(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170690
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】胸郭運動計測装置及び胸郭運動計測プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20241204BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173223
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 宗司
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS00
4C038SS05
4C038ST04
4C038ST05
4C038SV01
4C038SX07
4C038VA04
4C038VB02
4C038VB04
4C038VB11
4C038VB32
4C038VB33
4C038VB40
4C038VC02
4C038VC05
4C038VC14
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる胸郭運動計測装置及び胸郭運動計測プログラムを得る。
【解決手段】胸郭運動計測装置10は、被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の距離画像データを取得する取得部11Aと、第1時点及び第2時点の距離画像センサの位置及び姿勢を特定する第1特定部11Bと、特定された第1時点及び第2時点の距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、取得された第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の距離画像データの写像を行うことで、他方の時点の距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出する導出部11Cと、取得部11Aにより取得された距離画像データと、導出部11Cにより導出された距離画像データと、を用いて、被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測する計測部11Dと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手持ちされた状態で、搭載された距離画像センサによって得られた距離画像データを用いて被計測者の胸郭運動を計測する胸郭運動計測装置であって、
前記被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の前記距離画像データを取得する取得部と、
前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を特定する特定部と、
前記特定部によって特定された前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、前記取得部によって取得された前記第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の前記距離画像データの写像を行うことで、前記第1時点及び第2時点の他方の時点の前記距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出する導出部と、
前記取得部によって取得された前記他方の時点の距離画像データと、前記導出部によって導出された前記一方の時点の距離画像データとを用いて、前記被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測する計測部と、
を備えた胸郭運動計測装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記距離画像センサの位置及び姿勢を、加速度センサ及びジャイロセンサを用いて特定する、
請求項1に記載の胸郭運動計測装置。
【請求項3】
前記被計測者の胸郭運動は、当該被計測者の努力呼吸に伴う胸郭運動である、
請求項1又は請求項2に記載の胸郭運動計測装置。
【請求項4】
前記計測部は、前記被計測者の頭部及び頸部の少なくとも一部の位置を基準位置として継続的に特定される当該被計測者の胸郭運動の計測領域を対象として前記物理量を継続的に計測する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の胸郭運動計測装置。
【請求項5】
前記物理量は、前記被計測者の1秒率及び1秒量の少なくとも一方である、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の胸郭運動計測装置。
【請求項6】
手持ちされた状態で、搭載された距離画像センサによって得られた距離画像データを用いて被計測者の胸郭運動を計測する胸郭運動計測装置において実行される胸郭運動計測プログラムであって、
前記被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の前記距離画像データを取得し、
前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を特定し、
特定した前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、取得した前記第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の前記距離画像データの写像を行うことで、前記第1時点及び第2時点の他方の時点の前記距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出し、
取得した前記他方の時点の距離画像データと、導出した前記一方の時点の距離画像データとを用いて、前記被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測する、
処理をコンピュータに実行させるための胸郭運動計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、手持ちされた状態で用いられる胸郭運動計測装置及び胸郭運動計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の患者数は増加傾向にある一方、実際に治療を受けている患者数は5%程度に留まっている。この理由として、多くの患者が罹患していることに気付いていないことや、正しく診断されていないこと等が考えられる。そこで、マウスピースを用いる必要のあるスパイロメータ等の特別な装置を用いることなく、簡易な方法で人の呼吸機能を計測することが求められている。
【0003】
従来、人の呼吸機能を計測するために適用することのできる技術として以下の技術があった。
【0004】
特許文献1には、マウスピースを使用しなくても呼吸器系の疾患を判別可能にすることを目的とした呼吸器系疾患判別装置が開示されている。この呼吸器系疾患判別装置は、被検者の体表からの距離を検出する第1の検出手段と、前記第1の検出手段とは異なる位置に配置され、被検者の体表からの距離を検出する第2の検出手段と、を備えている。また、この呼吸器系疾患判別装置は、前記第1の検出手段の検出結果と前記第2の検出手段の検出結果に基づいて、体動を除いた被検者の呼吸を計測する呼吸計測手段を備えている。そして、この呼吸器系疾患判別装置は、前記呼吸計測手段の検出結果に基づいて、被検者の呼吸器系の疾患を判別する疾患判別手段を備えている。
【0005】
特許文献2には、非接触かつリアルタイムで正確に呼吸波形を測定することができるようにすることを目的とした呼吸測定装置が開示されている。この呼吸測定装置は、測定対象者の対象領域の距離情報及び姿勢情報を含む三次元画像を単位時間ごとに取得する、三次元画像取得部と、前記三次元画像から測定基準位置と前記対象領域との間の距離情報を取得する、距離取得部と、を備えている。また、この呼吸測定装置は、前記三次元画像から前記対象領域の姿勢情報を取得する、姿勢取得部と、前記姿勢情報を用いて前記対象領域内の呼吸主要領域を確定する、呼吸主要領域確定部と、を備えている。また、この呼吸測定装置は、前記呼吸主要領域に対応する前記三次元画像の1つ又は複数の画素の前記距離情報を時系列に並べることによって、前記呼吸主要領域の移動量波形を生成する、移動量波形生成部を備えている。そして、この呼吸測定装置は、前記移動量波形から呼吸波形を生成する、呼吸波形生成部を備えている。
【0006】
特許文献3には、完全に非侵襲的に呼吸運動の異常又は呼吸器官の異常を測定することができるようにすることを目的とした呼吸運動のモニター装置が開示されている。この呼吸運動のモニター装置は、レーザーによりセンサと検体との距離を測定し得る2個又はそれ以上のレーザーセンサを備え、当該センサにより検体の異なる2箇所以上の動きを持続的に計測する。
【0007】
特許文献4には、患者のコンタクトレス呼吸監視に関するデバイスが開示されている。このデバイスは、前記患者の胸部に対する時間的距離変動を連続的に検出する距離センサと、前記検出された時間的距離変動に基づき前記呼吸活動を決定する計算ユニットと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-92980号公報
【特許文献2】特開2017-217298号公報
【特許文献3】特開2000-217802号公報
【特許文献4】特表2011-519657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、スパイロメータによって計測される1秒率等といった、人の呼吸機能に関する値(以下、「呼吸機能値」という。)をスパイロメータ等の特別な装置を用いることなく計測するためには、特許文献1に開示されている技術のように、人の胸郭運動を計測する方法が考えられる。そして、より簡易に呼吸機能値を計測するためには、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、ノートブック型PC(パーソナル・コンピュータ)等の手持ち可能で、かつ、汎用の携帯型の端末装置を計測装置として、自分自身が手持ちした状態で計測可能とすることが更に好ましい。
【0010】
携帯型の端末装置を計測装置として胸郭運動を計測する場合、被計測者には、当該計測を行っている最中に努力呼吸や深呼吸等の呼吸を行うことが求められる。このため、この場合には、呼吸に伴って計測装置と計測対象とする領域(以下、「計測領域」という。)との相対的な位置関係が時間の経過に伴ってずれることを想定する必要があり、当該ずれを考慮しないで計測を行うと、呼吸機能値の計測精度が低下してしまう、という問題点が生じる。
【0011】
これに対し、特許文献1~特許文献3に開示されている技術は、何れも手持ちした状態で計測装置を用いることは想定していないため、上述した問題点を解決することはできない。
【0012】
また、特許文献4に開示されている技術は、手持ちした状態で計測装置を用いることは想定しているものの、上記ずれに関しては考慮されていないため、この技術においても呼吸機能値の計測精度が低下してしまう、という問題点を解決することはできない。
【0013】
本開示は、マウスピースを用いる必要のあるスパイロメータ等の特別な装置を用いることなく、簡易な方法で呼吸機能値を計測するために、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる胸郭運動計測装置及び胸郭運動計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる胸郭運動計測装置及び胸郭運動計測プログラムを提供することを目的として検討を行った。その結果、本開示によれば、被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の距離画像センサによって得られた距離画像データを用いて、被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測することにより手持ちした状態で呼吸機能値の計測時における手振れの影響を抑制することができ、手持ちした状態での呼吸機能値の計測精度の低下を抑制することができることを見出した。
【0015】
本開示の第1態様は、手持ちされた状態で、搭載された距離画像センサによって得られた距離画像データを用いて被計測者の胸郭運動を計測する胸郭運動計測装置であって、前記被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の前記距離画像データを取得する取得部と、前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を特定する特定部と、前記特定部によって特定された前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、前記取得部によって取得された前記第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の前記距離画像データの写像を行うことで、前記第1時点及び第2時点の他方の時点の前記距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出する導出部と、前記取得部によって取得された前記他方の時点の距離画像データと、前記導出部によって導出された前記一方の時点の距離画像データとを用いて、前記被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測する計測部と、を備えた胸郭運動計測装置である。
【0016】
本開示の第2態様は、第1態様の胸郭運動計測装置において、前記特定部が、前記距離画像センサの位置及び姿勢を、加速度センサ及びジャイロセンサを用いて特定するものである。
【0017】
本開示の第3態様は、第1態様又は第2態様の胸郭運動計測装置において、前記被計測者の胸郭運動が、当該被計測者の努力呼吸に伴う胸郭運動であるものである。
【0018】
本開示の第4態様は、第1態様~第3態様の何れか1の態様の胸郭運動計測装置において、前記計測部が、前記被計測者の頭部及び頸部の少なくとも一部の位置を基準位置として継続的に特定される当該被計測者の胸郭運動の計測領域を対象として前記物理量を継続的に計測するものである。
【0019】
本開示の第5態様は、第1態様~第4態様の何れか1の態様の胸郭運動計測装置において、前記物理量が、前記被計測者の1秒率及び1秒量の少なくとも一方であるものである。
【0020】
本開示の第6態様は、手持ちされた状態で、搭載された距離画像センサによって得られた距離画像データを用いて被計測者の胸郭運動を計測する胸郭運動計測装置において実行される胸郭運動計測プログラムであって、前記被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の前記距離画像データを取得し、前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を特定し、特定した前記第1時点及び第2時点の前記距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、取得した前記第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の前記距離画像データの写像を行うことで、前記第1時点及び第2時点の他方の時点の前記距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出し、取得した前記他方の時点の距離画像データと、導出した前記一方の時点の距離画像データとを用いて、前記被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測する、処理をコンピュータに実行させるための胸郭運動計測プログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる。
【0022】
従って、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる本開示の胸郭運動計測装置によれば、スパイロメータ等の特別な装置を用いることなく、汎用の携帯型の端末装置を胸郭運動計測装置とすることで、より簡易に、呼吸機能値を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態に係る胸郭運動計測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る胸郭運動計測装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る属性情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】一実施形態に係る胸郭運動計測装置を用いた胸郭運動の計測時における状態の一例を示す概略図である。
【
図5】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】一実施形態に係る胸郭運動計測処理における計測領域の検出方法の説明に供する正面図である。
【
図7】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の実行時において表示される距離警告画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図8】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の実行時において表示される努力呼吸指示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図9】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、不要成分除去処理の各種状態の一例を示す図である。
【
図10】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、不要成分除去処理の各種状態の一例を示す図である。
【
図11】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、計測された体積変化量の時間経過に伴う推移の一例を示すグラフである。
【
図12】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、推定された肺換気量の時間経過に伴う変化、及び当該肺換気量の要部領域の一例を示すグラフである。
【
図13】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、
図12における要部領域を拡大した場合の一例を示すグラフである。
【
図14】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の実行時において表示される計測結果表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図15】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の説明に供する図であり、不要成分除去処理の他の一例を示す図である。
【
図16】一実施形態に係る胸郭運動計測処理の実行時において表示される努力呼吸指示画面の構成の他の一例を示す正面図である。
【
図17】一実施形態に係る3次元座標変換の説明に供する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態の一例を詳細に説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0025】
本実施形態では、本開示の技術における胸郭運動計測装置を汎用のスマートフォンに適用した場合について説明する。但し、本開示の技術の適用対象はスマートフォンに限るものではなく、携帯型のゲーム装置、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、ノートブック型パーソナルコンピュータ等の他の携帯型の情報処理装置にも適用することができる。
【0026】
まず、
図1、
図2を参照して、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10の構成を説明する。
図1は、一実施形態に係る胸郭運動計測装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、
図2は、一実施形態に係る胸郭運動計測装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、及びタッチパネルと各種スイッチ等の入力部14を備えている。また、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、液晶ディスプレイ等の表示部15、及び媒体読み書き装置(R/W)16を備えている。また、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、予め定められた通信規格でモバイル通信を行う無線通信部18、及び音声出力部19を備えている。更に、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、撮影部20、距離画像センサ21、及び位置・姿勢検出部22を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16、無線通信部18、音声出力部19、撮影部20、距離画像センサ21、及び位置・姿勢検出部22はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0028】
一方、記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、胸郭運動計測プログラム13Aが記憶されている。胸郭運動計測プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの当該プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、胸郭運動計測プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、胸郭運動計測プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0029】
このように、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10では、胸郭運動計測プログラム13Aを、記録媒体17を介して胸郭運動計測装置10にインストールしているが、これに限るものではない。例えば、無線通信部18を介してダウンロードすることにより、胸郭運動計測プログラム13Aを胸郭運動計測装置10にインストールする形態としてもよい。
【0030】
また、記憶部13には、属性情報データベース13Bが記憶される。属性情報データベース13Bについては、詳細を後述する。
【0031】
更に、記憶部13には、推定モデル13Cが記憶される。
【0032】
本実施形態に係る推定モデル13Cは、胸郭運動計測装置10による被計測者の属性を示す属性情報、及び詳細を後述する、当該被計測者の胸郭運動時における体積変化量を示す情報が入力情報とされ、当該被計測者の肺換気量を示す情報が出力情報とされている。本実施形態では、属性情報として、性別及び年齢を示す情報を適用しているが、これに限るものではない。例えば、これらの性別及び年齢に加えて、身長及び体重の4種類の情報のうちの何れか1つ、又は複数の組み合わせを属性情報として適用する形態としてもよい。
【0033】
なお、本実施形態では、推定モデル13Cとして、機械学習を用いた推定モデルであるCNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)によるものを適用しているが、これに限るものではない。他の機械学習を用いた推定モデル、例えば、RNN(Recurrent Neural Network、再帰型ニューラルネットワーク)によるものを推定モデル13Cとして適用する形態としてもよい。また、推定モデル13Cは、機械学習を用いていない統計モデル等の推定モデルであってもよい。また、機械学習を用いた推定モデル13Cの学習方法については、従来既知の方法(例えば、教師あり学習、強化学習等による方法)を適用することができるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0034】
一方、撮影部20は、動画像を撮影する撮影装置として機能し、かつ、胸郭運動計測装置10のユーザを撮影することができるものとされている。撮影部20は、汎用の携帯型の情報処理装置には搭載されている場合が多く、この場合、撮影部20のためにコストの上昇を招くことはない。
【0035】
また、距離画像センサ21は、解像度に応じたサイズの画素毎に距離を示すデータである距離画像データを検出するものとして機能する。また、本実施形態に係る距離画像センサ21は、距離画像データを取得する領域が、撮影部20による撮影画角と一致するように設定されている。なお、本実施形態では、距離画像センサ21として、ToF(Time of Flight)方式のものを適用しているが、これに限るものではない。例えば、輝点投影方式のセンサ、ステレオ(多眼)カメラ、又は、変位センサを距離画像センサ21として適用する形態としてもよい。また、距離画像センサ21の信号のタイプとしては、光学式がよく用いられるが、電波式、超音波式のものであってもよい。距離画像センサ21としてToF方式のもの、又は輝点投影方式のものを適用する場合、これらのセンサは汎用の携帯型の情報処理装置には搭載されている場合が多く、この場合も、距離画像センサ21のためにコストの上昇を招くことはない。
【0036】
更に、位置・姿勢検出部22は、距離画像センサ21の位置及び姿勢を検出するものとして機能する。本実施形態では、位置・姿勢検出部22として加速度センサ及びジャイロセンサを適用している。この加速度センサ及びジャイロセンサも、汎用の携帯型の情報処理装置には搭載されている場合が多く、この場合にも、位置・姿勢検出部22のためにコストの上昇を招くことはない。
【0037】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10の機能的な構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、取得部11A、第1特定部11B、導出部11C、計測部11D、検出部11E、第2特定部11F、及び報知部11Gを含む。胸郭運動計測装置10のCPU11が胸郭運動計測プログラム13Aを実行することで、取得部11A、第1特定部11B、導出部11C、計測部11D、検出部11E、第2特定部11F、及び報知部11Gとして機能する。
【0038】
本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、被計測者により手持ちされた状態で、搭載された距離画像センサ21によって得られた距離画像データを用いて被計測者の胸郭運動を計測するものとされている。なお、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10は、被計測者以外の者により手持ちされた状態で、被計測者の胸郭運動を計測する形態としてもよい。そして、本実施形態に係る取得部11Aは、被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の距離画像データを距離画像センサ21から取得する。
【0039】
また、本実施形態に係る第1特定部11Bは、位置・姿勢検出部22を用いて、上記第1時点及び第2時点の距離画像センサ21の位置及び姿勢を特定する。
【0040】
また、本実施形態に係る導出部11Cは、第1特定部11Bによって特定された第1時点及び第2時点の距離画像センサ21の位置及び姿勢を用いて、取得部11Aによって取得された第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の距離画像データの写像を行う。この写像により、第1時点及び第2時点の他方の時点の距離画像センサ21の座標系に変換した距離画像データを導出する。なお、本実施形態では、導出部11Cにより、第2時点の距離画像データの写像を行うことで、第1時点の距離画像センサ21の座標系に変換した距離画像データを導出しているが、これに限るものではない。導出部11Cにより、第1時点の距離画像データの写像を行うことで、第2時点の距離画像センサ21の座標系に変換した距離画像データを導出する形態としてもよい。
【0041】
そして、本実施形態に係る計測部11Dは、取得部11Aによって取得された上記他方の時点(本実施形態では、第1時点)の距離画像データと、導出部11Cによって導出された上記一方の時点(本実施形態では、第2時点)の距離画像データとを用いて、被計測者の胸郭運動(本実施形態では、努力呼吸に伴う胸郭運動)に関する物理量を計測する。なお、本実施形態では、上記物理量として被計測者の1秒率を適用した場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、被計測者の1秒量を上記物理量として適用する形態としてもよい。
【0042】
一方、本実施形態に係る検出部11Eは、被計測者の頭部及び頸部の少なくとも一部を検出する。なお、本実施形態では、検出部11Eが被計測者の頭部における顎部を検出するものとされているが、これに限るものではない。例えば、被計測者の頭部における目、鼻等の他の部位を検出部11Eにより検出する形態としてもよいし、被計測者の頸部における中心位置を検出部11Eにより検出する形態としてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、検出部11Eによる対象部位の検出を、取得部11Aによって取得された距離画像データを用いて行っているが、これに限るものではない。例えば、撮影部20によって得られた撮影画像を示す撮影画像データを用いて、検出部11Eによる対象部位の検出を行う形態としてもよい。検出部11Eによる対象部位の検出を、距離画像データを用いて行う場合、及び撮影画像データを用いて行う場合の何れの場合においても、当該検出を従来既知の画像認識技術によって行うことができるため、この点についての詳細な説明は省略する。
【0044】
また、本実施形態に係る第2特定部11Fは、検出部11Eによって検出された頭部及び頸部の少なくとも一部(本実施形態では、顎部)の位置を基準位置とする。そして、第2特定部11Fは、当該基準位置の下方で、かつ、被計測者の属性に応じて予め定められた距離(以下、「属性対応距離」という。)を当該基準位置から隔てた領域を、当該被計測者に対する胸郭運動の計測領域として継続的に特定する。なお、本実施形態では、ここで適用する属性を示す属性情報として、被計測者の性別及び年齢を示す情報を適用している点は上述した通りである。
【0045】
そして、本実施形態に係る計測部11Dは、第2特定部11Fによって特定された計測領域を対象として、被計測者の胸郭運動の計測(本実施形態では、上記物理量の計測)を継続的に行う。
【0046】
更に、本実施形態に係る報知部11Gは、被計測者との相対的な位置関係が適正なものとして予め定められた関係となった場合に、当該適正である旨を報知し、当該位置関係が不適正である場合に、当該不適正である旨を報知する。なお、本実施形態では、報知部11Gによる報知として、表示部15を用いた表示による報知を適用しているが、これに限るものではない。例えば、音声出力部19を用いた音声による報知を、報知部11Gによる報知として適用する形態としてもよい。
【0047】
また、本実施形態に係る第2特定部11Fは、上記属性に応じて計測領域の寸法を決定する。
【0048】
ここで、導出部11Cによって行われる写像について説明する。
【0049】
距離画像センサ21に付随する光学系の焦点距離をfとし、距離画像センサ21によって得られる被写体までの距離に関する成分をZとし、距離画像センサ21における画素の2次元座標をxとする。この場合、これらの各値は次の各数式によって表すことができる。下記数式における3×4行列Ppを射影行列という。
【0050】
【0051】
従って、焦点距離fと3次元座標の成分Zが既知である場合、2次元座標xが与えられることによって3次元座標Xを算出することができる。
【0052】
焦点距離fは、予め対象となる距離画像センサ21のキャリブレーションを行うことで得ることができる。但し、実際には上記光学系のレンズの歪みや収差が存在するため、これらを補正しておく必要がある。また成分Zは距離画像センサ21によって得ることができる。
【0053】
即ち、ある時点の距離画像センサ21の位置で撮影された胸郭表面の点pは、距離画像センサ21から得られる値と射影行列Ppを用いることで、3次元座標として求めることができる。
【0054】
ここで、
図17を参照して、3次元座標変換について説明する。
図17は、一実施形態に係る3次元座標変換の説明に供する模式図である。
【0055】
図17に示すように、距離画像センサ21の位置がC
Aである場合の位置C
Aを原点とした座標系Aにおける空間中の点pの座標を
AXとし、座標系Aにおける位置C
Bの座標を
AC
Bとし、距離画像センサ21の位置がC
Bである場合の位置C
Bを原点とした座標系Bにおける点pの座標を
BXとする。また、位置C
Aから位置C
Bへの回転行列を
B
ARとし、並進ベクトルを
B
Atとする。
【0056】
このとき、座標系Bにおける点pの座標BXは次式により表される。
【0057】
【0058】
ここで、並進ベクトルB
At及び回転行列B
ARを次式のようにおく。
【0059】
【0060】
この場合、座標BXは次式により表される。
【0061】
【0062】
また、座標AXを次式のようにおく。
【0063】
【0064】
この場合、点pの座標系Bにおける座標BXは次式により表すことができる。
【0065】
【0066】
手振れを補正するためには、基準となる距離画像センサ21の位置(第1時点の位置に相当)を予め決めておき、そこから手振れによって移動した距離画像センサ21で得られた3次元座標を、基準となる距離画像センサ21の座標に変換することによって、基準となる距離画像センサ21の位置における測定座標の変化として捉えることができる。
【0067】
ここで、座標系Aを胸郭運動の基準座標系とおき、座標系Bを手振れ後(第2時点に相当)の座標系とおけば、回転行列B
ARはジャイロセンサから与えられており、並進ベクトルB
Atは加速度センサの積分値から求めることができる。このため、最終的に得られた座標BXの演算式による座標変換を行うことによって、座標系Bにおいて射影変換によって求められた3次元座標を座標系Aとして補正することが可能になる。射影行列は、上記光学系におけるレンズの焦点距離fが変化しない限り不変のものとして扱うことができるため、同一の距離画像センサ21が移動した場合であっても同じ射影行列を用いればよい。
【0068】
但し、特定の点が手振れ後において同一点である保証はないことに留意する必要がある。なぜなら、手振れ後には胸郭運動によって、手振れ前に計測した点群は既に移動してしまっている可能性が高いためである。同一点の探索を行う場合、ステレオマッチング等によって距離計測を行うために、複数の画像に含まれる類似パターンを比較することで行われることが多いが、本実施形態に係る胸郭運動の計測では、そのような探索を行う必要はない。
【0069】
本実施形態に係る胸郭運動の計測においては、基準となる距離画像センサ21の位置において面状に観測される空間中の点群の平均距離を用いる。このため、手振れ補正後の点群の空間座標のみが得られればよく、上記のような空間上の同一点を探索する必要はない。
【0070】
なお、写像の方法は以上の方法に限るものではない。例えば、距離画像センサがステレオカメラ等の場合は、以下に示す基本行列を使用する形態を適用することができる。
【0071】
即ち、エピポーラ幾何学に基づけば、空間上の同一点を異なる2箇所から観測している場合の当該2箇所の距離画像センサ21の位置及び姿勢の関係を基本行列という行列を使って記述することが可能となる。この基本行列は、回転パラメータを記述した行列Rと、移動距離を記述した行列Sの積によって表現される。
【0072】
加速度センサで加速度を検出することにより、距離画像センサ21の第1時点から第2時点までの移動距離を第1時点から第2時点までの経過時間から推定することができるため、行列Sを記述することができる。行列Rはジャイロセンサで得られる値であり、基本行列を計算することで、手振れが発生した場合の距離画像センサ21の第1時点と第2時点との間の相対的な位置及び姿勢の変化を計算することができる。
【0073】
ここで重要なのは、エピポーラ幾何では空間上の固定された点についてのみ成立するということである。即ち、第1時点の距離画像センサ21の座標系における、第1時点に取得された距離画像を構成するポイントクラウド(点群)、第1時点の距離画像センサ21並びに第2時点の距離画像センサ21の位置及び姿勢を特定することができる。
【0074】
努力呼吸時には身体が大きく動くため、第2時点で新たに得られた距離画像には、第1時点で得られた距離画像と同一の空間点は存在しない。しかし、第2時点の距離画像センサ21の位置及び姿勢は計算で求められるため、第2時点の距離画像の各点の座標は、写像を行うことで第1時点の距離画像センサ21の座標系として計算することができる。
【0075】
このようにして、第1時点及び第2時点のそれぞれで得られた距離画像を同一の座標系で記述することができるため、第1時点と第2時点との間の相対的な変化を算出することができる。
【0076】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る属性情報データベース13Bについて説明する。
図3は、一実施形態に係る属性情報データベース13Bの構成の一例を示す模式図である。
【0077】
本実施形態に係る属性情報データベース13Bは、被計測者の属性に応じた各種情報を記憶するためのものである。
図3に示すように、本実施形態に係る属性情報データベース13Bは、性別、年齢、距離、及び寸法の各情報が記憶される。
【0078】
上記性別は、被計測者の性別を示す情報であり、上記年齢は、対応する性別の被計測者における、予め定められた段階別の年齢層を示す情報である。なお、本実施形態では、当該年齢層の段階として、60歳以上の段階、及び60歳未満で、かつ、10歳刻みの段階を適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0079】
また、上記距離は、対応する性別及び年齢層の組み合わせに好適な、上述した属性対応距離を示す情報であり、上記寸法は、当該組み合わせに好適な、上述した計測領域の寸法を示す情報である。本実施形態では、属性対応距離として、上記基準位置から計測領域の中心位置までの距離を適用しているが、これに限るものではない。例えば、上記基準位置から計測領域の上端部までの距離を属性対応距離として適用する形態としてもよいし、上記基準位置から計測領域の下端部までの距離を属性対応距離として適用する形態としてもよい。
【0080】
図3に示す例では、60歳以上の男性に対応する属性対応距離が15.5(cm)で、計測領域の寸法が幅35.5(cm)で、高さが22.0(cm)であることが記憶されている。
【0081】
次に、
図4を参照して、胸郭運動計測装置10による被計測者の胸郭運動の計測方法について説明する。
図4は、一実施形態に係る胸郭運動計測装置10を用いた胸郭運動の計測時における状態の一例を示す概略図である。
【0082】
図4に示すように、胸郭運動を計測する場合に、被計測者Mは、胸郭運動計測装置10を把持した状態で、胸郭運動計測装置10の撮影部20による撮影画角内に自身の頭部の少なくとも一部(本実施形態では、顎部)、及び胸郭部が含まれるように胸郭運動計測装置10を位置決めする。この際、被計測者Mは、胸郭運動計測装置10と自身の胸郭部との距離が、予め定められた基準範囲(本実施形態では、50(cm)から55(cm)までの範囲)内となることを目指して位置決めする。なお、基準範囲は、この範囲に限るものではなく、胸郭運動計測装置10における距離画像センサ21の性能や被計測者Mの属性等に応じて適宜設定する形態としてもよい。
【0083】
次に、
図5~
図15を参照して、本実施形態に係る胸郭運動計測装置10の作用を説明する。
図5は、一実施形態に係る胸郭運動計測処理の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、錯綜を回避するため、属性情報データベース13Bが既に構築済みである場合について説明する。また、ここでは、錯綜を回避するため、被計測者Mの属性(ここでは、性別及び年齢)を示す属性情報が予め設定されている場合について説明する。
【0084】
胸郭運動計測装置10のCPU11が胸郭運動計測プログラム13Aを実行することによって、
図5に示す胸郭運動計測処理が実行される。
図5に示す胸郭運動計測処理は、被計測者Mにより、胸郭運動計測プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に実行される。なお、この際、被計測者Mは、一例として
図4を参照して説明したように胸郭運動計測装置10を位置決めする。
【0085】
図5のステップ100で、CPU11は、撮影部20、距離画像センサ21、及び位置・姿勢検出部22の駆動を開始するように制御する。ステップ102で、CPU11は、予め設定されている被計測者Mの属性情報に対応する距離(属性対応距離)及び寸法の各情報を属性情報データベース13Bから読み出す。
【0086】
ステップ104で、CPU11は、距離画像センサ21から1画像分の距離画像データを取得する。ステップ106で、CPU11は、
図6に示すように、取得した距離画像データを用いて、被計測者Mの頭部における一部領域(本実施形態では、顎部)を上述したように画像認識により検出する。
【0087】
ステップ108で、CPU11は、
図6に示すように、検出した顎部の位置を基準位置Eとして、当該基準位置の下方で、かつ、読み出した属性対応距離Dを隔てた位置を中心Cとし、更に、幅W及び高さHが読み出した寸法とされた領域を計測領域Aとして検出する。なお、
図6は、一実施形態に係る胸郭運動計測処理における計測領域Aの検出方法の説明に供する図であるが、この図では、計測領域Aを明確に示すために、被計測者Mが胸郭運動計測装置10を把持していない状態で図示している。
【0088】
ステップ110で、CPU11は、取得した距離画像データを用いて、この時点における胸郭運動計測装置10と被計測者Mとの距離Fを検出する。なお、本実施形態では、距離Fとして、距離画像データにおける中心の画素に対応する画素データが示す距離を適用しているが、これに限るものではない。例えば、距離画像データにおける中心の画素を含む予め定められた領域の画素(例えば、10画素×10画素)の各画素データが示す距離の平均値を距離Fとして適用する形態としてもよい。
【0089】
ステップ112で、CPU11は、距離Fが上述した基準範囲(本実施形態では、50(cm)から55(cm)までの範囲)内となっているか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ116に移行する一方、否定判定となった場合はステップ114に移行する。なお、本実施形態では、基準範囲として、距離Fが当該範囲内となった場合に胸郭運動計測装置10による計測が精度よく行うことができると見なされる範囲として、予め実機を用いた実験や、コンピュータ・シミュレーション等によって得られた範囲を適用している。但し、この形態に限るものではなく、例えば、胸郭運動計測装置10に求められる計測精度や、被計測者Mの属性等に応じて基準範囲を適宜設定する形態としてもよい。
【0090】
ステップ114で、CPU11は、予め定められた構成とされた距離警告画面を表示するように表示部15を制御し、その後にステップ104に戻る。
【0091】
図7には、本実施形態に係る距離警告画面の一例が示されている。
図7に示すように、本実施形態に係る距離警告画面では、胸郭運動計測装置10と自身の胸郭部との距離を、概ね上述した基準範囲とすることを指示するメッセージが表示される。従って、被計測者Mは、自身が把持している胸郭運動計測装置10と胸郭部との距離が基準範囲となっていないことを把握することができる。そして、被計測者Mが、当該指示に従うことで、胸郭運動計測装置10と胸郭部との距離が基準範囲となった状態でステップ116に移行することになる。
【0092】
ステップ116で、CPU11は、予め定められた構成とされた努力呼吸指示画面を表示するように表示部15を制御する。
【0093】
図8には、本実施形態に係る努力呼吸指示画面の一例が示されている。
図8に示すように、本実施形態に係る努力呼吸指示画面では、被計測者Mと胸郭運動計測装置10との位置関係が適正である旨を示すメッセージと、被計測者Mに対して努力呼吸を指示する旨のメッセージとが表示される。従って、被計測者Mは、このタイミングで努力呼吸を行う。
【0094】
そこで、ステップ118で、CPU11は、距離画像データを距離画像センサ21から取得する。ステップ120で、CPU11は、前回取得した距離画像データ(以下、「第1距離画像データ」という。)と、今回取得した距離画像データ(以下、「第2距離画像データ」という。)との間で、上述したように第2距離画像データの写像を行う。この写像により、第2距離画像データを、第1距離画像データを取得した時点の距離画像センサ21の座標系に変換した距離画像データが導出される。なお、本胸郭運動計測処理の実行を開始して、初めてステップ120の処理を実行する場合には第1距離画像データがないため、この場合にはステップ120の処理は実行しない。
【0095】
ステップ122で、CPU11は、写像が行われた距離画像データを記憶部13に記憶する。ステップ124で、CPU11は、距離画像データを予め定められた量(本実施形態では、3秒分に相当する量)だけ記憶したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ118に戻る一方、肯定判定となった場合はステップ126に移行する。なお、ステップ118~ステップ124の処理を繰り返し実行する際に、CPU11は、これと並行して、ステップ104~ステップ114と同様の処理を実行する。これにより、距離Fが基準範囲内とされた状態で計測領域Aに対応する距離画像データを得ることができる。
【0096】
ステップ126で、CPU11は、全ての距離画像データ(以下、「対象距離画像データ」という。)を記憶部13から読み出し、読み出した対象距離画像データに対して、予め定められた不要成分除去処理を以下のように行う。
【0097】
まず、CPU11は、
図9の左下図に示すグラフのように、対象距離画像データの各々毎に、対象距離画像データにおける各画素データ(距離を示すデータ)のヒストグラムを導出する。このヒストグラムでは、主として、被計測者Mの腕の領域と、被計測者Mの腕の領域を除く体表の領域と、被計測者Mの背景の領域と、の3種類の領域に大別され、かつ、当該体表の領域の度数の最大値が最大となる。また、体表の領域は、腕の領域及び背景の領域の中間部に位置し、かつ、背景の領域よりも腕の領域に、相対的に近いものとなる。
【0098】
そこで、CPU11は、
図9の右下図に示すグラフのように、導出したヒストグラムにおける、度数が最大となる距離を中心として、予め定められた範囲(本実施形態では、±10(cm)の範囲)に距離が含まれる対象距離画像データの画素を処理対象とする画素(以下、「処理対象画素」という。)として抽出する。なお、本実施形態では、上記予め定められた範囲を固定値としているが、これに限るものではなく、被計測者Mの属性等に応じて適宜設定する形態としてもよい。
【0099】
そして、CPU11は、抽出した処理対象画素の画素データを1とし、処理対象画素を除く画素(以下、「非処理画素」という。)の画素データを0(零)とすることで二値化されたマスク画像データを、対応する対象距離画像データに関連付けて記憶部13に記憶する。
【0100】
以上の処理により、対象距離画像データの各々について、一例として
図9の左上図に示す距離画像を示す対象距離画像データから、一例として
図9の右上図に示すマスク画像データを導出することができる。
【0101】
次いで、CPU11は、マスク画像データにおける画素データが1とされた画素を対象として、一例として
図10に示すように、対象距離画像データの各々間の対応する画素データの差分(変位)の最大値が、努力呼吸を行っている場合の対応する距離の最大値及び最小値の差分(変位)より大きな画素を抽出する。そして、CPU11は、抽出した画素に対応するマスク画像データの画素データを0(零)とすることで、努力呼吸よりも大きな動きがあった部分の画素をマスキング(非処理画素化)する。
【0102】
ステップ128で、CPU11は、以上の処理によって得られたマスク画像データにおいて画素データが1とされている画素を対象として、時系列順で隣接する対象距離画像データ間における、対応する画素の画素データの差分の合計値を体積変化量として導出する。これにより、一例として
図11に示す経過時間に応じて変化する体積変化量を得ることができる。
【0103】
ステップ130で、CPU11は、導出した体積変化量を示す情報と、予め設定されている被計測者Mの属性情報とを推定モデル13Cに入力することで、被計測者Mの肺換気量の推定値を導出する。
【0104】
ステップ132で、CPU11は、導出した肺換気量の推定値を用いて1秒率FEV1%を算出する。以下、
図12及び
図13を参照して、1秒率FEV1%の算出方法を説明する。なお、
図12は、推定された肺換気量の時間経過に伴う変化、及び当該肺換気量の要部領域Xを示すグラフであり、
図13は、当該要部領域を拡大したグラフである。
【0105】
まず、CPU11は、一例として
図13に示すように、肺換気量の要部領域Xにおける、1秒量FEV1の始点t
0を逆外挿法により導出する。
【0106】
即ち、
図13におけるt
maxは最大吸気時間であり、波形V(t)の最大値(頂点)である。また、
図13におけるt
PFは気流最大時間であり、波形V(t)の傾きが最大となる点であり、次の式(1)により求められる。
【0107】
【0108】
点(tPF,V(tPF))及び点(t0,V(t0))の2点より、急峻点接線の傾きaを算出する式を変形して、始点t0は次の式(2)によって算出される。
【0109】
【0110】
そして、1秒量FEV1を次の式(3A)により算出し、当該1秒量FEV1と推定モデル13Cにより導出された肺換気量の推定値FVCから式(3B)により1秒率FEV1%を算出する。
【0111】
【0112】
ステップ134で、CPU11は、以上の処理によって得られた1秒率FEV1%を用いて、予め定められた構成とされた計測結果表示画面を表示するように表示部15を制御する。
【0113】
図14には、本実施形態に係る計測結果表示画面の一例が示されている。
図14に示すように、本実施形態に係る計測結果表示画面では、以上の処理によって得られた1秒率FEV1%が表示される。従って、被計測者Mは、計測結果表示画面を参照することで、自身の1秒率FEV1%の推定値を把握することができる。
【0114】
ステップ136で、CPU11は、ステップ100の処理によって開始した撮影部20、距離画像センサ21、及び位置・姿勢検出部22の駆動を停止させ、その後に本胸郭運動計測処理を終了する。
【0115】
以上説明したように、一実施形態によれば、被計測者の頭部及び頸部の少なくとも一部を検出し、検出した頭部及び頸部の少なくとも一部の位置を基準位置として、当該基準位置の下方で、かつ、被計測者の属性に応じて予め定められた距離を当該基準位置から隔てた領域を、被計測者に対する胸郭運動の計測領域として継続的に特定し、特定した計測領域を対象として、被計測者の胸郭運動の計測を継続的に行っている。従って、呼吸に伴う計測領域の移動に追随することができる結果、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる。
【0116】
また、一実施形態によれば、被計測者との相対的な位置関係が適正なものとして予め定められた関係となった場合に、当該適正である旨を報知している。従って、計測精度の低下を、より抑制することができる。
【0117】
また、一実施形態によれば、上記位置関係が不適正である場合に、当該不適正である旨を更に報知している。従って、計測精度の低下を、より抑制することができる。
【0118】
また、一実施形態によれば、属性に応じて計測領域の寸法を決定している。従って、計測領域の寸法を属性別に的確に設定することができる結果、計測精度の低下を、より抑制することができる。
【0119】
また、一実施形態によれば、距離画像センサを用いて、被計測者の頭部及び頸部の少なくとも一部の位置を検出し、当該距離画像センサを用いて、計測領域における胸郭運動の計測を行っている。距離画像センサは多くの装置に搭載されているため、当該距離画像センサを用いることで、コストの上昇を招くことなく、計測精度の低下を抑制することができる。
【0120】
また、一実施形態によれば、属性を、性別、年齢、身長、及び体重の少なくとも1つとしている。従って、適用した属性に応じた、より高精度な計測を行うことができる。
【0121】
また、一実施形態によれば、被計測者の胸郭部の少なくとも一部を含む領域の第1時点及び第2時点の距離画像データを取得し、第1時点及び第2時点の距離画像センサの位置及び姿勢を特定し、特定した第1時点及び第2時点の距離画像センサの位置及び姿勢を用いて、取得した第1時点及び第2時点の何れか一方の時点の距離画像データの写像を行うことで、第1時点及び第2時点の他方の時点の距離画像センサの座標系に変換した距離画像データを導出し、取得した他方の時点の距離画像データと、導出した一方の時点の距離画像データとを用いて、被計測者の胸郭運動に関する物理量を計測している。従って、計測時における手振れの影響を抑制することができる結果、手持ちした状態で呼吸機能値を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる。
【0122】
また、一実施形態によれば、距離画像センサの位置及び姿勢を、加速度センサ及びジャイロセンサを用いて特定している。加速度センサ及びジャイロセンサは多くの装置に搭載されているため、当該加速度センサ及びジャイロセンサを用いることで、コストの上昇を招くことなく、計測精度の低下を抑制することができる。
【0123】
また、一実施形態によれば、被計測者の胸郭運動を、当該被計測者の努力呼吸に伴う胸郭運動としている。従って、努力呼吸を伴う胸郭運動の計測を行う場合であっても、計測精度の低下を抑制することができる。
【0124】
更に、一実施形態によれば、上記物理量を、被計測者の1秒率及び1秒量の少なくとも一方としている。従って、被計測者の1秒率及び1秒量の少なくとも一方を計測する場合における計測精度の低下を抑制することができる。
【0125】
なお、上記実施形態では、胸郭運動計測処理におけるステップ126の不要成分除去処理において、距離画像データにおける腕等の重なり領域、背景領域、及び呼吸よりも大きな動きをしている領域を除去する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、これらの領域に加えて、明らかな異常値の領域を除去する処理を不要成分除去処理に含める形態としてもよい。
【0126】
この異常値の領域を除去する処理を実行する場合、例えば、CPU11は、マスク画像データにおける画素データが1とされた画素を対象として、次の式(4)に示される条件を満足しない画素に対応するマスク画像データの画素データを0(零)とする。これにより、異常値であると考えられる画素をマスキング(非処理画素化)する。なお、式(4)におけるFEV1%(i,j)は、一例として
図15に示す、対応する画素(i,j)の1秒率を表す。また、式(4)におけるAVE(FEV1%)は1秒率FEV1%の平均値を表し、σは1秒率FEV1%の標準偏差を表す。
【0127】
【0128】
また、上記実施形態では、報知部11Gが、被計測者との相対的な位置関係が適正である場合及び不適正である場合に、その旨を報知する場合について説明したが、これに限定されない。
【0129】
例えば、一例として
図16に示すように、報知部11Gが、第2特定部11Fによって特定された計測領域Aを表示部15により表示することで当該計測領域Aを更に報知する形態としてもよい。この形態によれば、特定されている計測領域を被計測者に把握させることができる結果、より的確に計測領域を設定させることができる。
【0130】
また、この形態において、報知部11Gが、計測領域Aの報知を、上記位置関係が上記予め定められた関係となった場合に行う形態としてもよい。この形態によれば、計測領域Aの表示の有無によって上記位置関係が適正であるか否かを被計測者に把握させることができため、被計測者にとっての利便性を、より向上させることができる。
【0131】
更に、この形態において、報知部11Gが、上記位置関係が上記予め定められた関係であるか否か、即ち、当該位置関係が適正であるか否かに応じて計測領域Aの表示形態を切り換える形態としてもよい。この形態によれば、計測領域Aの表示形態によって上記位置関係が適正であるか否かを被計測者に把握させることができため、被計測者にとっての利便性を、更に向上させることができる。
【0132】
この場合の切り換え対象とする表示形態の具体的な例としては、例えば、上記位置関係が適正である場合は、不適正である場合に比較して、計測領域Aの外周線を太くする形態が例示される。また、この場合の切り換え対象とする表示形態の具体例として、上記外周線の線種(実線、破線、鎖線等)を変える形態、当該外周線の色を変える形態が例示される。
【0133】
また、上記実施形態では、本発明の胸郭運動計測装置を単体構成とされた装置(上記実施形態では、スマートフォン)により構成した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、クラウドサーバ等のサーバ装置と端末装置との、複数の装置を用いたシステムによって本発明に係る胸郭運動計測装置を構成する形態としてもよい。この場合、例えば、端末装置にて被計測者に対する胸郭運動の距離画像センサ21による計測値をサーバ装置に転送し、サーバ装置にて受信した計測値を用いて1秒率を導出して端末装置に送信し、端末装置にて1秒率を提示する形態を例示することができる。
【0134】
また、上記実施形態で説明した各種数式(数(1)~数(4)等)は一例であり、実施態様等に応じて適宜変更してもよいことは言うまでもない。
【0135】
また、上記実施形態で説明した属性情報データベース13Bも一例であり、実施態様等に応じて適宜変更してもよいことは言うまでもない。
【0136】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、第1特定部11B、導出部11C、計測部11D、検出部11E、第2特定部11F、及び報知部11Gの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0137】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0138】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0139】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0140】
10 胸郭運動計測装置
11 CPU
11A 取得部
11B 第1特定部
11C 導出部
11D 計測部
11E 検出部
11F 第2特定部
11G 報知部
12 メモリ
13 記憶部
13A 胸郭運動計測プログラム
13B 属性情報データベース
13C 推定モデル
14 入力部
15 表示部
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 無線通信部
19 音声出力部
20 撮影部
21 距離画像センサ
22 位置・姿勢検出部
A 計測領域
D 属性対応距離
E 基準位置
M 被計測者