(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170672
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】信号伝送基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
H05K3/46 Z
H05K3/46 B
H05K3/46 T
H05K3/46 Q
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162675
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2023015544の分割
【原出願日】2017-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】倉持 悟
(57)【要約】 (修正有)
【課題】信号の伝送効率の向上と基板の反りの抑制とを両立させることができる信号伝送基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1面13及び第1面13と反対の第2面14を有する基板12と、第1面13上に位置する第1信号層331と、第1信号層331上に位置する第1絶縁層36と、第1絶縁層36上に位置する第1グランド層351と、第2面14上に位置し、第1信号層331と電気的に接続され、第1信号層331よりも信号伝送方向に交差する幅方向の寸法が大きい第2信号層431と、第2信号層431上に位置し、第1絶縁層36よりも第1面13に交差する厚み方向の寸法が大きく弾性率が小さい第2絶縁層44と、第2絶縁層44上に位置する第2グランド層451と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び前記第1面と反対の第2面を有する基板と、
前記第1面上に位置する第1信号層と、
前記第1信号層上に位置する第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に位置する第1グランド層と、
前記第2面上に位置し、前記第1信号層と電気的に接続された第2信号層と、
前記第2信号層上に位置する第2絶縁層と、
前記第2絶縁層上に位置する第2グランド層と、
前記第1面と前記第1信号層との間に位置する第5グランド層と、
前記第2面と前記第2信号層との間に位置する第6グランド層と、を備え、
前記第2信号層の面積(S2)と前記第2信号層と前記第2グランド層との距離(d2)との比(S2/d2)は、前記第1信号層の面積(S1)と前記第1信号層と前記第1グランド層との距離(d1)との比(S1/d1)に対して比例関係を有し、
前記第2信号層の面積(S2)と前記第2信号層と前記第6グランド層との距離(d4)との比(S2/d4)は、前記第1信号層の面積(S1)と前記第1信号層と前記第5グランド層との距離(d3)との比(S1/d3)に対して比例関係を有する、信号伝送路。
【請求項2】
前記第2信号層は、前記第1信号層よりも信号伝送方向に交差する幅方向の寸法が大きく、
前記第2絶縁層は、前記第1絶縁層よりも前記信号伝送方向および前記幅方向に交差する厚み方向の寸法が大きく弾性率が小さい、請求項1に記載の信号伝送路。
【請求項3】
前記第1絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積に対して閾値以下の比率を有する、請求項2に記載の信号伝送路。
【請求項4】
前記閾値は15%である、請求項3に記載の信号伝送路。
【請求項5】
前記第1絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積と、前記第2絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積に対して閾値以下の比率を有する、請求項3又は4に記載の信号伝送路。
【請求項6】
前記第1信号層上および前記第1信号層上と反対側の少なくとも一方に位置する少なくとも一層の第3絶縁層と、
前記第2信号層上および前記第2信号層上と反対側の少なくとも一方に位置する少なくとも一層の第4絶縁層と、を更に備え、
前記第1絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第3絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和と、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第4絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和との差は、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第4絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和に対して閾値以下の比率を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の信号伝送路。
【請求項7】
前記第1信号層および前記第2信号層に電気的に接続された貫通電極を更に備える、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の信号伝送路。
【請求項8】
前記第1信号層に電気的に接続され、または前記第2信号層に電気的に接続されたキャパシタを更に備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の信号伝送路。
【請求項9】
前記第2信号層側において配線基板上に搭載可能であり、前記第1信号層側に集積回路を搭載可能である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の信号伝送路。
【請求項10】
第1面及び前記第1面と反対の第2面を有する基板を準備する工程と、
前記第1面上に第1信号層を形成する工程と、
前記第1信号層上に第1絶縁層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に第1グランド層を形成する工程と、
前記第2面上に、前記第1信号層と電気的に接続された第2信号層を形成する工程と、
前記第2信号層上に第2絶縁層を形成する工程と、
前記第2絶縁層上に第2グランド層を形成する工程と、
前記第1面と前記第1信号層との間に第5グランド層を形成する工程と、
前記第2面と前記第2信号層との間に第6グランド層を形成する工程とを備え、
前記第2信号層の面積(S2)と前記第2信号層と前記第2グランド層との距離(d2)との比(S2/d2)を、前記第1信号層の面積(S1)と前記第1信号層と前記第1グランド層との距離(d1)との比(S1/d1)に対して比例関係を有するように形成し、
前記第2信号層の面積(S2)と前記第2信号層と前記第6グランド層との距離(d4)との比(S2/d4)を、前記第1信号層の面積(S1)と前記第1信号層と前記第5グランド層との距離(d3)との比(S1/d3)に対して比例関係を有するように形成する、信号伝送路の製造方法。
【請求項11】
前記第1絶縁層を形成する工程は、前記第1絶縁層を第1温度で熱硬化することを含み、
前記第2絶縁層を形成する工程は、前記第1絶縁層を熱硬化するときに前記第2絶縁層を前記第1温度で熱硬化することを含み、
少なくとも前記第1温度から熱硬化後の第2温度までの温度区間において、前記第1絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積と、前記第2絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積に対して閾値以下の比率を有する、請求項10に記載の信号伝送路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号伝送基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、端子ピッチが異なるマザーボードとICチップとを中継するインターポーザに関する種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1では、第1面から第2面までガラス基板を貫通する貫通電極を備えたインターポーザが開示されている。インターポーザによれば、第1面上の信号層と、第2面上の信号層と、両信号層を電気的に接続する貫通電極とを介して、第1面上の信号層に電気的に接続されたICチップと、第2面上の信号層に電気的に接続されたマザーボードとの間で信号を伝送させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インターポーザを介してマザーボードとICチップとの間で信号を少ない損失で効率良く伝送するには、第1面上の信号層と第2面上の信号層との間でインピーダンスを整合させることが望ましい。インピーダンスを整合させる手法として、第1面上の絶縁層の厚みと、第2面上の絶縁層の厚みとを調整することが考えられる。
【0005】
しかしながら、インピーダンスを整合させるために絶縁層の厚みを調整したとしても、第1面上の絶縁層に作用する応力によって第1面側から基板に作用する第1面側の応力と、第2面上の絶縁層に作用する応力によって第2面側から基板に作用する第2面側の応力とのバランスをとることは困難である。そして、第1面側の応力と第2面側の応力とのバランスをとることが困難であることで、基板の反りが生じてしまう虞がある。
【0006】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、信号の伝送効率の向上と基板の反りの抑制とを両立させることができる信号伝送基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様では、
第1面及び前記第1面と反対の第2面を有する基板と、
前記第1面上に位置する第1信号層と、
前記第1信号層上に位置する第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に位置する第1グランド層と、
前記第2面上に位置し、前記第1信号層と電気的に接続され、前記第1信号層よりも信号伝送方向に交差する幅方向の寸法が大きい第2信号層と、
前記第2信号層上に位置し、第1絶縁層よりも前記第1面に交差する厚み方向の寸法が大きく弾性率が小さい第2絶縁層と、
前記第2絶縁層上に位置する第2グランド層と、を備える、信号伝送基板が提供される。
【0008】
前記第1絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積に対して閾値以下の比率を有していてもよい。
【0009】
前記閾値は15%であってもよい。
【0010】
前記第1絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積と、前記第2絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の熱膨張係数と厚み方向の寸法と弾性率との積に対して閾値以下の比率を有していてもよい。
【0011】
前記第1面と前記第1信号層との間および前記第1グランド層上の少なくとも一方に位置する少なくとも一層の第3絶縁層と、
前記第2面と前記第2信号層との間および前記第2グランド層上の少なくとも一方に位置する少なくとも一層の第4絶縁層と、を更に備え、
前記第1絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第3絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和と、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第4絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和との差は、前記第2絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積と前記第4絶縁層の厚み方向の寸法と弾性率との積との和に対して閾値以下の比率を有していてもよい。
【0012】
前記第1面から前記第2面まで前記基板を貫通し、前記第1信号層および前記第2信号層に電気的に接続された貫通電極を更に備えてもよい。
【0013】
前記第1面上に位置し、前記幅方向において前記第1信号層に隣り合う第3グランド層と、
前記第2面上に位置し、前記幅方向において前記第2信号層に隣り合う第4グランド層と、を更に備えてもよい。
【0014】
前記第1面上において前記第1信号層に電気的に接続され、または前記第2面上において前記第2信号層に電気的に接続されたキャパシタを更に備えてもよい。
【0015】
前記基板は、ガラスを含有してもよい。
【0016】
前記第2面側において配線基板上に搭載可能であり、前記第1面上に集積回路を搭載可能であってもよい。
【0017】
本開示の他の一態様では、
第1面及び前記第1面と反対の第2面を有する基板を準備する工程と、
前記第1面上に第1信号層を形成する工程と、
前記第1信号層上に第1絶縁層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に第1グランド層を形成する工程と、
前記第2面上に、前記第1信号層と電気的に接続され、前記第1信号層よりも信号伝送方向に交差する幅方向の寸法が大きい第2信号層を形成する工程と、
前記第2信号層上に、第1絶縁層よりも前記第1面に交差する厚み方向の寸法が大きく弾性率が小さい第2絶縁層を形成する工程と、
前記第2絶縁層上に第2グランド層を形成する工程と、を備える、信号伝送基板の製造方法が提供される。
【0018】
前記第1絶縁層を形成する工程は、前記第1絶縁層を第1温度で熱硬化することを含み、
前記第2絶縁層を形成する工程は、前記第1絶縁層を熱硬化するときに前記第2絶縁層を前記第1温度で熱硬化することを含み、
少なくとも前記第1温度から熱硬化後の第2温度までの温度区間において、前記第1絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積と、前記第2絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積との差は、前記第2絶縁層の熱膨張係数と前記第1温度に対する温度変化と前記厚み方向の寸法と前記弾性率との積に対して閾値以下の比率を有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、信号の伝送効率の向上と基板の反りの抑制とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態による信号伝送基板を示す断面図である。
【
図2】本実施形態による信号伝送基板を示す
図1のII-II断面図である。
【
図3】本実施形態による信号伝送基板を示す
図1のIII-III断面図である。
【
図4】本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図4に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図6】
図5に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図7】
図6に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図8】
図7に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図8に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図10】
図9に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図11】
図10に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図12】
図11に続く本実施形態による信号伝送基板の製造方法を示す断面図である。
【
図13】本実施形態による信号伝送基板の実験例において、温度と、温度に応じた第1絶縁層の応力と、応力に相関するパラメータとの対応関係を示す図である。
【
図14】本実施形態による信号伝送基板の実験例において、温度と、温度に応じた第2絶縁層の応力と、応力に相関するパラメータとの対応関係を示す図である。
【
図15】本実施形態による信号伝送基板の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の応力に相関する押し込み弾性率の測定に用いることができる圧子の斜視図である。
【
図16】本実施形態による信号伝送基板の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の押し込み弾性率の測定例を示す断面図である。
【
図17】本実施形態による信号伝送基板の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の押し込み弾性率の測定例を示すグラフである。
【
図18】本実施形態の第1の変形例による信号伝送基板を示す第1面上の信号層側の断面図である。
【
図19】本実施形態の第1の変形例による信号伝送基板を示す第2面上の信号層側の断面図である。
【
図20】本実施形態の第2の変形例による信号伝送基板を示す第1面上の信号層側の断面図である。
【
図21】本実施形態の第2の変形例による信号伝送基板を示す第2面上の信号層側の断面図である。
【
図22】本実施形態の第3の変形例による信号伝送基板を示す断面図である。
【
図23】信号伝送基板が搭載される製品の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態に係る信号伝送基板の構成及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本明細書において、「基板」、「基材」、「シート」や「フィルム」など用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「基板」や「基材」は、シートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。更に、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」や「直交」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0022】
信号伝送基板10
以下、本開示の実施の形態について説明する。まず、本実施の形態に係る信号伝送基板の構成について説明する。本実施形態の信号伝送基板は、例えば、高周波信号を伝送するインターポーザ基板などに用いることができる。
図1は、本実施形態による信号伝送基板10を示す断面図である。
図2は、本実施形態による信号伝送基板10を示す
図1のII-II断面図である。
図3は、本実施形態による信号伝送基板10を示す
図1のIII-III断面図である。
【0023】
図1乃至
図3に示すように、信号伝送基板10は、基板12と、貫通電極22と、第1配線構造部30と、第2配線構造部40とを備える。以下、信号伝送基板10の各構成要素について説明する。
【0024】
(基板12)
基板12は、第1面13、及び、第1面13の反対側に位置する第2面14を含む。また、基板12には、第1面13から第2面14まで貫通する複数の貫通孔20が設けられている。
図1では、1つの貫通孔20のみを代表的に図示している。信号伝送基板10は、第2面14側において図示しないマザーボード上に搭載可能であり、第1面13上に図示しないICチップすなわち集積回路を搭載可能である。
【0025】
基板12は、一定の絶縁性を有する無機材料を含んでいる。例えば、基板12は、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、樹脂基板、シリコン基板、炭化シリコン基板、アルミナ(Al2O3)基板、窒化アルミ(AlN)基板、酸化ジリコニア(ZrO2)基板など、又は、これらの基板が積層されたものである。基板12は、アルミニウム基板、ステンレス基板など、導電性を有する材料から構成された基板を部分的に含んでいてもよい。
【0026】
基板12で用いるガラスの例としては、無アルカリガラスなどを挙げることができる。無アルカリガラスとは、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分を含まないガラスである。無アルカリガラスは、例えば、アルカリ成分の代わりにホウ酸を含む。また、無アルカリガラスは、例えば、酸化カルシウムや酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物を含む。
【0027】
図1に示す例において、基板12に形成された貫通孔20は、基板12の第1面13及び第2面14から基板12の厚み方向D3の中央部に向かうにつれて幅が小さくなる形状を有している。しかしながら、貫通孔20の形状が特に限られることはない。例えば、貫通孔20の側壁21は、厚み方向D3に沿って広がっていてもよい。また、側壁21の一部が湾曲していてもよい。
【0028】
(貫通電極22)
貫通電極22は、貫通孔20の内部に位置し、且つ導電性を有する部材である。本実施形態において、貫通電極22の厚みは、貫通孔20の幅よりも小さく、このため、貫通孔20の内部には、貫通電極22が存在しない空間がある。すなわち、貫通電極22は、いわゆるコンフォーマルビアである。なお、
図1の例において、貫通孔20の内部の空間は、貫通電極22の内側に位置する後述する第1面第1有機層34および第2面第1有機層42で埋められている。
【0029】
貫通電極22が導電性を有する限りにおいて、貫通電極22の構成は特には限定されない。例えば、貫通電極22は、導電性を有する単一の層から構成されていてもよく、若しくは、導電性を有する複数の層を含んでいてもよい。また、貫通電極22は、貫通孔20の側壁21側から中心側へ順に並ぶシード層およびめっき層を含んでいてもよい。この場合、貫通孔20の側壁21とシード層との間に中間層を設けてもよい。中間層を構成する材料としては、例えば、チタン、チタン窒化物、モリブデン、モリブデン窒化物、タンタル、タンタル窒化物等、又はこれらを積層したものを用いることができる。中間層は、例えば、蒸着法やスパッタリング法などの物理成膜法で形成される。中間層は、例えば、側壁21に対するシード層やめっき層の密着性を高めるという役割を果たす。また、中間層は、シード層又はめっき層に含まれる金属元素が貫通孔20の側壁21を介して基板12の内部に拡散することを抑制するという役割を果たしてもよい。
【0030】
(第1配線構造部30)
次に、第1配線構造部30について説明する。第1配線構造部30は、基板12の第1面13側に電気的な回路を構成するよう第1面13側に設けられた導電層や絶縁層などの層を有する。
図1の例において、第1配線構造部30は、第1面第1導電層31と、第3絶縁層の一例である第1面第1有機層34と、第1面第2導電層33と、第1絶縁層の一例である第1面第2有機層36と、第1面第3導電層35とを有する。
【0031】
第1配線構造部30は、絶縁層を介して信号線の表裏をグランド面で挟むストリップ線路を有する。以下、第1配線構造部30が有するストリップ線路のことを、第1面13側のストリップ線路とも呼ぶ。
図1および
図2に示すように、第1面13側のストリップ線路は、第1信号層の一例である信号層331と、グランド層311と、第1グランド層の一例であるグランド層351とを有する。
【0032】
〔第1面第1導電層31〕
第1面第1導電層31は、基板12の第1面13上に位置する、導電性を有する層である。第1面13側のストリップ線路におけるグランド層311は、一部の第1面第1導電層31によって構成されている。
【0033】
図1に示すように、第1面第1導電層31は、シード層221と、めっき層222とを有する。シード層221は、基板12の第1面13上に位置する。めっき層222は、シード層221上に位置する。
【0034】
シード層221は、電解めっき処理によってめっき層222を形成する電解めっき工程の際に、めっき液中の金属イオンを析出させてめっき層222を成長させるための土台となる、導電性を有する層である。シード層221の材料としては、銅などの導電性を有する材料を用いることができる。シード層221の材料は、めっき層222の材料と同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、シード層221は、チタンと銅を順に積層した積層膜や、クロムなどであってもよい。シード層221は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、無電解めっき法などによって形成してもよい。
【0035】
めっき層222は、めっき処理によって形成される、導電性を有する層である。めっき層222は、銅を含有する。めっき層222は、銅と、銅以外の金属、例えば、金、銀、白金、ロジウム、スズ、アルミニウム、ニッケル、クロムとの合金を含有していてもよく、または、銅と銅以外の金属とを積層したものであってもよい。
【0036】
〔グランド層311〕
グランド層311は、第1面13上に位置し、接地電位などの基準電位に電気的に接続されるとともに貫通電極22から電気的に絶縁された、信号層331の特性インピーダンスを制御する層である。グランド層311は、第1面13に直交すなわち交差する厚み方向D3のうち
図1の下方D32に間隔を空けて信号層331に隣り合うように第1面13上に位置している。
図1および
図2の例において、グランド層311は、第1面第1有機層34を間に挟み込むようにして信号層331に対向している。グランド層311は、信号層331よりも大きい総面積を有する。信号層331の特性インピーダンスを所望の値に制御するため、グランド層311は、信号層331との間に厚み方向D3の所定の間隔d3を有している。
【0037】
〔第1面第1有機層34〕
第1面第1有機層34は、第1面13上または第1面第1導電層31上に位置し、有機材料を含み、且つ絶縁性を有する層である。
【0038】
第1面第1有機層34は、第1面13側と第2面14側との間における伝送路のインピーダンス整合と絶縁層による応力のバランスとの双方を考慮した厚み方向D3の寸法すなわち厚みh3を有していてもよい。また、第1面第1有機層34は、当該インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を考慮した弾性率を有していてもよい。一例として、第1面第1有機層34は、10μmの厚みh3を有するとともに、25℃すなわち室温において3.70GPaの押し込み弾性率を有していてもよい。
【0039】
第1面第1有機層34は、0.003以下、好ましくは0.002以下、より好ましくは0.001以下の誘電正接を有する有機材料を含んでもよい。第1面第1有機層34の有機材料としては、ポリイミド、エポキシ樹脂などを用いることができる。誘電正接の小さい有機材料を用いて第1面第1有機層34を構成することにより、信号層331を通るべき電気信号の一部が第1面第1有機層34を通ってしまうことを抑制することができる。これにより、信号伝送基板10の帯域を高周波側に広げることができる。
【0040】
なお、第1面第1有機層34は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。
【0041】
〔第1面第2導電層33〕
第1面第2導電層33は、厚み方向D3のうち
図1の上方向D31に間隔を空けて第1面第1導電層31に隣り合うように第1面13上に位置する、導電性を有する層である。
図1の例において、第1面第2導電層33は、第1面第1有機層34上に位置する。第1面13側のストリップ線路における信号層331は、一部の第1面第2導電層33によって構成されている。
【0042】
第1面第2導電層33の厚みは、第1面第1導電層31の厚みと同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
第1面第2導電層33は、貫通電極22や第1面第1導電層31と同様に、第1面第1有機層34上に順に積層されたシード層及びめっき層を含んでいてもよい。第1面第2導電層33を構成する材料は、貫通電極22や第1面第1導電層31を構成する材料と同様である。
【0044】
〔信号層331〕
信号層331は、第1面13上の一例である第1面第1有機層34上に位置し、貫通電極22に電気的に接続された、高周波信号などの電気信号を伝送する層である。高周波信号としては、例えば、0.1GHz以上の電気信号が挙げられる。信号層331は、第1面13に沿って信号伝送方向の一例である
図1の延伸方向D1すなわち
図2の紙面垂直方向に延びている。
図1の例において、信号層331は、延伸方向D1の一端において一部の第1面第1導電層31を介して貫通電極22に電気的に接続されている。
【0045】
信号層331の厚みは、5μm以上であることが好ましい。信号層331の厚みを5μm以上とすることで、信号層331の導体抵抗損を少なくすることができるので、信号の伝送損失を抑制することができる。信号層331の厚みは、20μm以下であることがより好ましい。信号層331の厚みを20μm以下とすることで、第1面第1有機層34との間での界面応力を抑制することができるので、信号層331の剥離を抑制することができる。
【0046】
第1面13側には、マザーボードと比較して端子ピッチが小さいICチップが電気的に接続される。このため、第1面13側の信号層331は、
図2において符号W1で示される延伸方向D1に直交する幅方向D2の寸法すなわち配線幅W1が、ICチップの端子ピッチにあわせて小さいことが望ましい。一例として、信号層331の配線幅W1は、300μm以下であってもよい。
【0047】
〔第1面第2有機層36〕
第1面第2有機層36は、第1面第1有機層34上または第1面第2導電層33上に位置し、有機材料を含み、且つ絶縁性を有する層である。
【0048】
第1面第2有機層36は、第1面13側と第2面14側との間における伝送路のインピーダンス整合と絶縁層による応力のバランスとの双方を考慮した厚みh1および弾性率を有する。一例として、第1面第2有機層36は、10μmの厚みh1を有するとともに、25℃において3.70GPaの押し込み弾性率を有していてもよい。このように、第1面第2有機層36がインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を考慮した厚みh1および弾性率を有することを条件の1つとして、インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することで、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0049】
第1面第1有機層34と同様に、第1面第2有機層36は、0.003以下、好ましくは0.002以下、より好ましくは0.001以下の誘電正接を有する有機材料を含んでもよい。第1面第2有機層36の有機材料としては、ポリイミド、エポキシ樹脂などを用いることができる。誘電正接の小さい有機材料を用いて第1面第2有機層36を構成することにより、信号層331を通るべき電気信号の一部が第1面第2有機層36を通ってしまうことを抑制することができる。これにより、信号伝送基板10の帯域を更に好適に高周波側に広げることができる。
【0050】
なお、第1面第1有機層34と同様に、第1面第2有機層36は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。
【0051】
〔第1面第3導電層35〕
第1面第3導電層35は、
図1の上方向D31に間隔を空けて第1面第2導電層33すなわち信号層331に隣り合うように第1面13上に位置する、導電性を有する層である。
図1の例において、第1面第3導電層35は、第1面第2有機層36上に位置する。
【0052】
第1面13側のストリップ線路におけるグランド層351は、一部の第1面第3導電層35によって構成されている。グランド層351以外の一部の第1面第3導電層35は、ICチップが電気的に接続される端子部352を構成しており、端子部352は、信号層331を介して貫通電極22に電気的に接続されている。
【0053】
第1面第3導電層35の厚みは、第1面第1導電層31の厚みと同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0054】
第1面第3導電層35は、貫通電極22や第1面第1導電層31と同様に、順に積層されたシード層及びめっき層を含んでいてもよい。第1面第3導電層35を構成する材料は、貫通電極22や第1面第1導電層31を構成する材料と同様である。
【0055】
〔グランド層351〕
グランド層351は、第1面第2有機層36上に位置し、接地電位などの基準電位に電気的に接続されるとともに貫通電極22から電気的に絶縁された、信号層331の特性インピーダンスを制御する層である。グランド層351は、信号層331よりも大きい総面積をする。グランド層351は、第1面第2有機層36を間に挟み込むようにして厚み方向D3において信号層331に対向している。信号層331の特性インピーダンスを所望の値に制御するため、グランド層351は、信号層331との間に厚み方向D3の所定の間隔d1を有している。
【0056】
(第2配線構造部40)
次に、第2配線構造部40について説明する。第2配線構造部40は、基板12の第2面14側に電気的な回路を構成するよう第2面14側に設けられた導電層や絶縁層などの層を有する。
図1の例において、第2配線構造部40は、第2面第1導電層41と、第4絶縁層の一例である第2面第1有機層42と、第2面第2導電層43と、第2絶縁層の一例である第2面第2有機層44と、第2面第3導電層45とを有する。
【0057】
第1配線構造部30と同様に、第2配線構造部40は、絶縁層を介して信号線の表裏をグランド面で挟むストリップ線路を有する。以下、第2配線構造部40が有するストリップ線路のことを、第2面14側のストリップ線路とも呼ぶ。第2面14側のストリップ線路は、貫通電極22を介して第1面13側のストリップ線路に電気的に接続されている。
図1および
図3に示すように、第2面14側のストリップ線路は、第2信号層の一例である信号層431と、グランド層411と、第2グランド層の一例であるグランド層451とを有する。
【0058】
〔第2面第1導電層41〕
第2面第1導電層41は、基板12の第2面14上に位置する、導電性を有する層である。第2面14側のストリップ線路におけるグランド層411は、一部の第2面第1導電層41によって構成されている。
【0059】
図1に示すように、第2面第1導電層41は、第1面第1導電層31と同様に、シード層221と、めっき層222とを有する。シード層221は、基板12の第2面14上に位置する。めっき層222は、シード層221上に位置する。
【0060】
〔グランド層411〕
グランド層411は、第2面14上に位置し、接地電位などの基準電位に電気的に接続されるとともに貫通電極22から電気的に絶縁された、信号層431の特性インピーダンスを制御する層である。グランド層411は、信号層431よりも大きい総面積を有する。グランド層411は、厚み方向D3のうち
図1の上方D31に間隔を空けて信号層431に隣り合うように第2面14上に位置している。
図1および
図3の例において、グランド層411は、第2面第1有機層42を間に挟み込むようにして信号層431に対向している。信号層431の特性インピーダンスを所望の値に制御するため、グランド層411は、信号層431との間に厚み方向D3の所定の間隔d4を有している。
【0061】
〔第2面第1有機層42〕
第2面第1有機層42は、第2面14上または第2面第1導電層41上に位置し、有機材料を含み、且つ絶縁性を有する層である。
【0062】
第2面第1有機層42は、第1面13側と第2面14側との間における伝送路のインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を考慮した厚みh4および弾性率を有していてもよい。例えば、第2面第1有機層42は、第1面第1有機層34よりも厚みが大きく弾性率が小さくてもよい。言い換えれば、第1面第1有機層34と第2面第1有機層42とは、厚みと弾性率との積の差が閾値以下に抑えられている。一例として、第2面第1有機層42は、19μmの厚みh4を有するとともに、25℃において2.10GPaの押し込み弾性率を有していてもよい。
【0063】
第1面第1有機層34と同様に、第2面第1有機層42は、0.003以下、好ましくは0.002以下、より好ましくは0.001以下の誘電正接を有する有機材料を含んでもよい。第2面第1有機層42の有機材料としては、ポリイミド、エポキシ樹脂などを用いることができる。誘電正接の小さい有機材料を用いて第2面第1有機層42を構成することにより、信号層431を通るべき電気信号の一部が第2面第1有機層42を通ってしまうことを抑制することができる。これにより、信号伝送基板10の帯域を高周波側に広げることができる。
【0064】
なお、第2面第1有機層42は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。
【0065】
〔第2面第2導電層43〕
第2面第2導電層43は、厚み方向D3のうち
図1の下方向D32に間隔を空けて第2面第1導電層41に隣り合うように第2面14上に位置する、導電性を有する層である。
図1の例において、第2面第2導電層43は、第2面第1有機層42上に位置する。第2面14側のストリップ線路における信号層431は、一部の第2面第2導電層43によって構成されている。
【0066】
第2面第2導電層43の厚みは、第2面第1導電層41の厚みと同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
第2面第2導電層43は、貫通電極22や第1面第1導電層31と同様に、第2面第1有機層42上に順に積層されたシード層及びめっき層を含んでいてもよい。第2面第2導電層43を構成する材料は、貫通電極22や第1面第1導電層31を構成する材料と同様である。
【0068】
〔信号層431〕
信号層431は、第2面14上の一例である第2面第1有機層42上に位置し、貫通電極22を介して第1面13上の信号層331と電気的に接続され、信号層331とともに高周波信号などの電気信号を伝送する層である。信号層431は、第1面13に沿って
図1の延伸方向D1に延びている。
図1の例において、信号層431は、延伸方向D1の一端において貫通電極22に電気的に接続されている。
【0069】
信号層431の厚みは、5μm以上であることが好ましい。信号層431の厚みを5μm以上とすることで、信号層431の導体抵抗損を少なくすることができるので、信号の伝送損失を抑制することができる。信号層431の厚みは、20μm以下であることがより好ましい。信号層431の厚みを20μm以下とすることで、第2面第1有機層42との間での界面応力を抑制することができるので、信号層431の剥離を抑制することができる。
【0070】
図3において符号W2で示される幅方向D2の信号層431の寸法すなわち配線幅W2は、第1面13側と第2面14側との間における伝送路のインピーダンス整合を考慮した配線幅W2となっている。具体的には、信号層431の配線幅W2は、第1面13上の信号層331の配線幅W1よりも大きい。例えば、信号層331との間で特性インピーダンスの容量成分を一致させるため、信号層431の面積S2と信号層431とグランド層451との距離d2との比S2/d2は、信号層331の面積S1と信号層331とグランド層351との距離d1との比S1/d1に対して所定の比例関係を有していてもよく、例えば、一致していてもよい。また、信号層431の面積S2と信号層431とグランド層411との距離d4との比S2/d4は、信号層331の面積S1と信号層331とグランド層311との距離d3との比S1/d3に対して所定の比例関係を有していてもよく、例えば、一致していてもよい。このように、信号層431が信号層331との間でインピーダンス整合を考慮した配線幅W2、W1の大小関係を有することを条件の1つとして、インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0071】
〔第2面第2有機層44〕
第2面第2有機層44は、第2面第1有機層42上または第2面第2導電層43上に位置し、有機材料を含み、且つ絶縁性を有する層である。
【0072】
第1面第1有機層34、第1面第2有機層36および第2面第1有機層42と同様に、第2面第2有機層44は、第1面13側と第2面14側との間における伝送路のインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を考慮した厚みh2および弾性率を有する。
【0073】
具体的には、第2面第2有機層44は、第1面第2有機層36よりも厚みが大きく弾性率が小さい。弾性率が小さいとは、剛性が小さいすなわち柔らかいということもできる。
【0074】
ここで、本実施形態では、端子ピッチが狭いICチップとの電気的接続を考慮して、ICチップが搭載される第1面13側の信号層331の配線幅W1を、マザーボードに搭載される第2面14側の信号層431の配線幅W2より小さくしている。そして、配線幅W1、W2が異なる信号層331、431の間でインピーダンスを整合させるため、配線幅W2が大きい信号層431とグランド層451との間隔d2に比例する第2面第2有機層44の厚みh2を、配線幅W1が小さい信号層331とグランド層351との間隔d1に比例する第1面第2有機層36の厚みh1より大きくしている。更に、厚みが大きい第2面第2有機層44による第2面14側の応力と、厚みが小さい第1面第2有機層36による第1面13側の応力とをバランスさせるため、厚みが大きい第2面第2有機層44の弾性率を、厚みが小さい第1面第2有機層36の弾性率より小さくしている。このように、第1面第2有機層36と第2面第2有機層44とが、インピーダンス整合と応力バランスとの双方を考慮した厚みおよび弾性率の大小関係を有することで、インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0075】
第2面第2有機層44は、第1面第2有機層36に対して、厚みと弾性率との積の差が閾値以下であってもよい。具体的には、第1面第2有機層36の厚みと弾性率との積と、第2面第2有機層44の厚みと弾性率との積の差は、第2面第2有機層44の厚みと弾性率との積に対して閾値以下の比率を有していてもよい。閾値は、15%であってもよい。一例として、第2面第2有機層44は、19μmの厚みh4を有するとともに、25℃において2.10GPaの押し込み弾性率を有していてもよい。有機層36、44の厚みと弾性率との積は、有機層36、44に作用する応力に比例する。したがって、第1面第2有機層36と第2面第2有機層44との間で応力に比例する厚みと弾性率との積の差を閾値以下とすることで、インピーダンス整合と応力のバランスとの双方をより有効に確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とをより有効に両立させることができる。
【0076】
第2面第2有機層44は、第1面第2有機層36に対して、熱膨張係数と厚みと弾性率との積の差が閾値以下であってもよい。具体的には、第1面第2有機層36の熱膨張係数と厚みと弾性率との積と、第2面第2有機層44の熱膨張係数と厚みと弾性率との積の差は、第2面第2有機層44の熱膨張係数と厚みと弾性率との積に対して閾値以下の比率を有していてもよい。閾値は、15%であってもよい。有機層36、44の熱膨張係数と厚みと弾性率との積は、厚みと弾性率との積と比較してより精緻に有機層36、44の応力に比例する。したがって、第1面第2有機層36と第2面第2有機層44との間で応力に精緻に比例する熱膨張係数と厚みと弾性率との積の差を閾値以下とすることで、インピーダンス整合と応力のバランスとの双方を更に有効に確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを更に有効に両立させることができる。
【0077】
第1面第2有機層36の厚みh1と弾性率との積と第1面第1有機層34の厚みh3と弾性率との積との和は、第2面第2有機層44の厚みh2と弾性率との積と第2面第1有機層42の厚みh4と弾性率との積との和に対して、閾値以下の差を有していてもよい。具体的には、第1面第2有機層36の厚みh1と弾性率との積と第1面第1有機層34の厚みh3と弾性率との積との和と、第2面第2有機層44の厚みh2と弾性率との積と第2面第1有機層42の厚みh4と弾性率との積との和との差は、第2面第2有機層44の厚みh2と弾性率との積と第2面第1有機層42の厚みh4と弾性率との積との和に対して閾値以下の比率を有していてもよい。閾値は、15%であってもよい。第1面13側の応力には、第1面13上の全ての有機層34、36のそれぞれに作用する応力が関与する。また、第2面14側の応力には、第2面14上の全ての有機層42、44のそれぞれに作用する応力が関与する。したがって、第1面第2有機層36の厚みh1と弾性率との積と第1面第1有機層34の厚みh3と弾性率との積との和が、第2面第2有機層44の厚みh2と弾性率との積と第2面第1有機層42の厚みh4と弾性率との積との和に対して閾値以下の差を有するようにすることで、応力のバランスを更に有効に確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを更に有効に両立させることができる。このように、第1面13側と第2面14側とで有機層の厚みと弾性率との積の和同士が閾値以下の差を有する構成は、グランド層351上に追加の有機層すなわち第3絶縁層を設け、グランド層451上に追加の有機層すなわち第4絶縁層を設ける場合も同様でよい。
【0078】
第1面第1有機層34と同様に、第2面第2有機層44は、0.003以下、好ましくは0.002以下、より好ましくは0.001以下の誘電正接を有する有機材料を含む。第2面第2有機層44の有機材料としては、ポリイミド、エポキシ樹脂などを用いることができる。誘電正接の小さい有機材料を用いて第2面第2有機層44を構成することにより、信号層431を通るべき電気信号の一部が第2面第2有機層44を通ってしまうことを抑制することができる。これにより、信号伝送基板10の帯域を更に好適に高周波側に広げることができる。
【0079】
なお、第1面第1有機層34と同様に、第2面第2有機層44は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。
【0080】
〔第2面第3導電層45〕
第2面第3導電層45は、
図1の下方向D32に間隔を空けて第2面第2導電層43すなわち信号層431に隣り合うように第1面13上に位置する、導電性を有する層である。
図1の例において、第2面第3導電層45は、第2面第2有機層44上に位置する。第2面14側のストリップ線路におけるグランド層4511は、一部の第2面第3導電層45によって構成されている。グランド層451以外の一部の第2面第3導電層45は、マザーボードに電気的に接続される端子部452を構成しており、端子部452は、信号層431を介して貫通電極22に電気的に接続されている。
【0081】
第2面第3導電層45の厚みは、第2面第1導電層41の厚みと同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0082】
第2面第3導電層45は、貫通電極22や第1面第1導電層31と同様に、順に積層されたシード層及びめっき層を含んでいてもよい。第2面第3導電層45を構成する材料は、貫通電極22や第1面第1導電層31を構成する材料と同様である。
【0083】
〔グランド層451〕
グランド層451は、第2面第2有機層44上に位置し、接地電位などの基準電位に電気的に接続されるとともに貫通電極22から電気的に絶縁された、信号層431の特性インピーダンスを制御する層である。グランド層451は、信号層431よりも大きい総面積を有する。グランド層451は、第2面第2有機層44を間に挟み込むようにして信号層431に対向している。信号層431の特性インピーダンスを信号層331の特性インピーダンスに整合する所望の値に制御するため、グランド層451は、信号層431との間に厚み方向D3の所定の間隔d2を有している。
【0084】
信号伝送基板10の製造方法
以下、信号伝送基板10の製造方法の一例について、
図4乃至
図17を参照して説明する。
【0085】
(貫通孔20の形成工程)
図4は、本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。まず、基板12を準備する。次に、第1面13および第2面14の少なくともいずれかにレジスト層を設ける。その後、レジスト層のうち貫通孔20に対応する位置に開口を設ける。次に、レジスト層の開口において基板12を加工することにより、
図4に示すように、基板12に貫通孔20を形成することができる。基板12を加工する方法としては、反応性イオンエッチング法、深掘り反応性イオンエッチング法などのドライエッチング法や、ウェットエッチング法などを用いることができる。
【0086】
なお、基板12にレーザを照射することによって基板12に貫通孔20を形成してもよい。この場合、レジスト層は設けられていなくてもよい。レーザ加工のためのレーザとしては、エキシマレーザ、Nd:YAGレーザ、フェムト秒レーザ等を用いることができる。Nd:YAGレーザを採用する場合、波長が1064nmの基本波、波長が532nmの第2高調波、波長が355nmの第3高調波等を用いることができる。
【0087】
また、レーザ照射とウェットエッチングを適宜組み合わせることもできる。具体的には、まず、レーザ照射によって基板12のうち貫通孔20が形成されるべき領域に変質層を形成する。続いて、基板12をフッ化水素などに浸漬して、変質層をエッチングする。これによって、基板12に貫通孔20を形成することができる。その他にも、基板12に研磨材を吹き付けるブラスト処理によって基板12に貫通孔20を形成してもよい。
【0088】
第1面13側及び第2面14側の両方から基板12を加工することにより、
図4に示す、基板12の厚み方向の中央部に向かうにつれて幅が小さくなる形状を有する貫通孔20を形成することができる。
【0089】
(貫通電極22、第1面第1導電層31および第2面第1導電層41の形成工程)
図5は、
図4に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。貫通孔20を形成した後、
図5に示すように、貫通孔20の側壁21に貫通電極22を形成する。具体的には、スパッタリング法、蒸着法、無電解めっき法などによって、基板12の第1面13上、第2面14及び側壁21上にシード層221を形成する。
【0090】
図6は、
図5に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。シード層221を形成した後、
図6に示すように、シード層221上に部分的にレジスト層37を形成する。
【0091】
図7は、
図6に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。レジスト層37を形成した後、
図7に示すように、レジスト層37をマスクとした電解めっきにより、レジスト層37によって覆われていないシード層221上にめっき層222を形成する。
【0092】
図8は、
図7に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。めっき層222を形成した後、
図8に示すように、レジスト層37を除去する。
【0093】
図9は、
図8に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。レジスト層37を除去した後、
図9に示すように、シード層221のうちレジスト層37が形成されていた部分を、ウェットエッチングにより除去する。これにより、貫通電極22と、グランド層311を含む第1面第1導電層31と、グランド層411を含む第2面第1導電層41とを形成することができる。なお、めっき層222をアニールする工程を実施してもよい。
【0094】
(第1面第1有機層34および第2面第1有機層42の形成工程)
図10は、
図9に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。貫通電極22、第1面第1導電層31および第2面第1導電層41を形成した後、
図10に示すように、第1面13上または第1面第1導電層31上に、第1面第1有機層34を形成する。また、
図10に示すように、第2面14上またはグランド層411上に、第2面第1有機層42を形成する。第1面第1有機層34および第2面第1有機層42は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。このとき、第2面第1有機層42の厚みh4を第1面第1有機層34の厚みh3より大きくするとともに、第2面第1有機層42の弾性率を第1面第1有機層34の弾性率より小さくしてもよい。
【0095】
(第1面第2導電層33および第2面第2導電層43の形成工程)
図11は、
図10に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。第1面第1有機層34および第2面第1有機層42を形成した後、
図11に示すように、第1面第1有機層34上に、信号層331を含む第1面第2導電層33を形成する。また、
図11に示すように、第2面第1有機層42上に、信号層431を含む第2面第2導電層43を形成する。第1面第2導電層33および第2面第2導電層43は、第1面第1導電層31および第2面第1導電層41と同様に、レジスト層37をマスクとしたフォトリソグラフィによるシード層221およびめっき層222のパターニングによって形成してもよい。このとき、
図3に示した信号層431の配線幅W2を、
図2に示した信号層331の配線幅W1より大きく形成する。
【0096】
(第1面第2有機層36および第2面第2有機層44の形成工程)
図12は、
図11に続く本実施形態による信号伝送基板10の製造方法を示す断面図である。第1面第2導電層33および第2面第2導電層43を形成した後、
図12に示すように、第1面第1有機層34または第1面第2導電層33上に、第1面第2有機層36を形成する。また、
図12に示すように、第2面第1有機層42または第2面第2導電層43上に、第2面第2有機層44を形成する。第1面第2有機層36および第2面第2有機層44は、例えば、有機材料を含有する感光性フィルムを用いた露光処理および現像処理によって形成してもよく、または、有機材料を含有する液をスピンコートで塗布し、乾燥させることによって形成してもよい。
【0097】
このとき、第2面第2有機層44の厚みh2を第1面第2有機層36の厚みh1より大きくするとともに、第2面第2有機層44の弾性率を第1面第2有機層36の弾性率より小さくする。例えば、第2面第2有機層44を、第1面第2有機層36に対して厚みと弾性率との積の差が閾値以下となるように形成する。
【0098】
第1面第2有機層36および第2面第2有機層44を形成した後、第1面第2有機層36上に第1面第3導電層35を形成するとともに、第2面第2有機層44上に第2面第3導電層45を形成することで、
図1に示した信号伝送基板10が得られる。
【0099】
(実験例)
次に、本実施形態による信号伝送基板10の実験例について説明する。
図13は、本実施形態による信号伝送基板10の実験例において、温度と、温度に応じた第1絶縁層の応力と、応力に相関するパラメータとの対応関係を示す図である。
図14は、本実施形態による信号伝送基板10の実験例において、温度と、温度に応じた第2絶縁層の応力と、応力に相関するパラメータとの対応関係を示す図である。なお、
図13および
図14中において、“E”を含む数値は、“E”の直前の数値に、10を底とし“E”の直後の数値を冪指数とした冪演算による数値を乗じた数値である。例えば、
図13中の“6.01E+05”は、6.01×10
5である。
【0100】
実験例においては、
図1の信号伝送基板10を模擬した試料として、基板12の第1面13上に第1絶縁層を有し、基板12の第2面14上に第2絶縁層を有する試料を作製し、この試料について、第1絶縁層と第2絶縁層との間における応力のバランスを評価した。
図13に示すように、第1絶縁層は、材料を東レ株式会社製の感光性ポリイミドコーティング剤であるPNとし、厚さを10μmとした。
図14に示すように、第2絶縁層は、材料を東レ株式会社製の感光性ポリイミド接着シートであるLPAとし、厚さを19μmとした。
【0101】
図13および
図14に示すように、第1絶縁層および第2絶縁層のキュア温度すなわち熱硬化の温度は、ともに200℃である。
【0102】
図13および
図14に示すように、第1絶縁層と第2絶縁層とは、押し込み弾性率と厚みとの積の差が、キュア温度以下の温度において、15%以下となった。例えば、室温である25℃において、第1絶縁層の押し込み弾性率と厚みとの積が37であるのに対して、第2絶縁層の押し込み弾性率と厚みとの積は39.9であった。したがって、25℃において、第1絶縁層と第2絶縁層との間における押し込み弾性率と厚みとの積の差は2.9となる。この差2.9を第2絶縁層の押し込み弾性率と厚みとの積39.9で除して100を乗じることで、差2.9の百分率として、15%以下である7.27%が求まる。
【0103】
また、
図13および
図14に示すように、第1絶縁層と第2絶縁層とは、第1温度の一例であるキュア温度200℃から、キュア後の第2温度の一例である室温25℃までの温度区間において、熱膨張係数αと、キュア温度に対する温度変化ΔTと、弾性率Eと、厚みhとの積α×ΔT×E×hの差の比率が、{(4.08E+05-3.84E+05)/3.84+E05}×100によって6.25%となった。なお、比率の分母は、第2絶縁層の熱膨張係数αと温度変化ΔTと弾性率Eと厚みhとの積である。また、α×ΔT×Eは、キュア温度からの温度変化に応じて第1、第2絶縁層に作用する応力すなわちストレスである。キュア温度における応力はゼロである。
図13およぶ
図14から得られる比率6.25%は、比率の閾値を15%とした場合に十分に低い数値である。
【0104】
実験例によれば、第1絶縁層と第2絶縁層との間において弾性率と厚みとの積の差を15%以下にすることで、第1面13側の応力と第2面14側の応力との差を十分に抑制できることが分かる。すなわち、実験例によれば、キュア工程後の冷却期間において基板12に反りが生じることを有効に抑制し得ることが分かる。
【0105】
図15は、本実施形態による信号伝送基板10の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の応力に相関する押し込み弾性率の測定に用いることができる圧子Iの斜視図である。
図16は、本実施形態による信号伝送基板10の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の押し込み弾性率の測定例を示す断面図である。
図17は、本実施形態による信号伝送基板10の実験例において、第1絶縁層および第2絶縁層の押し込み弾性率の測定例を示すグラフである。
図17において、横軸は圧子Iの押込み深さを示し、縦軸は、圧子Iによって第1、第2絶縁層にかかる荷重を示す。以下、第1絶縁層および第2絶縁層のことを、単に絶縁層とも呼ぶ。
【0106】
図13および
図14に示した押し込み弾性率は、
図15に示されるバーコビッチ型の圧子Iを用いたナノインデンテーション試験によって測定することができる。
図15に示される圧子Iは、角錐面の頂角が115°である。
図16に示すように、ナノインデンテーション試験においては、ステージ上に載置された絶縁層に対して、トランスデューサに装着された圧子Iをトランスデューサで荷重をかけながら押込む。
図17に示すように、圧子Iから絶縁層にかけられる荷重は、圧子Iの押込み深さhの増加にともなって二次関数的な荷重負荷曲線Aをたどって増加する。また、
図16に示すように、圧子Iの押込みの荷重によって、絶縁層の表面は、初期表面から荷重負荷時の表面へと変形する。この変形は、弾性変形と塑性変形との双方による。
図16および
図17に示すように、押込みが完了したとき、圧子Iの押込み深さは最大値h
maxとなり、荷重も最大値P
maxとなる。圧子Iの押込みの完了後、圧子Iを押込み方向と逆方向に移動させる。これにより、
図17に示すように、圧子Iから絶縁層にかけられる荷重は、荷重負荷曲線Aよりも急峻な二次関数的な荷重除荷曲線Bをたどって減少する。また、
図16に示すように、圧子Iの除荷にともなう弾性回復によって、絶縁層の表面は、荷重負荷時の表面から除荷後の表面へと変形する。なお、除荷後の表面は、荷重負荷時の塑性変形の影響によって初期表面よりも凹入した変形痕を呈する。
図16および
図17において、除荷後の表面の深さはh
fである。
【0107】
上記のナノインデンテーション試験において、絶縁層の押込み弾性率EITは、次式によって求めることができる。
EIT={1-(VS)2}/[(1/Er)-{1-(Vi)2}/Ei] (1)
但し、数式(1)において、VSは、絶縁層のポアソン比である。Viは、圧子Iのポアソン比である。Eiは、圧子Iの弾性率である。Erは、押込み接点の減少弾性率である。
【0108】
数式(1)における押込み接点の減少弾性率E
rは、次式によって求めることができる。
E
r=π
1/2/2CA
p
1/2 (2)
但し、数式(2)において、Cは、
図17に示される荷重の最大値P
maxにおける荷重除荷曲線Bの接線の傾きdP/dhである。A
pは、圧子Iと絶縁層が接している投影面積である。
【0109】
数式(2)におけるA
pは、次式によって求めることができる。
A
p=23.96×{h
max-ε(h
max-h
C)} (3)
但し、数式(3)において、h
maxは、既述した押込み深さの最大値である。εは、圧子Iの幾何学形状による補正係数であり、ダイヤモンドビッカース圧子の場合は0.75である。h
Cは、既述した荷重の最大値P
maxにおける荷重除荷曲線Bの接線と
図17の横軸との交点である。
【0110】
以下、本実施形態によってもたらされる作用について説明する。
【0111】
本実施形態の信号伝送基板10は、第1面13上の信号層331の幅寸法W1よりも第2面14上の信号層431の幅寸法W2が大きい。また、第2面第2有機層44は、第1面第2有機層36に対して大きい厚みを有するとともに小さい弾性率を有する。
【0112】
もし、第1面13側と第2面14側との間におけるインピーダンス整合のみを考慮して単に第2面第2有機層44の厚みを第1面第2有機層36の厚みより大きくしただけである場合、第2面第2有機層44による第2面14側の応力が、第1面第2有機層36による第1面13側の応力よりも大きくなり、応力が大きい第2面14側に向かって基板12が反る虞がある。これに対して、本実施形態では、厚みが大きい第2面第2有機層44の弾性率を厚みが小さい第1面第2有機層36の弾性率よりも小さくすることで、第1面13側と第2面14側との間においてインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0113】
また、本実施形態では、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とをコプレナー線路に比較してノイズ特性に優れたストリップ線路において実現することができる。
【0114】
(第1の変形例)
次に、第1面第2導電層33および第2面第2導電層43がコプレナー線路を構成する第1の変形例について説明する。
図18は、本実施形態の第1の変形例による信号伝送基板10を示す第1面13上の信号層331側の断面図である。
図18は、
図2の断面図に位置的に対応している。
図19は、本実施形態の第1の変形例による信号伝送基板10を示す第2面14上の信号層431側の断面図である。
図19は、
図3の断面図に位置的に対応している。
【0115】
図1乃至
図17では、第1面第2導電層33が第1面第1導電層31と第1面第3導電層35との間で第1面13側のストリップ線路を構成し、第2面第2導電層43が第2面第1導電層41と第2面第3導電層45との間で第2面14側のストリップ線路を構成する例について説明した。
【0116】
これに対して、第1の変形例では、第1面第2導電層33が第1面13側のコプレナー線路を構成するとともに、第2面第2導電層43が第2面14側のコプレナー線路を構成する。
【0117】
具体的には、
図18に示すように、第1面第2導電層33は、信号層331と、第3グランド層の一例として、幅方向D2に間隔を空けて信号層331に隣り合うグランド層332とを有する。また、
図19に示すように、第2面第2導電層43は、信号層431と、第4グランド層の一例として、幅方向D2に間隔を空けて信号層431に隣り合うグランド層432とを有する。
【0118】
第1の変形例によれば、コプレナー線路においても、第2面14上の信号層431の配線幅W2が第1面13上の信号層331の配線幅W1より大きく、かつ、第2面第2有機層44が第1面第2有機層36よりも大きい厚みおよび小さい弾性率を有することで、第1面13側と第2面14側との間においてインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0119】
(第2の変形例)
次に、2本の信号線で1つのデータを伝送する差動方式の伝送線路を有する第2の変形例について説明する。
図20は、本実施形態の第2の変形例による信号伝送基板10を示す第1面13上の信号層331側の断面図である。
図20は、
図2の断面図に位置的に対応している。
図21は、本実施形態の第2の変形例による信号伝送基板10を示す第2面14上の信号層431側の断面図である。
図21は、
図3の断面図に位置的に対応している。
【0120】
これまでは、1本の信号線で1つのデータを伝送するシングルエンド方式のコプレナー線路またはストリップ線路を備えた信号伝送基板10の例について説明した。これに対して、第2の変形例の信号伝送基板10は、差動方式の伝送線路を有する。
【0121】
具体的には、
図20に示すように、第1面第2導電層33は、幅方向D2に間隔を空けて配置された2本の信号層331a、331bと、信号層331a、331bに対して幅方向D2の外方に間隔を空けて配置されたグランド層332とを有する。2本の信号層331a、331bは、1つの電気信号を分割して伝送する。
図21に示すように、第2面第2導電層43は、幅方向D2に間隔を空けて配置された2本の信号層431a、431bと、信号層431a、431bに対して幅方向D2の外方に間隔を空けて配置されたグランド層432とを有する。2本の信号層431a、431bのそれぞれは、2本の信号層331a、331bのそれぞれと貫通電極22を介して電気的に接続されている。2本の信号層431a、431bは、2本の信号層331a、331bのそれぞれで伝送される電気信号と同一の電気信号を伝送する。
【0122】
第2の変形例によれば、差動方式の伝送線路を有することで、小さい電圧で信号波形を形成することができる。小さい電圧で信号波形を形成できるので、信号の立ち上がり時間を短縮できる。信号の立ち上がり時間を短縮できるので、シングルエンド方式と比較して高周波の電気信号を適切に伝送できる。また、第2の変形例によれば、差動方式の伝送線路においても、第2面14上の信号層431a、431bの配線幅W2が第1面13上の信号層331a、331bの配線幅W1より大きく、かつ、第2面第2有機層44が第1面第2有機層36よりも大きい厚みおよび小さい弾性率を有することで、第1面13側と第2面14側との間においてインピーダンス整合と応力のバランスとの双方を確保することができる。これにより、信号の伝送効率の向上と基板12の反りの抑制とを両立させることができる。
【0123】
(第3の変形例)
次に、キャパシタを有する第3の変形例について説明する。
図22は、本実施形態の第3の変形例による信号伝送基板10を示す断面図である。
【0124】
図22に示すように、第3の変形例において、一部の信号層311は、信号層311上に位置する誘電体32と、誘電体32上に位置する第1面第2導電層33とともに、MIM(Metal-Insulator-Metal)構造のキャパシタ15を構成している。誘電体32は、例えば、SiNなどの珪素窒化物を含有する。
【0125】
本開示の信号伝送基板10は、上記した各種の伝送路以外の伝送路に適用することもできる。例えば、信号伝送基板10は、マイクロストリップラインに適用してもよい。
【0126】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、必要に応じて図面を参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述の実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述の実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
【0127】
通電極基板が搭載される製品の例
図23は、本開示の実施形態に係る信号伝送基板10が搭載されることができる製品の例を示す図である。本開示の実施形態に係る信号伝送基板10は、様々な製品において利用され得る。例えば、ノート型パーソナルコンピュータ110、タブレット端末120、携帯電話130、スマートフォン140、デジタルビデオカメラ150、デジタルカメラ160、デジタル時計170、サーバ180等に搭載される。
【符号の説明】
【0128】
10 信号伝送基板
12 基板
331 信号層
34 第1面第1有機層
351 グランド層
431 信号層
44 第2面第2有機層
451 グランド層