(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170538
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】無水チオ硫酸ナトリウムの製剤化
(51)【国際特許分類】
A61K 33/04 20060101AFI20241203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20241203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241203BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241203BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241203BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241203BHJP
A61K 33/243 20190101ALN20241203BHJP
【FI】
A61K33/04
A61P43/00 121
A61P27/16
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/02
A61K47/36
A61K47/40
A61K47/32
A61K47/04
A61K33/243
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024152867
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2020573384の分割
【原出願日】2019-07-01
(31)【優先権主張番号】62/693,503
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/693,502
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】517252004
【氏名又は名称】フェネック ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,クリストファー,マッキノン
(72)【発明者】
【氏名】ラブレース,トーマス,クレイボーン
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,ジョセフ,アレクサンダー,ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー,ダニエル,ローガン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,アレクサンダー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】白金ベースの化学療法に起因する小児患者の聴器毒性を軽減または予防するためのチオ硫酸ナトリウム含有製剤を提供する。
【解決手段】白金ベースの化学療法に対し敏感な癌の治療のために前記白金ベースの化学療法を受けている小児患者における聴器毒性を軽減または予防するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、約0.5Mの濃度のチオ硫酸ナトリウムと、安定剤とを含み、前記医薬組成物が、必要に応じて、pH6.5~8.9になるように調整されており、前記医薬組成物が、ホウ酸イオンを含まない、前記医薬組成物とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金ベースの化学療法に対し敏感な癌の治療のために前記白金ベースの化学療法を受けている小児患者における聴器毒性を軽減または予防するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、約0.5Mの濃度のチオ硫酸ナトリウムと、安定剤とを含み、前記医薬組成物が、必要に応じて、pH6.5~8.9になるように調整されており、前記医薬組成物が、ホウ酸イオンを含まない、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記安定剤が、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、プロリン、グルコース、スクロース、トレハロース、グリセロール、グリシン、マンニトール、ソルビトール、硫酸ナトリウム、EDTA、シクロデキストリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、およびトロメタミンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、pH調整剤を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記pH調整剤が、塩酸を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記pH調整剤が、水酸化ナトリウムを含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記小児患者が、5歳以下である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物がpH8.6~8.8である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記安定剤が、グリシンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記安定剤が、トロメタミンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記安定剤が、アラニンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記安定剤が、アルギニンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記安定剤が、アスパラギン酸である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記安定剤が、ヒスチジンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記安定剤が、リジンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記安定剤が、プロリンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記安定剤が、グルコースである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記安定剤が、スクロースである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記安定剤が、トレハロースである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記安定剤が、グリセロールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記安定剤が、マンニトールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記安定剤が、ソルビトールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記安定剤が、硫酸ナトリウムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記安定剤が、EDTAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記安定剤が、シクロデキストリンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記安定剤が、デキストランである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記安定剤が、ポリエチレングリコールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記安定剤が、ポリビニルピロリドンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記白金ベースの化学療法が、シスプラチンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記医薬組成物が、シスプラチンの投与完了後約6時間目に前記小児患者に投与される、請求項28に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、いずれも2018年7月3日に出願された米国仮特許出願第62/693,502号および第62/693,503号の優先権を主張するものであり、該文献の全内容は、本明細書において参照により援用されている。本出願は、2019年7月1日に出願された「ANHYDROUS SODIUM THIOSULFATE AND FORMULATIONS THEREOF」と題した米国特許出願第16/458,261号に関連している。該文献の全内容は、本明細書において参照により援用されている。
【0002】
無水チオ硫酸ナトリウム、該無水チオ硫酸ナトリウム、およびその医薬組成物を合成するための方法が、本明細書に記載されている。これらの組成物は、白金ベースの化学療法を受けている患者における聴器毒性を排除または低減するうえで有用とされる。
【背景技術】
【0003】
白金ベースの治療法は、神経芽細胞腫、肝芽腫、髄芽腫、骨肉腫、悪性胚細胞腫瘍、鼻咽頭癌などの様々な小児悪性腫瘍において使用される治療レジメンの極めて重要な構成要素とされている。遍く使用されている用量およびスケジュールでは、シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金ベースの治療法は、進行性、両側性、不可逆性を引き起こすこともしばしばであり、耳鳴りを伴う場合も多い。白金化学療法に基づく難聴は、蝸牛外有毛細胞の死に起因するものであり、全ての聴力に影響を及ぼす恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの毒性によって用量が制限される可能性があり、特に認知、心理社会的、言語発達のために通常の聴覚に決定的に依存している幼児において、しばしば臨床的に有意である。幼児におけるシスプラチン誘発性難聴の発症率は約40%に達しており、或る或る特定の脆弱な群では、発生率が100%に近い。小児科における難聴は軽度の場合でも、その影響は実質的であり、とりわけ、言語習得、学習、学業成績、社会的および感情的発達、および生活の質の低下を伴う。それゆえ、安全で効果的な医薬組成物、ならびに、小児患者を治療し、白金ベースの治療法の有効性を損なうことなしにこれらの患者の聴器毒性および難聴を軽減する方法に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に記載の一実施形態は、チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、溶媒とを具備する、医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを具備する、医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを具備する、医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、本質的に無水チオ硫酸ナトリウムからなる医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、本質的に水性無水チオ硫酸ナトリウムからなる医薬組成物である。
【0006】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーとを具備する、医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーとからなる、医薬組成物である。一態様において、本組成物は、約20mg~32gの無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、組成物は、約98質量%の無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本組成物は乾燥粉末である。別の態様において、本組成物は凍結乾燥溶液である。
【0007】
本明細書に記載の別の実施形態は、水性無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、溶媒とを具備する、医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、本質的に無水チオ硫酸ナトリウム、1つ以上のバッファー、および溶媒からなる医薬組成物である。
【0008】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5Mの1つ以上のバッファーと、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.01M~約0.5M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5M且つpH8.6~8.8のホウ酸またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5M且つpH8.5~8.9のグリシンまたはその塩と、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタン)またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。
【0009】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む医薬組成物である。本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタン)またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。
【0010】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、溶媒とを具備する、医薬組成物である。一態様において、本組成物は、約20mg/mL~320mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本組成物は、約8質量%~約32質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本組成物は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本組成物は、約0.001M~約0.5Mの1つ以上のバッファーを含む。別の態様において、1つ以上のバッファーは、ホスフェート(リン酸塩)、サルフェート(硫酸塩)、カルボネート(炭酸塩)、ボレート(ホウ酸塩)、ホルマート(ギ酸塩)、アセテート(酢酸塩)、プロピオネート(プロピオン酸塩)、ブタノエート(ブタン酸塩)、ラクテート(乳酸塩)、グリシン、マレアート(マレイン酸塩)、ピルベート(ピルビン酸塩)、シトレート(クエン酸塩)、アコニテート(アコニット酸塩)、イソシトレート(イソクエン酸塩)、α-ケトグルタレート(α-ケトグルタル酸塩)、スクシネート(コハク酸塩)、フマレート(フマル酸塩)、マレート(リンゴ酸塩)、オキサロアセテート(オキサロ酢酸塩)、アスパルテート(アスパラギン酸塩)、グルタメート(グルタミン酸塩)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、それらの組み合わせ、またはそれらの塩を含む。別の態様において、本組成物は、pH約5~約9.5である。別の態様において、本組成物は、pH約6.5または約8.9である。別の態様において、1つ以上のバッファーは、ホウ酸塩(borate)もしくはその塩、グリシンもしくはその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)もしくはその塩、またはリン酸塩(phosphate)もしくはその塩を含む。別の態様において、1つ以上のバッファーは、ホウ酸、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはリン酸ナトリウムを含む。別の態様において、溶媒は水を含む。別の態様において、本組成物は無菌である。
【0011】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、0.001M~約0.5Mのリン酸ナトリウムまたはホウ酸とを含む医薬組成物である。一態様において、本組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムとを含む。別の態様において、本組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸塩またはその塩とを含む。別の態様において、本組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンまたはその塩とを含む。別の態様において、本組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)またはその塩とを含む。
【0012】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む医薬組成物である。
【0013】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸塩またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。
【0014】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンまたはその塩と、水とを含む医薬組成物である。
【0015】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)またはその塩と、水とを含む医薬組成物である。
【0016】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水硫酸ナトリウムを1つ以上のバッファーおよび溶媒と組み合わせることを含む、無水チオ硫酸ナトリウム含有の医薬製剤を調製するための方法である。一態様において、本方法は、製剤を濾過および滅菌することを更に含む。別の態様において、本製剤は、約20mg/mL~320mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本製剤は、約8質量%~約32質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本製剤は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の態様において、本製剤は、約0.001M~約0.5Mの1つ以上のバッファーを含む。別の態様において、1つ以上のバッファーは、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ブタン酸塩、乳酸塩、グリシン、マレイン酸塩、ピルビン酸塩、クエン酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、α-ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、それらの組み合わせ、またはそれらの塩を含む。別の態様において、本製剤は、pH約5~約9.5である。別の態様において、本製剤は、pH約6.5または約8.9である。別の態様において、1つ以上のバッファーは、ホウ酸塩もしくはその塩、グリシンもしくはその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)もしくはその塩、またはリン酸塩もしくはその塩を含む。別の態様において、1つ以上のバッファーは、リン酸ナトリウム、グリシン、またはホウ酸を含む。別の態様において、溶媒は水を含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0017】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む、本明細書に記載の方法により製造された医薬製剤である。
【0018】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む、本明細書に記載の方法により製造された医薬製剤である。
【0019】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む、本明細書に記載の方法により製造された医薬製剤である。
【0020】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む、本明細書に記載の方法により製造された医薬製剤である。
【0021】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水硫酸ナトリウムを1つ以上のバッファーおよび溶媒と組み合わせることを含む、無水チオ硫酸ナトリウム含有の医薬製剤を調製するための手段である。別の実施形態は、本明細書に記載の手段によって調製された医薬製剤である。
【0022】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.2M~約2Mのチオ硫酸ナトリウム水溶液と、約0.001M~約0.05Mの医薬的に許容されるバッファーと、約0.005M~約0.05M且つpH約5~約9.5の医薬的に許容される塩とを含む医薬組成物である。
【0023】
本明細書に記載の別の実施形態は、水性チオ硫酸ナトリウムを収容した1つ以上のレセプタクルを備える水性チオ硫酸ナトリウム製剤と、処方情報または使用説明書が収録されている文書とを具備したキットである。一態様において、本キットは、1つ以上のシリンジと、皮下注射ニードルと、パッケージとを更に具備する。
【0024】
本明細書に記載の別の実施形態は、乾燥もしくは凍結乾燥済みチオ硫酸ナトリウムを収容した1つ以上のレセプタクルと、任意選択的に、再構成に適した1つ以上の無菌溶媒、ニードルおよびシリンジと、処方情報または使用説明書が収録されている文書とを具備したキットである。
【0025】
本明細書に記載の別の実施形態は、滅菌および貯蔵後に沈殿することのない安定な注射用水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、医薬製剤である。一態様において、本製剤は、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウム、0.001M~約0.5Mのリン酸ナトリウム、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはホウ酸を含む。
【0026】
本明細書に記載の別の実施形態は、X線粉末回折(XRPD)パターンを特徴とする無水チオ硫酸ナトリウムであって、銅Kα放射線を使用して約2~約40°2θまで収集された場合に、10.52、15.13、17.71、19.70、21.09、21.49、21.84、27.40、28.96、30.46、31.81、32.52、33.15、37.40、または38.16°2シータ(2θ)±0.2から選択された少なくとも4つのピークが本XRPDパターンに包含される。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウムは、X線粉末回折(XRPD)パターンを特徴とするものであり、本XRPDが銅Kα放射線を使用して約2~約40°2θまで収集された場合に、10.52、15.13、19.70、21.49、21.84、28.96、30.46、33.15、37.40、および38.16°2シータ(2θ)±0.2から選択される少なくとも4つのピークが、本XRPDパターンに包含される。別の態様において、無水チオ硫酸ナトリウムは、示差走査熱量測定による融解開始が約331℃であることと、熱重量分析から明らかにされるように、重量損失が周囲温度~162℃にて僅少であることと、重量損失が162℃~309℃にて14.8%であることと、436℃にて分解が開始されることを特徴とする。
【0027】
本明細書に記載の別の実施形態は、0.1μg/g以下のカドミウムと0.25μg/g以下の鉛と0.75μg/g以下のヒ素と、0.15μg/g以下の水銀と、0.25μg/g以下のコバルトと、0.5μg/g以下のバナジウムと、1.0μg/g以下のニッケルと、12.5μg/g以下のリチウムと、4.5μg/g以下のアンチモンと、15.0μg/g以下の銅と、1500ppm以下のメタノールと、3%(w/w)以下の水と、1.65%(w/w)以下の総不純物または関連物質と、を具備する無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0028】
本明細書に記載の別の実施形態は、表面作用剤の存在下で亜硫酸ナトリウムを硫黄と反応させることを含む、チオ硫酸ナトリウムを合成する方法である。一態様において、表面作用剤は、塩化セチルピリジニウムを含む。別の態様において、反応は水性である。別の態様において、反応は約80℃~約100℃で遂行される。別の態様では、チオ硫酸ナトリウムを結晶化させてからアセトンで洗浄する。
【0029】
本明細書に記載の別の実施形態は、塩化セチルピリジニウムの存在下で亜硫酸ナトリウムを硫黄と反応させ、チオ硫酸ナトリウム生成物を脱水することを含む、無水チオ硫酸ナトリウムを合成する方法である。一態様において、本反応は、1.0モル当量の亜硫酸ナトリウムと、1.1モル当量の硫黄と、0.00013モル当量の塩化セチルピリジニウムとを含む。別の態様において、反応は水性である。別の態様において、反応は約80℃~約100℃で遂行される。別の態様では、チオ硫酸ナトリウムを結晶化させてからアセトンで洗浄する。別の態様では、チオ硫酸ナトリウムを脱水させて、メタノールで洗浄する。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムを乾燥させる。
【0030】
本明細書に記載の別の実施形態は、(a)水性亜硫酸ナトリウムを硫黄および塩化セチルピリジニウムと反応させることと、(b)チオ硫酸ナトリウムを結晶化させて、アセトンで洗浄することと、(c)洗浄したチオ硫酸ナトリウムをメタノールで脱水することと、(d)脱水されたチオ硫酸ナトリウムを乾燥させることとを含む、無水チオ硫酸ナトリウムを合成するための方法である。一態様において、本反応は、1.0モル当量の亜硫酸ナトリウムと、1.1モル当量の硫黄と、0.00013モル当量の塩化セチルピリジニウムとを含む。
【0031】
本明細書に記載の別の実施形態は、(a)0.00013モル当量の塩化セチルピリジニウムの存在下で、約90℃~約100℃にて、1.0モル当量の水性亜硫酸ナトリウムを1.1モル当量の硫黄と反応させることと、(b)チオ硫酸ナトリウムを2℃未満で結晶化させて、アセトンで洗浄することと、(c)洗浄したチオ硫酸ナトリウムをメタノールで脱水することと、(d)脱水されたチオ硫酸ナトリウムを脱水されたチオ硫酸ナトリウムを約25℃~約60℃にて乾燥させることとを含む、無水チオ硫酸ナトリウムを合成するための方法である
【0032】
本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載の方法で合成された無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0033】
本明細書に記載の別の実施形態は、塩化セチルピリジニウムの存在下で亜硫酸ナトリウムを硫黄と反応させることと、チオ硫酸ナトリウム生成物を結晶化させることと、チオ硫酸ナトリウム生成物を脱水することとを含む、無水チオ硫酸ナトリウムの合成手段である。
【0034】
本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載の手段で合成された無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0035】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウム五水和物を本質的に含まない、無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0036】
本明細書に記載の別の実施形態は、(a)1つ以上の比率のチオ硫酸ナトリウムを所定量のシスプラチンと混合することと、(b)混合物を一定の時間インキュベートすることと、(c)シスプラチンの見かけ上の濃度を分析することとを含む、シスプラチンに対するチオ硫酸ナトリウムの結合能力を測定するための方法である。一態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1~1:1が包含される。別の態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1、6:1および5:1が包含される。別の態様では、インキュベーション時間に、1分~180分が包含される。別の態様では、インキュベーション時間に、約5分、約35分、約65分および約95分が包含される。別の態様では、本分析に、HPLCとUV検出とが含まれる。
【0037】
本明細書に記載の別の実施形態は、1か月から18歳未満の、限局性非転移性固形腫瘍患者におけるシスプラチン(CIS)化学療法誘発性聴器毒性の発生率を予防または低減するための方法であり、本方法は、CISが6時間以内に注入された場合、各CIS投与完了後6時間目に、注射用チオ硫酸ナトリウムを15分間注入して投与することを含む。
【0038】
また、白金ベースの化学療法を受けた患者の聴器毒性を低減するための組成物および方法も、本明細書に記載されている。特に、小児患者の聴器毒性を低減するための、組成物および静脈内製剤が記載されている。また、組成物および製剤を投与するための方法も記載されている。本方法は、白金ベースの化学療法剤の投与に続いて、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。本明細書に記載されているように、チオ硫酸ナトリウムの投与は、白金ベースの化学療法剤の有効性に悪影響を及ぼすことなしに、小児患者における聴器毒性の発生率および重症度を低下させることが見出された。一態様において、本方法は、本明細書に記載のチオ硫酸ナトリウム医薬組成物を投与することを含む。別の態様において、医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。別の実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている患者における聴器毒性を軽減する方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。
【0039】
別の実施形態は、癌を患っている患者を予防的に治療し、白金ベースの化学療法を受けて、患者が聴器毒性を被る確率を減らす方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。一態様において、本方法は、本明細書に記載のチオ硫酸ナトリウム医薬組成物を投与することを含む。一態様において、医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0040】
別の実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている患者における長期聴器毒性を軽減する方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。一態様において、本方法は、本明細書に記載のチオ硫酸ナトリウム医薬組成物を投与することを含む。別の態様において、医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0041】
別の実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている患者の耳腔内のシスプラチンの濃度を低下させる方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。本方法によれば、耳腔内においてシスプラチンを実質的に検出できずにチオ硫酸ナトリウムを投与された患者に対し白金ベースの化学療法剤に起因する聴器毒性が及ぼす影響は、低減される。
【0042】
別の実施形態は、患者に対し白金ベースの化学療法化合物を投与したことに関連する聴器毒性効果を阻害する方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを患者に投与することを含む。
【0043】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、保菌者(carrier)である患者は遺伝子座rs1872328の遺伝子ACYP2内に一塩基多型を有する。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムを投与された患者は、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない患者よりも聴器毒性を経験する確率が約20%~約75%低い。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムを投与された患者は、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない患者よりも聴器毒性を経験する確率が約50%低い。いくつかの実施形態において、聴器毒性には、難聴、平衡障害、耳鳴り、聴覚過敏、またはそれらの組み合わせが包含される。
【0044】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、白金ベースの化学療法剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、およびサトラプラチンから選択される。いくつかの実施形態において、白金ベースの化学療法剤はシスプラチンである。
【0045】
いくつかの実施形態において、治療中の癌は限局性または播種性である。いくつかの実施形態において、治療中の癌は限局性である。いくつかの実施形態において、治療中の癌は、胚細胞腫瘍、肝芽腫、髄芽腫、神経芽細胞腫、および骨肉腫から選択される。いくつかの実施形態において、治療中の癌は肝芽腫である。いくつかの実施形態において、治療中の癌は、標準リスクの癌、中等度リスクの癌、または高度リスクの癌である。いくつかの実施形態において、治療中の癌は、標準リスクの癌または中等度リスクの癌である。いくつかの実施形態において、治療中の癌は、標準リスクまたは中等度リスクの肝芽腫である。
【0046】
いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは、白金ベースの化学療法剤の投与前、投与と同時に、または投与後に投与される。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは、白金ベースの化学療法剤の投与後約0.5時間目~約10時間目に投与される。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは静脈内投与される。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムの有効量は、白金ベースの化学療法剤のサイクル当たり約5g/m2~約25g/m2である。いくつかの実施形態において、患者は、白金ベースの化学療法剤のサイクル当たり約1mg/kg~約5mg/kgまたは約10mg/m2~約300mg/m2の用量で治療される。一態様において、チオ硫酸ナトリウムは、本明細書に記載の医薬組成物を含む。別の態様において、チオ硫酸ナトリウム医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0047】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、聴器毒性は、耳鳴り機能指数、ブロックグレーディング(Brock grading)、米国音声言語聴覚協会基準(American Speech-Language-Hearing Association criteria)、または国際小児腫瘍学会ボストン聴器毒性スケール(International Society of Pediatric Oncology Boston Ototoxicity Scale)を含む1つ以上の基準によって決定される。いくつかの実施形態において、聴器毒性は、500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hz、または8,000Hz、またはそれらの周波数の組み合わせを含む1つ以上の周波数にて難聴を測定することによって測定される。その際、聴力の変化は、患者が白金ベースの化学療法もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を受ける前のベースライン測定値と比較して算定される。
【0048】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、聴器毒性は、1つ以上の基準によって算定され、この基準として挙げられるのは、下記:(a)単一周波数にて20dBの損失によって測定された聴力の低下、(b)連続する2周波数にて10dBの損失によって測定される聴力の低下、(c)応答が以前に得られた連続する3試験周波数における応答の喪失、(d)下記特徴を有する両側高周波難聴の減少:(i)全ての周波数にて40dB未満の難聴であって、グレード0もしくは最小の難聴を示すもの、(ii)8,000Hzにおいてのみ40dB以上の難聴であって、グレード1もしくは軽度の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード2もしくは中等度の難聴を示すもの、(iv)2,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード3もしくは顕著な難聴を示すもの、(v)1,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード4もしくは重篤な難聴を示すもの、あるいは、(e)下記特徴を有する聴力の低下:(i)全ての周波数にて20dB以下の難聴であって、グレード0の難聴を示すもの、(ii)4,000Hz超20dB超のHLであって、グレード1の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて20dB超のHLであって、グレード2の難聴を示すもの、(iv)2,000Hzもしくは3,000Hzにて20dB超のHLであって、グレード3の難聴を示すもの、(v)2,000Hz以上にて40dB超のHL、これはグレード1の難聴を示すもの、あるいは、(f)耳鳴り機能指数の改善であって、聴力の変化が、患者が白金ベースの化学療法剤もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を投与される前のベースライン測定値と比較して計算されるもの、である。いくつかの実施形態において、チオ硫酸ナトリウムを投与された小児患者は、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない小児患者と比較して、上記の基準(d)によって評価された聴器毒性が低減している。
【0049】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、チオ硫酸ナトリウムを患者に投与したからといって、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない患者と比較して、血清クレアチニンの増加または糸球体濾過率の低下に至らずに済む。いくつかの実施形態では、チオ硫酸ナトリウムを患者に対し投与したとしても、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない患者と比較して、無増悪生存期間または全生存期間に影響を及ぼさずに済んでいる。いくつかの実施形態では、チオ硫酸ナトリウムを患者に投与したとしても、発熱性好中球減少症、感染症、低マグネシウム血症、高ナトリウム血症、嘔吐、または悪心を含む1つ以上の有害事象の発生率は増加せずに済んでいる。
【0050】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、聴器毒性は、白金ベースの化学療法剤およびチオ硫酸ナトリウムを患者に投与してから少なくとも4週間後に測定される。一態様において、チオ硫酸ナトリウムは、本明細書に記載の医薬組成物を含む。別の態様において、チオ硫酸ナトリウム医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0051】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、患者は小児患者である。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、小児患者は1週齢~18歳である。いくつかの実施形態において、小児患者は約12歳以下である。いくつかの実施形態において、小児患者は約5歳以下である。いくつかの実施形態において、小児患者は約2歳以下である。いくつかの実施形態において、小児患者は約1歳以下である。
【0052】
別の実施形態は、小児患者の肝芽腫を治療するための投与レジメンであり、この投与レジメンは、下記:(a)サイクル当たり約1mg/kg~約5mg/kgまたは約10mg/m2~約300mg/m2の用量のシスプラチンを投与すること(b)シスプラチンのサイクル当たり約5g/m2~約25g/m2のチオ硫酸ナトリウムを投与することを含み、チオ硫酸ナトリウムはシスプラチンの投与から約2時間~約6時間後に投与され、本投与レジメンが、小児患者に投与されるチオ硫酸ナトリウムを含まない投与レジメンと比較して、小児患者に投与されたときに聴器毒性の低減を達成し、聴器毒性は:(a)単一周波数にて20dBの損失によって測定された聴力の低下、(b)連続する2周波数にて10dBの損失によって測定される聴力の低下、(c)応答が以前に得られた連続する3試験周波数における応答の喪失、(d)下記基準により特徴付けられる聴力の低下両側高周波難聴の減少:(i)全ての周波数にて40dB未満の難聴であって、グレード0もしくは最小の難聴を示すもの、(ii)8,000Hzにおいてのみ40dB以上の難聴であって、グレード1もしくは軽度の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード2もしくは中等度の難聴を示すもの、(iv)2,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード3もしくは顕著な難聴を示すもの、(v)1,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード4もしくは重篤な難聴を示すもの、あるいは、(e)下記基準により特徴付けられる聴力の低下:(i)全ての周波数にて20dB以下の難聴であって、グレード0の難聴を示すもの、(ii)4,000Hz超20dB超のHLであって、グレード1の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて20dB超のHLであって、グレード2の難聴を示すもの、(iv)2,000Hzもしくは3,000Hzにて20dB超のHLであって、グレード3の難聴を示すもの、(v)2,000Hz以上にて40dB超のHL、これはグレード1の難聴を示すものであって、聴力の変化が、患者が白金ベースの化学療法剤もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を投与される前のベースライン測定値と比較して計算されるもの、から選択される1つ以上の基準により判定される。一態様において、レジメンは、本明細書に記載のチオ硫酸ナトリウム医薬組成物を投与することを含む。別の態様において、医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0053】
別の実施形態は、約12歳にて標準リスクまたは中等度リスクの肝芽腫を有し、約1mg/kg~約5mg/kgまたは約10mg/m2~~約300mg/m2の用量を投与されている小児患者の聴器毒性を低減する方法であり、本方法は、シスプラチンの投与の約6時間後に、シスプラチンのサイクル当たり約5g/m2~約25g/m2のチオ硫酸ナトリウムを投与することを含む。本方法において、聴器毒性を算定する1つ以上の基準は、下記:(a)単一周波数にて20dBの損失によって測定された聴力の低下、(b)連続する2周波数にて10dBの損失によって測定される聴力の低下、(c)応答が以前に得られた連続する3試験周波数における応答の喪失、(d)下記基準により特徴付けられる聴力の低下両側高周波難聴の減少:(i)全ての周波数にて40dB未満の難聴であって、グレード0もしくは最小の難聴を示すもの、(ii)8,000Hzにおいてのみ40dB以上の難聴であって、グレード1もしくは軽度の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード2もしくは中等度の難聴を示すもの、(iv)2,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード3もしくは顕著な難聴を示すもの、(v)1,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード4もしくは重篤な難聴を示すもの、あるいは、(e)下記基準により特徴付けられる聴力の低下:(i)全ての周波数にて20dB以下の難聴であって、グレード0の難聴を示すもの、(ii)4,000Hz超20dB超のHLであって、グレード1の難聴を示すもの、(iii)4,000Hz以上にて20dB超のHLであって、グレード2の難聴を示すもの、(iv)2,000Hzもしくは3,000Hzにて20dB超のHLであって、グレード3の難聴を示すもの、(v)2,000Hz以上にて40dB超のHL、これはグレード1の難聴を示すものであって、聴力の変化が、患者が白金ベースの化学療法剤もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を投与される前のベースライン測定値と比較して計算されるもの、であり、且つ、チオ硫酸ナトリウムの投与は、チオ硫酸ナトリウムを投与されていない小児患者と比較して、無増悪生存期間または全生存期間に実質的に影響を及ぼさずに済み、且つ、チオ硫酸ナトリウムの投与は、発熱性好中球減少症、感染症、低マグネシウム血症、高ナトリウム血症、嘔吐、または悪心を含む1つ以上の有害事象の発生率を実質的に増加させずに済むもの、から選択される。一態様において、本方法は、本明細書に記載のチオ硫酸ナトリウム医薬組成物を投与することを含む。別の態様において、医薬組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0054】
1つ以上の実施形態または態様が、異なる実施形態または態様において援用される場合があるが、具体的には記載されていないこともある。つまり、全ての実施形態および態様は、任意の方法にてまたは組み合わせにて併用しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】
図1は、無水チオ硫酸ナトリウムを合成するためのスキームを示す。
【
図2】
図2Aは、本明細書に記載されるとおりに合成される無水チオ硫酸ナトリウムのX線粉末回折パターンを示す。ピークは表5に示す通りである。
図2Bは、チオ硫酸ナトリウム五水和物のX線粉末回折パターンを示す。ピークは表6に示す通りである。
【
図3】
図3は、本明細書に記載の通りに合成されたチオ硫酸ナトリウム五水和物(上のパターン)および無水チオ硫酸ナトリウム(下のパターン)に関してオーバーレイされたX線粉末回折パターンを示す。
【
図4】
図4Aは、本明細書に記載の通りに合成された無水チオ硫酸ナトリウムに関してオーバーレイされた示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)を示す。DSCサーモグラムに、331.4℃にて急激な単一の吸熱が開始したことを示す。熱重量分析では、25℃~162℃では重量減少が僅少であり、162℃~309℃では重量減少が14.81%であり、以後、436℃にて分解が開始される。
図4Bは、本明細書に記載の通りに合成された無水チオ硫酸ナトリウムの動的蒸気収着(DVS)等温線を示す。相対湿度0%に平衡化した際、DVS等温線に最小の重量変化が見られた。収着した際、165%の重量増加が見られる。脱着した際、ヒステリシスが観察され、51%の重量減少が見られた。
【
図5】
図5は、シスプラチン濃度対時間のプロットを、シスプラチン(対照)、またはチオ硫酸ナトリウム:シスプラチンの比率を5:1、6:1もしくは10:1としたチオ硫酸ナトリウムとシスプラチンとを組み合わせて、図示したものである。データは表7に示す通りである。
【
図6】
図6は、無水チオ硫酸ナトリウムを含む医薬製剤を調製するためのスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本明細書中に使用されている「活性原料」、「医薬品活性原料」、または「API」という用語は、薬理学的、しばしば有益な効果を提供する薬剤、医薬品活性原料、化合物もしくは物質、組成物、またはそれらの混合物を指す。
【0057】
本明細書中に使用されている「用量」という用語は、単回投与にて治療効果が発揮される程度十分な量を含む任意の形態の活性原料製剤を意味する。
【0058】
本明細書中に使用されている「投薬量」という用語は、特定の期間、通常は1日にわたる特定の量、数、および頻度の投与を指す。
【0059】
本明細書中に使用されている「医薬品活性原料負荷」または「薬物負荷」という用語は、単一のソフトカプセル充填物に含まれる医薬品活性原料の量(質量)を指す。
【0060】
本明細書中に使用されている「製剤」または「医薬組成物」という用語は、医薬的に許容される賦形剤と組み合わせた薬物を指す。
【0061】
本明細書中に使用されている「粒度分布」(PSD)という用語は、本明細書に記載の粒度範囲の統計的分布による平均粒度を指す。分布は、ガウス分布、正規分布、または非正規分布の場合がある。
【0062】
「d90」、「d50」、および「d10」などの用語は、指定されたサイズ、範囲、または分布よりも小さい粒度のパーセンテージ(例えば、それぞれ90%、50%もしくは10%)を指す。例えば、「d90≦100μm」は、粒度が分布範囲内に含まれる粒子の90%が100μm以下であることを意味する。
【0063】
本明細書において、「患者」という用語は、哺乳動物およびヒトをはじめとするあらゆる対象を指す。患者は疾患に罹患しているか、または疾患の疑いがあると考えられることから、薬物での治療を受けている。いくつかの実例において、患者は哺乳動物、例えば、ヒト、またはそれらの未熟児、新生児、乳児、若年者、青年もしくは成人、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ラット、マウスである。いくつかの実例において、本明細書中に使用されている「患者」という用語は、ヒト(例えば、男性、女性、または幼児)を指す。いくつかの実例において、本明細書中に使用されている「患者」という用語は、動物モデル研究の実験動物を指す。患者または対象は、任意の年齢、性別、またはそれらの組み合わせであり得る。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、患者は、シスプラチンなどの白金ベースの化学療法剤で治療され、続いてチオ硫酸ナトリウムまたはその製剤を投与される。
【0064】
「小児患者」という用語は、小児哺乳動物またはヒトを指す。いくつかの実例において、患者は、ヒト、またはその未熟児、新生児、乳児、幼児、幼児、青年、若年者もしくはティーンエイジャー、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物である。小児患者は、任意の民族または性別が考えられる。小児患者は、医学および獣医学の小児患者であると当業者に理解される、任意の年齢であり得る。例えば、ヒトの小児患者は18歳までの新生児であり得る。新生児は生後1か月、乳児は1か月齢~2歳、幼児は2歳~12歳、青年は12歳~18歳であると理解されている。一部の国では、小児患者には21歳までの患者が包含される。小児患者は疾患に罹患しているか、または疾患の疑いがあると考えられることから、薬物での治療を受けている。本明細書中に更に記載されているいくつかの実施形態では、小児患者は、シスプラチンなどの白金ベースの化学療法剤で治療される。
【0065】
「聴器毒性」という用語は、耳に影響を及ぼす任意の種類の毒性を指す。毒性は、蝸牛(例えば、蝸牛毒性)、蝸牛有毛細胞、聴覚神経もしくは前庭系、または耳に見られるこれらの系のいずれか、あるいは、これらの系のいずれかとの組み合わせに対するものであり得る。毒性は、難聴、感音難聴、平衡障害、耳鳴りもしくは聴覚過敏、またはそれらの組み合わせとして顕現化する恐れがある。難聴に関して言及されている場合、難聴を引き起こす毒性の量は、軽度、中等度、重篤、重度、または完全な難聴に帰結する総合(total)である。代替的に、難聴は、高周波数と低周波数の両方、および哺乳類の聴覚に正常な周波数の全ての反復を含む特定の周波数にて存在する場合がある。毒性は、片側性、両側性、両側性対称性、または両側性非対称性であり得、一方の耳の方が他方の耳よりも大きな影響を受ける。
【0066】
本明細書中に使用されている「生物学的試料」または「試料」という用語は、患者から採取された、または患者から誘導された試料を指す。例として、生物学的試料は、体液、血液、全血、血漿、血清、粘液分泌物、唾液、脳脊髄液(CSF)、気管支肺胞洗浄液(BALF)、尿、眼液(硝子体液、房水など)、リンパ液、リンパ節組織、脾臓組織、骨髄、および聴覚腔からなる群から選択される材料を含む。
【0067】
「治療する」という用語は、障害に関連する病態、症状、障害もしくはパラメーター、またはそれらの確率を改善するうえで有効な量、方法、または様式(例えば、治療効果)で治療を投与することを指す。
【0068】
「予防」という用語は、統計的に有意な程度まで、または当業者に検出可能な程度まで、障害の進行を予防もしくは低減することを指す。
【0069】
本明細書中に使用されている「本質的に」または「実質的に」という用語は、大部分または有意な程度を意味するが、完全ではない。
本明細書中に使用されている「約」という用語は、「約」という用語によって修正された値の最大±10%の変動範囲内に含まれる整数および小数成分の両方を含めた、任意の値を指す。
【0070】
本明細書に記載されているように、チオ硫酸ナトリウム(STS)は、白金ベースの化学療法剤を用いた治療を受けている小児患者における聴器毒性を低減することが、見出された。驚異的な発見が為された。12歳未満の幼児は聴器毒性の割合が高く、5歳未満の幼児は更にリスクが高いということである。更なる発見は、白金ベースの化学療法剤(シスプラチンなど)の後にSTSを投与すると、これらの小児患者の聴器毒性が大幅に低減されたことである。具体的な発見は、STSが、ブロックグレード2および3の聴器毒性などの聴器毒性の重症度を軽減する可能性のあることである。更に同定されたのは、シスプラチン曝露の総量または累積用量は、STS媒介による耳保護を妨げなかったことである。加えて、STSは、局所(非播種性)癌と関連して用いられた場合に、耳保護薬として極めて適していることも、発見された。2017年11月29日に出願された米国特許出願第15/826,243号の継続出願である国際特許出願公開第WO2019/108592号を参照。両文献の全内容は、本明細書において参照により援用されている。
【0071】
チオ硫酸ナトリウム(別称:次亜硫酸ナトリウム)は、式Na2S2O3の水溶性チオール化合物である。化合物は無水および結晶形として入手可能である。水和物形態のなかで最も一般的なのは、五水和物結晶形である。STSは、急性シアン化物中毒に対する確立済みの解毒剤として市販されている。STSは還元剤であり、腫瘍学においてシスプラチン腎毒性、カルボプラチン聴器毒性の予防を目的に、様々な化学療法剤の血管外漏出の解毒剤として使用されてきた。チオ硫酸ナトリウムがシスプラチンによって引き起こされる腎毒性およびカルボプラチンに起因する聴器毒性を軽減する機序は、理解されていない。提案されている作用機序には、そのチオール基が含まれる。このチオール基は、フリーラジカルスカベンジャーとして作用すること、ならびに/または白金化合物の共有結合および不活性化によって作用することを可能にしている。チオ硫酸ナトリウムがシスプラチンと不可逆的に反応してPt(S2O3)4を形成するのは、薬剤を同時的に、連続して、またはほぼ同時的に投与した場合である。また、チオ硫酸ナトリウムは、腎臓へのシスプラチンの送達を低減し、チオ硫酸ナトリウムが高濃度になっている腎臓でシスプラチンを中和することにより、腎毒性から保護すると考えられている。静脈内投与後、チオ硫酸ナトリウムは細胞外液全体に分散される。一部のチオ硫酸ナトリウムは、肝臓内で硫酸塩に変換され、最大95%が尿中に未処理の状態で排泄される。生物学的半減期は0.65時間である(範囲:用量に応じて16.5~182分と異なる)。静脈内投与した場合、STSは腎臓から急速に排泄される。
【0072】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、シスプラチン誘発性聴器毒性の予防におけるSTSの生物学的効果には、求電子性白金分子への結合、活性酸素種の除去、および蝸牛内リンパ中の濃度の増加が包含されると考えられている。それゆえ、有効な単回投与量により、残留する白金化学療法剤が除去されるので、蝸牛の毛が蓄積して損傷せずに済む。2回の第III相臨床試験の結果から実証されたように、小児患者におけるシスプラチンベースの化学療法の有効性は、STSが投与された際に影響を受けなかった。
【0073】
加えて、STSは、ドキソルビシンおよびエトポシドなど、他のいくつかの非白金ベースの化学療法薬の有効性に対し悪影響を及ぼさない。小細胞肺癌細胞培養のin vitro研究によれば、STSの即時または遅延添加後の72時間のインキュベーション後、エトポシドの細胞毒性の低減は見られなかった。同様な諸研究によれば、ドキソルビシン、カルムスチン(BCNU)、パクリタキセル、またはメトトレキサートでは、STSによる抗腫瘍活性の低減は見られなかった。STSは、遊離の白金含有化合物を除去する能力を有するため、本明細書で更に記載されているようにして、診療所において広範囲に試験されており、小児患者にとって非常に効果的な耳保護化合物であることが見出されている。
【0074】
本明細書に記載の一実施形態は、チオ硫酸ナトリウムである。本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムである。別の実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは水和物を含まない。別の実施形態において、チオ硫酸ナトリウムはチオ硫酸ナトリウム五水和物を含まない。一実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは結晶性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。一実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは、アモルファス無水チオ硫酸ナトリウムを含む。別の実施形態において、チオ硫酸ナトリウムは、水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0075】
一実施形態は、本明細書に記載の通りに合成された無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0076】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを合成する方法である。一態様において、チオ硫酸ナトリウムは、塩化セチルピリジニウム(CPC)などの界面活性剤の存在下で水性亜硫酸ナトリウムを硫黄と反応させることによって合成される。一実施形態では、約1.0モル当量の亜硫酸ナトリウムを、1.1モル当量の硫黄および0.00013モル当量の塩化セチルピリジニウムと反応させる。一態様において、反応は高温で遂行される。別の態様において、反応は、約75℃~約100℃にて約5分~5時間遂行される。別の態様において、反応は、約90℃にて約5分~3時間遂行される。一態様では、反応物を約90℃に加熱する。約90℃に達した際、反応が完了する。別の態様では、反応後に、反応物を冷却させる。一態様では、反応物を室温まで冷却する。別の態様では、反応物を2℃未満に冷却する。別の態様では、チオ硫酸ナトリウムは洗浄溶剤を使用して洗浄される。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムはアセトンを使用して洗浄される。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムは複数回洗浄される。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムは1回洗浄される。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムは、加熱および/または濾過により脱水される。別の態様においてチオ硫酸ナトリウムは、脱水溶媒を使用して脱水される。一態様において、脱水溶剤はアルコールである。別の態様において、脱水溶媒はメタノールである。別の態様では、脱水溶媒を、30℃~80℃に加熱されたメタノールとしている。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムは複数回脱水される。別の態様において、チオ硫酸ナトリウムは1回脱水される。
【0077】
一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウムは、定義された粒度に粉砕または微粉化される。一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウムは、指定された範囲内の全ての整数および分数を含めて、約1μm~約500μmの粒度範囲を含む。一態様において、微粉化された無水チオ硫酸ナトリウム粒子の粒度は約1μm~約100μmである。一態様において、微粉化された無水チオ硫酸ナトリウム粒子の粒度は約5μm~約50μmである。別の態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子は、前述の粒度のいずれかの粒子を含む、粒度の分布を含む。
【0078】
別の実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウム粒子の平均粒度分布(PSD)は、指定された範囲内の全ての整数および分数を含めて、約5μm~約300μmの範囲である。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の平均粒度分布は、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、25μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約120μm、約140μm、約160μm、約180μm、約190μm、約200μm、約220μm、約240μm、約260μm、約280μm、または約300μmを含む。
【0079】
一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の平均粒度分布d50は、約5μm~約100μmである。一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の平均粒度分布d50は、約5μm~」約50μmである。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の平均粒度分布d50は、約10μm~約25μmである。
【0080】
別の実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウム粒子の粒度分布d90は、約100μm以下である。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の粒度分布d90は、約50μm以下~約50μmである。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子の粒度分布d90は、約25μm以下(d90≦25μm)である。
【0081】
別の実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子は、複数の粒度分布を含む。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子は、複数の独立して組み合わされた平均粒度分布を含み得、各独立した平均粒度分布は、指定された範囲内の全ての整数および画分を含めて、約5μm~約100μmの範囲である。別の態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子は、複数の独立して組み合わされた平均粒度分布を含み得、各独立した平均粒度分布は、指定された範囲内の全ての整数および画分を含めて、約5μm~約50μmの範囲である。別の態様において、無水チオ硫酸ナトリウム固体粒子は、独立して組み合わされた平均粒度分布の組み合わせを含む。該平均粒度分布は、指定された範囲内の全ての整数および画分を含めて、約10μm~約30μmの範囲である。前述の粒度分布のいずれかを組み合わせて、所望されるサイズ分布範囲を提供することが可能である。
【0082】
無水チオ硫酸ナトリウム粒子の前述のサイズは、当業者に公知の標準的な技術を使用して算定することができる。無水チオ硫酸ナトリウムの粒径を測定するために使用できる例示的な技術としては、レーザー回折分析、光散乱(例えば、動的光散乱)、微視的粒子画像分析、水簸、またはエアロゾル質量分析を挙げることができる。無水チオ硫酸ナトリウム粒子の試料は、乾燥試料または湿潤試料として測定することができる。粒度を測定するための任意の市販機器、例えば、シーラス(Cilas)製、ブルックヘブンインスツルメンツコーポレーション(Brookhaven Instruments Corporation)製、マルバーンインスツルメンツ(Malvern Instruments)製、堀場サイエンティフィック(Horiba Scientific)製またはワイアット(Wyatt)製の機器は、製造元の指示に準じ、推奨される操作手順に従って、使用することができる。
【0083】
本明細書に記載の技術を使用して測定された粒度は、正規分布を有する導出直径、または平均、中央値(例えば、質量中央値直径)、および粒子直径サイズの最頻値を有する非正規分布として、表すことができる。粒度分布は、直径数分布、表面積分布、または粒子体積分布として表すことができる。粒度分布の平均は、体積平均直径(D[4,3]すなわちd43)、平均表面積直径(D[3,2]すなわちd32)または平均粒度(D[1,0]すなわちd10)などの、様々な方法で計算および表現することができる。粒度分布の値は測定方法や分布の表現方法によって異なるため、正確な比較を行うには、異なる平均粒度分布の比較を同じ方法で計算する必要がある。例えば、体積平均直径が測定済み且つ計算済みの或る試料を、体積平均直径が測定済み且つ計算済みの、理想的には同じ測定器を使用して同じ条件下にて測定された、第2の試料と比較する必要がある。それゆえ、本明細書に記載の特定の粒度分布は、粒度分布(例えば、直径数分布、表面積分布、または粒子体積分布)を測定または計算するための任意の1つのタイプの方法に限定されることを意図したものではなく、寧ろ、本明細書に記載の粒度を測定する各方法の粒度値およびその分布を示す。
【0084】
本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載の方法で製造された無水チオ硫酸ナトリウムである。別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを調製するための手段である。
【0085】
本明細書に記載の別の実施形態は、X線粉末回折(XRPD)パターンを特徴とする無水チオ硫酸ナトリウムであって、銅Kα放射線を使用して約2~約40°2θまで収集された場合に、10.52、15.13、17.71、19.70、21.09、21.49、21.84、27.40、28.96、30.46、31.81、32.52、33.15、37.40、または38.16°2シータ(2θ)±0.2にて少なくとも4つのピークが本XRPDパターンに包含されるものである、無水チオ硫酸ナトリウムである。一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウムは、X線粉末回折(XRPD)パターンを特徴とするものであり、本XRPDが銅Kα放射線を使用して約2~約40°2θまで収集された場合に、10.52、15.13、19.70、21.49、21.84、28.96、30.46、33.15、37.40、または38.16°2シータ(2θ)±0.2から選択される少なくとも4つのピークが、本XRPDパターンに包含される。一実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウムは、
図2AのXRPDパターンと実質的に同様なXRPDパターンを特徴としている。別の実施形態において、無水チオ硫酸ナトリウムは、X線粉末回折(XRPD)パターンを特徴とするものであり、このXRPDパターンには、表5に示すピークのうちの、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個が含まれる。
【0086】
本明細書に記載の別の実施形態は、0.1μg/g以下のカドミウムと0.25μg/g以下の鉛と0.75μg/g以下のヒ素と、0.15μg/g以下の水銀と、0.25μg/g以下のコバルトと、0.5μg/g以下のバナジウムと、1.0μg/g以下のニッケルと、12.5μg/g以下のリチウムと、4.5μg/g以下のアンチモンと、15.0μg/g以下の銅と、1500ppm以下のメタノールと、3%(w/w)以下の水と、1.5%(w/w)以下の総不純物と、を具備する無水チオ硫酸ナトリウムである。
【0087】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウム五水和物を本質的に含まない、無水チオ硫酸ナトリウムである。一態様において、無水チオ硫酸ナトリウムは、1%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.05%未満、または0.001%未満のチオ硫酸ナトリウム五水和物を含む。
【0088】
本明細書に記載の別の実施形態は、シスプラチンの濃度を測定するためのアッセイである。一態様において、このアッセイは、HPLCおよびUV検出を用いてシスプラチン濃度を測定し、保持時間とピーク面積を同様の条件下でアッセイされたシスプラチン濃度の標準曲線と比較することを含む。本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載のシスプラチン濃度を算定するための手段である。
【0089】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウムの組成物のシスプラチン結合能を判別するためのアッセイである。チオ硫酸ナトリウム組成物は、チオ硫酸ナトリウム五水和物、無水チオ硫酸ナトリウム、水性無水チオ硫酸ナトリウム、またはチオ硫酸ナトリウムの医薬組成物であり得る。このアッセイは、様々な濃度のチオ硫酸ナトリウムを或る濃度のシスプラチンと組み合わせてから、HPLCおよびUV検出を用いてシスプラチン濃度の見かけの減少を経時的に測定することを含む。一態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1、7:1、6:1、5:1、3:1、2:1、または1:1が包含される。一態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1、6:1、または5:1が包含される。一態様において、チオ硫酸ナトリウムによる結合によるシスプラチン濃度の見かけの減少は、時間の経過とともに直線的になる。別の態様では、シスプラチン濃度を、チオ硫酸ナトリウムと混合して~約5分後に測定し、10分、20分、30分、または60分ごとに、0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、または6時間測定する。一態様では、シスプラチン濃度を、チオ硫酸ナトリウムと混合して~約5分後に測定し、30分ごとに2時間測定する。一態様において、アッセイに使用される混合モードC-18クロマトグラフィーカラムは、疎水性相互作用とイオン交換機能との両方を備える。別の態様において、アッセイのHPLC実行時間は、約2分、約5分、約7.5分、約10分、または約15分である。一態様では、HPLCの実行時間が、約5分または約10分である。別の態様では、シスプラチンが、約1.5分~約2.5分後に、アッセイ条件下でHPLCから溶出する。一態様では、シスプラチンが、約2分後にアッセイ条件下でHPLCから溶出する。別の態様では、チオ硫酸ナトリウムが、約5分~約7.0分後に、アッセイ条件下でHPLCから溶出する。一態様では、シスプラチンが、約6分後にアッセイ条件下でHPLCから溶出する。
【0090】
本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載のシスプラチンに対するチオ硫酸ナトリウム結合能を決定するための手段である。
【0091】
いかなる理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載のアッセイにおいてチオ硫酸ナトリウムによるシスプラチン結合に影響を与える要因としては、温度、チオ硫酸ナトリウムの相対濃度、およびシスプラチンをチオ硫酸ナトリウムと混合してからHPLC測定までの経過時間が挙げられる。HPLCオートサンプラーは、厳密な温度制御を可能にし、試料の調製および分析を容易にする。加えて、本方法において生起されるシスプラチン濃度の変化は、単一時点におけるものではなく、経時的なものである。本方法を用いて、所与の条件下または半減期における反応速度を算定し、チオ硫酸ナトリウムの異なる試料間の比較を行うことが可能である。
【0092】
本明細書に記載の別の実施形態は、シスプラチンとチオ硫酸ナトリウムの様々なモル比を組み合わせた後のシスプラチン濃度の見かけの減少に基づいて、シスプラチンに対するチオ硫酸ナトリウムの結合能力を測定するためのアッセイであり、本方法は、様々なモル比のチオ硫酸ナトリウムを所定量のシスプラチンと混合することと、混合物を一定の時間インキュベートすることと、シスプラチンの濃度を分析することとを含む。一態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1~1:1が包含される。一態様では、チオ硫酸ナトリウム対シスプラチンのモル比に、10:1、7:1、6:1、5:1、3:1、2:1、または1:1が包含される。一態様では、混合物を約25℃にて約5分間、約35分間、約65分間、約95分間、および約125分間インキュベートし、分析する。別の態様では、カラム温度35℃、流速400μL/分、および220nmでのUV検出にて混合モードC-18クロマトグラフィーカラムを用いたHPLCを使用して、濃度を分析する。一態様において、HPLC法は、100%バッファーA(pH4の0.5mMギ酸アンモニウムのアセトニトリル水溶液;水:アセトニトリルを9:1としたもの)を3分間刻みで勾配させ、次いで、90%バッファーAおよび10%バッファーB(pH4の200mMギ酸アンモニウムのアセトニトリル水溶液;水:アセトニトリルを7:3としたもの)を3.5分間刻みで勾配させ、次いで、100%バッファーAを4.5分間刻みで勾配させることを含む。
【0093】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウムを含む医薬組成物または製剤である。一態様において、チオ硫酸ナトリウムは、無水チオ硫酸ナトリウムを含む。製剤は、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、髄腔内、経口、直腸、膣、またはそれらの組み合わせをはじめとする任意の従来経路を介した投与に好適とされる。一態様において、本製剤は静脈内投与される。
【0094】
一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物によって、対象に対し投与するためのチオ硫酸ナトリウムの組成物が提供されている。チオ硫酸ナトリウムは、例えば、或る対象、またはそれを必要とする対象に投与することができる。
【0095】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウムを含む医薬組成物である。一態様において、本組成物は、チオ硫酸ナトリウムと1つ以上の医薬的に許容される賦形剤とを含む。別の態様において、本組成物は、チオ硫酸ナトリウムと、バッファーとを含む。別の態様において、本組成物は、無水チオ硫酸ナトリウムと、バッファーとを含む。一態様において、本組成物は、無水チオ硫酸ナトリウムとバッファーとの液体製剤を含む。別の態様において、本組成物は、チオ硫酸ナトリウムと、投与前に注射用の滅菌水で再構成される1つ以上のバッファーとを含む、乾燥または凍結乾燥組成物である。別の態様において、本組成物は、水性無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、溶媒とを含む。本明細書において、「水性無水チオ硫酸ナトリウム」とは、水性溶媒中に可溶化された無水チオ硫酸ナトリウムを指す。別の態様において、本組成物は、水性無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、1つ以上のpH調整剤と、溶媒とを含む。別の態様において、本組成物は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、1つ以上のバッファー、1つ以上のpH調整剤、溶媒、および1つ以上の防腐剤、生理食塩水、担体、または医薬的に許容される賦形剤を含む。一実施形態において、医薬製剤に含有される内容物は、表1に示す通りである。
【表1】
【0096】
別の実施形態において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、水、バッファー、および1つ以上のpH調整剤を含む。別の態様において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、水、リン酸塩バッファー、およびpHを約6.5にする1つ以上のpH調整剤を含む。別の態様において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、水、ホウ酸塩バッファー、およびpHを約8.5~8.8.にする1つ以上のpH調整剤を含む。別の態様において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、水、グリシン、およびpHを約8.5~8.9.にする1つ以上のpH調整剤を含む。別の態様において、本製剤は、水性無水チオ硫酸ナトリウム、水、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)バッファー、およびpHを約8.5~8.9にする1つ以上のpH調整剤を含む。一実施形態において、医薬製剤は、表2に示す製剤の1つを含む。以下の製剤は例示的なものであり、バッファーの同一性および濃度は、約0.001M~約0.5Mの範囲にわたって調整することが可能であり、それに応じてmg/mLおよび重量パーセントを調整してもよい。
【表2】
【0097】
一実施形態において、本製剤は、約0.1M、約0.2M、約0.3M、約0.4M、約0.5M、約0.6M、約0.7M、約0.8M、約0.9M、約1.0M、約1.1M、約1.2M、約1.3M、約1.4M、約1.5M、約1.6M、約1.7M、約1.8M、約1.9M、または約2.0Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0098】
別の実施形態において、本製剤は、約0.1M~約2.0M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.6M、約0.1M~約0.7M、約0.1M~約0.8M、約0.1M~約1.0M、約0.2M~約0.5M、約0.2M~約0.6M、約0.2M~約0.7M、約0.2M~約0.8M、約0.2M~約1.0M、約0.3M~約0.5M、約0.3M~約0.6M、約0.3M~約0.7M、約0.3M~約0.8M、約0.3M~約1.0M、約0.4M~約0.5M、約0.4M~約0.6M、約0.4M~約0.7M、約0.4M~約0.8M、約0.4M~約1.0M、約0.5M~約0.6M、約0.5M~約0.7M、約0.5M~約0.8M、約0.5M~約1.0M、約0.6M~約0.7M、約0.6M~約0.8M、または約0.6M~約1.0Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0099】
別の実施形態において、本製剤は、約20mg/mL、約40mg/mL、約60mg/mL、約80mg/mL、約100mg/mL、約120mg/mL、約140mg/mL、約160mg/mL、約180mg/mL、約200mg/mL、約220mg/mL、約240mg/mL、約260mg/mL、約280mg/mL、約300mg/mL、または約320mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0100】
別の実施形態において、本製剤は、約10mg/mL、約320mg/mL、約10mg/mL、約80mg/mL、約10mg/mL、約100mg/mL、約10mg/mL、約110mg/mL、約10mg/mL、約120mg/mL、約10mg/mL、約160mg/mL、約20mg/mL、約80mg/mL、約20mg/mL、約100mg/mL、約20mg/mL、約110mg/mL、約20mg/mL、約120mg/mL、約20mg/mL、約160mg/mL、約30mg/mL、約80mg/mL、約30mg/mL、約100mg/mL、約30mg/mL、約110mg/mL、約30mg/mL、約120mg/mL、約30mg/mL、約160mg/mL、約40mg/mL、約80mg/mL、約40mg/mL、約100mg/mL、約40mg/mL、約110mg/mL、約40mg/mL、約120mg/mL、約40mg/mL、約160mg/mL、約60mg/mL、約80mg/mL、約60mg/mL、約100mg/mL、約60mg/mL、約110mg/mL、約60mg/mL、約120mg/mL、約60mg/mL、約160mg/mL、約80mg/mL、約100mg/mL、約80mg/mL、約110mg/mL、約80mg/mL、約120mg/mL、約80mg/mL、約160mg/mL、約100mg/mL、約110mg/mL、約100mg/mL、約120mg/mL、または約100mg/mL、約160mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0101】
別の実施形態において、本製剤は、約1%、約2%、約4%、約6%、約8%、約10%、約12%、約14%、約16%、約18%、約20%、約22%、約24%、約26%、約28%、約30%、または約32質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0102】
別の実施形態において、本製剤は、約1%~約32%、約1%~約8%、約1%~約10%、約1%~約11%、約1%~約12%、約1%~約16%、約2%~約8%、約2%~約10%、約2%~約11%、約2%~約12%、約2%~約16%、約3%~約8%、約3%~約10%、約3%~約11%、約3%~約12%、約3%~約16%、約4%~約8%、約4%~約10%、約4%~約11%、約4%~約12%、約4%~約16%、約6%~約8%、約6%~約10%、約6%~約11%、約6%~約12%、約6%~約16%、約8%~約10%、約8%~約11%、約8%~約12%、約8%~約16%、約10%~約11%、約10%~約12%、または約10%~約16質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む。
【0103】
本明細書に記載の一実施形態において、製剤は、1つ以上のバッファーを含む。典型的なバッファーは、医薬的に許容されるバッファーである。一態様において、1つ以上のバッファーは、酢酸、アセチルサリチル酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、重硫酸、ホウ酸、ブタン酸、酪酸、樟脳酸、樟脳スルホン酸、炭酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジグルコン酸、ドデシル硫酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、グリセリン酸、グリセロリン酸、グリシン、グリグリシン、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、ヘミ硫酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒプリン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフチル酸、ニコチン酸、亜硝酸、シュウ酸、ペラルゴン、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サッカリン、サリチル酸、ソルビン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、チオシアン酸、チオグリコール酸、チオ硫酸、トシル酸、ウンデシレン酸、MES、ビス-トリスメタン、ADA、ACES、ビス-トリスプロパン、PIPES、MOPSO、塩化コラミン、MOPS、BES、TES、HEPES、DIPSO、MOBS、アセトアミドグリシン、TAPSO、TEA、POPSO、HEPPSO、EPS、HEPPS、トリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、グリシンアミド、グリシングリシン、HEPBS、ビシン、TAPS、AMPB、CHES、AMP、AMPSO、CAPSO、CAPS、CABS、それらの組み合わせ、またはそれらの塩を含む。一態様において、バッファーは、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ブタン酸塩、乳酸塩、グリシン、マレイン酸塩、ピルビン酸塩、クエン酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、α-ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、それらの組み合わせ、またはそれらの塩のうちの1つ以上を含む。一態様において、バッファーは、リン酸塩、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはホウ酸塩である。一態様において、バッファーは、ホウ酸塩である。一態様において、バッファーは、リン酸塩である。一態様において、バッファーは、グリシンである。一態様において、バッファーは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)である。
【0104】
別の実施形態において、1つ以上のバッファーの濃度は約0.001M~約0.5Mである。一態様において、1つ以上のバッファーの濃度は約0.005M~約0.2M、約0.01M~約0.1M、約0.005M~約0.05M、約0.01M~約0.05M、または約0.005M~約0.01Mである。一態様において、1つ以上のバッファーの濃度は約0.005M、約0.075M、約0.01M、約0.02M、約0.05M、約0.1M、約0.2M、または約0.5Mである。一態様において、1つ以上のバッファーの濃度は約0.01Mである。別の態様において、1つ以上のバッファーの濃度は約0.05Mである。
【0105】
別の実施形態において、本製剤は、pH調整を目的に1つ以上の医薬的に許容される酸または塩基で滴定される、1つ以上のバッファーを含む。一態様において、本製剤は、pH約2~約10、約3~約9、約4~約8、約4~約7、約4~約6、約5~約6、約5~約7、約5~約8、約6.0~約6.5、約6~約7、約6.5~約7、または約6~約8である。一態様において、本製剤は、pH約5.0、約5.5、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、または約7.5である。一態様において、本製剤は、pH約6.5である。
【0106】
別の実施形態において、本製剤は、pHを約6.5に調整する目的で1つ以上の医薬的に許容される酸または塩基で滴定される、1つ以上のバッファーを含む。酸および塩基は、バッファー、および溶液中に存在するイオンに一致するように選択されるのが、通例である。一態様において、IA族水酸化物を添加することによってpHを上昇させる。一態様では、水酸化物を、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとする場合がある。別の態様では、酸(すなわち、プロトン供与体)を添加することによってpHを低下させる。医薬的に許容される任意の酸を使用することができる。一態様において、酸はリン酸である。別の態様において、酸は塩酸である。一態様において、水酸化ナトリウムと塩酸(またはリン酸)の両方を製剤に添加して、pHを約6.5に滴定する。
【0107】
本明細書に記載の一実施形態は、表3に示されているような医薬製剤である。
【表3】
【0108】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.25M~約1.0Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約1.0mM~約500mM且つpH5~9のバッファーと、水とを含む医薬製剤である。一態様において、医薬製剤は、約40mg/mL、約160mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約1.4mg/mLのpH5~8のリン酸バッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約4%~約16%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.14%のpH5~8のリン酸ナトリウムバッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約40mg/mL、約160mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.25mg/mLのpH6~9のホウ酸塩バッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約4%~約16%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.023%のpH6~9のホウ酸塩バッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約40mg/mL、約160mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.75mg/mLのpH6~9のグリシンバッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約4%~約16%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.069%のpH6~9のグリシンバッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約40mg/mL、約160mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約1.21mg/mLのpH6~9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)バッファーと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約4%~約16%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.11%のpH6~9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)バッファーと、水とを含む。
【0109】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む医薬製剤である。一態様において、医薬製剤は、約80mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約1.4mg/mL且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約8%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.14%且つpH6.5のリン酸ナトリウムを含む。
【0110】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.004M且つpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む医薬製剤である。一態様において、医薬製剤は、約80mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.25mg/mLのpH8.6~8.8のホウ酸と、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約8%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.023%のpH8.6~8.8のホウ酸を含む。
【0111】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む医薬製剤である。一態様において、医薬製剤は、約80mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.75mg/mL、約3.8mg/mL且つpH8.5~8.9のグリシンと、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約8%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.069%~約0.35%且つpH8.5~8.9のグリシンとを含む。
【0112】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M~約0.05M且つpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む医薬製剤である。一態様において、医薬製剤は、約80mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約1.2mg/mL、約3.6mg/mLのpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。別の態様において、医薬製剤は、約8%の水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.1%~約0.33%のpH8.5~8.9のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む。
【0113】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウム水溶液と、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤とを具備する、医薬組成物である。
【0114】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウム水溶液と、1つ以上の医薬的に許容されるバッファーとを具備する、医薬組成物である。一態様において、医薬組成物は、pH4~8である。別の態様において、医薬組成物は、pH5~7である。別の態様において、医薬組成物は、pH6~7である。別の態様において、医薬組成物は、pH6~8である。別の態様において、医薬組成物は、pH約6である。別の態様において、医薬組成物は、pH約6.5である。別の態様において、医薬組成物は、pH約7である。別の態様において、医薬組成物は、pH約7.5である。
【0115】
本明細書に記載の別の実施形態は、チオ硫酸ナトリウム水溶液と、1つ以上の医薬的に許容されるバッファーと、1種以上の塩類とを具備する、医薬組成物である。一態様において、一態様では、1つ以上の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウム、とりわけ、乳酸カリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸ナトリウムを含む。一態様において、1種以上の塩類の濃度は、約0.001M~約0.5Mである。別の態様において、1種以上の塩類の濃度は、約0.001M、約0.005M、約0.01M、約0.05M、約0.1M、約0.2M、または約0.5Mである。一態様において、1種以上の塩類の濃度は、約0.05M~約0.2Mである。
【0116】
本明細書に記載の別の実施形態は、約0.2M~約2Mのチオ硫酸ナトリウム水溶液と、約0.001M~約0.05Mの医薬的に許容されるバッファーと、約0.005M~約0.05Mの医薬的に許容される塩とを含む医薬組成物である。一態様において、医薬組成物は、pH約6~8である。一態様において、医薬組成物は、約1Mのチオ硫酸ナトリウム、約0.05Mの医薬的に許容されるバッファーと、約0.05M且つpH約6~約8の医薬的に許容される塩とを含む医薬組成物である。
【0117】
本明細書に記載の別の実施形態は、ホウ酸イオンを本質的に含まないチオ硫酸ナトリウム医薬組成物である。一態様において、チオ硫酸ナトリウム組成物は、1%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.05%未満、または0.001%未満のホウ酸塩イオンを含む。一態様において、チオ硫酸ナトリウム組成物は、ホウ酸イオンの代わりにリン酸イオンを含む。
【0118】
別の実施形態は、医薬品のチオ硫酸ナトリウム製剤を製造する方法である。一実施形態において、そのような組成物は、下記:(i)チオ硫酸ナトリウムを溶媒、と任意選択的に1つ以上の医薬的に許容される賦形剤と組み合わせることと、(ii)液体または懸濁液の単回もしくは複数回用量を好適な容器に移すことと、(iii)容器を密封することによって製造される。一態様において、液体または懸濁液は、好適な容器に移す前もしくは後に、濾過し且つ/または滅菌される。一態様において、容器は注射可能なバイアルまたはシリンジである。
【0119】
一実施形態は、無水硫酸ナトリウムを1つ以上のバッファーおよび溶媒と組み合わせることを含む、無水チオ硫酸ナトリウム含有の製剤を調製するための方法である。本方法は、医薬的に許容される酸または塩基でpHを調整することを更に含む。一態様において、バッファーはリン酸ナトリウムであり、酸および塩基は塩酸および水酸化ナトリウムである。本方法は、溶液を濾過し、溶液を好適なレセプタクルに移し、レセプタクルを密封して、製剤を滅菌することを更に含む。一態様において、本製剤は、濾過およびオートクレーブによって滅菌される。
【0120】
別の実施形態は、本明細書に記載の方法で製造された無水チオ硫酸ナトリウムを含む製剤である。別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを含む製剤を調製するための手段である。
本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載のSTS製剤の医薬組成物である。本医薬組成物に含めることの可能な1つ以上の賦形剤は、下記の通り:
(i)緩衝剤:リン酸ナトリウム、重炭酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩および酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、ピルビン酸塩など、pHを所望の範囲内に維持するための生理学的に許容されるバッファー。また、Mg(OH)2またはZnCO3のような制酸剤を使用してもよい。緩衝能力は、pHの安定性に対し最も敏感な条件に対し合致するように調整可能である。
(ii)等張性調整剤:注入デポにおける浸透圧差に起因する細胞損傷を原因とすると思われる陣痛を最小限に抑えるもの。その例が、グリセリンおよび塩化ナトリウムである。有効濃度は、血清の浸透圧が285~315mOsmol/kgと想定される浸透圧測定によって算定できる。
(iii)防腐剤および/または抗菌剤:複数回投与の非経口製剤では、注射時に被験者が感染するリスクを最小限に抑えるために十分な濃度の防腐剤を添加する必要があり得、対応する規制要件が確立されているもの、である。典型的な防腐剤としては、m-クレゾール、フェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニル水銀硝酸塩、チメロソル(thimerosol)、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸、クロロクレゾール、と塩化ベンザルコニウムが挙げられる。
(iv)安定剤:タンパク質安定化力の強化、変性状態の不安定化、またはタンパク質への賦形剤の直接結合によって、安定化を達成するもの。安定剤は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシン、ヒスチジン、リジン、プロリンなどのアミノ酸、グルコース、スクロース、トレハロースなどの糖、グリセロール、マンニトール、ソルビトールなどのポリオール、リン酸カリウム、硫酸ナトリウムなどの塩、EDTA、六リン酸などのキレート剤、二価金属イオン(亜鉛、カルシウムなど)などのリガンド、他の塩類、またはフェノール誘導体などの有機分子であり得る。加えて、シクロデキストリン、デキストラン、デンドリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロタミンもしくはヒト血清アルブミンなどのオリゴマーまたはポリマーが使用される場合もある。
(v)吸着防止剤:主にイオン性または、イオン-イオン性(ion-ionic)界面活性剤または他のタンパク質または可溶性ポリマーを使用して、組成物の容器(例えば、ポロキサマー(プルロニックF-68)、PEGドデシルエーテル(Brij 35)、ポリソルベート20および80、デキストラン、ポリエチレングリコール、PEG-ポリヒスチジン、BSAおよびHSAおよびゼラチン)の内面に対し競合的にコーティングまたは吸着する。選択した濃度および賦形剤の種類は、回避すべき影響に応じて異なるが、通例は、CMC値のすぐ上の界面に界面活性剤の単分子層が形成される。
(vi)凍結乾燥または凍結防止剤:凍結乾燥または噴霧乾燥中には、水素結合の切断および水分除去に起因する不安定化効果を、賦形剤によって相殺することが可能である。この目的を期して、糖およびポリオールが使用される場合もあるが、対応する正の効果は、界面活性剤、アミノ酸、非水溶媒、および他のペプチドに関しても観察されている。トレハロースは、水分による凝集を低減するうえで特に効果的であり、タンパク質の疎水性基を水に曝露させることによって引き起こされる可能性のある熱安定性も改善する。また、マンニトールとスクロースは、単独の凍結乾燥剤として、または互いに組み合わせて使用することができ、マンニトールまたはスクロースの比率を高めると、凍結乾燥ケーキの物理的安定性が増強することが知られている。また、マンニトールはトレハロースと組み合わせても差し支えない。また、トレハロースはソルビトールと組み合わせてもよいし、ソルビトールを唯一の保護剤として使用してもよい。また、澱粉または澱粉誘導体も使用される場合がある。
(vii)酸化防止剤:アスコルビン酸、エクトイン、メチオニン、グルタチオン、モノチオグリセロール、モリン、ポリエチレンイミン(PEI)、没食子酸プロピル、ビタミンEなどの抗酸化剤、クエン酸、EDTA、六リン酸、チオグリコール酸などのキレート剤。
(viii)増粘剤または粘度強化剤:バイアルおよびシリンジ内の粒子の沈降を遅延させるものであり、粒子の混合と再懸濁を促進し、懸濁液の注入を促進する(つまり、シリンジプランジャーに印加される力を減弱させる)目的に使用される。好適な増粘剤または粘度強化剤は、例えば、Carbopol 940、Carbopol Ultrez10のようなカルボマー増粘剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、HPMC)またはジエチルアミノエチルセルロース(DEAEまたはDEAE-C)、コロイド状ケイ酸マグネシウム(Veegum)またはケイ酸ナトリウムなどのセルロース誘導体、ヒドロキシアパタイトゲル、リン酸三カルシウムゲル、キサンタン、Satiagum UTC 30などのカラゲナン、脂肪族ポリ(ヒドロキシ酸)、例えば、ポリ(d,l-またはl-乳酸)(PLA)およびポリ(グリコール酸)(PGA)、ならびにそれらの共重合体(PLGA)、d,l-ラクチドのターポリマー、グリコリドおよびカプロラクトン、ポロキサマー、親水性ポリ(オキシエチレン)ブロックと疎水性ポリ(オキシプロピレン)ブロックであり、それらによって、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)-ポリ(オキシエチレン)のトリブロック(例えば、Pluronic(商標))、ポリエチレングリコールテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートコポリマー、酪酸スクロースイソブチレート(SAIB)、デキストランまたはそれらの誘導体などのポリエーテルエステルコポリマー、デキストランとPEGの組み合わせ、ポリジメチルシロキサン、コラーゲン、キトサン、ポリビニルアルコール(PVA)および誘導体、ポリアルキルイミド、ポリ(アクリルアミド-コ-ジアリルジメチルアンモニウム(DADMA))、ポリビニルピロリドン(PVP)、グリコサミノグリカン(GAG)、例えば、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ABAトリブロックまたは疎水性Aブロックから構成されるABブロックコポリマー、例えば、ポリラクチド(PLA)またはポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、および親水性Bブロック、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドンを構成する。そのようなブロックコポリマーおよび上記のポロキサマーには、逆熱ゲル化挙動(投与を促進するような室温での流体状態、および注入後体温でのゾル-ゲル転移温度を超えるゲル状態)が見られる場合がある。
(ix)拡散剤:結合組織の細胞間空間に見られる多糖類であるヒアルロン酸などであるがこれに限定されない、間質腔内の細胞外マトリックスの成分の加水分解を通じて結合組織の透過性を変更する。ヒアルロニダーゼなどであるがこれに限定されない拡散剤は、細胞外マトリックスの粘度を一時的に低下させ、注射された薬物の拡散を促進する。
(x)その他の補助剤:湿潤剤、粘度調整剤、抗生物質、ヒアルロニダーゼなど。塩酸もしくは水酸化ナトリウムのような酸類または塩基類は、製造時のpH調整に必要とされ補助剤である。
【0121】
前述のリストは、排他的であることを意味するのではなく、代わりに、賦形剤のクラスおよび本明細書に記載のようにして医薬品中に使用しても差し支えない特定の賦形剤を単に代表するものである。
【0122】
STS製剤は、液体、懸濁液、または乾燥組成物として提供される場合がある。
【0123】
一実施形態において、STS製剤は無菌の液体組成物である。本製剤は、直接静脈穿刺または静脈内ラインを使用して静脈内投与される場合がある。
【0124】
一実施形態において、医薬組成物は滅菌溶液である。
【0125】
別の実施形態において、STS製剤は乾燥組成物である。好適な乾燥方法は、例えば、噴霧乾燥、および凍結乾燥(凍結乾燥)である。一態様において、STS製剤は溶液として調製され、凍結乾燥によって乾燥される。別の態様において、STS製剤は、注射用滅菌水で使用する直前に再構成された乾燥組成物として調製され、その後、直接的に静脈穿刺または静脈内ラインのいずれかによって静脈内投与される。
【0126】
別の実施形態において、本組成物は、注射用の無菌水、PBS、生理食塩水もしくは他の無菌の非経口的に適合性のある溶液で再構成して、注射に適した溶液を生成することの可能な、乾燥または凍結乾燥組成物である。一態様において、本組成物は、約20mg~32gの無水チオ硫酸ナトリウムを含む。一態様において、本組成物は、約98質量%の無水チオ硫酸ナトリウムを含む。一態様において、本組成物は、約1質量%~2質量%の1つ以上のバッファーを含む。注射用に指定された量の滅菌水を添加された際、再構成された乾燥または凍結乾燥された組成物は、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、約0.01M且つpH6.5のリン酸ナトリウムと、水とを含む。
【0127】
注射による投与に適した医薬組成物としては、無菌の水溶液、懸濁液または分散液、および無菌の注射可能な溶液もしくは分散液を即時調製するための無菌粉末または凍結乾燥物が挙げられる。
【0128】
静脈内投与用の好適な溶媒としては、注射用滅菌水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、またはリンゲル液が挙げられる。全ての事例において、組成物は無菌とすべきであり、且つ容易な注射可能性が存在する程度まで流動性とすべきである。医薬製剤で好ましいのは、製造および貯蔵の条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対する保護を必要とするものである。全般的に、関連する溶媒または担体は、例えば、水、バッファー、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにそれらの好適な混合物を含有する、溶媒または分散媒体としても差し支えない。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、およびそれらに類するものによって達成することが可能である。多くの事例では、等張剤類、例えば、糖、マンニトールなどの多価アルコール、アミノ酸、ソルビトール、塩化ナトリウム、またはそれらの組み合わせを組成物に含めることが、好ましい。
【0129】
或る特定の注射可能な組成物は、等張水溶液または懸濁液である。坐剤は、脂肪性エマルジョンまたは懸濁液から調製するのが、有利である。上記の組成物は、滅菌される場合もあれば、且つ/あるいは、保存剤、安定剤、湿潤剤もしくは乳化剤などのアジュバント、溶液促進剤のほか、浸透圧を調節するための塩類、および/またはバッファーを含む場合もある。加えて、他の治療的に価値ある物質を含む可能性もまたある。上記の組成物はそれぞれ、従来の混合、造粒、またはコーティング方法に従って調製され、活性原料を約0.1~75%、または約1~50%含む場合がある。本明細書に記載の一実施形態において、本組成物は、約7.5%の活性原料である水性無水チオ硫酸ナトリウムを具備する。本組成物は、再構成に適した乾燥組成物とされた場合に、チオ硫酸ナトリウムの含有率を最大98%としてもよい。
【0130】
無菌の注射可能な溶液または懸濁液は、必要に応じて原料のうちの1つまたは組み合わせを含む適切な溶媒に必要な量のチオ硫酸ナトリウムを組み込み、続いて、濾過および/または滅菌によって調製される場合もある。溶液または懸濁液は、活性化合物を、滅菌水またはPBSおよび任意の賦形剤などの滅菌ビヒクル中に組み込むことによって調製されるのが、一般的である。一態様では、注射用バイアル中で最終製剤をオートクレーブ滅菌することによって滅菌が行われる。無菌粉末で無菌注射液を調製する事例において、調製方法として好ましいのは、真空乾燥および凍結乾燥である。これらの乾燥によって、活性原料の粉末、および以前に滅菌濾過された該溶液から追加的な賦形剤が、得られる。
【0131】
また、経粘膜または経皮投与手段も可能である。経皮塗布用の好適な組成物は、好適な担体を有する有効量の生物学的に活性な薬剤を含む。経皮送達に適した担体には、宿主の皮膚を通過する助けとなる吸収性の薬理学的に許容される溶媒が包含される。例えば、経皮装置は、バッキングメンバー、任意選択的に担体を有する化合物を含むリザーバー、任意選択的に、宿主の皮膚の化合物を制御された所定の速度で長期間にわたって送達するための速度制御バリアを含む、包帯の形状をしており、装置を皮膚に固定することを意味する。
【0132】
例えば、皮膚、目、または関節への局所適用に適した組成物としては、例えば、エアロゾルを介した送達のための、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲルもしくは噴霧可能製剤、またはそれらに類するものが挙げられる。そのような局所送達システムは、とりわけ皮膚への塗布に適している。それゆえ、当該技術分野において周知の化粧品をはじめとする局所製剤において使用するのに特に適している。そのようなものは、可溶化剤、安定剤、張性増強剤、バッファー、または防腐剤を含有し得る。
【0133】
本明細書で使用する場合、局所適用はまた、吸入または鼻腔内塗布に関係する場合がある。乾燥粉末吸入器またはエアロゾルスプレー提示物から、好適な推進剤の使用の有無にかかわらず、加圧容器、ポンプ、スプレー、噴霧器またはネブライザーから、乾燥粉末の形態で(単独で、例えば、ラクトースとの混合物、または混合成分粒子、例えば、リン脂質との混合物として)送達可能であるのが、好都合である。
【0134】
活性原料として本明細書に記載されている組成物が分解する速度を低下させる1つ以上の薬剤を含む医薬組成物および剤形もまた、本明細書に記載されている。そのような薬剤で、本明細書中で「安定剤」と呼称されるものとしては、限定されるものではないが、アスコルビン酸、pHバッファー、塩、糖などの抗酸化剤類が挙げられる。
【0135】
本明細書に記載の別の実施形態は、無水チオ硫酸ナトリウムを具備する、医薬組成物である。一態様において、本組成物は、本明細書に記載の表または実施例に示されている製剤のいずれかを含む。本明細書に記載の製剤中の任意の成分が、表に示されているか、または実施例に示されている。それらの成分を増強、低減、組み合わせ、置換、または省略することによって、約100重量%を含む製剤を提供することが可能となる。そのような組成物は、あたかも本明細書に明示的に開示されているかのように、本明細書中に開示されている。
【0136】
治療的に投与される医薬品活性原料の有効量は、例えば、治療の状況および目的に依存する。当業者に認識されているように、治療に適切な投与量レベルは、幾分かは、STS製剤の濃度、STS製剤が使用されている投与レジメン、投与経路、ならびに対象のサイズ(体重または体表面積)および患者の病態(年齢および全身の健康状態)に応じて異なる。したがって、臨床医は、投与量を滴定し、投与経路を変更して、最適な治療効果を得ることができる。
【0137】
投薬の頻度は、使用されているSTS製剤に組み込まれている治療薬の薬物動態パラメーターに依存する。組成物は、単回用量として投与されるか、2以上の用量(同量の所望される分子を含有する場合もあればまたは含有しない場合もある)として投与されるか、あるいは、移植装置またはカテーテルを介した連続注入として投与される場合がある。適切な投与量を更に微調整することは、当業者らによって日常的に行われることであり、当業者らによって日常的に実行されるタスクの範囲内にある。適切な用量反応データを使用することにより、適切な用量を確証することが可能である。
【0138】
チオ硫酸ナトリウムは、例えば、1日1回、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上の回数投与しても差し支えない。1つ以上の用量が、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、または更にはそれ以上にわたって投与される場合がある。1つ以上の用量が、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、または更にはそれ以上にわたって投与される場合がある。1つ以上の用量が、例えば、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月、1年、2年、3年、4年、5年、5年超、10年、数十年、または更にはそれ以上にわたって投与される場合がある。対象もしくはそれを必要とする対象が、聴器毒性の治療、予防、または寛解を必要としなくなるまで、1つ以上の用量が定期的に投与される場合もある。
【0139】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、単回または複数回の用量で同時的に投与される。例えば、2以上の同一用量が、一度に投与されている。別の実施形態では、2以上の異なる用量が一度に投与される。そのような二重または別個の同時投与を使用して、それを必要とする対象に対し有効量の医薬組成物を提供する場合もある。
【0140】
別の実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物を使用して、聴器毒性の治療、予防、進行の遅延、発症の遅延、寛解、症状の軽減、または予防を可能にしている。
【0141】
一実施形態において、STS製剤は、単回塗布にて治療上有効な量のチオ硫酸ナトリウムを提供するうえで十分な量の組成物である。一態様において、STS製剤を約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、1か月、2か月、3か月、4か月、6か月、9か月、1年、2年、3年、4年、または更にはそれ以上にわたって塗布は1回だけで十分である。
【0142】
「注射により投与できる」、「注射可能」、または「注射可能性」という句および用語は、或る特定の濃度(w/v)および或る特定の温度にて液体中に溶解された本明細書に記載のSTS製剤を収容しているシリンジのプランジャーに印加された或る特定の力、そのようなシリンジの出口に接続された所与の内径のニードル、ならびに、シリンジからニードルを通して一定量のSTS製剤を押し出すのに必要な時間のような、諸要因の組み合わせを指す。
【0143】
一実施形態において、STS製剤は単回投与として提供される。つまり、STS製剤が供給される容器には1回の医薬用量が収容される。
【0144】
別の実施形態において、本組成物は、複数回用量組成物として提供される。つまり、複数の治療用量が含有されている。複数回投与組成物が、少なくとも2回の用量を含むことが、好ましい。そのような複数回投与用STS製剤は、それを必要とする異なる対象に使用される場合もあれば、または対象1例における使用を意図したものとされ、残りの用量は、初回用量の適用後、必要とされるまで保存される。
【0145】
別の実施形態において、STS製剤は、1つ以上のコンテナ内に構成されている。液体または懸濁液の組成物を対象とした場合、容器を単一チャンバーシリンジとすることが、好ましい。乾燥組成物を対象とした場合、容器を二重チャンバーシリンジとすることが、好ましい。デュアルチャンバーシリンジの第1のチャンバーには、乾燥組成物が提供され、デュアルチャンバーシリンジの第2のチャンバーには、再構成溶液が提供される。
【0146】
乾燥STS製剤をそれを必要とする対象に対し投与する前に、乾燥した組成物を再構成する。再構成を行うことが可能な容器は、バイアル、シリンジ、デュアルチャンバーシリンジ、アンプル、またはカートリッジのような、乾燥STS製剤が提供されている容器である。事前定義済み量の再構成溶液を乾燥組成物に添加することによって、再構成が実施される。再構成溶液は、注射用水、リン酸緩衝生理食塩水、等張食塩水、または他のバッファーなどの無菌液体であり、防腐剤および/または抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールおよびクレゾールのような更なる賦形剤を含有する場合がある。再構成溶液は、注射用の滅菌水であることが、好ましい。代替的に、再構成溶液は、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または生理食塩水である。
【0147】
別の実施形態は、治療有効量のSTS製剤、および任意選択的に1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む再構成組成物を調製する方法であり、本方法は、組成物を一定量の再構成ビヒクルに接触させるステップを含む。次いで、再構成済みSTS製剤を、注射または他の経路を介して投与してもよい。
【0148】
別の実施形態は、治療有効量のSTS製剤、再構成ビヒクル、および任意選択的に1つ以上の医薬に許容される賦形剤を含む、再構成組成物である。
【0149】
別の実施形態は、治療有効量のSTS製剤、および任意選択的に1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む溶液または懸濁液を含む、予備充填式シリンジである。一態様において、シリンジは、本明細書に記載のように、約0.01mL~約5mLのSTS製剤で充填されている。一態様において、シリンジは、約0.05mL~約5mL、約1mL~約2mL、約0.1mL~約0.15mL、約0.1mL、約0.5mL、約0.15mL~約0.175mL、または約0.5~約5mLで充填されている。一実施形態において、シリンジは、0.165mLの本明細書に記載のSTS製剤で充填されている。いくつかの態様において、シリンジは、約0.01mL、約0.02mL、約0.03mL、約0.04mL、約0.05mL、約0.06mL、約0.07mL、約0.08mL、約0.09mL、約0.1mL、約0.2mL、約0.3mL、約0.4mL、約0.5mL、約0.6mL、約0.7mL、約0.8mL、約0.9mL、約1mL、約1.2mL、約1.5mL、約1.75mL、約2mL、約2.5mL、約3mL、約4mL、または約5mLの本明細書に記載のSTS製剤で充填されている。シリンジは、多くの場合、患者への投与に適した所望される用量を上回る量で充填されていて、シリンジおよびニードル内の「デッドスペース」に起因する無駄が考慮されている。また、医師がシリンジをプライミングする際に、所定量のウェイスト(waste)を存在させて、患者に注射する準備を整える場合もある。
【0150】
一実施形態において、シリンジは、投薬量(例えば、特許権獲得を実現させることを意図した薬剤の量)注射経路に応じて約0.01mL~約5mL(例えば、約0.01mL~約0.1mL、約0.1mL~約0.5mL、約0.2mL~約2mL、約0.5mL~約5mL、または約1mL~約5mL)の、本明細書に記載のSTS製剤で充填されている。
【0151】
一実施形態において、組成物が注射用に意図されるときは、シリンジが、本明細書に記載の通り、投薬量の約0.01mL~約5.0mLのSTS製剤溶液または薬物濃度0.1mg/mL~40mg/mLの懸濁液で充填される。いくつかの態様において、シリンジは、約0.01mL、約0.02mL、約0.03mL、約0.04mL、約0.05mL、約0.06mL、約0.07mL、約0.08mL、約0.09mL、約0.1mL、約0.2mL、約0.3mL、約0.4mL、約0.5mL、約0.6mL、約0.7mL、約0.8mL、約0.9mL、約1mL、約1.2mL、約1.5mL、約1.75mL、約2mL、約2.5mL、約3mL、約4mL、または約5mLの本明細書に記載のSTS製剤で充填されており、それを必要としている患者に対し送達することを可能としている。
【0152】
薬剤を含むシリンジの出口は、可逆的に密封されていて、薬剤の無菌性を維持することを可能にしている。このシーリングは、ルアーロックまたは改竄防止シールなどの当該技術分野において公知の、シーリング装置によって達成することが可能である。
【0153】
別の実施形態は、本明細書に記載の1つ以上のSTS製剤の溶液または懸濁液を含む1つ以上のバイアルまたは予備充填式シリンジを具備したキットである。一実施形態において、そのようなキットは、ブリスターパックまたは密封されたスリーブに本明細書に記載されているようなSTS製剤を含む、バイアルまたは予備充填式シリンジを含む。ブリスターパックまたはスリーブは、内側が滅菌されている場合がある。一態様において、本明細書に記載のバイアルまたは予備充填式シリンジは、そのようなブリスターパックまたはスリーブの内側に配置された後に、滅菌、例えば最終滅菌に供される場合もある。また、キットは、処方情報または使用説明書が収録されている文書を具備する場合もある。
【0154】
そのようなキットに、本明細書に記載のようなSTS製剤の投与のための1つ以上のニードルを更に具備させてもよい。そのようなキットに、使用説明書、薬物ラベル、禁忌、警告、または他の関連情報を更に具備させてもよい。本明細書に記載の一実施形態は、ブリスターパック、シリンジ、ニードル内に含有された、本明細書に記載の1つ以上のSTS製剤を含む1つ以上のバイアルまたは予備充填式シリンジ、任意選択的に、投与に関する文書もしくは指示書、薬物ラベル、禁忌、警告、またはその他の関連情報を含むカートンまたはパッケージである。
【0155】
最終滅菌プロセスを使用してバイアルまたはシリンジを滅菌してもよい。そのようなプロセスには、オートクレーブ、エチレンオキシド、または過酸化水素(H2O2)滅菌プロセスなどの公知のプロセスを使用される場合がある。シリンジに使用されるニードルは、本明細書に記載のキットと同じ方法で滅菌しても差し支えない。一態様では、パッケージの外側が滅菌されるまで、パッケージが、オートクレーブまたは滅菌ガスに曝露される。そのようなプロセスに続いて、シリンジの外面を無菌のまま維持できるのは、(ブリスターパックに入っている間)最大6か月、9か月、12か月、15か月、18か月、24か月またはそれ以上であると考えられる。それゆえ、一実施形態において、本明細書に記載の(ブリスターパックに入った)予備充填式シリンジの貯蔵寿命は、最大で6か月、9か月、12か月、15か月、18か月、24か月、またはそれ以上であり得る。一実施形態において、18か月の貯蔵後、シリンジの外側に微生物が検出されるシリンジは、100万本に1本未満である。一態様において、予備充填式シリンジは、少なくとも10-6の滅菌保証レベルのエチレンオキシドを使用して滅菌されている。別の態様において、予備充填式シリンジは、少なくとも10-6の滅菌保証レベルの過酸化水素を使用して滅菌されている。有意量の滅菌ガスがシリンジの可変容量チャンバー内に侵入しないようにする必要がある。本明細書において、「有意量」という用語は、可変容量チャンバー内のSTS製剤溶液または懸濁液の許容不能な変更を引き起こしかねないガスの量を指す。一実施形態では、滅菌プロセスにより、STS製剤のアルキル化が10%以下(好ましくは5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下)となる。一実施形態において、予備充填式シリンジは、エチレンオキシドを使用して滅菌されているが、シリンジの外面には1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下のエチレンオキシド残留物が存在する。一実施形態において、予備充填式シリンジは、過酸化水素を使用して滅菌されているが、シリンジの外面には1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下の過酸化水素残留物が存在する。別の実施形態において、予備充填式シリンジは、エチレンオキシドを使用して滅菌されており、シリンジの外側およびブリスターパックの内側に見られるエチレンオキシド残留物の総量は0.1mg以下である。別の実施形態において、予備充填式シリンジは、過酸化水素を使用して滅菌されており、シリンジの外側およびブリスターパックの内側に見られる過酸化水素の残留物の総量は0.1mg以下である。
【0156】
本明細書に記載の別の実施形態は、対象に対し投与するためのチオ硫酸ナトリウムを具備するキットである。液体および懸濁液の組成物を対象とした場合、且つ投与装置を単なる皮下シリンジとしたときに、シリンジ、ニードル、および該シリンジに使用するためのSTS製剤を収容する容器を、本キットに具備させる場合もある。乾燥組成物を対象とした場合、乾燥STS組成物を収容している1つのチャンバーと、再構成溶液を収容している第2のチャンバーとを、本容器に収容させる場合もある。一実施形態において、注射装置は、STS製剤を収容している容器が注射装置と係合して、容器内の液体、懸濁液、または再構成された乾燥組成物が注射装置の出口に対し流体接続できるように適合された、皮下シリンジである。投与装置の例としては、限定されるものではないが、皮下シリンジおよびペンシリンジが挙げられる。
【0157】
別の実施形態は、ニードルと、STS製剤組成物を収容した容器とを備え、任意で再構成溶液を更に備え、該容器がニードルと共用されるように適合されている、キットを具備する。一態様において、本容器は予備充填式シリンジである。別の態様において、本容器はデュアルチャンバーシリンジである。別の態様において、STS製剤は、密封されたバイアルに凍結乾燥物として提供され、再構成溶液は、密封されたバイアルまたは予備充填式シリンジなどの別のレセプタクルに提供される。適切な量の再構成溶液を使用して、凍結乾燥物を再懸濁させる。別の態様において、キットには、説明書、ラベル、またはその他の印刷物が具備されている。
【0158】
別の実施形態は、ペンインジェクター装置と共に使用するための、本明細書に記載の組成物を収容しているカートリッジである。カートリッジに、単回投与または複数回投与用STS製剤が具備されている場合もある。
【0159】
別の実施形態では、1つ以上のSTS製剤が同時的に投与され、各STS製剤は別個のまたは関連する生物学的活性を有している。
【0160】
代替の実施形態では、STS製剤は、最初にそれを必要とする対象に投与され、続いて第2の化合物が投与されるような様式にて、第2の生物学的に活性な化合物と組み合わされる。代替的に、STS製剤組成物は、別の化合物が同じ対象に投与された後に、それを必要とする対象に投与される。
【0161】
本明細書に記載の別の実施形態は、癌を患って癌治療の目的に白金ベースの化学療法を受けている患者(例えば、小児患者)の聴器毒性を低減するための方法である。本方法は、有効量のSTSを患者に投与することを含む。一態様において、STSは、本明細書に記載のSTS製剤の1つ以上を含む。STSは、特に小児患者集団において、聴器毒性のリスクを大幅に低減することが見出された。ゆえに、本明細書に記載の一実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている小児患者の聴器毒性を軽減する方法であり、本方法は、有効量のSTSを小児患者に投与することを含む。いくつかの態様において、小児患者は既に聴器毒性を負っており、STSの投与は小児患者が被る将来の聴器毒性の量を低減する。
【0162】
小児患者が検出可能な聴器毒性を有するリスク、例えば、1以上のブロックスケールで測定された難聴は、シスプラチンベースの化学療法剤を投与された後にSTSで治療することによって有意に低減する。聴器毒性のリスクは、STSを投与されていない小児患者に関連している。それゆえ、いくつかの実施形態において、小児患者が聴器毒性を被る確率は、STS投与により、指定された範囲内の各整数を含めて、約10%~約100%、約30%~約90%または約40%~約70%低減する。いくつかの実施形態において、小児患者が聴器毒性を被るリスクは、STS投与により約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または更には約100%低減する。いくつかの態様において、ASHAが定義した難聴基準によると、小児患者が聴器毒性を被るリスクは約50%とされる。
【0163】
同様に、STSを用いた小児患者の治療は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている小児患者の長期聴器毒性を更に低減することを可能にしている。STSを用いた治療後の小児患者は、白金ベースの化学療法剤を用いた治療を連続して行った後、数週間、数か月、または更には数年で聴器毒性を呈する恐れのあることが知られている。それゆえ、本明細書に記載の別の実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている小児患者の長期聴器毒性を軽減する方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを小児患者に投与することを含む。
【0164】
上記のように、シスプラチンなどの白金ベースの化学療法剤は、患者(例えば、小児患者)の耳腔に集中することによって聴器毒性効果を発揮すると考えられている。本明細書中で更に想到されるように、STSは、薬剤に結合し、耳腔内で該薬剤蓄積を減少させることにより、耳腔内において白金ベースの化学療法剤の量を低減することを可能にしている。本明細書に記載の別の実施形態は、癌を患って白金ベースの化学療法を受けている小児患者の耳腔内のシスプラチンの濃度を低下させる方法であり、本方法は、有効量のチオ硫酸ナトリウムを小児患者に投与することを含む。いくつかの態様において、耳腔内でのシスプラチン濃度は、白金ベースの化学療法を受けているが但しSTSを投与されていない小児患者と比較して約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%低い。いくつかの態様において、耳腔内でのシスプラチン濃度は検出不可能である。いくつかの態様において、STSを投与された患者は、耳腔内の白金ベースの化学療法剤の量が減少するため、聴器毒性を被りにくくなる。耳腔内のシスプラチンを検出するための方法は、耳腔から試料を抽出し、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または当該技術分野において公知の他の方法で、試料中に存在するシスプラチンの量を測定することを含む。
【0165】
また、本明細書に記載の方法は、癌を有し、癌の治療を目的に白金ベースの化学療法を受けている小児患者における聴器毒性を予防または阻害するうえで有用である。小児患者は、特に聴器毒性を被りやすく、小児患者を予防的に治療することによって小児患者の聴器毒性を軽減できることが見出された。ゆえに、本明細書に記載の別の実施形態は、癌を患って有効量のSTSを含む白金ベースの化学療法を受けている小児患者を予防的に治療する方法であり、本方法において、該治療は、小児患者が聴器毒性を被る確率を低減するものである。
【0166】
或る特定の遺伝的変異は、小児患者が聴器毒性を有する確率を高め、患者において重篤度の聴器毒性を引き起こす恐れのあることが特定されてきた。遺伝子TPMT、COMT、およびABCC3は、小児患者に聴器毒性を引き起こすリスクが高いことが、明らかにされてきた。出典:Ross et al.,“Genetic variants in TPMT and COMT are associated with hearing loss in children receiving cisplatin chemotherapy,”Nat.Genet.41:1345-1349(2009);Pussegoda et al.,“Replication of TPMT and ABCC3 genetic variants is highly associated with cisplatin-induced hearing loss in children,”Clin.Pharmacol.Ther.94:243-251 (2013)。加えて、遺伝子座rs1872328のACYP2遺伝子の一塩基多型は、シスプラチンベースの聴器毒性と関連していることが明らかにされてきたのは、もっと最近のことである。出典:Xu,K.et al.,“Common variants in ACYP2 influence susceptibility to cisplatin-induced hearing loss,”Nat.Genet.47(3):263-266(2015)。それゆえ、いくつかの実施形態において、シスプラチンベースの化学療法を受けている小児患者は、TPMT、COMT、ABCC3、およびACYP2のうちの1つ以上の遺伝子に遺伝的変異があるリスクが高いと同定されており、聴器毒性の確率を低減させ、予防、抑制、または治療するために、STSで治療される。
【0167】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、小児患者は癌を患って、白金ベースの化学療法を受けている。他のいくつかの実施形態において、小児患者は依然として癌と診断されていないが、白金ベースの化学療法剤での治療を受けている。白金ベースの薬剤は、STSによって除去され、聴器毒性を軽減することが予期されている。それゆえ、いくつかの実施形態において、白金ベースの化学療法剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、およびサトラプラチンを含む。いくつかの態様において、白金ベースの化学療法剤はシスプラチンである。
【0168】
小児患者が受けている白金ベースの化学療法剤の量は、治療を行う医師、治療されている疾患または癌の種類、および小児患者の年齢または体重によって決定される。いくつかの態様において、投与サイクル当たりの白金ベースの化学療法剤(例えば、シスプラチン)の量は、指定された範囲内の各整数を含めて、約1mg/kg~約5mg/kgである。いくつかの態様において、投与サイクル当たりの白金ベースの化学療法剤(例えば、シスプラチン)の量は、指定された範囲内の各整数を含めて、約10mg/m2~約300mg/m2、10mg/m2~約100mg/m2、または約40mg/m2~約80mg/m2である。
【0169】
癌の多くは、STSが投与される可能性のある小児患者において白金ベースの化学療法剤で治療される。本明細書に記載の実施形態のいくつかの態様では、小児患者の癌は、白金ベースの化学療法剤、続いてSTSを用いて治療されており、その癌は限局性または播種性である。いくつかの態様において、癌は、低リスク、中等度リスク、または高度リスク(転移性など)の癌である。いくつかの態様において、癌は低リスクまたは中等度リスクである。いくつかの態様において、白金ベースの化学療法剤を用いた治療を受けている癌は、限局性であって、播種性または転移性ではない。白金ベースの化学療法および後続のSTSで治療できる非限定的且つ例示的な癌には、胚細胞腫瘍(例えば、精巣癌または卵巣癌)、肝芽腫、髄芽腫、神経芽細胞腫、および骨肉腫が包含される。いくつかの態様において、小児患者は、肝芽腫癌を患って、白金ベースの化学療法剤およびSTSを用いた治療を受けている。いくつかの態様において、小児患者は、低リスクまたは中等度リスクの肝芽腫癌を患って、白金ベースの化学療法剤およびSTSを用いた治療を受けている。
【0170】
いくつかの実施形態において、STSは、白金ベースの化学療法剤の投与の前、同時、または後に、白金ベースの化学療法剤を用いた治療を受けている小児患者に対し投与される。いくつかの態様において、STSは、白金ベースの化学療法剤の投与後、指定された範囲内の時間の各整数を含めて、0分または約5分~約96時間投与される。いくつかの態様において、STSは、白金ベースの化学療法剤の投与後、指定された範囲内の時間の各整数を含めて、約30分~約24時間、約1時間~約24時間、約1~約12時間、約1時間~約8時間、または約4時間~約7時間投与される。一態様において、STSは、白金ベースの化学療法剤の投与後約6時間目に投与される。
【0171】
STSの投与を目的とした公知の任意の方法で、STSの投与を実施することができる。例えば、STSは非経口的または経腸的に投与される場合がある。非経口投与の場合、STSを、静脈内(IV)、皮下(SC)、または筋肉内(IM)に投与する場合がある。経腸投与には、経口、舌下、または直腸が包含される。一実施形態において、STSは静脈内投与される。
【0172】
STSの有効量は、白金ベースの化学療法を受けている小児患者の聴器毒性を予防、軽減、または阻害するSTSの量である。いくつかの実施形態において、投与されるSTSの量は、指定された範囲内の各整数を含めて、約0.5g/m2~約50g/m2、約1g/m2~約25g/m2または15g/m2~約25g/m2である。いくつかの実施形態において、投与されるSTSの量は、約1g/m2、約2g/m2、約4g/m2、約6g/m2、約8g/m2、約10g/m2、約15g/m2、約20g/m2、約25g/m2、約30g/m2、約40g/m2、または約50g/m2である。有効量のSTSは、白金ベースの化学療法の各サイクルの前もしくは後に、または各サイクルと同時的に投与される。
【0173】
本明細書に記載のいくつかの追加的な実施形態は、白金ベースの化学療法剤およびSTSの投与をはじめとする、小児患者の癌を治療するための投与レジメンである。一実施形態は、小児患者の肝芽腫を治療するための投与レジメンであり、本投与レジメンは、白金ベースの化学療法剤(記載の範囲内の各整数を含む)のサイクル当たり約1mg/kg~約5mg/kgまたは約10mg/m2~約300mg/m2の用量を投与することを含み、また、白金ベースの化学療法剤(指定された範囲内の各整数を含む)のサイクルごとに約5g/m2~約25g/m2のSTSを投与することを含む。一態様において、STSは、白金ベースの化学療法剤の投与後約2時間~約6時間投与される。この値は、記載された範囲内の各整数を含む。
【0174】
白金ベースの化学療法剤およびSTSの投与後の聴器毒性の測定は、白金ベースの化学療法剤およびSTSを用いた最後の治療後の一定期間後に実施する必要がある。いくつかの態様において、聴器毒性の測定は、白金ベースの化学療法剤およびSTSを用いた最後の治療から、少なくとも3日~約3か月、1週間~約3か月、1週間~約2か月、または1週間~約4週間の期間後に為される。この期間は、指定された時間範囲内の各整数を含む。一態様において、聴器毒性は、白金ベースの化学療法剤およびSTSを用いた最後の治療から少なくとも4週間後に測定される。
【0175】
白金ベースの化学療法剤およびSTSの投与後の聴器毒性の測定は、STSおよび白金ベースの化学療法剤の最後の投与から数回にわたって、および最大数年後に実施することが可能である。難聴を測定するための聴力検査法は、当業者に周知されており、聴器毒性を評価することを目的に様々なスケールと併用される。聴器毒性を評価することによって、例えば、潜在的な聴器毒性の評価またはSTSによる聴器毒性の長期予防が可能となる。聴器毒性の評価は、当該技術分野において公知の1つ以上の基準によって算定される場合がある。例えば、聴器毒性には、耳鳴り機能指数、ブロックグレーディング、幼児癌群(Children’s Cancer Group)1996年度研究スケール、ボストンチルドレンズホスピタル(Children’s Hospital Boston)スケール、チャンおよびチノソルンバタナ(Chang and Chinosornvatana)スケール、米国音声言語聴覚協会(American Speech-Language-Hearing Association)基準、有害事象の共通用語(Common Terminology Criteria for Adverse Events)基準スケール(CTCAE小児グレーディング)、もしくは国際幼児腫瘍学会ボストン聴器毒性スケール(International Society of Pediatric Oncology Boston Ototoxicity Scale)、またはこれらのスケールの組み合わせによる評価が包含される。Gurney,et al.,“Oncology,”J.Clin.Onc.30(19):2303-2306(2012)を参照されたい。ほとんどの事例では、聴覚機能の測定を完了した後で、シスプラチンまたは別の白金ベースの化学療法剤のような聴器毒性薬で治療する必要がある。この治療により、潜在的な聴器毒性効果を比較できる聴覚機能のベースライン測定値が確立される。それゆえ、聴力の変化、または聴器毒性の増強もしくは低減は、患者が白金ベースの化学療法薬もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を投与される前のベースライン測定値と比較して計算される。
【0176】
ブロックスケールの定義は、下記の通り:
全ての周波数にて40dB未満の難聴であって、グレード0もしくは最小の難聴を示すもの、8,000Hzにおいてのみ40dB以上の難聴であって、グレード1もしくは軽度の難聴を示すもの、4,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード2もしくは中等度の難聴を示すもの、2,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード3もしくは顕著な難聴を示すもの、または、1,000Hz以上にて40dB以上の難聴であって、グレード4もしくは重篤な難聴を示すもの、である。
【0177】
CTCAEスケールは、1kHz、2kHz、3kHz、4kHz、6kHz、および8kHzにての聴力に基づく。グレード1は、少なくとも1つの耳の8kHzにて20dB超の閾値シフトである。グレード2は、少なくとも1つの耳において4kHz以上にて20dB超の閾値シフトである。グレード3は、補聴器を含む治療的介入を示すのに十分な難聴であり、少なくとも1つの耳において3kHz以上にて閾値シフトが20dBを超える。指示されたスピーチおよび言語のsvcs;グレード4は、人工内耳および音声および言語のsvcsの聴覚的兆候である。
【0178】
幼児癌群(Children’s Cancer Group)1996年度スケールの定義は、下記の通り:
6,000Hzおよび/または8,000Hzにて40dB以上のHL損失はグレード1を示す。3,000および/または4,000Hzにて25dB超のHL損失はグレード2を示す。2,000Hzにて25dB超のHL損失はグレード3を示す。2,000Hzにて40dB以上のHL損失は、グレード4を示す。ボストンチルドレンズホスピタル(Children’s Hospital Boston)スケールの定義は、下記の通り:
500~8,000Hz未満の周波数にて20dBの難聴であって、機能性難聴のないもの、4,000Hzを超えると20dBを超える難聴であって、機能性難聴、グレード1を示す音楽鑑賞の低下をもたらす可能性のある僅少な難聴であって、4,000Hz以上にて20dB超の難聴であって、機能性難聴、グレード2を示す教育的に重大な難聴であって、2,000Hz以上にて20dB超の難聴であって、機能性難聴、グレード3を示す補聴器を必要とする重篤な難聴、である。
【0179】
チャンおよびチノソルンバタナ(Chang and Chinosornvatana )スケールは、1kHz、2kHzおよび4kHzにて20dB以下と定義され、通常の聴力を示す。(1a)6~12kHzの任意の周波数にて40dB以上、(1b)4kHzにて20dB超および40dB未満の場合、それぞれグレード1aおよび1bを示す。(2a)4kHz以上にて40dB以上、(2b)20dB超および40dB未満の場合、4kHz未満の周波数にてそれぞれグレード2aおよび2bを示す。2kHzまたは3kHz以上にて40dB以上の場合、グレード3を示す。1kHz以上にて40dB以上の場合、グレード4を示す。
【0180】
アメリカ言語聴覚士学会(American Speech-Language-Hearing Association)の基準の定義は、下記の通り:
(1)任意の1つの周波数にて20dB以上の減少、(2)2つ以上の隣接する周波数にて10dB以上の減少、または(3)以前に応答が得られた3つの隣接する周波数における応答の喪失。ASHAが更に指定するところによれば、聴覚過敏の有意な変化を有効と見なすには、繰り返し試験して確認する必要がある。
【0181】
International Society of Pediatric Oncology Boston Ototoxicity Scaleの定義によると、全ての周波数にて20dB以下のHLの場合、正常な聴力、すなわち20dB超HL(例えば、25dB以上のHL)であることを示唆する。4,000Hz超SNHL(例えば、6または8kHz)として定義される)の場合、グレード1であることを示唆する。4,000Hz以上にて20dB超のHL SNHLの場合、グレード2であることを示唆する。2,000Hzまたは3,000Hz以上にて20dB超のHL SNHLの場合、グレード3であることを示唆する。2,000Hzにて40dB超HLの場合(例えば45dB以上のHL)SNHLの場合、グレード4であることを示唆する。
【0182】
耳鳴り機能指数は、耳鳴りの症状の重症度を定量化するアンケートベースの指数である。Henry JA et al.,Audiology Today 26(6):40-48(2014)を参照されたい。インデックスの定義は、下記の通り:
平均スコア14(0~17の範囲)は耳鳴りがなく、平均スコア21は耳鳴りのレベルが低いことを示唆する。42の平均スコアは中等度の耳鳴りである。平均スコア65は高レベルの耳鳴りであり、平均スコア78は大レベルの耳鳴りである。範囲の分類によれば、下記:25未満は比較的軽度の耳鳴りまたは耳鳴りなし。25~50は耳鳴りに有意な問題があることを示す。50超は積極的な介入を要する耳鳴りのレベルを示す、が考えられる。
【0183】
いくつかの実施形態において、聴器毒性は、500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hz、または8,000Hz、またはそれらの周波数の組み合わせを含む1つ以上の周波数にて難聴を測定することによって測定される。その際、聴力の変化は、患者が白金ベースの化学療法もしくはチオ硫酸ナトリウム、またはその両方を受ける前のベースライン測定値と比較して計算される。いくつかの態様において、聴器毒性における増強は、単一周波数にて20dBの損失によって測定される聴力の低下、連続する2周波数にて10dBの損失によって測定される聴力の低下、または以前に再応答が取得された連続する3試験周波数における応答の喪失として決定される場合がある。更なるいくつかの態様において、聴器毒性の増強は、両側の高周波聴力の低下として測定され、これは、全ての周波数にて40dB未満の難聴であって、グレード0もしくは最小の難聴を示すことと、8,000Hzのみで40dB以上の難聴であって、グレード1もしくは軽度の難聴を示すことと、4,000Hz以上で40dB以上の難聴であって、グレード2もしくは中等度の難聴を示すことと、2,000Hz以上で40dB以上の難聴であって、グレード3もしくは顕著な難聴を示すことと、または、1,000Hz以上で40dB以上の難聴であって、グレード4もしくは重篤な難聴を示すことを特徴とする。更にいくつかの更なる態様において、聴器毒性の増強は、聴力の低下として測定され、その特徴は下記の通り:全ての周波数にて20dB以下の難聴の場合、グレード0の難聴を示す。4,000Hz超にて20dB超HLの場合、グレード1の難聴を示す。4,000Hz以上にて20dB超HLの場合、グレード2の難聴を示す。2,000Hzまたは3,000Hzにて20dB超HLの場合、グレード3の難聴を示す。または、2,000Hz以上にて40dB超HLの場合、グレード4の難聴を示す。他のいくつかの態様では、聴器毒性の増強を、耳鳴り機能指数の低減によって測定する場合がある。
【0184】
白金ベースの化学療法剤で治療を受けている小児患者へのSTSを投与することによって、腎臓または他の毒性を悪化させずに済むことが見出された。それゆえ、いくつかの態様において、STSを投与された患者は、STSを投与されていない患者と比較して、重篤度の高い、または有害事象の発生率増加を経験せずに済んでいる。これらの有害事象には、グレード3もしくはグレード4の好中球減少症、糸球体濾過率の低下、血清クレアチニンの増加、感染症、低マグネシウム血症、高ナトリウム血症、嘔吐、または悪心が含まれる。他のいくつかの態様では、STSを投与された小児患者は、STSを投与されていない患者と比較して、無増悪生存期間または全生存期間が低減せずに済む。
【0185】
本明細書に記載の方法は、あらゆる年齢のあらゆる小児患者において、聴器毒性を低減もしくは防止するか、または聴器毒性を被る確率を低減するのに極めて適している。ゆえに、いくつかの実施形態には、本明細書に記載の方法に従って治療されている小児患者が新生児であるか、それとも小児患者が約1か月齢、約2か月齢、約3か月齢、約4か月齢、約5か月齢、約6か月齢、約7か月齢、約8か月齢、約9か月齢、約10か月齢、約11か月齢、約12か月齢、約1歳、約1.5歳、約2歳、約2.5歳、約3歳、約3.5歳、約4歳、約4.5歳、約5歳、約5.5歳、約6歳、約6.5歳、約7歳、約7.5歳、約8歳、約8.5歳、約9歳、約9.5歳、約10歳、約10.5歳、約11歳、約11.5歳、約12歳、約12.5歳、約13歳、約13.5歳、約14歳、約14.5歳、約15歳、約15.5歳、約16歳、約16.5歳、約17歳、約17.5歳、約18歳、約18.5歳、約19歳、約19.5歳、約20歳、約20.5歳、または約21歳であり得るかが、記載されている。いくつかの態様において、小児患者は、約12歳以下、約5歳以下、約2歳以下、または約1歳以下である。
【0186】
適応症および用法
一実施形態において、本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、限局性の非転移性固形腫瘍を有する1か月齢~18歳未満の患者においてシスプラチン(CIS)化学療法によって誘発される聴器毒性の予防に適応される。
【0187】
一実施形態において、本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、CISが6時間以内に注入された場合、各CIS投与の完了後6時間で15分注入して投与される。一態様において、CIS誘発性聴器毒性の予防のために本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムの推奨用量は、体重を基準としており、下記に示すように体表面積に対して正規化されている。
【表4】
【0188】
剤形および強度
本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、単回使用バイアルに静脈内(IV)投与するためのチオ硫酸ナトリウム80mg/mL(8g/100mL)を含む滅菌溶液である。
【0189】
本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、CISが6時間以内に注入された場合、各CIS投与の完了後6時間で15分注入して投与される。吐き気および嘔吐の発生率を低減する目的で、制吐剤による前処理が推奨される。
【0190】
CIS化学療法と比較した注射投与のためのチオ硫酸ナトリウムのタイミングが重要とされる理由は、早期の治療はCISの有効性を低減させてしまう可能性があり、後期の治療は聴器毒性の予防効果が優れない可能性があるからである。
【0191】
注射用のチオ硫酸ナトリウムは、1~6時間CISを注入した後にはじめて投与する必要がある。CIS注入が6時間を超える場合、または後続のCIS注入が6時間以内に計画されている場合は、チオ硫酸ナトリウムを注射用に使用しないこと。
【表5】
【0192】
禁忌
本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、チオ硫酸ナトリウム(STS)、または注射用チオ硫酸ナトリウムの不活性原料のいずれかに対する既知の過敏症の患者において、ならびに、高ナトリウム血症のリスクがあるため、1か月未満の新生児において、禁忌物とされる。
【0193】
説明
活性原料である無水チオ硫酸ナトリウムは、還元剤の性質を備える無機塩である。白色からオフホワイトの結晶性固体であり、水には可溶であるがアルコールには不溶である。水溶液は実質的に中性であり、pHは6.5~9.0の範囲である。分子式は、Na
2S
2O
3である。分子量は158.11g/molである。構造式は、下記の通り:
【化1】
【0194】
本明細書に記載の注射用チオ硫酸ナトリウムは、静脈注射に用いるための、無菌且つ防腐剤不含の清澄な溶液である。各バイアルには、80mg/mLの無水チオ硫酸ナトリウム(米国薬局方、USP)、注射用水(USP)、バッファー成分としてのホウ酸もしくはリン酸ナトリウム、ならびにpH調整用の水酸化ナトリウムおよび/または塩酸が含有されている。
【0195】
作用機序
シスプラチン誘発性聴器毒性は、蝸牛の有毛細胞への不可逆的な損傷が原因である。蝸牛は酸化ストレスに対し極めて敏感であり、CIS誘発性難聴に関与していることが明らかにされてきた。聴器毒性に対するSTS保護の機序は、完全には理解されていないが、内因性抗酸化物質レベルの増強、活性酸素種の除去、ならびにCISおよびSTSのチオール基間の直接相互作用を挙げることができる。STSは、硫酸ナトリウム共輸送体2を介して少なくとも幾分かは細胞内に侵入する能力を有しており、抗酸化グルタチオンレベルの増強および細胞内酸化ストレスの阻害のような、細胞内効果を引き起こす恐れもある。
【0196】
薬力学
STSは、注射用のチオ硫酸ナトリウム6.4~12.8g/m2に相当する用量で聴器毒性を予防した。予備的な臨床研究において、STS用量レベル(注射用の5.1g/m2チオ硫酸ナトリウムに相当)を低下させた場合、最大血漿レベル(3.9mM)が低かったが、聴覚保護が為されることは認められなかった。
【0197】
CIS化学療法後にSTS治療を6時間遅延させることは、CISの抗腫瘍活性への潜在的な干渉を回避するうえで重要である。これは、非臨床試験および予備臨床試験のデータによって裏付けられている。CIS注入中に、生物活性のある非結合CISは、癌細胞に分散され、腎排泄とタンパク質に対し迅速に結合することによって除去され、殺腫瘍活性が不活性化される。初期における血漿中の非結合白金の減少は急速であり、半減期は0.6~1.35時間の範囲内とされる。STSの分布の大部分が細胞外空間に限定されているという事実を考え合わせて、各CIS注入完了後6時間目に注射用チオ硫酸ナトリウムを投与すれば、STSの腫瘍保護効果を防ぐはずである。諸研究において明らかにされたように、各CIS注入完了後6時間目の治療は、生存に対し影響を及ぼさなかった。
【0198】
血漿中のSTSの半減期に基づくと、STS注入完了後6時間を経過すると、残量は僅少な量である。ゆえに、薬力学的相互作用を回避するには、以後のCIS注入を、チオ硫酸ナトリウム注入完了後6時間以内に投与する必要がある。
【0199】
注射用の12.8g/m2用量のチオ硫酸ナトリウムは、162mmol/m2のナトリウム負荷を提供する。これと同等のSTS用量によって、血清ナトリウムレベルが一時的に若干増加した。注射用量レベルに対し推奨されるチオ硫酸ナトリウムにおける非コンパートメント薬物動態分析を使用して評価した場合、この一過性のナトリウム増加は、年齢、体表面積、体重、1日の総STS用量、またはCISサイクルとは無関係であった。
【0200】
薬物動態
吸収
STSは、経口投与後の吸収が不十分であり、静脈内投与する必要がある。STSの静脈内注入の終了時に、STSの血漿レベルは最大になり、以後急速に低下し、半減期は約20~50分である。投薬前のレベルへの復帰は、注入後3~6時間以内に発生する。尿中のSTS排泄の95%以上は、投与後の初めの4時間以内に発生する。STSを2日間連続して投与した場合、血漿の蓄積はない。
【0201】
幼児および大人では、注射用の12.8g/m2チオ硫酸ナトリウムに相当する用量を15分間注入した後の最大STS血漿レベルは、約13.3mMであった。STS血漿レベルは用量に比例して変化する。加齢、STSの最大血漿レベルまたは引き続きの低下に影響を及ぼすようには思われなかった。小児集団の成長および成熟変数を組み込んだ集団薬物動態モデルから明らかにされたように、指示された年齢および体重範囲の注射用量レベルに対して推奨されるチオ硫酸ナトリウム全体で、注入終了時の予測STS血漿レベルが一貫していた。
【0202】
分布
STSはヒト血漿タンパク質に結合しない。STSは無機塩であり、チオ硫酸陰イオンは膜を通過しづらい。したがって、分布容積は主に細胞外空間に限定されているものと思われ、成人では0.23L/kgと推定されている。動物においてSTSは、蝸牛に分布することが見出されてきた。血液脳関門または胎盤を通過する分布は、存在しないか、または制限されているものと思われる。チオ硫酸塩は、全ての細胞および臓器に遍在する内因性化合物である。成人ボランティアでは、内因性の血清チオ硫酸塩レベルが5.5±1.8μMであった。
【0203】
排除
代謝:
STSの代謝物は、臨床研究の一部としては判別されていない。チオ硫酸塩は、硫黄含有アミノ酸代謝の内因性中間生成物である。チオ硫酸塩代謝にはCYP酵素は関与せず、チオ硫酸塩硫黄トランスフェラーゼおよびチオ硫酸塩レダクターゼ活性を介して亜硫酸塩に代謝され、亜硫酸塩は急速に酸化されて硫酸塩になる。
【0204】
排泄:
STS(チオ硫酸塩)は糸球体濾過により排泄される。投与後、尿中のSTS(チオ硫酸塩)レベルは高く、STS用量の約半分は変化せずに尿中に回収され、ほぼ全てが投与後の初めの4時間以内に排泄される。STS腎クリアランスは、GFRの尺度としてイヌリンクリアランスと十分に関連していた。
【0205】
胆汁中の内因的に生成されたチオ硫酸塩の排泄は、極めて低量であり、STS投与後に増加しなかった。物質収支の諸研究は為されてこなかったが、非腎クリアランスは主に硫酸塩の腎排泄に帰結すると予期される。STSのスルファン硫黄のごく一部が内因性の細胞硫黄代謝の一部になる可能性がある。
【0206】
医薬品、ならびに貯蔵および取り扱い
注射用のチオ硫酸ナトリウムは、20mmのストッパー付きフリントガラスバイアルで、アルミニウム製オーバーシールで被覆されたものに収容された清澄な無色の滅菌溶液100mLとして供給される。注射用の各100mLのチオ硫酸ナトリウムには、静脈内投与用の無水チオ硫酸ナトリウム(80mg/mL)が含有されている(バイアル当たりSTS8g)。
【0207】
注射用のチオ硫酸ナトリウムは、15℃~30℃の間の制御された室温で貯蔵する必要がある。
【0208】
関連技術の当業者に明らかでえあるように、任意の実施形態またはその態様の範囲から逸脱することなしに、本明細書に記載の組成物、製剤、方法、プロセス、反応、および用途に合わせて好適な修正を施して適合させることができる。提供される組成物および方法は例示的なものであって、指定された実施形態のいずれかの範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に本開示の様々な実施形態、態様、および選択肢の全ては、任意の全ての変形または反復で組み合わせても差し支えない。本明細書に記載の組成物、製剤、方法、およびプロセスの範囲には、本明細書に記載の実施形態、態様、選択肢、実施例、および選好の全ての実際のまたは潜在的な組み合わせが包含される。本明細書に記載の例示的な構成成分および製剤は、任意の成分を省略し、本明細書中に開示されている任意の成分に置換し、または本明細書中の他の箇所に開示されている任意の成分を含み得る。本明細書中に開示されている組成物または製剤のいずれかの任意の成分の質量と、製剤中の他の成分の質量または製剤中の他の成分の総質量との比は、あたかも該質量が明示的に開示されているかのように本明細書中に開示されている。参照により援用されている特許または刊行物のいずれかの用語の意味が、本開示中に使用されている用語の意味と矛盾する場合には、本開示における用語または句の意味の方を優先するものとする。更になお、前述の考察には、専ら例示的な実施形態が開示され、説明されている。本明細書中に引用されている全ての特許および刊行物は、その特定の教示に関して本明細書において参照により援用されている。
いくつかの実施形態を以下に示す。
項1
水性無水チオ硫酸ナトリウムと、1つ以上のバッファーと、溶媒とを含む、医薬組成物。
項2
前記組成物が、約20mg/mL~320mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項1に記載の組成物。
項3
前記組成物が、約8質量%~約32質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項1または2に記載の組成物。
項4
前記組成物が、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
項5
前記組成物が、約0.001M~約0.5Mの前記1つ以上のバッファーを含む、項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
項6
前記1つ以上のバッファーが、ホスフェート、ボレート、サルフェート、カルボネート、ホルマート、アセテート、プロピオネート、ブタノエート、ラクテート、グリシン、マレアート、ピルベート、シトレート、アコニテート、イソシトレート、α-ケトグルタレート、スクシネート、フマレート、マレート、オキサロアセテート、アスパルテート、グルタメート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、それらの組み合わせ、またはそれらの塩を含む、項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
項7
前記組成物がpH約5~約9.5である、項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
項8
前記組成物がpH約6.5または約8.9である、項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
項9
前記1つ以上のバッファーが、ボレートもしくはその塩、グリシンもしくはその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)もしくはその塩、またはホスフェートもしくはその塩を含む、項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
項10
前記1つ以上のバッファーが、ホウ酸、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはリン酸ナトリウムを含む、項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
項11
前記溶媒が水を含む、項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
項12
前記組成物が無菌である、項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
項13
約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウム、0.001M~約0.5Mのリン酸ナトリウム、ホウ酸、グリシン、またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)を含む、医薬組成物。
項14
前記組成物が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH6.5の約0.01Mのリン酸ナトリウムとを含む、項13に記載の組成物。
項15
前記組成物が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.6~8.8の約0.004Mのボレートまたはその塩とを含む、項13または14に記載の組成物。
項16
前記組成物が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのグリシンまたはその塩とを含む、項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
項17
前記組成物が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)またはその塩とを含む、項13~16のいずれか一項に記載の組成物。
項18
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH6.5の約0.01Mのリン酸ナトリウムと、水とを含む、医薬組成物。
項19
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.6~8.8の約0.004Mのボレートまたはその塩と、水とを含む、医薬組成物
項20
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのグリシンまたはその塩と、水とを含む、医薬組成物。
項21
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)またはその塩と、水とを含む、医薬組成物。
項22
無水チオ硫酸ナトリウム含有の医薬製剤を調製するための方法であって、無水硫酸ナトリウムと1つ以上のバッファーおよび溶媒とを組み合わせることを含む、方法。
項23
前記製剤を濾過および滅菌することを更に含む、項22に記載の方法。
項24
前記製剤が約20mg/mL~320mg/mLの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項22または23に記載の方法。
項25
前記製剤が約8質量%~約32質量%の水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項22~24のいずれか一項に記載の方法。
項26
前記製剤が約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、項22~25のいずれか一項に記載の方法。
項27
前記製剤が、約0.001M~約0.5Mの前記1つ以上のバッファーを含む、項22~26のいずれか一項に記載の方法。
項28
前記1つ以上のバッファーが、ホスフェート、ボレート、サルフェート、カルボネート、ホルマート、アセテート、プロピオネート、ブタノエート、ラクテート、グリシン、マレアート、ピルベート、シトレート、アコニテート、イソシトレート、α-ケトグルタレート、スクシネート、フマレート、マレート、オキサロアセテート、アスパルテート、グルタメート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、それらの組み合わせ、またはそれらの塩を含む、項22~27のいずれか一項に記載の方法。
項29
前記製剤がpH約5~約9.5である、項22~28のいずれか一項に記載の方法。
項30
前記製剤がpH約6.5または約8.9である、項22~29のいずれか一項に記載の方法。
項31
前記1つ以上のバッファーが、グリシンもしくはその塩、ボレートもしくはその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)もしくはその塩、またはホスフェートもしくはその塩を含む、項22~30のいずれか一項に記載の方法。
項32
前記1つ以上のバッファーが、リン酸ナトリウム、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはホウ酸を含む、項22~31のいずれか一項に記載の方法。
項33
前記溶媒が水を含む、項22~32のいずれか一項に記載の方法。
項34
前記製剤が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH6.5の約0.01Mのリン酸ナトリウムと、水とを含む、項22~33のいずれか一項に記載の方法。
項35
前記製剤が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.6~8.9の約0.004Mのホウ酸と、水とを含む、項22~33のいずれか一項に記載の方法。
項36
前記製剤が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのグリシンと、水とを含む、項22~33のいずれか一項に記載の方法。
項37
前記製剤が、約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む、項22~33のいずれか一項に記載の方法。
項38
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH6.5の約0.01Mのリン酸ナトリウムと、水とを含む、項22に記載の方法により製造される、医薬製剤。
項39
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.6~8.8の約0.004Mのホウ酸と、水とを含む、項22に記載の方法により製造される、医薬製剤。
項40
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのグリシンと、水とを含む、項22に記載の方法により製造される、医薬製剤。
項41
約0.5Mの水性無水チオ硫酸ナトリウムと、pH8.5~8.9の約0.01M~約0.05Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)と、水とを含む、項22に記載の方法により製造される、医薬製剤。
項42
無水チオ硫酸ナトリウム含有の医薬製剤を調製するための手段であって、無水硫酸ナトリウムと1つ以上のバッファーおよび溶媒とを組み合わせることを含む、手段。
項43
項42に記載の手段により調製された、製剤。
項44
約0.2M~約2Mのチオ硫酸ナトリウムの無菌水溶液と、約0.001M~約0.05Mの医薬的に許容されるバッファーと、約0.005M~約0.05Mの医薬的に許容される塩とをpH約5~約9.5で含む医薬組成物。
項45
水性チオ硫酸ナトリウムを収容した1つ以上のレセプタクルを備える無菌水性チオ硫酸ナトリウム製剤と、処方情報または使用説明書が収録されている文書と、を具備したキット。
項46
1つ以上のシリンジと、皮下注射ニードルと、パッケージングと、を更に具備する、項45に記載のキット。
項47
乾燥もしくは凍結乾燥済みチオ硫酸ナトリウムを収容した1つ以上のレセプタクルと、任意選択的に、再構成に適した1つ以上の無菌溶媒と、ニードルおよびシリンジと、処方情報または使用説明書が収録されている文書と、を具備したキット。
項48
滅菌および保管後に沈殿することのない安定な注射用水性無水チオ硫酸ナトリウムを含む、医薬製剤。
項49
前記製剤が、約0.1M~約2Mの水性無水チオ硫酸ナトリウム、0.001M~約0.5Mのリン酸ナトリウム、グリシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)、またはホウ酸を含む、項48に記載の医薬製剤。
項50
1か月齢~18歳未満の限局性非転移性固形腫瘍患者におけるシスプラチン(CIS)化学療法誘発性聴器毒性を予防またはその発生率を低減するための方法であって、CISが最長6時間注入される場合、各CISの投与完了から約6時間後に注射用チオ硫酸ナトリウムを15分間注入物として投与することを含む、方法。
【実施例0209】
実施例1
合成プロセス
合成プロセスの概要は、
図1に示す通りである。スキームIに示すように、チオ硫酸ナトリウム(湿潤)の合成は、0.00013モル当量の塩化セチルピリジニウム(CPC)の存在下にて、1.0モル当量の水性亜硫酸ナトリウムを、1.1モル当量の元素硫黄と90℃にて最大3時間反応させることによって達成された。
【化2】
【0210】
いくつかの実例において、反応は約90℃に加熱され、90℃に達したときに完了した。理論に拘束されるものではないが、反応速度は硫黄のサイズ、表面積、および溶解度に依存するものと思われる(例えば、微粉末はフレークよりも反応速度が速い)。いったん反応が完了したら、混合物を25℃に冷却し、10μmフィルターで濾過し、結晶化ベッセルに移した。次いで、チオ硫酸ナトリウム溶液を2℃未満に冷却し、2℃未満の温度を維持しながら、5~7℃の発熱が観察された最初の核形成中を除き、アセトンを少なくとも1時間かけてゆっくりと添加した。続いて、スラリーを2℃未満で少なくとも0.5時間保持し、段階的に少しずつフィルター乾燥機に移した。スラリーの各部分が添加された後に、スラリーをケーキのレベルの直ぐ下に濾液が落ちた地点まで濾過した。このプロセスは、結果として得られたケーキの亀裂を最小限に抑えた。次いで、ケーキをアセトンで2回洗浄し、液体が排出されなくなるまで濾過した。その後、結果として得られた「湿潤チオ硫酸ナトリウム」のケーキを、真空下で混合しながら、45℃で一晩乾燥させた。本明細書中に使用されている「チオ硫酸ナトリウム」という用語は、脱水されていないチオ硫酸ナトリウムを指す。
【0211】
脱水
濾過したメタノールを使用して結晶化ベッセルを充填し、60℃に加熱した。次いで、この温かいメタノールを、一晩乾燥させた「湿潤チオ硫酸ナトリウム」ケーキを収容しているフィルター乾燥機に移した。ケーキを熱メタノールでスラリー化し、濾液を圧力により除去した。熱メタノールの2回目の充填を加え、混合し、濾液を除去した。その後、周囲温度のメタノールで更に2回洗浄し、55℃にて一晩真空乾燥した。このプロセスにより、無水チオ硫酸ナトリウムを生成した。
【0212】
実施例2
粉砕
ジェットミルを用いて、無水チオ硫酸ナトリウムのいくつかのバッチのd50、すなわち、母集団の50%とした粒度分布、が10~20μmとなるように粉砕した。本明細書に記載の通りに合成された未粉砕の無水チオ硫酸ナトリウムの粒度分布は、50~75μmである。いかなる理論にも拘束されるものではないが、粉砕はチオ硫酸ナトリウム粒子の表面積を増加させ、残留溶媒の蒸発を促進するものと考えられていた。
【0213】
実施例3
分析
乾燥および/または粉砕された無水チオ硫酸ナトリウムは、周囲温度で保存された状態で収集された。試料の分析は、HPLC、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、FTIR分光法、およびX線粉末回折を使用して、他の微量元素の中でも特に亜硫酸ナトリウム、硫黄、アセトン、およびメタノールのレベルに関して行った。前述の方法を用いて、記載の通りに合成した無水チオ硫酸ナトリウムの仕様および代表的なデータは、表4に示す通りである。
【表6】
【0214】
実施例4
X線粉末回折の特性評価
本明細書に記載の無水チオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウム五水和物の試料を、X線粉末回折(XRPD)によって分析した。試料2~50mgを、ワセリンの薄層でコーティングされたゼロバックグラウンドホルダーに入れ、ガラスプレートで平らにした。Bruker D8 X線回折計を2°から40°2θまで使用し、ステップサイズ0.05°(1秒/ステップ)にて銅Kα放射線(40kV)を使用して、XRPDデータを得た。取得中には、試料を15RPMで回転させた。Materials Data Jade 9.7.0ソフトウェアで、ピークピッキングを実行した。
【0215】
無水チオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウム五水和物のXRPDパターンは、
図2Aおよび
図2Bにそれぞれ示す通りである。XRPDのピークは、表5および表6にそれぞれ示す通りである。有意なピークは太字体で表記されている。2Aの無水チオ硫酸ナトリウムパターン(下のパターン)、および2Bのチオ硫酸ナトリウム五水和物パターン(上のパターン)のオーバーレイは、
図3に示す通りである。
【表7】
【表8】
【0216】
実施例4
チオ硫酸ナトリウムの結合能アッセイ
高速液体クロマトグラフィー紫外分光法(HPLC-UV)アッセイは、シスプラチンに対するチオ硫酸塩の結合能力を定量化することを目的に、開発されたものである。本方法により、異なるロットのチオ硫酸ナトリウム、またはチオ硫酸ナトリウム含有の医薬組成物の結合能力を、比較することが可能となる。HPLC-UV法により、様々な濃度のチオ硫酸ナトリウムの存在下にて、シスプラチンの経時的な低減が、直接的に測定される。
【0217】
本方法には、Imtakt Scherzo SW-C18混合モードカラムを具備したWaters AcquityHクラスHPLCシステムが使用される。HPLC法の条件の概要は、表7に示す通りである。本方法の線形応答は、3.3μM(0.001mg/mL)~666μM(0.2mg/mL)のにより網羅されるシスプラチン濃度を対象範囲としている。この範囲は、用量関連の濃度にて2桁以上を網羅している。
【表9】
【0218】
333μM、400μM、または666μMのチオ硫酸ナトリウムを含有する等量を666μMのシスプラチン(それぞれ5:1、6:1、または10:1のチオ硫酸塩:シスプラチンの比率)と混合することによって、アッセイを実施した。各試料をHPLCバイアルに移し、24℃に保持されたオートサンプラーチャンバーに収容した。試料を約30分ごとにHPLCシステムに注入して、各試料の4つの時点を得た。勾配を実行し、保持時間およびピーク面積が得られた。シスプラチンの濃度の低下を経時的にモニターし、反応速度(例えば、線の傾き、[シスプラチン]/分)として計算された半減期(線の傾きに基づいて333/2μMシスプラチンに到達する時間)を得る。対照試料には333μMのシスプラチンが含有されていた。
【0219】
例示的な結果は、表8および
図4に要約されている通りである。
【表10】
【0220】
実施例5
製剤の調製
注射用のチオ硫酸ナトリウム製剤の調製プロセスは、
図5に示す通りである。無水チオ硫酸ナトリウムを、リン酸ナトリウムバッファー(約10mMリン酸ナトリウム)中に溶解させた。例示的なチオ硫酸ナトリウム医薬製剤は、表9に示す通りである。NaOHおよびHClまたはリン酸を用いてpHを約6.5に調整した。本溶液を0.22μmフィルターで2回濾過した。濾過した溶液をガラスバイアルに充填した。バイアルをセプタムで密封し、圧着した。密封された充填バイアルは、内容物を滅菌するために、121℃、15psiで少なくとも0.5時間オートクレーブ滅菌した。バイアルを検査し、ラベル付けして、周囲温度で貯蔵した。
【表11】
【0221】
実施例6
本明細書に記載の無水チオ硫酸ナトリウムの製造プロセスに含まれるステップは、下記の通り:
ステップ1:水性チオ硫酸ナトリウムの化学合成、
ステップ2:チオ硫酸ナトリウム(湿潤)の結晶化、およびアセトンでの洗浄、
ステップ3:無水チオ硫酸ナトリウムの脱水および分離、
ステップ4:パッケージング。
【0222】
合成経路はスキームIIに図示されている通りである。各ステップは以下に詳述されている通りである。
【化3】
【0223】
チオ硫酸ナトリウムの合成
触媒量の塩化セチルピリジニウム(0.00013モル当量)の存在下、95±5℃の水性条件下で、1.0モル当量の水性亜硫酸ナトリウムを1.1モル当量の固体元素硫黄(微量金属)と反応させてチオ硫酸ナトリウムを形成することによって、水性チオ硫酸ナトリウムの合成を達成した。化学式IIを参照のこと。
6時間後、存在している残留亜硫酸ナトリウムの量(例えばHPLC-CADで、0.15%w/w亜硫酸塩未満)を測定することによって、反応の完全性を検証した。次いで、完成した反応物を20±5℃に少なくとも3時間冷却し、20±5℃で少なくとも1時間保持した。生成物の溶液を1μmのバグフィルターに通し、続いて0.45μmのカートリッジ研磨フィルターに通して、生成物を結晶化ベッセルに移しながら残留硫黄を全て除去した。
【0224】
チオ硫酸ナトリウム(湿潤)の結晶化
生成物溶液を結晶化ベッセル内で激しく攪拌しながら0±5℃に冷却し、全アセトンの約35%を添加し、10℃以下の温度を維持しながら少なくとも20分間混合した。0±5℃にて約5~約20分間インキュベートした後、チオ硫酸ナトリウム種結晶を添加し、0±5℃にて約5~約20分間結晶化を行った。温度を0±5℃に維持しながら、残りの量のアセトンを添加した。続いてスラリーを0±5℃で少なくとも0.5時間保持した後、フィルター乾燥機に移した。濾液を圧力濾過により除去した。スラリーの各部分が添加された後に、スラリーをケーキのレベルの直ぐ下に濾液が落ちた地点まで濾過した。このプロセスは、結果として得られたケーキの亀裂を最小限に抑えた。次いで、ケーキをアセトンで2回洗浄し、液体が排出されなくなるまでN2ガスを吹き付けた。続いて、結果として得られた「湿潤チオ硫酸ナトリウム」のケーキを、周囲温度および大気圧で乾燥させ、N2をケーキに少なくとも1時間吹き込んだ。本明細書中に使用されている「湿潤チオ硫酸ナトリウム」または「チオ硫酸ナトリウム(湿潤)」という用語は、脱水されていないチオ硫酸ナトリウムを指す。
【0225】
無水チオ硫酸ナトリウムの脱水および分離
60±5℃に加熱した濾過したメタノールを、乾燥した「湿潤」チオ硫酸ナトリウム材料を収容しているフィルター乾燥機に入れ、45±5℃にて少なくとも3時間連続的に攪拌した。材料に少なくとも2時間窒素を吹き付けた。次いで、温度を55±5℃に上昇させ、固体を真空下で少なくとも24時間乾燥させた。その後、ガスクロマトグラフィーを使用して残留溶媒の揮発性不純物を試験した。無水チオ硫酸ナトリウム材料を僅少な窒素圧下で20±5℃に冷却した。
【0226】
パッケージング
冷却後すぐに、無水チオ硫酸ナトリウム原薬を無水HDPEドラム缶に移した。このHDPEドラムはLDPEバッグと二重に裏打ちされており、且つ乾燥剤がLDPEライナーで矜持されていた。ドラム缶を、密閉する前に窒素ガスでパージした。
【0227】
【0228】
上記の方法で10kgおよび30kgのバッチで製造された無水チオ硫酸ナトリウムの製造仕様は、次頁に示す通りである(表11および表12)。
【表13】
【表14】
【0229】
実施例7
本明細書に記載の通りに合成された無水チオ硫酸ナトリウムは、鋭角XRPDピーク(
図2A)およびブレードおよびプレート状の結晶形態を有する複屈折粒子を呈する結晶性材料である。示差走査熱量測定(DSC)による熱分析で、見かけの融解温度である331.4℃にて急激な単一の吸熱が開始することが明らかにされた(
図4A)。熱重量分析(TGA)では、周囲温度から162℃にての重量損失はごく僅少であった。162℃~309℃にて、14.81%の重量減少があり、その後、436℃にて分解が開始された(
図4A)。相対湿度0%に平衡化した際、動的蒸気収着(DVS)等温線に最小の重量変化が見られた(
図4B)。収着した際、165%の重量増加が見られる。脱着した際、ヒステリシスが観察され、51%の重量減少が見られた。
【0230】
比較すると、チオ硫酸ナトリウム五水和物のDSCサーモグラムから明らかにされたように、複数の吸熱イベントが56℃、111℃、131℃および141℃にて最大値を示し、331℃にて溶融を開始した。TGAでは25℃から約300℃にて45.33%の重量減少が観察され、以後456℃にて分解した。DVS等温線は、乾燥時に27%の重量減少を示した。この材料は、収着時における重量増加率が81%であった。脱着した際、ヒステリシスが観察され、51%の重量減少が見られた。
【0231】
実施例8
チオ硫酸ナトリウム製剤の調製プロセスは、
図5に示す通りである。無水チオ硫酸ナトリウムを、ホウ酸バッファー(および4mMホウ酸)中に溶解させた。例示的なチオ硫酸ナトリウム医薬製剤は、表13に示す通りである。NaOHおよびHClを用いてpHを約8.6~8.8に調整した。本溶液を0.22μmフィルターで2回濾過した。濾過した溶液をガラスバイアルに充填した。バイアルをセプタム、アルミニウムリングで密封し、圧着した。密封された充填バイアルは、内容物を滅菌するために、121℃、15psiで少なくとも0.5時間オートクレーブ滅菌した。バイアルを検査し、ラベル付けして、周囲温度で貯蔵した。
【表15】
【0232】
注射用チオ硫酸ナトリウム製剤の製造仕様は、表14に示す通りである。
【表16】
【0233】
実施例9
例示的なチオ硫酸ナトリウム医薬製剤は、表15~表23に示す通りである。これらの製剤は、本明細書に記載のようにして調製される。
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】