(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170734
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】差圧センサ、及び差圧検出装置
(51)【国際特許分類】
G01L 9/00 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
G01L9/00 305A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087412
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沈 東演
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA01
2F055BB01
2F055BB05
2F055CC02
2F055DD05
2F055EE25
2F055FF04
2F055GG22
2F055HH08
(57)【要約】
【課題】従来技術に係る静電容量型の圧力センサは、環境温度の変化に応じてダイヤフラムは変位してしまい、環境温度の変化の影響を完全に排除できることには至らない。
【解決手段】本開示技術に係る差圧センサは、静電容量型の差圧センサであって、上面から順に、上部ガラス基板(100)と、シリコン基板(200)と、下部ガラス基板(300)と、の3層から成り、シリコン基板(200)は、固定電極部(210)を有し、上部ガラス基板(100)及び下部ガラス基板(300)は、それぞれにダイヤフラム(400)を有し、同一の形態、又は面対称の形態であり、固定電極部(210)を対称面として、上部ガラス基板(100)側のダイヤフラム(400)と、下部ガラス基板(300)側のダイヤフラム(400)とが、対称となる位置に置かれている、というものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電容量型の差圧センサであって、
上面から順に、上部ガラス基板と、シリコン基板と、下部ガラス基板と、の3層から成り、
前記シリコン基板は、固定電極部を有し、
前記上部ガラス基板及び前記下部ガラス基板は、それぞれにダイヤフラムを有し、同一の形態、又は面対称の形態であり、
前記固定電極部を対称面として、前記上部ガラス基板の側の前記ダイヤフラムと、前記下部ガラス基板の側の前記ダイヤフラムとが、対称となる位置に置かれている、
差圧センサ。
【請求項2】
前記上部ガラス基板の側の前記ダイヤフラムと前記固定電極部、及び前記下部ガラス基板の側の前記ダイヤフラムと前記固定電極部、から成るそれぞれの稼働空間が、真空の状態である、
請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項3】
前記シリコン基板は、前記ダイヤフラムの前記稼働空間を大気に開放する通気口が設けられ、
前記稼働空間は、真空の状態に代えて大気圧の状態である、
請求項2に記載の差圧センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の差圧センサと、
電気信号の処理を行う制御回路基板と、を含む、
差圧検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、差圧センサ、及び差圧検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤフラムと固定電極とを有し、ダイヤフラムと固定電極との間に生じる静電容量を検出する、という動作原理の静電容量型圧力センサが知られている。
【0003】
静電容量型圧力センサの検出精度を高めるためには、ダイヤフラムを薄くすることが考えられる。しかし、ダイヤフラムを薄くすることは、環境温度変化の影響を受けやすくしてしまう。例えば特許文献1には、静電容量型圧力センサについて環境温度変化の影響を受けにくくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ガラスとシリコンとの陽極接合について記載されている。特許文献1には、ガラスとシリコンとの線膨張率の違いおよび接合時の温度(400℃程度)と常温との差に起因して、導電層において外向きの張力が生じる状態になることが記載されている。
特許文献1に係るダイヤフラムは、両面の等価性が高く、応力分散に優れる、と表現されている。より具体的には、特許文献1に係る圧力センサは、ダイヤフラムの表裏に均等に設けられた凹部において均等に応力が分散されるから、環境温度の変化の影響を受けにくくなる、と表現されている。
【0006】
しかし、特許文献1に示されるような工夫を施したとしても、環境温度の変化に応じてダイヤフラムは変位してしまい、環境温度の変化の影響を完全に排除できることには至らない。
本開示技術は、新たな着想で従来技術に係る圧力センサを改良し、環境温度変化に対応可能な静電容量型の差圧センサ及び差圧検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示技術に係る差圧センサは、静電容量型の差圧センサであって、上面から順に、上部ガラス基板と、シリコン基板と、下部ガラス基板と、の3層から成り、シリコン基板は、固定電極部を有し、上部ガラス基板及び下部ガラス基板は、それぞれにダイヤフラムを有し、同一の形態、又は面対称の形態であり、固定電極部を対称面として、上部ガラス基板側のダイヤフラムと、下部ガラス基板側のダイヤフラムとが、対称となる位置に置かれている、というものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示技術に係る差圧センサ及び差圧検出装置は上記構成を備えるため、環境温度変化に対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る差圧センサの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る差圧センサの分解図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る差圧センサを構成する上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)の外観を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3の破断線(B-B’)における破断面を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係る差圧センサを構成する上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)に施される溝部(GROOVE)を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に係る差圧センサの構造を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に基づいて、実施の形態1に係る差圧センサの動作原理を示す説明図でる。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係る差圧センサの外観を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、実施の形態2に係る差圧センサの分解図である。
【
図10】
図10は、実施の形態2に係る差圧センサの動作原理を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施の形態2に係る差圧検出装置の入出力関係を表すブロック図である。
【
図12】
図12は、
図11における(a)、(b)、(c)、及び(d)それぞれの物理量を時系列で表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(イントロダクション)
まず、特許文献1以外のいくつかの関連する先行技術文献を示すことにより、従来技術に係る差圧センサ、及び差圧検出装置がかかえる課題等について明らかにする。
【0011】
《特許文献2:特開平8-189870号公報》
特許文献2に係る圧力センサは、電極とダイヤフラムとの間隔、及びダイヤフラム厚さが、ともにミクロンオーダである場合にも、高湿度の環境下で絶縁性を確実にし、正確な圧力測定を可能にする技術を開示している。
【0012】
《特許文献3:特開平9-145511号公報》
特許文献3に係る静電容量式圧力検出装置は、低コストと高精度との両立する技術を開示している。
特許文献3には、圧力検出部本体を差圧計として用いる場合の構成が示されている(特許文献3の
図9)。圧力検出部本体は、シリコンオイル等の圧力伝達媒体の内に封止され、導圧孔側で本体ケースに固定される。測定流体の圧力は、シールダイヤフラムから圧力伝達媒体を介してダイヤフラムに伝達される。
特許文献3には、センサダイヤフラムとリファレンスダイヤフラムとを併用することにより、両ダイヤフラムに共通して加わる寄生容量の影響を取り除くことについて、記載がなされている。
【0013】
《特許文献4:特開平3-175329号公報》
特許文献4にも、従来技術に係る静電容量式差圧検出装置が開示されている。
特許文献4には、複数もの静電容量式差圧検出装置がかかえる課題が示される。かかえる課題の一例は、主要部品である導電性板が超音波加工又は研削等によって機械加工がなされるが、機械加工時の周辺の欠け、チッピング等が生じること、及び加工寸法誤差があること、である。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る差圧センサの外観を示す斜視図である。
図1に示されるとおり、実施の形態1に係る差圧センサは、上部ガラス基板100、シリコン基板200、及び下部ガラス基板300から成る3つの基板が接合された3層構造を有する。3つの基板は、上から順に、第1基板部(上部ガラス基板100)、第2基板部(シリコン基板200)、第3基板部(下部ガラス基板300)、と称されることがある。
図1は、上部ガラス基板100に電極取出しパット500が取り付けられている様子をも示している。なお、下部ガラス基板300は、上部ガラス基板100と同じ形態であるため、下部ガラス基板300にも電極取出しパット500が取り付けられている。
【0015】
図2は、実施の形態1に係る差圧センサの分解図である。
図2に示されているとおり、上部ガラス基板100には、1つのダイヤフラム400と、2つの電極取出しパット500とが、取り付けられている。
前述のとおり、下部ガラス基板300は、上部ガラス基板100と同じ形態である。したがって、下部ガラス基板300にも、1つのダイヤフラム400と、2つの電極取出しパット500とが、取り付けられている。
【0016】
図3は、実施の形態1に係る差圧センサを構成する上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)の外観を示す斜視図である。そして
図4は、
図3の破断線(B-B’)における破断面を示す斜視図である。
図4に示されるとおり、上部ガラス基板100及び下部ガラス基板300は、外部から印加される圧力を受ける機能を実現するため、ダイヤフラム400を開口するよう、受圧部スルーホール(THRU-1)が設けられている。
また、
図4に示されるとおり、電極取出しパット500は、電極取出し用スルーホール(THRU-2)が施されている。電極取出しパット500の詳細は、後述する説明により明らかとなる。
【0017】
図5は、実施の形態1に係る差圧センサを構成する上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)に施される溝部(GROOVE)を示す説明図である。
図5に示される溝部(GROOVE)は、本開示技術に係る差圧センサの技術的特徴の一つである、と言える。
【0018】
図6は、実施の形態1に係る差圧センサの構造を示す断面図である。
図6に示されるとおり、実施の形態1に係る差圧センサを構成するシリコン基板200は、固定電極部210を有している。固定電極部210は、上部ガラス基板100におけるダイヤフラム400と下部ガラス基板300におけるダイヤフラム400との間に位置している。
【0019】
図7は、
図6に基づいて、実施の形態1に係る差圧センサの動作原理を示す説明図でる。
図7に示される“P1”の記号は、上部ガラス基板100におけるダイヤフラム400が外部から受ける圧力を表している。同様に
図7に示される“P2”の記号は、下部ガラス基板300におけるダイヤフラム400が外部から受ける圧力を表している。
また、
図7に示される“C1”の記号は、上部ガラス基板100におけるダイヤフラム400と固定電極部210との間に生じる静電容量を表している。同様に、
図7に示される“C2”の記号は、下部ガラス基板300におけるダイヤフラム400と固定電極部210との間に生じる静電容量を表している。一般に、静電容量(C)は、以下の数式で与えられる。
ただし、数式(1)に登場するε
0は真空中の誘電率を、ε
Sは比誘電率を、それぞれ表す。Sは、平行板コンデンサとして機能するダイヤフラム400又は固定電極部210の表面積を表す。また、dは、平行板コンデンサとして機能するダイヤフラム400と固定電極部210との間の距離を表す。d
0は、dの初期値を表す。Δdは、外部印加圧力(P)によるダイヤフラム400の変位量を表す。Δdは、外部印加圧力(P)に比例するものとする。数式(1)において、この比例係数はαで表されている。また、数式(1)に示されるように、静電容量(C)の単位は[F](farad、ファラッド)である。
このように、ダイヤフラム400及び固定電極部210は、平行板コンデンサとして機能させたいため、ダイヤフラム400も固定電極部210も、共に導電性を有するように素材が選択され、製造される。ダイヤフラム400と固定電極部210との組は平行板コンデンサとして機能するため、ダイヤフラム400は、「固定電極部210」の名称に対応して、「非固定電極」、「変位電極」、又は「稼働電極」等と称されることもある。
【0020】
《上部ガラス基板100》
上部ガラス基板100は、例えば、電気的な絶縁性を有するホウケイ酸系ガラス材料、又は低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-Fired Ceramics;LTCC)等のセラミック材料、からなる基板である。
前述のとおり上部ガラス基板100には、受圧用のダイヤフラム400が接合されている。
【0021】
前述のとおり、上部ガラス基板100の下面には、緩やかな傾斜を有する溝部(GROOVE)が設けられている(
図5を参照)。この溝部(GROOVE)は、受圧部スルーホール(THRU-1)を加工した際に生じたバリ又は欠けが、ダイヤフラム400を損傷させてしまうことを防ぐ工夫である。溝部(GROOVE)の深さは、あらかじめ、ダイヤフラム400の変位幅を考慮して決められるとよい。
この溝部(GROOVE)は、例えば、化学エッチング又はドライエッチングによって実現するとよい。また溝部(GROOVE)は、エッチング以外のMEMS技術、マイクロマシニング技術、又は微細加工技術によって実現されてもよい。
上部ガラス基板100に設けられる受圧部スルーホール(THRU-1)は、設計された特定の形状に加工することが困難な場合もある。この場合、溝部(GROOVE)は、ダイヤフラム400の実効面積を調整する役割をも果たす。
【0022】
上部ガラス基板100には、2つの電極取出しパット500が設けられている。電極取出しパット500の詳細は、後述の説明により明らかとなる。
【0023】
《シリコン基板200》
シリコン基板200は、導電性を有する半導体基板である。
前述のとおり、シリコン基板200は、固定電極部210を有する(
図6、
図7を参照)。
図2の例示において固定電極部210は、外周にあるシリコン基板200と、4つのいわゆる梁(はり、ビーム)によって連結され支えられている。このように複数の梁で支えることにより、固定電極部210は、外部からの揺れ又は振動の影響をあまり受けない。なお、これらの梁は、シリコン基板200とも固定電極部210とも同一の素材である。すなわちこれらの梁は、シリコン基板200とも固定電極部210とも同一の電気的特性(通電性)を有する。固定電極部210も、固定電極部210を支えるこれら梁も、一つのシリコン基板200から加工して一体的に形成される。
【0024】
図6及び
図7に示されるとおり、固定電極部210の厚みは、シリコン基板200の厚みよりも小さく設計されている。別の言い方をすれば、シリコン基板200の上面から見れば、固定電極部210の上面は下にあり、段差が設けられている。同様に、シリコン基板200の下面から見れば、固定電極部210の下面は上にあり、やはり段差が設けられている。この段差は、ダイヤフラム400及び固定電極部210を平行板コンデンサとみなしたときのギャップを生じさせるものである(数式(1)も参照)。
別の見方をすれば、この段差は、外部印加圧力(P1、又はP2)によりダイヤフラム400が変位することを許容する空間(以降、「稼働空間」と称する)を実現するものである、とも言える。
図7において、稼働空間には、コンデンサを示す回路素子の記号(以降、「回路記号」と称する)が、”C1”、“C2”とともに記載されている。段差は、深さ方向で数ミクロンから数十ミクロンのオーダーの形状である。
【0025】
《下部ガラス基板300》
下部ガラス基板300の構成は、上部ガラス基板100と同じである。上部ガラス基板100と下部ガラス基板300とは、同一の形態、又は面対称の形態である(
図1、
図2等を参照)。
【0026】
《ダイヤフラム400》
ダイヤフラム400は、例えば、以下の手順により製造することができる。
第1の手順は、ダイヤフラム400の形状パタンを有するシリコンの基板(シリコン基板200とは別のもの)に対して、高濃度不純物を熱拡散する、というものである。
第2の手順は、ダイヤフラム400の形状パタンを、RIE法(反応性イオンエッチング、Reactive Ion Etching)によって深さ方向にエッチングする、というものである。
第3の手順は、第2の手順で得られたものを上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)の表現に接合する、というものである。
第4の手順は、化学エッチング液で、高濃度不純物を熱拡散したパタン部だけを残してエッチングする、というものである。ここで用いる化学エッチャントは、KOH、TMAH、EDP(又はEPW)、ヒトラジン、等が該当する。
第1から第4までの手順により、すなわちエッチストップ技術と、高濃度不純物の拡散深さの調整と、により、ダイヤフラム400を設計どおりの正確な厚さに加工することができる。
【0027】
ダイヤフラム400の製造方法には、SOI基板(Silicon on Insulator)を用いる方法も考えられる。SOI基板を用いる方法は、簡単に言えば、SOI基板のデバイス層にダイヤフラム400の形状をRIE法でエッチングし、上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)との接合を行い、SOI基板の基板層を全面エッチングし、絶縁層(酸化膜層)を除去する、というものである。
なお、静電容量型圧力センサの製造方法、特にダイヤフラム400の製造方法に関しては、例えば、特開2000-214035号公報にも記載がある。
【0028】
上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)へのダイヤフラム400の接合は、陽極接合法、合金材を用いたロウ付け法、熱圧着法、又は表面活性化技術を用いる直接接合法、が該当する。
【0029】
ダイヤフラム400の製造方法として、シリコンの基板(シリコン基板200とは別のもの)を用いるほか、薄いコバール金属板を用いることも考えられる。コバール(Kovar)は、鉄にニッケル、コバルトを配合した合金であり、常温付近での熱膨張率が金属の中で低く硬質ガラスに近いため、電子部品関連の硬質ガラス封着、ICリードフレーム、等によく使用されている。
ダイヤフラム400の形状を有するコバール金属板を上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)へ接合した後に、ダイヤフラム400に相当しない余分な部分をエッチングで除去する、という方法が用いられてもよい。
【0030】
ダイヤフラム400は、上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)の下面に設けられた微細な溝部(GROOVE)の周辺を囲むように接合され、外部印加圧力(P1、又はP2)が漏れなくダイヤフラム400にかかるよう構造(形態)が設計されている。
ダイヤフラム400を上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)へ接合する処理は、一般、高温環境下で行われる。ダイヤフラム400と上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)とは、熱膨張率が完全に一致するわけではないため、室温に戻ると接合界面には望ましくない応力が生じてしまう。この望ましくない応力が生じる原理は、バイメタルによるサーモスタットの原理(以降、単に「バイメタルの原理」と称する)と同じである。
【0031】
実施の形態1に係る差圧センサの技術的特徴の一つは、上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)とダイヤフラム400との接合面積を可能な限り小さくする、というものである。接合面積を可能な限り小さくすることにより、実施の形態1に係る差圧センサは、バイメタルの原理により生じてしまう望ましくない応力を最小限にできる、という効果を奏するものである。
【0032】
《電極取出しパット500》
図1及び
図2に示されるとおり、上部ガラス基板100及び下部ガラス基板300には、それぞれ2つの電極取出しパット500が、取り付けられている。2つの電極取出しパット500のうち1つは、シリコン基板200から電気信号を取り出すためのものである。他の1つは、ダイヤフラム400から電気信号を取り出すためのものである。したがって、電極取出しパット500には、電極を取り出すためのスルーホール(THRU-2)が施されている。
スルーホール(THRU-2)の周辺には、導電性を有する金属が成膜されている。この金属膜は、Au/Cr、Pt/Ti、Pt/Cr、Al、Ni、等を素材としたものでよい。金属膜は、スパッタ法、蒸着法、又はメッキなどの手法で成膜される。
【0033】
スルーホール(THRU-2)を有する電極取出しパット500は、上部ガラス基板100及び下部ガラス基板300における電気信号を取り出す位置に、金属製の棒、又はワイヤを埋め込むことで実現されてもよい。
図1及び
図2に例示される電極取出しパット500は、電気信号の処理を行う制御回路基板(不図示)に、ワイヤボンディング又はフリップチップボンディングを行うためのパットとして描かれている。本開示技術に係る差圧センサと、この制御回路基板と、を含んだものが、本開示技術に係る差圧検出装置である。
【0034】
上部ガラス基板100又は下部ガラス基板300における電極取出しパット500の位置は、固定電極部210から見て遠い位置にあることが望ましい。これは、固定電極部210に寄生している容量(「浮遊容量」とも称される)の影響を受けないようにするための工夫である。
【0035】
実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、文字どおりP1とP2との「差圧」を検出するものであるが、本開示技術はこれに限定されない。
稼働空間を例えば真空状態にすることで、本開示技術は、P1及びP2それぞれの絶対圧を検出することに応用できる。
稼働空間を真空状態にする手順は、例えば以下のとおりである。まず、上部ガラス基板100とシリコン基板200との接合が行われるが、その次の、下部ガラス基板300の接合が、高温環境下で行われるようにする。接合されたものを常温に戻せば、ボイル・シャルルの法則により、稼働空間は自ずと真空状態になる。また、稼働空間の内にゲッタ材を入れて活性化することにより、さらに高真空にし、その状態を維持することができる。
【0036】
また、稼働空間を真空状態にしなくとも、稼働空間が密閉状態であれば、キャリブレーション(校正)を行うことにより、P1及びP2それぞれの絶対圧は、検出可能である。
【0037】
実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置の技術的特徴の一つは、上部ガラス基板100と下部ガラス基板300とが、同一の形態、又は面対称の形態である、というものである。また、固定電極部210を対称面としてみた場合、上部ガラス基板100側のダイヤフラム400と、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400とが、対称となる位置に置かれている。本明細書において、この技術的特徴は、「対称性が優れた構成」と表現されるものとする。
また、実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置の技術的特徴の一つは、上部ガラス基板100及び下部ガラス基板300のそれぞれに、緩やかな傾斜を有する溝部(GROOVE)が設けられている、というものである。
さらに、実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置の技術的特徴の一つは、上部ガラス基板100(又は下部ガラス基板300)とダイヤフラム400との接合面積が、限りなく小さい、というものである。
【0038】
以上のように実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、上記のとおり対称性が優れた構成を備える。このため、上部ガラス基板100側で測定される静電容量(C1)にも、下部ガラス基板300側で測定される静電容量(C2)にも、同じ程度にバイメタルの原理に基づく誤差が含まれる。実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置によって測定されるC1とC2について、その差分(ΔC=C1-C2)を計算することにより、バイメタルの原理に基づく誤差は相殺できる、という効果を奏する。
【0039】
実施の形態2.
実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、本開示技術に係る差圧センサ及び差圧検出装置の変形例である。実施の形態2においては、特に明記する場合を除き、実施の形態1と同じ符号が用いられる。また、実施の形態2においては、実施の形態1と重複する説明が適宜省略される。
【0040】
図8は、実施の形態2に係る差圧センサの外観を示す斜視図である。また
図9は、実施の形態2に係る差圧センサの分解図である。
図8及び
図9に示されるとおり、実施の形態2に係る差圧センサのシリコン基板200は、稼働空間を外部(大気)に開放する通気口(VENT)が設けられている。すなわち、実施の形態2に係る差圧センサにおいて、稼働空間は、常に大気圧の状態にある。
図8及び
図9に例示される実施の形態2に係る差圧センサは、ゲージ差圧検出器と称されることがある。なお、ゲージ圧力とは、大気圧を基準とした相対的な圧力を意味する。また、ゲージ差圧検出器の機構は、ダイヤフラムシールシステムと称されることがある。
【0041】
図10は、実施の形態2に係る差圧センサの動作原理を示す説明図である。より具体的に言えば、
図10Aは、P1とP2とが等しい場合のものであり、実施の形態2に係る差圧センサの断面を表したものである。また
図10Bは、P1がP2よりも大きい(P1がP2と比較して正圧になる)場合のものであり、実施の形態2に係る差圧センサの断面を表したものである。
図10Aにおいても
図10Bにおいても、稼働空間を外部(大気)に開放する通気口(VENT)は、図に向かって左側、上部ガラス基板100とシリコン基板200とが接合された近傍に描かれている。なお、
図10A及び
図10Bは例示であり、本開示技術はこれに限定されない。本開示技術に係る差圧センサは、下部ガラス基板300とシリコン基板200とが接合された近傍にあってもよいし、複数あってもよい。
【0042】
図面が不鮮明で見えづらいかもしれないが、
図8において、通気口(VENT)は、格子状に配置された微細な三角柱で例示されている。
通気口(VENT)は、外部からの埃、粉塵、等の微細な粒子が、稼働空間に入ることを防ぐように設計されるとよい。このようなマイクロフィルタとして機能するように、通気口(VENT)は、例えば、複数の微細な三角柱、四角柱、多角柱、円柱等によって実現されるとよい。また通気口(VENT)における複数の三角柱等は、必ず規則的に配置されなければならない、というものではなく、不規則に配置されていてもよい。
【0043】
通気口(VENT)が設けられた場合、稼働空間へは、外部から水分子又は水滴が侵入するおそれが生じる。水分子及び水滴は、稼働空間の誘電率に望ましくない影響を及ぼしてしまう。
そこで、通気口(VENT)には、水分子及び水滴が侵入しないように、多孔質膜を備えるようにしてもよい。多孔質膜は、成長、又は塗布、といった方法で実現される。
【0044】
実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、例えば、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400が外部から受ける圧力(P2)を、常に大気圧とする、という使い方がなされてもよい。このような使い方をすれば、実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、大気圧(P2)を基準とするゲージ圧(P1)を測る圧力検出器として応用できる。
【0045】
下部ガラス基板300側のダイヤフラム400が外部から受ける圧力(P2)を、常に大気圧とする、という使い方をすれば、一見、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400は全く変位しない、とも思われる。しかし実際には、周辺の環境温度が変わると、前述したバイメタルの原理によって、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400は変位する。
本開示技術は、この現象を逆に積極的に利用することによって、環境温度の変化に対してロバストな差圧センサ及び差圧検出装置を実現することができる。すなわち、本開示技術は、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400の変位がバイメタルの原理により生じたものとして算出し、上部ガラス基板100側のダイヤフラム400の変位量からバイメタルの原理により生じた変位量を差し引くことで、純粋にP1に起因したダイヤフラム400の変位量を求めることができる。
下部ガラス基板300側のダイヤフラム400が外部から受ける圧力(P2)を、常に大気圧とする、という使い方において、固定電極部210と下部ガラス基板300側のダイヤフラム400(稼働電極)との間に生じる静電容量(C2)は、「基準静電容量」と称される。
本明細書において、環境温度に対応してその影響を補正できる性質は、「対環境温度の自立補正性」と称されるものとする。
【0046】
図11は、実施の形態2に係る差圧検出装置の入出力関係を表すブロック図である。また、
図12は、
図11における(a)、(b)、(c)、及び(d)それぞれの物理量を時系列で表したシミュレーション結果のグラフである。
図11及び
図12における(a)の物理量は、印加差圧(ΔP=P1-P2)である。
図11及び
図12における(b)の物理量は、上部ガラス基板100側の静電容量(C1)と、下部ガラス基板300側の静電容量(C2)と、である。
図11及び
図12における(c)の物理量は、静電容量の差(ΔC=C1-C2)である。
図11及び
図12における(d)の物理量は、実施の形態2に係る差圧検出装置の出力電圧(V
out)である。
【0047】
図12に例示されるシミュレーション結果においては、(d)のグラフにおいて、出力電圧のグラフが立ち上がりから0.01[sec]程度でオーバーシュートが1回程度で静定していることが見てとれる。
【0048】
実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置の技術的特徴の一つは、実施の形態1に係る差圧センサ及び差圧検出装置と同様に、対称性が優れた構成である、というものである。
上記に加えて、実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置の技術的特徴の一つは、第2基板部であるシリコン基板200において、稼働空間を外部(大気)に開放する通気口(VENT)が設けられている、というものである。
また、実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、下部ガラス基板300側のダイヤフラム400が外部から受ける圧力(P2)を常に大気圧とする、という使い方をすることにより、ゲージ差圧検出器として応用できる、というものである。
【0049】
実施の形態2に係る差圧センサ及び差圧検出装置は上記の技術的特徴を有することにより、対環境温度の自立補正性を有する、という効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示技術に係る差圧センサ及び差圧検出装置は、例えば、配管漏れ圧力検知器、ガスメータ保安機能用差圧検出器、工業プラント向け圧力検出器などの工業分野、及びオフィスビルの空調制御など、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0051】
100 上部ガラス基板、200 シリコン基板、210 固定電極部、300 下部ガラス基板、400 ダイヤフラム、500 電極取出しパット。