(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170614
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/048 20060101AFI20241203BHJP
H01G 9/052 20060101ALI20241203BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20241203BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20241203BHJP
H01G 4/38 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01G9/048 A
H01G9/052 505
H01G9/15
H01G9/00 290E
H01G4/38 A
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024156794
(22)【出願日】2024-09-10
(62)【分割の表示】P 2023531785の分割
【原出願日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021107735
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】古川 剛史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】陰極部と陽極部が確実に絶縁された固体電解コンデンサとその製造方法を提供する.
【解決手段】固体電解コンデンサ1は、弁作用金属からなる陽極板11と、陽極板11の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層12と、多孔質層12の表面に設けられた誘電体層13と、多孔質層12の内部に充填され、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に設けられた絶縁層14と、誘電体層13の表面に設けられた固体電解質層15Aを含む陰極層15と、を備える。陰極層15は、2つ以上の陰極部16に区分されている。絶縁層14は、厚さ方向から見て少なくとも1つの陰極部16を囲む第1絶縁層14Aを含む。多孔質層12及び第1絶縁層14Aの両方を厚さ方向に貫通するように第1貫通部17Aが形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属からなる陽極板と、
前記陽極板の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層と、
前記多孔質層の表面に設けられた誘電体層と、
前記多孔質層の内部に充填され、かつ、充填部分の上の前記多孔質層の表面に設けられた絶縁層と、
前記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層を含む陰極層と、
を備え、
前記陰極層は、2つ以上の陰極部に区分されており、
前記絶縁層は、厚さ方向から見て少なくとも1つの前記陰極部を囲む第1絶縁層を含み、
前記多孔質層及び前記第1絶縁層の両方を前記厚さ方向に貫通するように第1貫通部が形成されている、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記第1絶縁層で囲まれた前記陰極部内に設けられた第2絶縁層をさらに含む、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記多孔質層及び前記第2絶縁層の両方を前記厚さ方向に貫通するように第2貫通部が形成されている、請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第2貫通部の内部には、前記厚さ方向に延びるスルーホール導体が形成されている、請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第2貫通部として、第1貫通孔と、前記第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔と、が形成されている、請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記第1貫通孔の内部には、前記厚さ方向に延びる第1スルーホール導体が形成されており、
前記第1スルーホール導体は、前記第1貫通孔の内壁で前記陽極板と電気的に接続されている、請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記第2貫通孔の内部には、前記厚さ方向に延びる第2スルーホール導体が形成されており、
前記第2スルーホール導体は、前記第2貫通孔の内壁で前記陽極板と電気的に絶縁されている、請求項5又は6に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように設けられた封止層をさらに備え、
前記第2スルーホール導体と前記陽極板との間に、前記封止層が充填されている、請求項7に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように設けられた封止層をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
前記陰極部のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部と第2陰極部との間で、前記陽極板が分断されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
前記第1陰極部と前記第2陰極部との間で、前記第1貫通部が前記陽極板を前記厚さ方向に貫通することによって前記陽極板が分断されている、請求項10に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項12】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように設けられた封止層をさらに備え、
前記第1陰極部の前記陽極板と前記第2陰極部の前記陽極板との間の前記第1貫通部に、前記封止層が充填されている、請求項11に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項13】
少なくとも一方の主面に多孔質層が設けられ、前記多孔質層の表面に誘電体層が設けられている、弁作用金属からなる陽極板に対して、前記多孔質層の内部を充填するように、かつ、充填部分の上の前記多孔質層の表面に絶縁層を形成する工程と、
前記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層を含む陰極層を形成する工程と、
を備え、
前記絶縁層を形成する工程は、前記陽極板を2つ以上の素子領域に区分するように、厚さ方向から見て少なくとも1つの前記素子領域を囲む第1絶縁層を形成する工程を含み、
前記陰極層は、2つ以上の陰極部に区分されるように、前記素子領域内にそれぞれ形成され、
さらに、前記多孔質層及び前記第1絶縁層の両方を前記厚さ方向に貫通するように第1貫通部を形成する工程を備える、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記絶縁層を形成する工程は、前記第1絶縁層で囲まれた前記素子領域内に第2絶縁層を形成する工程をさらに含む、請求項13に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
前記多孔質層及び前記第2絶縁層の両方を前記厚さ方向に貫通するように第2貫通部を形成する工程をさらに備える、請求項14に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記厚さ方向に延びるスルーホール導体を前記第2貫通部の内部に形成する工程をさらに備える、請求項15に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
前記第2貫通部を形成する工程は、第1貫通孔を形成する工程と、前記第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔を形成する工程と、を含む、請求項15に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記厚さ方向に延びる第1スルーホール導体を前記第1貫通孔の内部に形成する工程をさらに備え、
前記第1スルーホール導体は、前記第1貫通孔の内壁で前記陽極板と電気的に接続されている、請求項17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記厚さ方向に延びる第2スルーホール導体を前記第2貫通孔の内部に形成する工程をさらに備え、
前記第2スルーホール導体は、前記第2貫通孔の内壁で前記陽極板と電気的に絶縁されている、請求項17又は18に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように封止層を形成する工程をさらに備え、
前記第2スルーホール導体と前記陽極板との間に、前記封止層を充填する、請求項19に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項21】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように封止層を形成する工程とさらに備える、請求項13~19のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項22】
前記陰極部のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部と第2陰極部との間で、前記陽極板を分断させる、請求項13~21のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項23】
前記第1陰極部と前記第2陰極部との間で、前記第1貫通部が前記陽極板を前記厚さ方向に貫通することによって前記陽極板を分断させる、請求項22に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項24】
前記絶縁層及び前記陰極層を覆うように封止層を形成する工程さらに備え、
前記第1陰極部の前記陽極板と前記第2陰極部の前記陽極板との間の前記第1貫通部に、前記封止層を充填する、請求項23に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、多孔質層の表面に誘電体層が設けられている、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極板と、該誘電体層の表面に設けられた固体電解質層を含む陰極層と、を備えている。
【0003】
高性能の固体電解コンデンサを製造するためには、固体電解質層が設けられていない陽極板の部分(陽極部)と、固体電解質層が設けられている陰極層の部分(陰極部)とを電気的に確実に絶縁することが重要である。
【0004】
特許文献1には、誘電体皮膜を有し、弁作用を有する金属材料上の所望の位置に固体電解質を形成してなる固体電解コンデンサの製造方法において、上記誘電体皮膜中に浸透しかつ上記浸透部の上にマスキング層を形成するマスキング材溶液を塗布する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている固体電解コンデンサの製造方法によれば、マスキング材が誘電体皮膜中に浸透して、かつ浸透部の上に形成されるため、マスキング材が浸透した誘電体皮膜中に固体電解質が浸透できず、浸透部の上に形成されたマスキング材によりマスキングされた構造を有するため、陰極部と陽極部とが確実に絶縁できるとされている。
【0007】
特許文献1には、以下に示す(1)~(3)の方法では、マスキング材を均一な線状で基板の全周に塗布することが困難である旨が記載されている。
(1)マスキング材をひも状に細い状態で、例えば、ディスペンサ等で直接マスキング材を基板(アルミ化成箔)表面に垂らして塗布する方法、
(2)はけ、竹串等の細い棒でアルミ化成箔表面へ塗布する方法、
(3)アルミ化成箔にマスキング材をスクリーン印刷する方法。
【0008】
その上で、特許文献1には、以下に示す(1)~(5)の工程によって基板の所望の箇所の全周にマスキング材を均一な線状に塗布することに成功した旨が記載されている。
(1)直線運動を行う台上(金属製ガイド)に複数の化成箔(基板)の一端を短冊状に固定すること、
(2)上記金属製ガイドに固定された基板の裏面(下側)に、回転運動をする円盤状ロールの平滑な頂面(塗布面)が一定の力で接触するように配置すること、
(3)ロールの塗布面へのマスキング材の供給は、マスキング材を含む溶液を密閉容器に保管し、脈動の少ない定量連続吐出ディスペンサ等の定量塗布液供給機を用い、樹脂チューブ、ニードル等を介して密閉系で行うこと、
(4)塗布面の円周部へ均一にマスキング材を含む溶液が塗布されたロールを化成箔に押圧し、金属板ガイドの走行速度と回転ロールの回転速度を調整することにより化成箔基板の下面及び側面へのマスキング材の塗布を行うこと、
(5)マスキング材を含む溶液が塗布されたロールが化成箔基板に接触した後、新たな塗布液が塗布されるまでの間にロールの塗布面に残留するマスキング材を除去清掃する手段を設けること。
【0009】
上記のとおり、特許文献1には、予め化成箔をコンデンサ素子の形状に分断したものを金属製ガイドに固定した状態で、ロール転写によりマスキング材を塗布する方法が記載されている。しかしながら、陰極層が2つ以上の陰極部に区分されているアレイ状の固体電解コンデンサを製造する場合、複数のコンデンサ素子部を区分するために、ローラー転写によってマスキング材を塗布する方法を用いることは不適である。また、コンデンサ素子部の形状によってはマスキング材を非連続的に塗布する必要があるが、ローラー転写による方法では、マスキング材を非連続的に塗布することは困難である。
【0010】
本発明は、陰極層が2つ以上の陰極部に区分されている場合において、各々の陰極部が陽極部と確実に絶縁された固体電解コンデンサを提供することを目的とする。さらに、本発明は、陰極層が2つ以上の陰極部に区分されている場合において、各々の陰極部が陽極部と確実に絶縁された固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる陽極板と、上記陽極板の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層と、上記多孔質層の表面に設けられた誘電体層と、上記多孔質層の内部に充填され、かつ、充填部分の上の上記多孔質層の表面に設けられた絶縁層と、上記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層を含む陰極層と、を備える。上記陰極層は、2つ以上の陰極部に区分されている。上記絶縁層は、厚さ方向から見て少なくとも1つの上記陰極部を囲む第1絶縁層を含む。上記多孔質層及び上記第1絶縁層の両方を上記厚さ方向に貫通するように第1貫通部が形成されている。
【0012】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、少なくとも一方の主面に多孔質層が設けられ、上記多孔質層の表面に誘電体層が設けられている、弁作用金属からなる陽極板に対して、上記多孔質層の内部を充填するように、かつ、充填部分の上の上記多孔質層の表面に絶縁層を形成する工程と、上記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層を含む陰極層を形成する工程と、を備える。上記絶縁層を形成する工程は、上記陽極板を2つ以上の素子領域に区分するように、厚さ方向から見て少なくとも1つの上記素子領域を囲む第1絶縁層を形成する工程を含む。上記陰極層は、2つ以上の陰極部に区分されるように、上記素子領域内にそれぞれ形成される。本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、さらに、上記多孔質層及び上記第1絶縁層の両方を上記厚さ方向に貫通するように第1貫通部を形成する工程を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陰極層が2つ以上の陰極部に区分されている場合において、各々の陰極部が陽極部と確実に絶縁された固体電解コンデンサを提供することができる。さらに、本発明は、陰極層が2つ以上の陰極部に区分されている場合において、各々の陰極部が陽極部と確実に絶縁された固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の固体電解コンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す固体電解コンデンサのII-II線に沿った断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す固体電解コンデンサのIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す固体電解コンデンサを構成するコンデンサ層を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すコンデンサ層のV-V線に沿った断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示すコンデンサ層のVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の固体電解コンデンサの別の一例について、第1スルーホール導体及びその周辺を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す固体電解コンデンサについて、第2スルーホール導体及びその周辺を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、陽極板に絶縁層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図10は、陰極層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第1貫通部を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図12】
図12は、第2貫通部を形成する工程のうち、第2貫通孔を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図13】
図13は、封止層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第2貫通部を形成する工程のうち、第1貫通孔を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図15】
図15は、スルーホール導体を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0016】
[固体電解コンデンサ]
図1は、本発明の固体電解コンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す固体電解コンデンサのII-II線に沿った断面図である。
図3は、
図1に示す固体電解コンデンサのIII-III線に沿った断面図である。
【0017】
図1、
図2及び
図3に示す固体電解コンデンサ1は、コンデンサ層10を備える。固体電解コンデンサ1は、
図1、
図2及び
図3に示すように、封止層20をさらに備えてもよい。
【0018】
図4は、
図1に示す固体電解コンデンサを構成するコンデンサ層を模式的に示す斜視図である。
図5は、
図4に示すコンデンサ層のV-V線に沿った断面図である。
図6は、
図4に示すコンデンサ層のVI-VI線に沿った断面図である。
【0019】
図1、
図2及び
図3に示す固体電解コンデンサ1において、コンデンサ層10は、
図4、
図5及び
図6に示すように、陽極板11と、陽極板11の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層12と、多孔質層12の表面に設けられた誘電体層13と、多孔質層12の内部に充填され、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に設けられた絶縁層14と、誘電体層13の表面に設けられた陰極層15と、を備える。陰極層15は、例えば、誘電体層13の表面に設けられた固体電解質層15Aと、固体電解質層15Aの表面に設けられた導電体層15Bと、を含む。なお、固体電解コンデンサ1は、封止層20を備えず、コンデンサ層10のみを備えてもよい。
【0020】
陰極層15は、2つ以上の陰極部16に区分されている。
図1、
図2、
図4及び
図5には、陰極部16のうち、1組の隣り合う第1陰極部16A及び第2陰極部16Bが示されている。
【0021】
絶縁層14は、厚さ方向から見て少なくとも1つの陰極部16を囲む第1絶縁層14Aを含む。
図1及び
図4では、第1絶縁層14Aは、第1陰極部16A及び第2陰極部16Bを囲むように設けられている。
【0022】
固体電解コンデンサ1又はコンデンサ層10では、多孔質層12及び第1絶縁層14Aの両方を厚さ方向に貫通するように第1貫通部17Aが形成されている。
図2又は
図5に示すように、第1貫通部17Aは、陽極板11を厚さ方向に貫通してもよい。すなわち、第1貫通部17Aは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0023】
陰極部16のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、陽極板11が分断されていてもよい。具体的には、陰極部16のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、陽極板11が物理的に分断されていてもよく、陽極板11が電気的に分断されていてもよい。例えば、
図2又は
図5に示すように、第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、第1貫通部17Aが陽極板11を厚さ方向に貫通することによって陽極板11が分断されていてもよい。
【0024】
絶縁層14は、第1絶縁層14Aで囲まれた陰極部16内に設けられた第2絶縁層14Bをさらに含んでもよい。その場合、第2絶縁層14Bは、少なくとも1つの陰極部16内に設けられていればよい。
図1及び
図4では、第2絶縁層14Bは、第1陰極部16A内及び第2陰極部16B内に設けられている。
【0025】
絶縁層14が第2絶縁層14Bを含む場合、多孔質層12及び第2絶縁層14Bの両方を厚さ方向に貫通するように第2貫通部17Bが形成されていてもよい。
図3又は
図6に示すように、第2貫通部17Bは、陽極板11を厚さ方向に貫通してもよい。すなわち、第2貫通部17Bは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0026】
第2貫通部17Bの内部には、厚さ方向に延びるスルーホール導体18が形成されていることが好ましい。
図3に示すように、スルーホール導体18は、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように設けられていることが好ましい。
【0027】
図1、
図3、
図4及び
図6に示すように、第2貫通部17Bとして、第1貫通孔17Baと、第1貫通孔17Baよりも孔径が大きい第2貫通孔17Bbと、が形成されていてもよい。
【0028】
第1貫通孔17Baの内部には、厚さ方向に延びる第1スルーホール導体18Aが形成されていることが好ましい。
図3では、第1スルーホール導体18Aは、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように設けられている。
図3に示すように、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの内壁で陽極板11と電気的に接続されていることが好ましい。
図3では、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baを充填するように設けられているが、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの少なくとも内壁面に設けられていればよい。
【0029】
第2貫通孔17Bbの内部には、厚さ方向に延びる第2スルーホール導体18Bが形成されていることが好ましい。
図3では、第2スルーホール導体18Bは、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように設けられている。
図3に示すように、第2スルーホール導体18Bは、第2貫通孔17Bbの内壁で陽極板11と電気的に絶縁されていることが好ましい。
図3では、第2スルーホール導体18Bは、第2貫通孔17Bbよりも孔径が小さい第3貫通孔17Cを充填するように設けられているが、第2スルーホール導体18Bは、第3貫通孔17Cの少なくとも内壁面に設けられていればよい。第3貫通孔17Cの孔径は、第1貫通孔17Baの孔径と同じでもよく、第1貫通孔17Baの孔径よりも大きくてもよく、第1貫通孔17Baの孔径よりも小さくてもよい。
【0030】
陽極板11は、いわゆる弁作用を示す弁作用金属からなる。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の金属単体、又は、これらの金属を少なくとも一種含む合金等が挙げられる。これらの中では、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0031】
陽極板11の形状は、平板状であることが好ましく、箔状であることがより好ましい。陽極板11は、少なくとも一方の主面に多孔質層12を有していればよく、両方の主面に多孔質層12を有していてもよい。多孔質層12は、陽極板11の表面に形成されたエッチング層であることが好ましい。
【0032】
エッチング処理前の陽極板11の厚みは、60μm以上、200μm以下であることが好ましい。エッチング処理後にエッチングされていない芯部の厚みは、15μm以上、70μm以下であることが好ましい。多孔質層12の厚みは要求される耐電圧、静電容量に合わせて設計されるが、芯部の両側の多孔質層12を合わせて10μm以上、180μm以下であることが好ましい。
【0033】
多孔質層12の孔径は、10nm以上、600nm以下であることが好ましい。なお、多孔質層12の孔径とは、水銀ポロシメータにより測定されるメジアン径D50を意味する。多孔質層12の孔径は、例えばエッチングにおける各種条件を調整することにより制御することができる。
【0034】
誘電体層13は、多孔質層12の表面状態を反映して多孔質になっており、微細な凹凸状の表面形状を有している。誘電体層13は、上記弁作用金属の酸化皮膜からなることが好ましい。例えば、陽極板11としてアルミニウム箔が用いられる場合、アジピン酸アンモニウム等を含む水溶液中でアルミニウム箔の表面に対して陽極酸化処理(化成処理ともいう)を行うことにより、酸化皮膜からなる誘電体層を形成することができる。
【0035】
誘電体層13の厚みは要求される耐電圧、静電容量に合わせて設計されるが、10nm以上、100nm以下であることが好ましい。
【0036】
第1絶縁層14A、第2絶縁層14B等の絶縁層14は、樹脂からなることが好ましい。絶縁層を構成する樹脂としては、例えば、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、シアン酸エステル樹脂、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等)、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、及び、それらの誘導体又は前駆体等の絶縁性樹脂が挙げられる。第1絶縁層14A及び第2絶縁層14Bは、同じ樹脂で構成されてもよく、異なる樹脂で構成されてもよい。
【0037】
絶縁層14は、封止層20と同じ樹脂で構成されていてもよい。封止層20と異なり、絶縁層14に無機フィラーが含まれると固体電解コンデンサの有効部に悪影響を及ぼすおそれがあるため、絶縁層14は樹脂単独の系からなることが好ましい。
【0038】
絶縁層14は、例えば、絶縁性樹脂を含む組成物等のマスク材を、スポンジ転写、スクリーン印刷、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法によって多孔質層12上に塗布することにより形成することができる。
【0039】
多孔質層12の表面からの絶縁層14の厚みは、20μm以下であることが好ましい。多孔質層12の表面からの絶縁層14の厚みは、0μmでもよいが、2μm以上であることが好ましい。
【0040】
陰極層15は、誘電体層13の表面に設けられた固体電解質層15Aを含む。陰極層15は、さらに、固体電解質層15Aの表面に設けられた導電体層15Bを含むことが好ましい。
【0041】
固体電解質層15Aを構成する材料としては、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類等の導電性高分子等が挙げられる。これらの中では、ポリチオフェン類が好ましく、PEDOTと呼ばれるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、上記導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等のドーパントを含んでいてもよい。なお、固体電解質層15Aは、誘電体層13の細孔(凹部)を充填する内層と、誘電体層13を被覆する外層とを含むことが好ましい。
【0042】
多孔質層12の表面からの固体電解質層15Aの厚みは、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0043】
固体電解質層15Aは、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン等のモノマーを含む処理液を用いて、誘電体層13の表面にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等の重合膜を形成する方法や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等のポリマーの分散液を誘電体層13の表面に塗布して乾燥させる方法等によって形成される。
【0044】
固体電解質層15Aは、上記の処理液又は分散液を、スポンジ転写、スクリーン印刷、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法によって誘電体層13上に塗布することにより、所定の領域に形成することができる。
【0045】
導電体層15Bは、導電性樹脂層及び金属層のうち、少なくとも1層を含む。導電体層15Bは、導電性樹脂層のみでもよく、金属層のみでもよい。導電体層15Bは、固体電解質層15Aの全面を被覆することが好ましい。
【0046】
導電性樹脂層としては、例えば、銀フィラー、銅フィラー、ニッケルフィラー及びカーボンフィラーからなる群より選択される少なくとも1種の導電性フィラーを含む導電性接着剤層等が挙げられる。
【0047】
金属層としては、例えば、金属めっき膜、金属箔等が挙げられる。金属層は、ニッケル、銅、銀及びこれらの金属を主成分とする合金からなる群より選択される少なくとも一種の金属からなることが好ましい。なお、「主成分」とは、重量割合が最も大きい元素成分をいう。
【0048】
導電体層15Bは、例えば、固体電解質層15Aの表面に設けられたカーボン層と、カーボン層の表面に設けられた銅層とを含む。
【0049】
カーボン層は、固体電解質層15Aと銅層とを電気的に及び機械的に接続させるために設けられている。カーボン層は、カーボンペーストをスポンジ転写、スクリーン印刷、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法によって固体電解質層15A上に塗布することにより、所定の領域に形成することができる。なお、カーボン層は、乾燥前の粘性のある状態で、次工程の銅層を積層することが好ましい。カーボン層の厚みは、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0050】
銅層は、銅ペーストをスポンジ転写、スクリーン印刷、スプレー塗布、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法によってカーボン層上に印刷することにより形成することができる。銅層の厚みは、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0051】
第1陰極部16A、第2陰極部16B等の陰極部16の数は、2つ以上であれば特に限定されない。陰極部16は、直線状に配置されていてもよく、平面状に配置されていてもよい。また、陰極部16は、規則的に配置されていてもよく、不規則に配置されていてもよい。厚さ方向から見た陰極部16の大きさ及び平面形状等は、それぞれ同じでもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。厚さ方向から見た面積が異なる2種以上の陰極部16が含まれていてもよい。
【0052】
厚さ方向から見た平面形状が矩形ではない陰極部16が含まれていてもよい。本明細書において、「矩形」とは、正方形又は長方形を意味する。したがって、例えば、平面形状が、矩形以外の四角形、三角形、五角形、六角形等の多角形や、曲線部を含む形状、円形、楕円形等の陰極部16が含まれていてもよい。この場合、平面形状が異なる2種以上の陰極部16が含まれていてもよい。また、平面形状が矩形ではない陰極部16に加えて、平面形状が矩形である陰極部16が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0053】
2つ以上の陰極部16のうち、全ての陰極部16が第1絶縁層14Aで囲まれていてもよく、第1絶縁層14Aで囲まれていない陰極部16が存在してもよい。第1絶縁層14Aで囲まれている陰極部16においては、陰極部16の全体が第1絶縁層14Aで囲まれていてもよく、陰極部16の一部が第1絶縁層14Aで囲まれていてもよい。
【0054】
第1貫通部17Aは、スリット状に形成されていることが好ましい。第1貫通部17Aの幅は特に限定されないが、15μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。一方、第1貫通部17Aの幅は、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0055】
第1貫通部17Aの少なくとも一部は、固体電解コンデンサ1全体に掛からないように配置されていてもよい。その場合、第1貫通部17Aの延伸上に少なくとも1つの陰極部16が配置されていてもよい。
【0056】
第1貫通部17Aは、厚さ方向に幅が小さくなるテーパーを有してもよい。なお、第1貫通部17Aがコンデンサ層10を厚さ方向に貫通する場合、第1貫通部17Aのテーパーは、陽極板11に達していないことが好ましい。
【0057】
第2貫通部17Bは、第1貫通孔17Ba、第2貫通孔17Bb等の貫通孔であることが好ましい。厚さ方向から見た第2貫通部17Bの断面形状は特に限定されず、例えば、四角形等の多角形、円形、楕円形等が挙げられる。なお、孔径とは、断面形状が円形の場合には直径、円形以外の場合には断面の中心を通る最大長さをいう。第2貫通部17Bは、厚さ方向に孔径が小さくなるテーパーを有してもよい。
【0058】
第1スルーホール導体18A、第2スルーホール導体18B等のスルーホール導体18は、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通するように設けられている。スルーホール導体18は、貫通孔の少なくとも内壁面に形成されていればよい。貫通孔の内壁面は、銅、金又は銀等の低抵抗の金属によってメタライズされる。加工の容易さから、例えば、無電解銅めっき、電解銅めっきによりメタライズすることができる。なお、スルーホール導体18のメタライズについては、貫通孔の内壁面のみをメタライズする場合に限られず、金属あるいは金属と樹脂との複合材料等を貫通孔に充填してもよい。
【0059】
スルーホール導体18は、A.コンデンサの陽極用、B.コンデンサの陰極及びグランド用、C.I/Oライン用、に分類される。A.コンデンサの陽極用のスルーホール導体18はコンデンサ層10の陽極板11に電気的に接続されており、B.コンデンサの陰極及びグランド用のスルーホール導体18はコンデンサ層10の陰極層15に電気的に接続されており、C.I/Oライン用のスルーホール導体はコンデンサ層10の陽極板11及び陰極層15のいずれにも電気的に接続されていない。
【0060】
A.コンデンサの陽極用のスルーホール導体18は、コンデンサ層10を貫通する貫通孔とスルーホール導体18との間に絶縁材料が充填されてもよく、充填されなくてもよい。後者の場合、陽極板11とスルーホール導体18とが直接接続される構造となる。B.コンデンサの陰極及びグランド用のスルーホール導体18、及び、C.I/Oライン用のスルーホール導体18は、コンデンサ層10を貫通する貫通孔とスルーホール導体18との間に絶縁材料が充填される。
【0061】
例えば、第1スルーホール導体18Aは、A.コンデンサの陽極用のスルーホール導体18として使用でき、第2スルーホール導体18Bは、B.コンデンサの陰極及びグランド用のスルーホール導体18として使用できる。
【0062】
図1、
図2及び
図3に示すように、固体電解コンデンサ1が封止層20を備える場合、封止層20は、絶縁層14及び陰極層15を覆うように設けられる。封止層20は、コンデンサ層10を両方の主面側から覆うように設けられてもよく、コンデンサ層10をいずれか一方の主面側から覆うように設けられてもよい。
【0063】
固体電解コンデンサ1が封止層20を備える場合、第1貫通部17Aに封止層20が充填されていてもよい。
図2に示すように、第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、第1貫通部17Aが陽極板11を厚さ方向に貫通することによって陽極板11が分断されている場合、第1陰極部16Aの陽極板11と第2陰極部16Bの陽極板11との間の第1貫通部17Aに、封止層20が充填されていてもよい。封止層20により、第1陰極部16Aの陽極板11と第2陰極部16Bの陽極板11とが確実に分断される。
【0064】
図3に示すように、第2貫通孔17Bbの内部に第2スルーホール導体18Bが形成されている場合、第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に、封止層20が充填されていてもよい。封止層20により、第2スルーホール導体18Bは、第2貫通孔17Bbの内壁で陽極板11と確実に絶縁される。
【0065】
封止層20は、樹脂からなることが好ましい。封止層20を構成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。さらに、封止層20は、フィラーを含むことが好ましい。封止層20に含まれるフィラーとしては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、金属粒子等の無機フィラーが挙げられる。
【0066】
封止層20は、1層のみから構成されてもよいし、2層以上から構成されてもよい。封止層20が2層以上から構成される場合、各封止層を構成する材料は、それぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。
【0067】
コンデンサ層10と封止層20との間には、例えば、応力緩和層、防湿膜等の層が設けられていてもよい。
【0068】
例えば、固体電解コンデンサ1が応力緩和層を備える場合、第1貫通部17Aに応力緩和層が充填されていてもよい。
図2に示すように、第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、第1貫通部17Aが陽極板11を厚さ方向に貫通することによって陽極板11が分断されている場合、第1陰極部16Aの陽極板11と第2陰極部16Bの陽極板11との間の第1貫通部17Aに、応力緩和層が充填されていてもよい。
【0069】
応力緩和層は、絶縁性樹脂から構成されることが好ましい。応力緩和層を構成する絶縁性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。さらに、応力緩和層は、フィラーを含むことが好ましい。応力緩和層に含まれるフィラーとしては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、金属粒子等の無機フィラーが挙げられる。応力緩和層を構成する絶縁性樹脂は、封止層20を構成する樹脂と異なることが好ましい。
【0070】
封止層20には、外装体として外部電極との密着性などの特性が要求されるため、一概にコンデンサ層10と線膨張係数を合わせることや任意の弾性率の樹脂を選択することは難しい。これに対し、応力緩和層を設けることにより、コンデンサ層10及び封止層20のそれぞれの機能を失うことなく熱応力設計の調整を行うことができる。
【0071】
応力緩和層は、封止層20よりも透湿性が低いことが好ましい。この場合、応力の調整に加えて、コンデンサ層10への水分の浸入を低減することができる。応力緩和層の透湿性は、応力緩和層を構成する絶縁性樹脂の種類、応力緩和層に含まれるフィラーの量などによって調整することができる。
【0072】
図7は、本発明の固体電解コンデンサの別の一例について、第1スルーホール導体及びその周辺を模式的に示す断面図である。
【0073】
図7に示す固体電解コンデンサ1Aでは、第1スルーホール導体18Aは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通するように設けられている。具体的には、第1スルーホール導体18Aは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通する第1貫通孔17Baの少なくとも内壁面上に設けられている。
図7に示す例では、封止層20は、コンデンサ層10の表面に設けられた第1封止層20Aと、第1封止層20Aの表面に設けられた第2封止層20Bと、を含む。
【0074】
図7に示すように、第1スルーホール導体18Aは、陽極板11の端面に電気的に接続されていることが好ましい。
【0075】
図7に示すように、第1スルーホール導体18Aに電気的に接続される陽極板11の端面には、多孔質層12が露出していることが好ましい。この場合、第1スルーホール導体18Aと多孔質層12との接触面積が大きくなるため、密着性が高くなり、第1スルーホール導体18Aの剥がれ等の不具合が生じにくくなる。
【0076】
図7では、第1スルーホール導体18Aに電気的に接続される陽極板11の端面に露出している多孔質層12に絶縁材料が充填されることで、第1スルーホール導体18Aの周囲に第2絶縁層14Bが設けられている。第1スルーホール導体18Aの一定周囲の多孔質層12に絶縁材料を充填することで、陽極板11と陰極層15との間の絶縁性を確保できるため、短絡を防止することができる。さらに、後述する導電部30等を形成するための薬液処理時に生じる陽極板11の端面の溶解を抑制することで、コンデンサ層10への薬液の侵入を防止できるため、コンデンサの信頼性が向上する。
【0077】
第2絶縁層14Bは、多孔質層12の内部に充填され、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に設けられている。このように、第2絶縁層14Bの厚さは、多孔質層12の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0078】
第1スルーホール導体18Aは、例えば、以下のようにして形成される。まず、第1スルーホール導体18Aを形成しようとする部分に対して、ドリル加工、レーザー加工等を行うことにより、第1貫通孔17Baを形成する。そして、第1貫通孔17Baの内壁面を、銅、金又は銀等の低抵抗の金属でメタライズすることにより、第1スルーホール導体18Aを形成する。第1スルーホール導体18Aを形成する際、例えば、第1貫通孔17Baの内壁面を、無電解銅めっき処理、電解銅めっき処理等でメタライズすることにより、加工が容易になる。なお、第1スルーホール導体18Aを形成する方法については、第1貫通孔17Baの内壁面をメタライズする方法以外に、金属、金属と樹脂との複合材料等を第1貫通孔17Baに充填する方法であってもよい。
【0079】
図7に示すように、第1スルーホール導体18Aと陽極板11の端面との間に陽極接続層19が設けられており、陽極接続層19を介して、第1スルーホール導体18Aが陽極板11の端面と電気的に接続されていることが好ましい。第1スルーホール導体18Aと陽極板11の端面との間に陽極接続層19が設けられていることにより、陽極接続層19が陽極板11及び多孔質層12に対するバリア層として機能する。その結果、後述する導電部30等を形成するための薬液処理時に生じる陽極板11の溶解を抑制できるため、コンデンサ層10への薬液の侵入を防止でき、コンデンサの信頼性が向上する。
【0080】
第1スルーホール導体18Aと陽極板11の端面との間に陽極接続層19が設けられている場合、陽極接続層19は、例えば、
図7に示すように、陽極板11から順に、亜鉛を主たる材料とする第1陽極接続層19Aと、ニッケル又は銅を主たる材料とする第2陽極接続層19Bと、を含む。例えば、ジンケート処理により亜鉛を置換析出させて陽極板11の端面に第1陽極接続層19Aを形成した後、無電解ニッケルめっき処理又は無電解銅めっき処理により、第1陽極接続層19A上に第2陽極接続層19Bを形成する。なお、第1陽極接続層19Aは消失する場合もあり、この場合、陽極接続層19は、第2陽極接続層19Bのみを含んでもよい。
【0081】
中でも、陽極接続層19は、ニッケルを主たる材料とする層を含むことが好ましい。陽極接続層19にニッケルを用いることで、陽極板11を構成するアルミニウム等の金属へのダメージを低減できるため、バリア性を向上できる。
【0082】
第1スルーホール導体18Aと陽極板11の端面との間に陽極接続層19が設けられている場合、厚さ方向における陽極接続層19の寸法は、厚さ方向における陽極板11の寸法よりも大きいことが好ましい。この場合、陽極板11及び多孔質層12の端面の全体が陽極接続層19に被覆されるため、上述した陽極板11の溶解をさらに抑制できる。
【0083】
厚さ方向における陽極接続層19の寸法は、厚さ方向における陽極板11の寸法の100%より大きく、200%以下であることが好ましい。厚さ方向における陽極接続層19の寸法は、厚さ方向における陽極板11の寸法と同じであってもよく、厚さ方向における陽極板11の寸法よりも小さくてもよい。
【0084】
なお、第1スルーホール導体18Aと陽極板11の端面との間に陽極接続層19が設けられていなくてもよい。この場合、第1スルーホール導体18Aは、陽極板11の端面と直に接続される。
【0085】
図1に示すように、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの全周にわたって陽極板11の端面に電気的に接続されていることが好ましい。この場合、第1スルーホール導体18Aと陽極板11との接触面積が大きくなることにより、第1スルーホール導体18Aとの接続抵抗が低減するため、コンデンサの等価直列抵抗(ESR)を低くすることができる。さらに、第1スルーホール導体18Aと陽極板11との密着性が高くなるため、熱応力による接続面での剥がれ等の不具合が生じにくくなる。
【0086】
第1貫通孔17Baには、樹脂を含む材料が充填されていることが好ましい。すなわち、
図7に示すように、第1貫通孔17Ba内に第1樹脂充填部21Aが設けられていることが好ましい。第1貫通孔17Ba内に樹脂材料を充填して空隙を解消することで、第1貫通孔17Baの内壁面に形成された第1スルーホール導体18Aのデラミネーションの発生を抑えることができる。
【0087】
第1貫通孔17Baに充填される材料は、第1スルーホール導体18Aを構成する材料(例えば銅)よりも熱膨張率が大きいことが好ましい。この場合、第1貫通孔17Baに充填された材料が高温環境下で膨張することで、第1スルーホール導体18Aが第1貫通孔17Baの内側から外側へと押さえ付けられるため、第1スルーホール導体18Aのデラミネーションの発生をさらに抑えることができる。
【0088】
第1貫通孔17Baに充填される材料の熱膨張率は、第1スルーホール導体18Aを構成する材料の熱膨張率と同じであってもよく、第1スルーホール導体18Aを構成する材料の熱膨張率よりも小さくてもよい。
【0089】
第1貫通孔17Baには、樹脂を含む材料が充填されていなくてもよい。この場合、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの内壁面上だけではなく、第1貫通孔17Baの内部全体に設けられていることが好ましい。
【0090】
図7に示すように、固体電解コンデンサ1Aは、第1スルーホール導体18Aに電気的に接続された導電部30をさらに備えることが好ましい。
図7に示す例では、導電部30が、第1スルーホール導体18Aの表面に設けられている。導電部30は、固体電解コンデンサ1A(コンデンサ層10)の接続端子として機能できる。
【0091】
導電部30の構成材料としては、例えば、銀、金、銅等の低抵抗の金属が挙げられる。この場合、導電部30は、例えば、第1スルーホール導体18Aの表面にめっき処理を行うことにより形成される。
【0092】
導電部30と他の部材との間の密着性、ここでは、導電部30と第1スルーホール導体18Aとの間の密着性を向上させるために、導電部30の構成材料として、銀フィラー、銅フィラー、ニッケルフィラー、及び、カーボンフィラーからなる群より選択される少なくとも1種の導電性フィラーと樹脂との混合材料が用いられてもよい。
【0093】
図8は、
図7に示す固体電解コンデンサについて、第2スルーホール導体及びその周辺を模式的に示す断面図である。
【0094】
図8に示す固体電解コンデンサ1Aでは、第2スルーホール導体18Bは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通するように設けられている。具体的には、第2スルーホール導体18Bは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通する第3貫通孔17Cの少なくとも内壁面に形成されている。
図8に示す例では、封止層20は、コンデンサ層10の表面に設けられた第1封止層20Aと、第1封止層20Aの表面に設けられた第2封止層20Bと、を含む。
【0095】
図8に示すように、第2スルーホール導体18Bは、陰極層15に電気的に接続されていることが好ましい。ここで、
図8に示す例では、導電部40が第2スルーホール導体18Bの表面に設けられており、固体電解コンデンサ1A(コンデンサ層10)の接続端子として機能できる。また、
図8に示す例では、ビア導体42が、封止層20を厚さ方向に貫通して導電部40と陰極層15とに接続されるように設けられている。よって、
図8に示す例では、第2スルーホール導体18Bが、導電部40及びビア導体42を介して陰極層15に電気的に接続されている。この場合、固体電解コンデンサ1Aの小型化が可能となる。
【0096】
第2スルーホール導体18Bは、例えば、以下のようにして形成される。まず、第2スルーホール導体18Bを形成しようとする部分に対して、ドリル加工、レーザー加工等を行うことにより、第2貫通孔17Bbを形成する。次に、第2貫通孔17Bbに、第2封止層20Bの構成材料(例えば、樹脂材料)を充填することにより、絶縁層を形成する。形成された絶縁層に対して、ドリル加工、レーザー加工等を行うことにより、第3貫通孔17Cを形成する。この際、第3貫通孔17Cの孔径を第2貫通孔17Bbの孔径よりも小さくすることにより、第2貫通孔17Bbと第3貫通孔17Cとの間に、第2封止層20Bの構成材料が存在する状態にする。その後、第3貫通孔17Cの内壁面を、銅、金又は銀等の低抵抗の金属でメタライズすることにより、第2スルーホール導体18Bを形成する。第2スルーホール導体18Bを形成する際、例えば、第3貫通孔17Cの内壁面を、無電解銅めっき処理、電解銅めっき処理等でメタライズすることにより、加工が容易になる。なお、第2スルーホール導体18Bを形成する方法については、第3貫通孔17Cの内壁面をメタライズする方法以外に、金属、金属と樹脂との複合材料等を第3貫通孔17Cに充填する方法であってもよい。
【0097】
導電部40の構成材料としては、例えば、銀、金、銅等の低抵抗の金属が挙げられる。この場合、導電部40は、例えば、第2スルーホール導体18Bの表面にめっき処理を行うことにより形成される。
【0098】
導電部40と他の部材との間の密着性、ここでは、導電部40と第2スルーホール導体18Bとの間の密着性を向上させるために、導電部40の構成材料として、銀フィラー、銅フィラー、ニッケルフィラー、及び、カーボンフィラーからなる群より選択される少なくとも1種の導電性フィラーと樹脂との混合材料が用いられてもよい。
【0099】
ビア導体42の構成材料としては、例えば、導電部40の構成材料と同様のものが挙げられる。
【0100】
ビア導体42は、例えば、封止層20を厚さ方向に貫通するように設けられた貫通孔に対して、内壁面にめっき処理を行ったり、導電性ペーストを充填した後に熱処理を行ったりすることにより形成される。
【0101】
第3貫通孔17Cには、樹脂を含む材料が充填されていることが好ましい。すなわち、
図8に示すように、第3貫通孔17C内に第2樹脂充填部21Bが設けられていることが好ましい。第3貫通孔17C内に樹脂材料を充填して空隙を解消することで、第3貫通孔17Cの内壁面に形成された第2スルーホール導体18Bのデラミネーションの発生を抑えることができる。
【0102】
第3貫通孔17Cに充填される材料は、第2スルーホール導体18Bを構成する材料(例えば銅)よりも熱膨張率が大きいことが好ましい。この場合、第3貫通孔17Cに充填された材料が高温環境下で膨張することで、第2スルーホール導体18Bが第3貫通孔17Cの内側から外側へと押さえ付けられるため、第2スルーホール導体18Bのデラミネーションの発生をさらに抑えることができる。
【0103】
第3貫通孔17Cに充填される材料の熱膨張率は、第2スルーホール導体18Bを構成する材料の熱膨張率と同じであってもよく、第2スルーホール導体18Bを構成する材料の熱膨張率よりも小さくてもよい。
【0104】
第3貫通孔17Cには、樹脂を含む材料が充填されていなくてもよい。この場合、第2スルーホール導体18Bは、第3貫通孔17Cの内壁面上だけではなく、第3貫通孔17Cの内部全体に設けられていることが好ましい。
【0105】
封止層20が第1封止層20Aと第2封止層20Bとを含む場合、
図8に示すように、第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に、第2封止層20Bが延在することが好ましい。第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に第2封止層20Bが存在することで、第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間の絶縁性を確保することができる。
【0106】
第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に第2封止層20Bが延在する場合、
図8に示すように、第2封止層20Bに接する陽極板11の端面には、多孔質層12が露出していることが好ましい。この場合、第2封止層20Bと多孔質層12との接触面積が大きくなるため、密着性が高くなり、剥がれ等の不具合が生じにくくなる。
【0107】
図8では、第2封止層20Bに接する陽極板11の端面に露出している多孔質層12に絶縁材料が充填されることで、第2スルーホール導体18Bの周囲に第2絶縁層14Bが設けられている。第2スルーホール導体18Bの一定周囲の多孔質層12に絶縁材料を充填することで、第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間の絶縁性を確保できるため、短絡を防止することができる。
【0108】
第2絶縁層14Bは、多孔質層12の内部に充填され、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に設けられている。このように、第2絶縁層14Bの厚さは、多孔質層12の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0109】
第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に第2封止層20Bが延在する場合、第2封止層20Bを構成する絶縁材料が多孔質層12の空洞部分に入り込んでいることが好ましい。これにより、多孔質層12の機械的強度を向上させることができる。また、多孔質層12の空隙に起因するデラミネーションの発生を抑えることができる。
【0110】
第2封止層20Bを構成する絶縁材料は、第2スルーホール導体18Bを構成する材料(例えば銅)よりも熱膨張率が大きいことが好ましい。この場合、第2封止層20Bを構成する絶縁材料が高温環境下で膨張することで、多孔質層12及び第2スルーホール導体18Bが押さえ付けられるため、デラミネーションの発生をさらに抑えることができる。
【0111】
第2封止層20Bを構成する絶縁材料の熱膨張率は、第2スルーホール導体18Bを構成する材料の熱膨張率と同じであってもよく、第2スルーホール導体18Bを構成する材料の熱膨張率よりも小さくてもよい。
【0112】
[固体電解コンデンサの製造方法]
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、陽極板に絶縁層を形成する工程と、陰極層を形成する工程と、第1貫通部を形成する工程と、を備える。
【0113】
以下、
図1に示す固体電解コンデンサ1を製造する方法の一例について、図面を参照しながら工程ごとに説明する。
【0114】
図9は、陽極板に絶縁層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0115】
まず、弁作用金属からなる陽極板11を準備する。
図9には示されていないが、陽極板11の少なくとも一方の主面には多孔質層12(
図5等参照)が設けられ、多孔質層12の表面には誘電体層13(
図5等参照)が設けられている。
【0116】
例えば、少なくとも一方の主面に多孔質層12が設けられた陽極板11に対して陽極酸化処理を行うことにより、多孔質層12の表面に誘電体層13を形成する。
【0117】
あるいは、多孔質層12の表面に誘電体層13が設けられた陽極板11として、化成箔を準備してもよい。
【0118】
次に、多孔質層12の内部を充填するように、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に絶縁層14を形成する。
【0119】
絶縁層14を形成する工程は、陽極板11を2つ以上の素子領域16’に区分するように、厚さ方向から見て少なくとも1つの素子領域16’を囲む第1絶縁層14Aを形成する工程を含む。
図9には、素子領域16’のうち、1組の隣り合う第1素子領域16a及び第2素子領域16bが示されており、第1素子領域16a及び第2素子領域16bを囲むように第1絶縁層14Aが形成されている。
【0120】
絶縁層14を形成する工程は、第1絶縁層14Aで囲まれた素子領域16’内に第2絶縁層14Bを形成する工程をさらに含んでもよい。その場合、第2絶縁層14Bは、少なくとも1つの素子領域16’内に形成されればよい。
図9では、第1素子領域16a及び第2素子領域16bに第2絶縁層14Bが形成されている。
【0121】
第1絶縁層14A、第2絶縁層14B等の絶縁層14は、絶縁性樹脂を含む溶液又は分散液(以下、絶縁インクという)を、多孔質層12の表面に塗布、転写又は印刷することにより形成されることが好ましい。絶縁インクを多孔質層12に染み込ませることにより、多孔質層12の内部を充填するように、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に絶縁層14を形成することができる。
【0122】
絶縁層14を形成する工程では、絶縁インクの表面張力が20mN/m以上50mN/m以下、絶縁インクと多孔質層との静的接触角が50°以上90°以下、かつ、絶縁インクの粘度が1.5Pa・s以上25Pa・s以下であることが好ましい。
【0123】
多孔質層12が設けられている陽極板11への絶縁インクの浸透は、一般に以下のLucas-Washburnの式で説明される。
L=(r・γ・t・cosθ/2η)1/2
(式中、Lは浸透深さ、rは毛管半径、γは表面張力、ηは粘度、θは接触角、tは浸透時間を表す。)
【0124】
多孔質層12が設けられた陽極板11への絶縁インクの浸透深さLは、多孔質層12が設けられた陽極板11の有する細孔径に起因する毛管半径r、及び、塗布方法に起因する浸透時間tが一定であると仮定した場合、絶縁インクの表面張力γ、絶縁インクと多孔質層との接触角θ、及び、絶縁インクの粘度ηが支配的であると考えることができる。
【0125】
絶縁インクの表面張力を20mN/m以上50mN/m以下、絶縁インクと多孔質層との静的接触角を50°以上90°以下、かつ、絶縁インクの粘度を1.5Pa・s以上25Pa・s以下にすることにより、多孔質層12への絶縁インクの染込みを制御することができる。これにより、多孔質層12に対して不要な領域に絶縁インクが染み込みにくくなるため、多孔質層12に対して必要な領域に絶縁インクを染み込ませることができる。具体的には、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁インクを染み込ませることができる。つまり、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁層14を形成することができる。その結果、得られる固体電解コンデンサにおいては、絶縁インクで区画した投影面積から期待される静電容量に対するばらつきを小さくすることができる。
【0126】
絶縁インクの表面張力、及び、絶縁インクと多孔質層との静的接触角は、界面張力計(例えば、協和界面科学(株)製の全自動界面張力計PD-W等)を用いて測定される25℃における値を意味する。
【0127】
絶縁インクの粘度は、回転粘度計を用いて測定される25℃における値である。具体的には、E型粘度計を用いて、10rpmの速度で測定された値である。
【0128】
図10は、陰極層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0129】
誘電体層13の表面に陰極層15を形成する。陰極層15は、素子領域16’にそれぞれ形成される。これにより、陰極層15は、2つ以上の陰極部16(
図4等参照)に区分される。
【0130】
陰極層15として、素子領域16’内の誘電体層13の表面に固体電解質層15A(
図5等参照)が形成される。陰極層15として、さらに、固体電解質層15Aの表面に導電体層15B(
図5等参照)が形成されることが好ましい。
【0131】
以上により、
図4、
図5及び
図6に示すような、陽極板11と、陽極板11の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層12と、多孔質層12の表面に設けられた誘電体層13と、多孔質層12の内部に充填され、かつ、充填部分の上の多孔質層12の表面に設けられた絶縁層14と、誘電体層13の表面に設けられた陰極層15と、を備えるコンデンサ層10が作製される。
【0132】
図11は、第1貫通部を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0133】
多孔質層12及び第1絶縁層14Aの両方を厚さ方向に貫通するように第1貫通部17Aを形成する。第1貫通部17Aは、陽極板11を厚さ方向に貫通してもよい。すなわち、第1貫通部17Aは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0134】
第1貫通部17Aを形成する方法としては、例えば、レーザー加工、ダイシング加工等が挙げられる。
【0135】
陰極部16のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、陽極板11を分断させてもよい。具体的には、陰極部16のうち、少なくとも1組の隣り合う第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、陽極板11を物理的に分断させてもよく、陽極板11を電気的に分断させてもよい。例えば、第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、第1貫通部17Aが陽極板11を厚さ方向に貫通することによって陽極板11を分断させてもよい。
【0136】
絶縁層を形成する工程が第2絶縁層を形成する工程をさらに含む場合、本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、第2貫通部を形成する工程をさらに備えてもよい。
【0137】
図9に示すように、絶縁層14として第2絶縁層14Bを形成する場合、多孔質層12及び第2絶縁層14Bの両方を厚さ方向に貫通するように第2貫通部17B(
図4等参照)を形成してもよい。第2貫通部17Bは、陽極板11を厚さ方向に貫通してもよい。すなわち、第2貫通部17Bは、コンデンサ層10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0138】
第2貫通部17Bを形成する方法としては、例えば、レーザー加工、ドリル加工等が挙げられる。
【0139】
第2貫通部を形成する工程は、第1貫通孔を形成する工程と、第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔を形成する工程と、を含んでもよい。
【0140】
図12は、第2貫通部を形成する工程のうち、第2貫通孔を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0141】
図12では、第2貫通部17Bとして、第2貫通孔17Bbが形成されている。
【0142】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、絶縁層及び陰極層を覆うように封止層を形成する工程をさらに備えてもよい。
【0143】
図13は、封止層を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0144】
例えば、絶縁材料をプレス加工で設けることにより、コンデンサ層10を両方の主面側又はいずれか一方の主面側から覆うように封止層20を形成する。
【0145】
封止層20を形成する場合、
図13に示すように、第1貫通部17Aに封止層20が充填されてもよい。第1陰極部16Aと第2陰極部16Bとの間で、第1貫通部17Aが陽極板11を厚さ方向に貫通することによって陽極板11が分断されている場合、第1陰極部16Aの陽極板11と第2陰極部16Bの陽極板11との間の第1貫通部17Aに、封止層20が充填されてもよい。封止層20により、第1陰極部16Aの陽極板11と第2陰極部16Bの陽極板11とが確実に分断される。
【0146】
第2貫通孔17Bbが形成されている場合、
図13に示すように、第2貫通孔17Bbに封止層20が充填されてもよい。
【0147】
図14は、第2貫通部を形成する工程のうち、第1貫通孔を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0148】
図14では、第2貫通部17Bとして、第2貫通孔17Bbよりも孔径が小さい第1貫通孔17Baが形成されている。
図14では、さらに、第2貫通孔17Bbよりも孔径が小さい第3貫通孔17Cが形成されている。第3貫通孔17Cの孔径は、第1貫通孔17Baの孔径と同じでもよく、第1貫通孔17Baの孔径よりも大きくてもよく、第1貫通孔17Baの孔径よりも小さくてもよい。
【0149】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、厚さ方向に延びるスルーホール導体を第2貫通部の内部に形成する工程をさらに備えることが好ましい。
【0150】
図15は、スルーホール導体を形成する工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0151】
図15に示すように、厚さ方向に延びるスルーホール導体18が第2貫通部17Bの内部に形成されることが好ましい。その場合、スルーホール導体18は、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように形成されることが好ましい。
【0152】
第1貫通孔17Baの内部には、厚さ方向に延びる第1スルーホール導体18Aが形成される。第1スルーホール導体18Aは、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように形成されることが好ましい。第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの内壁で陽極板11と電気的に接続されていることが好ましい。
図15では、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baを充填するように形成されているが、第1スルーホール導体18Aは、第1貫通孔17Baの少なくとも内壁面に形成されていればよい。
【0153】
第2貫通孔17Bbの内部には、厚さ方向に延びる第2スルーホール導体18Bが形成される。第2スルーホール導体18Bは、コンデンサ層10及び封止層20を厚さ方向に貫通するように形成されることが好ましい。第2スルーホール導体18Bは、第2貫通孔17Bbの内壁で陽極板11と電気的に絶縁されていることが好ましい。
図15では、第2スルーホール導体18Bは、第3貫通孔17Cを充填するように形成されているが、第2スルーホール導体18Bは、第3貫通孔17Cの少なくとも内壁面に形成されていればよい。
【0154】
図15に示すように、第2貫通孔17Bbの内部に第2スルーホール導体18Bが形成される場合、第2スルーホール導体18Bと陽極板11との間に、封止層20が充填されてもよい。封止層20により、第2スルーホール導体18Bは、第2貫通孔17Bbの内壁で陽極板11と確実に絶縁される。
【0155】
以上の方法により、
図1に示す固体電解コンデンサ1を製造することができる。
【0156】
上述したように、本発明の固体電解コンデンサを製造する際、第1貫通部を形成する方法としては、レーザー加工、ダイシング加工等が挙げられる。中でも、レーザー加工を用いることにより、陰極部を自由な形状に形成することができる。そのため、1つの固体電解コンデンサの中に陰極部の面積が異なる2種以上のコンデンサ層を配置すること、固体電解コンデンサ全体に掛からないように第1貫通部を配置すること、陰極部の平面形状が矩形ではないコンデンサ層を配置すること、等が可能になる。
【0157】
[複合電子部品]
本発明の固体電解コンデンサは、複合電子部品の構成材料として好適に使用することができる。このような複合電子部品は、例えば、本発明の固体電解コンデンサと、上記固体電解コンデンサの外側(好ましくは、上記固体電解コンデンサの封止層の外側)に設けられ、上記固体電解コンデンサの陽極板及び陰極層のそれぞれに接続された外部電極と、上記外部電極に接続された電子部品とを備える。
【0158】
複合電子部品において、外部電極に接続される電子部品としては、受動素子でもよく、能動素子でもよい。受動素子及び能動素子の両方が外部電極に接続されてもよく、受動素子及び能動素子のいずれか一方が外部電極に接続されてもよい。また、受動素子及び能動素子の複合体が外部電極に接続されてもよい。
【0159】
受動素子としては、例えば、インダクタ等が挙げられる。能動素子としては、メモリ、GPU(Graphical Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、PMIC(Power Manegement IC)等が挙げられる。
【0160】
本発明の固体電解コンデンサは、全体としてシート状の形状を有している。したがって、複合電子部品においては、固体電解コンデンサを実装基板のように扱うことができ、固体電解コンデンサ上に電子部品を実装することができる。さらに、固体電解コンデンサに実装する電子部品の形状をシート状にすることにより、各電子部品を厚さ方向に貫通するスルーホール導体を介して、固体電解コンデンサと電子部品とを厚さ方向に接続することも可能である。その結果、能動素子及び受動素子を一括のモジュールのように構成することができる。
【0161】
例えば、半導体アクティブ素子を含むボルテージレギュレータと、変換された直流電圧が供給される負荷との間に本発明の固体電解コンデンサを電気的に接続し、スイッチングレギュレータを形成することができる。
【0162】
複合電子部品においては、本発明の固体電解コンデンサがさらに複数個レイアウトされたコンデンサマトリクスシートのいずれかの一方の面に回路層を形成した上で、受動素子又は能動素子に接続されていてもよい。
【0163】
また、予め基板に設けたキャビティ部に本発明の固体電解コンデンサを配置し、樹脂で埋め込んだ後、その樹脂上に回路層を形成してもよい。同基板の別のキャビティ部には、別の電子部品(受動素子又は能動素子)が搭載されていてもよい。
【0164】
あるいは、本発明の固体電解コンデンサをウエハ又はガラス等の平滑なキャリアの上に実装し、樹脂による外層部を形成した後、回路層を形成した上で、受動素子又は能動素子に接続されていてもよい。
【実施例0165】
以下、本発明の固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0166】
[コンデンサ素子の作製]
陽極板として、アルミニウムエッチング化成箔を用意した。
【0167】
表1に示す物性を有する絶縁インクを用いて、陽極板を矩形状の素子領域に区画するように絶縁層を陽極板に形成した。絶縁インクの粘度に応じて、低粘度の絶縁インクは転写又は塗布により、高粘度の絶縁インクは印刷により、素子領域を囲むパターンを形成した後、絶縁インクを硬化及び乾燥させて絶縁層を形成した。
【0168】
素子領域内に固体電解質層を形成した。固体電解質を含有する処理液として、導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の分散液を使用した。固体電解質層を形成した後、カーボン層及び銅層を形成した。
【0169】
以上の工程を経て、コンデンサ素子を作製した。各条件で10水準のコンデンサ素子を作製した。
【0170】
[コンデンサ素子の評価]
(塗布後外観状態)
絶縁層を形成した後、浸漬法又は印刷法等によって陰極層を形成する際、絶縁層には一定の高さが必要となる。そのため、多孔質層の表面に絶縁層が残っているかを確認した。コンデンサ素子の断面観察により、多孔質層の表面に絶縁層が残っていない場合を×(不良)、多孔質層の表面からの絶縁層の高さが0μmより大きく、5μm未満の場合を△(可)、多孔質層の表面からの絶縁層の高さが5μm以上の場合を○(良)と判定した。結果を表1に示す。
【0171】
(多孔質層染込み)
多孔質層に対して必要な領域に絶縁インクが染み込んでいるかを確認するため、コンデンサ素子の断面観察により、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁層が形成されているかを確認した。具体的には、C元素のマッピング像から絶縁層を確認するとともに、S元素のマッピング像から固体電解質層を確認した。絶縁層が垂直に形成されていない場合を×(不良)、絶縁層が垂直に形成されている場合を○(良)と判定した。結果を表1に示す。
【0172】
(静電容量設計差異)
絶縁インクの染込みが制御できているかの指標として、絶縁インクで区画した投影面積から期待される静電容量に対してどの程度ばらついているかを確認した。静電容量のばらつきが大きい場合、絶縁層の形成にばらつきが大きいと判断できる。結果を表1に示す。
【0173】
【0174】
絶縁インクと多孔質層との静的接触角が50°未満である試料1~3では、多孔質層の表面に絶縁層が残っていなかった。
【0175】
絶縁インクの粘度が25Pa・sより大きい試料10では、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁層が形成されていなかった。
【0176】
絶縁インクの表面張力が50mN/mより大きく、絶縁インクと多孔質層との静的接触角が90°より大きい試料14では、多孔質層の表面に絶縁層が残っておらず、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁層が形成されていなかった。
【0177】
一方、絶縁インクの表面張力が20mN/m以上50mN/m以下、絶縁インクと多孔質層との静的接触角が50°以上90°以下、かつ、絶縁インクの粘度が1.5Pa・s以上25Pa・s以下である試料4~9及び11~13では、多孔質層の表面に絶縁層が残っており、絶縁インクを塗布した部分に対して厚さ方向に垂直に絶縁層が形成されていた。