(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170682
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】プロテアソーム機能減弱トランスジェニック非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20240101AFI20241204BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241204BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241204BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241204BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241204BHJP
C12N 9/48 20060101ALN20241204BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00
A61P13/12
A61P1/16
A61P1/00
A61P25/00 101
G01N33/15 Z
C12N9/48
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166891
(22)【出願日】2021-10-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 1.ウェブサイトの掲載日:令和3年7月6日 2.ウェブサイトのアドレス: https://kaken.nii.ac.jp/en/report/KAKENHI-PROJECT-26000014/260000142018jisseki/ 3.公開者:田中 啓二 4.公開された発明の内容: 田中 啓二が、上記アドレスのウェブサイトで公開された、「Database of Grants-in-Aid for Scientific Research(KAKEN)」における「2018 Fiscal Year Annual Research Report」において、佐伯 泰、土屋 光、安田 さや香、相馬 愛、設楽 浩志、及び田中 啓二が発明した、「プロテアソーム:動作原理の解明と生理病態学研究」について公開した。 (2) 1.ウェブサイトの掲載日:令和3年4月1日 2.ウェブサイトのアドレス: http://www.cbms.k.u-tokyo.ac.jp/lab/rinsho.html#saeki 3.公開者:佐伯 泰 4.公開された発明の内容: 佐伯 泰が、上記アドレスのウェブサイトで公開された、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻の研究室紹介(臨床医科学分野(東京都医学総合研究所)・佐伯研究室)において、佐伯 泰、土屋 光、安田 さや香、相馬 愛、設楽 浩志、及び田中 啓二が発明した、「ユビキチン・プロテアソーム系の仕組みを理解して関連疾患の治療戦略を立てる!」(ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)と関連疾患・病態)について公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業」「プロテアソーム機能調節介入による健康寿命の延長」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 泰
(72)【発明者】
【氏名】土屋 光
(72)【発明者】
【氏名】安田 さや香
(72)【発明者】
【氏名】相馬 愛
(72)【発明者】
【氏名】設楽 浩志
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓二
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD11
4B050LL01
4B050LL10
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA22
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4C084MA28
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4C084NA20
4C084ZA02
4C084ZA66
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZC02
4C084ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プロテアソームの機能や活性の評価を個体レベルで解析できるトランスジェニック非ヒト動物等を提供する。
【解決手段】26SプロテアソームのサブユニットであるPSDM12タンパク質のC末端側の領域において、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加がされたものである特定のアミノ酸配列を有する変異型PSDM12タンパク質を有する、全身性プロテアソームの機能が減弱されたトランスジェニック非ヒト動物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアソームの機能が減弱された、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
前記機能の減弱が、全身性プロテアソーム機能の減弱である、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
前記機能が減弱されたプロテアソームは、プロテアソーム活性が10~50%低下したものである、請求項1又は2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
前記機能が減弱されたプロテアソームは、26SプロテアソームのサブユニットであるPSDM12タンパク質に変異が導入されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
前記変異は、PSDM12タンパク質のアミノ酸配列のC末端側の領域において、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加がされたものである、請求項4に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
前記変異が導入されたPSDM12タンパク質が、以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質である、請求項4又は5に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(a) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(b) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
(c) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
【請求項7】
前記機能が減弱されたプロテアソームを発現するように、遺伝子変異が導入されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
前記遺伝子変異は、26SプロテアソームのサブユニットであるPSDM12タンパク質をコードする遺伝子に導入された変異である、請求項7に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
非ヒト動物が齧歯類動物である、請求項1~8のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項10】
齧歯類動物がマウスである、請求項9に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
プロテオスタシス異常を有するモデル動物である、請求項1~10のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項12】
前記モデル動物が、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態のモデル動物である、請求項11に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態が、成長遅延、腎機能障害、肝機能低下、横隔膜ヘルニア及び小脳異常からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項12に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項14】
請求項11に記載のトランスジェニック非ヒト動物に候補物質を投与する工程、及び該候補物質投与後の前記非ヒト動物のプロテオスタシス異常を評価する工程を含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
【請求項15】
請求項12に記載のトランスジェニック非ヒト動物に候補物質を投与する工程、及び該候補物質投与後の前記非ヒト動物のプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を評価する工程を含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
【請求項16】
プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態が、成長遅延、腎機能障害、肝機能低下、横隔膜ヘルニア及び小脳異常からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
請求項14に記載のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬を含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項18】
請求項15又は16に記載のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬を含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項19】
請求項17に記載の医薬組成物を、プロテオスタシス異常を有している又は有している恐れがある患者に投与することを含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防方法。
【請求項20】
請求項18に記載の医薬組成物を、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を患っている又は患っている恐れがある患者に投与することを含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアソームの機能が減弱されたトランスジェニック非ヒト動物等に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアソームは、ユビキチン化されたタンパクを選択的に分解・除去することで、細胞内のタンパク質恒常性の維持のみならず、遺伝子発現、ストレス応答、シグナル伝達など様々な細胞機能の制御に必須の役割を果たしている。従って、プロテアソームの機能破たんは、ガンや神経変性疾患、自己免疫疾患など様々な病態を引き起こすと考えられている。しかしながら、プロテアソームはすべての細胞生存に必須であるため、コンディショナルノックアウトマウスなどの従来の解析法があまり有用ではなく、個体レベルでのプロテアソーム研究は大きく立ち遅れている。そのため、プロテアソーム機能の低下がどのような分子機構で疾患を引き起こすのかについては不明な点が多く残されている。また、ユビキチン・プロテアソーム経路を標的とした阻害剤の開発が積極的に進められているが、個体レベルで薬効を評価するモデルが存在しないことが問題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Glickman, M. H. & Ciechanover, A. The ubiquitin-proteasome proteolytic pathway: destruction for the sake of construction. Physiol Rev82, 373-428 (2002).
【非特許文献2】Arima, K. et al.Proteasome assembly defect due to a proteasome subunit beta type 8 (PSMB8) mutation causes the autoinflammatory disorder, Nakajo-Nishimura syndrome. Proc Natl Acad Sci U S A 108, 14914-14919 (2011).
【非特許文献3】Kitamura, A. et al. A mutation in the immunoproteasome subunit PSMB8 causes autoinflammation and lipodystrophy in humans. J Clin Invest121, 4150-4160 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下において、例えば、プロテアソーム関連疾患(proteasomopathy)モデル動物や、プロテアソーム活性化剤薬効評価モデル動物といった、プロテアソームの機能や活性の評価を個体レベルで解析できるトランスジェニック非ヒト動物、ひいては、ユビキチン・プロテアソーム系を標的とした創薬開発などに貢献し得るトランスジェニック非ヒト動物の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、例えば、以下に示す、トランスジェニック非ヒト動物、並びにプロテオスタシス異常あるいは該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬のスクリーニング方法、及びその治療又は予防用医薬組成物などを提供するものである。
(1)プロテアソームの機能が減弱された、トランスジェニック非ヒト動物。
(2)前記機能の減弱が、全身性プロテアソーム機能の減弱である、上記(1)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(3)前記機能が減弱されたプロテアソームは、プロテアソーム活性が10~50%低下したものである、上記(1)又は(2)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(4)前記機能が減弱されたプロテアソームは、26SプロテアソームのサブユニットであるPSDM12タンパク質に変異が導入されたものである、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0006】
(5)前記変異は、PSDM12タンパク質のアミノ酸配列のC末端側の領域において、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加がされたものである、上記(4)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(6)前記変異が導入されたPSDM12タンパク質が、以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質である、上記(4)又は(5)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(a) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(b) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
(c) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
(7)前記機能が減弱されたプロテアソームを発現するように、遺伝子変異が導入されたものである、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(8)前記遺伝子変異は、26SプロテアソームのサブユニットであるPSDM12タンパク質をコードする遺伝子に導入された変異である、上記(7)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0007】
(9)非ヒト動物が齧歯類動物である、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(10)齧歯類動物がマウスである、上記(9)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(11)プロテオスタシス異常を有するモデル動物である、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(12)前記モデル動物が、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態のモデル動物である、上記(11)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0008】
(13)プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態が、成長遅延、腎機能障害、肝機能低下、横隔膜ヘルニア及び小脳異常からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(12)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(14)上記(11)に記載のトランスジェニック非ヒト動物に候補物質を投与する工程、及び該候補物質投与後の前記非ヒト動物のプロテオスタシス異常を評価する工程を含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
(15)上記(12)に記載のトランスジェニック非ヒト動物に候補物質を投与する工程、及び該候補物質投与後の前記非ヒト動物のプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を評価する工程を含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
(16)プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態が、成長遅延、腎機能障害、肝機能低下、横隔膜ヘルニア及び小脳異常からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(15)に記載のスクリーニング方法。
【0009】
(17)上記(14)に記載のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬を含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防用医薬組成物。
(18)上記(15)又は(16)に記載のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬を含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防用医薬組成物。
(19)上記(17)に記載の医薬組成物を、プロテオスタシス異常を有している又は有している恐れがある患者に投与することを含む、プロテオスタシス異常の治療又は予防方法。
(20)上記(18)に記載の医薬組成物を、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を患っている又は患っている恐れがある患者に投与することを含む、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロテアソームの機能が減弱された、好ましくは全身性プロテアソーム機能が減弱された、トランスジェニック非ヒト動物や、当該非ヒト動物を用いたプロテオスタシス異常を有するモデル動物又は該異常に起因する疾患、症状又は病態のモデル動物、さらには、プロテオスタシス異常又は該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬のスクリーニング方法、及びその治療又は予防用医薬組成物などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】プロテアソームの立体構造を示す図である。 26Sプロテアソームは、触媒サブユニット(CP: core particle: 20Sプロテアソーム)と触媒サブユニット(RP: regulatory particle: 19S複合体)から構成される。RPは、蓋部(lid)と基底部(base)とに更に分類される。19S複合体が2つ会合したものを30Sプロテアソームと呼ぶ。
【
図2】作出したプロテアソーム変異マウスについての解析結果を示す図である。 (A) Psmd12ラストエクソン(exon11)を標的としてgRNAとCas9タンパク質とを受精卵にインジェクションし、得られたF0マウスの尾から採取した細胞を初代培養し、変異型PSMD12タンパク質の発現をWestern blotにて解析した結果である。黒矢印は、正常型PSMD12タンパク質を、赤矢印は、変異型PSMD12タンパク質を示す。 (B) Psmd12ヘテロ変異マウスのゲノム配列を示す。野生型(WT)マウス及びライン化に成功した3系統のPsmd12変異マウス(#17, #53, #36)の変異付近のゲノム配列を解析した結果である。 (C) Psmd12ヘテロ変異マウスのアミノ酸配列を示す。WTマウス及びライン化に成功した3系統のPsmd12変異マウス(#17, #53, #36)の変異付近のアミノ酸配列を示す。WTのアミノ酸及びそれと相同なアミノ酸に、青色ハイライトを付した。
【
図3】プロテアソーム変異マウスにおけるプロテアソーム活性測定の結果を示す図である。 (A) 野生型(WT)又はPsmd12ヘテロ変異マウス由来のMEF(Mouse Embryonic Fibroblast: マウス胎児線維芽細胞)から細胞抽出液を調製し、Native-PAGEにて分離後、プロテアソームのペプチド性蛍光基質であるSuc-LLVY-AMCを用いて、ゲル中の20S、26S、30Sプロテアソームのキモトリプシン様活性を評価した。 (B) WTマウス及び#17のPsmd12変異マウスの脳及び肝臓抽出液を抽出し、上記(A)と同様にプロテアソーム活性を評価した。
【
図4】プロテアソーム変異マウスの生育状況を検討した測定した結果を示す図である。 (A) 生後1週目から12週目までの成長曲線である。生後1週目から12週目まで、野生型(WT)マウス及びライン化に成功した3系統のPsmd12変異マウス(#17, #53, #36)の体重測定を行った(mean±SD、検定方法: Welch’s t-test、
*P<0.05、
**P<0.01)。 (B) 4週目における、WTマウス及び#17のPsmd12変異マウスの、各組織の写真である。
【
図5】プロテアソーム変異マウスの組織学的解析の結果を示す図である。 野生型(WT)マウス及び#17のPsmd12変異マウスの小脳片をHE染色にて染色し形態を観察した。スケールバーは、4倍(x4)時には300μm、40倍(x40)時には50μmを表す。矢印で示すように、#17のPsmd12変異マウスでは、プルキンエ細胞の脱落が観察された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0013】
1.本発明の概要
ユビキチン・プロテアソーム系(UPS:Ubiquitin-Proteasome System)は、ユビキチン化修飾を受けたタンパク質を選択的に分解する細胞内の主要なタンパク質分解システムある。プロテアソームは33種類の異なるサブユニットから構成されるタンパク質分解酵素複合体であり、プロテアーゼ活性を有する20Sプロテアソーム(CP:core particle)と19S複合体(RP:regulatory particle)とが、1つあるいは2つ会合した構造をもつ(
図1参照)。
【0014】
プロテアソームは、細胞内のタンパク質分解の約70%を担っており、ユビキチン化基質の分解を介して細胞周期の進行や転写制御、シグナル伝達、免疫応答、タンパク質恒常性の維持などあらゆる細胞機能の制御に必須の役割を果たしている(前掲の非特許文献1参照)。加齢やストレスによりプロテアソーム機能が破たんすると、正常なタンパク質分解が行われなくなり、異常タンパク質の蓄積やシグナル伝達の攪乱が引き起こされ、神経変性疾患や自己免疫疾患、がんなどの様々な疾患につながると考えられている。よって、UPS制御機構の正確な理解は、UPS機能破たんにより引き起こされる疾患発症の理解につながることが期待される。しかしながら、プロテアソームは細胞生存に必須であるため、ノックアウトマウスなどの解析はあまり有効ではなく、プロテアソーム機能がどのように制御されているのかということや、プロテアソームの機能低下がどのように疾患を引き起こすのかということに関して、個体レベルでの病態生理学的解析が大きく立ち遅れている。
【0015】
ところで、プロテアソーム遺伝子の変異については、20Sプロテアソームのサブタイプである免疫型プロテアソーム構成サブユニットの一つβ5i(PSMB8)遺伝子のミスセンス変異が、日本に特有の遺伝性自己免疫疾患である中条-西村症候群(指定難病268)を引き起こすことが報告されている(前掲の非特許文献2、3参照)。
【0016】
また、近年、UPSを標的とした創薬の開発が製薬企業を中心に積極的に進められている。特に、がん細胞では増強したプロテアソーム活性が細胞増殖、細胞生存を助けていることが分かっており、UPS制御分子は抗がん剤開発のターゲットとなっている。しかしながら、これまでに、これらUPS制御分子の薬効を評価するプロテアソーム機能減弱モデル動物などが存在せず、プロテアソーム機能や活性の評価を個体レベルで解析するためのモデル動物の開発が待たれていた。
【0017】
このような状況下において、本発明者は、プロテアソームの機能や活性の評価を個体レベルで解析できる、プロテアソームの機能が減弱されたトランスジェニック非ヒト動物等を開発した。
【0018】
2.トランスジェニック非ヒト動物
本発明のトランスジェニック非ヒト動物(以下、「本発明の非ヒト動物」ということがある)は、前述のとおり、プロテアソームの機能が減弱された非ヒト動物、好ましくは、全身性プロテアソーム機能が減弱された非ヒト動物である。全身性プロテアソームとは、当該非ヒト動物の全身において存在するプロテアソームのことであり、当該非ヒト動物の体内において発現される実質的にすべてのプロテアソームのことである、ということもできる。
【0019】
本発明の非ヒト動物において、機能が減弱されたプロテアソームは、野生型のプロテアソームに比べてその活性が低下しているものであればよく、特に限定はされないが、例えば、プロテアソーム活性が10~50%低下したものが好ましく挙げられ、また該活性は、20~50%低下したものや、30~50%低下したものや、40~50%低下したものや、10~40%低下したものや、10~30%低下したものや、10~20%低下したものであってもよい。プロテアソーム活性の低下は、例えば、脳(好ましくは、小脳、大脳皮質、海馬)、肝臓、腎臓、精巣、脾臓、心筋、骨格筋などの臓器又は組織において発現しているプロテアソームにおいて確認することができる。
【0020】
プロテアソーム活性は、例えば、プロテアソームのペプチダーゼ活性を蛍光ペプチド基質suc-LLVY-AMCを用いて測定される活性が好ましく挙げられ、その他にも、ポリユビキチン化タンパク質の分解を指標として測定される活性や、ユビキチン陽性凝集体形成の組織学的解析のようにして測定される活性が好ましく挙げられる。
【0021】
本発明の非ヒト動物において、機能が減弱されたプロテアソームは、限定はされないが、例えば、標準型の26Sプロテアソームを構成するいずれか1つ又は複数のサブユニットのタンパク質に変異が導入されたものが挙げられる。当該変異は、限定はされないが、例えば、上記サブユニットのアミノ酸配列における、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加がされた変異であることが好ましい。当該置換、欠失及び/又は付加がされるアミノ酸残基の数は、限定はされないが、例えば、1~20個、1~15個、1~10個、又は1~5個とすることができる。
【0022】
また、具体的な態様としては、前記機能が減弱されたプロテアソームは、限定はされないが、標準型の26Sプロテアソームを構成する触媒サブユニット(CP:core particle;「20Sプロテアソーム」)と制御サブユニット(RP:regulatory particle;「19S複合体」)のうちの、19S複合体を構成するサブユニットに変異が導入されたものであることが好ましく、より具体的には、例えば、19S複合体のlid部分の構成サブユニットの1つであるPSDM12タンパク質(Rpn5タンパク質)に変異が導入されたものであることが好ましい。PSDM12タンパク質は、プロテアソームの保存されたサブユニットであり、プロテアソームの正確な集合と活性のために必要とされると考えられている。また、PSDM12タンパク質やその遺伝子の変異は致死とはならないものであることから、本発明者は、PSDM12タンパク質の変異は、プロテアソームの軽度な機能低下を引き起こす、つまり、機能が減弱されたプロテアソームを生じさせ得ることに着目した。
【0023】
PSDM12タンパク質における前記変異は、限定はされないが、例えば、PSDM12タンパク質のアミノ酸配列のC末端側の領域において、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加がされた変異であることが好ましい。当該置換、欠失及び/又は付加は、限定はされないが、例えば、野生型のPSDM12タンパク質のアミノ酸配列のC末端から数えて、20個目までのアミノ酸残基に対してなされたものであることが好ましく、また、30個目までや、40個目までや、50個目までや、60個目までのアミノ酸残基に対してなされたものであってもよい。また、当該置換、欠失及び/又は付加がされるアミノ酸残基の数は、限定はされないが、例えば、1~20個、1~15個、1~10個、又は1~5個とすることができる。
【0024】
本発明の非ヒト動物において、前記変異が導入されたPSDM12タンパク質としては、具体的には、例えば、下記(a)~(c)のタンパク質が好ましく挙げられる。
【0025】
(a) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(b) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
(c) 配列番号4、6又は8に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、減弱されたプロテアソームの機能を有する、タンパク質。
【0026】
なお、野生型のPSDM12タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に示されるものである。配列番号2のアミノ酸配列(456アミノ酸)は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)において、「NP080170」のAccession numberで登録されている。
【0027】
上記配列番号4、6、及び8に示されるアミノ酸配列は、それぞれ順に、後述する実施例において示されているクローン#17のマウス、クローン#53のマウス、及びクローン#36のマウスにおいて発現し得る変異型PSDM12タンパク質のアミノ酸配列である。
【0028】
上記クローン#17のマウスは、限定はされないが、例えば、受領番号がNITE AP-03543であるマウスの受精卵から作出することができる。受領番号がNITE AP-03543である受精卵は、「PSMD12p.Leu438Gly」と称し2021年10月7日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されたものである。
【0029】
上記クローン#53のマウスは、限定はされないが、例えば、受領番号がNITE AP-03545であるマウスの受精卵から作出することができる。受領番号がNITE AP-03545である受精卵は、「PSMD12p.Ser437Phefs3」と称し2021年10月7日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されたものである。
【0030】
上記クローン#36のマウスは、限定はされないが、例えば、受領番号がNITE AP-03544であるマウスの受精卵から作出することができる。受領番号がNITE AP-03544である受精卵は、「PSMD12p.Ser437Leufs9」と称し2021年10月7日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されたものである。
【0031】
配列番号4のアミノ酸配列(438アミノ酸)は、野生型のPSDM12タンパク質のアミノ酸配列に比べてC末端側の18アミノ酸が欠失したものであり、かつ、第438番目のアミノ酸が野生型のアミノ酸から変異しているものである。
【0032】
配列番号6のアミノ酸配列(439アミノ酸)は、野生型のPSDM12タンパク質のアミノ酸配列に比べてC末端側の17アミノ酸が欠失したものであり、かつ、第437番目~第439番目のアミノ酸が野生型のアミノ酸から変異しているものである。
【0033】
配列番号8のアミノ酸配列(445アミノ酸)は、野生型のPSDM12タンパク質のアミノ酸配列に比べてC末端側の11アミノ酸が欠失したものであり、かつ、第437番目~第440番目及び第442番目~第445番目のアミノ酸が野生型のアミノ酸から変異しているものである。
【0034】
ここで、上記(b)のタンパク質において、「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1個~10個程度、好ましくは1~数個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であることが好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されているかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
【0035】
上記(c)のタンパク質における「同一性」は、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であることがより好ましい。
【0036】
上記(b)及び(c)のタンパク質において、「減弱されたプロテアソームの機能を有する」とは、前述したように、野生型のプロテアソームに比べてその活性が低下しているものであればよく、当該活性の具体的な例示についても前述の説明が適用できる。
【0037】
本発明の非ヒト動物は、前述のとおり、プロテアソームの機能が減弱された非ヒト動物であるが、より具体的には、前記機能が減弱されたプロテアソームを発現するように、遺伝子変異が導入されたものであることが好ましい。詳しくは、当該遺伝子変異は、限定はされないが、例えば、標準型の26Sプロテアソームを構成するいずれか1つ又は複数のサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子に導入された変異が挙げられる。
【0038】
また、具体的な態様としては、当該遺伝子変異は、標準型の26Sプロテアソームを構成する触媒サブユニット(CP:core particle;「20Sプロテアソーム」)と制御サブユニット(RP:regulatory particle;「19S複合体」)のうちの、19S複合体を構成するサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子に導入された変異であることが好ましく、より具体的には、例えば、19S複合体のlid部分の構成サブユニットの1つであるPSDM12タンパク質(Rpn5タンパク質)をコードする遺伝子に導入された変異であることが好ましい。
【0039】
本発明の非ヒト動物において、上述のような遺伝子変異の導入の方法としては、限定はされず、公知の遺伝子組換え技術や、遺伝子変異導入技術等を採用することができる。例えば、変異型遺伝子として用いるDNAは、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997) 等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、QuickChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTMSite-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。また、所望の変異型タンパク質をコードするDNAが得られるように例えばミスセンス変異が導入されるように設計したPCRプライマー等を用い、野生型タンパク質をコードする塩基配列を含むDNA等をテンプレートとして、適当な条件下でPCRを行うこともできる。あるいは、CRISPR/Cas9法を用いて、所望の遺伝子変異を有する非ヒト動物を作出することもできる。
【0040】
本発明の非ヒト動物において、前記変異が導入されたPSDM12タンパク質をコードする遺伝子としては、具体的には、例えば、下記(a)~(c)のDNAを含む遺伝子が好ましく挙げられる。
【0041】
(a) 配列番号3、5又は7に示される塩基配列からなるDNA。
(b) 配列番号3、5又は7に示される塩基配列からなるDNA(すなわち上記(a)のDNA)に対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ減弱されたプロテアソームの機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(c) 配列番号3、5又は7に示される塩基配列からなるDNA(すなわち上記(a)のDNA)と80%以上の同一性を有するDNAであり、かつ減弱されたプロテアソームの機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【0042】
なお、野生型のPSDM12タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAを含む遺伝子である。配列番号1の塩基配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)において、「NM025894」のAccession numberで登録されている。
【0043】
上記配列番号3、5、及び7に示される塩基配列は、それぞれ順に、後述する実施例において示されているクローン#17のマウス、クローン#53のマウス、及びクローン#36のマウスにおいて発現し得る変異型PSDM12タンパク質をコードする塩基配列である。
【0044】
上記クローン#17、#53、及び#36のマウスは、限定はされないが、例えば、それぞれ順に、受領番号がNITE AP-03543、NITE AP-03545、及びNITE AP-03544であるマウスの受精卵から作出することができる。またこれらの受精卵はいずれも前述のとおり寄託されたものである。
【0045】
配列番号3の塩基配列(1317塩基)は、前述した配列番号4のアミノ酸配列をコードするものであり、より詳しくは、野生型のPSDM12タンパク質をコードする塩基配列中の2塩基(具体的には、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1361番目及び第1362番目の2塩基(ct))が欠失したものである。なお、配列番号3の塩基配列における終始コドンにあたる配列(taa)は、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1366番目~第1368番目の塩基に対応するものである。
【0046】
配列番号5の塩基配列(1320塩基)は、前述した配列番号6のアミノ酸配列をコードするものであり、より詳しくは、野生型のPSDM12タンパク質をコードする塩基配列中に(具体的には、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1358番目の塩基と第1359番目の塩基の間に)1塩基(t)が付加されたものである。なお、配列番号5の塩基配列における終始コドンにあたる配列(taa)は、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1366番目~第1368番目の塩基に対応するものである。
【0047】
配列番号7の塩基配列(1338塩基)は、前述した配列番号8のアミノ酸配列をコードするものであり、より詳しくは、野生型のPSDM12タンパク質をコードする塩基配列中の1塩基(具体的には、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1358番目の塩基(t))が欠失したものである。なお、配列番号7の塩基配列における終始コドンにあたる配列(tag)は、配列番号1の塩基配列の番号付けでいうところの第1386番目~第1388番目の塩基に対応するものである。
【0048】
ここで、上記(b)のDNAは、上記(a)のDNA若しくはそれと相補的な塩基配列からなるDNA、又はこれらを断片化したものをプローブとして用い、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、及びサザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法を実施し、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用してもよいし、市販のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーを利用してもよく、限定はされない。
【0049】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等を適宜参照することができる。
ハイブリダイゼーション法の実施における「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって、バッファーの塩濃度が15~330mM、温度が25~65℃、好ましくは塩濃度が15~150mM、温度が45~55℃の条件を意味する。具体的には、例えば80mMで50℃等の条件を挙げることができる。さらに、このような塩濃度や温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件も考慮し、上記(b)のDNAを得るための条件を適宜設定することができる。
【0050】
上記(c)のDNAにおける「同一性」は、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であることがより好ましい。
上記(b)及び(c)のDNAにおいて、「減弱されたプロテアソームの機能を有する」とは、前述したように、野生型のプロテアソームに比べてその活性が低下しているものであればよく、当該活性の具体的な例示についても前述の説明が適用できる。
【0051】
本発明に用い得る非ヒト動物としては、限定はされないが、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イタチ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等のヒトを除く哺乳類動物が挙げられ、なかでも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物が好ましく、より好ましくはマウスである。
【0052】
本発明の非ヒト動物は、プロテアソームの機能が減弱されているという態様を示すものである。このことから、本発明の非ヒト動物は、例えば、プロテオスタシス異常を有するモデル動物として用いることができ、より具体的には、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態のモデル動物として用いることができる。
【0053】
ここで、プロテオスタシス異常とは、一般的に、タンパク質恒常性の破綻に伴い異常タンパク質が蓄積している状態などが好ましく例示できる。また、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態とは、限定はされないが、例えば、成長遅延、腎機能障害、横隔膜ヘルニア、小脳異常、神経変性疾患、難治性がん、慢性炎症疾患、動脈硬化や糖尿病及び老化などが好ましく挙げられる。
【0054】
3.スクリーニング方法
前述のとおり、本発明の非ヒト動物は、プロテオスタシス異常を有するモデル動物、より具体的には、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態のモデル動物として用いることができるため、当該異常や当該疾患、症状又は病態の治療薬等の開発において有用なものである。そこで本発明は、上記モデル動物を用いた、プロテオスタシス異常、あるいはプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬のスクリーニング方法、並びに当該方法により得られるプロテオスタシス異常、あるいはプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬を提供することができる。ここで、プロテオスタシス異常や、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の具体例としては、前述した説明が適用できる。
【0055】
本発明において、プロテオスタシス異常、あるいはプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬をスクリーニングする方法は、以下の(a)及び(b)の工程を含む。
【0056】
(a)本発明の非ヒト動物(モデル動物)に候補物質を投与する工程(投与工程)
(b)候補物質投与後の前記非ヒト動物(モデル動物)のプロテオスタシス異常を評価する、あるいはプロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を評価する工程(評価工程)
【0057】
上記投与工程において、被験動物としての上記モデル動物や、必要により用いる対照動物に投与する候補物質としては、限定はされないが、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素や抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA, RNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA等)、ペプチド核酸(PNA)など)、低分子、中分子又は高分子有機化合物等の様々な物質を例示することができる。
【0058】
候補物質の投与は、経口的又は非経口的に行うことができ、限定はされず、いずれの場合も公知の投与方法及び投与条件等を採用することができる。投与量についても、被験動物の種類及び状態、並びに候補物質の種類等を考慮して、適宜設定可能である。
【0059】
上記評価工程において、「プロテオスタシス異常を評価する」とは、又は、「プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態を評価する」とは、候補物質を投与した後における非ヒト動物のプロテオスタシス異常に関連する表現型、又は、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態に関連する表現型を解析することを意味し、候補物質の投与前後の非ヒト動物の上記表現型を比較検討すること、あるいは、候補物質を投与した被験動物と投与しない対照動物との上記表現型の比較検討を行うことのいずれをも意味するものである。
【0060】
上記表現型の解析においては、候補物質の投与により、プロテオスタシス異常あるいはそれに起因する疾患、症状又は病態が有意に改善されたり、プロテオスタシス異常あるいはそれに起因する疾患、症状又は病態の発生や進行が有意に抑制されていると評価できる場合は、当該候補物質を、プロテオスタシス異常あるいはそれに起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防薬として選択することができる。
【0061】
「対照動物」は、被験動物との比較対照に使用されるに適している限り限定されるものではなく、同腹の非トランスジェニックの非ヒト動物であっても、トランスジェニック動物でない野生型動物であってもよい。また、候補物質を投与しないトランスジェニック非ヒト動物を対照動物として用いることもできる。本発明の非ヒト動物と同腹又は同種の野生型非ヒト動物は、正確な比較実験を行うことができる点で対照動物として好ましい。また、被験動物及び対照動物は、同性及び同齢の動物を用いることが好ましく、飼育条件は同様であることも好ましい。
なお、本発明のスクリーニング方法においては、必要に応じ、他の何らかの工程を含んでいてもよい。
【0062】
4.医薬組成物
本発明においては、プロテオスタシス異常の治療又は予防用医薬組成物や、プロテオスタシス異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防用医薬組成物を提供することもできる。当該医薬組成物は、上述した本発明のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬を含むことが好ましい。プロテオスタシス異常や、当該異常に起因する疾患、症状又は病態の具体例としては、前述した説明が適用できる。
【0063】
上記医薬組成物の有効成分となる、本発明のスクリーニング方法により得られた治療又は予防薬としての物質としては、当該物質そのものに限定はされず、例えば、当該物質の誘導体も、代用又は併用することができる。当該誘導体としては、元のタンパク質や化合物等に由来の化学構造を有するなど、当業者の技術常識に基づいて当該誘導体と考えられるものであればよく、特に限定はされない。当該誘導体としては、例えば、生体内で酸化、還元、加水分解、又は抱合などの代謝を受けるものも包含するほか、生体内で酸化、還元、又は加水分解などの代謝を受けて有効成分として生成されるもの(いわゆるプロドラッグ)も含まれる。
【0064】
本発明の医薬組成物の有効成分としては、本発明のスクリーニング方法により得られた上記物質、上記誘導体もしくは上記プロドラッグと共に、又は当該物質、誘導体もしくはプロドラッグに代えて、それらの薬理学的に許容し得る塩を用いることもできる。薬理学的に許容し得る塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、及びクエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、及びカンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが好ましく挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物の有効成分としては、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含することができ、また、S-体、R-体又はRS-体のいずれであってもよく、限定はされない。さらに、本発明の医薬組成物の有効成分は、その種類により水和物や溶媒和物の形で存在する場合も含むものとする。当該溶媒和物としては、限定はされないが、例えば、エタノールとの溶媒和物などが挙げられる。
【0066】
本発明の医薬組成物において、上述した有効成分の含有割合は、限定はされず、適宜設定することができるが、例えば、医薬組成物全体に対して、0.01~99重量%や、0.01~30重量%や、0.05~20重量%や、0.1~10重量%の範囲内とすることができる。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の医薬組成物は、プロテオスタシス異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防効果を発揮することができる。
【0067】
本発明の医薬組成物は、対象とするヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、イタチ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、種々の投与経路、具体的には、経口、又は非経口(例えば静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、直腸投与、経皮投与)で投与することができ、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化して用いることができる。
【0068】
剤形としては、経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、吸入剤、軟膏剤、点鼻剤、及びリポソーム剤等が挙げられる。なお、上述した各種経口剤とする場合、本発明の治療剤及び医薬組成物は、場合によりサプリメント剤(例えば機能性食品に該当する)として利用することもできる。
【0069】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
【0070】
当該成分として使用可能な無毒性のものとしては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0071】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。
【0072】
また、pH調整剤は、注射剤として製剤化する場合等に使用される。pH調整剤としては、例えば、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウムのようなアルカリ金属水素化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。配合されるpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。注射剤等として製剤化する場合は、pH調整剤を用いて適当なpHに適宜調整することができる。本発明においては、pHは、3~6であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、3~4.5であることがさらに好ましく、3.5~4.5であることが特に好ましい。
【0073】
なお、注射剤として製剤化する場合は、シクロデキストリン類を含有していてもよい。シクロデキストリン類は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に限定はされない。このようなシクロデキストリン類として、例えば、未修飾シクロデキストリン、修飾シクロデキストリン等が挙げられる。未修飾シクロデキストリンとして、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等が挙げられる。また修飾シクロデキストリンとして、例えば、アルキル化シクロデキストリン(例えば、ジメチル-α-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-γ-シクロデキストリン等)、ヒドロキシアルキル化シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン等)、スルホアルキルエーテルシクロデキストリン(例えば、スルホブチルエーテル-α-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-γ-シクロデキストリン)、分岐シクロデキストリン(例えば、マルトシル-α-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-γ-シクロデキストリン等)等が挙げられる。
【0074】
シクロデキストリン類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。配合されるシクロデキストリン類は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、又は、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンが好ましく、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
【0075】
シクロデキストリン類の含有量は特に限定されず、その種類、注射剤の用途、使用方法等に応じて適宜設定される。シクロデキストリン類の含有量として、例えば、注射剤の総量を基準に、5~50重量%であることが好ましく、10~40重量%であることがより好ましく、10~30重量%であることがさらに好ましい。
【0076】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の医薬組成物を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
【0077】
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されないが、各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、前述した有効成分等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
【0078】
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、前述した有効成分等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1kgあたり、0.01~1000mg、0.05~500mg、又は0.1~50 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~20 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。
【0079】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、前述した剤形のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、前述した有効成分等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0080】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、前述した有効成分等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1 kgあたり、0.05~5000mg、0.1~1000mg、又は0.1~100 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~50 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。また、経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
【0081】
なお、本発明は、(i) 本発明の医薬組成物を用いること、具体的には例えば、本発明の医薬組成物の有効量を被験対象(プロテオスタシス異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態を患っている又は患っている恐れがある患者、あるいはそのような非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イタチ、ネコ、イヌ、サルなど))に投与することを含む、プロテオスタシス異常あるいは当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防方法、(ii) プロテオスタシス異常あるいは当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防用の薬剤を製造するための本発明の医薬組成物の使用、並びに、(iii) プロテオスタシス異常あるいは当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防用の本発明の医薬組成物の使用も含むものである。
【0082】
また、本発明において、プロテオスタシス異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療としては、具体的には、例えば、当該異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療の進行抑制、予後改善、及び/又は再発防止等も含まれる。
【0083】
5.キット
プロテオスタシス異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態の治療又は予防を行うに当たっては、前述した本発明の医薬組成物を含むキットを用いることができる。
当該キットにおける医薬組成物中の有効成分の形態は、限定はされないが、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮し、例えば溶解した状態で備えられていてもよい。
当該キットは、本発明の医薬組成物以外にも、適宜、他の構成要素を含むことができる。
【0084】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0085】
[方法]
Psmd12変異マウス(プロテアソーム機能減弱マウス)の作出
本発明者は、プロテアソーム機能減弱マウスを作出するにあたり、26Sプロテアソームを構成するサブユニットのうち、変異が致死とはならず、プロテアソームの機能を減弱させるのに適したサブユニットを種々検討した。その結果、PSMD12(Rpn5)タンパク質に着目し、PSMD12の変異型タンパク質を発現するトランスジェニックマウス(Psmd12変異マウス)の作出を試みた。具体的には、CRISPR/Cas9法を用いて、PSMD12タンパク質のC末端領域欠損マウスの作出を試みることにした。具体的には、Psmd12遺伝子のラストエクソン(Exon11)を標的としたガイドRNA(gRNA)とCas9タンパク質とを、C57BL/6JJclマウス(日本クレア)の受精卵にインジェクションした。なお、上記gRNAは、Psmd12遺伝子のExon11中の下記塩基配列(配列番号9)を標的配列として適宜設計したものを用いた。
【0086】
ACTGAACTCGCTGATGTCTC(配列番号9)
【0087】
次いで、得られたF0マウスにおいてPsmd12遺伝子に変異が導入されていることをゲノムsequenceにより確認した。また、変異型PSMD12タンパク質の発現を確認するため、得られた各種Psmd12変異マウス(プロテアソーム変異マウス)のF0世代の尾から採取した細胞を初代培養し、Western blot解析を行った。上記のCRISPR/Cas9に使用したgRNAの塩基配列を表1に示す。
【0088】
プロテアソーム機能減弱マウスのプロテアソーム活性測定
MEF(Mouse Embryonic Fibroblast: マウス胎児線維芽細胞)及びマウス組織におけるプロテアソームの活性を測定した。MEFはE12.5日胚をPrimary Mouse Embrionic Fibroblast Isolation Kit (Thermo #88279)を用いて付属のプロトコルに従って作製した。1×106の野生型(WT)またはプロテアソームヘテロ変異マウスMEFをPBSで2回洗浄し、トリプシンを用いて回収した。回収した細胞をさらにPBSで2回洗浄し、50 μlのLysis buffer(50 mM Tris-HCl pH7.5、10% glycerol、100 mM NaCl、4 mM ATP、1 mM DTT、10 mM MgCl2、1×Protease Inhibitor Cocktail(PIC)EDTA free(Roche))に+0.2% NP40を加え細胞を溶解した。氷中で30分静置後、15,000 rpm、4℃で10分間遠心を行い、上清を回収した。マウス組織については、10週齢WTおよびプロテアソーム変異マウスの脳および肝臓を、10 ml凍結破砕用チューブ(安井器械)に回収し、液体窒素にて、組織を完全に凍結した。チューブに10 ml破砕チューブ用メタルコーン(安井器械)を加え、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて、組織を2,700 rpm 、10秒で凍結破砕した。組織重量10 mgに対して、70μlのLysis buffer(50 mM Tris-HCl pH7.5、10% glycerol、100 mM NaCl、4 mM ATP、1 mM DTT、10 mM MgCl2、1×Protease Inhibitor Cocktail(PIC)EDTA free(Roche))を加え、懸濁し、超音波破砕処理を行った。超音波破砕処理後、15,000 rpm、4℃で10分間遠心を行い、上清を回収した。得られた上清を0.45μmフィルター(Millipore)でろ過(5,000 rpm、4℃、1分間)した。得られた組織抽出液をPierce 660 nm Protein Assay Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて、タンパク質濃度を算出した (ウシ血清アルブミン(BSA、Thermo Fisher Scientific)を標準タンパク質とした)。組織抽出液をLysis bufferにて、5μg/3μlに調製し、4×loading dye(0.1μg/μl Xylene Cyanol、10 % glycerol)を1μl加えた後に、NuPAGE 3-8% Tris acetate gel(Thermo Fisher Scientific)にて泳動した(150 V、240分間、4℃)。泳動bufferとしてTBE buffer(90 mM Tris、80 mM borate、0.1 mM EDTA、0.5 mM ATP、2 mM MgCl2、0.5 mM DTT)を使用した。Native-PAGE後のゲルを37℃、30分間でプレインキュベートを行った。26Sおよび30Sプロテアソームのキモトリプシン様プロテアーゼ活性を評価するために、100μM Succinyl-Leu-Leu-Val-Tyr-7-Amide-4-Methyl-Coumarin (Suc-LLVY-AMC、ペプチド研究所)、1 mM ATP、10 mM MgCl2、1 mM DTTを含んだBuffer A(50 mM Tris-HCl pH7.5、10 % glycerol、100 mM NaCl)4 mlをゲルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、Suc-LLVY-AMCの加水分解による、AMCの蛍光(excitation 345 nm、emission = 445 nm)をLAS 4000 (GE Healthcare)にて可視化した(設定:DAPIモード、標準的なDNA染色用)。
【0089】
プロテアソーム機能減弱マウスの生育解析
野生型(WT:wild-type)およびプロテアソーム変異マウスの体重を、生後直後または生後1週目から12週目まで1週毎に実施し、成長のモニタリングを行った。また、4週齢マウスの組織を採取し、各組織の重量を測定した。
【0090】
組織学的解析
10週齢のWTおよびプロテアソーム変異マウスの組織を採取し、パラホルムアルデヒド(PFA)溶液(4 % in 0.1 M PBS)に浸し、4℃で数日固定を行った。固定後、0.1 M PBSで洗浄し、70 %ドライゾール、80%ドライゾール、90%ドライゾール、95 %ドライゾール、100 %ドライゾール系列(関東化学)を用いて、30分~1時間ずつ脱水処理を行った。脱水処理後、キシレン(MERCK)による脱脂を1時間ずつ3回行った。脱脂後のサンプルをパラフィン(富士フィルム和光)浸透し、パラフィンブロックを作製した。得られたパラフィンブロックをミクロトーム(Leica Biosystems RM2245)により、5μmに薄切し、剥離防止コートスライドガラス(松浪硝子)に貼り付け、37℃のホットプレート上で、一晩乾燥させた。乾燥後のサンプルは4℃で保存した。パラフィン切片を、キシレンを用いた脱パラフィン後、100 %、90 %、70%、50%ドライゾールN系列(関東化学)および精製水により再水和を行った。再水和後、マイヤーヘマトキシリン(富士フィルム和光)およびエオジン(サクラファインテック)による染色を行い、100%ドライゾールNおよびキシレンにより脱水および透徹を行った後、マウントクイック(大道産業)にて封入した。
【0091】
[結果]
プロテアソーム機能減弱マウスの確立
Psmd12遺伝子のラストエクソン(Exon11)を標的としたgRNAとCas9タンパク質をマウス受精卵にインジェクションし、CRISPR/Cas9法による変異導入を行ったところ、indel変異を持つPsmd12変異マウスを複数系統取得した(
図2A)。そのうちライン化に成功した3系統(クローン #17、#53、#36)についてゲノムsequenceを実施したところ、クローン#17のマウスではc.1312-13 (CT)の2塩基欠失、クローン#53のマウスではc.1310への1塩基挿入(T)、クローン#36のマウスではc.1309(T)の1塩基欠失という変異が、Psmd12遺伝子に導入されていた(
図2B)。このように、変異部位の異なる3ラインのヘテロ接合型Psmd12変異マウス(系統名 #17:p.Leu438Gly*、#53:p.Ser437Phefs*3、#36:p.Ser437Leufs*9)の作出に成功した。以下、#17ヘテロ接合型変異マウスを「#17マウス」、#53ヘテロ接合型変異マウスを「#53マウス」、#36ヘテロ接合型変異マウスを「#36マウス」と表記する。
プロテアソームヘテロ変異マウス同士の掛け合わせを行ったところ、#17マウスおよび#53マウスの2系統ではホモマウスを得ることが出来なかった。従って、#17および#53のホモ変異マウスは胎生致死であることが示唆された。一方で、PSMD12のC末端欠損の度合いが最も小さい#36マウスではホモ変異マウスが得られた。以上より、PSMD12のC末端欠損の度合いにより、プロテアソーム機能に与える影響が異なることが示唆された。
【0092】
プロテアソーム活性の検討
Psmd12ヘテロ変異の導入が実際にプロテアソーム活性に影響を及ぼすのか、WT及びPsmd12変異マウス由来のMEF(Mouse Embryonic Fibroblast: マウス胎児線維芽細胞)を用いてプロテアソームの活性をin gelペプチダーゼアッセイ法により解析した。その結果、#17マウス及び#53マウス由来のMEFにおいて26Sプロテアソーム活性、特にCPの両端にRPが会合した30Sプロテアソームの活性が著しく減弱することが明らかとなった(
図3A)。さらに、10週齢WTおよび#17マウスの肝臓と脳について抽出液を用いて上記と同様の方法でプロテアソーム活性を測定したところ、#17マウスでは26Sプロテアソームの活性が、WTと比べて脳で約30%低下し、肝臓で約20%低下していることが明らかとなった(
図3)。以上の結果より、PSMD12のヘテロ変異はプロテアソームの機能を低下させることが明らかとなった。
【0093】
Psmd12変異が生育に及ぼす影響の検討
Psmd12変異が生育に及ぼす影響を検討するために、生後1週目から12週目までの体重測定を実施した。その結果、#17及び#53マウスはWTマウスと比較して雌雄ともに成長が遅延していることが明らかとなった(
図4A)。特に、PSMD12のC末端欠損の度合いが最も大きい#17マウスは、3系統の中でも特に体格が小さく、肝臓、腎臓、精巣などの主要な臓器も小さいことが明らかとなった(
図4B)。他方、#30のホモ変異マウスでは、WTマウスと比較して成長遅延や運動障害の傾向があることが確認された。以上の結果から、本実施例で作出したプロテアソーム変異マウスは、発育障害を引き起こしていることが明らかとなった。
【0094】
プロテアソーム変異マウスの組織学的解析
プロテアソームの機能低下が各組織に及ぼす影響を詳細に解析するために、組織学的解析を実施した。10週齢のWT及び#17マウスの脳組織のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行い、顕微鏡にて形態を観察した。この結果、大脳皮質や海馬では目立った異常がないものの、#17マウスの小脳プルキンエ細胞の顕著な脱落が確認された(
図5)。よって、プロテアソームの機能低下は小脳の機能異常を引き起こすことが示唆された。
【0095】
[考察]
プロテアソームは全ての細胞に存在し、個体生存に必須であるため、これまでのコンディショナルノックアウトマウスを用いた従来の解析法では、「プロテアソームの要求性は組織により異なるのか、また、プロテアソーム活性は、どの時期・どの場所で必要なのか」といった、本質的な問いには答えられない状況であった。本実施例では、全身性のプロテアソーム機能減弱マウスの作出を試み、19S複合体構成サブユニットの一つPsmd12遺伝子に変異を持つ、3系統のPsmd12変異マウス(Psmd12ヘテロ接合型変異マウス)を樹立することに成功した。これらの変異マウスはそれぞれ変異の度合いが異なり、特に、PSMD12のC末端の欠失が最も大きい#17マウスで顕著な表現型を示した。このように、PSMD12の変異の度合いによりプロテアソーム機能に与える影響が異なることが示唆された。また、本実施例で作出したプロテアソーム機能減弱マウスの化学的および組織学的解析の結果から、プロテアソーム機能の低下が個体に及ぼす影響は一様ではなく、プロテアソーム要求性は組織や部位により異なることが示唆された。
【0096】
本実施例で作出した全身性プロテアソーム機能減弱マウスの表現型は、PSMD12変異発達障害患者に見られる多面的な症状とよく対応している。よって本研究で作出したプロテアソーム機能減弱マウスは、プロテアソーム関連疾患(proteasomopathy)モデルマウスとして有用であると考えられる。さらに、本実施例で作出した全身性プロテアソーム機能減弱マウスは、プロテアソーム病(プロテオスタシス異常や当該異常に起因する疾患、症状又は病態)モデルマウスとしてのみならず、当該プロテアソーム病の治療や予防等のためのプロテアソーム調節剤をin vivoで評価することができる、UPS創薬に利用し得る優れた動物モデルとなると考えられる。