(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170685
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】燃焼状態診断システム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167489
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】521449762
【氏名又は名称】坪川 浩明
(74)【代理人】
【識別番号】100176256
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 隆敬
(72)【発明者】
【氏名】坪川 浩明
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384DA18
3G384DA38
3G384DA42
3G384EE31
3G384FA09B
3G384FA29B
(57)【要約】
【課題】 クランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく内燃機関の燃焼状態を診断することが可能な燃焼状態診断システムを提供する。
【解決手段】 燃焼状態診断システム1は、内燃機関2の内部圧力を検出する検出部11と、内燃機関2の吸気温度及び吸気圧力を取得する取得部12と、内燃機関2のクランク28の回転角度に対応する内部圧力を、内燃機関2の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶した記憶部13と、記憶部13を参照して、検出された内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28の回転角度を判別する判別部14と、判別された回転角度と、判別された回転角度以降に検出部11により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、内燃機関2の燃焼状態を診断する診断部15と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の内部圧力を検出する検出部と、
前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力を取得する取得部と、
前記内燃機関のクランクの回転角度に対応する内部圧力を、前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶した記憶部と、
前記記憶部を参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクの回転角度を判別する判別部と、
前記判別された回転角度と、前記判別された回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断する診断部と、
を備えたことを特徴とする燃焼状態診断システム。
【請求項2】
前記判別部は、前記記憶部を参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクが所定の回転角度に達したタイミングを判別し、
前記所定の回転角度は、前記燃焼機関の燃焼サイクルの上死点へ向けて上昇中の内部圧力に対応する角度の中で設定されており、
前記記憶部は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力から推定される、前記内燃機関の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶しており、
前記診断部は、前記記憶部を参照して、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、前記失火波形を推定し、前記推定された失火波形と、前記所定の回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで前記内燃機関の燃焼状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の燃焼状態診断システム。
【請求項3】
内燃機関のクランクの回転角度に対応する内部圧力を、前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶したコンピュータにインストールされるプログラムであって、
前記内燃機関の内部圧力を検出するステップと、
所定の位置で計測された前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力を取得するステップと、
前記コンピュータを参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクの回転角度を判別するステップと、
前記判別された回転角度と、前記判別された回転角度以降に前記検出するステップで検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断するステップと、
を備えたことを特徴とする燃焼状態診断プログラム。
【請求項4】
前記判別するステップでは、前記コンピュータを参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクが所定の回転角度に達したタイミングを判別し、
前記所定の回転角度は、前記燃焼機関の燃焼サイクルの上死点へ向けて上昇中の内部圧力に対応する角度の中で設定されており、
前記コンピュータは、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力から推定される、前記内燃機関の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶しており、
前記診断するステップでは、前記記憶部を参照して、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、前記失火波形を推定し、前記推定された失火波形と、前記所定の回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで前記内燃機関の燃焼状態を診断することを特徴とする請求項3に記載の燃焼状態診断プログラム。
【請求項5】
内燃機関の内部圧力を検出する検出部と、
前記内燃機関の制御装置から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける前記内燃機関のクランクの予定回転角度を取得する取得部と、
前記点火又は燃料噴射の際に前記内燃機関の電気系統に生じるノイズを識別するためのノイズ識別基準を記憶した記憶部と、
前記内燃機関の電気系統におけるノイズを検出するノイズ検出部と、
前記ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングで前記クランクが前記予定回転角度に達したと判別する判別部と、
前記予定回転角度と、前記予定回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断する診断部と、
を備えたことを特徴とする燃焼状態診断システム。
【請求項6】
前記記憶部は、前記予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記予定回転角度に達したタイミングにおける前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力から推定される、前記内燃機関の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶しており、
前記診断部は、前記記憶部を参照して、前記予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記予定回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、前記失火波形を推定し、前記推定された失火波形と、前記予定回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで前記内燃機関の燃焼状態を診断することを特徴とする請求項5に記載の燃焼状態診断システム。
【請求項7】
内燃機関の点火又は燃料噴射の際に前記内燃機関の電気系統に生じるノイズを識別するためのノイズ識別基準を記憶したコンピュータにインストールされるプログラムであって、
前記内燃機関の内部圧力を検出するステップと、
前記内燃機関の制御装置から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける前記内燃機関のクランクの予定回転角度を取得するステップと、
前記内燃機関の電気系統におけるノイズを検出するステップと、
前記ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングで前記クランクが前記予定回転角度に達したと判別するステップと、
前記予定回転角度と、前記予定回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断するステップと、
を備えたことを特徴とする燃焼状態診断プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータは、前記予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記予定回転角度に達したタイミングにおける前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力から推定される、前記内燃機関の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶しており、
前記診断するステップでは、前記コンピュータを参照して、前記予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記予定回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、前記失火波形を推定し、前記推定された失火波形と、前記予定回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで前記内燃機関の燃焼状態を診断することを特徴とする請求項7に記載の燃焼状態診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく内燃機関の燃焼状態を診断することが可能な燃焼状態診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、少ない燃料で大きな出力が得られる高効率の内燃機関が望まれている。しかしながら、高効率の内燃機関では、僅かな外乱(空気温度・圧力等)でノッキング(強すぎる燃焼)や失火(燃焼しない)が発生してしまうため、内燃機関に筒内圧センサを設け、検出された燃焼圧力を考慮して最適な燃焼状態となるように、内燃機関の複雑な制御が行われている。
【0003】
筒内圧センサを用いた内燃機関の診断装置として、筒内圧センサの出力信号を参照して、燃焼室内圧力がピークを迎えたか否かに応じて、ピストンが上死点に到達したタイミングが圧縮上死点であるか排気上死点であるかを決定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術では、カム角度信号を参照せずに各気筒の行程を決定することは可能であるが、ある気筒1のピストンの現在位置を知得するために内燃機関のクランクシャフトが所定角度回転する毎にクランク角センサが発するパルス信号であるクランク角信号bを参照しており(要約参照)、クランク角センサの設置は必須になっている。このクランク角センサは、非常に高価なものである。
【0006】
そこで、本発明は、クランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく内燃機関の燃焼状態を診断することが可能な燃焼状態診断システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関の内部圧力を検出する検出部と、前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力を取得する取得部と、前記内燃機関のクランクの回転角度に対応する内部圧力を、前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶した記憶部と、前記記憶部を参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクの回転角度を判別する判別部と、前記判別された回転角度と、前記判別された回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断する診断部と、を備えたことを特徴とする燃焼状態診断システムを提供している。
【0008】
このような構成によれば、クランクの回転角度を検出する必要がないので、高価なクランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく、安価に内燃機関の燃焼状態を診断することが可能となる。また、高価なクランク角センサ及びカム軸センサを備えないことにより、燃焼状態診断システム全体としてのセンサの数を減らすことができるので、センサ故障のリスクも低減される。また、燃焼状態診断システムでは、クランクの回転角度を判別するのみならず、燃焼状態の診断まで行うことができるので、燃焼診断装置を別途準備することが不要となり、これにより、燃焼状態を制御するための制御装置を燃焼診断装置に適合させて設計する必要がなくなる。更に、制御装置に関しては、診断結果を受信するための機能を備えておけば、受信した診断結果に基づき燃焼状態を制御することに特化したシンプルな構成のもので済むので、安価に製造することが可能となる。
【0009】
また、前記判別部は、前記記憶部を参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクが所定の回転角度に達したタイミングを判別し、前記所定の回転角度は、前記燃焼機関の燃焼サイクルの上死点へ向けて上昇中の内部圧力に対応する角度の中で設定されており、前記記憶部は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力から推定される前記内燃機関の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶しており、前記診断部は、前記記憶部を参照して、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、前記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、前記失火波形を推定し、前記失火波形と、前記所定の回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで前記内燃機関の燃焼状態を診断することが好ましい。
【0010】
このような構成によれば、内燃機関の制御装置側で、診断結果に基づき、次回の点火の際の内燃機関の燃焼を適切に制御することが可能となる。
【0011】
また、本発明の別の観点によれば、内燃機関のクランクの回転角度に対応する内部圧力を、前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶したコンピュータにインストールされるプログラムであって、前記内燃機関の内部圧力を検出するステップと、所定の位置で計測された前記内燃機関の吸気温度及び吸気圧力を取得するステップと、前記コンピュータを参照して、前記検出された内部圧力と、前記取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、前記クランクの回転角度を判別するステップと、前記判別された回転角度と、前記判別された回転角度以降に前記検出するステップで検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断するステップと、を備えたことを特徴とする燃焼状態診断プログラムを提供している。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、内燃機関の内部圧力を検出する検出部と、前記内燃機関の制御装置から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける前記内燃機関のクランクの予定回転角度を取得する取得部と、前記点火又は燃料噴射の際に前記内燃機関の電気系統に生じるノイズを識別するためのノイズ識別基準を記憶した記憶部と、前記内燃機関の電気系統におけるノイズを検出するノイズ検出部と、前記ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングで前記クランクが前記予定回転角度に達したと判別する判別部と、前記予定回転角度と、前記予定回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断する診断部と、を備えたことを特徴とする燃焼状態診断システムを提供している。
【0013】
このような構成によれば、上記構成と同様の効果が得られると共に、判別部の動作は、「ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングでクランクが予定回転角度に達したと判別する」という簡単なものであるため、燃焼状態診断システムが複雑化・高コスト化することが抑制される。
【0014】
また、本発明の別の観点によれば、内燃機関の点火又は燃料噴射の際に前記内燃機関の電気系統に生じるノイズを識別するためのノイズ識別基準を記憶したコンピュータにインストールされるプログラムであって、前記内燃機関の内部圧力を検出するステップと、前記内燃機関の制御装置から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける前記内燃機関のクランクの予定回転角度を取得するステップと、前記内燃機関の電気系統におけるノイズを検出するステップと、前記ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングで前記クランクが前記予定回転角度に達したと判別するステップと、前記予定回転角度と、前記予定回転角度以降に前記検出部により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、前記内燃機関の燃焼状態を診断するステップと、を備えたことを特徴とする燃焼状態診断プログラムを提供している。
【発明の効果】
【0015】
本発明の燃焼状態診断システムによれば、クランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく内燃機関の燃焼状態を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による燃焼状態診断システムの構成図
【
図2】本発明の第1の実施の形態による内燃機関の動作の説明図
【
図3】本発明の第1の実施の形態による内部圧力波形の説明図
【
図4】本発明の第1の実施の形態による燃焼状態診断システムの動作のフローチャート
【
図5】本発明の第2の実施の形態による燃焼状態診断システムの構成図
【
図6】本発明の第2の実施の形態による推定ノイズの説明図
【
図7】本発明の第2の実施の形態による燃焼状態診断システムの動作のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1の実施の形態による燃焼状態診断システム1について、
図1-
図4を参照して説明する。
【0018】
燃焼状態診断システム1は、内燃機関2の燃焼状態を診断するためのものであり、
図1に示すように、内燃機関2と共に使用される。内燃機関2は、複数の気筒で構成されることが一般的であるが、
図1では、理解容易のため、1つの気筒21のみを図示している。
【0019】
まずは、内燃機関2の構成について説明する。
【0020】
内燃機関2は、
図2に示すように、気筒21と、燃料噴射弁22と、点火プラグ23と、吸気通路24と、排気通路25と、ピストン26と、コンロッド27と、クランク28と、を備えている。
【0021】
気筒21の内部は下端側が開放された空洞となっており、下端側から挿入されたピストン26と気筒21の内面とによって燃焼室21aが形成されている。また、気筒21の天井部には、燃焼室21a内への吸気を行うための吸気弁21bと、燃焼室21a内からの排気を行うための排気弁21cと、が設けられている。
【0022】
燃料噴射弁22は、燃焼室21a内に燃料を噴射するためのものであり、気筒21の天井部に取り付けられている。
【0023】
点火プラグ23は、燃焼室21a内の混合気に点火するためのものであり、気筒21の天井部に取り付けられている。
【0024】
吸気通路24は、吸気弁21bを介して気筒21の天井部に接続されている。また、吸気通路24内の所定の位置には、吸気通路24内の温度を検出するための吸気温度センサ24aと、吸気通路24内の圧力を検出するための吸気圧力センサ24bと、が設けられている。
【0025】
排気通路25は、排気弁21cを介して気筒21の天井部に接続されている。
【0026】
ピストン26には、コンロッド27を介してクランク28が接続されており、ピストン26の上下運動に伴い、クランク28が回転される。
【0027】
詳細には、まず、
図2(a)に示すように、吸気弁21bを開いて吸気が行われることで、ピストン26は下方へ移動し、続いて、
図2(b)に示すように、ピストン26は、下死点まで達した後、慣性により上方へ移動する。吸気弁21bは、ピストン26が下死点を過ぎてから閉じられる。
【0028】
そして、
図2(c)及び
図2(d)に示すように、ピストン26が上死点付近に到達した際に点火プラグ23が点火され、混合気の爆発によりピストン26は下方へ移動する。排気弁21cは、爆発後、所定のタイミングで開かれる。
【0029】
この動作を繰り返し行うことで、クランク28の回転も継続することとなる。なお、本実施の形態では、上記した4ストロークの内燃機関2を例に説明を行うが、2ストロークの内燃機関2を採用しても良い。
【0030】
続いて、燃焼状態診断システム1の構成について説明する。
【0031】
燃焼状態診断システム1は、
図1に示すように、検出部11と、取得部12と、記憶部13と、判別部14と、診断部15と、を備えている。
【0032】
検出部11は、内燃機関2の内部圧力を検出する。本実施の形態では、検出部11は、筒内圧センサであり、気筒21の天井部に貫通孔を形成し、検出部11の検出面が面位置となるように取り付けられているものとする(
図1では、点火プラグ23の背後に取り付けられている)。但し、検出部11の取り付け位置は、
図1に示したものに限られず、例えば、気筒21からパイプ等を延出させ、当該パイプ等に取り付けても良い。
【0033】
取得部12は、内燃機関2の吸気温度及び吸気圧力を取得する。
【0034】
本実施の形態では、吸気温度として、吸気通路24内の所定の位置に設けられた吸気温度センサ24aにより検出された温度を取得し、吸気圧力として、吸気通路24内の所定の位置に設けられた吸気圧力センサ24bにより検出された圧力を取得するものとする。吸気温度及び吸気圧力は、吸気温度センサ24a及び吸気圧力センサ24bから有線又は無線で取得することが考えられる。
【0035】
記憶部13は、内燃機関2のクランク28の回転角度に対応する内部圧力を、内燃機関2の吸気温度及び吸気圧力と関連付けて記憶している。
【0036】
これは、「内燃機関2の燃焼サイクルの中で、クランク28は、所定の内部圧力で所定の回転角度となり、その所定の内部圧力は、吸気温度及び吸気圧力によって変動する」ことに着目したものである。
【0037】
また、記憶部13は、所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力から推定される、内燃機関2の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶している。
【0038】
これは、「内燃機関2の燃焼サイクルの中で、失火波形は、所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力(又は、吸気温度及び吸気圧力)から必然的に決まる」ことに着目したものである。
【0039】
なお、異なるモデルの内燃機関2であれば、上記回転角度と、内部圧力と、吸気温度及び吸気圧力と、の関連性は異なってくるので、記憶部13には、内燃機関2のモデルごとに適した関連性が記憶されることが好ましい。
【0040】
判別部14は、記憶部13を参照して、検出された内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28の回転角度を判別する。
【0041】
本実施の形態では、判別部14は、検出された内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28が所定の回転角度に達したタイミングを判別するものとする。所定の回転角度は、燃焼機関2の燃焼サイクルの上死点(点火前であることが好ましい)へ向けて上昇中の内部圧力に対応する角度(例えば、上死点前の数十度の角度)の中で設定されている。
【0042】
診断部15は、判別された回転角度と、判別された回転角度以降に検出部11により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、内燃機関2の燃焼状態を診断する。上記“一又は複数の内部圧力”は、クランク28の回転角度を判別するために用いられた内部圧力に限定されない。
【0043】
本実施の形態では、診断部15は、記憶部13を参照して、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、上記所定の回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断する。
【0044】
例えば、
図3に示すように、内部圧力が上昇中の範囲Aにおいて、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力(又は、吸気温度及び吸気圧力)に基づき、失火波形Bを推定することが可能である。記憶部13には、これらの失火波形Bのパターンが記憶されている。
【0045】
一方、所定の回転角度以降に内部圧力を検出していくことで内部圧力の実際の推移波形Cを取得することができる。内燃機関2の回転速度は、例えば、制御装置から取得したり、2つの燃焼サイクル間の波形(ピーク値間等)から取得することができるので、この取得した回転速度と、所定の回転角度以降に検出された内部圧力と、に基づき推移波形Cを取得することが可能である。そして、失火波形Bと推移波形Cを比較することで、上記点火(今回の点火)での燃焼状態を診断することが可能となる。
【0046】
診断に当たっては、失火波形Bと推移波形Cの様々なパターンと、各パターンに対応する燃焼状態と、の関係性を記憶部13に記憶しておき、推定された失火波形B及び取得された推移波形Cのパターンに対応する燃焼状態を、今回の点火での燃焼状態として決定することが考えられる。
【0047】
この診断結果を内燃機関2の制御装置(図示せず)に送信することで、制御装置において、次回の点火の際の内燃機関2の燃焼(燃料噴射量、燃料噴射タイミング、点火タイミング、吸気温度、吸気圧力等)を適切に制御することが可能となる。
【0048】
続いて、燃焼状態診断システム1の動作について、
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
まず、内部圧力を検出すると共に(S1)、吸気温度及び吸気圧力を取得する(S2)。S1とS2の行程の順序は逆でも同時でも良いが、吸気温度及び吸気圧力は、内部圧力の検出時とできる限り同一タイミングで検出されたものを取得することが好ましい。
【0050】
続いて、記憶部13を参照して、取得された吸気温度及び吸気圧力と、検出された内部圧力と、に基づき、クランク28の回転角度を判別する(S3)。
【0051】
最後に、判別された回転角度と、判別された回転角度以降に検出部11により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、内燃機関2の燃焼状態を診断する(S4)。本実施の形態では、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力(又は、吸気温度及び吸気圧力)に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、上記所定の角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断することとなる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態による燃焼状態診断システム1では、検出された内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28の回転角度を判別する。この際、吸気温度及び吸気圧力として、内燃機関2が必ず備えている吸気温度センサ24a及び吸気圧力センサ24bにより検出されたものを用いる。
【0053】
このような構成によれば、クランク28の回転角度を検出する必要がないので、高価なクランク角センサ及びカム軸センサを備えることなく、安価に内燃機関2の燃焼状態を診断することが可能となる。また、高価なクランク角センサ及びカム軸センサを備えないことにより、燃焼状態診断システム1全体としてのセンサの数を減らすことができるので、センサ故障のリスクも低減される。また、燃焼状態診断システム1では、クランク28の回転角度を判別するのみならず、燃焼状態の診断まで行うことができるので、燃焼診断装置を別途準備することが不要となり、これにより、燃焼状態を制御するための制御装置を燃焼診断装置に適合させて設計する必要がなくなる。更に、制御装置に関しては、診断結果を受信するための機能を備えておけば、受信した診断結果に基づき燃焼状態を制御することに特化したシンプルな構成のもので済むので、安価に製造することが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態による燃焼状態診断システム1では、検出部11により検出された一又は複数の内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28が所定の回転角度に達したタイミングを判別し、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、上記所定の回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、上記所定の角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断する。
【0055】
このような構成によれば、内燃機関2の制御装置側で、診断結果に基づき、次回の点火の際の内燃機関2の燃焼を適切に制御することが可能となる。
【0056】
続いて、本発明の第2の実施の形態による燃焼状態診断システム100について、
図5-
図7を参照して説明する。以下では、第1の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
第1の実施の形態では、検出された内部圧力と、取得された吸気温度及び吸気圧力と、に基づき、クランク28の回転角度を判別したが、本実施の形態では、点火又は燃料噴射の際に内燃機関2の電気系統に生じるノイズに基づき、クランク28の回転角度を判別する。
【0058】
本実施の形態による燃焼状態診断システム100は、
図5に示すように、検出部101と、取得部102と、記憶部103と、ノイズ検出部104と、判別部105と、診断部106と、を備えている。
【0059】
検出部101は、内燃機関2の内部圧力を検出する。
【0060】
取得部102は、内燃機関2の制御装置200から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける内燃機関2のクランク28の予定回転角度を取得する。
【0061】
これは、燃焼状態の制御に当たり、制御装置200側で「今あるべき点火タイミング(燃料噴射タイミング)は、○○度」と決定していることを前提としており、取得部102は、その決定された予定回転角度を取得する。
【0062】
記憶部103は、点火又は燃料噴射の際に内燃機関2の電気系統に生じるノイズを識別するためのノイズ識別基準を記憶している。本実施の形態では、
図6に示すように、検出部101により検出される内部圧力に生じるノイズDを識別するためのノイズ識別基準を記憶しているものとする。
【0063】
また、記憶部103は、予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、予定回転角度に達したタイミングにおける内燃機関2の吸気温度及び吸気圧力から推定される、内燃機関2の燃焼サイクルにおいて失火が生じた場合の失火波形を更に記憶している。
【0064】
これは、「内燃機関2の燃焼サイクルの中で、失火波形は、予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力(又は、吸気温度及び吸気圧力)から必然的に決まる」ことに着目したものである。
【0065】
ノイズ検出部104は、内燃機関2の電気系統におけるノイズを検出する。本実施の形態では、検出部101により検出された内部圧力(内部圧力波形)に生じるノイズを検出するものとする。
【0066】
判別部105は、ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングでクランク28が予定回転角度に達したと判別する。なお、ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたか否かは、例えば、
図6に示すように、内部圧力が上昇中の範囲Aにおいて、検出部101により、所定以上の傾き及び振幅を有するノイズDが検出されたか否かで判断することが考えられる。
【0067】
診断部106は、予定回転角度と、予定回転角度以降に検出部101により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、内燃機関2の燃焼状態を診断する。
【0068】
本実施の形態では、第1の実施の形態(
図3)と同様に、診断部106は、予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、予定回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、上記予定回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断する。
【0069】
続いて、燃焼状態診断システム1の動作について、
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0070】
まず、内燃機関2の制御装置200から点火タイミング又は燃料噴射タイミングにおける内燃機関2のクランク28の予定回転角度を取得する(S11)。
【0071】
続いて、ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたか否かを判断する(S12)。
【0072】
検出された場合には(S12:YES)、検出されたタイミングでクランク28が予定回転角度に達したと判別する(S13)。
【0073】
最後に、予定回転角度と、予定回転角度以降に検出部101により検出された一又は複数の内部圧力と、に基づき、内燃機関2の燃焼状態を診断する(S14)。本実施の形態では、予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力(又は、吸気温度及び吸気圧力)に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、予定角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断することとなる。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態による燃焼状態診断システム100では、ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングでクランク28が予定回転角度に達したと判別する。
【0075】
このような構成によれば、第1の実施の形態と同様の効果が得られると共に、判別部105の動作は、「ノイズ識別基準を満たすノイズが検出されたタイミングでクランク28が予定回転角度に達したと判別する」という簡単なものであるため、燃焼状態診断システム100が複雑化・高コスト化することが抑制される。
【0076】
また、本実施の形態による燃焼状態診断システム1では、予定回転角度に達したタイミングにおける内部圧力、又は、予定回転角度に達したタイミングにおける吸気温度及び吸気圧力に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、予定回転角度以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断する。
【0077】
このような構成によれば、第1の実施の形態と同様に、内燃機関2の制御装置側で、診断結果に基づき、次回の点火の際の内燃機関2の燃焼を適切に制御することが可能となる。
【0078】
尚、本発明の燃焼状態診断システムは、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0079】
例えば、上記実施の形態では、診断部15(106)は、所定の回転角度(予定回転角度)以降に検出された内部圧力に基づき、失火波形を推定し、推定された失火波形と、上記所定の回転角度(予定回転角度)以降に検出された内部圧力の推移波形と、を比較することで内燃機関2の燃焼状態を診断したが、必ずしも失火波形を推定する必要はなく、例えば、推移波形のみで燃焼状態を診断しても良い。
【0080】
また、第1の実施の形態において、記憶部13に記憶される関連性は、燃焼状態の診断に必要な分だけ記憶しておけばよく、必ずしも内燃機関2の燃焼サイクルの全てについて記憶していなくても良い。
【0081】
また、第1の実施の形態では、吸気温度及び吸気圧力は、吸気温度センサ24a及び吸気圧力センサ24bから有線又は無線で取得されたが、制御装置が吸気温度センサ24a及び吸気圧力センサ24bから有線又は無線で取得し、取得部12は、当該吸気温度及び吸気圧力を制御装置から取得しても良い。
【0082】
また、第2の実施の形態では、クランク28が予定回転角度に達したタイミングを判別するために、内部圧力(内部圧力波形)に生じるノイズを用いたが、ノイズ検出部104が内燃機関2のいずれかの配線に流れる電流又は電圧を検出し、当該電流又は電圧に生じるノイズを用いても良い。
【0083】
また、上記実施の形態では、燃焼状態の診断結果を別体の制御装置に送信したが、制御装置は、燃焼状態診断システム1(100)と一体になっていても良い。
【0084】
また、本発明は、燃焼状態診断システムが行う処理に相当するプログラム又は方法や、当該プログラムを記憶した記録媒体にも応用可能である。記録媒体の場合、コンピュータ(演算処理装置)等に当該プログラムがインストールされることとなる。ここで、当該プログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体としては、CD-ROM等が考えられるが、それに限定されるものではない。(プログラムクレームのサポート)
【符号の説明】
【0085】
1 燃焼状態診断システム
2 内燃機関
11 検出部
12 取得部
13 記憶部
14 判別部
15 診断部
100 燃焼状態診断システム
101 検出部
102 取得部
103 記憶部
104 ノイズ検出部
105 判別部
106 診断部
200 制御装置