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特開2024-170676摺動部材用銅合金、鋳造体、摺動部材とその製造方法
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  • 特開-摺動部材用銅合金、鋳造体、摺動部材とその製造方法 図1A
  • 特開-摺動部材用銅合金、鋳造体、摺動部材とその製造方法 図1B
  • 特開-摺動部材用銅合金、鋳造体、摺動部材とその製造方法 図1C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170676
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】摺動部材用銅合金、鋳造体、摺動部材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20241203BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20241203BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C22C9/02
C22F1/08 J
C22F1/00 602
C22F1/00 611
C22F1/00 630D
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024163384
(22)【出願日】2024-09-20
(62)【分割の表示】P 2023547225の分割
【原出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022059024
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 了
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩士
(72)【発明者】
【氏名】大塚 達哉
(57)【要約】
【課題】主成分がスズ、硫黄、鉄、リンである摺動部材用銅合金において、鉄が含有しない、もしくは含有量が少ない場合においても、従来技術と同等以上の摺動性を有する摺動部材用銅合金もしくは鋳造による摺動部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る摺動部材用銅合金は、スズを3.0質量%以上16.0質量%以下、硫黄を0.3質量%以上1.0質量%以下、鉄を0.3質量%未満、リンを0.04質量%以上0.5質量%以下含有し、残部が銅と不可避的不純物であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズを3.0質量%以上16.0質量%以下、硫黄を0.3質量%以上1.0質量%以下、鉄を0.3質量%未満、リンを0.04質量%以上0.5質量%以下含有し、残分が銅と不可避的不純物である摺動部材用銅合金(ただし、摩擦圧接又は摩擦攪拌により改質した金属組織からなる摺動表面を有するものを除く。)
【請求項2】
スズを6.0質量%以上15.0質量%以下、鉄を0.005質量%以上0.3質量%未満含有することを特徴とする請求項1に記載の摺動部材用銅合金。
【請求項3】
鉄を0.17質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動部材用銅合金。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の摺動部材用銅合金による鋳造体。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の摺動部材用銅合金による鋳造体からなる摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摺動部材に用いる、鉛を主な成分として含有しない摺動部材用銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されていた銅合金は、摺動性や切削性を向上させるために鉛が一定量含有されており、摺動部材としてはCAC603等が使用されていた。しかしながら近年ではRoHS指令やその他環境に配慮することが求められていることから、鉛の使用量を低減、もしくは鉛を使用しない銅合金が開発されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には摺動部材用銅合金として、実施例においてスズを5.14質量%以上15.54質量%以下、硫黄を0.42質量%以上1.04質量%以下、鉄を0.31質量%以上3.43質量%以下、リンを0.012質量%以上0.033質量%以下含有し、残部が銅と不可避的不純物である摺動部材用銅合金が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には被削性を向上させた銅合金として、スズ、リン、硫黄を含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金展伸材であって、前記展伸材の長手方向に 垂直な断面(横断面)において、平均直径0.1~10μmの硫化物を分散含有し、該硫化物の面積率が0.1~10%である銅合金展伸材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4658269号公報
【特許文献2】特許第5916464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の銅合金では、鉄の含有量が規定よりも少ない場合に摺動性が不十分となる問題があった。
【0007】
また、特許文献2では、鉄以外のスズ、硫黄、リンを含有した銅合金における被削性の効果は記載されているが、摺動性についての記載はない。一般的に被削性が良い切削加工に適した銅合金は、摺動用には適さないとされている。
【0008】
さらに、鉄の含有量が多い銅合金は鋳造欠陥が発生しやすく、鋳造により銅合金を生産する場合に不良品が多く発生する問題があった。
【0009】
そこで本発明は、主成分がスズ、硫黄、鉄、リンである摺動部材用銅合金において、鉄が含有しない、もしくは含有量が少ない場合においても、従来技術と同等以上の摺動性を有する摺動部材用銅合金を提供すること、及び摺動性と良好な鋳造性とを有する摺動部材用銅合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明にかかる摺動部材用銅合金は、スズを3.0質量%以上16.0質量%以下、硫黄を0.3質量%以上1.0質量%以下、鉄を0.3質量%未満、リンを0.04質量%以上0.5質量%以下含有し、残部が銅と不可避的不純物である第一の実施形態であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる摺動部材用銅合金は、第一の実施形態をさらに限定するスズを6.0質量%以上15.0質量%以下、鉄を0.005質量%以上0.3質量%未満含有する第二の実施形態を選択できる。
【0012】
さらに、本発明にかかる摺動部材用銅合金は、第一の実施形態をさらに限定するスズを9.0質量%以上11.0質量%以下、硫黄を0.5質量%以上1.0質量%以下、鉄を0.005質量%以上0.05質量%未満含有する第三の実施形態を選択できる。
【0013】
本発明としては、第一から第三の実施形態のいずれかの摺動部材用銅合金による鋳造体を選択できる。
【0014】
本発明としては、第一から第三の実施形態のいずれかの摺動部材用銅合金による鋳造体からなる摺動部材を選択できる。
【0015】
本発明にかかる摺動部材製造方法は、スズを3.0質量%以上16.0質量%以下、硫黄を0.3質量%以上1.0質量%以下、鉄を0.07質量%未満、リンを0.04質量%以上0.5質量%以下含有した銅合金成分となるように溶解し、鋳造することで摺動部材を製造する方法であることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明にかかる摺動部材製造方法は、スズを6.0質量%以上15.0質量%以下、鉄を0.005質量%以上0.05質量%未満含有する実施形態を選択できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉄の含有量を低減しても、リンの含有量を適切に調整すれば従来の摺動部材銅合金と同等以上の摺動性を有することができる。また、同様の金属組成において良好な鋳造性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】鋳造性試験における実施例9の破断部評価断面写真
図1B】鋳造性試験における実施例10の破断部評価断面写真
図1C】鋳造性試験における比較例6の破断部評価断面写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる摺動部材用銅合金について説明する。本摺動部材用銅合金はスズ、硫黄、鉄、リンを所定量含有し、残部が銅と不可避的不純物とからなる銅合金である。
【0020】
上記銅合金は、スズを3.0質量%以上含むことが必要である。スズは銅合金のマトリックス強度を向上させ、耐摩耗性を向上させ、かつ、摺動特性を良好に保つ効果があるが、3.0質量%未満であると、これらの効果が不十分となってしまう。一方で、スズの含有量は16.0質量%以下であることが必要である。16.0質量%を超えると、相手材を著しく摩耗させてしまい、良好な摺動特性が得られない可能性がある。さらに銅合金の強度、伸び、耐摩耗性に関する硬さや摩耗量といった摺動部材に求められる特性についてバランスの良い銅合金とするため、スズの含有量は6.0質量%以上15.0質量%以下であると好ましく、9.0質量%以上11.0質量%以下であるとより好ましい。
【0021】
上記銅合金は、硫黄を0.3質量%以上含むことが必要である。硫黄は銅、鉄、又はそれらの両方と反応して硫化物を形成する。この硫化物は、固体潤滑性を有しており、摩擦係数を低下させ、なじみを良好にし、摺動状態において良好な摺動特性を付与するものとなる。硫黄が0.3質量%未満であると、これらの効果が得られないか、又は不十分となってしまい、0.5質量%以上であることが好ましい。一方で、硫黄の含有量は3.0質量%以下であることが必要である。3.0質量%を超えると硫黄が強度を低下させるおそれが高くなってしまうからである。さらに、十分な摺動性能を発揮させるためには、硫黄の含有量は1.0質量%以下であると好ましく、0.7質量%以下であるとより好ましい。
【0022】
上記銅合金は、鉄を0.3質量%未満含むことが必要である。鉄の含有量が0.3質量%以上であると、上記銅合金の硬度が上がりすぎてしまい、摺動部材として用いたときに、相手材を攻撃して摩耗させてしまうおそれが高くなること、もしくは伸びが低下することで製品の性能が低下することである。一方、鉄の成分が少ないほど耐摩耗性は悪化する傾向にある。鉄は、硫黄とともに、上記銅合金の摺動性を向上させるFe-S系化合物を形成することから、必要な摺動性を確保するために必要な量のFe-S系化合物が形成されるには、鉄が含有されていたほうが良いためである。よって、硬度、摺動性のバランスの良い銅合金とするためには、鉄の含有量は0.005質量%以上0.3質量%未満であると好ましく、0.005質量%以上0.05質量%以下であるとより好ましい。
【0023】
また上記銅合金は、鋳造性の観点からも鉄を0.3質量%未満含むことが必要である。鉄の含有量が0.3質量%以上であると鋳造後の製品に鋳造欠陥が存在するおそれが高くなるためである。また、十分な鋳造性を有するためには、鉄の含有量は0.07質量%以下であると好ましい。
【0024】
上記銅合金は、リンを0.04質量%以上含むことが必要である。リンは、銅との間にCu-P化合物を形成して、銅合金全体の硬度を増加させる効果がある。この発明にかかる銅合金では、鉄の成分を少なくしても、リンを上記の範囲で含むことにより、摺動性を確保することができる。一方で、リンの含有量は0.5質量%以下である必要がある。0.5質量%を超えてリンが存在すると、銅合金全体の硬度が増加しすぎてしまい、耐焼き付き性が低下してしまうためである。
【0025】
上記銅合金は、上記の元素以外は銅と不可避的不純物であるとよい。上記不可避的不純物として含有される元素の含有量は少ないほど好ましく、検出限界以下であるとより好ましい。このような元素としては、例えばモリブデン、ニッケルなどが挙げられる。
【0026】
本発明の銅合金を用いた摺動部材としては、例えば転がり軸受、滑り軸受を有するリニアブッシュ、シリンダライナなどが挙げられる。これらの摺動部材の摺動性を要求される部位に本発明にかかる銅合金を用いることで、バランスのとれた摺動性能を発揮する。本発明にかかる摺動部材を製造するための製造方法としては、重力鋳造、遠心力鋳造、ダイカスト鋳造などの鋳造方法が好適なものとして挙げられる。これらのいずれかの鋳造方法により得られる鋳造体は、上記の通り鋳造欠陥の発生が抑えられており、強度、伸び、耐摩耗性に関する硬さや摩耗量についてバランスの良さを発揮し、上記の摺動部材として好適に利用することができる。
【実施例0027】
(機械的特性試験)
鋳造後の成分が、表1に記載の実施例及び比較例の各成分の質量%と、残部が銅と不可避的不純物となるように調整した原料を、1200℃に加熱して溶解し、鋳型を用いて銅合金を重力鋳造法により鋳造した。
【0028】
(引張試験及び伸び試験)
上記熱処理後の鋳造銅合金をJIS Z2241に規定される平行部の直径5mmの14A号試験片を用いて引張試験(インストロン5982、インストロン株式会社製)を行い、試験片破断時の引張強さ及び伸びにより評価を行った。
【0029】
(引張試験評価基準)
◎:300MPa以上
〇:200MPa以上300MPa未満
△:100MPa以上200MPa未満
×:100MPa未満
【0030】
(伸び試験評価基準)
◎:24%以上
〇:16%以上24%未満
△:8%以上16%未満
×:8%未満
【0031】
(硬さ試験)
上記熱処理後の鋳造銅合金についてブリネル硬さ試験(BO3、有限会社今井精機製)を行い、ブリネル硬さにより評価を行った。試験条件は試験力を500kgfとし、圧子には直径10mm超硬合金球を用いた。
【0032】
(硬さ試験評価基準)
◎:80HB以上120HB未満
〇:60HB以上80HB未満
△:40HB以上60HB未満
×:40HB未満、もしくは120HB以上
【0033】
(摩耗量確認試験)
上記熱処理後の鋳造銅合金について、機械加工により、外径70mm、厚さ6mmのディスクを用意した。なお、摩擦面は#80耐水ペーパー仕上げとした。
【0034】
次に、作製した各実施例のディスク摩擦面に対して、摩擦試験機(UMT-TriboLab、Bruker製)を用いて摩擦試験を実施した。摩擦試験は、高酸素クロム軸受鋼(SUJ2)製である直径10mmのボールをディスクに接触させ、接触面に荷重10Nとなるようにボールを押圧しながら、ボールを20mm/sの摩擦速度で15分間、振幅を2mm(±1mm)として往復させた。摩擦試験後に3D形状測定機(VR-5200、株式会社キーエンス製)を用い、ディスク摩擦面における摩耗部の幅及び深さから摩耗量を算出した。
【0035】
(摩耗量確認試験評価基準)
◎:0.15mm3以下
〇:0.16mm3以上0.30mm3以下
△:0.31mm3以上0.45mm3以下
×:0.46mm3以上
【0036】
(機械的特性試験総合評価基準)
◎:全て◎
〇:〇を一つ以上含む、その他は◎
△:△を一つ以上含む、その他は◎又は〇
×:×を少なくとも一つ含む
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、実施例1~8は各成分の含有量が本発明の範囲内であることから、摺動部材として用いるために必要な引張強さ、伸び、硬さ、及び耐摩耗性について良好な性能を有していることがわかる。特に実施例2、7、及び8より、リンの含有量が特許文献1の実施例に記載される量よりも多い0.04質量%以上であれば、鉄の含有量が0.05質量%未満であっても非常に良好な性能を有していることがわかる。
【0039】
比較例1は鉄の含有量が本発明の範囲よりも多いことから、伸びの性能が低下している。また、比較例2ではスズの含有量が本発明の範囲よりも少なく、比較例3では反対に多いことから、それぞれ硬さの性能、伸びと硬さの性能が低下している。さらに比較例4では、硫黄の含有量が本発明の範囲よりも少なく、比較例5では反対に多いことから、それぞれ耐摩耗性、引張強さと伸びの性能が低下している。
【0040】
(鋳造性試験)
鋳造後の成分が、表2に記載の実施例及び比較例の各成分の質量%と、残部が銅と不可避的不純物となるように調整した原料を、上記引張試験と同様の溶解、鋳造、加工工程により引張試験片を作製し、その後同様の条件で引張試験を行った。引張試験後の破断面を観察することより評価を行った。
【0041】
(鋳造性試験評価基準)
〇:破断面に鋳造欠陥存在せず
×:破断面に鋳造欠陥存在
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、実施例9および10は鉄の含有量が本発明の範囲内であるが、比較例6は鉄の含有量が本発明の範囲よりも多い。その結果図1A,Bに示すように実施例9,10では鋳造欠陥は存在せず良好な鋳造性を有しているが、比較例6では図1Cに示すように鋳造欠陥が存在し鋳造性が劣ることがわかる。
【0044】
このように、主成分がスズ、硫黄、鉄、リンである摺動部材用銅合金において、鉄とリンの含有量を調整、すなわち鉄を含有しないもしくは従来技術よりも鉄の含有量を低減する一方、リンの含有量を増加することによって、従来技術と同等以上の摺動性を有する摺動部材用銅合金を実現することができる。また、鉄の含有量を低減することで、良好な摺動部材用鋳造銅合金を実現することができる。
図1A
図1B
図1C