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特開2024-170658磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170658
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20241203BHJP
   G11B 17/038 20060101ALI20241203BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20241203BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20241203BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B17/038
G11B5/84 Z
C03C3/085
C03C3/087
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024161168
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2023020828の分割
【原出願日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2019134578
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019205993
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐薬品性および耐衝撃性に優れる磁気記録媒体基板用ガラスを提供する。
【解決手段】磁気記録媒体基板用ガラスまたは磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラスは、非晶質ガラスであって、SiO含有量が56モル%以上、MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、LiO含有量が0.2モル%以上、NaO含有量が5モル%以下、Al、MgOおよびCaOの合計含有量(Al+MgO+CaO)が29モル%以上36.50モル%以下、SiO、MgO、LiO、AlおよびCaOの合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)が95.0モル%以上、LiO含有量に対するSiOとMgOの合計含有量のモル比[(SiO+MgO)/LiO]が13以上、AlとMgOの合計含有量に対するCaO含有量のモル比[CaO/(Al+MgO)]が0.10以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO含有量が56モル%以上、
MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、
LiO含有量が0.2モル%以上、
NaO含有量が5モル%以下、
Al、MgOおよびCaOの合計含有量(Al+MgO+CaO)が29モル%以上36.50モル%以下、
SiO、MgO、LiO、AlおよびCaOの合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)が95.0モル%以上、
LiO含有量に対するSiOとMgOの合計含有量のモル比[(SiO+MgO)/LiO]が13以上、
AlとMgOの合計含有量に対するCaO含有量のモル比[CaO/(Al+MgO)]が0.10以下、
の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス。
【請求項2】
MgO含有量に対するAlとCaOの合計含有量のモル比[(Al+CaO)/MgO]が0.55以上である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)が6以上である、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる磁気記録媒体基板。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体基板と磁気記録層とを有する磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスを含む磁気記録再生装置用ガラススペーサ。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気記録媒体と、請求項6に記載の磁気記録再生装置用ガラススペーサと、の少なくとも一方を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の磁気記録媒体用の基板(磁気記録媒体基板)としては、従来、アルミニウム合金製の基板が用いられていた。しかし、アルミニウム合金製基板については、変形しやすい等の点が指摘されている。そのため現在では、ガラス製の磁気記録媒体基板が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-814134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体基板には、製造工程で基板表面に付着した異物を除去するために、通常、酸、アルカリ等による洗浄が施される。しかし、基板を構成するガラスの耐薬品性が十分でないと、製造工程において基板表面を平滑に仕上げたとしても、洗浄によって表面粗れが生じてしまう。したがって、磁気記録媒体基板用ガラスには、耐薬品性に優れることが望まれる。
【0005】
更に、磁気記録媒体基板用ガラスには、耐衝撃性に優れることも望まれる。これは、以下の理由による。
磁気記録媒体は、通常、パソコン等の機器に組み込まれているハードディスクドライブ(HDD)の内部に搭載される。HDD内部には、スピンドルモータの回転軸に複数枚の磁気記録媒体(磁気ディスク)が取り付けられ、HDDに組み込まれたアクチュエーターによって、HDD内部で高速回転している磁気記録媒体の磁気記録層へのデータを書き込みやデータの読み込みが行われる。このようなデータ書き込みや読み込みのために磁気記録媒体が高速回転している際にHDDに大きな衝撃(例えば落下等による衝撃)が加わると、衝撃によりHDD内部で磁気記録媒体が一時的に変形し、高速回転状態でランプ(ramp)と呼ばれる部品と衝突し、この衝突によって磁気記録媒体が破損してしまうおそれがある。このような破損を防ぐためには、衝撃を受けても変形し難いこと、即ち耐衝撃性に優れることが望ましい。HDDについては、磁気記録媒体1枚当たりの厚さを薄くし、より多くの磁気記録媒体をHDDに搭載させることにより、記録容量を増大させることができるが、一般にガラスは厚さを薄くすると変形し易くなり上記の破損がより発生し易くなる傾向がある。したがって、HDDの記録容量の増大と上記の破損の抑制とを両立するうえで、耐衝撃性に優れる磁気記録媒体基板用ガラスは望ましい。
【0006】
以上の点に関して、特許文献1(特開2002-814134号公報)には、特許文献1に記載のガラスによれば、酸性液でのガラス表面の洗浄により、その表面を劣化させることなく清浄にすることができると記載されている(特許文献1の段落0068等)。しかし本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載のガラスの耐衝撃性は、先に記載した破損を防ぐ観点からは十分なものではない。他方、耐衝撃性の高い材料としては、結晶化ガラスが知られているが、結晶化ガラスは製造工程が複雑である。また、磁気記録媒体基板に求められる高い平滑性を結晶化ガラスによって達成することは容易ではない。
【0007】
本発明の一態様は、耐薬品性および耐衝撃性に優れる磁気記録媒体基板用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、SiO含有量が54モル%以上62モル%以下、MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、LiO含有量が0.2モル%以上、およびNaO含有量が5モル%以下の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に関する。
【0009】
上記磁気記録媒体基板用ガラスは、上記のガラス組成を有し、優れた耐薬品性と優れた耐衝撃性を有することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、耐薬品性および耐衝撃性に優れる磁気記録媒体基板用ガラスを提供することができる。また、一態様によれば、上記磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板、およびこの基板を含む磁気記録媒体を提供することもできる。更に一態様によれば、磁気記録装置用ガラススペーサを提供することができる。また更に一態様によれば、磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[磁気記録媒体基板用ガラス]
上記ガラスは、先に記載した組成を有する非晶質ガラスである。非晶質ガラスとは、結晶化ガラスとは異なり、実質的に結晶相を含まず、昇温によりガラス転移現象を示すガラスである。
また、上記ガラスは、非晶質の酸化物ガラスであることができる。酸化物ガラスとは、ガラスの主要ネットワーク形成成分が酸化物であるガラスである。
以下、上記ガラスについて、更に詳細に説明する。
【0012】
<ガラス組成>
本発明および本明細書では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0013】
上記ガラスのガラス組成において、SiO含有量は54モル%以上62モル%以下であり、MgO含有量は15モル%以上28モル%以下であり、LiO含有量は0.2モル%以上であり、NaO含有量は5モル%以下である。
以下に、上記ガラスのガラス組成について、更に詳細に説明する。
【0014】
SiOは、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性を向上させる働きを有する。また、SiOは、耐薬品性の向上にも寄与する成分である。SiO含有量は、耐薬品性向上および耐衝撃性向上の観点から、54%以上である。また、磁気記録媒体基板の製造工程では、通常、基板表面の研磨が行われる。研磨後の磁気記録媒体基板表面の平滑性向上の観点からも、SiO含有量が54%以上であることは好ましい。以上の観点から、SiO含有量は、55%以上であることが好ましく、56%以上であることがより好ましく、57%以上であることが更に好ましく、57.5%以上であることが一層好ましく、58%以上であることがより一層好ましく、58.5%以上であることが更に一層好ましく、59%以上であることがなお一層好ましく、60%以上であることがなおより一層好ましい。また、SiO含有量は、ガラスの熔融性の観点から、62%以下であり、61%以下であることが好ましい。
【0015】
MgOは、ガラスのヤング率を高める働き、熱膨張係数を大きくする働きおよびガラスの熔融性や成形性を良化する働きを有する。MgO含有量は、耐衝撃性向上の観点から、15%以上である。MgO含有量が15%以上であることは、ヤング率向上および比弾性率向上の観点からも好ましい。以上の観点から、MgO含有量は、16%以上であることが好ましく、17%以上であることがより好ましい。また、耐失透性向上の観点から、上記ガラスのMgO含有量は28%以下であり、27%以下であることが好ましく、26%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましく、24.5%以下であることが一層好ましく、24%以下であることがより一層好ましく、23.5%以下であることが更に一層好ましく、23%以下であることがなお一層好ましく、22.5%以下であることがなおより一層好ましく、22%以下であることがなお更に一層好ましく、20%以下であることがなお更により一層好ましく、19%以下であることが特に好ましい。
【0016】
LiOは、アルカリ金属酸化物の中でもガラスの熔融性を向上させる働きが強い成分である。また、上記ガラスを化学強化用のガラスとする場合は、化学強化時のイオン交換を担う成分でもある。LiO含有量は、ガラスの熔融性向上の観点から、0.2%以上であり、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることが更に好ましく、2.5%以上であることが一層好ましく、3%以上であることがより一層好ましく、3.5%以上であることが更に一層好ましく、4%以上であることが更により一層好ましい。また、耐薬品性および耐衝撃性の更なる向上、ならびに研磨後の磁気記録媒体基板表面の平滑性向上の観点から、LiO含有量は、6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0017】
LiO含有量に対するSiOとMgOの合計含有量のモル比[(SiO+MgO)/LiO]は、耐衝撃性の更なる向上の観点から、13以上であることが好ましく、13超であることがより好ましく、14以上であることが更に好ましく、15以上であることが一層好ましい。また、上記モル比[(SiO+MgO)/LiO]は、耐失透性および熔解性の観点からは、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましく、25以下であることが一層好ましく、20以下であることがより一層好ましい。
【0018】
NaOは、ガラスの熔融性を向上させ、熱膨張係数を大きくし、清澄時にはガラスの粘性を低下させて泡切れを促進させる働きを有する成分である。また、上記ガラスを化学強化用のガラスとする場合は、化学強化時のイオン交換を担う成分でもある。NaO含有量は、耐衝撃性向上の観点から5%以下である。NaO含有量が5%以下であることは、ヤング率向上および比弾性率向上の観点からも好ましい。以上の観点から、NaO含有量は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが一層好ましい。一態様では、NaO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0019】
は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの比重を低下させる成分であり、熔融性を向上させる成分でもある。耐衝撃性の更なる向上、比弾性率の向上およびヤング率の向上の観点から、B含有量は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。一態様では、B含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0020】
Alは、ガラスのネットワーク形成成分であり、耐熱性を向上させる働きを有する。ガラスの熔融性向上の観点から、Al含有量は、19%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましく、17%以下であることが更に好ましく、16%以下であることが一層好ましく、15%以下であることがより一層好ましい。また、耐衝撃性の更なる向上、ヤング率の向上および比弾性率の向上の観点から、Alは、9%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、11%以上であることが更に好ましく、12%以上であることが一層好ましい。
【0021】
BaOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、熱膨張係数を大きくする働きを有する。ガラスの低比重化、ヤング率の向上、比弾性率の向上および耐衝撃性の更なる向上の観点から、BaO含有量は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。一態様では、BaO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0022】
CaOは、ガラスのヤング率および比弾性率を高める働き、熱膨張係数を大きくする働き、およびガラスの熔融性や成形性を良化する働きを有する。一態様では、CaO含有量は、0%であることができ、または0%以上もしくは0%超であることができる。また一態様では、上記働きを良好に得る観点から、CaO含有量は、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることが更に好ましい。また、耐薬品性の更なる向上の観点から、CaO含有量は、10%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、8%以下であることが更に好ましく、7%以下であることが一層好ましく、6%以下であることがより一層好ましく、5%以下であることが更に一層好ましく、4%以下であることがなお好ましく、3%以下であることがなお一層好ましい。
【0023】
CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)は、耐衝撃性の更なる向上の観点から、6以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。また、上記モル比(MgO/CaO)は、耐失透性の観点からは、30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることが更に好ましく、18以下であることが一層好ましく、15以下であることがより一層好ましい。
【0024】
MgO含有量に対するAlとCaOの合計含有量のモル比[(Al+CaO)/MgO]は、耐失透性の向上および耐薬品性の更なる向上の観点から、0.55以上であることが好ましく、0.57以上であることがより好ましい。更に、0.58以上、0.59以上、0.60以上、0.61以上、0.62以上、0.625以上、0.63以上、0.65以上、0.70以上、0.75以上、0.80以上の順に下限が大きくなるほど好ましい。また、上記モル比[(Al+CaO)/MgO]は、耐衝撃性の観点からは、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましく、1.2以下であることが一層好ましく、1.1以下であることがより一層好ましい。
【0025】
Al含有量に対するCaO含有量のモル比(CaO/Al)は、ガラス転移温度を高める観点からは、0.60以下であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.40以下であることが更に好ましく、0.30以下であることが一層好ましく、0.24以下であることが一層好ましく、0.20以下であることがより一層好ましい。また、上記モル比(CaO/Al)は、例えば0以上であることができ、0超であることができ、または0.10以上であることができる。
【0026】
AlとMgOの合計含有量に対するCaO含有量のモル比[CaO/(Al+MgO)]は、ヤング率の向上、比弾性率の向上および耐衝撃性の更なる向上の観点から、0.30以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0.10以下であることが更に好ましい。また、上記モル比は、例えば0以上であることができ、0超であることができ、0.01以上であることができ、または0.03以上であることができる。
【0027】
LiO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/LiO)は、耐衝撃性の更なる向上の観点から、2.3以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.7以上であることが更に好ましく、3.0以上であることが一層好ましい。ガラスの熔融性向上の観点からは、モル比(MgO/LiO)は28以下であることが好ましく、26以下であることがより好ましく、24以下であることが更に好ましく、22以下であることが一層好ましい。
【0028】
Al、MgOおよびCaOの合計含有量(Al+MgO+CaO)は、ヤング率の向上、比弾性率の向上および耐衝撃性の更なる向上の観点から、29%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、31%以上であることが更に好ましく、32%以上であることが一層好ましく、33%以上であることがより一層好ましい。また、上記合計含有量(Al+MgO+CaO)は、例えば50%以下であることができ、48%以下であることができ、46%以下であることができ、44%以下であることができ、43%以下であることができ、42%以下であることができ、または41%以下であることができる。
【0029】
SiO、MgO、LiO、AlおよびCaOの合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)は、熔解性の向上および耐失透性の向上の観点から、93モル%以上であることが好ましい。上記合計含有量が93%以上であることは、研磨後の磁気記録媒体基板表面の平滑性向上の観点および磁気記録媒体基板を備えた磁気記録媒体の耐振動衝撃性向上の観点からも好ましい。以上の観点から、合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)は、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、96%以上であることが一層好ましく、97%以上であることがより一層好ましく、98%以上であることが更に一層好ましい。また、上記合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)は、100%以下であることができ、99%以下であることもできる。
【0030】
SrOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、熱膨張係数を大きくする働きを有する。低比重化および原料コストの低減の観点から、SrO含有量は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることが好ましく、2%以下であることが一層好ましく、1%以下であることがより一層好ましい。一態様では、SrO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0031】
Oは、ガラスの熔融性および成形性を向上させる働きを有するとともに熱膨張係数を大きくする成分である。低比重化、ヤング率の向上、比弾性率の向上および耐衝撃性の更なる向上の観点から、KO含有量は、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。一態様では、KO含有量は、0%であることができ、または0%以上もしくは0%超であることができる。
【0032】
TiOは、ガラス安定性を向上させる成分である。低比重化および耐失透性向上の観点から、TiO含有量は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが一層好ましく、1%以下であることがより一層好ましい。一態様では、TiO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0033】
ZnOは、熔融性を向上させる働きを有する。低比重化、ヤング率の向上、比弾性率の向上および耐衝撃性の更なる向上の観点から、ZnO含有量は、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。一態様では、ZnO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0034】
ZrO含有量は、低比重化および耐失透性向上の観点から、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましく、3%未満であることが一層好ましく、2%以下であることがより一層好ましく、1%以下であることが更に一層好ましい。一態様では、ZrO含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0035】
含有量は、低比重化および耐失透性向上の観点から、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。一態様では、Y含有量は、0%であることができ、0%以上もしくは0%超であることができ、または0.5%以上であることができる。
【0036】
上記ガラスのFe含有量は、外割で表示される含有量として、1モル%以下、0.7モル%以下、0.5モル%以下、0.4モル%以下、0.3モル%以下、0.1モル%以下、0.07モル%以下、0.05モル%以下、0.04モル%以下、0.03モル%以下または0.02モル%以下であることができる。一態様では、上記ガラスは、Feを含有しないこと(上記外割表示のFe含有量が0モル%であること)ができる。上記の外割で表示されるFe含有量とは、Fe以外のガラス成分の含有量の合計を100モル%としたとき、ガラスに含まれるFeの量をモル百分率で表した値である。
【0037】
上記ガラスは、Cu、Co、Mn、Nd、Pr、Nb、V、Cr、Ni、Mo、HoおよびErからなる群から選ばれる一種以上を含むこともできる。
【0038】
Fは、熔解時に揮発し易い成分であり、脈理の原因となる成分でもあるため、上記ガラスはFを含まないことが好ましい。Fを含まないことは、熔解炉の浸食抑制、ヤング率の低下抑制および比弾性率の低下抑制の観点からも好ましい。
【0039】
Pb、CdおよびAsは、環境に悪影響を与える物質なので、これらの導入は避けることが好ましい。
【0040】
上記ガラスは、清澄効果を得る観点から、SnO、CeOおよびSbからなる群から選ばれる一種以上を含むことができる。一態様では、SnOとCeOの合計含有量は0%であることができる。他の一態様では、上記ガラスは、SnOおよび/またはCeOを含むことができ、SnOとCeOの合計含有量(SnO+CeO)が0.05~2%であることが好ましい。SnOとCeOの合計含有量が0.05%以上であることにより、十分な清澄効果を得ることができ、泡の残存を低減することができる。また、合計含有量(SnO+CeO)が2%以下であることにより、ガラス熔解時に熔融ガラスが吹き上がり生産性が低下することを防ぐことができる。合計含有量(SnO+CeO)の下限については、0.10%以上であることが好ましく、0.20%以上であることがより好ましく、0.25%以上であることが更に好ましく、0.30%以上であることが一層好ましく、0.35%以上であることがより一層好ましく、0.40%以上であることが更に一層好ましい。また、合計含有量(SnO+CeO)の上限については、1.5%以下であることが好ましく、1.2%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.70%以下であることが一層好ましく、0.65%以下であることがより一層好ましく、0.60%以下であることが更に一層好ましく、0.55%以下であることがなお一層好ましく、0.50%以下であることが更になお一層好ましい。
【0041】
SnOは、ガラスの熔融温度が比較的高い状態(1400~1600℃程度の温度域)での清澄を促進させる働きを有する。Sbや亜砒酸等の環境に悪影響を及ぼす清澄剤の使用が制限される中、熔融温度の高いガラスの泡の除去をするために、一態様では、上記ガラスにSnOを導入することが好ましい。SnOの含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましく、0.15%以上であることが一層好ましく、0.20%以上であることがより一層好ましい。また、SnOの含有量は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.8%以下であることが一層好ましく、0.5%以下であることがより一層好ましい。
【0042】
CeOは、SnOと同様にガラスの清澄作用を示す成分である。CeOは、ガラスの熔融温度が比較的低い状態(1200~1400℃程度の温度域)で酸素を取り込んでガラス成分として定着させる働きがあるため、一態様では、清澄剤として上記ガラスにCeOを導入することが好ましい。CeOの含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.08%以上であることが更に好ましく、0.10%以上であることが一層好ましい。また、CeOの含有量は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.8%以下であることが一層好ましく、0.5%以下であることがより一層好ましく、0.3%以下であることが更に一層好ましい。SnOとCeOを共存させることにより、広い温度域での清澄作用を得ることができるので、一態様では、上記ガラスは、SnOおよびCeOの両方を含むことが好ましい。
【0043】
Sbは、環境負荷低減の観点から、使用を控えることが望ましい。上記ガラスにおけるSbの含有量は、0~0.5%の範囲であることが好ましい。Sbの含有量は、0.3%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましく、0.05%以下であることが一層好ましく、0.02%以下であることがより一層好ましく、Sbを含まないことが特に好ましい。
【0044】
上記ガラスは、所定のガラス組成が得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等のガラス原料を秤量、調合し、十分混合して、熔融容器内で、例えば1400~1600℃の範囲で加熱、熔解し、清澄、攪拌して十分泡切れがなされた均質化した熔融ガラスを成形することにより作製することができる。例えば、ガラス原料を熔解槽において1400~1550℃で加熱して熔解し、得られた熔融ガラスを清澄槽において昇温して1450~1600℃に保持した後、降温して1200~1400℃でガラスを流出し成形することが好ましい。
【0045】
<ガラス物性>
上記ガラスは、以上記載した組成調整を行うことにより、以下に記載する各種ガラス物性を有することができる。
【0046】
(耐薬品性)
ガラスの耐薬品性の指標としては、ガラスを液温が50℃に保たれた濃度0.5質量%の水酸化カリウム水溶液に所定時間浸漬した場合の単位時間当たりのエッチング量(単位:nm/分)であるエッチングレートを挙げることができる。上記ガラスのエッチングレートは、0.5nm/分以下であることができる。エッチングレートの測定方法については、後述の実施例の記載を参照できる。上記エッチングレートは、0nm/分以上0.5nm/分以下であることが好ましい。
【0047】
(ヤング率)
上記ガラスのヤング率は、90GPa以上であることが好ましい。90GPa以上のヤング率を示す高い剛性を有する磁気記録媒体基板用ガラスによれば、スピンドルモータの回転中の基板変形を抑制することができるため、基板変形に伴う磁気記録媒体の反りやたわみを抑制することができる。上記ガラスのヤング率は、91GPa以上であることが好ましく、92GPa以上であることがより好ましく、93GPa以上であることが更に好ましく、94GPa以上であることが一層好ましく、95GPa以上であることがより一層好ましい。ヤング率の上限は、例えば120GPa程度であるが、ヤング率が高いほど剛性が高く好ましいため特に限定されるものではない。
【0048】
(比重)
上記ガラスの比重は、2.75以下であることが好ましい。上記ガラスの比重は、2.73以下であることがより好ましく、2.70以下であることが更に好ましく、2.68以下であることが一層好ましく、2.64以下であることがより一層好ましく、2.62以下であることが更に一層好ましく、2.60以下であることがなお一層好ましい。磁気記録媒体基板用ガラスの低比重化により、磁気記録媒体基板を軽量化することができ、更には磁気記録媒体の軽量化、これにより磁気記録再生装置(一般にHDDと呼ばれる。)の消費電力抑制が可能になる。比重の下限は、例えば2.40程度であるが、比重が低いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0049】
(比弾性率)
比弾性率は、ガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とはガラスの比重に、g/cmという単位を付けた値と考えればよい。より変形しにくい基板を提供する観点から、上記ガラスの比弾性率は30MNm/kg以上であることが好ましく、32MNm/kg以上であることがより好ましく、33MNm/kg以上であることが更に好ましく、34MNm/kg以上であることが一層好ましく、35MNm/kg以上であることがより一層好ましい。比弾性率の上限は、例えば40MNm/kg程度であるが、比弾性率が高いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0050】
(熱膨張係数)
磁気記録媒体を組み込んだHDDは、通常、中央部分をスピンドルモータのスピンドルおよびクランプで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が生じる。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性が低下する原因となる。したがって磁気記録媒体基板用ガラスには、スピンドル材料(例えばステンレス等)と同程度の適度な熱膨張係数を有することが望ましい。一般にHDDのスピンドル材料は、100~300℃の温度範囲において70×10-7/℃以上の平均線膨張係数(熱膨張係数)を有するものであり、磁気記録媒体基板用ガラスの100~300℃における平均線膨張係数が40×10-7/℃以上であれば、スピンドル材料との熱膨張係数の差が少なく磁気記録媒体の信頼性向上に寄与することができる。上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数(以下、「α」とも記載する。)は40×10-7/℃以上であることが好ましく、41×10-7/℃以上であることがより好ましく、42×10-7/℃以上であることが更に好ましく、43×10-7/℃以上であることが一層好ましく、44×10-7/℃以上であることがより一層好ましく、45×10-7/℃以上であることが更に一層好ましい。また、上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数(α)は、70×10-7/℃以下であることが好ましく、68×10-7/℃以下であることがより好ましく、65×10-7/℃以下であることが更に好ましく、63×10-7/℃以下であることが一層好ましく、60×10-7/℃以下であることがより一層好ましく、57×10-7/℃以下であることが更に一層好ましく、55×10-7/℃以下であることがなお一層好ましく、53×10-7/℃以下であることが更になお一層好ましく、50×10-7/℃以下であることが更になおより一層好ましい。
【0051】
(ガラス転移温度)
磁気記録媒体基板は、通常、基板上に磁気記録層を形成する工程で高温処理に付される。例えば、磁気記録媒体の高密度記録化のために近年開発されている磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を形成するためには、通用、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。磁気記録媒体基板がこのような高温処理に耐え得る耐熱性を有することは、高温処理において高温に晒されても基板の平坦性を維持することができるため好ましい。上記ガラスは、耐熱性の指標であるガラス転移温度(以下、「Tg」とも記載する。)が、好ましくは640℃以上であり、より好ましくは650℃以上であり、更に好ましくは660℃以上であり、一層好ましくは670℃以上であり、より一層好ましくは675℃以上であり、更に一層好ましくは680℃以上であり、なお一層好ましくは685℃以上であり、なおより一層好ましくは687℃以上である。また、ガラス転移温度の上限は、例えば770℃程度または750℃程度であるが、ガラス転移温度が高いほど耐熱性の観点から好ましいため、特に限定されるものではない。ただし、上記ガラスは、高温処理を必要とする磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の基板用ガラスに限定されるものではなく、各種磁性材料を備えた磁気記録媒体の作製に用いることができる。
【0052】
(ガラス安定性)
上記ガラスは、好ましくは、高いガラス安定性を示すことができる。ガラス安定性の評価方法としては、詳細を後述する1350℃、1300℃または1250℃16時間保持テストを挙げることができる。1350℃16時間保持テスト、1300℃16時間保持テストおよび1250℃16時間保持テストの少なくとも1つの保持テストにおいて評価結果がAまたはBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。より低い保持温度での保持テストにおいて、より良好な結果を示すほどガラス安定性がより高いということができる。
【0053】
[磁気記録媒体基板]
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、上記ガラスからなる。
【0054】
磁気記録媒体基板は、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを調製し、この熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを加工する工程を経て製造することができる。例えば、プレス成形方法では、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスを所定体積に切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。次いで、得られた基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシングを施す。次いで、酸洗浄およびアルカリ洗浄を含む洗浄工程を経て、ディスク状の基板を得ることができる。
【0055】
上記磁気記録媒体基板は、一態様では、表面および内部の組成が均質である。ここで、表面および内部の組成が均質とは、イオン交換が行われていない(即ち、イオン交換層を有さない)ことを意味する。イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板は、イオン交換処理を行わずに製造されるため、製造コストを大幅に低減できる。
【0056】
また、上記磁気記録媒体基板は、一態様では、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。イオン交換層は圧縮応力を示すため、イオン交換層の有無は、主表面に対して垂直に基板を破断し、破断面においてバビネ法により応力プロファイルを得ることによって確認することができる。「主表面」とは、基板の磁気記録層が設けられる面または設けられている面である。こうした面は、磁気記録媒体基板の表面のうち、最も面積の広い面であることから、主表面と呼ばれ、ディスク状の磁気記録媒体の場合、ディスクの円形状の表面(中心孔がある場合は中心孔を除く。)に相当する。また、イオン交換層の有無は、基板表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によっても確認することができる。
【0057】
イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、このアルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。イオン交換(「強化処理」、「化学強化」とも呼ばれる。)については、公知技術を適用することができ、一例として、WO2011/019010A1の段落0068~0069を参照できる。
【0058】
上記磁気記録媒体基板は、例えば厚さが1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下であり、更に好ましくは0.8mm以下であり、一層好ましくは0.8mm未満であり、より一層好ましくは0.7mm以下であり、更に一層好ましくは0.6mm以下である。また、上記磁気記録媒体基板の厚さは、例えば0.3mm以上である。磁気記録媒体基板の厚さを薄くできることは、HDDの記録容量向上の観点から好ましい。また、上記磁気記録媒体基板は、好ましくは中心孔を有するディスク形状である。
【0059】
上記磁気記録媒体基板は、非晶質ガラスからなる。非晶質ガラスによれば、結晶化ガラスと比べて基板に加工したとき優れた表面平滑性を実現できる。
【0060】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体に関する。
【0061】
磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスク等と呼ばれ、各種磁気記録再生装置、例えば、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置などに好適である。本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気的に情報の記録を行うこと、磁気的に情報の再生を行うこと、の一方または両方が可能な装置をいうものとする。
【0062】
磁気記録媒体は、例えば、磁気記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば、磁気記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばRuやMgOを含む材料を用いることができる。なお、適宜、軟磁性層やヒートシンク層を追加してもよい。上記成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりCを用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
【0063】
磁気記録媒体のより一層の高密度記録化のためには、磁気記録層は、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含むことが好ましい。この点から好ましい磁性材料としては、Fe-Pt系磁性材料またはCo-Pt系磁性材料を挙げることができる。なおここで「系」とは、含有することを意味する。即ち、上記磁気記録媒体は、磁気記録層としてFeおよびPt、またはCoおよびPtを含む磁気記録層を有することが好ましい。かかる磁性材料を含む磁気記録層およびその成膜方法については、WO2011/019010A1の段落0074および同公報の実施例の記載を参照できる。また、そのような磁気記録層を有する磁気記録媒体は、エネルギーアシスト記録方式と呼ばれる記録方式による磁気記録装置に適用することが好ましい。エネルギーアシスト記録方式の中で、近接場光等の照射により磁化反転をアシストする記録方式は熱アシスト記録方式、マイクロ波によりアシストする記録方式はマイクロ波アシスト記録方式と呼ばれる。それらの詳細については、WO2011/019010A1の段落0075を参照できる。なお、磁気記録層を形成するための磁性材料として、従来のCoPtCr系材料を用いてもよい。
【0064】
ところで近年、磁気ヘッドへDFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載させることにより、磁気ヘッドの記録再生素子部と磁気記録媒体表面との間隙の大幅な狭小化(低浮上量化)を達成し、更なる高記録密度化を図ることが行われている。DFH機構とは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁気記録層との距離(フライングハイト)が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。しかしその一方で、磁気ヘッドの素子部と媒体表面との間隙(フライングハイト)が極めて小さくなる。磁気記録媒体基板の表面に洗浄による表面粗れが存在すると、この基板の表面粗さが磁気記録媒体の表面に反映され、磁気記録媒体の表面平滑性は低下してしまう。表面平滑性に劣る磁気記録媒体表面に磁気ヘッドを近接させると、磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に接触して磁気ヘッドが破損するおそれがあるため、接触を防ぐためにフライングハイトをある程度確保せざるを得ない。以上の点から、磁気記録媒体基板には、高い表面平滑性を有する磁気記録媒体を作製すべく、洗浄による表面粗れの抑制が可能であること、即ち耐薬品性に優れることが望まれる。上記磁気記録媒体基板は、好ましくは優れた耐薬品性を有することができるため、かかる基板を備えた上記磁気記録媒体は、フライングハイトが極狭小化されたDFH機構を搭載した磁気記録装置にも好適である。
【0065】
上記磁気記録媒体基板(例えば磁気ディスク用ガラス基板)、磁気記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はないが、例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ等の寸法のものとすることができる。
【0066】
上記磁気記録媒体は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスからなるため、上記ガラスについて先に記載したガラス物性を有することができる。また、上記磁気記録媒体は、好ましくは、優れた耐衝撃性を示すことができる。
【0067】
[磁気記録再生装置用ガラススペーサ]
本発明の一態様は、
SiO含有量が54モル%以上62モル%以下、
MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、
LiO含有量が0.2モル%以上、および
NaO含有量が5モル%以下、
の非晶質ガラスを含む磁気記録再生装置用ガラススペーサ、
に関する。
【0068】
磁気記録媒体は、磁気記録再生装置において、情報を磁気的に記録および/または再生するために用いることができる。磁気記録再生装置は、通常、磁気記録媒体をスピンドルモータのスピンドルに固定するため、および/または、複数の磁気記録媒体の間の距離を保つために、スペーサを備えている。近年、かかるスペーサとして、ガラススペーサを用いることが提案されている。このガラススペーサにも、磁気記録媒体基板用のガラスについて先に詳述した理由と類似の理由から、耐薬品性および耐衝撃性に優れることが望まれる。これに対し、上記組成を有するガラスは、優れた耐薬品性および耐衝撃性を有することができるため、磁気記録再生装置用ガラススペーサとして好適である。
【0069】
磁気記録再生装置用のスペーサはリング状の部材であって、ガラススペーサの構成、製造方法等の詳細は公知である。また、ガラススペーサの製造方法については、磁気記録媒体基板用ガラスの製造方法および磁気記録媒体基板の製造方法に関する上記記載も参照できる。また、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置用ガラススペーサのガラス組成、ガラス物性等のその他の詳細については、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板および磁気記録媒体に関する上記記載を参照できる。
なお、磁気記録再生装置用ガラススペーサは、上記ガラスからなることもでき、または上記ガラスの表面に導電性膜等の膜を一層以上設けた構成であることもできる。例えば、磁気記録媒体の回転時に生じる静電気を除去するために、ガラススペーサの表面に、メッキ法、浸漬法、蒸着法、スパッタリング法等によりNiP合金等の導電性膜を形成することができる。また、ガラススペーサは、研磨加工により表面平滑性を高くすることができ(例えば、平均表面粗さが1μm以下)、これにより磁気記録媒体とスペーサとの密着度を強めて位置ずれの発生を抑制することができる。
【0070】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体;および
本発明の一態様にかかるガラススペーサ、
の少なくとも一方を含む磁気記録再生装置、
に関する。
【0071】
磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体と、少なくとも1つのスペーサを含み、更に、通常、磁気記録媒体を回転駆動させるためのスピンドルモータと、磁気記録媒体に対して情報の記録および/または再生を行うための少なくとも1つの磁気ヘッドを含む。
上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むことができ、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を複数含むこともできる。上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つのスペーサとして本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことができ、本発明の一態様にかかるガラススペーサを複数含むこともできる。磁気記録媒体の熱膨張係数とスペーサの熱膨張係数との差が小さいことは、両者の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象、例えば、磁気記録媒体の歪み、磁気記録媒体の位置ずれによる回転時の安定性の低下等、の発生を抑制する観点から好ましい。この観点から、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として、また複数の磁気記録媒体が含まれる場合にはより多くの磁気記録媒体として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含み、かつ、少なくとも1つのスペーサとして、また複数のスペーサが含まれる場合にはより多くのスペーサとして、本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことが好ましい。また、例えば、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、磁気記録媒体に含まれる磁気記録媒体基板を構成するガラスと、ガラススペーサを構成するガラスとが、同一のガラス組成を有するものであることができる。
【0072】
本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体および本発明の一態様にかかるガラススペーサの少なくとも一方を含むものであればよく、その他の点については磁気記録再生装置に関する公知技術を適用することができる。一態様では、磁気ヘッドとして、磁化反転をアシスト(磁気信号の書き込みを補助)するためのエネルギー源(例えばレーザー光源等の熱源、マイクロ波等)と、記録素子部と、再生素子部とを有するエネルギーアシスト磁気記録ヘッドを用いることができる。このような、エネルギーアシスト磁気記録ヘッドを含むエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置は、高記録密度かつ高い信頼性を有する磁気記録再生装置として有用である。また、レーザー光源等を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを備えた熱アシスト記録方式等のエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体の製造時には、磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を磁気記録媒体基板上に形成することが行われる場合がある。このような磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。このような高温での処理に耐え得る高い耐熱性を有し得る磁気記録媒体基板として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は好ましい。ただし、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、エネルギーアシスト方式の磁気記録再生装置に限定されるものではない。
【実施例0073】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0074】
[実施例No.1~No.139]
下記表1(表1-1~表1-7)に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等の原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持してから熔融ガラスを成形して、下記評価のためのガラス(非晶質の酸化物ガラス)を得た。
【0075】
<ガラス物性の評価>
(1)ガラス転移温度(Tg)、平均線膨張係数(α)
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
【0076】
(2)ヤング率
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
【0077】
(3)比重
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
【0078】
(4)比弾性率
上記(2)で得られたヤング率および(3)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
【0079】
(5)ガラス安定性
各ガラス100gを白金製の坩堝に入れて、炉内温度を1250℃、1300℃または1350℃に設定した加熱炉内に各坩堝を投入し、炉内温度を維持したまま16時間放置(保持テスト)した。16時間経過後、加熱炉内から坩堝を取り出し、坩堝内のガラスを耐火物上に移して室温まで冷却し、各ガラスの結晶の有無を光学顕微鏡で観察し(倍率40~100倍)、以下の基準で評価した。
A:ガラス表面、内部および白金坩堝底部との界面に結晶なし
B:ガラス表面および白金坩堝底部との界面に直径数十μmの結晶が10ケ以内/100g
C:ガラス表面および白金坩堝底部との界面に直径数十μmの結晶が10ケ以上/100g
D:ガラス内部に結晶あり
E:ガラス表面、内部および白金坩堝底部との界面に結晶あり
F:ガラス全体に結晶多数でくもり気味
G:ガラスが白濁
【0080】
<磁気記録媒体基板の作製>
(1)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを得ることができる。
(方法A)
下記表に示す組成のガラスについて、清澄、均質化した熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径99mm、厚さ0.7mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
下記表に示す組成のガラスについて、清澄、均質化した熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、本実施例では上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。また、下記方法C、Dは、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクの製造方法としても好適である。
(方法C)
熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
【0081】
(2)ガラス基板の作製
上述の各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径97mm、厚さ0.5mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを、磁気記録再生装置用ガラススペーサに仕上げることができる。
上記で得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。実施例のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面粗れなどは認められず、平滑な表面であった。
各組成のガラスについて、ガラス基板を4枚作製し、それぞれ下記評価(1)、(2)もしくは(3)または後述の磁気記録媒体の作製のために使用した。
【0082】
<磁気記録媒体基板の評価>
(1)エッチングレート(耐薬品性)
上記で作製した各磁気ディスク用ガラス基板の主表面の一部に、エッチングされない部分を作るためにマスク処理を施し、その状態のガラス基板を、液温を50℃に維持した濃度0.5質量%の水酸化カリウム水溶液に所定時間浸漬した。その後、ガラス基板を水溶液から引き上げ、マスクを除去してマスクにより水溶液に触れなかった部分とマスクせずに水溶液に触れた部分との段差の深さを測定した。この段差の深さが所定時間のガラスのエッチング量(エッチング深さ)に相当する。このエッチング量を浸漬時間で割ることにより単位時間あたりのエッチング量、即ちエッチングレート(耐薬品性)を算出した。
実施例の各磁気ディスク用ガラス基板について求められたエッチングレート(耐薬品性)は、0.5nm/分以下であった。
【0083】
(2)70G衝撃時の基板変形量
耐衝撃性の評価として、上記で作製した各磁気ディスク用ガラス基板について、70G(Gは重力加速度)衝撃時の基板変形量を以下の評価方法によって求めた。HDDにおいて、磁気ディスクとランプ(ramp)との間隔は、通常、0.25mm程度である。したがって、耐衝撃性としては、大きな衝撃、例えば重力加速度の70倍の衝撃(70G)が加わったときに磁気ディスク用ガラス基板の外周端部の変形量が0.25mm以下であることが好ましく、0.25mm未満であることがより好ましい。即ち、以下の方法によって求められる70G衝撃時の基板変形量は、0.25mm以下であることが好ましく、0.25mm未満であることがより好ましい。70G衝撃時の基板変形量は、例えば0.20mm以上であることができるが、この値を下回ることも好ましい。
(評価方法)
衝撃試験装置の試験台に締結した固定軸に磁気ディスク用ガラス基板の内径穴を挿入し、キャップを被せ、キャップごとねじ止めして固定する。
衝撃試験装置の試験台の高さ(試験台の落下距離)、および試験台が落下したときの受け台上に設置する緩衝材を調整して、所定の衝撃力になるように調整する。緩衝材による調整は微調整である。衝撃力や衝撃作用時間の測定は試験台に取り付けられた加速度センサーおよび加速度センサーの出力信号をアンプで増幅し、パーソナルコンピュータでアンプの出力信号を処理しそれぞれの値を求める。試験台高さや緩衝材の条件を変えて何回か試験台を落下させて、そのときの衝撃力および衝撃作用時間を求めながら、所定の衝撃力が得られるよう試験台の高さや緩衝材の条件を定める。
試験台の高さや緩衝材の条件を定めたら、次に衝撃時の磁気ディスク用ガラス基板の外周端部の振れの量(変位量)を高速度カメラを用いて確認する。具体的には、高輝度照明装置を用い、解像度を高めた撮影を行い、取り込んだ画像から衝撃力が加わった時の磁気ディスク用ガラス基板の外周端部の瞬時の動きを撮像する(1フレーム:1万分の1秒、撮影時間:30m秒)。撮像の結果から磁気ディスク用ガラス基板の外周端部の挙動をとらえて数値化し、最大振れ(変位量)を求める。横軸に衝撃力が加わった後の経過時間、縦軸に磁気ディスク用ガラス基板の外周端部の変位量を取ったグラフを作成する。縦軸上、マイナスの値は下方への変位であり、プラスの値は上方への変位である。落下時の衝撃により、磁気ディスク用ガラス基板の外周端部は落下直後に下方に変位量Y0(マイナスの値)で変位し、反動でその直後に上方に変位量Y1(プラスの値)で変位し、これを繰り返しながら減衰していく。したがって、下方への変位量の最大値は落下直後の変位量Y0であり、上方への変位量の最大値は下方への変位量Y0での変位の直後の上方への変位量Y1である。ある衝撃力を加えた際の変位量は「Y1-Y0」として求める。70Gの衝撃時の変位量「Y1-Y0」は比較的小さな値になるため、変位量を高精度に求めることは難しい。そこで、衝撃力の大きさと変位量「Y1-Y0」との間には比例関係があるため、70Gより大きな範囲で衝撃力の大きさを変えて、各衝撃力における変位量「Y1-Y0」を求め、縦軸に変位量「Y1-Y0」を取り、横軸に衝撃力の大きさを取ったグラフにプロットし、最小二乗法により近似直線を作成し、この近似直線の一次式を用いて、70Gでの変位量「Y1-Y0」を求める。
表2に示す変位量「Y1-Y0」は、衝撃力を120G、140G、170G、190Gの4つの異なる値として、各衝撃力での変位量「Y1-Y0」の値から求めた70G衝撃時の基板変形量である。
【0084】
[比較例1]
特許文献1(特開2002-348141号公報)の表3に示されている実施例3の組成のガラスについて、上記の実施例と同様の方法で磁気ディスク用ガラス基板を作製した。作製された磁気ディスク用ガラス基板について、上記と同様の方法で70G衝撃時の基板変形量を求めた。
【0085】
以上の結果を、表2(表2-1~2-7)に示す。
【0086】
【表1-1】
【0087】
【表1-2】
【0088】
【表1-3】
【0089】
【表1-4】
【0090】
【表1-5】
【0091】
【表1-6】
【0092】
【表1-7】
【0093】
【表2-1】
【0094】
【表2-2】
【0095】
【表2-3】
【0096】
【表2-4】
【0097】
【表2-5】
【0098】
【表2-6】
【0099】
【表2-7】
【0100】
[磁気記録媒体(磁気ディスク)の作製]
以下の方法により、上記で作製した磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
【0101】
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁気記録層を順次成膜した。
【0102】
このとき、付着層は、厚さ20nmの-アモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて、下地層としてMgOからなる10nm厚の層を形成した。また、磁気記録層は、厚さ10nmのFePtまたはCoPtのグラニュラー層となるように、FePtCまたはCoPtCターゲットを用いて成膜温度200~400℃にて成膜した。
【0103】
磁気記録層までの成膜を終えた磁気ディスクを成膜装置から加熱炉内に移しアニールした。アニール時の加熱炉内の温度は、500~700℃の範囲とした。このアニール処理によって、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金の磁性粒子が形成される。なお、上記に限らず、L10規則構造が生じるように加熱すればよい。
【0104】
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
【0105】
また、実施例のガラスを用いて以上の製造工程により得られたガラススペーサの表面にNiP合金の導電性膜を形成したもの(NiP合金膜付きガラススペーサ)を、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、本発明の一態様にかかるガラスとは異なる材料の基板を用いて別途準備した磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、 磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
【0106】
また、本発明の一態様にかかる同一のガラス材料を用いて、上記にて製造された磁気ディスクおよび上記にて製造されたNiP合金膜付きガラススペーサを、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。ここで、上記磁気ディスクに含まれるガラス基板および上記ガラススペーサは同一のガラス材料からなるので、上述の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象は生じない。
【0107】
本発明の一態様によれば、高密度記録化に適する磁気記録媒体を提供することができる。
【0108】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0109】
一態様によれば、SiO含有量が54モル%以上62モル%以下、MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、LiO含有量が0.2モル%以上、およびNaO含有量が5モル%以下の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用ガラスが提供される。
【0110】
上記ガラスは、優れた耐薬品性および優れた耐衝撃性を有することができる。
【0111】
一態様では、上記ガラスにおいて、LiO含有量に対するSiOとMgOの合計含有量のモル比[(SiO+MgO)/LiO]は、13以上であることができる。
【0112】
一態様では、上記ガラスにおいて、SiO、MgO、LiO、AlおよびCaOの合計含有量(SiO+MgO+LiO+Al+CaO)は、93モル%以上であることができる。
【0113】
一態様では、上記ガラスにおいて、MgO含有量に対するAlとCaOの合計含有量のモル比[(Al+CaO)/MgO]は、0.55以上であることができる。
【0114】
一態様では、上記ガラスにおいて、CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)は、6以上であることができる。
【0115】
一態様では、上記ガラスは、ガラスを液温が50℃に保たれた濃度0.5質量%のケイフッ酸水溶液に所定時間浸漬した場合の単位時間当たりのエッチング量(エッチングレート(耐薬品性))が、0.5nm/分以下であることができる。
【0116】
一態様によれば、上記磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板が提供される。
【0117】
一態様では、上記磁気記録媒体基板の70G衝撃時の基板変形量は、0.25mm以下であることができる。
【0118】
一態様によれば、上記磁気記録媒体基板と磁気記録層とを有する磁気記録媒体が提供される。
【0119】
一態様によれば、SiO含有量が54モル%以上62モル%以下、MgO含有量が15モル%以上28モル%以下、LiO含有量が0.2モル%以上、およびNaO含有量が5モル%以下の非晶質ガラスを含む磁気記録再生装置用ガラススペーサが提供される。
【0120】
一態様によれば、上記磁気記録媒体と、上記磁気記録再生装置用ガラススペーサと、の少なくとも一方を含む磁気記録再生装置が提供される。
【0121】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスおよび磁気記録再生装置用ガラススペーサを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。