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特開2024-170760作業機械におけるブーム下降制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170760
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】作業機械におけるブーム下降制御システム
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/044 20060101AFI20241204BHJP
   F15B 11/00 20060101ALI20241204BHJP
   F15B 11/04 20060101ALI20241204BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F15B11/044
F15B11/00 E
F15B11/04 G
E02F9/22 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087460
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】皆木 良太
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】喜安 浩一
【テーマコード(参考)】
2D003
3H089
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003BA01
2D003BB03
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB02
3H089AA12
3H089AA23
3H089AA60
3H089BB15
3H089BB16
3H089CC01
3H089DA03
3H089DB46
3H089DB49
3H089DB54
3H089EE03
3H089EE36
3H089GG02
3H089JJ02
(57)【要約】
【課題】機体本体に上下揺動自在に軸支されるブームを含むフロント作業機を備えた作業機械において、フロント作業機を構成する作業アームや作業アタッチメントの重量、寸法等のデータを入手できなくても、操作具操作量に応じた下降速度でブームを下降させるための制御を安定した状態で行えるようにする。
【解決手段】フロント作業機4を所定の測定姿勢にした状態でブーム5を上下動させるブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室9aの測定圧力に基づいてフロント作業機4個別のブーム保持圧Pbを設定し、該ブーム保持圧Pbに基づいてコントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を制御する構成にした。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体本体に上下揺動自在に軸支されるブームを含んで構成され、ブーム以外の構成部材の少なくとも一部が交換可能なフロント作業機と、ヘッド側油室への油供給で伸長しヘッド側油室からの油排出で縮小して前記ブームを上下揺動せしめるブームシリンダと、ブームシリンダのヘッド側油室からの排出流量を制御するメータアウト開口を有した制御弁と、該制御弁の作動を制御する制御手段と、ブームを上下動するべく操作される操作具とを備えてなる作業機械において、
前記ブームシリンダのヘッド側油室の圧力を測定する圧力測定手段と、フロント作業機を所定の測定姿勢にした状態でブームを上下動させるブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室の測定圧力に基づいてフロント作業機個別のブーム保持圧を設定するブーム保持圧設定手段とを設ける一方、
前記制御手段は、ブーム下降時におけるブームシリンダヘッド側油室からの排出流量を操作具操作量に応じて設定される目標排出流量にするべく前記ブーム保持圧設定手段で予め設定されたブーム保持圧に基づいて制御弁のメータアウト開口面積を制御することを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システム。
【請求項2】
請求項1において、ブーム保持圧設定手段は、ブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室の測定圧力の最大圧力を求め、該最大圧力に基づいてブーム保持圧を設定することを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システム。
【請求項3】
請求項1または2において、ブーム保持圧測定作業を行うときにブームの上下動速度を制限する測定速度制限手段を設けたことを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等のブームを備えた作業機械におけるブーム下降制御システムの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械のなかには、機体本体に装着されるフロント作業機を、機体本体に上下揺動自在に軸支されるブームや該ブームの先端部に軸支されるスティック等からなる作業アームと、該作業アームの先端部に取り付けられるバケット等の作業アタッチメントとを用いて構成するとともに、作業アームの一部或いは作業アタッチメントを、作業内容等に応じて交換できるようにしたものがある。このものにおいて、前記ブームの上下動は、ヘッド側油室への油供給で伸長しヘッド側油室からの油排出で縮小するブームシリンダの伸縮作動で行なわれるが、この場合に、作業アームや作業アタッチメントの重量がブームを下降させる力として作用するため、ブームシリンダのヘッド側油室の圧力は高圧となっており、このため、ブームの下降速度の制御は、通常、ブームシリンダヘッド側油室からの排出流量制御(メータアウト制御)によって行われる。例えば、ブームシリンダヘッド側油室からの排出油路にメータアウト開口を有した制御弁を設け、該制御弁のメータアウト開口面積をブーム用操作具の操作量に応じて増減制御することで、操作具操作量に応じたブーム下降速度となるように制御される。
しかるに、前述したようにブームシリンダヘッド側油室からの排出流量制御でブームの下降速度を制御する場合、ヘッド側油室からの排出流量は、制御弁のメータアウト開口の開口面積だけでなく、ブームシリンダヘッド側油室の圧力に応じて増減するとともに、該ブームシリンダヘッド側油室の圧力は、ブームを下降させる力として作用する作業アームや作業アタッチメントの重量によって大きく変化する。このため、メータアウト開口の開口面積が同じ、つまりブーム用操作具の操作量が同じであっても、装着された作業アームや作業アタッチメトンの重量によってブームの下降速度が変化してしまい、ブーム下降速度を正確にコントロールすることができず操作性に劣るという問題がある。
そこで従来、作業アタッチメントを交換しても、操作具操作量に応じたブーム下降速度を確保できるようにした技術として、例えば、ブームシリンダヘッド側油室からの排出流量を制御する制御弁(メータアウト制御弁)と、該制御弁を通過する流量を検出する流量検出手段と、外力によってブームシリンダに作用する保持圧を検出する圧力センサとを設け、これら検出された保持圧と流量とに基づいて保持圧に対抗する圧力が制御弁の入口側に発生するように制御弁の開口面積を制御するようにした技術(例えば、特許文献1参照。)や、ブームの下降時にブームシリンダのヘッド側油室からの排出油をロッド側油室に供給する再生回路に電磁比例減圧弁を設け、該電磁比例減圧弁の開度を、圧力センサにより検出されるヘッド側油室の圧力と、予め設定されるヘッド側油室の目標圧力値との差圧に基づいて制御するようにした技術(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-106304号公報
【特許文献2】特開2010-78035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1、2のものは、いずれも、圧力センサから随時入力されるブームシリンダヘッド側油室の圧力に基づいて、メータアウト制御弁の開口面積や電磁比例減圧弁の開度を制御する構成になっている。しかるに、圧力センサから随時入力される圧力は動的圧力であって、作業アタッチメントの使用状況によっては不安定で予測できない圧力値が入力される可能性があり、このような動的圧力を用いると制御弁や電磁比例減圧弁が不規則に動いて安定した制御を行うことができないという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、機体本体に上下揺動自在に軸支されるブームを含んで構成され、ブーム以外の構成部材の少なくとも一部が交換可能なフロント作業機と、ヘッド側油室への油供給で伸長しヘッド側油室からの油排出で縮小して前記ブームを上下揺動せしめるブームシリンダと、ブームシリンダのヘッド側油室からの排出流量を制御するメータアウト開口を有した制御弁と、該制御弁の作動を制御する制御手段と、ブームを上下動するべく操作される操作具とを備えてなる作業機械において、前記ブームシリンダのヘッド側油室の圧力を測定する圧力測定手段と、フロント作業機を所定の測定姿勢にした状態でブームを上下動させるブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室の測定圧力に基づいてフロント作業機個別のブーム保持圧を設定するブーム保持圧設定手段とを設ける一方、前記制御手段は、ブーム下降時におけるブームシリンダヘッド側油室からの排出流量を操作具操作量に応じて設定される目標排出流量にするべく前記ブーム保持圧設定手段で予め設定されたブーム保持圧に基づいて制御弁のメータアウト開口面積を制御することを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システムである。
請求項2の発明は、請求項1において、ブーム保持圧設定手段は、ブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室の測定圧力の最大圧力を求め、該最大圧力に基づいてブーム保持圧を設定することを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システムである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、ブーム保持圧測定作業を行うときにブームの上下動速度を制限する測定速度制限手段を設けたことを特徴とする作業機械におけるブーム下降制御システムである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、フロント作業機構成部材の重量、寸法等のデータを入手できなくても、実測に基づいた精度の高いフロント作業機個別のブーム保持圧を設定できるとともに、該設定されたブーム保持圧に基づいて制御弁のメータアウト開口を制御することで、操作具操作量に応じたブームの下降制御を安定した状態で行えることになって、操作性の向上に大きく貢献できる。
請求項2の発明とすることにより、ブームシリンダヘッド側油室の圧力が最大となったときを基準としたブーム下降制御が行われることになって、ブーム下降速度が予測速度よりも速くなってしまうことを確実に回避できる。
請求項3の発明とすることにより、ブーム保持圧測定作業時におけるブームシリンダヘッド側油室の圧力測定の精度向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】測定開始姿勢の油圧ショベルの概略側面図である。
図2】ブームシリンダの油圧回路図である。
図3】ブーム保持圧測定制御を示す制御ブロック図である。
図4】ブーム保持圧測定作業時のブームシリンダのストロークとヘッド側油室の測定圧力との関係を示す図である。
図5】最大リーチ姿勢の油圧ショベルの概略側面図である。
図6】ブーム下降制御を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の作業機械の一例である油圧ショベル1の概略側面図であって、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2、該下部走行体2の上方に旋回自在に支持される上部旋回体(本発明の機体本体に相当する)3、該上部旋回体3に装着されるフロント作業機4等の各部から構成されており、さらに該フロント作業機4は、基端部が上部旋回体3にブーム支軸5aを介して上下揺動自在に支持されるブーム5と、該ブーム5の先端部にスティック支軸6aを介して前後揺動自在に支持されるスティック6とから構成される作業アーム7、作業アーム7の先端部にアタッチメント支軸8aを介して揺動自在に取付けられる作業アタッチメント8、前記ブーム5を上下揺動させるべく伸縮作動するブームシリンダ9、スティック6を前後揺動させるべく伸縮作動するスティックシリンダ10、作業アタッチメント8を揺動させるべく伸縮作動するバケットシリンダ11等の各種部材から構成されている。
【0009】
ここで、前記図1には、作業アーム7の先端部に取付けられる作業アタッチメント8としてバケットを図示したが、作業アーム7の先端部には、油圧ショベル1の行う作業内容等に応じて、ブレーカ(ハンマー)、コンパクタ、チルトバケット、クラムシェルバケット、サムバケット、グラップル、破砕機(いずれも図示せず)等の各種作業アタッチメント8を交換可能に装着できるようになっている。さらに、これら作業アタッチメント8を作業アーム7の先端部に取付ける場合に、図1に示すバケットのようにカプラーを用いない場合もあるが、図示しない各種カプラー(ピン固定カプラー、クイックカプラー、フック付きカプラー、作業ツールを作業アームに対してチルトあるいは回転させることができるカプラー等)を用いる場合もある。
また、図1には、本発明の作業アーム7を構成する作業アーム構成部材としてブーム5およびスティック6を図示するとともに、スティック6の先端部に作業アタッチメント8が取付けられているが、前述したような各種作業アタッチメント8のなかにはブーム5の先端部に取付けられるものもあり、その場合には作業アーム7にスティック6は含まれない。また、作業アーム7は、機体本体に上下揺動自在に軸支されるブーム5を少なくとも含むが、該ブーム5に加えて作業アーム7を構成する他の作業アーム構成部材がある場合、該作業アーム構成部材は、前記スティック6に限定されることなく、種々の長さ、形状、数の作業アーム構成部材を作業内容等に応じて適宜交換可能に用いることができる。
【0010】
一方、前記ブームシリンダ9は、ヘッド側油室9aへの油供給で伸長してブーム5を上動せしめ、ロッド側油室9bからの油排出で縮小してブーム5を下動せしめるものであるが、該ブームシリンダ9の油給排制御について、図2の概略油圧回路図に基づいて説明すると、該図2において、15はブームシリンダ9の油圧供給源となる油圧ポンプ、15aは油圧ポンプ15の容量可変手段、16はパイロット圧の供給源となるパイロットポンプ、17は油タンク、18はブームシリンダ9に対する油給排制御を行うブーム用コントロールバルブである。尚、油圧ショベル1の油圧回路には、ブームシリンダ9以外の他の油圧アクチュエータ(前記スティックシリンダ10やバケットシリンダ11、あるいは上部旋回体3を旋回せしめる旋回モータ(図示せず)、走行モータ(図示せず)等)に対する制御回路や、油圧ポンプの吐出流量制御用の回路等も設けられるが、それらについての図示、説明は省略する。
【0011】
前記ブーム用コントロールバルブ(本発明の制御弁に相当する)18は、伸長側、縮小側パイロットポート18a、18bを有したパイロット作動式の三位置切換スプール弁であって、両パイロットポート18a、18bにパイロット圧が入力されていない状態では、ブームシリンダ9に対する油給排を行わない中立位置Nに位置しているが、伸長側パイロットポート18aにパイロット圧が入力されることにより伸長側位置Xに切換わって、油圧ポンプ15からの供給油を伸長側供給用開口18cを経由してブームシリンダ9のヘッド側油室9aに供給するとともに、ロッド側油室9bからの排出油を伸長側排出用開口18dを経由して油タンク17に流す一方、縮小側パイロットポート18bにパイロット圧が入力されることにより縮小側位置Yに切換わって、油圧ポンプ15からの供給油を縮小側供給用開口18eを経由してブームシリンダ9のロッド側油室9bに供給するとともに、ヘッド側油室9aからの排出油を縮小側排出用開口18f(本発明のメータアウト開口に相当する)を経由して油タンク17に流すように構成されている。そして、前記伸長側供給用、排出用開口18c、18d、縮小側供給用、排出用開口18e、18fの開口面積は、伸長側、縮小側パイロットポート18a、18bに入力されるパイロット圧に応じて移動するスプールの移動ストロークによって増減制御されるようになっている。
【0012】
さらに、図2において、19、20は伸長側、縮小側の電磁比例弁であって、これら伸長側、縮小側電磁比例弁19、20は、後述するコントローラ21から出力される制御信号に基づいて、前記ブーム用コントロールバルブ18の伸長側、縮小側パイロットポート18a、18bにそれぞれパイロット圧を出力する。そして、該伸長側、縮小側電磁比例弁19、20から出力されるパイロット圧の増減によって、ブーム用コントロールバルブ18のスプール移動ストロークが増減して前述した伸長側供給用、排出用開口18c、18d、縮小側供給用、排出用開口18e、18fの開口面積が増減制御されるようになっている。
【0013】
ここで、ブーム5を空中下降させる場合(作業アタッチメント8が接地していない状態でブーム5を下降させる場合)、フロント作業機4(作業アーム7や作業アタッチメント8等)の重量がブームシリンダ9を縮小させる力として作用するため、ブームシリンダ9のヘッド側油室9aの圧力はロッド側油室9bの圧力に比して十分に高圧になっている。このため、ブーム5の下降速度の制御は、ブームシリンダヘッド側油室9aからの排出流量制御(メータアウト制御)によって行われるようになっている。そして、該ブームシリンダヘッド側油室9aからの排出流量制御は、後述するように、前記ブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を、ブーム用操作具の操作量、および予め設定される後述のブーム保持圧Pbに基づいて増減制御することで行われるように構成されている。尚、ブーム5の上動速度の制御は、ブームシリンダヘッド側油室9aへの供給流量制御(メータイン制御)によって行われる。
【0014】
一方、前記コントローラ(本発明の制御手段に相当する)21は、各種油圧アクチュエータ用の操作具操作等に基づいて、各種油圧アクチュエータ用コントロールバルブの制御や、油圧ポンプ15の吐出流量制御等を行うとともに、後述するブーム保持圧測定値CPbを求めるブーム保持圧測定制御やブーム下降制御を行うが、まず、ブーム保持圧測定制御について図3の制御ブロック図に基づいて説明すると、22はコントローラ21に設けられたブーム保持圧測定制御部22であって、該ブーム保持圧測定制御部22は、入力側に、オペレータがブーム5を上下動するべく操作するブーム用操作具(図示しないが、本発明の操作具に相当する)の操作方向および操作量を検出するブーム操作検出手段23、ブームシリンダ9のヘッド側油室9aの圧力を検出するヘッド側圧力センサ(本発明の圧力測定手段に相当する)24、ブームシリンダ9のストロークを検出するブーム用ストロークセンサ25、スティックシリンダ10のストロークを検出するスティック用ストロークセンサ26、バケットシリンダ11のストロークを検出するバケット用ストロークセンサ27等が接続され、出力側に、前記ブーム用コントロールバルブ18にパイロット圧を出力する伸長側電磁比例弁19、縮小側電磁比例弁20、油圧ポンプ15の容量可変手段15a等が接続され、さらにモニタ装置28が入出力自在に接続されるとともに、測定データ処理部29、保持圧測定値設定部30、測定速度制限部31等の各部が設けられている。
【0015】
前記モニタ装置28は、本実施の形態では、上部旋回体3に搭載される運転室3a内に配設されており、各種情報等を表示する表示画面(図示せず)、キーボートやタッチパネル等の操作手段(図示せず)、作業アタッチメント8や作業アーム7に関する各種情報を保存するメモリー等を備えて構成されている。そして、該モニタ装置28をオペレータが操作することで、コントローラ21が行うブーム保持圧測定制御を開始、終了したり、装着された作業アタッチメント8や作業アーム7の情報をモニタ装置28に入力したり、さらに、これら情報をモニタ装置28からコントローラ21に入力することができるようになっている。
【0016】
次いで、前記ブーム保持圧測定値CPbを設定するために行うブーム保持圧測定作業、および該ブーム保持圧測定作業時にブーム保持圧測定制御部22が行うブーム保持圧測定制御について説明する。前記ブーム保持圧測定作業は、機体本体に装着されたフロント作業機4を初めて使用する前の準備段階で、該フロント作業機4個別のブーム保持圧測定値CPbを求めるために行われる作業であって、フロント作業機4の構成部材の一部(作業アーム7の一部や作業アタッチメント8)を交換した場合には、該交換が完了したフロント作業機4で新たにブーム保持圧測定作業を行って新たなブーム保持圧測定値CPbを求める。尚、ブーム保持圧測定値CPbのデータは保存されていて、交換したフロント作業機4の構成部材を再び元の構成部材に戻すような場合には、前回のブーム保持圧測定値CPbを用いることができる。
【0017】
前記ブーム保持圧測定作業を行う場合、オペレータは、まず、フロント作業機4を、予め設定された所定の測定開始姿勢(本発明の所定の測定姿勢に相当する)にする。該測定開始姿勢は、例えば、作業アタッチメント8がバケットの場合、前記図1に示すように、スティック6を最大アウト姿勢(スティックシリンダ10を最も縮小させた姿勢)に、作業アタッチメント8を最大イン姿勢(バケットシリンダ11を最も伸長させた姿勢)にするとともに、作業アタッチメント8を接地させた姿勢が例示される。この場合、スティック6を最大アウト姿勢とすることで、測定開始姿勢からブーム5を上動させた場合に、後述するフロント作業機4の最大リーチ姿勢(図5参照)を経過させることができる。また、前記スティック6の最大アウト姿勢、作業アタッチメント8の最大イン姿勢は、それぞれスティック用ストロークセンサ26、バケット用ストロークセンサ27の検出値によって確認でき、作業アタッチメント8の接地は、ヘッド側圧力センサ24によって検出されるブームシリンダヘッド側油室9aの圧力が所定の閾値以下であることによって確認できる。この場合、スティック用ストロークセンサ26、バケット用ストロークセンサ27、ヘッド側圧力センサ24の検出値を、例えばモニタ装置28に表示できるようにすることで、容易に確認できる。そして、このように測定開始姿勢をセンサ等で確認できるようにすることで、測定開始姿勢の正確性を確保できる。
次いで、フロント作業機4を前記測定開始姿勢にした状態で、コントローラ21のブーム保持圧測定制御を開始させる。該ブーム保持圧測定制御の開始は、オペレータが例えばモニタ装置28に設けられた開始スイッチを操作することで行われる。しかる後、オペレータは、ブーム用操作具を操作して、測定開始姿勢からブーム5を低速の一定速度で最高位まで上動させた後、ブーム5を低速の一定速度で作業アタッチメント8が接地するまで下動させ、さらにこのブーム5上動、ブーム5下動を数回繰り返す、という一連の操作によるブーム保持圧測定作業を行う。
【0018】
一方、ブーム保持圧測定制御部22は、ブーム保持圧測定制御が開始すると、測定データ処理部29において、ヘッド側圧力センサ24およびブーム用ストロークセンサ25の検出値を入力して、前記ブーム保持圧測定作業におけるブームシリンダヘッド側油室9aの最高圧力を求める。この場合、ブーム保持圧測定作業は、前述したように、ブーム5の上下動が数回繰り返されるが、一回ごとのブーム5上動時、ブーム5下動時のヘッド側油室9aの最高圧力を求め、その平均値を測定されたヘッド側油室9aの最高圧力とする。さらに、コントローラ21は、保持圧測定値設定部30において、前記測定データ処理部29において求めたヘッド側油室9aの最高圧力を、ブーム保持圧測定作業が行われたフロント作業機4個別のブーム保持圧測定値CPbとして設定する。
ここで、図4に、測定データ処理部29において測定されたブームシリンダヘッド側油室9aの圧力と、ブームシリンダ9のストロークとの関係を示すが、ヘッド側油室9aの圧力は、フロント作業機4の重量によるブーム支軸5a回りのモーメントが最大となる最大リーチ姿勢、つまり、図5に示すように、アタッチメント支軸8aの軸心高さがブーム支軸5aの軸心高さと同高さとなり(同水平線H上に位置し)、かつ、アタッチメント支軸8aの軸心がブーム支軸5aの軸心から最遠位置となる姿勢のときに最大となる。そして、該ヘッド側油室9aの最大圧力の測定値の平均値が、保持圧測定値設定部30において、フロント作業機4個別のブーム保持圧測定値CPbとして設定されることになる。
また、コントローラ21は、ブーム保持圧測定制御が開始すると、オペレータのブーム用操作具の操作に基づいてブーム5を上下動させるべく、伸長側電磁比例弁19、縮小側電磁比例弁20に制御信号を出力してブーム用コントロールバルブ18の伸長側供給用、排出用開口18c、18d、縮小側供給用、排出用開口18e、18fの開口面積を制御するとともに、油圧ポンプ15の容量可変手段15aに制御信号を出力してポンプ流量を制御するが、この場合に、ブーム保持圧測定作業時のブーム5の上下動速度が速くならないように、測定速度制限部(本発明の測定速度制限手段に相当する)31において、ブーム5の上下動速度を制限する。この場合、測定速度制限部31は、ブーム上動時においては、ポンプ流量を予め設定される所定流量以下となるように制限するポンプ流量制限制御を行い、ブーム下動時においては、縮小側排出用開口18fの開口面積を予め設定される開口面積以下となるように制限する開口面積制限制御を行うように構成されている。これにより、ブーム保持圧測定作業におけるブーム5の上下動速度が速すぎて測定の精度が損なわれてしまうことを回避できるようになっている。
尚、本実施の形態では、ブーム保持圧測定作業におけるブーム5の上下動を、オペレータのブーム用操作具の操作に基づいて行う構成になっているが、ブーム5の上下動をコントローラ21で自動制御する構成にすることもできる。この場合は、オペレータがモニタ装置28を操作することで、ブーム5の上下動の開始や終了を行う構成にすることができる。
【0019】
次いで、前記ブーム保持圧測定作業が終了し、コントローラ21のブーム保持圧測定制御部22によるブーム保持圧測定値CPbの設定が行われた後にコントローラ21が行うブーム下降制御について、図6の制御ブロック図に基づいて説明する。
まず、コントローラ21は、ブーム保持圧測定制御部22でブーム保持圧測定値CPbが設定されると、該ブーム保持圧測定値CPbを保持圧設定部32に入力する。さらにコントローラ21は、モニタ装置28から入力される情報に基づいて補正係数設定部33において補正係数Xiを設定し、該補正係数Xiを保持圧設定部32に入力する。該補正係数Xiは、重量物を運搬する積込み用作業アタッチメント8(例えば、バケット)が装着されている場合等、実際の作業時のブーム保持圧が前記ブーム保持圧測定作業で求めたブーム保持圧測定値CPbよりも高圧になることが推定される場合に、ブーム保持圧測定値CPbを増加側に補正するための係数であって、作業アタッチメント8の種類や容量等に応じて設定される。この場合、ブーム保持圧測定値CPbを補正する必要がない作業アタッチメント8の場合には、補正係数Xiは「1」となる。
尚、前記ブーム保持圧測定制御部22および保持圧設定部32は、本発明のブーム保持圧設定手段を構成する。
【0020】
前記保持圧設定部32は、入力されたブーム保持圧測定値CPbと補正係数Xiとに基づいて、装着されたフロント作業機4個別のブーム保持圧Pbを設定する。この場合、ブーム保持圧測定値CPbを補正する必要がない場合には、つまり補正係数Xiが「1」の場合には、ブーム保持圧測定値CPbをそのままブーム保持圧Pbとして設定し、補正する必要がある場合(積み込み用作業アタッチメント8の場合等)には、該補正係数Xiを用いてブーム保持圧測定値CPbを補正した値をブーム保持圧Pbとして設定する。
【0021】
一方、コントローラ21は、ブーム用操作具が下降側に操作された場合に、ブーム操作検出手段23から出力された操作信号を、目標排出流量設定部34に入力する。該目標排出流量設定部34は、ブーム操作検出手段23からブーム下降側の操作信号が入力された場合に、ブーム用操作具の操作量に応じたブーム下降速度にするべく、ブーム用操作具の操作量に応じてブームシリンダ9のヘッド側油室9aからの目標排出流量Qtを設定する。そして、該目標排出流量Qtを開口面積計算部35に出力する。
【0022】
前記開口面積計算部35は、前記保持圧設定部32から入力されるブーム保持圧Pbと、目標排出流量設定部34から入力される目標排出流量Qtとに基づき、下記に示すオリフィスの式(1)から導いた式(2)を用いて、ブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を計算する。
Q=C×A×√(ΔP/ρ) ・・・(1)
A=(√ρ/C)×(Qt/√Pb) ・・・(2)
上記式(1)において、Qはオリフィスの通過流量、Aはオリフィスの開口面積、ΔPはオリフィスの前後差圧、Cは流量係数、ρは流体密度である。
また、上記(2)において、Aはブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積、Qtは目標排出流量設定部34で設定された目標排出流量、Pbは保持圧設定部32で設定されたブーム保持圧、Cは流量係数、ρは流体密度である。尚、式(2)では、縮小側排出用開口18fの下流側の圧力(タンク圧)を「0(ゼロ)」とみなしている。また、式(2)における「√ρ/C」の値は定数とみなすとともに、該「√ρ/C」の値は、例えば前記モニタ装置28等の外部入力手段を用いて定数設定部35aで設定されて開口面積計算部35に入力される。
そして、前記式(2)を用いて計算されたブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積は、バルブ制御部36に出力される。
【0023】
前記バルブ制御部36は、前記開口面積計算部35から入力される縮小側排出用開口18fの開口面積に基づいて、該開口面積となるブーム用コントロールバルブ18のスプール移動ストロークを求める。さらに、該ストロークまでスプールを移動させるための縮小側パイロットポート18bへの入力パイロット圧を求め、さらに該パイロット圧を出力するための縮小側電磁比例弁20への電流指令値を求めて、該電流指令値を制御信号として縮小側電磁比例弁20に出力する。これにより、ブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fは、前記開口面積計算部35で計算された開口面積となるように制御される。そして、このようにブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を制御することで、ブームシリンダ9のヘッド側油室9aからの排出流量を、ブーム用操作具の操作に応じて設定された目標排出流量Qtとなるように制御できることになる。
【0024】
叙述の如く構成された実施の形態において、油圧ショベル1は、上部旋回体3(機体本体)に上下揺動自在に軸支されるブーム5を含んで構成され、ブーム5以外の構成部材の少なくとも一部(作業アーム7の一部や作業アタッチメント8)が交換可能なフロント作業機4と、ヘッド側油室9aへの油供給で伸長しヘッド側油室9bからの油排出で縮小してブーム5を上下揺動せしめるブームシリンダ9と、ブームシリンダ9のヘッド側油室9aからの排出流量を制御する縮小側排出用開口18f(メータアウト開口)を有したブーム用コントロールバルブ18(制御弁)と、該ブーム用コントロールバルブ18の作動を制御するコントローラ21(制御手段)と、ブーム5を上下動するべく操作されるブーム用操作具とを備えているが、さらに油圧ショベル1には、ブームシリンダ9のヘッド側油室9aの圧力を測定するヘッド側圧力センサ24(圧力測定手段)と、フロント作業機4を所定の測定姿勢にした状態でブーム5を上下動させるブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室9aの測定圧力に基づいてフロント作業機4個別のブーム保持圧Pbを設定するブーム保持圧測定制御部22および保持圧設定部32(ブーム保持圧設定手段)とが設けられている。そして、前記コントローラ21は、ブーム5下降時におけるブームシリンダヘッド側油室9aからの排出流量をブーム用操作具の操作量に応じて設定される目標排出流量にするべく前記ブーム保持圧設定手段(ブーム保持圧測定制御部22および保持圧設定部32)で予め設定したブーム保持圧Pbに基づいてブーム用コントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を制御することになる。
【0025】
このように本発明の実施の形態にあっては、ブーム5下降時におけるコントロールバルブ18の縮小側排出用開口18fの開口面積を、ブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室9aの測定圧力に基づいて設定されたフロント作業機4個別のブーム保持圧Pbに基づいて制御することになり、これにより、作業アーム7構成部材の一部や作業アタッチメント8の交換によりフロント作業機4の重量や重心位置が変更しても、ブームシリンダ9からの排出流量をブーム用操作具の操作量に応じて設定される目標排出流量となるように、つまりブーム5の下降をブーム用操作具24aの操作量に応じた下降速度で行えるように制御できることになって、操作性の向上に大きく貢献できるが、この場合に、前記ブーム保持圧Pbは、ブーム保持圧設定手段(ブーム保持圧測定制御部22および保持圧設定部32)で予め設定されたフロント作業機4個別の値であるから、圧力センサから随時入力されるブーシリンダヘッド側油室9aの圧力検出値を保持圧として排出流量制御を行う場合のように、縮小側排出用開口18fの開口面積が圧力検出値に応じて不規則に変化して制御が不安定になってしまうような不具合がなく、安定した排出流量制御を行えることになる。しかも、前記ブーム保持圧Pbは、フロント作業機4を所定の測定姿勢にした状態でブーム5を上下動させるブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室9aの測定圧力に基づいて設定されるから、フロント作業機4を構成する作業アーム7構成部材や作業アタッチメント8の重量や寸法等のデータを入手できなくても、実測に基づいた精度の高いブーム保持圧Pbを、個々のフロント作業機4毎に設定できることになる。
【0026】
このものにおいて、ブーム保持圧設定手段(ブーム保持圧測定制御部22および保持圧設定部32)は、ブーム保持圧測定作業を行ったときのブームシリンダヘッド側油室9aの測定圧力の最大圧力を求め、該最大圧力に基づいてブーム保持圧Pbを設定する構成になっており、これにより、フロント作業機4の姿勢によって増減するブームシリンダヘッド側油室9aの圧力が最大になったときを基準としたブーム下降制御が行われることになって、ブーム下降速度が予測速度よりも速くなってしまうことを確実に回避できることになる。
【0027】
さらにこのものには、ブーム保持圧測定作業を行うときにブーム5の上下動速度を制限する測定速度制限部31(測定速度制限手段)が設けられており、これにより、ブーム保持圧測定作業時におけるブームシリンダヘッド側油室9aの圧力測定の精度向上に貢献できる。
【0028】
尚、本実施の形態は上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、例えば、上記実施の形態において、コントローラ21の開口面積計算部35で縮小側排出用開口(メータアウト開口)18fの開口面積を計算する場合、前述したように式(2)を用いて計算しているが、この計算に、コントロールバルブ18や油圧配管の圧力損失を考慮した補正値を追加することで、より正確な開口面積制御を行うことができる。
また、本発明は、油圧ショベルに限定されることなく、ブームを含むフロント作業機を備え、ブーム以外のフロント作業機構成部材の少なくとも一部が交換可能な各種作業機械のブーム下降制御システムに実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、ブームを含むフロント作業機を備えた油圧ショベル等の作業機械において、ブーム以外のフロント作業機構成部材の少なくとも一部が交換可能な場合のブーム下降制御システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
4 フロント作業機
5 ブーム
7 作業アーム
8 作業アタッチメント
9 ブームシリンダ
9a ヘッド側油室
18 ブーム用コントロールバルブ
18f 縮小側排出用開口
21 コントローラ
22 ブーム保持圧測定制御部
23 ブーム操作検出手段
24 ヘッド側圧力センサ
31 測定速度制限部
32 保持圧設定部
34 目標排出流量設定部
35 開口面積計算部
Pb ブーム保持圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6