IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社西部技研の特許一覧

<>
  • 特開-気密ブースの避圧弁 図1
  • 特開-気密ブースの避圧弁 図2
  • 特開-気密ブースの避圧弁 図3
  • 特開-気密ブースの避圧弁 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170738
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】気密ブースの避圧弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 24/00 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
F16K24/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087421
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 嗣
(72)【発明者】
【氏名】三國 完治
【テーマコード(参考)】
3H055
【Fターム(参考)】
3H055AA05
3H055AA22
3H055BA17
3H055BB03
3H055BB18
3H055BC09
3H055CC07
3H055CC11
3H055GG22
3H055HH05
(57)【要約】
【課題】気密ブースの室圧が予め設定した値を超過した場合にのみ稼働し、クリーンブースにおいてはその清浄度に影響を与えることなく、室内外の異常な圧力差を調整することができ、避圧弁自体は簡易な構造で小さくコンパクトであり、電気等の動力を必要とせず、任意に避圧開始の圧力が設定可能で、低コストである機械式避圧弁を提供する。
【解決手段】本発明の避圧弁は、蓋体と本体を備えた避圧弁であって、蓋体はシャフトと円形リブを有し、本体は避圧パッキンと避圧用開口を有し、本体のシャフトを通す穴に前記シャフトを通し、シャフトにはコイルばねが取付けられ、円形リブと避圧パッキンが当接するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋体と本体を備えた避圧弁であって、前記蓋体はシャフトと円形リブを有し、前記本体は避圧パッキンと避圧用開口を有し、前記本体の前記シャフトを通す穴に前記シャフトを通し、前記シャフトにはコイルばねが取付けられ、前記円形リブと前記避圧パッキンが当接するようにしたことを特徴とする避圧弁。
【請求項2】
前記シャフトの片端にナット及び/又はボルトを取付けることにより、前記コイルばねの取付長さを調整できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の避圧弁。
【請求項3】
気密ブースの天面に前記避圧弁を設置する場合において、負圧調整の場合、前記蓋体側を下向きに設置し、陽圧調整の場合、前記蓋体側を上向きに設置するようにし、前記避圧弁を天面以外に設置する場合において、負圧調整の場合、気密ブースの内側に前記蓋体側が向くように設置し、陽圧調整の場合、気密ブースの外側に前記蓋体側が向くように設置するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の避圧弁。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の避圧弁を設置した気密ブース。
【請求項5】
請求項1又は請求項3のいずれか一項に記載の避圧弁を3Dプリンタにて製作する避圧弁の製造方法。
【請求項6】
前記蓋体と前記本体が樹脂からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の避圧弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンブースやドライブース、不活性ガスブース等気密を保つことが必要なブース(以下、「気密ブース」という。)において、気密ブース内の圧力を一定の室圧に保つための機械式避圧弁に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機器、電子部品、医薬品等の製造工程において、わずかでも塵埃等のパーティクルがあると、製造中の製品に付着して製品不良を起こすため、クリーンブースは高清浄度環境を確保するものとして使用されている。クリーンブース内の高清浄度を保つために、通常処理した空気をHEPAフィルタを通して室内循環させている。また、リチウム電池や有機ELの製造工程等においては、材料が水分や酸素等の活性ガスと反応しやすいため、これらの活性ガスが例えば100ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下の低いレベルでドライかつ不活性ガス環境が必要であり、吸着式の除湿ロータによる低露点空気で空気をパージしたドライブース、液体窒素を気化させたり窒素精製機からの窒素ガスで空気をパージした不活性ガスブースが普及している。ここで、「不活性ガス」とは窒素だけでなく、ヘリウムやアルゴン等の他の不活性ガスであってもよく、活性ガス濃度を可能な限り0ppmに近づけたガスのことをいう。
【0003】
クリーンブースでは、外部からの汚染空気の侵入を防ぐため、室内圧力(以下、「室圧」という。)はブース外雰囲気よりやや高い陽圧に保たれている。しかし、圧力が高すぎると、扉の開け閉めが困難になる等の問題が生じる。また、ハザード物質を扱う場合は、室内を負圧にして漏洩を防止する。また、ドライブースや不活性ガスブースにおいても扉の開閉による人や装置の出入りにより、ブース内と外部の圧力変動が生じて、水分や酸素などの活性ガスがブース内に侵入し、低露点かつ不活性ガス環境が悪化するため、室圧の制御が必要である。このように、気密ブースの室内は、人や物の室内への出入りによる扉の開閉や室温調整のための給気風量変更等の変動にもかかわらず、その圧力を一定に保つ必要がある。
【0004】
このように、気密ブースでは室圧を陽圧あるいは負圧に保つように制御するため、圧力逃し機構(避圧機構)が設置されている。例えば、特許文献1に記載の圧力逃し弁機構は、クリーンルーム等の陽圧に保たれた部屋の室壁に開口部を設け、その開口部を封止するように配置され、かつ部屋の内外の圧力差に応じて揺動可能に設けられた弁板(フラップ)を備えており、室内圧力を所望の一定の陽圧に保つものである。
【0005】
また、特許文献2には空調対象室(クリーンルーム)の室圧を目標室圧に保持する室圧制御システムが開示されている。このような室圧制御システムは、電動ダンパや電磁バルブ、風量センサや圧力センサ、ファンやコントローラ等が電気的に制御されることにより、気密ブース内が予め定められた所定の室圧及び風量となるように室圧制御されている。起動時やドアの開閉時、局排動作時等に、素早く設定した室圧に戻し、常に安定した室圧を確保できるよう高精度に制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-267034号公報
【特許文献2】特許第6959773号
【特許文献3】特許第7101094号
【特許文献4】特許第4680206号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の圧力逃し弁機構では、例えばISO Class3(国際規格ISO14644-1)以上の高い清浄度が求められるクリーンブースにおいては、気密度を保つことができず、高い清浄度を確保することができない。ISO Class3以上の高い清浄度が求められるクリーンブースにおいては、室内圧力異常時に、清浄度に影響を与えず、室内外の異常な圧力差を調整することが必要である。
【0008】
特許文献2のような電気的に制御された室圧制御システム(以下、「電気式避圧機構」という。)においては、気密ブースの空調装置が停止あるいは送風量を低減させるような事故や故障、点検時の誤操作、通信システムや各機器、電気式避圧機構の電源や信号喪失等により、これらの設備の運転に連携がとることができず、圧力異常になっても機能を果たせず、例えば、気密ブース内に負圧が生じて汚染物質を気密ブース内に吸引したり、気密ブースの部材破損を招く虞がある。さらには復旧工事や温湿度、室圧、清浄度等の環境検証にかかる期間中は気密ブースの使用が困難となり、事業計画に支障をきたすことがある。
【0009】
そこで、電気的に動作しない独立した、無動力である避圧機構(以下、「機械式避圧弁」という。)として、特許文献3に記載の避圧調整ユニットは、天井に設置し、室内の気圧が異常変動した場合に吸気あるいは排気して、室内の気圧を一定の範囲に保つことができる。また、過陰圧調整装置と過陽圧調整装置を備えており、開放抵抗以上の陰圧が発生した場合に過陰圧パネルが回動して開となり、過陽圧調整装置の開閉板が開口して吸気し、想定以上の陽圧が発生した場合に昇降型の逃がし弁が上昇して排気する。電気等の動力を必要としないので、停電等の非常事態でも作動することができる。しかしながら、装置構造が複雑であるうえ、装置自体が大きいため、本体費用や設置コストが高く、天井への設置に必要な面積が大きいという問題がある。
【0010】
他にも圧力逃し機構として、例えば、特許文献4に記載の圧力逃がし装置は、発電所や変電所に使用される変圧器のタンクに装着し、内部故障によるタンク内の圧力上昇をとらえ、タンク内部の窒素ガスや絶縁油等を瞬時に大気放出することにより、本体及び付帯設備の損傷を防止する安全弁の役割を果たす。しかしながら、対象となる放圧値は、例えば0.04~0.1MPa(40000~100000Pa)と非常に高圧であり、気密ブースのような低圧(例えば-200~400Pa)には向かない構造である。
【0011】
上記の実情に鑑み、本発明の主たる課題は、低圧の気密ブースに適し、気密ブースの室圧が予め設定した値を超過した場合にのみ稼働し、クリーンブースにおいてはその清浄度に影響を与えることなく、室内外の異常な圧力差を調整することができ、避圧弁自体は簡易な構造で小さくコンパクトであり、電気等の動力を必要とせず、任意に避圧開始の圧力が設定可能で、低コストである機械式避圧弁を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の避圧弁は、蓋体と本体を備えた避圧弁であって、蓋体はシャフトと円形リブを有し、本体は避圧パッキンと避圧用開口を有し、本体のシャフトを通す穴にシャフトを通し、シャフトには圧縮コイルばね(以下、「コイルばね」という。)が取付けられ、円形リブと避圧パッキンが当接するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明の機械式避圧弁は、避圧弁自体で一定の気密性を有するため、ISO Class3相当の高清浄度を保つことができる。また、無動力で吸気あるいは排気して、室圧を一定の範囲に保つことができるので、供給電源や制御通信、エア駆動装置が不要で、電気式避圧機構とは独立したシステムとなっている。よって、電気式避圧機構と本発明の機械式避圧弁を併用することにより、何らかのトラブルで電気式避圧機構が作動しない場合、機械式避圧弁がバックアップとなるので、運転の信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の避圧弁自体は簡易な構造で小さくコンパクトであり、任意に避圧開始の圧力が設定可能で、低コストである。本発明の避圧弁を3Dプリンタを用いて樹脂により製作し、また部品等は既製市販品を利用することにより低コストとなる。
【0015】
さらに、本発明の避圧弁は、気密ブースのような低圧(例えば-200~400Pa)に適した避圧機構であり、気密ブース内が負圧/陽圧いずれでも設定可能である。また、大風量/小風量どのような風量にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の避圧弁の構成部品を示す図である。
図2図2は本発明の避圧弁の断面図及びコイルばね調整部を示す図である。
図3図3は本発明の避圧弁の展開図である。
図4図4は本発明の避圧弁を気密ブースの天面に取付けた状態を示す図(負圧調整の場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態について限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の避圧弁の構成部品を示す図である。図1(a)は構成部品一式を示した図である。避圧弁1は円筒形状であり、蓋体2と本体3を備える。蓋体2は円形のリブ4(以下、「円形リブ」という。)とシャフト5を有する。図1(b)は円形リブ4の拡大図である。蓋体2の円形リブ4はSUS材のリングを用いており、蓋体2の円形リブ取付用の溝に嵌め込み、シーリング材やゴム等の弾性のある材料を用いて、円形リブ4の脱落を防止するとともに、気密を取る。シャフト5は、蓋体2と反対側の片端(図1(a)シャフト上部分)は雄ネジとなっている。シャフト5の蓋体側の片端(図1(a)シャフト下部分)は雌ネジとなっており、図1(c)に示す蓋体2の表側からボルト14を用いてステンレス防水ワッシャー15を嵌め込み、蓋体2に取付ける(即ち、図1(a)で見えている蓋体2は蓋体の裏側である)。また、シャフト5と蓋体2(裏側)の境目(図1(a)蓋体2のシャフトの根元部分)はシーリング材やゴム等の弾性のある材料を用いて、気密を取る。なお、本実施形態では図1(c)のように蓋体2の表側は格子状のリブ加工を施し、蓋体2の強度やデザイン性を上げている。なお、図1(a)シャフト上部分は雄ネジに限定されず、別のものでもよい。図1(a)シャフト下部分は雌ネジに限定されず、雄ネジであってもよく、雄ネジの場合にはナットで固定し、シーリング材を施すことにより気密をとる。
【0019】
図1(a)のように、本体3は中心部にシャフト5を通す穴があり、その周りに避圧用開口6として6ヵ所の穴を設け、避圧有効面積を広げ、避圧量を上げる。本体3には避圧パッキン7と本体取付パッキン8が取付けてある。避圧パッキン7は、本体3の淵(避圧用開口6の周囲を囲む溝(凹部))に取付ける。本体取付パッキン8は、避圧用開口6とは反対側の最外側の淵に取付ける。なお、避圧パッキン7は凹部に取り付けるようにしたが、避圧パッキンが取付けられれば凹部を設けなくてもよい。また、避圧用開口6として6ヵ所の穴をあけたがこれに限らず、強度を維持でき、かつ避圧流量を満たせば任意の数の開口を設けてもよい。避圧弁1の直径や避圧有効面積等も任意に設定可能である。
【0020】
本発明の避圧弁1のシャフト5とコイルばね9は一つとする。単シャフトとすることで、昇降運動時の万が一のシャフトロックを低減でき、大口径、超重量で安定性が高く、故障のリスクを減らすことができる。また、構造がシンプルで製作、改善性がよい。さらに、蓋体2の浮上/下降のための本体3の開口率を大きくとることができる。蓋体2はスムーズに昇降する必要があるので、傾き等の障害が発生せずに昇降できる構成としている。斜め昇降でシャフト5がロックし、蓋体2が開閉不可となるのを防ぐため、大口径、超重量のシャフトを採用し安定性を図った。なお、シャフト5の材質は例えばSS材やSUS材が挙げられるが、他のものであってもよい。また、シャフト5の長さ(雄ネジ部分を含む)や太さは任意に設定可能であるが、避圧開始の室圧、避圧流量に関連する避圧有効面積やシャフト重量を考慮したコルイばね設計をする必要がある。後述の安全保護カバー19を取り付ける場合等には本体3の高さを超えない等考慮する必要がある。
【0021】
図1(d)は本体3の裏側である。即ち、図1(a)で見えている本体3は本体の表側である。図1(d)のように本体3にブッシュ16を取付ける。このブッシュ16がシャフト5、コイルばね9の片端と本体3の緩衝としての機能を持つ。本体3に蓋体2を取付ける際には、図1(a)の状態の本体3を裏返して、ブッシュ16を取付けて図1(d)のようにし、本体中心部のシャフト5を通す穴に図1(a)の蓋体2のシャフト5を通す。
【0022】
図2(a)は本発明の避圧弁の断面図、図2(b)はコイルばね調整部を示す図である。本体3に蓋体2を取付けた後、コイルばね9、ブッシュ13(図2上側のブッシュ)、大型平座金12、平座金11、六角ナット10二つの順に取付け固定する。六角ナット10がコイルばね9の緩締調整の機能を果たし、コイルばね9の取付け設定長さを調整することで、コイルばね9の減衰を調整する。コイルばね9の取付長さは、基本的には自然長より短く取り付け、気密を取るようにする。
【0023】
本体3に蓋体2を取付けることにより、図2の吹出しに示すように、本体3の淵の溝(凹部)に取付けた避圧パッキン7を蓋体2の円形リブ4で押さえて当接する。コイルばね9の力は円形リブ4を介して避圧パッキン7に作用し、円形リブ4と避圧パッキン7の接触面積を低減する。ここで、蓋体2と本体3が当接する機構として、円形リブ4が無く、避圧パッキン7の代わりにOリングを用いた場合、例えば避圧弁の直径φ160mmとして気密度を保持する力で概算しても、4000Pa程度で避圧する(蓋体2が開き始める)ことになり、気密ブースの低圧用途には向かない。これは、Oリングの圧縮に力を要するためであり、本体3と蓋体2の気密を保つパッキンとの接触面積を如何に低減するかの工夫が必要であった。そこで、本発明の避圧弁は、蓋体2側に円形リブ4を取付けることで、本体3側に取付けた避圧パッキン7との接触面積を小さくし、設計したコイルばねでも気密が維持できるようにした。また、避圧開始の室圧を例えば-200~400Paと低圧調整できるようにした。避圧パッキン7や本体取付パッキン8の材質は例えばEPDMやエラストマーのような合成ゴム等の可撓性や弾性を有するものを用いる。
【0024】
図3は本発明の避圧弁の展開図である。また、図4は本発明の避圧弁を天面に取付けた状態を示す図(負圧調整の場合)である。避圧弁1の設置位置は基本的に気密ブースの天面(天井)とするが、これに限るものではない。図2の蓋体2、本体3及びコイルばね9等を取付けた避圧弁1を、下側の避圧弁設置板17に設けた中心部開口に嵌め込むことにより、本体3の上部(本体取付パッキン8を取付けた側)の淵が下側の避圧弁設置板17に掛かる状態となる。このとき、図1(a)の本体取付パッキン8は下側の避圧弁設置板17に当接する。続けて、下側の避圧弁設置板17の上に、上側の避圧弁設置板18を載せるように取付け、図4(a)や(b)のように上側の避圧弁設置板18の辺に沿って設けられた8つの穴にボルトを通して気密ブースの天面に固定する。これにより、図1(a)の本体取付パッキン8と本体3の上部の淵を上下の避圧弁設置板で挟み込み、気密を維持する。すなわち、本体3の上部の淵と本体取付パッキン8の厚みが上下の避圧弁設置板の隙間となる。負圧調整の場合、この状態を天面側から見た状態が図4(b)である。また、気密ブース内から天面に設置した避圧弁を見た状態が図4(c)である。さらに、図4(a)や(d)のように、上側の避圧弁設置板18に本体3を覆うように安全保護カバー19を取付けると、異物混入防止やいたずら防止等安全面に考慮することができる。なお、上下の避圧弁設置板の材質は、例えばSS材とすれば強度を上げることができるが、これに限るものではない。
【0025】
気密ブースの天面に避圧弁1を設置する場合において、負圧調整の場合、図4に示すように避圧弁1の蓋体2側を下向きに設置し、陽圧調整の場合、蓋体2側を上向きに設置する。負圧調整の場合、上側の避圧弁設置板18の上に安全保護カバー19を取付けることで、天面から避圧弁を見た際に、本体3の裏側を目隠しすることができ、吸気の際に異物混入を防ぐことができる。陽圧調整の場合、本体3を覆うように気密ブース側から安全保護カバー19を取付けることにより、気密ブース内から避圧弁を見た際に、本体3の裏側を目隠しすることができる。なお、安全保護カバー19の取付け方法や位置についてはこれに限るものではない。また、クリーンブースにはファンフィルタユニット(以下「FFU、EFU」という。)が通常設置されているため必要ないが、吸気や排気が通過するフィルタを追加で設置するようにしてもよい。避圧弁を気密ブースの天面に設置する際には、陽圧調整用の避圧弁と負圧調整用の避圧弁の両方を取付けて室圧を調整するようにしてもよい。陽圧調整用、負圧調整用の両方の避圧弁を取付けるように天面を設計した場合でも、図4(a)のように片方のみ設置し、もう一方は塞ぎ板を付けるようにしてもよい。
【0026】
過負圧状態(負圧調整の場合)では、気密ブースの室圧が設定圧以下に達すると、コイルばね9に抗して蓋体2が開き始め、図4(d)のように気密ブース内に吸気される。吸気によって過負圧状態が解消され、気密ブースの室圧が設定圧に戻ると、コイルばね9の弾性力が勝って蓋体2と本体3は閉鎖する。
【0027】
過陽圧状態(陽圧調整の場合)では、気密ブースの室圧が設定圧以上に達すると、室内側から押し上げられて蓋体2が上昇し、開放排気される。排気に伴い気密ブース内の気圧は下がり、気密ブースの室圧が設定圧に戻ると、蓋体2は下降し、円形リブ4と避圧パッキン7が接して蓋体2と本体3が閉鎖されると過陽圧調整は終了する。
【0028】
通常状態では、吸気も排気も行われないので、蓋体2の円形リブ4は本体3の避圧パッキン7に当接して、蓋体2と本体3の隙間はなく閉じた状態となっているため、エア漏れすることはなく、気密が保たれる。これにより、本発明の避圧弁1はISO Class3相当の高清浄度を保つことができる。
【0029】
図2においてコイルばね9は、下側は本体3とブッシュ16によって固定され、上側は六角ナット10二つと平座金11、大型平座金12、ブッシュ13によって固定されている。コイルばね9は、自然長より短く取付けられているので、弾性力によって伸びる向きに力が働く。通常状態では、図2のコイルばね9の下端はブッシュ16と本体3によって固定されているので、下側に伸びることができない。コイルばねの上端も六角ナット10等によって固定され、上側にも伸びることができない。よって、このコイルばね9の弾性力によって、通常状態で蓋体2と本体3が閉じている。なお、ブッシュ16より上の部分(コイルばね9とブッシュ13、大型平座金12、平座金11、六角ナット10二つ)は、蓋体2が開くのと連動して動く。このため、気密ブースにおける過負圧状態や過陽圧状態で、気密ブースからの圧力により蓋体2が開こうとする(即ち、図2において下向きに蓋体2が開こうとする)と、ブッシュ16より上の部分も連動して動く(図2において下向きに動く)ことにより、コイルばね9が縮められる。これにより、コイルばね9が元に戻ろうとする弾性力が働くので、気密ブースからの圧力により蓋体2にかかる荷重に抗して、蓋体2が閉じようとする(即ち、図2において上向きに蓋体2が閉じようとする)方向に力が働く。従って、吸気/排気によって室圧が設定圧に戻るにつれて、蓋体2と本体3は閉鎖するようになる。コイルばね9は、負圧に管理されている気密ブース、陽圧に管理されている気密ブース、それぞれの管理室圧、異常となる室圧変動、避圧開始の室圧も異なるので、コイルばね9の取付長さを調整したり、適したコイルばねの種類を選定したり、避圧パッキン7の種類を調整する。コイルばね9の取付長さ調整は、二つの六角ナット10により調整する。蓋体等に調整錘を追加し調整するようにしてもよい。また六角ナット10は二つとし、ダブルナット止めによってナット緩みを防止するようにしたが、一つ又は三つ以上でもよく、ロックナットを用いてもよい。
【0030】
以上のように、本発明の避圧弁は動力を使用することなく、室内の異常な気圧変動に対応することができる。
【0031】
なお、本発明の避圧弁は基本的に天面設置型としたが、壁面に設置するようにしてもよい。天井材は上から吊っている構造が多く、面積も広く、軽い材料で構成されている。壁面や床面等よりも支持力が小さく、気圧変動の影響を受けやすいので、避圧弁を天面に設置して、天面又は天面と側壁との支持部の破損防止をすることができる。避圧弁を天面以外に設置する場合には、負圧調整の場合、気密ブースの内側に避圧弁1の蓋体2側が向くように設置し、陽圧調整の場合、気密ブースの外側に避圧弁1の蓋体2側が向くように設置する。
【0032】
実際に天面に本発明の避圧弁を取付ける際には、避圧弁を天面に設置した後、システム稼働前に気密ブースの気密状態を確認し、FFU、EFU等による影響やユーティリティ開栓等による影響を確認又は調整を経て、システムを本稼働し機械式避圧弁の設置は完了となる。
【0033】
本発明の避圧弁は、気密ブースの空調装置能力や設計仕様に応じて、一つ又は複数設置するようにしてもよい。本発明の避圧弁の蓋体や本体、安全保護カバーの材質は、アルミやSUS等の金属でもよいし、樹脂であってもよい。樹脂は、ABS樹脂、PLA樹脂、ASA樹脂、PP樹脂、PC樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、PETG、熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。後述の実施例1のように3Dプリンタによって製作するとコストが低くなる。避圧弁の製作に用いる材料は、耐熱性や耐久性等を考慮し選定する。また、ボルトやナット、シャフト、蓋体の材質、パッキンの材質、コイルばね等の種類によって起動負荷が変わる。コイルばねは、圧縮強さや曲げ強さを考慮し選定する。本発明では、コイルばね固着防止対策として、SS材、太線径、少巻数のものを採用したが、これに限るものではない。
【0034】
上述のように、本発明の避圧弁はシンプルな機構でありながら、負圧調整、陽圧調整いずれにも設置の向きを変えるだけで対応可能であり、設置対象の気密ブースに設置した室圧に合わせて、コイルばねの取付長さ等を変えることで容易かつ任意に避圧開始の圧力を設定することができる。
【実施例0035】
実施例1では、図1及び図2に示す避圧弁1を製作した。シャフト5には大口径、超重量のSUS材シャフト、コイルばね9にはSUS材コイルばねを採用した。避圧弁1の蓋体2及び本体3、安全保護カバー19は3Dプリンタを用いて、ABS樹脂により製作した。蓋体2の表側(負圧調整用として取付けた際に気密ブース内側から見える面)は図1(c)のように、格子状のリブ加工を施し、蓋体の強度を上げた。3Dプリンタを用いることで、コスト削減となり、金属材料(SUS)で製作する場合に比べて10分の1以下の費用となった。また、3Dプリンタがあれば、専門業者に依頼せず自社で製作することができるので、必要な時に必要な数量を製作でき、またカスタマイズ製作することもできる。
【0036】
避圧弁1の直径をφ160mmとし、避圧有効面積は0.01mとした。気密ブースは負圧ブースとし、図4のように蓋体2を下向きにして気密ブース天面に設置した。気密ブースの室圧が避圧弁の設定圧力(例えば-200Pa、避圧弁の第一荷重とする)以上であるとき(例えば室圧-200~0Pa)、蓋体2の円形リブ4は本体3の避圧パッキン7に当接して、蓋体2と本体3の隙間はない状態となっているので、エア漏れすることはなく、気密が保たれる。気密ブースの室圧が過負圧状態となり、避圧弁の第一荷重に達すると、蓋体2が開き始め、大気を取り入れる。気密ブースの室圧が最大過負圧時(例えば-825Pa、避圧弁の第二荷重とする)には、避圧弁は例えば5mm開き、90m/h以上の空気を取り入れて避圧し、気密ブースの破損を防ぐ。この避圧開始の圧力や避圧流量はコイルばねの調整により容易かつ任意に設定可能である。
【0037】
本実施形態においては、気密ブースを挙げたが、適用可能な室としては気密ブースに何ら限定されるものではなく、避圧調整機構が必要な種々の室に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る避圧弁は、医薬品、食品、半導体等を製造するクリーンブースやドライブース、不活性ガスブースに適用できるだけでなく、薬剤の製剤室や実験室、電算気室等の陽圧や負圧に管理し、室圧を一定に維持する必要のある種々の気密ブースにも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 避圧弁
2 蓋体
3 本体
4 円形リブ
5 シャフト
6 避圧用開口
7 避圧パッキン
8 本体取付パッキン
9 圧縮コイルばね
10 六角ナット
11 平座金
12 大型平座金
13 ブッシュ
14 ボルト
15 ステンレス防水ワッシャー
16 ブッシュ
17 下側の避圧弁設置板
18 上側の避圧弁設置板
19 安全保護カバー
図1
図2
図3
図4