(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017042
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】リハビリテーション支援システム及びリハビリテーション支援方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240201BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61B10/00 W
A61B3/113
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119410
(22)【出願日】2022-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】521342670
【氏名又は名称】株式会社Parafeed
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100217984
【弁理士】
【氏名又は名称】川條 英明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 徹也
(72)【発明者】
【氏名】水島 豪太
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA21
4C316AB16
4C316FC28
(57)【要約】
【課題】めまいに関するリハビリテーションが適正に実施されることを支援する支援システム及び支援方法を提供する。
【解決手段】ヒトのめまいに関するリハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させ、当該動画像を視認している被験者の眼球運動を計測し、当該動画像を視認している被験者の頭部姿勢を計測し、当該動画像を表示している期間において計測された結果を解析して、被験者に対して実施されたリハビリテーションを定量的に評価する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援システムであって、
前記リハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる表示手段と、
少なくとも、当該動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する計測手段と、
前記表示手段が当該動画像を表示している期間において前記計測手段によって計測された結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する評価手段と、
を備えるリハビリテーション支援システム。
【請求項2】
前記計測手段は、前記リハビリテーションに係る動画像を視認している前記被験者の眼球運動、又は、当該動画像を視認している前記被験者の身体の重心のうち少なくとも一方を更に計測する、
請求項1に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項3】
前記表示手段は、一回の前記リハビリテーションの実施に対して、複数の動画像を個別に表示して前記被験者に視認させるものであり、
動画像ごとに定められた評価基準を記憶している記憶手段を備え、
前記評価手段は、前記表示手段によって表示される動画像ごとに、前記記憶手段に記憶されている前記評価基準に基づいて評価を数値で表す評価値を算出し、一回の前記リハビリテーションの実施によって算出された前記評価値の合計を、当該リハビリテーションの評価として出力する、
請求項2に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項4】
前記表示手段と、前記計測手段と、が一の仮想現実デバイスによって実現されており、
前記仮想現実デバイスを前記被験者の頭部に装着させて、前記被験者に前記リハビリテーションを実施させる、
請求項3に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項5】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を正位置に保持しながら、前記仮想現実空間を移動する前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部姿勢が保持される程度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、又は、前記被験者の重心の位置が保持されている程度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項6】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記仮想現実空間を前記仮想オブジェクトが移動する方向とは逆方向に前記被験者の頭部を動作させながら、前記仮想オブジェクトの移動を前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項7】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を移動させながら、前記仮想現実空間を移動せずに留まっている前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項8】
ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援方法であって、
前記リハビリテーションに係る動画像を被験者に視認させる第一工程と、
前記第一工程において動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する第二工程と、
前記第二工程の計測結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する第三工程と、
を含むリハビリテーション支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリテーション支援システム及びリハビリテーション支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは年齢を重ねると、平衡感覚を司る機能が低下し、ふらつき・転倒が増える。ふらつき・転倒に伴う大腿骨頸部骨折は年間15万例に及ぶと報告されており、医療介護費用が増大する一因となっている。
【0003】
ヒトは、前庭と呼ばれる平衡を感知する器官を左右の内耳に有しており、左右の前庭から脳に伝達される信号に基づいて、身体のバランスを取っている。従って、前庭機能が何らかの異常を来し、前庭神経が左右不均等に刺激されると、脳が混乱してめまいを引き起こす。
【0004】
現状、めまいを根本的に治療する治療薬は存在しない。従って、内服治療に頼っためまいの治療には限界があり、前庭機能の改善を目的とする運動療法(リハビリテーション)を用いることがある。
上記のようなリハビリテーションに関する技術の一具体例として、下記の特許文献1を例示する。
【0005】
特許文献1には、患者自身の指等を視標点とし、この視標点を上下左右に動かして眼で追うことで、眼球運動を促してリハビリテーションの実施にあたって、患者の腕部、眼球、頭部の動きを検知するセンサーを設け、これらのセンサーが検知した各部位の動きを解析してリハビリテーションの効果を定量的に評価する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている発明によって実現されるリハビリテーションの手法は、指標点(腕部)の動きを患者の意思に委ねるものであり、必ずしも指標点が適正に動くことが保証されない。
また、特許文献1に開示されている発明は、リハビリテーションの効果判定(リハビリテーションの実施前後におけるめまいの度合いの比較)を定量的に行うことを目的とするが、めまいの度合いに影響を与える要因は多岐にわたるため、同文献に開示されている手法のみでは十分な精度で効果判定することが難しい。
【0008】
本発明は、上記のような課題を鑑み、めまいに関するリハビリテーションが適正に実施されることを支援する支援システム及び支援方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援システムであって、前記リハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる表示手段と、少なくとも、当該動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する計測手段と、前記表示手段が当該動画像を表示している期間において前記計測手段によって計測された結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する評価手段と、を備えるリハビリテーション支援システムが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援方法であって、前記リハビリテーションに係る動画像を被験者に視認させる第一工程と、前記第一工程において動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する第二工程と、前記第二工程の計測結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する第三工程と、を含むリハビリテーション支援方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記の発明によれば、表示手段にリハビリテーションに係る動画像を表示することによって、被験者に当該動画像を視認させてリハビリテーションを実施するので、被験者は自然な流れでリハビリテーションを受けることができる。
また、評価対象が、実施したリハビリテーションそのもの(被験者のリハビリテーションに係る行動が、医療従事者等が想定している通りに行われている程度)であるため、適切な評価をすることができる。
【0012】
本発明によれば、めまいに関するリハビリテーションが適正に実施されることを支援する支援システム及び支援方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】VRデバイスを装着している被験者の様子を描いた図である。
【
図2】本発明に係るリハビリテーション支援システムの構成図である。
【
図3】本発明において計測される頭部姿勢の概念を示す図である。
【
図4】本発明に係るリハビリテーション支援方法のフローチャートである。
【
図5】本発明によって実施可能なリハビリテーションに用いられる動画像を模式的に示す図である。
【
図6】本発明によって実施可能なリハビリテーションに用いられる動画像を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0015】
<本発明に係るリハビリテーション支援システムの構成について>
先ず、本発明に係るリハビリテーション支援システムの構成について説明する。
本発明は、ヒトのめまい(前庭機能障害)に関するリハビリテーションの実施を支援するシステムである。
【0016】
図1は、VRデバイス100を装着している被験者の様子を描いた図である。
本発明を実施する場合、
図1に示すとおり、被験者の頭部にVRデバイス100を装着させる。VRデバイス100は、装着している者に仮想現実(Virtual Reality)の環境を体感させる装置であり、頭部に装着されている状態においてその物の両目の前方をディスプレイで覆われる、いわゆるヘッドマウントディスプレイである。
VRデバイス100は、被験者の頭部が正位置であるとき被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える動画像を表示することによって、被験者にリハビリテーションを実施させる。
【0017】
図2は、本発明に係るリハビリテーション支援システムの構成図である。
図2に示すとおり、VRデバイス100は、表示手段110と、眼球運動計測手段120と、頭部姿勢計測手段130と、を備える。
表示手段110は、リハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる。表示手段110は、液晶ディスプレイ装置などによって実現可能である。
眼球運動計測手段120は、リハビリテーションに係る動画像を視認している被験者の眼球運動を計測する。眼球運動計測手段120は、アイトラッカー(眼球運動を検知するセンサー)などによって実現可能である。なお、眼球運動計測手段120によって計測される眼球運動は、被験者の眼球の回旋軸と回旋角度の他、被験者の視線の位置(被験者が注視している位置)が含まれる。
頭部姿勢計測手段130は、リハビリテーションに係る動画像を視認している被験者の頭部姿勢を計測する。頭部姿勢計測手段130は、ジャイロセンサー(角速度を検知するセンサー)などによって実現可能である。
【0018】
図2に示すとおり、VRデバイス100は、コンピュータ装置200と通信可能に接続されている。
コンピュータ装置200は、CPU等の情報処理装置と、ROMやRAM等の記憶装置と、を内蔵しており、これらのハードウェアと、インストールされているソフトウェアと、の協働によって、後述する様々な処理を実行することができる。
また、コンピュータ装置200は、表示手段110がリハビリテーションに係る動画像を表示している期間において眼球運動計測手段120及び頭部姿勢計測手段130によって計測された結果を解析して、被験者に対して実施されたリハビリテーションを定量的に評価する装置であり、本発明に係る評価手段に相当する。
なお、VRデバイス100とコンピュータ装置200の間の通信は、無線通信であっても有線通信であってもよく、相互に直接的に接続されてもよく、不図示の他の装置を介して間接的に接続されてもよい。
【0019】
図3は、VRデバイス100(頭部姿勢計測手段130)によって計測される頭部姿勢の概念を示している。
VRデバイス100は、
図3に図示する、ロール(前後方向)を軸とする回転角度、ピッチ(左右方向)を軸とする回転角度、及び、ヨー(上下方向)を軸とする回転角度を計測している。
従って、VRデバイス100によって計測される移動方向は、ロール軸、ピッチ軸、及びヨー軸のそれぞれに関する角座標の和によって示される。また、VRデバイス100によって計測される移動速度は、ロール軸、ピッチ軸、及びヨー軸のそれぞれに関する角速度の和によって示される。
なお、VRデバイス100によって計測される移動方向及び移動速度の概念は、必ずしも上記の例に限られず、その他の座標系(例えば、XYZ座標系)によって定義される移動方向及び移動速度であってもよい。
【0020】
本実施形態では、VRデバイス100とコンピュータ装置200とを組み合わせることによって、本発明に係るリハビリテーション支援システムが実現される。
なお、本発明に係るリハビリテーション支援システムは、必ずしも複数のデバイス(VRデバイス100とコンピュータ装置200)によって実現される必要はなく、一台のデバイスによって実現されてもよい。
また、本実施形態では、表示手段110と眼球運動計測手段120と頭部姿勢計測手段130とが、一台のVRデバイス100に実装される態様を説明するが、これらの一部又は全部が別々のデバイスによって実現されてもよく、これらのデバイスは必ずしも被験者に装着されるもの(いわゆるウェアラブルな装置)である必要はない。
また、本実施形態では、本発明に係る評価手段に相当する構成として、上記の眼球運動計測手段120及び頭部姿勢計測手段130を例示するが、これらに加えて又は代えて、リハビリテーションに係る動画像を視認している被験者の身体の重心の位置を計測する手段を備えてもよい。被験者の身体の重心の位置を計測する手段は、VRデバイス100とは別に不図示の計測手段(例えば、被験者がその上に乗ることによって身体の重心位置を計測する計測器等)を用いて実現してもよいし、VRデバイス100が備える頭部姿勢計測手段130によって計測される頭部姿勢に基づいて演算処理によって重心位置を求める手法によって実現してもよい。
また、VRデバイス100は、本発明の目的を達成する範囲において、
図2に図示しない手段を実装してもよい。例えば、VRデバイス100は、リハビリテーションに関する指示を音声で被験者に伝えるための音声出力手段(スピーカやイヤホン等)を実装してもよい。
【0021】
<本発明に係るリハビリテーション支援方法について>
図4は、本発明に係るリハビリテーション支援方法のフローチャートである。
ステップS101において、被験者がVRデバイス100を頭部に装着する。
ステップS102において、VRデバイス100がリハビリテーションに係る動画像を表示し、当該動画像を被験者に視認させる。
ステップS103において、VRデバイス100は、ステップS102で表示した動画像を視認している被験者の頭部姿勢を計測する。
ステップS104において、VRデバイス100は、ステップS102で表示した動画像を視認している被験者の眼球運号を計測する。
ステップS105において、コンピュータ装置200は、ステップS103の計測結果及びステップS104の計測結果を解析して、被験者に対して実施されたリハビリテーションを定量的に評価する。
ステップS106において、コンピュータ装置200は、ステップS105で評価した評価値を出力する。
【0022】
ステップS102の表示、ステップS103の計測、及びステップS104の計測は、
図4では順次実行されるかのように図示したが、実際には並行して実行される処理であり、ステップS102の表示期間中のいずれかのタイミングにおいてステップS103の計測及びステップS104の計測が行われればよい。このとき、ステップS103の計測及びステップS104の計測は必ずしも同期していなくてもよい(ステップS103の計測タイミングとステップS104の計測タイミングとは一致しなくてもよい)。
【0023】
本発明に係るリハビリテーションは、一回の実施に対して、VRデバイス100は、複数の動画像を個別に表示して被験者に視認させるものである。従って、コンピュータ装置200は、VRデバイス100に表示される動画像ごとに、記憶している評価基準に基づいて評価を数値で表す評価値を算出し、一回のリハビリテーションの実施によって算出された評価値の合計を、当該リハビリテーションの評価として出力する。
すなわち、ステップS106における評価結果の出力は、一回のリハビリテーションの実施で表示される一連の動画像の表示が終了した時に実行されることが好ましく、ステップS105の定量評価の為の算出は、個別の動画像の表示が終了するごとに実行されることが好ましい。
なお、上述した評価基準は、本実施形態ではコンピュータ装置200に内蔵されているROMやRAM等の記憶装置に記憶されており、当該記憶装置は本発明に係る記憶手段に相当する。しかしながら、本発明の実施において、必ずしも評価基準がコンピュータ装置200に記憶されている必要はなく、不図示の外部装置から入力(受信)して使用してもよい。
【0024】
<めまいに関するリハビリテーションの具体例について>
上述したリハビリテーション支援システム及びリハビリテーション支援方法によって実施可能である、ヒトのめまいに関するリハビリテーションの具体例について、
図5及び
図6を用いて説明する。
図5及び
図6は、それぞれ本発明によって実施可能なリハビリテーションに用いられる動画像を模式的に示す図である。
本実施形態では、
図5及び
図6に描かれる動画像が三次元動画像であることを前提として説明するが、本発明の実施に用いられる動画像は、必ずしも三次元に表現されるものである必要はなく、二次元に表現されるものであってもよい。
また、本実施形態では、VRデバイス100によって表される環境が仮想現実空間であるため、VRデバイス100が検知する被験者の頭部姿勢に応じてVRデバイス100の表示範囲が変化し、あたかも被験者から視た仮想オブジェクトの見た目上の位置が、被験者の視線の向きによって変わるかのように見える。
なお、本実施形態において、仮想現実空間に表される仮想オブジェクトの位置は、その仮想現実空間内の所定位置を原点として定められるワールド座標によって定義されてもよいし、VRデバイス100を原点としてとして定められる視点座標(Head Mount Display座標)によって定義されてもよい。
【0025】
図5に示すとおり、VRデバイス100に表示される三次元動画像は、その仮想現実空間に仮想オブジェクトCAが存在するように視認される。
この三次元動画像における仮想オブジェクトCAの初期位置は、被験者の頭部が正位置であるとき、表示領域の中央部分である(
図5(a)参照)。ここで正位置とは、被験者の頭部の正面方向と、身体の正面方向と、が一致する位置である。
そして、この三次元動画像における仮想オブジェクトCAは、初期位置から左側に移動し(
図5(b)参照)、その後に右側に移動する(
図5(c)参照)。
この三次元動画像を視認することによってリハビリテーションを実施する被験者は、頭部を正位置に保持しながら、仮想現実空間を移動する仮想オブジェクトCAを注視する。
上記のようなリハビリテーションを実施すると、前庭が正常に機能している被験者である場合と前庭に異常を来している被験者である場合とを比較した場合に、VRデバイス100によって計測される被験者の頭部姿勢が保持される程度、被験者が注視している位置が仮想オブジェクトの位置に合っている程度、又は、被験者の重心の位置が保持されている程度のうち少なくとも一つのパラメータについて、有意な差が出ることが想定される。
従って、コンピュータ装置200は、これらのパラメータに基づいて、実施したリハビリテーションの定量評価(被験者自身の行為が指示に適っている程度の評価)を定めることができる。
【0026】
また、
図5に示す三次元動画像は、次のようなリハビリテーションの実施にも使用することができる。
当該リハビリテーションを実施する被験者は、三次元動画像によって表される仮想空間を仮想オブジェクトCAが移動する方向とは逆方向に頭部を移動させながら、仮想現実空間を移動する仮想オブジェクトCAを注視する。
上記のようなリハビリテーションを実施すると、前庭が正常に機能している被験者である場合と前庭に異常を来している被験者である場合とを比較した場合に、VRデバイス100によって計測される被験者の頭部の移動方向及び移動速度、被験者が注視している位置が仮想オブジェクトCAの位置に合っている程度、若しくは、被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つのパラメータについて、有意な差が出ることが想定される。
従って、コンピュータ装置200は、これらのパラメータに基づいて、実施したリハビリテーションの定量評価(被験者自身の行為が指示に適っている程度の評価)を定めることができる。
【0027】
なお、
図5では、初期位置に対して左右に移動する仮想オブジェクトCAを例示したが、仮想オブジェクトの移動方向はこの例に限られない。例えば、仮想オブジェクトは、初期位置に対して上下に移動してもよいし、初期位置から斜め方向に移動してもよい。
【0028】
図6に示すとおり、VRデバイス100に表示される三次元動画像は、その仮想現実空間に仮想オブジェクトCBが存在するように視認される。
この三次元動画像における仮想オブジェクトCBの初期位置は、被験者の頭部が正位置であるとき、表示領域の中央部分である(
図6(a)参照)。このとき、仮想オブジェクトCBの奧方に、顔オブジェクトFBが被験者と対向する存在するように表示される。顔オブジェクトFBは、被験者に頭部の動きをガイドするために表示されるオブジェクトである。
そして、この三次元動画像における仮想オブジェクトCBは、初期位置から移動せず、仮想空間内の同じ場所に留まるように表示される(
図6(b)及び
図6(c)参照)。
続いて、VRデバイス100は、顔オブジェクトFBの視線を仮想オブジェクトCBに合わせたまま被験者から視て左方向(顔オブジェクトFBの視線方向を基準とすると右方向)に回転する三次元動画像を表示することによって、被験者の頭部を左方向に回転するように促す(
図6(b)参照)。
更に、VRデバイス100は、顔オブジェクトFBの視線を仮想オブジェクトCBに合わせたまま被験者から視て右方向(顔オブジェクトFBの視線方向を基準とすると左方向)に回転する三次元動画像を表示することによって、被験者の頭部を右方向に回転するように促す(
図6(c)参照)。
この三次元動画像に表示される顔オブジェクトFBの動きに従ってリハビリテーションを実施する被験者は、頭部を左右に回転させながら、仮想現実空間を移動する仮想オブジェクトCBを注視する。
上記のようなリハビリテーションを実施すると、前庭が正常に機能している被験者である場合と前庭に異常を来している被験者である場合とを比較した場合に、VRデバイス100によって計測される被験者の頭部の移動方向及び移動速度、被験者が注視している位置が仮想オブジェクトCBの位置に合っている程度、若しくは、被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つのパラメータについて、有意な差が出ることが想定される。
従って、コンピュータ装置200は、これらのパラメータに基づいて、実施したリハビリテーションの定量評価(被験者自身の行為が指示に適っている程度の評価)を定めることができる。
【0029】
なお、
図6では、仮想オブジェクトCBと共に顔オブジェクトFBが表示される三次元動画像を用いて、顔オブジェクトFBの動きによって被験者が行うべきリハビリテーションの行為を案内する態様としたが、当該行為を指示する文字情報の表示によって案内してもよいし、当該行為を指示する音声情報の音声出力によって案内してもよい。
また、
図5では、
図6に図示した顔オブジェクトFBに相当する表示が存在しない態様を図示したが、
図5を用いて説明したリハビリテーションについても、顔オブジェクトFBに相当する表示によって、リハビリテーションの行為を被験者に指示する態様を採ってもよい。
【0030】
上述したように、本実施形態では、
図5及び
図6を用いて3パターンのリハビリテーションの具体例を例示したが、本発明の実施においてこれらの全てを実施する必要はなく、これらのリハビリテーションの一部を省いてもよく、他のリハビリテーションを追加してもよい。
また、
図5及び
図6に図示した各仮想オブジェクトの形状や位置は一具体例に過ぎず、本発明の目的を達する範囲において適宜変更可能である。
【0031】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援システムであって、前記リハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる表示手段と、少なくとも、当該動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する計測手段と、前記表示手段が当該動画像を表示している期間において前記計測手段によって計測された結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する評価手段と、を備えるリハビリテーション支援システム。
(2)前記計測手段は、前記リハビリテーションに係る動画像を視認している前記被験者の眼球運動、又は、当該動画像を視認している前記被験者の身体の重心のうち少なくとも一方を更に計測する、(1)に記載のリハビリテーション支援システム。
(3)前記表示手段は、一回の前記リハビリテーションの実施に対して、複数の動画像を個別に表示して前記被験者に視認させるものであり、動画像ごとに定められた評価基準を記憶している記憶手段を備え、前記評価手段は、前記表示手段によって表示される動画像ごとに、前記記憶手段に記憶されている前記評価基準に基づいて評価を数値で表す評価値を算出し、一回の前記リハビリテーションの実施によって算出された前記評価値の合計を、当該リハビリテーションの評価として出力する、(2)に記載のリハビリテーション支援システム。
(4)前記表示手段と、前記計測手段と、が一の仮想現実デバイスによって実現されており、前記仮想現実デバイスを前記被験者の頭部に装着させて、前記被験者に前記リハビリテーションを実施させる、(3)に記載のリハビリテーション支援システム。
(5)前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を正位置に保持しながら、前記仮想現実空間を移動する前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、前記評価手段は、前記被験者の頭部姿勢が保持される程度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、又は、前記被験者の重心の位置が保持されている程度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、(4)に記載のリハビリテーション支援システム。
(6)前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、前記リハビリテーションには、前記仮想現実空間を前記仮想オブジェクトが移動する方向とは逆方向に前記被験者の頭部を動作させながら、前記仮想オブジェクトの移動を前記被験者に注視させる行為が含まれ、前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、(4)に記載のリハビリテーション支援システム。
(7)前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を移動させながら、前記仮想現実空間を移動せずに留まっている前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、(4)に記載のリハビリテーション支援システム。
(8)ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援方法であって、前記リハビリテーションに係る動画像を被験者に視認させる第一工程と、前記第一工程において動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する第二工程と、前記第二工程の計測結果を解析して、前記被験者に対して実施された前記リハビリテーションを定量的に評価する第三工程と、を含むリハビリテーション支援方法。
【符号の説明】
【0032】
100 VRデバイス
110 表示手段
120 眼球運動計測手段
130 頭部姿勢計測手段
200 コンピュータ装置
【手続補正書】
【提出日】2022-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援システムであって、
前記リハビリテーションに係る動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる表示手段と、
少なくとも、当該動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する計測手段と、
前記表示手段が当該動画像を表示している期間において前記計測手段によって計測された結果を解析して、前記被験者の前記リハビリテーションに係る行動が、医療従事者が想定している通りに行われている程度を評価する評価手段と、
を備えるリハビリテーション支援システム。
【請求項2】
前記計測手段は、前記リハビリテーションに係る動画像を視認している前記被験者の眼球運動、又は、当該動画像を視認している前記被験者の身体の重心のうち少なくとも一方を更に計測する、
請求項1に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項3】
前記表示手段は、一回の前記リハビリテーションの実施に対して、複数の動画像を個別に表示して前記被験者に視認させるものであり、
動画像ごとに定められた評価基準を記憶している記憶手段を備え、
前記評価手段は、前記表示手段によって表示される動画像ごとに、前記記憶手段に記憶されている前記評価基準に基づいて評価を数値で表す評価値を算出し、一回の前記リハビリテーションの実施によって算出された前記評価値の合計を、当該リハビリテーションの評価として出力する、
請求項2に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項4】
前記表示手段と、前記計測手段と、が一の仮想現実デバイスによって実現されており、
前記仮想現実デバイスを前記被験者の頭部に装着させて、前記被験者に前記リハビリテーションを実施させる、
請求項3に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項5】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を正位置に保持しながら、前記仮想現実空間を移動する前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部姿勢が保持される程度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、又は、前記被験者の重心の位置が保持されている程度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項6】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記仮想現実空間を前記仮想オブジェクトが移動する方向とは逆方向に前記被験者の頭部を動作させながら、前記仮想オブジェクトの移動を前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項7】
前記表示手段は、前記被験者の頭部が正位置であるとき前記被験者の前方に仮想オブジェクトが存在するように見える仮想現実空間を表現し、
前記リハビリテーションには、前記被験者の頭部を移動させながら、前記仮想現実空間を移動せずに留まっている前記仮想オブジェクトを前記被験者に注視させる行為が含まれ、
前記評価手段は、前記被験者の頭部の移動方向及び移動速度、前記被験者が注視している位置が前記仮想オブジェクトの位置に合っている程度、若しくは、前記被験者の重心位置の移動方向及び移動速度のうち少なくとも一つを用いて当該行為の評価を定める、
請求項4に記載のリハビリテーション支援システム。
【請求項8】
ヒトのめまいに関するリハビリテーションの実施を支援するリハビリテーション支援方法であって、
前記リハビリテーションに係る動画像を被験者に視認させる第一工程と、
前記第一工程において動画像を視認している前記被験者の頭部姿勢を計測する第二工程と、
前記第二工程の計測結果を解析して、前記被験者の前記リハビリテーションに係る行動が、医療従事者が想定している通りに行われている程度を評価する第三工程と、
を含むリハビリテーション支援方法。