(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170752
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】イントロデューサー用シース
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
A61M25/06 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087446
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松田 綾希子
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267AA06
4C267AA14
4C267AA15
4C267AA16
4C267AA17
4C267BB02
4C267BB10
4C267BB27
4C267CC08
4C267GG03
4C267GG04
4C267GG06
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG09
4C267GG10
4C267GG11
(57)【要約】
【課題】イントロデューサー用シースを使用した手技において、血管の内壁に対する負荷を抑えつつ、シース本体が不用意に移動したり、生体外に抜け出たりすることを防止でき、さらに血管内の血流を好適に確保することができるイントロデューサー用シースを提供する。
【解決手段】イントロデューサー用シース100は、ダイレーター300を挿通可能なデバイス挿入用ルーメン115を備えるとともに経皮的に血管B内に挿入されるシース本体110と、シース本体の基端側に接続され、デバイス挿入用ルーメンと連通する内部空間123を備えるハブ120と、シース本体の先端部111に配置され、流体の注入及び排出に伴って拡張及び収縮可能なバルーン150と、を有し、バルーンは、血管内において拡張した状態において、シース本体と血管の内壁Bwとの間で血液が流れることを許容する血流許容部155を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイレーターを挿通可能なデバイス挿入用ルーメンを備えるとともに経皮的に血管内に挿入されるシース本体と、
前記シース本体の基端側に接続され、前記デバイス挿入用ルーメンと連通する内部空間を備えるハブと、
前記シース本体の先端部に配置され、流体の注入及び排出に伴って拡張及び収縮可能なバルーンと、を有し、
前記バルーンは、前記血管内において拡張した状態において、前記シース本体と前記血管の内壁との間で血液が流れることを許容する血流許容部を有する、イントロデューサー用シース。
【請求項2】
前記バルーンは、前記シース本体の軸方向の同一の箇所において、前記シース本体の中心軸を基準にした周方向に所定の間隔を空けて複数個配置されており、
前記血流許容部は、拡張した各々の前記バルーンの間に区画される隙間部によって構成される、請求項1に記載のイントロデューサー用シース。
【請求項3】
複数個の前記バルーンの各々は、前記シース本体の中心軸を基準にした周方向において互いに均等な間隔を空けて配置されている、請求項2に記載のイントロデューサー用シース。
【請求項4】
前記シース本体は、複数個の前記バルーンの各々の空間部と連通するとともに前記バルーンを拡張させるための前記流体が流通可能な拡張流体用ルーメンを有する、請求項2又は請求項3に記載のイントロデューサー用シース。
【請求項5】
前記ハブは、前記デバイス挿入用ルーメン内にプライミング液を供給するための第1ポートと、前記拡張流体用ルーメン内に前記流体を供給するための第2ポートと、を有する、請求項4に記載のイントロデューサー用シース。
【請求項6】
前記シース本体の先端部には、当該シース本体の軸方向の先端側に向けて外径が漸減するテーパー部が形成されており、
前記バルーンは、未拡張の状態において、前記テーパー部と軸方向において重なる範囲で前記シース本体に巻き付けた状態で配置されている、請求項1に記載のイントロデューサー用シース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イントロデューサー用シースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カテーテルを使用した手技等において、血管内へのアクセス経路を形成するための医療器具としてイントロデューサーが使用されている。一般的なイントロデューサーは、イントロデューサー用シースと、ダイレーターと、を備える。また、イントロデューサー用シースは、ルーメンが形成されたシース本体(シースチューブ)と、シース本体に接続されたハブと、を備える(特許文献1を参照)。
【0003】
イントロデューサーを使用した手技では、術者等は、シース本体のルーメン内にダイレーターを挿入・固定した状態で、患者の肢体等に形成した穿刺部(穿孔)を介して経皮的に血管内へイントロデューサー用シースを挿入する。術者等は、シース本体の先端部を血管内に挿入した状態で、シース本体からダイレーターを抜去する。術者等は、シース本体からダイレーターを抜去した後、シース本体のルーメンを介して、ガイドワイヤーや各種のカテーテル等(以下、これらを総称して「医療デバイス」とする)を血管内へ導入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなイントロデューサーを使用した手技では、次のような点が課題となる。
【0006】
術者等がシース本体のルーメンを介して医療デバイスを血管内外へ出し入れする際、医療デバイスの移動に伴ってイントロデューサー用シースが生体外へ引っ張られたり、医療デバイスを血管内に挿入する際に反作用が生じたりすると、イントロデューサー用シースが穿刺部から抜け出てしまうことがある。
【0007】
また、術者等がシース本体のルーメンを介して医療デバイスを血管内外へ出し入れする際、シース本体の先端部が血管内で動くと、血管の内壁を傷つけてしまう虞がある。
【0008】
上記のような各課題の解決を図るに当たり、例えば、シース本体の不用意な移動や抜けを防止するための構造をシース本体に付加することが考えられる。また、そのような構造として、内圧の調整によって血管の内壁に掛かる負荷の軽減等を図り得るバルーンを用いることが考えられる。
【0009】
上記のようにシース本体にバルーンが配置されたイントロデューサー用シースを使用する場合、シース本体を血管内に挿入した状態でバルーンを拡張させ、バルーンを血管の内壁に対して固定させることにより、血管の内壁に掛かる負荷を極力抑えつつ、シース本体の移動や抜けが生じることを防止し得る。
【0010】
しかしながら、イントロデューサー用シースの適用対象が血管である場合、イントロデューサー用シースの不用意な移動や抜けの防止及び血管の内壁に対する負荷の軽減を図る等の課題に加えて、バルーンを拡張した状態において、血管内の血流を確保することも重要な課題となる。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、イントロデューサー用シースを使用した手技において、血管の内壁に対する負荷を抑えつつ、シース本体が不用意に移動したり、生体外に抜け出たりすることを防止でき、さらに血管内の血流を好適に確保することができるイントロデューサー用シースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(6)のいずれか1つに記載の手段によって達成され得る。
【0013】
(1)ダイレーターを挿通可能なデバイス挿入用ルーメンを備えるとともに経皮的に血管内に挿入されるシース本体と、前記シース本体の基端側に接続され、前記デバイス挿入用ルーメンと連通する内部空間を備えるハブと、前記シース本体の先端部に配置され、流体の注入及び排出に伴って拡張及び収縮可能なバルーンと、を有し、前記バルーンは、前記血管内において拡張した状態において、前記シース本体と前記血管の内壁との間で血液が流れることを許容する血流許容部を有する、イントロデューサー用シース。
【0014】
(2)前記バルーンは、前記シース本体の軸方向の同一の箇所において、前記シース本体の中心軸を基準にした周方向に所定の間隔を空けて複数個配置されており、前記血流許容部は、拡張した各々の前記バルーンの間に区画される隙間部によって構成される、上記(1)に記載のイントロデューサー用シース。
【0015】
(3)複数個の前記バルーンの各々は、前記シース本体の中心軸を基準にした周方向において互いに均等な間隔を空けて配置されている、上記(2)に記載のイントロデューサー用シース。
【0016】
(4)前記シース本体は、複数個の前記バルーンの各々の空間部と連通するとともに前記バルーンを拡張させるための前記流体が流通可能な拡張流体用ルーメンを有する、上記(2)又は上記(3)に記載のイントロデューサー用シース。
【0017】
(5)前記ハブは、前記デバイス挿入用ルーメン内にプライミング液を供給するための第1ポートと、前記拡張流体用ルーメン内に前記流体を供給するための第2ポートと、を有する、上記(4)に記載のイントロデューサー用シース。
【0018】
(6)前記シース本体の先端部には、当該シース本体の軸方向の先端側に向けて外径が漸減するテーパー部が形成されており、前記バルーンは、未拡張の状態において、前記テーパー部と軸方向において重なる範囲で前記シース本体に巻き付けた状態で配置されている、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のイントロデューサー用シース。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るイントロデューサー用シースは、シース本体を血管内に挿入した状態において、シース本体に配置されたバルーンを拡張させることにより、血管の内壁に対する負荷を抑えつつ、シース本体が不用意に移動したり、生体外に抜け出たりすることを防止できる。また、バルーンは、血管内において拡張した状態において、シース本体と血管の内壁との間で血液が流れることを許容する血流許容部を有する。そのため、イントロデューサー用シースは、バルーンを血管内で拡張した状態においても血流を好適に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係るイントロデューサーを示す図である。
【
図2】実施形態に係るイントロデューサー用シースの部分断面図である。
【
図3】
図2に示す矢印3A-3A線に沿うイントロデューサー用シースの軸直交断面図であり、バルーンが拡張する前の状態を示す図である。
【
図4】
図2に示す矢印3A-3A線に沿うイントロデューサー用シースの軸直交断面図であり、バルーンが拡張した状態を示す図である。
【
図5】イントロデューサー用シースの軸方向に沿う部分断面図であり、バルーンが拡張する前の状態を示す図である。
【
図6】イントロデューサー用シースの軸方向に沿う部分断面図であり、バルーンが拡張した状態を示す図である。
【
図7】実施形態に係るイントロデューサー用シースの使用例を模式的に示す断面図であり、バルーンが拡張する前の状態を示す図である。
【
図8】実施形態に係るイントロデューサー用シースの使用例を模式的に示す断面図であり、バルーンが拡張した状態を示す図である。
【
図9】実施形態に係るイントロデューサー用シースの使用例を模式的に示す断面図である。
【
図10】変形例1に係るイントロデューサー用シースを示す断面図である。
【
図11】変形例2に係るイントロデューサー用シースを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
図1~
図9を参照して、本実施形態に係るイントロデューサー用シース100を説明する。本明細書では、イントロデューサー用シース100とダイレーター300を構成部品に備えるイントロデューサー10を通じて本発明を説明する。
【0023】
図1はイントロデューサー10を示す図であり、
図2はイントロデューサー用シース100の部分断面図(軸方向に沿う部分断面図)である。
図3、
図4は
図2に示す矢印3A-3Aに沿うイントロデューサー用シース100の軸直交断面図である。
図5、
図6はイントロデューサー用シース100の一部を拡大して示す軸方向に沿う部分断面図である。なお、
図3、
図5ではバルーン150が拡張する前の状態を示し、
図4、
図6ではバルーン150が拡張した状態を示す。
図7、
図8、
図9はイントロデューサー用シース100の使用例を模式的に示す断面図である。
【0024】
本明細書では、イントロデューサー用シース100においてハブ120が配置される側(
図1、
図2の上側)を「基端側」と称する。また、イントロデューサー用シース100において基端側とは反対側に位置し、生体内に挿入される側(
図1、
図2の下側)を「先端側」と称する。また、イントロデューサー用シース100のシース本体110が延在する方向(
図1、
図2の上下方向)を軸方向と称する。
【0025】
(イントロデューサー10)
イントロデューサー10は、
図1に示すように、イントロデューサー用シース100と、ダイレーター300と、を有する。
【0026】
イントロデューサー用シース100は、シース本体110のデバイス挿入用ルーメン115(
図2を参照)を介してダイレーター300のダイレーター本体310や各種の医療デバイス(カテーテルデバイスやガイドワイヤー等)を血管B内へ導入するために使用することができる。
【0027】
(イントロデューサー用シース100)
イントロデューサー用シース100は、概説すると、
図1、
図2、
図7、
図8に示すように、ダイレーター300を挿通可能なデバイス挿入用ルーメン115を備えるとともに経皮的に血管B内に挿入されるシース本体110と、シース本体110の基端側に接続され、デバイス挿入用ルーメン115と連通する内部空間123を備えるハブ120と、シース本体110の先端部111に配置され、流体の注入及び排出に伴って拡張及び収縮可能なバルーン150と、を有する。
【0028】
図2に示すように、デバイス挿入用ルーメン115は、シース本体110の基端部113から先端部111に沿って軸方向に延在している。シース本体110の基端には、ハブ120の内部空間123とデバイス挿入用ルーメン115を連通する基端開口部113aが形成されている。シース本体110の先端には、シース本体110の外部とデバイス挿入用ルーメン115を連通する先端開口部111aが形成されている。
【0029】
シース本体110の先端部111には、軸方向の先端側に向けて外径が漸減するテーパー部111bが形成されている。
【0030】
シース本体110は、バルーン150の空間部(内腔)と連通する拡張流体用ルーメンを有する。本実施形態では、シース本体110には2つのバルーン160、170を配置している。そのため、シース本体110は、
図2、
図5、
図6に示すように、バルーン160(以下、「第1バルーン」と称する)と連通する第1拡張流体用ルーメン116aとバルーン170(以下、「第2バルーン」と称する)と連通する第2拡張流体用ルーメン116bの2つのルーメンを備えている。
【0031】
図2に示すように、ハブ120は、各バルーン160、170の拡張用の流体を供給するための第2ポート124bと連通する第1流路125を有する。第1流路125は、ハブ120の周方向に沿うように延在している。また、ハブ120は、第1流路125を先端側の位置で分岐させる第1部位126aと第2部位126bを有する。
【0032】
第1部位126aは、第1拡張流体用ルーメン116aの基端と繋がっている。第2部位126bは、第2拡張流体用ルーメン116bの基端と繋がっている。
【0033】
図3、
図5に示すように、第1拡張流体用ルーメン116aは、シース本体110に形成された通孔117aを介して第1バルーン160の空間部161と連通している。また、第2拡張流体用ルーメン116bは、シース本体110に形成された通孔117bを介して第2バルーン170の空間部171と連通している。
【0034】
ハブ120に設けられた第2ポート124bを介して第1流路125に流体が供給されると、流体は、第1部位126aを介して第1拡張流体用ルーメン116a内に導流されるとともに、第2部位126bを介して第2拡張流体用ルーメン116b内に導流される。また、第1拡張流体用ルーメン116a内に導流された流体は、通孔117aを介して第1バルーン160の空間部161に注入され、第2拡張流体用ルーメン116b内に導流された流体は、通孔117bを介して第2バルーン170の空間部171に注入される。そのため、術者等は、ハブ120の第2ポート124bにバルーン拡張用の流体を供給することにより、各バルーン160、170をほぼ同時に速やかに拡張させることができる。また、術者等は、ハブ120の第2ポート124bを介してバルーン拡張用の流体を各バルーン160、170の各空間部161、171から排出させることにより、各バルーン160、170をほぼ同時に速やかに収縮させることができる。
【0035】
シース本体110の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、またはこれら二種以上の混合物など)、ポリオレフィンエラストマー、ポリオレフィンの架橋体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体など)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどの高分子材料またはこれらの混合物等を用いることができる。
【0036】
バルーン150は、
図4、
図8、
図9に示すように、血管B内において拡張した状態において、シース本体110と血管Bの内壁Bwとの間で血液が流れることを許容する血流許容部155を有する。
【0037】
本実施形態では、前述したように、第1バルーン160と第2バルーン170の2つのバルーンがシース本体110の先端部111に配置されている。複数のバルーン160、170がシース本体110に配置される場合、血流許容部155は拡張した各々のバルーン160、170の間に区画される隙間部157によって構成することができる。
【0038】
具体的には、
図5、
図6に示すように、第1バルーン160と第2バルーン170は、シース本体110の軸方向の同一の箇所において、シース本体110の中心軸c1を基準にした周方向に所定の間隔を空けて配置されている。
図4、
図9に示すように、第1バルーン160と第2バルーン170が拡張した際には、拡張した各バルーン160、170の間に隙間部157が区画される。隙間部157は、各バルーン160、170が拡張した状態において、各バルーン160、170の間を血液が流れることを許容する。
【0039】
図4に示すように、シース本体110に配置された複数個のバルーン160、170の各々は、シース本体110の中心軸c1を基準にした周方向において互いに均等な間隔を空けて配置することができる。
【0040】
本実施形態では、
図4に示す軸直交断面図上において、シース本体110の中心軸c1を通り、かつ各バルーン160、170の最大拡張部位の間を繋ぐ仮想線Hによって中心軸c1周りに定義される周方向の角度θ1、θ2を略同一に形成している。シース本体110には、2つのバルーン160、170が配置されているため、上記の各角度θ1、θ2は、略180°である。
【0041】
図2、
図3、
図5に示すように、各バルーン160、170は、未拡張の状態において、シース本体110のテーパー部111bと軸方向において重なる範囲でシース本体110に巻き付けた状態で配置することができる。
【0042】
上記のように、未拡張の状態の各バルーン160、170をシース本体110のテーパー部111bに巻き付けた状態で配置することにより、シース本体110の先端部111が各バルーン160、170によって過度に大径化されることを抑制できる。そのため、イントロデューサー用シース100を血管B内に挿入する際に、各バルーン160、170が穿刺部pの周囲の生体組織に引っ掛かる等してイントロデューサー用シース100の挿入性が低下することを防止できる。また、各バルーン160、170を収縮してシース本体110を血管Bより抜去する際に、各バルーン160、170が巻き付けた状態に戻りやすくなるため、イントロデューサー用シース100の抜去性が低下することを防止できる。
【0043】
バルーン150(第1バルーン160及び第2バルーン170)を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリスチレンエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等を使用することができる。上記に例示した材料の中でも、バルーン150が拡張した状態において血管Bの内壁Bwに対する固定力(係止力)を向上させる観点より、ポリアミドやポリアミドエラストマー等の比較的硬質な材料を使用することがより好ましい。バルーン150は、例えば、熱融着等によってシース本体110の外表面110aに固定することができる。
【0044】
図2に示すように、ハブ120の内部空間123には弁体130を配置している。弁体130は、シース本体110のデバイス挿入用ルーメン115に流れ込んだ血液がハブ120の外部へ漏洩することを防止する。
【0045】
弁体130は、例えば、ダイレーター本体310の挿通を可能にするスリット(挿通部)131が形成された弾性部材により構成することができる。弁体130は、例えば、略楕円形の円盤状の外形を有するように構成することができる。弁体130は、ハブ120の基端側から嵌め込まれる所定のキャップ140によりハブ120に対して固定することができる。なお、弁体130の具体的な形状、材質、スリットの構造等について特に制限はない。
【0046】
ハブ120には、ハブ120の内部空間123と連通する第1ポート124aを設けている。第1ポート124aは、内部空間123を介してデバイス挿入用ルーメン115内にプライミング液を供給したり、血管B内に投与するヘパリン等を供給するために使用することができる。
【0047】
図1に示すように、第1ポート124aには、所定の第1チューブ211の一端部を接続することができる。第1チューブ211の他端部には、例えば、三方活栓213を接続することができる。
【0048】
ハブ120には、各拡張流体用ルーメン116a、116b内に拡張用の流体を供給するための第2ポート124bを設けている。
【0049】
図2に示すように、第2ポート124bには、所定の第2チューブ221の一端部を接続することができる。第2チューブ221の他端部には、例えば、三方活栓223を接続することができる。
【0050】
イントロデューサー用シース100は、デバイス挿入用ルーメン115内にプライミング液を供給するための第1ポート124aと、各拡張流体用ルーメン116a、116b内に拡張用の流体を供給するための第2ポート124bが設けられている。そのため、術者等は、デバイス挿入用ルーメン115及び各拡張流体用ルーメン116a、116bの各々に対して個別に異なる流体を供給することができる。なお、各ポート124a、124bには、各ポート124a、124bを目視により識別可能にするためのマーカー等を配置することができる。
【0051】
ハブ120は、ストレインリリーフ部127を有する。ストレインリリーフ部127は、シース本体110にキンクや折れ等が発生するのを抑制する。
【0052】
(ダイレーター300)
ダイレーター300は、
図1に示すように、イントロデューサー用シース100のシース本体110のデバイス挿入用ルーメン115に挿入可能なダイレーター本体310と、ダイレーター本体310の基端側に固定されるダイレーターハブ320と、を有する。
【0053】
ダイレーター300は、シース本体110を血管B内に挿入するときに、シース本体110に折れが生じることを防いだり、肢体A及び血管壁に形成される穿刺部p(
図7を参照)を拡径したりするために用いることができる。
【0054】
(使用例)
次に、
図7~
図9を参照して、イントロデューサー用シース100の使用例及び作用効果を説明する。
【0055】
図7には、患者の肢体A(例えば、前腕部)の体表面から血管Bまで延びる穿刺部pを介してイントロデューサー用シース100のシース本体110を血管B内に挿入した状態を示している。
図7では、各バルーン160、170を拡張させる前の状態を示している。
【0056】
術者等は、各バルーン160、170が配置されたシース本体110の先端部111を血管B内の所定位置までに導入する。術者等は、シース本体110の先端部111を血管B内の所定位置まで導入した後、ガイドワイヤやダイレーター300をシース本体110から適宜抜去する。
【0057】
術者等は、イントロデューサー用シース100を使用した通常の手技で行われるように、三方活栓213、第1チューブ211、及び第1ポート124aを介して、デバイス挿入用ルーメン115内にヘパリンを供給し、シース本体110の先端開口部111aを介して血管B内にヘパリンを投与する。
【0058】
術者等は、シース本体110を血管Bの内壁Bwに固定するに際し、三方活栓223、第2チューブ221、及び第2ポート124bを介して、各拡張流体用ルーメン116a、116b内へ拡張用の流体(例えば、血管造影剤)を供給し、各バルーン160、170を拡張させる。拡張用の流体が血管造影剤であると、各バルーン160、170の血管Bとの位置関係をX線造影像にて確認しやすくなる。さらに、後述する血管Bの内壁Bwに対するシース本体110の固定力を調整しやすくなる。
【0059】
図8に示すように、各バルーン160、170が拡張すると、各バルーン160、170が血管Bの内壁Bwに対して固定力を作用させる。これにより、各バルーン160、170が配置されたシース本体110の先端部111付近を血管Bの内壁Bwに対して固定することができる。
【0060】
術者等は、各バルーン160、170の内圧を調整することにより、血管Bの内壁Bwに対するシース本体110の固定力を調整することができる。そのため、各バルーン160、170によって血管Bの内壁Bwに対してシース本体110を固定した後、各バルーン160、170の内圧を調整して固定力を弱めることにより、シース本体110の先端部111の固定位置を任意に調整することができる。
【0061】
図9には、各バルーン160、170を拡張させた際の血管Bの横断面図を模式的に示している。各バルーン160、170が拡張した状態において、各バルーン160、170の間には、血管B内の血液の流れを許容する血流許容部155が形成される。そのため、イントロデューサー用シース100は、各バルーン160、170によってシース本体110の先端部111を血管Bの内壁Bwに固定した状態において、血管Bの血流が遮られることを防止できる。
【0062】
また、本実施形態では、複数個のバルーン160、170によってシース本体110を血管Bの内壁Bwに固定するため、固定力の向上を図ることができる。そして、血流許容部155が複数個のバルーン160、170の間に区画された隙間部157によって構成されているため、複数個のバルーン160、170に加えて血流許容部155を構成するための付加的な部材を追加する必要がない。そのため、血流許容部155を備えるイントロデューサー用シース100の装置構成の簡素化を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態では、複数個のバルーン160、170の各々は、シース本体110の中心軸c1を基準にした周方向において互いに均等な間隔を空けて配置されている。そのため、シース本体110の中心軸c1を基準にした周方向のいずれかの方向において各バルーン160、170が作用させる固定力に偏りが生じることを防止できる。それにより、各バルーン160、170は、シース本体110の先端部111を血管Bの内壁Bwに対してより安定的に固定することができる。また、上記のような固定力の偏りが生じることを防止できるため、各バルーン160、170を拡張させた状態において、血管Bの横断面上における中心位置とシース本体110の中心軸c1の位置とを近接させた状態で維持することができる。それにより、より一層安定した状態でシース本体110の先端部111を血管Bの内壁Bwに対して固定することができる。
【0064】
術者等は、イントロデューサー用シース100を使用した手技を終えた後、各バルーン160、170を収縮させる。術者等は、各バルーン160、170を収縮させて血管Bの内壁Bwに対するシース本体110の固定を解除することにより、イントロデューサー用シース100を各バルーン160、170とともに生体外へ抜去することができる。
【0065】
以上のように、本実施形態に係るイントロデューサー用シース100は、ダイレーター300を挿通可能なデバイス挿入用ルーメン115を備えるとともに経皮的に血管B内に挿入されるシース本体110と、シース本体110の基端側に接続され、デバイス挿入用ルーメン115と連通する内部空間123を備えるハブ120と、シース本体110の先端部111に配置され、流体の注入及び排出に伴って拡張及び収縮可能なバルーン150と、を有し、バルーン150は、血管B内において拡張した状態において、シース本体110と血管Bの内壁Bwとの間で血液が流れることを許容する血流許容部155を有する。
【0066】
上記のように構成されたイントロデューサー用シース100は、シース本体110を血管B内に挿入した状態において、シース本体110に配置されたバルーン150を拡張させることにより、血管Bの内壁Bwに対する負荷を抑えつつ、シース本体110が不用意に移動したり、生体外に抜け出たりすることを防止できる。また、バルーン150は、血管B内において拡張した状態において、シース本体110と血管Bの内壁Bwとの間で血液が流れることを許容する血流許容部155を有する。そのため、イントロデューサー用シース100は、バルーン150を血管B内で拡張した状態においても血流を好適に確保することができる。
【0067】
<変形例>
上述した実施形態では、シース本体110に2つのバルーン160、170を配置した例を説明した。ただし、シース本体110に配置されるバルーン150の個数は、2つのみに限定されることはない。
【0068】
図10には変形例1に係るイントロデューサー用シース100を示す。
図10は、
図9に示すイントロデューサー用シース100の使用例の断面図に対応した横断面図である。
【0069】
変形例1に係るシース本体110には、3つのバルーン160、170、180を配置している。各バルーン160、170、180の間には周方向に均等な間隔(周方向の角度θ1=θ2=θ3=120°)を設けている。上記間隔は、シース本体110の中心軸c1と各バルーン160、170、180の最大拡張部位を通る仮想線H1との間に形成される角度で定義することができる。また、各バルーン160、170、180が拡張した状態において、各バルーン160、170、180の間には血流許容部155をなす隙間部157が形成される。
【0070】
変形例1に係るイントロデューサー用シース100は、3つのバルーン160、170、180を備えるため、シース本体110には各バルーン160、170、180の各空間部161、171、181に対応させて3つの拡張流体用ルーメン116a、116b、116cと3つの通孔117a、117b、117cが形成される。ハブ120内には、第2ポート124bに繋がる第1流路125と上記3つの拡張流体用ルーメン116a、116b、116cの間を繋ぐ3つの分岐した部分を設けることができる。
【0071】
図11には変形例2に係るイントロデューサー用シース100を示す。
図11は、
図9に示すイントロデューサー用シース100の使用例の断面図に対応した横断面図である。
【0072】
変形例2に係るシース本体110には、4つのバルーン160、170、180、190を配置している。各バルーン160、170、180、190の間には周方向に均等な間隔(周方向の角度θ1=θ2=θ3=θ4=90°)を設けている。上記間隔は、シース本体110の中心軸c1と各バルーン160、170、180、190の最大拡張部位を通る仮想線H2との間に形成される角度で定義することができる。また、各バルーン160、170、180、190が拡張した状態において、各バルーン160、170、180、190の間には、血流許容部155をなす隙間部157が形成される。
【0073】
変形例2に係るイントロデューサー用シース100は、4つのバルーン160、170、180、190を備えるため、シース本体110には各バルーン160、170、180、190の各空間部161、171、181、191に対応させて4つの拡張流体用ルーメン116a、116b、116c、116dと4つの通孔117a、117b、117c、117dが形成される。ハブ120内には、第2ポート124bに繋がる第1流路125と上記4つの拡張流体用ルーメン116a、116b、116c、116dの間を繋ぐ4つの分岐した部分を設けることができる。
【0074】
変形例1、2で示したシース本体110のようにバルーン150の個数を増加させることにより、血管Bの内壁Bwに対するシース本体110の固定力を向上させることができる。また、バルーン150の個数を増加させることにより、バルーン150を拡張させた状態において、血管Bの横断面上の中心位置とシース本体110の中心軸c1の位置とを近接させた状態でより一層安定的に維持することができる。
【0075】
以上、実施形態を通じて本発明に係るイントロデューサー用シースを説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0076】
実施形態及び変形例の説明では、シース本体に複数個のバルーンを配置し、複数個のバルーンの各々の間に区画される隙間部によって血流許容部を構成した例を説明した。ただし、シース本体に配置されるバルーンの個数は1つ以上であれば特に限定されない。例えば、1つのバルーンがシース本体に配置される場合、バルーンは拡張した状態においてシース本体の中心軸に対して螺旋形状をなすように構成することができる。このようにバルーンを構成した場合、螺旋形状の間に形成される隙間部によって血管の内壁とシース本体との間での血液の流れを許容する血流許容部を構成することができる。また、例えば、1つのバルーンに、当該バルーンが拡張した状態において血管の内壁に当接する凸形状の部分と血管の内壁との間に隙間部を形成する凹形状の部分を設けることができる。このように構成した場合、バルーンにおいて凹形状の部分が形成する隙間部を血流許容部として機能させることができる。
【0077】
また、シース本体に複数のバルーンが配置される場合に各バルーンの周方向の間隔は均等に配置されていなくてもよい。ただし、各バルーンを周方向に均等な間隔を空けて配置した場合、明細書内で説明した固定力の向上や固定位置の安定性の向上を図り得る。また、シース本体に複数のバルーンが配置される場合に各バルーンはシース本体の軸方向において互いにずれた位置に配置されていてもよい。このように配置した場合、シース本体の位置ずれを抑制する効果は低減するものの、各バルーンの軸方向の間に設けられる隙間部によって血流を確保することが可能になる。
【0078】
また、明細書内において説明した各部の構造や部材の配置等は任意に変更することができる。図示により説明した付加的な部材の使用の省略や、その他の付加的な部材の使用等も任意に行い得る。
【符号の説明】
【0079】
10 イントロデューサー
100 イントロデューサー用シース
110 シース本体
111 シース本体の先端部
111b テーパー部
113 シース本体の基端部
115 デバイス挿入用ルーメン
116a 第1拡張流体用ルーメン
116b 第2拡張流体用ルーメン
117a 通孔
117b 通孔
120 ハブ
123 ハブの内部空間
124a 第1ポート
124b 第2ポート
125 第1流路
126a 第1部位
126b 第2部位
150 バルーン
155 血流許容部
157 隙間部
160 第1バルーン
161 第1バルーンの空間部
170 第2バルーン
171 第2バルーンの空間部
180 バルーン
190 バルーン
300 ダイレーター
310 ダイレーター本体
320 ダイレーターハブ
c1 シース本体の中心軸
A 肢体
B 血管
Bw 血管の内壁
p 穿刺部