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特開2024-170468フッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170468
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】フッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241203BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20241203BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20241203BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241203BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241203BHJP
   B32B 37/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/20 Z
B32B7/022
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
H05K1/03 610R
C08J5/18 CEW
B32B37/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024147667
(22)【出願日】2024-08-29
(62)【分割の表示】P 2024509434の分割
【原出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2023026443
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】野々山 智仁
(72)【発明者】
【氏名】小林 真吾
(57)【要約】
【課題】ガラスファイバークロスを使用しなくても取り扱い性の良好なフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板を提供する。
【解決手段】フッ素ポリマー2と無機フィラー3を含むフッ素樹脂シート1であって、フッ素ポリマー2はフッ素樹脂シート1の面方向に配向している。本発明の金属張積層板は、前記フッ素樹脂シートの少なくとも一表面に金属箔が張り合わされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ポリマーと無機フィラーを含むフッ素樹脂シートであって、
前記フッ素樹脂シートは複数枚のシートが厚さ方向に積層された脱脂シートであり、
前記フッ素ポリマーは、前記フッ素樹脂シートの面方向に配向しているとともに前記無機フィラーに絡み付いて無機フィラーを被覆し、無機フィラーとフッ素ポリマーとの界面剥離は無く、
前記フッ素樹脂シートは、長さ方向及び幅方向の引張強度がいずれも6MPa以上、長さ方向及び幅方向の破断伸度がいずれも10%以上あることを特徴とするフッ素樹脂シート。
【請求項2】
前記フッ素ポリマーは、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)、及びパーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)からなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項3】
前記無機フィラーが酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、チタン酸バリウム、硫酸バリウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項4】
前記フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂100体積部に対して、無機フィラーは100~1000体積部である請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項5】
前記無機フィラーの各粒子は、レーザー回折光散乱法、体積基準による累積粒度分布のD50:メジアン径で0.01~100μmである請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項6】
前記フッ素樹脂シートの熱伝導率が0.1~10W/m・Kである請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項7】
前記フッ素樹脂シートの厚さは0.05~10.0mmである請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項8】
前記フッ素樹脂シートの単位面積当たりの質量は80~40000g/m2である請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項9】
前記フッ素樹脂シートは、表面粗度がRz0.85以上2.0以下の金属箔に接着が可能で、金属箔との接着強度がピール強度で最大40N/cmである請求項1に記載のフッ素樹脂シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のフッ素樹脂シートの少なくとも一表面に金属箔が張り合わされていることを特徴とする金属張フッ素樹脂基板。
【請求項11】
前記金属張フッ素樹脂基板は、周波数10GHzの誘電正接が0.0001~0.003である請求項10に記載の金属張フッ素樹脂基板。
【請求項12】
前記金属張フッ素樹脂基板は、周波数10GHzの比誘電率が1.5~20である請求項10に記載の金属張フッ素樹脂基板。
【請求項13】
前記金属箔は銅箔である請求項10に記載の金属張フッ素樹脂基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波やマイクロ波などの高周波を使用する高速通信用のプリント配線基板に有用なフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gなどの高速通信化に伴い、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。5Gなどの高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラスなどの低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、更には低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させたプリント基板が広く使用されている。
特許文献1には、フッ素樹脂に低分子量ポリテトラフルオロエチレン微粉末と無機フィラーを混合し、ガラスファイバークロスに含侵させてフッ素樹脂プリプレグとすることが提案されている。特許文献2には、ガラスファイバークロスに含侵させたフッ素樹脂プリプレグの表面をアミノ基と水酸基を有する親水化処理して金属箔と張り合わせることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-50860号公報
【特許文献2】特開2022-114351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フッ素樹脂シートは破れやすく、取り扱い性が悪いという問題があった。前記特許文献1~2は、ガラスファイバークロスに含侵させてフッ素樹脂プリプレグとすることにより、取り扱い性を改善しているが、ガラスファイバークロスを使用せず、単体で取り扱い性の良好なフッ素樹脂シート金属張フッ素樹脂基板が求められていた。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、単体で取り扱い性の良好なフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフッ素樹脂シートは、フッ素ポリマーと無機フィラーを含むフッ素樹脂シートであって、
前記フッ素樹脂シートは複数枚のシートが厚さ方向に積層された脱脂シートであり、
前記フッ素ポリマーは、前記フッ素樹脂シートの面方向に配向しているとともに前記無機フィラーに絡み付いて無機フィラーを被覆し、無機フィラーとフッ素ポリマーとの界面剥離は無く、
前記フッ素樹脂シートは、長さ方向及び幅方向の引張強度がいずれも6MPa以上、長さ方向及び幅方向の破断伸度がいずれも10%以上あることを特徴とする。
【0007】
本発明の金属張積層板は、前記フッ素樹脂シートの少なくとも一表面に金属箔が張り合わされている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、フッ素ポリマーと無機フィラーを含み、フッ素ポリマーはフッ素樹脂シートのかつ面方向に配向していることにより、単体で取り扱い性の良好なフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施形態のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率500倍)である。
図2図2は本発明の一実施形態のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率1000倍)である。
図3図3は比較例のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率500倍)である。
図4図4は比較例のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率1000倍)である。
図5図5は本発明の一実施形態の銅張フッ素樹脂基板の模式的斜視図である。
図6図6A-Dは本発明の一実施形態のフッ素樹脂シートの製造方法を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、従来のガラスファイバークロスを積層したフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板の問題点を検討したところ、従来品はガラスファイバークロスの厚みの制約があるため薄膜とすることが困難であり、物性面においても、フッ素樹脂とガラスファイバークロスは体積バランスが違うため、誘電率が変動し、高周波ではクロスレスと比べて伝送特性が悪くなる傾向となること、及びフッ素樹脂は粘度が高いので内部まで含侵しにくく、エアー巻き込みの可能性があるなどの問題があることが判明した。本発明は、このような着想のもとに完成したものである。
【0011】
本発明は、フッ素ポリマーと無機フィラーを含むフッ素樹脂シートである。フッ素ポリマーと無機フィラーからなるフッ素樹脂シートであってもよいし、フッ素ポリマーと無機フィラー以外の添加物、例えば顔料、安定剤、オイル、アルコール、樹脂などを添加してもよい。フッ素ポリマーは、フッ素樹脂シートの面方向に配向している。すなわち、フッ素樹脂シートは断面方向から見て積層構造である。この構造により、複数方向に対して引張強力が高く、ガラスファイバークロスを使用しなくてもフッ素樹脂シート単体で取り扱い性は良好なる。もちろん、ガラスファイバークロスの使用を排除するものではなく、任意の個所に積層してもよい。好ましくは、ガラスファイバークロスは使用せず、フッ素樹脂シート単体とする。このフッ素樹脂シートは、フッ素ポリマーが厚さ方向に層状に積層した構造となっていることが好ましい。前記構造により、様々な方向に対して強力が高く、取り扱い性は向上する。
【0012】
フッ素樹脂シートは、長さ方向及び幅方向の引張強度がいずれも5MPa以上あることが好ましく、より好ましくは5MPaを超え、さらに好ましくは6MPa以上である。また上限値は高ければ高いほど良いが、実用的には100MPa以下が好ましく、さらに好ましくは95MPa以下である。これにより、様々な方向に対して強力が高く、取り扱い性は向上する。
【0013】
前記フッ素樹脂シートは、長さ方向及び幅方向の破断伸度がいずれも1%以上あることが好ましく、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。また上限値は500%以下が好ましく、さらに好ましくは400%以下である。これにより、様々な方向に対して伸度が高く、取り扱い性は向上する。
【0014】
フッ素ポリマーは、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)からなる群から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。特にPTFEを50質量%以上の主成分とし、PFA及び/又はFEPを50質量%未満の副成分とする組み合わせが好ましい。
【0015】
無機フィラーが酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。これらは補強性材料及び/又は熱伝導性材料となる。補強性材料はシートの強度を上げることができ、熱伝導性材料は半導体などの発熱部材からの熱を放熱材料に移動させることができる。
【0016】
フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂100体積部に対して、無機フィラーは100~1000体積部であるのが好ましく、より好ましくは150~900体積部であり、さらに好ましくは200~800体積部である。これにより補強及び/又は熱伝導性が向上する。
無機フィラーの各粒子は、レーザー回折光散乱法、体積基準による累積粒度分布のD50:メジアン径で0.01~100μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1~90μmであり、さらに好ましくは0.1~80μmである。これにより補強及び/又は熱伝導性が向上する。
【0017】
フッ素樹脂シートの熱伝導率が0.1~10W/m・Kであるのが好ましく、より好ましくは0.2~10W/m・Kであり、さらに好ましくは0.3~10W/m・Kである。これにより熱伝導性が好ましいものとなる。
【0018】
フッ素樹脂シートの厚さは0.05~10.0mmであるのが好ましく、より好ましくは0.1~9mmであり、さらに好ましくは0.12~8mmである。これにより様々な回路基板に対応できる。
【0019】
フッ素樹脂シートの単位面積当たりの質量は80~40000g/m2であるのが好ましく、より好ましくは160~30000g/m2であり、さらに好ましくは200~20000g/m2である。これにより特性の異なる回路基板を作製できる。
【0020】
フッ素樹脂シートは、表面粗度がRz0.85以上2.0以下の金属箔に接着が可能で、金属箔との接着強度がピール強度で最大40N/cmであるのが好ましい。より好ましくは、前記ピール強度は5.0~40N/cm、さらに好ましくは5.3~40N/cmである。これによりさまざまな回路基板に対応できる。
【0021】
半田耐熱は、温度288℃のはんだ槽に50mm角の銅張フッ素樹脂基板のサンプルを10分間浮かべて銅箔が剥がれること又は膨れないのが好ましい。これにより、半田作業における工程通過性を向上できる。
【0022】
本発明の金属張フッ素樹脂基板は、前記のいずれかのフッ素樹脂シートの少なくとも一表面に金属箔が張り合わされている。好ましくは両面、あるいは多層に張り合わされている。これにより多くの回路基板に対応できる。
【0023】
金属張フッ素樹脂基板は、周波数10GHzの誘電正接が0.0001~0.003であるのが好ましい。金属張フッ素樹脂基板は、周波数10GHzの比誘電率が1.5~20であるのが好ましい。これにより高周波用回路基板に対応できる。
【0024】
金属箔は銅箔であるのが好ましい。これにより高周波用回路基板に対応できる。
【0025】
本発明の製造方法は、下記の工程を含む。
(1)第1工程
フッ素ポリマーの水性ディスバージョンと無機フィラーを混合し、コンパウンドし、プレス成形してシートとする。ここでコンパウンドとは、坏土(はいど、英語ではgreen body)と同じ意味である。プレス成形は、常温(室温)で圧力0.5~4.0MPaが好ましい。コンパウンドは、自公転混合、ニーダー混練、振盪、3本ロール、ポットミル等の混合法を採用できる。
(2)第2工程
前記シートを積層し、再度プレス成形してシートとする。プレス成形は、常温(室温)で圧力0.15~2.5MPaが好ましい。この際に、積層とプレス成形を複数回繰り返してもよい。複数回とは2~20回が好ましく、より好ましくは3~15回である。また、積層は1方向積層(パラレル積層)、多方向積層(クロス積層)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一つの積層が好ましい。これにより、フッ素ポリマーは、フッ素樹脂シートの厚さ方向に積層され、かつ面方向に配向した構造となる。加えて、積層とプレス成形を複数回繰り返すことにより、フッ素ポリマーは、無機フィラーに絡みつき無機フィラーを被覆する構造になる。これにより、無機フィラーとフッ素ポリマーとの界面剥離がなくなる構造となる。前記したように、フッ素樹脂シートの厚さ方向に積層され、かつ面方向に配向した構造、及び無機フィラーとフッ素ポリマーとの界面剥離がなくなる構造が相俟って、相乗的に複数方向に対して引張強力が高く、ガラスファイバークロスを使用しなくても単体で取り扱い性の良好なフッ素樹脂シートとなる。
(3)圧延、乾燥、脱脂工程
以上のようにして得られたシートを圧延後乾燥し、脱脂する。圧延はロール圧延が好ましい。乾燥は自然乾燥(室温で風乾)が好ましい。脱脂は200~300℃で5~24時間熱処理するのが好ましい。これにより、不要な有機物を除去する。
【0026】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態のフッ素樹脂シート1の走査型電子顕微鏡(SEM)断面写真(倍率500倍)である。フッ素ポリマー2は、フッ素樹脂シート1の面方向に配向している。すなわち、横方向に配列しているのがフッ素ポリマー2である。このフッ素ポリマー2は無機フィラー3に絡みつき、無機フィラーを被覆しており、無機フィラー3とフッ素ポリマー2とは明確な海島構造が見られない。なお、図1においてタテ線は、イオンミリングで断面を切断した際のカット傷である。また、このフッ素樹脂シート1は、フッ素ポリマー2が厚さ方向に層状に積層した構造となっていることが観察できる。すなわち、断面方向から見て積層構造になっている。図2は本発明の一実施形態のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率1000倍)である。
【0027】
図3は比較例のフッ素樹脂シート4のSEM写真(倍率500倍)である。このフッ素樹脂シート4は、前記本発明方法の第2工程(積層プレス工程)がない方法で作製したものである。フッ素ポリマー5と無機フィラー6は明確な海島構造となっており、フッ素ポリマー5の配向性は見られない。また、無機フィラー6とフッ素ポリマー5との界面は明瞭に観察でき、界面剥離が見られる部分もある。図3においてタテ線はイオンミリングで断面を切断した際のカット傷である。図4は比較例のフッ素樹脂シートのSEM断面写真(倍率1000倍)である。
【0028】
図5は本発明の一実施形態の銅張フッ素樹脂基板7の模式的斜視図である。この銅張フッ素樹脂基板7は、フッ素樹脂シート1の両面に銅箔8a,8bが張り付けられている。フッ素樹脂シート1は融点326℃近辺の温度まで加熱し、熱プレスにより銅箔8a,8bに張り付ける。この際に接着剤を使用してもよい。
【0029】
図6A-Dは本発明の一実施形態のフッ素樹脂シートの製造方法を示す模式的斜視図である。図6Aは前記本発明方法の第1工程で得られたフッ素樹脂シート9である。図6Bはこのフッ素樹脂シート9を矢印10,11のようにクロス積層する例である。折り曲げる角度は任意である。図6Cはフッ素樹脂シート9を矢印10,11のようにパラレル積層する。図6Bのクロス積層と図6Cのパラレル積層を混ぜてミックス積層してもよい。このように積層したフッ素樹脂シート9を、図6Dに示すようにプレス板14,15でプレスする。次に、前記したように圧延、乾燥、脱脂工程を経て、本発明のフッ素樹脂シートを得る。
【実施例0030】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
<誘電率、誘電正接>
ネットワークアナライザー(キーサイト・テクノロジー社製)を使用し、空洞共振器摂動法で測定した。
<実効比誘電率、伝送損失>
ネットワークアナライザー(キーサイト社製)を使用し、伝送損失を測定した。
<剥離強度>
引張試験機(島津製作所社製)を使用しJIS C6481(1996)に従い90°剥離し、ピールオフ強度を測定した。
<引張強度、伸度>
引張試験機(島津製作所社製)を使用しASTM D638(1995)に従い引張試験、伸度試験を行った。なお、引張強度及び伸度は、試料サンプル5cm幅で測定し、1cmあたりに換算した。伸度は破断伸度のことである。
<比重>
比重計(メトラー・トレド社製)を使用し、ASTM D792:20(2020)に従い比重を測定した。使用した液体はエタノールである。
<熱抵抗、熱伝導率>
ASTM D5470(2017)に準拠した方法(アルミブロックで試料サンプルを挟み込み、荷重:5kgfをかけ、上下の温度差と電力から熱抵抗値を測定し、熱抵抗値から熱伝導率を算出する)に従い熱抵抗を測定した。また、その傾きから熱伝導率を算出した。
<半田耐熱>
半田耐熱は、温度288℃のはんだ槽に50mm角の銅張フッ素樹脂基板のサンプルを10分間浮かべて銅箔が剥がれる或いは膨れていないかで確認した。
<その他の物性>
業界の標準検査に従って測定した。
【0031】
(実施例1)
<原料>
レーザー回折光散乱法、体積基準による累積粒度分布のD50:メジアン径が13.5μmのシリカ(LS―44:丸釜釜戸陶料社製)を132体積部、容器に添加した。その後ポリテトラフルオロエチレン(31―JR:三井ケマーズ製)の水性ディスパージョン(60%濃度)を樹脂分が95体積部になるように添加し、パーフルオロエチレン(335―JR:三井ケマーズ製)の水性ディスパージョン(56%濃度)を樹脂分が5体積部になるように添加したものを攪拌し、分散液を得た。
<混合>
前記により得られた分散液を回転数60~70rpmに調整されたプロペラ機で2分間攪拌した。次に回転数60~70rpmのプロペラ機で2分間攪拌した。
<固化>
前記により得られた分散液を固化させた。
<コンパウンド化(坏土化)>
前記により固化させた分散液をヘラ等で掬い出し、こねた。
<成型>
前記により得られた坏土を、内枠が14cm角、厚み1.5cmの金枠内に設置し、室温で2.0MPaの圧力でプレス成型した。
<積層プレス>
前記にて十分な時間漬け置きされた成型体を、内枠が21cm角、厚み0.65cmの金枠内に設置し、室温で1.5MPaの圧力でプレス成型した。その後、図6Aに示す積層と図6Bに示す積層を1回ずつ行い、その後、室温で1.0MPaの圧力でプレス成型した。
<圧延>
前記にて得られた成型体を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに載せ、3.5mmのロール間隔で圧延した。このとき圧下率は低めに設定することが望ましい。所定の厚み(約0.16mm)になるまで圧延を繰り返した。
<乾燥>
前記圧延で得られたシートをPETフィルムに載せたまま乾燥させた。
<脱脂>
得られた乾燥したシートを所定の寸法にカットしオーブンに入れ250℃で12時間加熱した。
<加熱プレス>
脱脂工程で得られた長尺の脱脂シートを所定の大きさ(一例としてタテ200mm、ヨコ300mm)にカットし、銅箔(福田金属箔粉工業社製、商品名"CF-T4X-SV18")/脱脂シート/銅箔の順に重ね、温度350℃まで徐々に加熱し、真空度0.9kPa、加圧力8.0MPaで真空加熱プレスし積層体とした。得られた銅張フッ素樹脂基板の大きさは、タテ200mm、ヨコ300mm、厚さ0.127mm、単位面積当たりの質量555g/m2であった。
評価用のフッ素樹脂シート単体は、銅箔を使用せずにシートのみを前記と同一条件でプレスした。得られたフッ素樹脂シート単体の大きさは、タテ200mm、ヨコ300mm、厚さ0.127mm、単位面積当たりの質量272g/m2であった。
【0032】
(比較例1)
積層プレス工程を行わない以外は実施例1と同様に実施した。しかし、圧延以降の工程通過性が悪く、長尺のフッ素樹脂シートを得ることは困難であった。この理由は、積層プレス工程が無いと、フッ素樹脂シートは弱く、長さ方向に破れやすいからであった。
しかし、長尺のフッ素樹脂シートを得ることはできなかったが、長さ100mm、幅60mm程度の小さなシートは得られたので、実施例1と同様に、圧延、乾燥、脱脂、加熱プレスをし、評価用のフッ素樹脂シート単体を得た。
【0033】
(実施例2)
<原料>
レーザー回折光散乱法、体積基準による累積粒度分布のD50:メジアン径が2μmのアルミナ100gと、D50:メジアン径10μmのアルミナを265体積部、容器に添加した。その後ポリテトラフルオロエチレン(31―JR:三井ケマーズ製)の水性ディスパージョン(60%濃度)を樹脂分が95体積部になるように添加し、パーフルオロエチレン(335―JR:三井ケマーズ製)の水性ディスパージョン(56%濃度)を樹脂分が5体積部になるように添加したものを攪拌し、分散液を得た。
<混合>
得られた分散液を回転数60~70rpmに調整されたプロペラ機で2分間攪拌した。
<固化>
前記により得られた分散液を固化させた。
<コンパウンド化(坏土化)>
前記により固化させた分散液をヘラ等で掬い出し、こねた。
<成型>
前記により得られた坏土を、内枠が14cm角、厚み1.5cmの金枠内に設置し、室温で0.65MPaの圧力でプレス成型した。
<積層プレス>
前記にて十分な時間漬け置きされた成型体を、内枠が21cm角、厚み0.65cmの金枠内に設置し、室温で0.40MPaの圧力でプレス成型した。その後、図6Aに示す積層と図6Bに示す積層を2回ずつ行い、その後、室温で0.35MPaの圧力でプレス成型した。
<圧延>
前記にて得られた成型体を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに載せ、3.5mmのロール間隔で圧延した。このとき圧下率は低めに設定することが望ましい。所定の厚み(約0.127mm)になるまで圧延を繰り返した。
<乾燥>
前記圧延で得られたシートをPETフィルムに載せたまま乾燥させた。
<脱脂>
得られた乾燥したシートを所定の寸法にカットしオーブンに入れ250℃で12時間加熱した。
<加熱プレス>
脱脂工程で得られた長尺の脱脂シートを所定の大きさにカットし、銅箔(福田金属箔粉工業社製、商品名"CF-T4X-SV18")/脱脂シート/銅箔の順に重ね、温度350℃まで徐々に加熱し、真空度0.9kPa、加圧力8MPaで真空加熱プレスし積層体とした。得られた銅張フッ素樹脂基板の大きさは、タテ200mm、ヨコ300mm、厚さ0.127mm、単位面積当たりの質量693g/m2であった。
評価用のフッ素樹脂シート単体は、銅箔を使用せずにシートのみを前記と同一条件でプレスした。得られたフッ素樹脂シート単体の大きさは、タテ200mm、ヨコ300mm、厚さ0.127mm、単位面積当たりの質量410g/m2であった。
このフッ素樹脂シート単体の走査型電子顕微鏡(SEM)断面写真(倍率500倍)を図1に示す。図1から明らかなとおり、フッ素ポリマー2はフッ素樹脂シート1の厚さ方向に積層され、かつ面方向に配向していた。すなわち、横方向に配列しているのがフッ素ポリマー2である。このフッ素ポリマー2は無機フィラー3に絡みつき、無機フィラーを被覆しており、無機フィラー3とフッ素ポリマー2とは明確な海島構造が見られない。図1及び図2から明らかなとおり、積層構造であることも確認できる。
【0034】
(比較例2)
積層プレス工程を行わない以外は実施例2と同様に実施した。しかし、圧延以降の工程通過性が悪く、長尺のフッ素樹脂シートを得ることは困難であった。この理由は、積層プレス工程が無いと、フッ素樹脂シートは弱く、長さ方向に破れやすいからであった。
しかし、長尺のフッ素樹脂シートを得ることはできなかったが、長さ100mm、幅60mm程度の小さなシートは得られたので、実施例2と同様に、圧延、乾燥、脱脂、加熱プレスをし、評価用のフッ素樹脂シート単体を得た。
このフッ素樹脂シート単体の走査型電子顕微鏡(SEM)断面写真(倍率500倍)を図3に示す。図3から明らかなとおり、フッ素ポリマー5と無機フィラー6は明確な海島構造となっており、フッ素ポリマー5の配向性は見られなかった。また、無機フィラー6とフッ素ポリマー5との界面は明瞭に観察でき、界面剥離が見られる部分もあった。この状態は図4からも確認できる。
以上の結果のフッ素樹脂シート単体の物性を表1に、銅張フッ素樹脂基板の物性を表2にまとめて示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1-2から明らかなとおり、実施例1及び2は、ガラスファイバークロスを使用しなくても取り扱い性の良好なフッ素樹脂シートを得ることができ、物理特性も電気特性も良好であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のフッ素樹脂シート及びこれを含む金属張フッ素樹脂基板は、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ないIoTデバイスやウェアラブルデバイス、高速伝送FPC、トランシーバー、高速通信基板、アンテナ基板、スマートフォン、スマートウォッチ、通信基地局アンテナ、衝突センサー、距離センサー、列車監視システム内センサー、衛星通信アンテナ、交差点監査センサー、セキュリティー用イメージセンサー、滑走路異物検知システム、河川水位監視センサー等の配線基板などに有用である。
【符号の説明】
【0039】
1,4,9 フッ素樹脂シート
2,5 フッ素ポリマー
3,6 無機フィラー
7 銅張フッ素樹脂基板
8a,8b 銅箔
14,15 プレス板
図1
図2
図3
図4
図5
図6