(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170492
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】リポタンパク質複合体ならびにその製造および使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/775 20060101AFI20241203BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241203BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20241203BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20241203BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241203BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241203BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C07K14/775 ZNA
C12P21/02 C
A61K38/17
A61K47/24
A61K47/50
A61P3/06
A61P9/10
C07K14/775
C12N15/12
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151092
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2022003351の分割
【原出願日】2012-02-06
(31)【優先権主張番号】61/440,371
(32)【優先日】2011-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/452,630
(32)【優先日】2011-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/487,263
(32)【優先日】2011-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】512205706
【氏名又は名称】アビオニクス ファーマ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【弁理士】
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】ダスュー,ジャン-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】オニシウ,ダニエラ カルメン
(72)【発明者】
【氏名】アッカーマン,ローズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リポタンパク質複合体及びリポタンパク質集団、並びに脂質異常症、障害及び/又は状態の治療及び/又は予防におけるそれらの使用方法を提供する。さらに、アポリポタンパク質の組換え発現、アポリポタンパク質の精製、および熱サイクリングに基づく方法を用いるリポタンパク質複合体の製造を提供する。
【解決手段】アポリポタンパク質画分と脂質画分とを含むリポタンパク質複合体であって、脂質画分が本質的に95~99重量%の中性リン脂質と1~5重量%の負に荷電したリン脂質とからなり、アポリポタンパク質画分とリン脂質画分との比が、重量比で約1:2.7~約1:3の範囲にある、リポタンパク質複合体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願との相互参照
本出願は、2011年2月7日に出願された米国仮特許出願第61/440,371号
、2011年3月14日に出願された米国仮特許出願第61/452,630号および2
011年5月17日に出願された米国仮特許出願第61/487,263号(これらの全
ての内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)の35 U.S.C.§1
19(e)の下での利益を主張する。
【0002】
2.技術分野
本開示は、リポタンパク質複合体、該複合体を含む医薬組成物、そのような複合体のた
めのアポリポタンパク質を製造および精製する方法、該複合体を作製する方法ならびに心
血管疾患、障害および/またはそれらと関連する状態を治療または予防するための前記複
合体の使用方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
3.背景
3.1.概説
循環コレステロールは、脂質と、血液中の脂質を輸送するタンパク質組成物との複合体
粒子である血漿リポタンパク質により運搬される。4つの主要なクラスのリポタンパク質
粒子が血漿中に循環し、脂肪輸送系に関与する:カイロミクロン、超低密度リポタンパク
質(VLDL)、低密度リポタンパク質(LDL)および高密度リポタンパク質(HDL
)。カイロミクロンは、腸脂肪吸収の短命の生成物である。VLDLおよび特に、LDL
は、肝臓(コレステロールが合成されるか、または食事起源から得られる)から肝臓外組
織、例えば、動脈壁へのコレステロールの送達を担う。対照的に、HDLは、逆コレステ
ロール輸送(RCT)、特に、肝臓外組織から肝臓へのコレステロール脂質の除去を媒介
し、そこで保存、異化、排除または再利用される。HDLはまた、炎症、酸化された脂質
およびインターロイキンの輸送において有益な役割を果たし、次いで血管壁における炎症
を減少させることができる。
【0004】
リポタンパク質粒子は、コレステロール(通常はコレステリルエステルの形態にある)
とトリグリセリドとから構成される疎水性コアを有する。このコアは、リン脂質、非エス
テル化コレステロールおよびアポリポタンパク質を含む表面外被により取り囲まれている
。アポリポタンパク質は脂質輸送を媒介し、いくらかは脂質代謝に関与する酵素と相互作
用し得る。ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、
ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoD、ApoE、ApoJおよ
びApoHなどの、少なくとも10種のアポリポタンパク質が同定されている。LCAT
(レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ)、CETP(コレステリルエス
テル転移タンパク質)、PLTP(リン脂質転移タンパク質)およびPON(パラオキソ
ナーゼ)などの他のタンパク質も、リポタンパク質と関連して見出されている。
【0005】
冠動脈性心疾患、冠動脈疾患およびアテローム性動脈硬化症などの心血管疾患は、血清
コレステロールレベルの上昇と極めて関連している。例えば、アテローム性動脈硬化症は
、動脈壁内でのコレステロールの蓄積を特徴とする、ゆっくりと進行する疾患である。説
得力のある証拠が、アテローム性動脈硬化症病変に沈着した脂質が主に血漿LDLに由来
するものであるという理論を支持し、かくして、LDLが「悪玉」コレステロールとして
一般的に知られるようになった。対照的に、HDL血清レベルは、冠動脈性心疾患とは逆
相関する。実際、HDLの高い血清レベルは、負の危険因子と見なされている。高レベル
の血漿HDLは冠動脈疾患に対して防御的であるだけでなく、実際にアテローム性動脈硬
化プラークの退縮を誘導し得るとの仮説が立てられている(例えば、Badimonら、1992、C
irculation 86 (Suppl. Ill): 86-94; DanskyおよびFisher、1999、Circulation 100: 17
62-63; Tangiralaら、1999、Circulation 100(17): 1816-22; Fanら、1999、Atheroscler
osis 147(l): 139-45; Deckertら、1999、Circulation 100(11): 1230-35; Boisvertら、
1999、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. l9(3):525-30; Benoitら、1999、Circulatio
n 99(1): 105-10; Holvoetら、1998、J. Clin. Invest. 102(2):379-85; Duvergerら、19
96、Circulation 94(4):713-17; Miyazakiら、1995、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol
. 15(11): 1882-88; Mezdourら、1995、Atherosclerosis 113(2):237-46; Liuら、1994、
J. Lipid Res. 35(12):2263-67; Plumpら、1994、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91(20):96
07-11; Pasztyら、1994、J. Clin. Invest. 94(2):899-903; Sheら、1992、Chin. Med. J
. (Engl). 105(5):369-73; Rubinら、1991、Nature 353(6341):265-67; Sheら、1990、An
n. NY Acad. Sci. 598:339-51; Ran、1989, Chung Hua Ping Li Hsueh Tsa Chih (Zhongh
ua Bing Li Xue Za Zhiとも翻訳される) 18(4):257-61; Quezadoら、1995、J. Pharmacol
. Exp. Ther. 272(2):604-11; Duvergerら、1996、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.
16(12): 1424-29; Kopflerら、1994、Circulation; 90(3): 1319-27; Millerら、1985、N
ature 314(6006): 109-11; Haら、1992、Biochim. Biophys. Acta 1125(2):223-29; Beit
zら、1992、Prostaglandins Leukot. Essent. Fatty Acids 47(2): 149-52を参照された
い)。結果として、HDLは「善玉」コレステロールとして一般に知られるようになった
(例えば、Zhangら、2003 Circulation 108:661-663を参照されたい)。
【0006】
HDLの「防御的」役割がいくつかの研究において確認されている(例えば、Millerら
、1977、Lancet l(8019):965-68; Whayneら、1981、Atherosclerosis 39:411-19)。これ
らの研究では、LDLレベルの上昇は心血管リスクの増加と関連すると考えられるが、高
いHDLレベルは心血管防御を付与すると考えられる。in vivoでの研究は、HD
Lの防御的役割をさらに実証し、ウサギへのHDL注入がコレステロール誘導性動脈病変
の発生を阻害し(Badimonら、1989、Lab. Invest. 60:455-61)および/またはその退縮を
誘導し得る(Badimonら、1990、J. Clin. Invest. 85: 1234-41)ことを示した。
【0007】
3.2.逆コレステロール輸送、HDLおよびアポリポタンパク質A-I
逆コレステロール輸送(RCT)経路は、多くの肝臓外組織からコレステロールを排除
するように機能し、体内の多くの細胞の構造および機能の維持にとって重要である。RC
Tは主に3つの段階:(a)コレステロール流出、すなわち、末梢細胞の様々なプールか
らのコレステロールの最初の除去;(b)細胞中への流出したコレステロールの再進入を
防止する、レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の作用によ
るコレステロールエステル化;および(c)加水分解のための肝臓細胞へのHDL-コレ
ステロールおよびコレステリルエステルの取込み、次いで、再利用、貯蔵、胆汁中への排
出または胆汁酸への異化、からなる。
【0008】
RCTにおける鍵となる酵素であるLCATは、肝臓により産生され、HDL画分と結
合して血漿中に循環する。LCATは細胞由来コレステロールをコレステリルエステルに
変換し、これらはHDL中に隔離され、除去を運命付けられる(Jonas 2000、Biochim. B
iophys. Acta 1529(l-3):245-56を参照されたい)。コレステリルエステル転移タンパク
質(CETP)およびリン脂質転移タンパク質(PLTP)は、循環するHDL集団のさ
らなる再モデリングに寄与する。CETPはLCATにより作られたコレステリルエステ
ルを、他のリポタンパク質、特に、ApoBを含むリポタンパク質、例えば、VLDLお
よびLDLに移動させる。PLTPはレシチンをHDLに供給する。HDLトリグリセリ
ドは細胞外肝臓トリグリセリドリパーゼにより異化され、リポタンパク質コレステロール
はいくつかの機構を介して肝臓により除去される。
【0009】
HDL粒子の機能的特徴は、ApoA-IおよびApoA-IIなどのそれらの主要な
アポリポタンパク質成分によって主に決定される。少量のApoC-I、ApoC-II
、ApoC-III、ApoD、ApoA-IV、ApoEおよびApoJも、HDLと
結合することが観察されている。HDLは、代謝RCTカスケードまたは経路の間の再モ
デリングの状態に応じて、様々な異なるサイズで、および上記の構成要素の異なる混合物
中に存在する。
【0010】
それぞれのHDL粒子は通常、少なくとも1分子、および通常は2~4分子のApoA
-Iを含む。HDL粒子はまた、Gerd Assmann教授により記載されたように(例えば、vo
n Eckardsteinら、1994、Curr Opin Lipidol. 5(6):404-16を参照されたい)、コレステ
ロール流出を担うことも知られる、ApoE(γ-LpE粒子)のみを含んでもよい。A
poA-Iは、肝臓および小腸によりプレプロアポリポタンパク質A-Iとして合成され
、プロアポリポタンパク質A-I(proApoA-I)として分泌され、迅速に切断さ
れて、243アミノ酸の単一のポリペプチド鎖である血漿型のApoA-Iを生成する(
Brewerら、1978、Biochem. Biophys. Res. Commun. 80:623-30)。血流中に実験的に直接
注入されたプレプロApoA-Iも、血漿型のApoA-Iに切断される(Klonら、2000
、Biophys. J. 79(3): 1679-85; Segrestら、2000、Curr. Opin. Lipidol. 11(2): 105-1
5; Segrestら、1999, J. Biol. Chem. 274 (45):31755-58)。
【0011】
ApoA-Iは、6~8個の異なる22アミノ酸のα-へリックスまたはプロリンであ
ることが多いリンカー部分により間隔を空けられた機能的反復を含む。この反復単位は、
両親媒性らせんコンフォメーションで存在し(Segrestら、1974、FEBS Lett. 38: 247-53
)、ApoA-Iの主要な生物活性、すなわち、脂質結合およびレシチンコレステロール
アシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性化を与える。
【0012】
ApoA-Iは、脂質との3つの型の安定な複合体:プレ-β-1 HDLと呼ばれる
、小さい脂質の少ない(lipid-poor)複合体;プレ-β-2 HDLと呼ばれる、極性脂質
(リン脂質およびコレステロール)を含む扁平な円盤状の粒子;ならびに球状または成熟
HDL(HDL3およびHDL2)と呼ばれる、極性脂質と非極性脂質の両方を含む球状
粒子を形成する。循環集団中の多くのHDLは、ApoA-IとApoA-IIの両方(
「AI/AII-HDL画分」)を含む。しかしながら、ApoA-Iのみを含むHDL
の画分(「AI-HDL画分」)が、RCTにおいてより有効であると考えられる。特定
の疫学研究は、ApoA-I-HDL画分が抗動脈硬化的であるという仮説を支持する(
Parraら、1992、Arterioscler. Thromb. 12:701-07; Decossinら、1997、Eur. J. Clin.
Invest. 27:299-307)。
【0013】
HDL粒子は、異なるサイズ、脂質組成およびアポリポタンパク質組成を有する粒子の
いくつかの集団から作られている。それらは、その水和密度、アポリポタンパク質組成お
よび電荷特性などの特性に従って分離することができる。例えば、プレ-β-HDL画分
は、成熟α-HDLよりも低い表面電荷を特徴とする。この電荷の差異のため、プレ-β
-HDLおよび成熟α-HDLは、アガロースゲル中で異なる電気泳動移動度を有する(
Davidら、1994、J. Biol. Chem. 269(12):8959-8965)。
【0014】
プレ-β-HDLと成熟α-HDLの代謝も異なる。プレ-β-HDLは2つの代謝運
命を有する:腎臓による血漿からの除去および異化または肝臓により優先的に分解される
中程度のサイズのHDLへの再モデリング(Leeら、2004、J. Lipid Res. 45(4):716-728
)。
【0015】
細胞表面からのコレステロール転移(すなわち、コレステロール流出)の機構は未知で
あるが、脂質の少ない複合体であるプレ-β-1 HDLが、RCTに関与する末梢組織
から転移されたコレステロールの好ましい受容器であると考えられる(Davidsonら、1994
、J. Biol. Chem. 269:22975-82; Bielickiら、1992、J. Lipid Res. 33: 1699-1709; Ro
thblatら、1992、J. Lipid Res. 33: 1091-97; およびKawanoら、1993、Biochemistry 32
:5025-28; Kawanoら、1997、Biochemistry 36:9816-25を参照されたい)。細胞表面から
のコレステロール動員のこのプロセスの間に、プレ-β-1 HDLはプレ-β-2 H
DLに迅速に変換される。PLTPはプレ-β-2 HDLディスク形成の速度を増加さ
せることができるが、RCTにおけるPLTPの役割を示唆するデータはない。LCAT
は円盤状の小さい(プレ-β)および球状(すなわち、成熟)のHDLと優先的に反応し
、レシチンまたは他のリン脂質の2-アシル基を、コレステロールの遊離ヒドロキシル残
基に転移させ、コレステリルエステル(HDL中に保持される)およびリゾレシチンを生
成する。LCAT反応には活性化因子としてApoA-Iが必要である、すなわち、Ap
oA-IはLCATの天然のコファクターである。HDL中に隔離されたコレステロール
の、そのエステルへの変換は、コレステロールの細胞中への再進入を防止し、正味の結果
は、コレステロールが細胞から除去されるということである。
【0016】
ApoAI-HDL画分(すなわち、ApoA-Iを含み、ApoA-IIを含まない
)中の成熟HDL粒子中のコレステリルエステルは肝臓により除去され、ApoA-Iと
ApoA-IIの両方を含むHDL(AI/AII-HDL画分)から誘導されるものよ
りも効率的に胆汁中にプロセッシングされる。これは、部分的には、肝細胞膜へのApo
AI-HDLのより効率的な結合に負うものであり得る。HDL受容体の存在が仮定され
ており、スカベンジャー受容体、クラスB、I型(SR-BI)がHDL受容体として同
定されている(Actonら、1996、Science 271 :518-20; Xuら、1997、Lipid Res. 38: 128
9-98)。SR-BIは、ステロイド産生組織(例えば、副腎)および肝臓中で最も豊富に
発現される(Landschulzら、1996、J. Clin. Invest. 98:984-95; Rigottiら、1996、J.
Biol. Chem. 271 :33545-49)。HDL受容体の概説については、Broutinら、1988、Anal
. Biol. Chem. 46: 16-23を参照されたい。
【0017】
ATP結合カセット輸送因子AIによる初期の脂質化は、血漿HDL形成およびコレス
テロール流出を生じさせるプレ-β-HDL粒子の能力にとって重要であると考えられる
(LeeおよびParks、2005、Curr. Opin. Lipidol. 16(1): 19-25)。これらの著者らによ
れば、この初期の脂質化は、プレ-β-HDLがコレステロール受容器としてより効率的
に機能するのを可能にし、ApoA-Iが元々存在する血漿HDL粒子と迅速に結合する
のを防止し、コレステロール流出のためのプレ-β-HDL粒子のより高い利用可能性を
もたらす。
【0018】
CETPは、RCTにおいても役割を果たし得る。CETP活性またはその受容器であ
るVLDLおよびLDLにおける変化は、HDL集団を「再モデリング」するのに役割を
果たす。例えば、CETPの非存在下では、HDLは拡大された粒子になり、消失しない
(RCTおよびHDLの概説については、FieldingおよびFielding、1995、J. Lipid Res
. 36:211-28; Barransら、1996、Biochem. Biophys. Acta 1300:73-85; Hiranoら、1997
、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17(6): 1053-59を参照されたい)。
【0019】
HDLはまた、他の脂質および非極性分子の逆輸送において、ならびに解毒、すなわち
、異化および排出のための肝臓への細胞、器官および組織からの脂質の輸送において役割
を果たす。そのような脂質としては、スフィンゴミエリン(SM)、酸化された脂質、お
よびリゾホスファチジルコリンが挙げられる。例えば、RobinsおよびFasulo(1997、J. C
lin. Invest. 99:380-84)は、HDLが肝臓による胆汁分泌物への植物ステロールの輸送
を刺激することを示した。
【0020】
HDLの主要な成分であるApoA-Iは、in vitroでSMと結合し得る。ウ
シ脳SM(BBSM)を用いてin vitroでApoA-Iを再構成させた場合、再
構成の最大速度は28℃で起こり、その温度はBBSMの相転移温度に近い(Swaney、19
83、J. Biol. Chem. 258(2)、1254-59)。7.5:1以下(wt/wt)のBBSM:A
poA-I比では、1個の粒子あたり3個のApoA-I分子を含み、360:1のBB
SM:ApoA-Iモル比を有する単一の再構成された均一なHDL粒子が形成される。
それは、電子顕微鏡中では、高い比率のリン脂質/タンパク質でのApoA-Iのホスフ
ァチジルコリンによる組換えにより得られたものと類似する円盤状複合体として出現する
。しかしながら、15:1(wt/wt)のBBSM:ApoA-I比では、より高いリ
ン脂質:タンパク質モル比(535:1)を有する、より大きい直径の円盤状複合体が形
成される。これらの複合体は、ホスファチジルコリンと共に形成されたApoA-I複合
体よりも有意に大きく、より安定であり、変性に対してより耐性が高い。
【0021】
スフィンゴミエリン(SM)は早期コレステロール受容器(プレ-β-HDLおよびγ
-移住ApoE含有リポタンパク質)中で上昇し、これはSMが、これらの粒子がコレス
テロール流出を促進する能力を増強することができることを示唆している(DassおよびJe
ssup、2000、J. Pharm. Pharmacol. 52:731-61; Huangら、1994、Proc. Natl. Acad. Sci
. USA 91: 1834-38; FieldingおよびFielding 1995、J. Lipid Res. 36:211-28)。
【0022】
3.3.HDLおよびApoA-Iの防御機構
HDLの防御機構の研究は、HDLの主成分であるアポリポタンパク質A-I(Apo
A-I)に焦点を当ててきた。ApoA-Iの高い血漿レベルは、冠動脈病変の非存在ま
たは減少と関連する(Maciejkoら、1983、N. Engl. J. Med. 309:385-89; Sedlisら、198
6、Circulation 73:978-84)。
【0023】
実験動物におけるApoA-IまたはHDLの注入は、有意な生化学的変化を示し、な
らびにアテローム性動脈硬化病変の程度および重篤度を低下させる。MaciejkoおよびMao
(1982、Arteriosclerosis 2:407a)による初期の報告の後、Badimonら(1989、Lab. Invest
. 60:455-61; 1989、J. Clin. Invest. 85: 1234-41)は、HDL(d=1.063~1.
325g/ml)を注入することにより、コレステロール給餌ウサギにおいて、アテロー
ム性動脈硬化病変の程度(45%の減少)およびそのコレステロールエステル含量(58
.5%の減少)を有意に低下させることができることを見出した。彼らはまた、HDLの
注入が確立された病変の50%に近い退縮をもたらすことも見出した。Esperら(1987、A
rteriosclerosis 7:523a)は、HDLの注入が、初期の動脈病変を生じる遺伝性高コレス
テロール血症を有するWatanabeウサギの血漿リポタンパク質組成を顕著に変化さ
せ得ることを示した。これらのウサギにおいては、HDL注入量は、防御的HDLと動脈
硬化性LDLとの比の2倍を超えるものであってよい。
【0024】
動物モデルにおける動脈疾患を防止するHDLの能力は、ApoA-Iがin vit
roで線維素溶解活性を示し得るという観察によってさらに裏付けられた(Sakuら、1985
、Thromb. Res. 39: 1-8)。Ronneberger(1987、Xth Int. Congr. Pharmacol.、Sydney
、990)は、ApoA-Iがビーグル犬およびカニクイザルにおいて線維素溶解を増加さ
せ得ることを実証した。同様の活性はヒト血漿においてもin vitroで指摘するこ
とができる。Ronnebergerは、ApoA-Iで処理された動物における脂質沈着および動
脈プラーク形成の減少を確認することができた。
【0025】
in vitroでの研究は、ApoA-Iとレシチンとの複合体が、培養された動脈
平滑筋細胞からの遊離コレステロールの流出を促進することができることを示唆している
(Steinら、1975、Biochem. Biophys. Acta、380: 106-18)。この機構により、HDLは
これらの細胞の増殖も低下させることができる(Yoshidaら、1984、Exp. Mol Pathol. 41
:258-66)。
【0026】
ApoA-IまたはApoA-I模倣ペプチドを含むHDLを用いる注入療法もまた、
ABC1輸送因子による血漿HDLレベルを調節し、心血管疾患の治療における有効性を
もたらすことが示されている(例えば、Brewerら、2004、Arterioscler. Thromb. Vasc.
Biol. 24: 1755-1760を参照されたい)。
【0027】
アルギニン残基がシステインで置換された、ApoA-Iの2つの天然のヒト多型が単
離されている。アポリポタンパク質A-IMilano(ApoA-IM)においては、
この置換は残基173で起こるが、アポリポタンパク質A-IParis(ApoA-I
P)においては、この置換は残基151で起こる(Franceschiniら、1980、J. Clin. Inv
est. 66:892-900; Weisgraberら、1983、J. Biol. Chem. 258:2508-13; Bruckertら、199
7、Atherosclerosis 128: 121-28; Daumら、1999、J. Mol. Med. 77:614-22; Klonら、20
00、Biophys. J. 79(3): 1679-85)。さらに、位置144でロイシンがアルギニンで置換
された、ApoA-Iのさらなる天然のヒト多型が単離されている。この多型はアポリポ
タンパク質A-I Zaragoza(ApoA-Iz)と呼ばれており、重症低αリポ
タンパク血症および高密度リポタンパク質(HDL)逆コレステロール輸送の増強された
効果と関連する(Recaldeら、2001、Atherosclerosis 154(3):613-623; Fiddymentら、20
11、Protein Expr. Purif. 80(1): 110-116)。
【0028】
ApoA-IMまたはApoA-IPのジスルフィド結合ホモ二量体を含む再構成され
たHDL粒子は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)乳濁液を消失させる
能力およびコレステロール流出を促進する能力において野生型ApoA-Iを含む再構成
されたHDL粒子と類似する(Calabresiら、1997b、Biochemistry 36: 12428-33; Franc
eschiniら、1999、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 19: 1257-62; Daumら、1999、J.
Mol. Med. 77:614-22)。両突然変異において、ヘテロ接合性個体はHDLのレベルが低
下しているが、逆説的であるが、アテローム性動脈硬化症のリスクが低い(Franceschini
ら、1980、J. Clin. Invest. 66:892-900; Weisgraberら、1983、J. Biol. Chem. 258:25
08-13; Bruckertら、1997、Atherosclerosis 128: 121-28)。いずれかの変異体を含む再
構成されたHDL粒子はLCATを活性化することができるが、野生型ApoA-Iを含
む再構成されたHDL粒子と比較した場合、その効率は低い(Calabresiら、1997、Bioch
em. Biophys. Res. Commun. 232:345-49; Daumら、1999、J. Mol. Med. 77:614-22)。
【0029】
ApoA-IM突然変異は常染色体優性形質として伝達される;ファミリー内で8世代
のキャリアが同定されている(Gualandriら、1984、Am. J. Hum. Genet. 37: 1083-97)
。ApoA-IMキャリア個体の状態は、HDLコレステロールレベルの顕著な低下を特
徴とする。これにもかかわらず、キャリア個体は動脈疾患のいかなる高リスクも見かけ上
示さない。実際、家系記録の調査により、これらの対象がアテローム性動脈硬化症から「
防御」され得ると考えられる(Sirtoriら、2001、Circulation, 103: 1949-1954; Romaら
、1993、J. Clin. Invest. 91(4): 1445-520)。
【0030】
前記突然変異のキャリアにおけるApoA-IMの可能な防御効果の機構は、1個のα
-へリックスの喪失および疎水性残基の露出の増加と共に、ApoA-IM突然変異体の
構造の改変と関連すると考えられる(Franceschiniら、1985、J. Biol. Chem. 260: 1632
-35)。複数のα-へリックスの緊密な構造の喪失は、通常のApoA-Iと比較して、
分子の可撓性の増加をもたらし、より容易に脂質と結合する。さらに、リポタンパク質複
合体は、変性をより受けやすく、かくして、この突然変異体の場合、脂質送達も改善され
ることを示唆している。
【0031】
Bielickiら(1997、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17 (9): 1637-43)は、Ap
oA-IMが野生型ApoA-Iと比較して膜コレステロールを動員する限られた能力を
有することを実証した。さらに、ApoA-IMの膜脂質との結合により形成された新生
HDLは、野生型ApoA-Iにより形成されるより大きい9および11nmの複合体よ
りもむしろ、主に7.4nmの粒子であった。これらの観察は、ApoA-I一次配列中
のArg173→Cys173置換が、細胞コレステロール動員および新生HDL集合の
正常なプロセスを阻害したことを示している。この突然変異は、細胞からのコレステロー
ル除去の効率の低下と見かけ上関連する。従って、その抗動脈硬化特性は、RCTと関連
しなくてもよい。
【0032】
Arg173→Cys173置換に起因する最も著しい構造的変化は、ApoA-IM
の二量体化である(Bielickiら、1997、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17 (9): 16
37-43)。ApoA-IMは、それ自身とホモ二量体を形成し、ApoA-IIとヘテロ
二量体を形成することができる。アポリポタンパク質の混合物を含む血液画分の研究は、
循環中の二量体および複合体の存在がアポリポタンパク質の消失半減期の増加の原因とな
り得ることを示唆している。そのような消失半減期の増加は、前記突然変異のキャリアの
臨床研究において観察された(Greggら、1988、NATO ARW on Human Apolipoprotein Muta
nts: From Gene Structure to Phenotypic Expression、Limone SG)。他の研究は、Ap
oA-IM二量体(ApoA-IM/ApoA-IM)がin vitroでHDL粒子
の相互変換における阻害因子として作用することを示唆している(Franceschiniら、1990
、J. Biol. Chem. 265: 12224-31)。
【0033】
3.4.脂質異常症および関連障害のための現在の治療
脂質異常障害は、血清コレステロールおよびトリグリセリドレベルの上昇ならびに血清
HDL:LDL比の低下と関連する疾患であり、高脂血症、特に、高コレステロール血症
、冠動脈性心疾患、冠動脈疾患、血管および血管周囲の疾患、ならびにアテローム性動脈
硬化症などの心血管疾患が挙げられる。動脈不全により引き起こされる、一過性虚血発作
または間欠性跛行などのアテローム性動脈硬化症と関連する症候群も含まれる。脂質異常
障害と関連する上昇した血清コレステロールおよびトリグリセリドを低下させるためにい
くつかの治療が現在利用可能である。しかしながら、有効性、副作用および患者集団の適
格性の点で、それぞれはそれ自身の欠点および限界を有する。
【0034】
胆汁酸結合樹脂は、腸から肝臓への胆汁酸の再利用を遮断する薬剤のクラスである;例
えば、コレスチラミン(Questran Light(登録商標)、Bristol-
Myers Squibb)、コレスチポール塩酸塩(Colestid(登録商標)、
The Upjohn Company)、およびコレセベラム塩酸塩(Welchol
(登録商標)、Daiichi-Sankyo Company)。経口摂取した場合、
これらの正に荷電した樹脂は腸において負に荷電した胆汁酸に結合する。この樹脂は腸か
ら吸収されないため、それらはそれらと共に胆汁酸を担持して排出される。しかしながら
、そのような樹脂の最良の使用でも、血清コレステロールレベルを約20%低下させるに
過ぎず、便秘および特定のビタミン欠乏などの胃腸副作用を伴う。さらに、前記樹脂は他
の薬剤に結合するため、他の経口薬剤は樹脂の摂取の少なくとも1時間前またはその4~
6時間後に摂取しなければならない;かくして、心臓患者の薬剤レジメンを複雑にする。
【0035】
スタチンは、コレステロール生合成経路に関与する鍵となる酵素であるHMGCoA還
元酵素を阻害することにより、コレステロール合成を遮断するコレステロール低下剤であ
る。スタチン、例えば、ロバスタチン(Mevacor(登録商標))、シンバスタチン
(Zocor(登録商標))、プラバスタチン(Pravachol(登録商標))、フ
ルバスタチン(Lescol(登録商標))およびアトルバスタチン(Lipitor(
登録商標))は、胆汁酸結合樹脂と共に用いられることがある。スタチンは、血清コレス
テロールおよびLDL-血清レベルを有意に低下させ、冠動脈アテローム性動脈硬化症の
進行を遅延させる。しかしながら、血清HDLコレステロールレベルは中程度にのみ増加
する。LDL低下効果の機構は、VLDL濃度の低下と、LDL-受容体の細胞発現の誘
導との両方を含み、LDLの産生の低下および/またはその異化の増加を誘導し得る。肝
臓および腎臓の機能障害などの副作用は、これらの薬剤の使用と関連する(The Physicia
ns Desk Reference、第56版、2002、Medical Economics)。
【0036】
ナイアシン(ニコチン酸)は、栄養補助食品および抗高脂血症剤として用いられる水溶
性ビタミンB複合体である。ナイアシンはVLDLの産生を減少させ、LDLを低下させ
るのに有効である。いくつかの場合、それは胆汁酸結合樹脂と共に用いられる。ナイアシ
ンは、十分な用量で用いた場合にはHDLを増加させることができるが、そのような高用
量で用いた場合、重篤な副作用によってその有用性は限られる。Niaspan(登録商
標)は、純粋なナイアシンよりも副作用の少ない長期放出型のナイアシンである。ナイア
シン/ロバスタチン(Nicostatin(登録商標))は、ナイアシンとロバスタチ
ンの両方を含有する製剤であり、それぞれの薬剤の利益を組み合わせたものである。
【0037】
フィブラートは、高コレステロール血症とも関連し得る様々な形態の高脂血症(すなわ
ち、血清トリグリセリドの上昇)を治療するために用いられる脂質低下薬のクラスである
。フィブラートは、VLDL画分を減少させ、HDLを穏やかに増加させると考えられる
が、血清コレステロールに対するこれらの薬剤の効果は変動する。米国では、クロフィブ
ラート(Atromid-S(登録商標))、フェノフィブラート(Tricot(登録
商標))およびベザフィブラート(Bezalip(登録商標))などのフィブラートが
、抗高脂血症薬としての使用について認可されているが、高コレステロール血症剤として
の認可は受けていない。例えば、クロフィブラートは、VLDL画分を減少させることに
より血清トリグリセリドを低下させるように作用する(未知の機構を介する)抗高脂血症
剤である。特定の患者サブ集団中では血清コレステロールを低下させることができるが、
薬剤に対する生化学的応答は変動し、どの患者が好ましい結果を得るかを常に予測できる
わけではない。Atromid-S(登録商標)は、冠動脈心疾患の予防にとって有効で
あるとは示されていない。化学的および薬学的に関連する薬剤であるゲンフィブロジル(
Lopid(登録商標))は、血清トリグリセリドおよびVLDLコレステロールを中程
度に減少させ、HDLコレステロール-HDL2およびHDL3サブ画分ならびにApo
A-IとA-IIの両方(すなわち、AI/AMT-HDL画分)を中程度に増加させる
。しかしながら、脂質応答は、特に異なる患者集団の間では不均一である。さらに、存在
する冠動脈心疾患の履歴または症状を有さない40~55歳の男性患者においては、冠動
脈心疾患の予防が観察されたが、これらの知見をどの程度他の患者集団(例えば、女性、
より高齢者およびより若年者の男性)に外挿することができるかは明らかではない。実際
、確立された冠動脈心疾患を有する患者においては、有効性が観察されなかった。悪性腫
瘍(特に、胃腸癌)などの毒性、胆嚢疾患および非冠動脈性死亡の発生の増加などの重篤
な副作用が、フィブラートの使用と関連する。
【0038】
経口エストロゲン補充療法が、閉経後の女性における中程度の高コレステロール血症に
とって考えられる。しかしながら、HDLの増加は、トリグリセリドの増加を伴うことが
ある。エストロゲン治療は勿論、特定の患者集団(閉経後の女性)に限られ、悪性新生物
、胆嚢疾患、血栓塞栓症、肝細胞腺腫、血圧上昇、耐糖能異常、および高カルシウム血症
の誘導などの重篤な副作用と関連する。
【0039】
高脂血症の治療にとって有用な他の薬剤としては、コレステロール吸収を遮断または阻
害するエゼチミブ(Zetia(登録商標);Merck)が挙げられる。しかしながら
、エゼチミブの阻害剤は、特定の毒性を示すことが示されている。
【0040】
HDL、およびリン脂質と複合体化した組換え形態のApoA-Iは、非極性または両
親媒性分子、例えば、コレステロールおよび誘導体(オキシステロール、酸化ステロール
、植物ステロールなど)、コレステロールエステル、リン脂質および誘導体(酸化リン脂
質)、トリグリセリド、酸化生成物、およびリポ多糖(LPS)のためのシンク(sink)/
スカベンジャーとして役立ち得る(例えば、Casasら、1995、J. Surg. Res. Nov 59(5):5
44-52を参照されたい)。HDLはまた、TNF-αおよび他のリンホカインのためのス
カベンジャーとしても役立ち得る。HDLはまた、ヒト血清パラオキソナーゼ、例えば、
PON-1、-2、-3のための担体としても役立ち得る。パラオキソナーゼは、HDL
と結合したエステラーゼであり、酸化に対して細胞成分を保護するのに重要である。酸化
的ストレスの間に起こるLDLの酸化は、アテローム性動脈硬化症の発症と直接関連する
と考えられる(Aviram, 2000、Free Radic. Res. 33 Suppl:S85-97)。パラオキソナーゼ
は、アテローム性動脈硬化症および心血管疾患に対する罹患性において役割を果たすと考
えられる(Aviram、1999、Mol. Med. Today 5(9):381-86)。ヒト血清パラオキソナーゼ
(PON-1)は、高密度リポタンパク質(HDL)に結合する。その活性は、アテロー
ム性動脈硬化症と逆相関する。PON-1は有機リン酸エステルを加水分解し、HDLお
よび低密度リポタンパク質(LDL)の酸化の阻害によってアテローム性動脈硬化症に対
して保護することができる(Aviram、1999、Mol. Med. Today 5(9):381-86)。実験研究
は、この保護が酸化されたリポタンパク質中の特定の脂質過酸化物を加水分解するPON
-1の能力と関連することを示唆している。PON-1活性を保存するか、または増強す
る介入は、アテローム性動脈硬化症および冠動脈心疾患の開始を遅延させるのに役立ち得
る。
【0041】
HDLはさらに、抗血栓剤およびフィブリノゲン低下剤として、ならびに出血性ショッ
クにおける薬剤としての役割を有する(Cockerillら、2001年3月1日に公開された
WO01/13939)。HDL、および特にApoA-Iは、敗血症によって産生され
たリポ多糖の、ApoA-Iを含む脂質粒子への交換を容易にし、リポ多糖の機能的中和
をもたらすことが示されている(Wrightら、1995年12月21日に公開されたWO9
534289; Wrightら、1999年7月27日に発行された米国特許第5,928,6
24号; Wrightら、1999年8月3日に発行された米国特許第5,932,536号)
。
【0042】
in vitroでリポタンパク質複合体を作製するために利用可能な様々な方法が存
在する。米国特許第6,287,590号および第6,455,088号は、有機溶媒(
または溶媒混合物)中でのアポリポタンパク質と脂質溶液との同時凍結乾燥および凍結乾
燥粉末の水和中の荷電リポタンパク質複合体の形成を必要とする方法を開示する。リポタ
ンパク質複合体を、洗剤透析法により形成させることもできる;例えば、脂質、リポタン
パク質およびコール酸塩などの洗剤の混合物を透析し、再構成させて複合体を形成させる
(例えば、Jonasら、1986、Methods Enzymol. 128:553-82を参照されたい)。米国特許出
願公開第2004/0067873号の実施例1は、ミセルを形成するための条件下で脂
質分散物をコール酸塩と合わせ、次いでこれらをアポリポタンパク質溶液と共にインキュ
ベートして複合体を形成させる、コール酸塩分散法を開示する。究極的には、毒性である
コール酸塩は、例えば、透析、限外濾過またはアフィニティビーズもしくは樹脂上への吸
着吸収により除去しなければならない。米国特許第6,306,433号は、タンパク質
と脂質との液体混合物を高圧均一化にかけることによるリポタンパク質複合体形成を開示
する。しかしながら、高い剪断力に対して感受性が高いタンパク質は、高圧均一化に曝露
した場合、活性を喪失し得る。
【0043】
かくして、現在利用可能な製造方法は、タンパク質分解物などの、出発材料の廃棄物を
もたらし、および/または毒性因子の除去などの、得られる生成物の精製を必要とし、か
くして、非効率的であり、費用が高い。さらに、リポタンパク質複合体の調製物は不均一
であってよく、サイズおよび組成が変化する複合体の混合物を含有する。例えば、米国特
許第5,876,968号を参照されたい。従って、効率的であり、好ましくは高い純度
を有するより均一な複合体が得られる、リポタンパク質複合体の新しい製造方法を開発す
る必要がある。そのようなプロセスは、汚染物質に起因する副作用のリスクがより少ない
、より均一な薬学的に許容される生成物を生成しながら、大規模でのより経済的な製造を
可能にする。
【0044】
さらに、しかしながら、全体の製造収率が低いこと、および組換え発現されたタンパク
質の培養物においてタンパク質分解が発生することを考慮すれば、ApoA-I、Apo
A-IM、ApoA-IPおよび他の変異体、ならびに再構成されたHDLの治療的使用
は、治療的投与にとって必要とされる大量のアポリポタンパク質により、およびタンパク
質の製造費用により現在限られている(例えば、Malloryら、1987、J. Biol. Chem. 262(
9):4241-4247; Schmidtら、1997、Protein Expression & Purification 10:226-236を参
照されたい)。心血管疾患の治療のためにはその用量範囲は注入1回あたり1.5~4g
のタンパク質であることが初期の臨床試験によって提言されている。完全な治療にとって
必要とされる注入の回数は知られていない(例えば、Erikssonら、1999、Circulation 10
0(6):594-98; Carlson、1995、Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis. 5:85-91; Nanjeeら、200
0、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 20(9):2148-55; Nanjeeら、1999、Arterioscler
. Thromb. Vasc. Biol. 19(4):979-89; Nanjeeら、1996、Arterioscler. Thromb. Vasc.
Biol. 16(9): 1203-14を参照されたい)。
【0045】
組換えヒトApoA-Iが異種宿主中で発現されているが、成熟タンパク質の収率は、
特に、収率をさらに低下させ、不純な生成物をもたらす精製方法と対にした場合、大規模
な治療適用にとっては不十分である。
【0046】
Weinbergら、1988、J. Lipid Research 29:819-824は、逆相高速液体クロマトグラフィ
ーによるヒト血漿から精製されたアポリポタンパク質A-I、A-IIおよびA-IVな
らびにそのアイソフォームの分離を記載している。
【0047】
WO2009/025754は、ヒト血漿からのα-1-抗トリプシンおよびApoA
-Iのタンパク質分離および精製を記載している。
【0048】
Hunterら、2009、Biotechnol. Prog. 25(2):446-453は、大腸菌(E.coli)中で組換え発
現されたApoA-I Milano変異体の大規模精製を記載している。
【0049】
Caparonら、2009、Biotechnol. And Bioeng. 105(2):239-249は、精製アポリポタンパ
ク質産物中の2つの宿主細胞タンパク質のレベルを低下させるためにこれらのタンパク質
を欠失するように遺伝子操作された大腸菌(E.coli)宿主からのApoA-I Milan
oの発現および精製を記載している。
【0050】
米国特許第6,090,921号は、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いたApo
A-Iおよびアポリポタンパク質E(ApoE)を含有するヒト血漿の画分からのApo
A-IまたはApoEの精製を記載している。
【0051】
Brewerら、1986、Meth. Enzymol. 128:223-246は、クロマトグラフィー技術を用いたヒ
ト血液からのアポリポタンパク質の単離および特性評価を記載している。
【0052】
Weisweilerら、1987、Clinica Chimica Acta 169:249-254は、高速タンパク質液体クロ
マトグラフィーを用いたヒトHDLからのApoA-IおよびApoA-IIの単離を記
載している。
【0053】
deSilvaら、1990、J. Biol. Chem. 265(24): 14292-14297は、免疫アフィニティクロマ
トグラフィーおよび逆相高速液体クロマトグラフィーによるアポリポタンパク質Jの精製
を記載している。
【0054】
リポタンパク質療法の実現可能性を確立する様々なリポタンパク質に基づく薬剤を用い
る臨床研究と共に、リポタンパク質およびリポタンパク質複合体が臨床的使用のために現
在開発されている(Tardif、2010、Journal of Clinical Lipidology 4:399-404)。ある
研究は、自己脱脂質化HDLを評価した(Waksmanら、2010、J Am. Coll. Cardiol. 55:2
727-2735)。別の研究は、組換えApoA-IMとパルミトイル-オレオイル-PC(P
OPC)との複合体であるETC-216を評価した(Nissenら、2003、JAMA 290:2292-
2300)。CSL-111は、大豆ホスファチジルコリン(SBPC)と複合体化した、血
漿から精製された再構成されたヒトApoA-Iである(Tardifら、2007、JAMA 297:167
5-1682)。現在の探索薬剤は、アテローム性動脈硬化プラークの減少において有効性を示
しているが、その効果は、トランスアミナーゼの増加またはApoA-I抗体の形成など
の二次的効果を伴った(Nanjeeら、1999、Arterioscler. Vasc. Throm. Biol. 19:979-89
; Nissenら、2003、JAMA 290:2292-2300; Spiekerら、2002、Circulation 105: 1399-140
2; Nieuwdorpら、2004、Diabetologia 51 : 1081-4; Drewら、2009、Circulation 119、2
103-11; Shawら、2008、Circ. Res. 103: 1084-91; Tardiffら、2007、JAMA 297: 1675-1
682; Waksman, 2008、Circulation 118:S 371; Cho、2007年9月25日に発行された
米国特許第7,273,849B2号)。例えば、ERASE臨床試験(Tardiffら、200
7、JAMA 297: 1675-1682)は、2つの用量のCSL-111:40mg/kgおよび80
mg/kgのApoA-Iを用いた。80mg/kg用量群は、肝臓毒性のため停止しな
ければならなかった(重篤なトランスアミナーゼ上昇により示される)。40mg/kg
用量群においても、数人の患者はトランスアミナーゼ上昇を経験する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0055】
従って、血清コレステロールの低下、HDL血清レベルの増加、脂質異常症ならびに/
または脂質異常症と関連する疾患、状態および/もしくは障害の予防および/または治療
においてより有効であるより安全な薬剤が必要である。肝臓毒性と関連せず、好ましくは
、トリグリセリド、LDL-トリグリセリドまたはVLDL-トリグリセリドの最少の増
加のみを誘導する(または全く誘導しない)リポタンパク質製剤、ならびに商業規模でこ
れらのリポタンパク質製剤を確実に作製するのに用いることができる着実な製造方法が当
技術分野で必要である。
【課題を解決するための手段】
【0056】
4.概要
本開示は、脂質異常症ならびに脂質異常症と関連する疾患、障害および/または状態を
治療および/または予防するのに特に適した、タンパク質画分(例えば、アポリポタンパ
ク質画分)と脂質画分とを含むリポタンパク質複合体、およびその集団を提供する。より
高い純度および/もしくは均一性を有し、ならびに/または本明細書に記載のように特定
の比率の脂質およびタンパク質を含む複合体の集団が、副作用のリスクの低下と共に、コ
レステロールを移動させる能力が増加していることが発見された。
【0057】
リポタンパク質複合体は、タンパク質画分(例えば、アポリポタンパク質画分)および
脂質画分(例えば、リン脂質画分)を含む。タンパク質画分は、1つまたは複数の脂質結
合タンパク質、例えば、アポリポタンパク質、ペプチド、またはリポタンパク質複合体中
に存在する場合にコレステロールを移動させることができるアポリポタンパク質ペプチド
類似体もしくは模倣体を含む。そのようなアポリポタンパク質およびアポリポタンパク質
ペプチドの非限定例としては、プレプロアポリタンパク質(preproapoliprotein)、プレプ
ロApoA-I、プロApoA-I、ApoA-I、プレプロApoA-II、プロAp
oA-II、ApoA-II、プレプロApoA-IV、プロApoA-IV、ApoA
-IV、ApoA-V、プレプロApoE、プロApoE、ApoE、プレプロApoA
-IM、プロApoA-IM、ApoA-IM、プレプロApoA-IP、プロApoA
-IP、ApoA-IP、プレプロApoA-Iz、プロApoA-IzおよびApoA
-Izが挙げられる。アポリポタンパク質は、単量体、二量体、もしくは三量体、または
その混合物の形態にあってよい。特定の実施形態においては、アポリポタンパク質画分は
本質的に、最も好ましくは単一のアイソフォームのApoA-Iからなる。リポタンパク
質複合体中のApoA-Iは、配列番号1のアミノ酸25~267に対応するタンパク質
に対して少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有してもよい。場合に
より、ApoA-Iは、配列番号1のアミノ酸25(および成熟タンパク質の1位)の完
全長ApoA-Iに対応する位置にアスパラギン酸をさらに含む。好ましくは、少なくと
も75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも9
5%のApoA-Iが正確にプロセッシングされた成熟タンパク質(すなわち、シグナル
およびプロペプチド配列を欠く)であり、酸化、脱アミド化および/またはトランケート
されていない。
【0058】
本開示はまた、ApoA-Iを発現するように遺伝子操作された哺乳動物宿主細胞、A
poA-Iを含む細胞培養物、および成熟した生物学的に活性なApoA-Iを製造する
方法も提供する。未熟なApoA-I(プロApoA-I)と、プロテアーゼ分解により
生成されたトランケート型のApoA-Iとの両方を実質的に含まない大量の成熟Apo
A-Iを発現するように哺乳動物宿主細胞を遺伝子操作することができることが発見され
た。これらの結果は驚くべきことである。第1に、タンパク質プロセッシングのための宿
主細胞機構は、ApoA-Iなどの異種タンパク質の過剰発現によって圧倒され、プロセ
ッシングされていない未熟なタンパク質の産生をもたらすと予想される。第2に、培養培
地中に分泌されたApoA-Iは、プロテアーゼによる分解を受け、さらに低レベルのト
ランケートされたApoA-Iだけが培養培地中に観察される。哺乳動物宿主細胞、細胞
培養物およびApoA-Iを製造する方法は、商業的に関連する量の、治療適用において
有用な成熟タンパク質の製造に特に適している。
【0059】
本明細書に提供される通り、哺乳動物宿主細胞は、好ましくは、配列番号1の25~2
67位に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも9
8%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む(または
それからなる)タンパク質を発現するように遺伝子操作される。このタンパク質は、好ま
しくは、配列番号1の25位に対応する位置にアスパラギン酸残基を有する。哺乳動物宿
主細胞は、場合により、そのようなタンパク質をさらに分泌することができる。いくつか
の例においては、前記哺乳動物宿主細胞により発現および/または分泌されたタンパク質
は、18アミノ酸のシグナル配列(MKAAVLTLAVLFLTGSQA、配列番号2
)および/または6アミノ酸のプロペプチド配列(RHFWQQ、配列番号3)をさらに
含んでもよい。いくつかの例においては、宿主細胞は、配列番号1に対して少なくとも9
5%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、ま
たは100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質を発現するように遺伝子操
作される。
【0060】
宿主細胞は、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣(例えば、CH
O-K1もしくはCHO-S)、VERO、BHK、BHK570、HeLa、COS-
1、COS-7、MDCK、293、3T3、PC12およびW138などの任意の哺乳
動物細胞系に由来するか、またはミエローマ細胞もしくは細胞系(例えば、マウスミエロ
ーマ細胞もしくは細胞系)に由来するものであってよい。
【0061】
哺乳動物宿主細胞は、ApoA-Iタンパク質、例えば、配列番号1の25~267位
を含むか、またはそれからなるタンパク質をコードする複数コピーの核酸をさらに含んで
もよい。例えば、哺乳動物宿主細胞は、少なくとも約5、6、7、8以上のコピー、およ
び最大で約10、11、12、13または14コピーの核酸を含んでもよい。この核酸を
さらに、哺乳動物宿主細胞中で高レベルでタンパク質を発現させることができるプロモー
ター、例えば、サルサイトメガロウイルスプロモーターまたはより具体的には、極初期サ
ルサイトメガロウイルスプロモーターなどに機能し得る形で連結することができる。
【0062】
哺乳動物宿主細胞は、好ましくは、培養物中で少なくとも約0.5、1、2もしくは3
g/LのApoA-Iおよび/または培養物中で最大で約20g/LのApoA-I、例
えば、培養物中で最大で4、5、6、7、8、9、10、12もしくは15g/LのAp
oA-Iを産生することができる。この培養物は、約150mL~約500L、1000
L、2000L、5000L、10,000L、25,000Lまたは50,000L以
上の範囲の任意の規模のものであってよい。様々な実施形態においては、培養容量は、1
0L~50L、50L~100L、100L~150L、150L~200L、200L
~300L、300L~500L、500L~1000L、1000L~1500L、1
500L~2000L、2000L~3000L、3000L~5000L、5000L
~7500L、7500L~10,000L、10,000L~20,000L、20,
000L~40,000L、30,000L~50,000Lの範囲であってよい。いく
つかの例においては、培養物は大規模培養物、例えば、15L、20L、25L、30L
、50L、100L、200L、300L、500L、1000L、5000L、10,
000L、15,000L、20,000L、25,000L、最大で50,000L以
上である。
【0063】
本開示の哺乳動物宿主細胞を、培養物中で増殖させることができる。かくして、本開示
は、上記の、または以下の第6.1.2節に記載の複数の哺乳動物宿主細胞を含む、哺乳
動物細胞培養物をさらに提供する。この細胞培養物は、1または複数の下記特徴を含んで
もよい:(a)培養物(場合により、少なくとも10リットル、少なくとも20リットル
、少なくとも30リットル、少なくとも50リットル、少なくとも100リットル、30
0L、500L、1000L、5000L、10,000L、15,000L、20,0
00L、25,000L、最大で50,000Lの大規模バッチ式培養物または少なくと
も10リットル、少なくとも20リットル、少なくとも30リットル、少なくとも50リ
ットル、少なくとも100リットル、300L、500L、1000L、5000L、も
しくは最大で10,000Lの連続培養物である)が配列番号1のアミノ酸25~267
に対応するアミノ配列(amino sequence)を含むか、またはそれからなる、少なくとも約0
.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0g/L以上の成熟Ap
oA-Iタンパク質を含む;(b)培養培地中の少なくとも75%、少なくとも80%、
少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少
なくとも99%のタンパク質が、シグナル配列を欠くApoA-Iタンパク質である;(
c)培養培地中の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも
90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%のタンパク質が
、シグナル配列およびプロペプチド配列を欠く成熟ApoA-Iタンパク質である;なら
びに(d)成熟ApoA-Iの少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%
、少なくとも90%、少なくとも95%がトランケート、酸化、または脱アミド化されて
いない。
【0064】
本開示はまた、成熟した生物学的に活性なApoA-Iを製造する方法も提供する。一
般的には、前記方法は、ApoA-Iが発現および分泌される条件下で、上記の、または
第6.1.2節に記載の哺乳動物宿主細胞のいずれかを培養することを含む。この方法は
、成熟した生物学的に活性なApoA-Iを、培養された哺乳動物宿主細胞の上清から回
収するステップ、および場合により、精製するステップをさらに含んでもよい(以下の第
6.1.3節および第6.1.4節に開示される方法によるなど)。
【0065】
上記の方法により得られた、または得られるApoA-Iを、脂質とさらに複合体化さ
せて、本明細書に記載のリポタンパク質複合体を形成させる、および/または治療上有効
量の医薬組成物中に組み入れることができる。医薬組成物は、好ましくは、賦形剤として
スクロースおよび/またはマンニトールを含んでもよいリン酸緩衝溶液である。
【0066】
クロマトグラフィーステップと濾過ステップとの新しい組合せを用いてApoA-Iを
精製することにより、タンパク質を治療的使用にとって特に好適にする、副作用のリスク
の低下および低いか、または全くない毒性などの1つまたは複数の属性を付与するのに十
分に低いレベルの宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、内毒素およびトランケート型の
タンパク質を含有する大量の純粋なApoA-Iを製造することができることをさらに発
見した。好ましくは、本明細書に記載の方法により精製されたApoA-Iは、哺乳動物
細胞中で組換え産生され、増殖培地中に分泌される。従って、本開示は、(a)ApoA
-Iを含有する溶液と、陰イオン交換マトリックスとを、ApoA-Iがマトリックスに
結合しない条件下で接触させるステップ;(b)ウイルスまたはウイルス粒子を除去する
のに十分な孔径を有する膜を通して、ステップ(a)で得られたApoA-I含有溶液を
濾過するステップ;(c)ApoA-Iがマトリックスに結合するような条件下で、第1
の逆相クロマトグラフィーカラムに、ステップ(b)で得られた濾液を通過させるステッ
プ;(d)増加する濃度勾配の有機溶媒を用いて、第1の逆相クロマトグラフィーマトリ
ックスから、第1のApoA-I含有逆相溶出液を溶出させるステップ;(e)ApoA
-Iがマトリックスに結合するような条件下で、第2の逆相クロマトグラフィーカラムに
、ステップ(d)に由来する第1のApoA-I逆相溶出液を通過させるステップ;およ
び(f)増加する濃度勾配の有機溶媒を用いて、第2の逆相クロマトグラフィーマトリッ
クスから、第2のApoA-I含有逆相溶出液を溶出させるステップを含む、ApoA-
Iを精製する方法に関する。前記ステップを実施する順序は重要ではなく、例えば、例示
的な実施形態においては、ウイルスまたはウイルス粒子を除去するために膜を通して濾過
するステップは、ステップ(a)の後よりもむしろ、ステップ(f)の後に実施される。
【0067】
また、ApoA-Iの濃度が少なくとも10g/Lである本明細書に記載の精製方法に
よって得られた、または得られる実質的に純粋なApoA-I生成物も本明細書に提供さ
れる。本明細書に記載の精製方法によって製造された実質的に純粋なApoA-I生成物
は、好ましくは、ApoA-I 1mgあたり約10pg未満の宿主細胞DNA、Apo
A-I 1mgあたり約100ng未満の宿主細胞タンパク質、および/またはApoA
-I 1mgあたり0.1EU未満の内毒素を含む。ApoA-I生成物は、少なくとも
95%純粋、少なくとも96%純粋、少なくとも97%純粋、少なくとも98%純粋また
は少なくとも99%純粋であってよい。
【0068】
さらに、実質的に純粋なApoA-I生成物を、ApoA-Iを含む本明細書に記載の
医薬組成物および/またはリポタンパク質複合体のいずれかに組み入れることができる。
【0069】
脂質画分は、典型的には、中性の、負に荷電したもの、正に荷電したもの、またはその
組合せであってもよい1つまたは複数のリン脂質を含む。リン脂質上の脂肪酸鎖は、好ま
しくは、12~26個または16~26個の炭素の長さであり、飽和からモノ不飽和まで
、飽和度において異なっていてもよい。リン脂質の例としては、低分子アルキル鎖リン脂
質、卵ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジ
ルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン
1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミ
リストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジル
コリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホス
ファチジルコリンジオレオホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジ
ルグリセロールホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノー
ルアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジ
ルグリセロール、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイル
ホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイ
ルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホス
ファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスフ
ァチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホス
ファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、脳スフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエ
リン、ミルクスフィンゴミエリン、パルミトイルスフィンゴミエリン、フィトスフィンゴ
ミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ジ
パルミトイルホスファチジルグリセロール塩、ホスファチジン酸、ガラクトセレブロシド
、ガングリオシド、セレブロシド、ジラウリルホスファチジルコリン、(1,3)-D-
マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3-コレステリル-
6’-(グリコシルチオ)ヘキシルエーテルグリコリピド、およびコレステロールならび
にその誘導体が挙げられる。SMおよびパルミトイルスフィンゴミエリンを含むリン脂質
画分は場合により、限定されるものではないが、リゾリン脂質、パルミトイルスフィンゴ
ミエリン以外のスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロ
シド、グリセリド、トリグリセリド、およびコレステロールならびにその誘導体などの、
少量の任意の型の脂質を含んでもよい。
【0070】
最も好ましくは、脂質画分は、少なくとも1つの中性リン脂質および場合により、1つ
または複数の負に荷電したリン脂質を含有する。中性リン脂質と負に荷電したリン脂質の
両方を含むリポタンパク質複合体においては、中性リン脂質および負に荷電したリン脂質
は、同じか、または異なる数の炭素および同じか、または異なる飽和度を有する脂肪酸鎖
を有してもよい。いくつかの例においては、中性リン脂質および負に荷電したリン脂質は
、同じアシル尾部、例えば、C16:0、またはパルミトイル、アシル鎖を有する。
【0071】
複合体の脂質成分が中性リン脂質および負に荷電したリン脂質を含むか、またはそれか
らなる場合、中性リン脂質と負に荷電したリン脂質の重量-重量(wt:wt)比は、好
ましくは、約99:1~約90:10、より好ましくは、約99:1~約95:5、およ
び最も好ましくは、約98:2~約96:4の範囲のwt:wt比にある。一実施形態に
おいては、中性リン脂質および負に荷電したリン脂質は、約97:3の中性リン脂質:負
に荷電したリン脂質の重量-重量(wt:wt)比で存在する。
【0072】
中性リン脂質は、天然のものであるか、または合成のものであってよい。好ましくは、
リン脂質は、場合により、16~26個の炭素原子の鎖長を有する飽和またはモノ不飽和
脂肪酸を含む、スフィンゴミエリン(「SM」)、例えば、パルミトイルスフィンゴミエ
リン、フィトスフィンゴミエリン、ジフィトスフィンゴミエリン、ホスホスフィンゴ脂質
、またはスフィンゴ糖脂質である。SMは任意の供給源に由来するものであってよい。例
えば、SMは、ミルク、卵、脳から得るか、または合成的に作製することができる。特定
の実施形態においては、SMは鶏卵から得られる(「卵SM」)。別の特定の実施形態に
おいては、SMはパルミトイルスフィンゴミエリンである。
【0073】
生理的pHで少なくとも部分的負電荷を担持する任意のリン脂質を、負に荷電したリン
脂質として用いることができる。非限定例としては、ホスファチジルイノシトール、ホス
ファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸の負に荷電した
形態、例えば、塩が挙げられる。特定の実施形態においては、負に荷電したリン脂質は、
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール
)]、またはDPPG、ホスファチジルグリセロールである。好ましい塩としては、カリ
ウム塩およびナトリウム塩が挙げられる。
【0074】
本開示の複合体を製造するのに用いられるリン脂質は、好ましくは少なくとも95%純
粋であり、より好ましくは少なくとも99%純粋であり、および/または4meq O/
kg以下、より好ましくは3meq O/kg以下(例えば、2meq O/kg以下)
の酸化レベルのレベル(levels of oxidation levels)を有する。酸素と脂肪酸との主要な
初期反応生成物は、ヒドロペルオキシドである。ヨード還元滴定法を用いれば、試料中の
過酸化物の存在をアッセイすることにより酸化レベルを測定することができる。
【0075】
本開示のリポタンパク質複合体は、好ましくは、以下の実施例に示される通り、より完
全で均一な複合体形成をもたらすアポリポタンパク質と脂質との比を有する。リポタンパ
ク質複合体は、1:80~1:120、1:100~1:115、または1:105~1
:110の範囲のアポリポタンパク質画分:脂質画分のモル比を特徴とし、ここでアポリ
ポタンパク質はApoA-I当量で表される。特定の実施形態においては、アポリポタン
パク質画分:脂質画分のモル比は、1:80~1:90(例えば、1:82、1:85ま
たは1:87)、1:90~1:100(例えば、1:95または1:98)、1:10
0~1:110(例えば、1:105または1:108)である。
【0076】
特に卵SMが中性脂質として用いられる特定の実施形態においては、アポリポタンパク
質画分:脂質画分の重量比は、約1:2.7~約1:3(例えば、1:2.7)の範囲で
ある。
【0077】
本開示のリポタンパク質複合体を、疎水性、親油性または非極性活性剤を送達するため
の担体として用いることもできる。そのような適用のために、脂質画分は、限定されるも
のではないが、脂肪酸、薬剤、核酸、ビタミンおよび/または栄養素などの1つまたは複
数の疎水性、親油性または非極性活性剤をさらに含むか、またはリポタンパク質複合体に
、それらのものをロードすることができる。活性剤の特定例は、第6.2節に記載される
。
【0078】
本開示はまた、リポタンパク質複合体の集団も提供する。典型的には、
・集団は、それぞれタンパク質画分と脂質画分とを含む、複数のリポタンパク質複合体
を含有する;
・タンパク質画分は、上記の、および第6.1節または第6.5.3節に記載されるリ
ポタンパク質またはリポタンパク質類似体を含有する;最も好ましくは、タンパク質画分
は、第6.1.2節に記載の方法により得られたか、もしくは得られる、および/または
第6.1.4節に記載の方法により精製されたリポタンパク質(例えば、ApoA-Iタ
ンパク質)を含むか、または本質的にそれからなる;
・脂質画分は、上記の、および第6.2節または第6.5.2節に記載の脂質を含む;
・リポタンパク質複合体は、好ましくは第6.5.4節に記載の熱サイクリング法によ
り製造される。
【0079】
本出願人は、リポタンパク質複合体集団の効力および安全性プロフィールに個別に、ま
たは組合わせて寄与すると考えられるいくつかの特徴を発見した。これらの特徴は、
・多くは4nm~15nm(例えば、5nm~12nm、6nm~15nm、または8
nm~10nm)の範囲である、集団中の複合体のサイズの均一性;
・複合体を作製するのに用いられるアポリポタンパク質の純度(例えば、酸化、脱アミ
ド化、トランケートされた、および/もしくは未熟な形態のアポリポタンパク質の欠如な
らびに/または内毒素の欠如ならびに/またはアポリポタンパク質以外のタンパク質(宿
主細胞タンパク質など)の欠如、ならびに/または組換え産物中に存在することが多い宿
主細胞DNA);
・集団中の複合体自体の純度(複合体を調製するのに用いられる溶媒もしくは洗剤など
の汚染物質の欠如;酸化脂質の欠如;脱アミド化、酸化もしくはトランケートされたタン
パク質の欠如;ならびに/または少量の非複合体化アポリポタンパク質および/もしくは
脂質またはそれらの欠如を特徴とする)
を含む。
【0080】
これらの特徴のうち、複合体の均一性および複合体中の成熟した非改変アポリポタンパ
ク質の優勢性は、効力を増加させると考えられる。アポリポタンパク質、脂質および複合
体の純度は、肝臓酵素(例えば、トランスアミナーゼ)の増加により反映される肝臓損傷
などの副作用のリスクを低下させる。さらに、本発明者らは、多くのアポリポタンパク質
の複合体中への組込みをもたらす方法によりリポタンパク質複合体の集団を作製すること
を実現可能にし、非複合体化アポリポタンパク質の量の減少も、それが異種タンパク質の
投与により引き起こされ得る被験体における免疫原性応答のリスクを低下させる点で有益
である。
【0081】
従って、本開示は、以下の特徴のうちの1つもしくは複数、またはさらには全部を特徴
とするリポタンパク質複合体の集団を提供する:
(a)前記集団中のリポタンパク質、典型的には、ApoA-Iの少なくとも75重量
%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、または少な
くとも95重量%が、成熟形態にある;
(b)前記集団中のリポタンパク質、典型的には、ApoA-Iの25重量%以下、2
0重量%以下、15重量%以下、10重量%以下または5重量%以下が未熟形態にある;
(c)前記集団が、リポタンパク質、典型的には、ApoA-I 1ミリグラムあたり
、100ピコグラム以下、50ピコグラム以下、25ピコグラム以下、10ピコグラム以
下または5ピコグラム以下の宿主細胞DNAを含有する;
(d)前記集団が、リポタンパク質、典型的には、ApoA-I 1ミリグラムあたり
、500ナノグラム以下、200ナノグラム以下、100ナノグラム以下、50ナノグラ
ム以下、または20ナノグラム以下の宿主細胞タンパク質を含有する;
(e)前記集団中のリポタンパク質、典型的には、ApoA-Iの25重量%以下、2
0重量%以下、15重量%以下、10重量%以下または5重量%以下がトランケートされ
た形態にある;
(f)リポタンパク質成分が成熟ApoA-Iを含むか、またはそれからなり、前記集
団中の前記ApoA-I中のメチオニン112およびメチオニン148の各々の20%以
下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下または1%以下が酸化され
ている;
(g)リポタンパク質複合体の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90
%または少なくとも95%が、ゲル浸透クロマトグラフィー(「GPC」)または動的光
散乱(「DLS」)により測定された場合、4nm~15nmのサイズ、例えば、6nm
~15nmのサイズ、または8~12nmのサイズ、さらにより好ましくは、5nm~1
2nmのサイズの粒子の形態にある;
(i)前記集団が、リポタンパク質、典型的にはApoA-I 1ミリグラムあたり、
1EU以下、0.5EU以下、0.3EU以下または0.1EU以下の内毒素を含有する
;
(j)前記集団中のリポタンパク質、典型的にはApoA-I中のアミノ酸の15%以
下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または1%以下が脱アミド化
されている;
(k)前記複合体中の脂質画分中の脂質の15重量%以下、10重量%以下、5重量%
以下、2重量%以下または0重量%がコレステロールである;
(l)前記集団が200ppm、100ppm、50ppm以下の非水性溶媒を含有す
る;
(m)前記集団が洗剤(例えば、コール酸塩)を含有しない;
(n)前記集団が、ゲル浸透クロマトグラフィー中の単一のピークにおける集団の百分
率により測定された場合、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少
なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%均一で
あってよい;
(o)前記集団が、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なく
とも95%または少なくとも97%のタンパク質が複合体化された形態にある組成物中に
ある;
(p)前記集団中の脂質の5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または1%以下が
酸化されている;ならびに
(q)前記集団中のメチオニンおよび/またはトリプトファン残基の15%以下、10
%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または1%以下が酸化されている。
【0082】
特定の実施形態においては、前記集団は、下記群から選択される特徴を有する:
I群:上記の特徴(a)、(b)および(c);
II群:上記の特徴(c)、(d)および(i);
III群:上記の特徴(f)、(j)、(e)、(p)および(q);
IV群:上記の特徴(g)、(n)および(o);
V群:上記の特徴(l)および(m);ならびに
VI群:上記の特徴(k)。
【0083】
特定の態様においては、前記集団は、I群およびIV群の各々から独立に選択される1
または2つの特徴を特徴とする;場合により、前記集団は、I群およびIV群の各々から
独立に選択される3つの特徴を特徴とする。前記集団はさらに、II群および/またはI
II群の各々から独立に選択される1、2または3つの特徴を特徴とする。前記集団はさ
らに、V群から独立に選択される1もしくは2つの特徴および/またはVI群から独立に
選択される1つの特徴を特徴とする。
【0084】
特定の脂質およびタンパク質成分は、複数の異なるが均一なリポタンパク質複合体を形
成することができる。従って、本開示はまた、異なる量のアポリポタンパク質分子を含む
リポタンパク質複合体の2、3または4つの集団を含む組成物も提供する(例えば、2、
3または4つのApoA-I分子またはApoA-I当量)。例示的な実施形態において
は、組成物は2つのリポタンパク質複合体集団を含み、それぞれ、第1の集団はリポタン
パク質複合体あたり2個のApoA-I分子またはApoA-I当量を有するリポタンパ
ク質複合体を含み、第2の集団はリポタンパク質複合体あたり3または4個のApoA-
I分子またはApoA-I当量を有するリポタンパク質複合体を含み、場合により、第3
の集団はリポプロタンパク質複合体あたり4または3個のApoA-I分子またはApo
A-I当量を有するリポタンパク質複合体を含む。
【0085】
リポタンパク質複合体の2つ以上の集団を含む組成物は、好ましくは、低レベルの非複
合体化リポタンパク質および/または脂質を有する。従って、好ましくは、組成物中の脂
質の15%以下、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、
5%以下、4%以下、3%以下、2%以下もしくは1%以下が非複合体化形態にあり、お
よび/または組成物中のリポタンパク質の15%以下、12%以下、10%以下、9%以
下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下もしくは
1%以下が非複合体化形態にある。
【0086】
本開示は、リポタンパク質複合体を作製するための方法を提供する。この方法は、特に
、非複合体化脂質および脂質結合タンパク質またはペプチドを含有する懸濁液を熱サイク
リング条件にかけることにより、リポタンパク質複合体が固定温度で成分をインキュベー
トすることにより製造されるなど、他の方法と比較して有利な結果と共にリポタンパク質
複合体の形成が得られるという発見に基づくものである。
【0087】
本開示は、第6.5.1~6.5.4節に記載のものなどの、リポタンパク質複合体を
調製するための熱サイクリング法を提供する。この方法は、典型的には、脂質粒子(「脂
質成分」)および脂質結合タンパク質またはペプチド(「タンパク質成分」)を含む懸濁
液を、タンパク質成分のほとんどがリポタンパク質複合体中に組み込まれるまで複数の熱
サイクルにかけることを含む。前記方法は一般に、リポタンパク質複合体が形成されるま
で、第1の高い方の温度範囲の温度と、第2の低い方の温度範囲の温度との間で懸濁液を
循環させることが必要である。熱サイクリングプロセスの高温および低温範囲は、リポタ
ンパク質複合体の脂質およびタンパク質成分の相転移温度に基づく。あるいは、不飽和脂
肪酸鎖を有するリン脂質またはリン脂質の混合物を用いる場合に起こり得るように、脂質
成分が規定の、または個別の相転移を示さない場合、熱サイクリングの高温および低温範
囲は、少なくとも約20℃、最大で40℃またはさらにはそれを超える温度、異なる。例
えば、いくつかの実施形態においては、低温および高温範囲は、20℃~30℃、20℃
~40℃、20℃~50℃、30℃~40℃、30℃~50℃、25℃~45℃、35℃
~55℃異なる。
【0088】
脂質については、相転移は、ゲル状態として知られる、緊密に固まった規則的構造から
、液体状態として知られる、緩く固まった規則性の低い構造への変化を含む。リポタンパ
ク質複合体は、当技術分野では、典型的には用いられる特定の脂質または脂質の混合物の
転移温度に近い温度で脂質粒子およびアポリポタンパク質をインキュベートすることによ
り形成される。脂質成分の相転移温度(熱量測定法により決定することができる)+/-
12℃、より好ましくは+/-10℃は、本開示の方法における「低」温範囲である。特
定の実施形態においては、低温範囲は、脂質成分の相転移温度の+/-3℃、+/-5℃
、または+/-8℃である。1つの特定の実施形態においては、低温範囲は、脂質成分の
相転移温度の、下は5℃以下または10℃以下から、上は5℃までである。
【0089】
タンパク質については、相転移温度は、三次構造から二次構造への変化を含む。タンパ
ク質成分の相転移温度+/-12℃、より好ましくは+/-10℃は、本開示の方法にお
ける「高」温範囲である。特定の実施形態においては、高温範囲は、タンパク質成分の相
転移温度の+/-3℃、+/-5℃、または+/-8℃である。1つの特定の実施形態に
おいては、低温範囲は、タンパク質成分の相転移温度の、下は10℃から、上は5℃以下
、10℃以下、または15℃以下までである。
【0090】
出発懸濁液の脂質成分、すなわち、熱サイクリング法にまだかけられていない懸濁液は
、好ましくは、脂質の粒子を含み、例えば、主に脂質結合タンパク質と複合体化されてい
ない脂質から構成される。脂質成分の作出は、一般的には以下の第6.5.2節に記載さ
れる通りである。
【0091】
出発懸濁液のタンパク質成分は、好ましくは、脂質と複合体化されていない脂質結合ペ
プチドおよび/またはタンパク質を含有するか、または所望の複合体中でのタンパク質/
ペプチドと脂質の比よりも少なくとも5倍高い(例えば、少なくとも5倍、少なくとも1
0倍または少なくとも20倍高い)タンパク質/ペプチドと脂質の比で脂質と合わせられ
る。タンパク質成分の作出は、一般的には以下の第6.1節および第6.5.3節に記載
される通りである。タンパク質成分は、好ましくは、第6.1.2節に記載の方法に従っ
て作製され、および/または第6.1.3節または6.1.4節に記載の方法に従って精
製される。
【0092】
本開示の方法において、タンパク質成分と脂質成分とを含有する懸濁液は、典型的には
、リポタンパク質複合体が形成されるまで、好ましくは高温範囲の温度から出発する、高
温範囲と低温範囲との間で熱サイクリングされる。脂質およびタンパク質成分の好適な量
を用いて(例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公
開第2006-0217312A1号に記載されている)、脂質およびタンパク質成分の
実質的に完全な複合体化を、数回のサイクルの後に達成することができる。熱サイクリン
グ法にとって好適なタンパク質および脂質の化学量論のさらなる詳細は、第6.5.4節
に記載される。
【0093】
前記方法により製造される複合体は、典型的には、タンパク質成分が特定の化学量論範
囲で、また均一なサイズ分布で脂質成分に物理的に結合したミセル、ベシクル、球状また
は円盤状粒子として形状化された超分子集合体である。本発明の方法は、有利には、出発
懸濁液中での脂質および/またはタンパク質の実質的に完全な複合体化をもたらし、クロ
マトグラフィーなどの分離方法により観察されるように、遊離脂質および/または遊離タ
ンパク質を実質的に含まない組成物が得られる。かくして、本開示の方法は、精製ステッ
プの非存在下で実施することができる。
【0094】
出発懸濁液中の脂質成分は、典型的には粒子形態にある。粒子は好ましくは主に、少な
くとも45nm、少なくとも50nm、少なくとも55nmまたは少なくとも60nmの
サイズであり、最大で65nm、最大で70nm、最大で75nm、最大で80nmのサ
イズ、最大で100nm、最大で120nm、最大で150nm、最大で200nm、最
大で250nm、最大で300nm、最大で500nmであり、例えば、45nm~10
0nmまたは45~250nmのサイズ範囲にあり、より好ましくは、50nm~90n
mのサイズ範囲にあり、最も好ましくは、55nm~75nmのサイズ範囲にある。好ま
しい実施形態においては、脂質粒子は主に、卵スフィンゴミエリンから構成され、55~
75nmのサイズである。別の好ましい実施形態においては、脂質粒子は主に、1または
複数の合成スフィンゴミエリン(例えば、パルミトイルスフィンゴミエリンまたはフィト
スフィンゴミエリン)から構成され、175nm~250nmのサイズである。さらに別
の好ましい実施形態においては、脂質粒子は主に、1または複数の合成脂質(例えば、パ
ルミトイルスフィンゴミエリンまたはフィトスフィンゴミエリン)から構成され、250
nm~1000nmのサイズである。さらに別の好ましい実施形態においては、脂質粒子
は主に、1または複数の合成脂質(例えば、パルミトイルスフィンゴミエリンまたはフィ
トスフィンゴミエリン)から構成され、1000nm~4000nmのサイズである。本
明細書に記載のサイズは、動的光散乱により決定されるゼータ(Z)平均サイズである。
高圧均一化、例えば、マイクロフルイダイゼーションは、好適なサイズの脂質粒子を有利
に生成する。粒子を形成させるための他の方法は、以下の第6.5.2節に開示され、均
一化の代替方法として用いることができる。そのような方法が好ましいサイズ範囲外の粒
子を生成する場合、粒子をサイズ濾過にかけて、好適なサイズの粒子を得ることができる
。
【0095】
本明細書に記載のリポタンパク質複合体を調製する方法は、そのサイズ分布において均
一である複合体を有利に生成し、サイズ分画の必要性を回避する。さらに、本開示の方法
は、リポタンパク質粒子中への出発タンパク質の実質的に完全な組込み(例えば、少なく
とも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも
99%)をもたらす。従って、本開示は、リポタンパク質複合体を含み、例えば、ゲル浸
透クロマトグラフィーを用いて決定された場合、組成物中の脂質結合タンパク質の少なく
とも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも
99%が脂質と複合体化された組成物を提供する。特定の実施形態においては、本開示は
、4nm~20nmのゼータ平均サイズ、例えば、4nm~20nmのゼータ平均サイズ
、4nm~15nmのゼータ平均サイズ、4nm~12nmのゼータ平均サイズ、5nm
~15nmのゼータ平均サイズ、5nm~12nmのゼータ平均サイズ、5nm~10n
mのゼータ平均サイズ、5nm~20nmのゼータ平均サイズ、6nm~15nmのゼー
タ平均サイズ、または8nm~12nmのゼータ平均サイズを有し、例えば、ゲル浸透ク
ロマトグラフィーを用いて決定された場合、組成物中の脂質結合タンパク質の少なくとも
95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99
%が脂質と複合体化されたリポタンパク質複合体を含む組成物を提供する。本明細書に記
載の方法に従って脂質粒子をリポタンパク質と共に熱サイクリングにかけることにより、
典型的には、4nm~15nmのサイズのリポタンパク質粒子の集団、例えば、6nm~
15nmのサイズ、5nm~12nmのサイズ、または8nm~12nmのサイズのリポ
タンパク質粒子の集団が得られる。熱サイクリングにかけられる脂質粒子のサイズは、5
0nm~250nmの範囲であってよい。好ましい実施形態においては、脂質粒子は主に
、卵スフィンゴミエリンから構成され、55~75nmのサイズである。別の好ましい実
施形態においては、脂質粒子は主に、1つまたは複数の合成スフィンゴミエリン(例えば
、フィトスフィンゴミエリン)から構成され、175nm~250nmのサイズである。
【0096】
リポタンパク質複合体を調製する方法における1つまたは複数のステップを、不活性ガ
ス下で実行することができる。そうすることにより、アポリポタンパク質および/または
脂質の酸化を低下または防止することができ、それによって肝臓損傷などの副作用のリス
クを低下させることができる。好適な不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、およびアル
ゴンが挙げられる。
【0097】
上記の方法により得られたか、または得られるリポタンパク質複合体は、複合体が形成
された後にさらなる精製ステップが必要ないため、治療的使用に特に適している。
【0098】
本開示はまた、リポタンパク質複合体の集団、ならびに本明細書に記載のような、リポ
タンパク質複合体またはその集団を含み、場合により、1つまたは複数の薬学的に許容さ
れる担体、賦形剤および/または希釈剤を含んでもよい医薬組成物も提供する。いくつか
の実施形態においては、医薬組成物は、投与にとって好適な単位用量中に包装される。例
えば、いくつかの実施形態においては、前記組成物は、密閉されたバイアル中に包装され
た乾燥(例えば、凍結乾燥)されたリポタンパク質複合体の単位用量を含む。そのような
組成物は、水、生理的溶液(生理食塩水など)またはバッファーを用いる再構成、および
注射による投与にとって好適である。そのような組成物は、場合により、荷電した複合体
の再構成を容易にするための1つもしくは複数の凝固防止剤および/または抗凝集剤、ま
たは再構成された懸濁液のpH、浸透圧および/もしくは塩分濃度を調整するように設計
された1つもしくは複数の緩衝剤、等張剤(例えば、スクロースおよび/もしくはマンニ
トール)、糖または塩(例えば、塩化ナトリウム)を含んでもよい。リポタンパク質複合
体の集団および/または上記の医薬組成物を、酸化を最小化する条件下で製造することに
よって、酸化生成物により引き起こされる肝臓損傷などの副作用のリスクを低下させるこ
とができる。例えば、医薬組成物を、不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウム、またはアル
ゴンの下で製造することができる。
【0099】
商業的適用のためには、リポタンパク質複合体および医薬組成物の大規模調製物を作製
することが有用である。従って、本開示はまた、少なくとも約3mg/mL、少なくとも
約4mg/mL、または少なくとも約5mg/mL、および最大で約10mg/mL、約
15mg/mL、または約20mg/mL、好ましくは、約8mg/mL~約12mg/
mLの範囲、最も好ましくは、約8mg/mLの脂質結合タンパク質の濃度を達成するの
に十分な量のリポタンパク質複合体を含む少なくとも1L、2L、5Lまたは10Lおよ
び最大で15L、20L、30L、50L以上の調製物(例えば、5L~30L、10L
~15Lまたは30L~50Lの調製物)も提供する。特定の実施形態においては、調製
物は15L~25Lの容量を有し、約100g~約250gのApoA-Iを含有する。
別の特定の実施形態においては、調製物は30L~50Lの容量を有し、約240g~約
780gのApoA-Iを含有する。
【0100】
本明細書に記載のリポタンパク質複合体は、動物、最も好ましくはヒトにおける脂質異
常障害を治療するのに有用である。そのような状態としては、限定されるものではないが
、高脂血症、および特に高コレステロール血症(ヘテロ接合性およびホモ接合性家族性高
コレステロール血症)、およびアテローム性動脈硬化症などの心血管疾患(アテローム性
動脈硬化症の治療および予防を含む)および例えば、脳卒中、虚血性脳卒中、一過性虚血
発作、心筋梗塞、急性冠動脈症候群、狭心症、間欠性跛行、重症虚血肢、弁狭窄、および
心房弁硬化症などのアテローム性動脈硬化症の無数の臨床徴候;再狭窄(例えば、バルー
ン血管形成術などの医学的手順の結果として生じるアテローム性動脈硬化プラークの予防
または治療);および敗血性ショックをもたらすことが多い内毒素血症などの他の障害が
挙げられる。
【0101】
本明細書に記載のリポタンパク質複合体および組成物は、現在までの研究において他の
リポタンパク質複合体について用いられたものよりも低用量で投与した場合、コレステロ
ール流出を行う、および/または容易にすることがわかった。例えば、15mg/kg~
80mg/kgの範囲の用量を用いた、Spiekerら、2002、Circulation 105: 1399-1402
(80mg/kgの用量を用いる);Nissenら、2003、JAMA 290:2292-2300(15mg/
kgまたは40mg/kgの用量を用いる);Tardifら、2007 JAMA 297:1675-1682(4
0mg/kg~80mg/kgの用量を用いる)を参照されたい。さらに、本明細書に記
載のリポタンパク質複合体は、副作用が減少していることがわかった。以下の実施例に示
されるように、本開示のリポタンパク質複合体は、2mg/kgの低い用量でコレステロ
ールを効率的に移動させ、対照的に、ヒト患者に以前に投与されたリポタンパク質複合体
は、トリグリセリド、VLDL、およびトランスアミナーゼなどの肝臓酵素のレベルを有
意に上昇させないことを発見した(Nanjeeら、1999、Arterioscler. Vasc. Throm. Biol.
19:979-89を参照されたい)。さらに、副作用の減少は、正常な肝臓および/または腎臓
機能を有する正常な対象において、最大で約15mg/kg(トリグリセリド上昇の欠如
)またはさらには45mg/kg(トランスアミノアーゼ増加の欠如)に増加させた用量
でも観察される。かくして、副作用なしに投与される本開示の複合体の能力は、好ましく
は、正常な肝機能、正常な腎機能、またはその両方を有する個体において評価される。
【0102】
理論によって束縛されるものではないが、本発明者らは、本開示のリポタンパク質複合
体の利益が、以前の治療と比較して複合体のより均一なサイズ分布および減少した量の損
傷されたタンパク質および/または脂質(例えば、酸化されたタンパク質、脱アミド化さ
れたタンパク質および酸化された脂質)に起因すると考える。さらに、脂質画分を含む負
に荷電したリン脂質は、本明細書に記載の複合体および組成物に、従来のリポタンパク質
複合体を超える改善された治療特性を付与すると考えられる。腎臓において分解される、
小さい円盤状のプレ-βHDL粒子と、そのコレステロールが貯蔵され、再利用され、代
謝され(胆汁酸として)、または排除される(胆汁中に)肝臓によって認識される、大き
い円盤状の、および/または球状のHDLとの鍵となる差異の1つは、粒子の電荷である
。小さい円盤状のプレ-βHDL粒子は、負に荷電した大きい円盤状の、および/または
球状のHDL粒子よりも低い負の表面電荷を有する。より高い負の電荷が、肝臓による粒
子の認識を誘発し、従って、腎臓による粒子の異化を回避する因子の1つであると考えら
れる。さらに、腎臓は荷電した粒子を容易に吸収しないことが示されている(Hackerら、
2009、Pharmacology: Principles and Practice、183を参照されたい)。かくして、一部
、荷電したリン脂質の存在のため、本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体
および組成物は、従来のリポタンパク質複合体よりも長く循環中に留まるか、またはその
電荷は電荷依存的様式でリポタンパク質の半減期に影響すると考えられる。複合体が負の
電荷の結果として凝集し、存在するHDLと融合する速度および/または程度の低下と共
に、それらのより長い循環(滞留)時間は、コレステロール移動(コレステロールを蓄積
するより多くの時間を複合体に与えることによる)およびエステル化(LCATにエステ
ル化反応を触媒するより多くの時間を提供することによる)を容易にすると予想される。
電荷はまた、コレステロール捕捉および/または除去の速度を増加させ、それによって、
より大量のコレステロールの除去を容易にすることもできる。結果として、本明細書に記
載の負に荷電したリポタンパク質複合体および組成物は、副作用の減少と共に、投与する
のに必要な複合体および/または組成物が少なく、頻度も少ないため、従来のリポタンパ
ク質療法を超える治療的利益を提供することが期待される。
【0103】
従って、本明細書に提供される方法は一般に、治療上有効量のリポタンパク質複合体、
リポタンパク質複合体の集団、または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与して、脂
質異常障害を治療または予防することを含む。リポタンパク質複合体は、注射1回あたり
、約0.25mg/kgのApoA-I当量から約45mg/kgの範囲の用量、例えば
、約0.5mg/kg~約30mg/kgまたは約1mg/kgのApoA-I当量から
最大で約15mg/kgのApoA-I当量の用量で投与することができる。この用量は
さらに、トリグリセリド、VLDL-コレステロールおよび/またはVLDL-トリグリ
セリドのレベルの増加を最小化する用量を選択することにより、治療される個体に合わせ
ることができる。特定の実施形態においては、用量は約3mg/kg、約6mg/kg、
または約12mg/kgである。
【0104】
前記方法は、5~14日、または6~12日の範囲の間隔、例えば、1または2週間の
間隔でリポタンパク質複合体を投与することをさらに含む。前記方法は、上記の任意の間
隔で、好ましくは1週間の間隔で、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または
最大で52回、リポタンパク質複合体を投与することをさらに含んでもよい。例えば、一
実施形態においては、リポタンパク質複合体は、それぞれの投与の間に1週間の間隔で6
回投与される。慢性状態については、52回を超える投与を実行してもよい。場合により
、リポタンパク質複合体をより頻繁に投与する初期の誘導期により前記方法を進行させる
ことができる。
【0105】
複合体および/またはその医薬組成物を、非経口的に、例えば、静脈内に投与すること
ができる。静脈内投与は、約1~約24時間、または約1~4時間、約0.5~2時間、
または約1時間の期間にわたる注入として行うことができる。
【0106】
以下の実施例は、30mg/kgと45mg/kgの用量の投与後にトリグリセリドレ
ベルの少しの増加を示し、これは高い程度のコレステロール移動の結果生じるVLDLお
よびLDLの増加により説明される。これらのパラメータは、標準的な脂質パネルを用い
て病院の実験室で日常的に測定されるため、治療の間に制御することができる。以下の実
施例に基づいて、薬剤に対する患者の反応に応じたトリグリセリドおよびVLDL-コレ
ステロールおよびVLDL-トリグリセリドのレベルの増加を最小化するように用量の選
択を達成することができ、オーダーメイド医療が可能になる。
【0107】
複合体および/もしくは組成物を単独で(単剤療法として)投与するか、またはあるい
は、脂質異常症および/もしくはその関連する状態、疾患および/もしくは障害を治療お
よび/もしくは予防するのに有用な他の治療剤と共にそれらを補助的に投与することがで
きる。本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体および組成物を補助的に投与
することができる治療剤の非限定例としては、胆汁酸結合樹脂、HMG CoA還元酵素
阻害剤(スタチン)、ナイアシン、樹脂、コレステロール吸収の阻害剤、血小板凝集阻害
剤、フィブラート、抗凝固剤、CETP阻害剤(例えば、アナセトラピブおよびダルセト
ラピブ)、ならびに/またはPCSKG抗体もしくはリガンドが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
5.図面の簡単な説明
【
図1】ヒトプレプロアポリポタンパク質A-I(配列番号1;GenBank受託番号AAB59514.1)のアミノ酸配列を示す図である。太字で示すアミノ酸1~18は、ApoA-Iのシグナル配列に対応し、下線付きのアミノ酸19~24はプロペプチド配列に対応する。シグナル配列とプロペプチドは両方とも、細胞中で切断されて、完全長成熟ヒトApoA-I(アミノ酸25~267)が生成される。
【
図2】ApoA-Iを発現する組換えS-CHO細胞の12日間のフェドバッチ培養におけるApoA-I力価を示す図である。世代0から世代43までの連続継代により、細胞を連続的に培養した。逆相HPLCにより、世代4、8、14、19、25、21、36および43においてApoA-I産生をモニターした。培養培地中のApoA-Iの量は、1259mg/Lから1400mg/Lまで変化した。
【
図3A】
図3Aは、ApoA-Iを発現する組換えS-CHO細胞の200Lの13日培養における生細胞密度を示す。生細胞密度は9日目に33.20x105細胞/mLでピークに達し、92.5%の生存率であった。
図3Bは、13日培養の培養培地中のApoA-Iの濃度を示す。培養培地中のApoA-Iの濃度は、12日目に約2mg/mLでピークに達した。
【
図3B】
図3Aは、ApoA-Iを発現する組換えS-CHO細胞の200Lの13日培養における生細胞密度を示す。生細胞密度は9日目に33.20x105細胞/mLでピークに達し、92.5%の生存率であった。
図3Bは、13日培養の培養培地中のApoA-Iの濃度を示す。培養培地中のApoA-Iの濃度は、12日目に約2mg/mLでピークに達した。
【
図4】本明細書に記載の方法により精製されたApoA-IのSDSポリアクリルアミドゲルを示す図である。左手のレーンは分子量マーカーを示す。右手のレーンは、約28kDの分子量を有する精製されたApoA-Iを示す。
【
図5A】1:2.5(処方A;
図5A)、1:2.7(処方B;
図5B)、1:3.1(処方C;
図5C)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM複合体、および1:2.7(処方D;
図5D)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM/DPPC複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図5B】1:2.5(処方A;
図5A)、1:2.7(処方B;
図5B)、1:3.1(処方C;
図5C)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM複合体、および1:2.7(処方D;
図5D)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM/DPPC複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図5C】1:2.5(処方A;
図5A)、1:2.7(処方B;
図5B)、1:3.1(処方C;
図5C)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM複合体、および1:2.7(処方D;
図5D)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM/DPPC複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図5D】1:2.5(処方A;
図5A)、1:2.7(処方B;
図5B)、1:3.1(処方C;
図5C)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM複合体、および1:2.7(処方D;
図5D)のタンパク質:脂質重量比のプロApoA-I/SM/DPPC複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図6A】それぞれ、10、20、30および60分での処方Dのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図6B】それぞれ、10、20、30および60分での処方Dのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図6C】それぞれ、10、20、30および60分での処方Dのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図6D】それぞれ、10、20、30および60分での処方Dのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図7A】それぞれ、10、20、30および50分での処方Bのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図7B】それぞれ、10、20、30および50分での処方Bのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図7C】それぞれ、10、20、30および50分での処方Bのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図7D】それぞれ、10、20、30および50分での処方Bのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図8A】それぞれ、20、40、60および120分での処方Fのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図8B】それぞれ、20、40、60および120分での処方Fのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図8C】それぞれ、20、40、60および120分での処方Fのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図8D】それぞれ、20、40、60および120分での処方Fのリポタンパク質複合体のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図9】プロApoA-IおよびSM(処方B)、48:48:4のSM:DPPC:DPPG wt:wt比を有するプロApoA-I、SM、DPPCおよびDPPG(処方F)、ならびに73:23:4のSM:DPPC:DPPG wt:wt比を有するプロApoA-I、SM、DPPCおよびDPPG(処方G)を含む、1:2.7のリポタンパク質:全リン脂質wt:wt比を有するリポタンパク質複合体の形成を例示する、時間に対するプレ-βHDL複合体形成を示す図である。
【
図10A】それぞれ、処方E、H、IおよびJのHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図10B】それぞれ、処方E、H、IおよびJのHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図10C】それぞれ、処方E、H、IおよびJのHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図10D】それぞれ、処方E、H、IおよびJのHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図11】リポタンパク質複合体を作製するための例示的プロセスの概略図である。
【
図12】非商業規模の熱サイクリング実行に用いられる例示的熱サイクリング装置を示す図である。
【
図13A】増加する数の熱サイクルを用いるSM/DPPG/ApoA-Iタンパク質複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。成分を、合計30分間(
図13A)、60分間(
図13B)、120分間(
図13C)、180分間(
図13D)または210分間(
図13E)、それぞれの温度で5分間、57℃と37℃の間で熱サイクリングにかけた。
【
図13B】増加する数の熱サイクルを用いるSM/DPPG/ApoA-Iタンパク質複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。成分を、合計30分間(
図13A)、60分間(
図13B)、120分間(
図13C)、180分間(
図13D)または210分間(
図13E)、それぞれの温度で5分間、57℃と37℃の間で熱サイクリングにかけた。
【
図13C】増加する数の熱サイクルを用いるSM/DPPG/ApoA-Iタンパク質複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。成分を、合計30分間(
図13A)、60分間(
図13B)、120分間(
図13C)、180分間(
図13D)または210分間(
図13E)、それぞれの温度で5分間、57℃と37℃の間で熱サイクリングにかけた。
【
図13D】増加する数の熱サイクルを用いるSM/DPPG/ApoA-Iタンパク質複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。成分を、合計30分間(
図13A)、60分間(
図13B)、120分間(
図13C)、180分間(
図13D)または210分間(
図13E)、それぞれの温度で5分間、57℃と37℃の間で熱サイクリングにかけた。
【
図13E】増加する数の熱サイクルを用いるSM/DPPG/ApoA-Iタンパク質複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。成分を、合計30分間(
図13A)、60分間(
図13B)、120分間(
図13C)、180分間(
図13D)または210分間(
図13E)、それぞれの温度で5分間、57℃と37℃の間で熱サイクリングにかけた。
【
図14】SM/ApoA-I複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図15】N-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(植物SMまたはフィトスフィンゴミエリンの一形態)/DPPG/ApoA-I複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図16】合成パルミトイルSM/DPPG/ApoA-I複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図17】フィトスフィンゴミエリン/DPPG/ApoA-I複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図18】SM/DPPC/DPPG/ApoA-Iペプチド複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図19A】Malvern Instruments Zetasizer(Malvern Instruments Inc.)を用いる動的光散乱システムによる脂質粒子の特性評価を示す図である。
図19Aにおいて、Z平均は84.49nmである(「84nm粒子」);
図19Bにおいて、Z平均は76.76nmである(「77nm粒子」);
図19Cにおいて、Z平均は66.21nmである(「66nm粒子」);および
図19Dにおいて、Z平均は59.50nmである(「60nm粒子」)。
【
図19B】Malvern Instruments Zetasizer(Malvern Instruments Inc.)を用いる動的光散乱システムによる脂質粒子の特性評価を示す図である。
図19Aにおいて、Z平均は84.49nmである(「84nm粒子」);
図19Bにおいて、Z平均は76.76nmである(「77nm粒子」);
図19Cにおいて、Z平均は66.21nmである(「66nm粒子」);および
図19Dにおいて、Z平均は59.50nmである(「60nm粒子」)。
【
図19C】Malvern Instruments Zetasizer(Malvern Instruments Inc.)を用いる動的光散乱システムによる脂質粒子の特性評価を示す図である。
図19Aにおいて、Z平均は84.49nmである(「84nm粒子」);
図19Bにおいて、Z平均は76.76nmである(「77nm粒子」);
図19Cにおいて、Z平均は66.21nmである(「66nm粒子」);および
図19Dにおいて、Z平均は59.50nmである(「60nm粒子」)。
【
図19D】Malvern Instruments Zetasizer(Malvern Instruments Inc.)を用いる動的光散乱システムによる脂質粒子の特性評価を示す図である。
図19Aにおいて、Z平均は84.49nmである(「84nm粒子」);
図19Bにおいて、Z平均は76.76nmである(「77nm粒子」);
図19Cにおいて、Z平均は66.21nmである(「66nm粒子」);および
図19Dにおいて、Z平均は59.50nmである(「60nm粒子」)。
【
図21A】450nm(
図21A)および40nm(
図21B)の脂質粒子から出発する6回の熱サイクル後の複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図21B】450nm(
図21A)および40nm(
図21B)の脂質粒子から出発する6回の熱サイクル後の複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図である。
【
図22】65nmの脂質粒子から出発する6回の熱サイクル後の複合体のゲル浸透クロマトグラムを示す図であり、1回目のサイクルは37℃の「低温」で開始した。
【
図23】本開示の方法により製造されたリポタンパク質複合体を商業的に有用な医薬組成物に製剤化することを含む、リポタンパク質複合体を含む医薬組成物を作製するための例示的実施形態の概略図である。
【
図24】処方Bおよび処方Hに従うリポタンパク質複合体の注入後の血漿VLDL-総コレステロールレベルの増加を示す図である。処方H(■)および処方B(▼)に従うリポタンパク質複合体を、5mg/kgの用量で絶食させたウサギに注入した。3つの群に関する0.03~0.3g/Lの範囲のベースライン値を差し引いて、血漿VLDL-総コレステロールレベルの増加を決定した。
【
図25】処方Bおよび処方Hに従うリポタンパク質複合体の注入後の血漿トリグリセリドレベルの増加を示す図である。処方H(■)および処方B(▲)に従うリポタンパク質複合体を、5mg/kgの用量で絶食したウサギに注入した。3つの群に関する0.31~0.71g/Lの範囲のベースライン値を差し引いて、血漿トリグリセリドレベルの増加を決定した。
【
図26A】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgまたは20mg/kgの、およびウサギにおいては20mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●、▲)またはApoA-I/合成SM複合体(◆、▼)の注入後の血漿総コレステロール(
図26A)、トリグリセリド(
図26B)、リン脂質(
図26C)およびApoA-I(
図26D)の増加を示す図である。ベースライン値は、測定した様々な血漿脂質について、以下のような範囲であった:血漿コレステロールについては0.28~0.4g/L、血漿トリグリセリドについては0.23~0.29g/L、および血漿リン脂質については0.45~0.61g/L。
【
図26B】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgまたは20mg/kgの、およびウサギにおいては20mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●、▲)またはApoA-I/合成SM複合体(◆、▼)の注入後の血漿総コレステロール(
図26A)、トリグリセリド(
図26B)、リン脂質(
図26C)およびApoA-I(
図26D)の増加を示す図である。ベースライン値は、測定した様々な血漿脂質について、以下のような範囲であった:血漿コレステロールについては0.28~0.4g/L、血漿トリグリセリドについては0.23~0.29g/L、および血漿リン脂質については0.45~0.61g/L。
【
図26C】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgまたは20mg/kgの、およびウサギにおいては20mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●、▲)またはApoA-I/合成SM複合体(◆、▼)の注入後の血漿総コレステロール(
図26A)、トリグリセリド(
図26B)、リン脂質(
図26C)およびApoA-I(
図26D)の増加を示す図である。ベースライン値は、測定した様々な血漿脂質について、以下のような範囲であった:血漿コレステロールについては0.28~0.4g/L、血漿トリグリセリドについては0.23~0.29g/L、および血漿リン脂質については0.45~0.61g/L。
【
図26D】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgまたは20mg/kgの、およびウサギにおいては20mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●、▲)またはApoA-I/合成SM複合体(◆、▼)の注入後の血漿総コレステロール(
図26A)、トリグリセリド(
図26B)、リン脂質(
図26C)およびApoA-I(
図26D)の増加を示す図である。ベースライン値は、測定した様々な血漿脂質について、以下のような範囲であった:血漿コレステロールについては0.28~0.4g/L、血漿トリグリセリドについては0.23~0.29g/L、および血漿リン脂質については0.45~0.61g/L。
【
図27A】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●)およびApoA-I/合成SM複合体(◆)のウサギにおける注入後の血漿HDL-総コレステロール(
図27A)、LDL-総コレステロール(
図27B)、およびVLDL-総コレステロール(
図27C)の増加を示す図である。ベースライン値は以下のような範囲であった:血漿HDL-総コレステロールについては0.20~0.31g/L、血漿LDL-総コレステロールについては0.06~0.09g/L、および血漿VLDL-総コレステロールについては0.007~0.011g/L。
【
図27B】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●)およびApoA-I/合成SM複合体(◆)のウサギにおける注入後の血漿HDL-総コレステロール(
図27A)、LDL-総コレステロール(
図27B)、およびVLDL-総コレステロール(
図27C)の増加を示す図である。ベースライン値は以下のような範囲であった:血漿HDL-総コレステロールについては0.20~0.31g/L、血漿LDL-総コレステロールについては0.06~0.09g/L、および血漿VLDL-総コレステロールについては0.007~0.011g/L。
【
図27C】希釈剤(■)と比較した、5mg/kgのApoA-I/卵SM複合体(●)およびApoA-I/合成SM複合体(◆)のウサギにおける注入後の血漿HDL-総コレステロール(
図27A)、LDL-総コレステロール(
図27B)、およびVLDL-総コレステロール(
図27C)の増加を示す図である。ベースライン値は以下のような範囲であった:血漿HDL-総コレステロールについては0.20~0.31g/L、血漿LDL-総コレステロールについては0.06~0.09g/L、および血漿VLDL-総コレステロールについては0.007~0.011g/L。
【発明を実施するための形態】
【0109】
6.詳細な説明
本開示は、リポタンパク質複合体を作製する方法と共に、リポタンパク質複合体、そ
の集団を提供する。この複合体、ならびにその集団および組成物(例えば、医薬組成物)
は、特に、脂質異常症ならびに/または脂質異常症と関連する疾患、障害および/もしく
は状態の治療および/または予防にとって有用である。発明の概要の節で考察された通り
、リポタンパク質複合体は、好ましくは、規定の重量比またはモル比の2つの主要な画分
、アポリポタンパク質画分およびリン脂質画分を含み、好ましくは、特定の量の中性リン
脂質および場合により、1つまたは複数の負に荷電したリン脂質を含む。
【0110】
6.1.タンパク質画分
本開示は、タンパク質画分を含むリポタンパク質複合体を提供する。本開示は、リポタ
ンパク質複合体を作製する方法をさらに提供する。リポタンパク質複合体のタンパク質成
分は、本発明の方法における成功にとって重要ではない。治療的および/または予防的利
益を提供する、実質的に任意の脂質結合タンパク質、例えば、アポリポタンパク質および
/またはその誘導体もしくは類似体を、複合体中に含有させることができる。さらに、ア
ポリポタンパク質(例えば、ApoA-Iなど)がLCATを活性化するか、または脂質
と結合した場合に円盤状粒子を形成することができるという点で、その活性を「模倣」す
る任意のα-へリックスペプチドもしくはペプチド類似体、または任意の他の型の分子を
、リポタンパク質複合体中に含有させることができ、用語「脂質結合タンパク質」により
包含される。
【0111】
6.1.1.脂質結合タンパク質
本開示は、例えば、リポタンパク質複合体を作製するのに用いるための、組換え産生さ
れたタンパク質を精製する方法をさらに提供する。組換え産生されたタンパク質は、最も
好適にはアポリポタンパク質である。好適なタンパク質としては、好ましくは成熟形態の
、アポリポタンパク質ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-Vお
よびApoEが挙げられる。脂質結合タンパク質もまた、活性な多型、アイソフォーム、
変異体および突然変異体ならびにトランケートされた形態の前記アポリポタンパク質であ
り、最も一般的にはアポリポタンパク質A-IMilano(ApoA-IM)、アポリ
ポタンパク質A-IParis(ApoA-IP)およびアポリポタンパク質A-IZa
ragoza(ApoA-IZ)である。システイン残基を含有するアポリポタンパク質
突然変異体も公知であり、用いることもできる(例えば、米国特許出願公開第2003/
0181372号を参照されたい)。アポリポタンパク質は、単量体または二量体の形態
にあってよく、二量体はホモ二量体またはヘテロ二量体であってもよい。例えば、Apo
A-I(Duvergerら、1996、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 16(12): 1424-29)、
ApoA-IM(Franceschiniら、1985、J. Biol. Chem. 260: 1632-35)、ApoA-
IP(Daumら、1999、J. Mol. Med. 77:614-22)、ApoA-II(Shelnessら、1985、
J. Biol. Chem. 260(14):8637-46; Shelnessら、1984、J. Biol. Chem. 259(15):9929-35
)、ApoA-IV(Duvergerら、1991、Euro. J. Biochem. 201(2):373-83)、Apo
E(McLeanら、1983、J. Biol. Chem. 258(14):8993-9000)、ApoJおよびApoHの
ホモおよびヘテロ二量体(実現可能である場合)を用いることができる。アポリポタンパ
ク質は、アポリポタンパク質が複合体中に含まれた場合にいくらかの生物活性を保持する
限り、Hisタグなどのその単離を容易にするエレメント、または他の目的のために設計
された他のエレメントに対応する残基を含んでもよい。
【0112】
そのようなアポリポタンパク質を、動物起源(および特に、ヒト起源)から精製するか
、または当技術分野で周知であるように組換え産生することができる。例えば、Chungら
、1980、J. Lipid Res. 21(3):284-91;Cheungら、1987、J. Lipid Res. 28(8):913-29を
参照されたい。また、米国特許第5,059,528号、第5,128,318号、第6
,617,134号;米国特許出願公開第20002/0156007号、第2004/
0067873号、第2004/0077541号、および第2004/0266660
号;ならびにPCT出願公開第WO/2008/104890号および第WO/2007
/023476号も参照されたい。例えば、以下の第6.1.3節および第6.1.4節
に記載のような、他の精製方法も可能である。
【0113】
アポリポタンパク質に対応するペプチドおよびペプチド類似体、ならびに本明細書に記
載の複合体および組成物中のアポリポタンパク質としての使用にとって好適であるApo
A-I、ApoA-IM、ApoA-II、ApoA-IVおよびApoEの活性を模倣
するアゴニストの非限定例は、米国特許第6,004,925号、第6,037,323
号および第6,046,166号(Dasseuxらに対して発行された)、米国特許第5,8
40,688号(Tsoに対して発行された)、米国特許出願公開第2004/02666
71号、第2004/0254120号、第2003/0171277号および第200
3/0045460号(Fogelmanに対して)、米国特許出願公開第2003/00878
19号(Bielickiに対して)ならびにPCT出願公開第WO/2010/093918号
(Dasseuxらに対して)に開示されており、それらの開示はその全体が参照により本明細
書に組み込まれる。これらのペプチドおよびペプチド類似体は、L-アミノ酸またはD-
アミノ酸またはL-およびD-アミノ酸の混合物から構成されていてもよい。それらはま
た、1つまたは複数の周知のペプチド/アミドイソスターなどの、1つまたは複数の非ペ
プチドまたはアミド結合を含んでもよい。そのような「ペプチドおよび/またはペプチド
模倣性」アポリポタンパク質を、例えば、米国特許第6,004,925号、第6,03
7,323号および第6,046,166号に記載の技術などの、当技術分野で公知のペ
プチド合成のための任意の技術を用いて合成または製造することができる。
【0114】
複合体は、同じか、または異なる種から誘導することができる、単一の型の脂質結合タ
ンパク質、または2つ以上の異なる脂質結合タンパク質の混合物を含んでもよい。必要で
はないが、療法に対する免疫応答を誘導するのを回避するために、リポタンパク質複合体
は、好ましくは、治療される動物種から誘導されるか、またはアミノ酸配列において治療
される動物種に対応する脂質結合タンパク質を含む。かくして、ヒト患者の治療のために
は、ヒト起源の脂質結合タンパク質が、本開示の複合体中で好ましく用いられる。ペプチ
ド模倣性アポリポタンパク質の使用もまた、免疫応答を減少させるか、または回避するこ
とができる。
【0115】
特定の好ましい実施形態においては、脂質結合タンパク質は、成熟ヒトApoA-Iタ
ンパク質に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク
質、例えば、配列番号1の25~267位に対応するアミノ酸配列を有するタンパク質で
ある。特定の実施形態においては、成熟ヒトApoA-Iタンパク質は、配列番号1の2
5~267位に対して少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または
少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態にお
いては、成熟ヒトApoA-Iタンパク質は、1位(すなわち、配列番号1の25位に対
応する位置)にアスパラギン酸を有するアミノ酸配列を有する。特定の実施形態において
は、成熟ヒトApoA-Iタンパク質は、配列番号1の25~267位に対応するアミノ
酸配列を有する。好ましい実施形態においては、ApoA-Iタンパク質は、哺乳動物宿
主細胞、最も好ましくは、以下の小節に記載のチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」
)細胞中で組換え産生される。
【0116】
6.1.2.アポリポタンパク質の組換え発現
本開示は、ApoA-Iなどの脂質結合タンパク質を製造するための組換え発現方法、
および関連する核酸、哺乳動物宿主細胞、細胞培養物を提供する。得られる組換え脂質結
合タンパク質を精製し、および/または本明細書に記載のリポタンパク質複合体中に組み
込むことができる。
【0117】
一般に、組換え産生のためには、脂質結合タンパク質またはペプチドをコードするポリ
ヌクレオチド配列を、好適な発現ビヒクル、すなわち、挿入されるコード配列の転写およ
び翻訳のための必要なエレメント、またはRNAウイルスベクターの場合、複製および翻
訳のための必要なエレメントを含有するベクター中に挿入する。発現ベクターは、アデノ
ウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルスまたはレンチウイル
スなどのウイルスから誘導することができる。次いで、発現ビヒクルを、タンパク質また
はペプチドを発現する好適な標的細胞中にトランスフェクトする。好適な宿主細胞として
は、限定されるものではないが、細菌種、バキュロウイルス系などの哺乳動物または昆虫
宿主細胞系(例えば、Luckowら、Bio/Technology、6、47 (1988)を参照されたい)、およ
び確立された細胞系、例えば、293、COS-7、C127、3T3、CHO、HeL
a、BHKなどが挙げられる。次いで、用いられる発現系に応じて、発現されるペプチド
を当技術分野でよく確立された手順により単離する。組換えタンパク質およびペプチド産
生のための方法は、当技術分野で周知である(例えば、Sambrookら、1989、Molecular Cl
oning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、N.Y.;およびAusubelら
、1989、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates and
Wiley Interscience、N.Y.(それぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれる)
を参照されたい)。
【0118】
ApoA-Iが脂質結合タンパク質である場合、ApoA-Iタンパク質はApoA-
Iをコードする組換えヌクレオチド配列から発現される。いくつかの実施形態においては
、ApoA-Iをコードするヌクレオチド配列はヒトである。ヒトApoA-Iヌクレオ
チド配列の非限定例は、米国特許第5,876,968号;第5,643,757号;お
よび第5,990,081号、ならびにWO96/37608に開示されており、その開
示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態においては、ヌクレ
オチド配列は、好ましくは、宿主細胞からのApoA-Iの分泌のためのシグナル配列(
例えば、配列番号1のアミノ酸1~18)および/またはプロタンパク質配列(例えば、
配列番号1のアミノ酸19~25)に機能し得る形で連結された、成熟ApoA-Iタン
パク質のアミノ酸配列をコードする。ApoA-Iの分泌を指令するのに好適な他のシグ
ナル配列は、ApoA-Iにとって異種であってもよく、例えば、ヒトアルブミンシグナ
ルペプチドもしくはヒトIL-2シグナルペプチドであってもよく、またはApoA-I
と同種であってもよい。
【0119】
好ましくは、ヌクレオチド配列は、成熟ヒトApoA-Iポリペプチド、例えば、配列
番号1の25~267位に対応するアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも96%
、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列
を有するポリペプチドをコードし、場合により、そのアミノ酸配列は25位にアスパラギ
ン酸を含む。好ましい実施形態においては、ヌクレオチド配列は、配列番号1のアミノ酸
配列を有するポリペプチドをコードする。ヌクレオチド配列はまた、GenBank受託
番号NP_000030、AAB59514、P02647、CAA30377、AAA
51746またはAAH05380.1の1つに記載のヒトApoA-Iタンパク質のア
ミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98
%または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしても
よく、場合により、成熟ヒトApoA-Iタンパク質の1番目のアミノ酸に対応する位置
にアスパラギン酸を含む。
【0120】
ApoA-Iをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞中での発現のためにコ
ドン最適化することができる。好ましい宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞、例えば、限定さ
れるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣細胞(例えば、CHO-K1;ATC
C番号CCL61;CHO-S(GIBCO Life Technologies I
nc.,Rockville、MD、カタログ番号11619012))、VERO細胞
、BHK(ATCC番号CRL1632)、BHK570(ATCC番号CRL1031
4)、HeLa細胞、COS-1(ATCC番号CRL1650)、COS-7(ATC
C番号CRL1651)、MDCK細胞、293細胞(ATCC番号CRL1573;Gr
ahamら、J. Gen. Virol. 36:59-72、1977)、3T3細胞、ミエローマ細胞(特に、マウ
ス)、PC12細胞およびW138細胞である。特定の実施形態においては、CHO-S
細胞(Invitrogen(商標)、Carlsbad CA)などの哺乳動物細胞を
、無血清培地中での増殖のために適合させる。さらなる好適な細胞系が当技術分野で公知
であり、American Type Culture Collection、Man
assas、Vaなどの公共預託機関から入手可能である。
【0121】
ApoA-Iの組換え発現のために、ApoA-Iをコードするポリヌクレオチドを、
1つまたは複数の制御配列、例えば、対象の宿主細胞中でのApoA-Iの発現を調節す
るプロモーターまたはターミネーターに機能し得る形で連結する。制御配列は、ApoA
-Iをコードする配列にとって天然のものであるか、または外来のものであってもよく、
また、ApoA-Iが発現される宿主細胞にとって天然のものであるか、または外来のも
のであってよい。制御配列としては、限定されるものではないが、プロモーター、リボソ
ーム結合部位、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、シグナルペプチド配
列、および転写ターミネーターが挙げられる。いくつかの実施形態においては、制御配列
は、プロモーター、リボソーム結合部位、ならびに転写および翻訳停止シグナルを含む。
また、制御配列は、制御配列と、ApoA-Iをコードするヌクレオチド配列のコード領
域とのライゲーションを容易にする特定の制限部位を導入するための1つまたは複数のリ
ンカーを含んでもよい。
【0122】
ApoA-Iの組換え発現を駆動するプロモーターは、構成的プロモーター、調節プロ
モーター、または誘導性プロモーターであってよい。好適なプロモーター配列を、宿主細
胞に対して内因性であるか、または異種である細胞外または細胞内ポリペプチドをコード
する遺伝子から取得することができる。様々な強度のプロモーターの単離、同定および操
作のための方法が当技術分野で利用可能であるか、または当技術分野から容易に適合させ
ることができる。例えば、Nevoigtら(2006) Appl. Environ. Microbiol. 72:5266-5273(
その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0123】
1つまたは複数の制御配列を、ウイルス起源から誘導することができる。例えば、特定
の態様においては、プロモーターはポリオーマまたはアデノウイルス主要後期プロモータ
ーから誘導される。他の態様においては、プロモーターは、SV40のウイルス複製起点
も含有する断片として取得することができるサルウイルス40(SV40)(Fiersら、1
978、Nature、273: 113-120)、またはサイトメガロウイルスから誘導され、例えば、サ
ルサイトメガロウイルス極初期プロモーターである(米国特許第4,956,288号を
参照されたい)。他の好適なプロモーターとしては、メタロチオネイン遺伝子に由来する
ものが挙げられる(米国特許第4,579,821号および第4,601,978号を参
照されたい)。
【0124】
また、組換えApoA-I発現ベクターも本明細書で提供される。組換え発現ベクター
は、組換え宿主細胞中での異種ApoA-Iの発現を容易にするための組換えDNA技術
により操作することができる任意のベクター、例えば、プラスミドまたはウイルスであっ
てよい。発現ベクターは、組換え宿主細胞の染色体中に組み込むことができ、ApoA-
Iの産生にとって有用な1つまたは複数の制御配列に機能し得る形で連結された1つまた
は複数の異種遺伝子を含む。他の実施形態においては、発現ベクターは、染色体外複製D
NA分子、例えば、低コピー数(例えば、ゲノム当量あたり約1~約10コピー)または
高コピー数(例えば、ゲノム当量あたり約10コピーを超える)のいずれかで見い出され
る線状または閉環状プラスミドである。様々な実施形態において、発現ベクターは、該ベ
クターを含む組換え宿主生物に対して抗生物質耐性(例えば、アンピシリン、カナマイシ
ン、クロラムフェニコールまたはテトラサイクリン耐性)を付与する遺伝子などの、選択
可能なマーカーを含む。特定の態様においては、DNA構築物、ベクターおよびポリヌク
レオチドは、哺乳動物細胞中でのApoA-Iの発現にとって好適である。哺乳動物細胞
中でのApoA-Iの発現のためのベクターは、宿主細胞系と適合する複製起点、プロモ
ーターおよび任意の必要なリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化
部位、ならびに転写ターミネーター配列を含んでもよい。いくつかの態様においては、複
製起点は宿主細胞に対して異種であり、例えば、ウイルス起源のものである(例えば、S
V40、ポリオーマ、アデノ、VSV、BPV)。他の態様においては、複製起点は、宿
主細胞染色体複製機構により提供される。
【0125】
哺乳動物宿主細胞に外来DNAを導入するための方法、試薬および道具は当技術分野で
公知であり、限定されるものではないが、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクション
(Wiglerら、1978、Cell 14:725; Corsaroら、1981、Somatic Cell Genetics 7:603; Gra
hamら、1973、Virology 52:456)、エレクトロポレーション(Neumannら、1982、EMBO J.
1 : 841-5)、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション(Ausubelら(編)
、Short Protocols in Molecular Biology、第3版(John Wiley & Sons 1995))、および
リポソーム媒介性トランスフェクション(Hawley-Nelsonら、1993、Focus 15:73; Ciccar
oneら、1993、Focus 15:80)が挙げられる。
【0126】
高収率産生のためには、ApoA-Iの安定な発現が好ましい。例えば、宿主細胞に外
来DNAを導入した後、宿主細胞を富化培地中で1~2日間増殖させた後、選択培地に切
り替えることができる。ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを用いるよりもむしろ
、宿主細胞を、好適な発現制御エレメントおよび選択可能なマーカーにより制御されるA
poA-Iコード配列を含むヌクレオチド配列を含むベクターで形質転換することができ
る。ベクター中の選択可能なマーカーは、選択に対する耐性を付与し、細胞がその染色体
中にベクターを安定に組み込み、増殖巣を形成するように増殖し、次いで、クローニング
し、細胞系中で増殖させることができる。いくつかの選択系を用いることができ、限定さ
れるものではないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら、1977、Cell 1
1 : 223)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska &
Szybalski、1962、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48: 2026)、およびアデニンホスホリ
ボシルトランスフェラーゼ(Lowyら、1980、Cell 22: 817)遺伝子を、それぞれtk-、
hgprt-またはaprt-細胞中で用いることができる。また、例えば、メトトレキ
サートに対する耐性を付与するdhfr(Wiglerら、1980、Natl. Acad. Sci. USA 77: 3
567;O'Hareら、1981、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527);ミコフェノール酸に対
する耐性を付与するgpt(Mulligan & Berg、1981、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:
2072);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Colberre-Garapin
ら、1981、J. Mol. Biol. 150: 1);および/またはヒグロマイシンに対する耐性を付与
するhyg(Santerreら、1984、Gene 30: 147)を用いることにより、選択の基礎として
代謝拮抗物質耐性を用いることができる。
【0127】
宿主細胞ゲノム中に組み込まれるレトロウイルスベクターを用いて、安定な高収率の発
現を達成することもできる(例えば、米国特許出願公開第2008/0286779号お
よび第2004/0235173号を参照されたい)。あるいは、例えば、WO1994
/012650に記載のような、選択された哺乳動物細胞のゲノムDNA中の内因性Ap
oA-I遺伝子の発現を活性化し、それを増幅することを必要とする、遺伝子活性化方法
により、ApoA-Iの安定な高収率の発現を達成することができる。ApoA-I遺伝
子(ApoA-Iコード配列および1つまたは複数の制御エレメントを含有する)のコピ
ー数の増加は、ApoA-Iの高収率発現を容易にすることができる。好ましくは、Ap
oA-Iが発現される哺乳動物宿主細胞は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4
、または少なくとも5のApoA-I遺伝子コピー指数を有する。特定の実施形態におい
ては、ApoA-Iが発現される哺乳動物宿主細胞は、少なくとも6、少なくとも7、少
なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10のApoA-I遺伝子コピー指数を有
する。
【0128】
特定の実施形態においては、哺乳動物細胞を、少なくとも0.5g/L、少なくとも1
g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少な
くとも3g/L、少なくとも3.5g/L、および場合により、最大で4g/L、最大で
4.5g/L、最大で5g/L、最大で5.5g/L、または最大で6g/Lの量のAp
oA-Iを産生するように適合させる。哺乳動物宿主細胞は、好ましくは、培養物中に少
なくとも約0.5、1、2もしくは3g/LのApoA-Iおよび/または培養物中に最
大で約20g/LのApoA-I、例えば、培養物中に最大で4、5、6、7、8、9、
10、12または15g/LのApoA-Iを産生することができる。
【0129】
特定の実施形態においては、哺乳動物細胞を、無血清培地中での増殖のために適合させ
る。これらの実施形態においては、ApoA-Iは細胞から分泌される。他の実施形態に
おいては、ApoA-Iは細胞から分泌されない。
【0130】
本明細書で提供される哺乳動物宿主細胞を用いて、ApoA-Iを産生させることがで
きる。一般に、前記方法は、ApoA-Iが発現される条件下で本明細書に記載の哺乳動
物宿主細胞を培養することを含む。さらに、前記方法は、哺乳動物細胞培養物の上清から
成熟ApoA-Iを回収し、場合により精製することを含んでもよい。
【0131】
培養培地、温度、pHなどの培養条件を、培養される哺乳動物宿主細胞および選択され
る培養の様式(振とうフラスコ、バイオリアクタ、ローラーボトルなど)に適合させるこ
とができる。哺乳動物細胞を、大規模バッチ培養、連続または半連続培養中で増殖させる
ことができる。
【0132】
また、本明細書に記載の複数のApoA-Iを産生する哺乳動物宿主細胞を含む哺乳動
物細胞培養物も本明細書に提供される。いくつかの実施形態においては、哺乳動物細胞培
養物は、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少な
くとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少なくとも3g/L、少なくとも3.5g/
L、および場合により、最大で4g/L、最大で4.5g/L、最大で5g/L、最大で
5.5g/L、または最大で6g/LのApoA-Iを含む。培養物は、約150mL~
約500mLの範囲、1L、10L、15L、50L、100L、200L、250L、
300L、350L、400L、500L、750L、1000L、1500L、200
0L、2500L、3000L、5000L、7500L、10000L、15000L
、20000L、25000L、50000L以上の任意の規模のものであってよい。い
くつかの例においては、培養物は、大規模培養物、例えば、15L、20L、25L、3
0L、50L、100L、200L、300L、500L、1000L、5000L、1
0000L、15000L、20000L、25000L、最大で50000L以上であ
る。
【0133】
6.1.3.アポリポタンパク質の精製
本開示は、本明細書に記載のリポタンパク質複合体およびその組成物を作製するのに有
用である、高度に精製されたアポリポタンパク質を取得する方法に関する。この方法は、
限定されるものではないが、ApoA-I、-II、-IIIまたは-IV;ApoB4
8およびApoB100;ApoC-I、-II、-IIIまたは-IV;ApoD;A
poE、ApoH;ApoJなどの任意のアポリポタンパク質に適用することができる。
より具体的には、本開示は、高度に精製されたApoA-Iを取得する方法に関する。い
くつかの実施形態においては、ApoA-Iは、限定されるものではないが、Genba
nk受託番号NP_000030、AAB59514、P02647、CAA30377
、AAA51746およびAAH05380.1に記載の配列から選択される配列を有す
るヒトタンパク質である。特定の実施形態においては、ApoA-Iは、第6.1.2節
で上記されたヒトタンパク質である。他の実施形態においては、本開示の方法を用いて、
非ヒト動物(例えば、米国特許出願公開第2004/0077541号)、例えば、ウシ
、ウマ、ヒツジ、サル、ヒヒ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ハリネズミ、アナグマ、マウス、ラ
ット、ネコ、モルモット、ハムスター、アヒル、ニワトリ、サケおよびウナギ(Brouille
tteら、2001、Biochim. Biophys. Acta. 1531 :4-46;Yuら、1991、Cell Struct. Funct.
16(4):347-55;ChenおよびAlbers、1983、Biochim Biophys Acta. 753(l):40-6;Luoら
、1989、J Lipid Res. 30(11): 1735-46;Blatonら、1977、Biochemistry 16:2157-63;S
parrowら、1995、J Lipid Res. 36(3):485-95;Beaubatieら、1986、J. Lipid Res. 27:
140-49;Januzziら、1992、Genomics 14(4): 1081-8;GoulinetおよびChapman、1993、J.
Lipid Res. 34(6):943-59; Colletら、1997、J Lipid Res. 38(4):634-44;ならびにFra
nkおよびMarcel、2000、J. Lipid Res. 41(6):853-72)から得られるApoA-Iを精製
することができる。
【0134】
本明細書に開示される方法により精製することができるApoA-Iタンパク質の例と
しては、限定されるものではないが、プレプロアポリポタンパク質形態のApoA-I、
プロおよび成熟形態のApoA-I、および活性な多型体、アイソフォーム、変異体およ
び突然変異体ならびにトランケートされた形態、例えば、ApoA-IM、ApoA-I
Z、およびApoA-IPが挙げられる。ApoA-IMは、ApoA-IのR173C
分子変異体である(例えば、Paroliniら、2003、J Biol Chem. 278(7):4740-6;Calabres
iら、1999、Biochemistry 38: 16307-14;およびCalabresiら、1997、Biochemistry 36:
12428-33を参照されたい)。ApoA-IPは、ApoA-IのR151C分子変異体で
ある(例えば、Daumら、1999、J Mol Med. 77(8):614-22を参照されたい)。ApoA-I
Zは、ApoA-IのL144R分子変異体である(Recaldeら、2001、Atherosclerosis
154(3):613-623;Fiddymentら、2011、Protein Expr. Purif. 80(1): 110-116を参照さ
れたい)。システイン残基を含有するアポリポタンパク質A-I突然変異体も公知であり
、本明細書に記載の方法により精製することもできる(例えば、米国特許出願公開第20
03/0181372号を参照されたい)。本明細書に記載の方法における使用のための
ApoA-Iは、単量体、ホモ二量体、またはヘテロ二量体の形態にあってもよい。例え
ば、調製することができるプロおよび成熟ApoA-Iのホモおよびヘテロ二量体として
は、特に、ApoA-I(Duvergerら、1996、Arterioscler Thromb Vasc Biol. 16(12):
1424-29)、ApoA-IM(Franceschiniら、1985、J Biol Chem. 260: 1632-35)、
およびApoA-IP(Daumら、1999、J Mol Med. 77:614-22)が挙げられる。
【0135】
本明細書に記載の精製方法は、当業者にとって都合の良い任意の規模で実施することが
できる。
【0136】
いくつかの態様においては、本明細書に記載の方法により精製することができるApo
A-Iタンパク質は、配列番号1のアミノ酸25~267と少なくとも75%同一、少な
くとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同
一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも
95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少
なくとも99%同一または少なくとも100%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0137】
アポリポタンパク質は、血漿などの任意の供給源に由来するか、または原核もしくは真
核細胞中での組換え発現に由来するものであってよい。特定の実施形態においては、アポ
リポタンパク質は、ApoA-I、例えば、ヒトApoA-Iである。いくつかの態様に
おいては、ApoA-Iは、原核または真核宿主細胞の細胞質またはペリプラズム中に発
現される。これらの実施形態においては、細胞を破壊して、ApoA-Iを上清中に放出
した後、ApoA-Iを精製する。細胞破壊方法は当技術分野で周知である。細胞を破壊
する例示的方法としては、限定されるものではないが、酵素的方法、超音波、洗剤方法、
および機械的方法が挙げられる。特定の好ましい態様においては、ApoA-Iは哺乳動
物細胞、好ましくはCHO細胞中で発現され、増殖培地中に分泌される。これらの実施形
態においては、ApoA-Iは清澄化された無細胞培地から精製される。精製方法はヒト
ApoA-Iと関連して本明細書に詳述されるが、当業者によって容易に確認できる特定
のタンパク質特性(例えば、分子量、等電点、ストークス半径、疎水性、多量体状態など
)に応じて、精製条件を他のアポリポタンパク質、ならびに非ヒトApoA-I、Apo
A-Iの多型体、アイソフォーム、変異体、突然変異体およびトランケートされた形態ま
たは他のアポリポタンパク質に適合させることは当技術分野における技術の範囲内にある
ことが理解される。
【0138】
ApoA-Iを血漿から調製する場合、限定されるものではないが、Cohnら、1946、J.
Am. Chem. Soc. 68:459-475(「Cohnプロセス」)またはOncleyら、1949、J. Am. C
hem. Soc. 71 :541-550(「Cohn-Oncleyプロセス」)により記載されたもの
などの低温分画プロセスなどの任意の公知の方法により、ApoA-Iを血漿から分離す
ることができる。血漿からアポリポタンパク質を単離するための他の方法としては、Ki
stler-Nitschmannプロセスなどの、CohnおよびCohn-Oncl
eyプロセスの変法が挙げられる(Nitschmannら、1954、Helv. Chim. Acta 37:866-873
;Kistlerら、1962、Vox Sang. 7:414-424を参照されたい)。
【0139】
これらの実施形態においては、アポリポタンパク質は、低温アルコール、例えば、エタ
ノールを用いた血漿からの沈降により得られる。血漿の低温分画における使用のための他
のアルコールとしては、C1~C6直鎖または分枝鎖アルコール、例えば、メタノール、
n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタ
ノール、およびtert-ブタノールが挙げられる。様々な実施形態において、タンパク
質の溶解度を低下させるアルコール以外の薬剤を用いて、血漿からアポリポタンパク質を
沈降させることができる。そのような薬剤としては、限定されるものではないが、エーテ
ル、硫酸アンモニウム、7-エトキシアクリジン-3,9-ジアミン(リバノール)およ
びポリエチレングリコールが挙げられる。沈降したタンパク質を、限定されるものではな
いが、沈殿、遠心分離および濾過などの当技術分野で公知の任意の方法により上清から分
離することができる。
【0140】
タンパク質を含有する血漿のいずれかの画分から、ApoA-Iを回収することができ
る。いくつかの実施形態においては、約8%(w/w)エタノールを用いる沈降によりフ
ィブリノゲンの量を減少させたヒト血漿の血清画分からApoA-Iを回収する。他の実
施形態においては、約25%(w/w)エタノールを用いる沈降により他の血清タンパク
質(例えば、β-グロブリンおよびγ-ガンマグロブリン)の濃度を低下させたヒト血漿
の血清画分からアポリポタンパク質を回収する。さらに他の実施形態においては、エタノ
ール濃度を約38%(w/w)から約42%(w/w)まで増加させることにより得られ
たヒト血清から、沈降物としてアポリポタンパク質を回収する。特定の実施形態において
は、エタノール濃度を約40%(w/w)まで増加させることにより得られたヒト血清か
ら、沈降物としてアポリポタンパク質を回収する(Cohnの画分IV)。限定されるも
のではないが、遠心分離および濾過などの当技術分野で公知の任意の方法により、沈降し
たApoA-Iを血清画分から回収することができる。
【0141】
いくつかの実施形態においては、アポリポタンパク質が回収される血漿画分の温度は、
タンパク質の変性を防止するように十分に低いものである。これらの実施形態においては
、ApoA-I画分の温度は、約-10℃~約0℃、例えば、約-8℃~約-2℃の範囲
である。様々な実施形態において、ApoA-Iが回収される血漿画分のpHは、タンパ
ク質の変性を防止する範囲にある。これらの実施形態においては、ApoA-Iを含有す
る画分のpHは、約5~約7、例えば、約5.5~約6.5の範囲である。
【0142】
6.1.4.改良されたリポタンパク質精製プロセス
本出願人は、成熟し、無傷であり、汚染物質を実質的に含まないリポタンパク質を生成
する、以下に記載され、実施例に例示される改良された精製プロセスをさらに発見した。
本明細書に記載の精製方法は、当業者にとって都合の良い任意の規模で実施することがで
きる。
【0143】
前記方法は、限定されるものではないが、ApoA-I、-II、-IIIまたは-I
V;ApoB48およびApoB100;ApoC-I、-II、-IIIまたは-IV
;ApoD;ApoE;ApoH;ApoJなどの任意のアポリポタンパク質に適用する
ことができる。より具体的には、本開示は、高度に精製されたApoA-Iを取得する方
法に関する。いくつかの実施形態においては、ApoA-Iは、限定されるものではない
が、Genbank受託番号NP_000030、AAB59514、P02647、C
AA30377、AAA51746およびAAH05380.1に記載の配列から選択さ
れる配列を有するヒトタンパク質である。特定の実施形態においては、ApoA-Iは、
第6.1.2節で上記されたヒトタンパク質である。他の実施形態においては、本開示の
方法を用いて、非ヒト動物(例えば、米国特許出願公開第2004/0077541号を
参照されたい)、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒヒ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ハリ
ネズミ、アナグマ、マウス、ラット、ネコ、モルモット、ハムスター、アヒル、ニワトリ
、サケおよびウナギ(Brouilletteら、2001、Biochim. Biophys. Acta. 1531 :4-46;Yu
ら、1991、Cell Struct. Funct. 16(4):347-55;ChenおよびAlbers、1983、Biochim Biop
hys Acta. 753(l):40-6;Luoら、1989、J Lipid Res. 30(11): 1735-46;Blatonら、1977
、Biochemistry 16:2157-63;Sparrowら、1995、J Lipid Res. 36(3):485-95;Beaubatie
ら、1986、J. Lipid Res. 27: 140-49;Januzziら、1992、Genomics 14(4): 1081-8;Gou
linetおよびChapman、1993、J. Lipid Res. 34(6):943-59; Colletら、1997、J Lipid Re
s. 38(4):634-44;ならびにFrankおよびMarcel、2000、J. Lipid Res. 41(6):853-72)か
ら得られたApoA-Iを精製することができる。
【0144】
本明細書に開示される方法により精製することができるApoA-Iタンパク質の例と
しては、限定されるものではないが、プレプロアポリポタンパク質形態のApoA-I、
プロおよび成熟形態のApoA-I、および活性な多型体、アイソフォーム、変異体およ
び突然変異体ならびにトランケートされた形態、例えば、ApoA-IM、ApoA-I
ZおよびApoA-IPが挙げられる。システイン残基を含有するアポリポタンパク質A
-I突然変異体も公知であり、本明細書に記載の方法により精製することもできる(例え
ば、米国特許出願公開第2003/0181372号を参照されたい)。本明細書に記載
の方法における使用のためのApoA-Iは、単量体、ホモ二量体、またはヘテロ二量体
の形態にあってもよい。例えば、調製することができるプロおよび成熟ApoA-Iのホ
モおよびヘテロ二量体としては、特に、ApoA-I(Duvergerら、1996、Arterioscler
Thromb Vasc Biol. 16(12): 1424-29)、ApoA-IM(Franceschiniら、1985、J Bio
l Chem. 260: 1632-35)、およびApoA-IP(Daumら、1999、J Mol Med. 77:614-22
)が挙げられる。
【0145】
いくつかの態様においては、本明細書に記載の方法により精製することができるApo
A-Iタンパク質は、配列番号1のアミノ酸25~267と少なくとも75%同一、少な
くとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同
一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも
95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少
なくとも99%同一または少なくとも100%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0146】
アポリポタンパク質は、血漿または原核もしくは真核細胞中での組換え発現などの任意
の起源に由来するものであってよい。特定の実施形態においては、アポリポタンパク質は
、ApoA-I、例えば、ヒトApoA-Iである。いくつかの態様においては、Apo
A-Iは、原核または真核宿主細胞の細胞質またはペリプラズム中で発現される。これら
の実施形態においては、細胞を破壊してApoA-Iを上清中に放出させた後、ApoA
-Iを精製する。細胞破壊方法は当技術分野で周知である。細胞を破壊する例示的方法と
しては、限定されるものではないが、酵素的方法、超音波、洗剤方法、および機械的方法
が挙げられる。特定の好ましい態様においては、ApoA-Iは哺乳動物細胞、好ましく
はCHO細胞中で発現され、増殖培地中に分泌される。これらの実施形態においては、A
poA-Iを清澄化された無細胞培地から精製する。精製方法はヒトApoA-Iに関連
して本明細書で詳細に説明されているが、当業者によって容易に確認できる特定のタンパ
ク質特性(例えば、分子量、等電点、ストークス半径、疎水性、多量体状態など)に応じ
て、精製条件を他のアポリポタンパク質、ならびに非ヒトApoA-I、ApoA-Iの
多型体、アイソフォーム、変異体、突然変異体およびトランケートされた形態または他の
アポリポタンパク質に適合させることは当技術分野における技術の範囲内にあることが理
解される。
【0147】
一般に、精製方法は、(a)ApoA-I含有溶液と、陰イオン交換マトリックスとを
、ApoA-Iがマトリックスに結合しない条件下で接触させるステップ;(b)ウイル
スまたはウイルス粒子を除去するのに十分な孔径を有する膜を通して、ステップ(a)で
得られたApoA-I含有溶液を濾過するステップ;(c)ApoA-Iがマトリックス
に結合するような条件下で、ステップ(b)で得られた濾液を第1の逆相クロマトグラフ
ィーカラムに通過させるステップ;(d)増加する濃度の有機溶媒の勾配を用いて、第1
の逆相クロマトグラフィーマトリックスから、第1のApoA-I含有逆相溶出液を溶出
させるステップ;(e)ApoA-Iがマトリックスに結合するような条件下で、ステッ
プ(d)に由来する第1のApoA-I逆相溶出液を第2の逆相クロマトグラフィーカラ
ムに通過させるステップ;および(f)増加する濃度の有機溶媒の勾配を用いて、第2の
逆相クロマトグラフィーマトリックスから、第2のApoA-I含有逆相溶出液を溶出さ
せるステップを含む。前記ステップを実施する順序は重要ではない。当業者には明らかな
通り、前記ステップの順序における様々な順列が可能であり、そのいくつかは以下に記載
される。
【0148】
特定の態様においては、ApoA-I含有溶液は、ステップ(a)においてそれを陰イ
オン交換マトリックスと接触させる前に条件化される。条件化は、タンパク質溶液のpH
が、ApoA-Iがステップ(a)において陰イオン交換マトリックスに結合しない範囲
になる(すなわち、タンパク質が正味の負の電荷を有さず、ステップ(a)がネガティブ
モードで実行される)ようにそれを調整するために実施される。これらの態様においては
、ApoA-I含有溶液のpHは、約5~約7、好ましくは、約5.0~約5.6である
。特定の態様においては、pHは約5.1~約5.5である。さらに他の態様においては
、pHは約5.3である。pHの調整は、所望の範囲内のpHが得られるまで好適な酸(
例えば、塩酸)または塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を添加することで実施すること
ができる。いくつかの実施形態においては、ApoA-I含有溶液を条件化ステップの前
に濾過して、細胞および細胞破片を除去する。他の実施形態においては、条件化ステップ
が存在しない場合、場合によりApoA-I含有溶液をステップ(a)の前に濾過して、
細胞および細胞破片を除去する。
【0149】
いくつかの実施形態においては、ApoA-I含有溶液と陰イオン交換マトリックスと
を接触させるステップ(a)は、タンパク質溶液をクロマトグラフィーカラムに通過させ
ることにより実施される。これらの実施形態においては、約10cm~約50cm、好ま
しくは約10cm~約30cmのベッド高(bed height)に、およびより好ましくは約20
cmのベッド高にカラムを充填する。特定の態様においては、1リットルあたり約10g
~約50g、例えば、約10g~約30g、例えば、約25g~約35gのApoA-I
を含むタンパク質溶液を、カラムにロードする。特定の実施形態においては、1リットル
あたり最大で約32gのApoA-Iを含むタンパク質溶液をカラムにロードする。他の
実施形態においては、ステップ(a)は、バッチ様式で、すなわち、陰イオン交換マトリ
ックスをフラスコ中のタンパク質溶液に添加し、汚染物質がマトリックスに結合するのに
十分な時間にわたって混合した後、例えば、濾過または遠心分離によってタンパク質溶液
からマトリックス材料を分離することにより実施される。特定の実施形態においては、タ
ンパク質溶液を濾過して、溶液中の粒子を除去した後、それを陰イオン交換マトリックス
と接触させる。
【0150】
本明細書に記載の方法のステップ(a)における使用のための陰イオン交換マトリック
スは、当技術分野で公知の任意の陰イオン交換マトリックスであってよい。好適な陰イオ
ン交換マトリックスとしては、限定されるものではないが、Q-Sepharose F
F、Q-Spherosil、DEAE-Sepharose FF、Q-Cellul
ose、DEAE-CelluloseおよびQ-Spherodexが挙げられる。特
定の実施形態においては、陰イオン交換マトリックスは、Q-Sepharose FF
(GE Healthcare)である。特定の態様においては、ステップ(a)におけ
るタンパク質溶液を陰イオン交換マトリックスと接触させる前に、ApoA-Iがマトリ
ックスに結合しないような上記で考察された好ましい範囲内のpHを有するバッファー中
で、マトリックスを平衡化させる。ステップ(a)の前に陰イオン交換マトリックスを平
衡化するため、およびステップ(a)を実施するために有用なバッファーは、当業者には
公知である。特定の実施形態においては、バッファーは、TAMP A(20mMリン酸
ナトリウム、pH5.3)である。
【0151】
様々な実施形態において、ステップ(a)は、陰イオン交換マトリックスに結合し、そ
れによって上記のpHおよび塩条件下でマトリックスに結合しないApoA-Iから分離
される、ApoA-I以外のタンパク質(例えば、宿主細胞タンパク質)、宿主細胞DN
Aおよび内毒素に関してApoA-Iを精製するために用いられる。いくつかの態様にお
いては、出発溶液中のApoA-Iの量の少なくとも75%、少なくとも80%、少なく
とも85%、または少なくとも90%以上が陰イオン交換ステップから回収される。
【0152】
様々な実施形態においては、精製方法は、ウイルスおよびウイルス粒子を捕捉するのに
十分である孔径を有するフィルターを用いて、ステップ(a)に由来するApoA-I溶
液を濾過するステップ(b)を含む。場合により、ウイルスまたはウイルス粒子を除去す
るために膜を通して濾過するステップ(b)を、ステップ(a)の後よりもむしろ、上記
のステップ(f)の後に実施する。特定の態様においては、陰イオン交換マトリックスか
らの溶出液のpHを、水酸化ナトリウムまたは他の好適な塩基の添加により、ウイルス濾
過ステップ(b)の前に調整する。ステップ(a)からのApoA-I含有溶液を、約7
.8~約8.2のpHに調整する。特定の態様においては、ApoA-I含有溶液を、約
8.0のpHに調整する。ステップ(b)において用いられるフィルターは、ウイルスを
捕捉するための好適な孔径、例えば、約15nm~約75nmの孔径を有する任意のフィ
ルターであってよい。特定の実施形態においては、フィルターの孔径は約20nmである
(例えば、Planova 20N、旭化成メディカル)。当業者であれば、ウイルスフ
ィルターを通過するタンパク質溶液の流速が、溶液の特性(例えば、その粘度、粒子の濃
度など)によって決まることを理解できる。ウイルス濾過のための典型的な流速は約12
.5L/h/m2であるが、流速は1bar以下のフィルター圧を維持するためにより高
く、またはより低く調整することができる。ステップ(b)からの濾液は、ApoA-I
を含有する。特定の態様においては、ウイルス濾過ステップからのApoA-Iの回収率
は、ステップ(a)からの陰イオン交換溶出液中のApoA-Iの量の少なくとも80%
、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%以上
である。
【0153】
特定の実施形態においては、本明細書に記載の精製方法は、ステップ(b)からの濾液
を、アポリポタンパク質A-Iをマトリックスに結合させるバッファーおよび塩の条件下
で第1の逆相クロマトグラフィーカラムに通過させるステップ(b)の後のステップ(c
)を含む。これらの実施形態においては、ApoA-Iを、増加する濃度の有機溶媒の勾
配を用いて、宿主細胞DNA、宿主細胞タンパク質、内毒素およびトランケートされた形
態に関して精製する。限定されるものではないが、シリカ、ポリスチレン、またはC4~
C18疎水性リガンドが移植された架橋アガロースに基づく媒体などの当技術分野で公知
の様々なマトリックスの変異体を用いて、逆相クロマトグラフィーを実施することができ
る。本明細書に記載の方法において有用な市販の疎水性マトリックスとしては、限定され
るものではないが、Butyl Sepharose-FF、Octyl Sephar
ose-FF、Dianon HP20ss、C18 HypersilおよびSour
ce 30RPCが挙げられる。特定の実施形態においては、ステップ(c)で用いられ
るマトリックスは、Source 30RPC(GE Healthcare)である。
特定の態様においては、逆相クロマトグラフィーカラムは、約10cm~約50cm、例
えば、約10cm~約30cmのベッド高を有する。特定の態様においては、逆相クロマ
トグラフィーカラムは、約25cmのベッド高を有する。
【0154】
いくつかの実施形態においては、ウイルス濾過ステップ(b)からのApoA-I濾液
を、1リットルあたり約1~約20gのApoA-Iの濃度で、例えば、約1.5g~約
5gのApoA-Iの濃度で、およびより好ましくは約2.5g~約3.5gのApoA
-Iの濃度で逆相カラム上にロードする。特定の態様においては、ステップ(b)からの
ApoA-I濾液を、1リットルあたり約3.4gの濃度で逆相カラム上にロードする。
ApoA-Iをロードする前に逆相カラムを平衡化させ、タンパク質がロードの際にカラ
ムに結合することを確実にするために用いることができるバッファー条件は、当業者には
容易に確認できる。好ましくは、カラム平衡化バッファーは、カラムのpHを約9.5ま
で低下させることができる強いバッファーである。特定の実施形態においては、平衡化バ
ッファーはTAMP D(20mM炭酸アンモニウム)である。好ましくは、平衡化の後
、ステップ(b)からのApoA-I含有濾液(約8.0のpH)を、1分あたり約0.
5cm~約5.0cm、例えば、1分あたり約2.0cm~約4.0cmの流速でカラム
上にロードする。特定の実施形態においては、ApoA-I含有濾液を、1分あたり約2
.8cmの流速でカラム上にロードする。
【0155】
ステップ(c)においてApoA-Iを逆相マトリックスに結合させた後、バッファー
中の増加する濃度の有機溶媒の勾配、例えば、TAMP Dバッファー中の約35%~約
50%のアセトニトリルへの曝露により、ステップ(d)においてタンパク質を溶出させ
る。いくつかの態様においては、約60~約90分、例えば、約70分またはより好まし
くは約80分の時間にわたる約35%~約50%のアセトニトリルの線状勾配を用いて、
カラムからApoA-Iを溶出させることができる。特定の態様においては、線状勾配の
後、50%のアセトニトリルを用いる約10分間のアイソクラチック溶出を行う。逆相カ
ラムからApoA-Iを溶出させるための正確な条件は、当業者には容易に確認できる。
様々な実施形態においては、カラムロード中の約60%、例えば、約65%、約70%、
約75%または約80%以上のApoA-Iが、ステップ(d)におけるカラム溶出液中
に存在する。
【0156】
特定の態様においては、本明細書に記載の精製方法は、ステップ(d)の後に、DNA
、宿主細胞タンパク質および完全長タンパク質に由来するトランケートされた形態のAp
oA-Iをさらに除去するために、第2の逆相クロマトグラフィーカラムにステップ(d
)からのアポリポタンパク質A-I逆相溶出液を通過させるステップ(e)をさらに含む
。好ましくは、ステップ(d)からの逆相溶出液を、アポリポタンパク質A-Iをマトリ
ックスに結合させる条件下で第2の逆相カラム上にロードする。ステップ(e)における
使用のための逆相マトリックスは、ステップ(d)において用いられるものと同じ種類の
マトリックスであってもよく、または異なる種類のマトリックスであってもよい。特定の
実施形態においては、ステップ(e)において用いられる逆相マトリックスは、C18シ
リカマトリックス、例えば、Daisogel SP-300-BIO C18マトリッ
クス(300Å、10μm;ダイソー株式会社)である。ApoA-Iをロードする前に
C18カラムを平衡化させ、タンパク質がロードの際にカラムに結合することを確実にす
るために用いることができるバッファー条件は、当業者には容易に確認できる。好ましく
は、カラム平衡化バッファーは、カラムのpHを約9.5に低下させることができる強い
バッファーである。特定の実施形態においては、平衡化バッファーはTAMP E(10
0mM炭酸アンモニウム)である。様々な実施形態においては、本明細書に記載の精製方
法のステップ(e)において用いられる逆相カラムは、約10cm~約50cm、例えば
、約10cm~約30cmのベッド高を有する。特定の実施形態においては、ステップ(
e)において用いられる逆相カラムは、約25cmのベッド高を有する。
【0157】
様々な実施形態においては、ステップ(d)からのApoA-I溶出液を、1リットル
あたり約0.5g~約30gのApoA-Iの濃度で、例えば、約1g~約10gのAp
oA-Iの濃度で、およびより好ましくは約4g~約5gのApoA-Iの濃度で、C1
8逆相カラム上にロードする。特定の実施形態においては、ステップ(d)からのApo
A-I溶出液を、1リットルあたり約4.7gのApoA-Iの濃度でC18カラム上に
ロードする。好ましくは、平衡化後、ステップ(d)からのApoA-I含有溶出液を、
1分あたり約0.5cm~約5.0cm、例えば、1分あたり約1.0cm~約3.0c
mの流速でカラム上にロードする。特定の実施形態においては、ApoA-I含有濾液を
、1分あたり約2.1cmの流速でカラム上にロードする。
【0158】
ステップ(e)においてApoA-Iを逆相マトリックスに結合させた後、バッファー
中の増加する濃度の有機溶媒の勾配、例えば、TAMP Eバッファー中の約40%~約
50%のアセトニトリルを用いて、ステップ(f)においてタンパク質を溶出させる。い
くつかの態様においては、約40%~約50%のアセトニトリルの線状勾配を用いて、約
40~約80分、例えば、約50分、約60分または約70分の時間にわたってカラムか
らApoA-Iを溶出させる。特定の実施形態においては、約60分にわたるTAMP
Eバッファー中の約40%~約50%のアセトニトリルの線状勾配を用いて、逆相マトリ
ックスからApoA-Iを溶出させる。特定の態様においては、線状勾配の後、50%の
アセトニトリルを用いる約15分のアイソクラチック溶出を行う。逆相カラムからApo
A-Iを溶出させるための正確な条件は、当業者には容易に確認できる。様々な実施形態
においては、カラムロード中の約60%、例えば、約65%、約70%、約75%または
約80%以上のApoA-Iが、ステップ(f)においてカラム溶出液中に回収される。
【0159】
特定の実施形態においては、有機溶媒を、本明細書に記載の方法のステップ(f)で得
られたApoA-I含有溶出液から除去する。溶媒除去は、限定されるものではないが、
ステップ(f)で得られたApoA-I含有溶出液を濃縮することおよび濃縮液を水性バ
ッファー中に透析濾過することなどの当技術分野で公知の任意の方法により達成すること
ができる。特定の実施形態においては、ステップ(f)からの溶出液を、ステップ(f)
における逆相カラムからの溶出液の容量と比較して約2倍、約2.5倍、約3倍、約3.
5倍、約4倍、約4.5倍または約5倍濃縮する。特定の実施形態においては、溶出液を
約2.5倍濃縮した後、約10、15または20、好ましくは15容量の好適な水性バッ
ファーに対して透析濾過する。好適な水性バッファーは、当技術分野で公知である。特に
好ましいバッファーは、TAMP C(3mMリン酸ナトリウム、pH8.0)である。
【0160】
いくつかの実施形態においては、クロマトグラフィーカラムの順序を逆転させる。
【0161】
場合により、濃縮およびバッファー交換の後、水性ApoA-I溶液をネガティブモー
ド(すなわち、ApoA-Iが陰イオン交換マトリックスに結合しない条件下)での陰イ
オン交換クロマトグラフィーによりさらに精製して、残留するDNAおよび他の負に荷電
した汚染物質、例えば、宿主細胞タンパク質を除去する(ステップ(g))。いくつかの
実施形態においては、陰イオン交換ステップをバッチ様式で実施する。他の実施形態にお
いては、陰イオン交換ステップを、カラムクロマトグラフィーにより実施する。バッチ様
式またはカラムクロマトグラフィーにおける使用のための好適な陰イオン交換マトリック
スとしては、限定されるものではないが、Q-Sepharose-FFまたはステップ
(a)における使用について上記で考察された陰イオン交換マトリックスのいずれかが挙
げられる。特定の態様においては、陰イオン交換膜、例えば、大きい表面積および強い陽
イオン電荷を有する膜、例えば、Sartobind QまたはMustang QにA
poA-I溶液を通過させることにより、陰イオン交換ステップを実施する。好ましくは
、Mustang Q陰イオン交換膜(Pall Life Sciences)を用い
て、陰イオン交換ステップを実施する。特定の態様においては、任意の好適な酸を用いて
、この陰イオン交換ステップの前に水性ApoA-I溶液のpHを約5.5、約6.0ま
たは約6.5に低下させる。特定の態様においては、希リン酸を用いて水性ApoA-I
溶液のpHを約6.0に低下させる。好ましい実施形態においては、ApoA-I溶液を
、約12.5L/m2/hでMustang Qカートリッジに通過させる。
【0162】
いくつかの実施形態においては、陰イオン交換膜濾液を濃縮し、場合により、保存のた
め、または以下の第6.5.1節に記載のような脂質との複合体化および/もしくは以下
の第6.6節に記載のような医薬組成物の製剤化などのApoA-Iのさらなるプロセッ
シングのために好適であるものに溶媒を交換するために透析濾過する。保存のため、また
はApoA-Iのさらなるプロセッシングのための好適なバッファーは、当業者には容易
に確認できる。特定の実施形態においては、精製されたApoA-IをTAMP Cバッ
ファーに交換する。膜が、バッファーは通過させるが、タンパク質は通過させないように
、完全長成熟ApoA-Iの分子量より下である分子量カットオフを有する限り、任意の
限外濾過膜をこのステップで用いることができる。特定の実施形態においては、10,0
00の名目上の分子量カットオフのポリエーテルスルホン膜(例えば、Filtron
Omegaシリーズ)を用いる。好ましくは、限外濾過後の溶液中のApoA-I濃度は
、少なくとも10g/L、少なくとも12g/L、少なくとも15g/L、少なくとも2
0g/L、少なくとも25g/L、少なくとも30g/L、少なくとも35g/L、少な
くとも40g/L、少なくとも45g/Lまたは少なくとも50g/Lである。
【0163】
6.1.5.アポリポタンパク質生成物
本開示はまた、実質的に純粋な成熟完全長アポリポタンパク質も提供する。本明細書で
用いられる用語「実質的に純粋な」とは、少なくとも95%純粋であるタンパク質を指す
。特定の実施形態においては、実質的に純粋なタンパク質は、少なくとも96%、少なく
とも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも
99.99%または100%純粋である。特定の態様においては、本明細書に記載の精製
方法により製造された実質的に純粋なアポリポタンパク質生成物は、白い背景に対して光
源を用いて視覚的に調べた場合、可視粒子を含まない透明からわずかに乳白光を発する無
色の溶液である。様々な実施形態においては、上記の第6.1.4節に記載の方法により
得られたか、または得られる実質的に純粋なアポリポタンパク質は、以下にさらに詳述す
るように、少量または検出不可能な量の1つまたは複数の宿主細胞DNA、アポリポタン
パク質以外のタンパク質(例えば、宿主細胞タンパク質)、内毒素、残留溶媒、ならびに
低いバイオバーデン(bioburden)(すなわち、試料上または試料中の少数の微生物)を含
む。アポリポタンパク質生成物の純度は、限定されるものではないが、N末端エドマン配
列決定、MALDI-MS、ゲル電気泳動、HPLCおよび/または免疫アッセイなどの
当技術分野で公知の任意の方法により決定することができる。
【0164】
様々な実施形態においては、本明細書に記載の方法により得られた実質的に純粋なアポ
リポタンパク質生成物は、約28.1キロダルトンである質量を有する完全長成熟ヒトA
poA-Iである。生成物中のApoA-Iの質量は、限定されるものではないが、MA
LDI-MSなどの当技術分野で公知の任意の方法により決定することができる。様々な
実施形態においては、生成物中のApoA-Iタンパク質の少なくとも75%、少なくと
も80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%
、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なく
とも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が成熟完全長ApoA-I(例
えば、配列番号1のアミノ酸25~267を含むApoA-I)である。特定の態様にお
いては、実質的に純粋なApoA-I生成物は、約15重量%以下、約10重量%以下、
約5重量%以下、約4重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下または約1重量%以
下のN末端伸長したApoA-Iアイソフォーム(例えば、プロApoA-I)を含む。
当業者であれば理解できるように、生成物中の任意のN末端伸長したApoA-Iは、投
与の際に血液中で成熟ApoA-Iに迅速に変換される。様々な実施形態においては、A
poA-I生成物は、約25重量%以下、約20重量%以下、約15重量%以下、約10
重量%以下、約5重量%以下、約4重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下、約1
重量%以下、約0.75重量%以下、約0.5重量%以下、約0.25重量%以下、また
は約0.1重量%以下のトランケートされた形態のApoA-Iを含む。トランケートさ
れたか、または伸長したApoA-Iの量を、例えば、N末端エドマン配列決定および/
もしくはMALDI-MSならびに/または存在する場合、全てのバンドの総強度に対す
る精製されたApoA-Iバンド領域の強度の比率を決定するためのSDS-PAGEゲ
ルの泳動および走査により決定することができる。様々な実施形態においては、ApoA
-I生成物は、約20重量%以下、約10重量%以下、約5重量%以下、約4重量%以下
、約3重量%以下、約2重量%以下、約1重量%以下、約0.75重量%以下、約0.5
重量%以下、約0.25重量%以下、または約0.1重量%以下の酸化形態のApoA-
I、特に、Met112位および/またはMet148位で酸化されたApoA-Iを含
む。
【0165】
特定の実施形態においては、本明細書に記載の方法により製造された実質的に純粋なア
ポリポタンパク質は、約100ppm(例えば、ng/mg)未満、例えば、約75pp
m未満、約50ppm未満、約40ppm未満、約30ppm未満、約20ppm未満、
または約10ppm未満である量の宿主細胞タンパク質を含む。特定の実施形態において
は、実質的に純粋なアポリポタンパク質生成物は、約20ppm未満の宿主細胞タンパク
質を含む。より好ましくは、アポリポタンパク質生成物は、約10ppm未満の宿主細胞
タンパク質を含む。アポリポタンパク質試料中の宿主細胞タンパク質の存在および量は、
当技術分野で公知の任意の方法により決定することができる。アポリポタンパク質を、例
えば、哺乳動物細胞中で組換え産生させる場合、市販のELISAキット(例えば、Cy
gnus TechnologiesからのKit F015)を用いて、宿主細胞タン
パク質を検出し、そのレベルを定量することができる。
【0166】
いくつかの態様においては、本明細書に記載のように精製された実質的に純粋なアポリ
ポタンパク質生成物は、約50pg/mg未満のアポリポタンパク質、例えば、約40p
g/mg未満、約30pg/mg未満、約20pg/mg未満、約10pg/mg未満、
または約5pg/mg未満のアポリポタンパク質である量の宿主細胞DNAを含む。好ま
しい実施形態においては、実質的に純粋なアポリポタンパク質生成物は、1mgのアポリ
ポタンパク質あたり約10pg未満の宿主細胞タンパク質を含む。アポリポタンパク質試
料中の宿主細胞DNAの存在および量は、リアルタイムPCRまたは好ましくは定量的P
CRによる抗SSB抗体(Glycotype Biotechnology)を用いる
一本鎖結合タンパク質との複合体の検出などの当技術分野で公知の任意の方法により決定
することができる。
【0167】
特定の実施形態においては、本明細書に記載の方法により製造された実質的に純粋なア
ポリポタンパク質生成物は、アポリポタンパク質1mgあたり、約0.5EU未満、例え
ば、約0.4EU未満、約0.3EU未満、約0.2EU未満または約0.1EU未満で
ある量の内毒素を含む。好ましくは、本明細書に記載の実質的に純粋なアポリポタンパク
質生成物は、アポリポタンパク質1mgあたり、約0.1EU未満の内毒素を含む。内毒
素の検出および定量を、例えば、グラム陰性細菌内毒素のためのLimulus Ame
bocyte Lysate(LAL)定量試験(Cambrex;感度0.125EU
/mL)を用いる当技術分野で公知の任意の方法により達成することができる。
【0168】
本明細書に記載の実質的に純粋なアポリポタンパク質生成物は、低いバイオバーデンを
有する。用語「バイオバーデン」とは、生成物中の好気性細菌、嫌気性細菌、酵母および
カビのレベルを指す。様々な実施形態において、本明細書に記載のように精製された実質
的に純粋なアポリポタンパク質生成物のバイオバーデンは、1mLあたり、約1CFU未
満である。バイオバーデン試験は、任意の公知の方法に従って、例えば、European Pharm
acopoeia Chapter 2.6.12.B、およびUSB Chapter 61統一方法に従って実施することがで
きる。
【0169】
本明細書に記載の実質的に純粋なアポリポタンパク質生成物は、少量の残留溶媒を含む
。特定の実施形態においては、残留溶媒は、10mg/Lのアポリポタンパク質について
、約50ppm未満、約45ppm未満、約40ppm未満、約35ppm未満、約30
ppm未満、約25ppm未満、約20ppm未満、約15ppm未満または約10pp
m未満である量で存在する。好ましくは、残留溶媒は、10mg/Lのアポリポタンパク
質について、約41ppm未満である量で存在する。残留溶媒の量は、限定されるもので
はないが、GC-MSおよびHPLCなどの当技術分野で公知の任意の方法によりアッセ
イすることができる。
【0170】
好ましくは、アポリポタンパク質は、ApoA-I(例えば、配列番号1のアミノ酸2
5~267を含むApoA-I)である。いくつかの実施形態においては、成熟ヒトAp
oA-Iタンパク質は、1位(すなわち、配列番号1の25位に対応する位置)にアスパ
ラギン酸を有するアミノ酸配列を有する。
【0171】
6.2.脂質画分
本開示のリポタンパク質複合体および組成物は、脂質画分を含む。脂質画分は、1つま
たは複数の脂質を含む。様々な実施形態においては、1つまたは複数の脂質は、飽和およ
び/または不飽和および天然または合成の脂質であってよい。脂質画分は、好ましくは少
なくとも1つのリン脂質を含む。
【0172】
脂質画分中に存在してもよい好適な脂質としては、限定されるものではないが、低分子
量アルキル鎖リン脂質、卵ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ジパルミ
トイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホ
スファチジルコリン1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パ
ルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロ
イルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン
、ジオレオイルホスファチジルコリン ジオレオホスファチジルエタノールアミン、ジラ
ウロイルホスファチジルグリセロールホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホ
スファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロ
ール、ジホスファチジルグリセロール、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロ
ール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリ
セロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジン酸
、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、
ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン
、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、脳スフィンゴミエリ
ン、パルミトイルスフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、卵スフィン
ゴミエリン、ミルクスフィンゴミエリン、フィトスフィンゴミエリン、ジステアロイルス
フィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール塩、ホスファチジン酸、
ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、ジラウリルホスファチジルコリ
ン、(1,3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド
、3-コレステリル-6’-(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、およびコレス
テロールならびにその誘導体が挙げられる。合成脂質、例えば、合成パルミトイルスフィ
ンゴミエリンまたはN-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリ
ン(フィトスフィンゴミエリンの一形態)を用いて、脂質酸化を最小化することができる
。パルミトイルスフィンゴミエリンを含むリン脂質画分は、場合により、限定されるもの
ではないが、リゾリン脂質、パルミトイルスフィンゴミエリン以外のスフィンゴミエリン
、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、グリセリド、トリグリセリド
、およびコレステロールならびにその誘導体などの少量の任意の種類の脂質を含んでもよ
い。
【0173】
好ましい実施形態においては、脂質画分は、2種類のリン脂質:スフィンゴミエリン(
SM)および負に荷電したリン脂質を含む。SMは、それが生理的pHで約0の正味電荷
を有する点で「中性」リン脂質である。用いられるSMの同一性は成功にとって重要では
ない。かくして、本明細書で用いられる表現「SM」は、天然の供給源から誘導または取
得されたスフィンゴミエリン、ならびに天然のSMと同様、LCATによる加水分解に影
響されない天然のSMの類似体および誘導体を含む。SMは、レシチンと構造的に非常に
類似するリン脂質であるが、レシチンと違って、グリセロール骨格を有さず、従って、ア
シル鎖を結合させるエステル結合を有さない。むしろ、SMはセラミド骨格を有し、アミ
ド結合がアシル鎖を接続する。SMはLCATの基質ではなく、一般的にはそれによって
加水分解することができない。しかしながら、それはLCATの阻害剤として作用するか
、または基質であるリン脂質の濃度を希釈することによってLCAT活性を低下させるこ
とができる。SMは加水分解されないため、それは循環中により長く残存する。この特徴
により、本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体はより長い持続時間の生理
的効果(コレステロールの移動)を有し、SMを含まないアポリポタンパク質複合体より
も多くの脂質、特に、コレステロールを拾い上げることができると期待される。この効果
は、SMを含まないリポタンパク質複合体に必要とされるものよりも治療にとって必要と
される少ない頻度または少ない用量をもたらすことができる。
【0174】
SMは、実質的に任意の供給源から取得することができる。例えば、SMはミルク、卵
または脳から取得することができる。SM類似体または誘導体を用いることもできる。有
用なSM類似体および誘導体の非限定例としては、限定されるものではないが、パルミト
イルスフィンゴミエリン、N-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホス
ホコリン(フィトスフィンゴミエリンの一形態)、パルミトイルスフィンゴミエリン、ス
テアロイルスフィンゴミエリン、D-エリスロ-N-16:0-スフィンゴミエリンおよ
びそのジヒドロ異性体、D-エリスロ-N-16:0-ジヒドロ-スフィンゴミエリンが
挙げられる。合成SM、例えば、合成パルミトイルスフィンゴミエリンまたはN-パルミ
トイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(フィトスフィンゴミエリン
)を用いて、動物起源のスフィンゴ脂質よりも少ない汚染物質および/または酸化生成物
を含む、より均一な複合体を製造することができる。
【0175】
例示的なスフィンゴミエリン、パルミトイルスフィンゴミエリン(palmitoylsphingomy
elin)およびフィトスフィンゴミエリン(phytosphingomyelin)を以下に示す。
【0176】
【0177】
天然の供給源から単離されたスフィンゴミエリンを、ある特定の飽和または不飽和アシ
ル鎖において人工的に富化することができる。例えば、ミルクスフィンゴミエリン(Av
anti Phospholipid、Alabaster、Ala.)は、長い飽和ア
シル鎖(すなわち、20個以上の炭素原子を有するアシル鎖)を特徴とする。対照的に、
卵スフィンゴミエリンは、短い飽和アシル鎖(すなわち、20個未満の炭素原子を有する
アシル鎖)を特徴とする。例えば、わずかに約20%のミルクスフィンゴミエリンがC1
6:0(16個の炭素、飽和)アシル鎖を含む場合、約80%の卵スフィンゴミエリンは
C16:0アシル鎖を含む。溶媒抽出を用いて、ミルクスフィンゴミエリンの組成を、卵
スフィンゴミエリンのものに匹敵するアシル鎖組成を有するように富化させることができ
、またはその逆も可能である。
【0178】
SMは、それが特定のアシル鎖を有するように半合成であってもよい。例えば、ミルク
スフィンゴミエリンを最初にミルクから精製した後、ある特定のアシル鎖、例えば、C1
6:0アシル鎖を切断し、別のアシル鎖により置換することができる。SMはまた、例え
ば、大規模合成によって全体を合成することもできる。例えば、1993年1月15日に
発行された、「Synthesis of D-erythro-sphingomye
lins」と題するDongらの米国特許第5,220,043号;Weis、1999、Chem. Phys
. Lipids 102 (l-2):3-12を参照されたい。
【0179】
半合成または合成SMを含むアシル鎖の長さおよび飽和レベルを、選択的に変化させる
ことができる。アシル鎖は飽和または不飽和であってもよく、約6~約24個の炭素原子
を含んでもよい。それぞれの鎖は同じ数の炭素原子を含んでもよく、またはあるいは、そ
れぞれの鎖は異なる数の炭素原子を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、半合
成または合成SMは、1つの鎖が飽和であり、1つの鎖が不飽和であるような混合アシル
鎖を含む。そのような混合アシル鎖SMでは、鎖の長さは同じであるか、または異なって
いてもよい。他の実施形態においては、半合成または合成SMのアシル鎖は、両方とも飽
和であるか、または両方とも不飽和である。再度、鎖は同じか、または異なる数の炭素原
子を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、半合成または合成SMを含むアシル
鎖は両方とも同一である。特定の実施形態においては、鎖は、例えば、オレイン酸、パル
ミチン酸またはステアリン酸などの天然の脂肪酸のアシル鎖と一致する。別の実施形態に
おいては、飽和または不飽和官能性鎖を有するSMが用いられる。別の特定の実施形態に
おいては、アシル鎖は両方とも飽和であり、6~24個の炭素原子を含む。半合成および
合成SMに含まれ得る一般的に生じる脂肪酸中に存在するアシル鎖の非限定例を、以下の
表1に提供する。
【0180】
【0181】
好ましい実施形態においては、SMはパルミトイルSM、例えば、C16:0アシル鎖
を有する合成パルミトイルSMであるか、または主成分としてパルミトイルSMを含む卵
SMである。
【0182】
特定の実施形態においては、官能性SM、例えば、フィトスフィンゴミエリンが用いら
れる。
【0183】
脂質画分は、好ましくは、負に荷電したリン脂質を含む。本明細書で用いられる「負に
荷電したリン脂質」は、生理的pHで正味の負の電荷を有するリン脂質である。負に荷電
したリン脂質は、単一の種類の負に荷電したリン脂質、または2つ以上の異なる負に荷電
したリン脂質の混合物を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、荷電したリン脂
質は、負に荷電したグリセロリン脂質である。荷電したリン脂質の同一性は、成功にとっ
て重要ではない。好適な負に荷電したリン脂質の特定例としては、限定されるものではな
いが、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセ
ロール)]、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジ
ルセリン、およびホスファチジン酸が挙げられる。いくつかの実施形態においては、負に
荷電したリン脂質は、1つまたは複数のホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセ
リン、ホスファチジルグリセロールおよび/またはホスファチジン酸を含む。特定の実施
形態においては、負に荷電したリン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-
3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]、またはDPPGからなる。
【0184】
SMと同様、負に荷電したリン脂質を、天然の供給源から取得するか、または化学的合
成により調製することができる。合成の負に荷電したリン脂質を用いる実施形態において
は、SMと関連して上記で考察された通り、アシル鎖の同一性を選択的に変化させること
ができる。本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体のいくつかの実施形態に
おいては、負に荷電したリン脂質上のアシル鎖は両方とも同一である。いくつかの実施形
態においては、SMおよび負に荷電したリン脂質上のアシル鎖は全て同一である。特定の
実施形態においては、負に荷電したリン脂質、および/またはSMは全て、C16:0ま
たはC16:1アシル鎖を有する。特定の実施形態においては、SMの脂肪酸部分は主に
、C16:1パルミトイルである。1つの特定の実施形態においては、荷電したリン脂質
および/またはSMのアシル鎖は、パルミチン酸のアシル鎖と一致する。
【0185】
用いられるリン脂質は、好ましくは少なくとも95%純粋であり、および/または酸化
剤のレベルが低下している。天然の供給源から得られる脂質は、好ましくは、より少ない
ポリ不飽和脂肪酸部分および/または酸化に影響されにくい脂肪酸部分を有する。試料中
の酸化のレベルは、試料1kgあたりの単離されたヨウ素のミリ等価数(meq O/k
gと省略される)で表される過酸化物価を提供するヨード還元滴定法を用いて決定するこ
とができる。例えば、Gray, J.I.、Measurement of Lipid Oxidation: A Review, Journa
l of the American Oil Chemists Society、Vol. 55、p. 539-545 (1978);Heaton, F.W.
およびUri N.、Improved Iodometric Methods for the Determination of Lipid Peroxid
es、Journal of the Science of food and Agriculture、vol 9. P, 781-786 (1958)を参
照されたい。好ましくは、酸化のレベル、または過酸化物レベルは低い、例えば、5me
q O/kg未満、4meq O/kg未満、3meq O/kg未満、または2meq
O/kg未満である。
【0186】
SMおよびパルミトイルスフィンゴミエリンを含む脂質画分は、場合により、少量のさ
らなる脂質を含んでもよい。限定されるものではないが、リゾリン脂質、ガラクトセレブ
ロシド、ガングリオシド、セレブロシド、グリセリド、トリグリセリド、およびコレステ
ロールならびにその誘導体などの実質的に任意の種類の脂質を用いることができる。
【0187】
含有される場合、そのような任意選択の脂質は、典型的には脂質画分の約15wt%未
満を占めるが、いくつかの例においては、より多くの任意選択の脂質が含まれていてもよ
い。いくつかの実施形態においては、任意選択の脂質は、約10wt%未満、約5wt%
未満、または約2wt%未満を占める。いくつかの実施形態においては、脂質画分は、任
意選択の脂質を含まない。
【0188】
特定の実施形態においては、リン脂質画分は、90:10~99:1の範囲、より好ま
しくは、95:5~98:2の範囲の重量比(SM:負に荷電したリン脂質)の卵SMま
たはパルミトイルSMまたはフィトスフィンゴミエリンおよびDPPGを含有する。一実
施形態においては、重量比は97:3である。
【0189】
本開示のリポタンパク質複合体を、様々な治療または診断適用のための疎水性、親油性
または非極性活性剤を送達するための担体として用いることもできる。そのような適用の
ために、脂質画分は、限定されるものではないが、脂肪酸、薬物、核酸、ビタミン、およ
び/または栄養素などの、1つまたは複数の疎水性、親油性または非極性活性剤をさらに
含んでもよい。好適な疎水性、親油性または非極性活性剤は、治療的分類によって制限さ
れず、例えば、鎮痛剤、抗炎症剤、駆虫剤(antihelmimthic)、抗不整脈剤、抗細菌剤、抗
ウイルス剤、凝固防止剤、抗鬱剤、抗糖尿病剤、抗てんかん剤、抗真菌剤、抗痛風剤、抗
高血圧剤、抗マラリア剤、抗片頭痛剤、抗ムスカリン剤、抗新生物剤、勃起障害改善剤、
免疫抑制剤、抗原虫剤、抗甲状腺剤、精神安定剤、鎮静剤、睡眠剤、神経弛緩剤、β-遮
断剤、強心剤、コルチコステロイド、利尿剤、抗パーキンソン病剤、胃腸剤、ヒスタミン
受容体拮抗剤、角質溶解剤、脂質調節剤、抗狭心症剤、cox-2阻害剤、ロイコトリエ
ン阻害剤、マクロライド、筋弛緩剤、栄養剤、核酸(例えば、低分子干渉RNA)、オピ
オイド性鎮痛剤、プロテアーゼ阻害剤、性ホルモン、刺激剤、筋弛緩剤、抗骨粗鬆症剤、
抗肥満剤、認知機能増強剤、抗尿失禁剤、栄養油、抗良性前立腺肥大剤、必須脂肪酸、非
必須脂肪酸、およびその混合物などであってよい。
【0190】
好適な疎水性、親油性または非極性活性剤の特定の非限定例は、アセトレチン、アルベ
ンダゾール、アルブテロール、アミノグルテチミド、アミオダロン、アムロジピン、アン
フェタミン、アンホテリシンB、アトルバスタチン、アトバクオン、アジスロマイシン、
バクロフェン、ベクロメタゾン、ベンゼプリル、ベンゾナテート、ベタメタゾン、ビカル
タニド、ブデゾニド、ブプロピオン、ブスルファン、ブテナフィン、カルシフェジオール
、カルシポトリエン、カルシトリオール、カンプトテシン、カンデサルタン、カプサイシ
ン、カルバメゼピン、カロテン、セレコキシブ、セリバスタチン、セチリジン、クロルフ
ェニラミン、コレカルシフェロール、シロスタゾール、シメチジン、シナリジン、シプロ
フロキサシン、シサプリド、クラリスロマイシン、クレマスチン、クロミフェン、クロミ
プラミン、クロピドグレル、コデイン、コエンザイムQ10、シクロベンザプリン、シク
ロスポリン、ダナゾール、ダントロレン、デキスクロルフェニラミン、ジクロフェナク、
ジクマロール、ジゴキシン、デヒドロエピアンドロステロン、ジヒドロエルゴタミン、ジ
ヒドロタキステロール、ジリスロマイシン、ドネゼピル、エファビレンズ、エポサルタン
、エルゴカルシフェロール、エルゴタミン、必須脂肪酸源、エトドラク、エトポシド、フ
ァモチジン、フェノフィブラート、フェンタニル、フェキソフェナジン、フィナステリド
、フルコナゾール、フルビプロフェン、フルバスタチン、フォスフェニトイン、フロバト
リプタン、フラゾリドン、ガバペンチン、ゲンフィブロジル、グリベンクラミド、グリピ
ジド、グリブリド、グリメピリド、グリセオフルビン、ハロファントリン、イブプロフェ
ン、イルベサルタン、イリノテカン、二硝酸イソソルビド、イソトレチノイン、イトラコ
ナゾール、イベルメクチン、ケトコナゾール、ケトロラック、ラモトリジン、ランソプラ
ゾール、レフルノミド、リシノプリル、ロペラミド、ロラタジン、ロバスタチン、L-チ
ロキシン、ルテイン、リコペン、メドロキシプロゲステロン、ミフェプリストン、メフロ
キン、酢酸メゲストロール、メタドン、メトキサレン、メトロニダゾール、ミコナゾール
、ミダゾラム、ミグリトール、ミノキシジル、ミトキサントロン、モンテルカスト、ナブ
メトン、ナルブフィン、ナラトリプタン、ネルフィナビル、ニフェジピン、ニルソリジピ
ン、ニルタニド、ニトロフラントイン、ニザチジン、オメプラゾール、オプレベルキン、
エストラジオール、オキサプロジン、パクリタキセル、パラカルシトール、パロキセチン
、ペンタゾシン、ピオグリタゾン、ピゾフェチン、プラバスタチン、プレドニゾロン、プ
ロブコール、プロゲステロン、プソイドエフェドリン、ピリドスチグミン、ラベプラゾー
ル、ラロキシフェン、ロフェコキシブ、レパグリニド、リファブチン、リファペンチン、
リメキソロン、リタノビル、リザトリプタン、ロシグリタゾン、サキナビル、セルトラリ
ン、シブトラミン、クエン酸シルデナフィル、シンバスタチン、シロリムス、スピロノラ
クトン、スマトリプタン、タクリン、タクロリムス、タモキシフェン、タムスロシン、タ
ルグレチン、タザロテン、テルミサルタン、テニポシド、テルビナフィン、テラゾシン、
テトラヒドロカナビノール、チアガビン、チクロピジン、チロフィブラン、チザニジン、
トピラメート、トポテカン、トレミフェン、トラマドール、トレチノイン、トログリタゾ
ン、トロバフロキサシン、ウビデカレノン、バルサルタン、ベンラファキシン、ベルテポ
ルフィン、ビガバトリン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ザフィル
ルカスト、ジロートン、ゾルミトリプタン、ゾルピデム、およびゾピクロンである。上記
薬剤の塩、異性体および誘導体、ならびに混合物を用いることもできる。
【0191】
6.3.リポタンパク質複合体
本開示は、それぞれの組成が上記の第6.1節および第6.2節にそれぞれ記載された
、タンパク質画分と脂質画分とを含むリポタンパク質複合体を提供する。
【0192】
一般に、タンパク質画分は、治療的および/または予防的利益を提供するアポリポタン
パク質および/またはその誘導体もしくは類似体などの1つまたは複数の脂質結合タンパ
ク質を含む。複合体は、単一の種類の脂質結合タンパク質、または同じか、もしくは異な
る種から誘導することができる2種以上の異なる脂質結合タンパク質の混合物を含んでも
よい。好適な脂質結合タンパク質は、第6.1節に上記されている。必要ではないが、リ
ポタンパク質複合体は、好ましくは、療法に対する免疫応答を誘導することを避けるため
に、治療される動物種から誘導されたか、またはアミノ酸配列においてそれと一致する脂
質結合タンパク質を含む。かくして、ヒト患者の治療のためには、ヒト起源の脂質結合タ
ンパク質が本開示の複合体において好ましく用いられる。ペプチド模倣アポリポタンパク
質の使用も、免疫応答を低下させるか、または回避することができる。
【0193】
高純度を有する(例えば、成熟し、トランケートされておらず、酸化されておらず、脱
アミド化されておらず、内毒素で汚染されておらず、および/または他のタンパク質もし
くは核酸で汚染されていない)アポリポタンパク質の使用は、リポタンパク質複合体の治
療効力を増強し、および/またはその安全性を増強すると考えられる。従って、タンパク
質画分は、場合により、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、
もしくは約0%の酸化メチオニン-112もしくはメチオニン-148、および/または
15%以下、10%以下、5%以下、または約0%の脱アミノ化アミノ酸を有する、少な
くとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも9
5%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%成熟
した完全長ApoA-Iを含んでもよい。アポリポタンパク質は、本明細書に記載の方法
のいずれかに従って精製することができる。好ましくは、アポリポタンパク質を、第6.
1.4節に記載のように作製することができる。
【0194】
特定の実施形態においては、タンパク質画分は、ApoA-I、例えば、第6.1.5
節に上記された実質的に純粋な成熟した完全長ApoA-Iを含むか、または本質的にそ
れからなる。
【0195】
脂質画分は、飽和、不飽和、天然および合成の脂質および/またはリン脂質であってよ
い1つまたは複数の脂質を含む。好適な脂質としては、限定されるものではないが、低分
子アルキル鎖リン脂質、卵ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ジパルミ
トイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホ
スファチジルコリン1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パ
ルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロ
イルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン
、ジオレオイルホスファチジルコリン ジオレオホスファチジルエタノールアミン、ジラ
ウロイルホスファチジルグリセロールホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホ
スファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロ
ール、ジホスファチジルグリセロール、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロ
ール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリ
セロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジン酸
、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、
ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン
、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、脳スフィンゴミエリ
ン、卵スフィンゴミエリン、ミルクスフィンゴミエリン、フィトスフィンゴミエリン、パ
ルミトイルスフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルス
フィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール塩、ホスファチジン酸、
ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、ジラウリルホスファチジルコリ
ン、(1,3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド
、3-コレステリル-6’-(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、およびコレス
テロールならびにその誘導体が挙げられる。SMおよびパルミトイルスフィンゴミエリン
を含むリン脂質画分は、場合により、限定されるものではないが、リゾリン脂質、パルミ
トイルスフィンゴミエリン以外のスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリ
オシド、セレブロシド、グリセリド、トリグリセリド、およびコレステロールならびにそ
の誘導体などの少量の任意の種類の脂質を含んでもよい。合成パルミトイルスフィンゴミ
エリンまたはN-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(フ
ィトスフィンゴミエリン)などの合成脂質が好ましい。さらなる脂質は、上記の第6.2
節に記載されている。好ましくは、リポタンパク質複合体は、スフィンゴミエリンを含む
。
【0196】
場合により、本開示のリポタンパク質複合体に、様々な治療または診断適用のために、
限定されるものではないが、脂肪酸、薬物、核酸、ビタミン、および/または栄養素など
の疎水性、親油性または非極性活性剤をロードすることができる。好適な薬剤は、上記の
第6.2節に記載されている。
【0197】
リポタンパク質複合体を、本明細書に記載の方法のいずれかを用いて作製することがで
きる。好ましくは、複合体は第6.5.1~6.5.4節に記載のように作製される。
【0198】
本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体の脂質画分とタンパク質画分との
モル比は変化してもよく、他の因子の中でも特に、タンパク質画分を含むアポリポタンパ
ク質の同一性、脂質画分を含む荷電したリン脂質の同一性および量、ならびに荷電したリ
ポタンパク質複合体の所望のサイズに依存する。ApoA-Iなどのアポリポタンパク質
の生物活性はアポリポタンパク質を含む両親媒性へリックスにより媒介されると考えられ
るので、脂質:アポリポタンパク質モル比のアポリポタンパク質画分をApoA-Iタン
パク質当量を用いて表すのが都合が良い。へリックスを算出するのに用いられる方法に応
じて、ApoA-Iは6~10個の両親媒性へリックスを含有することが一般に受け入れ
られている。他のアポリポタンパク質は、それらが含有する両親媒性へリックスの数に基
づくApoA-I当量を単位として表すことができる。例えば、典型的にはジスルフィド
架橋した二量体として存在するApoA-IMは、ApoA-IMの各分子がApoA-
Iの分子の2倍の両親媒性へリックスを含有するため、2ApoA-I当量と表すことが
できる。逆に、単一の両親媒性へリックスを含有するペプチドアポリポタンパク質は、各
分子がApoA-Iの分子の1/10~1/6の両親媒性へリックスを含有するため、1
/10~1/6ApoA-I当量と表すことができる。一般に、リポタンパク質複合体の
脂質:ApoA-I当量モル比(本明細書では「Ri」と定義される)は、約105:1
~110:1の範囲である。いくつかの実施形態においては、Riは約108:1である
。リン脂質については約650~800のMWを用いて重量の比を得ることができる。
【0199】
いくつかの実施形態においては、脂質:ApoA-I当量のモル比(「RSM」)は、
約80:1~約110:1、例えば、約80:1~約100:1の範囲である。特定の例
においては、リポタンパク質複合体に関するRSMは、約82:1であってよい。
【0200】
負に荷電したリポタンパク質複合体を含む様々なアポリポタンパク質および/またはリ
ン脂質分子を、安定なアイソトープ(例えば、13C、15N、2Hなど);放射性アイ
ソトープ(例えば、14C、3H、125Iなど);フルオロフォア;化学発光剤;また
は酵素マーカーなどの任意の当技術分野で公知の検出可能なマーカーで標識することがで
きる。
【0201】
好ましい実施形態においては、リポタンパク質複合体は、好ましくは成熟完全長Apo
A-Iであるタンパク質画分と、中性リン脂質、スフィンゴミエリン(SM)および負に
荷電したリン脂質を含む脂質画分とを含む負に荷電したリポタンパク質複合体である。
【0202】
リポタンパク質複合体の脂質画分を含むSMと負に荷電したリン脂質との組成および相
対量は、複合体を含む組成物の均一性および安定性に影響することが発見された。実施例
の節に例示されるように、脂質画分がSMおよび負に荷電したリン脂質から構成される複
合体を含む組成物は、脂質画分がSMに加えてDPPCを含む同様の組成物よりも均一で
あり、安定である。
【0203】
かくして、SMおよび負に荷電した脂質を含有する本開示の複合体は、好ましくはその
均一性および安定性を改善するためにレシチンの非存在下で形成される。一度、SMおよ
び負に荷電した脂質を含有する均一な複合体が形成されたら、レシチンなどのさらなる脂
質を組み込ませることができる。
【0204】
含有される場合、任意選択の脂質は、典型的には、脂質画分の約15%未満を占めるが
、いくつかの例においては、より多くの任意選択の脂質を含有させることができる。いく
つかの実施形態においては、任意選択の脂質は、約10wt%未満、約5wt%未満、ま
たは約2wt%未満を占める。いくつかの実施形態においては、負に荷電したリポタンパ
ク質複合体の脂質画分は、任意選択の脂質を含まない。
【0205】
特定の実施形態においては、リン脂質画分は、90:10~99:1の範囲、より好ま
しくは95:5~98:2の範囲、例えば、97:3の重量比(SM:負に荷電したリン
脂質)の卵SMまたはパルミトイルSMまたはフィトSMおよびDPPGを含有する。
【0206】
いくつかのアポリポタンパク質は、in vivoで、あるリポタンパク質複合体から
別のものに交換される(これはアポリポタンパク質ApoA-Iに当てはまる)。そのよ
うな交換の過程の間に、アポリポタンパク質は、典型的にはそれと共に1つまたは複数の
リン脂質分子を担持する。この特性のため、本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク
質複合体は、負に荷電したリン脂質を内因性HDLに「播種」し、それによって、腎臓に
よる排除に対してより耐性であるα粒子にそれらを変換すると予想される。かくして、負
に荷電したリポタンパク質複合体および本明細書に記載の組成物の投与は、HDLの血清
レベルを増加させ、および/または内因性HDLの半減期ならびに内因性HDL代謝を変
化させると予想される。これはコレステロール代謝および逆脂質輸送の変化をもたらすと
予想される。
【0207】
実施例の節に例示されるように、ApoA-I:SMおよびDPPGリン脂質の重量比
が約1:2.7である複合体を含む組成物は、他の重量:重量比を有する同様の組成物よ
りも均一であり、安定であった。従って、本開示は、タンパク質:脂質重量比が複合体の
均一な集団の形成のために最適化されたリポタンパク質組成物を提供する。この重量:重
量比は、ApoA-I、SMおよびDPPGの複合体について、ならびに同様の分子量の
成分の複合体について、1:2.6~1:3の範囲であり、最適には1:2.7である。
特定の実施形態においては、ApoA-Iタンパク質画分と脂質画分との比は、典型的に
は約1:2.7~約1:3の範囲であり、1:2.7が好ましい。これは、約1:90~
1:140の範囲のApoA-Iとリン脂質とのモル比に対応する。従って、本開示は、
タンパク質と脂質とのモル比が約1:90~約1:120、約1:100~約1:140
、または約1:95~約1:125である複合体を提供する。具体的には、この最適化さ
れた比では、ApoA-Iタンパク質画分とSMおよびDPPG脂質画分は、それぞれカ
ラムクロマトグラフィーおよびゲル電気泳動によりアッセイされた場合、天然のHDLと
同じサイズおよび電荷特性を有する実質的に均一な複合体を形成する。
【0208】
負に荷電したリポタンパク質複合体のサイズを、Riを変化させることにより制御する
ことができる。すなわち、Riが小さくなるほど、ディスクが小さくなる。例えば、大き
い円盤状ディスクは、典型的には約200:1~100:1の範囲のRiを有するが、小
さい円盤状ディスクは、典型的には約100:1~30:1の範囲のRiを有する。
【0209】
いくつかの特定の実施形態においては、負に荷電したリポタンパク質複合体は、2~4
ApoA-I当量(例えば、2~4分子のApoA-I、1~2分子のApoA-IM二
量体または12~40の単一へリックスペプチド分子)、1分子の負に荷電したリン脂質
および400分子のSMを含有する大きい円盤状ディスクである。他の特定の実施形態に
おいては、負に荷電したリポタンパク質複合体は、2~4ApoA-I当量;1~10、
より好ましくは3~6分子の負に荷電したリン脂質;および90~225分子、より好ま
しくは100~210分子のSMを含有する小さい円盤状ディスクである。
【0210】
6.3.1.複合体および粒径の測定
リポタンパク質複合体の組成、ならびにそのサイズおよびリポタンパク質複合体の調製
において用いられる脂質粒子のものを、当技術分野で公知の様々な技術を用いて決定する
ことができる。
【0211】
溶液中のリポタンパク質複合体のタンパク質および脂質濃度を、限定されるものではな
いが、タンパク質およびリン脂質アッセイ、クロマトグラフィー法、例えば、HPLC、
ゲル濾過、質量分析、UVまたはダイオードアレイなどの様々な検出器を備えたGC、蛍
光、弾性光散乱など当技術分野で公知の任意の方法により測定することができる。また、
脂質およびタンパク質の強度を、同じクロマトグラフィー技術ならびにペプチドマッピン
グ、SDS-pageゲル電気泳動、ApoA-IのN-およびC-末端配列決定、なら
びに脂質酸化を決定するための標準的なアッセイにより決定することもできる。
【0212】
リポタンパク質複合体ならびにリポタンパク質複合体の調製において用いられる脂質粒
子は、本明細書に記載のサイズの範囲であってよい。脂質粒径ならびに/または脂質およ
びタンパク質複合体サイズを、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。
例示的な方法としては、動的光散乱およびゲル浸透クロマトグラフィーが挙げられる。
【0213】
光子相関分光法としても知られる動的光散乱(DLS)は、ブラウン運動により溶液中
で移動する粒子に衝突する光線の波長のシフトを測定する。具体的には、レーザーにより
照らされた場合、移動する粒子は光を散乱し、散乱光における得られた強度の変動を用い
て、溶液中の球状サイズ分布を算出することができる。Zetasizer Nano Series User Man
ual, MAN0317 Issue 2.1 (July 2004)を参照されたい。DLSは、粒子体積および数分布
および平均を算出することができることに基づいて、溶液中の粒子の強度分布および平均
を決定する。DLS技術を用いて、リポタンパク質複合体を作製するのに用いられる脂質
粒子のサイズ、ならびにリポタンパク質複合体自体のサイズを決定することができる。好
適なDLS装置は、Malvern InstrumentsによるZetasizer
Nanoである。
【0214】
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、タンパク質を含有する複合体
のサイズを決定することもできる。ゲル浸透クロマトグラフィーは、分子サイズに基づい
て混合物中の成分を分離するものである。典型的には、補正曲線との比較により、脂質-
タンパク質複合体の溶出プロフィールと既知の標準物または参考試料のものとを比較する
ことにより、該複合体のサイズを決定することができる。参考試料は市販されており、タ
ンパク質と、アルブミン、フェリチン、およびビタミンB12などの非タンパク質標準物
との両方を含んでもよい。Current Protocols in Molecular Biology (1998)、Section I
V、10.9.1-10.9.2。
【0215】
本開示のリポタンパク質複合体の調製において有用な脂質粒子は、DLSによって測定
された場合(例えば、強度に基づく測定を用いる)、少なくとも45nm、少なくとも5
0nm、少なくとも55nm、少なくとも60nmのサイズであってよい。さらに、脂質
粒子は、DLSにより測定された場合、最大で65nm、最大で70nm、最大で80n
m、最大で90nm、最大で100nm、最大で120nm、最大で150nm、最大で
200nm、最大で250nm、最大で300nm、または最大で500nmのサイズで
あってよい。
【0216】
本開示のリポタンパク質複合体は、本明細書に記載の技術により測定された場合、4n
m~15nm、6nm~15nm、4nm~12nm、5~12nm、6nm~12nm
、8nm~12nm、または8nm~10nmの範囲のサイズであってよい。
【0217】
6.4.リポタンパク質複合体の集団
本開示は、本明細書に記載のリポタンパク質複合体の集団をさらに提供する。集団は、
例えば、上記の第6.3節に記載のようなタンパク質画分および脂質画分をそれぞれ含む
、本明細書に記載の複数のリポタンパク質複合体を含む。本出願人は、リポタンパク質複
合体の集団の効力および安全性プロフィールに個別に、または組み合わせて寄与すると考
えられるいくつかの特徴を発見した。リポタンパク質複合体の集団は、本明細書に記載の
任意の数の特徴を単独で、または組み合わせて含んでもよい。
【0218】
第1に、集団中のリポタンパク質複合体の均一性、すなわち、集団中のリポタンパク質
複合体の1つまたは複数の個別のピークにより示されるような、集団中の1つまたは複数
の個別のリポタンパク質複合体の優勢性、および成熟した非改変アポリポタンパク質のリ
ポタンパク質複合体における優勢性が、効力を増加させると考えられる。従って、リポタ
ンパク質複合体の集団は、アポリポタンパク質、例えば、ApoA-Iを含むか、または
本質的にそれからなるタンパク質画分と、脂質画分とを含んでもよく、その集団は、ゲル
浸透クロマトグラフィーにおける単一のピーク中の集団のパーセントにより測定された場
合、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少な
くとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%均一であ
る。
【0219】
いくつかの実施形態においては、集団中のリポタンパク質複合体のサイズは、4nm~
15nm、例えば、5nm~12nm、6nm~15nm、または8nm~10nmの範
囲であってよい。
【0220】
集団中のアポリポタンパク質、例えば、ApoA-Iは、成熟した、好ましくは完全長
(トランケートされていない)のApoA-Iであってよく、集団は少なくとも75重量
%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも
95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、少
なくとも99重量%の成熟した、好ましくは完全長(トランケートされていない)のAp
oA-Iを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、集団は、25重量%以下、2
0重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、もしくは5重量%以下の未熟な、もし
くは不完全にプロセッシングされたApoA-Iおよび/または20重量%以下、15重
量%以下、10重量%以下、もしくは5重量%以下のトランケートされたApoA-Iを
含む。
【0221】
第2に、リポタンパク質複合体の純度とも呼ばれる、複合体中のアポリポタンパク質お
よび脂質の純度ならびにリポタンパク質複合体中の汚染物質の相対的非存在は、肝臓酵素
(例えば、トランスアミナーゼ)の増加により反映される、肝臓損傷などの副作用のリス
クを低下させると考えられる。アポリポタンパク質の純度を、酸化および/または脱アミ
ド化の相対的欠如により測定することができる。従って、特定の実施形態においては、リ
ポタンパク質複合体の集団は、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以
下、3%以下、2%以下、1%以下の酸化メチオニン、特に、メチオニン-112もしく
はメチオニン-148、または15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下
、2%以下もしくは1%以下の酸化トリプトファンなどの、少量の酸化アポリポタンパク
質を有してもよい。リポタンパク質複合体の集団はまた、低いパーセンテージの脱アミド
化アミノ酸、例えば、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以
下、または1%以下の脱アミノ化アミノ酸を有してもよい。
【0222】
また、リポタンパク質複合体中の脂質の純度を制御することも望ましい。従って、いく
つかの実施形態においては、前記集団中の5%以下、4%以下、3%以下、2%以下また
は1%以下の脂質が酸化される。
【0223】
前記複合体およびその集団の純度の別の尺度は、アポリポタンパク質を製造するか、も
しくは精製する方法またはリポタンパク質複合体自体を作製する方法の結果生じる汚染物
質の減少、またはその非存在である。従って、アポリポタンパク質が宿主細胞、例えば、
哺乳動物宿主細胞から精製される場合、リポタンパク質複合体の集団は、好ましくは宿主
細胞DNAまたはタンパク質を含まない。特定の実施形態においては、前記集団は、リポ
タンパク質1ミリグラムあたり、500ナノグラム以下、200ナノグラム以下、100
ナノグラム以下、50ナノグラム以下、もしくは20ナノグラム以下の宿主細胞タンパク
質、および/またはリポタンパク質、典型的には、ApoA-Iの1ミリグラムあたり、
100ピコグラム以下、50ピコグラム以下、25ピコグラム以下、10ピコグラム以下
もしくは5ピコグラムの宿主細胞DNAを含有する。
【0224】
生じ得る、および回避すべき他の汚染物質は、特に、細胞培養物および血漿試料中に存
在し得る内毒素、ならびにリポタンパク質複合体を作製および/または精製するのに用い
られるプロセスに応じて存在し得る溶媒および洗剤である。リポタンパク質複合体の集団
は、リポタンパク質、例えば、ApoA-Iの1ミリグラムあたり最大でも約1EU、約
0.5EU、約0.3EU、または約0.1EUの内毒素を含有してもよい。また、リポ
タンパク質複合体の集団は、200ppm以下、250ppm以下、100ppm以下の
非水性溶媒の含有に限定され得る。特定の実施形態においては、集団は、任意の洗剤、例
えば、コール酸塩を含有しない。
【0225】
さらに、本明細書に開示される方法を用いて、アポリポタンパク質出発材料のほとんど
を複合体中に組み込み、集団中に存在する非複合体化アポリポタンパク質の量を制限する
ことができる。非複合体アポリポタンパク質の量の減少は、それが異種タンパク質への曝
露に起因する免疫原性応答のリスクを低下させる点で有益である。リポタンパク質複合体
の集団は、タンパク質の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少な
くとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%
がリポタンパク質複合体、すなわち、複合体形態にある組成物にあってもよい。場合によ
り、リポタンパク質複合体の集団は、脂質の少なくとも80%、少なくとも85%、少な
くとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも9
9%または100%がリポタンパク質複合体にある組成物にあってもよい。
【0226】
場合により、前記集団は、脂質画分が脂質重量の15%以下、10%以下、5%以下、
4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、または0%のコレステロールを含む複合体を
含んでもよい。
【0227】
特定の脂質およびタンパク質成分は、複数の異なるが均一なリポタンパク質複合体を形
成してもよい。従って、本開示はまた、異なる量のアポリポタンパク質分子(例えば、2
、3もしくは4個のApoA-I分子またはApoA-I当量)を含むリポタンパク質複
合体の2、3または4つの集団を含む組成物も提供する。例示的な実施形態においては、
組成物は、それぞれ、第1の集団がリポタンパク質複合体あたり2個のApoA-I分子
またはApo-I当量を有するリポタンパク質複合体を含み、第2の集団がリポタンパク
質複合体あたり3または4個のApoA-I分子またはApoA-I当量を有するリポタ
ンパク質複合体を含み、場合により、第3の集団がリポプロタンパク質複合体あたり4ま
たは3個のApoA-I分子またはApoA-I当量を有するリポタンパク質複合体を含
む、2つのリポタンパク質複合体集団を含む。
【0228】
リポタンパク質複合体の2つ以上の集団を含む組成物は、好ましくは、低レベルの非複
合体化リポタンパク質および/または脂質を有する。従って、好ましくは、組成物中の脂
質の15%以下、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、
5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、もしくは1%以下が非複合体化形態にあり、
および/または組成物中のリポタンパク質の15%以下、12%以下、10%以下、9%
以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、もし
くは1%以下が非複合体化形態にある。
【0229】
また、治療目的のためのリポタンパク質複合体の大規模製造などの、商業適用にとって
特に有用である、リポタンパク質複合体、またはその集団の大規模調製物も本明細書に提
供される。本明細書で想定される調製物は、本明細書に記載のように、リポタンパク質複
合体、例えば、負に荷電したリポタンパク質複合体の集団を含む。
【0230】
調製物は、商業規模での、組成物、例えば、医薬組成物および剤形の製造にとって好適
なリポタンパク質複合体の容量、量およびその結果得られる濃度で提供される。典型的な
調製物の容量は、約5L~約50L以上、例えば、約10L~約40L、約15L~約3
5L、約15L~約30L、約20L~約40L、約20L~約30L、約25L~約4
5L、約25L~約35Lの範囲である。調製物は、約5L、約6L、約7L、約8L、
約9L、約10L、約11L、約12L、約13L、約14L、約15L、約16L、約
17L、約18L、約19L、約20L、約25L、約30L、約35L、約40L、約
45L、または約50Lの容量を有してもよい。好ましい実施形態においては、調製物は
、約20Lの容量を有する。
【0231】
調製物はさらに、約5mg/mL~約15mg/mL、5mg/mL~約10mg/m
L、約10mg/mL~約15mg/mL、または約8mg/mL~約12mg/mLの
範囲のアポリポタンパク質のアポリポタンパク質濃度を達成するのに十分な量の、リポタ
ンパク質複合体、またはその集団を含有する。調製物の容量に応じて、量は約25g~約
350gの範囲であってよく、調製物中のアポリポタンパク質、例えば、ApoA-Iの
量として表される。特定の実施形態においては、調製物は、約8mg/mLのApoA-
Iを含有する。
【0232】
特定の実施形態においては、調製物は、15L~25Lの容量を有し、約100g~約
250gのApoA-Iを含有する。別の特定の実施形態においては、調製物は、30L
~50Lの容量を有し、約240g~約780gのApoA-Iを含有する。
【0233】
6.5.リポタンパク質複合体の作製方法
6.5.1.熱サイクリングに基づくリポタンパク質複合体の作製方法
本明細書に記載のタンパク質および脂質成分の熱サイクリングを用いる方法を用いて、
他の方法と比較して利点を有するリポタンパク質複合体を生成することができることが発
見された。本明細書に提供される熱サイクリング法においては、タンパク質成分および脂
質成分は、タンパク質成分の大部分(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少
なくとも80%、または少なくとも90%)が脂質成分と複合体化されてリポタンパク質
複合体を形成するまで熱サイクリングにかけられる。当業者には明らかなように、リポタ
ンパク質複合体の製造のための他の方法と比較した本発明の方法の利点としては、含まれ
る副生成物(例えば、非複合体化タンパク質)が少ないか、全くない、または得られる生
成物中に存在する製造不純物(例えば、洗剤もしくは界面活性剤、分解されたタンパク質
、酸化された成分)を含まない、実質的に均一で純粋な最終生成物をもたらす高い複合体
化効率、費用が高く、無駄の多い精製ステップの必要性の回避が挙げられる。かくして、
前記方法は効率的であり、出発材料の無駄が皆無かそれに近い。さらに、プロセスはスケ
ールアップが容易であり、装備費用が低い。工業用溶媒を用いずにこれらのプロセスを実
行する能力は、それらを環境に優しくもする。
【0234】
好ましくは、タンパク質および脂質成分の酸化を最小化するために、複合体形成の1、
1を超える、または全てのステップ(脂質成分の均一化など)を、不活性ガス(例えば、
窒素、アルゴンまたはヘリウム)ブランケット下で実行する。
【0235】
6.5.2.脂質成分
本開示の熱サイクリング法は、上記の第6.2節に記載のように、飽和、不飽和、天然
および合成の脂質および/またはリン脂質などの様々な脂質を単独で、または組み合わせ
て用いることができる。
【0236】
多層ベシクル(「MLV」)、小単層ベシクル(「SUV」)、大単層ベシクル(「L
UV」)、ミセル、分散物などの脂質粒子を生成する任意の方法を用いて、タンパク質成
分を用いる熱サイクリングのために脂質を調製することができる。
【0237】
脂質粒子を製造するための様々な技術が公知である。脂質粒子は、様々な種類のベシク
ルを形成する様々なプロトコルを用いて製造されてきた。本開示の熱サイクリング法にお
いて用いられる粒子は、主に45~80nmのサイズ範囲が好ましく、最も好ましくは、
55nm~75nmのサイズ範囲にある。
【0238】
高圧均一化、例えば、マイクロフルイダイゼーションは、好適なサイズの脂質粒子を有
利に生成する。均一化圧力は、好ましくは、少なくとも1,000bar、少なくとも1
,200bar、少なくとも1,400bar、少なくとも1,600bar、少なくと
も1,800barであり、最も好ましくは、少なくとも2,000bar、例えば、少
なくとも2,200bar、少なくとも2,400bar、少なくとも2,600bar
、少なくとも2,800bar、少なくとも3,000bar、少なくとも3,200b
ar、少なくとも3,400bar、少なくとも3,600bar、少なくとも3,80
0bar、または少なくとも4,000barである。特定の実施形態においては、均一
化圧力は、前記値の任意の対の間の範囲、例えば、1,600~3,200bar;1,
800~2,800bar;1,900~2,500bar;2,000~2,500b
ar;2,000~3,000bar;2,400~3,800bar;2,800~3
,400barなどである。1barは、100kPa、1,000,000ダイン/平
方センチメートル(バーリー)、0.987atm(気圧)、14.5038psi、2
9.53inHgおよび750.06torrに等しい。
【0239】
1つの好適な均一化方法においては、脂質の乳濁液を、Microfluidizer
Model 110Y(Microfluidics Inc、Newton、Mas
s)の供給容器中に移す。ユニットを浴中に浸して、均一化中のプロセス温度(例えば、
55℃、58℃、62℃など)を維持し、使用前にアルゴンなどの不活性ガスでフラッシ
ュする。プライミング後、乳濁液を、相互作用ヘッド(interaction head)にわたって圧力
勾配で5~20分間、連続的再利用でホモジェナイザーに通過させる。タンパク質成分の
非存在下での脂質成分の均一化は、均一化技術において用いられる高剪断によるタンパク
質成分の破壊を回避する。
【0240】
好適なサイズの粒子を得ることができるという条件で、他の方法を好適に用いることが
できる。例えば、水性溶液による脂質の水和は、脂質の分散および多層ベシクル(「ML
V」)の同時形成をもたらし得る。MLVは、中央の水性コアを取り囲む複数の脂質二重
層を有する粒子である。これらの種類の粒子は、小単層ベシクル(SUV)よりも大きく
、直径350~400nmであってよい。MLVは、丸底フラスコ中でクロロホルム中に
脂質を可溶化し、脂質がフラスコの壁面上に薄い層を形成するまで、クロロホルムを蒸発
させることにより調製することができる。水性溶液を添加し、脂質層を再び水和させる。
フラスコで形成されたベシクルを回転させるか、またはボルテックスする。Deamerら、19
83、in Liposomes (Ostro, Ed.), Marcel Dekker, Inc. New York (Banghamら、1965、J.
Mol. Biol. 13:238を引用する)。また、この方法を用いて、単層ベシクルを生成させる
こともできる。Johnsonら、1971、Biochim. Biophys. Acta 233:820。
【0241】
小単層ベシクル(SUV)は、水性コアを包み込む単一の脂質二重層を有する粒子であ
る。SUVを生成するのに用いられる方法に応じて、それらは直径25~110nmの範
囲のサイズであってよい。初めてのSUVは、窒素下でクロロホルム中のリン脂質調製物
を乾燥させ、水性層を添加してミリモル範囲の脂質濃度をもたらし、その溶液を45℃で
清澄まで超音波処理することにより調製された。Deamerら、1983、in Liposomes (Ostro,
Ed.), Marcel Dekker, Inc. New York。この様式で調製されたSUVは、直径25~5
0nmの範囲の粒子をもたらす。
【0242】
SUVを作製する別の方法は、エタノール/脂質溶液を、封入しようとする水性溶液中
に急速に注入することである。Deamerら、1983、in Liposomes (Ostro, Ed.)、Marcel De
kker, Inc. New York (Batzriら、1973、Biochim. Biophys. Acta 298: 1015を引用する)
。この方法により製造されるSUVは、直径30~110nmの範囲のサイズである。
【0243】
また、多層ベシクルをFrench Pressに4回、20,000psiで通過さ
せることにより、SUVを製造することもできる。製造されたSUVは、直径30~50
nmの範囲のサイズである。Deamerら、1983、in Liposomes (Ostro, Ed.)、Marcel Dekk
er, Inc. New York(Barenholzら、1979、FEBS Letters 99:210を引用する)。
【0244】
多層および単層リン脂質ベシクルを、小孔径の膜を介する高圧でのリン脂質の水性調製
物の押出により形成させることもできる(Hopeら、1996、Chemistry and Physics of Lip
ids、40:89-107)。
【0245】
大単層ベシクルは、それらが中央の水性コアを取り囲む単一の脂質二重層である点でS
UVと類似するが、LUVはSUVよりも非常に大きい。その構成部分およびそれらを調
製するのに用いられる方法に応じて、LUVは直径50~1000nmの範囲のサイズで
あってよい。Deamerら、1983、in Liposomes (Ostro, Ed.)、Marcel Dekker, Inc. New Y
ork。LUVは通常、3つの方法:洗剤希釈、逆相蒸発、および注入のうちの1つを用い
て調製される。
【0246】
洗剤希釈技術においては、コール酸塩、デオキシコール酸塩、オクチルグルコシド、ヘ
プチルグルコシドおよびTriton X-100などの洗剤溶液を用いて、脂質調製物
からミセルを形成させる。次いで、溶液を透析して、洗剤を除去する。Deamerら、1983、
in Liposomes (Ostro, Ed.), Marcel Dekker、Inc. New York。
【0247】
逆相蒸発技術は、水性非極性溶液中に脂質を可溶化し、逆ミセルを形成させる。非極性
溶媒を蒸発させると、ミセルは凝集してLUVを形成する。この方法は一般に、大量の脂
質を要する。
【0248】
注入方法は、非極性溶液中に可溶化された脂質を、封入しようとする水性溶液中に注入
する。非極性溶液が蒸発するにつれて、脂質は気体/水性境界面に集まる。気体が水性溶
液を通って気泡化する時に、脂質シートはLUVおよびオリゴラメラ(oligolamellar)粒
子を形成する。粒子を濾過により区分する。Deamerら、1983、in Liposomes (Ostro, Ed.
)、Marcel Dekker, Inc. New York(Deamerら、1976、Biochim. Biophys. Acta 443:629
およびSchierenら、1978、Biochim. Biophys. Acta 542: 137を引用する)。
【0249】
得られた脂質調製物のアリコートを特性評価して、脂質粒子が本明細書に開示される熱
サイクリング法における脂質成分としての使用にとって好適であることを確認することが
できる。脂質調製物の特性評価は、限定されるものではないが、サイズ排除濾過、ゲル濾
過、カラム濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー、および非変性ゲル電気泳動などの当技術
分野で公知の任意の方法を用いて実施することができる。
【0250】
6.5.3.タンパク質成分
リポタンパク質複合体のタンパク質成分は、本発明の熱サイクリング法における成功に
とっては重要ではない。実質的に任意の脂質結合タンパク質、例えば、治療的および/ま
たは予防的利益を提供するアポリポタンパク質および/またはその誘導体もしくは類似体
を、複合体中に含有させることができる。さらに、任意のα-へリックスペプチドもしく
はペプチド類似体、またはアポリポタンパク質(例えば、ApoA-Iなど)がLCAT
を活性化するか、もしくは脂質と結合した場合に円盤状粒子を形成することができるとい
う点で、アポリポタンパク質の活性を「模倣」する任意の他の種類の分子を、リポタンパ
ク質複合体中に含有させることができ、従って、「脂質結合タンパク質」の定義内に含ま
れる。熱サイクリング法において用いることができる脂質結合タンパク質としては、上記
の第6.1節に記載のものが挙げられる。脂質結合タンパク質を、上記の第6.1.2節
に記載のように組換え産生することができる。脂質結合タンパク質は、上記の第6.1.
3節または第6.1.4節に記載のものなどの、本明細書に記載の方法のいずれかによっ
て精製することができる。
【0251】
タンパク質成分を、当技術分野で周知のように、動物起源(および特に、ヒト起源)か
ら精製する、化学的に合成するか、または組換え産生することができ、例えば、Chungら
、1980、J. Lipid Res. 21(3):284-91;Cheungら、1987、J. Lipid Res. 28(8):913-29を
参照されたい。また、米国特許第5,059,528号、第5,128,318号、第6
,617,134号;米国特許出願公開第20002/0156007号、第2004/
0067873号、第2004/0077541号、および第2004/0266660
号;ならびにPCT公開第WO/2008/104890号および第WO/2007/0
23476号も参照されたい。
【0252】
タンパク質成分は、所望の複合体におけるタンパク質/ペプチドと脂質の比よりも少な
くとも5倍高い(例えば、少なくとも5倍、少なくとも10倍または少なくとも20倍高
い)タンパク質/ペプチドと脂質の比で脂質を含んでもよい。例えば、所望のタンパク質
と脂質の比がモルベースで1:200であるリポタンパク質複合体を製造するためには、
タンパク質成分中のタンパク質を、典型的には、最終複合体中の脂質の小さい画分のみで
あるものを表す、例えば、1:10~1:20の比で脂質と合わせることができる。いか
なる機構も暗示するものではないが、タンパク質と少量の脂質とのこの「予備」複合体化
は、所望の複合体が2種以上の脂質を有する場合に有用であり、熱サイクリングにより製
造されたリポタンパク質複合体中に少量で存在する(例えば、所望のリポタンパク質複合
体中の全脂質の10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、または1
重量%以下)脂質のより均一な分布が可能になる。
【0253】
6.5.4.熱サイクリングによるリポタンパク質複合体の生成
前記方法は一般的に、脂質粒子と脂質結合タンパク質とを含む懸濁液を、リポタンパク
質複合体が形成されるまで「高」温範囲と「低」温範囲との間で熱サイクリングすること
を必要とする。
【0254】
熱サイクリングされる懸濁液は、好ましくは、高温範囲の温度で一緒にされた脂質成分
とタンパク質成分とを含有し、「出発」懸濁液を形成した後、熱サイクリングにかけられ
る。
【0255】
出発懸濁液中の脂質とタンパク質との最適比は、製造される最終的なリポタンパク質複
合体中の成分の所望の化学量により決定される。当業者によって認識される通り、脂質画
分とタンパク質画分とのモル比は、特に他の因子の中でも、タンパク質成分中のタンパク
質および/もしくはペプチドの同一性、脂質画分中の脂質の同一性および量、ならびにリ
ポタンパク質複合体の所望のサイズに依存する。リポタンパク質複合体中の好適な脂質と
タンパク質との比は、限定されるものではないが、ゲル電気泳動移動度アッセイ、サイズ
排除クロマトグラフィー、HDL受容体との相互作用、ATP結合カセット輸送因子(A
BCA1)による認識、肝臓による取込み、および薬物動態/薬力学などの、任意の数の
当技術分野で公知の機能的アッセイを用いて決定することができる。例えば、ゲル電気泳
動移動度アッセイを用いて、複合体中の脂質成分とタンパク質成分との最適比を決定する
ことができる。本開示の方法により製造された複合体が脂質成分中へのリン脂質の含有の
結果として荷電している場合、天然のプレ-β-HDLまたはα-HDL粒子と類似する
電気泳動移動度を示すように複合体を設計することができる。かくして、いくつかの実施
形態においては、天然のプレ-β-HDLまたはα-HDL粒子を、複合体の移動度を決
定するための標準物として用いることができる。
【0256】
好ましい実施形態においては、最終的な複合体は、少なくとも1つのアポリポタンパク
質もしくはアポリポタンパク質模倣体(最も好ましくは、それぞれ、成熟ヒトApoA-
IもしくはApoA-Iペプチド)、少なくとも1つの中性脂質、および少なくとも1つ
の負に荷電した脂質、例えば、PCT WO2006/100567(その内容は参照に
より本明細書に組み込まれる)に記載のものなどを有する。
【0257】
ApoA-Iなどのアポリポタンパク質の生物活性は、アポリポタンパク質を含む両親
媒性へリックスにより媒介されると考えられるので、ApoA-Iタンパク質当量を用い
て脂質:アポリポタンパク質モル比のアポリポタンパク質画分を表すのが好都合である。
ApoA-Iは、へリックスを算出するのに用いられる方法に応じて、6~10の両親媒
性へリックスを含有することが一般に受け入れられている。他のアポリポタンパク質は、
それらが含有する両親媒性へリックスの数に基づいてApoA-I当量を単位として表す
ことができる。例えば、ApoA-IMのそれぞれの分子はApoA-Iの分子の2倍の
両親媒性へリックスを含有するため、典型的にはジスルフィド架橋二量体として存在する
ApoA-IMを、2ApoA-I当量と表すことができる。逆に、それぞれの分子はA
poA-Iの分子の1/10~1/6の両親媒性へリックスを含有するため、単一の両親
媒性へリックスを含有するペプチドアポリポタンパク質は、1/10~1/6ApoA-
I当量と表すことができる。
【0258】
一般に、リポタンパク質複合体の脂質:ApoA-I当量モル比(本明細書では「Ri
」と定義される)は、約2:1~200:1の範囲である。いくつかの実施形態において
は、Riは、約50:1~150:1、または75:1~125:1、10:1~175
:1である。重量の比は、リン脂質については約650~800のMWを用いて得ること
ができる。
【0259】
特定の実施形態においては、成分のモル比は、2~6(負に荷電した脂質、例えば、D
PPG):90~120(中性脂質、例えば、SM):1(ApoA-I当量)である。
実施例1に記載される特定の実施形態においては、複合体は、約108:1の脂質とタン
パク質のモル比でDPPG、SMおよびApoA-Iを含み、DPPGは全脂質の3重量
%(+/-1%)であり、SMは脂質の97重量%(+/-5%)である。
【0260】
熱サイクリングの開始前の出発懸濁液中の脂質およびタンパク質成分の濃度は、1~3
0mg/ml濃度のApoA-I当量および1~100mg/ml濃度の脂質の範囲であ
ってよい。特定の実施形態においては、タンパク質成分の濃度は、1~30mg/ml、
2~20mg/ml、5~20mg/ml、2~10mg/ml、5~15mg/ml、
5~20mg/ml、および10~20mg/mlから選択され、脂質成分の濃度は、1
0~100mg/ml、10~75mg/ml、25~50mg/ml、10~75mg
/ml、25~100mg/ml、25~75mg/ml、および1~75mg/mlか
ら独立に選択される。
【0261】
熱サイクリングプロセスの高温および低温範囲は、リポタンパク質複合体の脂質および
タンパク質成分の相転移温度に基づく。あるいは、不飽和脂肪酸鎖を有するリン脂質また
はリン脂質の混合物を用いる場合に生じ得るように、脂質成分が規定の、または個別の相
転移を示さない場合、熱サイクリングの高温および低温範囲は、少なくとも約20℃、最
大で約40℃またはそれ以上異なる。例えば、いくつかの実施形態においては、低温およ
び高温範囲は、20℃~30℃、20℃~40℃、20℃~50℃、30℃~40℃、3
0℃~50℃、25℃~45℃、35℃~55℃異なる。
【0262】
脂質については、相転移は、ゲル状態として知られる、緊密に固まった規則的構造から
、液体状態として知られる、緩く固まった規則性の低い構造への変化を含む。リポタンパ
ク質複合体は、当技術分野では、典型的には用いられる特定の脂質または脂質の混合物の
転移温度に近い温度で脂質粒子およびアポリポタンパク質をインキュベートすることによ
り形成される。脂質成分の相転移温度(熱量測定法により決定することができる)+/-
5℃~10℃が、本開示の方法における「低」温範囲である。
【0263】
タンパク質については、相転移温度は、折畳まれた三次元構造から二次元構造への変化
を含む。脂質については、相転移は、ゲル状態として知られる、緊密に固まった規則的構
造から、液体状態として知られる、緩く固まった規則性の低い構造への変化を含む。リポ
タンパク質複合体は、当技術分野では、典型的には用いられる特定の脂質または脂質の混
合物の転移温度に近い温度で脂質粒子およびアポリポタンパク質をインキュベートするこ
とにより形成される。
【0264】
脂質成分の相転移温度(熱量測定法により決定することができる)+/-12℃、より
好ましくは+/-10℃が、本開示の方法における「低」温範囲である。特定の実施形態
においては、低温範囲は、脂質成分の相転移温度の+/-3℃、+/-5℃、または+/
-8℃である。1つの特定の実施形態においては、低温範囲は、脂質成分の相転移温度の
、下は5℃以上または10℃以上から、上は5℃までである。
【0265】
タンパク質については、相転移温度は、三次構造から二次構造への変化を含む。タンパ
ク質成分の相転移温度+/-12℃、より好ましくは+/-10℃が、本開示の方法にお
ける「高」温範囲である。特定の実施形態においては、高温範囲は、タンパク質成分の相
転移温度の+/-3℃、+/-5℃、または+/-8℃である。1つの特定の実施形態に
おいては、低温範囲は、タンパク質成分の相転移温度の、下は10℃から、上は5℃以下
、10℃以下、または15℃以下までである。
【0266】
出発懸濁液は、好ましくは、高温で出発して、出発懸濁液中のタンパク質の少なくとも
70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、
少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%がリポタンパク質複合体中
に組み込まれるまで、高温と低温との間で熱サイクリングにかけられる。好適な化学量論
量の脂質およびタンパク質成分を用いて、数サイクル後に脂質およびタンパク質成分の実
質的に完全な複合体化を達成することができる。サイクル数は、タンパク質および脂質成
分、サイクルの持続期間に依存するが、典型的には、5以上のサイクル、10以上のサイ
クル、または15以上のサイクル(高温および低温の両方で)が、実質的に完全な複合体
化に必要である。サイクルは、典型的には、2分~60分の範囲である。特定の実施形態
においては、サイクルは、それぞれの温度で、5~30分、10~20分、5~20分、
2~45分、または5~45分の範囲である。
【0267】
前記方法により製造される複合体は、典型的には、タンパク質成分が、リン脂質とタン
パク質との間で特定の化学量論範囲でリン脂質に物理的に結合し、均一なサイズ分布を有
する、ミセル、ベシクル、球状または円盤状粒子として形状化された超分子集合体である
。本発明の方法は、有利には、出発懸濁液中での脂質および/またはタンパク質の実質的
に完全な複合体化をもたらし、クロマトグラフィーなどの分離方法により観察した場合、
実質的に脂質および/またはタンパク質を含まない組成物が得られる。かくして、本開示
の方法は、精製ステップの非存在下で実施することができる。
【0268】
本開示の方法は、有利には、そのサイズ分布において均一であり、サイズ分画の必要性
を回避する複合体を生成する。
【0269】
本開示のいくつかの実施形態においては、リポタンパク質複合体は、比較的少量(例え
ば、脂質成分の10%未満、5%未満、3%未満または1%未満)の1つまたは複数の脂
質を含む2種類以上の脂質を含有する。分散を最適化するために、少量で用いられる脂質
は、脂質成分中の脂質粒子に組み込むよりもむしろ、タンパク質成分と予め混合すること
ができる。
【0270】
得られるリポタンパク質複合体のアリコートを特性評価して、複合体が所望の特徴、例
えば、脂質成分中へのタンパク質成分の実質的に完全な(例えば、>90%、>95%、
>97%または>98%)組み込みを有することを確認することができる。複合体の特性
評価は、限定されるものではないが、サイズ排除濾過、ゲル濾過、カラム濾過、ゲル浸透
クロマトグラフィー、および非変性ゲル電気泳動などの当技術分野で公知の任意の方法を
用いて実施することができる。
【0271】
本明細書に記載のリポタンパク質複合体または組成物の均一性および/または安定性を
、限定されるものではないが、ゲル濾過クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法
などの当技術分野で公知の任意の方法により測定することができる。例えば、いくつかの
実施形態においては、単一のピークまたは限られた数のピークを、安定な複合体と関連さ
せることができる。複合体の安定性は、時間に対して新しいピークの出現をモニターする
ことにより決定することができる。新しいピークの出現は、粒子の不安定性に起因する複
合体間の再編成の兆候である。
【0272】
好ましくは、タンパク質および脂質成分の酸化を最小化するために、熱サイクリングを
不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウム)ブランケット下で実行する。
【0273】
6.5.5.リポタンパク質複合体を作製する他の方法
負に荷電したリポタンパク質複合体などの本明細書に記載のリポタンパク質複合体を、
限定されるものではないが、ベシクル、リポソーム、プロテオリポソーム、ミセル、およ
び円盤状粒子などの様々な形態で調製することができる。上記の熱サイクリング法に加え
て、当業者には公知の様々な方法を用いて、リポタンパク質複合体を調製することができ
る。リポソームまたはプロテオリポソームを調製するための様々な技術を用いることがで
きる。例えば、アポリポタンパク質を好適なリン脂質と共に(超音波浴または超音波プロ
ーブを用いて)同時超音波処理して、複合体を形成させることができる。あるいは、アポ
リポタンパク質、例えば、ApoA-Iを、予め形成された脂質ベシクルと合わせて、リ
ポタンパク質複合体の同時形成をもたらすことができる。また、リポタンパク質複合体は
、洗剤透析法により;例えば、アポリポタンパク質、荷電したリン脂質およびSMおよび
コール酸塩などの洗剤の混合物を透析して、洗剤を除去し、再構成させて負に荷電したリ
ポタンパク質複合体を形成させる(例えば、Jonasら、1986、Methods in Enzymol. 128:5
53-82を参照されたい)、または押出装置を用いることにより、または均一化により形成
させることもできる。
【0274】
いくつかの実施形態においては、約40、約50または約60分間の高圧(例えば、約
32000p.s.i.)を用いる均一化により、複合体を調製する。特定の実施形態に
おいては、ApoA-I、SNおよびDPPGを含む複合体を、以下のように調製する。
ApoA-Iをリン酸バッファーに溶解し、高剪断混合装置を用いて作製されたリン酸バ
ッファー中のDPPGの分散物と共に50℃でインキュベートする。次いで、ApoA-
I/DPPG混合物をSMの分散物と合わせて、動的光散乱またはゲル浸透クロマトグラ
フィーによりモニターされた場合、複合体形成が実質的に完了するまで、30~50℃で
30,000p.s.i.を超える圧力で均一化する。
【0275】
いくつかの実施形態においては、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特
許出願公開第2004/0067873号の実施例1に記載のコール酸塩分散法により、
リポタンパク質複合体を調製することができる。簡単に述べると、乾燥脂質をNaHCO
3バッファー中で水和した後、ボルテックスし、全ての脂質が分散するまで超音波処理す
る。コール酸塩溶液を添加し、混合物を、それが脂質コール酸塩ミセルが形成されること
を示す透明になるまで、定期的にボルテックスし、超音波処理しながら、30分間インキ
ュベートする。NaHCO3バッファー中のプロApoA-Iを添加し、溶液を約37℃
~50℃で1時間インキュベートする。
【0276】
コール酸塩を、当技術分野で周知の方法により除去することができる。例えば、コール
酸塩を、透析、限外濾過により、または親和性ビーズもしくは樹脂上への吸着吸収による
コール酸塩分子の除去により除去することができる。一実施形態においては、親和性ビー
ズ、例えば、BIO-BEADS(登録商標)(Bio-Rad Laboratori
es)を、負に荷電したリポタンパク質複合体およびコール酸塩の調製物に添加して、コ
ール酸塩を吸着させる。別の実施形態においては、調製物、例えば、リポタンパク質複合
体およびコール酸塩のミセル調製物を、親和性ビーズを充填したカラム上に通過させる。
【0277】
特定の実施形態においては、注射筒内のBIO-BEADS(登録商標)上に調製物を
ロードすることにより、リポタンパク質複合体の調製物からコール酸塩を除去する。次い
で、注射筒をバリアフィルムで密閉し、4℃で一晩、振とうしながらインキュベートする
。使用前に、BIO-BEADS(登録商標)を通して溶液を注入し、そこでビーズによ
り吸着させることによりコール酸塩を除去する。
【0278】
本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体などのリポタンパク質複合体は、
複合体がHDL、特に、プレ-β-1またはプレ-β-2HDL集団中のHDLと類似す
るサイズおよび密度を有する場合、循環中での半減期が増加すると予想される。長い保存
可能期間を有する安定な調製物を、凍結乾燥により作製することができる。いくつかの実
施形態においては、当技術分野で一般的に公知の同時凍結乾燥法を用いて、ApoA-I
-脂質複合体を調製する。簡単に述べると、同時凍結乾燥ステップは、有機溶媒もしくは
溶媒混合物中にApoA-Iおよび脂質の混合物を可溶化するか、またはApoA-Iお
よび脂質を別々に可溶化し、それらを一緒に混合することを含む。同時凍結乾燥のための
溶媒または溶媒混合物の望ましい特徴としては、(i)疎水性脂質および両親媒性タンパ
ク質を溶解することができる培地相対極性、(ii)残留有機溶媒に関連する潜在的毒性
を回避するためのFDA溶媒指針(Federal Register、volume 62、No. 247)に従うクラ
ス2またはクラス3溶媒、(iii)凍結乾燥中の溶媒除去の容易性を保証する低沸点、
(iv)より速い凍結、より高い凝縮温度ならびに凍結乾燥機上のより少ない摩耗および
裂け目を提供する高融点が挙げられる。いくつかの実施形態においては、氷酢酸を用いる
。メタノール、氷酢酸、キシレン、またはシクロヘキサンの組合せを用いることもできる
。
【0279】
次いで、ApoA-I-脂質溶液を凍結乾燥して、均一な粉末を得る。凍結乾燥条件を
最適化して、凍結乾燥したアポリポタンパク質-脂質粉末中に最少量の残留溶媒を含む溶
媒の速い蒸発を得ることができる。凍結乾燥条件の選択は、溶媒の性質、容器の種類およ
び寸法、保持溶液、充填容量、ならびに用いられる凍結乾燥機の特徴に応じて、当業者に
よって決定することができる。
【0280】
凍結乾燥したリポタンパク質複合体を用いて、医薬再製剤化のための大量供給物を調製
するか、またはリポタンパク質複合体の溶液もしくは懸濁液を得るために再構成させるこ
とができる個々のアリコートもしくは投与単位を調製することができる。再構成のために
は、凍結乾燥粉末を、好適な容量(例えば、5mgのポリペプチド/ml、これは静脈内
注射にとって好都合である)まで水性溶液を用いて再水和させる。いくつかの実施形態に
おいては、凍結乾燥粉末を、リン酸緩衝生理食塩水または生理的塩溶液を用いて再水和さ
せる。混合物を撹拌するか、またはボルテックスして、再水和を容易にすることができる
。再構成ステップは、複合体の脂質成分の相転移温度に等しいか、またはそれより高い温
度で実施することができる。
【0281】
ApoA-I-脂質複合体は、好適なpHおよび浸透圧の水性媒体を用いる凍結乾燥し
たアポリポタンパク質-脂質粉末の水和後に自発的に形成し得る。いくつかの実施形態に
おいては、水和媒体は、限定されるものではないが、スクロース、トレハロースおよびグ
リセリンから選択される安定剤を含有する。いくつかの実施形態においては、複合体を形
成させるために、脂質の転移温度より上に溶液を数回加熱する。脂質とタンパク質との比
は、1:1~200:1(モル/モル)であってよく、好ましくは、3:1~2:1の脂
質:タンパク質(w/w)、より好ましくは、2.7:1~2.1:1の脂質:タンパク
質(w/w)、例えば、2.7:1の脂質:タンパク質(w/w)である。粉末を水和し
て、タンパク質当量で表される5~30mg/mlの最終複合体濃度を得る。
【0282】
様々な実施形態においては、NH4HCO3水性溶液中でポリペプチド溶液を凍結乾燥
することにより、ApoA-I粉末を得ることができる。次いで、脂質粉末およびApo
A-I粉末を氷酢酸中に溶解することにより、ApoA-Iおよび脂質(例えば、スフィ
ンゴミエリン)の均一な溶液を形成させる。次いで、この溶液を凍結乾燥し、水性媒体中
での得られる粉末の水和により、HDL様アポリポタンパク質-脂質複合体を形成させる
。
【0283】
いくつかの実施形態においては、リン脂質とタンパク質溶液または懸濁液との同時凍結
乾燥により、ApoA-I-脂質複合体を形成させる。有機溶媒または有機溶媒混合物中
のApoA-Iおよび脂質(例えば、リン脂質)の均一な溶液を凍結乾燥した後、水性バ
ッファー中での凍結乾燥粉末の水和により、ApoA-I-脂質複合体を自発的に形成さ
せる。本発明の方法における使用のための有機溶媒および溶媒混合物の例としては、限定
されるものではないが、酢酸、酢酸/キシレン混合物、酢酸/シクロヘキサン混合物、お
よびメタノール/キシレン混合物が挙げられる。
【0284】
得られる再構成された調製物のアリコートを特性評価して、複合体が所望のサイズ分布
、例えば、HDLのサイズ分布を有することを確認することができる。サイズを特性評価
するための例示的方法は、ゲル濾過クロマトグラフィーである。既知の分子量およびスト
ークス直径の一連のタンパク質、ならびにヒトHDLを、カラムを補正するための標準物
として用いることができる。
【0285】
他の実施形態においては、ApoA-Iと、米国特許出願公開第2006/02173
12号および国際特許出願公開第WO2006/100567号(PCT/IB2006
/000635)(これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる)に開示された脂
質とを複合体化させることにより、組換えApoA-I-脂質複合体を作製する。
【0286】
米国特許第6,004,925号、第6,037,323号、第6,046,166号
および第6,287,590号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、H
DLと類似する特徴を有する負に荷電したリポタンパク質複合体を調製するための単純な
方法を開示する。有機溶媒(または溶媒混合物)中でのアポリポタンパク質と脂質溶液と
の同時凍結乾燥および凍結乾燥粉末の水和中の負に荷電したリポタンパク質複合体の形成
を含むこの方法は、以下の利点を有する:(1)この方法は非常に少ないステップを要す
る;(2)この方法は安価な溶媒を用いる;(3)ほとんどの、または全ての含まれる成
分が設計される複合体を形成させるために使用され、かくして、他の方法には一般的であ
る出発材料の廃棄を回避する;(4)保存の間に非常に安定である凍結乾燥した複合体が
形成され、得られた複合体を使用の直前に再構成することができる;(5)得られる複合
体を、通常は形成後および使用前にさらに精製する必要がない;(6)コール酸塩などの
洗剤を含む毒性化合物が回避される;および(7)製造方法を容易にスケールアップする
ことができ、これはGMP製造(すなわち、内毒素を含まない環境における)にとって好
適である。
【0287】
他の好適な方法は、米国特許出願公開第2006/0217312号および国際特許出
願公開第WO2006/100567号(PCT/IB2006/000635)に記載
されており、これらのそれぞれの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0288】
好ましくは、タンパク質および脂質成分の酸化を最小化するために、複合体形成の1、
2以上または全てのステップを、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウム)
ブランケット下で実行する。
【0289】
溶液中のアポリポタンパク質-脂質粒子のタンパク質および脂質濃度は、限定されるも
のではないが、タンパク質およびリン脂質アッセイ、クロマトグラフィー法、例えば、H
PLC、ゲル濾過、質量分析、UVまたはダイオードアレイなどの様々な検出器を備えた
GC、蛍光、弾性光散乱など当技術分野で公知の任意の方法により測定することができる
。また、脂質およびタンパク質の完全性を、同じクロマトグラフィー技術により、ならび
にペプチドマッピング、SDS-pageゲル電気泳動、ApoA-IのN-およびC-
末端配列決定、および脂質酸化を決定するための標準的アッセイにより決定することもで
きる。
【0290】
6.6.医薬組成物
本開示により想定される医薬組成物は、in vivoでの投与および送達にとって好
適な薬学的に許容される担体中に活性成分として負に荷電したリポタンパク質複合体を含
む。ペプチドは酸性および/または塩基性末端および/または側鎖を含んでもよいため、
ペプチド模倣性アポリポタンパク質を、遊離酸もしくは塩基の形態で、または薬学的に許
容される塩の形態で組成物中に含有させることができる。アミド化、アシル化、アセチル
化またはペグ化されたタンパク質などの改変タンパク質を用いることもできる。場合によ
り、医薬組成物は、上記の第6.2節および第6.3節に記載のように、1つまたは複数
の疎水性、親油性、または非極性活性剤をロードしたリポタンパク質複合体を含んでもよ
い。
【0291】
注射用組成物は、水性または油性ビヒクル中の活性成分の滅菌懸濁液、溶液または乳濁
液を含む。組成物はまた、懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの製剤化剤を含んで
もよい。いくつかの実施形態においては、注射用組成物は、リン酸緩衝生理食塩水(10
mMリン酸ナトリウム、80mg/mLスクロース、pH8.2)中に負に荷電したリポ
タンパク質複合体を含む。注射用の組成物を、単位剤形中で、例えば、アンプルまたは複
数用量容器中で提供することができ、添加された保存剤を含んでもよい。注入のために、
エチレンビニル酢酸または当技術分野で公知の任意の他の適合性材料などの、負に荷電し
たリポタンパク質複合体と適合する材料で作られた輸液バッグ中に組成物を供給すること
ができる。
【0292】
好適な剤形は、約5mg/mL~約15mg/mLのリポタンパク質の最終濃度で負に
荷電したリポタンパク質複合体を含む。特定の実施形態においては、剤形は、約8mg/
mL~約10mg/mLのアポリポタンパク質A-I、好ましくは、約8mg/mLの最
終濃度で負に荷電したリポタンパク質複合体を含む。
【0293】
好ましくは、タンパク質および脂質成分の酸化を最小化するために、医薬組成物を不活
性ガス(例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウム)ブランケット下で製剤化および/また
は充填する。
【0294】
6.7.治療方法
本明細書に記載のリポタンパク質複合体、例えば、負に荷電したリポタンパク質複合体
、および組成物を、有用であることが示された実質的に全ての目的のリポタンパク質複合
体のために用いることができる。負に荷電したリポタンパク質複合体などのリポタンパク
質複合体は、現在利用可能な治療レジメンにより必要とされるアポリポタンパク質の量(
2~5日毎に投与1回あたり20mg/kg~100mg/kg、平均的なサイズのヒト
1人あたり1.4g~8g)よりも有意に低い用量で投与された場合でも、コレステロー
ルを移動させるのに有効である。
【0295】
その結果、本開示の複合体および組成物は、心血管疾患、障害および/または関連状態
を治療または予防するのに特に有用である。対象における心血管疾患、障害および/また
は関連状態を治療または予防する方法は、一般的には、対象に、低い(<15mg/kg
)用量または量の本明細書に記載のリポタンパク質複合体または医薬組成物を、特定の適
応症を治療または予防するのに有効なレジメンに従って投与することを含む。
【0296】
治療的利益を提供するのに十分または有効な量のリポタンパク質複合体を投与する。心
血管疾患、障害および/または関連状態を治療する状況においては、治療的利益は、以下
の1つまたは複数が起こる場合に推測することができる:ベースラインと比較したコレス
テロール移動の増加、アテローム性動脈硬化プラーク体積の減少、平均血漿トリグリセリ
ド濃度の増加または肝臓トランスアミナーゼ(もしくはアラニンアミノトランスフェラー
ゼ)レベルの正常範囲を超える増加を伴わない、ベースラインレベルと比較した遊離コレ
ステロールの高密度リポタンパク質(HDL)画分の増加。完全な治癒は、望ましいが、
治療的利益の存在にとって必要ではない。
【0297】
いくつかの実施形態においては、リポタンパク質複合体を、注射1回あたり約2mg/
kgのApoa-I当量~約12mg/kgのApoA-I当量の用量で投与する。いく
つかの実施形態においては、リポタンパク質複合体を、約3mg/kgのApoA-I当
量の用量で投与する。いくつかの実施形態においては、リポタンパク質複合体を、約6m
g/kgのApoA-I当量の用量で投与する。いくつかの実施形態においては、リポタ
ンパク質複合体を、約12mg/kgのApoA-I当量の用量で投与する。
【0298】
治療される対象は、心血管疾患、障害および/または関連状態に罹患する個体である。
本明細書に記載のリポタンパク質複合体および組成物を用いて治療または予防することが
できるそのような心血管疾患、障害および/または関連状態の非限定例としては、末梢血
管疾患、再狭窄、アテローム性動脈硬化症、ならびに、例えば、脳卒中、虚血性脳卒中、
一過性虚血性発作、心筋梗塞、急性冠動脈症候群、狭心症、間欠性跛行、重症虚血肢、弁
狭窄、および心房弁硬化症などのアテローム性動脈硬化症の多種多様な臨床徴候が挙げら
れる。対象は、心筋梗塞(ST上昇を有するか、もしくは有さない)または不安定狭心症
などの急性冠動脈症候群を以前に発症した個体であってよい。治療される対象は、任意の
動物、例えば、哺乳動物、特に、ヒトであってよい。
【0299】
一実施形態においては、前記方法は、投与後に患者のベースラインApoa-Iを変化
させない量の本明細書に記載の荷電したリポタンパク質複合体または組成物を対象に投与
することを含む、心血管疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0300】
他の実施形態においては、前記方法は、投与前のベースライン(初期)レベルよりも、
投与の約2時間後に約5mg/dL~100mg/dLまたは投与の約24時間後に約5
mg/dL~20mg/dL高い遊離または複合体化アポリポタンパク質の血清レベルを
達成するのに有効である量の本明細書に記載のリポタンパク質複合体(例えば、荷電した
複合体)または組成物を対象に投与することを含む、心血管疾患を治療または予防する方
法を包含する。
【0301】
別の実施形態においては、前記方法は、投与前の初期HDL-コレステロール画分より
も少なくとも約10%高い、投与の少なくとも1日後のHDL-コレステロール画分の循
環血漿濃度を達成するのに有効な量の本明細書に記載のリポタンパク質複合体(例えば、
荷電した複合体)または組成物を対象に投与することを含む、心血管疾患を治療または予
防する方法を包含する。
【0302】
別の実施形態においては、前記方法は、投与後5分~1日の間に30~300mg/d
LであるHDL-コレステロール画分の循環血漿濃度を達成するのに有効な量の本明細書
に記載のリポタンパク質複合体(例えば、荷電した複合体)または組成物を対象に投与す
ることを含む、心血管疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0303】
別の実施形態においては、前記方法は、投与後5分~1日の間に30~300mg/d
Lであるコレステリルエステルの循環血漿濃度を達成するのに有効な量の本明細書に記載
のリポタンパク質複合体(例えば、荷電した複合体)または組成物を対象に投与すること
を含む、心血管疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0304】
さらに別の実施形態においては、前記方法は、投与前のベースライン(初期)レベルの
少なくとも約10%上である投与の少なくとも1日後の糞便コレステロール排出の増加を
達成するのに有効な量の本明細書に記載のリポタンパク質複合体(例えば、荷電した複合
体)または組成物を対象に投与することを含む、心血管疾患を治療または保護する方法を
包含する。
【0305】
本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体などのリポタンパク質複合体、ま
たは組成物を、単独で、または前記状態を治療もしくは予防するのに用いられる他の薬剤
との組合せ療法において用いることができる。そのような療法としては、限定されるもの
ではないが、含まれる薬剤の同時的または連続的投与が挙げられる。例えば、家族性高コ
レステロール血症(同型もしくは異型)などの高コレステロール血症またはアテローム性
動脈硬化症の治療においては、荷電したリポタンパク質製剤を、現在用いられている任意
の1つまたは複数のコレステロール低下療法;例えば、胆汁酸樹脂、ナイアシン、スタチ
ン、コレステロール吸収の阻害剤および/またはフィブラートと共に投与することができ
る。そのような組合せレジメンは、それぞれの薬剤がコレステロール合成および輸送にお
ける異なる標的に作用するため、特に有益な治療効果をもたらし得る;すなわち、胆汁酸
樹脂は、コレステロール再利用、カイロミクロンおよびLDL集団に影響する;ナイアシ
ンはVLDLおよびLDL集団に主に影響する;スタチンはコレステロール合成を阻害し
、LDL集団を減少させる(およびおそらく、LDL受容体発現を増加させる);その一
方、本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体などのリポタンパク質複合体は
、RCTに影響し、HDLを増加させ、コレステロール流出を促進する。
【0306】
別の実施形態においては、本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体などの
リポタンパク質複合体、または組成物を、フィブラートと一緒に用いて、冠動脈性心疾患
;冠動脈疾患;心血管疾患、再狭窄、血管または血管周囲疾患;アテローム性動脈硬化症
を治療または予防することができる(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む)
。例示的な製剤および治療レジメンは、以下に記載される。
【0307】
本明細書に記載の負に荷電したリポタンパク質複合体などのリポタンパク質複合体、ま
たは組成物を、小さいHDL画分、例えば、プレ-β、プレ-γおよびプレ-β様HDL
画分、αHDL画分、HDL3ならびに/またはHDL2画分を増加させる用量で投与す
ることができる。いくつかの実施形態においては、その用量は、例えば、磁気共鳴画像化
(MRI)または血管内超音波法(IVUS)などの画像化技術により測定された場合、
アテローム性動脈硬化プラークの減少を達成するのに有効である。IVUSにより追跡す
るパラメータとしては、限定されるものではないが、ベースラインからのアテローム体積
率の変化および総アテローム体積の変化が挙げられる。MRIにより追跡するパラメータ
は、限定されるものではないが、IVUSに関するものならびにプラークの脂質組成およ
び石灰化が挙げられる。
【0308】
プラークの退縮を、その自身の対照としての患者を用いて測定することができる(時間
0に対する、最後の注入の終わりの、または最後の注入の数週間以内の、または療法の開
始後3カ月、6カ月、もしくは1年以内の時間t)。
【0309】
静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内、皮下(SC)、および腹腔内(IP)注射な
どの非経口投与経路により、投与を最良に達成することができる。特定の実施形態におい
ては、投与は、パーフューザ(perfusor)、インフィルトレータ(infiltrator)またはカテ
ーテルによる。いくつかの実施形態においては、リポタンパク質複合体、例えば、負に荷
電したリポタンパク質複合体を、非経口投与により得られるものと同等の循環血清濃度を
達成する量で、注射により、皮下に埋込み可能なポンプにより、またはデポー調製物によ
り投与する。また、複合体を、例えば、ステントまたは他のデバイス中に吸収させること
もできる。
【0310】
投与は、様々な異なる治療レジメンを通じて達成することができる。例えば、数回の静
脈内注射を、注射の累積総量が1日中毒用量に達しないように1日の間に定期的に投与す
ることができる。この方法は、6、7、8、9、10、11または12日の間隔でリポタ
ンパク質複合体を投与することを含む。いくつかの実施形態においては、リポタンパク質
複合体は、1週間の間隔で投与される。
【0311】
前記方法は、上記の間隔のいずれかで4、5、6、7、8、9、10、11または12
回、リポタンパク質複合体を投与することをさらに含んでもよい。例えば、一実施形態に
おいては、リポタンパク質複合体を、それぞれの投与の間に1週間の間隔で6回投与する
。いくつかの実施形態においては、投与は、一連の注射として行った後、6カ月~1年間
停止し、次いで、別の一連の注射を開始することができる。次いで、一連の注射の維持を
、毎年または3~5年毎に投与することができる。一連の注射を1日(複合体の特定の血
漿レベルを維持するためのかん流)、数日(例えば、8日間にわたって4回の注射)また
は数週間(例えば、4週間にわたって4回の注射)にわたって行った後、6カ月~1年後
に再開することができる。慢性状態については、投与を継続的に実行することができる。
場合により、前記方法の前に、リポタンパク質複合体をより頻繁に投与する場合、誘導期
を行うことができる。
【0312】
さらに別の選択肢においては、投与1回あたり(50~200mg)の用量で約1~5
用量から出発した後、投与1回あたり200mg~1gの反復用量の高用量を投与するこ
とができる。患者の必要性に応じて、投与は、1時間より長い時間のゆっくりした注入、
1時間以下の急速な注入、または単回ボーラス注射によるものであってよい。
【0313】
様々なリポタンパク質複合体の毒性および治療有効性を、LD50(集団の50%に対
して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療上有効である用量)
を決定するための細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順を用いて決定す
ることができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療指数であり、それをLD50
/ED50比として表すことができる。大きい治療指数を示す負に荷電したリポタンパク
質複合体などのリポタンパク質複合体が好ましい。追跡することができるパラメータの非
限定例としては、肝機能トランスアミナーゼ(正常ベースラインレベルの2倍以下)が挙
げられる。これは、多すぎるコレステロールが肝臓にもたらされ、そのような量を同化す
ることができないことを示すものである。赤血球からのコレステロールの移動は、赤血球
を脆くするか、またはその形状に影響するため、赤血球に対する効果をモニターすること
もできる。
【0314】
医療行為(例えば、予防的治療)の前、または医療行為の間もしくは後に、数日から数
週間、患者を治療することができる。投与は、血管形成術、頸動脈切断(carotid ablatio
n)、ロトブレーダー(rotoblader)または臓器移植(例えば、心臓、腎臓、肝臓など)など
の別の侵襲的療法に付随的なものであるか、またはそれと同時的なものであってよい。
【0315】
特定の実施形態においては、負に荷電したリポタンパク質複合体は、コレステロール合
成がスタチンまたはコレステロール合成阻害剤によって制御されている患者に投与される
。他の実施形態においては、負に荷電したリポタンパク質複合体は、胆汁酸塩およびコレ
ステロールを捕らえるために、胆汁酸排出を増加させ、血中コレステロール濃度を低下さ
せるために、結合樹脂、例えば、半合成樹脂、例えば、コレスチルアミンで、または繊維
、例えば、植物性繊維を用いる治療を受けている患者に投与される。
【0316】
6.8.他の使用
本明細書中に記載のリポタンパク質複合体、例えば、負に荷電したリポタンパク質複合
体、および組成物は、例えば、診断目的で、血清HDLを測定するためにin vitr
oでのアッセイにおいて用いることができる。ApoA-I、ApoA-IIおよびAp
oペプチドは、血清のHDL成分と結合するので、負に荷電したリポタンパク質複合体を
、HDL集団、ならびにプレ-β1およびプレ-β2 HDL集団の「マーカー」として
用いることができる。さらに、負に荷電したリポタンパク質複合体を、RCTにおいて有
効なHDLのサブ集団のマーカーとして用いることができる。この目的のために、負に荷
電したリポタンパク質複合体を、患者血清試料に添加するか、または患者血清試料と混合
することができる;適切なインキュベーション時間の後に、組み込まれた負に荷電したリ
ポタンパク質複合体を検出することによって、HDL成分をアッセイすることができる。
これは、標識された負に荷電したリポタンパク質複合体(例えば、放射性標識、蛍光標識
、酵素標識、染料など)を使用して、または負に荷電したリポタンパク質複合体に対して
特異的な抗体(もしくは抗体断片)を使用する免疫アッセイによって、達成することがで
きる。
【0317】
あるいは、標識された負に荷電したリポタンパク質複合体は、循環系を可視化するため
に、またはRCTをモニターするために、またはHDLがコレステロール流出において活
性であるはずである脂肪線条(fatty streak)、アテローム性動脈硬化症病変などにおける
HDLの蓄積を可視化するために、画像化手順(例えば、CATスキャン、MRIスキャ
ン)において用いることができる。
【0318】
特定のプロApoA-I-脂質複合体の調製および特性評価に関連する例およびデータ
は、米国特許出願公開第2004/0067873号(その開示はその全体が参照により
本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0319】
特定のプロApoA-I-脂質複合体を用いて動物モデル系において得られたデータは
、米国特許出願公開第2004/0067873号(その開示はその全体が参照により本
明細書に組み込まれる)に記載されている。
【実施例0320】
7.実施例1:ApoA-I発現系の開発
7.1.チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中でのヒトApoA-Iのクロー
ニングおよび発現
7.1.1.ApoA-I発現ベクターの調製
プレプロApoA-I遺伝子配列はNCBI(P02647)から取得し、クローニン
グを容易にし、発現を改善するためにフランキング配列を付加した。フランキング配列を
含むプレプロApoA-IコードDNAを合成し、Bluescript KS+ベクタ
ー中にクローニングした。5’フランキング配列は、最適化されたKozak翻訳配列を
含んでいた。HindIIIおよびBglII制限酵素を用いて、Bluescript
KS+ベクターから、プレプロApoA-I挿入物を切り出した。この断片をゲル精製
し、以下の遺伝子エレメント:Molony Murine Sarcomaウイルス5
’LTRに融合されたヒトサイトメガロウイルスプロモーター、MoMuLV/SVパッ
ケージング領域、極初期サルサイトメガロウイルスプロモーター、マルチクローニング部
位、MoMuLV由来3’LTR、ならびに細菌の複製起点およびβ-ラクタマーゼ遺伝
子を担持するレトロウイルス発現ベクター中にライゲーションした。得られた構築物のク
ローンを、遺伝子およびフランキング領域を通じて配列決定した。最終的なクローン(ク
ローン#17)を、予測されるDNA配列との一致に基づいて選択した。次いで、Ves
icular Stomatitis Virusエンベロープ糖タンパク質のための発
現プラスミドで同時トランスフェクトした293GP細胞を用いる形質導入のために、レ
トロベクターを調製した。同時トランスフェクトされた細胞から回収され、濃縮された上
清を、以下の第7.1.2節に記載のCHO-S形質導入ステップに用いた。
【0321】
7.1.2.ApoA-Iの発現のための哺乳動物細胞系の製造
無血清培地中での増殖のために適合させたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-
S)を、上記の第7.1.1節に記載のレトロウイルスベクターを用いる3ラウンドの形
質導入(1X、2Xおよび3X)にかけた。それぞれの形質導入後の低温保存のために、
プールされた集団を拡張し、細胞の試料を遺伝子コピー分析に提出した。遺伝子コピー指
数を以下の表2に示す。3X形質導入細胞系を、125mLフラスコ中で2回、16日の
フェドバッチ試験における生産性について分析した。その結果を表3に示す。
【0322】
【0323】
【0324】
7.1.3.ApoA-Iを発現する細胞系の安定性
ApoA-Iを産生するマスター細胞バンクであるCHO-S-ApoA-I-R(3
X)クローン17に対して、その生存能力の安定性、増殖速度、遺伝子挿入物の保護、お
よび長期培養中の一貫した生成物分泌を評価するために、非GMP特性評価試験を行った
。
【0325】
細胞系をマスター細胞バンクから解凍し、PF CHO LS培地(HyClone、
Logan UT)を用いて125mL振とうフラスコ中で培養した。細胞を、世代0か
ら世代43までの連続継代により、連続的に培養した。世代4、8、14、19、25、
31、36および43で、細胞の試料を凍結した。培養の終わりに、全世代に由来する細
胞の試料を解凍し、これを用いて、同じ実験における異なる世代での細胞系のApoA-
Iタンパク質産生を比較するための最後の培養実行を行った。それぞれの試料から得られ
た上清を、逆相HPLC分析を用いて12日目に試験して、ApoA-I産生のレベルを
決定した。ApoA-I濃度は、様々な試料について1259mg/Lから1400mg
/Lまで変化することがわかった(
図2)。
【0326】
遺伝子挿入物の安定性を比較するために、世代0、4、14、25、36および43で
のCHO細胞の試料を、DNA単離のために用いた。それぞれの試料の遺伝子挿入物の数
を、ゲノムDNA上でのリアルタイムPCRを用いて決定した。表3に示された通り、コ
ピー数のPCRに基づく指数は、世代0と世代43との間の重複する標準偏差に基づけば
有意に異なっていた。マスター細胞バンク細胞系からのApoA-Iの産生および遺伝子
コピー指数値は、試験した43世代にわたって安定であることがわかった。
【0327】
【0328】
7.2.ApoA-Iの細胞増殖および収穫
7.2.1.接種材料および200Lバイオリアクター製造へのスケールアップ
マスター細胞バンクからのヒトApoA-I遺伝子を安定にトランスフェクトされたC
HO-S細胞のバイアルを37℃水浴中で解凍し、35mLのHyQ PF-CHO L
S細胞培養培地を含有する単一の振とうフラスコ(250mL)(Thermo Fis
her Scientific)に添加した。血球計を用いて決定された初期細胞計数は
、2.48x105細胞/mLであり、93.8%の生存率であった。次いで、培養物を
、加湿された5%CO2環境中、37℃で維持したインキュベータ内のOrbit振とう
器(90rpm)上に置いた。継代培養ステップは、約1.6x105細胞/mLの接種
密度を目標とした。フラスコ中の4日目の細胞計数および生存率は、15.01x105
細胞/mLおよび93.9%の生存率であった。250mLのフラスコを1Lのフラスコ
に継代培養した。1Lフラスコからの3日目の平均生細胞計数は、13.56x105細
胞/mLであり、95.3%の生存率であった。この1Lフラスコを、それぞれ、100
0mLおよび1.75x105細胞/mLの初期培養容量および初期標的細胞密度で10
Lの使い捨てWave Bag(GE Healthcare Bioscience
Bioprocess Corp、Somerset、NJ)を含むWave Bior
eactor System 20EHに継代培養した。Wave Bioreacto
r運転設定は、37℃のインキュベーション温度、15.0cpmの振とう速度、10.
9°の振とう角度、および0.25L/分のガス流速を用いる通気ガス中、5.0%のC
O2濃度であった。培養の3日後、Wave Bag中の生細胞密度は10.73x10
5細胞/mLであり、新鮮なHyQ PF-CHO LSを添加し、培養容量を5000
mLにした。さらに3日後、生細胞密度は13.25x105細胞/mLであり、Wav
e Bag中の容量を30Lバイオリアクターに移した。温度、pH、溶解酸素、圧力、
および撹拌速度に関する30Lバイオリアクターにおける運転設定点は、それぞれ、37
℃、pH7.0、40%空気飽和、1psig圧力、および50rpm撹拌速度であった
。
【0329】
30Lバイオリアクター中の生細胞密度は、培養の3日目に10.80x10
5細胞/
mLであり、これは2.40x10
5細胞/mLの初期標的密度で200Lバイオリアク
ターに接種するのに十分なものであった。30Lの全内容物を移したところ、接種後の重
量、細胞密度および生存率は、それぞれ、134.5Kg、2.37x10
5細胞/mL
および90.9%であった。温度、pH、溶解酸素、圧力、および撹拌速度に関する20
0Lバイオリアクターにおける運転設定点は、それぞれ、37℃、pH7.0、40%空
気飽和、1psig圧力、および35rpm撹拌速度であった。3日目に、細胞密度は1
5.71x10
5細胞/mLであり、これは、バイオリアクターに60L(v/v)の完
全培地(AGT CD CHO 5X、Invitrogen)および200mMのL-
グルタミン(最終濃度10mM)溶液を添加するのに十分なものであった。8および12
日目に、グルコースレベルは5g/L以下まで低下し、これは3g/Lのグルコース(2
0%)溶液の添加を誘発した。9日目に生細胞密度は33.20x10
5細胞/mLでピ
ークに達し、92.5%の生存率であった。78.5%の細胞密度で13日目にバイオリ
アクターを収穫した。培養期間を通じた培養物の細胞計数および生存率を
図3Aに示し、
培養期間を通じた培養培地中のApoA-I濃度を
図3Bに示す。
【0330】
7.2.2.細胞の収穫、細胞分離および保存
バイオリアクターの内容物を2つのCuno(Rutherford、NJ、USA)
60M02 Maximizerフィルター、次いで、Millipore 0.22μ
m Opticap(Billercia、MA、USA)に通過させることにより、バ
イオリアクターからの培地を200Lの袋に収穫した。次いで、清澄化された培地を、分
散操作まで2~8℃で保存した。清澄化された培地を、Millipore 0.22μ
mフィルター(Billerica、MA、USA)を通して濾過し、2Lの滅菌PET
Gボトル(ThermoFisher、Marietta、OH、USA)中に分注した
後、出荷されるまで-20℃で凍結した。