(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170679
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】筒状治療具付留置装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/962 20130101AFI20241203BHJP
A61F 2/848 20130101ALI20241203BHJP
【FI】
A61F2/962
A61F2/848
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024164293
(22)【出願日】2024-09-20
(62)【分割の表示】P 2022510763の分割
【原出願日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2020057471
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】吉森 崇志
(72)【発明者】
【氏名】江見 友裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 実明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】筒状治療具を収容するシースの小径化および装置構造の簡素化を図ることのできる筒状治療具付留置装置を提供する。
【解決手段】留置装置の軸状部材は、基部から径方向外側に突出して形成されるホルダ部60と、筒状治療具10の係合部15が係合する被係合部33と、を有する。留置装置10は、被係合部33に係合された係合部15の径方向への拡張を規制する線状部材をさらに有し、線状部材は、第1の線状部材36aと、第1の線状部材36aと係合する第2の線状部材36bを含む。ホルダ部60は、第2の線状部材36bを保持して第2の線状部材の径方向の変位を規制し、ホルダ部60は、第2の線状部材36bが保持される位置よりも径方向内側の位置に第2の線状部材36bを受ける切り欠き部を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置するための筒状治療具付留置装置であって、
係合部を有する前記筒状治療具と、
前記筒状治療具を収容可能なシースと、
前記シースの内側にて当該シースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、を備え、
前記軸状部材は、
前記軸状部材に設けられた基部から径方向外側に突出して形成されるホルダ部と、
前記筒状治療具の前記係合部が係合する被係合部と、を有し、
前記留置装置は、前記被係合部に係合された前記係合部の径方向への拡張を規制する線状部材をさらに有し、
前記線状部材は、第1の線状部材と、前記軸状部材の軸方向に配設されて前記第1の線状部材と係合する第2の線状部材を含み、
前記ホルダ部は、前記第2の線状部材を保持して前記第2の線状部材の径方向の変位を規制し、
前記ホルダ部は、前記第2の線状部材が保持される位置よりも径方向内側の位置に前記第2の線状部材を受ける切り欠き部を含む
筒状治療具付留置装置。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記基部よりも径方向内側に切り欠かれ、周方向と交差する方向に延びるように形成されている
請求項1に記載の筒状治療具付留置装置。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記基部の周面において前記ホルダ部を跨いだ両側に連続して形成されている
請求項2に記載の筒状治療具付留置装置。
【請求項4】
前記切り欠き部は、前記基部の周面において前記ホルダ部を跨いで螺旋状に形成されている
請求項3に記載の筒状治療具付留置装置。
【請求項5】
前記第1の線状部材は、前記係合部に巻回され、前記係合部および前記軸状部材に対して脱落可能であり、
前記第2の線状部材は、前記第1の線状部材を前記係合部から脱落不能に保持し、
前記第1の線状部材と前記第2の線状部材が係合されることで前記係合部の径方向への拡張が規制されるとともに、前記第1の線状部材と前記第2の線状部材の係合が解除されることで前記規制が解除される
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の筒状治療具付留置装置。
【請求項6】
前記第1の線状部材は、係合部の外周に周方向に巻回され、1回転ごとに屈曲して逆方向に折り返し、
前記第1の線状部材の屈曲部は、軸方向に並んで複数形成され、
前記第2の線状部材は、前記第1の線状部材の屈曲部にそれぞれ挿通されて前記第1の線状部材を保持する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の筒状治療具付留置装置。
【請求項7】
径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置するための筒状治療具付留置装置であって、
係合部を有する前記筒状治療具と、
前記筒状治療具を収容可能なシースと、
前記シースの内側にて当該シースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、を備え、
前記軸状部材は、
前記筒状治療具の前記係合部が係合する被係合部と、
前記被係合部に係合された前記係合部の径方向への拡張を規制する線状部材と、を有し、
前記線状部材は、前記係合部に巻回される第1の線状部材と、前記第1の線状部材を前記係合部から脱落不能に保持する第2の線状部材と、を有し、
前記第1の線状部材は、前記係合部および前記軸状部材に対して脱落可能であり、
前記第1の線状部材と前記第2の線状部材が係合されることで前記係合部の径方向への拡張が規制されるとともに、前記第1の線状部材と前記第2の線状部材の係合が解除されることで前記規制が解除される
筒状治療具付留置装置。
【請求項8】
前記第1の線状部材は、係合部の外周に周方向に巻回され、1回転ごとに屈曲して逆方向に折り返し、
前記第1の線状部材の屈曲部は、軸方向に並んで複数形成され、
前記第2の線状部材は、前記第1の線状部材の屈曲部にそれぞれ挿通されて前記第1の線状部材を保持する
請求項7に記載の筒状治療具付留置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状治療具付留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管壁に生じた瘤などの治療に用いられるステントグラフト等の筒状治療具が知られており、筒状治療具を患部に運んで留置するための留置装置についても種々の提案がされている(例えば、特許文献1~3参照)。一般に、留置装置は、筒状治療具を径方向に収縮させた状態で患部に運び、患部にて筒状治療具を径方向に拡張させることで、筒状治療具を患部に留置させる。
【0003】
従来の留置装置の一つは、いわゆる先端後開き型の筒状治療具を留置可能である。この種の留置装置は、例えば、筒状治療具の本体部の開口端に設けられた腕状部を収容可能な先端チップを有している(例えば、特許文献1参照)。上述の留置装置は、腕状部を先端チップに収容したまま筒状治療具を患部まで運び、患部にて本体部を拡張させた後、先端チップから腕状部を放出して筒状治療具を血管壁に接触させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5408866号公報
【特許文献2】特許4928449号公報
【特許文献3】特許6261619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の留置装置は、先端チップに収容した腕状部を放出する機構として、腕状部を収容する先端チップに繋がるシャフトと、腕状部を先端チップに対して相対移動可能に保持するシャフトの2本のシャフトを有している。そのため、上述の留置装置は構造が複雑となり部品数も多くなる。また、上述の留置装置における2本のシャフトは、一方のシャフトの中空部に他方のシャフトが挿通された二重構造を有している。そのため、上述の留置装置では、筒状治療具が収容されるシースも大径化してしまう。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、筒状治療具を収容するシースの小径化および装置構造の簡素化を図ることのできる筒状治療具付留置装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置するための筒状治療具付留置装置である。筒状治療具付留置装置は、係合部を有する筒状治療具と、筒状治療具を収容可能なシースと、シースの内側にて当該シースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、を備える。軸状部材は、軸状部材に設けられた基部から径方向外側に突出して形成されるホルダ部と、筒状治療具の係合部が係合する被係合部と、を有する。留置装置は、被係合部に係合された係合部の径方向への拡張を規制する線状部材をさらに有する。線状部材は、第1の線状部材と、軸状部材の軸方向に配設されて第1の線状部材と係合する第2の線状部材を含む。ホルダ部は、第2の線状部材を保持して第2の線状部材の径方向の変位を規制する。ホルダ部は、第2の線状部材が保持される位置よりも径方向内側の位置に第2の線状部材を受ける切り欠き部を含む。
また、本発明の他態様は、径方向に拡張可能な筒状治療具を生体管腔内に留置するための筒状治療具付留置装置であって、係合部を有する筒状治療具と、筒状治療具を収容可能なシースと、シースの内側にて当該シースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、を備え、軸状部材は、筒状治療具の係合部が係合する被係合部と、被係合部に係合された係合部の径方向への拡張を規制する線状部材と、を有し、線状部材は、係合部に巻回される第1の線状部材と、第1の線状部材を係合部から脱落不能に保持する第2の線状部材と、を有し、第1の線状部材は、係合部および軸状部材に対して脱落可能であり、第1の線状部材と第2の線状部材が係合されることで係合部の径方向への拡張が規制されるとともに、第1の線状部材と第2の線状部材の係合が解除されることで規制が解除される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、筒状治療具を収容するシースの小径化および装置構造の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は本実施形態の留置装置の分解図であり、(b)は本実施形態の留置装置の組立状態を示す図であり、(c)は本実施形態のステントグラフトにおける一方側の開口部近傍を示す図である。
【
図2】(a)はシャフト小径部の先端部近傍の構成例を示す斜視図であり、(b)はシャフト小径部にステントグラフトを取り付けた状態を示す図である。
【
図3】(a)~(f)は留置装置を用いてステントグラフトを留置する手順を示した図である。
【
図4】線状部材の巻回によるベア部の規制の第1変形例を示す図である。
【
図5】第2変形例においてシャフト小径部にステントグラフトを取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図6】第2変形例での第1および第2の線状部材の配置を説明する図である。
【
図7】第2変形例でのシャフト小径部の先端部近傍の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る留置装置および筒状治療具の構成例について説明する。
【0011】
図1(a)は、本実施形態の留置装置1の分解図であり、
図1(b)は、本実施形態の留置装置1の組立状態を示す図である。
図1(c)は、本実施形態のステントグラフト10における一方側の開口部近傍を示す図である。
【0012】
図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。図面において、留置装置および筒状治療具の軸方向Axを必要に応じて矢印で示す。また、軸方向Axと略直交する方向を径方向と定義する。なお、必要に応じて、図面において留置装置および筒状治療具の一方側を符号Fで示し、他方側を符号Bで示す。
【0013】
まず、本実施形態のステントグラフト10の構成について説明する。
ステントグラフト10は、筒状治療具の一例であって、生体管腔内の狭窄部位や閉塞部位等の病変部位に留置され、これらの病変部位を拡張させるために適用される。ステントグラフト10は、生体管腔の一例である血管の所定位置(例えば、血管で瘤が生じている病変部位)に、留置装置を用いて留置される。
【0014】
ステントグラフト10は、拡張状態の形状が記憶された、いわゆる自己拡張型の構成を有する。ステントグラフト10は、留置装置1の管状のシース20に収容されて径方向内側に収縮された状態で血管内に導入される。ステントグラフト10は、血管内の所定位置に運ばれた後にシース20から放出され、径方向外側に拡張する。拡張したステントグラフト10は、後述の
図3(f)に示すように血管の内壁と密着した状態で血管に留置される。
【0015】
ステントグラフト10の全体形状は、直線的な形状であってもよく、あるいは患者の血管の形状に対応する湾曲形状であってもよい。すなわち、ステントグラフト10は、留置の前から留置箇所を想定して予め湾曲していてもよく、留置の後に血管の形状に沿って湾曲するものでもよい。
【0016】
ステントグラフト10は、軸方向Axの一方側と他方側が連通する筒状に形成された本体部11を備える。
図1(c)に示すように、本体部11は、骨格部12と、骨格部12に固定された皮膜部13とを有している。なお、本体部11の内部空間は、ステントグラフト10が血管に留置されたときに、患者の血液流が通過可能な流路を構成する。
【0017】
骨格部12は、例えば、金属細線(線材)が螺旋状に巻回されて形成されている。例えば、金属細線が山部と谷部とが交互に形成されるようにジグザグに折り返されながら螺旋状に巻回されることで、骨格部12が形成されている。骨格部12は、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張した拡張状態へと自己拡張するように変形可能に構成される。
【0018】
骨格部12の金属細線を構成する材料としては、例えば、Ni-Ti合金(ニチノール)、コバルト-クロム合金、チタン合金、及びステンレス鋼等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。骨格部12の材料としてNi-Ti合金を用いる場合、骨格部12を拡張状態の形状に整えた後に所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を骨格部12に記憶させることができる。なお、骨格部12は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
【0019】
皮膜部13は、上述の流路を形成する管状の可撓性の膜体であって、骨格部12の隙間部分を閉塞するように骨格部12に取り付けられている。皮膜部13を形成する材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0020】
本体部11の一方側の開口端11aには、係合部の一例として、金属骨格からなるベア部15が設けられている。ベア部15は、本体部11の開口端11aから軸方向Axの一方側に向けて突出している。ベア部15は、ステントグラフト10の留置時に血管の内壁との間で摩擦を生じさせ、ステントグラフト10の位置ずれ(マイグレーション)を抑制する機能を担う。
【0021】
また、ベア部15には、径方向外側に突出する固定用ピン(バーブとも称する)16が設けられている。固定用ピン16は、血管の内壁に引っかかることで、血管に対するベア部15の固定を補助する機能を担う。
【0022】
次に、本実施形態における留置装置の構成例について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、留置装置1は、管状のシース20と、シース20の内側に配置される管状のシャフト30と、を備えている。
【0023】
シース20は、収縮状態のステントグラフト10をその内側に収容可能である。シース20は、シース本体部21と、シース本体部21の他方側の端部に設けられるハブ22とを有している。ハブ22は、シャフト30に対してシース20を固定するためのナット(不図示)や、後述の線状部材36への操作を行う操作部材(不図示)等を有している。
【0024】
シース本体部21は、可撓性を有する材料で形成された管体である。シース本体部21の材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及び、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択された生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。
【0025】
シャフト30は、シース20よりも長尺の軸状部材であって、軸方向Axに沿って進退可能に構成されている。シャフト30は、シャフト本体部31と、シャフト本体部31の一方側に形成されるシャフト小径部32とを有している。シャフト30の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0026】
シャフト小径部32は、シャフト本体部31と同軸であり、シャフト本体部31よりも小径である。留置装置1においては、シャフト小径部32の外周とシース本体部21の内周の間に形成される空間にステントグラフト10が収容される。また、シャフト30のシャフト本体部31およびシャフト小径部32には、後述のガイドワイヤ40を挿通させるための穴(不図示)が軸方向Axに沿って形成されている。
また、シャフト小径部32の一方側の端部には、シース20の一方側の端部開口を塞ぐ先端チップ35が取り付けられている。
【0027】
図2(a)は、シャフト小径部32の先端部近傍の構成例を示す斜視図である。
図2(b)は、シャフト小径部32にステントグラフト10を取り付けた状態を示す図である。なお、
図2(a)、(b)では、先端チップ35の図示は省略している。
【0028】
シャフト小径部32は、一方側の端部から順に、鉤片33と、線状部材保持体34とを有している。
【0029】
鉤片33は、被係合部の一例であって、基端側がシャフト小径部32から径方向に立ち上がり、その先端部がシャフト小径部32の一方側に折れ曲がって突出する形状に形成されている。鉤片33は、シャフト小径部32の周方向に間隔をおいて複数設けられている。
図2(b)に示すように、各々の鉤片33には、ベア部15の端部を引っ掛けて係合させることが可能である。
【0030】
線状部材保持体34は、シャフト小径部32から径方向に立ち上がり、軸方向Axに沿って延びている平板状の小片である。線状部材保持体34には、線状部材36を周方向に挿通させる保持穴34aが開口されている。線状部材36は、所定の強度と剛性を有する材料で形成され、例えば、ナイロン繊維やフッ素繊維などの縫合糸、ニッケル-チタン合金やステンレス製の金属細線、樹脂製の紐状部材を適用できる。
図2の例では、シャフト小径部32には、180度の間隔をおいて2つの線状部材保持体34が配置されている。なお、シャフト小径部32における線状部材保持体34の数は上記の例に限定されることなく、1つであってもよく、3以上であってもよい。
【0031】
図2(b)に示すように、シャフト小径部32にステントグラフト10を取り付ける場合、ステントグラフト10のベア部15が、シャフト小径部32の鉤片33に引っ掛けられて係合される。そして、鉤片33に係合されたベア部15の外側からは周方向に線状部材36が巻回される。線状部材36の巻回により、ベア部15の径方向外側への拡張が線状部材36で拘束されて規制されるとともに、ステントグラフト10の一方側の端部がシャフト小径部32に固定される。
【0032】
上記の線状部材36は、線状部材保持体34の保持穴34aを通って複数のベア部15を跨いで周方向に巻回される。ベア部15を巻回する線状部材36にはベア部15からの反力による径方向外側への力が作用するが、線状部材保持体34の保持穴34aに線状部材36を通すことで、線状部材36が線状部材保持体34に保持される。これにより、線状部材36の径方向外側への変位が規制され、ベア部15における線状部材36の巻回状態を容易に維持できる。
このように、線状部材保持体34は、鉤片33に係合されたベア部15の径方向への拡張を線状部材36と協働して規制する規制部として機能する。
【0033】
また、線状部材36の他方側は、シース20内を通って、シース20の他方側の端部に設けられたハブ22の操作部材に接続される。ハブ22の操作部材の操作により、線状部材36は他方側に引き抜くことができる。線状部材36を他方側に引き抜くと、線状部材36の巻回が解除され、ベア部15が径方向に拡張可能な状態となる。
【0034】
ここで、
図3(a)~(f)を参照しつつ、留置装置を用いてステントグラフト10を血管50に留置する手順を説明する。
図3の例においては、湾曲する血管50において瘤51が形成された病変部位にステントグラフト10を留置する場合を示す。なお、
図3各図の紙面左側が一方側に対応し、
図3各図の紙面右側が他方側に対応する。
【0035】
まず、瘤51の形成された病変部位を通過するように、血管50内にガイドワイヤ40が配置される。そして、収縮状態のステントグラフト10を収容した留置装置1に対して、留置装置1の一方側の端部からガイドワイヤ40を留置装置1に挿通させる。その後、
図3(a)~(c)に示すように、瘤51の形成された病変部位を留置装置1の一方側の端部が通過するように、ガイドワイヤ40に沿って他方側から一方側に向けて留置装置1を血管内で進行させる。
【0036】
次に、
図3(d)~
図3(e)に示すように、留置装置1において、ステントグラフト10のベア部15を拘束しているシャフト30の位置を保持しつつ、シース20を他方側に向けて引き抜くように移動させる。すると、留置装置1のシース20からステントグラフト10が放出される。ステントグラフト10の本体部11は、シース20から外部に放出されることで径方向外側に自己拡張する。これにより、拡張した本体部11が血管50の内壁面に密着する。
【0037】
図3(e)は、ステントグラフト10の全体がシース20から放出された状態を示している。
図3(e)の状態では、瘤51の形成された病変部位を血管50の内側から覆うようにステントグラフト10が血管に固定される。
なお、上記の
図3(a)~
図3(e)の段階では、ベア部15の外側に線状部材36が巻回されてベア部15の径方向の拡張がいずれも規制された状態にある。
【0038】
その後、留置装置1において線状部材36の巻回が解除されることで、ベア部15の径方向への拡張の規制が解除される。すると、ベア部15は、自己拡張力により径方向外側に拡がって血管50の内壁にそれぞれ接触する(
図3(f)参照)。これにより、血管50の内壁に対してベア部15および固定用ピン16が摩擦を生じさせ、留置位置からのステントグラフト10の位置ずれが抑制される。
【0039】
その後、
図3(f)に示すように、シース20およびガイドワイヤ40が他方側に抜き取られ、留置装置1が血管内から撤去される。以上の手順により、ステントグラフト10の留置が完了する。
【0040】
以下、本実施形態の留置装置1の効果を述べる。
本実施形態の留置装置1において、シャフト30のシャフト小径部32は、ステントグラフト10のベア部15が係合する鉤片33と、線状部材保持体34とを有する。線状部材保持体34は、鉤片33に係合されたベア部15の径方向への拡張を線状部材36と協働して規制する。また、線状部材保持体34は、線状部材36のベア部15への巻回が解除されることでベア部15の径方向への拡張の規制を解除する。
本実施形態によれば、ベア部15の径方向の拡張が規制された状態から当該規制が解除される状態への切り替えを線状部材36の操作で行うことができる。つまり、本実施形態では、ベア部15の径方向の拡張の規制を解除するために、例えば、シース20内に二重構造のシャフトを有する機構などを設けなくても済む。そのため、留置装置1の装置構造が簡素化され、部品数の低減による組立作業性の向上や製造コストの抑制を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、上記のようにシース20内に二重構造のシャフトを有する機構を設けなくても済むので、二重構造のシャフトを有する留置装置と比べるとシース20の外径をより細くできる。そのため、ステントグラフト10を留置する手技において、留置装置1のシース20を血管内により円滑に導入することが可能となり、患者の身体への侵襲性を低減させることができる。
【0042】
また、上記のように二重構造のシャフトを有する留置装置は、二重構造の部分が曲がりにくく湾曲した血管に導入しにくい。これに対し、本実施形態の留置装置1は上記のような二重構造のシャフトを有さないのでその分曲げやすく、湾曲した血管への導入をより容易に行うことができる。
【0043】
また、上記のように二重構造のシャフトを有する留置装置では、例えば、湾曲した血管にステントグラフト10を留置する場合、血管の湾曲に沿ったシャフト全体の曲げにより一方のシャフトと他方のシャフトが周方向の一部で偏って当接し、両者の円滑な摺動が妨げられる事象が生じ得る。これに対し、本実施形態は、二重構造のシャフトを有さず、線状部材36の巻回の解除でベア部15の径方向の拡張が可能となる。そのため、本実施形態では、湾曲した血管にステントグラフト10を留置する場合にも、湾曲のない血管にステントグラフト10を留置する場合と同様にベア部15の径方向の拡張を円滑に行うことができ、留置装置1の動作の信頼性を向上させることができる。
【0044】
次に、上記実施形態の変形例として、2本の線状部材を用いてベア部15を縮径状態から拡径状態に変換可能に規制する構成を説明する。
図4は、線状部材の巻回によるベア部15の規制の第1変形例を示す図である。第1変形例では、ベア部15の外周面に巻回される第1の線状部材36aと、第1の線状部材36aに係合する第2の線状部材36bによって、ベア部15の径方向への拡張が規制される。
【0045】
第1の線状部材36aは、それ自体では巻回状態を保持できない態様でベア部15の外周面に巻回されており、第2の線状部材36bと係合することで脱落不能に保持される。すなわち、第2の線状部材36bは、第1の線状部材36aをベア部15およびシャフト小径部32から脱落不能に保持する。
【0046】
具体的には、第1の線状部材36aは、ベア部15の外周面に、周方向に巻回され一回転ごとに屈曲して逆方向に巻回されている。第1の線状部材36aの屈曲部は、軸方向Axに並んで形成されている。一方、第2の線状部材36bは、第1の線状部材36aの各屈曲部を縫って軸方向Axに沿って配置される。つまり、第2の線状部材36bは第1の線状部材36aの屈曲部にそれぞれ挿通されている。また、第2の線状部材36bの他方側は、シース20内を通ってシース20の他方側の端部に設けられたハブ22の操作部材に接続され、第2の線状部材36bは軸方向に沿って引き抜き可能である。
【0047】
図4の例では、軸方向Axに沿って配置された第2の線状部材36bに、屈曲部を引っ掛けながら第1の線状部材36aを巻回することで、第1の線状部材36aと第2の線状部材36bが係合される。このとき、第1の線状部材36aの両端を適宜引っ張って張力をかけることにより、ベア部15を縮径することができる。
【0048】
また、第1の線状部材36aは、第2の線状部材36bとの係合によって巻回状態が保持されている。したがって、第2の線状部材36bの引き抜きによって第1の線状部材36aと第2の線状部材36bの係合が解除されると、第1の線状部材36aは、シャフト小径部32から自然に脱落する。これにより、ベア部15の径方向への拡張の規制を解除することができる。
【0049】
ここで、第1の線状部材36aおよび第2の線状部材36bは、上記の線状部材36と同様のものを適用できる。なお、滑り性をよくして第2の線状部材36bを引き抜き易くするため、第1の線状部材36aと第2の線状部材36bは、異なる材料で形成されるのが好ましい。また、第2の線状部材36bは所定の強度と剛性を有する材料で形成され、第1の線状部材36aは第2の線状部材36bよりも剛性の低い材料で形成されるのが好ましい。例えば、第1の線状部材36aは、ナイロン繊維やフッ素繊維などの縫合糸、樹脂製の紐状部材などを適用することができ、第2の線状部材36bは、ニッケル-チタン合金やステンレス製の金属細線などを適用することができる。また、第1の線状部材36aは、幅広のテープ状に形成されていてもよい。
なお、
図4で示した変形例における第1の線状部材36aの巻回態様は一例であり、その他の巻回態様を適用してもよい。
【0050】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。第2変形例の説明では、上記実施形態および第1変形例と同様の要素は同一符号を付し、重複説明はいずれも省略する。
【0051】
第2変形例は、
図4を用いて説明した第1変形例と同様に、2本の線状部材を用いてベア部15を縮径状態から拡径状態に変換可能に規制する構成である。第2変形例においても、ベア部15の外周面に巻回される第1の線状部材36aと、第1の線状部材36aに係合する第2の線状部材36bによって、ベア部15の径方向への拡張が規制される。
なお、特に限定するものではないが、第2変形例においても、第1及び第2の線状部材36a、36bは、第1変形例と同様の構成としてもよい。
【0052】
図5は、第2変形例におけるシャフト小径部32にステントグラフト10を取り付けた状態を示す斜視図である。
図6は、第2変形例での第1および第2の線状部材36a,36bの配置を説明する図である。
図7は、第2変形例でのシャフト小径部32の先端部近傍の構成例を示す斜視図である。
図8は、
図7に示すワイヤホルダ部60の拡大図である。
【0053】
図7に示すように、第2変形例でのシャフト小径部32は、一方側の端部から順に、鉤片33と、規制部の一例であるワイヤホルダ部60とを有している。ワイヤホルダ部60は、シャフト小径部32に取り付けられた円筒状の基部61と、第2の線状部材36bを保持する保持片62とを有する。
図7に示すワイヤホルダ部60は、180度の間隔をおいて2つの保持片62を有している。
【0054】
ワイヤホルダ部60の保持片62は、基部61から径方向に突出し、軸方向Axに沿って延びている平板状の小片である。保持片62には、第2の線状部材36bを周方向に挿通させる穴62aが開口されている。
【0055】
また、ワイヤホルダ部60の基部61には、保持片62の穴62aを通過する第2の線状部材36bを受ける切り欠き部(受け部)61aが形成されている。
図8に示すように、切り欠き部61aは、基部61の周面よりも径方向内側に切り欠かれており、基部61の周面において保持片62を跨いだ両側に連続して形成されている。そして、基部61の一方側から他方側に向けて、切り欠き部61aは周方向と交差する方向に延びている。
図7、
図8に示す切り欠き部61aは、底面でシャフト小径部32aが露出する形状をなしている。しかし、切り欠き部61aは基部61で形成された底を有し、底面でシャフト小径部32aが露出しない形状であってもよい。
【0056】
図8の例では、切り欠き部61aは、基部61の周面において保持片62を跨いで螺旋状に形成されている。これにより、保持片62の穴62aに第2の線状部材36bを通した状態において、軸方向Axに延びる第2の線状部材36bを、穴62aよりも径方向内側に位置する切り欠き部61aの空間で受けることが可能となる。
【0057】
第2変形例において、第2の線状部材36bはシャフト30に沿って軸方向Axに配設されている。第2の線状部材36bは、一方側が先端チップ35などに係止され、他方側がステントグラフト10の内側を通ってハブ22の操作部材に接続されている。第2の線状部材36bは、操作部材からの操作により軸方向に沿って他方側に引き抜き可能である。
また、
図5、
図6に示すように、第2の線状部材36bは、シャフト小径部32においてワイヤホルダ部60の保持片62の穴62aを通っている。そのため、第2の線状部材36bは、保持片62の穴62aを通過点としてシャフト小径部32での経路が規定される。
【0058】
また、
図6に示すように、シャフト30には、第2の線状部材36bが挿通されるワイヤガイドリング38が軸方向に所定間隔をあけて設けられている。第2の線状部材36bをワイヤガイドリング38に挿通させてシャフト30沿いに配設することで、第2の線状部材36bは血管の屈曲部などでシャフト30の動きに追従しやすくなり、第2の線状部材36bがシャフト30から乖離して撓むことを抑制できる。第2の線状部材36bの撓みを抑制することで、ステントグラフト10の放出のときに第2の線状部材36bを引き抜く操作も容易となる。なお、ワイヤガイドリング38には、第1の線状部材36aも挿通されてもよい。
【0059】
シャフト小径部32にステントグラフト10を取り付ける場合、ステントグラフト10のベア部15が、シャフト小径部32の鉤片33に引っ掛けられて係合される。そして、鉤片33に係合されたベア部15および第2の線状部材36bの外側から第1の線状部材36aが周方向に巻回され、ベア部15が縮径されるとともに径方向への拡張が規制されている。第2変形例での第1の線状部材36aは、軸方向Axにおいて鉤片33とワイヤホルダ部60の間の位置に巻回されている。なお、第1の線状部材36aの一端は、ステントグラフト10の内側を通ってシャフト30の他方側に延びている。
【0060】
また、第1の線状部材36aは、第2の線状部材36bの外側を経由してベア部15を束ねるように結ばれている。第1の線状部材36aの結び目は第2の線状部材36bと係合することで脱落不能に保持される。これにより、ベア部15の骨格は閉じた状態を保持することができる。ステントグラフト10の放出のときには、第2の線状部材36bを引き抜くことで第1の線状部材36aと第2の線状部材36bの係合が解除される。すると、第1の線状部材36aの結び目がほどけて、第1の線状部材36aによるベア部15の径方向への拡張の規制が解除される。
【0061】
第2変形例での第1の線状部材36aの結び目は、ワイヤホルダ部60を通過することで径方向に張り出した第2の線状部材36bを経由することで径方向外側に持ち上げられ、骨格側(径方向内側)に落ち込みにくくなる。これにより、ステントグラフト10の放出のときには、第1の線状部材36aがベア部15の外側に離れやすくなり、第1の線状部材36aがベア部15に巻き付く事象が抑制される。
【0062】
また、第2変形例での第1の線状部材36aの結び目は、ワイヤホルダ部60の一方側において、ワイヤホルダ部60を通過した第2の線状部材36bによって固定されている。そのため、第1の線状部材36aがずれて他方側のワイヤホルダ部60やステントグラフト10に向けて落ち込むことも抑制される。
【0063】
また、ワイヤホルダ部60は、保持片62の穴62aを通過する第2の線状部材36bを切り欠き部61aの空間で受けることができる。そのため、ワイヤホルダ部60の表面から径方向外側に第2の線状部材36bが突出する量を抑制することができ、ベア部15を径方向にコンパクトに束ねることが容易となる。
【0064】
さらに、ステントグラフト10において、皮膜部13の一方側端部には、第1の線状部材36aが挿通されるガイドリング17が設けられている。ガイドリング17を通して第1の線状部材36aを配置することで、ステントグラフト10の放出のときに、第1の線状部材36aの動きを制限することができる。これにより、第1の線状部材36aを回収するときに、第1の線状部材36aが骨格の谷部に引っ掛かる事象を抑制できる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0066】
上記実施形態では、線状部材保持体34の保持穴34aで線状部材36を保持し、線状部材36の径方向外側への変位を規制する例を説明した。しかし、線状部材36の径方向外側への変位を規制する手段は、上記実施形態の構成に限定されない。例えば、生体適合性を有する溶解性の接着物でベア部15を巻回する線状部材36を固定し、シース20外に露出した当該接着物の溶解に伴って線状部材36によるベア部15の拘束が解除されるようにしてもよい。ここで、上記の接着物としては、例えば医療用接着剤などを採用することができる。また、上記の接着物は、例えば、体温程度の温度で溶解を開始するものでもよく、水分あるいは血液等の体液の含有成分と接触することで溶解を開始するものでもよい。
【0067】
例えば、上記実施形態では、筒状治療具として、血管内に留置されて使用されるステントグラフト10を例示した。しかし、筒状治療具は、血管以外の生体管腔(例えば、消化管等)に留置されるものであってもよい。また、筒状治療具は、骨格部12が皮膜部13により覆われていない、いわゆるベアステントであってもよい。
【0068】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1…留置装置、10…ステントグラフト(筒状治療具)、11…本体部、12…骨格部、13…皮膜部、15…ベア部(係合部)、20…シース、30…シャフト、31…シャフト本体部、32…シャフト小径部、33…鉤片(被係合部)、34…線状部材保持体(規制部)、34a…保持穴(保持部)、36、36a、36b…線状部材、40…ガイドワイヤ、50…血管(生体管腔)、51…瘤、60…ワイヤホルダ部(規制部)、61…基部、61a…切り欠き部(受け部)、62…保持片、62a…穴(保持部)