(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170576
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】BCMA関連癌および自己免疫疾患の治療のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20241203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241203BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P43/00 111
A61P35/00 ZNA
A61P37/02
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P35/00
A61K38/16 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024154205
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2022139343の分割
【原出願日】2018-02-16
(31)【優先権主張番号】62/460,612
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/582,270
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】スタンリー アール.リデル
(72)【発明者】
【氏名】デイミアン グリーン
(72)【発明者】
【氏名】タイラー ヒル
(57)【要約】
【課題】BCMA関連癌および自己免疫疾患の治療のための併用療法の提供。
【解決手段】本発明は、BCMA特異的結合分子(例えばBCMA特異的キメラ抗原受容体または抗体)をγ-セクレターゼ阻害剤と併用する方法であって、B細胞関連増殖性疾患、例えば癌または自己免疫疾患等を治療または予防するために同時にまたは連続的に実施することができる方法に関する。γ-セクレターゼ阻害剤と併用されるBCMA特異的結合分子は、例えば養子免疫療法において利用することができる。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCMA発現に関連した疾患もしくは障害を有するかまたは有する疑いのある対象において、
(i)癌などの増殖性疾患もしくは障害、および/または
(ii)自己免疫疾患もしくは障害
を治療する方法であって、治療有効量のBCMA特異的結合タンパク質と治療有効量のγ-セクレターゼ阻害剤とを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、BCMA特異的抗体もしくはその抗原結合部分、キメラ抗原受容体(CAR)またはタグ付キメラ抗原受容体分子(T-ChARM)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、ヒトであるかまたはヒト化されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記BCMA特異的タンパク質が、BCMA特異的scFv、BCMA特異的scTCR、もしくはBCMAリガンドまたはそれらの結合性部分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、BCMA抗体J22.0-xi、J22.9-xi、J6M0、J6M1、J6M2、J9M0、J9M1、J9M2、11D5-3、CA8、A7D12.2、C11 D5.3、C12A3.2、C13F12.1、13C2、17A5、83A10、13A4、13D2、14B11、14E1、29B11、29F3、13A7、CA7、S307118G03、SG1、S332121F02、S332126E04、S322110D07、S336105A07、S335115G01、S335122F05、ET140-3、ET140-24、ET140-37、ET140-40、ET140-54、TBL-CLN1、C4.E2.1、Vicky-1、pSCHLI333、pSCHLI372、またはpSCHLI373に基づいた重鎖および軽鎖可変領域を含むscFvである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、細胞外成分と細胞内成分との間に置かれた疎水性部分を含むキメラ抗原受容体であり、ここで前記細胞外成分がBCMA特異的結合タンパク質を含み、前記BCMA特異的結合タンパク質が(a) BCMA抗体 J22.0-xi、J22.9-xi、J6M0、11D5-3、CA8、A7D12.2、C11 D5.3、C12A3.2、C13F12.1、13C2、17A5、83A10、13A4、13D2、14B11、14E1、29B11、29F3、13A7、CA7、SG1、S307118G03、S332121F02、S332126E04、S322110D07、S336105A07、S335115G01、S335122F05、ET140-3、ET140-24、ET140-37、ET140-40、ET140-54、TBL-CLN1、C4.E2.1、Vicky-1、pSCHLI333、pSCHLI372もしくはpSCHLI373由来のBCMA特異的抗原結合部分;あるいは(b) BAFFもしくはAPRLILに基づくまたは由来するBCMAリガンドもしくはその結合性部分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記疎水性部分が膜貫通ドメインである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインがCD4、CD8、CD28またはCD27膜貫通ドメインである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞内成分がエフェクタードメインもしくはその機能性部分、共刺激ドメインもしくはその機能性部分、またはその任意組み合わせを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞内成分が、4-1BB (CD137)、CD3ε、CD3δ、CD3ζ、CD25、CD27、CD28、CD79A、CD79B、CARD11、DAP10、FcRα、FcRβ、FcRγ、Fyn、HVEM、ICOS、Lck、LAG3、LAT、LRP、NKG2D、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NOTCH4、OX40 (CD134)、ROR2、Ryk、SLAMF1、Slp76、pTα、TCRα、TCRβ、TRIM、Zap70、PTCH2、もしくはそれらの機能性部分、またはそれらの任意組み合わせを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エフェクタードメインがCD3ζまたはそれの機能性部分を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞内成分が、共刺激ドメインもしくはその機能性部分を含み、前記共刺激ドメインもしくはその機能性部分が、CD27、CD28、4-1BB (CD137)、OX40 (CD134)、またはその任意組み合わせから選択される、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エフェクタードメインまたはそのエフェクター部分が、CD3ζまたはその機能性部分と、4-1BB (CD137)、CD27、CD28およびOX40 (CD134)のうちの1つ以上の共刺激ドメインまたはその機能性部分とを含む、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞内成分が (a) 4-1BBまたはその機能性部分とCD3ζ;(b) CD27またはその機能性部分とCD3ζ;(c) CD28またはその機能性部分とCD3ζ;(d) OX40またはその機能性部分とCD3ζ;(e) CD28またはその機能性部分、4-1BBまたはその機能性部分、およびCD3ζ;(f) OX40またはその機能性部分、4-1BBまたはその機能性部分、およびCD3ζ;あるいは (g) CD28またはその機能性部分、OX40またはその機能性部分、およびCD3ζを含む、請求項6~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞外成分が、BCMA特異的結合タンパク質と疎水性部分の間に置かれた免疫グロブンヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらの任意組み合わせを含む、請求項6~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記免疫グロブリンヒンジ領域がIgG1ヒンジ領域である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記CH2ドメインがIgG1 CH2ドメインでありそして前記CH3ドメインがIgG1 CH3ドメインである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記BCMA特異的結合タンパク質が外因性ポリヌクレオチドによりコードされ、そして宿主細胞中で発現される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記宿主細胞がヒト免疫系細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒト免疫系細胞がCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD4-CD8- ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、またはそれらの任意組み合わせである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒト免疫系細胞がT細胞であり、前記T細胞がナイーブT細胞、中枢記憶T細胞、エフェクター記憶T細胞、バルクT細胞、またはそれらの任意組み合わせである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記γ-セクレターゼ阻害剤がアバガセスタット、DAPT、BMS-906024、BMS-986115、MK-0752、PF-03084014、RO4929097またはYO-01027である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記γ-セクレターゼ阻害剤がニカストリン特異的結合タンパク質である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ニカストリン特異的結合タンパク質がscFvG9、抗体A5226A、抗体2H6または抗体10C11である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、配列番号14~16のいずれか1つのアミノ酸配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含む可変ドメインと、配列番号17~21のいずれか1つのアミノ酸配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含む可変ドメインとを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、前記BCMA特異的結合タンパク質と前記γ-セクレターゼ阻害剤の前または同時に、免疫抑制レジメンにより対象を事前処置することを更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫抑制レジメンが非骨髄機能廃絶療法または骨髄機能廃絶療法である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記非骨髄機能廃絶療法が、シクロホスファミド、またはフルダラビンと併用したシクロホスファミドを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記BCMA特異的結合タンパク質と前記γ-セクレターゼ阻害剤が連続投与される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記BCMA特異的結合タンパク質と前記γ-セクレターゼ阻害剤が同時投与される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記BCMA特異的結合タンパク質と前記γ-セクレターゼ阻害剤が一緒に製剤化される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記BCMA特異的結合タンパク質が非経口投与され、かつ前記γ-セクレターゼ阻害剤が経口投与される、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記増殖性疾患もしくは障害が血液癌または固形癌である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記血液癌が多発性骨髄腫、形質細胞腫、形質細胞性白血病、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenstrom's macroglobulinemia)、B細胞性白血病、およびリンパ形質細胞性リンパ腫からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記固形癌が、乳腺の腺癌または肺の気管支癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記自己免疫疾患が、関節炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症、多発性軟骨炎、乾癬性関節炎、乾癬、皮膚炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、封入体筋炎、炎症性筋炎、中毒性表皮壊死症、全身性皮膚硬化症と硬化症、CREST症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、呼吸窮迫症候群、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、大腸炎、糸球体腎炎、アレルギー症状、湿疹、喘息、T細胞浸潤および慢性炎症反応を伴う状態、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性心筋炎、白血球癒着不全、全身性エリテマトーデス(SLE)、亜急性皮膚エリテマトーデス、円盤状ループス、ループス脊髄炎、ループス脳炎、若年発症糖尿病、多発性硬化症、アレルギー性脳脊髄炎、視神経脊髄炎、リウマチ熱、シデナム舞踏病、サイトカインやTリンパ球により媒介される急性および遅延型過敏症を伴う免疫応答、結核、サルコイドーシス、ウェゲナー肉芽腫症およびチャーグ・ストラウス病といった肉芽腫症、無顆粒球症、血管炎(過敏性血管炎/血管炎、ANCAおよびリウマチ性血管炎を含む)、再生不良性貧血、ダイヤモンド・ブラックファン貧血症、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む免疫性溶血性貧血、悪性貧血、赤芽球癆(PRCA)、第VIII因子欠乏症、血友病A、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、白血球減少症、白血球漏出を伴う疾患、中枢神経系(CNS)炎症性疾患、多臓器損傷症候群、重症筋無力症、抗原-抗体複合体媒介疾患、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質抗体症候群、アレルギー性神経炎、ベーチェット病、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、ランバート・イートン筋無力症候群、レイノー症候群、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、固形臓器移植拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、水疱性類天疱瘡、天疱瘡、自己免疫性多発性内分泌障害、血清陰性脊椎関節症、ライター病、スティフマン症候群、巨細胞性動脈炎、免疫複合体性腎炎、IgA腎症、IgM多発神経障害またはIgM介在性神経障害、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性精巣炎と卵巣炎を含む、精巣と卵巣の自己免疫疾患、原発性甲状腺機能低下症;自己免疫性甲状腺炎、慢性甲状腺炎(橋本病甲状腺炎)などの自己免疫性内分泌疾患、亜急性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下症、アジソン病、グレーブス病、自己免疫性多発性腺症候群(または多腺性内分泌障害症候群)、インスリン依存性糖尿病(IDDM)とも呼ばれるI型糖尿病およびシーハン症候群;自己免疫性肝炎、リンパ性間質性肺炎(HIV)、閉塞性細気管支炎(非移植)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、ギランバレー症候群、大血管血管炎(リウマチ性多発性筋痛および巨大細胞(高安)動脈炎を含む)、中間血管炎(川崎病および結節性多発性動脈炎を含む)、結節性多発性動脈炎(PAN)強直性脊椎炎、ベルジェ病(IgA腎症)、急速進行性糸球体腎炎、原発性胆汁性肝硬変、セリアック病(Celiac sprue)(グルテン腸症)、クリオグロブリン血症、肝炎を伴うクリオグロブリン血症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、冠動脈疾患、家族性地中海熱、顕微鏡的多発血管炎、コーガン症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、および閉塞性血栓血管炎などからなる群より選択される、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
血液学的および/または自己免疫疾患もしくは障害を治療するためのキットであって、(a) 単位用量のBCMA特異的結合タンパク質と、(b) 単位用量のγ-セクレターゼ阻害剤とを含むキット。
【請求項38】
リツキシマブ、オファツムマブ、オクレリズマブといったC20特異的結合タンパク質;CD19特異的結合タンパク質;CD45特異的結合タンパク質;CD38特異的結合タンパク質;サイトカイン;ケモカイン;増殖因子;化学療法薬;または放射線療法薬を更に含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記キメラ抗原受容体がT-ChARMを含み、そして前記T-ChARMの細胞外ドメインがStrep Tagを含む、請求項6~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記T-ChARMの細胞外ドメインが2、3、4、5、6、7、8または9つのタグカセットを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記γ-セクレターゼ阻害剤が、BCMA特異的結合タンパク質の初回投与の後に少なくとも1回対象に投与される、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記γ-セクレターゼ阻害剤が、BCMA特異的結合タンパク質の初回投与の後に少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、または少なくとも50回投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記γ-セクレターゼ阻害剤が、約30 mg/kgの濃度で投与される、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記BCMA特異的結合タンパク質が、細胞傷害性薬に結合されている抗体またはそれの抗原結合部分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記BCMA特異的結合タンパク質が多重特異性である、請求項1~5または44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記BCMA特異的結合タンパク質が二重特異性である、請求項45に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔政府支援の陳述〕
本発明は、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)により授与されたCA136551の下に政府支援を受けて行われた。
【0002】
〔配列表に関する陳述〕
本願明細書に添付される配列表は、紙面の代わりにテキスト形式で提供され、本明細書中に参考として組み込まれる。配列表を含むテキストファイル名は360056_445WO_SEQUENCE_LISTING.txtである。テキストファイルは14.4 KBであり、2018年2月16日に作成され、EFS-Web経由で今ここに電子的に提出される。
【背景技術】
【0003】
ヒト免疫系は一般に外来物質と病原体の侵入から身体を保護する。B細胞とも呼ばれ免疫系の一成分であるBリンパ球は、外来物質や病原体に結合する抗体、ある場合にはその破壊を媒介する抗体を産生する。しかしながら、場合によっては、免疫系が調節異常となり、B細胞の無制御増幅を伴う疾患、例えば癌、自己免疫疾患および炎症疾患を引き起こす。
【0004】
成熟B細胞とそれらの分化した子孫は、その細胞表面上の分子、例えばB細胞成熟抗原(BCMA;腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17)、TNFRSF13AおよびCD269としても知られる)により同定することができ、そのような分子は形質細胞とある種の成熟B細胞上に発現される。BCMAは、B細胞活性化因子(BAFF;TNFSF13B、TALL-1およびCD257としても知られる)および増殖誘導性リガンド(APRIL;TNFSF13、TALL-2およびCD256としても知られる)に特異的に結合し、NF-κB活性化を導き得ることが知られている。BCMA特異的キメラ抗原受容体(CAR)で改変されたT細胞の養子免疫導入、裸のBCMA特異抗体、または治療成分に複合化されたBCMA特異抗体(放射能標識などの抗体医薬複合体(ADC))の投与をはじめとする、BCMAターゲット療法を用いて、多発性骨髄腫のような或るタイプのB細胞悪性を治療することができるが、腫瘍細胞表面上に発現されるBCMA分子の数および/または血液循環中の可溶性BCMAの存在により、その効能は限定的でありうる。癌細胞上の低度のBCMA表面発現または可溶性BCMAの存在は、腫瘍細胞の表面上に存在するBCMAへの不適当な結合のために治療薬の効能を制限し阻害してしまう。抗体、抗体医薬複合体(コンジュゲート)、またはキメラ抗原受容体T細胞により標的指向される腫瘍細胞上の別の標的分子(例えばCD19、CD20)の濃度が低いことは、それらの療法の効能を制限することが証明されており、その結果、低レベルの標的分子を発現する癌細胞は排除を免れることができてしまう。BCMAの場合、該分子の短い細胞外部分が、タンパク質開裂に関与する膜限局化細胞性酵素であるガンマ-セクレターゼ(γ-セクレターゼ)の作用を通して、細胞表面から切除され脱落する。この開裂は、該分子を発現する骨髄腫細胞のような細胞上のBCMA密度を低下させ、ある種の自己免疫疾患(例えば全身性エリテマトーデス)や癌(例えば多発性骨髄腫)を有する患者の血清中の可溶性BCMA(sBCMA)のレベルの上昇を引き起こす。
【0005】
現在、自己免疫疾患と癌をより効率的に治療するための代替的なまたは改善された組成物と方法が免疫療法分野において必要とされ続けている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、自己免疫疾患および癌を治療するための組成物および方法であって、可溶性形態であるかまたは細胞傷害性細胞上もしくは他の細胞上に発現されたB細胞成熟抗原(BCMA)特異的結合タンパク質とγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)との併用を通した前記組成物および方法を提供する。そのようなBCMA特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを使用して、例えば養子免疫療法で使用するための改変された宿主免疫細胞(例えばT細胞)を創製することができる。特定の態様において、本開示は、GSIとの併用治療を必要とする対象におけるそのような治療の使用に向けられ、後者の治療は養子免疫療法(すなわち細胞表面上にBCMA特異的結合タンパク質を発現する改変免疫細胞を用いた免疫療法)の前、同時、または後に施すことができる。抗体またはその抗原結合部分を含むBCMA特異的結合タンパク質と組み合わせてGSIを投与することを含む免疫療法も提供し、ここで前記BCMA特異的結合タンパク質は、その特定の実施形態では、細胞傷害性薬に複合化または他の形で結合することができ、例えば抗体-薬物複合体(ADC)を形成することができる。有用な治療用途には、BCMA陽性細胞が病因であるような対象における増殖性疾患もしくは障害(癌など)、自己免疫疾患、または老化に関連した疾患もしくは障害の治療が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1A~1Pは、本開示の典型的なキメラ抗原受容体(CAR)分子の設計と機能性試験を示す。(A)A7D12.2抗体(「A7」)またはC11D5.3抗体(「C11」)に由来するBCMA特異的scFv、スペーサー領域(IgG4ヒンジ領域からなる)および疎水性部分(CD28膜貫通ドメインからなる)からなる細胞外成分と、CD3ζエフェクタードメインと4-lBB共刺激ドメインからなる細胞内成分とを有する代表的なCARの図。scFvは、V
H領域のC末端がV
L領域のN末端に連結されて(「HL」の配向で)(「G
4S」可変領域リンカー(配列番号30)を介して)、あるいはV
L領域のC末端がV
H領域のN末端に連結されて(「LH」の配向で)構成された。
【
図1B】(B)BCMAを発現する腫瘍細胞に応答した、
図1Aに示したCARを発現しているヒトT細胞と、CARを含まない対照T細胞の増殖を示す、フローサイトメトリーデータ(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)染色)。
【
図1C】(C)指摘のBCMA
-(K562)またはBCMA
+(K562BCMA, U266, MM1.S)腫瘍細胞系と共に試験管内(in vitro)培養した時の、
図1Bに示したCAR形質導入T細胞によるサイトカイン生産(IFN-γ)。
【
図1D】(D)BCMA CAR-T細胞による指摘の標的細胞系の特異的溶解。
【
図1E】(E)本開示の2つの典型的なCARの図。ここでスペーサー領域(Spacer+)は、タグカセット、リンカーモジュール、ヒンジ、スペーサーアミノ酸およびそれらの任意組み合わせを含むことができる。CARがスペーサー領域中に1以上のタグを含むならば、それは本明細書中に記載のT-ChARMと呼ばれるだろう。図の上側のCARは細胞外成分(BCMA特異的scFvおよび場合によりタグやリンカーのような別の要素を含むことがあるスペーサー領域からなる)、疎水性部分(CD28膜貫通ドメインからなる)および細胞内成分(CD3ζエフェクタードメインと4-1BB共刺激ドメインからなる)を含む。図の下側のCARは細胞外成分(BCMA特異的scFvおよび場合によりタグやリンカーのような別の要素を含むことがあるスペーサー領域からなる)、疎水性部分(CD28膜貫通ドメインからなる)および細胞内成分(CD3ζエフェクタードメインとCD28共刺激ドメインからなる)を含む。その2つのBCMA特異的CAR/T-ChARM構成物は両方とも、自己開裂性Thoseaasignaウイルス2A(T2A)ペプチド配列によりBCMA特異的CAR/T-ChARM構成物から分離された、先端切除型のヒトEGFR(EGFRt)を含む形質導入用遺伝子マーカーを含有する。別の既知の自己開裂性ペプチドも同様に使用でき、例えばブタのテッショウウイルス1 2A(P2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A)、および口蹄病ウイルス(FMDV)2A(F2A)が使用できる。
【
図1F】(F)様々な長さのスペーサー領域を有する典型的なCAR/T-ChARM構成物。sh=12アミノ酸の短(Short)スペーサー;2ST=2つのStrepタグカセットを有する48アミノ酸スペーサー;3ST=3つのStrepタグカセットを有する66アミノ酸スペーサー;2ST Int=2つのStrepタグカセットを有する157アミノ酸の中間長(Int)スペーサー;およびLo=228アミノ酸の長(Long)スペーサー。短および長スペーサーは場合によりタグカセット、例えばStrepタグを含むことができる。
【
図1G】(G)C11またはA7 HL scFvを有しかつ異なるスペーサー領域(場合によりSTIIタグを含む)を有する典型的なCAR/T-ChARM構成物の追加の図。
【
図1H】(H)BCMA特異的CARで改変されたヒトT細胞のBCMA認識増殖能力は、T細胞をカルボキシフルオレセイン(CFSF)で標識し、全長BCMA(K562/BCMA)をコードするポリヌクレオチドにより形質導入されたK562細胞(K562/BCMA)と共に、CAR-T細胞または対照の未形質導入CFSE標識T細胞を培養し、そしてフローサイトメトリーを用いて各細胞分裂によるCFSEの希釈度を測定することにより測定した。異なるスペーサー長を有する異なるBCMA特異的CARを含むCFSE標識T細胞は、K562/BCMA細胞との共培養後にCFSEを希釈したが、対照の未形質導入T細胞(UT)はCFSEを希釈しなかった。2STまたはより長いスペーサーを含むCAR-T細胞は、短いスペーサーを発現するCAR-T細胞よりも良好に増殖した。
【
図1I】(I,J)BCMA発現U266および8266骨髄腫細胞に応答した、種々のスペーサー長を有する抗BCMA CAR-T細胞によるサイトカイン放出(IFN-γ、I;IL-2、J)。
【
図1J】(I,J)BCMA発現U266および8266骨髄腫細胞に応答した、種々のスペーサー長を有する抗BCMA CAR-T細胞によるサイトカイン放出(IFN-γ、I;IL-2、J)。
【
図1K】(K)単離および繁殖後の抗BCMA C11 T-ChARMまたはBCMA-2 CAR構成物を用いて形質導入されたCD8
+ T細胞上の細胞表面EGFRtおよびSTII発現。
【
図1L】(L,M)4-1BB共刺激ドメインまたはCD28共刺激ドメインを含む本開示のC11 T-ChARMを発現するように操作されたヒトCD4(上のパネル)およびCD8(下のパネル)T細胞による、または以前に開示された抗BCMA CAR(“BCMA-2”;Carpenter他、Clin. Cancer Res. 19:2048, 2013参照)による、サイトカイン放出(IFN-γ, L; IL-2, M)。
【
図1M】(L,M)4-1BB共刺激ドメインまたはCD28共刺激ドメインを含む本開示のC11 T-ChARMを発現するように操作されたヒトCD4(上のパネル)およびCD8(下のパネル)T細胞による、または以前に開示された抗BCMA CAR(“BCMA-2”;Carpenter他、Clin. Cancer Res. 19:2048, 2013参照)による、サイトカイン放出(IFN-γ, L; IL-2, M)。
【
図1N】(N)指示したBCMA発現細胞系と共培養した本開示のC11 T-ChARMまたはBCMA-2 CARを発現するように操作されたヒトT細胞の増幅。
【
図1O】(O)指示したE:T比において本開示のC11 T-ChARM(○=41BB共刺激ドメイン、□=CD28共刺激ドメイン)またはBCMA-2 CAR(△)を発現するように操作されたCD8 T細胞によるK562 BCMA陰性細胞の溶解。
【
図1P】(P)様々なE:T比(x軸)における、
図1Оに示した操作されたCD8 T細胞による、BCMAを発現するように遺伝子導入されたK562細胞の溶解。
【
図2A】
図2A~2Qは、培養物中の多発性骨髄腫(MM)細胞によるBCMAおよびPD-L1の産生と、腫瘍細胞を認識しIFN-γを生産する抗BCMA T-ChARM-T細胞の能力に対する可溶性BCMA(sBCMA)、表面結合型BCMAおよび表面結合型PD-L1の効果を示す。(A)U266骨髄腫細胞を洗浄し培地中で1,3,5および24時間平板培養した。培地上清を収集し、ELISAにより可溶性BCMAについてアッセイした。データは、上清中の可溶性BCMAレベルの時間依存性増加を示す。
【
図2B】(B)ELISAにより測定された、高度(Pt.1)、中度(Pt.2)もしくは低度/陰性(Pt.3)発現を有する典型的な患者初代MM細胞によるまたは参照MM細胞(RPMI 8226)によるBCMA発現を示すヒストグラム(黒=抗BCMA抗体;灰色の線=アイソタイプ対照)。
【
図2C】(C)MM細胞での高度、中度または低度/陰性BCMA発現を有する骨髄腫患者(n=19)の割合を示すチャート。
【
図2D】(D)高度(左、n=5)または低度(右、n=4)BCMA発現を有する患者MM細胞での刺激に応答した、抗BCMA C11 T-ChARM
+ CD8
+T細胞によるIFN-γの生産(2:1のE:T比で24時間(ELISA))。対応のない両側T検定を使って有意性を試験し、バーは平均IFN-γ生産+SEMを示す。
【
図2E】(E)ELISAにより測定された、RPMI 8226骨髄腫細胞(最も左側のパネル)および高度、低度/陰性または中度PD-L1発現を有する3名の患者からの初代MM細胞によるPD-L1発現を示すヒストグラム(斜線陰影付き=抗PD-L1抗体での染色;空白のヒストグラム=アイソタイプ対照)。
【
図2F】(F)MM細胞中での高度、中度、または低度/陰性PD-L1発現を有する患者(n=19)の割合を示すチャート。
【
図2G】(G)高度(左、n=4)または低度(右、n=5)PD-L1発現を有する患者MM細胞に応答した、本開示の抗BCMA C11 T-ChARM
+ CD8
+ 細胞によるIFN-γ生産(2:1のE:T比で24時間(ELISA))。対のない両側t検定を使って有意性を試験し、バーは平均IFN-γ生産+SEMを示す。
【
図2H】(H)外因性可溶性BCMAの存在下でのBCMA特異的T-ChARM T細胞によるIFN-γ生産。sBCMAは、BCMA特異的T-ChARM細胞を発現するT細胞と全長BCMAをコードするポリヌクレオチドにより形質導入されたK562細胞(K562/BCMA
+)との共培養物に添加された。培地上清中へのIFN-γ放出により測定した時にBCMA特異的T-ChARM T細胞エフェクター機能の用量依存性阻害が認められる。
【
図2I】(I)K562 BCMA
+細胞を認識するBCMA特異的T-ChARM T細胞によるIFN-γ生産に対するsBCMAの効果を示す別の用量滴定実験であって、sBCMAを別の、より高濃度(5,000 ng/mL)で培養物に添加することを含む実験からのデータ。
【
図2J】(J)インビトロで培養された指摘のMM細胞によるBCMAの脱落。
【
図2K】(K)低(<2%CD138
+ 細胞)または高(>2%CD138
+ 細胞)疾病負荷を有する患者からの骨髄(BM)血清において測定されたsBCMA。
【
図2L】(L)本開示のC113ST-ChARM T細胞へのsBCMA結合。T細胞を指示したレベルの組換えsBCMAと共にインキュベートし(図の右側)、次いでAPCに結合されたBCMA-Fc融合体により染色した。
【
図2M】(M)C113ST T-ChARM細胞とFMC63 CAR-T細胞による、表面染色(APCと結合されたBCMA-Fcおよび抗EGFRt抗体)およびCD4発現を示すフローサイトメトリーデータ。
【
図2N】(N)標的を発現するK562細胞と共に共培養しそしてBCMA-Fc融合タンパク質を投与した時(左のパネル:0 ng/mL BCMA-Fc;右のパネル:1000 ng/mL BCMA-Fc)の、本開示のC113ST-ChARM(「C113ST」)または対照の抗CD19 CAR(「FMC632」)のいずれかを発現するT細胞による、IFN-γ生産(y軸)およびCD4発現(x軸)を示すフローサイトメトリーデータ。
【
図2O】(O)外因性組換えBCMA(BCMA-Fc融合体)の存在下または非存在下での指摘のような標的細胞系に応答したCAR T細胞によるIFN-γ放出を示す用量滴定。FMC63(抗CD19)対K562 CD19
+(対照;下向きの三角形▽); C113ST T-ChARM T細胞対RPMI 8226 (上向きの三角形△)、U266 (正方形□)およびK562 BCMA
+ 細胞(円○))。データは、2種の独立した実験を代表するものである。バーは、平均+SEMを表す。P値(事後試験を伴う一方向ANOVAにより求めた)≦0.05。MFI=平均蛍光強度。
【
図2P】(P)BCMA-Fcの存在下または非存在下での(x軸)指示した抗原発現細胞との共培養物における
図2Оに示されるT細胞によるIFN-γ生産(正規化平均蛍光強度、MFI)。
【
図2Q】(Q)K562 BCMA
+標的細胞に対するCD8
+ C113ST T-ChARM T細胞の、およびK562 CD19
+標的細胞に対するFMC63 CAR-T細胞の、様々な濃度の組換えBCMAにおいて10:1のE:T比における4h CRAにより分析された、細胞溶解活性。データは2種の独立した実験の代表である。バーは平均+SEMを表す。P値(事後試験を伴う一方向ANOVAにより求めた)≦0.05。MFI=平均蛍光強度。
【
図3A】
図3A~3Rは、骨髄腫細胞株または初代骨髄腫細胞の細胞表面BCMAおよび他の細胞表面分子のレベルに対するγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)RO4929097の効果を示す。(A)細胞表面のBCMAを、骨髄腫細胞株(8226、U266B1、MM1.R、H929)を0μM(DMSO対照)~1.0μMの濃度範囲のGSI RO4929097と共にインキュベーションする前と5時間後に(図を参照)、抗BCMAモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーにより前記4種の骨髄腫細胞株に関して測定した。
【
図3B】(B)指示濃度のRO4929097と共に培養したMM.1R細胞による表面BCMA発現;アイソタイプ対照(灰色の線)と比較した抗BCMA抗体(黒い線)による染色。
【
図3C】(C)指示濃度のRO4929097と共に培養した時のMM細胞株による表面BCMA発現の変化(倍)。変化(倍)は、同じ細胞系の未処置MM細胞と比較して示される。
【
図3D】(D)1μM RO4929097との培養物における指摘のMM細胞による経時的な表面BCMA発現の変化(倍)の反応速度論。
【
図3E】(E)U266骨髄腫細胞を様々な濃度のGSI RO429097(0.01μM、0.1μM、1.0μM)の存在下で1、3、5、24時間インキュベートし、フローサイトメトリーにより表面BCMA発現を評価した。BCMA発現は、GSIの存在下で用量依存形式で増加し、5時間の暴露後に最大の増加が観察された。
【
図3F】(F)1μM GSI中で培養した細胞株(MM1R=三角形△;U266=正方形□;8226=円○)上の表面BCMA発現の経時的な変化(倍)。GSIは、2日毎の培地の半量の交換として再投与された。BCMAの変化(倍)は、処置群(MFIBCMA-MFIiso)/対照群(MFIBCMA-MFIiso)として定義される。データは、少なくとも2つの独立した実験の代表である。
【
図3G】(G,H)指示濃度のRO4929097の存在下で培養されたMM細胞株細胞におけるsBCMAの培養上清濃度。
【
図3H】(G,H)指示濃度のRO4929097の存在下で培養されたMM細胞株細胞におけるsBCMAの培養上清濃度。
【
図3I】(I)U266骨髄腫細胞を洗浄し、様々な濃度のGSI RO429097(0.01μM、0.1μMおよび1.0μM)の存在下で培地中で平板培養した。培地上清を1、3、5および24時間後に回収し、ELISAにより可溶性BCMA(sBCMA)についてアッセイした。データは、GSIが少なくとも約0.01μMの濃度で存在すると、腫瘍細胞から上清中に放出されるBCMAの量が経時的に減少したことを示す。
【
図3J】(J,K)GSIの連続した存在下での培養物(GSI +/+)に比較した、骨髄腫細胞株培養物から1μM GSIを除去した後(GSI +/-)の様々な時点でのBCMA発現(J)および上清sBCMA濃度(K)の変化(倍)。
【
図3K】(J,K)GSIの連続した存在下での培養物(GSI +/+)に比較した、骨髄腫細胞株培養物から1μM GSIを除去した後(GSI +/-)の様々な時点でのBCMA発現(J)および上清sBCMA濃度(K)の変化(倍)。
【
図3L】(L)1μM GSI中で培養した細胞株のヨウ化プロピジウム染色により測定した、指示MM発現細胞の生存率。
【
図3M】(M)指示濃度のRO4929097と共に培養した初代患者MM細胞による表面BCMA発現。染色は、
図3Bに関して記載した通りであった。
【
図3N】(N)様々な量のGSIと共に4時間培養した初代骨髄腫細胞(n=7)上のBCMAの変化(倍)。初代細胞および細胞系は0.5×10
6 細胞/mLで培養した。BCMAの変化(倍)は、処置群(MFI
BCMA-MFI
iso)/対照群(MFI
BCMA-MFI
iso)として定義される。データは、異なるドナー由来のT細胞を使用した3つの独立した実験の代表である。
【
図3O】(O,P)様々な濃度のGSIとの初代骨髄腫細胞の4時間の共培養は、CS1、CD86、PD-L1、CD80およびCD38を含む腫瘍細胞上の数種の別の細胞表面分子のレベルに影響を与えない。
【
図3P】(O,P)様々な濃度のGSIとの初代骨髄腫細胞の4時間の共培養は、CS1、CD86、PD-L1、CD80およびCD38を含む腫瘍細胞上の数種の別の細胞表面分子のレベルに影響を与えない。
【
図3Q】(Q)培地中の1μM GSIの存在下(黒色)または非存在下(灰色)でのMM1R細胞上の様々な表面マーカーの染色。アイソタイプ染色はオープンプロットとして示される。
【
図3R】(R)CD138
+ 初代骨髄腫細胞を患者の骨髄試料から濃縮し、様々な濃度のGSI RO4929097(0.01μM~10μM)の存在下で3時間インキュベートし、フローサイトメトリーにより表面BCMA発現について評価した。腫瘍細胞のBCMA平均蛍光強度(MFI)は、RO4929097不在下でインキュベートした腫瘍細胞で観察されたものを超える増加の倍数として表される。BCMAの用量依存形式でのアップレギュレーションが観察される。
【
図4A】
図4A~4Cは、骨髄腫細胞をGSIで前処理するとBCMA特異的CAR-T細胞による初代骨髄腫細胞の認識後サイトカイン放出が増加することを示す。(A)単独でまたは様々な濃度のGSI RO4929097(0.003μM~3.0μM)存在下での初代ヒト骨髄腫細胞と共に24時間共培養したBCMA CAR-T細胞(BCMA特異的T-ChARM C113ST-CD28およびBCMA特異的T-ChARM C11 3ST-41BB)によるまたは対照のCD19sh CAR(短スペーサー)-T細胞によるIL-2生産。
【
図4B】(B)様々な濃度のRO4929097の存在下で骨髄腫細胞と共に共培養したBMCA T-ChARM T細胞によるIFN-γ生産。
【
図4C】(C)CFSE標識したBCMA特異的T-ChARM T細胞の増殖は、培地のみまたは指定濃度のGSI RO492097を含む培地中での初代ヒト骨髄腫細胞と共に3日間共培養した後、用量依存形式で増加した。
【
図5A】
図5A~5Rは、CAR-T細胞の生存率、増殖および機能的活性に対する様々な濃度のGSIの効果を示す。(A)GSIと共にまたは無しで±12~16時間培養したK562 CD19
+細胞およびRaji細胞のCD19染色。アイソタイプ対照は灰色の線で示される。
【
図5B】(B)初代ヒトT細胞を0.01μM~100μMの範囲の濃度のGSI RO4929097中で培養し、そして24時間後にトリパンブルー色素排除により生存率を測定した。T細胞の生存率に対するGSIの影響はどの濃度においても認められなかった。
【
図5C】(C)様々な濃度のRO4929097を含む培地中で、CD19 CAR-T細胞をK562/CD19標的細胞と共に共培養した。RO4929097は、IL-2(上のパネル)およびIFNγ(下のパネル)の生産を測定することにより決定されるように、共培養すると≧3μMの濃度でCD19 CAR-T細胞エフェクター機能を阻害する。ボックスは、CAR-T細胞エフェクター機能を阻害しない薬物の関連治療濃度域を示す。
【
図5D】(D)増加する濃度のGSI RO4929097の存在下で標的細胞と共に培養したCD19 CAR-T細胞によるIL-2産生。
【
図5E】(E)増加する濃度のGSI RO4929097の存在下で標的細胞(“K562 CD19”)または対照細胞(“K562 BCMA”)と共に培養したCD19 CAR-T細胞によるIL-2産生。細胞に指示量のGSIを投与した後、洗浄し(空白のバー)または洗浄しなかった(塗りつぶしたバー)。
【
図5F】(F)様々な濃度のGSIとのプレインキュベーション後、K562 BCMA
+またはK562 CD19
+細胞と共に一晩共培養した後のCD19 CAR-T細胞によるIL-2産生を示す別の実験からのデータ。洗浄後、サイトカイン産生の可逆性を評価するために、GSIを共培養物に再び添加し(+/+)または共培養物から除外した(+/-)。
【
図5G】(G)GSI RO4929097の存在下でのCD19 CAR-T細胞による指摘の標的細胞または対照細胞の特異的溶解。
【
図5H】(H)GSIの存在下もしくは非存在下でCD19発現標的細胞と共に培養された、またはGSIの非存在下で対照細胞と共に培養された、CD19 CAR-T細胞の増殖。細胞をCFSEで染色し、フローサイトメトリーにより増殖を測定した。
【
図5I】(I)指示濃度のGSI RO4929097の存在下でのCD19 CAR-T細胞の細胞分裂数のグラフ表示。水平バーの幅は、実験の過程に渡って指示世代数(すなわち5、4、3、2、1、または0世代)だけ細胞分裂した培養物中のCAR-T細胞の比率を表す。
【
図5J】(J)GSIの非存在下(円形○)または0.5μM(四角形□)もしくは5μM(三角形▽)の存在下での、CD19
+ TM LCL細胞および外因性IL-2を含むCD19特異的CAR-T細胞の増殖中の細胞計数(CD8染色)。
【
図5K】(K)指摘の通りGSIの非存在下または存在下でのCD19
+ TM.LCL細胞と共に増殖させたCD19特異的CAR-T細胞(CD4:CD8(1:1)の細胞計数。ただし外因性IL-2の添加は伴わない。
【
図5L】(L)K562細胞(抗原なし)、K562 CD19
+ 細胞またはRaji細胞による再刺激後にGSI存在下で増殖させた抗CD19 CAR CD8
+ T細胞の上清中のIFN-γ濃度。
【
図5M】(M,N)GSIの非存在下でまたは0.5μMもしくは5μM GSIのいずれかの存在下での指摘の細胞株による再刺激後のCD4:CD8抗CD19 CAR-T細胞混合物によるIFN-γ(M)およびIL-2(N)の生産。
【
図5N】(M,N)GSIの非存在下でまたは0.5μMもしくは5μM GSIのいずれかの存在下での指摘の細胞株による再刺激後のCD4:CD8抗CD19 CAR-T細胞混合物によるIFN-γ(M)およびIL-2(N)の生産。
【
図5O】(O)GSI RO4929097の非存在下(0μM;左のパネル)または存在下(1μM;右のパネル)で2人の患者由来の初代MM細胞と共に培養した本開示のT-ChARM T細胞によるIFN-γ生産(y軸)およびCD8発現(x軸)を示す細胞内染色。
【
図5P】(P)指示濃度のRO4929097(x軸)の存在下で初代MM細胞と共に培養した本開示のT-ChARM T細胞によるIFN-γ産生(幾何平均蛍光強度(gMFI))。
【
図5Q】(Q)指示濃度のRO4929097(x軸)の存在下で初代MM細胞と共に培養した本開示のT-ChARM T細胞によるIFN-γ産生(正規化MFI;y軸)。
【
図5R】(R)未処置(灰色の網掛け)または1.0μM GSI RO4929097で処置した初代MM細胞の存在下での本開示のT-ChARM T細胞の増殖。
【
図6A】
図6A~6Cは、多発性骨髄腫の前臨床インビボモデルでのBCMA発現に対するGSI RO4929097の作用を示す。(A)播種性異種移植マウス骨髄腫モデルのための実験スキーム。NSGマウスを照射(275 rad)して腫瘍の生着を促進し、ヒトMM腫瘍細胞(5×10
6 MM.1R)を投与した後、GSI処置(30 mg/kg)を行った。その後、マウスを安楽死させ、血液およびBM試料を採取し、GSIがインビボで骨髄腫細胞上のBCMA発現をアップレギュレートしたかどうかを判定した。
【
図6B】(B)2回目のGSI投与後、指定の時点で安楽死させたマウスの骨髄腫細胞上の表面BCMA発現の変化(倍)。
【
図6C】(C)RO4929097の投与後、指定された時点で犠牲にしたマウスの血清中のsBCMAレベル。
【
図7A】
図7A~7Eは、前臨床マウスMMモデルにおける抗BCMA CAR-T細胞療法に対するGSI RO4929097の効果を示す。(A)マウスに放射線を照射し、その後ヒトMM腫瘍細胞(ホタルルシフェラーゼを発現する5×10
6 MM.1R)を投与する実験スキーム。それから20日後、指摘の時点でマウスにGSI(30 mg/kg)を投与し、第0日に抗BCMA T-ChARM T細胞(0.33×10
6細胞、1:1 CD4:CD8)の単回準最適投与量を投与した。生物発光(BLI)画像と生存率を全期間にわたりモニタリングした。
【
図7B】(B)C113ST T-ChARM T細胞(0 mg/kgの0.33×10
6細胞、1:1 CD4:CD8、左のパネル; 30 mg/kg、中央のパネル)または対照のFM63抗CD19 CAR-T細胞(0.33×10
6細胞、1:1 CD4:CD8、30 mg/kg、右のパネル)での処置後2日目、17日目および16日目に撮影したマウスのBLI画像。
【
図7D】(D)T-ChARM T細胞の投与後の
図8Bに示すマウスの生存率。
【
図7E】(E)(左)
図8Bに示すBLIからの定量的発光データ。(右)T-ChARM T細胞の投与後のマウスの生存率。
【
図8】
図8は、BCMAに特異性を有する二重特異性融合分子による、GSIの存在下または非存在下でのH929 MM細胞への結合のフローサイトメトリー分析を示す。BCMAをターゲットとしない対照の二重特異性融合分子も試験した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示をより詳細に説明する前に、本明細書で用いる特定の用語の定義を提供することは、本発明の理解に役立つだろう。追加の定義は本開示の全体にわたって与えられる。
【0009】
本明細書において、任意の濃度域、百分率範囲、比率範囲、または整数範囲は、別記しない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、および適切な場合には、その分数(例えば、ある整数の1/10および1/100)を包含すると理解すべきである。また、ポリマーサブユニット、サイズまたは厚さといったいずれかの物理的特徴に関連して本明細書に列挙される数値の範囲は、特に別記しない限り、列挙された範囲の中の任意整数を含むと理解される。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別記しない限り、指示された範囲、値または構造の±20%を意味する。本明細書で使用される「a」および「an」という用語は、指摘された構成要素の「1つまたは複数」を指すことを理解されたい。選択肢の使用(例えば「または」)は、選択肢のいずれか1つ、2つまたはその任意組み合わせを意味すると理解すべきである。本明細書で使用される「包含する」、「有する」および「含む」という用語は同義語として用いられ、それらの用語および変形は非限定的であると解釈されるべきである。
【0010】
加えて、本明細書に記載の構造および置換基の様々な組み合わせから誘導される個々の化合物または化合物群は、各化合物または化合物群があたかも個別に言及されたのと同程度に本願により開示されることを理解すべきである。したがって、特定の構造または特定の置換基の選択は、本開示の範囲内である。
【0011】
「~から本質的になる」という用語は、請求の範囲を、特定の物質もしくは工程、または特許請求される発明の基本的特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。例えば、タンパク質ドメイン、領域、モジュールもしくはカセット(例えば、結合ドメイン、ヒンジ領域、リンカーモジュール、タグカセット)またはタンパク質(1つ以上のドメイン、領域、モジュールまたはカセットを含んでよい)は、ドメイン、領域、モジュール、カセットまたはタンパク質のアミノ酸配列が、組み合わせるとドメイン、領域、モジュール、カセットまたはタンパク質の長さの最大20%(例えば最大で15%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%または1%)に関与している伸長、欠失、突然変異またはそれらの組み合わせを含み、かつ、そのドメイン、領域、モジュール、カセットまたはタンパク質の活性(例えば結合タンパク質またはタグカセットの標的結合親和性)に実質的に影響を及ぼさない(すなわち、50%より多くは該活性を減少させない、例えば40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または1%以下しか減少させない)ときに、特定のアミノ酸配列(例えばアミノ末端もしくはカルボキシ末端のアミノ酸またはドメイン間のアミノ酸)「から本質的になる」という。
【0012】
本明細書で使用される場合、「増殖性障害」とは、正常な細胞または未罹患の細胞と比較して、過剰なまたは他の形で異常な成長もしくは増殖を指す。過剰または異常な成長には、例えば、急速に発生する可能性がある(例えば過剰増殖)、または生来の組織内で時間とともにゆっくりとまたは徐々に進行する可能性がある(例えば多発性骨髄腫)(例えば、骨髄内の形質細胞腫の増殖)、並びに罹患細胞にとって生来でない遠位組織または身体部位内に広がる/増殖する、無調節の成長または増殖が含まれる。典型的な増殖性障害としては、腫瘍、癌、腫瘍組織、癌腫、肉腫、悪性細胞、前癌状態の細胞、並びに非腫瘍性または非悪性の増殖性障害(例えば腺腫、線維腫、脂肪腫、平滑筋腫、血管腫、線維症、再狭窄)、または自己免疫疾患(例えば関節リウマチ、変形性関節症、乾癬、炎症性腸疾患など)が挙げられる。
【0013】
本明細書で使用される「結合タンパク質」(「結合ドメイン」、「結合領域」または「結合部分」とも呼ばれる)とは、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質などの分子であって、標的分子(例えばBCMA)と特異的にかつ非共有結合的に会合、統合、または結合する能力を有する分子を指す。結合タンパク質は、生物学的分子、化合物または他の着目の標的に対する、任意の天然、合成、半合成または組換え生産された結合相手を含む。いくつかの実施形態において、結合タンパク質は、機能的結合ドメインまたはその抗原結合フラグメント(断片)を含む、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子、例えば抗体またはT細胞受容体(TCR)由来のものである。典型的な結合タンパク質としては、一本鎖抗体可変領域(例えばドメイン抗体、sFv、scFv、Fab)、BCMAリガンド(例えばBAFF、APRILおよびその結合フラグメント)、T細胞受容体(TCR)の抗原結合領域、例えば一本鎖TCR(scTCR)、または生体分子に結合する特異的能力のために選択された合成ポリペプチドが挙げられる。
【0014】
本明細書で使用する場合、「特異的に結合する」とは、105 M-1以上の親和性またはKa(すなわち、1/Mを単位とする特定の結合相互作用の平衡会合定数)で標的分子に結合ドメインまたはその融合タンパク質が会合または統合するが、一方で試料中の任意の他の分子または成分とは有意に会合または統合しないことを指す。結合ドメイン(またはその融合タンパク質)は、「高親和性」結合ドメイン(またはその融合タンパク質)または「低親和性」結合ドメイン(またはその融合タンパク質)として分類することができる。「高親和性」結合ドメインとは、少なくとも107 M-1、少なくとも108 M-1、少なくとも109 M-1、少なくとも1010 M-1、少なくとも1011 M-1、少なくとも1012 M-1、または少なくとも1013 M-1 のKaを有するそれらの結合ドメインを指す。「低親和性」結合ドメインとは、最大107 M-1、最大106 M-1、最大105 M-1のKaを有するそれらの結合ドメインを指す。あるいは、親和性は、Mを単位とする特定の結合相互作用の平衡解離定数(Kd)として定義されてもよい(例えば、10-5 Mから10-13 M)。特定の実施形態では、結合ドメインは「増強された親和性」を有し、野生型(または親)の結合ドメインよりも標的抗原への結合がより強力である、選択または遺伝子操作された結合ドメインのことを指す。例えば、増強された親和性は、野生型結合ドメインのものよりも高い標的抗原に対するKa(平衡会合定数)によるか、または野生型結合ドメインのものよりも低い標的抗原に対するKd(解離定数)によるか、または野生型結合ドメインのものよりも低い標的抗原に対するOff-Rate(Koff)によることができる。特定の標的を特異的に結合する本開示の結合ドメインを同定するため、並びに結合ドメインまたは融合タンパク質の親和性を決定するためには、様々なアッセイ法、例えばウエスタンブロット、ELISA、およびBiacore(登録商標)分析などが知られている(例えば、Scatchard他、Ann. N.Y. Acad. Sci. 51:660, 1949; および米国特許第5,283,173号、同第5,468,614号、または同等物も参照のこと)。
【0015】
本明細書で使用する「異種」または「非内因性」または「外因性」とは、宿主細胞または対象にとって生来でない任意の遺伝子、タンパク質、化合物、分子または活性を指す、あるいは宿主または宿主細胞にとって生来であるがその構造、活性またはその両方が生来の分子と変異型分子の間のように異なるように改変または変異されている任意の遺伝子、タンパク質、化合物、分子または活性を指す。特定の実施形態において、異種、非内因性または外因性分子(例えば、受容体、リガンド)は、宿主細胞または対象にとって内因性でないかもしれないが、その代わりにそのような分子をコードする核酸が、抱合(コンジュゲーション)、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション等により宿主細胞に付加されていてよく、ここで付加された核酸分子は宿主細胞ゲノム中に組み込まれるかまたは染色体外遺伝物質として(例えばプラスミドまたは他の自己複製ベクターとして)存在することができる。「相同」または「相同体」という用語は、宿主細胞、種または株中に見つかるまたはそれに由来する分子もしくは活性を指す。例えば、異種もしくは外因性分子または該分子をコードする遺伝子は、それぞれ、生来の宿主もしくは宿主細胞または該分子をコードする遺伝子と相同であり得るが、改変された構造、配列、発現レベルまたはそれらの組み合わせを有することがある。非内因性分子は、同種、異種、またはそれらの組み合わせからのものであってよい。
【0016】
本明細書で使用される「内因性」または「生来」という用語は、宿主または宿主細胞中に通常存在する遺伝子、タンパク質、化合物、分子または活性を指す。
【0017】
本明細書で使用される「タグカセット」は、異種または非内因性の同族結合分子(例えば受容体、リガンド、抗体または他の結合相手)が特異的に結合することのできる着目のタンパク質に固定される、融合される、または該タンパク質の一部である、ユニークなペプチド配列のことを指し、ここで、特にタグ付タンパク質がタンパク質もしくは別の物質の不均一集団である時、またはタグ付タンパク質を発現する細胞が細胞の不均一集団である時(例えば末梢血のような生体試料)、タグ付タンパク質またはタグ付タンパク質を発現する細胞を検出し、同定し、単離・精製し、追跡し、濃縮し、または標的とするためにその結合性質が用いられる。特定の実施形態では、タグ付タンパク質を発現する細胞を異種または非内因性の同族結合分子と接触させ、生物学的応答を誘発し、例えば細胞活性化、細胞増殖または細胞死を促進することができる。その結果提供される融合タンパク質では、同種の結合分子(1または複数)によって特異的に結合されるタグカセットの能力が、標的分子(1または複数)に特異的に結合する結合ドメイン(1または複数)の能力とは異なるかまたはその能力を相加する。タグカセットは、一般に抗原結合分子ではなく、例えば、抗体もしくはTCRまたはその抗原結合部分ではない。
【0018】
本明細書で使用される場合、「ヒンジ領域」または「ヒンジ」は、(a)免疫グロブリンヒンジ配列(例えば上部およびコア領域から構成される)またはその機能性断片もしくは機能性変異体、(b)II型C-レクチンドメイン間(ストーク;茎)領域またはその機能性断片もしくは機能性変異体、または(c)クラスター分類(CD)分子のストーク領域またはその機能性変異体を指す。本明細書で使用する「野生型免疫グロブリンヒンジ領域」とは、抗体の重鎖に存在するCH1ドメインとCH2ドメインの間に挿入されかつそれらを繋ぐ(IgG、IgAおよびIgDの場合)またはCH1ドメインとCH3ドメインの間に挿入されかつそれらを繋ぐ(IgEおよびIgMの場合)、天然の上部および中間ヒンジアミノ酸配列を指す。特定の実施形態では、ヒンジ領域はヒトであり、特定の実施形態では、ヒトIgGヒンジ領域を含む。
【0019】
本明細書中で使用する「スペーサー領域」とは、融合タンパク質中の2つ以上のタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ドメイン、領域、モジュール、カセット、モチーフまたはそれらの任意の組み合わせを連結する、1つ以上のタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ドメイン、領域、モジュール、カセット、モチーフまたはそれの任意組み合わせを指す。例えば、スペーサー領域は、生成するポリペプチド構造が標的分子への特異的結合親和性を維持するかシグナル伝達活性(例えばエフェクタードメイン活性)を維持するかまたはその両方を維持するように、2つの一本鎖融合タンパク質間の相互作用を促進する分離機能もしくは間隔をあける機能、または1つ以上の結合ドメインの位置決め(ポジショニング)を容易にする機能を提供することができる。特定の実施形態では、スペーサー領域は、約2個から約500個までのアミノ酸を有するアミノ酸配列である「リンカーモジュール」を含むことができ、これはリンカーにより連結された2つの領域、ドメイン、モチーフ、カセットもしくはモジュール間にコンホメーション的動きのための柔軟性と空間を提供することができる。例示的なリンカーモジュールとしては、GlyxSeryの1~約10個の反復配列を有するもの(配列番号31)が挙げられ、ここでxおよびyは独立に0~10の整数であり、ただし、xとyは両方とも0ではない(例えば、(Gly4Ser)2(配列番号32)、(Gly3Ser)2(配列番号33)、Gly2Ser、またはその組み合わせ、例えば(Gly3Ser)2Gly2Ser(配列番号34)など)。ある特定の他の実施形態では、スペーサー領域は、CH3のみまたはCH2CH3などの1つ以上の免疫グロブリン重鎖定常領域を含むリンカーモジュールを有することができる。さらなる実施形態では、スペーサー領域は、ヒンジ領域またはタグカセットを含むことができる。このような各連結成分は相互排反ではない。例えば、スペーサー領域は、1つのヒンジ領域と1つ以上のリンカーモジュールを含んでもよく、またはスペーサー領域は、1つのヒンジ領域、1つ以上のリンカーモジュール、および1つ以上のタグカセットを含んでもよい。典型的なスペーサー領域は、例えば約5~約500アミノ酸、または約10~約350アミノ酸、または約15~約100アミノ酸、または約20~約75アミノ酸または約25~約35アミノ酸の長さで異なることができる。典型的な短いスペーサーは、約5~約100アミノ酸(例えば12アミノ酸、15アミノ酸、48アミノ酸、50アミノ酸、66アミノ酸、70アミノ酸)の範囲であり、中間スペーサーは約100~約200アミノ酸(例えば110アミノ酸、120アミノ酸、130アミノ酸、140アミノ酸、150アミノ酸、157アミノ酸、175アミノ酸)の範囲であり、そして長いスペーサーは約200~約500アミノ酸(例えば200アミノ酸、210アミノ酸、220アミノ酸、228アミノ酸、230アミノ酸、250アミノ酸、300アミノ酸、350アミノ酸、400アミノ酸、450アミノ酸)の範囲である。
【0020】
本明細書で使用される「疎水性部分」は、細胞膜内で熱力学的に安定な三次元構造を有する任意のアミノ酸配列を意味し、そして一般に長さが約15アミノ酸から約30アミノ酸の範囲である。疎水性ドメインの構造は、αヘリックス、βバレル、βシート、βヘリックス、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0021】
本明細書で使用される「エフェクタードメイン」は、適切なシグナルを受信すると細胞の生物学的または生理学的応答を直接的または間接的に促進することができる、融合タンパク質または受容体の細胞内部分である。特定の実施形態において、エフェクタードメインは、そこに結合された時のシグナルを受信するタンパク質もしくはタンパク質複合体の一部であるか、またはそれが標的分子に直接結合してエフェクタードメインからのシグナルを始動させる。エフェクタードメインは、それが免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)のような1つ以上のシグナル伝達ドメインまたはモチーフを含む場合、細胞応答を直接促進することができ、そのような細胞応答は共刺激ドメインまたはその機能性部分によって補助されまたは改善されうる。エフェクタードメインを有する典型的なタンパク質はCD3ζである。他の実施形態では、エフェクタードメインは、細胞応答を直接促進する1つ以上の他のタンパク質と会合することにより、細胞応答を間接的に促進するだろう。
【0022】
本明細書で使用される時の用語「共刺激ドメイン」は、例えば、TCR/CD3複合体のCD3ζ鎖によって提供される一次(エフェクター)シグナルに加えて、T細胞に、活性化、増殖、分化、サイトカイン分泌等といったT細胞応答を媒介するシグナルを提供するシグナル伝達成分のことを指す。特定の実施形態では、細胞内成分は、エフェクタードメインもしくはその機能性部分、共刺激ドメインもしくはその機能性部分、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0023】
「可変領域リンカー」とは、重鎖免疫グロブリン可変領域を軽鎖免疫グロブリン可変領域に連結する、またはT細胞受容体Vα/β鎖とCα/β鎖を連結する(例えばVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβ)、または各Vα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβペアをヒンジもしくは疎水性ドメインに連結する、5~約35アミノ酸配列を指し、これは結果として生成する一本鎖ポリペプチドが抗体またはT細胞受容体と同じ標的分子に対する特異的な結合親和性を保持できるように、2つのサブ結合ドメインが相互作用するのに十分な程のスペーサー機能と柔軟性を提供する。特定の実施形態では、可変領域リンカーは、約10~約30アミノ酸または約15~約25アミノ酸を含む。特定の実施形態では、可変領域リンカーペプチドは、GlyxSeryの1~10個の反復配列を含み、ここでxおよびyは独立に1~5の整数であり〔例えば、Gly4Ser(配列番号1)、Gly3Ser(配列番号2)、Gly2Ser、または(Gly3Ser)n(Gly4Ser)1(配列番号3)、(Gly3Ser)n(Gly4Ser)n(配列番号4)、または(Gly4Ser)n(配列番号5)、ここでnは1、2、3、4または5の整数である〕、そして連結された可変領域は機能的結合ドメイン(例えばscFv、scTCR)を形成する。
【0024】
「接合アミノ酸」または「接合アミノ酸残基」とは、あるポリペプチドの2つの隣接するモチーフ、領域またはドメイン間、例えば結合ドメインと隣接リンカー領域の間または疎水性ドメインと隣接エフェクタードメインの間を連結する、あるいは2つのモチーフ、領域もしくはドメイン間(例えばリンカーと隣接結合ドメイン間および/またはリンカーと隣接ヒンジ領域間)を連結するリンカー領域の一端もしくは両端上にある、1個以上の(例えば約2~20個の)アミノ酸残基を指す。接合アミノ酸は、融合タンパク質の構築物の設計から得ることができる(例えば、融合タンパク質をコードする核酸分子の構築の際に制限酵素部位を使用することから生成するアミノ酸残基である)。
【0025】
抗体技術の当業者に理解されている用語は、本明細書中で明らかに異なって定義されない限り、各々当技術分野で習得された意味が与えられる。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む完全抗体、並びに標的分子を結合する能力を有するかまたは保持している完全抗体の抗原結合部分を指す。モノクローナル抗体またはその抗原結合部分は、非ヒト、キメラ、ヒト化、またはヒト、好ましくはヒト化またはヒトであることができる。免疫グロブリンの構造と機能は、例えば、Harlow他編、Antibodies:A Laboratory Manual、第14章(Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、1988)中に概説されている。
【0026】
例えば、用語「VL」および「VH」はそれぞれ抗体の軽鎖と重鎖からの可変結合領域を指す。可変結合領域は別々の十分に定義された「相補性決定領域」(CDR)および「フレームワーク」(FR)として知られる小領域から構成される。用語「CL(またはCL)」は「免疫グロブリン軽鎖定常領域」または「軽鎖定常領域」、すなわち抗体軽鎖からの定常領域を指す。用語「CH(またはCH)」は、「免疫グロブリン重鎖定常領域」または「重鎖定常領域」を指し、これは抗体アイソタイプに依存して更にCH1、CH2およびCH3ドメイン(IgA, IgD, IgG)またはCH1, Ch2, CH3およびCH4ドメイン(IgE, IgM)に細分することができる。「Fab](抗原結合フラグメント)は、抗原に結合する抗体の部分であり、それは鎖間ジスルフィド結合を介して軽鎖に連結された重鎖の可変領域およびCH1を含む。
【0027】
本明細書中で使用する時の「Fc領域部分」は、1抗体からのFcフラグメントの重鎖定常領域セグメント(「結晶性フラグメント」すなわちFc領域)を指し、これは1つ以上の定常ドメイン、例えばCH2、CH3、CH4またはその任意組み合わせを含むことができる。特定の実施形態では、Fc領域部分は、IgG、IgAもしくはIgD抗体のCH2ドメインとCH3ドメインまたはそれの任意組み合わせ、またはIgMもしくはIgE抗体のCH3ドメインとCH4ドメインまたはそれらの任意の組み合わせを含む。他の実施形態において、CH2CH3またはCH3CH4構造は、同一の抗体アイソタイプからのサブ領域ドメインを有し、そしてヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM(例えばヒトIgG1からのCH2CH3)のようにヒト由来である。背景として、Fc領域は、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性)、CDC(補体依存性細胞傷害性)および補体結合、Fc受容体(例えばCD16, CD32, FcRn)への結合、Fc領域を欠いたポリペプチドに比較してより長い生体内半減期、プロテインA結合、並びにおそらく更に胎盤通過といった免疫グロブリンのエフェクター機能を担っている(Capon他、Nature 337:525, 1989参照)。幾つかの実施形態では、本開示の融合タンパク質に見られるFc領域部分は、前記のエフェクター機能の1つ以上を媒介することができるか、または、例えば当業界で既知の1以上の突然変異によってそれらの活性の1つ以上もしくは全部を欠いているだろう。
【0028】
加えて、抗体は、典型的にはFabとFc領域の間に置かれたヒンジ配列を有する(しかし、ヒンジの下側部分はFc領域のアミノ末端部分を含む場合がある)。背景として、免疫グロブリンのヒンジは、Fab部分が空間内を自由に移動できるようにする柔軟なスペーサーとして働く。定常領域とは対照的に、ヒンジは構造的に多様であり、免疫グロブリンクラス間、さらにはサブクラス間でも配列と長さの両方の点で異なる。例えば、ヒトIgG1ヒンジ領域は自由に柔軟性であるため、Fabフラグメントがそれらの対称軸を中心に回転できるようにし、かつ2つの重鎖間ジスルフィド架橋の最初の部分を中心とした球体の内側を移動できるようにする。これに対し、ヒトIgG2ヒンジは比較的短く、柔軟性を制限する4つの重鎖間ジスルフィド架橋により安定化された剛直なポリプロリン二重らせんを含む。ヒトIgG3ヒンジは、62のアミノ酸(21個のプロリンと11個のシステインを含む)を含み、柔軟性のないポリプロリン二重らせんを形成しそしてFabフラグメントがFcフラグメントから比較的離れているためにより大きい柔軟性を提供する、ユニークな拡張したヒンジ領域(IgG1ヒンジの長さの約4倍)により、他のサブクラスと異なっている。ヒトIgG4ヒンジはIgG1よりも短いが、IgG2と同じ長さであり、その柔軟性はIgG1とIgG2のものの中間である。
【0029】
「T細胞受容体」(TCR)は、T細胞(またはTリンパ球)の表面上に見つかる分子を指し、CD3と提携して、主要組織適合複合体(MHC)分子に結合した抗原を認識する機能を一般的に担う。TCRは、大部分のT細胞中の超可変性αおよびβ鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られる)のジスルフィド結合ヘテロ二量体を有する。T細胞の小サブセットでは、TCRは可変γおよびδ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られる)のヘテロ二量体から構成される。TCRの各鎖は免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端の短い細胞質テールを有する(Janeway他、Immunobiology: The Immune System in Health and Disease、第3版、Current Biology Publications、p.4:33、1997参照)。本開示で使用されるTCRは、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ヤギ、ウマ、または他の哺乳動物をはじめとする様々な動物種に由来してよい。TCRは、細胞に結合している(すなわち、膜貫通領域またはドメインを有する)か、または可溶性形態であることができる。
【0030】
「主要組織適合性複合体分子」(MHC分子)とは、ペプチド抗原を細胞表面に送達する糖タンパク質を言う。MHCクラスI分子は、膜貫通型α鎖(3つのαドメインを有する)と非共有結合的に会合したβ2ミクログロブリンとから成るヘテロ二量体である。MHCクラスII分子は、2つの膜貫通型糖タンパク質αおよびβ(両方とも膜を貫通する)から構成される。各鎖には2つのドメインがある。MHCクラスI分子は、細胞質ゾルに由来するペプチドを細胞表面へと送達し、そこでCD8+ T細胞によりペプチド:MHC複合体が認識される。MHCクラスII分子は、小胞系に由来するペプチドを細胞表面へと送達し、そこでそれらがCD4+ T細胞により認識される。MHC分子は、ヒト、マウス、ラットまたは他の哺乳動物をはじめとする様々な動物種に由来してよい。
【0031】
「ベクター」は、別の核酸を輸送することができる核酸分子である。ベクターは例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスまたはファージであることができる。「発現ベクター」は、それが適当な環境に存在する時に該ベクターにより担持された1つ以上の遺伝子によりコードされるタンパク質の発現を指令することのできるベクターである。
【0032】
「レトロウイルス」は、RNAゲノムを有するウイルスである。「ガンマレトロウイルス」とは、レトロウイルス科の1つの属を指す。例示的なガンマレトロウイルスには、マウス幹細胞ウイルス、ネズミ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、および鳥類細網内皮症ウイルスが含まれる。
【0033】
「レンチウイルス」は、分裂細胞および非分裂細胞に感染することができるレトロウイルスの1つの属を指す。レンチウイルスのいくつかの例には、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:HIVタイプ1およびHIVタイプ2を含む);ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれる。
【0034】
「T細胞」または「T細胞系統の細胞」は、該細胞を別のリンパ系細胞、赤血球系細胞または骨髄細胞系列の細胞から区別する、T細胞またはその前駆体もしくは祖先の少なくとも1つの表現型特徴を示す細胞を指す。そのような表現型特徴としては、T細胞に特異的な1以上のタンパク質の発現(例えばCD3+、CD4+、CD8+)、またはT細胞に特異的な生理学的、形態学的、機能的、または免疫学的特徴が挙げられる。例えば、T細胞系統の細胞は、T細胞系統にゆだねられる前駆細胞または前駆体細胞;CD25+未熟および不活性化T細胞;CD4またはCD8系統コミットメントを受けた細胞;CD4+CD8+ダブルポジティブである胸腺前駆細胞;シングルポジティブCD4+またはCD8+;TCRαβまたはTCRγδ;または機能的な成熟T細胞または活性化されたT細胞であることができる。
【0035】
「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNAの形であることができ、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAを含む。核酸分子は二本鎖または一本鎖であってよく、そして一本鎖である場合、コード鎖または非コード鎖(アンチセンス鎖)であることができる。コード分子は、当業界で既知のコード配列と同じコード配列を有してもよく、あるいは遺伝暗号の冗長もしくは縮重の結果として、またはスプライシングの結果として、同じポリペプチドをコードすることができる異なるコード配列を有してもよい。
【0036】
「治療する」、「処置」または「改善する」とは、対象(例えばヒトまたは非ヒト動物、例えば霊長類、ウマ、イヌ、マウス、ラット)の疾患、障害または状態の医学的管理(メディカル・マネジメント)を指す。例えば、BCMA特異的結合タンパク質またはBCMA特異的結合タンパク質を発現する宿主細胞を本開示のγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)と併用することを含む適当な投薬または治療レジメン、および所望によりアジュバントまたはプレコンディショニングレジメンが、治療的または予防的ベネフィットを惹起させるために施される。治療的または予防的ベネフィットとは、改善された臨床アウトカム;疾患に伴う症状の緩和または改善;症状の発症の低減;生活の質の向上;病状の安定化;病気の進行の遅延;寛解;生存;長期生存;またはそれらの任意組み合わせを包含する。
【0037】
BCMA特異的結合タンパク質(BCMA特異的療法またはBCMAターゲット免疫療法とも呼ばれる)、γ-セクレターゼ阻害剤、BCMA特異的結合タンパク質を発現する宿主細胞、または本開示のγ-セクレターゼ阻害剤を発現する宿主細胞(例えばBCMA特異的CAR、抗γ-セクレターゼ抗体)の「治療有効量」または「有効量」は、統計的に有意な形で、治療される疾患の1以上の症状の改善をもたらすのに十分な化合物または細胞の量を指す。単独で投与される個々の有効成分または単一の有効成分を発現する細胞に言及する場合、治療有効量とは、その成分の効果またはその成分のみを発現する細胞の効果を指す。組み合わせに言及する場合、治療有効量は、連続的、同時にまたは同時のいずれで投与されるかにかかわらず、治療効果をもたらすような活性成分の総合量または活性成分を発現する細胞と併用した補助活性成分の総合量を意味する。別の組み合わせは、2つ以上の異なるBCMA特異的結合タンパク質などのような、1より多くの活性成分を発現する細胞であってよい。
【0038】
追加の定義は、本開示を通して提供される。
【0039】
B細胞成熟抗原(BCMA)結合タンパク質または分子
特定の態様では、本開示は、疾患または障害を持つまたは持つ疑いのある対象の増殖性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法であって、治療有効量のBCMA特異的結合タンパク質(またはBCMAターゲット免疫療法)および治療有効量のγ-セクレターゼ阻害剤を該対象に投与することを含む方法を提供する。典型的なBCMA特異的タンパク質は、疎水性部分により連結された細胞外成分と細胞内成分とを含むキメラ抗原受容体であり、ここで前記細胞外成分はBCMA特異的結合ドメイン(例えば、BCMA特異的scFv、BCMAリガンドまたはその結合部分、例えばBAFFまたはAPRIL)および随意にスペーサー領域またはヒンジを含み、そして前記細胞内成分はエフェクタードメインおよび随意に共刺激ドメインを含む。
【0040】
特定の実施形態において、本開示は、BCMA特異的抗体またはその抗原結合部分、キメラ抗原受容体(CAR)、またはタグ付キメラ抗原受容体分子(T-ChARM)を含む、増殖性または自己免疫疾患または障害を治療するためにγ-セクレターゼ阻害剤とともに用いられるBCMAターゲット免疫療法を提供する。特定の実施形態では、BCMA特異的抗体またはその抗原結合部分は、ヒトであるかまたはヒト化されている。
【0041】
典型的なBCMA特異的抗体としては、抗体J22.0-xi、J22.9-xi、J6M0、J6M1、J6M2、J9M0、J9M1、J9M2、11D5-3、CA8、A7D12.2、C11 D5.3、C12A3.2、 C13F12.1、13C2、17A5、83A10、13A4、13D2、14B11、14E1、29B11、29F3、13A7、CA7、SG1、S307118G03、S332121F02、S332126E04、S322110D07、S336105A07、S335115G01、S335122F05、ET140-3、ET140-24、ET140-37、ET140-40、ET140-54、TBL-CLN1、C4.E2.1、Vicky-1、pSCHLI333、pSCHLI372、およびpSCHLI373、並びにそれらの抗原結合部分が挙げられる。ヒト化変異形を含むBCMA特異的抗体およびその抗原結合部分の様々な実施形態は、例えば、PCT公開番号WO 2002/066516、WO 2007/062090、WO 2010/104949、WO 2011/108008、WO 2012/163805、WO 2014/068079、WO 2015/166073、WO 2014/122143、WO 2014/089335、WO 2016/090327、およびWO 2016/079177;Ryan他、Mol. Cancer. Ther. 6(11): 3009, 2007;およびAbbas他、Blood 128:1688, 2016中に開示されており、これらのBCMA特異的抗体、それの抗原結合部分およびヒト化変異形はすべて参考として本明細書中に組み込まれる。これらのBCMA特異的抗体からの可変ドメインおよびscFv分子は、本明細書中で言及されるT-ChARMおよびCARタンパク質のいずれかの中の結合ドメインとして使用することができる。
【0042】
本開示のBCMA特異的抗体から得られ、本明細書に開示される方法に有用な抗原結合部分またはドメインとしては、例えば、ドメイン抗体、sFv、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、Fab、F(ab')2、ナノボディ、タンデムscFv、scFv-Fc、scFvダイマー、scFvジッパー、ダイアボディ、ミニボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fab、F(ab)'2、scFab、ミニ抗体、ナノボディ、ナノボディ-HSA、二重特異性T細胞誘導(BiTE)、DAR 、scダイアボディ、scダイアボディ-CH3、またはscFv-CH3 Knobs-Into-Holes(KIH)会合体が挙げられる。
【0043】
ある実施形態では、BCMA特異的結合タンパク質は、二重特異性または多重特異性抗体(またはそれの抗原結合性部分)を含み、そのような抗体は、BCMAに特異的である第一の結合領域(例えば、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはその両方)と、第二の標的〔例えば第一の結合領域のエピトープとは異なるBCMAエピトープ、または非BCMA標的のエピトープ、例えばBCMAでない腫瘍関連抗原(例えばCD19(例えばブリナツモマブ、MOR-208、SGN-19A、SAR3419、コルツキシマブ・ラブタンシン、デニンツズマブ・マホドチン、タプリツモマブ・パプトックス、XmAb 5574、MDI-551、メルク社特許抗CD19 aka B4 aka DI-B4、XmAb 5871、MDX-1342、AFM11)、CD20(例えば、リツキシマブ、オファツムマブ、オクレリズマブ)、CD38(例えば、ダラツムマブまたはイサツキシマブ(SAR650984))、CD45、または免疫エフェクター細胞上、例えばT細胞上(例えばCD3)、NK細胞上(例えばCD56)、NK-T細胞上(例えばNK1.1)に発現された細胞表面タンパク質)、または別の非腫瘍関連抗原もしくは標的〕に特異的である少なくとも1つの別の結合領域とを含む。
【0044】
特定の実施形態では、本開示は、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)とともに用いられる、単独のBCMA特異的結合タンパク質または細胞内でT-ChARMとして発現されるBCMA特異的タンパク質を提供する。典型的なT-ChARMは、疎水性部分により連結された細胞外成分と細胞内成分とを含み、該細胞外成分は、BCMAを特異的に結合する結合ドメイン、随意のスペーサー領域、タグカセットおよびヒンジ領域を含み、そして該細胞内成分は、エフェクタードメインおよび随意に共刺激ドメイン(例えば4-1BBからの機能的ドメインもしくは部分、CD28からの機能的ドメインもしくは部分、またはその両方)を含む。特定の実施形態において、T-ChARM結合ドメインは、BCMA特異的scFv、BCMA特異的scTCR、BCMAリガンド、またはそれらの結合性部分(例えば、BAFF、APRIL)を含み、ここで場合により前記BCMA特異的scFvはヒトであるかまたはヒト化されている。T-ChARMの様々な実施形態は、PCT公開番号WO 2015/095895に開示されており、そのT-ChARM骨格(足場)は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
典型的なタグカセットとしては、Strepタグ(これは原型のStrep(登録商標)タグ、Strep(登録商標)タグII、またはその任意の変異形を指す;例えば米国特許第7,981,632号を参照のこと;このStrepタグは参照により本明細書に組み込まれる)、Hisタグ、Flagタグ、Xpressタグ、Aviタグ、カルモジュリンタグ、ポリグルタミン酸タグ、HAタグ、Mycタグ、Nusタグ、Sタグ、SBPタグ、Softag 1、Softag 3、V5タグ、CREB結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、チオレドキシンタグ、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、タグカセットは、最小キレート化部位(例えば HGGHHG、配列番号6)のような遺伝子操作された親和性部位であり得る。特定の実施形態では、タグカセットは、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号7)またはTrp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly(配列番号8)のアミノ酸配列を有するStrepタグである。
【0046】
タグカセットは、本開示の融合タンパク質中に単一または複数コピーで存在してよい。例えば、本開示のBCMA特異的結合タンパク質は、1、2、3、4または5個のタグカセット(例えばStrepタグ)を有することができる。特定の実施形態では、BCMA特異的T-ChARMの細胞外成分は、1個のタグカセット、2個のタグカセット、3個のタグカセット、4個のタグカセット、または5個のタグカセットを含む。複数のタグカセットのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。
【0047】
特定の実施形態では、タグカセットは、約5~約500個のアミノ酸、または約6~約100個のアミノ酸、または約7~約50個のアミノ酸、または約8~約20個のアミノ酸を含む。幾つかの実施形態では、タグカセットは7~10個のアミノ酸を有する。好ましくは、タグカセットは非免疫原性または最小の免疫原性である。本質的に、タグカセットはハンドルとしてまたはビーコンとして機能することができ、BCMA特異的T-ChARMを発現する細胞の識別、濃縮、単離、増殖の促進、活性化、追跡、または排除を可能にする。
【0048】
さらなる実施形態では、本開示は、γ-セクレターゼ阻害剤と共に使用される、キメラ抗原受容体(CAR)であるBCMA特異的結合タンパク質であって、疎水性部分により連結された細胞外成分と細胞内成分とを含み、前記細胞外成分はBCMAを特異的に結合する結合ドメインとヒンジ領域を含み、そして前記細胞内成分はエフェクタードメインと随意に共刺激ドメインとを含む、BCMA特異的結合タンパク質を提供する。特定の実施形態では、CAR結合ドメインは、BCMA特異的scFv、BCMA特異的scTCR、BCMA特異的TCR結合ドメイン(例えばWalseng他、Scientific Reports 7:10713(2017)を参照のこと、そのTCR CAR構築物が参照により本明細書に組み込まれる)、またはBCMAリガンドもしくはその結合性部分(例えばBAFF、APRIL)を含み、場合によりBCMA特異的scFvはヒトまたはヒト化である。これらの実施形態のいずれにおいても、CARの形態にあるBCMA特異的結合タンパク質は、免疫系細胞(例えばT細胞)のような細胞の表面上に発現される。
【0049】
BCMA特異的T-ChARMまたはCARは、細胞結合型(例えば細胞表面に発現される)であるか可溶性形態であるだろう。特定の実施形態では、BCMA特異的T-ChARMまたはCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、T細胞などの宿主細胞における発現を増強または最大にするようにコドン最適化することができる(Scholten他、Clin. Immunol. 119:135、2006)。
【0050】
特定の実施形態では、本開示のBCMA特異的T-ChARMまたはCAR中に存在するヒンジは、野生型免疫グロブリンヒンジ領域またはその改変型免疫グロブリンヒンジ領域といった免疫グロブリンヒンジ領域であってよい。特定の実施形態では、ヒンジは野生型ヒト免疫グロブリンヒンジ領域である。特定の他の実施形態では、融合タンパク質構築物の設計の一部として、1個以上のアミノ酸残基を野生型免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ末端またはカルボキシ末端に付加することができる。例えば、ヒンジのアミノ末端またはカルボキシ末端に1個、2個または3個の追加の接合アミノ酸残基が存在するか、あるいはヒンジが末端または内部欠失を含み、そして1個、2個または3個の追加の接合アミノ酸残基が後部に追加されてもよい。
【0051】
特定の実施形態では、ヒンジは、野生型免疫グロブリンヒンジ領域中の1以上のシステイン残基が1以上の別のアミノ酸残基で置換されている改変型免疫グロブリンヒンジである。例示的な改変型免疫グロブリンヒンジとしては、野生型ヒトIgG1、IgG2またはIgG4ヒンジに見られる1個、2個または3個のシステイン残基が1個、2個または3個の異なるアミノ酸残基(例えばセリンまたはアラニン)により置換されている免疫グロブリンヒトIgG1、IgG2またはIgG4ヒンジ領域が挙げられる。特定の実施形態では、ヒンジポリペプチドは、野生型免疫グロブリンヒンジ領域、例えば野生型ヒトIgG1ヒンジ、野生型ヒトIgG2ヒンジ、または野生型ヒトIgG4ヒンジに少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一である。
【0052】
さらなる実施形態では、本開示のBCMA特異的T-ChARMまたはCAR中に存在するヒンジは、免疫グロブリンヒンジをベースとしないまたは由来しないヒンジ(すなわち、野生型免疫グロブリンヒンジまたは改変型免疫グロブリンヒンジでない)であることができる。そのようなヒンジの例としては、II型C-レクチンまたはCD分子のストーク領域の約5~約150アミノ酸のペプチド、例えば約8~約25アミノ酸のペプチドまたは約7~約18アミノ酸のペプチド、またはそれらの変異形が挙げられる。
【0053】
II型C-レクチンまたはCD分子の「ストーク領域(stalk region)」は、C型レクチン様ドメイン(CTLD;例えばナチュラルキラー細胞受容体のCTLDに類似)と疎水性部分(膜貫通ドメイン)の間に位置する、II型C-レクチンまたはCD分子の細胞外ドメインの部分を指す。例えば、ヒトCD94の細胞外ドメイン(GenBank受入番号AAC50291.1)はアミノ酸残基34~179に対応するが、CTLDはアミノ酸残基61~176に対応することから、ヒトCD94分子のストーク領域は、疎水性部分(膜貫通ドメイン)とCTLDの間に位置するアミノ酸残基34~60を含む(Boyington他、Immunity 10:75、1999を参照;他のストーク領域の説明については、Beavil他、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 89:753、1992;およびFigdor他、Nat. Rev. Immunol. 2:77、2002)。これらのII型C-レクチンまたはCD分子は、ストーク領域と膜貫通領域またはCTLDとの間に連結アミノ酸を有し得る。別の例では、233アミノ酸のヒトNKG2Aタンパク質(GenBank受入番号P26715.1)は、アミノ酸71~93の範囲の疎水性部分(膜貫通ドメイン)とアミノ酸94~233の範囲の細胞外ドメインとを有する。CTLDはアミノ酸119~231を含み、ストーク領域はアミノ酸99~116を含み、それに追加の連結アミノ酸が隣接していてもよい。他のII型C-レクチンまたはCD分子、並びにそれらの細胞外リガンド結合ドメイン、ストーク領域、およびCTLDは、当技術分野で知られている(例えば、GenBank受入番号NP_001993.2; AAH07037.1; NP_001773.1; AAL65234.1; CAA04925.1; ヒトCD23、CD69、CD72、NKG2AおよびNKG2Dの配列並びにそれらの説明をそれぞれ参照のこと)。
【0054】
II型C-レクチンまたはCD分子のストーク領域ヒンジの「誘導体」またはその断片は、約8~約150アミノ酸配列を含み、その配列中に野生型II型C-レクチンまたはCD分子のストーク領域の1、2または3アミノ酸の欠失、挿入、置換、またはそれらの任意の組み合わせを有する。例えば、誘導体は1つ以上のアミノ酸置換および/またはアミノ酸欠失を含むことができる。特定の実施形態では、ストーク領域の誘導体は、野生型ストーク領域配列(例えばNKG2A、NKG2D、CD23、CD64、CD72またはCD94の約8~約20アミノ酸に由来するもの)に比較してタンパク質分解に対してより耐性である。
【0055】
特定の実施形態では、ストーク領域ヒンジは、約7~約18個のアミノ酸を含むことができ、α-ヘリックスコイルドコイル構造を形成することができる。特定の実施形態では、ストーク領域ヒンジは、0、1、2、3または4個のシステインを含む。典型的なストーク領域ヒンジとしては、ストーク領域の断片、例えばCD69、CD72、CD94、NKG2AおよびNKG2Dのストーク領域からの約10~約150アミノ酸を含むそれらの部分が挙げられる。
【0056】
本開示のBCMA特異的T-ChARMおよびCARに使用できる代わりのヒンジは、免疫グロブリンV様または免疫グロブリンC様ドメイン間を連結する細胞表面受容体の部分(ドメイン間領域)からのものである。細胞表面受容体が縦一列に複数のIgV様ドメインを含むIgV様ドメイン間の領域、および細胞表面受容体が縦一列に複数のIgC様ドメインを含むIgC様ドメイン間の領域も、本開示のBCMA特異的T-ChARMおよびCARに有用なヒンジとして考慮される。特定の実施形態では、細胞表面受容体ドメイン間領域からなるヒンジ配列は、BCMA特異的T ChARMまたはCARの二量体形成を安定化するために1つ以上のジスルフィド結合を提供するIgGコアヒンジ配列のような天然のまたは追加のモチーフを更に含んでもよい。ヒンジの例としては、CD2、CD4、CD22、CD33、CD48、CD58、CD66、CD80、CD86、CD150、CD166またはCD244のIgV様領域とIgC様領域間のドメイン間領域が挙げられる。
【0057】
特定の実施形態では、ヒンジ配列は、約5~約150アミノ酸、約5~約10アミノ酸、約10~約20アミノ酸、約20~約30アミノ酸、約30~約40アミノ酸、約40~約50アミノ酸、約50~約60アミノ酸、約5~約60アミノ酸、約5~約40アミノ酸、例えば約8~約20アミノ酸または約10~約15アミノ酸を有する。ヒンジは主として柔軟性であるが、より剛直な特徴を有してもよく、または主に僅かなβシートを有するα-ヘリックス構造を含んでもよい。
【0058】
特定の実施形態では、ヒンジ配列は血漿中および血清中で安定であり、タンパク質分解的切断に対して耐性である。例えば、IgG1上部ヒンジ領域中の最初のリジンが、タンパク質分解的切断を最小にするために変異または削除されてもよく、そしてヒンジが連結アミノ酸を含んでもよい。幾つかの実施形態では、ヒンジ配列は、二量体形成を安定化させる1または複数のジスルフィド結合を形成する能力を付与する、免疫グロブリンヒンジコア構造CPPCP(配列番号9)のような天然のまたは追加のモチーフを含んでもよい。
【0059】
本開示のBCMA特異的結合タンパク質(例えばBCMA特異的T-ChARMまたはCAR)中に含まれる疎水性部分は、該結合タンパク質の一部分が細胞外に置かれ(例えばタグカセット、結合ドメイン)、そして一部分が細胞内に置かれる(例えばエフェクタードメイン、共刺激ドメイン)ような形で、本開示のBCMA特異的結合タンパク質を細胞膜と会合できるようにするだろう。疎水性部分は一般に細胞膜リン脂質二重膜の中に配置されるだろう。幾つかの実施形態では、1つ以上の接合アミノ酸が、疎水性部分とエフェクタードメインとの間に置かれてそれらを繋いでおり、または疎水性部分とスペーサー領域の間に置かれてそれらを繋いでおり、または疎水性部分とタグカセットの間に置かれてそれらを繋いでいてよい。
【0060】
幾つかの実施形態では、疎水性ドメインは膜貫通ドメインであり、例えば内在性膜タンパク質に由来するもの(例えば受容体、クラスター分類(CD)分子、酵素、輸送体、細胞接着分子など)である。特定の実施形態では、疎水性部分は、CD4、CD8、CD27またはCD28由来の膜貫通ドメインである。
【0061】
本開示のBCMA特異的結合タンパク質(例えばBCMA特異的T-ChARMまたはCAR)上に含まれる細胞内成分は、細胞に機能的シグナルを伝達することができるだろう。ある実施形態では、BCMA特異的T-ChARMまたはCARは、第二の一本鎖T-ChARMまたはCARとそれぞれ二量化するだろう。その二量化により、エフェクタードメインと場合により共刺激ドメインを含む細胞内成分が近接近に位置するようになり、そして適切なシグナルに曝されるとシグナル伝達を促進できるようになる。そのような二量体タンパク質複合体を形成することに加えて、エフェクタードメインと随意の共刺激ドメインが更に別のシグナル伝達因子、例えば共刺激因子と会合して、細胞内シグナルを生成する多タンパク質複合体を形成してもよい。ある実施形態では、エフェクタードメインが、細胞応答を直接促進する1つ以上の他のタンパク質と会合することにより、細胞応答を間接的に促進するだろう。細胞内成分は、1、2、3またはそれ以上の受容体シグナル伝達ドメイン(例えばエフェクタードメイン)、共刺激ドメイン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。エフェクタードメインもしくはその機能性部分、共刺激ドメインもしくはその機能性部分、または任意の様々なシグナル伝達分子(例えばシグナル伝達受容体)からのそれらの任意組み合わせを含む細胞内成分を、本開示のBCMA特異的結合タンパク質において使用することができる。
【0062】
細胞内成分は、本開示のBCMA特異的結合タンパク質に有用なエフェクターまたは共刺激ドメインを有してもよく、それはWntシグナル伝達経路(例えばLRP、Ryk、ROR2)、NOTCHシグナル伝達経路(例えばNOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NOTCH4)、Hedgehog(ヘッジホッグ)シグナル伝達経路(例えばPTCH、SMO)、受容体チロシンキナーゼ(RTK)(例えば上皮増殖因子(EGF)受容体ファミリー、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリー、肝細胞増殖因子(HGF)受容体ファミリー、インスリン受容体(IR)ファミリー、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体ファミリー、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体ファミリー、トロポマイシン受容体キナーゼ(Trk)受容体ファミリー、エフリン(Eph)受容体ファミリー、AXL受容体ファミリー、白血球チロシンキナーゼ(LTK)受容体ファミリー、免疫グロブリン様およびEGF様ドメイン1を有するチロシンキナーゼ(TIE)受容体ファミリー、受容体チロシンキナーゼ様オーファン(ROR)受容体ファミリー、ディスコイジンドメイン(DDR)受容体ファミリー、トランスフェクション中に再配列される(RET)受容体ファミリー、チロシン・プロテインキナーゼ様(PTK7)受容体ファミリー、受容体チロシンキナーゼ関連(RYK)受容体ファミリー、筋特異的キナーゼ(MuSK)受容体ファミリー); Gタンパク質共役受容体、GPCR(Frizzled、Smoothened);セリン/スレオニンキナーゼ受容体(BMPR、TGFR);またはサイトカイン受容体(IL-1R、IL-2R、IL-7R、IL-15R)のタンパク質をベースにしたものまたは由来のものであることができる。
【0063】
特定の実施形態では、エフェクタードメインは、リンパ球受容体シグナル伝達ドメインを含むか、または1もしくは複数の免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するアミノ酸配列を含む。更に別の実施形態において、エフェクタードメインは、細胞質シグナル伝達タンパク質と会合する細胞質部分を含み、ここで細胞質シグナル伝達タンパク質は、リンパ球受容体またはそのシグナル伝達ドメイン、複数のITAM、共刺激因子またはそれらの任意の組み合わせを含むタンパク質である。
【0064】
例示的なエフェクターおよび共刺激ドメインには、4-1BB、CD3ε、CD3δ、CD3ζ、CD27、CD28、CD79A、CD79B、CARD11、DAP10、FcRα、FcRβ、FcRγ、Fyn、HVEM、ICOS、Lck、LAG3、LAT、LRP、NOTCH1、Wnt、NKG2D、OX40、ROR2、Ryk、SLAMF1、Slp76、pTα、TCRα、TCRβ、TRIM、Zap70、PTCH2、またはそれらの任意の組み合わせをベースにしたものまたは由来するものが含まれる。
【0065】
特定の実施形態では、本開示のBCMA特異的結合タンパク質は、(a) CD3ζからのエフェクタードメインまたはその機能性部分およびCD28からの共刺激ドメインまたはその機能性部分、(b) CD3ζからのエフェクタードメインまたはその機能性部分および4-1BBからの共刺激ドメインまたはその機能性部分、または(c) (a)CD3ζからのエフェクタードメインまたはその機能性部分およびCD28と4-1BBからの共刺激ドメインまたはそれらの機能性部分を含む。
【0066】
γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)
バックグラウンドとして、γ-セクレターゼは多サブユニット内在性膜プロテアーゼ複合体であり、プレセニリン(PS)、ニカストリン(NCT)、APH-1(anterior pharynx-defective 1;咽頭前方部異常1)およびプレセニリンエンハンサー2(PEN-2)を含む。PSは、膜の中に埋め込まれた親水性触媒細孔を形成することができるアスパラギン酸プロテアーゼである触媒サブユニットであり(Takasugi他、Nature 422:438-41, 2003)、それは膜貫通ドメイン内の1回膜貫通型タンパク質を開裂させる。NCTは大きな細胞外ドメイン(ECD)を有するI型膜糖タンパクである。ECDはγ-セクレターゼの主な基質受容体として基質のアミノ末端を補足する(Shah他、Cell 122:435-47, 2005)。γ-セクレターゼ複合体は、Notch、CD44、カドヘリンおよびエフリンB2といった様々な基質のプロセシングにおいて役割を果たしているだけでなく、アミロイド前駆タンパク質をアルツハイマー病に関連があるアミロイドβペプチドへと切断する役割をもつ。γ-セクレターゼ複合体はB細胞成熟抗原(BCMA)を開裂させることも知られており(Laurent他、Nature Communications 6, 2015)、これは多発性骨髄腫をはじめとする様々な癌における治療ターゲットである。
【0067】
典型的なγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)には、小分子、ペプチド模倣化合物またはγセクレターゼ特異的結合タンパク質がある。GSIは、γ-セクレターゼ切断活性が未阻害のγ-セクレターゼに比較して低減されることを前提として、プレセニリン1(PS1)、プレセニリン2(PS2)、ニカストリン(NCT)、APH-1(anterior pharynx-defective 1;咽頭前方部異常1)およびプレセニリンエンハンサー2(PEN-2)といったγ-セクレターゼ複合体タンパク質のいずれか1つ以上を標的とすることができる。幾つかの実施形態では、γ-セクレターゼ活性が少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または100%低減される。γ-セクレターゼ活性を測定するアッセイ法は当業界で既知である(例えばLaurent他、2015を参照のこと)。例えば、可溶性BCMAのレベルは、γ-セクレターゼ活性の代替的測定値であることができる。増殖性または自己免疫性疾患もしくは障害を治療するためのBCMAターゲット免疫療法と共に用いられる、代表的な小分子GSIとしては、アバガセスタット(avagacestat)、DAPT、BMS-906024、BMS-986115、LY411575、MK-0752、PF-03084014、RO4929097、セマガセスタット、YO-01027およびそれの任意組み合わせが挙げられる。
【0068】
別のGSIはγ-セクレターゼ特異的結合タンパク質、例えばγ-セクレターゼ複合体またはγ-セクレターゼ複合体タンパク質、例えばプレセニリン1(PS1)、プレセニリン2(PS2)、ニカストリン(NCT)、APH-1(Anterior pharynx-defective 1)およびプレセニリンエンハンサー2(PEN-2)のような抗体またはそれの抗原結合部分である。典型的なγ-セクレターゼ特異的結合タンパク質はニカストリン特異的結合タンパク質、例えば抗体scFvG9、A5226A、2H6、10C11、およびそれの抗原結合フラグメントである。
【0069】
結合ドメイン
結合ドメインは、本明細書に記載のようにBCMAを特異的に結合するまたはγ-セクレターゼ活性を特異的に阻害する任意のペプチドであることができる。結合ドメインの起源は、ヒト、げっ歯類、鳥類またはヒツジをはじめとする様々な種からの抗体可変領域(抗体、sFv, scFv, Fab, scFv-ベースの“Grababody”、可溶性VHドメインまたはドメイン抗体の形であることができる)を含む。結合ドメインの追加の起源としては、別の種、例えばラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダまたはラマ;Ghahroudi他、FEBS Lett. 414:521, 1997; Vincke他、J. Biol. Chem. 284:3273, 2009; Hamers-Casterman他、Nature 363:446, 1993 およびNguyen他、J. Mol. Biol. 275:413, 1998)、テンジクザメ(Roux他、Proc. Nat’l. Acad. Sci. (USA) 95:11804, 1998)、スポッティド・ラットフィッシュ(Nguyen他、Immunogen. 54:39, 2002)、またはヤツメウナギ(Herrin他、Proc. Nat’l. Acad. Sci. (USA) 105:2040, 2008 およびAlder他、Nat. Immunol. 9:319, 2008)からの抗体の可変領域が含まれる。それらの抗体は、重鎖可変領域だけを使って抗原結合領域を形成させることができ、すなわち、それらの機能性抗体が重鎖のみのホモ二量体である(「重鎖抗体」とも称する)(Jespers他、Nat. Biotechnol. 22:1161, 2004; Cortez-Retamozo他、Cancer Res. 64:2853, 2004; Baral他、Nature Med. 12:580, 2006; およびBarthelemy他、J. Biol. Chem. 283:3639, 2008)。
【0070】
本開示の結合ドメインの代わりの起源としては、ランダムペプチドライブラリーをコードする配列、または別の非抗体足場のループ領域中のアミノ酸の改変多様性をコードする配列、例えばscTCR(例えばLake他、Int. Immunol. 11:745, 1999; Maynard他、J. Immunol. Methods 306:51, 2005; 米国特許第8,361,794号参照)、フィブリノーゲンドメイン(例えばWeisel他、Science 230:1388, 1985参照)、Kunitzドメイン(例えば米国特許第6,423,498号参照)、創出アンキリン反復タンパク質(DARPins) (Binz他、J. Mol. Biol. 332:489, 2003 およびBinz他、Nat. Biotechnol. 22:575, 2004)、フィブロネクチン結合ドメイン(アドネクチンまたはモノボディ)(Richards他、J. Mol. Biol. 326:1475, 2003; Parker他、Protein Eng. Des. Selec. 18:435, 2005 およびHackel他 (2008) J. Mol. Biol. 381:1238-1252参照)、システイン・ノットミニタンパク質(cystein-knot miniprotein)(Vita他 (1995) Proc. Nat′l. Acad. Sci. (USA) 92:6404-6408; Martin 他 (2002) Nat. Biotechnol. 21:71, 2002 およびHuang他 (2005) Structure 13:755, 2005参照)、テトラトリコペプチド反復ドメイン(Main他、Structure 11:497, 2003 および Cortajarena他、ACS Chem. Biol. 3:161, 2008)、高ロイシン反復ドメイン(Stumpp他、J. Mol. Biol. 332:471, 2003)、リポカリンドメイン(例えばWO 2006/095164、Beste他、Proc. Nat′l. Acad. Sci. (USA) 96:1898, 1999およびSchonfeld他、Proc. Nat′l. Acad. Sci. (USA) 106:8198, 2009)、V様ドメイン(例えば米国特許出願公開第2007/0065431号参照)、C型レクチンドメイン(Zelensky & Gready, FEBS J. 272:6179, 2005; Beavil他、Proc. Nat′l. Acad. Sci. (USA) 89:753, 1992 およびSato他、Proc. Nat′l. Acad. Sci. (USA) 100:7779, 2003参照)、mAb2 または FcabTM (例えばPCT特許出願公開WO 2007/098934; WO 2006/072620参照)、アルマジロ反復タンパク質(例えばMadhurantakam他、Protein Sci. 21: 1015, 2012; PCT特許出願公開第WO 2009/040338号参照)、アフィリン(Ebersbach他、J. Mol. Biol. 372: 172, 2007参照)、アフィボディ、アビマー、ノッチン、フィノマー、アトリマー、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(Weidle他、Cancer Gen. Proteo. 10:155, 2013)または類似のもの(Nord他、Protein Eng. 8:601, 1995; Nord他、Nat. Biotechnol. 15:772, 1997; Nord他、Euro. J. Biochem. 268:4269, 2001; Binz 他、Nat. Biotechnol. 23:1257, 2005; Boersma & Pluckthun, Curr. Opin. Biotechnol. 22:849, 2011参照)が挙げられる。
【0071】
本開示の結合ドメインは、本明細書に記載の通りにまたは当業界で既知の様々な方法により作製することができる(例えば米国特許第6,291,161号および同第6,291,158号明細書を参照のこと)。例えば、本開示の結合ドメインは、着目の標的(例えばBCMA、γ-セクレターゼ複合体成分、例えばプレセニリンまたはニカストリン)に特異的に結合するFabフラグメント(断片)についてFabファージライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる(Hoet他、Nat. Biotechnol. 23:344, 2005参照)。その上、従来の系(例えばマウス、HuMAbマウス(登録商標)、TC mouseTM、KM-マウス(登録商標)、ラマ、ニワトリ、ラット、ハムスター、ウサギ等)において免疫原として着目の標的(例えばBCMA、γ-セクレターゼ複合体成分、例えばプレセニリンまたはニカストリン)を用いるハイブリドーマ開発のための伝統的手法を用いて、本開示の結合ドメインを創製することができる。
【0072】
幾つかの実施形態では、結合ドメインは着目の標的(例えばBCMA、γ-セクレターゼ複合体成分、例えばプレセニリンまたはニカストリン)に特異的なVH領域とVL領域とを含む一本鎖Fvフラグメントである。幾つかの実施形態では、VH領域とVL領域はヒトである。典型的なVHおよびVL領域としては、抗BCMA特異的抗体のセグメント J22.0-xi, J22.9-xi, J6M0, J6M1 , J6M2, J9M0, J9M1, J9M2, 11D5-3, CA8, A7D12.2, C11 D5.3, C12A3.2, C13F12.1, 13C2, 17A5, 83A10, 13A4, 13D2, 14B11, 14E1, 29B11, 29F3, 13A7, CA7, SG1, S307118G03, S332121F02, S332126E04, S322110D07, S336105A07, S335115G01, S335122F05, ET140-3, ET140-24, ET140-37, ET140-40, ET140-54, TBL-CLN1, C4.E2.1, Vicky-1, pSCHLI333, pSCHLI372,または pSCHLI373が挙げられる。別の典型的なVHおよびVL領域としては、scFvG9, A5226A, 2H6もしくは10C11からの抗ニカストリン特異的抗体のセグメントまたはそれの抗原結合フラグメントが挙げられる。
【0073】
特定の実施形態では、結合ドメインは、軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列に対して(例えば抗BCMA J22.0-xi, J22.9-xi, J6M0, J6M1 , J6M2, J9M0, J9M1, J9M2, 11D5-3, CA8, A7D12.2, C11 D5.3, C12A3.2 または C13F12.1, 13C2, 17A5, 83A10, 13A4, 13D2, 14B11, 14E1, 29B11, 29F3, 13A7, CA7, S307118G03, S332121F02, S332126E04, S322110D07, S336105A07, S335115G01, S335122F05, ET140-3, ET140-24, ET140-37, ET140-40, ET140-54, TBL-CLN1, C4.E2.1, Vicky-1, pSCHLI333, pSCHLI372もしくはpSCHLI373由来; または抗ニカストリン scFvG9, A5226A, 2H6もしくは10C11由来) または重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列に対して(例えば抗BCMA J22.0-xi, J22.9-xi, J6M0, J6M1 , J6M2, J9M0, J9M1, J9M2, 11D5-3, CA8, A7D12.2, C11 D5.3, C12A3.2, C13F12.1, 13C2, 17A5, 83A10, 13A4, 13D2, 14B11, 14E1, 29B11, 29F3, 13A7, CA7, SG1, S307118G03, S332121F02, S332126E04, S322110D07, S336105A07, S335115G01, S335122F05, ET140-3, ET140-24, ET140-37, ET140-40, ET140-54, TBL-CLN1, C4.E2.1, Vicky-1, pSCHLI333, pSCHLI372もしくはpSCHLI373由来;または抗ニカストリン scFvG9, A5226A, 2H6もしくは10C11由来)、またはその両者に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも95.5%または100%同一の配列であるかまたはその配列を含み、ここで各CDRは、着目の標的(例えばBCMA、γ-セクレターゼ複合体成分、例えばプレセニリンまたはニカストリン)に特異的に結合するモノクローナル抗体またはそのフラグメント(断片)もしくは誘導体から、全く変更を含まないかまたは最大で1つ、2つまたは3つの変異を含む。
【0074】
特定の実施形態では、本開示の結合ドメインVH領域は、既知のモノクローナル抗体のVH領域から誘導されるかまたはそれに基づくことができ、そして既知のモノクローナル抗体のVH領域と比較して1つ以上の(例えば2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)挿入、1つ以上の(例えば2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)欠失、1つ以上の(例えば2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)アミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換)、または上記変更の組み合わせを含むことができる。挿入、欠失または置換は、VH領域のアミノ末端もしくはカルボキシ末端または両端といった該領域中の至る所に存在してよいが、ただし各CDRは変更を全く含まないかまたは最大で1、2もしくは3個の変更を含み、そして改変されたVH領域を含む結合ドメインは依然として野生型結合ドメインと同様な親和性でその標的を特異的に結合するだろう。
【0075】
更なる実施形態では、本開示の結合ドメインのVL領域は、既知のモノクローナル抗体のVL領域から誘導されるかまたはそれに基づくことができ、そして既知のモノクローナル抗体のVL領域と比較して1つ以上の(例えば 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)挿入、1つ以上の(例えば 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)欠失、1つ以上の(例えば 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10個の)アミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換)、または上記変更の組み合わせを含むことができる。挿入、欠失または置換は、VL領域のアミノ末端もしくはカルボキシ末端または両端といった該領域中の至る所に存在してよいが、ただし各CDRは変更を全く含まないかまたは最大で1、2もしくは3個の変更を含み、そして改変されたVL領域を含む結合ドメインは依然として野生型結合ドメインと同様な親和性でその標的を特異的に結合するだろう。
【0076】
VH およびVL ドメインはいずれの配向(すなわち、アミノ末端からカルボキシル末端の向きで、VH-VLまたはVL-VHのいずれか)で配置してもよく、そして2つのサブ結合ドメインが相互作用して機能的結合ドメインを形成できるようにスペーサー機能を提供することのできるアミノ酸配列(例えば約5~約35アミノ酸の長さを有する)によって連結されてよい。幾つかの実施形態では、VHドメインとVLドメインを接合する可変領域リンカーは、(GlynSer)ファミリー、例えば(Gly3Ser)n(Gly4Ser)1 (配列番号3)、(Gly3Ser)1(Gly4Ser)n (配列番号10)、(Gly3Ser)n(Gly4Ser)n (配列番号4)、または (Gly4Ser)n (配列番号5)に属するものを含み、ここでnは1~5の整数である。幾つかの実施形態では、リンカーは (Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3 (配列番号12)または (Gly-Gly-Gly-Ser)4 (配列番号13)である。ある実施形態では、それらの (GlynSer)ベースのリンカーは、結合ドメイン中のVHドメインとVLドメインを繋ぐために用いられ、それらのリンカーは結合ドメインをタグカセットに繋ぐために、またはタグカセットを疎水性部分もしくは細胞内成分に繋ぐためにも用いられる。
【0077】
幾つかの実施形態では、結合ドメインが、着目の標的(例えばペプチド-MHC複合体)に特異的であるVα/β鎖とCα/β鎖(例えばVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβ)を含むかまたはVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβペアを含む、一本鎖T細胞受容体(scTCR)である。
【0078】
特定の実施形態では、結合ドメインは、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%または100%、TCR Vα、Vβ、CαまたはCβのアミノ酸配列と同一であり、各CDRが着目の標的(例えばBCMA、γ-セクレターゼ複合体成分、例えばプレセニリンまたはニカストリン)に特異的に結合するTCRまたはその断片もしくは誘導体から、無変更であるかまたは最大で1、2もしくは3つの変更を含む配列であるかまたは該配列を含む。
【0079】
特定の実施形態では、本開示の結合ドメインVα、Vβ、CαまたはCβ領域は、既知のTCRのVα、Vβ、CαもしくはCβに由来するかまたはそれらに基づくことができ、そして既知のTCRのVα、Vβ、Cα、またはCβと比較して1つ以上(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10個)の挿入、1つ以上(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10個)の欠失、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個)のアミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換)、または上記の変更の組み合わせを含む。挿入、欠失または置換は、Vα、Vβ、CαまたはCβ領域のアミノ末端、カルボキシ末端もしくは両端を含むどの場所でもよいが、ただし各CDRが無変更であるかまたは最大で1、2または3つの変更であり、そして改変されたVα、Vβ、CαまたはCβ領域を含む結合ドメインが依然として野生型と同様の親和性でその標的を特異的に結合できることを前提とする。
【0080】
BCMA、γ-セクレターゼまたはその両者は、着目の細胞(「標的細胞」)上にまたはそれと会合した形で発見される。典型的な標的細胞には、癌細胞、自己免疫疾患もしくは障害または炎症性疾患もしくは障害に関連する細胞、および感染性生物または細胞(例えば、細菌、ウイルス、ウイルス感染細胞)が含まれる。
【0081】
細胞傷害性複合体
抗体-薬物複合体は、細胞傷害性要素を標的細胞、例えば腫瘍または癌細胞に選択的に送達するために使用される。抗体-薬物複合体および関連の技術と化学は、例えば、Nasiri他、J. Cell. Physiol. (2018); Hedrich他、Clin. Pharmacokinet. (2017); Drake & Rabuka, BioDrugs 31(6):521 (2017); Meyer他, Bioconj. Chem. 27(12):2791 (2016); Moek他、J. Nucl. Med. 58:83S (2017); Nareshkumar他、Pharm. Res. 32:3526 (2015); Parslow他、Biomedicines 4:14 (2016); およびGreen他、Blood 131:611 (2018)中に記載されており、抗体の形態、細胞毒性ペイロード、リンカーおよび結合化学、投薬レジメン、治療法、薬物動態、およびADC設計の理論は、その全内容が参照として本明細書中に組み込まれる。
【0082】
本明細書中に提供される方法の特定の実施形態では、BCMA特異的抗体またはその抗原結合部分、キメラ抗原受容体(CAR)、またはタグ付キメラ抗原受容体分子(T-ChARM)は、細胞毒性薬、例えば化学療法薬に複合化(コンジュゲート)または他の方法で連結される。化学療法薬としては、限定されないが、クロマチン機能の阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬、DNA損傷薬、代謝拮抗薬(葉酸拮抗薬、ピリミジン類似体、プリン類似体、糖修飾類似体など)、DNA合成阻害剤、DNA相互作用剤(挿入剤など)、およびDNA修復阻害剤が挙げられる。例示的な化学療法剤としては、限定されないが、次の群が挙げられる:代謝拮抗物質/抗癌剤、例えばピリミジン類似体(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビンおよびシタラビン)並びにプリン類似体、葉酸拮抗薬および関連阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチンおよび2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン));天然物を含む抗増殖薬/抗有糸分裂薬、例えばビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビノレルビン)、微小管破壊剤、例えばタキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロンおよびナベルビン、エピジポドフィロトキシン(エトポシド、テニポシド)、DNA損傷薬(アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミン、オキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メルクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テモゾラミド、テニポシド、トリエチレンチオホスホラミドおよびエトポシド(VP 16));抗生物質、例えばダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)およびマイトマイシン;酵素類(L-アスパラギンを全身的に代謝し、自身のアスパラギンを合成する能力を持たない細胞を剥奪するL-アスパラギナーゼ);抗血小板薬;抗増殖/抗有糸分裂性アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミドおよび類似体、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミンおよびメチルメラミン(ヘキサメチルメラミンおよびチオテパ)、アルキルスルホネート-ブスルファン、ニトロソウレア(カルムスチン(BCNU)および類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン―ダカルバジニン(DTIC);葉酸類似体(メトトレキサート);白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモン類似体(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)およびアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール);抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩および他のトロンビン阻害剤);線維素溶解剤(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼなど)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;抗移動剤;抗分泌剤(ブレベルジン);免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);抗血管新生化合物(TNP470、ゲニステイン)および成長因子阻害剤(血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤);アンギオテンシン受容体遮断薬;一酸化窒素ドナー;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ);キメラ抗原受容体;細胞周期阻害剤および分化誘導物質(トレチノイン); mTOR阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)およびミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン)、コルチコステロイド(コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルペドニソロン、プレドニソンおよびプレニソロン);増殖因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;ミトコンドリア機能不全誘発剤、毒素、例えばコレラ毒素、リシン、シュードモナス外毒素、百日咳菌アデニル酸シクラーゼ毒素、またはジフテリア毒素、およびカスパーゼ活性化剤;並びにクロマチン破壊剤。
【0083】
BCMAに特異的に結合する典型的ADCは、Tai他、Blood 123(20):3128-3138 (2014)に記載されている J6M0-mcMMAF(GSK2857916)であり、それを使ったADCおよび方法は全内容が参考として本明細書に組み込まれる。別のBCMA特異的ADC(SG1-MMAF)は、Ryan他(Mol. Cancer Ther., 6(11):3009-3018, 2007)により記載されており、そのADCは参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
宿主細胞と核酸
特定の態様では、本開示は、本明細書に記載のBCMA特異的結合タンパク質(少なくとも1つのBCMA結合ドメインを含む多重特異性および二重特異性結合タンパク質を包含する)またはγ-セクレターゼ阻害剤のいずれか1つまたは複数をコードする核酸分子を提供する。そのような核酸分子は、着目の宿主細胞(例えばT細胞)中への導入のための適切なベクター(例えばウイルスベクターまたは非ウイルスプラスミドベクター)に挿入することができる。
【0085】
本明細書中で用いられる「組換え」または「非天然」という用語は、少なくとも1つの遺伝子変化を含むか、または外因性核酸分子の導入によって改変されている生物、微生物、細胞、核酸分子またはベクターを指し、ここでそのような変化または改変は遺伝子操作によって導入される。遺伝子変化としては、例えば、タンパク質、融合タンパク質または酵素をコードする発現可能な核酸分子を導入する修飾、または細胞の遺伝物質における他の核酸分子の付加、欠失、置換または他の機能的破壊が挙げられる。追加の修飾としては、例えば、その修飾が或る1つの遺伝子またはオペロンの発現を変化させるような非コード調節領域が挙げられる。特定の実施形態では、対象から得られたT細胞などの細胞が、本明細書中に記載のように本開示のBCMA特異的結合タンパク質またはγ-セクレターゼ阻害剤(例えばBCMA特異的T-ChARMもしくはCAR;または抗γ-セクレターゼ)をコードする核酸を導入することによって、非天然または組換え細胞(例えば非天然または組換えT細胞)へと変換され、そしてそれにより該細胞が細胞表面上に固定されたBCMA特異的結合タンパク質を発現する。
【0086】
コアウイルスをコードするベクターは、本明細書では「ウイルスベクター」と呼ばれる。ヒト遺伝子治療用途のために同定されたものを含む、本開示の組成物と共に使用するのに適した多数の利用可能なウイルスベクターが存在する(Pfeifer & Verma、Ann. Rev. Genomics Hum. Genet. 2:177、2001を参照)。適切なウイルスベクターには、RNAウイルスをベースにしたベクター、例えばレトロウイルス由来ベクター、例えばモロニーマウス白血病ウイルス(MLV)由来のベクターが含まれ、さらにより複雑なレトロウイルス由来ベクター、例えばレンチウイルス由来ベクターが含まれる。HIV-1由来のベクターはこのカテゴリーに属する。別の例としては、HIV-2、FIV、ウマ伝染性貧血ウイルス、SIV、およびMaedi-Visnaウイルス(ヒツジレンチウイルス)に由来するレンチウイルスベクターが含まれる。
【0087】
キメラ抗原受容体トランス遺伝子を含むウイルス粒子により哺乳類宿主細胞を形質導入するためのレトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用並びにパッケージング細胞の使用方法は当技術分野で知られており、例えば米国特許第8,119,772号;Walchli他、PLoS One 6:327930, 2011; Zhao他、J. Immunol. 174:4415, 2005; Engels他、Hum. Gene Ther. 14:1155, 2003; Frecha他, Mol. Ther. 18:1748, 2010; Verhoeyen他、Methods Mol. Biol. 506:97, 2009中に既に記載されている。レトロウイルスおよびレンチウイルスベクター構築物並びに発現システムも市販されている。
【0088】
特定の実施形態では、ウイルスベクターは、BCMA特異的結合タンパク質またはγ-セクレターゼ阻害剤をコードする非内因性ポリヌクレオチドを導入するために用いられる。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターかレンチウイルスベクターであってよい。ウイルスベクターは、形質導入マーカーをコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。ウイルスベクターの形質導入マーカーは当技術分野で知られており、薬剤耐性を付与することができる選択マーカー、またはフローサイトメトリーなどの方法により検出できる蛍光マーカーや細胞表面タンパク質などの検出可能なマーカーが含まれる。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、緑色蛍光タンパク質、ヒトCD2の細胞外ドメイン、または先端切断型のヒトEGFR(huEGFRt; Wang他、Blood 118:1255、2011を参照)を含む、形質導入用の遺伝子マーカーを更に含む。ウイルスベクターゲノムが別個の転写物として宿主細胞中で発現させる予定の複数の核酸配列を含む場合、ウイルスベクターは二シストロン性または多シストロン性発現を可能にする2つ(またはそれ以上)の転写物の間に追加の配列を含むことができる。ウイルスベクター中で使用されるそのような配列の例としては、内部リボソーム侵入部位(IRES)、フューリン開裂部位、ウイルス2Aペプチド(例えばP2A、T2A、E2A、F2A)、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0089】
例えばアデノウイルスベースのベクターやアデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクター;アンプリコンベクター、複製欠陥HSVおよび弱毒化HSVを含む単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のベクターといったDNAウイルスベクターをはじめとする、他のベクターもポリヌクレオチド送達に使用することができる(Krisky他、Gene Ther. 5:1517、1998)。
【0090】
遺伝子治療用途のために最近開発された他のベクターも、本開示の組成物と方法とともに使用することができる。そのようなベクターには、バキュロウイルスおよびαウイルスに由来するもの(Jolly, D J., 1999. Emerging Viral Vectors. P. 209-40, Friedmann T.編. The Development of Human Gene Therapy. New York:Cold Spring Harbor Lab)、またはプラスミドベクター(例えばsleeping beautyや他のトランスポゾンベクター)が含まれる。いくつかの実施形態において、ウイルスまたはプラスミドベクターは、形質導入のための遺伝子マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質、huEGFRt)を更に含む。
【0091】
特定の実施形態では、造血前駆細胞または胚幹細胞は、本開示のBCMA特異的結合タンパク質(例えばBCMA特異的T-ChARMまたはCAR)をコードする非内因性ポリヌクレオチドを含むように改変される。造血前駆細胞は、胎児の肝組織、骨髄、臍帯血もしくは末梢血から派生したまたはそれに由来する胸腺細胞前駆細胞もしくは人工多能性幹細胞を含んでもよい。造血前駆細胞は、ヒト、マウス、ラットまたは他の哺乳動物由来であってよい。特定の実施形態では、CD24lo Lin- CD117+ 胸腺細胞前駆細胞が使用される。
【0092】
特定の実施形態において、培養条件は、増殖または分化を誘導するのに十分な時間、本開示の融合タンパク質を発現する造血前駆細胞を培養することを伴う。細胞は、一般に約3日間~約5日間、または約4~約10日間、または約5~約20日間の培養で維持される。細胞は、所望の結果、すなわち所望の細胞組成または増殖レベルを達成するのに必要とされる適当量の期間の間、維持され得ることが理解されるであろう。例えば、主として未成熟で不活性化されたT細胞を含む細胞組成物を生成するために、細胞を約5~約20日間培養物中に維持することができる。細胞を約20~約30日間培養液中に維持して、主に成熟T細胞を含む細胞組成物を生成させることができる。非接着細胞も、約数日から約25日までの様々な時点で培養物から収集することができる。特定の実施形態では、造血幹細胞が間質細胞株上で共培養される(米国特許第7,575,925号;Schmit他、Nat. Immunol. 5:410, 2004; Schmit他、Immunity 17:749, 2002)。
【0093】
造血前駆細胞のコミットメント(commitment)または分化を促進する1または複数のサイトカインを培養物に追加してもよい。サイトカインはヒトでも非ヒトでもよい。使用できるサイトカインの代表例には、FGF-4とFGF-2を含むFGFファミリーの全メンバー;Flt-3リガンド、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)およびIL-7が含まれる。サイトカインは、ヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカンと併用して使用することができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、細胞表面上に本開示のBCMA特異的結合タンパク質を発現することができる宿主細胞は、ヒト、マウス、ラットまたは他の哺乳動物に由来する初代細胞または細胞系を包含するT細胞である。哺乳動物から取得した場合、T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、または他の組織もしくは体液をはじめとする多数の源から取得できる。T細胞またはその亜集団(例えば、ナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー)は濃縮または精製することができる。T細胞株は当技術分野で周知であり、その一部はSandberg他、Leukemia 21:230, 2000中に記載されている。幾つかの実施形態では、TCRαおよびβ鎖の内因性発現を欠いているT細胞が用いられる。そのようなT細胞は本来TCRαおよびβ鎖の内因性発現を欠いているか、発現を阻止するように改変されている(例えばTCRαおよびβ鎖を発現しないトランスジェニックマウスのT細胞、またはTCRα鎖およびβ鎖の発現を抑制するように操作されている細胞)、あるいはTCRα鎖、TCRβ鎖、または両方の遺伝子をノックアウトするように改変されている。特定の実施形態では、細胞表面上に本開示のBCMA特異的結合タンパク質を発現することができる細胞は、T細胞でもT細胞系統の細胞でもなく、前駆細胞、幹細胞、または細胞表面抗CD3を発現しないように改変されている細胞である。
【0095】
本明細書で提供される実施形態のいずれにおいても、宿主細胞は、免疫応答に関与する1以上の内因性遺伝子の発現を低減させまたは排除するように改変されている「万能ドナー(universal donor)」細胞であり得る。例えば、T細胞は、PD-1、LAG-3、CTLA4、TIGIT、TIM3、HLA複合体成分、またはTCRもしくはTCR複合体成分、から選択される1つ以上のポリペプチドの発現を低減させまたは排除するように改変され得る。理論に縛られることなく、ある特定の内因性発現された免疫細胞タンパク質が、改変免疫細胞を受け取る同種異系宿主により外来物質であると認識され、それが改変免疫細胞の排除を引き起こし(例えばHLA対立遺伝子)、または改変型免疫細胞の免疫活性をダウンレギュレートし(例えばPD-1、LAG-3、CTLA4、TIGIT)、または本開示の異種発現された結合タンパク質の結合活性を妨害する(例えば非腫瘍関連抗原に結合しそして腫瘍関連抗原に特異的に結合する改変免疫細胞の抗原特異的受容体を妨害する、内因性TCR)可能性がある。従って、そのような内因性遺伝子またはタンパク質の発現または活性を低減させるまたは排除することは、同種異系宿主の準備において改変免疫細胞の活性、耐性および持続性を改善することができ、かつそれらの細胞の万能投与(例えばHLAタイプに関係なく任意の受容者に)を可能にする。
【0096】
特定の実施形態では、本開示の宿主細胞(例えば、改変免疫細胞)は、PD-1、LAG-3、CTLA4、TIM3、TIGIT、HLA複合体成分(例えば、α1マクログロブリン、α2マクログロブリン、α3マクログロブリン、β1ミクログロブリン、またはβ2ミクログロブリンをコードする遺伝子)、TCR成分(例えば、TCR可変領域またはTCR定常領域をコードする遺伝子)〔Torikai他、Nature Sci. Rep. 6:21757 (2016); Torikai他、Blood 119 (24): 5697 (2012); およびTorikai他、Blood 122(8): 1341 (2013)を参照のこと;それらの遺伝子編集技術、組成物、および養子細胞療法は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる〕。例えば、幾つかの実施形態では、染色体遺伝子ノックアウトは、CRISPR/Cas9システムを使用して生成され、PD-1、LAG-3、CTLA4、HLA成分、TCR成分、またはそれらの任意の組み合わせをターゲットとするCRISPR/Cas9システムを発現するレンチウイルス(例えば、pLentiCRISPRv2; Torikai 他、Blood(2016))による改変免疫細胞のトランスフェクションを必要とし得る。内因性発現した免疫細胞タンパク質を阻害するためのCRISPR/Cas9システムを発現するレンチウイルスを設計するのに有用なプライマーには、例えば、配列番号22と23、24と25、26と27、28と29に示されるヌクレオチド配列を有する正プライマーと逆プライマーを含むプライマー対が含まれる。
【0097】
特定の実施形態では、本開示のBCMA特異的結合タンパク質(例えばT-ChARM、CAR、少なくとも1つのBCMA結合ドメインを含む多重特異性結合タンパク質、少なくとも1つのBCMA結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質)を発現するようにトランスフェクトされた宿主T細胞は、機能性T細胞、例えばウイルス特異的T細胞、腫瘍抗原特異的細胞傷害性T細胞、ナイーブT細胞、記憶幹T細胞、中枢もしくはエフェクター記憶T細胞、またはCD4+ CD25+ 調節T細胞である。
【0098】
本開示のBCMA特異的結合タンパク質を発現するT細胞の増殖を促進する1つ以上の増殖因子サイトカインを培養物に添加してもよい。サイトカインはヒトでも非ヒトでもよい。T細胞増殖を促進するために使用できる例示的な増殖因子サイトカインには、IL-2、IL-15、IL-21などが含まれる。
【0099】
用途
本開示に記載されるように、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)と組み合わせて、BCMAターゲット免疫療法またはBCMA特異的結合タンパク質を発現する細胞により治療することができる疾患には、癌(例えばBCMAを発現する癌)、免疫疾患(例えば自己免疫)、または加齢に関連した疾患(例えば老化)が挙げられる。養子免疫療法と遺伝子治療は、さまざまなタイプの癌(Morgan他、Science 314:126, 2006; Schmitt他、Hum. Gene Ther. 20:1240, 2009; June、J. Clin. Invest. 117:1466, 2007)および感染症(Kitchen他、PLoS One 4:38208, 2009; Rossi他、Nat. Biotechnol. 25:1444, 2007; Zhang他、PLoS Pathog. 6:e1001018, 2010; Luo他、J. Mol. Med. 89:903, 2011)の有望な治療法である。
【0100】
本明細書に開示される組成物および方法に適する癌は、それらの細胞表面上にBCMAを発現する、またはBCMAを発現することができるものである。治療できる癌の種類の例としては、骨髄腫(多発性骨髄腫など)、白血病(形質細胞白血病など)、リンパ腫(リンパ形質細胞性リンパ腫など)、形質細胞腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenstrom's macroglobulinemia)が挙げられる。BCMAを発現する可能性のある他の癌には、乳腺の腺癌および肺の気管支癌が含まれる。特定の実施形態では、BCMA特異的結合タンパク質とGSIの併用療法に適した増殖性障害は、形質細胞障害(例えば多発性骨髄腫など)を含む特定のタイプのB細胞癌である。
【0101】
炎症性および自己免疫疾患としては、関節炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症、多発性軟骨炎、乾癬性関節炎、乾癬、皮膚炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、封入体筋炎、炎症性筋炎、中毒性表皮壊死症、全身性皮膚硬化症および硬化症、CREST症候群、炎症性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、呼吸窮迫症候群、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、大腸炎、糸球体腎炎、アレルギー症状、湿疹、喘息、T細胞浸潤および慢性炎症反応、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性心筋炎、白血球癒着不全、全身性エリテマトーデス(SLE)、亜急性皮膚エリテマトーデス、円盤状ループス、ループス脊髄炎、ループス脳炎、若年発症糖尿病、多発性硬化症、アレルギー性脳脊髄炎、視神経脊髄炎、リウマチ熱、シデナム舞踏症、サイトカインおよびTリンパ球により媒介される急性および遅延型過敏症を伴う免疫応答、結核、サルコイドーシス、肉芽腫症、ウェゲナー肉芽腫症およびチャーグ-ストラウス病、無顆粒球症、血管炎(過敏性血管炎/血管炎、ANCAおよびリウマチ性血管炎を含む)再生不良性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む免疫性溶血性貧血、悪性貧血、赤芽球癆(PRCA)、第VIII因子欠乏症、血友病A、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、白血球減少症、白血球漏出が関与する疾患、中枢神経系(CNS)炎症障害、多臓器損傷症候群、重症筋無力症、抗原抗体複合体媒介疾患、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質抗体症候群、アレルギー性神経炎、ベーチェット病、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、ランバート・イートン筋無力症候群、レイノー症候群、ジョルゲン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、固形臓器移植拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、水疱性類天疱瘡、天疱瘡、自己免疫性多発性内分泌障害、血清陰性脊椎関節症、ライター病、スティフマン症候群、巨細胞性動脈炎、免疫複合体腎炎、IgA腎症、IgM多発神経障害またはIgM介在性神経障害、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、自己免疫性血小板減少症、精巣の自己免疫疾患および自己免疫性精巣炎と卵巣炎、原発性甲状腺機能低下症、自己免疫性甲状腺炎、慢性甲状腺炎などの自己免疫性内分泌疾患(橋本病甲状腺炎)、亜急性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下症、アジソン病、グレーブス病、自己免疫性多発性腺症候群(または多腺性内分泌障害症候群)、インスリン依存性糖尿病(IDDM)とも呼ばれるI型糖尿病およびシーハン症候群;自己免疫性肝炎、リンパ性間質性肺炎(HIV)、閉塞性細気管支炎(非移植)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、ギランバレー症候群、大血管血管炎(多発性筋痛リウマチ性および巨細胞性(高安)動脈炎)、中血管脈管炎(川崎病および結節性多発性動脈炎を含む)、結節性多発性動脈炎(PAN)強直性脊椎炎、ベルガー病(IgA腎症)、急速進行性糸球体腎炎、原発性胆汁性肝硬変、セリアック病(Celiac sprue)(グルテン腸症)、クリオグロブリン血症、肝炎を伴うクリオグロブリン血症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、冠動脈疾患、家族性地中海熱、顕微鏡的多発性血管炎、コーガン症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、並びに閉塞性血栓血管炎が挙げられる。
【0102】
特定の実施形態では、本明細書に開示されるようにγ-セクレターゼ阻害剤と併用してBCMA結合タンパク質で対象を治療する方法は、多発性骨髄腫、形質細胞腫、形質細胞白血病、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、B細胞リンパ腫、およびリンパ形質細胞性リンパ腫を治療することを含む。
【0103】
本開示のCARまたはT-ChARMなどのBCMA特異的結合タンパク質は、細胞に結合した形態で対象に投与され得る(例えば、標的細胞集団の遺伝子治療(成熟T細胞(例えば、CD8+またはCD4+ T細胞)またはT細胞系統の他の細胞))。特定の実施形態では、対象に投与されるBCMA特異的結合タンパク質(例えばBCMA特異的CARまたはT-ChARM)を発現するT細胞系統の細胞は、同系細胞、同種細胞、または自己細胞である。
【0104】
本開示の方法は、免疫細胞表面(例えばT細胞)上に発現されるBCMA特異的結合分子を投与する工程と、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)を投与する工程を含む。特定の実施形態では、組み合わせは、同じ薬学的に許容される担体中で一緒に、または別々の製剤で(しかし同時に)同時に投与することができる。同時投与とは、各成分が同時にまたは互いに8~12時間以内に投与されることを意味する。最初の成分から12時間以上後の2番目の成分の投与は、連続投与と見なされるだろう。他の実施形態では、BCMA特異的免疫療法薬とGSIは、任意の順序でかつ任意の組み合わせで、連続投与(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8または9日間間隔をあけて;1、2、3または4週間間隔をあけて;1、2、3、4、5、6、7、8、または9週間間隔をあけて;または1、2、3、4、5、6またはそれ以上の年間隔をあけて等)することができる。特定の実施形態では、連続投与される場合、GSIが最初に投与され、BCMAターゲット免疫療法剤(可溶性または細胞形態)が次に投与される。他の実施形態では、BCMAターゲット免疫療法剤(可溶性または細胞形態)が最初に投与され、GSIが2番目に投与される。特定の実施形態では、BCMAに特異的に結合する改変免疫細胞(例えばCAR-T、T-ChARM、二重特異性、多重特異性T細胞などのBCMA特異的T細胞)を含むBCMAターゲット免疫療法剤が最初に投与され、そしてGSIが2番目に投与される(例えば、BCMA免疫療法剤の数時間、数日、数週間、数ヶ月、または数年以内に)。さらなる態様において、BCMAに特異的に結合する結合タンパク質を含む改変免疫細胞(例えばCAR-T、T-ChARM、二重特異性、多重特異性T細胞などのBCMA特異的T細胞)を含むBCMAターゲット免疫療法剤は、(a)対象者への投与; (b)一定期間後(例えば約5日から約1週間、約1週間から約2週間、約2週間から約3週間、約1週間から約1か月、約1か月から約6か月、約3か月から約1年、または必要に応じてそれ以上の後)、BCMAに特異的に結合する結合タンパク質を含む以前に投与された改変免疫細胞の存在または持続性について、対象または対象の組織を探査または検査し、(c)BCMA免疫療法の存在または持続が検出されてから2番目にGSIを投与する。
【0105】
幾つかの実施形態において、GSIは、BCMAターゲット免疫療法の少なくとも1回前、同時、および少なくとも1回(例えば、少なくとも2、3、または4回)後に対象に投与される。特定の実施形態では、本開示の併用療法は、BCMAターゲット免疫療法および約0.01μM GSI~約5μM GSI、約0.03μM GSI~約1.5μM GSI、約0.05μM GSI~約2.5μM GSI、または約0.1μM GSI~約1.0μM GSIの投与を含む。特定の実施形態では、BCMAおよびGSIに特異的に結合する改変免疫細胞を含む併用療法は、これらの療法の個別の投与と比較して、BCMA、GSI、またはその両方に特異的に結合する免疫細胞の量が少ない。
【0106】
例えば、背景として、理論に縛られることを望まないが、養子免疫療法中のBCMA特異的結合タンパク質を発現する投与細胞の生着は、1または複数の化学療法剤または治療による事前の免疫抑制調整(コンディショニング)によって促進され得る。本明細書に記載の実施形態のいずれにおいても、該方法は、BCMAターゲット免疫療法またはBCMA特異的結合タンパク質を発現する免疫細胞とGSIを投与するのと同時にまたはその前に対象を事前調整することをさらに含む。特定の実施形態では、事前調整レジメンは、内因性リンパ球の枯渇(リンパ球枯渇とも呼ばれ、非骨髄破壊的または骨髄破壊的であってもよい)を含む免疫抑制調整である。例示的なリンパ枯渇は、シクロホスファミド単独、フルダラビンと組み合わせたシクロホスファミド、リンパ球に対して細胞傷害性である他の薬剤または治療の使用(例えば、全身照射)、またはそれらの任意の組み合わせにより達成され得る。
【0107】
結合分子、阻害剤または組み合わせ組成物は、経口、局所、経皮、非経口、吸入スプレー、経腟、直腸内、または頭蓋内注射、またはそれらの任意の組み合わせにより投与され得る。別々に投与される場合、BCMAターゲット免疫療法とGSIは、同じ経路または異なる経路で投与される。例えば、特定の実施形態では、BCMAターゲット免疫療法は非経口投与され、GSIは経口投与され、これは同時または連続的であり得る。本明細書で使用される「非経口」という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、槽内注射、または注入技術を含む。静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、くも膜下腔内、球後、肺内注射および/または特定の部位での外科的移植による投与も考えられる。一般に、組成物は発熱物質およびレシピエントに有害となる可能性がある他の不純物を本質的に含まない。BCMAをターゲットとした免疫療法の実施には、特に静脈内注射または輸液(点滴)が好ましい。
【0108】
他の実施形態では、BCMA特異的結合タンパク質、GSIまたはその両方が、可溶性形態(例えば抗体)で対象に投与され得る。可溶性TCRも当技術分野で知られている(例えば、Molloy他、Curr. Opin. Pharmacol. 5:438, 2005; 米国特許第6,759,243号明細書を参照)。
【0109】
本開示のBCMAターゲット免疫療法とγ-セクレターゼ阻害剤との併用療法を含む医薬組成物は、医療分野の当業者によって決定されるような、治療(または予防)すべき疾患または状態に適切な方法で投与することができる。組成物の投与の適切な用量、適切な期間および頻度は、患者の状態、疾患の大きさ、種類および重症度、活性成分の特定の形態、および投与方法といった要因により決定されるだろう。本開示は、CARまたはT-ChARMのようなBCMA特異的結合タンパク質を発現する細胞と、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。適切な賦形剤には、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール等、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0110】
本開示の利点は、患者に投与されたBCMA特異的結合タンパク質(例えばCARまたはT-ChARM)を発現する細胞を、タグカセットに対する同族の結合相手を使って枯渇させることができることである。特定の実施形態では、本開示は、タグカセットに特異的な抗体を使用することにより、またはタグカセットに特異的な同族結合相手を使用することにより、またはCARを発現しそしてタグカセットに対する特異性を有する第二のT細胞を使用することにより、BCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞を枯渇させる方法を提供する。特定の実施形態では、タグカセットは本開示のBCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞の免疫枯渇を可能にする。例えば、Strepタグを使用する場合、各々が細胞毒性試薬(例えば毒素、放射性金属)に融合または結合された抗Strepタグ抗体、抗StrepタグscFvまたはストレプトアクチンを使用でき、あるいは抗Strepタグ/抗CD3二重特異性scFv、または抗StrepタグCAR-T 細胞を使用することができる。
【0111】
別の態様では、本開示は、本開示のBCMA特異的T-ChARMを発現する組換えT細胞の増殖を選択的に促進する方法を提供する。特定の実施形態では、この方法は、抗体などのタグ結合相手を使用した、BCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞の選択的生体外(ex vivo)増殖を含む。さらなる実施形態において、この方法は、機能性T細胞〔例えば、ウイルス特異的、TAA(腫瘍関連抗原)特異的CTL、または特異的T細胞サブセット、例えばナイーブT細胞、記憶幹T細胞、中枢またはエフェクター記憶T細胞、CD4+ CD25+ 調節性T細胞〕を、抗体のようなタグ結合相手と共に増殖させることを含み、この方法は場合により共刺激分子結合相手(例えば抗CD27または抗CD28抗体など)の存在下で行われてもよい。
【0112】
なお更なる実施形態において、本開示のBCMA特異的T-ChARMを発現させる時、BCMA特異的T-ChARMは、インビボでのT細胞増殖の選択的促進を可能にする。幾つかの実施形態では、タグカセットを含むCARを発現するT細胞は、リガンド(例えばT細胞抑制細胞リガンドPD-L1、PD-L2を含む)を発現する細胞と接触すると、インビボでCAR-T細胞の増殖を可能にする。そのような増殖したT細胞は、本明細書に記載の疾患治療方法に有用である。特定の実施形態では、本明細書に開示されるBCMA特異的T-ChARMを発現する細胞の増殖または拡大はインビボで誘導でき、それはタグカセット結合相手(抗タグ抗体など)および随意に共刺激分子結合相手(例えば抗CD27または抗CD28抗体)により誘導することができる。
【0113】
特定のさらなる実施形態において、本明細書に開示されるBCMA特異的T-ChARMを発現する細胞は、腫瘍部位などのインビボで活性化される。例えば、タグカセット結合相手(抗タグ抗体など)を含む組成物(例えばアルギン酸塩、基底膜マトリックス(Matrigel(登録商標))、生体高分子、または他のマトリックス)またはキャリア(例えばマイクロビーズ、ナノ粒子、または他の固体表面)および共刺激分子結合相手(抗CD27または抗CD28抗体など)を使用して、本明細書に開示されるようなBCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞を腫瘍(例えば固形腫瘍)部位において局所的に活性化することができる。
【0114】
特定の実施形態では、BCMA特異的T-ChARMを発現する組換え細胞は、タグカセットに特異的に結合する抗体(例えば抗タグ抗体)を使用することにより、またはタグカセット配列と特異的に結合する他の同族結合タンパク質(例えばStrepタグに結合するストレプトアクチン)により、インビボで検出または追跡することができる。このタグカセットの結合相手は、蛍光色素、放射性トレーサー、酸化鉄ナノ粒子に、またはX線、CTスキャン、MRIスキャン、PETスキャン、超音波、フローサイトメトリー、近赤外画像診断システム、もしくはその他の画像診断様式による検出のための当業界で既知の画像診断薬に結合される(例えばYu他、Theranostics 2:3、2012参照)。
【0115】
さらなる実施形態では、本開示のBCMA特異的T-ChARMを発現する細胞は、本明細書で特定される適応症または状態に関連して使用される方法を含む、診断方法または画像診断方法で使用され得る。
【0116】
いくつかの実施形態において、当該方法は、例えば、BCMA特異的抗体またはその抗原結合部分などを含んでよいBCMA特異的結合タンパク質と組み合わせて(例えば同時に、別々に、または連続して)GSIを投与することを含み、例えば抗体-薬物複合体、または二重特異性もしくは多重特異性結合タンパク質、例えば、事前に標的を定める放射線免疫療法に有用なもの(例えば、Green他、Blood 131:611 (2018)を参照)といったBCMA特異的結合性部分と共にGSIを投与することを含む。
【実施例0117】
実施例1:BCMA特異的キメラ抗原受容体の創製と試験
抗BCMA CARは、多発性骨髄腫や他の疾患の免疫療法に対するそれらの有効性を調べるために調製した。抗BCMA CARは、C115 D5.3(「C11」)抗体とA7D12.2(「A7」)抗体由来のV
H領域とV
L領域からなるscFvであってIgG4ヒンジ領域(スペーサー)、CD28膜貫通ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン、およびCD3ζエフェクタードメインを含むscFvを用いて作製した。該scFvは「HL」と「LH」配向の両方向で産生された(
図1A参照)。ヒトT細胞に抗BCMA CARをコードする発現構成物を形質導入し、機能的特徴について調査した。
図1Bに示す通り、C11 CARとA7 CARを発現するT細胞は、BCMAを発現する標的細胞と共に共培養(同時培養)すると増殖したが、C11 CARの方がA7 CARを発現しているT細胞よりもわずかに頑健に増殖するように見えた。C11 CAR-T細胞は標的細胞系に応答して多量のサイトカインを生産し(抗原がトランスフェクトされたK562細胞またはBCMAを発現するMM細胞系のいずれか;
図1C)、そしてA7 LH CAR-T細胞に比較して、標的細胞に対するより大きな特異的殺活性を有した(
図1D)。
【0118】
4-1BB共刺激ドメインを含むCARなど、異なる細胞内成分(
図1E、上の図)およびCD28共刺激ドメイン(
図1E、下の図)を有する追加のA7およびC11 CARを作製した。細胞外スペーサードメインの鎖長も、CAR発現T細胞とBCMA
+標的細胞との間の相互作用を改善するために、短(例えば12アミノ酸、48アミノ酸および66アミノ酸の長さ)、中間(例えば157アミノ酸の長さ)および長(例えば228アミノ酸の長さ)スペーサーのように変更した。48アミノ酸と157アミノ酸スペーサーCARは各々2つの(2) Strep-Tagカセットを含み、一方で66アミノ酸スペーサーは3つの(3) Strep-Tagカセットを含んだ(
図1F参照)。Strep-Tagカセットを含むCARのようなタグ付キメラ抗原受容体は、
図1Fと1Gに示され、本明細書中ではT-ChARMと称される。
【0119】
ヒトT細胞にT-ChARMを形質導入して発現させ(実施例2参照)、機能性について分析した。スペーサーの長さは、抗BCMA抗体C11 D5.3由来のscFvを含むT-ChARM構成物に対して影響を与えた。ここで中間(約65アミノ酸;
図1HのC11 3ST、C11 2STintおよびC11Loを参照のこと)から長(約200アミノ酸)スペーサーがこの結合ドメインに最もうまく機能した。C113ST_4-1BB およびC113ST_CD28を最高性能構成物として選択し(
図1H~1J)、以前に開示された抗BCMA CAR(“BCMA-2”; Carpenter他、Clin. Cancer Res. 19:2048, 2013)と比較した。初代T細胞上でのEGFRtの発現は、各T-ChARM/CAR構成物について同様であり、抗STIIモノクローナル抗体での染色により示される通り、STII配列を含むものについてT-ChARMの表面発現が確認された(
図1K)。いずれかのC113ST T-ChARMを発現するT細胞はより多量のサイトカインを生産し(
図1L、1M)、標的細胞と共に共培養した時、BCMA-2を発現するT細胞よりもより頑健に増殖した(
図1N)。いずれのC113ST T-ChARMを発現するT細胞もCD138
+ 親MM細胞を認識し溶解することができることも決定づけられた(データは示していない)。C113ST T-ChARMまたはBCMA-2 CARのいずれかを発現するT細胞は、抗原非発現K562細胞に対しては細胞溶解活性をもたない(
図1O)が、BCMA抗原を発現するように形質導入されたK562細胞は効率的に溶解した(
図1P)。このことは、操作されたT細胞が抗原を特異的に認識することを証明する。
【0120】
実施例2:組換えT細胞の生産およびBCMA特異的T-ChARMsの発現
CD8+ およびCD4+ T細胞を、正常ヒト提供者のPBMCからCD8+/CD4+ T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を使って単離し、製造業者の教示に従って抗CD3/CD28ビーズ(Life Technologies)を用いて活性化し、そして32℃で2,100 rpmでの45分間の遠心分離により活性化した後3日目に、0.8μg/mLのポリブレン(Millipore, Bedford, MA)が補足されたPsPAX2とpMD2Gパッケージングプラスミドを使ったHEK293T細胞の一時的トンランスフェクション(MOI=3)により作製されたCARをコードするレンチウイルス(epHIB7)上清を用いて形質導入した。T細胞は、48時間毎に50 U/mLの最終濃度に組換えヒト(rh)IL-2が補足されたRPMI、10%ヒト血清、2 mM L-グルタミンおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシン(CTL培地)中で培養した。培養後、各形質導入T細胞系のアリコートを、ビオチン接合抗EGFR抗体とストレプトアビジン-PE(Miltenyi, Auburn, CA)により染色した。FACS-Aria細胞分別器(Becton Dickinson)上での分別により、tEGFR+ T細胞を単離した。次いでtEGFR+ T細胞サブセットを、放射線照射(8,000 rad)したCD19+ B-LCLを用いてT細胞:LCL比=1:7において感作し、そして48時間毎に50 U/mLのrh IL-2を添加しながらまたはT-ChARMsを発現する細胞のための迅速増殖プロトコルを使って(Riddell & Greenberg, J. Immunol. Methods 128:189, 1990)CTL培地中で8日間培養した。ここでT-ChARMは抗BCMA抗体A7またはC11 D5.3由来のscFvを含む。
【0121】
フローサイトメトリー表現型決定および分析に次のコンジュゲート抗体を使用した:CD4, CD8, CD25, CD137, CD45, アネキシンV, CD62L, CD27, CD28(BD Biosciences), 抗Strep-tag II 抗体(Genscript), EGFR抗体(ImClone Systems Incorporated, Branchburg, NJ); strepTavidin-PE(BD Biosciences, San Jose, CA)。ヨウ化プロピジウム染色(PI, BD Biosciences)は、製造元の指示通りに生存/死細胞分別のために実施した。フロー分析はFACS Canto II上で実行し、分別精製はFACS AriaII(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)上で実施し、そしてFlowJo ソフトウェア(Treestar, Ashland, OR)を使ってデータ解析した。
【0122】
BCMA特異的T-ChARMの細胞表面発現を調べるために、形質導入T細胞をEGFRt発現について分別し、蛍光色素標識した抗Streptag mAbを用いた染色により評価した。EGFR染色の平均蛍光強度(MFI)は、BCMA特異的T-ChARMおよびCD19-Short CARの各々により形質導入されたT細胞に関して同様であった。T-ChARMを産生させるためのCAR中へのタグの導入は、トランス遺伝子発現を妨害しなかった(データは示していない)。抗StrepTag mAbは、様々なBCMA特異的T-ChARMsにより形質導入されたT細胞を、各T-ChARM中のタグ配列の位置や数に関係なく、特異的に染色した。
【0123】
実施例3:可溶性BCMA(sBCMA)はBCMA特異的CAR-T細胞活性を阻害する
大部分の骨髄腫に対してBCMAターゲットT細胞療法の潜在的有効性を調べた。骨髄腫細胞による細胞表面BCMAの脱落がT細胞認識を妨害しうるため、骨髄腫細胞系の培養の間、上清中の可溶性BCMAレベルを測定した。U266骨髄腫細胞を洗浄し、1,3,5および24時間に渡り培地中で平板培養した。培地上清を収集し、ELISAによりsBCMAについて分析した。データは、上清中のsBCMAレベルの時間依存性増加を示す(
図2A)。次に、患者の多発性骨髄腫(MM)細胞と接触させたBCMA特異的T-ChARM T細胞により、患者の初代多発性骨髄腫(MM)細胞上のBCMA発現の程度とサイトカイン生産の程度を調べた。
図2Bは、比較参照細胞系(RPMI、左のパネル)による表面BCMA発現および異なるレベルのBCMA発現を有する初代患者MM細胞からの被験試料を示す。
図2Cのパイチャートは、19人の異なる患者からのMM細胞の表面上でのBCMA発現が、大部分の患者について陽性と認められたことを示すが、ただし幾人かの患者試料は中間~低/無の表面BCMA発現を示した(~25%)。更に、
図2Dは、高レベルの表面BCMAを発現する患者MM細胞と共に培養すると、低BCMA患者MM細胞と共に培養したものと比較して、T-ChARM T細胞がより多量のIFN-γを生産したことを示す。
【0124】
骨髄腫細胞は高頻度にPD-L1を発現し、それがT細胞上のPD-1への結合によってT細胞機能を抑制すると考えられる(Freeman他、J. Exp. Med. 192(7):1027 (2000))。PD-L1がBCMA特異的T-ChARM T細胞に作用する可能性も調査した。患者試料のフローサイトメトリーは、PD-L1が試料の79%上に発現され、具体的には47%がPD-L1
hi、32%がPD-L1
int、そして21%がPD-L1
low/neg であることを示した(
図2Eと2F)。BCMAとPD-L1発現とでは全く相関が観察されなかった。
図2Gは、低レベルのPD-L1を発現する患者MM細胞と共に培養すると、高レベルのPD-L1を発現する患者MM細胞の場合に対比して、T-ChARM T細胞が多量のIFN-γを産生したことを示す。ただし、この傾向は統計的に有意ではなかった。
【0125】
BCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞と全長BCMAをコードするポリヌクレオチドにより形質導入されたK562細胞(K562/BCMA
+)との共培養物に、sBCMAを添加することによりsBCMAの効果を調べた。BCMA特異的T-ChARM T細胞エフェクター機能の用量依存的阻害を、外因性sBCMAの投与時の培地上清中へのIFN-γ放出の尺度として検出した(
図2H、2I)。更に、MM細胞系は、24時間以内に培養上清中sBCMAの実質的増加を示した(
図2J)。
【0126】
高レベルのsBCMAがBCMA特異的T-ChARM T細胞の活性を阻害しうるかどうかを調べるために、患者の骨髄(BM)血清をsBCMAレベルについて調べた。患者のBMは高レベルのsBCMAを有することが分かり、それはCD138
+ 細胞の存在率により決定されるような疾病負荷とおおよそ相関した(
図2K)。sBCMAがT-ChARM T細胞に結合するかどうかを試験するために、T細胞を漸増レベルの組換えBCMAと共にインキュベートし、次いでAPCに結合されたBCMA-Fcを使って染色した。
図2Lに示すように、染色は組換えBCMAレベルが高くなるほど減少し、このことはsBCMAが潜在的にBCMA特異的T-ChARM T細胞機能に対して有害作用を有しうることを示す。
【0127】
T-ChARM発現を確認するために、C113ST T-ChARM T細胞と対照の抗CD19 CAR T細胞(「FMC63」)をFc-BCMAと共にインキュベートし、そしてEGFRt(CAR/T-ChARM形質導入マーカー)とCD4について染色した結果、T-ChARMsがそれらの細胞により発現されていることを示した(
図2M)。EGFRtおよび他のT細胞表面分子の染色は影響を受けなかった(データは示していない)。
【0128】
sBCMAの脱落とT-ChARMへの結合がT細胞機能を抑制するかどうかを調べるために、BCMA-FcをT細胞/標的細胞系共培養物に添加した結果、BCMAが標的とするT-ChARM T細胞により認識機能(IFN-γ生産とCD4発現)のかなりの減少を引き起こした。しかし一方で対照の抗CD19 CAR-T細胞(CD19抗原を発現するK562細胞と共に培養)によってはそのような減少を引き起こさなかった(
図2N)。BCMA T-ChARM T細胞に対する作用は用量依存性であった(
図2O、2P)。Fcに融合されていない組換えBCMAの添加も同様に、用量依存形式でIFN-γ生産を阻害したが、T-ChARM T細胞によるK562 BCMA
+細胞の溶解は阻害しなかった(
図2Q)。この結果は、おそらく標的細胞表面上の高い抗原密度のためであろう。
【0129】
実施例4:MM BCMAレベルに対するγ-セクレターゼ阻害剤の作用
骨髄腫細胞上のBCMAレベルに対するγ-セクレターゼの阻害作用を調べるために、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)RO429097を用いた。BCMAは、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)R04929097と共にインキュベートした時(使用濃度は0.001μM~1.0μMの範囲であった)、様々な骨髄腫細胞系に対して迅速に上方制御(アップレギュレート)される。(
図3A~3D)。
【0130】
表面BCMA発現速度論に対するGSIの効果を調べるために、U266骨髄腫細胞を様々な濃度のGSI R0429097(0.01μM、0.1μMおよび1.0μM)の存在下で1、3、5および24時間インキュベートし、そしてフローサイトメトリーにより細胞表面BCMA発現について評価した。BCMA発現は、GSIの存在下で用量依存形式で増加した(
図3E)。1.0μM GSIにおいては7日間の培養期間に渡ってアップレギュレーションが持続した(
図3F)。
【0131】
MMにおけるBCMA脱落に対するGSIの効果を調べるために、3種の異なる骨髄腫細胞系(MM1.R, U266および8226)を洗浄し、様々な濃度のGSI R0429097(0.01μM, 0.1μMおよび1.0 μM)の存在下で24時間平板培養した。培地上清を収得し、ELISAによりsBCMAについてアッセイした。GSIの存在下の上清では用量依存形式でsBCMAレベルが減少した(
図3G&3H)。
【0132】
可溶性BCMA(sBCMA)レベルに対する経時的作用を調べるために、U266細胞を洗浄し、様々な濃度のGSI R0429097(0.01μM、0.1μMおよび1.0μM)の存在下で1、3、5および24時間培地中で平板培養した。培地上清を回収し、ELISAにより可溶性BCMA(sBCMA)についてアッセイした。データは、GSIが存在すると上清中の可溶性BCMAレベルが用量依存的に減少することを示す(
図3I)。
【0133】
次に、MM細胞培養物からGSIを除去することの効果を調べた。
図3Jと3Kに示される通り、1.0μM R0429097の除去後に表面BCMAレベルが減少し、一方でGSIを除去した時には上清のBCMAレベルは増加したが、GSIが保持されているときは増加しなかった。これらのデータは、表面BCMA脱落に対するGSIの可逆的阻害作用を示す。最後に、試験したMM細胞系の生存力は、培養物への1.0μM R0429097の添加により影響を受けなかった(
図3L)。
【0134】
次いで、患者からの初代骨髄腫試料において、BCMA発現に対するGSIの作用を試験した。患者の骨髄試料からCD138
+ 骨髄腫細胞を濃縮し、様々な濃度のGSI RO429097(0.01μM~10μM)の存在下で3時間インキュベートし、そしてフローサイトメトリーにより表面BCMA発現について評価した(
図3Mと3R)。腫瘍細胞上のBCMA平均蛍光強度(MFI)は、R0429097の非存在下でインキュベートした腫瘍細胞に対する増加の倍数として表された。腫瘍細胞に対するBCMAの用量依存的アップレギュレーションが観察され(
図3N)、一方で幾つかの他の細胞表面分子、例えばCS1、CD86、PD-L1、CD80およびCD38のレベルには全く影響がなかった(
図3O~3Q)。
【0135】
実施例5:γ-セクレターゼ阻害剤は、BCMA特異的T-ChARMを発現するT細胞による、BCMA
+
骨髄腫細胞の認識を改善する
BCMA
+多発性骨髄腫に対するCAR T細胞活性に対するGSIの作用を調べるために、BCMA CAR-T細胞(BCMA特異的T-ChARM C11 3ST-CD28およびBCMA特異的T-ChARM C11 3ST-41BB)または対照のCD19sh CAR(短スペーサー)-T細胞によるIL-2生産を、様々な濃度のGSI R0429097(0.003μM~3.0μM)を含有する培地中で初代ヒト骨髄腫細胞と共に24時間共培養した後に測定した(
図4A)。GSIでの処置は、BCMA T-ChARM T細胞によるIL-2生産の用量依存的増加を引き起こした。また、様々な濃度のR0429097の存在下で骨髄腫細胞と共に共培養したBMCA T-ChARM T細胞によるIFNγ生産を測定したところ、同じくGSIの存在下で増加した(
図4B)。これらのデータは、多発性骨髄腫細胞が、γ-セクレターゼ阻害剤で前処理した時にBCMA特異的T-ChARM T細胞をより刺激し、腫瘍細胞上のBCMA発現をアップレギュレートすることを示す。最後に、CFSE標識したBCMA特異的T-ChARM T細胞の増殖は、GSI R0429097の存在下で初代ヒト骨髄腫細胞と共に3日間共培養した後に用量依存形式で増加した(
図4C)。
【0136】
理論に縛られることなく、CAR-T細胞認識を改善するために骨髄腫細胞上のBCMAを増加させるのにGSIを用いることの起こり得る警告(caveat)は、高濃度のGSIがT細胞シグナル伝達およびエフェクター機能を阻害しうるというものである。Eagar他、Immunity 20(4):407, 2004を参照のこと。標的リガンド発現が安定に保持されている状況においてCAR-T細胞に対するGSIの潜在的作用を評価するために、CD19 CAR-T細胞をRajiまたはK562/CD19
+ 標的細胞と共にGSI (0.01μM~100μM)の存在下で共培養し、そして生存率とエフェクター機能を測定した。この濃度範囲に渡って、24時間後にCD19抗原発現(
図5A)またはCAR-T細胞生存率(
図5B)に対して全く影響が認められなかった。GSI RO4929097は、IL-2生産(
図5C、上のパネル)およびIFNγ生産(
図5C、下のパネル)を測定することにより決定されるように、K562 CD19
+ 細胞と共に共培養した時に≧1μMの濃度でCD19 CAR-T細胞エフェクター機能を阻害することがわかった(
図5D~5Fも参照のこと)。しかしながら、標的細胞を特異的に殺傷するCD19 CAR-T細胞の能力は、GSI濃度により影響を受けなかった(
図5G)。CD19 CAR-T細胞は、10μMのGSI R04929097の存在下で標的細胞刺激に応答して増殖したが、GSI R04929097の不在下よりも効率が低かった(
図5H)。CAR-T細胞分裂に対するGSIの用量効果を更に調べるために、CD19 CAR-Tと標的細胞の共培養物に用量漸増のGSI R04929097を添加した。治療用量のGSI(0.01μM~1μM)の添加により、CAR-T細胞分裂は事実上全く影響を受けないかまたはごくわずかにだけ影響を受け、一方でより高い非治療用量のGSI(10μM)は検出可能な程度に増殖を阻害した(
図5I)。GSIの存在下で培養したCD19 CAR-T細胞は、外因性IL-2を含む(
図5J)または含まない(
図5K)培養液中での8日間に渡る培養物において増殖の減少を示さなかった。また、5μM、0.5μMのGSIの存在下または非存在下で培養したT細胞は、外因性IL-2の存在下(
図5L)または非存在下(
図5M)での増殖後に標的細胞により再刺激した時、IFN-γ生産に有意な差がなかった。IL-2生産においてもCAR-T細胞群間で顕著な相違はなかった (
図5N)。全体的にみて、治療レベルのGSIは、サイトカイン生産、細胞溶解活性および増殖といったT細胞機能に影響を及ぼさない。
【0137】
次に、BCMA特異的T-ChARMを含有するT細胞のT細胞機能性に対するGSIの作用を調べた。初代骨髄腫試料のGSI処置は、共培養したT-ChARM T細胞によるIFN-γ生産(
図5O、5Pおよび5Q)およびCD8発現(
図5O)を大幅に改善し、この効果は0.1μM GSI以上での処置後に認められ、そしてT細胞の増殖も増加させた(
図5R)。
【0138】
これらのデータは、多発性骨髄腫細胞上のBCMAのレベルを増加させるためにBCMA特異的CAR-T細胞とGSIとを組み合わせることの臨床的有用性を示す。これは、低レベルのBCMAを発現する腫瘍細胞の排除を促進することにより、多発性骨髄腫を治療する上で有益性を提供することができ、更に相乗効果さえも有することができる。データは、ある範囲の濃度のγ-セクレターゼ阻害剤が、T細胞活性に影響を与えることなく腫瘍細胞のBCMA発現を促進したことも示す。
【0139】
実施例6:MM異種移植片モデルにおけるGST活性のインビボ研究
実施例4に記載のGSI R04929097のsBCMA阻害作用が、インビボで複製できるかどうかを調べるために、ヒトMMのマウス異種移植片モデルを
図6Aに描写されるように試験した。簡単に言えば、免疫欠損NOD/SCIDγ(NSG)マウス(The Jackson Laboratory)に、第-1日に致死未満量の照射(275 rad)を行い、続いてその翌日(第0日)に5×10
6 MM.1R細胞を投与した。GSI RO4929097(30 mg/kg)を第19日と第20日に強制経口投与によりマウスに投与した。マウスを2回目のGSIの強制経口投与後の様々な時点で犠牲にし、血液と骨髄試料を分析用に採取した。GSI投与の後、腫瘍細胞上の表面BCMA発現に急速な増加(2回目の強制経口投与後4時間目までに>3倍増加)(
図6B)とsBCMAの同時減少(
図6C)が見られた。観察された効果は、2回目の強制経口投与後、通常48時間以内に減少した。
【0140】
実施例7:MMをターゲットとするGSI+CAR-T細胞併用療法のインビボ研究
抗BCMA CAR-T細胞療法をインビボで改善できるGSI療法の能力を調べた。実施例6に記載したものと同様な実験において、NSGマウスに第-21日に致死未満量の放射線を照射し、続いて第-20日にヒトMM細胞(5×10
6 MM.1R
ffluc)を投与した(
図7A参照)。第-1日に強制経口投与によりGSI(30 mg/kg RO4929097)の初回投与を施した。第0日に、マウスに準最適量のC11 3ST T-ChARM T細胞(0.33×10
6 細胞; CD4:CD8 1:1)を注射し、そして2回目のGSIを投与した。追加量のGSIは第+1日、第+8日および第+9日に投与した。実験全体を通して生物発光画像診断法(BLI)を実施し、マウスを生存についてモニタリングした。
図7B、7Cおよび7E(左側のグラフ)に示される通り、GST+T細胞を投与した群は、T細胞のみを投与した群に比較して、減少した発光を呈し、そして全く検出可能な腫瘍を持たないマウスがより多かった(T細胞のみの群からのBLIデータは示していない)。定量化した発光データ(
図7Cと7E(左側のグラフ))は、初期のT-ChARM T細胞効果が、腫瘍が増殖し始める時の約9日目に逆転し始めることを示した(“Mock+BCMA T細胞”)。抗腫瘍効果は、GSI R04929097との併用(“R049+BCMA T細胞”)により延長されたが、その処置群の腫瘍も最終的には増殖に至った。画像データは、マウスの生存率と一致し(
図7Dと7E(右側のグラフ))、併用療法を受けたマウスはT細胞のみを投与した群よりも、死亡するまでより長く生存した。ある実施形態では、抗BCMA CAR T細胞と併用する時にGSI処置を繰り返し(少なくとも2回~少なくとも約5回から少なくとも25回まで)、該GSI処置は抗BCMA CAR T細胞の投与と同時、前または後に施行することができる。
【0141】
実施例8:GSIは二重特異性抗BCMA融合タンパク質によるBCMA
+
MM細胞への結合を改善する
BCMAと別の抗原の両方に対して特異性を有し、かつYFP(黄色蛍光タンパク質)タグを有する二重特異性融合タンパク質を作製した。この二重特異性融合タンパク質を、GSIを含むまたは含まない培養中のBCMA発現H929 MM細胞(0.5×10
6細胞)に添加した。結合をフローサイトメトリーにより評価した。
図8に示される通り、GSIの添加は、BCMA結合性二重特異性融合タンパク質による結合を改善したが、BCMAを標的としない対照の二重特異性融合タンパク質による結合に対しては全く効果がなかった。これらのデータは、BCMAを標的とする二重特異性分子を用いる免疫療法が、GSIにより増強されるかまたは改善されうることを示す。
【0142】
上述した様々な実施形態を組み合わせて、追加の実施形態を提供することができる。本明細書中に言及されるおよび/または出願データシート中に列挙される米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、参考によりそれらの全内容が本明細書中に組み込まれる。実施形態の態様は、様々な特許、出願および刊行物は、様々な特許、出願および刊行物の概念を使用するのに必要であれば、更に追加の実施形態を提供するように変更することができる。
【0143】
上記に詳述した記載に照らして、実施形態に対し上記のおよび他の変更を行うことが可能である。一般に、下記の特許請求の範囲において使用される用語は、明細書と特許請求の範囲に開示される特定の実施形態に、請求の範囲を制限するものであると解釈するのではなく、権利を与えられるそのような請求の範囲の均等物の全範囲と共に全ての可能な実施態様を包含するものであると解釈すべきである。従って、特許請求の範囲は本開示により限定されない。