(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170637
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241203BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241203BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18
C08L29/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024159517
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2022178350の分割
【原出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】111134744
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、シャン-ニー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-イン
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関するものである。前記ポリビニルアルコールフィルムは、ケン化度が95%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃、角周波数10rad/sでスイープ発振した際の、前記ポリビニルアルコールフィルムから測定された複素粘度(η*)は400~1500Pa.sである。本発明のポリビニルアルコールフィルムは、フィルム表面欠陥が改善されることで、優れたフィルム表面特性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が95%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃、角周波数10rad/sでスイープ発振した際の、測定された複素粘度(η*)が400~1500Pa・sであるポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールフィルムは、30℃の水中に20分間浸漬された場合、重量膨潤度は37%を超え、前記ポリビニルアルコールフィルムは55℃の水中に3分間浸漬された場合、重量膨潤度が60%超である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度が、99.95%以上である、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記複素粘度(η*)が、410~1100Pa・sである、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度が、1300~5200である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度が、2000~3000である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さが30~75μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項9】
偏光膜である、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記光学フィルムの少なくとも1つの面に貼り合わせられた保護層をさらに含む、請求項9に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)製品に関し、特に、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルムは、ポリビニルアルコール高分子と可塑剤を含む水溶液から塗布、乾燥されて得られた親水性材料で、高透明度、機械的強度、水溶性、良好な加工性等の特性を備えているため、包装材料又は電子機器の各種光学フィルム、例えば偏光膜に広く使用されている。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムを偏光工程で加工して得られた偏光膜は、特定の方向からの光だけを通さない性質を持つため、通過する光の明さを制御することができる。この性質に基づいて、偏光膜は各種ティスプレイ、メガネ及びウェアラブル端末に応用されている。偏光工程とは、一般に、膨潤、延伸、染色などの工程を含み、具体的に言えば、ポリビニルアルコールフィルムを溶液中に入れて前述の工程を実施することにより、染料分子をポリビニルアルコールフィルム中の分子中に拡散させて規則性のある配列をとり、偏光膜は配列方向に平行な光成分を吸収し、垂直方向の光成分を通過して偏光の性質を生じることができるようにする。
【0004】
良好な光学特性及び効果を提供するため、理想的な偏光膜は、均一な色、少ないフィルム表面欠陥、良好な色相効果などの特性を備えている必要がある。フィルム表面欠陥の関連特性について、特許文献1などの先行技術に開示されているのは、ポリビニルアルコールフィルムの表面粗さを調整して、その後製造された光学フィルムのフィルム表面欠陥状況を改善するものである。特許文献2などの先行技術に開示されているのは得られたポリビニルアルコールフィルムの表面凹み欠陥を減らすため、調製過程中に金属支持体の表面の亀裂の数を調整し、当前記フィルムを偏光膜製造用フィルムロールとして使用した場合、収率が良く、製造上の欠陥が少なく、要求される品質レベルを満たす偏光膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾特許出願公開第TWI557164号
【特許文献2】台湾特許出願公開第TWI639636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリビニルアルコールフィルムの表面粗さ又は調製過程中金属支持体表面の亀裂の数を調整することによりフィルム表面欠陥を改善するという上記先行技術の技術的内容とは異なり、本発明者は、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度を特定の値の範囲内に調整することにより、成形品のフィルム表面欠陥を改善し、さらにその後製造された光学フィルムに良好な光学性能を持たせることができることを見出した。なお、本発明者は、特定の温度におけるポリビニルアルコールフィルムの重量膨潤度が下限値よりも大きくなるように制御した場合、ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムは、優れた色相均一性を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、本発明の一態様は、ケン化度が95%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃、角周波数10rad/sでスイープ発振した際の、測定された複素粘度(η*)が400~1500Pa・sであるポリビニルアルコールフィルムを提供する。
【0008】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムは、30℃の水中に20分間浸漬された場合、重量膨潤度は37%を超え、前記ポリビニルアルコールフィルムは55℃の水中に3分間浸漬された場合、重量膨潤度は60%超である。
【0009】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.95%以上である。
【0010】
1つ又は複数の実施形態において、前記複素粘度(η*)は、410~1100Pa・sである。
【0011】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200である。
【0012】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、2000~3000である。
【0013】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである。
【0014】
別の態様は、上記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供する。
【0015】
1つ又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、偏光膜である。
【0016】
1つ又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、前記光学フィルムの少なくとも1つの面に貼り合わせられた保護層をさらに含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の技術的内容に基づいて得られたポリビニルアルコールフィルムは、フィルム表面欠陥が著しく改善されており、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、様々な用途に適し、特に、偏光膜などの光学フィルムに適し、かつさらに前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムは良好な色相均一性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の説明をより詳細かつ完全にするため、以下は、本発明の実施形態及び具体的実施例の例示的な説明を提供するが、これは、本発明の具体的実施例を実施又は運用する唯一の形態ではない。本明細書及び添付される特許請求の範囲において、文脈が別段の指示をしない限り、「一」及び「該」も複数形として解釈され得る。また、本明細書及び添付される特許請求の範囲は別段に明記されていない限り、「何かの上に設けられた」は、貼付又は他の形で何かの表面と直接或いは間接的に接触していると見なすことができる。当該表面の特定は、明細書内容の前後の段落の文脈及び本発明の属する技術分野における通常の知識に基づいて判断しなければならない。
【0019】
本発明を特定する数値範囲及びパラメータは、概数値であるが、ここで具体的実施例内の関連数値をできる限り正確に提示されている。ただし、任意の数値は、本質的に個々のテスト方法による標準偏差が必然的に含まれている。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、実際値が平均の許容可能な標準誤差内にあり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の考えによって定めることを示す。
【0020】
[ポリビニルアルコールフィルム]
本発明の一態様は、ケン化度が95%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃、角周波数10rad/sでスイープ発振した際の、測定された複素粘度(η*)が400~1500Pa・sであるポリビニルアルコールフィルムを提供する。
【0021】
本明細書で使用される「粘度」という用語は、材料の構成成分の分子間粘度のレオロジー(Rheology)に基づく尺度である。本明細書で述べる「複素粘度(η*)」は、角周波数(ω)に対する複素弾性率(G*)の比率であり、特定の発振周波数での変形に抵抗する材料の能力を定量化するために用いられる。レオメータを使用してマイクロオシレーション法で材料の複素弾性率(G*)を特定の角周波数(ω)で測定し、複素粘度を求めることができる。得られた複素粘度が高いほど、材料が変形に抵抗する能力が高くなることを示す。上記「複素弾性率(G*)」の値は、損失剪断弾性率(loss modulus、G’’)と貯蔵剪断弾性率(G’)の平方和の平方根、すなわち√(G’2+G’’2)である。
【0022】
本明細書で述べる「フィルム表面欠陥」とは、ポリビニルアルコールフィルムのフィルム表面の損傷(例:キズ、スジ)、及び外観上のシワを含む。おそらくポリビニルアルコールフィルムの複素粘度は、フィルム表面欠陥に関連することで、ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムの光学性能に影響を与える。換言すれば、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度パラメータが適切な範囲内にある場合、フィルム表面欠陥を改善することができる。具体的に言えば、前記複素粘度パラメータタには下限値と上限値がある。特定の理論に拘束されるものではないが、複素粘度パラメータが前記上限値を上回る場合、ポリビニルアルコールフィルムは製造工程中に製造装置との不可逆的な接触摩擦を起こしやすく、その後より重大フィルム表面のキズとスジなどの損傷が生じる。複素粘度パラメータが下限値を下回る場合、ポリビニルアルコールフィルムが静置後表面にシワ及び凹凸が生じることで、その後成形品の歩留りに影響を与える場合がある。
【0023】
したがって、ポリエチレンフィルムのフィルム表面欠陥を改善するため、複素粘度を特定の範囲内に制御する必要がある。具体的に言えば、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、25℃、角周波数10rad/sでスイープ発振した際の、測定された複素粘度(η*)が、400~1500Pa・sであり、例えば、400~500、500~600、600~700、700~800、800~900、900~1000、1000~1100、1100~1200、1200~1300、1300~1400、1400~1500Pa・sであり、特に、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450又は1500Pa・sであり、好ましくは410~1100Pa・sであり、特に、410、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100Pa・sである。さらに特定の理論に拘束されるものではないが、複素粘度パラメータは、ポリエチレンフィルム調製工程中のキャスト段階、加熱ローラ段階及びオーブン段階のポリビニルアルコールフィルム含水率に関連する。なお、複素粘度パラメータは、ポリエチレンフィルムの添加剤の添加量にも関連している。
【0024】
本明細書で述べる「ケン化度」とは、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、より良い光学特性を得るため、95%を超え、例えば95%超、96%超、97%超、98%超又は99%超である。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、95%を超える場合、該樹脂の強度が増加し、その後の偏光膜工程での染色、固定処理の時、該樹脂が溶けにくく、偏光性能の高い偏光膜が容易に得られる。さらに前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.00%以上であり、例えば99.00%以上、99.15%以上、99.25%以上、99.35%以上、99.45%以上、99.55%以上、99.65%以上、99.75%以上、99.85%以上、99.95%以上であり、本発明において、例えば99.85%を超える。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、30℃の水中に20分間浸漬された場合、重量膨潤度は37%を超え、前記ポリビニルアルコールフィルムは55℃の水中に3分分間浸漬された場合、重量膨潤度は60%を超えている。
【0026】
本明細書で述べる「重量膨潤度(%)」は、特定のサイズに切断されたポリビニルアルコールフィルムが、特定の温度(例えば30℃及び55℃であるがこれらに限定されない)にて平らな状態で水中に一定時間(例えば20分であるが、これに限定されない)浸漬した後、無塵紙でフィルム表面の水分を拭き取った後、重量を測定してフィルム重量(W1)を得、さらに該フィルムを乾燥(例えば120℃であるがこれに限定されない)させ、重量を測定してフィルム重量(W2)を得、両者間の重量変化パーセント((W1-W2)/W1×100)をいう。おそらく前記重量膨潤度の数値範囲は、ポリビニルアルコールフィルムから作製された光学フィルムの色相均一性に関連する。従来の偏光膜の製造工程では、ポリビニルアルコールフィルムをそれぞれ30℃の水中で膨潤及び染色し、55℃の酸性溶液(ホウ酸溶液など)中で延伸する。したがって、特定の理論に拘束されるものではないが、30℃及び55℃の水中に浸漬した後測定された重量膨潤度は、それぞれポリビニルアルコールフィルムの高分子鎖の絡み合い度及び結晶解離の度合いを示すことができる。本願発明者は、ポリビニルアルコールフィルムを30℃及び55℃の水中に浸漬した後で測定された重量膨潤度をそれぞれ特定の下限値よりも高く制御した場合、その後に製造される光学フィルムに良好な色相均一性を持たせることができることを見出した。測定された重量膨潤度が特定の下限値を超えない場合、高分子鎖が絡み合っているか、結晶領域が残りすぎており、染料分子が高分子鎖に均一に付着することが困難になって色むらが生じると推測される。具体的に言えば,本発明のポリビニルアルコールフィルムを30℃の水中に20分間浸漬した後、重量膨潤度は37%を超え、例えば、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48又は49%である。かつ前記ポリビニルアルコールフィルムを55℃の水中に3分間浸漬した後、重量膨潤度は60%を超え、例えば、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74又は75%である。そこで、本発明は、重量膨潤度パラメータの上限値をさらに特定するものではないが、上記重量膨潤度が特定の下限値を上回ることで奏する効果に基づき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は内容及び範囲を明確に理解することができる。さらに、特定の理論に拘束されるものではないが、重量膨潤度パラメータは、調製工程中のキャスト段階、加熱ローラ段階及びオーブン段階のポリビニルアルコールフィルム含水率に関連し、ポリエチレンフィルムの添加剤の添加量にも関連している。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200である。本明細書で述べる「重合度」とは、JIS K 6726(1994)に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200の範囲であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように、例えば1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100又は5200であり、好ましくは2000~3000の範囲であり、例えば2100、2300、2500、2700又は2900であるがこれらに限定されない。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである。具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば30、35、40、45、50、55、60、65、70、75又は80μmの範囲であり、上記の値は単なる例であり、限定するものではない。また、得られたポリビニルアルコールフィルムが薄型偏光膜を製造するために用いられる場合、ポリビニルアルコールフィルムの厚さは50μm以下であってよく、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
【0029】
[ポリビニルアルコールフィルムの製造方法]
本発明のポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解し、前記ポリビニルアルコール系樹脂の濃度を調整して、ポリビニルアルコールキャスト溶液を形成する溶解工程、(b)前記ポリビニルアルコールキャスト溶液をキャストドラムにキャストし、前記キャストドラムから剥離した後、予備成形フィルムを得るキャスト工程、(c)前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムを複数の加熱ローラと接触させた後でポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る加熱ローラ工程、及び(d)前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品をオーブン内に入れて乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得るオーブン工程を含み、また状況に応じて(e)前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を温湿度調節器に入れて、温度と湿度を調整する温湿度調整工程をさらに含む。
【0030】
[溶解工程]
いくつかの実施形態によれば、溶解工程は、主にポリビニルアルコール系樹脂、溶媒、可塑剤/増塑剤及び添加剤を攪拌しながら温度を少なくとも130℃に上げ、均一に溶解した後、追加の溶媒(例:水)を加えて不揮発性成分(例えば樹脂、可塑剤グリセロール以及び添加剤である)の濃度を20~50重量%に調整して、ポリビニルアルコールキャスト溶液を得る。
【0031】
1つ又は複数の実施形態において、上記溶解工程で使用されるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂モノマーによって重合され、重合度1300~5200のポリビニルアルコール系樹脂を形成してからケン化反応を行い、95%を超えるケン化度を有するポリビニルアルコール樹脂を得る。前記ビニルエステル系樹脂モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニルもしくはオクト酸ビニル等のビニルエステル類、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、本発明において、これらに限定されない。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と前記ビニルエステル系樹脂モノマーとの共重合によって形成されるコポリマーも使用でき、ここで、前記オレフィン類化合物としては、エチレン、プロピレン又はブテンなどが挙げられるが、本発明において、これらに限定されない。前記オレフィン類化合物の添加量は、2~4mol%、例えば2、2.5、3、3.5又は4mol%等であって良いが、これらに限定されない。前記アクリレート誘導体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどが挙げられるが、本発明において、これらに限定されない。
【0032】
1つ又は複数の実施形態において、上記溶解工程で使用される溶媒は、ポリビニルアルコール樹脂を溶解できる限り、本発明において、特に限定されない。溶媒として、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されず、上記の溶媒は、1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。環境及び経済的側面を考慮した場合、本発明において溶媒として水を使用することが好ましい。
【0033】
1つ又は複数の実施形態において、前記「可塑剤」は、具体的にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、もしくはトリメチロールプロパン等、又はこれらの組み合わせであるがこれらに限定されない。本発明において、好ましくはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンである。また1つ又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は5~15wt%であり、具体的に例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15wt%であるがこれらに限定されない。
【0034】
1つ又は複数の実施形態において、本明細書で述べる「添加剤」とは、界面活性剤を指す。「界面活性剤」は、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤に限定されず、具体的にはラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル等のアルコールフェニルエーテル型、モノラウリン酸ポリエチレングリコール等のアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウラミド等のアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型、ポリオキシアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型、又はラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウム等であるが、これらに限定されない。特定の理論に拘束されるものではないが、添加剤はポリマー間の水素結合成形量を減少させることで、高分子鎖の絡み合い度及び結晶化度を低下させることができると考えられている。したがって、該添加剤の添加量は、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び、特定の温度にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与える。換言すれば、製造工程中の添加剤の添加量を特定の範囲内に調整することにより、さらにポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び特定温度にて水中に浸漬した後の重量膨潤度を制御できる。ここで、前記添加剤の添加量は、濃度(ppm)で表され、具体的な計算方法は添加剤の重量を全ての不揮発性成分(例:樹脂、可塑剤グリセロール及び添加剤)の重量で割った後、ppm濃度に変換する。1つ又は複数の実施形態において、前記添加剤の添加量は、3000ppm以下、好ましくは200~3000ppmであり、具体的に例えば200、400、600、800、1000、1200、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900又は3000ppmであるがこれらに限定されない。
【0035】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を溶解するための温度は、少なくとも130℃であることが好ましく、具体的には例えば少なくとも130℃、少なくとも140℃又は少なくとも150℃などである。
【0036】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度は、20~50%であることが好ましく、具体的には例えば20、25、30、35、40、45又は50%である。樹脂濃度が低すぎた場合、フィルムの乾燥負荷が高くなり、逆に樹脂濃度が高すぎた場合粘度が高くなり製膜が困難になる。
【0037】
[キャスト工程]
いくつかの実施形態によれば、キャスト工程は、主に前記ポリビニルアルコールキャスト溶液を脱泡(静置脱泡法又はベントホールを有する多軸押出機を使用して脱泡でき、例えばダブルスクリュー押出機で脱泡することができるが、これに限定されない)した後、溶液温度を少なくとも90℃に制御してからTダイリップから吐出し、キャストドラム(流延ドラムとも呼ばれる)、エンドレスベルトなどの支持体としてのキャストドラムにキャストして製膜し、ポリビニルアルコール予備成形フィルムを得る。
【0038】
含水率は、キャストドラム温度、キャストドラム内でのポリビニルアルコールの滞留時間、熱風乾燥等の方法で制御することができるが、これらに限定されるものではない。熱風乾燥は、特定の温度の熱風をポリビニルアルコール予備成形フィルムの空気に接触する表面に吹き付けて、含水率を制御することである。
【0039】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールキャスト溶液の温度は、少なくとも90℃であることが好ましく、例えば90、91、92、93、94又は95℃である。1つ又は複数の実施形態において、前記キャストドラムの温度は、好ましくは例えば85~95℃の範囲であり、具体的には、例えば85、86、87、88、89、90、91、92、93、94又は95℃であるがこれらに限定されない。1つ又は複数の実施形態において、キャストドラム内でのポリビニルアルコールの滞留時間は、好ましくは0.6~1.2分であり、具体的には0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1又は1.2分であるがこれらに限定されない。1つ又は複数の実施形態において、熱風の温度は、好ましくは60℃~120℃であるが、これに限定されない。
【0040】
特定の理論に拘束されるものではないが、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの含水率は、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び特定の温度にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与えると考えられている。具体的に言えば、この段階はポリビニルアルコール高分子鎖の主な配列・成形段階であり、この段階が高分子鎖の絡み合い度を制御する。ポリビニルアルコール予備成形フィルムの含水率は、高分子鎖の絡み合い度に関連し、含水率が低いほど高分子鎖が絡み合うため、その後の成形品の複素粘度及び30℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与える。換言すれば、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの含水率を特定の範囲内に調整することにより、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び30℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度をさらに制御できる。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの含水率は、8~17%であり、例えば、8~9、9~10、10~11、11~12、12~13、13~14、14~15、15~16又は16~17%であり、特に、8.5、9、10、11、12、13、14、15、16又は17%である。
【0041】
[加熱ローラ工程]
少なくとも1つの実施形態によれば、加熱ローラ工程は、主にキャストドラムから剥離した前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上面と下面を複数の加熱ローラで接触乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る。
【0042】
含水率は、加熱ローラの数、加熱ローラの温度、熱風乾燥などを調整することによって制御できるが、これらに限定されない。熱風乾燥は、特定の温度の熱風をポリビニルアルコールフィルム半成形品の空気に接触する表面に吹き付けて、サンプルの含水率を調整することである。
【0043】
1つ又は複数の実施形態において、前記複数の加熱ローラは、2~30本であり得、例えば2、5、10、15、20、25又は30本であるがこれらに限定されない。前記複数の加熱ローラの温度は、高いものから低いものへと徐々に低減し、最初の加熱ローラが全ての加熱ローラの中で温度が最も高いローラであり、最後の加熱ローラの温度が全ての加熱ローラの中で最も低い。1つ又は複数の実施形態において、前記最初の加熱ローラの温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば80、85、90、95又は100℃であり、80~100℃の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記最後の加熱ローラの温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば30、35、40、45、50、55又は60℃であり、30℃~60℃の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、熱風の温度は、好ましくは50℃~110℃であるがこれに限定されない。
【0044】
特定の理論に拘束されるものではないが、前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の含水率は、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び特定の温度にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与えると考えられている。具体的に言えば、この段階は、ポリビニルアルコールの結晶形成の主要な段階であり、ポリビニルアルコールフィルム半成形品の含水率は結晶形成量に関連し、含水率が低いほど結晶が多く形成されるため、その後の成形品の複素粘度及び55℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与える。換言すれば、前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の含水率を特定の範囲に調整することにより、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び55℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度をさらに制御できる。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の含水率は、4.5~9%であり、例えば5~6、6~7、7~8又は8~9%であり、特に4.8、5、6、7、8又は9%である。
【0045】
[オーブン工程]
いくつかの実施形態によれば、オーブン工程は、主にオーブンで加熱ローラから剥離した前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の上面と下面を熱風で乾燥させることで、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得ることである。
【0046】
1つ又は複数の実施形態において、前記オーブンは、好ましくはフローティングオーブンを用い、温度は40℃~120℃の範囲に制御され、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば40、50、60、70、80、90、100、110又は120℃である。かつ前記オーブンの全体的な平均温度は、好ましくは70℃~80℃の範囲であり、具体的には例えば70、71、72、73、74、75、76、77、78、79又は80℃である。1つ又は複数の実施形態において、前記オーブンでの前記ポリビニルアルコールフィルムの乾燥時間は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば1分、1.5分、2分、2.5分、3分、3.5分、4分、4.5分、5分、5.5分又は6分であり、1~6分の範囲であることが好ましい。
【0047】
特定の理論に拘束されるものではないが、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品の含水率は、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び特定の温度にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与えると考えられている。具体的に言えば、ポリビニルアルコールフィルム成形品の含水率は、高分子鎖の絡み合い及び結晶形成量に関連するため、その後の成形品の複素粘度及びそれぞれ30℃、55℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度に影響を与える。換言すれば、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品の含水率を特定の範囲内に調整することにより、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度及び30℃、55℃にて水中に浸漬した後の重量膨潤度をさらに制御でき、含水率が低すぎた場合、ポリビニルアルコールフィルム成形品の高分子間の絡み合い及び結晶化が増加する。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品の含水率は、1.8~5%であり、例えば、1.8~2、2~3、3~4又は4~5%であり、特に1.8、2、3、4又は5%である。
【0048】
[温湿度調整工程]
本発明の好ましい実施態様によれば、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品は、上記工程を終えた後、さらに温湿度調節器に入れて温度と湿度を調整することができる。
【0049】
1つ又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば35℃、40℃又は45℃であり、35~45℃の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の相対湿度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば70%、72%、74%、76%、78%又は80%であり、70~80%の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムを前記温湿度調節器に静置する時間は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば5分、10分、15分又は20分であり、5~20分の範囲であることが好ましい。
【0050】
[光学フィルム及びその製造方法]
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。本明細書で述べる「光学フィルム」は、偏光膜、位相差フィルム、視野角拡大フィルム或いは輝度上昇フィルムなどであってよく、特に偏光膜である。いくつかの実施形態によれば、本発明の「光学フィルムの製造方法」は、偏光膜の製造方法を指し、さらにポリビニルアルコールフィルムを偏光膜に製造し、色相均一性を評価する。前記製造方法は、ヨウ素を吸着させる染色工程と、ホウ酸処理工程と、水洗工程とを含み、ホウ酸処理工程又はこの前の段階で一軸延伸の延伸工程を実施でき、ホウ酸処理工程と水洗工程との間に乾燥工程を1回実施できる。好ましくは、染色工程の前に、ポリビニルアルコールフィルムを水で膨潤させる膨潤工程を設けることができる。なお、水洗工程の後に通常、最終乾燥工程が設けられる。
【0051】
膨潤工程では、上記ポリビニルアルコールフィルムを、例えば温度30℃の処理浴(例:水)に浸漬して、フィルム表面の水洗及び膨潤処理を施す。膨潤処理時間は、通常5~300秒、好ましくは20~240秒である。いくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムを搬送するため、処理浴を収容した膨潤タンク内に複数のガイドローラーが配置される。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD、Machine Direction)に元の長さの1.2倍に延伸した後、染色工程を実施する。
【0052】
染色工程では、上記膨潤工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、染浴を収容した染色タンクに浸漬する。染色処理の条件は、ヨウ素をポリビニルアルコールフィルムに吸着させる範囲内でフィルムに極度の溶解や失透などの不良を起こさない範囲によって決定することができる。染色工程で使用する染浴は、水100重量部に対して、ヨウ素0.003~0.2重量部、ヨウ化カリウム0.1~10重量部を含む水溶液であり得る。また、ヨウ化カリウムの代わりにヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよいし、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。染浴の温度(染色温度)は通常10~50℃、例えば30℃であり、染色処理の時間(染色時間)は通常10~600秒、好ましくは30~200秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3.4倍に延伸した後、ホウ酸処理及び延伸工程を実施する。
【0053】
ホウ酸処理及び延伸工程では、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコールフィルムをホウ酸含有水溶液で処理して架橋し、吸着したヨウ素を樹脂に定着させて実施する。前記工程は通常、染色工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、ホウ酸含有処理浴を収容した定着槽に浸漬することにより実施される。ホウ酸処理浴は、水100重量部に対してホウ酸0.5~15重量部を含む水溶液であってもよい。該ホウ酸処理浴は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含むことが好ましく、その量は水100重量部に対して5~20重量部である。この目的で使用されるヨウ化物は、ヨウ化カリウム又はヨウ化亜鉛などであり得る。また、また、ホウ酸処理浴中にヨウ化物以外の化合物、例えば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が共存していてもよい。ホウ酸処理及び延伸工程は通常、50~70℃、好ましくは53~65℃、例えば55℃の温度下で実施され、処理時間は通常、10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~100秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの6倍に延伸し、その後の工程を実施する。
【0054】
ポリビニルアルコールフィルムに、上記工程及びその後の水洗工程と乾燥工程とを施し、偏光膜を形成した。さらに、該偏光膜の少なくとも一方の面に保護層を形成して、偏光膜完成品(偏光子とも呼ばれる)に製造することができる。詳しく言えば、該保護層は、偏光膜の表面の摩耗防止などの機能を有し、透明樹脂を含む構成要素であることが好ましい。異なる実施形態によれば、前記保護層は前記偏光膜の片面のみに設けられるが、前記偏光膜の両面に形成されることが好ましい。前記保護層は、透明樹脂材料の保護フィルムであり得る。透明樹脂は、メタクリル酸メチル系樹脂などのアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂など))、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂等であってよく、三酢酸セルロース(TAC)等のセルロース系樹脂が好ましい。
【実施例0055】
以下では、具体的実施例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの具体的実施例は、本発明の理解を助けることを意図し、本発明の範囲を如何ようにも限定することを意図しないことを理解されたい。
【0056】
1.ポリビニルアルコールフィルムの調製
以下は、ポリビニルアルコールフィルムからの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示される方法と類似の方法で、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~15)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~5)を調製した。
【0057】
以下は、本実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールフィルムを製造する主要工程であり、かつ以下の表1は、本実施例及び比較例の1つ又は複数の工程パラメータの違いを詳細に示す。
【0058】
1.まず、溶解バレルにケン化度99.95%、重合度がそれぞれ2000~3000(具体的な重合度を表1に示す)のポリビニルアルコール樹脂1800kg、水3900kg、可塑剤グリセロール190kg及び添加剤(具体的な添加量を表1に示す)をそれぞれ加えた。ここで、前記添加剤は、ラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル及びラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムであり、前記添加剤に含まれるラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル及びラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムの重量比は、1:1である。次に攪拌しながら温度を上げ、均一に溶解した後、水を加えて不揮発性成分(ポリビニルアルコール樹脂、可塑剤グリセロール及び添加剤)の濃度を30wt.%に調整して、ポリビニルアルコールキャスト溶液を得た。
【0059】
2.前記ポリビニルアルコールキャスト溶液をダブルスクリュー押出機で脱泡した後、次に前記キャスト溶液をTダイリップから吐出し、回転する温度90℃のキャストドラムにキャストし、110℃の熱風で空気接触面を乾燥させることで、特定の含水率を有するポリビニルアルコール予備成形フィルム(具体的な含水率を表1に示す)を製造した。キャストドラムでのポリビニルアルコールの滞留時間を制御することにより、予備成形フィルムの含水率を調整した。
【0060】
3.前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムをキャストドラムから剥離した後、フィルムの上面と下面を7本の加熱ローラで接触乾燥させると同時に、空気接触面を加熱ローラより10℃高い熱風で乾燥させることで、特定の含水率を有するポリビニルアルコールフィルム半成形品(具体的な含水率を表1に示す)を製造した。1本目の加熱ローラは、全ての加熱ローラの中で最も温度が高いローラで、温度が90℃であり、後続の加熱ローラの温度が5℃ずつ徐々に引き下げ、7本目の加熱ローラの温度は60℃まで下がる。加熱ローラの数を増減することにより、ポリビニルアルコールフィルム半成形品の含水率を調整した。
【0061】
4.次に、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上下両面をフローティングオーブンで熱風乾燥して、特定の含水率を有するポリビニルアルコールフィルム成形品を製造した(具体的な含水率を表1に示す)。オーブンの平均乾燥温度は、75℃である。オーブンでの滞留時間を制御することにより、成形品の含水率を調整した。
【0062】
上記実施例及び比較例のポリビニルアルコールフィルムサンプルの含水率は、以下の分析方法を用いて算出した。
サンプルの作製:ポリビニルアルコールフィルムのサンプルを10×10cm2サイズにカットした。
試験条件:フィルムのサンプルを乾燥前に先に重量(W1)を測定し、105℃にて10分間乾燥させた後、取り出して重量(W2)を測定し、下記式により含水率を算出した。
含水率(%)=(W1-W2)/W1×100
【0063】
【0064】
2.分析及び評価
上記実施例1~15及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムについて、以下の分析試験及び評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0065】
<複素粘度>
機器:TA機器のDHR HR-20レオメータ
サンプルサイズ:ポリビニルアルコールフィルムのサンプルを直径2.5cmの円形にカットした。
サンプル処理:前述カットしたフィルムを30℃、70%RH環境に置き、フィルムに含水率が9~10%になるまで吸湿させてから測定した。
試験方法:スイープ発振モードで治具によって検出されたトルク及び角変位を測定し、応力とひずみ情報を記録した。ここで、スイープ発振は、モータがゼロ点で時計回り又は反時計回りに回転してサンプルにせん断力を発生させることを意味する。
試験条件:
モード:発振
角周波数:10rad/s
ひずみ:1%
サンプリング時間:1分間に10点、具体的には1分間に6秒に1点の頻度でサンプリング
治具:フラットクランプ(直径2.5cm)、固定垂直力1N
治具温度:25℃
周囲温度:25~30℃
データ計算:上述の10サンプリングポイントで測定された粘度値を合計した後で平均値をとる。
【0066】
<重量膨潤度>
サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムを5×5cm2サイズにカットした。
30℃の水中に浸漬した後で測定した重量膨潤度(以下、30℃での重量膨潤度という):フィルムサンプルを平らな状態で30℃、500mlの水中に20分間浸漬した後、次にピンセットで取り出し、フィルムサンプルの両面をそれぞれ4枚の実験室用無塵紙(アメリカクリーンホース社製GBFA-00000000001)で軽く拭き、これを2回繰り返した。余分な表面の水分を取り除いた後、フィルムサンプルを1枚の無塵紙に平らに置き、その上に1枚の無塵紙で覆い、4つの積み重ねられたステンレス鋼のサンプルパン(1つ当たり30.5±1.5g程度)で押し、無塵紙の表面に残留水を30秒吸収させ、次にフィルムサンプルを裏返し、新しい無塵紙で上記方法を繰り返して表面水分をもう一回取り除いた。その後、フィルムサンプルの重量(W1)を測定し、次に120℃のオーブンでフィルムサンプルを2時間乾燥させた後、デシケーターに5分間静置してから、フィルムサンプルの重量(W2)を測定した。
55℃の水中に浸漬した後で測定した重量膨潤度(以下、55℃重量膨潤度という):
フィルムを55℃、500mlの水中に3分間浸漬し、上記の方法で表面の水分を除去して重量(W1)を計量した。次に120℃のオーブンでフィルムサンプルを2時間乾燥させた後、デシケーターに5分間静置してから、フィルムサンプルの重量(W2)を測定した。
重量膨潤度を下記式により算出した。
重量膨潤度(%)=(W1-W2)/W1×100
【0067】
<損傷評価>
試験条件:ポリビニルアルコールフィルムサンプルを30×30cm2の大きさにカットした試験サンプルとし、試験サンプルを白壁から10cmの距離に置き、明るさ1200ルーメンの懐中電灯を白壁から50cmの距離で試験サンプルを照射し、次に試験サンプルの白壁への映り込み状況を目視で観察し、以下の評価基準に従ってポリビニルアルコールフィルムの損傷を評価した。
評価基準:
A:全幅10枚において面積0.01mm2を超える損傷及び幅200μmを超えるスジが見られない
B:全幅10枚のいずれにも面積0.01mm2を超える損傷又は幅200μmを超えるスジが1箇所確認される
C:全幅10枚のいずれにも面積0.01mm2を超える損傷又は幅200μmを超えるスジが2箇所以上確認される
【0068】
<シワ評価>
サンプル:ポリビニルアルコールフィルムサンプルを機械方向に40cm±5%程度、幅方向に2.8m±5%にカットした。
試験条件:アルミホイル袋で1ヶ月以上保管した
評価基準:ポリビニルアルコールフィルムサンプル表面にシワの有無を目視検査し、以下の評価基準に従ってシワ評価を行った。
◎:シワがなく、膜面が平滑
○:わずかにシワがあるが、偏光子の作製に影響はない
×:シワが目立ち、フィルム表面に凹凸がある
【0069】
<色相均一性評価>
上述の偏光膜工程に従って、実施例1~15及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムを対応する偏光子サンプルに作製し、各サンプルの色相均一性をさらに分析及び評価した。具体的評価方法は、次の通りである。
サンプル:偏光子サンプルを30×30cm2のサイズにカットした。
試験条件:単一透過率(single transmittance)43%の基材偏光子をバックライトの形(すなわち、サンプルを人間の目と光源の間に置き、光源に肉眼を向けて観察する)で光度15000CDライトボックスに置き、次に観察対象となる偏光子サンプルを基材偏光子の上に交差偏光状態で置き、偏光子サンプルの真上1mの位置から俯瞰的に観察した。
評価基準:偏光子サンプルの染色ムラ領域の有無を目視で検査し、以下の評価基準に従って評価した。
○:色ムラなし
△:わずかな色ムラ
×:色ムラが目立つ
【0070】
実施例1~15及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された偏光子が上述の分析試験を経た後、得られた結果を下表2及び表3に整理した。
【0071】
【0072】
表2から分かるように、実施例1~15のポリビニルアルコールフィルムサンプルで測定された複素粘度(η*)パラメータは、全て400~1500Pa・sにあることで、これらのポリビニルアルコールフィルムサンプルが良好な損傷評価及びシワ評価の結果を得た。これとは対照的に、比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムサンプルで測定された複素粘度(η*)パラメータは、いずれも上述の範囲内になく、これらのポリビニルアルコールフィルムサンプルがいずれも損傷評価及びシワ評価の両方において理想的な結果を得なかった。そこで、ポリビニルアルコールフィルムの複素粘度を400~1500Pa・sの範囲内にのみ制御することで、損傷及びシワの状況を同時に改善できる。詳しく言えば、複素粘度が1500Pa・sを超える場合(例:比較例4)、ポリビニルアルコールフィルムは製造工程中に製造装置との不可逆的な接触摩擦を起こしやすく、その後より重大フィルム表面欠陥が生じるため、非理想的な損傷評価結果を得た。複素粘度が400Pa・s未満の場合(例:比較例1~3及び5)、製造工程でのポリビニルアルコールフィルムの損傷を軽減できたとしても、外観にシワが発生しやすいことで、その後の成形品の歩留りに影響を与える。
【0073】
【0074】
表3から分かるように、ポリビニルアルコールフィルムの30℃での重量膨潤度が37%を超え、55℃での重量膨潤度が60%を超えるようにさらに制御することで、これらのポリビニルアルコールフィルムサンプルを偏光子に製造した後、いずれも良好な色相均一性が得られる(実施例1~12参照)。これとは対照的に、30℃での重量膨潤度及び55℃での重量膨潤度が同時に上述の理想的な範囲内に制御されていないことで、これらのポリビニルアルコールフィルムサンプルを偏光子に製造した後、良好な色相均一性を得ることができなかった。そこで、30℃での重量膨潤度が37%を超え、55℃での重量膨潤度が60%を超えるようにさらに制御することで、ポリビニルアルコールフィルムを偏光片に製造した後最も理想的な色相均一性を持つことができる。
【0075】
本明細書において提供される全ての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、及び所定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、終点を含む。したがって、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、及び5と、2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0076】
本明細書で引用される全ての刊行物及び特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれ、あらゆる目的のために、個々の刊行物又は特許出願内容は、参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明細書に組み込まれている刊行物または特許出願内容との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。