IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチの特許一覧 ▶ ナショナル ユニヴァーシティー ホスピタル (シンガポール) ピーティーイー エルティーディーの特許一覧 ▶ ナショナル ユニヴァーシティ オブ シンガポールの特許一覧

特開2024-170603免疫チェックポイント阻害療法からの利益を予測する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170603
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害療法からの利益を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20241203BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024155455
(22)【出願日】2024-09-10
(62)【分割の表示】P 2021536739の分割
【原出願日】2019-12-20
(31)【優先権主張番号】10201811546W
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】521272517
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー ホスピタル (シンガポール) ピーティーイー エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL UNIVERSITY HOSPITAL (SINGAPORE) PTE LTD
(71)【出願人】
【識別番号】506009947
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティ オブ シンガポール
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】タン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】スンダル ラガフ
(72)【発明者】
【氏名】ファン キーギョン
(72)【発明者】
【氏名】カムラ アディティ
(72)【発明者】
【氏名】ゴケ ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】デミルシオル デニズ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】免疫療法又は免疫チェックポイント阻害(ICI)療法への患者の応答を予測するための、代替プロモーターの利用に基づいた代替方法を提供する。
【解決手段】ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとしてがん患者を同定する方法であって、患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ、1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ、代替プロモーター使用スコア(APBスコア)を計算するステップ、及びAPBスコアを使用して免疫チェックポイント阻害療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして患者を同定するステップを含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害(ICI)療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして、がんに罹患している患者を同定する方法であって、
a)前記患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された前記1又は2以上の事前選択マーカーの前記発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)前記代替プロモーター使用スコアを使用して、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして前記患者を同定するステップ;
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2018年12月21日に出願されたシンガポール出願番号10201811546Wの優先権の利益を主張し、その内容は、全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、がんの分野に関する。特に、本発明は、免疫チェックポイント阻害療法について患者を選択するための方法の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
がんの様々な治療法の中で、免疫チェックポイント阻害(ICI,immune checkpointinhibition)は、いくつかの腫瘍タイプにおいて重要なブレークスルーをもたらした。ICI療法では、ペムブロリズマブ及びニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害剤が免疫チェックポイント受容体PD-1とそのリガンドとの間の相互作用を遮断し、負の共刺激シグナルを低減し、Tエフェクター細胞機能を増大させて抗腫瘍応答を誘発する。
【0004】
ある特定の腫瘍タイプにおいて利益を受けているものの、特に固形上皮腫瘍において成功しないことが、いくつかの最近のICI第III相試験でも証明されている。ICI療法
への応答は、少数の患者のみで観察される。したがって、免疫療法への患者の応答を予測できる強固なバイオマーカーが必要である。現在、最も開発されているICIバイオマーカーは、PD-L1発現、マイクロサテライト不安定性、及び腫瘍変異量(tumour mutationburden)である。これらのバイオマーカーは、ICI療法に応答する患者を同定することを目的とした陽性予測バイオマーカーである。しかしながら、これらのバイオマーカーを取り巻く論争が起きており、バイオマーカー陰性集団におけるICI応答が観察されている。これらの観察結果は、免疫療法に耐性がある可能性が高い腫瘍を同定できる、ICI療法の陰性予測バイオマーカーの補完的な要件を強調する。しかしながら、ICIの陰性予測バイオマーカーは十分に説明されていないままである。
【0005】
プロモーターは、転写開始部位(TSS,transcription start site)の上流のゲノムシス調節要素であり、転写を開始する機能を有する。プロモーター活性はエピジェネティックに調節され、ヒトの全遺伝子の半分を超えるものが複数のプロモーターを有しており、正常な生物学的機能又は疾患状態の結果として選択的に活性化することができる。代替プロモーターの使用により、別個の5’非翻訳領域(UTR,untranslated region)と
第1エクソンとが産生され、mRNA及びタンパク質のアイソフォームの多様性を増強することができる。がんにおいては、代替プロモーターが発がん性を有するがん特異的アイソフォームを生成する可能性がある。最近の研究では、腫瘍が代替プロモーターを免疫編集及び回避のメカニズムとして利用している可能性が示されている。したがって、エピジェネティックに駆動される代替プロモーターの利用は、ICI療法に対する耐性の潜在的なメカニズムである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、免疫療法又はICI療法への患者の応答を予測するために、代替プロモーターの利用に基づいた代替方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
一態様では、免疫チェックポイント阻害(ICI)療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして、がんに罹患している患者を同定する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカー(preselectedmarker)の発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして患者を同定するステップ
を含む、方法が提供される。
【0008】
別の態様では、がんに罹患している患者の予後を決定する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、患者の予後を決定するステップ
を含む、方法が提供される。
【0009】
別の態様では、がんに罹患している患者をICI療法から除外するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアを超える代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーが提供される。
【0010】
定義
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写を開始するDNAの領域を指す。プロモーターは、メジャープロモーター、マイナープロモーター、又は代替プロモーターであってもよい。メジャープロモーターは、遺伝子の転写に最も頻繁に使用されるプロモーターである。
【0011】
本明細書で使用される場合、「代替のプロモーター(alternatepromoter)」及び「代
替プロモーター(alternative promoter)」という用語は、メジャープロモーター又はマイナープロモーターよりも代替転写開始部位で遺伝子の転写を開始するDNAの領域を指す。
【0012】
本明細書で使用される「獲得プロモーター(gained promoter)」という用語は、非が
ん性生物学的サンプルと比較して、がん性生物学的サンプルにおいて、獲得されるか、又は増大した活性を持つプロモーターを指す。獲得プロモーターは、非がん性生物学的サンプルには存在しないがん性生物学的サンプル中のプロモーターであり得る。獲得プロモーターは、非がん性生物学的サンプル中のプロモーターと比較して、増大したプロモーター活性を持つがん性生物学的サンプル中のプロモーターであり得る。
【0013】
本明細書で使用される「喪失プロモーター(lost promoter)」という用語は、非がん
性生物学的サンプルと比較して、がん性生物学的サンプルにおいて喪失されたか、又は低下した活性を持つプロモーターを指す。喪失プロモーターは、非がん性生物学的サンプルには存在するが、がん性生物学的サンプルには存在しないプロモーターであり得る。喪失プロモーターは、非がん性生物学的サンプル中のプロモーターと比較して低下したプロモ
ーター活性を有するがん性生物学的サンプル中のプロモーターであり得る。
【0014】
がんの文脈における「免疫療法」という用語は、がんを治療するための免疫系の調節を伴う治療の一形態を指す。免疫系の調節は、免疫系の活性化又は不活性化を伴う可能性がある。これは、抗体、サイトカイン、及びワクチンなどの免疫系の成分の使用を伴い得る。
【0015】
本明細書で使用される場合、「免疫チェックポイント阻害療法」という用語は、免疫系の主要な調節因子を標的とするがん免疫療法の一形態を指す。あるタイプのがん細胞及び免疫細胞によって作られたある特定のタンパク質は、免疫応答の抑制に役立ち、T細胞ががん細胞を死滅させるのを抑えることができる。ある特定のがん細胞は、これらのタンパク質を使用して免疫監視を回避する。「免疫チェックポイント阻害療法」という用語は、これらのタンパク質を遮断する因子の使用を含む療法を指し、免疫系機能を回復して、T細胞が効果的な抗腫瘍応答を開始できるようにする。
【0016】
本出願の目的のための「予後」という用語は、臨床状態又は疾患の予想される経過及び転帰の予測を指す。「予後」という用語は、状態の経過又は転帰を100%の精度で予測する能力を指すものではない。その代わり、「予後」という用語は、所定の状態を示す対象において、所定の状態を示さない個体と比較した場合に、ある特定の経過又は転帰が生じる確率を指す。「予後」は、1又は2以上の臨床転帰、例えば、対象における疾患の進行速度、疾患の重症度、生存率、生存時間、転移の可能性、疾患の再発の可能性、又は治療的介入への応答などに関してなされる可能性がある。
【0017】
本出願の目的のための「エピジェネティック」という用語は、個体のDNA配列を変更することなく遺伝子発現を調節する変化を指す。エピジェネティックな変化の例は、DNAメチル化、ヒストン修飾及びRNA関連サイレンシングである。エピジェネティックな変化は、遺伝子発現の制御を介して疾患発症に重要な役割を果たす。
【0018】
本明細書の文脈における「バイオマーカー」という用語は、生物学的状態又は疾患の測定可能な指標を指す。バイオマーカーには、体の組織や体液で測定できる物質、構造、又はプロセスが含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
本明細書で使用される場合、「代替のプロモーター使用スコア(alternate promoter usagescore)」及び「代替プロモーター使用スコア(alternative promoter usagescore)」という用語は、代替プロモーター利用の尺度を指す。スコアは、「AP」スコア又は「APB」スコアとして表すことができる。AP及びAPの文脈における「AP」という用語は、代替のプロモーター利用を指す。APスコアは代替プロモーター利用率が高いことを示し、APスコアは代替プロモーター利用率が低いことを示す。APB及びAPBの文脈での「APB」という用語は、代替のプロモーター利用負担を指す。APBスコアは代替プロモーター利用率が高いことを示し、APBスコアは代替プロモーター利用率が低いことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明は、非限定的な例及び添付の図面と併せて考慮される場合、詳細な説明を参照することで、よりよく理解されるであろう。
図1】33の腫瘍タイプにわたる代替のプロモーター利用負担(APBスコア)を示す図である。APBスコアは、33の腫瘍タイプにわたる10,393サンプルで計算された。各ポイントは、サンプルのAPBスコアを表す(y軸)。腫瘍タイプはx軸上で、それぞれの腫瘍タイプのAPBスコアの中央値が最も低いものから最も高いものの順序となっている。赤い横棒は腫瘍の中央値APBスコアであり、緑の横棒は対応する正常組織の中央値APBスコアを表す(少なくとも10個の正常サンプルが分析に利用できる場合のみを条件として)。80センタイルカットオフが示されているが、これは、サンプルをAPBグループ及びAPBグループに二分するための最も理想的なカットポイントであることが見出されたためである。
図2A】~
図2C】胃がんにおける代替のプロモーターの利用を示す図である(発見コホート、n=24)。特に、(A)は、ニボルマブ又はペムブロリズマブで治療された患者の発見コホートにおける、代替のプロモーター利用のヒートマップを示している。全ての腫瘍の中央値レベルと比較して4倍より高い発現レベルを有する転写物、及び以前に同定された獲得代替プロモーター部位へのマッピングは、獲得代替プロモーター(ヒートマップにおいて赤色で記す)とみなされた。全ての腫瘍の中央値レベルと比較して4倍より低い発現レベルを有する転写物、及び以前に同定された喪失代替プロモーター部位へのマッピングは、喪失代替プロモーター(ヒートマップにおいて青色で記す)とみなされた。(B)は、AP高(disc)グループ対AP低(disc)グループの間のT細胞免疫相関との関連を示す。AP高(disc)グループを赤色、AP低(disc)グループのものを青色で示す。T細胞マーカーCD8A(P=0.059)及びT細胞細胞溶解マーカーGZMA(P=0.025)及びPRF1(P=0.011)の発現が図示される。AP高(disc)グループは、免疫マーカーのより低い発現を示す。(C)は、発見コホートにおけるAPグループ対APグループを比較した無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線を示す。
図3A】~
図3D】胃がんにおける代替のプロモーター利用を示す図である(ペムブロリズマブ試験コホート、n=37)。特に、(A)は代替のプロモーター利用のヒートマップを示す。全ての腫瘍の中央値レベルと比較して4倍より高い発現レベルを有する転写物、及び以前に同定された獲得代替プロモーター部位へのマッピングは、獲得代替プロモーター(ヒートマップにおいて赤色で記す)とみなされた。全ての腫瘍の中央値レベルと比較して0.25倍より低い発現レベル有する転写物、及び以前に同定された喪失代替プロモーター部位へのマッピングは、喪失代替プロモーター(ヒートマップにおいて青色で記す)とみなされた。(B)は代替プロモーター利用スコアのグラフを示す。代替プロモーター利用スコアは、各サンプル中の獲得及び喪失代替プロモーターの合計として計算される。高い代替のプロモーター利用は、66センタイルを超えるものとして定義された。(C)は、APグループ対APグループの間のT細胞免疫相関との関連を示す。APグループを赤色、APグループのものを青色で示す。T細胞マーカーCD8A(P=0.0037)及びT細胞細胞溶解マーカーGZMA(P=0.0055)及びPRF1(P=0.016)の発現が図示される。APグループは、免疫マーカーのより低い発現を示す。(D)は、AP(赤)及びAP(青)サブグループに従ったペムブロリズマブへの応答のウォーターフォールプロットである。Y軸は、RECIST 1.1基準に従って評価された最大腫瘍減少の百分率を表す。
図4A】~
図4C】代替のプロモーター利用に基づく生存曲線を示す図である。特に、(A)は、APグループ対APグループを比較した無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線を示す。(B)は、x軸が各患者のペムブロリズマブ療法の期間を表すスイマープロットを示す。AP(赤)及びAP(青)のサブグループが図示される。(C)は、APグループ対APグループで分割されたTCGAサブタイプを比較した無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線を示す。
図5-1】~
図5-2】APBスコアアルゴリズムのバイオインフォマティクスワークフローを示す図である。胃がん(2732領域)において同定された体細胞プロモーター領域(獲得及び喪失)は、TCGA(113,076プロモーター)からの汎がん分析で同定された全てのプロモーターに対してマッピングされる。全体で、4672個のプロモーターが選択され、相対的プロモーター活性がAPBスコアの計算に使用された。腫瘍は、APBスコアの80センタイルでAPB及びAPBに二分される。
図6A】~
図6B】APBスコアグループと細胞溶解性T細胞活性のマーカーの相関関係を示す図である。特に、(A)は、APBグループ対APBグループ(全ての腫瘍サンプル、汎がん)の間とT細胞免疫相関の関連を示している。腫瘍は、APBスコアの80センタイルでAPBとAPBに二分された。APBグループを赤色、APBグループのものを青色で示す。T細胞マーカーCD8A及びT細胞細胞溶解マーカーGZMA及びPRF1の発現を図示する。APBグループは、免疫マーカーのより低い発現を示す(CD8A、GZMA、及びPRF1についてのウィルコクソン検定 p<0.0001(***))。(B)は、APBグループ対APBグループの間とCD8A、GZMA、及びPRF1との関連を、選択された腫瘍タイプ:膀胱がん(BLCA,bladder cancer)、乳がん(BRCA,breast cancer)、子宮頸部扁平上皮癌(CESC,cervical squamous cell carcinoma)、食道がん(ESCA,esophagealcarcinoma)、頭頸部扁平上皮癌(HNSC,head and neck squamous cell carcinoma)、肝臓肝細胞癌(LIHC,liver hepatocellular carcinoma)、肺扁平上皮癌(LUSC,lungsquamous cell carcinoma)、卵巣がん(OV,ovarian cancer)及び胃腺癌(STAD,stomach adenocarincoma)について示す。APBグループを赤色、APBグループのものを青色で記す。(***=p<0.0001、**=p<0.001、=p<0.01、NS=p>0.05、ウィルコクソン検定)。
図7】免疫遺伝子を強調するAPBスコアグループにおける差次的遺伝子発現を示す図である。APB及びAPBと相関する免疫遺伝子のこのボルケーノプロットでは、x軸はAPBとAPBとの間の遺伝子発現(RSEM)のlog倍変化(logFC)である。y軸は-log10調整p値の結果である(ボンフェローニ補正)。logFC>1及び調整p値<0.05として定義される重要な遺伝子は、赤い点で表される。上位の遺伝子(logFC>1.3及び-log10調整p値>200)が標識される。
図8】APBスコアグループと他の免疫相関との関連を示す図である。特に、図は、APB及びAPBと相関するPanCanAtlasにおける約20,000個の遺伝子のボルケーノプロットを示す。x軸は、APBとAPBとの間の遺伝子発現(RSEM)のlog2倍変化(logFC)である。y軸は-log10調整p値の結果である(ボンフェローニ補正)。免疫遺伝子は赤い点で表される。全体的な遺伝子発現の均等な分割が、両方のグループ間で見られ、APBグループは免疫遺伝子の過少発現の偏りが見られる。
図9】リンパ球浸潤シグネチャースコアとAPBスコアの相関関係を示す図である。リンパ球浸潤シグネチャーは、APBスコアグループによって二分される。APBグループは、APBと比較して統計的により高いスコアを持つ(ウィルコクソン検定 p<0.0001)。
図10】IFN-γ応答シグネチャーとAPBスコアの相関関係を示す図である。APBスコアグループによって二分されることにより定義されたIFN-γ応答シグネチャー。APBグループは、APBと比較して統計的により高いスコアを持つ(ウィルコクソン検定 p<0.0001)。
図11】CD8A、GZMA、PRF1との相関により選択された19個の腫瘍タイプにおける、APBスコアとペムブロリズマブの客観的応答率(ORR,objective response rate)の相関を示す図である。公開された試験において説明されるように、x軸は腫瘍タイプ毎の中央値APBスコアであり、y軸は単剤ペムブロリズマブを用いた腫瘍タイプのORRである。円のサイズは、ORR評価のために選択された臨床試験で治療された患者数に対応する。円の色は、APBスコアの評価に使用されるTCGAコホート内のサンプル数に対応している。COADには、COAD及び結腸直腸がん(READ,colon and rectal cancer)の両方が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の詳細な説明
第1の態様では、本発明は、免疫チェックポイント阻害(ICI)療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして、がんに罹患している患者を同定する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして患者を同定するステップ
を含む、方法を指す。
【0022】
がん性生物学的サンプルは、新鮮な、凍結された、固定された、又は保存されたサンプルであり得ることが、当業者には一般的に理解されるであろう。
【0023】
一実施形態では、がんに罹患している患者は、ICI療法を受けたか、又は受けている。好ましい実施形態では、がんに罹患している患者は、ICI療法を受けていない。
【0024】
がん性生物学的サンプルは、癌腫、肉腫、及び黒色腫を含むがこれらに限定されない、1又は2以上のがんと診断された患者から採取してもよい。生物学的サンプルは、細胞、組織、又は体液のサンプルであり得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、がん性生物学的サンプルは、副腎皮質癌、膀胱尿路上皮癌、乳房浸潤癌、子宮頸部扁平上皮癌及び子宮頸部腺癌、胆管癌、結腸腺癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、食道癌、多形神経膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌、腎臓嫌色素性細胞、腎臓腎明細胞癌、腎臓腎乳頭細胞癌、急性骨髄性白血病、脳低悪性度神経膠腫、肝臓肝細胞癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、中皮腫、卵巣漿液性嚢胞腺癌、膵臓腺癌、褐色細胞腫及び傍神経節腫、前立腺腺癌、直腸腺癌、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺癌、精巣胚細胞腫、甲状腺癌、胸腺腫、子宮体部子宮内膜癌、子宮癌肉腫、ブドウ膜黒色腫、肛門がん並びにそれらの組合せを含むがこれらに限定されない1又は2以上のがんに罹患している患者から採取することができる。
【0026】
一実施形態では、がんは固形がんである。別の実施形態では、固形がんは胃腸がんである。さらに別の実施形態では、胃腸がんは胃がんである。さらに別の実施形態では、胃がんは、染色体的に不安定な(CIN,chromosomally unstable)及び/又はゲノム的に安定な(GS,genomicallystable)サブタイプのものである。さらに別の実施形態では、胃がんは転移性胃がんである。
【0027】
いくつかの実施形態では、事前選択マーカーは、1又は2以上の核酸分子である。核酸分子は、DNA又はRNAであり得る。いくつかの実施形態では、核酸分子は、mRNA、cDNA、マイクロRNA、及びゲノムDNAからなる群から選択される。事前選択マーカーは、1若しくは2以上の遺伝子又は1若しくは2以上の転写物であり得る。いくつかの実施形態では、事前選択マーカーは、1又は2以上のペプチドである。別の実施形態では、ペプチドは、翻訳後修飾されたペプチドである。
【0028】
一実施形態では、事前選択マーカーは、がん性生物学的サンプル中の体細胞プロモーター領域に関連するマーカーである。好ましい実施形態では、がん性生物学的サンプルは胃がんサンプルである。
【0029】
本明細書に記載のがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルは、全トランスクリプトーム配列決定(WTS,whole transcriptome sequencing)、ナノストリング分析、RNA配列決定、及びそれらの組合せからなる群から選択される方法を使用して測定され得る。
【0030】
代替プロモーターの使用が、異なる転写開始部位での転写の開始を可能にすることは、当業者によって理解されるであろう。したがって、代替プロモーターの使用は、遺伝子発現レベルの変化及び/又は変化したmRNA転写物及びタンパク質アイソフォームの産生の発生を含む、様々な方法での遺伝子発現に影響を及ぼし得る。
【0031】
一実施形態では、がん性生物学的サンプル中の1又は2以上の前記事前選択マーカーの発現レベルを、1又は2以上の参照サンプル中の前記1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルと比較することによって、本明細書に記載の差次的に発現される代替プロモーターを同定して、がん性生物学的サンプルと1又は2以上の参照サンプルとの間の事前選択マーカーの発現レベルの増加又は減少を決定する。1若しくは2以上の遺伝子、転写物又はペプチドであり得る事前選択マーカーの発現レベルが、プロモーターによって調節され得、したがってプロモーターの活性の指標となることは、当業者に理解されるであろう。
【0032】
がん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを、1又は2以上の参照サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルと比較することによって、差次的に発現される代替プロモーターを同定することができる。
【0033】
一実施形態では、獲得プロモーターについて、1又は2以上の参照サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルと比較した、がん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルの増加は、差次的に発現される代替プロモーターを示す。
【0034】
別の実施形態では、喪失プロモーターについて、1又は2以上の参照サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルと比較した、がん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルの減少は、差次的に発現される代替プロモーターを示す。
【0035】
差次的に発現される代替プロモーターは、様々な方法で同定され得る。一実施形態では、本明細書に記載の差次的に発現される代替プロモーターは、腫瘍サンプルのパネル内のプロモーターの転写物の中央値発現レベルと比較した場合、転写物の発現レベルで少なくとも4倍の増加を伴う獲得プロモーターによって同定される。別の実施形態では、本明細書に記載の差次的に発現される代替プロモーターは、腫瘍サンプルのパネル内のプロモーターの転写物の中央値発現レベルと比較した場合、転写物の発現レベルで0.25倍未満であるか又は少なくとも4倍の低減である、喪失プロモーターによって同定される。一実施形態では、各プロモーターの転写物の中央値発現レベルは、腫瘍サンプルのパネル内の全てのサンプルにわたるプロモーターの中央値発現レベルである。
【0036】
別の実施形態では、本明細書に記載の差次的に発現される代替プロモーターは、腫瘍サンプルのパネルの中央値プロモーター活性よりも大きい相対的プロモーター活性を有する獲得プロモーターによって同定される。別の実施形態では、本明細書に記載される差次的に発現される代替プロモーターは、腫瘍サンプルのパネルの中央値プロモーター活性よりも低い相対的プロモーター活性を有する喪失プロモーターによって同定される。一実施形態では、各プロモーターの転写物の中央値発現レベルは、腫瘍サンプルのパネル内の全て
のサンプルにわたるプロモーターの中央値発現レベルである。
【0037】
一実施形態では、獲得プロモーターは、非がん性生物学的サンプルと比較して、がん性生物学的サンプルにおいて獲得されたか、又は増加した活性を有するプロモーターである。獲得プロモーターは、非がん性生物学的サンプルに存在しないがん性生物学的サンプル中のプロモーターであるか、又は非がん性生物学的サンプル中のプロモーターと比較して、増加したプロモーター活性を有するがん性生物学的サンプル中のプロモーターであってもよい。
【0038】
別の実施形態では、喪失プロモーターは、非がん性生物学的サンプルと比較して、がん性生物学的サンプルにおいて喪失されたか、又は低下した活性を有するプロモーターである。喪失プロモーターは、非がん性生物学的サンプルには存在するが、がん性生物学的サンプルには存在しないプロモーターであるか、又は非がん性生物学的サンプルのプロモーターと比較して、低下したプロモーター活性を有するがん性生物学的サンプル中のプロモーターであってもよい。
【0039】
本明細書に記載される差次的に発現される代替プロモーターの同定の後、代替プロモーター使用スコアがその後、計算される。一実施形態では、代替プロモーター使用スコアは、APスコアであってもよい。別の実施形態では、代替プロモーター使用スコアは、APBスコアであってもよい。代替プロモーター使用スコアは、本明細書に記載される差次的に発現される代替プロモーターの合計を決定することによって計算されてもよい。
【0040】
代替プロモーター使用スコアは、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして、がんに罹患している患者を同定する方法において使用されてもよい。ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして、がんに罹患している患者を同定する方法は、本明細書に記載の代替プロモーター使用スコアを参照スコアと比較して、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして患者を同定するステップをさらに含んでもよい。
【0041】
一実施形態では、参照スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの中央値、三分位値、又は四分位値でのスコアである。別の実施形態では、参照スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの10、20、30、40、50、60、70、80又は90パーセンタイルのスコアである。好ましい実施形態では、参照スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの66又は80パーセンタイルのスコアであってもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、参照スコアは絶対スコアである。絶対スコアは、患者の代替プロモータースコアと比較される固定及び非可変スコアである。
【0043】
一実施形態では、参照スコアと比較して増加した代替プロモーター使用スコアは、ICI療法から利益を受けないものとして患者を同定する。一実施形態では、増加した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイルを超えるスコアである。別の実施形態では、増加した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイルを超えるスコアである。
【0044】
別の実施形態では、参照スコアと比較して減少した代替プロモーター使用スコアは、患者をICI療法から利益を受けるものとして同定する。一実施形態では、減少した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイル未満のスコアである。一実施形態では、減少した代替プロモータ
ー使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイル未満のスコアである。
【0045】
一態様では、本発明は、ICI療法を受けているか、又は受けた患者の予後を決定する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、患者の予後を決定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0046】
一実施形態では、本明細書に記載のICI療法を受けているか、又は受けた患者の予後を決定する方法は、本明細書に記載の代替プロモーター使用スコアを参照スコアと比較して、患者の予後を決定するステップをさらに含み、参照スコアと比較して増加した代替プロモーター使用スコアが、より悪い予後を示す。
【0047】
一実施形態では、増加した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイルを超えるスコアである。別の実施形態では、増加した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイルを超えるスコアである。
【0048】
別の実施形態では、本明細書に記載のICI療法を受けているか、又は受けた患者の予後を決定する方法は、本明細書に記載の代替プロモーター使用スコアを参照スコアと比較して、患者の予後を決定するステップをさらに含み、参照スコアと比較して減少した代替プロモーター使用スコアが、より良好な予後を示す。
【0049】
一実施形態では、減少した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイル未満のスコアである。別の実施形態では、減少した代替プロモーター使用スコアは、1又は2以上の参照サンプルからの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイル未満のスコアである。
【0050】
別の態様では、本発明は、がんに罹患している患者をICI療法から除外するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアを超える代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーを提供する。
【0051】
一実施形態では、本発明は、ICI療法についてがんに罹患している患者を除外するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイルを超える代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーを提供する。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、ICI療法についてがんに罹患している患者を選択するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアの66パーセンタイル未満の代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーを提供する。
【0053】
別の態様では、本発明は、がんに罹患している患者をICI療法から除外するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイルを超える代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーを提供する。
【0054】
別の実施形態では、本発明は、ICI療法についてがんに罹患している患者を選択するためのバイオマーカーであって、バイオマーカーが、1又は2以上の参照サンプルの代替プロモーター使用スコアの80パーセンタイル未満の代替プロモーター使用スコアであり、代替プロモーター使用スコアが、各代替プロモーター部位で差次的に発現される代替プロモーターの合計である、バイオマーカーを提供する。
【0055】
1又は2以上の参照サンプルは、1又は2以上の異なる患者から得られた1又は2以上の腫瘍サンプル、1又は2以上の異なる患者から得られた1又は2以上の非がん性サンプル、同じ患者から得られた1又は2以上の非がん性サンプル及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。一実施形態では、同じ患者から得られた1又は2以上の非がん性サンプルは、がん性組織に隣接する組織である。これらの参照サンプルの複数の組合せが、本発明の方法において使用され得ることは、当業者により理解されるであろう。
【0056】
別の態様では、本発明は、がんに罹患している患者を、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)療法を用いて治療するべきでないか否かを決定する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、ICI療法から利益を受けないものとして患者を同定するステップ;
e)患者がICI療法から利益を受けないものと同定された場合、代替療法を用いて前記患者を治療するステップ
を含む、方法を指す。
【0057】
別の態様では、本発明は、がんに罹患している患者を治療する方法であって、
a)患者から得られたがん性生物学的サンプル中の1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルを測定するステップ;
b)ステップ(a)で測定された1又は2以上の事前選択マーカーの発現レベルに基づいて、差次的に発現される代替プロモーターを同定するステップ;
c)代替プロモーター使用スコアを計算するステップ;
d)代替プロモーター使用スコアを使用して、ICI療法から利益を受けるか、又は利益を受けないものとして患者を同定するステップ;
e)ステップ(d)に従ってICI療法から利益を受けるものと同定された患者を、免疫チェックポイント阻害剤を用いて治療するか、又はステップ(d)に従ってICI療法から利益を受けないものと同定された患者を、代替療法を用いて治療するステップ
を含む、方法を指す。
【0058】
一実施形態では、ICI療法は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、セミプリマブ、スパルタリズマブ、シンチリマブ、カムレリズマブ及びチスレリズマブを含み得るが、これらに限定されない。
【0059】
別の実施形態では、代替療法は、がんを治療するために適したICI療法以外の任意の療法である。例えば、代替療法には、化学療法、放射線療法、幹細胞移植、外科手術、ホルモン療法、及び標的療法が含まれ得る。標的療法には、腫瘍増殖及び進行に必要な特異的分子を妨害する薬物の使用が含まれる。代替療法には、ICI療法を受けている患者におけるICI療法を中止することもまた含まれ得る。
【0060】
本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素又は複数の要素、制限又は複数の制限の非存在下で、適切に実践することができる。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、広範で限定されないように読まれる。さらに、本明細書で
用いられる用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語や表現の使用において、図示及び説明された特徴の任意の等価物又はその一部を除外する意図はないが、特許請求された発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明を、好ましい実施形態及び任意の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書に開示され、本明細書に具体化される本発明の修正及び変形は、当業者が頼りとすることができ、そのような修正及び変形は、本発明の範囲内であるとみなされることが理解されるべきである。
【0061】
本発明は、本明細書において広範及び一般的に記載されている。一般的な開示の範囲に入る各々のより狭い種及び亜属系列もまた、本発明の一部を形成する。これには、削除された材料が本明細書に特定的に記載されているか否かに関わらず、属から任意の主題を除去する但し書き又は否定的限定を伴う本発明の一般的な説明が含まれる。
【0062】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲及び非限定的な実施例の範囲内である。さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュ群に関して説明される場合、当業者は、本発明が、それによって、マーカッシュ群の任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループに関しても説明されることを認識するであろう。
【0063】
実験の部
本発明の非限定的な例及び比較例は、特定の実施例を参照することによってさらに詳細に説明されるが、これらは、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0064】
材料及び方法
この研究においては、腫瘍バイオマーカーの検証のためのREMARK基準に従った。
【0065】
臨床コホート
発見コホート
韓国のソウルのサムスン医療センターでニボルマブ又はペムブロリズマブ治療を用いて治療された転移性胃がんの継続患者がこのコホートに含まれた。ICIは、少なくとも1つの細胞毒性レジメンに失敗した患者の救済治療として投与された。ニボルマブ3mg/kgは、2週間毎に1時間の注入として投与され、ペムブロリズマブ200mgは、疾患が進行するか、又は毒性が許容できなくなるまで、3週間毎に30分の静脈内注入として投与された。倫理的承認を得て、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが提供された後に、原発腫瘍からのアーカイブ腫瘍組織標本が収集され、将来を見越して生存データを追跡した。
【0066】
ペムブロリズマブ試験コホート
白金/フルオロピリミジンを含む少なくとも1つの系統の化学療法に失敗し、組織学的に証明された転移性及び/又は再発性胃腺癌を有する患者が、この研究に登録された。試
験はヘルシンキ宣言と良好臨床基準ガイドライン(ClinicalTrials.gov識別子:NCT#02589496)とに従って実行された。試験プロトコールは、サムスン医療センター(ソウル、韓国)の施設内審査委員会によって承認され、全ての患者は登録前に書面によるインフォームドコンセントを提供した。ペムブロリズマブ200mgを、疾患の進行、許容できない毒性が記録されるまで、又は最大24か月まで、3週間毎に30分の静脈内注入として投与した。腫瘍応答は、RECIST 1.1基準に従って2サイクル毎に評価された。
【0067】
ナノストリング分析
ナノストリングnCounterリポーターコードセットは、80の再発性体細胞代替のプロモーター関連遺伝子、並びに腫瘍内細胞溶解活性(CYT,intra-tumoural cytolytic activity)、サイトカイン、及び免疫チェックポイントに対応する免疫関連遺伝子
のために設計された。標準的及び代替のプロモーター駆動転写物の発現を測定するために、各遺伝子に対して少なくとも2つのプローブが設計された。未変更のH3K4me3でマークされた5’転写物の標準プローブ、及び体細胞プロモーターの5’転写物の代替プローブ。データ分析は、ベンダー提供のnCounterソフトウェア(nSolver)を使用して行われた。生カウントは、各コードセットに含まれる内部陽性対照プローブの幾何学的平均を使用して正規化された。
【0068】
RNA配列決定
腫瘍組織は、研究治療の開始前の-42日目から1日目の間に得られた。徹底的な病理学的レビュー後、腫瘍含有量が40%を超えると推定された場合、QIAampミニキット(Qiagen社製、Hilden、Germany)を製造業者の使用説明書に従って使用して新たに得られた組織から腫瘍DNA及びRNAを抽出した。濃度並びに260/280及び260/230nm比は、ND1000分光光度計(Nanodrop Technologies社製、Thermo-Fisher Scientific社製、MA、USA)を用いて測定し、その後、Qubit蛍光計(Life Technologies社製、CA、USA)を使用してDNA/RNAをさらに定量化した。
【0069】
RNAトランスクリプトミック分析
RNAseqデータは、TopHatを使用してGENCODE v19転写物アノテーションに整列され、FPKM存在量測定値は、Cufflinksを使用して生成された。次に、転写物は全てのサンプルにわたって融合され、Cuffnormを使用して正規化された。代替プロモーター関連発現を分析するために、RNAseqリードは、エピゲノムプロファイリングによって以前に同定されたゲノム位置に対してマッピングされた。次に、これらのエピゲノムで定義されたプロモーター領域へのRNAseqマッピングを定量化し、プロモーターの長さ及びライブラリーのサイズにより正規化した。最後に、各プロモーター部位での発現の倍数変化を、全ての腫瘍サンプルにわたる各腫瘍と中央値発現レベルとの間で計算した。
【0070】
PDL1免疫組織化学分析、MSI状態、EBV状態、TCGAサブタイピング及び腫瘍変異量は、転移性胃がんにおける単剤ペムブロリズマブの第II相研究に使用される分類に基づいていた。
【0071】
統計分析
臨床病理学的特徴の組織学的細分類への関連は、フィッシャーの直接検定を使用して実行された。無増悪生存期間(PFS,progression-free survival)は、ペムブロリズマ
ブの初回投与時から疾患の進行又は死亡時まで計算され、全生存期間(OS,overall survival)は、ペムブロリズマブ又はニボルマブの初回投与時から死亡時まで計算された。カプランマイヤー(KM,kaplan-meier)曲線及びログランク検定を生存分析に使用した。ハザード比(HR,hazard ratio)及びその95%信頼区間(CI,confidence inter
val)は、Cox比例ハザード回帰モデルを使用して各分析で評価された。全ての分析は
R(3.4.1)を使用して行われた。検証コホートでは、66パーセンタイルを超える代替のプロモーター使用スコアを有するサンプルは、高い代替のプロモーター使用率(AP)と定義され、残りは低い代替のプロモーター使用率(AP)と定義された。
【0072】
PDL1免疫化学
PDL1免疫組織化学は、Dako PD-L1 IHC 22C3 pharmDxキット(Agilent Technologies社製)を使用して実行された。PD-L1タンパク質発現は、PD-L1染色細胞(腫
瘍細胞、リンパ球、マクロファージ)の数を生存腫瘍細胞の総数で割った値を100倍した、CPSを使用して決定した。
【0073】
MSI状態
腫瘍組織のMSI状態は、MLH1及びMSH2のIHCと、モノヌクレオチド反復を伴う5つのマーカーのPCR分析の両方によって決定された。
【0074】
EBV状態サブタイプ
EBV状態は、EBVにコードされた小RNA(EBER)インサイツハイブリダイゼーションによって決定された。
【0075】
腫瘍変異量
変異負荷(Mutational load)は、全エクソーム配列決定分析から決定された。対象の
変異負荷は、全てのフィルターを通過した体細胞の非同義SNV数として定義された。体細胞変異には、変異効果予測因子の注釈が付けられた。変異負荷は、腫瘍エクソームデータ内の非同義SNV数として計算された。組織のML-H閾値は、上部三分位数として設定された。
【0076】
TGCAサブタイプの定義
TCGAによって定義された胃がんサブタイプは、DNAゲノム変化に基づいていた。これらのグループには、EBV(+)、MSI-H、CIN、及びCINを欠き、びまん性の組織学的サブタイプが非常に豊富なゲノム安定性腫瘍が含まれていた。CIN、EBV(-)の代理として、MSS腫瘍は、CIN及びそれらのTP53状態に基づいたゲノム安定に階層化された。変異シグネチャー分析は、RのdeconstructSigsパッケージ(v
1.6.0)を使用して実行された。
【0077】
データセット
プロモーター活性は、33個の腫瘍タイプにわたる10393個のサンプル(9668個の腫瘍及び725個の正常サンプル)からなるTCGAのPanCanAtlasから入手可能なRNA-Seqデータから推測された。
【0078】
APBスコアアルゴリズム
胃がんにおける最初のエピジェネティックプロモーター変化研究は、2732個の体細胞プロモーター領域(2053個の獲得及び679個の喪失)を同定し、これらのアイソフォームのトランスクリプトミック発現を使用して、APBスコアアルゴリズムを作成した。
【0079】
TCGAデータについては、GENCODE v19アノテーションを使用して、一連のプロモーターを決定した。各TSSの重複する第1エクソンを組み合わせて、一連のプロモーターを取得した。次に、各プロモーターの活性を、構成転写物の第1イントロンにアラインするジャンクションリードを使用して定量化した。次に、全ジャンクションリードカウントがデータセット全体にわたって正規化された。log2変換された正規化されたリ
ードカウントは、さらなる下流分析のプロモーター活性に使用された。遺伝子発現の推定値は、遺伝子毎の各プロモーター活性を合計することによって取得された。次に、各プロモーター活性を遺伝子発現によって正規化して、相対プロモーター活性を取得した。合計で、113,076個のプロモーターが同定された。
【0080】
次に、胃がんで同定された体細胞プロモーター領域を、この一連の113,076個のプロモーターから選択した。4672個のプロモーター(獲得領域で3263、喪失領域で1409)は、胃がんで同定された2732個の体細胞プロモーター領域内に位置していた。これらの4672個のプロモーターのうち、全ての腫瘍サンプル(n=9668)にわたる全てのプロモーターの中央値相対プロモーター活性を計算した。全てのサンプルについて、APBスコアは、相対プロモーター活性が中央値よりも大きい獲得プロモーター及び相対プロモーター活性が中央値よりも小さい喪失プロモーターの数として計算された(図1)。様々なセンタイル(centile)カットオフ(10、20、30…、90)でのAP
Bスコアを使用して、腫瘍をAPBとAPBとに二分した。80センタイルは、APB及びAPBグループとの理想的カットオフとして決定され、さらなる下流分析に使用された。正常サンプルは、正常組織を含む分析のためにコホートに加えられたのみであり、中央値スコア及びカットオフの計算には使用されなかった。
【0081】
免疫相関
CD8A、GZMA及びPRF1の転写発現レベル、並びに免疫チェックポイント、様々な免疫細胞型のマーカー、適応性及び先天性免疫応答に関連する遺伝子並びに抗原を含む700を超える遺伝子の選択が選択され、Broad GDAC FirehoseからのTCGAデータ
セットから抽出された。免疫サブタイプ、他の免疫シグネチャー、及びTMBは、汎がん免疫ランドスケープ分析から抽出された。検閲データを含む無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)は、汎がん免疫ランドスケープ分析から抽出された。
【0082】
免疫チェックポイント阻害剤の臨床データ
免疫チェックポイント阻害剤を含む臨床試験からのデータは急速に拡大しており、薬物は単剤として、及び他の治療法と組み合わせて試験されている。ペムブロリズマブは依然として、臨床試験データが報告されている腫瘍タイプの最も広いスペクトルにわたって試験されている免疫チェックポイント阻害剤である。したがって、単剤ペムブロリズマブ試験の広範な文献レビューが行われ、各腫瘍タイプについて報告された最大の研究が選択された。次に、これらの試験からの客観的応答率(ORR)を、各腫瘍タイプのAPBスコアと相関させた。TMBは汎がん免疫ランドスケープ分析から抽出され、PD-L1転写物の発現はBroad GDAC Firehoseから抽出された。
【0083】
統計分析
ウィルコクソン順位和検定を使用して、APB及びAPBグループ間でCD8A、GZMA及びPRF1の発現レベルを比較した。「Rtsne」Rパッケージを使用して、T-SNEプロットを生成した。APBスコアとペムブロリズマブのORRとの相関関係にピアソンの試験を使用した。カプランマイヤー(KM)曲線及びログランク検定を生存分析に使用した。ハザード比(HR)及びその95%信頼区間は、Cox比例ハザード回帰モデルを使用して各分析で評価された。Reactome PathwayDatabaseを使用して、体
細胞プロモーター遺伝子機能のネットワークマッピングを行った。R(3.5.2)を使用して、全ての分析を行った。
【0084】
RNA-Seqを使用したプロモーター活性推定の検証
RNA-Seqを使用したプロモーター活性推定の精度は、公開データセットで利用可能なH3K4me3 ChIP-Seq及びCAGEタグデータなどの他の「ゴールドスタンダード」測定に対するベンチマークによって検証された。H3K4me3レベルはR
NA-Seqプロモーター活性と強く相関しており、エピジェネティックベース及び転写物ベースのプロモーター活性推定が一致していることを示唆している(クラスカル・ワリス p<0.001)。調査結果はCAGE-Tagデータで確認され、より高いCAGE-T
agサポートを持つRNA-Seqに、ユニークなプロモーターが同定された。
【0085】
本アルゴリズムはまた、RNA-Seq定量化及び第1エクソンリードカウントで利用される他のバイオインフォマティック法と比較された。本アルゴリズムでは、これらのアルゴリズムと同様の結果が、高いレベルの相関で得られた(ピアソンの相関係数>0.85)
。全体として、この分析は、RNA-Seqデータからのプロモーター活性の定量的で堅牢で再現性のある推定が、本発明者らのアプローチにより可能であることを実証している。
【実施例0086】
転移性胃がんにおける代替のプロモーター利用
第1のコホートは、ニボルマブ及びペムブロリズマブで治療された24人の転移性胃がん患者からなった(29人の対象が最初に含まれ、24人の腫瘍サンプルがナノストリング分析のための十分な組織の品質管理に合格した)。カスタマイズされたナノストリングパネルを使用して、標準又は代替のプロモーターのいずれかに関連する転写物を測定した。差次的に発現される代替プロモーターは、全てのサンプルの中央値にわたって、発現レベルの<0.25x倍変化(喪失体細胞プロモーターについて)又は>4x倍変化(獲得体細胞プロモーターについて)を示すプロモーター部位として定義された。このアルゴリズムを使用して、腫瘍の3分の1(8/24)が10%を超える部位(>8/80)で高い代替のプロモーター利用率を示したことが見出された。このグループはAPと定義され、残りはAPと定義された(図2A)。
【0087】
細胞溶解性T細胞活性の測定は、CD8A(CD8+腫瘍浸潤リンパ球)、グランザイムA(GZMA)及びパーフォリン1(PRF1)の発現を研究することによって以前に記載されていた。APグループは、APグループと比較した場合、GZMA(P=0.025)、PRF1(P=0.011)、及びCD8A(P=0.059)の発現の有意な増加を実証し、A
グループにおける細胞毒性T細胞活性の増加を示唆している(図2B)。これらの発見は、早期胃がんにおいて記載された以前の結果と一致しており、転移性胃がんにおける代替のプロモーター利用もまた、抗腫瘍免疫に逆相関することを示している。特に、このコホートのサンプルサイズが小さく、治療レジメンが不均一で、試験に基づかない性質があるにもかかわらず、AP腫瘍の患者はAP腫瘍の患者と比較して無増悪生存期間(PFS)が悪い傾向があった。(129日対389日、HR 1.96 95% CI:0.55~6.93、P=0.29、図2C)。これらの知見に基づいて、均一に治療された患者の別のコホートで、この仮説をさらに試験した。
【実施例0088】
ペムブロリズマブ治療での応答及び生存の予測因子としての代替のプロモーター利用
第2のコホートについては、前述の第II相研究からのトランスクリプトミックデータが使用された。治療前の生検サンプルからのトランスクリプトミックデータ及びマッチした臨床データが、37人の対象で利用可能であり、分析用に使用された。年齢の中央値は57歳で、73%が男性(N=27)、4人(11%)がEBV陽性、4人がMSI(11%)で、残りはCIN又はGS TCGAサブタイプとして定義された。治療法に対する完全又は部分的応答が、11人の対象で見られた(30%)。胃がんで以前に同定された2732個の体細胞代替のプロモーター部位を使用して[10]、第1のコホートと同様に差次的に発現される代替プロモーターを定義した(既知の体細胞喪失プロモーターについては<0.25x倍の変化、既知の体細胞獲得プロモーターについては>4x倍の変化)。特に、代替のプロモーター利用の評価についてRNAseqとナノストリングプラット
フォームとの間の良好な一致が、以前に示されている。各サンプルで差次的に発現される部位の合計を計算して、代替のプロモーター使用スコアを定義した(図3A)。スコアは37から426(中央値136)の範囲であった(図3B)。カットオフポイントの案内のために、第1のコホートからのデータを使用し、APグループを>66センタイル(n=13)のサンプルとして定義し、APを残りのサンプルとして構成した。
【0089】
APグループは、APグループと比較して、年齢、性別、又は組織学的サブタイプについて、臨床病理学的特徴に統計的有意な差がなかった。TCGAサブタイプ、変異負荷、及びPDL1 CPSスコアの間でも2つのグループ間で差異は検出されなかった(表1)。APグループは、APグループと比較した場合、CD8A(P=0.0037)、GZMA(P=0.0055)、及びPRF1(P=0.016)の発現の有意な増加を実証し、AP
ループにおける細胞毒性T細胞活性の増加を示唆している(図3C)。治療法に対する部分的又は完全な応答のいずれかとして定義される客観的応答率(ORR)は、APグループと比較して、APグループでより高かった(10/24対1/13、P=0.03)(図3D)。注目すべきことに、APグループでは、唯一の応答はMSIサブタイプ腫瘍においてであった。無増悪生存期間(PFS)の中央値はAPグループで55日であったのに対し、APグループでは180日であった(ログランクP=0.0076)(図4A、5B)。APグループには17%EBV(n=4)及び12%MSI(n=3)TCGAサブタイプサンプルがあったが、APグループは8%MSI(n=1)のみがあって、EBVサン
プルはなかった(図4C)。以前に示したように、様々なTCGAサブタイプ間のPFSは異なっており(P=0.0026)、MSI及びEBVサブタイプは生存期間が有意に長かった(491日(MSI/EBV)対80日(CIN/GS))。特に、CIN/GSサブタイプの中で、PFSはAPグループとAPグループとの間でも統計的に有意に異なっていた(48日(CIN/GS AP)対161日(CIN/GS AP)、P=0.0019)(図4D)。予備的な全生存期間データに基づくと、APグループで生存率が改善する傾向が見られた(340日対292日、P=0.16)。臨床病理学的及び代替のプロモーター利用の多変量解析により、ペムブロリズマブでのPFSの独立予測因子としての高い代替のプロモーター利用が明らかになった(HR 0.29、(95%CI 0.099~0.85)、P=0.024)(表2)。
【0090】
【表1】


*3つのサンプルには、免疫組織化学によるPDL1 CPSスコアリングに使用できる組織がなく、全てがAPグループからのものであった。
【0091】
【表2】


【実施例0092】
ペムブロリズマブによる治療後の代替のプロモーター利用進展
対になった生検サンプルが、第2のコホートからの8人の対象について利用可能であり、ICI治療圧力の結果としての腫瘍進展を監視する機会を提供した。治療後の生検は、ペムブロリズマブの進行時点で原発性胃腫瘍から採取された。これらの8人の対象のうち、2人は部分応答(PR,partial response)、応答期間は211日及び491日(両方ともAP)、1人は安定疾患(SD,stable disease)、応答期間は167日(AP)、及び最良の応答として、5人は進行性疾患(PD,progressive disease)(AP
N=3;AP N=2)であった。興味深いことに、臨床応答に基づく代替プロモーター利用の方向性にとても一貫したシフトが観察された。特に、PR及びSDの腫瘍は、治療前の生検サンプルと比較して、治療後の生検サンプルでは、1.5倍以上の代替のプロモーター使用スコアの増加を示したが、PDの全ての5つの腫瘍は、治療後の生検サンプルにおいて代替のプロモーター使用スコアの低減を示した(フィッシャーの直接検定、P=0.018)。これらの結果は、代替プロモーターランドスケープとICI治療圧力との関係をさ
らに支持する。
【実施例0093】
複数の腫瘍タイプにわたる代替のプロモーター利用
胃がん以外の他の腫瘍タイプへのこれらの所見の適用可能性を調査するために、最近記載されたアルゴリズムを使用して、33の腫瘍タイプにわたる10,393サンプル(9668腫瘍及び725正常サンプル)のPanCanAtlas RNA-seqデータベースにおけるプロモーター活性を推測した(表3)。簡単に説明すると、Gencod
e(リリース19)アノテーションを使用して、113,076個の可能なプロモーターのセットがコンパイルされた。プロモーター活性は、TSSが同一又は非常に近いアイソフォームが同じプロモーターによって調節されていると仮定して、固有のジャンクションリードを使用して各プロモーターで開始された発現を定量化することによって推測された。
【0094】
【表3】


【0095】
113,076個のプロモーターのうち、4672個のプロモーターが、胃がんで以前に定義された2732個の腫瘍関連プロモーター領域にマッピングされた。この一連のプロモーターの変化は、胃がんに限定されることなく、宿主の免疫認識に対する一般化された汎腫瘍応答を表す可能性があると、仮説付けられた。この仮説を試験するために、4672個のプロモーターを使用して各腫瘍のAPBレベル(APBスコア)を計算した(図5)。図1に示すように、腫瘍タイプ内及び腫瘍タイプ間の両方で広い範囲のAPBスコアが観察された。全体のコホートについて、中央値APBスコアは178であった(範囲:46~241)。最も低い中央値APBスコアを有する腫瘍タイプには、甲状腺がん(THCA、thyroid cancer)(中央値165、範囲:54~207)、びまん性大細胞型
B細胞リンパ腫(DLBC,diffuse large B cell lymphoma)(中央値:166、範囲
:108~196)及び肺腺癌(LUAD,lung adenocarcinoma)(中央値:167、
範囲:141~215)が挙げられる。対照的に、神経膠芽腫(GBM,glioblastoma)(中央値:207、範囲:172~241)、低悪性度神経膠腫(LGG,low grade glioma)(中央値:204、範囲:130~230)及び精巣胚細胞腫瘍(TGCT,testicular germ cell tumours)(中央値:189、範囲:83から218)は中央値APBスコアが最も高かった。
【0096】
腫瘍APBスコアは、T細胞細胞溶解活性のマーカー:CD8A、GZMA及びPRF1と相関していた。他の汎がんTCGA研究と同様に、腫瘍タイプにとらわれず、TCGAサンプルのコホート全体で一次分析を行ったが、腫瘍タイプ特有の結果もまた提供された。以前は、中央値又は上部三分位で腫瘍を二分することにより、CD8A、GZMA、及びPRF1との有意な相関が得られることが観察された。しかしながら、これらの研究はより小さいサンプルサイズでなされたものであったため、これら3つの遺伝子との相関に関しては、腫瘍を二分するための理想的なカットオフを再確立するために選択された。したがって、APBスコアの閾値を様々なセンタイル(10、20、30…、90)で試験して、APBグループ及びAPBグループを二分した。コホート全体(全ての腫瘍タイプ)については、二分法の全ての9つのカットオフで、APB腫瘍は、APB腫瘍と比較して、CD8A、GZMA、及びPRF1のレベルが有意に低かった(p<0.0001)(図6A)。80センタイルは、3つの遺伝子と最も強い相関関係があり、33個の腫瘍タイプのうち19個が、CD8A、GZMA、及びPRF1と有意に相関していることが見出された。その後の分析のために、腫瘍はコホート全体の80センタイル(APBスコアカットオフ:190)でAPB及びAPBグループに二分された。重要なことに、胃がん(STAD,stomach cancer)における以前の発見は、代替のプロモーターを調べるための異なる手法を使用した場合でも、この分析で堅牢に再現された(図6B)。腫瘍タイプによる交絡の可能性に対処するために、腫瘍タイプ特異的分析もまた行われ、各腫瘍タイプは、その特異的腫瘍タイプの中央値APBスコアでAPB及びAPBグループに二分された。33個の腫瘍タイプのうち20個について、CD8A、GZMA、及びPRF1と有意な相関があった。8種類の腫瘍はどのカットオフでも有意な相関関係がなかった:腎嫌色素性細胞(KICH,kidney chromophobe)、DLBC、胸腺腫及び胸腺癌(THYM,thymomaand thymic carcinoma)、腎蔵の腎細胞がん(KIRC,kidney renal cellcancer)、急性骨髄性白血病(LAML,acute myeloid leukemia)、胆管がん(CHOL,cholangiocarcinoma)、子宮がん肉腫(UCS,uterinecarcinoma sarcoma)、フェオクロモサイトーマ(pheochromocytoma)及び傍神経節腫(PCPG,paraganglioma)。これらの8つのうち、CHOL、KICH、及びUCSは、サンプルサイズが比較的小さく(n<100)、DLBC、THYM、LAMLは、血液学的/免疫起源
のものである。
【0097】
特に、APBスコアを定義するために使用される胃がんで元々定義された一連の4672個のプロモーターと比較して、全ての113,076個の同定されたプロモーター又は順列試験から得られた他の同様のサイズのプロモーターサブセットを使用してAPBスコアが推測された場合、CD8A/GZMA/PRF1発現と同様の相関強度は観察されなかった(経験的 p<0.001)。この観察結果は、APBスコアは元々胃がんに由来するも
のの、APBスコアアルゴリズムは、宿主免疫に対する保存された汎がん応答を反映している可能性がある複数の腫瘍タイプにわたって適用され得るという仮説を支持する。腫瘍関連プロモーターアイソフォームの特定の機能を調査するために、少なくとも100個の腫瘍(9668個の腫瘍のコホートの約1%)で上方制御された570個のプロモーター(4672個の12%)を分析した。異なる腫瘍タイプがプロモーターアイソフォームの特定のクラスターを利用しており、遺伝子機能のネットワーク分析により、代替のプロモーターが多様な役割を有する遺伝子に影響を与えることが明らかになった。これは、腫瘍
におけるゲノム規模で、代替のプロモーターの選択は、内因性の遺伝子機能によってよりも、外因性の選択的圧力(例えば、宿主の抗腫瘍免疫)によって駆動される可能性があることを示唆し得る。腫瘍APBスコアもまた非悪性組織と比較された。PanCanAtlasにおいて分析された725個のマッチした正常組織サンプルのうち、5%(n=36 正常サンプル)のみがAPBとして分類された(80センタイルカットオフ)。正常及び腫瘍サンプルが代替のプロモーターの使用によってクラスター化された場合、正常サンプルは対応する腫瘍タイプの近くであるが、別個の場所にクラスター化された。少なくとも10個の正常なサンプルがある16個の腫瘍タイプのうち15個で、腫瘍サンプルは、正常サンプルと比較してAPBとして分類される可能性が高かった(フィッシャーの直接検定、p<0.001)。
【実施例0098】
腫瘍及び正常サンプルとの間の代替のプロモーター利用
代替のプロモーター利用と腫瘍免疫との間の相互作用をさらに調査するために、分析を拡張して、複数の免疫細胞型、免疫チェックポイント及び抗原を網羅する約700の幅広いスペクトルの免疫関連遺伝子と、APBスコアとの間の関係を研究した。これらの遺伝子の大部分(78%)は、APB腫瘍と比較して、APB腫瘍で有意により高い発現を示したが(図7)、これは、APB腫瘍が免疫枯渇表現型を有していることを示唆している。PanCanAtlasで利用可能な全ての約20,000の遺伝子の差次的発現分析により、APBサブグループの遺伝子の下方制御が免疫遺伝子のみに制限されていることが確認された(図8A)。TGCAサンプルを使用した汎がん免疫ランドスケープ研究では、腫瘍は、別個の免疫シグネチャー -創傷治癒、IFN-γドミナント、炎症性、リンパ球枯渇、免疫学的静穏及びTGF-βドミナントにより特徴付けられる6つの免疫サブタイプに分類された。APBスコアがこれらの免疫サブタイプと相関している場合、リンパ球枯渇、又は免疫学的静穏サブタイプは、APB腫瘍である可能性が高いことが見出された(フィッシャーの直接検定、p<0.0001)(図8B)。特に、リンパ球枯渇APB腫瘍は多様な腫瘍サブタイプを含み、免疫学的静穏APB腫瘍は主にLGGにより支配されていた。対照的に、IFN-γ及び炎症性サブタイプは、APB腫瘍である可能性が高く(フィッシャーの直接検定、p<0.0001)(図8B)、APB腫瘍もまた、リンパ球浸潤シグネチャースコア、及びIFN-γ応答シグネチャーがより高い可能性が高かった(p<0.0001、ウィルコクソン検定)(図9図10)。重要なことに、APBスコアはTMBレベルと無相関であり(r=0.02、p=0.02)、別個のプロセスが代替のプロモーターの利用及びDNA体細胞変異の獲得を駆動することを示唆している。
【実施例0099】
代替のプロモーター利用及び生存転帰
TCGA汎がん分析から得られた無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)データとの、APBスコアとの間の関連を調査した。生存転帰が内因性の組織又は部位特異的特性によって影響を受ける可能性がある汎がんレベルでの交絡を回避するために、個々の腫瘍タイプ特異的分析を実行した。腫瘍タイプ特異的レベルで分析した場合、腫瘍タイプの大部分は、APBスコアとPFS又はOSとの間にいかなる相関関係も示さなかった。ごくわずかな腫瘍タイプが、APBグループ間で生存率の違いを示した(KIRC、LGG、LUAD、THYM)。APBスコア及び疾患サブタイプの多変量解析は、APBスコアがICI療法を受けていない患者にとって、生存の独立した予後予測因子ではないこともまた示唆している。
【実施例0100】
代替のプロモーター利用及びペムブロリズマブ耐性
転移性胃がんで以前に示されたように、ICIに対してAPB腫瘍がより耐性であるか否かを試験するため、独立した研究で報告されたペムブロリズマブの客観的応答率(O
RR)とAPBスコアとの関連を定量化した。全ての腫瘍タイプにわたって、ORRとAPBスコアとの間に有意な負の相関(ピアソンのR=-0.46、p=0.025)が観察された。同様の相関関係は、CD8A(r=0.18、p=0.4)、GZMA(r=0.17、p=0.4)、又はPRF1(r=0.3、p=0.1)では観察されなかった。以前の研究と一致して、TMB(r=0.53、p=0.0078)及びPD-L1発現(r=0.42、r=0.042)との正の関連が観察された。したがって
、これらの結果は、APBスコアとTMBとが相関していないため、APBスコアとTMBとが腫瘍の別個のサブセットの同定において補完的であり、TMBが良いICI応答を持つタイプを選択し、APBスコアが応答のないものを同定することを示唆する。興味深いことに、CD8A、GZMA、及びPRF1と有意なAPBスコア相関を示す腫瘍タイプのみを分析に選択した場合(19個の腫瘍タイプ)、APBスコアとORRとの間の相関は、強度及び有意性が向上した:ピアソンのR=-0.55、p=0.019(図11)。まとめると、これらの結果は、胃がんで示された以前の発見を拡張し、APBスコアとペムブロリズマブ耐性との間の汎がん関係を確立する。
【0101】
均等物
前述の実施例は、本発明を説明する目的で提示されるものであり、本発明の範囲にいかなる制限を課すものとして解釈されるべきではない。本発明の基礎となる原理から逸脱することなく、上記に記載され、実施例に示されている本発明の特定の実施形態に対して多数の修正及び変更を行うことができることは、容易に明らかであろう。全てのこのような修正及び変更は、本出願に含まれることが意図されている。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5-1】
図5-2】
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11