 2012/12/19、Deng J,Liu Y,
Lee H,Herrmann A,Zhang W,Zhang C,S1PR1-S
TAT3 signaling is crucial for myeloid ce
ll colonization at future metastatic sit
es,Cancer Cell,2012;21(5):642-54,Epub 20
12/05/26、Corcoran RB,Contino G,Deshpande
V,Tzatsos A,Conrad C,Benes CH,STAT3 pla
ys a critical role in KRAS-induced pancr
eatic tumorigenesis,Cancer Research,2011
;71(14):5020-9,Epub 2011/05/19)、原発性膵腫瘍にお
けるMEK阻害は、PDGFRα、S6、およびSTAT3を介した代替のシグナル伝達
経路の活性化を誘発し、これが単剤MEK阻害に対する抵抗性に寄与することが今や見出
されている。特に、個別には細胞生存率に影響を示さなかった個々の剤が、組み合わせた
ときに2Dおよび3D培養の両方において細胞増殖を阻害することが示されている。した
がって、MEK阻害と組み合わせたPDGFRα、S6、およびSTAT3活性化の阻害
は、膵腫瘍におけるMEK阻害剤コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩に対する
抵抗性の誘導を妨げた。一実施形態において、マルチRTKおよびJAK2阻害剤ポナチ
ニブまたはその薬学的に許容される塩をコビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と
組み合わせて治療することは、上述のように、現在診療所で探索されている薬物治療計画
に対して一般的に難治性である膵腫瘍の標的化に非常に有効である。
【0018】
膵管腺がん(PDAC)は、攻撃的な腫瘍増殖、転移、免疫抑制、および薬剤耐性に寄
与する様々な間質要素の顕著な関与と関連している。(Cid-Arregui A,e
t al.,(2015)、Hidalgo M.Pancreatic cancer
,The New England Journal of Medicine,201
0;362(17):1605-17,Epub 2010/04/30、Korc M
.Pancreatic cancer-associated stroma pro
duction,American Journal of Surgery,2007
;194(4 Suppl):S84-6,Epub 2007/12/06、Inma
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or the immune system in initiation and p
rogression of pancreatic cancer,World Jo
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work in pancreatic cancer development an
d progression,Oncogene,2014;33(23):2956-
67,Epub 2013/07/16、Moses AG,Maingay J,Sa
ngster K,Fearon KC,Ross JA,Pro-inflammat
ory cytokine release by peripheral blood
mononuclear cells from patients with ad
vanced pancreatic cancer:relationship to
acute phase response and survival,Oncol
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03/17、Tjomsland V,Niklasson L,Sandstrom
P,Borch K,Druid H,Bratthall C,The desmop
lastic stroma plays an essential role in
the accumulation and modulation of infi
ltrated immune cells in pancreatic adeno
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ology,2011;2011:212810,Epub 2011/12/23、S
ilvestris N,Gnoni A,Brunetti AE,Vincenti
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eatic cancer:Is there a light at the end
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/05/07、Tuveson DA,Neoptolemos JP,Underst
anding metastasis in pancreatic cancer:a
call for new clinical approaches,Cell,2
012;148(1-2):21-3,Epub 2012/01/24)。腫瘍関連マ
クロファージは、膵腫瘍に浸潤し、患者の予後不良と相関する最も一般的な間質細胞型の
一つである。(Vonderheide RH,Bayne LJ,Inflammat
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pancreatic carcinoma,Current Opinion in
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tion and clinical significance of tumour
-associated macrophages in pancreatic du
ctal adenocarcinoma:a retrospective anal
ysis in China,Curr.Oncol.2015;22(1):e11-
9,Epub 2015/02/17)。最近の研究はさらに、腫瘍の進行および転移に
おけるTAMの重要な役割を示唆している。(Noy R,Pollard JW.Tu
mor-associated macrophages:from mechanis
ms to therapy,Immunity,2014;41(1):49-61,
Epub 2014/07/19、Melero I,Gaudernack G,Ge
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ng local macrophage phenotypes in diseas
e:modulating macrophage function to trea
t cancer,Nature Medicine,2015;21(2):117-
9,Epub 2015/02/06)。本願発明者らの発見は、MEK阻害に応答した
PDACにおける腫瘍細胞とTAMの両方におけるSTAT3シグナル伝達軸の役割を暗
示する。本願発明者らの結果はさらに、MEK阻害剤、例えばコビメチニブ/PDGFR
α、S6と、STAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤、例えばポナチニブとの共処
理は、原発性腫瘍内の骨髄細胞とがん細胞の両方を標的とすることができ、細胞死滅と腫
瘍退縮の増大を引き起こすことを示唆する。
【0019】
本明細書において開示される課題は、これ以降、より十分に説明される。しかしながら
、本明細書において記述される本開示の課題の多くの修正形態および他の実施形態は、本
開示の課題が関係する当業者には先行する説明に提示された教示の利益を享受して思い浮
かぶであろう。したがって、本開示の課題は開示された特定の実施形態に限定されるべき
ではなく、修正および他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図され
ることを理解されたい。換言すると、本明細書において記載される課題は、すべての代替
形態、修正形態、および均等物を包含する。組み込まれた文献、特許、および類似の資料
の1つ以上が、定義された用語、用語の使用法、記載された技術などを含むがこれらに限
定されない本出願と異なるかまたは矛盾する場合、この出願が優先する。別途定義されな
い限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、当業者によって一般に
理解されるのと同一の意味を有する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出
願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書の一部をなすものとす
る。
【0020】
I.定義
用語「膵がん」は、膵臓に由来する新生物を指す。膵がんには、外分泌がんおよび内分
泌がんが含まれる。ほとんどの膵がんは外分泌腫瘍である。膵内分泌腫瘍は島細胞腫瘍と
も呼ばれる。残念なことに、現在では、膵がんの予後は、早期に発見されたときでさえ不
良である。本明細書において記載される方法で治療することができる膵がんには、外分泌
膵がんおよび内分泌膵がんが含まれるがこれらに限定されない。外分泌性膵がんとしては
、腺がん、腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、粘液がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化が
ん、肝様腺がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、膵芽腫、漿液性嚢胞腺腫、印
環細胞がん、充実性偽乳頭状腫瘍、膵管がん、ならびに未分化がんが含まれるがこれらに
限定されない。いくつかの実施形態において、膵外分泌がんは膵管がんである。膵内分泌
がんには、インスリノーマおよびグルカゴノーマが含まれるがこれらに限定されない。
【0021】
いくつかの実施形態において、膵がんは、早期膵がん、非転移性膵がん、原発性膵がん
、切除膵がん、進行性膵がん、局所進行性膵がん、転移性膵がん、切除不能膵がん、寛解
中の膵がん、再発性膵がん、補助療法中の膵がん、または術前補助療法中の膵がんのいず
れかである。いくつかの実施形態において、膵がんは局所進行膵がん、切除不能膵がん、
または転移性膵管がんである。いくつかの実施形態において、膵がんはゲムシタビンに基
づく治療に抵抗性である。いくつかの実施形態において、膵がんはゲムシタビンに基づく
治療に難治性である。
【0022】
本明細書において記載される方法は、以下の目的のうちの任意の1つ以上に使用するこ
とができる:膵がんの1つ以上の病状の緩和、膵がんの進行の遅延、膵がんの腫瘍サイズ
の縮小、膵がんの間質の破壊(破壊など)、膵臓の腫瘍増殖の阻害、全生存期間の延長、
無病生存期間の延長、膵がん疾患進行までの期間の延長、膵がん腫瘍転移の予防または遅
延、既存の膵がん腫瘍転移の減少(根絶など)、既存の膵がん腫瘍転移の発生または負担
の軽減、膵がんの再発防止、および/または膵がん患者の臨床的利益の改善。
【0023】
本明細書において記載される膵がん治療方法は、原発性腫瘍および転移性腫瘍を含む、
膵がんの増殖、発生または拡大を阻害、緩徐化、または回復させるために、治療有効量の
MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTAT
3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはそれらの薬学的に許容される塩との組み合わ
せを、治療を必要とする対象(ヒトまたは動物)に投与するステップを含む。そのような
投与は、投与された活性剤のうちの1つによって阻害される1つ以上のキナーゼおよび/
または生存経路によって媒介される疾患の治療または予防のための方法を構成する。本明
細書において開示される化合物の「投与」または「投与するステップ」は、本明細書にお
いて記載される任意の適切な製剤または投与経路を用いた、活性剤、またはそのプロドラ
ッグもしくは他の薬学的に許容される誘導体の受容者への送達を包含する。MEK阻害剤
およびマルチキナーゼ阻害剤は、どちらの順序でも、連続的に、逐次的に、または両方の
組み合わせで投与することができる。
【0024】
用語「対象」は、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、
ウサギ、ラット、マウスなどを含むがこれらに限定されない哺乳動物などの動物を指す。
ある特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0025】
用語「予防」または「予防的」は、組み合わせが投与されなかった場合に予想されるで
あろう疾患または状態の病状が継続的に非存在であることを指す。
【0026】
本明細書において使用されるとき、用語「相乗的」は、2つ以上の単剤の相加効果より
も効果的な治療上の組み合わせを指す。PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的と
するマルチキナーゼ阻害剤とMEK阻害剤との間の相乗的相互作用の決定は、本明細書に
おいて記載されるアッセイから得られる結果に基づくことができる。例えば、本明細書に
開示されているインビボまたはインビトロ方法。これらのアッセイの結果は、組み合わせ
指数を得るために、ChouとTalalayの組み合わせ方法およびCalcuSyn
ソフトウェアによる用量効果分析を用いて分析することができる(Chou and T
alalay,1984,Adv.Enzyme Regul.22:27-55)。提
供された組み合わせは、1つ以上のアッセイシステムにおいて評価することができ、デー
タは、抗がん剤間の相乗作用、相加作用、および拮抗作用を定量化するための標準プログ
ラムを利用して分析することができる。例示的なプログラムは、ChouおよびTala
layによって、New Avenues in Developmental Can
cer Chemotherapy,Academic Press,1987,Cha
pter 2に記載されている。0.8未満の組み合わせ指数値は相乗作用を示し、1.
2を超える値は拮抗作用を示し、0.8~1.2の値は相加効果を示す。組み合わせ治療
薬は、「相乗効果」を提供し、「相乗的」、すなわち、共に使用される活性剤が化合物を
別個に使用することから生じる効果の合計よりも大きいときに達成される効果を立証する
ことができる。相乗効果は、活性剤が以下のときに達成され得る:(1)組み合わせた単
位投与製剤で同時に共製剤化され、投与または送達される、(2)別個の製剤として、交
互にまたは並行して送達される、または(3)他の投与計画による。交互療法で送達され
るとき、化合物が逐次的に投与または送達されるとき、例えば別個の注射器中の異なる注
射によって相乗効果が達成され得る。一般に、交互療法の間、有効用量の各々の活性剤は
逐次的に、すなわち連続的に投与されるが、組み合わせ治療薬においては、有効量の2つ
以上の活性剤が共に投与される。併用効果は、ブリス独立性モデルと最高単剤(HSA)
モデルの両方を用いて評価することができる(Lehar et al.,Molecu
lar Systems Biology,3:80(2007))。ブリススコアは単
剤からの増強の程度を定量化し、そして正のブリススコア(0より大きい)は単純な相加
性より大きいことを示唆する。250を超える累積陽性ブリススコアは、試験した濃度範
囲内で観察された強い相乗効果とみなされる。HSAスコア(0より大きい)は、対応す
る濃度での単剤の応答の最大値より大きい併用効果を示唆する。
【0027】
「スフェロイド」は、生物学的細胞が3つの次元の全てにおいて増殖するかまたはそれ
らの周囲と相互作用する人工的環境における三次元(3D)細胞培養として当該分野で知
られている細胞培養をいう。ペトリ皿などの2D環境とは異なり、3D細胞培養では、イ
ンビボでの増殖方法と同様に、インビトロで全ての方向での細胞の増殖を可能にする。人
工環境は、特定の栄養素や細胞の増殖を可能にするその他の因子を提供する培地を含む。
本明細書において記載される培地は、迅速な細胞培養のための環境を提供する。「急速な
」という用語は、比較培地における同一の細胞増殖に必要な期間より短い期間を指す。
【0028】
用語「接触する」または「接触すること」は、活性剤が標的に結合し、その活性を阻害
し、減少させる、または低減することができるように、標的である酵素または生存経路に
対して活性剤を十分接近させていることを意味する。
【0029】
本明細書において使用されるとき、用語「哺乳動物」は、ヒトおよび全ての他の哺乳動
物をいう。本明細書において使用されるとき、用語「哺乳動物」は「対象」または「患者
」を含み、そして温血動物を指す。モルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ヤ
ギ、ウシ、ヒツジ、動物園の動物、家畜、霊長類、およびヒトはすべて、この用語の意味
の範囲内の動物の例であると理解される。
【0030】
本明細書において使用されるとき、「それを必要とする哺乳動物」は、治療されること
が意図される特定の状態、例えば膵がんまたは特定の型の膵がんに罹患していると診断さ
れた対象である。
【0031】
用語「治療する」および「治療」は、治療的治療と予防的(prophylactic
またはpreventative)手段の両方を指し、その目的は、がんの発症または拡
大などの望ましくない生理学的変化または障害を予防または減速(軽減)することである
。本開示の目的のために、有益なまたは望ましい臨床結果には、病状の緩和、疾患の程度
の減少、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅延または緩徐化、
病態の寛解または好転、および検出可能か検出不能かにかかわらず緩解(部分的または全
体的)が含まれるがこれらに限定されない。「治療」はまた、治療を受けない場合に予想
される生存期間と比較して延長された生存期間を意味することもできる。治療の必要のあ
るものは、状態もしくは障害をすでに有するもの、および状態もしくは障害を有する傾向
にあるもの、または状態もしくは障害を予防すべきものを含む。
【0032】
本明細書における用語「阻害剤」の使用は、標的酵素の活性を阻害する分子を意味する
ことを意味する。本明細書において「阻害する」とは、阻害剤の非存在下でのその酵素の
活性と比較して、標的酵素の活性を減少させることを意味する。いくつかの実施形態にお
いて、用語「阻害する」は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20
%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70
%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の、MEK活
性の低下またはがん細胞の特定の生存経路の低下を意味する。他の実施形態において、阻
害は、約5%~約25%、約25%~約50%、約50%~約75%、または約75%~
100%の活性の減少を意味する。いくつかの実施形態において、阻害は、約95%~1
00%の活性の低下、例えば、95%、96%、97%、98%、99%、または100
%の活性の低下を意味する。そのような減少は、当業者によって認識され得るであろう、
インビトロキナーゼアッセイを含む様々な技術を使用して測定できる。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「MEK阻害剤」は、MEK(MEK1および/または
MEK2)の1つ以上の生物活性を低減する、阻害する、またはそうでなければ減退させ
る分子である。活性は、適切な対照と比較して、例えば少なくとも約5%、10%、15
%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65
%、70%、75%、80%、85%、95%または100%の減少を含む統計的に有意
な量のMEKの活性を減少し得る。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、「マルチキナーゼ阻害剤」は、PDGFRα、S6、お
よびSTAT3の生物活性を低減する、阻害する、またはそうでなければ減退させる分子
である。好適なマルチキナーゼ阻害剤は、これら3つの標的の各々に対して活性を示し、
そしてさらなる標的に対して活性を有し得る。例えば、実施形態において、マルチキナー
ゼ阻害剤は、膵腫瘍に関連する腫瘍関連マクロファージにさらに作用する。MEK阻害剤
と組み合わせたときにこれらの標的の各々に作用するマルチキナーゼ阻害剤の能力は、膵
がんに対して優れた有効性を提供する。活性は、適切な対照と比較して、例えば少なくと
も約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%
、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、95%または100%の
減少を含む統計的に有意な量の標的の活性を減少し得る。
【0035】
本開示の化合物は特異的な阻害剤であってもなくてもよい。「特異的な阻害剤」とは、
関連のない標的の活性よりも規定された標的の活性を減少させる、阻害する、またはそう
でなければ減退させる剤を意図する。例えば、MEK特異的アンタゴニストは、MEKの
少なくとも1つの生物活性を、任意の他のタンパク質(例えば、他のセリン/スレオニン
キナーゼ)に対するアンタゴニストの阻害効果より顕著に大きい量で減少させる。いくつ
かの実施形態において、標的に対するアンタゴニストのIC50は、非標的に対するアン
タゴニストのIC50の約90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、
20%、10%、5%、1%、0.1%、0.01%、0.001%、またはそれ以下で
ある。特異的MEK阻害剤は、MEKの1つ以上のファミリーメンバーの生物活性を、任
意の他のタンパク質(例えば、他のセリン/スレオニンキナーゼ)に対するアンタゴニス
トの阻害効果より顕著に大きい量で減少させる。これらの実施形態のいくつかにおいて、
RAFに対するMEK阻害剤のIC50は、他のセリン/スレオニンキナーゼ、他のME
Kファミリーメンバーまたは他の型のキナーゼ(例えば、チロシンキナーゼ)に対するM
EK阻害剤のIC50の約90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、
20%、10%、0.1%、0.01%、0.001%、またはそれ以下である。
【0036】
用語「標的」または「標的とする」は、特定のMEK酵素または生存経路に関連する特
定の酵素に対して特異的に作用する活性剤の能力を指す。酵素を標的とする活性剤の能力
は、本明細書において記載されるように日常的な実験を通して、または他の公知の方法を
使用して決定され得る。
【0037】
本明細書において使用されるとき、「生存経路」とは、がん細胞の生存および増殖を促
進し、そして活性剤に対して抵抗性になる適応性の機構または能力を指す。本明細書にお
いて使用されるとき、生存経路は、PDGFRα、S6、およびSTAT3に関連してい
る。
【0038】
語句「治療有効量」は、(i)膵がんを治療または予防する、(ii)膵がんの1つ以
上の病状を軽減、寛解、または解消する、または(iii)膵がんの1つ以上の病状の発
症を予防または遅延する活性剤の量を意味する。治療上有効量の薬物はがん細胞の数を減
らすことができ、腫瘍サイズを低減し、末梢臓器へのがん細胞浸潤を阻害し(すなわち、
ある程度緩徐化し、そして好ましくは停止させる)、腫瘍転移を阻害する(すなわち、あ
る程度緩徐化し、そして好ましくは停止させる)、腫瘍増殖をある程度阻害し、および/
またはがんに関連する病状のうちの1つ以上をある程度軽減する。薬物が増殖を妨げおよ
び/または既存のがん細胞を殺し得る限りにおいて、それは細胞増殖抑制性および/また
は細胞傷害性であり得る。がん治療の場合、有効性は、例えば、疾患進行までの時間(T
TP)を評価することおよび/または奏効率(RR)を決定することによって測定するこ
とができる。
【0039】
用語「薬学的に許容される塩」は、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではな
い塩を意味する。薬学的に許容される塩は、酸付加塩と塩基付加塩の両方を含む。語句「
薬学的に許容される」は、物質または組成物が、製剤を構成する他の成分および/または
それを用いて治療される哺乳動物と化学的および/または毒物学的に適合性でなければな
らないことを示す。本明細書で使用されるとき、語句「薬学的に許容される塩」は、分子
の薬学的に許容される有機塩または無機塩を指す。例示的な塩としては、硫酸塩、クエン
酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、
酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、
オレイン酸塩、タン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸
塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、サッ
カリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホ
ン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、およびパモエート(すなわ
ち1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))塩が含まれるが
これらに限定されない。薬学的に許容される塩は、酢酸イオン、コハク酸イオンまたは他
の対イオンなどの別の分子を包含し得る。対イオンは、親化合物上の電荷を安定化させる
任意の有機または無機部分であり得る。さらに、薬学的に許容される塩はその構造中に1
を超える荷電原子を有していてもよい。複数の荷電原子が薬学的に許容される塩の一部で
ある場合は、複数の対イオンを有する可能性がある。それ故、薬学的に許容される塩は、
1つ以上の荷電原子および/または1つ以上の対イオンを有することができる。例として
は、コビメチニブおよびポナチニブHClのフマル酸塩またはヘミフマル酸塩が含まれる
がこれらに限定されない。
【0040】
必要に応じて追加の定義を以下に提供する。
【0041】
II.インビボ方法
MEK阻害剤とPDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ阻
害剤との本開示の組み合わせは、膵がんの治療に有用である。
【0042】
実施形態において、膵がんの治療を必要とする対象において膵がんを治療する方法であ
って、治療有効量の活性剤の組み合わせを上記対象に投与するステップを含み、上記組み
合わせが、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およ
びSTAT3を標的とするマルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩とを含む、
方法が本明細書において開示される。この実施形態は、腫瘍関連マクロファージの増殖を
阻害することをさらに含み得る。
【0043】
使用され得るMEK阻害剤の例としては、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチ
ニブ、ビニメチニブ、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325
901およびBI-847325、またはそれらの薬学的に許容される塩が含まれる。一
実施形態において、MEK阻害剤はコビメチニブまたはその薬学的に許容される塩である
。コビメチニブは以下の構造を有する。
【化1】
【0044】
コビメチニブはCotellic(登録商標)として販売されており、そしてヘミフマ
ル酸塩として市販の製剤中に見出される。
【0045】
PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とする有用なマルチキナーゼ剤はポナチ
ニブである。ポナチニブは以下の構造を有する。
【化2】
【0046】
ポナチニブは、Iclusig(登録商標)として販売されており、塩酸塩として市販
の製剤中に見出される。
【0047】
膵がんには、内分泌がんおよび外分泌がんが含まれる。実施形態において、膵がんは、
腺がん、腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、粘液がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化がん
、肝様腺がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、膵芽腫、漿液性嚢胞腺腫、印環
細胞がん、充実性偽乳頭状腫瘍、膵管がん、ならびに未分化がんからなる群から選択され
る。一実施形態において、膵がんは膵管腺がんである。
【0048】
実施形態において、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、
S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容され
る塩とは相乗的である。すなわち、組み合わせは、両方の剤の相加効果よりも高いレベル
の有効性を提供する。実施形態において、一方または両方の活性剤単独では、膵がんに対
して所望の有効性を示さない。コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩とポナチニ
ブまたはその薬学的に許容される塩の例では、どちらの剤単独でも膵がんに対して有効で
あるとは知られていない。
【0049】
実施形態において、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と上記マルチキナー
ゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩は、組み合わせ製剤として投与される。実施形
態において、組み合わせ治療薬は、同時または逐次投与計画として投与することができる
。逐次的に投与するとき、組み合わせは2回以上の投与で投与することができる。混合投
与は、別々の製剤または単一の薬学的製剤を使用する共投与、および両方の(または全て
の)活性剤がその生物活性を同時に発揮する期間が好ましくは存在するいずれかの順序で
の連続投与を含む。
【0050】
膵がんを治療する方法は、1つ以上の標的酵素または生存経路の活性を減少させる、阻
害する、またはそうでなければ減退させる。膵腫瘍に関連する腫瘍関連マクロファージも
また標的とされ得る。インビトロキナーゼアッセイ、リン酸化標的に特異的な抗体による
免疫ブロット、または活性の下流の生物学的効果の測定を含む、MEK活性またはPDG
FRα、S6、STAT3および腫瘍関連マクロファージ活性化のレベルを測定するため
の当技術分野において公知の任意の方法を使用して、組み合わせの活性を決定できる。
【0051】
膵がんは初期段階でも後期段階でもよく、また転移していることもある。本明細書にお
いて記載される組み合わせは、転移したがんを含む任意のステージのがんを治療するため
に使用することができる。
【0052】
有効量のMEK阻害剤とPDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキ
ナーゼ阻害剤との組み合わせによる対象の治療は、単一治療を含むことができ、または一
連の治療を含むことができる。
【0053】
活性剤の有用な量は本明細書のいずこかの場所に記載されている通りである。特定の実
施形態において、MEK阻害剤は約5mg~約100mg、または約45mg~約75m
gの量で投与され、そしてマルチキナーゼ阻害剤は約5mg~約100mg、または約3
0mg~約60mgの量で投与される。実施形態において、MEK阻害剤は約60mgの
量で投与され、そしてマルチキナーゼ阻害剤は約45mgの量で投与される。実施形態に
おいて、組み合わせ治療薬の投与は1日1回の経口投与である。実施形態において、ME
K阻害剤がコビメチニブまたはその薬学的に許容される塩であり、マルチキナーゼ阻害剤
がポナチニブまたはその薬学的に許容される塩であることが好ましい。いくつかの実施形
態において、各々の活性剤は、約0.001μg/kg~約1000mg/kgの用量で
対象に投与され、これには、約0.001μg/kg、0.01μg/kg、0.05μ
g/kg、0.1μg/kg、0.5μg/kg、1μg/kg、10μg/kg、25
μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、250μg/kg、500μg/kg
、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、4
0mg/kg、50mg/kg、100mg/kg、および200mg/kgが含まれる
が、これらに限定されない。投与されるべき組み合わせ組成物中に存在する各々の活性剤
の量は、約1mg~約1000mg、または約5mg~約100mg、または約10mg
~約80mg、または約45mg~約75mg、または約30mg~約60mgであり得
る。活性化合物の適切な用量は、当業者または獣医師の知識の範囲内のいくつかの要素に
依存することが理解される。活性剤の用量は、例えば、対象の年齢、体重、全体的な健康
状態、性別、および対象の食事、投与時間、投与経路、排泄率、および任意の薬物の組み
合わせに依存して変動するであろう。治療に使用される有効な用量は、特定の治療の過程
にわたって増加または減少し得ることも理解されよう。投与量の変化は、診断アッセイの
結果から生じ、そして明らかになり得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、膵がんの治療を必要とする対象において膵がんを治療す
るための方法であって、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα
、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容さ
れる塩との組み合わせを対象に投与するステップを含み、追加の両方を適用することをさ
らに含む方法が本明細書において記載される。追加の療法は、放射線療法、外科手術(例
えば、腫瘍切除術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA療法、ウイルス療
法、RNA療法、免疫療法、骨髄移植、ナノ療法、モノクローナル抗体療法、またはこれ
らの組み合わせであり得る。追加の療法は、補助療法または術前補助療法の形態であり得
る。いくつかの実施形態において、追加の療法は抗転移薬の投与である。いくつかの実施
形態において、追加の療法は副作用制限剤(例えば、抗悪心剤などの治療の副作用の発生
および/または重篤度を軽減することを意図した剤)の投与である。いくつかの実施形態
において、追加の療法は放射線療法である。いくつかの実施形態において、追加の治療は
外科手術である。いくつかの実施形態において、追加の療法は放射線療法と外科手術の組
み合わせである。いくつかの実施形態において、追加の療法はガンマ線照射である。
【0055】
いくつかの実施形態において、治療は、治療の中止後に対象において持続的応答をもた
らす。「持続的応答」とは、治療中止後の腫瘍増殖の低減に対する持続的効果を指す。例
えば、腫瘍サイズは、投与段階の開始時のサイズと比較して同じで維持されるかまたはよ
り小さくあり得る。いくつかの実施形態において、持続的応答は、治療期間と少なくとも
同一の期間、治療期間の少なくとも1.5倍、2.0倍、2.5倍、または3.0倍の長
さを有する。
【0056】
本明細書において開示される治療方法は、部分的または完全な応答をもたらし得る。本
明細書中で使用されるとき、「完全寛解」または「CR」とは、全ての標的病変の消失を
さし、「部分寛解」または「PR」は、標的病変の最長直径の合計(SLD)の、ベース
ラインSLDを基準として、少なくとも30%の減少を指し、「安定した疾患」または「
SD」は、治療開始以来の最小のSLDを基準にして、PRに適格とするのに十分な標的
病変の縮小もPDに適格とするのに十分な増加も示さないことを指す。本明細書で使用さ
れるとき、「全奏効率」(ORR)は、完全寛解(CR)率と部分寛解(PR)率の合計
を指す。
【0057】
本明細書において開示される治療方法は、組み合わせ治療薬を投与された対象の無増悪
生存期間および全生存期間の増加をもたらし得る。本明細書において使用されるとき、「
無増悪生存期間」(PFS)は、治療中の疾患(例えば、がん)が悪化しない、治療中お
よび治療後の期間の長さを指す。無増悪生存期間には、患者が完全寛解または部分寛解を
経験した時間の長さ、および患者が安定した疾患を経験した時間の長さが含まれうる。
【0058】
本明細書において使用されるとき、「全生存期間」とは、特定の期間の経過後に生存し
ている可能性が高い群にある対象の割合をいう。
【0059】
いくつかの実施形態において、組み合わせを投与される対象は、飼育動物(例えば、ウ
シ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト
霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物であ
る。いくつかの実施形態において、治療される対象はヒトである。
【0060】
膵がんの治療を必要とする対象は、がんの病状を示す人、がんと診断されたもの、膵が
んから寛解している対象、またはがんを発症するリスクが高い対象(例えば、遺伝的素因
、ある特定の食事または環境への曝露)であり得る。
【0061】
本明細書において記載される多くの組み合わせは相乗的であると決定されるであろう。
【0062】
本明細書において記載されるインビトロ方法は、培養のための培地に添加する前に熱湯
加熱された血清を含む培地中で細胞を培養することを含む、スフェロイド細胞培養を調製
する方法を使用する。培地は3-Dスフェロイドを迅速に培養するように改変され得るこ
とが見出された。改変培地は、培養される細胞と接触させる前にウシ胎仔血清(FBS)
を熱湯加熱することによって調製される。実施形態において、FBSは95~100℃で
10分間熱湯加熱されており、その時点で血清の色は黄色に変わる。次いで、熱湯加熱し
たFBSを8000×gで20分間遠心分離し、0.22μmのフィルター孔径を有する
滅菌Corning真空フィルターユニットを通してろ過する。有用な培地は、約5%~
約20%(v/v)のウシ胎仔血清を含む。スフェロイド培養用の培地は、2mMのL-
グルタミン、100単位ml-1のペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したRP
MI培地に10%(v/v)の熱湯加熱FBSを添加することによって調製する。スフェ
ロイド培地は使用前に新たに調製する必要がある。熱湯加熱FBSは4℃で2~3ヶ月保
存できる。単層培養用の培地は、2mMのL-グルタミン、100単位ml-1のペニシ
リンおよびストレプトマイシンを補充したRPMI培地に10%(v/v)の正常FBS
を添加することによって調製する。遊走アッセイ用の培地は、2mMのL-グルタミン、
100単位ml-1のペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したRPMI培地に2
0%(v/v)の正常FBSを添加することによって調製する。
【0063】
III.組み合わせ薬学的組成物
実施形態において、本明細書において記載される課題は、膵がんの予防的治療または治
療的治療のためのa)MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、b)PDGFR
α、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容
される塩との組み合わせに関する。
【0064】
実施形態において、本明細書において記載される課題は、MEK阻害剤またはその薬学
的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキナー
ゼ剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わせの有効量、薬学的に許容される賦形
剤を含む薬学的組成物に関する。特定の実施形態において、薬学的組成物は膵がんの治療
用である。
【0065】
実施形態において、組成物は、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチニブ、ビニ
メチニブ、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325901およ
びBI-847325、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される
MEK阻害剤を含む。一実施形態において、MEK阻害剤はコビメチニブまたはその薬学
的に許容される塩である。特定の実施形態において、MEK阻害剤はヘミフマル酸コビメ
チニブである。
【0066】
実施形態において、マルチキナーゼ剤は、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩
である。一実施形態において、マルチキナーゼ阻害剤は塩酸ポナチニブである。
【0067】
実施形態において、組成物は、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナ
チニブまたはその薬学的に許容される塩とを含む。実施形態において、組成物はヘミフマ
ル酸コビメチニブと塩酸ポナチニブとを含む。
【0068】
組み合わせ中に存在する各々の活性剤の量は、約1mg~約1000mg、または約5
mg~約100mg、または約10mg~約80mg、または約45mg~約75mg、
または約30mg~約60mgであり得る。実施形態において、MEK阻害剤は約45m
g~約75mgの量で存在し、上記マルチキナーゼ阻害剤は約30mg~約60mgの量
で存在する。
【0069】
組み合わせ治療薬は、「相乗効果」を提供し、「相乗的である」こと、すなわち、活性
剤が一緒に使用されたときに達成される効果が、これらの活性剤を別個に使用することか
ら生じる効果の合計よりも大きいことを示し得る。相乗効果は、活性剤が以下のときに達
成され得る:(1)組み合わせた単位投与製剤で同時に共製剤化され、投与または送達さ
れる、(2)別個の製剤として、交互にまたは並行して送達される、または(3)他の投
与計画による。交互療法で送達されるとき、活性剤が逐次的に投与または送達されるとき
、例えば別個の注射器中の異なる注射、別個の丸剤もしくはカプセル剤、または別個の注
入によって相乗効果が達成され得る。一般に、交互療法の間、有効用量の各々の活性剤は
逐次的に、すなわち連続的に投与されるが、組み合わせ治療薬においては、有効量の2つ
以上の活性剤が共に投与される。
【0070】
MEK阻害剤および/またはマルチキナーゼ阻害剤は、本明細書において各々が活性剤
とも呼ばれ、標準的な薬務に従って薬学的組成物として製剤化することができる。例示的
なマルチキナーゼ阻害剤、ポナチニブは、15mg、30mg、および45mgの強度で
経口投与用の錠剤として入手可能である。例示的なMEK阻害剤、コビメチニブは、経口
投与用の錠剤として20mgの強度で入手可能である。しかしながら、この態様によれば
、MEK阻害剤もしくはマルチキナーゼ阻害剤またはその両方を、担体または希釈剤など
の薬学的に許容される賦形剤と共に含む他の薬学的組成物が提供される。
【0071】
典型的な製剤は、活性剤と1種以上の賦形剤を混合することによって調製される。適切
な賦形剤は当業者に周知であり、炭水化物、ワックス、水溶性および/または膨潤性ポリ
マー、親水性または疎水性物質、ゼラチン、油、溶媒、水などの物質が含まれる。使用さ
れる特定の賦形剤は、活性剤が適用されている手段および目的に依存するであろう。溶媒
は一般に、哺乳動物に投与するのに安全であると当業者によって認識されている溶媒(G
RAS)に基づいて選択される。一般に、安全な溶媒は、水のような無毒の水性溶媒およ
び水に可溶性または混和性の他の無毒の溶媒である。好適な水性溶媒には、水、エタノー
ル、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400、PEG3
00)など、およびそれらの混合物が含まれる。製剤はまた、1種以上の緩衝剤、安定化
剤、界面活性剤、湿潤剤、潤滑剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、抗酸化剤、不透明剤、滑剤
、加工助剤、着色剤、甘味剤、芳香剤、香味剤、および活性剤の洗練された体裁を提供す
るか、または医薬製品(すなわち、医薬)の製造を補助するための他の既知の添加剤をも
含み得る。
【0072】
製剤は、従来の溶解および混合手順を用いて調製することができる。例えば、バルク原
薬(すなわち、活性剤または活性剤の安定化形態(例えば、シクロデキストリン誘導体ま
たは他の既知の錯化剤との複合体))を、上述の1種以上の賦形剤の存在下で好適な溶媒
に溶解する。活性剤は、典型的には、薬物の容易に制御可能な投与量を提供し、そして処
方された投与計画に対する患者の服薬順守を可能にするために医薬剤形に製剤化される。
【0073】
適用のための薬学的組成物(または製剤)は、薬物を投与するために使用される方法に
応じて様々な方法で包装することができる。一般に、流通用物品は、適切な形態で医薬製
剤を中に入れた容器を含む。好適な容器は当業者には周知であり、ボトル(プラスチック
およびガラス)、サシェ、アンプル、プラスチック袋、金属製シリンダーなどの物質が含
まれる。容器はまた、包装内容物への不注意な接近を防止するための不正開封防止の組み
合わせ資材を含んでもよい。さらに、容器の上に容器の内容物を記載するラベルが貼られ
ている。ラベルには適切な警告も含まれる場合がある。一実施形態において、容器はブリ
スターパックである。
【0074】
医薬製剤は、様々な投与経路および投与型のために調製することができる。例えば、所
望の程度の純度を有する活性剤を任意選択的に薬学的に許容される賦形剤と、凍結乾燥製
剤、粉砕粉末、または水溶液で混合することができる(Remington’s Pha
rmaceutical Sciences(1980)16th edition,O
sol,A.Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA)
。製剤化は、周囲温度で適切なpHで所望の純度で、生理学的に許容可能な担体、すなわ
ち使用される投与量および濃度で受容者に対して無毒である担体と混合することによって
実施され得る。製剤のpHは、主に特定の用途および化合物の濃度に依存するが、約3~
約8の範囲であり得る。pH5の酢酸緩衝液中での製剤化は好適な実施形態である。
【0075】
活性剤は滅菌であり得る。特に、インビボ投与に使用される製剤は滅菌される必要があ
る。そのような滅菌は、滅菌ろ過膜を通してろ過することによって容易に達成される。
【0076】
活性剤は通常、固体組成物、凍結乾燥製剤または水溶液として保存することができる。
【0077】
活性剤を含む薬学的組成物は、様式、すなわち量、濃度、スケジュール、治療単位、ビ
ヒクルおよび投与経路で、優れた医療行為と一致する形で製剤化、投与および投与するこ
とができる。これに関連して考慮すべき要素は、治療される特定の傷害、治療される特定
の哺乳動物、個別の患者の臨床状態、傷害の原因、剤の送達部位、投与方法、投与計画、
および医療従事者に知られている他の要素を含む。投与される化合物の「治療有効量」は
そのような考慮事項によって左右されるであろう。許容可能な賦形剤は、使用される用量
および濃度において、レシピエントに対して非毒性でありリン酸、クエン酸、および他の
有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オ
クタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウ
ム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまた
はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサ
ノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリ
ペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニ
ルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン
、アルギニン、リジン等のアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、
またはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニ
トール、トレハロースまたはソルビトール等の糖類;ナトリウム等の塩形成対イオン;金
属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリソルベート(例えば、T
WEEN(商標))、ポロキサマー(たとえば、PLURONICS(商標))もしくは
ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含み得る。活性剤はま
た、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって、例えば、それ
ぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチル
メタクリレート)マイクロカプセルによって調製されたマイクロカプセル中に、コロイド
状ドラッグデリバリーシステム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイ
クロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)中に、またはマクロエマルション中に
、捕捉され得る。そのような技術は、Remington’s Pharmaceuti
cal Sciencesに開示されている。
【0078】
活性剤の徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適切な例には、活性剤を含
む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、マトリックスは、成形品の形態、
例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例として
は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート
)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(US3773919)、L-グ
ルタミン酸およびγ-エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸
ビニル、乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射用ミクロス
フェアなどの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー(LUPRON DEPOT(商標)
)ならびにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0079】
製剤は、本明細書において詳述される投与経路に適したものを含む。製剤は、単位剤形
で都合よく提供されてもよく、薬学の分野で周知の方法のいずれかによって調製されても
よい。技術および製剤は一般にRemington’s Pharmaceutical
Sciencesに見られる。そのような方法は、活性剤を1種以上の副成分を構成す
る担体と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性剤を液体担体もしくは微粉化した
固体担体または両方と均一かつ密接に会合させ、次いで必要ならば生成物を成形すること
により製造される。
【0080】
経口投与に適した活性剤の製剤は、各々が所定量の活性剤を含む丸剤、カプセル剤、カ
シェ剤または錠剤などの個別の単位として調製することができる。
【0081】
圧縮錠剤は、任意選択的に結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤または
分散剤と混合された粉末または顆粒のような自由流動形態の活性剤を適切な機械で圧縮す
ることによって調製され得る。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末活性剤の混
合物を適切な機械で成形することによって製造することができる。錠剤は、任意選択的に
被覆または刻み目を入れることができ、任意選択的にそれからの活性剤の徐放または制御
放出を提供するように製剤化される。
【0082】
錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマル
ション、硬または軟カプセル、例えばゼラチンカプセル、シロップまたはエリキシルは経
口使用のために調製され得る。経口使用を目的とした活性剤の製剤は、薬学的組成物の製
造のための当該技術分野において既知の任意の方法に従って調製することができ、そのよ
うな組成物は、口当たりの良い製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤および保
存剤を含む1つ以上の剤を含み得る。錠剤の製造に適した薬学的に許容される無毒の賦形
剤と混合した活性剤を含む錠剤は許容される。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウ
ムまたは炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの
不活性希釈剤、トウモロコシデンプン、またはアルギン酸などの造粒剤および崩壊剤、デ
ンプン、ゼラチン、またはアカシアなどの結合剤、およびステアリン酸マグネシウム、ス
テアリン酸、タルクなどの滑剤であり得る。錠剤は被覆されていなくてもよく、または胃
腸管内での崩壊および吸収を遅らせ、それによって長期間にわたって持続作用をもたらす
ためのマイクロカプセル化を含む既知の技術によって被覆されていてもよい。例えば、グ
リセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートのような時間遅延物質を単独
でまたはワックスと共に用いてもよい。
【0083】
活性剤の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した剤を含む。このよ
うな賦形剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスカルメロース、ポビド
ン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、
ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアガムなどの懸濁剤、および天然
ホスファチド(例えばレシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば
、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮
合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸
および無水ヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物(例、ポリオキシエ
チレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤または湿潤剤が含まれる。水性懸濁液は
、エチルp-ヒドロキシ安息香酸またはn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸などの1種
以上の保存剤、1種以上の着色剤、1種以上の香味剤、およびスクロースまたはサッカリ
ンなどの1種以上の甘味剤も含み得る。
【0084】
活性剤の薬学的組成物は、滅菌注射用水性または油性懸濁液などの滅菌注射用製剤の形
態であり得る。この懸濁液は、上述の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して
既知の技術に従って製剤化することができる。滅菌注射用製剤は、1,3-ブタンジオー
ルなどの非毒性の非経口として許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸
濁液であってもよい。滅菌注射用製剤はまた、凍結乾燥粉末として調製され得る。使用さ
れ得る許容可能なビヒクルおよび溶媒は、水、リンガー液および生理食塩液である。加え
て、滅菌の不揮発性油が、溶媒または懸濁媒体として慣習的に使用され得る。この目的の
ために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激性不揮発性油が使用
され得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注射剤の調製に使用することができ
る。
【0085】
単一剤形を製造するために担体物質と組み合わせることができる活性剤の量は、治療を
受ける宿主および特定の投与方法に応じて変動し得る。例えば、ヒトへの経口投与を意図
した徐放性製剤は、全組成物の約5から約95%(重量:重量)まで変動し得る適切かつ
都合のよい量の担体物質と配合した約1から1000mgの活性剤を含み得る。薬学的組
成物は、投与用に容易に測定可能な量を提供するように調製することができる。例えば、
静脈内注入を目的とする水溶液は、約30mL/時の速度で好適な容量の注入が起こり得
るように、溶液1ミリリットルあたり約3~500μgの活性剤を含み得る。
【0086】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および製剤を意図する受容者
の血液と等張にする溶質を含み得る水性および非水性の滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤お
よび増粘剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。
【0087】
直腸投与用の製剤は、例えばココアバターまたはサリチル酸塩を含む適切な基剤を有す
る坐剤として提供され得る。
【0088】
肺内投与または経鼻投与に適した製剤は、例えば、0.1~500ミクロンの範囲の粒
径(0.5、1、30ミクロン、35ミクロンなどのミクロン単位で増大する0.1ミク
ロン~500ミクロンの範囲の粒径を含む)を有し、これは、肺胞嚢に到達するように、
鼻腔からの急速吸入または口からの吸入によって投与される。好適な製剤は、活性剤の水
溶液または油性溶液を含む。エアロゾルまたは乾燥粉末投与に適した製剤は、従来の方法
に従って調製することができ、そして以下に記載されるような治療または予防障害におい
てこれまでに使用されている化合物などの他の治療薬と共に送達することができる。
【0089】
膣内投与に適した製剤は、活性剤に加えて当該技術分野において適切であることが知ら
れているような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム
またはスプレー製剤として提供されてもよい。
【0090】
製剤は、単位用量または複数用量の容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに包装す
ることができ、そして使用直前に、注射のために、滅菌液体担体、例えば、水の添加のみ
を必要とする凍結乾燥(凍結乾燥)状態で保存することができる。即席の注射溶液および
懸濁液は、前述の種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製される。好ましい単位投与製
剤は、本明細書において上述されるような1日用量もしくは単位1日サブ用量、またはそ
の適切な部分の活性剤を含むものである。
【0091】
本課題は、獣医用担体と共に上述で定義された少なくとも1つの活性剤を含む獣医学的
組成物をさらに提供する。獣医用担体は、組成物を投与する目的に有用な物質であり、そ
して獣医学の技術分野において他の点では不活性であるか許容され、そして活性剤と適合
性である固体、液体、または気体物質であり得る。これらの獣医学的組成物は、非経口的
に、経口的に、または他の任意の所望の経路によって投与され得る。
【0092】
IV.製造品
別の態様において、本明細書に記載されているのは、製造品、例えば、膵がんの治療に
有用な物質を含む「キット」である。キットは、膵がんの治療のための、MEK阻害剤ま
たはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とする
マルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わせを含む容器を含む
。キットは、容器上または容器に付随するラベルまたは添付文書をさらに含み得る。用語
「添付文書」は、そのような治療用製品の使用に関する適応症、使用法、投与量、投与、
禁忌および/または警告についての情報を含む、治療用製品の市販パッケージに通常含ま
れる指示を指すために使用される。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、注
射器、ブリスターパックなどが含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチック等の様々な
材料から形成することができる。容器は、状態を治療するのに有効な、MEK阻害剤また
はその薬学的に許容される塩とマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と
の組み合わせを保持し、そして滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注
射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る
)。ラベルまたは添付文書は、組成物が膵がんの治療に使用されることを示している。あ
るいは、またはさらに、製品は、注射用静菌液(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リ
ンガー溶液、およびデキストロース溶液等の薬学的に許容される緩衝液を含む第2の容器
をさらに含み得る。それはさらに、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、および注射器
を含む、商業的および使用者の観点から望ましい他の物質を含み得る。
【0093】
キットは、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩、および別々に製剤化されて
いる場合はマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩製剤の投与のための指
示書をさらに含み得る。例えば、キットが、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される
塩を含む第1の組成物、およびマルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を
含む第2の医薬製剤を含む場合、キットは、治療を必要とする患者への第1および第2の
薬学的組成物の同時、逐次、または別個の投与のための指示書をさらに含み得る。
【0094】
別の実施形態において、キットは、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩とマ
ルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わせの固体経口形態の送
達に適している。そのようなキットは、好ましくは複数の単位投与量を含む。そのような
キットは、それらの意図された使用の順序で並べられた投与量を有するカードを含み得る
。そのようなキットの例は「ブリスターパック」である。ブリスターパックは包装業界で
は周知され、医薬単位剤形の包装に広く使用されている。必要に応じて、例えば数字、文
字、もしくは他のマーキングの形で、または投与量を投与することができる治療スケジュ
ールの日を指定するカレンダー挿入物による、記憶補助を提供することができる。
【0095】
一実施形態によれば、キットは、(a)MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩
を含む第1の容器と、任意選択的に(b)マルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容
される塩製剤を含む第2の容器とを含み得る。あるいは、またはさらに、キットは、注射
用静菌液(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶
液等の薬学的に許容される緩衝液を含む第3の容器をさらに含み得る。それはさらに、他
の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、および注射器を含む、商業的および使用者の観点か
ら望ましい他の物質を含み得る。
【0096】
キットがMEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩とマルチキナーゼ阻害剤または
その薬学的に許容される塩との組成物を含む他の特定の実施形態において、キットは、個
別のボトルまたは、個別に分けられたホイルパケットなどの別個の組成物を含む容器を含
み得るが、別個の組成物が単一の分割されていない容器内に収容されていてもよい。典型
的には、キットは別個の成分の投与のための指示書を含む。キット形態は、別個の成分が
好ましくは異なる剤形(例えば、経口と非経口)で投与されるとき、異なる投与間隔で投
与されるとき、または組み合わせの個別の成分の用量設定が処方医によって望まれるとき
に特に有利である。
【0097】
さらに別の実施形態において、本明細書において記載される課題は、予め熱湯加熱され
ている血清、すなわち培地での使用前に一定時間熱湯加熱されている血清を使用する培地
に関する。この培地は、熱湯加熱されていない正常血清を使用する培地と比較して、スフ
ェロイドの迅速な形成をもたらす。実施形態において、細胞を培養するための培地は約1
0%の熱湯加熱されたウシ胎仔血清を含み、上記血清は培地に添加する前に95~100
℃で10分間熱湯加熱されている。
【0098】
本明細書において記載される課題は、以下の特定の実施形態を含む。
【0099】
1.膵がんの治療を必要とする対象において膵がんを治療する方法であって、有効量の
活性剤の組み合わせを上記対象に投与するステップを含み、上記組み合わせが、MEK阻
害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的
とするマルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩とを含む、方法。
【0100】
2.上記MEK阻害剤が、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチニブ、ビニメチ
ニブ、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325901およびB
I-847325、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、実
施形態1に記載の方法。
【0101】
3.上記MEK阻害剤が、コビメチニブ、およびトラメチニブ、またはそれらの薬学的
に許容される塩からなる群から選択される、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0102】
4.上記MEK阻害剤が、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩である、上述
のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0103】
5.上記マルチキナーゼ剤が、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩である、上
述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0104】
6.上記膵がんが内分泌がんである、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0105】
7.上記膵がんが外分泌がんである、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0106】
8.上記膵がんが、腺がん、腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、粘液がん、破骨細胞様巨
細胞を伴う未分化がん、肝様腺がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、膵芽腫、
漿液性嚢胞腺腫、印環細胞がん、充実性偽乳頭状腫瘍、膵管がん、および未分化がんであ
る、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0107】
9.上記膵がんが膵管腺がんである、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0108】
10.上記組み合わせが相乗的である、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0109】
11.上記活性剤が逐次に投与される、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0110】
12.上記活性剤が同時に投与される、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0111】
13.上記MEK阻害剤および上記マルチキナーゼ阻害剤が組み合わせ製剤として投与
される、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0112】
14.上記MEK阻害剤が約45mg~約75mgの量で投与され、上記マルチキナー
ゼ阻害剤が約30mg~約60mgの量で投与される、上述のいずれかの実施形態に記載
の方法。
【0113】
15.上記量が1日1回投与される、上述のいずれかの実施形態に記載の方法。
【0114】
16.上記MEK阻害剤がコビメチニブ、またはヘミフマル酸コビメチニブなどのその
薬学的に許容される塩であり、上記マルチキナーゼ阻害剤がポナチニブ、またはポナチニ
ブHClなどのその薬学的に許容される塩である、上述のいずれかの実施形態に記載の方
法。
【0115】
17.膵がんの予防的治療または治療的治療のためのa)MEK阻害剤またはその薬学
的に許容される塩と、b)PDGFRα、S6、およびSTAT3を標的とするマルチキ
ナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩との組み合わせ。
【0116】
18.有効量の、MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、PDGFRα、S
6、およびSTAT3を標的とするマルチキナーゼ剤またはその薬学的に許容される塩と
の組み合わせと、薬学的に許容される賦形剤とを含む薬学的組成物であって、上記組成物
が膵がんの治療用である、組成物。
【0117】
19.上記MEK阻害剤が、コビメチニブ、GDC-0623、トラメチニブ、ビニメ
チニブ、セルメチニブ、ピマセルチニブ、レファメチニブ、PD-0325901および
BI-847325、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、
上述のいずれかの実施形態に記載の組成物。
【0118】
20.上記MEK阻害剤が、コビメチニブ、およびトラメチニブ、またはそれらの薬学
的に許容される塩からなる群から選択される、上述のいずれかの実施形態に記載の組成物
【0119】
21.上記MEK阻害剤が、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩である、上
述のいずれかの実施形態に記載の組成物。
【0120】
22.上記マルチキナーゼ剤が、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩である、
上述のいずれかの実施形態に記載の組成物。
【0121】
23.コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナチニブまたはその薬学的
に許容される塩とを含む、上述のいずれかの実施形態に記載の組成物。
【0122】
24.上記MEK阻害剤またはその薬学的に許容される塩が約45mg~約75mgの
量で存在し、上記マルチキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩が約30mg~
約60mgの量で存在する、上述のいずれかの実施形態に記載の組成物。
【0123】
25.MEK阻害剤またはその製薬上許容される塩と、PDGFRα、S6、およびS
TAT3を標的とする、マルチキナーゼ剤またはその製薬上許容される塩と、容器と、添
付文書またはラベルとを含むキット。
【0124】
次の例は、例示のために提供されるものであり、限定のためのものではない。
【実施例0125】
<物質および方法>
細胞株と試薬:
DSMZ由来のPA-TU-8988T細胞、およびJCRB由来のSUIT-2細胞
を除いて、全ての細胞株はATCC由来であった。全ての細胞株は、細胞株の同一性を確
認するためにSNPおよびSTR分析を日常的に実施するGenentech細胞株コア
施設に保管された。全ての細胞株を、10%のFBS、2mMのL-グルタミン、100
単位ml-1のペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したRPMI培地(Gibc
o)中で日常的に培養した。ラパマイシンおよびポナチニブはSelleckchemか
ら、クレノラニブはArog Pharmaceuticalsから入手し、そしてコビ
メチニブ、GDC-0941、およびGDC-0980はGenentechで合成され
た。ヒトホスホキナーゼアレイキットはR&D Systems(ARY003B)から
、Cignal-45-PathwayレポーターアッセイはQiagen(CCA-9
01L)から、ヒトチロシンキナーゼRT2 Profiler PCRアレイはQia
gen(PAHS-161Z)から、MDSC単離キットはMiltenyi Biot
ecから入手した。これらのキットを用いた全てのアッセイは製造業者の指示に従って実
施した。
【0126】
ウエスタンブロッティングおよび細胞生存率アッセイ:
細胞を10cmディッシュに播種し、1μMの小分子阻害剤で24時間処理した。細胞
溶解物を、プロテアーゼインヒビターカクテル(Thermo Scientific)
を含むRIPA溶解バッファー(Thermo Scientific)中で調製し、S
DS-PAGEを実施し、タンパク質をニトロセルロース膜に転写した。イムノブロッテ
ィングは標準的な方法を用いて実施した。ImageJソフトウェアを用いてタンパク質
バンドを定量した。一次抗体:p-Erk、p-STAT3、p-S6、全S6、p-P
DGFRα、p-PDGFRβ、p-RSK3、切断PARP、Bcl-xL、Mcl、
サバイビン、Rab11、p-Akt、β-アクチン、GAPDH(Cell Sign
aling)、全STAT3、全PDGFRα(Santa Cruz Biotech
nology)、p-EphA7(Gene Tex)、およびp-EphA2/3、E
phA2/5(MyBioscource)。
【0127】
細胞生存率アッセイは、細胞を様々な薬理学的阻害剤の用量滴定(0.001~10μ
M)または固定用量(1μM)で72時間処理し、CellTiter Glo(Pro
mega)を用いて生存率を測定することによって実施した。ブリススコアは、以前に記
載されたように計算された。(Borisy AA,Elliott PJ,Hurst
NW,Lee MS,Lehar J,Price ER,Systematic d
iscovery of multicomponent therapeutics,
Proceedings of the National Academy of S
ciences of the United States of America,
2003;100(13):7977-82,Epub 2003/06/12)。
【0128】
レンチウイルス感染:
shSTAT3に対するレンチウイルス粒子は、以前に記載されたように生成された。
(Moffat J,Grueneberg DA,Yang X,Kim SY,Kl
oepfer AM,Hinkle G,A lentiviral RNAi lib
rary for human and mouse genes applied t
o an arrayed viral high-content screen,C
ell,2006;124(6):1283-98.Epub 2006/03/28)
。Dox誘導システムにおけるshSTAT3はLakePharma Inc.から入
手した。shSTAT3に使用した標的配列はAATCTTAGCAGGAAGGTGC
CTであった。KP4およびMIA-PACA2細胞を最適化された力価のレンチウイル
スで形質導入し、そして1μg/mlのピューロマイシンを用いて選択した。
【0129】
ルミネックスアッセイおよびELISA:
72時間培養したがん細胞からの培養上清または動物実験からの終点で採取した血漿試
料についてのLuminexアッセイを、製造者の取扱説明書に従ってマルチプレックス
キット(Bio-Rad)を使用して実施した。PDGFαのELISAは、R&D S
ystemsからのキットを使用して実施した。
【0130】
浸潤アッセイ:
2%FBSを含むRPMI中の細胞をBD BioCoat Matrigel浸潤チ
ャンバー(BD Biosciences)の倒立インサートに播種した。下部チャンバ
ーを化学誘引物質としての10%FBSを添加したRPMIで満たし、18時間のインキ
ュベーション後に下部チャンバーに侵入した細胞数をSpectraMax M5(Mo
lecular Devices)を用いて測定した。
【0131】
動物実験:
全ての動物実験は、国立衛生研究所の実験動物の管理と使用に関する指針に従って実施
された。全ての投与計画は、異種移植において十分に許容された。2つの異種移植モデル
を使用した:ヒトPDAC由来細胞株KP4、および、KPP-GEMMマウスから単離
された腫瘍由来の細胞。5×106個の細胞を、いかなるマトリゲルも使用せずに免疫不
全マウス(Charles River Laboratories)の右側腹部に皮下
移植した。腫瘍が約200mm3に到達した後に、マウスを無作為化し、ビヒクル(MC
T+25mMのクエン酸緩衝液、pH2.75)、コビメチニブ(5mg/kg)+/-
ポナチニブ(30mg/kg)を、PO、QDで処理した。示された間隔でUltra-
Cal IVキャリパーを用いて腫瘍容積を測定した。同一の動物からの腫瘍容積の繰り
返し測定を経時的に適切に分析するために、混合モデリングアプローチを使用した。(J
ose Pinheiro DB,Saikat DebRoy,Deepayan S
arkar,R Core team.Linear and Nonlinear m
ixed effects models.Package ’nlme’2008)。
このアプローチは、反復測定と、試験終了前の動物の処理に関連しない全ての死亡による
中程度の脱落との両方に対処する。各々の用量レベルにおけるlog2腫瘍容積の時間経
過に非線形プロファイルを適合させるために、三次回帰スプラインを使用した。よって、
これらの非線形プロファイルは、混合モデル内の用量に関連していた。ビヒクルのパーセ
ンテージとしての腫瘍増殖阻害(%TGI)は、以下の式を用いて、ビヒクルに対する1
日当たりのそれぞれの用量群についてのフィット曲線下面積(AUC)のパーセンテージ
として計算した。
%TGI=100×(1-AUC用量/AUCビヒクル)
【0132】
%TGIの不確定区間(UI)を決定するために、適合曲線および適合共分散行列を使
用して、%TGIの分布に対する近似として無作為標本を生成した。無作為標本は、近似
混合モデルの1,000回の模擬実現で構成され、各実現について%TGIが再計算され
た。報告されたUIは、当てはめられたモデルを考えると、95%の時間の%TGIの再
計算値がこの領域に入るであろう値であった。模擬分布の2.5パーセンタイルと97.
5パーセンタイルが、上部UIと下部UIとして使用された。>60%の腫瘍増殖阻害が
有意とみなされた。(Wong H,Choo EF,Alicke B,Ding X
,La H,McNamara E,Antitumor activity of t
argeted and cytotoxic agents in murine s
ubcutaneous tumor models correlates with
clinical response,Clinical Cancer Resea
rch:an official journal of the American
Association for Cancer Research,2012;18(
14):3846-55.Epub 2012/06/01)。
【0133】
プロットは、Rバージョン2.8.1(R Development Core Te
am 2008;R Foundation for Statistical Com
puting;Vienna,Austria)およびExcelバージョン12.0.
1(Microsoft Corporation)を使用して実行および生成した。デ
ータはR、バージョン2.8.1を用いて分析され、混合モデルはnlmeパッケージ、
バージョン3.1-89(41)を用いてR内で適合した。
【0134】
免疫組織化学および免疫蛍光:
免疫組織化学および免疫蛍光は、ホルマリン固定パラフィン包埋の、細胞ペレット、全
組織切片、およびTMAブロック(US Biomax、Inc.)から切り出した4μ
m厚の切片上で実施した。スライドを脱パラフィン化し、抗原賦活化を、Target
Retrieval Solution(Dako)を用いてPT Module(Th
ermo Scientific)で実施した。内因性ペルオキシダーゼ活性を3%H2
O2で遮断し、3%BSAを内在性免疫グロブリンの遮断に使用した。p-Erkおよび
p-STAT3に対する一次抗体(Cell Signaling)を1μg/mlで、
p - PDGFRα(Cell Signaling)を0.4μg/mlで、F4/
80(Serotec)を10μg/mlで、Gr-1(BD Pharmingen)
を1μg/mlで、切断カスパーゼ3(Cell Signaling)を0.6μg/
mlで、およびCD8α(Genentech)を5μg/mlで使用した。抗体結合は
、IHC染色について、Vecstatin ABC Eliteホースラディッシュペ
ルオキシダーゼ(Vector Laboratories)またはPowerVisi
onポリ-HRP(Leica Biosystems)および金属強化3,3’-ジア
ミノベンジジン(Pierce)を使用し、免疫蛍光染色について、TSAキット(Li
fe Technologies)と共にPowerVisionポリ-HRP(Lei
ca Biosystems)を使用して検出した。IHCスライドの対比染色は、Ma
yerのヘマトキシリン(Rowley Biochemical)を用いて実施した。
【0135】
組織学:
全スライド画像を、Nanozoomer XR自動スライドスキャニングプラットフ
ォーム(Hamamatsu,Hamamatsu City,Shizuoka Pr
ef.,Japan)を用いて、最終倍率200倍で取得した。
【0136】
マイクロアレイおよびRNA配列決定分析:
正常およびPDACのヒト組織における遺伝子発現は、Gene LogicのAff
ymetrix HGU133Pアレイを用いて測定した。遺伝子発現データをロバスト
マルチチップ平均(RMA)法によって標準化した。発現プローブセット203131_
atをヒトPDGFRαに、202273_atをヒトPDGFRβに、205945_
atをヒトIL6-Rに、および204171_atをPRS6KB1に使用した。
【0137】
統計学的分析
全てのデータは、平均±平均の標準誤差(S.E.M)として表される。スチューデン
トt検定(両側)を使用して、2つの群を比較し、PrismまたはExcelを使用し
てP値を計算した。P<0.05を有意とみなした。生存曲線は、カプラン-マイヤー法
を用いてプロットした。
【0138】
<実施例1:膵がん細胞スフェロイド培養におけるMEK阻害に対する感受性>
二次元(2D)および三次元(3D)培養で培養した膵がん細胞が様々ながん治療薬に
どのように応答するかを比較するために、本願発明者らはKRAS変異型PDACがん細
胞株KP4を203のがんの適切な標的の小分子阻害剤および既知の化学療法薬のパネル
で処理した(表1)。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0139】
3D培養に関して、本明細書に記載されるのは、比較的迅速な「ハイスループット」分
析を促進するための方法である。培地に添加する前に95~100℃で10分間予め熱湯
加熱した10%のウシ胎仔血清を含む培地中でがん細胞を培養すると、一貫して3D「ス
フェロイド」が急速に形成されることが観察された。この方法を用いて形成されたスフェ
ロイドは、外周層におけるKi67染色の優勢な局在化、および72時間までの切断カス
パーゼ-3によって示されるアポトーシスを伴う壊死/アポトーシス中心を有する、低レ
ベルの増殖を含む、以前に記載されたスフェロイドの全ての典型的な特徴を示した(図2
7)。それらの薬物感受性パターンもまた以前に記載されたスフェロイドと同様であった
図28および29)。
【0140】
203の化合物のパネルを用いた2Dおよび3D培養条件におけるKP4細胞の処理は
、いくつかの剤に対する異なる感受性を明らかにした(図1)。3D培養は一般に薬物治
療に対してより耐性があり、KP4スフェロイドは、ほとんどが化学療法剤からなるパネ
ルからの18の阻害剤のサブセットに対して2D培養物よりも実際に有意に抵抗性が高か
った(図1)。意外なことに、本願発明者らはまた、2D培養より3D培養に有効であっ
た11の阻害剤を同定した(図1)。これらの11の阻害剤は、複数のシグナル伝達経路
を標的とする活性が報告されている様々な分子から構成されていた。これらの阻害剤のう
ち4つ(コビメチニブ、GDC-0623、AZD6244、PD901)はMEK経路
を標的とし、3つはPI3K経路を標的とし(GDC-0941、GDC-0980、G
38390)、そして1つはMET経路を標的とする(G45203)。
【0141】
<実施例2:膵がん細胞における2D培養対3D培養における異なる調節がなされる複数
のシグナル伝達経路>
2D対3Dにおける膵がん細胞の観察された異なる処理の感受性に潜在的に寄与するシ
グナル伝達経路を同定するために、本願発明者らは、2Dおよび3D条件下でのKP4細
胞において、ホスホキナーゼアレイ、遺伝子発現アレイ、およびルシフェラーゼ発現レポ
ーターアッセイを実施し、そしてシグナル伝達タンパク質の発現レベルの変化を比較した
。ホスホキナーゼアレイは、2Dで培養したKP4細胞と比較したKP4スフェロイドに
おいて、p38、ERK、EGFR、MSK、Akt、TOR、CREB、HSP-27
、STAT2、STAT5α、Hck、Chk-2、c-Jun、RSK1/2/3、e
NOS、p27およびPLC-γ1を含むいくつかのシグナル伝達タンパク質のチロシン
リン酸化の増加を示し、3D条件におけるシグナル伝達経路の実質的な「再配線」を示唆
している(図2および3)。KP4単層培養において、MEK阻害は、ERK、RSK、
およびPLC-γ1リン酸化を下方制御し、そしてSTATファミリータンパク質および
Aktの活性化を増加させた(図3)。対照的に、KP4スフェロイドは、MEK阻害時
にERK、RSK、およびPLC-γ1に加えてAktおよびSTATファミリータンパ
ク質の活性化の低下を示した。MEK阻害は、KP4スフェロイドにおいてc-Junの
活性化のみを誘導した。
【0142】
KP4単層培養およびスフェロイド培養におけるプロテインキナーゼに対応するmRN
Aの発現のqRT-PCR分析は、いくつかのRTKについて、特に、FGFR3、EP
HA1、EPHB6、およびINSRについて、KP4スフェロイドにおける発現の上昇
を実証した(図4)。MEK阻害は、KP4単層とスフェロイドの両方においてこれらの
RTKの大部分の下方制御を引き起こした。しかしながら、PDGFRαおよびPDGF
Rβの発現は、コビメチニブ処理時にKP4単層培養において有意に上方制御された。対
照的に、EPHA1およびEPHB1の発現は、MEK阻害時にKP4スフェロイドにお
いて選択的に上昇した(図4)。まとめると、これらの知見は、標準的な2D条件で見ら
れるものと比較して観察された薬物処理に対する異なる感受性に寄与し得るPDAC由来
細胞についての3D培養条件に特異的な薬物応答プロファイルを明らかにする。
【0143】
大きなパネルのルシフェラーゼレポーターアッセイを用いたコビメチニブ処理時の転写
因子経路活性化の変化のさらなる評価は、KP4単層培養物がSTAT3、c-Myc、
GRE、KLF4、ISRE、およびGASの転写因子の活性化の増大を示すことを明ら
かにした(図5)。対照的に、KP4スフェロイドは、これらの転写因子の同様のレベル
の活性化を示さなかった。これらの結果は、単層対スフェロイド条件におけるMEK経路
阻害に応答して代替的な生存促進シグナル伝達経路の活性化に寄与する可能性がある複数
の転写因子の異なる調節を意味する。
【0144】
ホスホキナーゼアレイおよび遺伝子発現アレイの結果を、KP4細胞のコビメチニブ処
理時のp-PDGFRα、p-STAT3、p-Erk、p-S6、およびp-RSKに
ついてのウエスタンブロットによって検証し、p-PDGFRα、p-STAT3、およ
びp-S6の活性化レベルの増加が観察された(図6A)。増加したp-STAT3はま
た、複数のPDACヒトがん細胞株においてコビメチニブ処理時に再現可能に検出された
図6B)。重要なことに、STAT3活性化を促進することができるIL-6リガンド
の分泌の増加もまた、複数のPDAC細胞株において観察された(図7)。STAT3活
性化の要件と一致して、KP4およびMIA-PACA2細胞におけるSTAT3のRN
Aiノックダウンは、コビメチニブ処理時に細胞死を誘導した(図8および9)。さらに
、複数のPDAC細胞株およびKPP-GEMM腫瘍由来細胞株を用いたインビトロ細胞
浸潤アッセイは、MEK阻害時のがん細胞の浸潤能力の低下を実証した(図10)。これ
らの結果は、単剤としてのMEK阻害は原発性腫瘍退縮を引き起こすのに十分ではないが
、それががん細胞の浸潤能を阻害し得ることを示唆している。まとめると、これらの結果
は、PDGFRα、S6、およびSTAT3によって媒介されるシグナル伝達経路が、膵
がん細胞におけるMEK阻害時にがん細胞の生存を可能にし得ることを示唆している。
【0145】
<実施例3:MEK阻害を伴うPDGFRα、S6、およびSTAT3の阻害は、PDA
C細胞のアポトーシスを効果的に促進する>
以前の研究は、MEK阻害が複数のRTKの上方制御および活性化ならびに「バイパス
」生存メカニズムとしてのIL6/JAK/STAT経路をもたらし得ることを報告して
いる(Duncan JS,Whittle MC,Nakamura K,Abell
AN,Midland AA,Zawistowski JS,Dynamic re
programming of the kinome in response to
targeted MEK inhibition in triple-negat
ive breast cancer,Cell,2012;149(2):307-2
1.Epub 2012/04/17、Lee HJ,Zhuang G,Cao Y,
Du P,Kim HJ,Settleman J,Drug resistance
via feedback activation of Stat3 in onco
gene-addicted cancer cells,Cancer Cell,2
014;26(2):207-21,Epub 2014/07/30、Dai B,M
eng J,Peyton M,Girard L,Bornmann WG,Ji L
,STAT3 mediates resistance to MEK inhibi
tor through microRNA miR-17,Cancer Resea
rch,2011;71(10):3658-68,Epub 2011/03/30)
。しかしながら、膵がんは関与していなかった。S6とJAK2/STAT3カスケード
の両方を単独でまたはコビメチニブと組み合わせて標的とするマルチRTK阻害剤ポナチ
ニブの有効性を腫瘍細胞増殖アッセイで試験した。コビメチニブ治療はPDAC細胞株に
おいてSTAT3およびS6の活性化を促進し(図6A)、コビメチニブ/ポナチニブに
よる組み合わせ処理は、2Dおよび3D培養物において、PDGFRα、STAT3、S
6、ERK1/2、Aktの活性化を阻害し、生存促進タンパク質Bcl-XL、Mcl
-1、サバイビンの発現を減少させ、切断されたPARPレベルを増加させた(図11
12および13)。ポナチニブはPDAC細胞における下流のシグナル伝達経路を潜在的
に調節することができるエフリン受容体のキナーゼ活性を阻害することが以前に報告され
ているが、PDACモデルにおいて、コビメチニブ/ポナチニブの組み合わせ処理はエフ
リン受容体(EphA2/3、EphA2/5、およびEphA7)の活性に影響を及ぼ
さなかった(図11)。
【0146】
ポナチニブは、S6およびJAK2/STAT3シグナル伝達のみならず、FGFR、
VEGFR、エフリン受容体に加え、PDGFRαを阻害するので、本願発明者らはコビ
メチニブと組み合わせて他のPDGFRα、S6、およびJAK2阻害剤の効果を調べる
ことによりポナチニブの選択的活性をさらに調べた。EGFR阻害剤エルロチニブまたは
PDGFR阻害剤の効果とは対照的に、コビメチニブおよびS6阻害剤、ラパマイシン、
またはGDC-0980との組み合わせ処理によるS6活性化の下方制御は、KP4細胞
における細胞死を促進した(図14、18、および19)。PDGFRα阻害剤、クレノ
ラニブ、JAK2阻害剤、ルキソリチニブ、およびコビメチニブによる三重の組み合わせ
処理後のPDGFRαおよびSTAT3活性化の同時下方制御もまた、KP4細胞増殖を
阻害し、そして顕著な細胞死を引き起こした(図15)。しかしながら、本願発明者らは
、RTK、S6、およびJAK/STATを同時標的化し、そしてPDAC細胞の増殖を
効果的に阻害するコビメチニブ/ポナチニブ処理による最も強い相乗作用を観察した(図
11、12、13、14、16、および17)。コビメチニブおよび/またはポナチニブ
によるPDAC細胞株の処理は、単剤としての細胞生存率に影響を及ぼさなかったが、2
Dと3D培養の両方において組み合わせて細胞増殖を阻害するのに相乗的であり、PDA
Cに対する潜在的に有効な治療戦略としてのコビメチニブ/ポナチニブの組み合わせを明
らかにした(図12、16および17)。
【0147】
<実施例4:コビメチニブ/ポナチニブ共処理はマウスモデルにおいて腫瘍退縮を誘導す
る>
インビボでのコビメチニブ/ポナチニブの組み合わせの有効性を試験するために、本願
発明者らはKP4およびKPP-GEMM由来腫瘍細胞を用いて異種移植試験を実施した
。コビメチニブとポナチニブはどちらもKP4異種移植において単剤としては無効であっ
たが、コビメチニブとポナチニブとの共処理は、腫瘍増殖の顕著な阻害および、切断され
たカスパーゼ3の増加を伴う細胞死の増加を引き起こした(図20(KP4細胞)、21
および22)。KPP-GEMM由来細胞株異種移植腫瘍でも同様の結果が得られたが、
本発明者らは、主に腫瘍退縮とは対照的に、腫瘍増殖の著しい遅延を観察した(図20
KPP細胞))。コビメチニブ/ポナチニブ組み合わせ処理はまた、KP4異種移植にお
いて103%TGI(%腫瘍増殖阻害)およびKPP異種移植において71%TGIをも
たらした(表2)。コビメチニブ/ポナチニブの組み合わせ処理は、KP4異種移植試験
においてマウスでのいくらかの連結した体重減少を引き起こしたが、KPP-GEMM由
来異種移植試験においては引き起こさなかった。KP4異種移植試験では、20%を超え
る体重減少のために2匹のマウスを試験の初期に離脱させなければならなかった。しかし
ながら、組み合わせ処理の過程の間、残りのマウスにおいて許容可能な閾値を超える顕著
な体重減少は観察されなかった(図31A)。移植された腫瘍の病理組織学的分析、IH
C染色、およびイムノブロッティングは、コビメチニブ治療時のp-PDGFRα、p-
STAT3、およびpS6の予想される誘導を確認し、これはコビメチニブとポナチニブ
との共処理に続いて顕著に下方制御された(図21、22、30、および33)。顕著に
高いPDGFα、PDGFβの血清レベル、およびIL-6の増加したレベルもまた、コ
ビメチニブ処理マウスにおいて観察された(図23)。コビメチニブ/ポナチニブの共処
理は血清PDGFαおよびPDGFβレベルを減少させたがVEGFまたはFGFレベル
は減少させず、PDACがんモデルにおけるポナチニブによるPDGFRα経路の特異的
関連性を強調した(図23および32)。
【0148】
PDAC腫瘍内の骨髄細胞区画の分析は、F4/80+腫瘍関連マクロファージ(TA
M)が最も優勢な骨髄性集団であることを明らかにした(図21)。コビメチニブ/ポナ
チニブ共処理は、腫瘍中のTAMの数を顕著に減少させ、マクロファージ阻害因子GCS
Fの血清レベルを誘導し、そしてマクロファージ活性化因子GM-CSFおよびMCSF
のレベルを減少させた(図22および23)。これらの知見は、コビメチニブ/ポナチニ
ブの共処理が、下流のMEK、S6、およびSTAT3の生存経路に加えてPDGFRα
経路を標的とすることによって腫瘍細胞と骨髄細胞の両方の集団を無効化するのに有効で
あることを示す。さらに、この知見は、この組み合わせ処理が腫瘍の退縮を促進しうるこ
とを示唆している。
【表2】
【0149】
<実施例5:PDAC患者の肝転移におけるErkおよびSTAT3の異なる活性化>
これらの知見の潜在的な臨床的関連性を調べるために、本願発明者らはp-Erkおよ
びp-STAT3について76のヒトPDAC組織サンプルおよび4つの肝転移のIHC
分析を実施した。Erkは、主にステージIおよびIIの悪性腫瘍を有する患者において
、13%のPDAC組織試料(10/76)において活性化され、STAT3活性化は、
26%の試料(20/76)において観察され、6.5%の試料(5/76)は、主にス
テージIの悪性腫瘍において、活性化された、ErkとSTAT3の両方を示した(図2
4および25)。さらに、肝臓転移の50%がErk活性化を示し(2/4)、そしてS
TAT3活性化が25%のサンプルにおいて見られた(1/4)(図24および25)。
さらに、遺伝子発現分析は、ヒト患者由来のPDAC腫瘍が、正常組織と比較して、増加
したレベルのRTK PDGFRα、PDGFRβ、およびIL6-Rを発現することを
さらに明らかにした(図26、表3)。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0150】
表3のデータは、PDAC腫瘍がPDGFR、IL-6、およびSTAT3シグナル伝
達によって駆動され得ること、およびこれらの経路がMEK経路阻害に対する応答を制限
し得ることを示唆する。これらの知見はまた、MEK経路が、ヒト膵がん患者における転
移時にSTAT3媒介生存カスケードに切り替わらない肝臓転移における腫瘍細胞の生存
において重要な役割を果たし得ることを示す。
【0151】
本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は同一の意味を有する。使用され
る数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを確実にするための努力がなされてきたが
、いくつかの実験誤差および偏差が考慮されるべきである。
【0152】
本明細書および特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」、「含む
(comprises)」、および「含んでいる」という用語は、文脈上他に必要とされ
る場合を除き、非排他的な意味で使用される。本明細書において記載される実施形態は、
「からなる」および/または「から本質的になる」実施形態を含むことが理解される。
【0153】
本明細書において使用されるとき、値について言及するときの「約」という用語は、い
くつかの実施形態において±50%、いくつかの実施形態において±20%、いくつかの
実施形態において±10%、いくつかの実施形態において±5%、いくつかの実施形態に
おいて特定の量から±1%、いくつかの実施形態において±0.5%、およびいくつかの
実施形態において±0.1%の、特定の量からの変動を包含することを意味し、そのよう
な変動は開示された方法を実施するため、または開示された組成物を使用するために適切
であるためである。
【0154】
ある範囲の値が提供されるとき、文脈が他を明確に指示しない限り、その範囲の上限と
下限との間、および、その述べられた範囲内の他の述べられた値または中間の値における
、各々の中間の値は、その下限の単位の10分の1まで包含される。独立してより小さな
範囲に含まれ得るこれらの小さい範囲の上限および下限はまた、述べられた範囲内の任意
の具体的に除外された限定を有することを条件として、包含される。述べられる範囲が限
界の一方または両方を含む場合、それらの含まれた限界のいずれかまたは両方を除外する
範囲もまた含まれる。
【0155】
本明細書に記載されている多くの修正および他の実施形態は、前述の説明および関連す
る図面に提示されている教示の恩恵を受けて、この課題が関係する当業者には思い浮かぶ
であろう。したがって、課題は開示された特定の実施形態に限定されるべきではなく、修
正および他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されることを理解
されたい。本明細書では特定の用語が使用されているが、それらは一般的かつ説明的な意
味でのみ使用されており、限定を目的としていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図28
図29
図30
図31A
図31B
図32
図33
【配列表】
2024170398000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓転移の治療を必要とする対象において肝臓転移を治療するための組み合わせ医薬品であって、治療有効量の活性剤の組み合わせを含み、前記組み合わせが、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩とを含み、前記コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩が45mg~75mgの量で存在し、前記ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩が30mg~60mgの量で存在する、組み合わせ医薬品
【請求項2】
前記肝臓転移の少なくとも1つが、Erk活性化、STAT3活性化、またはErkおよびSTAT3両方の活性化を示すがん細胞を含む、請求項1に記載の組み合わせ医薬品。
【請求項3】
前記組み合わせが相乗的である、請求項1に記載の組み合わせ医薬品。
【請求項4】
コビメチニブおよびポナチニブが逐次に投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬品
【請求項5】
コビメチニブおよびポナチニブが同時に投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬品
【請求項6】
コビメチニブおよびポナチニブが組み合わせ製剤として投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬品
【請求項7】
前記量が1日1回投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬品
【請求項8】
肝臓転移を治療するための組み合わせであって、a)コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、b)ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩とを含む、組み合わせ。
【請求項9】
有効量の、コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩と、ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される賦形剤とを含み、前記コビメチニブまたはその薬学的に許容される塩が45mg~75mgの量で存在し、前記ポナチニブまたはその薬学的に許容される塩が30mg~60mgの量で存在する、肝臓転移の治療のための薬学的組成物。
【請求項10】
前記コビメチニブが1mg/kg~50mg/kgの用量で投与され、前記ポナチニブが1mg/kg~50mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬品
【請求項11】
前記コビメチニブが1mg/kg~10mg/kgの用量で投与され、前記ポナチニブが10mg/kg~40mg/kgの用量で投与される、請求項10に記載の組み合わせ医薬品
【外国語明細書】