(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170683
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20241204BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20241204BHJP
【FI】
B01J23/89 A
B01J35/02 H ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167259
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 直也
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA03A
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA06A
4G169BA08A
4G169BA10A
4G169BA13A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB07A
4G169BB14A
4G169BB15A
4G169BC09A
4G169BC22A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC51A
4G169BC60A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BD05A
4G169BD07A
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC03Y
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB15
4G169FB16
4G169FB44
4G169FB46
4G169FC08
4G169ZA01A
4G169ZA37A
4G169ZA39A
(57)【要約】
【課題】PtおよびPdの使用量を低減させつつ、従来と同等またはそれ以上の性能を示す排ガス浄化触媒を提供すること。
【解決手段】PdとFe、またはPtとFeを含む平均粒子径が8nm未満の金属粒子および担体を含み、前記金属粒子および担体の合計質量を100質量%としたとき、前記金属粒子が1質量%以上である触媒。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PdとFe、またはPtとFeを含む平均粒子径が8nm未満の金属粒子および担体を含み、前記金属粒子および担体の合計質量を100質量%としたとき、前記金属粒子が1質量%以上である触媒。
【請求項2】
前記金属粒子が、PdとFeを含む粒子である請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記金属粒子が、PtとFeを含む粒子である請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記PdとFeを含む粒子のPdとFeの合計原子量を100at%としたとき、Pdの比率が、50at%から60at%である請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
前記PtとFeを含む粒子のPtとFeの合計原子量を100at%としたとき、Ptの比率が、35at%から55at%である請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
前記担体が、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、カルシア、マグネシア、チタニア、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア、ランタナ、ランタナ-アルミナ、酸化スズ、酸化タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタングステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェライト、ムライト、シリコンカーバイド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノホーンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
前記担体が、アルミナ、セリア、ジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の触媒
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒に関する。さらに詳しくは、化学反応、電気化学反応、排ガス浄化反応に用いられる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
Pt族金属は、周期律表で8族に属する遷移金属で、Pt、Pd、Rh、Ru、IrおよびOsの6種類の元素で構成されている金属の総称である。Pt族金属は原子の最外殻にあるd軌道に存在する電子が水素や酸素と共有結合をすることから、Pt族金属を利用した触媒は、酸化反応や還元反応で高い活性を示すことが知られている。また、化学的に安定であり、酸ならびアルカリに対する耐久性が高く、融点が高いことから耐熱性に優れている。このような利点から、Pt族金属を利用した触媒は、多様な産業で実用化されている。
例えば、化学反応の触媒として、Pt族金属は石油精製をはじめ、石油化学、医薬、香料、食品などのファインケミカル分野で利用されている。前記分野において、水素化反応、脱水素化反応、酸化反応、カップリング反応、オレフィンメタセシス反応、重合反応等の様々な化学反応にPt族金属を含む触媒が使用されている。
また、これらPt族金属は固体高分子型燃料電池、固体高分子型水電解装置、ソーダ工業用電解層、化学センサ等の電極に利用される電極触媒としても知られている。
【0003】
さらに、Pt族金属は自動車用の排ガス浄化触媒に大量に使用されている。ガソリン自動車の排ガスには、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物が含まれており、環境に悪影響を及ぼすことから規制対象物質とされている。このことから、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を同時に分解する三元触媒として、Pt,Pd、Rhが利用されている。PtおよびPdは、特に炭化水素、一酸化炭素の分解能力に優れているといわれている。ディーゼル車においては、空燃比が高く、燃料効率に優れている反面、排ガス中に大量の窒素酸化物が発生するという問題がある。ディーゼル車におけるPtおよびPdの役割は、炭化水素、一酸化炭素を分解すること及び一酸化窒素を二酸化窒素に変換することがあげられる。PtおよびPd触媒によって変換された二酸化窒素は、触媒の後段に設置されている選択還元システムで二酸化窒素から窒素への還元が行われる。このことから、ガソリン車およびディーゼル車の排ガス浄化において、PtおよびPdは不可欠であり、近年の排ガス規制強化により、自動車1台あたりのPtおよびPd使用量を増加させて、規制をクリアさせる必要がある。
【0004】
しかしながら、Pt族金属の産出地は偏在しており、供給が不安定であることから、Pt族金属の使用量が多くなると、Pt族金属の価格が急騰する可能性があり、コストへの影響も大きくなる。排ガス浄化触媒の触媒性能向上とPtおよびPd使用量の削減によるコストダウンの両立が、自動車メーカーの課題の一つとなっている。
【0005】
上記課題に対する対応策の一つとして、他の金属を添加した合金触媒の開発が検討されている。触媒を合金化させることにより、触媒活性の向上、反応選択性、触媒の耐久性に寄与するといわれている。特にFeは、粗鋼としての産出量は18億トンと非常に多く、Feを含む化合物は窒素酸化物の還元性能を有していることが知られている。一方、Feは、酸化しやすく、耐熱性も高くないことから単金属での実用化が難しく、PtもしくはPdとの合金化による高性能化が期待されている。
【0006】
特許文献1では、金属担持率が1.5質量%であり、かつ平均粒径が9nmから50nmの範囲にあるPd-Fe金属粒子が、CeO2、ZrO2、Al2O3の少なくとも1つを主成分とする酸化物担体に担持された排ガス浄化触媒が提案されている。
【0007】
非特許文献1は、Pd-FeもしくはPt-Fe担持Al2O3触媒を開示しており、金属粒子の粒径は約5nmと微細であるが、金属担持率が0.5質量%と少量であることから、十分な活性を発揮することが難しいと考えられる。
【0008】
非特許文献2においては、Pd-Fe担持Al2O3触媒が開示されている。金属担持量が5質量%以上と多いが、金属粒子の粒径が10nm以上と大きいため、良好な触媒活性は見込まれない
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【0010】
【非特許文献1】Bimetallic Pd-Fe supported on γ-Al2O3 catalyst used in the ring opening of 2-methylfuran to selective formation of alcohols, Applied Catalysis A, General, 543, (2017) 133-140.
【非特許文献2】Novel Fe-Pd/γ-Al2O3 catalysts for the selective HYDROGENATION of C≡C bonds under mild conditions, Mendeleev Commun., 29, (2019), 339-342.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
環境規制がより厳しくなることから、排ガス浄化触媒の触媒性能向上とPtおよびPdの使用量の削減の両立が求められており、PtおよびPdの使用量を低減させつつ、従来と同等またはそれ以上の性能を示す排ガス浄化触媒が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は下記の態様を有する。
【0013】
[1]
PdとFe、またはPtとFeを含む平均粒子径が8nm未満の金属粒子および担体を含み、前記金属粒子および担体の合計質量を100質量%としたとき、前記金属粒子が1質量%以上である触媒。
[2]
前記金属粒子が、PdとFeを含む粒子である前記[1]に記載の触媒。
[3]
前記金属粒子が、PtとFeを含む粒子である前記[1]に記載の触媒。
[4]
前記PdとFeを含む粒子のPdとFeの合計原子量を100at%としたとき、Pdの比率が、50at%から60at%である前記[2]に記載の触媒。
[5]
前記PtとFeを含む粒子のPtとFeの合計原子量を100at%としたとき、Ptの比率が、35at%から55at%である前記[3]に記載の触媒。
[6]
前記担体が、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、カルシア、マグネシア、チタニア、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア、ランタナ、ランタナ-アルミナ、酸化スズ、酸化タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタングステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェライト、ムライト、シリコンカーバイド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノホーンからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]から[5]に記載の触媒。
[7]
前記担体が、アルミナ、セリア、ジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[6]に記載の触媒
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用するPt族金属量を低減させつつ、従来の排ガス浄化触媒性能と同等またはそれ以上の触媒を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】PdとFeを含む金属粒子1.2質量%とAl
2O
3を含む触媒のTEM画像
【
図2】PdとFeを含む金属粒子5.0質量%とAl
2O
3を含む触媒のTEM画像
【
図3】PdとFeを含む金属粒子5.0質量%とAl
2O
3を含む触媒のXRDパターン
【発明を実施するための形態】
【0016】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0017】
本発明の触媒(以下、「本触媒」とも記す。)は、PdとFe、またはPtとFeを含む平均粒子径が8nm未満の金属粒子および担体を含み、前記金属粒子および担体の合計質量を100質量%としたとき、前記金属粒子が1質量%以上である。
【0018】
前記金属粒子の形状は球状であり、透過電子顕微鏡(以下、「TEM」とも記す。)で確認することができる。
金属粒子の平均粒子径は、8nm未満であり、1nm以上が好ましい。また平均粒子径は7.95nm以下が好ましく、4.5nm以下がより好ましい。
粒径が小さくなると、PdとFe、またはPtとFeを含む金属粒子の比表面積が向上し、触媒活性が向上する。
【0019】
前記平均粒子径はTEMで測定することができる。TEMにより撮影した画像に写っている金属粒子の内、一次粒子を20個以上選定し、それらの粒子の最長の長さを粒子径として目視により測定する。各粒子の粒子径の合計を、粒子径を測定した粒子の個数で除した値を平均粒子径とした。
測定する一次粒子の個数は20個以上であれば特に制限はないが、通常は50個以下であり、20個から30個程度である。
【0020】
本触媒は、少なくともPdとFe、またはPtとFeを含む金属粒子を有しており、PdとFe、もしくはPtとFeは合金化されていることが好ましい。また、Pd、PtおよびFe以外の他の金属が本触媒に含まれていてもよく、それらはPd、PtおよびFeの少なくとも1種との合金でもよい。
他の金属としては、Ni、Co、Cu、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Au等があげられる。
【0021】
本触媒はPd、PtまたはFeの単金属を含有としてもよく、これらの塩化物や酸化物など化合物の状態で含有してもよい。
なお前記金属粒子は、担体上から脱落した状態であってもよい。
【0022】
前記金属粒子は、PdとFeからなる粒子が好ましい。PdとFeからなる粒子はPdとFe以外の金属は含まない粒子が好ましい。PdとFeからなる粒子はPdとFeとの合金が好ましい。前記合金は金属間化合物として存在するが、特にfct(面心正方晶)構造であることがより好ましい。
【0023】
前記金属粒子がPdとFeからなる粒子の場合、Pdの比率は、PdとFeの合計原子量を100at%としたとき、50at%から60at%であることが好ましい。Pdが前記範囲の比率で存在することで、PdとFeはfct(面心正方晶)構造の合金を形成することができ、触媒の耐久性が向上すると考えられる。
【0024】
また前記金属粒子は、PtとFeからなる粒子が好ましい。PtとFeからなる粒子はPtとFe以外の金属は含まない粒子が好ましい。PtとFeからなる粒子はPtとFeとの合金が好ましい。前記合金は金属間化合物として存在するが、特にfct(面心正方晶)構造であることがより好ましい。
【0025】
前記金属粒子がPtとFeからなる粒子の場合、Ptの比率は、PtとFeの合計原子量を100at%としたとき、35at%から55at%であることが好ましい。Ptが前記記載の比率で存在することで、PtとFeはfct(面心正方晶)構造の合金を形成することができ、触媒の耐久性が向上すると考えられる。
【0026】
本触媒中の金属含有率とは、前記金属粒子および担体の合計質量を100質量%としたときの金属粒子の割合であり、担持された金属粒子が1質量%以上が好ましい。また金属含有量は30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
金属含有率は、例えば、触媒の溶液化前処理工程を経て、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES分析)で測定することができる。
【0027】
本触媒が含有する担体は、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、カルシア、マグネシア、チタニア、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア、ランタナ、ランタナ-アルミナ、酸化スズ、酸化タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタングステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェライト、ムライト、シリコンカーバイド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノホーンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
本触媒を自動車の排ガス浄化用触媒に用いる場合、触媒の使用雰囲気は1000℃以上であり、自動車の想定使用年数である20年の間、前記の環境で使用される。したがって、本触媒を自動車の排ガス浄化用の触媒として用いる場合、本触媒が含有する担体は、熱による耐熱性を有しておりかつ大きな比表面積を有しているのが好ましい。かかる観点から、アルミナ、セリア、ジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記担体は、比表面積が大きいほど、吸着する金属粒子の量を多くすることから、比表面積は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。
【0029】
本触媒は、化学反応、電極反応、排ガス浄化反応の触媒として使用することができる。
本触媒を化学反応で使用する場合、反応容器の構造は、固定床型反応器、移動床型反応器、流動床型反応器、攪拌槽型反応器、気泡塔型反応器等に分類されるが、特に固定床型反応器で本触媒を使用することが好ましい。固定床型反応器は、筒状容器に触媒を充填して、粒子の空隙を気体または液体の反応流体が流れる構造である。触媒の形状は特に限定されないが、空隙率が高いという観点で触媒をペレット状で使用することが好ましい。
【0030】
本触媒を電極反応で使用する場合、燃料電池のアノード触媒に好適に使用することができる。燃料電池は外部から供給された水素分子が、アノードで2個の電子を離して水素イオン(プロトン)になり、一方、水素から離れた電子は、外部回路を通って反対側のカソードに電流として流れ電力が発生する。カソードでは、空気中から取り入れられた酸素分子が、外部回路から戻ってきた電子を受け取り、酸素イオンになる。酸素イオンは、プロトン輸送剤を伝って移動してきた水素イオンと結合して、水となる。
【0031】
アノード側の化学反応は下記式(1)、カソード側の化学反応は下記式(2)、全体の反応は下記式(3)で表すことができる。
2H2 → 4H+ + 4e- (1)
4H+ + O2 +4e- → 2H2O (2)
2H2 + O2 → 2H2O (3)
通常、燃料電池のアノード触媒はPt/Cが利用されているが、本触媒に置き換えることで(3)の反応を効率的に促進させることができる。
【0032】
本触媒を排ガス浄化触媒として使用する場合、本触媒をウォッシュコート化してセラミックハニカムにコーティングしてセラミックハニカムに担持して使用するのが好ましい。前記触媒担持セラミックハニカムはマフラーシステムに搭載することで、効率的に排気ガスと触媒を接触させることができるため、好ましい。
エンジンの空燃比(吸入空気質量/供給燃料質量)を理論空燃比である14.7に設定することで、下記反応が効率的に促進される。
2CO + O2 → 2CO2 (4)
4CxHy + (4x + y)O2 → 4xCO2 + 2yH2O(5)
2NOx → xO2 + N2 (6)
既存の三元触媒は、主にPt,Pd,Rhが使用されているが、PtまたはPdを本触媒に置き換えることで、効率的に排ガス浄化を行うことができる。
【0033】
以下、前記本触媒の製造方法について述べる。
一般的な触媒製造方法である含浸担持法は、1種類以上の金属原料を溶媒に溶解し、そこへ細孔を有する担体を添加、混合したのち、乾燥工程により溶媒を除去して金属原料を担体上に吸着担持させる。得られた担持体を熱処理することにより、金属原料中の無機物などの不純物を分解、除去して、担体上に金属粒子を形成させる方法である。このような方法では、金属原料の仕込み量を多くするほど、担体上に金属原料が密に存在することになり、熱処理による金属粒子形成の際に、金属原料同士が凝集し、担体上の金属粒子の粒径が大きくなる。したがって、金属粒子の担持量を増加させつつ、粒径の小さい金属粒子が担持した触媒の製造は困難であった。
【0034】
一方、前記本触媒は、粒子径の小さい前駆物質を作製し、得られた前駆物質を担体上へ高分散に担持させる。
担持後、例えば還元雰囲気下等で熱処理を実施することによって、前駆物質が還元され、単体金属や合金の状態で担体上に担持させることができる。さらに、熱処理温度を適切に調整することで、PdとFe、またはPtとFeの金属間化合物のように結晶構造の規則化が可能となる。その結果、合金構造の化学的安定性や磁性などの特性が付与された金属粒子が担持された触媒を製造することができる。
これにより、最終的に得られる触媒の金属含有率が高くても、焼成等の後の工程で熱凝集により金属粒子径が粗大化することがほとんどなく、小さい金属粒子径を保持した担持触媒を作製することができる。
なお前駆物質とは、含浸担持法で用いられる無機塩などの金属原料ではなく、金属単体、合金、酸化物のような固体状態である。少なくともPdとFe、またはPtとFeを含み、Pd、PtおよびFe以外の他の金属が含まれた合金でもよい。他の金属としては、Ni、Co、Cu、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Au等が挙げられる。また、Pd,Pt,Feは単金属として存在してもよい。
【0035】
本触媒の製造方法は、例えば、
(1)Pd化合物およびFe化合物、またはPt化合物およびFe化合物を含む溶液中で、前記Pd化合物およびFe化合物、またはPt化合物およびFe化合物を分解反応および還元反応のうち少なくとも1つの反応によりPdとFe、またはPtとFeを含む前駆物質を得る工程、
(2)前記(1)で得た前駆物質を含む液体中に担体を混合し、担持体を得る工程、および
(3)前記(2)で得た担持体を熱処理する工程
を経て、本触媒を製造することができる。
【0036】
[工程(1)]
目的とする触媒がPdとFeを含む場合、工程(1)において、Pd化合物およびFe化合物を含む溶液中で前記Pd化合物およびFe化合物を分解反応または還元反応のうち少なくとも1つの反応によりPdとFeを含む前駆物質を得る。前駆物質は金属単体、合金、酸化物のような固体状態である。前駆物質は少なくともPdおよびFeを含み、PdおよびFe以外の他の金属が含まれた合金でもよい。また、PdおよびFeは単金属として存在してもよい。
Pd化合物およびFe化合物は、PdまたはFeイオンの各種の塩、有機金属錯体などを用いればよい。
【0037】
具体的には、Pd化合物とは、Pd(II)アセチルアセトナート、酢酸Pd(II)、塩化Pd(II)、テトラアンミンジクロロPd(II)一水和物、ジアンミンジクロロPd(II)、ジアンミンジニトロPd(II)、硫酸Pd(II)、硫酸Pd(II)2水和物、硝酸Pd(II)、テトラクロロPd(II)酸カリウム、テトラクロロPd(II)酸ナトリウム、テトラクロロPd(II)酸アンモニウムなどが挙げられる。
なかでもPd(II)アセチルアセトナートが好ましい。
【0038】
また、Fe化合物とは、ペンタカルボニルFe、ノナカルボニル二Fe、ドデカカルボニル三Fe、Fe(II)アセチルアセトナート、Fe(III)アセチルアセトナート、フェロセン[ビス(シクロペンタジエニル)Fe(II)]、塩化Fe(III)、塩化Fe(III)6水和物、塩化Fe(II)4水和物、硫酸Fe(II)、硫酸Fe(II)7水和物、硫酸Fe(III)アンモニウム、臭化Fe(II)、ヨウ化Fe(II)、硫酸Fe(III)9水和物、硫酸Fe(II)水和物、硝酸 Fe(II)、硝酸Fe(III)、硝酸Fe(III)9水和物、過塩素酸Fe(III)、ピロ燐酸Fe(III)、酢酸Fe(II)、酢酸Fe(III)、リン酸Fe(III)、リン酸 Fe(II)8水和物、リン酸Fe(III)n水和物、クエン酸Fe(II)、クエン酸Fe(III)水和物、クエン酸Fe(III)アンモニウム、シュウ酸Fe(II)、シュウ酸Fe(II)水和物、シュウ酸Fe(III)アンモニウム3水和物、ヘキサシアノFe(III)酸カリウム、ヘキサシアノFe(II)酸カリウム3水和物、ヘキサシアノFe(III)酸ナトリウム10水和物、フマル酸Fe(II)、乳酸Fe(II)、乳酸Fe(II)3水和物、グルコン酸Fe(II)2水和物、Fe(II)エトキシド、トリスジジピバリン酸Fe(III)、硫酸アンモニウムFe(II)6水和物、ペンタシアノニトロシルFe(III)酸ナトリウム2水和物等が挙げられる。
なかでもドデカカルボニル三Fe、Fe(II)アセチルアセトナートが好ましい。
【0039】
目的とする触媒がPtとFeを含む場合、工程(1)において、Pt化合物およびFe化合物を含む溶液中で前記Pt化合物およびFe化合物を分解反応および還元反応のうち少なくとも1つの反応によりPtとFeを含む前駆物質を得る。前駆物質は金属単体、合金、酸化物のような固体状態である。前駆物質は少なくともPtおよびFeを含み、PtおよびFe以外の他の金属が含まれた合金でもよい。また、PtおよびFeは単金属として存在してもよい。
Pt化合物およびFe化合物は、PtまたはFeイオンの各種の塩、有機金属錯体などを用いればよい。
【0040】
具体的には、Pt化合物とは、Pt(II)アセチルアセトナート、塩化Pt(II)、塩化Pt(IV)、テトラクロロPt(II)酸、ヘキサクロロPt(IV)酸、ヘキサクロロPt(IV)酸6水和物、テトラクロロPt(II)酸アンモニウム、テトラクロロPt(II)酸カリウム、テトラクロロPt(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロPt(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロPt(IV)酸カリウム、ヘキサクロロPt(IV)酸ナトリウム、テトラシアノPt(II)酸カリウム、トリクロロアミンPt(II)酸カリウム、ジニトロ硫化Pt(II)酸、ジアンミンジクロロPt(II)、テトラアンミンPt(II)水酸化物、テトラアンミンジクロロPt(II)水和物、硝酸テトラアンミンPt(II)、ジアンミンジニトロPt(II)、テトラニトロPt(II)カリウム、テトラキス(チオ尿素)Pt(II)、ヘキサヒドロキソPt(IV)酸、ヘキサヒドロキソPt(IV)酸アンモニウム、ヘキサヒドロキソPt(IV)酸カリウム、ヘキサヒドロキソPt(IV)酸ナトリウム、酸化Pt(II)、酸化Pt(IV)、ヘキサフルオロアセチルアセトン酸Pt(II)等が挙げられる。
なかでもPt(II)アセチルアセトナートが好ましい。
また、Fe化合物は、前記と同様である。
【0041】
前記Pd化合物およびFe化合物の溶液、または、前記Pt化合物およびFe化合物の溶液とは、溶媒に前記Pd化合物およびFe化合物が溶解した液体、または、溶媒に前記Pt化合物およびFe化合物が溶解した液体である。溶媒としては有機溶媒または水が好ましい。有機溶媒としては、常温において液体であり、前記Pd化合物またはFe化合物が分解または還元反応する際の反応温度以上の沸点を持つもの、または、前記Pt化合物またはFe化合物が分解または還元反応する際の反応温度以上の沸点を持つものが好ましい。有機溶媒としては、例えば、1-オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、トリフェニルメタン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ブタノール、イソブタノール、エトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、キシレン、N-メチルピロリジノン、ジクロロベンゼン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルラクテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等挙げられる。
前記溶媒のなかでもオクチルエーテルが好ましい。
【0042】
溶媒の量は、各種金属化合物が溶解できる量が好ましく、前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物の溶液中のPd、PtおよびFeの合計モル濃度は、例えば0.001から10mol/Lが好ましい。
【0043】
工程(1)における分解反応または還元反応は液相反応であり、これら反応のうち少なくとも1つを含めばよい。分解反応は、例えば、ホットソープ法、水熱合成法により行うことができる。また、還元反応は、還元試薬を用いた液相還元法、ポリオール法、逆ミセル法により行うことができる。工程(2)での担体への担持を効率よく実施するために、ホットソープ法、ポリオール法が好ましい。
【0044】
前記分解反応または還元反応の反応温度は前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物が分解反応または還元反応が実施される温度であれば特に限定されず、例えば、常温から1000℃であり、好ましくは100℃から600℃であり、より好ましくは200℃から400℃であり、さらに好ましくは250℃から300℃である。
【0045】
前記分解反応または還元反応の反応時間は前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物が分解反応または還元反応が完了する時間であれば特に限定されず、例えば、1分から24時間であり、好ましくは10分から5時間であり、より好ましくは30分から2時間である。
【0046】
工程(1)はバッチ式もしくはフロー式のいずれの方式で行ってもよい。
工程(1)において、必要により添加剤を添加してもよい。添加剤としては、安定化剤、還元剤などが挙げられる。
【0047】
安定化剤は、前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物が分解または還元され、核形成されたのち、次いで粒成長する際、粒子が粗大化することを防ぐために使用される。安定化剤として、界面活性剤または高分子保護剤等が挙げられる。
【0048】
界面活性剤は、例えば、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等が挙げられる。
【0049】
高分子保護剤は、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸系ポリマー等が挙げられる。
【0050】
金属に対する安定化剤の添加量は特に限定されず、例えば、前記Pd、FeまたはPtの1モル量に対して0.1から10倍モル量であり、好ましくは0.5から2倍モル量である。
【0051】
本発明における還元剤は、各金属原料化合物を還元し、金属単体粒子もしくは合金粒子を効率よく得るために使用される。還元剤としては、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ジ亜リン酸ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、亜硫酸ナトリウム、ホスフィン酸ナトリウム等を用いることができる。
また、ポリオール法では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレン グリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-ヘキサデカンジオールなどの1,2-アルカンジオール等を用いることができる。
【0052】
Pd、PtおよびFeに対する還元剤の添加量は特に限定されず、例えば、前記Pd、FeまたはPtの1モルに対して1から10倍モル量であり、好ましくは2から5倍モル量である。
【0053】
工程(1)において、前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物以外の金属化合物を添加してもよい。前記Pd化合物、Pt化合物およびFe化合物以外の金属化合物を添加した場合、得られる前駆物質を構成する元素は、少なくともPdとFe、またはPtとFeを含み、PdもしくはPtおよびFe以外の他の金属が含まれた合金でもよい。他の金属としては、Ni、Co、Cu、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Auなどが挙げられる。また、Pd、Pt、Feは単金属として前駆物質中に存在してもよい。
【0054】
(1)の工程における前駆物質の状態は、金属単体、合金、酸化物などの工程(2)の液体中で不溶な状態である固体状態であることが好ましい。
【0055】
[工程(2)]
工程(2)において、前記前駆物質を含む液体とは、溶媒として有機溶媒、純水の少なくとも1種に前記前駆物質が分散、流動した状態である。使用する溶媒は、前駆物質および担体が溶解や反応しないものであればよく、一般的には純水が用いられる。前駆物質および担体が純水と反応する場合には、有機溶媒を用いることができる。使用する有機溶媒は、前駆物質の担体への担持のために、蒸発により留去できる溶媒が好ましく、比較的低沸点で入手容易な有機溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
また前記工程(1)で用いた溶媒を引続き工程(2)で用いてもよく、前記前駆物質が得られた溶液に担体を添加して前駆物質と担体を混合してもよい。
【0056】
溶媒の量は、前駆物質と担体が充分に混合できる量が好ましく、例えば担体量の10~1000倍容量が好ましい。
【0057】
工程(2)で用いる担体は、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、カルシア、マグネシア、チタニア、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア、チタニア-ジルコニア、ランタナ、ランタナ-アルミナ、酸化スズ、酸化タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタングステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェライト、ムライト、シリコンカーバイド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーン等を挙げることができる。前記担体は、比表面積が大きいほど、吸着する金属粒子の量を多くすることから、比表面積は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。
【0058】
担体の量は、担体に対してPd、PtおよびFeの量が少なすぎると充分な触媒活性が得られない。このため、担体の量はPd、PtおよびFeの重量の1から1000倍であり、好ましくは4から100倍である。
【0059】
前記前駆物質と前記担体とを液体中で混合し担持体が得られる。
混合の方法は、前駆物質と液体を混合し、超音波ホモジナイザーなどで充分に前駆物質を分散させる。次いで、この前駆物質の分散液を担体と混合し、充分に攪拌する。得られた前駆物質と担体のスラリー分散液は、ロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を留去し、乾燥機を用いて充分に乾燥させる。これにより、前駆物質が担体上に担持された担持体を得る。
【0060】
[工程(3)]
工程(3)において、工程(2)で得られた担持体を熱処理する。
熱処理することにより、前記担持体に含まれる安定剤や分散媒などの不純物を分解除去し、金属粒子および担体を含む触媒を得ることができる。また、PdとFeおよびPtとFeのような金属間化合物を形成する合金種について、熱処理することにより、金属単体の混合物、もしくは不規則構造であるfcc(体心立方晶)構造から、安定な規則構造であるfct(面心立方晶)構造へと規則転移させることができる。
【0061】
前記担持体に含まれる前駆物質がPd、FeまたはPtの金属単体の場合、空気中の酸素により常温で酸化され、酸化物粒子となる可能性がある。このため、熱処理工程は酸素の存在しない真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気で行う。また、前記担持体に含まれる前駆物質が酸化物の場合、担持触媒は目的の触媒活性が得られない可能性があるため、酸化物を還元し、金属単体とすることが好ましい。
前記担持体に含まれる前駆物質に酸化物が含まれていなければ真空雰囲気または不活性ガス雰囲気で熱処理を行う。前記担持体に含まれる前駆物質に酸化物が含まれているかどうかは、X線回折(以下「XRD」)測定による結晶構造の解析により確認することができる。
前駆物質には極微量の酸化物が存在する場合や経時により酸化物が生成する場合があるため、前記担持体を熱処理する工程は、還元性ガスを含む還元性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
前記還元性ガスとは、例えば、水素、一酸化炭素、炭化水素ガスが挙げられる。還元性ガス雰囲気とは前記還元性ガスを含む雰囲気である。
還元性ガス雰囲気中の還元性ガスの濃度は、金属元素を酸化物から金属に還元するのに必要な化学量論以上であれば良く、反応容器中の全気体成分の容量を100%とした際、還元性ガスは0.1から100%であればよい。また、還元性ガス以外のガス成分としては、還元性ガスと反応しないガスであれば特に限定はないが、例えば、不活性ガスとして、ヘリウム、窒素、アルゴン等を用いることができる。
【0063】
前記還元性ガスを用いて還元する工程は、密閉系および流動系いずれでもよく、任意の反応容器に工程(2)で得られた担持体を投入し、前記還元性ガス雰囲気下で前記前駆物質の還元を行う。還元性ガスは流動していることが好ましい。
【0064】
前記(3)の工程における温度条件は特に限定しないが、前記工程(1)における有機性不純物が分解する温度が好ましい。また、前記還元の温度条件は特に限定しないが、前記工程(1)における有機性不純物が分解する温度、且つ、前記工程(1)および(2)で空気酸化により生成した酸化物が還元される温度が好ましい。また、PdとFe、またはPtとFeを含む金属粒子が規則構造を有する金属間化合物のように結晶構造の規則化が可能となり、PdとFe、またはPtとFeを含む金属粒子がfct(面心立方晶)構造となる規則転移温度であることが望ましい。
したがって、反応温度は、好ましくは100℃から1000℃が、より好ましくは300℃から800℃、さらに好ましくは400℃から600℃である。
【0065】
前記(3)の工程における反応時間は、担体上の金属粒子が熱凝集により粗大化しないように、できるだけ短い反応時間であることが望ましい。反応時間は、好ましくは1分から300分であり、より好ましくは10分から120分、さらに好ましくは10分から60分である。
【0066】
工程(3)の熱処理を経て本触媒が得られる。得られた本触媒は前記のとおり化学反応、電極反応、排ガス浄化反応の触媒として使用することができる。
【0067】
本触媒に含まれる金属粒子の量は、前記工程(2)において、担体に対する前駆物質の量を調整することで制御することができる。
【0068】
本触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は例えば以下の方法で制御することができる。
本触媒に含まれる金属粒子の量を一定とする場合、例えば、前記工程(1)において、前駆物質の平均粒子径をより微細化させるほど、目的とする触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は微細を維持しやすく、前駆物質の平均粒子径が粗大化するほど、目的とする触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は粗大化する傾向にある。
前記工程(1)において、例えば、ホットソープ法により前駆物質を製造する場合、金属原料濃度や反応時間を調整することにより平均粒子径を制御することができる。金属原料濃度が低いほど生成する前駆物質の平均粒子径は微細化され、金属原料濃度が高いほど、前駆物質の平均粒子径は粗大化する。前駆物質の形成は、金属原料からの核形成と金属粒子への粒成長の2段階に分かれている。金属原料濃度に比例して溶液中の核形成数が多くなり、核同士が衝突し、粒成長して粗大な粒子ができる確率が高くなる。また、反応時間が短いほど前駆物質の平均粒子径は微細を維持し、反応時間が長いほど、粒成長時間が長くなることから前駆物質の平均粒子径は粗大化する傾向にある。
【0069】
前記工程(3)において、熱処理温度を高くすると、目的とする触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は粗大化する傾向にある。また、熱処理を長時間実施するほど、目的とする触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は粗大化する傾向にある。前記工程(3)の熱処理において、前駆物質は高温環境に置かれるほど担体表面上を激しく運動し、他の前駆物質と接触することで、粒子成長して凝集体を形成しやすい。また、熱処理時間が長いほど粒子成長が起こる確率が高くなり、凝集体を形成しやすい。よって、目的とする触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径は粗大化する。触媒に含まれる金属粒子の平均粒子径を微細に維持させる場合、熱処理温度を低温にし、短時間で実施する必要がある。
【0070】
以上、本触媒について説明した。しかしながら本発明は、前記実施形態の構成に限定されない。例えば、本触媒は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0071】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1) 1.2質量%Pd-Fe合金ナノ粒子担持Al2O3触媒作製
(1.PdとFeを含む金属粒子の調製工程)
窒素雰囲気下において三口フラスコに250.5mg(0.822mmol)のPd(II)アセチルアセトナート(Pd(C5H7O2)2、富士フィルム和光純薬製)と、有機安定剤として0.17mL(0.51mmol)のオレイルアミン(関東化学製)と、還元剤として0.487g(4.12mmol)の1,2-ヘキサデカンジオール(東京化成工業製)と、溶媒として25mLのジオクチルエーテル(東京化成工業製)を加え、攪拌させながら140℃まで加熱した。なお、溶媒のジオクチルエーテルは使用前に10分間窒素バブリングを実施し、溶存酸素を除去した。
窒素雰囲気下において、別のフラスコに0.113g(0.673mmol)のドデカカルボニル三Fe(Fe3(CO)12 ACROS ORGANICS社製)を加え、有機安定剤として0.16mL(0.50mmol)のオレイン酸(富士フィルム和光純薬製)を加え、溶媒として25mLのジオクチルエーテルを加え、攪拌しながら100℃まで加熱した。
【0073】
前記ドデカカルボニル三Feの溶解後、引き続きドデカカルボニル三Fe溶液を140℃に加熱されたPd(II)アセチルアセトナート溶液に投入して、フラスコ内の溶液を280℃まで加熱した。280℃の温度下において60分間攪拌し反応させた。その結果、フラスコ内にはPdとFeを含む金属粒子が生成した。次いで、フラスコ内の溶液を室温まで冷却した。
【0074】
次いでフラスコ内にエタノール(関東化学製)を100 mL加えて、遠心分離機によりPdとFeを含む金属粒子及び有機安定剤の沈殿物と溶媒とに分離させた。次いで、PdとFeを含む金属粒子及び有機安定剤の沈殿物にヘキサン(富士フィルム和光純薬製)を加え、ヘキサン中に分散するPdとFeを含む金属粒子を得、ヘキサン分散液の倍量のエタノールをさらに加えた。その後、遠心分離機によりPdとFeを含む金属粒子及び有機安定剤の沈殿物と溶媒とに分離させた。回収したPdとFeを含む金属粒子及び有機安定剤の沈殿物を、室温にて4時間減圧下にて乾燥を行い、さらに60℃にて4時間真空乾燥を行った。これにより、PdとFeを含む金属粒子を得た。
【0075】
(2.PdとFeを含む金属粒子のAl2O3担体への含浸担持工程)
フラスコ内に前記1で調製したPdとFeを含む金属粒子を0.084gと純水50mLを加え、超音波振動機にて30分間分散させて、PdとFeを含む金属粒子の水分散液を調整した。なお、PdとFeを含む金属粒子中のPdとFeの合計含有量は53.6質量%であった。前記PdとFeを含む金属粒子の水分散液に、平均粒子径が30μm、比表面積が140m2/gの市販の触媒担持用γ-アルミナ(Sasol社製 SCFa140/L3)を2.95g投入し、1時間攪拌した。得られたPdとFeを含む金属粒子とAl2O3が分散した水分散スラリー液の分散媒を、圧力が50から100hPa、水浴温度が60から70℃でエバポレーターにて2時間で留去し、得られたPdとFeを含む金属粒子がAl2O3に担持した含浸担持粉末を80℃で4時間、減圧乾燥させ、担持粉末中のPdとFeを含む金属粒子が1.2質量%含浸吸着したAl2O3粉末を得た。
【0076】
(3.還元ガスを用いた焼成処理)
前記2で得られた2.0gの担持粉末中のPdとFeを含む金属粒子が1.2質量%含浸吸着したAl2O3粉末を磁性ボートに盛り、電気炉で覆われた石英管状管(石英管状炉)にセットして、純度99.9%のH2を含有する水素ガス(東日本イワタニ)を流速が0.5mL/minの流通下、500℃、1時間加熱させることで、PdとFeを含む金属ナノ粒子担持Al2O3触媒を得た。得られた触媒のICP分析の結果、PdとFeを含む金属粒子が1.21質量%、金属元素比はPd:Fe=55:45であった。
【0077】
(実施例2)5.0質量% Pd-Fe合金ナノ粒子担持Al2O3触媒作製
(1.PdとFeを含む金属粒子の調製工程)
実施例1と同様の方法でPdとFeを含む金属粒子を得た。
【0078】
(2.PdとFeを含む金属粒子のAl2O3担体への含浸担持工程)
フラスコ内に前記実施例1の1で調製したPdとFeを含む金属粒子を0.084gと純水5mLを加え、超音波振動機にて30分間分散させて、PdとFeを含む金属粒子水分散液を調整した。なお、PdとFeを含む金属粒子中のPdとFeの合計含有量は 22.7質量%であった。前記PdとFeを含む金属粒子の水分散液に、平均粒子径が30μm、比表面積が140m2/gの市販の触媒担持用γ-Al2O3(Sasol製 SCFa140/L3)を0.48g投入し、1時間攪拌した。その後の溶媒留去、乾燥工程は実施例1と同様に行いPdとFeを含む金属粒子が5.0質量%含浸吸着したAl2O3粉末を得た。
【0079】
(3.還元ガスを用いた焼成処理)
前記実施例1の2で0.5gの担持粉末中のPdとFeを含む金属粒子が5.0質量%含浸吸着したAl2O3粉末を実施例1と同様に還元雰囲気下で焼成し、PdとFeを含む金属ナノ粒子担持Al2O3触媒を得た。得られた触媒のICP分析の結果、PdとFeを含む金属粒子が5.08質量%、金属元素比はPd:Fe=60:40であった。
【0080】
[平均粒子径]
実施例1および実施例2の触媒について、TEM観察による1次粒子の平均粒子径の測定を行った。20万倍の倍率のTEM写真により担体のAl
2O
3上の金属1次粒子20個以上の粒径を測定したときの平均値を算出した。
実施例1で得られた触媒のTEM写真を
図1、実施例2で得られた触媒のTEM写真を
図2に示す。
図1より得られた平均粒子径は4.20nm、
図2より得られた平均粒子径は7.93nmであった。
【0081】
[粉末X線回折]
実施例2の触媒の粉末XRDを行った。
粉末XRDの測定方法は、XRD装置(リガク製、Ultima IV)で行った。具体的な測定条件として、CuKα線を用い、先ずRSRP-Si標準粉末試料でSi(220)面の回折角度が2θで48.28となるよう回折角調整を行った。実施例2で得られた触媒をガラス基板に充填し、2θ=10から90°の範囲を、サンプリング間隔を2θで0.02°、スキャン速度を2θで10°/minで掃引し、XRD測定を行った。結果を
図3に示す。
図3中、▼はPd-Fe合金に帰属されてピークを、●はAl
2O
3に帰属されるピークを示している。
XRD測定の結果、
図3より、Pd金属単体の(111)面の回折ピークである2θ=40.11°およびFe金属単体の(111)面の回折ピークである2θ=41.56°が観測されておらず、Pd-Fe合金の(111)面の回折ピーク2θ= 40.98°が観測された。
【0082】
本触媒は、触媒の担持量1質量%以上であり、金属粒子の粒径は8nm未満であることから、従来の排ガス浄化触媒性能と同等またはそれ以上と考えられる。
したがって本触媒を用いることで、高い排ガス触媒活性を示すことができる触媒が提供されると考えられる。